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明細書 :軌道角運動量モード擬似進行波共振器及び軌道角運動量アンテナ装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-153978 (P2019-153978A)
公開日 令和元年9月12日(2019.9.12)
発明の名称または考案の名称 軌道角運動量モード擬似進行波共振器及び軌道角運動量アンテナ装置
国際特許分類 H01P   7/08        (2006.01)
H01Q   1/36        (2006.01)
FI H01P 7/08
H01Q 1/36
請求項の数または発明の数 3
出願形態 OL
全頁数 13
出願番号 特願2018-039018 (P2018-039018)
出願日 平成30年3月5日(2018.3.5)
発明者または考案者 【氏名】上田 哲也
【氏名】山内 淳司
出願人 【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100101454、【弁理士】、【氏名又は名称】山田 卓二
【識別番号】100125874、【弁理士】、【氏名又は名称】川端 純市
審査請求 未請求
テーマコード 5J006
5J046
Fターム 5J006HB16
5J006LA01
5J006LA22
5J006NA08
5J046AA03
5J046AB11
5J046PA07
要約 【課題】動作周波数を固定したままモード次数を簡単に切り替えることができるOAMモード擬似進行波共振器及びそれを用いたOAMアンテナ装置を提供する。
【解決手段】擬似進行波共振器は、マイクロ波の伝送線路部分と、容量性素子を等価的に含む直列枝の回路と、伝送線路部分からそれぞれ分岐して設けられかつ誘導性素子を等価的に含む少なくとも1つの並列枝の回路とを有する複数N個の単位セル回路を、リング形状で縦続接続して構成され、かつ、順方向の伝搬定数と逆方向の伝搬定数とが互いに異なる非相反伝送線路装置を共振状態で動作させる。各単位セルの伝送線路部分は、マイクロ波の伝搬方向に対して異なる方向に磁化されてジャイロ異方性を有するように自発磁化を有するか又は外部磁界により磁化され、並列枝の回路は例えば、非相反伝送線路装置の内側に挿入するように接続された誘導性スタブ回路であり、OAMモードのモード次数lで動作する。
【選択図】図4A
特許請求の範囲 【請求項1】
マイクロ波の伝送線路部分と、容量性素子を等価的に含む直列枝の回路と、上記伝送線路部分からそれぞれ分岐して設けられかつ誘導性素子を等価的に含む少なくとも1つの並列枝の回路とを有する複数N個の単位セル回路を、リング形状で縦続接続して構成され、かつ、順方向の伝搬定数と逆方向の伝搬定数とが互いに異なる非相反伝送線路装置を共振状態で動作させた擬似進行波共振器であって、
上記各単位セルの伝送線路部分は、上記マイクロ波の伝搬方向に対して異なる方向に磁化されてジャイロ異方性を有するように自発磁化を有するか又は外部磁界により磁化され、
上記並列枝の回路は、
(1)上記リング形状の非相反伝送線路装置の内側または外側に挿入するように接続された誘導性スタブ回路、
(2)上記リング形状の非相反伝送線路装置の外側または内側に挿入するように接続された容量性スタブ回路、もしくは
(3)上記誘導性スタブ回路と上記容量性スタブ回路の組み合わせの回路であり、
上記リング形状の非相反伝送線路装置は
上記非相反伝送線路装置の非相反性をΔβとし、
上記非相反伝送線路装置の周期をpとし、
lを所定の整数としたときに、次式の条件を満たすことで、
【数1】
JP2019153978A_000005t.gif
軌道角運動量モードのモード次数lで動作することを特徴とする軌道角運動量モード擬似進行波共振器。
【請求項2】
上記並列枝の回路は、
(1)上記リング形状の非相反伝送線路装置の内側に挿入するように接続された誘導性スタブ回路、もしくは
(2)上記リング形状の非相反伝送線路装置の外側に挿入するように接続された容量性スタブ回路、
であることを特徴とする請求項1記載の軌道角運動量モード擬似進行波共振器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の擬似進行波共振器と、
上記擬似進行波共振器にマイクロ波を入力する給電線路とを備えたことを特徴とする軌道角運動量アンテナ装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、軌道角運動量(Orbital Angular Momentum)モード擬似進行波共振器及びそれを用いた軌道角運動量(Orbital Angular Momentum)アンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、高速大容量通信システムを可能とする直交マルチモードによる多重チャネル伝送実現のために、物理学、光学、無線通信の分野で軌道角運動量(以下、「OAM」という)を用いた電磁波伝搬が研究されている。一般に、全角運動量Jは2つの要素に分類することができ、電子物性においては、原子核の周りを公転する電子の軌道角運動量(OAM)lと、電子固有の性質であるスピンのアップ/ダウンの2通りの値に対応するスピン角運動量(SAM)sとに区別される。この電子系の振る舞いは、電磁波伝搬の振る舞い(光学系)に対応付けることができ、光学系の場合、OAMは光の軌跡が螺旋を描く光渦に対応し、一方SAMは左/右円偏波を指す。
【0003】
図1A及び図1Bは伝搬するOAMモードの横方向面内における電磁界の位相分布の例であって(例えば、非特許文献1参照)、ここで、図1AはOAMのモード次数l=+1のときの位相分布の写真画像であり、図1BはOAMのモード次数l=+2のときの位相分布の写真画像である。また、図2は伝搬するOAMモードの横方向面内における電磁界の例であって、OAMのモード次数l=+2のときの模式状態図である。
【0004】
例えば非特許文献2に開示された従来例に係るOAMモード信号伝送システムにおいては、各OAMモードに対応するアンテナをそれぞれ設計、配置する必要があり、多重化チャンネル数に応じて使用するOAMモードの数が決まる。従って、チャネル毎に送受信アンテナが異なることから、チャネル数の増加に伴ってアンテナ数も比例して増加する。複数の直交したOAMモードが同時に送受信できれば大容量通信システムの実現が可能となる。
【0005】
これまでに様々なOAMモードの生成装置及び方法、並びに応用装置が提案されており、このうちいくつかの従来例を以下に示す。
【0006】
特許文献1にはOAMモードを実現するレンズアンテナが提案され、特許文献2には複数のOAM伝搬モードを有する無線信号を用いて多重化する送受信システムが提案され、特許文献3にはOAMを利用して電磁波の多重及び分離を行うアンテナ装置が提案されている。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2017-228856号公報
【特許文献2】特開2017-130791号公報
【特許文献3】特開2015-027042号公報
【0008】

【非特許文献1】S. M. Mohammadi et al., "Orbital angular momentum in radio -A system study," IEEE Transactions on Antennas Propagation., Vol. 58, No. 2, pp. 565-572, February 2010.
【非特許文献2】Weite Zhang et al., "Multi-OAM-mode microwave communication with the partial arc sampling receiving scheme", IEEE International Microwave Symposium, 2016, pp. 1-3.
【非特許文献3】Q. Bai, et al., "Experimental circular phased array for generating OAM radio beams," Electron Letters, 2014, pp. 1414-1415.
【非特許文献4】L. Marrucci et al. "Spin-to-orbital conversion of the angular momentum of light and its classical and quantum applications," Journal of Optics, Vol. 13, No. 6, pp. 1-13, April 2011.
【非特許文献5】Y. Pan et al., "Generation of orbital angular momentum radio waves based on dielectric resonator antenna,"’ IEEE Antennas Wireless Propagation Letters, Vol. 16, pp. 385-388, June 2016.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
例えば非特許文献3に開示されたフェイズドアレーアンテナでは、OAMモードのモード次数の切り替えの際には、各アンテナへの給電線に対して初期位相を高精度で最適に与える必要があり、アンテナ数の増加に伴い位相切替制御が複雑となるという問題点があった。
【0010】
図3は従来例に係るOAMモードを生成する構成法(例えば、非特許文献4参照)を示す図であって、位相板を透過させることによるOAMモード変換方法の例を示す模式斜視図である。図3のOAMモードの生成法では、シングルモードのOAMモードの入力に対して位相板を適用することによりモード次数を変換している。しかしながら、従来の位相板を用いたモード変換では、位相板によりモード次数が決まっていたため、複数の高次モード生成のためには、モード数に応じて位相板を準備する必要があるという問題点があった。
【0011】
例えば非特許文献5に開示された従来例に係るOAMモードを生成する構成法では、リング共振器のウィスパリング・ギャラリーモード(WGM)を利用したOAMモード生成装置が開示されている。ここで、ウィスパリング・ギャラリーモード(WGM)とは、リング共振器内の周回方向に生成される定在波による共振モードのことであり、リングサイズにより、共振周波数が決まる。給電線を2本に増やし、位相差を適切に与えることにより、右回りあるいは左回りなど旋回方向を切り替えることができるが、モード次数の大きさを変えることはできなかった。
【0012】
本発明の目的は以上の問題点を解決し、従来技術に比較して簡単な構成を有し、動作周波数を固定したままモード次数を簡単に切り替えることができるOAMモード擬似進行波共振器及びそれを用いたOAMアンテナ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の発明にかかるOAMモード擬似進行波共振器は、
マイクロ波の伝送線路部分と、容量性素子を等価的に含む直列枝の回路と、上記伝送線路部分からそれぞれ分岐して設けられかつ誘導性素子を等価的に含む少なくとも1つの並列枝の回路とを有する複数N個の単位セル回路を、リング形状で縦続接続して構成され、かつ、順方向の伝搬定数と逆方向の伝搬定数とが互いに異なる非相反伝送線路装置を共振状態で動作させた擬似進行波共振器であって、
上記各単位セルの伝送線路部分は、上記マイクロ波の伝搬方向に対して異なる方向に磁化されてジャイロ異方性を有するように自発磁化を有するか又は外部磁界により磁化され、
上記並列枝の回路は、
(1)上記リング形状の非相反伝送線路装置の内側または外側に挿入するように接続された誘導性スタブ回路、
(2)上記リング形状の非相反伝送線路装置の外側または内側に挿入するように接続された容量性スタブ回路、もしくは
(3)上記誘導性スタブ回路と上記容量性スタブ回路の組み合わせの回路であり、
上記リング形状の非相反伝送線路装置は
上記非相反伝送線路装置の非相反性をΔβとし、
上記非相反伝送線路装置の周期をpとし、
lを所定の整数としたときに、次式の条件を満たすことで、
【数1】
JP2019153978A_000003t.gif
OAMモードのモード次数lで動作することを特徴とする。
【0014】
上記OAMモード擬似進行波共振器において、
上記並列枝の回路は、
(1)上記リング形状の非相反伝送線路装置の内側に挿入するように接続された誘導性スタブ回路、もしくは
(2)上記リング形状の非相反伝送線路装置の外側に挿入するように接続された容量性スタブ回路、
である。
【0015】
第2の発明にかかるOAMアンテナ装置は、
上記擬似進行波共振器と、
上記擬似進行波共振器にマイクロ波を入力する給電線路とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
従って、本発明に係るOAMモード擬似進行波共振器及びそれを用いたOAMアンテナ装置によれば、従来技術に比較して簡単な構成を有し、動作周波数を固定したままモード次数を簡単に切り替えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1A】伝搬するOAMモードの横方向面内における電磁界の位相分布の例であって、OAMのモード次数L=+1のときの位相分布の写真画像である。
【図1B】伝搬するOAMモードの横方向面内における電磁界の位相分布の例であって、OAMのモード次数L=+2のときの位相分布の写真画像である。
【図2】伝搬するOAMモードの横方向面内における電磁界の例であって、OAMのモード次数L=+2のときの模式状態図である。
【図3】従来例に係るOAMモードを生成する構成法を示す図であって、位相板を透過させることによるOAMモード変換方法の例を示す模式斜視図である。
【図4A】本発明の一実施形態に係る、非相反メタマテリアルから構成される擬似進行波リング共振器を用いたOAMアンテナ装置の構成例を示す上面図である。
【図4B】図4AのA-A’線についての縦断面図である。
【図5A】相反CRLH線路の単位セル回路20Pの等価回路を示す回路図である。
【図5B】図4AのOAMアンテナ装置で用いる非相反CRLH線路の単位セル回路20の等価回路を示す回路図である。
【図6】本発明の変形例に係る、非相反メタマテリアルから構成される擬似進行波リング共振器を用いたOAMアンテナ装置の構成例を示す上面図である。
【図7A】フェライト半円リングで構成された非相反CRLH伝送線路においてモード次数l=±1のときの分散曲線を示すグラフである。
【図7B】フェライト半円リングで構成された非相反CRLH伝送線路においてモード次数l=±2のときの分散曲線を示すグラフである。
【図8】図4AのOAMアンテナ装置のシミュレーション結果であって、モード次数l=±1のときの位相分布を示す写真画像である。
【図9】図4AのOAMアンテナ装置のシミュレーション結果であって、モード次数l=±2のときの位相分布を示す写真画像である。
【図10】図4AのOAMアンテナ装置の試作物の写真画像である。
【図11】図4AのOAMアンテナ装置の実験結果であって、モード次数l=±1のときの位相分布を示す写真画像である。
【図12】図4AのOAMアンテナ装置の実験結果であって、モード次数l=±2のときの位相分布を示す写真画像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態において、同一又は同様の構成要素については同一の符号を付している。

【0019】
本発明の実施形態では、OAMモードを放射し、同一周波数でモード次数の切り替えを可能とする新しい構成法を用い、非相反メタマテリアルから構成される擬似進行波リング共振器を用いて構成されたOAMアンテナ装置を以下に提案する。

【0020】
図4Aは本発明の一実施形態に係る、非相反メタマテリアルから構成される擬似進行波リング共振器を用いたOAMアンテナ装置の構成例を示す上面図であり、図4Bは図4AのA-A’線についての縦断面図である。

【0021】
図4A及び図4Bにおいて、リング共振器は、非相反右手/左手系複合(CRLH)伝送線路で構成されており、幅w、外径R、厚さ0.8mmのフェライトリング16が、軸方向に磁化され、誘電体基板10の一部として接地導体11上に直接に置かれている。接地導体11上でフェライトリング16と同一面内において、フェライトリング16の内側及び外側には、フェライトリング16と同じ厚さの誘電体基板10が置かれている。フェライトリング16の上面には伝送線路31用ストリップ導体12が形成され、下面の接地導体11と併せてリング形状のマイクロストリップ線路である伝送線路31が構成されている。さらに、伝送線路31に対して、直列枝にキャパシタCp、並列枝に誘導性スタブ回路32をそれぞれ周期pで周期的に挿入することにより、それぞれ負の実効誘電率及び負の透磁率を実現している。非相反CRLH線路からなるリング構造では、伝送線路31の曲率と誘導性スタブ回路32の非対称な挿入との組み合わせを用いて構造の非対称を増強するために、誘導性スタブ回路32はストリップ導体12に接続されたストリップ導体13と、ストリップ導体13に接続されて接地導体11に接地されるビア導体14とを備えて構成された誘導性短絡スタブ回路であって、リング形状の伝送線路31の内側に挿入される。その結果、非相反性が伝送線路31の曲率により増強され、リング共振器の小型化が図られている。

【0022】
なお、図4A及び図4Bの構造では、実施されていないが、非相反性を増強する別の手段としては、容量性スタブ回路33を図6に示すようにリング形状の伝送線路31の外側に挿入してもよいし、もしくは、誘導性スタブ回路32と容量性スタブ回路33との組み合わせで構成してもよい。図4A及び図4Bの擬似進行波共振器の場合、マイクロ波信号をポートP11を介して入力する給電線路35は、裏面に接地導体11を有する誘電体基板10上に形成されたストリップ導体15と、当該接地導体11とからなるマイクロ波線路で構成し、当該給電線路35はキャパシタCpを介してリング共振器に接続され、当該擬似進行波共振器は並列共振で動作する。なお、図4Bに示すように、フェライトリング16とともに、フェライトリング16に代えて、外部磁界Hを軸方向に発生する電磁石50(又は磁石などの磁界発生器)を設けてもよい。

【0023】
図5Aは相反CRLH線路の単位セル回路20Pの等価回路を示す回路図であり、図5Bは図4AのOAMアンテナ装置で用いる非相反CRLH線路の単位セル回路20の等価回路を示す回路図である。

【0024】
図4A及び図4Bのフェライトリング16に外部磁界Hを印加せず、磁化をもたない場合の単位セル回路20Pの等価回路は図5Aに示すようになる。図5Aにおいて、単位セル回路20Pは、端子T1,T2からなるポートP1と、端子T3,T4からなるポートP12との間の周期pの伝送回路において、
(1)キャパシタンスCと、インダクタンスLとの直列回路からなる直列枝のインピーダンスZseと、
(2)キャパシタンスCと、インダクタンスLとの直列回路からなる並列枝のアドミタンスYshとを備えて構成される。

【0025】
ここで、単位セル回路20Pの直列共振周波数及び並列共振周波数はそれぞれ直列枝のインピーダンスZse及び並列枝のアドミタンスYshで決定される。直列に挿入されたキャパシタンスCと並列に挿入されたインダクタンスLがそれぞれ負の透磁率と負の誘電率を実現している。

【0026】
図5Bは非相反CRLH伝送線路の単位セル回路20の等価回路を示しており、図5Aの相反CRLH回路の単位セル回路20Pと異なり、電磁波の伝搬方向により位相定数が変化するような伝送線路を考えている。本実施形態にかかる擬似進行波共振器を構成する非相反CRLH線路においては、非相反性の発現は、並列枝の誘導性スタブ回路32のアドミタンスYの非対称な挿入による。負の誘電率を実現する誘導性スタブ回路32だけでなく、容量性スタブ回路33(図6)の非対称な挿入においても非相反性を発現することができる。

【0027】
この非相反メタマテリアルによる擬似進行波リング共振器が共振条件を満たすためには、マイクロ波などの電磁波がリング形状の伝送線路31を一周したときの位相差が2πl(l=±1,±2,…)となる必要がある。非相反CRLH伝送線路内の位相勾配は、非相反移相特性Δβに依存しているので、次式の条件を満たせばよい。

【0028】
【数2】
JP2019153978A_000004t.gif

【0029】
ただし、Δβは共振器を構成するCRLH線路の非相反性であり、時計回りおよび反時計回り方向の位相定数βおよびβの差(β-β)/2であり、図5Bの等価回路モデルを用いて、Δβ=(β-β)/2と表される。pはCRLH線路の単位セルの長さ(以下、周期という)、Nはリング共振器に含まれるCRLH線路の単位セル回路20の数、lは任意の整数を表し、実際にはOAMモードの次数に対応する。

【0030】
図4A及び図4Bのリング構造の場合、セル数はN=20としている。このとき、l=±1となるためには、共振器を構成する非相反CRLH線路がΔβp/π=±0.1の関係を満たせばよく、l=±2とするためには、Δβp/π=±0.2の関係を満たせばよい。非相反CRLH線路において、非相反性Δβは、外部印加直流磁界Hを適切に選ぶことにより、値を所望の値に変更することができるので、構造の寸法を変更することなく、同一周波数に固定したまま、線路内の位相勾配を切り替えることができる。

【0031】
従って、リング共振器の構造パラメータとして周期p、セル数Nの値が与えられる場合、外部印加直流磁界Hを適切に切り替えることにより、非相反性Δβを所望の値に変えることができ、条件式を満たす様々な整数値lに対して、共振条件式が満足する。その結果、モード次数lに対応した様々なOAMモード放射を実現することが可能となる。モード次数lの取り得る数が大きいほど、取り扱い可能なOAMモード次数を増やすことができる。モード次数lの大きさを増やすためには、共振の条件式から分かるように、セル数Nを増やしてアンテナサイズを大きくするか、アンテナサイズが固定される場合には、非相反性Δβを大きくする必要がある。従って、本実施形態にかかる擬似進行波共振器の場合、伝送線路31のリングサイズと、伝送線路31の非相反性が、取り扱い可能なOAMモード次数の最大値を決めることとなる。

【0032】
図6は本発明の変形例に係る、非相反メタマテリアルから構成される擬似進行波リング共振器を用いたOAMアンテナ装置の構成例を示す上面図である。

【0033】
OAMモードの次数の切り替えは後述する数値シミュレーションにおいては実効磁化を、後述する実験においては外部印加直流磁界Hを変化させることで行っている。しかし、OAMモードの正負切り替えは誘導性スタブの挿入方向の切り替え、あるいは電磁石50の供給電流の向きを変えることで(もしくは永久磁石の向きを変えることで)、外部印加直流磁界Hの方向の切り替えにより行うことができる。本実施形態の構造では、線路曲率と誘導性スタブ回路32の非対称な挿入の組み合わせで、非相反性が増強するように、リング形状の伝送線路31の内側に挿入している。しかし、容量性スタブ回路33を、リング形状の伝送線路31の外側に挿入した場合でもOAMモードを生成することができる。

【0034】
さらに、2本以上のスタブ回路32,33を挿入した場合でも、線路の一周での位相差が2πlとなるように非相反性が共振条件を満足していれば、誘導性スタブ回路32及び容量性スタブ回路33の挿入の組み合わせに特に制限はない。また、非相反性は低減してしまうが、スタブの挿入に関しては、誘導性スタブをリング外側に挿入しても、容量性スタブを内側に挿入してもOAMモード放射の動作を行うことが可能である。このとき伝送線路31のリングサイズを大きくすることにより、モード次数を増やす必要がある。

【0035】
なお、以上の実施形態において、誘導性スタブ回路は非相反CRLH線路からなるリングの内側に挿入しているが、外側に挿入してもよい。また、容量性スタブ回路は非相反CRLH線路からなるリングの外側に挿入しているが、内側に挿入してもよい。
【実施例】
【0036】
非相反CRLHリング共振器からOAMモードが放射することを確かめるために、有限要素法に基づく市販の電磁界シミュレーターHFSS(バージョン16)によって、共振器を構成する非相反線路の伝送特性及び共振器近傍の電磁界分布を数値計算した。電磁界シミュレーションで用いた構造パラメータは、以下の通りである。
(1)フェライトリング16の外径R=13mm、
(2)伝送線路31の線路幅w=4mm、周期p=3.56mm、
(3)フェライトリング16の厚さ及び誘電体基板10の厚さt=0.85mm,
(4)直列キャパシタCp=0.6pF、
(5)並列枝の誘導性スタブ回路32の長さls=0.45mm及び幅ws=1.5mm
(6)入力キャパシタCin=0.6pF。
【実施例】
【0037】
なお、共振器特性を調べる前に、曲率を持つ非相反CRLH線路の伝送特性を調べるために、フェライト半円リングで構成された非相反CRLH伝送線路のSパラメータを数値計算及び測定において求めた。
【実施例】
【0038】
図7Aはフェライト半円リングで構成された非相反CRLH伝送線路においてモード次数l=±1のときの分散曲線を示すグラフである。また、図7Bはフェライト半円リングで構成された非相反CRLH伝送線路においてモード次数l=±2のときの分散曲線を示すグラフである。なお、構造パラメータは、後のリング共振器の場合と同一の値を用いている。図7A及び図7Bにおいて、点線が数値シミュレーション値を示し、実線が実験結果の測定値を示す。
【実施例】
【0039】
まず、数値シミュレーションにおいて、モード次数l=±1,±2の4通りの場合に対応する実効磁化μefを調べた。共振動作条件としては、既に述べたように、N=20セルの擬似進行波共振器を構成する非相反CRLH線路の順方向伝搬と逆方向伝搬との位相定数が一致する動作点、つまり2つの分散曲線が交差する周波数における位相定数がモード次数l=±1の場合、正規化位相定数Δβp/π=±0.1を満たし、モード次数l=±2の場合、正規化位相定数Δβp/π=±0.2を満足すればよい。数値計算の結果、
(1)モード次数l=+1の場合、実効磁化μef=+90mT、
(2)モード次数l=-1の場合、実効磁化μef=-90mT、
(3)モード次数l=+2の場合、実効磁化μef=+178mT、
(4)モード次数l=-2の場合、実効磁化μef=-178mT
であった。
【実施例】
【0040】
実験の場合においても同様にして、モード次数l=±1,±2の4通りの場合に対応する外部印加直流磁界μ0Hexを調べた。その結果、図7A及び図7Bにおいて、
(1)モード次数l=+1の場合、外部印加直流磁界μ0Hex=+87mT、
(2)モード次数l=-1の場合、外部印加直流磁界μ0Hex=-74mT、
(3)モード次数l=+2の場合、外部印加直流磁界μ0Hex=+181mT、
(4)モード次数l=-2の場合、外部印加直流磁界μ0Hex=-171mT
であった。
【実施例】
【0041】
図7A及び図7Bにおいて分散曲線の非相反性Δβに注意すると、図7Aでは動作点となる2本の分散曲線の交点でΔβp/πの値が約0.1になっていることがわかる。同様に図7Bでは、非相反性Δβの大きさがおよそ0.2になっていることがわかる。前述したように、リング形状の伝送線路31の一周での位相差が2πlとするためには、
(1)モード次数l=±1の場合にはΔβp/π=±0.1の関係を満たし、
(2)モード次数l=±2の場合にはΔβp/π=±0.2の関係を満たせばよい。
従って、構造を変えることなく外部印加直流磁界N0の磁界方向を切り替えることでOAMモードの切り替えが実現可能となる。
【実施例】
【0042】
図8は図4AのOAMアンテナ装置のシミュレーション結果であって、モード次数l=±1のときの位相分布を示す写真画像である。また、図9は図4AのOAMアンテナ装置のシミュレーション結果であって、モード次数l=±2のときの位相分布を示す写真画像である。すなわち、図8及び図9は設計した擬似進行波共振器の近傍電磁界の位相分布の数値計算例を示す。
【実施例】
【0043】
図8及び図9の位相分布を測定する面は共振器から自由空間波長λだけ離れた位置として、z=50mmの面を選択し、位相分布を抽出している。観測領域の大きさはxy面に平行で200mm×200mmのサイズとし、およそ4λ×4λの大きさに相当する。擬似進行波共振器において、4つのOAMモードのモード次数l=±1,±2に対応する実効磁化実効磁化μefとして、それぞれ前述の伝送線路31の場合と同じ値に設定し、放射電磁界分布を調べている。OAMモードにおいて、
(1)モード次数l=+1の場合、実効磁化μef=+90mTとし、
(2)モード次数l=-1の場合、実効磁化μef=-90mTとし、
(3)モード次数l=+2の場合、実効磁化μef=+178mTとし、
(4)モード次数l=-2の場合、実効磁化μef=-178mTとして、
共振時における近傍電磁界分布を調べた。
【実施例】
【0044】
図8はモード次数l=±1、図9はモード次数l=+2の場合の電磁界の位相分布を示す。なお、それぞれ動作周波数は6.05GHzと7.05GHzであった。今回設計した非相反CRLHリング共振器においては、外部印加直流磁界Hの変化に伴い、共振器を構成するCRLH線路の特性が大幅に変化し、分散曲線の交点である動作周波数が変動してしまったことが原因である。この動作周波数の変動は、アンテナ装置のリングサイズを大きくし、伝送線路31の非相反性を小さくすることにより大幅に低減できる。
【実施例】
【0045】
図8及び図9の結果から、擬似進行波リング共振器からの放射電磁波は、モード次数l=±1及びl=±2のOAMモードに相当していることが数値シミュレーションにより確認された。
【実施例】
【0046】
本発明者らは、OAMモード放射と、印加直流磁界を変化させることによりモード切替が可能であることを実験的に確認するために、設計した擬似進行波リング共振器を試作し、近傍電磁界分布測定を行った。
【実施例】
【0047】
図10は図4AのOAMアンテナ装置の試作物の写真画像である。また、図11は図4AのOAMアンテナ装置の実験結果であって、モード次数l=±1のときの位相分布を示す写真画像である。さらに、図12は図4AのOAMアンテナ装置の実験結果であって、モード次数l=±2のときの位相分布を示す写真画像である。
【実施例】
【0048】
OAMアンテナ装置の試作物(以下、試作アンテナ装置という)の構造パラメータは数値シミュレーションで用いた値と同じものを用いている。試作アンテナ装置に含まれるフェライトリング16としては、YIG多結晶からなる2つの半円リング形状のフェライト材料で構成されており、また、誘電体基板10はフッ素樹脂多層基板で構成されている。リング共振器の近傍電磁界分布は電気的に小さなループアンテナで受信して測定した。
【実施例】
【0049】
図11及び図12から明らかなように、図8及び図9の数値シミュレーション結果と同様に、モード次数l=±1及びl=±2のOAMモード放射が得られていることがわかる。なお、動作周波数はそれぞれ6.05GHzと7.05GHzである。以上のことから、外部印加直流磁界を適切に選ぶことにより、擬似進行波リング共振器から生じるOAM放射のモード次数を切換できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上詳述したように、本発明によれば、従来技術に比較して簡単な構成を有し、動作周波数を固定したままモード次数を簡単に切り替えることができるOAMアンテナ装置を提供できる。
【符号の説明】
【0051】
10…誘電体基板、
11,12,13,15…ストリップ導体、
14…ビア導体、
16…フェライトリング、
20…単位セル回路、
31…伝送線路、
32,33…スタブ回路、
35…給電線路、
50…電磁石、
Cp,Cin…キャパシタ、
P1,P2,P11…ポート。
図面
【図1A】
0
【図1B】
1
【図2】
2
【図3】
3
【図4A】
4
【図4B】
5
【図5A】
6
【図5B】
7
【図6】
8
【図7A】
9
【図7B】
10
【図8】
11
【図9】
12
【図10】
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【図11】
14
【図12】
15