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明細書 :糖タンパク質の糖修飾

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-154346 (P2019-154346A)
公開日 令和元年9月19日(2019.9.19)
発明の名称または考案の名称 糖タンパク質の糖修飾
国際特許分類 C12P  21/02        (2006.01)
C12N   9/10        (2006.01)
C07K   7/00        (2006.01)
C12N  15/12        (2006.01)
C12N  15/54        (2006.01)
C12N  15/63        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
FI C12P 21/02 C
C12N 9/10 ZNA
C07K 7/00
C12N 15/12
C12N 15/54
C12N 15/63
C12N 5/10
請求項の数または発明の数 23
出願形態 OL
全頁数 23
出願番号 特願2018-047235 (P2018-047235)
出願日 平成30年3月14日(2018.3.14)
発明者または考案者 【氏名】矢木 宏和
【氏名】加藤 晃一
【氏名】齋藤 泰輝
出願人 【識別番号】506218664
【氏名又は名称】公立大学法人名古屋市立大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100114362、【弁理士】、【氏名又は名称】萩野 幹治
審査請求 未請求
テーマコード 4B050
4B064
4B065
4H045
Fターム 4B050CC03
4B050LL01
4B050LL10
4B064AG01
4B064BJ12
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA20
4B065AA91X
4B065AA93X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA26
4B065CA44
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA17
4H045BA53
要約 【課題】糖タンパク質の糖鎖を糖鎖修飾によって制御する手段を提供することを課題とする。
【解決手段】(1)糖転移酵素の基質糖タンパク質の一部(部分ペプチド)であって、糖転移反応の際に前記糖転移酵素が認識する部分ペプチド、が連結した目的糖タンパク質を、前記糖転移酵素が発現する細胞内で発現させるステップと、(2)前記糖転移酵素による糖鎖修飾を受けた目的糖タンパク質を回収するステップを行い、糖鎖修飾された糖タンパク質を調製する。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
以下のステップ(1)及び(2)を含む、糖鎖修飾された糖タンパク質の調製方法:
(1)糖転移酵素の基質糖タンパク質の一部(部分ペプチド)であって、糖転移反応の際に前記糖転移酵素が認識する部分ペプチド、が連結した目的糖タンパク質を、前記糖転移酵素が発現する細胞内で発現させるステップ、
(2)前記糖転移酵素による糖鎖修飾を受けた目的糖タンパク質を回収するステップ。
【請求項2】
前記糖転移酵素がフコース転移酵素である、請求項1に記載の調製方法。
【請求項3】
前記糖転移反応が、N-アセチルラクトサミン糖鎖にフコースを転移してLewis X糖鎖を生じるものである、請求項2に記載の調製方法。
【請求項4】
前記フコース転移酵素がフコース転移酵素9であり、前記基質糖タンパク質がリソソーム関連膜タンパク質1である、請求項2又は3に記載の調製方法。
【請求項5】
前記ペプチド配列がIKTVESITDIRADIDKKYRCVS(配列番号1)である、請求項4に記載の調製方法。
【請求項6】
前記部分ペプチドが前記目的糖タンパク質のカルボキシ末端側に連結される、請求項1~5のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項7】
前記目的タンパク質と前記部分ペプチドの間にプロテアーゼ認識配列が介在する、請求項1~6のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項8】
以下のステップ(3)を更に含む、請求項7に記載の調製方法:
(3)回収後の目的糖タンパク質をプロテアーゼで処理するステップ。
【請求項9】
以下のステップ(I)及び(II)を含む、糖鎖修飾された糖タンパク質の調製方法:
(I)糖転移酵素の基質糖タンパク質の一部(部分ペプチド)であって、糖転移反応の際に前記糖転移酵素が認識する部分ペプチド、が連結した目的糖タンパク質に前記糖転移酵素を反応させるステップ、
(II)前記糖転移酵素による糖鎖修飾を受けた目的糖タンパク質を回収するステップ。
【請求項10】
糖転移酵素の基質糖タンパク質の一部(部分ペプチド)であって、糖転移反応の際に前記糖転移酵素が認識する部分ペプチド、が連結した目的糖タンパク質をコードする遺伝子。
【請求項11】
プロモーターと、
糖転移酵素の基質糖タンパク質の一部(部分ペプチド)であって、糖転移反応の際に前記糖転移酵素が認識する部分ペプチド、が連結した目的糖タンパク質をコードする遺伝子と、を保持する、
糖鎖修飾された糖タンパク質を調製するためのベクター。
【請求項12】
前記部分ペプチドが前記目的糖タンパク質のカルボキシ末端側に連結される、請求項11に記載のベクター。
【請求項13】
前記目的タンパク質と前記部分ペプチドの間にプロテアーゼ認識配列が介在する、請求項11又は12に記載のベクター。
【請求項14】
プロモーターと、
目的糖タンパク質をコードする遺伝子用のクローニング部位と、を有するとともに、
前記クローニング部位の上流又は下流には、糖転移酵素の基質糖タンパク質の一部(部分ペプチド)であって、糖転移反応の際に前記糖転移酵素が認識する部分ペプチド、をコードする配列が配置されている、
糖鎖修飾された糖タンパク質を調製するためのベクター。
【請求項15】
前記クローニング部位と前記部分ペプチドをコードする配列の間に、プロテアーゼ認識配列をコードする配列が配置されている、請求項14に記載のベクター。
【請求項16】
前記糖転移酵素がフコース転移酵素である、請求項11~15のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項17】
前記糖転移反応が、N-アセチルラクトサミン糖鎖にフコースを転移してLewis X糖鎖を生じるものである、請求項16に記載のベクター。
【請求項18】
前記フコース転移酵素がフコース転移酵素9であり、前記基質糖タンパク質がリソソーム関連膜タンパク質1である、請求項16又は17に記載のベクター。
【請求項19】
前記ペプチド配列がIKTVESITDIRADIDKKYRCVS(配列番号1)である、請求項11~18のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項20】
請求項11~19のいずれか一項に記載のベクターを保有する細胞。
【請求項21】
ヒト、マウス、ラット又はハムスターの細胞である、請求項20に記載の細胞。
【請求項22】
請求項11~19のいずれか一項に記載のベクターを含む、糖鎖修飾された糖タンパク質調製用のキット。
【請求項23】
前記糖転移酵素を更に含む、請求項22に記載のキット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は糖タンパク質の糖修飾に関する。詳しくは、糖タンパク質の糖鎖を修飾する技術及びその用途等に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らの研究グループは、神経幹細胞において幹細胞性の維持に関わるLewis X[Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAc]糖鎖がリソソーム膜タンパク質1(lysosomal-associated membrane protein 1; LAMP1)上にもっぱら発現していることを見出し、神経幹細胞においてLewis X糖鎖の生合成を担う糖転移酵素がフコース転移酵素9(FUT9)であることを明らかにした(非特許文献1)。FUT9はin vitroにおいてN-アセチルラクトサミン[Galβ1-4GlcNAc] (LacNAc)構造を有する基質に対してフコース残基を転移する能力を持つ。従って、細胞内では、LacNAc構造を有する多数のタンパク質上にFUT9によるLewis X糖鎖修飾が起き得るものと予想されるが、実際は特定のタンパク質にのみLewis X糖鎖修飾が認められる。
【先行技術文献】
【0003】

【非特許文献1】H. Yagi et al. Glycobiology, 20, 976-981, 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
研究用のみならず、医薬用としても糖タンパク質が発現/生産されているが、一般に、糖タンパク質を発現させる際に糖タンパク質の糖鎖を制御することは困難である。もっとも、糖転移酵素遺伝子の破壊によって特定の糖残基を付加させない方法はしばしば用いられるが(例えばNiwa R, Shoji-Hosaka E, Sakurada M, Shinkawa T, Uchida K, Nakamura K, Matsushima K, Ueda R, Hanai N, Shitara K. Cancer Res. 2004 Mar 15;64(6):2127-33.を参照)、このような方法は、糖鎖修飾(例えば、フコース残基などの糖残基を糖鎖に付加すること)には応用できない。そこで本発明は、糖タンパク質の糖鎖を糖鎖修飾によって制御する手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の通り、本発明者らの予想に反して、特定のタンパク質にのみFUT9によるLewis X修飾が認められた事実は大変興味深い。本発明者らは、このLewis X修飾の背後には特徴的でありながらも普遍的な糖修飾機構が存在するとの期待を持ちつつ、FUT9依存的なLewis X修飾機構の解明を目指して研究を進めた。詳細且つ緻密な実験計画の下、各種実験を行った結果、主要なキャリアタンパク質(基質糖タンパク質)であるLAMP1のアミノ酸配列の一部(部分ペプチド)をFUT9が認識して糖鎖にフコースを付加することが明らかとなり、糖転移酵素が特定のアミノ酸配列(ペプチド)を認識してキャリアタンパク質に糖修飾するという、驚くべき糖修飾機構の存在が示唆された。この糖修飾機構を巧みに利用すれば、糖タンパク質の糖鎖の制御が可能になる。即ち、糖転移酵素の基質(キャリアタンパク質)に由来し、当該糖転移酵素が認識するアミノ酸配列を利用すれば、任意の糖タンパク質の糖鎖に糖を付加(即ち糖鎖の修飾)することが可能になる。例えば、糖転移酵素としてFUT9を採用した場合、同定されたLAMP1由来の部分ペプチドを付加しておくだけで、目的糖タンパク質へフコース残基の付加(例えばLewis X修飾)が可能となる。
【0006】
以上の通り、本発明者らの独自の検討によって、驚くべき糖修飾機構の存在が明らかになり、汎用性の高い画期的な糖修飾(糖鎖制御)技術が創出された。以下の発明は当該成果に基づくものである。
[1]以下のステップ(1)及び(2)を含む、糖鎖修飾された糖タンパク質の調製方法:
(1)糖転移酵素の基質糖タンパク質の一部(部分ペプチド)であって、糖転移反応の際に前記糖転移酵素が認識する部分ペプチド、が連結した目的糖タンパク質を、前記糖転移酵素が発現する細胞内で発現させるステップ、
(2)前記糖転移酵素による糖鎖修飾を受けた目的糖タンパク質を回収するステップ。
[2]前記糖転移酵素がフコース転移酵素である、[1]に記載の調製方法。
[3]前記糖転移反応が、N-アセチルラクトサミン糖鎖にフコースを転移してLewis X糖鎖を生じるものである、[2]に記載の調製方法。
[4]前記フコース転移酵素がフコース転移酵素9であり、前記基質糖タンパク質がリソソーム関連膜タンパク質1である、[2]又は[3]に記載の調製方法。
[5]前記ペプチド配列がIKTVESITDIRADIDKKYRCVS(配列番号1)である、[4]に記載の調製方法。
[6]前記部分ペプチドが前記目的糖タンパク質のカルボキシ末端側に連結される、[1]~[5]のいずれか一項に記載の調製方法。
[7]前記目的タンパク質と前記部分ペプチドの間にプロテアーゼ認識配列が介在する、[1]~[6]のいずれか一項に記載の調製方法。
[8]以下のステップ(3)を更に含む、[7]に記載の調製方法:
(3)回収後の目的糖タンパク質をプロテアーゼで処理するステップ。
[9]以下のステップ(I)及び(II)を含む、糖鎖修飾された糖タンパク質の調製方法:
(I)糖転移酵素の基質糖タンパク質の一部(部分ペプチド)であって、糖転移反応の際に前記糖転移酵素が認識する部分ペプチド、が連結した目的糖タンパク質に前記糖転移酵素を反応させるステップ、
(II)前記糖転移酵素による糖鎖修飾を受けた目的糖タンパク質を回収するステップ。
[10]糖転移酵素の基質糖タンパク質の一部(部分ペプチド)であって、糖転移反応の際に前記糖転移酵素が認識する部分ペプチド、が連結した目的糖タンパク質をコードする遺伝子。
[11]プロモーターと、
糖転移酵素の基質糖タンパク質の一部(部分ペプチド)であって、糖転移反応の際に前記糖転移酵素が認識する部分ペプチド、が連結した目的糖タンパク質をコードする遺伝子と、を保持する、
糖鎖修飾された糖タンパク質を調製するためのベクター。
[12]前記部分ペプチドが前記目的糖タンパク質のカルボキシ末端側に連結される、[11]に記載のベクター。
[13]前記目的タンパク質と前記部分ペプチドの間にプロテアーゼ認識配列が介在する、[11]又は[12]に記載のベクター。
[14]プロモーターと、
目的糖タンパク質をコードする遺伝子用のクローニング部位と、を有するとともに、
前記クローニング部位の上流又は下流には、糖転移酵素の基質糖タンパク質の一部(部分ペプチド)であって、糖転移反応の際に前記糖転移酵素が認識する部分ペプチド、をコードする配列が配置されている、
糖鎖修飾された糖タンパク質を調製するためのベクター。
[15]前記クローニング部位と前記部分ペプチドをコードする配列の間に、プロテアーゼ認識配列をコードする配列が配置されている、[14]に記載のベクター。
[16]前記糖転移酵素がフコース転移酵素である、[11]~[15]のいずれか一項に記載のベクター。
[17]前記糖転移反応が、N-アセチルラクトサミン糖鎖にフコースを転移してLewis X糖鎖を生じるものである、[16]に記載のベクター。
[18]前記フコース転移酵素がフコース転移酵素9であり、前記基質糖タンパク質がリソソーム関連膜タンパク質1である、[16]又は[17]に記載のベクター。
[19]前記ペプチド配列がIKTVESITDIRADIDKKYRCVS(配列番号1)である、[11]~[18]のいずれか一項に記載のベクター。
[20][11]~[19]のいずれか一項に記載のベクターを保有する細胞。
[21]ヒト、マウス、ラット又はハムスターの細胞である、[20]に記載の細胞。
[22][11]~[19]のいずれか一項に記載のベクターを含む、糖鎖修飾された糖タンパク質調製用のキット。
[23]前記糖転移酵素を更に含む、[22]に記載のキット。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】FUT9によるLAMP1のLewis X糖鎖修飾。
【図2】FUT9依存的な可溶型FcγRIIIa(sFcγRIIIa)のLewis X糖鎖修飾。in vivo発現系での糖鎖修飾(上)とin vitro反応での糖鎖修飾(下)。
【図3】LAMP1の構造(参考 H. Yagi et al. Glycobiology, 20, 976-981, 2010)。
【図4】LAMP1のN-domain(N末ドメイン)に対するFUT9依存的な糖鎖修飾。
【図5】LAMP1のN-domainとC-domain(C末ドメイン)の各種融合変異体(Mutant N-C, Mutant 1-5)(上)を用いた、Lewis X発現に関わる配列の同定(下)。
【図6】LAMP1由来の22アミノ酸残基又はその一部をC末端に付加したsFcγRIIIa変異体におけるLewis X発現の評価。Lewis X発現に関わる22アミノ酸残基の配列を二次構造に基づき3分割した。
【図7】LAMP1由来の22アミノ酸残基を付加したエリスロポエチン(EPO)のLewis X糖鎖修飾。
【図8】LAMP1のキメラ変異体をコードする遺伝子。Mutant N-C:LAMP1の1-135に317-377残基を連結した配列をNotI制限酵素サイト(下線)とAscI制限酵素サイト(二重下線)で挟んだ構造からなる(配列番号27)。尚、この変異体のコドンはFASMAC Co.,Ltd.によって、ヒトに最適化されている。Mutant 1:LAMP1の1-141残基に323-377残基を連結した配列をNotI制限酵素サイト(下線)とAscI制限酵素サイト(二重下線)で挟んだ構造からなる(配列番号28)。
【図9】LAMP1のキメラ変異体をコードする遺伝子。Mutant 2:LAMP1の1-151残基に333-377残基を連結した配列をNotI制限酵素サイト(下線)とAscI制限酵素サイト(二重下線)で挟んだ構造からなる(配列番号29)。Mutant 3:LAMP1の1-157残基に339-377残基を連結した配列をNotI制限酵素サイト(下線)とAscI制限酵素サイト(二重下線)で挟んだ構造からなる(配列番号30)。
【図10】LAMP1のキメラ変異体をコードする遺伝子。Mutant 4:LAMP1の1-164残基に346-377残基を連結した配列をNotI制限酵素サイト(下線)とAscI制限酵素サイト(二重下線)で挟んだ構造からなる(配列番号31)。Mutant 5:LAMP1の1-176残基に358-377残基を連結した配列をNotI制限酵素サイト(下線)とAscI制限酵素サイト(二重下線)で挟んだ構造からなる(配列番号32)。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書では慣例に従い、以下の通り、各アミノ酸を1文字で表記する。
メチオニン:M、セリン:S、アラニン:A、トレオニン:T、バリン:V、チロシン:Y、ロイシン:L、アスパラギン:N、イソロイシン:I、グルタミン:Q、プロリン:P、アスパラギン酸:D、フェニルアラニン:F、グルタミン酸:E、トリプトファン:W、リジン:K、システイン:C、アルギニン:R、グリシン:G、ヒスチジン:H

【0009】
1.糖鎖修飾された糖タンパク質の調製方法
本発明の第1の局面は糖鎖修飾された糖タンパク質の調製方法に関する。本発明によれば、糖鎖修飾された(換言すれば、修飾糖鎖を有する)糖タンパク質を得ることができる。従って、本発明の調製方法を、糖鎖修飾された糖タンパク質の生産方法と見なすこともできる。

【0010】
「糖鎖修飾された」とは、目的の糖タンパク質が有する糖鎖が、糖の付加によって、本来の構造とは異なるものになっていることをいう。従って、特定の糖タンパク質について本発明を適用した場合と適用しない場合を比較すれば、糖鎖構造に相違が認められる。本発明の方法では目的糖タンパク質の糖鎖の一部又は全部が修飾を受けることになる。

【0011】
本発明の調製方法は、以下で詳述するように、培養細胞発現系を利用したin vivoの方法として、又はin vitroの方法として構成される。

【0012】
1-1.培養細胞発現系を利用したin vivo調製方法
この態様の調製方法では以下のステップ(1)及び(2)を行う。尚、本発明の調製方法は、以下の説明から明らかな通り、個体を構成する細胞ではなく、個体から分離された細胞又はそれを培養、加工などすることで得られた細胞(継代細胞、細胞株など)を用い、生体外で実施される。
(1)糖転移酵素の基質糖タンパク質の一部(部分ペプチド)であって、糖転移反応の際に前記糖転移酵素が認識する部分ペプチド、が連結した目的糖タンパク質を、前記糖転移酵素が発現する細胞内で発現させるステップ
(2)前記糖転移酵素による糖鎖修飾を受けた目的糖タンパク質を回収するステップ

【0013】
糖転移酵素が糖転移反応の際に基質糖タンパク質の一部、即ち部分ペプチドを認識し、糖転移反応が進行するという驚くべき認識機構が存在するという知見に基づき、本発明では、目的糖タンパク質の糖鎖を修飾するため、使用する糖転移酵素の基質糖タンパク質の一部(部分ペプチド)を利用する。具体的には、使用する糖転移酵素が発現する細胞(宿主)内で、当該糖転移酵素が糖転移反応の際に認識する部分ペプチド(以下、「認識ペプチド」と呼ぶことがある)が連結した目的糖タンパク質(以下、「認識ペプチド連結糖タンパク質」と呼ぶことがある)を発現させる(ステップ(1))。

【0014】
ステップ(1)における「基質糖タンパク質」とは、本発明に使用する糖転移酵素の本来的な糖受容体(糖鎖構造)を有する糖タンパク質である。従って、適切な条件下、本発明に使用する糖転移酵素を触媒とした反応が行われれば、基質糖タンパク質の糖鎖に糖が転移(付加)されることになる。

【0015】
「糖転移酵素」とは、糖供与体(糖ヌクレオチド)から糖部分を基質(糖受容体)に転移する反応を触媒する酵素である。糖転移酵素の例として、グルコース転移酵素、ガラクトース転移酵素、フコース転移酵素、マンノース転移酵素、シアル酸転移酵素、N-アセチルグルコサミン転移酵素、N-アセチルガラクトサミン転移酵素を挙げることができる。糖転移酵素としてフコース転移酵素を採用すれば、フコース残基の付加による糖鎖修飾、即ちフコシル化が可能となり、例えば、N-アセチルラクトサミン糖鎖を有する目的糖タンパク質のLewis X糖鎖修飾(N-アセチルラクトサミン糖鎖にフコース残基を転移してLewis X糖鎖を生じさせる)に利用できる。フコシル化によって、例えば、糖タンパク質のエンドサイトーシスの効率の改善や向上、体内動態の局在化等を図ることができる。一方、糖転移酵素としてシアル酸転移酵素を採用すれば、糖タンパク質のシアリル化が可能となり、例えば、糖タンパク質の血中半減期を改善することが期待できる。

【0016】
フコース転移酵素の具体例はフコース転移酵素9(FUT9)である。FUT9を用いる場合、認識ペプチドには通常、リソソーム関連膜タンパク質1(LAMP1)の一部である、IKTVESITDIRADIDKKYRCVS(配列番号1)からなるペプチドが用いられる。認識ペプチドとしての機能/効果を損なわない限り、当該ペプチドの一部を改変したり、N末端又はC末端に少数(例えば1~10個)のアミノ酸残基を追加したりしてもよい。改変の例として少数(例えば1~3個)のアミノ酸残基の置換又は欠失を挙げることができる。ここでの置換は、好ましくは保存的アミノ酸置換である。「保存的アミノ酸置換」とは、あるアミノ酸残基を、同様の性質の側鎖を有するアミノ酸残基に置換することをいう。アミノ酸残基はその側鎖によって塩基性側鎖(例えばリシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)、芳香族側鎖(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)のように、いくつかのファミリーに分類されている。保存的アミノ酸置換は好ましくは、同一のファミリー内のアミノ酸残基間の置換である。

【0017】
「目的糖タンパク質」とは、本発明が適用され、糖鎖修飾を受ける糖タンパク質である。様々な糖タンパク質(例えば、医薬、食品、研究試薬等の成分として有用なもの)を目的糖タンパク質として採用可能である。目的糖タンパク質の例として、サイトカイン(インターフェロン(IFN)、インターロイキン(IL))、ホルモン(例えば、エリスロポエチン(EPO)、ヒト絨毛性腺刺激ホルモン(hCG)、黄体形成ホルモン、卵胞刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモン)、酵素(組織型プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)、αガラクトシダーゼ、グルコセレブロシダーゼ)、抗体、抗体断片、ラクトフェリン、オボアルブミン、トロンボモジュリンを挙げることができる。

【0018】
ステップ(1)で発現させる目的糖タンパク質には認識ペプチドが連結されることになる。換言すれば、認識ペプチドが連結した状態の目的糖タンパク質、即ち、認識ペプチド連結糖タンパク質を発現させる。認識ペプチドは目的糖タンパク質のN末端又はC末端に直接又は間接的に連結されることになる。後者(間接的な連結)の場合、典型的には、目的糖タンパク質と認識ペプチドの間に1又は複数個(例えば2~30個)のアミノ酸残基が介在することになる。複数個のアミノ酸残基、即ちペプチドが介在する態様として、目的糖タンパク質と認識ペプチドをペプチドリンカーで連結するもの、目的糖タンパク質と認識ペプチドの間にプロテアーゼ認識配列を設けるもの、目的糖タンパク質と認識ペプチドの間に特別の機能をもたない1~数個(例えば1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個)のアミノ酸残基(但し、認識ペプチドに期待される機能/効果を損なわないもの)を介在させるもの、を例示することができる。ペプチドリンカーとは、直鎖状にアミノ酸が連結したペプチドからなるリンカーである。ペプチドリンカーの代表例は、グリシンとセリンから構成されるリンカー(GGSリンカーやGSリンカー)である。一方、プロテアーゼ認識配列とは、特定のプロテアーゼにより認識され、当該プロテアーゼによるタンパク質の切断に必要なアミノ酸配列である。例えばソルターゼ認識配列、HRV3C認識配列、TEVプロテアーゼ認識配列、トロンビン認識配列、PreScission Protease認識配列等)をプロテアーゼ認識配列として用いることができる。

【0019】
目的糖タンパク質のC末端に認識ペプチドを連結した場合に良好な糖鎖修飾が認められた実験結果(後述の実施例を参照)を考慮し、好ましくは、認識ペプチドを連結する位置を目的糖タンパク質のC末端側とする。このように連結することは、発現後に認識ペプチドを取り除く場合に有利となる。

【0020】
認識ペプチド連結糖タンパク質を細胞内で発現させるためには、典型的には、認識ペプチド連結糖タンパク質をコードする遺伝子(以下、「認識ペプチド連結糖タンパク質遺伝子」と呼ぶことがある)を保持する発現ベクターで形質転換した宿主(細胞)を培養する。具体的には、例えば、以下のステップ(i)~(iii)によって、認識ペプチド連結糖タンパク質を発現させる。
(i)認識ペプチド連結糖タンパク質遺伝子を保持する発現ベクターを用意するステップ
(ii)前記発現ベクターを宿主細胞に導入するステップ
(iii)前記発現ベクターが導入された形質転換体を培養し、認識ペプチド連結糖タンパク質を発現させるステップ

【0021】
ステップ(i)では、宿主細胞内での認識ペプチド連結糖タンパク質の発現を可能にする発現ベクターを用意する。発現ベクターには、宿主細胞内で認識ペプチド連結糖タンパク質の発現が可能なように、宿主細胞で機能するプロモーターが組み込まれる。プロモーターの例を示すと、CMV-IE(サイトメガロウイルス初期遺伝子由来プロモーター)、SV40、EF1α、RSV、SRα、βアクチンプロモーター等である。プロモーターは、認識ペプチド連結糖タンパク質遺伝子を作動可能に連結される。ここで、「プロモーターが認識ペプチド連結糖タンパク質遺伝子を作動可能に連結している」とは、「プロモーターの制御下に認識ペプチド連結糖タンパク質遺伝子が配置されている」ことと同義であり、通常、プロモーターの3'末端側に直接又は他の配列を介して認識ペプチド連結糖タンパク質遺伝子が連結されることになる。認識ペプチド連結糖タンパク質遺伝子がシグナル配列(リーダー配列)を含んでいない場合は通常、シグナル配列が発現ベクターに組み込まれ、発現後、認識ペプチド連結糖タンパク質が宿主細胞外へ分泌されるようにする。シグナル配列は認識ペプチド連結糖タンパク質遺伝子の5'末端側に付加されることになる。宿主細胞に対応するようにシグナル配列を選択すればよい。、哺乳動物細胞を宿主にする場合のシグナル配列の例としてハツカネズミのIg-K鎖のシグナル配列、LAMP1のシグナル配列、インスリンのシグナル配列を挙げることができる。

【0022】
認識ペプチド連結糖タンパク質遺伝子の下流には通常ポリA付加シグナル配列を配置する。ポリA付加シグナル配列の使用によって転写を終了させる。ポリA付加シグナル配列としてはSV40のポリA付加配列、ウシ由来成長ホルモン遺伝子のポリA付加配列等を用いることができる。

【0023】
発現ベクターに検出用遺伝子(レポーター遺伝子、細胞又は組織特異的な遺伝子、選択マーカー遺伝子など)、エンハンサー配列、WRPE配列等を含めることにしてもよい。検出用遺伝子は、認識ペプチド連結糖タンパク質遺伝子の導入の成否や効率の判定、認識ペプチド連結糖タンパク質遺伝子の発現の検出又は発現効率の判定、認識ペプチド連結糖タンパク質遺伝子が発現した細胞の選択や分取等に利用される。一方、エンハンサー配列の使用によって発現効率の向上が図られる。検出用遺伝子としては、ネオマイシンに対する耐性を付与するneo遺伝子、カナマイシン等に対する耐性を付与するnpt遺伝子(Herrera Estrella、EMBO J. 2(1983)、987-995)やnptII遺伝子(Messing & Vierra.Gene 1 9:259-268(1982))、ハイグロマイシンに対する耐性を付与するhph遺伝子(Blochinger & Diggl mann,Mol Cell Bio 4:2929-2931)、メタトレキセートに対する耐性を付与するdhfr遺伝子(Bourouis et al.,EMBO J.2(7))等(以上、マーカー遺伝子)、ルシフェラーゼ遺伝子(Giacomin、P1. Sci. 116(1996)、59~72;Scikantha、J. Bact. 178(1996)、121)、β-グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子、GFP(Gerdes、FEBS Lett. 389(1996)、44-47)やその改変体(EGFPやd2EGFPなど)等の蛍光タンパク質の遺伝子(以上、レポーター遺伝子)、細胞内ドメインを欠く上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子等の遺伝子を用いることができる。検出用遺伝子は、例えば、バイシストロニック性制御配列(例えば、リボソーム内部認識配列(IRES))や自己開裂ペプチドをコードする配列を介して認識ペプチド連結糖タンパク質遺伝子に連結させることができる。自己開裂ペプチドの例はThosea asigna virus由来の2Aペプチド(T2A)であるが、これに限定されるものではない。自己開裂ペプチドとして蹄疫ウイルス(FMDV)由来の2Aペプチド(F2A)、ウマ鼻炎Aウイルス(ERAV)由来の2Aペプチド(E2A)、porcine teschovirus(PTV-1)由来の2Aペプチド(P2A)等が知られている。

【0024】
認識ペプチド連結糖タンパク質遺伝子は大別して、目的糖タンパク質をコードする部分と認識ペプチドをコードする部分からなる。認識ペプチドをコードする配列には、認識ペプチドをコードする限り、様々な配列を採用することができる。例えば、認識ペプチドがIKTVESITDIRADIDKKYRCVS(配列番号1)であれば、atcaagactgtggaatctataactgacatcagggcagatatagataaaaaatacagatgtgttagtの配列(配列番号2)を用いることができる。

【0025】
目的糖タンパク質をコードする配列と、認識ペプチドをコードする配列は直接又は他の配列(例えばペプチドリンカーをコードする配列や、プロテアーゼ認識配列をコードする配列)を介してインフレームで連結される。

【0026】
上記構成の発現ベクターは、例えば、以下の(a)~(c)の中のいずれかの方法で構築される。
(a)発現ベクターのクローニング部位に、認識ペプチド連結糖タンパク質遺伝子を挿入する方法
(b)認識ペプチドをコードする配列が組み込まれた発現ベクターに対して、該配列の上流又は下流に、目的糖タンパク質をコードする配列をインフレームで挿入する方法
(c)目的糖タンパク質をコードする配列を保持する発現ベクターに対して、該配列の上流又は下流に、認識ペプチドをコードする配列をインフレームで挿入する方法

【0027】
(a)の構築方法は、プロモーター等の発現に必要な要素に加え、クローニング部位を有するベクターを利用した構築方法である。クローニング部位は認識ペプチド連結糖タンパク質遺伝子の挿入に利用される。クローニング部位としてマルチクローニング部位を備えることにしてもよい。認識ペプチド連結糖タンパク質遺伝子をクローニング部位に挿入することにより、本発明の調製方法に用いる発現ベクターが完成する。尚、この構築方法の利点の一つは、市販の汎用的なベクターを利用できることである。

【0028】
(b)の構築方法では、認識ペプチドをコードする配列が予め組み込まれたベクターが利用される。認識ペプチドをコードする配列の上流(5'末端側)又は下流(3'末端側)には、目的糖タンパク質をコードする配列をインフレームで挿入するためのクローニング部位が備えられている。目的糖タンパク質をコードする配列をクローニング部位に挿入することにより、本発明の調製方法に用いる発現ベクターが完成する。この構築方法の場合、認識ペプチドが連結した目的糖タンパク質をコードする配列(認識ペプチド連結糖タンパク質遺伝子)を用意する必要がない(即ち、目的糖タンパク質をコードする配列をそのまま使用できる)。従って、例えば、多種類の目的糖タンパク質を発現させる場合に特に有効といえる。

【0029】
(c)の構築方法は、上記二つの構築方法とは異なり、予め目的糖タンパク質をコードする配列を保持するベクターを利用する。この構築方法では、目的糖タンパク質をコードする配列の上流(5'末端側)又は下流(3'末端側)に、認識ペプチドをコードする配列をインフレームで挿入することにより、本発明の調製方法に用いる発現ベクターが完成する。認識ペプチドをコードする配列の挿入は、目的糖タンパク質をコードする配列と認識ペプチドをコードする配列がインフレームで連結されるようにする。この構築方法は、目的糖タンパク質をコードする配列を保持するベクターが利用可能な状態にあるとき(例えば、既に所有している場合(構築済み又は入手済み)、或いは容易に入手可能な場合)に特に有効である。

【0030】
(a)の構築方法においては、目的糖タンパク質をコードする配列と認識ペプチドをコードする配列との間にプロテアーゼ認識配列をコードする配列が介在する認識ペプチド連結糖タンパク質遺伝子を挿入配列にすることにより、(b)の構築方法においては、例えば、認識ペプチドをコードする配列の上流又は下流にプロテアーゼ認識配列をコードする配列が配置された(クローニング部位は更に上流又は更に下流に設けられる)発現ベクターを利用することにより、(c)の構築方法においては、例えば、認識ペプチドとともにプロテアーゼ認識配列をコードする配列を挿入することにより、目的糖タンパク質をコードする配列と認識ペプチドをコードする配列との間にプロテアーゼ認識配列が介在する発現産物を得るための発現ベクターとなる。

【0031】
尚、各種発現系(例えば哺乳動物細胞発現系)について利用可能な発現ベクターが数多く開発されており、既存の発現ベクターを利用して本発明の発現ベクターを構築することができる。

【0032】
ステップ(i)で用意した発現ベクターは宿主細胞に導入される(ステップ(ii))。導入操作は常法で行えばよい。発現ベクターの宿主細胞への導入には、各種遺伝子導入法を利用することができる。例えば、感染(ウイルスベクターを使用する場合)、エレクトロポレーション(Potter,H. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 81, 7161-7165(1984))、リポフェクション(Felgner, P.L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 84,7413-7417(1987))等の方法により形質転換を行うことができる。

【0033】
認識ペプチドに対応する糖転移酵素(認識ペプチドを認識して糖転移反応を触媒する糖転移酵素)が発現する細胞を宿主細胞として用いる。該当する糖転移酵素を元々発現している細胞を宿主細胞として用いてもよいが、好ましくは、糖転移酵素遺伝子の導入によって強制的に糖転移酵素を発現させた細胞を用い、より確実且つ効率的な糖鎖修飾を実現する。糖転移酵素遺伝子の導入は認識ペプチド連結糖タンパク質遺伝子の導入(即ち、上記発現ベクターの導入)の前又は同時(即ち、共導入)に行うとよい。

【0034】
認識ペプチドに対応する糖転移酵素に加え、他の糖転移酵素を強制発現させた宿主細胞を用いることもできる。例えば、他の糖転移酵素としてNアセチルグルコサミン転移酵素IV若しくはV、又はこれら両方を用いれば、糖鎖の高分枝によるLewis Xの発現部位の増加が可能になる。

【0035】
糖鎖修飾の機構/パターンを考慮し、好ましくは、哺乳動物細胞を宿主細胞として利用する。哺乳動物細胞は特に限定されず、例えば、CHO細胞、BHK細胞、COS-7細胞、HeLa細胞、ナマルバ細胞、HEK293細胞、HCT116細胞、Jurkat細胞、HL-60細胞、PC-12細胞、A431細胞、U2OS細胞、K-562細胞、Expi293FTM細胞等を用いることができる。哺乳動物細胞の動物種は例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスターである。

【0036】
糖転移酵素遺伝子のノックアウト又はノックダウン等によって、ヒト型の糖鎖修飾パターンを示す昆虫細胞(例えばSf-9(Kato T, Kako N, Kikuta K, Miyazaki T, Kondo S, Yagi H, Kato K, Park EY. Sci Rep. 2017 May 3;7(1):1409.を参照)や酵母(例えば遺伝子改変型ピキア酵母(Li H, Sethuraman N, Stadheim TA, Zha D, Prinz B, Ballew N, Bobrowicz P, Choi BK, Cook WJ, Cukan M, Houston-Cummings NR, Davidson R, Gong B, Hamilton SR, Hoopes JP, Jiang Y, Kim N, Mansfield R, Nett JH, Rios S, Strawbridge R, Wildt S, Gerngross TU. Nat Biotechnol. 2006 Feb;24(2):210-5. Epub 2006 Jan 22.を参照)が作製されている。必要に応じて、認識ペプチドに対応する糖転移酵素遺伝子を導入した後、これらを宿主細胞として用いることにしてもよい。

【0037】
ステップ(ii)に続くステップ(iii)では、発現ベクターが導入された形質転換細胞(形質転換体)を培養し、認識ペプチド連結糖タンパク質を発現させる。培養条件は、形質転換体が生育し、認識ペプチド連結糖タンパク質の発現が可能である限り、特に限定されない。標準的な培養条件を基準として必要に応じて修正を加えればよい。また、予備実験によって適当な培養条件を設定することが可能である。

【0038】
培地の組成は特に限定されない。培地の炭素源として例えば、マルトース、シュクロース、ゲンチオビオース、可溶性デンプン、グリセリン、デキストリン、糖蜜、有機酸等を用いることができる。また、窒素源として例えば硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、或いはペプトン、酵母エキス、コーンスティープリカー、カゼイン加水分解物、ふすま、肉エキス等を用いることができる。無機塩としてカリウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マンガン塩、鉄塩、亜鉛塩等を用いることができる。形質転換体の生育を促進するためにビタミン、アミノ酸などを添加した培地を使用してもよい。

【0039】
形質転換体内で発現した認識ペプチド連結糖タンパク質は、形質転換体が発現する糖転移酵素による糖鎖修飾を受ける。即ち、形質転換体が発現する糖転移酵素が目的糖タンパク質に連結した認識ペプチドを認識することで糖転移反応が進行し、糖鎖修飾を受けた目的糖タンパク質が生じる。このプロセスを経た目的糖タンパク質が回収される(ステップ(2))。通常、認識ペプチド連結糖タンパク質は分泌タンパク質として発現することから、例えば、培養上清をろ過、遠心処理等することによって不溶物を除去した後、限外ろ過膜による濃縮、硫安沈殿等の塩析、透析、各種クロマトグラフィーなどを適宜組み合わせて分離、精製を行うことにより、糖鎖修飾を受けた目的糖タンパク質を回収することができる。精製用タグ(Hisタグ、HAタグ、FLAGタグ等)が付加された状態で認識ペプチド連結糖タンパク質が発現するように発現ベクターを構成しておけば、精製用タグを利用して、糖鎖修飾を受けた目的糖タンパク質を回収することもできる。

【0040】
回収された目的糖タンパク質には認識ペプチドが連結している。プロテアーゼ認識配列を利用した場合(即ち、プロテアーゼ認識配列をコードする配列が組み込まれた発現ベクターを用いた場合)には、目的糖タンパク質の配列と認識ペプチドとの間にプロテアーゼ認識配列が介在した状態の発現産物が得られる。この態様の場合、発現産物をプロテーゼ処理することにより、認識ペプチドが切断(分離)された目的糖タンパク質を回収することが可能である。プロテアーゼ処理には、使用したプロテアーゼ切断部位に対応するプロテアーゼが用いられる。

【0041】
1-2.in vitro調製方法
上記の通り、in vitroの方法として本発明を構成することもできる。以下、in vitro調製方法について説明するが、上記態様(in vivo調製方法)と同一の事項(基質糖タンパク質、認識ペプチド、糖転移酵素、目的糖タンパク質等)については重複する説明を省略し、in vivo調製方法における、対応する説明を援用する。

【0042】
この態様ではin vitroで糖転移反応を行い、糖鎖修飾された目的糖タンパク質を得る。詳細には、以下のステップ(I)及び(II)を行う。
(I)糖転移酵素の基質糖タンパク質の一部(部分ペプチド)であって、糖転移反応の際に前記糖転移酵素が認識する部分ペプチド、が連結した目的糖タンパク質に前記糖転移酵素を反応させるステップ
(II)前記糖転移酵素による糖鎖修飾を受けた目的糖タンパク質を回収するステップ

【0043】
この態様の場合、予め用意しておいた認識ペプチド連結糖タンパク質に対して、in vitroで糖転移酵素を反応させる(ステップ(I))。具体的には、糖供与体、認識ペプチド連結糖タンパク質、及び対応する糖転移酵素を適当な容器内で共存させ、インキュベートする。反応条件は、使用する糖転移酵素の特性を考慮して設定すればよい。最適な反応条件は、予備実験を通して決定することができる。

【0044】
認識ペプチド連結糖タンパク質は、例えば、適当な発現系を利用して組換えタンパク質として調製すればよい。認識ペプチドは目的糖タンパク質のN末端又はC末端に直接又は間接的に連結されることになる。上記態様(in vivo調製方法)と同様に、目的糖タンパク質と認識ペプチドの間にプロテアーゼ認識配列を設けることにしてもよい。

【0045】
反応系に他の糖転移酵素を共存させ、当該糖転移酵素による糖転移反応も生じるようにしてもよい。例えば、他の糖転移酵素としてNアセチルグルコサミン転移酵素IV若しくはV、又はこれら両方とガラクトース転移酵素を用いれば、糖鎖の高分枝によるLewis Xの発現部位の増加が期待できる。また、海洋微生物由来のシアル酸転移酵素を利用すれば、シアリルLewis Xの合成が可能となる。

【0046】
ステップ(I)、即ち、糖転移酵素による反応の後、糖鎖修飾を受けた目的糖タンパク質を回収する(ステップ(II))。回収操作は常法で行えばよい。ステップ(I)に供する認識ペプチド連結糖タンパク質に精製用タグ(Hisタグ、HAタグ、FLAGタグ等)を付加しておけば、精製用タグを利用した簡便な精製が可能となる。

【0047】
回収された目的糖タンパク質には認識ペプチドが連結している。プロテアーゼ認識配列を利用した場合、回収した目的糖タンパク質をプロテアーゼ処理することにより、認識ペプチドが切断(分離)された目的糖タンパク質を得ることができる。

【0048】
2.発現ベクター及びキット
本発明のin vivo調製方法に用いる発現ベクター(特にクローニング部位を有するもの)は汎用性に優れ、それ自体、有用性及び利用価値が高い。そこで本発明は別の局面として、本発明のin vivo調製方法に用いることができる発現ベクターを提供する。本発明の発現ベクターの構成は上記の通りであり、認識ペプチド連結糖タンパク質の発現に必要な要素を備える。

【0049】
本発明は更に、本発明の発現ベクターを含む、糖修飾された糖タンパク質調製用のキットも提供する。当該キットによれば、より簡便に本発明のin vivo調製方法を実施することが可能になる。本発明のキットには、主要構成成分として上記発現ベクターが含まれる。本発明のin vivo調製方法を実施する際に必要なその他の試薬(例えば糖転移酵素)、容器・器具、培地などを本発明のキットに含めてもよい。尚、通常、本発明のキットには取り扱い説明書が添付される。
【実施例】
【0050】
FUT9依存的なLewis X修飾機構の解明を目指し、以下の検討を行った。
<方法>
1. タンパク質発現プラスミドの調製
1-1. FUT9の発現プラスミドの調製
ヒトFUT9のcDNAを以下に示したプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法により増幅し、動物細胞発現プラスミドであるC-terminal 3×Flag-CMV14(Sigma-Aldrich)へ制限酵素XbaI/HindIIIを用いて組み込んだ。
FUT9-HindIII-F:cccaagcttatgacatcaacatccaaa(配列番号3)
FUT9-XbaI-R:gctctagaattccaaaaccatttctc(配列番号4)
【実施例】
【0051】
PCR法にはKOD plus DNA Polymerase(TOYOBO)を用いた。融解、アニーリング、酵素反応時間と温度は以下の条件で行った。
(1)融解(98℃ 2分)
(2)融解(98℃ 10秒)、アニーリング(55℃ 15秒)、伸長(68℃ 1分/kb(70秒))を35サイクル
(3)68℃で5分反応させた後、4℃で放置
【実施例】
【0052】
(反応液組成)
10xPCR buffer for KOD plus2 5μl
2mM dNTPs 5μl
25mM MgSO4 2μl
5'-プライマー(10 pmol/μl) 1.5μl
3'-プライマー(10 pmol/μl) 1.5μl
鋳型cDNA 1μl
DMSO 1.5μl
MilliQ(登録商標)水 31.5μl
合計:50μl
【実施例】
【0053】
1-2. LAMP1ΔTMの発現プラスミドの調製
ヒトLAMP1の膜貫通領域を欠損させた領域(29-382)をコードする遺伝子を、以下に示したプライマーを用いてPCR法で増幅し、哺乳動物発現用ベクターCD4-bio-His(Addgene;51861)(Sonja et al, 2012 BMC Biology2012 10:62)に制限酵素サイトNotI/AscIにて組み込んだ。
NotI-LAMP1-F:ataagaatgcggccgccaccatggcggcccccggcagc(配列番号5)
AscI-LAMP1- R:tttggcgcgccagcgatggggatcagccat(配列番号6)
【実施例】
【0054】
PCR法にはKOD plus DNA Polymerase(TOYOBO)を用いてFUT9の発現プラスミドの調製と同様の組成で行った。融解、アニーリング、酵素反応時間と温度は1-1.と同じ条件で行い、伸長反応は90秒で行った。
【実施例】
【0055】
1-3. LAMP1のドメイン欠損変異体の発現プラスミドの調製
次に、このLAMP1を鋳型に、以下に示すプライマーを用いインバースPCR法によって各種ドメイン欠損LAMP1を作成した。
インバース用N-domain-F:ggcgcgccgtcgacctcc(配列番号7)
インバース用N-domain-R:gctcttgggcacgggtga(配列番号8)
インバース用C-domain-F:ccctctgtggacaagtac(配列番号9)
インバース用C-domain-R:tgctgacgcacaatgcat(配列番号10)
【実施例】
【0056】
PCR法にはKOD puls DNA Polymerase(TOYOBO)を用いた。融解、アニーリング、酵素反応時間と温度は以下の条件で行った。反応組成はFUT9発現プラスミド調製と同じである。
(1)融解(95℃ 2分)
(2)融解(95℃ 30秒)、アニーリング(60℃ 30秒)、伸長(68℃ 1分/kb(12分))を35サイクル
(3)68℃で15分反応させた後、4℃で放置
【実施例】
【0057】
1-4. LAMP1のキメラ変異体の発現プラスミドの調製
N-domainのコンストラクトを用いて、各種キメラ変異体をコードする遺伝子をFASMAC Co.,Ltd.より購入し、N-domainのコンストラクトへ制限酵素AscI/NotIを用いて組み込んだ。各キメラ変異体をコードする遺伝子の配列を図8~図10に示す
【実施例】
【0058】
1-5. モデル糖タンパク質sFcγRIIIの発現プラスミドの調製
ヒトsFcγRIIIのcDNAをFASMAC社より購入し、以下に示したプライマーを用いて、ベクターN-terminal 3×Flag-CMV9 (Sigma-Aldrich Co.)(http://www.sigmaaldrich.com/content/dam/sigma-aldrich/docs/Sigma-Aldrich/Vector/1/p3xflag-cmv-9-10_expression_vector.pdf)へ制限酵素HindIII/KpnIを用いて組み込んだ。
HindIII-FcγRIIIa-F:ggaagcttatgggcatgcggactgaa(配列番号11)
KpnI-FcγRIIIa-R:gcggtaccttaaccttgagtgatggt(配列番号12)
【実施例】
【0059】
PCR法にはKOD plus DNA Polymerase(TOYOBO)を用いてFUT9の発現プラスミド精製と同様の組成で行った。融解、アニーリング、酵素反応時間と温度はFUT9発現プラスミドの調製におけるPCR法と同じ条件で行い、伸長反応は40秒で行った。
【実施例】
【0060】
1-6. sFcγRIIIの変異体の発現プラスミドの調製
次に、sFcγRIIIを鋳型に、以下に示すプライマーを用い、インバースPCR法によって各種FcR変異体を作成した。
インバース用FcR-123-F:gcagatatagataaaaaatacagatgtgttagttaaggtaccagtcgactctag(配列番号13)
インバース用FcR-123-R:cctgatgtcagttatagattccacagtcttgataccttgagtgatggtgat(配列番号14)
インバース用FcR-23-F:aaatacagatgtgttagttaaggtaccagtcgactctag(配列番号15)
インバース用FcR-23-R:tttatctatatctgccctgatgtcagttataccttgagtgatggtgat(配列番号16)
インバース用FcR-3-F:aaatacagatgtgttagttaaggtaccagtcgactctag(配列番号17)
インバース用FcR-3-R:accttgagtgatggtgat(配列番号18)
【実施例】
【0061】
インバースPCR法にはKOD puls DNA Polymerase(TOYOBO)を用いた。反応組成、融解、アニーリング、酵素反応時間と温度は、各種ドメイン欠損LAMP1の発現プラスミドの作成と同様である。
【実施例】
【0062】
加えて、作成したFcR123を鋳型に、以下に示すプライマーを用いインバースPCR法によってFcR12を作製した。
インバース用FcR-12-F: taaaaatacagatgtgttagt(配列番号19)
インバース用FcR-12-R:tttatctatatctgccct(配列番号20)
【実施例】
【0063】
インバースPCR法にはKOD puls DNA Polymerase(TOYOBO)を用いた。反応組成、融解、アニーリング、酵素反応時間と温度は、各種ドメイン欠損LAMP1の発現プラスミドの作成と同様である。
【実施例】
【0064】
さらに、FcR123を鋳型に、以下に示すプライマーを用い目的DNAの鎖を増幅し、FcR123のコンストラクトへ制限酵素HindIII/XbaIを用いて組み込み、FcR1を作成した。
HindIII FcR-1-F:taaaaatacagatgtgttagt(配列番号21)
XbaI FcR-1-R:tgctctagattaagattccacagtcttgatacc(配列番号22)
【実施例】
【0065】
PCR法にはKOD puls DNA Polymerase(TOYOBO)を用いた。反応組成、融解、アニーリング、酵素反応時間と温度は、各種ドメイン欠損LAMP1の発現プラスミドの作成と同様である。
【実施例】
【0066】
1-7. EPOの発現プラスミドの調製
ヒトEPOのcDNAをFASMAC社より購入し、以下に示したプライマーを用いて、ベクターN-terminal 3×Flag-CMV9 (Sigma-Aldrich Co.)(http://www.sigmaaldrich.com/content/dam/sigma-aldrich/docs/Sigma-Aldrich/Vector/1/p3xflag-cmv-9-10_expression_vector.pdf)へ制限酵素HindIII/XbaIを用いて組み込んだ。
HindIII EPO-F:cccaagcttgccccaccacgcctcatc(配列番号23)
XbaI EPO-R:ccctctagatcatctgtcccctgtcct(配列番号24)
【実施例】
【0067】
PCR法にはKOD puls DNA Polymerase(TOYOBO)を用いた。反応組成、融解、アニーリング、酵素反応時間と温度は、各種ドメイン欠損LAMP1の発現プラスミドの作成と同様である。
【実施例】
【0068】
1-8. EPOの変異体の発現プラスミドの調製
加えて、作成したEPOを鋳型に、以下に示すプライマーを用いインバースPCR法によってEPO-22を作製した。
インバース用EPO-22-F:gcagatatagataaaaaatacagatgtgttagttgatctagaggatcccgg(配列番号25)
インバース用EPO-22-R:tgcaggacaggggacagaatcaagactgtggaatctataactgacatcagg(配列番号26)
【実施例】
【0069】
インバースPCR法にはKOD puls DNA Polymerase(TOYOBO)を用いた。反応組成、融解、アニーリング、酵素反応時間と温度は、各種ドメイン欠損LAMP1の発現プラスミドの作成と同様である。
【実施例】
【0070】
2. HEK293T細胞及びCHO-K1細胞の培養
HEK293T細胞及びCHO-K1細胞は10% FBSを含むDulbecco’s modified Eagle’s medium(DMEM; Invitrogen)培地を用い、5% CO2存在下37℃で培養した。
【実施例】
【0071】
3. タンパク質の発現及び精製
3-1. HEK293T細胞及びCHO-K1細胞によるタンパク質の発現
HEK293T細胞、CHO-K1細胞を10 cm2の細胞用シャーレ(corning)で、2.に記した条件で培養し、polyethylenimine(PEI)を30μg用いて20μgの各種タンパク質発現用プラスミドを遺伝子導入した。遺伝子導入後72時間培養し、下記の精製法でそれぞれ精製を行った。
【実施例】
【0072】
3-2. FLAG-tag融合タンパク質の精製
回収したライセートと培養液に抗FLAG M2 Affinity Gel(SIGMA)を加え、4℃で1時間インキュベートを行いFLAG-tag融合タンパク質とゲルを結合させた。PBSでゲルを洗い、100 μg/ml FLAGペプチドを含むPBSで溶出させた。
【実施例】
【0073】
3-3. His-tag融合タンパク質の精製
回収したライセートと培養液にComplete His-tag Pulification Resin(Roche)を加え、4℃で1時間インキュベートを行いHis-tag融合タンパク質とビーズを結合させた。ビーズをPBSまたは10 mM イミダゾールを含むPBSで洗い、500 mM イミダゾールを含むPBSで溶出させた。
【実施例】
【0074】
3-4. ウェスタンブロッティング
作製した電気泳動サンプルをSDS-PAGEにより分画化し、PVDF膜(Millipore)に転写した。PVDF膜はBlocking-one(Nacalai Tesque)を用いてブロッキングした後、1次抗体を加え4℃で一晩浸透した。さらにPVDF膜をTBSTを用いて洗浄した後、2次抗体液を加え4℃で1時間インキュベートした。その後PVDF膜を、TBSTを用いて洗浄した後、Immobilon Western Chemiluminescent HRP Substrate(Millipore)を用いて、目的タンパク質および糖鎖の検出を行った。
【実施例】
【0075】
3-5. 抗Lewis X抗体による免疫沈降法
CHO細胞またはHEK293T細胞を10 cm2の細胞用シャーレ(corning)で、2.に記した条件で培養し、PEIを用いて12μgのFUT9発現用プラスミドを遺伝子導入した。遺伝子導入後72時間培養し、細胞を回収しタンパク質分画を抽出し、抗Lewis X抗体を用いてウェスタンブロッティングを行った。
【実施例】
【0076】
3-6. 抗Flag抗体による免疫沈降法
CHO細胞またはHEK293T細胞を10 cm2の細胞用シャーレ(corning)で、2.に記した条件で培養し、PEIを用いて12 μgのFUT9発現用プラスミドを遺伝子導入した。遺伝子導入後72時間培養し、細胞を回収しタンパク質分画を抽出し、抗Flag抗体を用いてウェスタンブロッティングを行った。
【実施例】
【0077】
3-7. 抗His-tag抗体による免疫沈降法
CHO細胞またはHEK293T細胞を10 cm2の細胞用シャーレ(corning)で、2.に記した条件で培養し、PEIを用いて16μgのFUT9発現用プラスミドを遺伝子導入した。遺伝子導入後72時間培養し、細胞を回収しタンパク質分画を抽出し、抗His-tag抗体を用いてウェスタンブロッティングを行った。
【実施例】
【0078】
3-8. in vitroにおけるLewis X修飾
2で培養したCHO-K1細胞にFUT9、LAMP1またはsFcγRIIIの発現プラスミドをそれぞれ導入し、72時間培養後の培養液に対し2-7-2の方法によりそれぞれのタンパク質を精製した。単離精製したFUT9、LAMP1またはsFcγRIIIに、0.05ユニット neuraminidase及び1 mg/ml GDP-フコース存在下で、37℃で一晩反応させ、ウェスタンブロッティング法を用いてLewis X糖鎖修飾の有無について調べた。
【実施例】
【0079】
<結果>
1.FUT9の過剰発現による内在性LAMP1の糖鎖修飾
CHO細胞内でFUT9を過剰に発現させると、特定のタンパク質にのみLewis X構造を含む糖鎖による修飾が認められた(図1)。その主要なキャリアタンパク質は、神経幹細胞でLewis X糖鎖発現タンパク質として同定したLAMP1であることが判明した。一方、HEK293T細胞内でFUT9を過剰に発現させた場合もLAMP1のLewis X糖鎖修飾が認められ、FUT9によるLAMP1特異的なLewis X修飾は哺乳動物細胞一般に起こることが示唆された。
【実施例】
【0080】
2.FUT9の過剰発現による外来性LAMP1の糖鎖修飾とin vitro反応によるLAMP1の糖鎖修飾
LAMP1発現プラスミドとコントロールタンパク質として可溶型FcγRIIIa(sFcγRIIIa)プラスミドを外部遺伝子としてFUT9過剰発現細胞内に導入したところ、外来性のLAMP1上にも特異的にLewis X糖鎖による修飾が認められたが、sFcγRIIIaにはLewis X糖鎖修飾が認められなかった(図2上)。
【実施例】
【0081】
酵素としてFUT9、基質としてLAMP1およびsFcγRIIIaをCHO細胞に過剰発現させ、単離精製を行った後、GDP-フコース存在下でin vitro反応を行った結果も同様に、LAMP1のみにLewis X修飾が認められた(図2下)。
【実施例】
【0082】
以上の結果より、FUT9がLAMP1の特定のペプチド鎖の情報を読み取る仕組みが存在し、Lewis X糖鎖を形成することが想定された。
【実施例】
【0083】
3.FUT9とLAMP1のN-domain(N末ドメイン)又はC-domain(C末ドメイン)の共発現
LAMP1は膜貫通領域と2つの相同性の高いN-domain及びC-domainから構成されている(図3)。FUT9によるLewis X修飾に重要なドメインを特定するため、FUT9とLAMP1の各ドメインを共発現させた。その結果、N-domainに主にLewis X修飾が認められた(図4)。
【実施例】
【0084】
4.FUT9依存的なLewis X修飾における認識部位の同定
FUT9の認識部位を同定するため、LAMP1のN-domainとC-domainの各種融合変異体を作製し(図5上)、FUT9を過剰発現させたCHO細胞で発現させた。Mutant N-CではLewis Xを発現しないが、N-domain領域を伸長させることにより(Mutant 3,4,5)、Lewis Xが発現した(図5下)。Lewis X発現に関わる領域を絞り込むため、Mutant 1,2,3を用いてLewis X発現を評価したところ、N-domain領域の短縮に伴いLewis X発現量が減少し(図5下)、N-domainに存在する22アミノ酸残基の配列IKTVESITDIRADIDKKYRCVS(配列番号1)がFUT9依存的なLewis X修飾に必要であることが明らかとなった。この22アミノ酸残基の配列をFUT9が認識し、その近傍に存在するN型糖鎖にフコース残基を転移することで、キャリアタンパク質特異的な糖鎖修飾を実現しているものと推測される。
【実施例】
【0085】
5.LAMP1由来配列を融合したsFcγRIIIaとFUT9の共発現
CHO細胞を用い、同定されたLAMP1由来認識配列(22アミノ酸残基)又はその一部を融合させたsFcγRIIIaをFUT9と共発現させた。LAMP1由来認識配列を融合すると、sFcγRIIIaにLewis X修飾が認められた(図6)。即ち、LAMP1由来認識配列を融合させると、Lewis Xの発現が認められないsFcγRIIIaに、FUT9依存的なLewis X修飾を施すことができることが明らかとなった。この結果は、LAMP1由来認識配列(22アミノ酸残基)を利用すれば目的の糖タンパク質のLewis X修飾が可能になることを示す。
【実施例】
【0086】
6.LAMP1由来認識配列を融合したEPOに対する糖鎖修飾
LAMP1由来認識配列の汎用性を検証するため、LAMP1由来認識配列を融合したエリスロポエチン(EPO)とFUT9をCHO細胞内で共発現させた(図7上)。LAMP1由来認識配列を融合した場合、本来Lewis Xの発現が認められないEPOにFUT9依存的なLewis X修飾が認めれた(図7下)。この結果は、LAMP1由来認識配列が糖鎖修飾のツールとして高い汎用性ないし一般性を有することを裏付ける。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、糖付加による糖タンパク質の糖鎖制御を可能にする。例えば医薬品として利用される糖タンパク質の特性(例えば、細胞への導入(取り込み)効率や体内動態)を改善ないし向上させることに本発明を利用することが想定される。従って、本発明には、有効性の高いバイオ医薬品の開発、糖鎖結合タンパク質のスタンダードサンプルの調製等への貢献が期待できる。また、本発明は汎用性の高い糖鎖修飾技術を提供するものであり、様々な分野(研究、医薬品開発、健康食品等)で利用され得る。
【0088】
タンパク質がゲノム情報に基づいて合成されることとは異なり、糖鎖は遺伝子産物ではないため一般的に緻密には制御を受けていないものと考えられている。一方で、ヒトゲノムの解読が完了し、タンパク質の翻訳後修飾、とりわけ糖鎖の転移をどのように制御するかということがライフサイエンスおよびその成果を応用した産業の大きな課題になっている。本発明はオーダーメイド型の人工糖タンパク質生産技術の開発の一端を担うものであると期待される。抗体医薬品等のバイオ医薬品に代表される糖タンパク質の生産技術は極めて重要であり、本発明の社会的な貢献度は極めて高い。
【0089】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【配列表フリ-テキスト】
【0090】
配列番号3:人工配列の説明:FUT9-HindIII-F
配列番号4:人工配列の説明:FUT9-XbaI-R
配列番号5:人工配列の説明:NotI-LAMP1-F
配列番号6:人工配列の説明:AscI-LAMP1- R
配列番号7:人工配列の説明:インバース用N-domain-F
配列番号8:人工配列の説明:インバース用N-domain-R
配列番号9:人工配列の説明:インバース用C-domain-F
配列番号10:人工配列の説明:インバース用C-domain-R
配列番号11:人工配列の説明:HindIII-FcγRIIIa-F
配列番号12:人工配列の説明:KpnI-FcγRIIIa-R
配列番号13:人工配列の説明:インバース用FcR-123-F
配列番号14:人工配列の説明:インバース用FcR-123-R
配列番号15:人工配列の説明:インバース用FcR-23-F
配列番号16:人工配列の説明:インバース用FcR-23-R
配列番号17:人工配列の説明:インバース用FcR-3-F
配列番号18:人工配列の説明:インバース用FcR-3-R
配列番号19:人工配列の説明:インバース用FcR-12-F
配列番号20:人工配列の説明:インバース用FcR-12-R
配列番号21:人工配列の説明:HindIII FcR-1-F
配列番号22:人工配列の説明:XbaI FcR-1-R
配列番号23:人工配列の説明:HindIII EPO-F
配列番号24:人工配列の説明:XbaI EPO-R
配列番号25:人工配列の説明:インバース用EPO-22-F
配列番号26:人工配列の説明:インバース用EPO-22-R
配列番号27:人工配列の説明:Mutant N-C
配列番号28:人工配列の説明:Mutant 1
配列番号29:人工配列の説明:Mutant 2
配列番号30:人工配列の説明:Mutant 3
配列番号31:人工配列の説明:Mutant 4
配列番号32:人工配列の説明:Mutant 5
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
6
【図8】
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【図9】
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【図10】
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