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明細書 :甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器及び放射線測定方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-138665 (P2019-138665A)
公開日 令和元年8月22日(2019.8.22)
発明の名称または考案の名称 甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器及び放射線測定方法
国際特許分類 G01T   1/163       (2006.01)
G01T   1/167       (2006.01)
G01T   1/161       (2006.01)
G21F   1/08        (2006.01)
FI G01T 1/163
G01T 1/167 C
G01T 1/161 D
G21F 1/08
請求項の数または発明の数 9
出願形態 OL
全頁数 11
出願番号 特願2018-019507 (P2018-019507)
出願日 平成30年2月6日(2018.2.6)
発明者または考案者 【氏名】西野 翔
【氏名】吉富 寛
【氏名】谷村 嘉彦
出願人 【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
個別代理人の代理人 【識別番号】110000442、【氏名又は名称】特許業務法人 武和国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 2G188
4C188
Fターム 2G188AA17
2G188AA23
2G188BB04
2G188BB19
2G188CC10
2G188CC21
2G188CC22
2G188CC29
2G188DD10
2G188DD22
2G188DD26
2G188DD30
2G188EE14
2G188FF02
4C188EE11
4C188EE15
4C188EE25
4C188FF04
4C188FF19
4C188GG11
4C188GG18
4C188GG19
4C188GG21
4C188JJ09
4C188JJ29
4C188KK13
4C188LL02
要約 【課題】多様かつ多人数の被検者に対して信頼性の高い甲状腺ヨウ素の定量測定を短時間のうちに行える甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器を提供する。
【解決手段】甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器1を、外部からの放射線を遮蔽する放射線遮蔽体2と、放射線遮蔽体2の上面に形成された凹部3と、凹部3の底面に設置された放射線検出器4a、4b及び信号処理回路5a、5bをもって構成する。放射線検出器4a、4bの設定間隔は、可変にすることもできる。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
バックグラウンド放射線を遮蔽する放射線遮蔽体と、前記放射線遮蔽体の上面に形成された凹部と、前記凹部の底面に設置された放射線検出器と、を備えたことを特徴とする甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器。
【請求項2】
前記放射線遮蔽体の上面に形成された前記凹部の底面に、2つの前記放射線検出器を対向に配置したことを特徴とする請求項1に記載の甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器。
【請求項3】
前記放射線遮蔽体に、2つの前記放射線検出器の設定間隔を調整するための調整部を備えたことを特徴とする請求項1に記載の甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器。
【請求項4】
前記放射線遮蔽体を、放射線遮蔽効果が比較的高い放射線遮蔽材料と比較的安価な放射線遮蔽材料との組み合わせをもって形成し、前記放射線遮蔽効果が比較的高い放射線遮蔽材料は、前記放射線検出器の近傍に配置することを特徴とする請求項1に記載の甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器。
【請求項5】
前記放射線遮蔽体にケーブル挿通溝を形成し、前記ケーブル挿通溝は、前記放射線遮蔽体の長さ方向の端辺に対して傾斜させるか、波型等の屈曲構造とすることを特徴とする請求項1に記載の甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器。
【請求項6】
外部からの放射線を遮蔽する放射線遮蔽体と、前記放射線遮蔽体の上面に形成された凹部と、前記凹部の底面に設置された放射線検出器と、を備えた甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器をテーブル上に置き、前記甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器を解析装置に接続し、被検者が前記放射線検出器と対向する部分に甲状腺が位置するようにして頸部を前記放射線遮蔽体の上面に押し当てて固定することを特徴とする放射線測定方法。
【請求項7】
前記テーブルの天板にのぞき窓を形成すると共に、前記天板の下方に映像デバイス及び/又は鑑賞物を置き、被検者が前記のぞき窓を通して前記映像デバイスの表示画面及び/又は前記鑑賞物を目視できるようにしたことを特徴とする請求項6に記載の放射線測定方法。
【請求項8】
前記放射線検出器を、回動角度の調整が可能な支持部材に取り付け、支持部材をテーブル上に置き、被検者の頸部の姿勢に合わせてγ線の検出効率が最大となるように支持部材の回動角度調整を行うことを特徴とする請求項6に記載の放射線測定方法。
【請求項9】
前記放射線遮蔽体の上面に押し付けた被検者の頸部の周囲に、アーチ型又は門型の放射線遮蔽体を追加設置することを特徴とする請求項6に記載の放射線測定方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、人体の甲状腺に蓄積した放射性ヨウ素を定量する甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器と、これを用いた放射線測定方法と、に関する。
【背景技術】
【0002】
吸入又は経口摂取により人体に取り込まれた放射性ヨウ素は、頸部の前部に位置する甲状腺に蓄積しやすいという性質をもつ。従来、体外計測により被検者の甲状腺に蓄積した放射性ヨウ素を定量し、被検者の内部被ばく線量を推定する放射線計測装置としては、周囲のうち一方のみに開放口が形成され、当該開放口を通じて被検者が侵入可能な内部空間を有する第1遮蔽壁と、内部空間内に配置され、放射線の入射に応じて信号を生成する放射線検出器と、前記開放口の前方に間隔を有して設置され、当該間隔により両側に2つの出入り口を形成する第2遮蔽壁と、連結機構を介して第2遮蔽壁の内側に取り付けられた甲状腺モニタと、を備えたホールボディカウンタが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開2017-44516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、放射性ヨウ素のうち、比較的半減期が長い131I(ヨウ素131)は、8.02日の半減期で減衰するため、人体に取り込まれた放射性ヨウ素を定量するためには摂取後1週間以内を目途に測定を行う必要がある。
【0005】
しかしながら、ホールボディカウンタは、放射性ヨウ素の定量性能には優れているが、大型かつ大重量であるために移動や設置に長時間を要し、放射能事故の発生直後に速やかに避難所や指揮所へ持ち込んで使用を開始することが困難である。そのため、ホールボディカウンタを利用するためには、被検者自身がホールボディカウンタの設置された施設へ赴かなくてはならず、多人数の被検者についての測定を短期間のうちに完了すること、及び、老人及び病人等の移動が困難な被検者について測定を行うことが困難であった。さらに、ホールボディカウンタは、遮蔽壁で囲まれた狭い空間内に一人で入り、喉元に甲状腺モニタを当てた状態で一定時間静止する必要があるので、体動の多い幼児、乳児、新生児の測定は著しく困難であるか、不可能であった。
【0006】
なお、従来においては、ホールボディカウンタに代えて空間線量測定用のNaIサーベイメータを使用して簡易的な甲状腺測定を実施した例があるが、検出信号とバックグラウンド信号(甲状腺からではなく、周囲の組織や環境中から測定器へ入射する放射線の強度に応じた信号)との区別が容易ではないため、信頼性の高い定量には不適である。
【0007】
以上のような理由から、原子力事故の発生時等においては、多人数の被検者に対して信頼性の高い甲状腺ヨウ素の定量測定を短時間のうちに行うことが難しく、被検者の内部被ばく線量の評価を行う上で大きな問題となっていた。
【0008】
本発明は、このような従来技術の問題を解決するためになされたものであり、多様かつ多人数の被検者に対して信頼性の高い甲状腺ヨウ素の定量測定を短時間のうちに行える甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器と、これを用いた放射線測定方法と、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような従来技術の課題を解決するため、本発明の一態様は、バックグラウンド放射線を遮蔽する放射線遮蔽体と、前記放射線遮蔽体の上面に形成された凹部と、前記凹部の底面に設置された放射線検出器と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、多様かつ多人数の被検者に対して信頼性の高い甲状腺ヨウ素の定量測定を短時間のうちに行うことができる。前記以外の課題、構成及び効果は、以下に記載する実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態に係る甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器の一部破断した斜視図である。
【図2】上面にカバー部材が付設された実施形態に係る甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器の正面図である。
【図3】実施形態に係る調整部の構成図である。
【図4】実施形態に係る信号処理回路の構成を示すブロック図である。
【図5】実施形態に係る甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器を用いた放射線測定方法を示す図である。
【図6】放射線測定時における被検者の甲状腺と実施形態に係る甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器に備えられた放射線検出器との位置関係を示すイメージ図である。
【図7】放射線検出器で検出される波高データの一例を示すグラフ図である。
【図8】放射線検出器としてCdZnTe半導体検出器又はLaBrシンチレーション検出器を使用した高バックグラウンド放射線環境下における測定で達成可能な甲状腺等価線量の検出下限値を評価したグラフ図である。
【図9】本発明に係る甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器の他の実施形態を示す図である。
【図10】本発明に係る甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器のさらに他の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器及び放射線測定方法の実施形態を図に基づいて説明する。なお、本発明の範囲は、以下に記載する実施形態の範囲に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で様々に変更を加えて実施するものを含むものである。

【0013】
図1は、実施形態に係る甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器の一部破断した斜視図である。図1に示すように、本例の甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器1は、外観形状が直方体形状に形成された放射線遮蔽体2と、放射線遮蔽体2の上面に形成された凹部3の底面に設置された2つの放射線検出器4a、4b及び2つの信号処理回路5a、5bと、2つの放射線検出器4a、4bの設定間隔を調整する調整部6(図3参照)と、を備えている。放射線遮蔽体2には、斜め上方向から放射線検出器4a、4bに入射する放射線を遮断するために、放射線検出器4a、4bの配設位置よりも外側部分に、必要に応じて放射線遮蔽体2cを備えることもできる。

【0014】
放射線遮蔽体2は、放射線遮蔽材料をもって人が手で持って移動可能な可搬型に形成されている。放射線遮蔽体2の幅寸法Wは、上面に被検者の頸部を押し付けることが可能な大きさとする。また、凹部3の幅寸法Sは、被検者の甲状腺を放射線検出器4a、4bに対向させられる大きさとする。さらに、放射線遮蔽体2の長さ寸法Lは、放射線検出器4a、4b及び信号処理回路5a、5bを収納可能で、その外側に実用上十分な厚さの放射線遮蔽材料が配置される大きさとする。なお、被検者には、成人、幼児、乳児、新生児が含まれる。

【0015】
図2は、上面にカバー部材が付設された実施形態に係る甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器の斜視図である。図2に示すように、放射線遮蔽体2の上面には、頸部を金属製の放射線遮蔽体2に押し付ける際の不快感を緩和するため、ウレタン等の断熱材からなるカバー部材7を備えることもできる。カバー部材7には、放射線検出器4a、4bに対して被検者の甲状腺を正しく対向させるため、被検者の頸部を受け入れる位置決め凹部7aを形成することができる。カバー部材7は、放射線遮蔽体2と一体に形成することもできるし、放射線遮蔽体2に対して着脱自在に形成することもできる。

【0016】
実施形態に係る放射線遮蔽体2は、タングステン又はタングステンの含有率が高い合金(タングステン合金)もしくは鉛等のγ線遮蔽材料を用いて一体に形成される。実施形態に係る放射線遮蔽体2は、図1に示すように、放射線検出器4a、4bの周囲が単位厚み当たりのγ線遮蔽効果が比較的高いタングステン又はタングステン合金2aをもって形成され、他の部分が比較的安価な鉛2bをもって形成されている。このような構成とすることにより、安価にしてγ線遮蔽効果が高い放射線遮蔽体2が得られる。なお、放射線遮蔽体2の全部又は一部に鉛を用いる場合には、鉛からの特性X線(80keV)が放射線検出器4a、4bに入射することを防止するため、鉛部分の内面に、タングステン板、銅板、ステンレス板等の原子番号が小さい物質からなる板材8を内張りすることが望ましい。

【0017】
放射線遮蔽体2の長さ方向の端部には、信号処理回路5a、5bに接続されたケーブル9を外部に引き出すためのケーブル挿通溝10が形成される。ケーブル挿通溝10は、ケーブル挿通溝10を通って周囲の環境中から放射線検出器4a、4bに達する放射線量を減少するため、放射線遮蔽体2の長さ方向の端辺に対して傾斜させて形成される。なお、ケーブル挿通溝10の平面形状は、直線状に限定されるものではなく、波型等の屈曲構造とすることもできる。ケーブル9としては、パーソナルコンピュータやタブレット端末等を用いた解析装置への接続が容易であることから、USBケーブルが好適に用いられる。

【0018】
放射線検出器4a、4bは、被検者の甲状腺に蓄積した放射性ヨウ素から放出されるγ線(131I から放出される365keV、80.2keVなど)を計測するもので、エネルギー分解能のよい半導体検出器やシンチレーション検出器が用いられる。半導体検出器としては、CdZnTe系半導体、CdTe系半導体、TlBr系半導体を用いたものを利用できる。シンチレーション検出器は、シンチレータと光センサの組み合わせからなるもので、シンチレータとしては、LaBr、SrI、CeBr等の無機シンチレータ又はプラスチックシンチレータ等の有機シンチレータを利用できる。また、光センサとしては、光電子増倍管、フォトダイオード、MPPC(Multi-Pixel Photon Counter)等を利用できる。

【0019】
本例の放射線検出器4a、4bは、NaI(ヨウ素ナトリウム結晶)を利用したシンチレーション検出器と比較して、バックグラウンド放射線との識別能力が優れるため、放射性ヨウ素の定量性能に優れる。また、Ge系半導体を利用した半導体検出器のように、使用時に液体窒素等を用いて半導体検出器を冷却する必要がないので、冷却のための測定準備時間が不要になると共に装置の小型化も容易になる。

【0020】
2つの放射線検出器4a、4bを備えると共に、これら2つの放射線検出器4a、4bの設定間隔を調整する調整部6を備えるのは、体格(頸部の太さ)が異なる不特定多数の被検者に対応するためである。即ち、頸部の太さが大きい被検者については、調整部6を操作して2つの放射線検出器4a、4bの間隔を大きくし、放射線測定を行う。また、頸部の太さが小さい被検者については、調整部6を操作して2つの放射線検出器4a、4bの間隔を小さくし、放射線測定を行う。これにより、全ての被検者についてほぼ最大効率で甲状腺に蓄積した放射性ヨウ素から放出されるγ線を計測できる。また、放射線検出器を1個のみ使用する場合と比べて、甲状腺と放射線検出器の位置ずれが測定結果の不確かさに与える影響を低減できる。

【0021】
図3は、実施形態に係る調整部の構成図である。図3に示すように、本例の調整部6は、放射線遮蔽体2の長さ方向の一端部に回転自在に取り付けられたボルト11と、放射線検出器4a、4b及び信号処理回路5a、5bを保持するホルダ12a、12bと、ホルダ12a、12bに形成された連結部13a、13bと、連結部13a、13bに形成されたボルト11の螺合部14a、14bとからなる。ボルト11のねじ部には、直径が大きな右ねじ11aと、直径が小さな左ねじ11bと、がほぼ半々に形成されている。螺合部14aは、右ねじ11aに螺合され、螺合部14bは、左ねじ11bに螺合されている。従って、ボルト11を右回転又は左回転することにより、2つの放射線検出器4a、4b及び信号処理回路5a、5bを接近する方向又は離間する方向に移動できる。なお、調整部6の構成はこれに限定されるものではなく、2つの放射線検出器4a、4bを個別に操作するものであってもよい。

【0022】
図4は、実施形態に係る信号処理回路の構成を示すブロック図である。図4に示すように、本例の信号処理回路5a、5bは、放射線検出器4a、4bから出力される電気信号を処理するもので、前置増幅器21、整形増幅器22、A/D変換器23及び多チャンネル波高分析器24をもって構成されている。

【0023】
次に、実施形態に係る甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器1を用いた放射線測定方法について説明する。

【0024】
図5は、実施形態に係る甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器1を用いた放射線測定方法を示す図である。図5に示すように、放射線測定に際しては、甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器1をテーブルA上に置き、被検者Bは椅子Cに座る。甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器1には、図示しない汚染防止用のシートが被せられる。甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器1は、信号処理回路5a、5bから延出されたケーブル9を介して解析装置Dに接続される。解析装置Dとしては、例えばパーソナルコンピュータ又はタブレット端末が用いられる。解析装置Dは、信号処理回路5a、5bから出力される波高データを取り込んで専用のソフトウェアで解析し、その解析結果を表示部に表示する。また、解析装置Dは、測定条件の設定及び測定器の制御を専用のソフトウェア上で行う。信号処理回路5a、5bへの電力供給は、USBケーブルを用いて解析装置Dから行うか、外付けバッテリーから行う。本構成によれば、停電時における放射線測定が可能となる。

【0025】
被検者Bは、椅子Cに座った状態でテーブルA上に上半身を伏せるような態勢をとり、甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器1に喉元を密着させる。このとき、被検者Bが楽な姿勢をとれるようにするため、被検者Bの顎又は額を支持台で支えたり、クッション類で体の高さを調整することもできる。被検者Bが幼児・乳幼児・新生児である場合には、保護者が隣に寄り添う、保護者の膝に乗せる、又はテーブルA上にうつ伏せ寝の姿勢で寝かせるなどして測定を行う。なお、使用する机・椅子については、特に制限があるものではなく、指揮所や避難所で準備できるものでよい。

【0026】
被検者Bの姿勢が安定した後、測定者は、調整部6を操作して2つの放射線検出器4a、4bの間隔をγ線の検出効率が最大となるように調整する。これにより、図6に示すように、2つの放射線検出器4a、4bは、被検者Bの甲状腺Eと対向する位置に配置される。その後、測定者は、解析装置Dの測定開始ボタン(例えばENTERキー)を押圧操作して、解析装置Dへの波高データの取り込みを開始する。

【0027】
図7は、放射線検出器で検出される波高データの一例を示すグラフ図である。図7の横軸はγ線エネルギー(keV)の単位で表した波高であり、縦軸は波高ごとの検出器信号のカウントレート(cnts/秒)である。なお、本データの取得に際しては、131I(365keV)の代わりに133Ba(356keV)を使用した。また、バックグラウンド信号は、137Cs(662keV)で模擬した。解析装置Dは、この波高データから人体の甲状腺に蓄積した131I(365keV)を定量し、被検者Bの内部被ばく線量を推定する。

【0028】
以下、実施形態に係る甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器1及び放射線測定方法の効果について説明する。

【0029】
上記のように、実施形態に係る甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器1は、放射線遮蔽体2の上面に形成された凹部3の底面に放射線検出器4a、4b及び信号処理回路5a、5bを設置したので、放射線検出器4a、4bに入射するバックグラウンド放射線を効果的に遮蔽できる。よって、実施形態に係る甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器1は、被検者の甲状腺に蓄積した放射性ヨウ素の定量性能に優れ、内部被ばく線量の推定を高い信頼性で行うことができる。

【0030】
図8は、放射線検出器4a、4bとしてCdZnTe半導体検出器又はLaBrシンチレーション検出器を使用した高バックグラウンド放射線環境下における測定で達成可能な甲状腺等価線量の検出下限値を評価したグラフ図である。図中のデータは、横軸が測定時間(秒)で、縦軸が甲状腺等価線量(mSv)であり、大人(原子力発電所の作業者以外の成人)、7歳児、乳児、原子力発電所の作業者について、シミュレーションにより求めた。シミュレーション条件は、測定時期については被検者が放射性ヨウ素を吸入摂取してから5日後、被検者の頸部表面と放射線検出器4a、4bの表面との距離については2cm、放射線検出器4a、4bの種類については大人(原子力発電所の作業者)がCdZnTe半導体検出器(1.5cm)、その他はLaBrシンチレーション検出器(16.4cm)とした。また、放射線検出器4a、4bの周囲は、放射線遮蔽体にて覆われていないものとした。

【0031】
また、図8に示したデータの算出は、以下の手順で行った。まず、図7に示した放射線検出器4a、4bの検出データ(波高データ)より、甲状腺ヨウ素の放射能(Bq)当たりの放射線検出器4a、4bのカウントレート(cnts/秒)をモンテカルロ計算により求める。また、バックグラウンド放射線(20μSv/h)による放射線検出器4a、4bのカウントレート(cnts/秒)を実験値から求める。次に、これら2つのデータから、高バックグラウンド放射線環境下における測定時間(秒)毎の甲状腺ヨウ素の検出下限値(Bq)を計算する。次に、得られた甲状腺ヨウ素の検出下限値(Bq)を5日後の甲状腺残留率で除し、線量換算係数(Sv/Bq)を掛けて、甲状腺等価線量の検出下限値(Sv)に変換する。最後に、乳児、7歳児、大人、作業者について、測定時間(秒)と検出下限値(Sv)との関係をグラフ上にプロットする。

【0032】
図8に示すデータより明らかなように、放射線検出器4a、4bとしてCdZnTe半導体検出器又はLaBrシンチレーション検出器を使用した場合、高バックグラウンド放射線環境下においても、実用上十分な検出下限値で、大人、7歳児、乳児、原子力発電所の作業者の甲状腺等価線量を測定できる。従って、放射線検出器4a、4bの周囲を適切な放射線遮蔽体で覆うことにより、さらに低い甲状腺等価線量の測定下限値が達成可能である。

【0033】
このように、実施形態に係る甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器1は、放射線検出器4a、4bを放射線遮蔽体2に形成された凹部3の底部に設定することにより、効果的にバックグラウンド放射線を遮蔽できるので、従来のように被検者が遮蔽体に囲まれた空間内に入室する必要がなく、被検者が測定時に感じる圧迫感、恐怖感を低減できる。また、従来のように被検者が遮蔽体に囲まれた空間内に入室する必要がないことから、放射線測定を容易かつ効率的に行うことができる。また、付添人による介添えが可能であることから、乳児、幼児、老人、病人等についても放射線測定を容易かつ効率的に行うことができる。

【0034】
また、実施形態に係る甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器1は、人が手で持って移動可能な可搬型に形成したので、放射能事故の発生直後に速やかに避難所や指揮所へ持ち込んで使用を開始することができ、多様かつ多人数の被検者に対する放射性測定を迅速に行うことができる。また、多数台の甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器1を避難所や指揮所へ持ち込むことができるので、多様かつ多人数の被検者に対する放射性測定を短時間で効率よく行うことができる。

【0035】
以下、本発明に係る甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器及び放射線測定方法の他の実施形態について説明する。

【0036】
前記実施形態においては、信号処理回路5a、5bを放射線遮蔽体2の内部に組み込んだが、信号処理回路5a、5bの一部又は全部については、必要に応じて放射線検出器4a、4bから分離し、放射線遮蔽体2の外部に設置してもよい。

【0037】
放射線測定に際しては、図5に示すように、テーブルAの天板にのぞき窓Fつけ、その下方にテレビ、パソコン、タブレット、スマートフォン等の映像デバイスGを置いてアニメーション等の動画を流してもよい。また、映像デバイスGに代えて又は映像デバイスFと共に観賞用動植物等の鑑賞物を置いてもよい。このようにすると、動画や動植物の癒し効果により、被検者のストレスが減じられ、放射線測定を容易なものにできる。特に、被検者が体動の多い小児や乳幼児の場合には、同じ姿勢を強いることが困難であるが、本工夫で被検者の興味を引き付けることにより、数分間の測定の間、静止させることが可能となる。

【0038】
また、前記実施形態においては、甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器1をテーブルA上に直接置いたが、図9に示すように、テーブルA上に置かれる台座32と、台座32に連結ピン33を介して旋回可能に連結された旋回アーム34とからなる支持部材31の旋回アーム34に甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器1を取り付けることもできる。このようにすると、被検者の姿勢に合わせて甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器1の回動角度を調整できるので、より正確な放射線測定が可能になる。

【0039】
さらに、前記実施形態においては、甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器1に被検者が頸部を押し付けたままの状態で放射線測定を行ったが、図10に示すように、甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器1上にうずくまった被検者Bの頸部の周囲を、アーチ型又は門型の放射線遮蔽体40で覆うこともできる。このようにすると、甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器1の上部から放射線検出器4a、4bに入射するバックグラウンド放射線の入射量を減少できるので、より正確な放射線測定が可能になる。

【0040】
その他、前記実施形態に係る甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器1は、放射能事故の発生現場で使用できるだけでなく、放射性ヨウ素内用療法により甲状腺に取り込まれた放射性ヨウ素の定量測定にも適用できる。また、前記実施形態に係る甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器1は、被検者Bの甲状腺に蓄積した放射線を測定するだけでなく、体表面汚染又は傷口汚染の定量測定にも適用できる。
【符号の説明】
【0041】
1…甲状腺モニタ用可搬型放射線測定器、2…放射線遮蔽体、3…凹部、4a、4b…放射線検出器、5a、5b…信号処理回路、6…調整部、7…カバー部材、7a…位置決め凹部、8…板材、9…ケーブル、10…ケーブル挿通溝、11…ボルト、12a、12b…ホルダ、13a、13b…連結部、14a、14b…螺合部、21…前置増幅器、22…整形増幅器、23…A/D変換器、24…多チャンネル波高分析器、31…支持部材、32…台座、33…連結ピン、34…旋回アーム、40…アーチ型又は門型の放射線遮蔽体、A…テーブル、B…被検者、C…椅子、D…解析装置、E…甲状腺、F…のぞき窓、G…映像デバイス。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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