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明細書 :薬物放出制御用ハイドロゲル及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 令和元年10月10日(2019.10.10)
発明の名称または考案の名称 薬物放出制御用ハイドロゲル及びその製造方法
国際特許分類 A61K  47/42        (2017.01)
A61K   9/06        (2006.01)
A61K  45/06        (2006.01)
C07K  14/00        (2006.01)
FI A61K 47/42
A61K 9/06
A61K 45/06
C07K 14/00 ZNA
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 24
出願番号 特願2018-550291 (P2018-550291)
国際出願番号 PCT/JP2017/040648
国際公開番号 WO2018/088541
国際出願日 平成29年11月10日(2017.11.10)
国際公開日 平成30年5月17日(2018.5.17)
優先権出願番号 2016221045
優先日 平成28年11月11日(2016.11.11)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DJ , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JO , JP , KE , KG , KH , KN , KP , KR , KW , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT
発明者または考案者 【氏名】松村 和明
【氏名】パテル,モニカ
出願人 【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000523、【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
【識別番号】100127133、【弁理士】、【氏名又は名称】小板橋 浩之
審査請求 未請求
テーマコード 4C076
4C084
4H045
Fターム 4C076AA09
4C076AA94
4C076AA95
4C076EE41A
4C076EE47A
4C076EE49A
4C076FF35
4C076FF68
4C084AA20
4C084AA27
4C084MA05
4C084MA28
4C084NA10
4C084NA12
4C084NA13
4H045AA10
4H045AA30
4H045EA20
4H045FA30
4H045FA52
4H045GA01
4H045GA05
要約 カチオン性ブロックポリペプチドのミセル及びアニオン性ブロックポリペプチドのミセルが含まれ、カチオン性ブロックポリペプチドのミセル又はアニオン性ブロックポリペプチドのミセルが、架橋剤によって架橋されてなる、ハイドロゲルであって、カチオン性ブロックポリペプチドが、カチオン性アミノ酸側鎖のブロックと疎水性アミノ酸側鎖のブロックとを含む、両親媒性のカチオン性ブロックポリペプチドであり、アニオン性ブロックポリペプチドが、アニオン性アミノ酸側鎖のブロックと疎水性アミノ酸側鎖のブロックとを含む、両親媒性のアニオン性ブロックポリペプチドである、ハイドロゲルによって、2種以上の薬物を担持して独立して放出制御できる、薬物放出手段を提供する。
特許請求の範囲 【請求項1】
カチオン性ブロックポリペプチドのミセル及びアニオン性ブロックポリペプチドのミセルが含まれ、
カチオン性ブロックポリペプチドのミセル又はアニオン性ブロックポリペプチドのミセルが、架橋剤によって架橋されてなる、ハイドロゲルであって、
カチオン性ブロックポリペプチドが、カチオン性アミノ酸側鎖のブロックと疎水性アミノ酸側鎖のブロックとを含む、両親媒性のカチオン性ブロックポリペプチドであり、
アニオン性ブロックポリペプチドが、アニオン性アミノ酸側鎖のブロックと疎水性アミノ酸側鎖のブロックとを含む、両親媒性のアニオン性ブロックポリペプチドである、ハイドロゲル。
【請求項2】
カチオン性ブロックポリペプチドのミセルが、アミノ基-アミノ基間架橋剤によって架橋され、
アニオン性ブロックポリペプチドのミセルが、ハイドロゲル中に分散して含まれる、請求項1に記載のハイドロゲル。
【請求項3】
カチオン性アミノ酸側鎖のアミノ酸が、リジン、アルギニン、ヒスチジン、オルニチンからなる群から選択された1種以上のアミノ酸である、請求項1~2のいずれかに記載のハイドロゲル。
【請求項4】
アニオン性アミノ酸側鎖のアミノ酸が、グルタミン酸、アスパラギン酸からなる群から選択された1種以上のアミノ酸である、請求項1~3のいずれかに記載のハイドロゲル。
【請求項5】
疎水性アミノ酸側鎖のアミノ酸が、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシンからなる群から選択された1種以上のアミノ酸である、請求項1~4のいずれかに記載のハイドロゲル。
【請求項6】
アミノ基-アミノ基間架橋剤が、ゲニピン、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩からなる群から選択された1種以上の架橋剤である、請求項2~5のいずれかに記載のハイドロゲル。
【請求項7】
カチオン性ブロックポリペプチドの分子中において、
カチオン性アミノ酸側鎖の平均個数が、20~1000個の範囲にあり、
疎水性アミノ酸側鎖の平均個数が、0.1~20個の範囲にある、請求項1~6のいずれかに記載のハイドロゲル。
【請求項8】
アニオン性ブロックポリペプチドの分子中において、
アニオン性アミノ酸側鎖の平均個数が、20~1000個の範囲にあり、
疎水性アミノ酸側鎖の平均個数が、0.1~20個の範囲にある、請求項1~7のいずれかに記載のハイドロゲル。
【請求項9】
カチオン性ブロックポリペプチドの分子中において、
[疎水性アミノ酸側鎖の平均個数/カチオン性アミノ酸側鎖の平均個数]の比の値が、
0.5/200~50/200の範囲にある、請求項1~8のいずれかに記載のハイドロゲル。
【請求項10】
アニオン性ブロックポリペプチドの分子中において、
[疎水性アミノ酸側鎖の平均個数/アニオン性アミノ酸側鎖の平均個数]の比の値が、
0.5/100~50/100の範囲にある、請求項1~9のいずれかに記載のハイドロゲル。
【請求項11】
ハイドロゲル中において、
[カチオン性ブロックポリペプチドの重量/アニオン性ブロックポリペプチドの重量]の比の値が、0.001/2~1.5/2の範囲、又は2/1.2~2/0.001の範囲にある、請求項1~10のいずれかに記載のハイドロゲル。
【請求項12】
カチオン性ブロックポリペプチドのミセル中に、疎水性薬物1が含まれ、
アニオン性ブロックポリペプチドのミセル中に、疎水性薬物2が含まれ、
疎水性薬物1が、疎水性薬物2とは異なる薬物である、請求項1~11のいずれかに記載のハイドロゲル。
【請求項13】
疎水性薬物1に求められる薬物放出期間と、疎水性薬物2に求められる薬物放出期間とが異なる、請求項12に記載のハイドロゲル。
【請求項14】
請求項1~13のいずれかに記載のハイドロゲルからなる、薬物放出制御剤。
【請求項15】
請求項1~13のいずれかに記載のハイドロゲルを含んでなる、放出制御薬物製剤。
【請求項16】
カチオン性ブロックポリペプチドのミセル及びアニオン性ブロックポリペプチドのミセルが分散された分散液中で、カチオン性ブロックポリペプチドのミセル又はアニオン性ブロックポリペプチドのミセルを、架橋剤によって架橋して、ハイドロゲルを形成する工程、
を含む、ハイドロゲルの製造方法であって、
カチオン性ブロックポリペプチドが、カチオン性アミノ酸側鎖のブロックと疎水性アミノ酸側鎖のブロックとを含む、両親媒性のカチオン性ブロックポリペプチドであり、
アニオン性ブロックポリペプチドが、アニオン性アミノ酸側鎖のブロックと疎水性アミノ酸側鎖のブロックとを含む、両親媒性のアニオン性ブロックポリペプチドである、方法。
【請求項17】
カチオン性ブロックポリペプチドのミセル及びアニオン性ブロックポリペプチドのミセルが分散された分散液中で、カチオン性ブロックポリペプチドのミセル又はアニオン性ブロックポリペプチドのミセルを、架橋剤によって架橋して、ハイドロゲルを形成する工程が、
カチオン性ブロックポリペプチドのミセル及びアニオン性ブロックポリペプチドのミセルが分散された分散液中へ、アミノ基-アミノ基間架橋剤を添加することによって、カチオン性ブロックポリペプチドのミセルを、架橋して、ハイドロゲルを形成する工程であり、
形成されたハイドロゲルは、アニオン性ブロックポリペプチドのミセルがハイドロゲル中に分散して含まれたハイドロゲルである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
カチオン性ブロックポリペプチドのミセル中に、疎水性薬物1が含まれ、
アニオン性ブロックポリペプチドのミセル中に、疎水性薬物2が含まれ、
疎水性薬物1が、疎水性薬物2とは異なる薬物である、請求項16~17のいずれかに記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、二種類の薬物の放出制御に使用可能なハイドロゲル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薬剤の放出制御系(DDS)として、異なる2種以上の薬物を担持させて、異なる放出プロファイルで放出制御できる単独のDDS材料があれば、有用である。例えば、熱傷の治療剤として、初期に抗生物質を放出し、長期にわたって抗炎症剤や創傷治癒剤を徐放し続ける治療剤があれば、理想的である。このようなDDS(デュアルドラッグデリバリーシステム)を目指して、開発が行われている。
【0003】
非特許文献1は、デュアルドラッグデリバリーシステムとして、ミセル内に疎水性薬物を、ハイドロゲル内に親水性薬物を担持して、これらを組み合わせて、2種類の薬物の徐放性を独立に制御したとしている。しかし、非特許文献1の初期に放出される薬物では、バースト的な放出を示してしまっており、すなわち初期数時間で数十%の薬物が放出されてしまっている。このように、2種類の薬物の独立した徐放性制御は、非特許文献1の技術によっても困難である。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】Dual-drug delivery system based on hydrogel/micelle composites, Wei L, Cai C, Lin J, Chen T. Biomaterials, 2009, 30, 2606-2613.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は、2種以上の薬物を担持して独立して放出制御できる、薬物放出手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、薬物放出の手段について、鋭意研究を行ってきたところ、カチオン性ブロックポリペプチドのミセルとアニオン性ブロックポリペプチドのミセルを、それぞれ異なる薬剤をミセル中に含ませて、分散させて、この一方のミセルを架橋して作成したハイドロゲルによって、上記目的を達成できることを見いだして、本発明に到達した。
【0007】
したがって、本発明は次の(1)以下を含む。
(1)
カチオン性ブロックポリペプチドのミセル及びアニオン性ブロックポリペプチドのミセルが含まれ、
カチオン性ブロックポリペプチドのミセル又はアニオン性ブロックポリペプチドのミセルが、架橋剤によって架橋されてなる、ハイドロゲルであって、
カチオン性ブロックポリペプチドが、カチオン性アミノ酸側鎖のブロックと疎水性アミノ酸側鎖のブロックとを含む、両親媒性のカチオン性ブロックポリペプチドであり、
アニオン性ブロックポリペプチドが、アニオン性アミノ酸側鎖のブロックと疎水性アミノ酸側鎖のブロックとを含む、両親媒性のアニオン性ブロックポリペプチドである、ハイドロゲル。
(2)
カチオン性ブロックポリペプチドのミセルが、アミノ基-アミノ基間架橋剤によって架橋され、
アニオン性ブロックポリペプチドのミセルが、ハイドロゲル中に分散して含まれる、(1)に記載のハイドロゲル。
(3)
カチオン性アミノ酸側鎖のアミノ酸が、リジン、アルギニン、ヒスチジン、オルニチンからなる群から選択された1種以上のアミノ酸である、(1)~(2)のいずれかに記載のハイドロゲル。
(4)
アニオン性アミノ酸側鎖のアミノ酸が、グルタミン酸、アスパラギン酸からなる群から選択された1種以上のアミノ酸である、(1)~(3)のいずれかに記載のハイドロゲル。
(5)
疎水性アミノ酸側鎖のアミノ酸が、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシンからなる群から選択された1種以上のアミノ酸である、(1)~(4)のいずれかに記載のハイドロゲル。
(6)
アミノ基-アミノ基間架橋剤が、ゲニピン、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩からなる群から選択された1種以上の架橋剤である、(2)~(5)のいずれかに記載のハイドロゲル。
(7)
カチオン性ブロックポリペプチドの分子中において、
カチオン性アミノ酸側鎖の平均個数が、20~1000個の範囲にあり、
疎水性アミノ酸側鎖の平均個数が、0.1~20個の範囲にある、(1)~(6)のいずれかに記載のハイドロゲル。
(8)
アニオン性ブロックポリペプチドの分子中において、
アニオン性アミノ酸側鎖の平均個数が、20~1000個の範囲にあり、
疎水性アミノ酸側鎖の平均個数が、0.1~20個の範囲にある、(1)~(7)のいずれかに記載のハイドロゲル。
(9)
カチオン性ブロックポリペプチドの分子中において、
[疎水性アミノ酸側鎖の平均個数/カチオン性アミノ酸側鎖の平均個数]の比の値が、
0.5/200~50/200の範囲にある、(1)~(8)のいずれかに記載のハイドロゲル。
(10)
アニオン性ブロックポリペプチドの分子中において、
[疎水性アミノ酸側鎖の平均個数/アニオン性アミノ酸側鎖の平均個数]の比の値が、
0.5/100~50/100の範囲にある、(1)~(9)のいずれかに記載のハイドロゲル。
(11)
ハイドロゲル中において、
[カチオン性ブロックポリペプチドの重量/アニオン性ブロックポリペプチドの重量]の比の値が、0.001/2~1.5/2の範囲、又は2/1.2~2/0.001の範囲にある、(1)~(10)のいずれかに記載のハイドロゲル。
(12)
カチオン性ブロックポリペプチドのミセル中に、疎水性薬物1が含まれ、
アニオン性ブロックポリペプチドのミセル中に、疎水性薬物2が含まれ、
疎水性薬物1が、疎水性薬物2とは異なる薬物である、(1)~(11)のいずれかに記載のハイドロゲル。
(13)
疎水性薬物1に求められる薬物放出期間と、疎水性薬物2に求められる薬物放出期間とが異なる、(12)に記載のハイドロゲル。
(14)
(1)~(13)のいずれかに記載のハイドロゲルからなる、薬物放出制御剤。
(15)
(1)~(13)のいずれかに記載のハイドロゲルを含んでなる、放出制御薬物製剤。
(16)
カチオン性ブロックポリペプチドのミセル及びアニオン性ブロックポリペプチドのミセルが分散された分散液中で、カチオン性ブロックポリペプチドのミセル又はアニオン性ブロックポリペプチドのミセルを、架橋剤によって架橋して、ハイドロゲルを形成する工程、
を含む、ハイドロゲルの製造方法であって、
カチオン性ブロックポリペプチドが、カチオン性アミノ酸側鎖のブロックと疎水性アミノ酸側鎖のブロックとを含む、両親媒性のカチオン性ブロックポリペプチドであり、
アニオン性ブロックポリペプチドが、アニオン性アミノ酸側鎖のブロックと疎水性アミノ酸側鎖のブロックとを含む、両親媒性のアニオン性ブロックポリペプチドである、方法。
(17)
カチオン性ブロックポリペプチドのミセル及びアニオン性ブロックポリペプチドのミセルが分散された分散液中で、カチオン性ブロックポリペプチドのミセル又はアニオン性ブロックポリペプチドのミセルを、架橋剤によって架橋して、ハイドロゲルを形成する工程が、
カチオン性ブロックポリペプチドのミセル及びアニオン性ブロックポリペプチドのミセルが分散された分散液中へ、アミノ基-アミノ基間架橋剤を添加することによって、カチオン性ブロックポリペプチドのミセルを、架橋して、ハイドロゲルを形成する工程であり、
形成されたハイドロゲルは、アニオン性ブロックポリペプチドのミセルがハイドロゲル中に分散して含まれたハイドロゲルである、(16)に記載の方法。
(18)
カチオン性ブロックポリペプチドのミセル中に、疎水性薬物1が含まれ、
アニオン性ブロックポリペプチドのミセル中に、疎水性薬物2が含まれ、
疎水性薬物1が、疎水性薬物2とは異なる薬物である、(16)~(17)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のハイドロゲルによれば、ミセル中に2種以上の薬物を担持して独立して放出制御できる。この放出は、バースト的な放出ではなくて、十分に制御された徐放性のある放出とすることができる。本発明は、優れた放出特性の制御性を有するデュアルドラッグデリバリーシステムを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、アミノ酸のブロック共重合体の合成の流れを示す。
【図2A】図2Aは、PLL100-PPA5又はPGA100-PPA5による空のミセルと薬物封入ミセルのTEM画像である。
【図2B】図2Bは、PLL100-PPA5又はPGA100-PPA5による空のミセルと薬物封入ミセルのDLSデータである。
【図3】図3は、DLS測定によるミセルの平均径の時間経過による安定性を示すグラフである。
【図4】図4は、PLL鎖が、側鎖の-NH2基とゲニピンとの反応した後に、架橋される流れを示す。
【図5A】図5Aは、アニオン性ミセル中からの薬物(アンホテリシンB)のpH依存放出挙動を示す。
【図5B】図5Bは、カチオン性ミセル中からの薬物(クルクミン)のpH依存放出挙動を示す。
【図6A】図6Aは、アニオン性ミセル中からの薬物(アンホテリシンB)の架橋度依存放出挙動を示す。
【図6B】図6Bは、カチオン性ミセル中からの薬物(クルクミン)の架橋度依存放出挙動を示す。
【図7】図7は、ミセルの混合割合とゼータ電位の関係の結果を示す。
【図8A】図8Aは、アニオン性ミセル(PGA-PPAミセル)中からの薬物(アンホテリシンB)の混合比依存放出挙動を示す。
【図8B】図8Bは、カチオン性ミセル(PLL-PPAミセル)中からの薬物(クルクミン)の混合比依存放出挙動を示す。
【図9】図9は、2種類のミセルを備えたハイドロゲルの形成状態の説明である。
【図10】図10は、創傷部位の外観の変化を示す写真である。
【図11】図11は、創傷治癒の進行に伴う創傷の閉鎖率の増大を示すグラフである。
【図12】図12は、創傷面積の減少を示すグラフである。
【図13A】図13Aは、コントロール群及びブランク群について、創傷における炎症反応を、組織切片のIba-1染色及びDAPI染色によって観察した顕微鏡写真である。
【図13B】図13Bは、低濃度群及び高濃度群について、創傷における炎症反応を、組織切片のIba-1染色及びDAPI染色によって観察した顕微鏡写真である。
【図14A】図14Aは、肉芽組織形成の進行を確認するために、8日経過後の組織切片の肉芽組織の厚さをHE染色によって組織学的に観察した写真である。
【図14B】図14Bは、組織切片の写真から測定した肉芽組織の厚みを示すグラフである。
【図15A】図15Aは、上皮再生の進行を確認するために、組織切片を組織学的観察した写真である。
【図15B】図15Bは、組織切片の写真から測定した上皮再生の進行長さを示すグラフである。
【図16】図16は、血管新生の進行を確認するために、8日経過後の組織切片をCD31染色した蛍光顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
具体的な実施の形態をあげて、以下に本発明を詳細に説明する。本発明は、以下にあげる具体的な実施の形態に限定されるものではない。

【0011】
[ハイドロゲルと製造方法]
本発明のハイドロゲルは、カチオン性ブロックポリペプチドのミセル及びアニオン性ブロックポリペプチドのミセルが含まれ、カチオン性ブロックポリペプチドのミセル又はアニオン性ブロックポリペプチドのミセルが、架橋剤によって架橋されてなる、ハイドロゲルであって、カチオン性ブロックポリペプチドが、カチオン性アミノ酸側鎖のブロックと疎水性アミノ酸側鎖のブロックとを含む、両親媒性のカチオン性ブロックポリペプチドであり、アニオン性ブロックポリペプチドが、アニオン性アミノ酸側鎖のブロックと疎水性アミノ酸側鎖のブロックとを含む、両親媒性のアニオン性ブロックポリペプチドである、ハイドロゲルにある。

【0012】
このハイドロゲルは、カチオン性ブロックポリペプチドのミセル及びアニオン性ブロックポリペプチドのミセルが分散された分散液中で、カチオン性ブロックポリペプチドのミセル又はアニオン性ブロックポリペプチドのミセルを、架橋剤によって架橋して、ハイドロゲルを形成する工程、を含む方法によって、製造することができる。

【0013】
[ミセルの架橋]
ハイドロゲルの形成のためのミセルの架橋は、カチオン性ブロックポリペプチドの側鎖、又はアニオン性ブロックポリペプチドの側鎖を架橋する架橋剤を使用して、行うことができる。好適な実施の態様において、架橋剤として、アミノ基-アミノ基間架橋剤を使用することができる。アミノ基-アミノ基間架橋剤として、例えば、ゲニピン、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩をあげることができ、好ましくはゲニピンをあげることができる。テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩として、例えば硫酸塩、塩酸塩をあげることができ、例えばテトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムクロリドをあげることができる。アミノ基-アミノ基間架橋剤によれば、カチオン性ブロックポリペプチドのミセルのアミノ基を、好適に架橋することができる。

【0014】
[カチオン性ブロックポリペプチドのミセルの架橋によるハイドロゲル]
好適な実施の態様において、カチオン性ブロックポリペプチドのミセルが、アミノ基-アミノ基間架橋剤によって架橋され、アニオン性ブロックポリペプチドのミセルが、ハイドロゲル中に分散して含まれる、ハイドロゲルとすることができる。

【0015】
[カチオン性ブロックポリペプチド]
カチオン性ブロックポリペプチドは、カチオン性アミノ酸側鎖のブロックと疎水性アミノ酸側鎖のブロックとを含むポリペプチドであり、ミセルを形成可能な両親媒性分子である。カチオン性アミノ酸側鎖のブロックは、カチオン性アミノ酸側鎖が複数連続しているポリペプチド部分であり、1種又は2種以上のカチオン性アミノ酸側鎖から構成される。疎水性アミノ酸側鎖のブロックは、疎水性アミノ酸側鎖が複数連続しているポリペプチド部分であり、1種又は2種以上の疎水性アミノ酸側鎖から構成される。カチオン性ブロックポリペプチドの分子には、分子が水溶性であってミセル形成可能となる範囲内で、カチオン性アミノ酸側鎖のブロックと疎水性アミノ酸側鎖のブロックが、それぞれ1個又は2個以上含まれていてもよい。好適な実施の態様において、カチオン性ブロックポリペプチドは、1個のカチオン性アミノ酸側鎖のブロックと、1個の疎水性アミノ酸側鎖のブロックからなるものとすることができる。

【0016】
カチオン性アミノ酸側鎖としては、例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン、オルニチンをあげることができ、好ましくはリジン、アルギニンをあげることができる。

【0017】
疎水性アミノ酸側鎖としては、例えば、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシンをあげることができ、好ましくはフェニルアラニン、イソロイシンをあげることができる。

【0018】
好適な実施の態様において、カチオン性ブロックポリペプチドの分子中において、カチオン性アミノ酸側鎖の平均個数は、例えば20~1000個の範囲、40~500個の範囲、50~200個の範囲とすることができる。あるいは、カチオン性ブロックポリペプチドの分子中において、カチオン性アミノ酸側鎖のブロックに含まれるカチオン性アミノ酸側鎖の平均個数は、例えば20~1000個の範囲、40~500個の範囲、50~200個の範囲とすることができる。カチオン性ブロックポリペプチドの分子中において、疎水性アミノ酸側鎖の平均個数は、例えば0.1~20個の範囲、0.4~12個の範囲、1~10個の範囲とすることができる。あるいは、カチオン性ブロックポリペプチドの分子中において、疎水性アミノ酸側鎖のブロックに含まれる疎水性アミノ酸側鎖の平均個数は、例えば0.1~20個の範囲、0.4~12個の範囲、1~10個の範囲とすることができる。

【0019】
好適な実施の態様において、カチオン性ブロックポリペプチドの分子中において、[疎水性アミノ酸側鎖の平均個数/カチオン性アミノ酸側鎖の平均個数]の比の値は、例えば0.5/200~50/200の範囲、1/100~10/100の範囲、1/200~10/200の範囲とすることができる。あるいは、カチオン性ブロックポリペプチドの分子中において、[疎水性アミノ酸側鎖のブロックに含まれる疎水性アミノ酸側鎖の平均個数/カチオン性アミノ酸側鎖のブロックに含まれるカチオン性アミノ酸側鎖の平均個数]の比の値は、例えば0.5/200~50/200の範囲、1/200~10/200の範囲とすることができる。

【0020】
[アニオン性ブロックポリペプチド]
アニオン性ブロックポリペプチドは、アニオン性アミノ酸側鎖のブロックと疎水性アミノ酸側鎖のブロックとを含むポリペプチドであり、ミセルを形成可能な両親媒性分子である。アニオン性アミノ酸側鎖のブロックは、アニオン性アミノ酸側鎖が複数連続しているポリペプチド部分であり、1種又は2種以上のアニオン性アミノ酸側鎖から構成される。疎水性アミノ酸側鎖のブロックは、疎水性アミノ酸側鎖が複数連続しているポリペプチド部分であり、1種又は2種以上の疎水性アミノ酸側鎖から構成される。アニオン性ブロックポリペプチドの分子には、分子が水溶性であってミセル形成可能となる範囲内で、アニオン性アミノ酸側鎖のブロックと疎水性アミノ酸側鎖のブロックが、それぞれ1個又は2個以上含まれていてもよい。好適な実施の態様において、アニオン性ブロックポリペプチドは、1個のアニオン性アミノ酸側鎖のブロックと、1個の疎水性アミノ酸側鎖のブロックからなる。

【0021】
アニオン性アミノ酸側鎖としては、例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸をあげることができ、好ましくはグルタミン酸をあげることができる。

【0022】
疎水性アミノ酸側鎖としては、例えば、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシンをあげることができ、好ましくはフェニルアラニンをあげることができる。

【0023】
好適な実施の態様において、アニオン性ブロックポリペプチドの分子中において、アニオン性アミノ酸側鎖の平均個数は、例えば20~1000個の範囲、40~500個の範囲、50~200個の範囲とすることができる。あるいは、アニオン性ブロックポリペプチドの分子中において、アニオン性アミノ酸側鎖のブロックに含まれるアニオン性アミノ酸側鎖の平均個数は、例えば20~1000個の範囲、40~500個の範囲、50~200個の範囲とすることができる。アニオン性ブロックポリペプチドの分子中において、疎水性アミノ酸側鎖の平均個数は、例えば0.1~20個の範囲、0.4~12個の範囲、1~10個の範囲とすることができる。あるいは、アニオン性ブロックポリペプチドの分子中において、疎水性アミノ酸側鎖のブロックに含まれる疎水性アミノ酸側鎖の平均個数は、例えば0.1~20個の範囲、0.4~12個の範囲、1~10個の範囲とすることができる。

【0024】
好適な実施の態様において、アニオン性ブロックポリペプチドの分子中において、[疎水性アミノ酸側鎖の平均個数/アニオン性アミノ酸側鎖の平均個数]の比の値は、例えば0.5/100~50/100の範囲、1/100~10/100の範囲、1/200~10/200の範囲とすることができる。あるいは、アニオン性ブロックポリペプチドの分子中において、[疎水性アミノ酸側鎖のブロックに含まれる疎水性アミノ酸側鎖の平均個数/アニオン性アミノ酸側鎖のブロックに含まれるアニオン性アミノ酸側鎖の平均個数]の比の値は、例えば0.5/100~50/100の範囲、1/200~10/200の範囲とすることができる。

【0025】
[疎水性薬物]
カチオン性ブロックポリペプチドのミセル及びアニオン性ブロックポリペプチドのミセルには、それぞれ異なる疎水性薬物を封入することができる。使用される疎水性薬物としては、ミセルに封入可能である疎水性薬物であれば、特に制限はない。疎水性薬物として、例えば、アンテホリシンB、クルクミン、ドキソルビシン、パクリタキセル、アドリアマイシンをあげることができる。

【0026】
カチオン性ブロックポリペプチドのミセル中に封入された疎水性薬物1と、アニオン性ブロックポリペプチドのミセル中に封入された疎水性薬物2とは、異なる薬物放出プロファイルとなるように、放出制御することができる。すなわち、デュアルドラッグデリバリーシステムによって、疎水性薬物1と疎水性薬物2を放出制御することができる。例えば、一方は数日をかけて早期徐放され、もう一方は1週間以上をかけて長期徐放されるように、放出制御することができる。本発明によれば、早期放出される薬物であっても、数時間で数十パーセントが放出されてしまう、いわゆるバースト的放出となることなく、それ以上の時間をかけて放出されるように徐放性の制御が可能である。

【0027】
そこで、好適な実施の態様において、疎水性薬物1と疎水性薬物2は、所望される薬物放出期間が異なる薬物の組み合わせを使用できる。例えば、やけどなどの創傷被覆材において、すみやかな放出が期待される抗菌剤と、その後の放出が期待される治療薬の組み合わせや、移植手術において、移植周囲で速やかな放出が期待される血管誘導剤や抗炎症剤と、その後の放出が期待される治療薬の組み合わせや、外科術において、切開後に速やかな放出が期待される止血剤や、抗炎症剤と、その後の放出が期待される組織治癒剤の組み合わせなどをあげることができる。

【0028】
[カチオン性ブロックポリペプチドとアニオン性ブロックポリペプチドの比]
好適な実施の態様において、ハイドロゲル中において、[カチオン性ブロックポリペプチドの重量/アニオン性ブロックポリペプチドの重量]の比の値は、例えば0.001/2~1.5/2の範囲、0.001/2~1.2/2の範囲、又は2/1.2~2/0.001の範囲、2/1.1~2/0.001の範囲とすることができる。例えば、アニオン性のミセルが十分に多い領域か、あるいはカチオン性のミセルが十分に多い領域となることが好ましい。本発明において、アニオン性のミセルが十分に多い領域か、あるいはカチオン性のミセルが十分に多い領域では、実施例で示すようにゼータ電位の絶対値が大きくなり、ゼータ電位の絶対値が大きい領域において、アニオン性ミセルからの薬物の放出速度は大きくなり、これによってカチオン性ミセルからの薬物の放出速度との差が、大きなものとなる。本発明において、当業者は所望の薬物の放出特性に応じて、カチオン性ブロックポリペプチドとアニオン性ブロックポリペプチドの比を制御することによって、放出特性を変更することができる。

【0029】
[ミセル間の架橋度]
ミセルを、架橋剤によって架橋して、ハイドロゲルを形成する工程において、架橋剤の濃度を制御することによって、ミセル間の架橋度を制御して、これによって放出特性を制御することができる。好適な実施の態様において、カチオン性ブロックポリペプチドによるミセル、すなわちカチオン性ミセルの間を、架橋剤によって架橋する場合に、架橋剤濃度を増大させて、その架橋度を高めることによって、カチオン性ミセルからの薬物放出は、より長期間にわたる徐放性を実現すると同時に、アニオン性ミセルからの薬物放出は、より短期間での放出を実現することができる。あるいは、カチオン性ミセルの間を架橋剤によって架橋する場合に、架橋度を低くすることによって、カチオン性ミセルからの薬物放出は、より短期間での放出を実現すると同時に、アニオン性ミセルからの薬物放出は、より長期間にわたる徐放性を実現することができる。このように、本発明において、当業者は所望の薬物の放出特性に応じて、ミセル間の架橋度を制御することによって、放出特性を変更することができる。

【0030】
[ハイドロゲルのpH]
ハイドロゲルのpHを制御することによって、放出特性を制御することができる。低いpHとするほど、アニオン性ミセルからの薬物放出は短期間での放出となり、カチオン性ミセルからの薬物放出はより長期間にわたる徐放性を実現する。高いpHとするほど、アニオン性ミセルからの薬物放出は長期間にわたる徐放性となり、カチオン性ミセルからの薬物放出はより短期間での放出となる。本発明において、当業者は所望の薬物の放出特性に応じて、ハイドロゲルのpHを制御することによって、放出特性を変更することができる。

【0031】
[デュアルドラッグデリバリー方法]
本発明は、上記ハイドロゲルからなる薬物放出制御剤にもあり、上記ハイドロゲルを含んでなる放出制御薬物製剤にもある。本発明は、これらの薬物放出制御剤及び放出制御薬物製剤を使用した、デュアルドラッグデリバリー方法、薬物放出制御方法にもある。
【実施例】
【0032】
以下に実施例をあげて、本発明を詳細に説明する。本発明は、以下に例示する実施例に限定されるものではない。なお、実施例中、特にことわりのない限り「%」及び「部」はそれぞれ重量%及び重量部を示す。
【実施例】
【0033】
[アミノ酸N-カルボキシ無水物(NCA)の合成]
[リジンNCA]
ベンジルオキシカルボニル基(Z基)保護リジン(Lys(Z)-OH)(渡辺化学工業社製)3gを30mLのテトラヒドロフラン(THF)に懸濁し、THF20mLに溶解したトリホスゲン(東京化成社製)3.17gの溶液を添加し、50℃で3時間還流した。その後、ホスゲンを減圧で除去し、生成物をTHFで再度溶解し、n-ヘキサン中で沈殿させ、THF/n-ヘキサン中で再結晶によりZ基リジンNCA(Lys(Z)-NCA)を生成した。
【実施例】
【0034】
ベンジル基(Bzl基)保護グルタミン酸Glu(OBzl)-OH(渡辺化学工業社製)及びフェニルアラニン(Phe)を用い、同様の操作で、Glu(OBzl)-NCAおよびPhe-NCAを合成した。合成の確認は1H-NMRにより行った。
【実施例】
【0035】
[ポリリジン-ポリフェニルアラニン共重合体およびポリグルタミン酸-フェニルアラニンブロック共重合体の合成]
2gのLys(Z)-NCAもしくは1.8gのGlu(OBzl)-NCAを5mLのジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、9.5μLのn-ヘキシルアミンを開始剤として加え、48時間室温で撹拌し、反応させた。その後、0.67gのPhe-NCAを添加し、さらに36時間室温で反応させ、ジエチルエーテルで沈殿回収した。洗浄後、白色のポリマーを得た。ポリマーの脱保護はトリフルオロ酢酸(Z基)もしくは33%のHBr/CH3COOH(Bzl基)溶液中で10時間反応させる事で行った。脱保護したポリマー(ポリリジン-ポリフェニルアラニンブロック共重合体PLL-PPAおよびポリグルタミン酸-ポリフェニルアラニンブロック共重合体(PGA-PPA))はジエチルエーテルで沈殿回収し、凍結乾燥し、1H-NMRおよび13C-NMRで確認した。分子量は脱保護前のポリマーをDMFを移動相としたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(Shodex GPC101)により求めた。PLL-PPAの重合度は、PLLの部分が91から187であり、PPA部分が4.1-4.7であった。PGA-PPAに関しては、PGA鎖が88-193、PPA鎖が3.9-4.3であった。これらの値はモノマーの添加量によって制御した。薬物放出試験には、PLLが91でありPPAが4.7であるブロックポリペプチド(PLL100-PPA5)、及びPGAが88でありPPAが4.3であるブロックポリペプチド(PGA100-PPA5)を用いた。分子量はTEM(Hitachi H-7100)によりミセルの観察を行った。ミセルの分子量は20000から50000程度まで制御可能であり、分子量分布は1.17-1.32と比較的狭い値を得た。ミセルのサイズは直径173-472nmまで制御可能であり、2週間水中でサイズの変化が無く、凝集などが起きない安定な構造であった。
【実施例】
【0036】
上記のアミノ酸のブロック共重合体の合成の流れを、図1に示す。得られたブロックポリペプチドの特性を表1にまとめて示す。特に言及のない限り、以後の実験にはPLL-PPAとしてPLL100-PPA5を用い、PGA-PPAとしてPGA100-PPA5を用いた。
【実施例】
【0037】
【表1】
JP2018088541A1_000003t.gif
【実施例】
【0038】
[ミセル形成]
2(w/v)%の各ブロックポリペプチド/DMSO溶液を、蒸留水中に滴下し、MWCO3500の透析膜中で2日間蒸留水に対して透析することで、PLL100-PPA5又はPGA100-PPA5による空のミセルを作成した。
【実施例】
【0039】
[ミセルへの薬物封入]
20mgのアンホテリシンB(AmpB)もしくはクルクミン(Cur)を2mLのDMSOに溶解し、100mgの各ブロックポリペプチドを混合し、2時間撹拌した。その後、ミセル形成と同様の操作で、PLL100-PPA5又はPGA100-PPA5による薬物封入ミセルを作成した。AmpBはPGA-PPAミセルに、CurはPLL-PPAミセルにそれぞれ封入した。
【実施例】
【0040】
PLL100-PPA5又はPGA100-PPA5による空のミセルと薬物封入ミセルとについて、TEM画像及びDLSデータを図2A及び図2Bにまとめて示す。図2AのaとcはPGA100-PPA5による空のミセルと薬物封入ミセルである。図2AのbとdはPLL100-PPA5による空のミセルと薬物封入ミセルである。図3にDLSによって測定したミセルの平均径の時間経過による安定性を示す。
【実施例】
【0041】
[ハイドロゲル作成]
PLL-PPAミセル(2w/v%水溶液)とPGA-PPAミセル(2w/v%水溶液)を混合し、ゲニピンを0.5-2.5%となるように添加し、2時間反応させることで、PLL-PPAのみが架橋されたハイドロゲルを得た。このPLL鎖が、側鎖の-NH2基とゲニピンとで反応した後に、架橋される流れを図4に示す。
【実施例】
【0042】
[薬物放出挙動]
ハイドロゲルを直径10mm、高さ5mmの形に打ち抜き、50mL のPBS中に放置し、所定時間の上清のAmpBとCurの濃度をそれぞれの検量線から求めた。AmpBは368nmの吸収から、Curは426nmの吸収から濃度を求めた。PBSは上清採取ごとに新しく入れ替えた。
【実施例】
【0043】
[pH に対する放出挙動]
pH が3、7.4、11の三種のバッファー中にゲル(ゲニピン濃度1%、混合比PLL-PPA:PGA-PPA=1:1)を浸漬し、放出挙動を調べたところ、pH3ではAmpBの放出がCurより早く、pH11ではCurの方が早かった。
【実施例】
【0044】
インビトロ薬物放出プロファイルのpHに対する依存性の実験結果を図5A及び図5Bに示す。図5Aは、アニオン性ミセル中からの薬物(アンホテリシンB)のpH依存放出挙動を示す。低pHではグルタミン酸のカルボキシル基が脱プロトン化し、ヘリックス構造となるため、ミセルが不安定化し、薬物の放出にいたると本発明者は考えている。図5Bは、カチオン性ミセル中からの薬物(クルクミン)のpH依存放出挙動を示す。高pHではリジンのアミノ基が脱プロトン化し、ヘリックス構造となるため、ミセルが不安定化し、薬物の放出にいたると本発明者は考えている。
【実施例】
【0045】
このような挙動を示すメカニズムは不明であるが、酸性ではPGA部分のカルボキシル基の、塩基性ではPLL部分のアミノ基の解離がおさえられることにより、ヘリックス構造となるためミセルが崩壊することが早期放出の原因となると、本発明者は考えている。炎症部位などの低pH部位では抗菌剤であるAmpBを早期に放出し、治癒促進剤であるCurを長期にわたって徐放することで創傷の治癒促進が期待できる。
【実施例】
【0046】
[架橋剤濃度の影響]
ゲニピンの濃度を0.5%、1%、2.5%、5%とした時のゲルからのAmpBとCurの徐放曲線を示した。浸漬溶媒のpHは7.4、混合比はPLL-PPA:PGA-PPA=1:1とした。ゲニピンの濃度を上げていくほどAmpBの放出は早くなり、一方、Curの放出は遅くなった。ゲニピン濃度0.5%では、放出曲線は、Curの方がAmpBより常に高い値を示し、Curの有意的な放出であったが、ゲニピン濃度を2.5%以上にすると、AmpBの方がCurよりも早い放出挙動を示す事が確認された。架橋剤の濃度を変化させることで、二種類の薬物の放出挙動をスイッチできることが分かった。
【実施例】
【0047】
インビトロ薬物放出プロファイルの架橋度に対する依存性の実験結果を図6A及び図6Bに示す。図6Aはアニオン性ミセル中からの薬物(アンホテリシンB)の架橋度依存放出挙動を示す。図6Bはカチオン性ミセル中からの薬物(クルクミン)の架橋度依存放出挙動を示す。架橋剤濃度が高いほど、カチオン性ミセル間の架橋密度が高くなり、安定化され、カチオン性ミセルからの放出が遅くなる一方で、アニオン性ミセルは、より孤立化するため、アニオン性ミセルからの放出が速くなると、本発明者は考えている。
【実施例】
【0048】
[混合比による影響]
PLL-PPA:PGA-PPAの混合比(重量比)を1:0、2:1、1:1、1:2にした場合のゲル(架橋剤1%、pH7.4)の薬物徐放挙動を検討した。それぞれの混合比における溶液全体のゼータ電位は1:0のとき68mV、2:1の時23mV、1:1の時-14mV、1:2のとき-27mVであった。ゼータ電位は、各ミセルの溶液(0.1%)をキュベットに1mLを取り分けて、マルバーン社製ZetaSizer NanoZsを用いて測定して、粒子(ミセル)の電気泳動移動度から算出した。AmpBの放出挙動は、27mV(1:2)の時24時間でほぼ100%近い早い放出挙動を示したが、Curは168時間で50%と遅いプロファイルであった。一方、23mV(2:1)の時は、AmpB、Curの放出挙動は24時間で共に約55%と同じ様なプロファイルであった。ミセルの混合比(重量比)を変化させることで異なる薬物の徐放挙動の制御が可能であった。
【実施例】
【0049】
図7にミセルの混合割合とゼータ電位の関係の結果を示す。図7の横軸はPLL-PPA:PGA-PPAのミセルの比(重量比)であり、縦軸はゼータ電位である。図7のグラフの左側はカチオン性ミセル過剰の領域であり、図7のグラフの右側はアニオン性ミセル過剰の領域である。
【実施例】
【0050】
図8A及び図8Bに放出プロファイルのゼータ電位依存性の結果を示す。図8A及び図8Bにおいて、横軸は時間(h)であり、縦軸は薬物放出の積算量(%)である。図8Aはアニオン性ミセル(PGA-PPAミセル)中からの薬物(アンホテリシンB)の混合比依存放出挙動を示す。表面電位の小さい場合に、放出は遅くなっている。図8Bはカチオン性ミセル(PLL-PPAミセル)中からの薬物(クルクミン)の混合比依存放出挙動を示す。アンホテリシンBの放出挙動は、ゼータ電位の絶対値が大きい場合に速く、ゼータ電位の絶対値が小さい場合に遅かった。これは、ゲルの膨潤挙動の観察と一致しており、すなわちゲルの膨潤度が高いほど放出が速くなった。一方、クルクミンの放出に関しては、ゼータ電位が高いほど速くなった。これは、ゼータ電位が正に大きいということから、アミノ基との相互作用が減少するためと本発明者は考えている。
【実施例】
【0051】
このように、二種類の疎水性薬物を内包したミセルについて、片方のミセルのみ架橋してゲルを作成して、それぞれの薬物の徐放挙動を制御することができた。そして、pH、架橋剤濃度、ミセルの混合比を変化させることで、2種類の薬物の徐放性を制御することが可能であり、精密な薬物徐放制御技術として使用できることがわかった。
【実施例】
【0052】
上記2種類のミセルを備えたハイドロゲルの形成状態の説明を図9に示す。
【実施例】
【0053】
[動物への投与実験]
ハイドロゲルによるDDSを用いて、薬剤を動物へ投与する実験を後述のように行った。
【実施例】
【0054】
[ゲルの作成]
上記[ハイドロゲル作成]と同様にして、ハイドロゲルを作成した。
【実施例】
【0055】
[薬物のローディング]
上記[ミセルへの薬物封入]と同様にして、薬物を封入したハイドロゲルを作成した。ハイドロゲルは、以下の3種類を作成した。
試料1:ブランク(blank)グループ:
薬物なし
試料2:低濃度(Low concentration)グループ:
クルクミン0.5mg/mL・アンホテリシンB1mg/mL
試料3:高濃度(High concentration)グループ:
クルクミン1.0mg/mL・アンホテリシンB1mg/mL
【実施例】
【0056】
[動物への投与]
SDラット9週齢オス 背部のヒフ全層を2cm×2cmで剥離し、同じ大きさに切ったゲルを貼付、テガダーム(3M製)でゲルが剥離しないようにコートし、4日目、8日目の経過を観察した。
実験群は、上記の3つのハイドロゲルに加え、コントロールとして、未処置群(すなわちハイドロゲルを貼付しない)を入れた4群で行った。各群にラットは3匹使用した。
【実施例】
【0057】
[投与の評価]
ハイドロゲルによる薬剤投与によって、創傷治癒に与える影響を、次のように評価した。
創傷サイズ:
各日程ごとに創傷のサイズを測定し、面積を計算した。元の創傷からのサイズの減少率を求めた。
組織切片作成:
4日後および8日後に犠牲死させ、創傷の中央線の断面を組織切片とし、HE染色およびマクロファージの抗体であるIba-1染色、細胞核のDAPI染色、血管内皮細胞のマーカーであるCD31染色を行った。
マクロファージは炎症反応を、CD31は血管新生能を評価した。DAPIはマクロファージに対するバックグラウンドとして染色した。
上皮再生能:
HE染色により、創傷部位における上皮の再生能を上皮組織の長さの計測から求めた。
肉芽組織形成能:
肉芽組織の形成をHE染色の画像から求めた。
【実施例】
【0058】
図10は創傷部位の外観の変化を示す写真である。図10に示されるように、試料3(高濃度群)及び試料2(低濃度群)は、試料1(ブランク群)及び未処置群(コントロール群)と比較して、創傷治癒が明確に進行していた。
【実施例】
【0059】
図11は創傷治癒の進行に伴う創傷の閉鎖率の増大を示すグラフである。図12は創傷面積の減少を示すグラフである。図11に示されるように、8日後において、高濃度群ではコントロール群と比較して約4倍の減少が確認され、低濃度群ではコントロール群と比較して約3.5倍の減少が確認された。図12において、8日後を対比すると、創傷面積は、未処置群(コントロール群)、試料1(ブランク群)、試料2(低濃度群)、試料3(高濃度群)において、それぞれ328mm2、272mm2、110mm2、56mm2であった。このように創傷面積の減少によって、高濃度群及び低濃度群における創傷治癒の顕著な進行が確認された。
【実施例】
【0060】
図13A及び図13Bは創傷における炎症反応を、組織切片のIba-1染色及びDAPI染色によって観察した顕微鏡写真である。コントロール群とブランク群では、Iba-1染色によって染色されたマクロファージが多数観察されたが、低濃度群及び高濃度群ではIba-1染色がほとんど観察されなかった。これによって低濃度群及び高濃度群では、炎症反応が低く抑えられたこと、これによって肉芽組織形成が早期に開始されたことが確認された。
【実施例】
【0061】
図14Aは肉芽組織形成の進行を確認するために、8日経過後の組織切片の肉芽組織の厚さをHE染色によって組織学的に観察した写真である。図14Bは組織切片の写真から測定した肉芽組織の厚みを示すグラフである。コントロール群での約85μmに対して、高濃度群では約500μmの厚みを示し、肉芽組織形成が有意に進行していることが確認された。
【実施例】
【0062】
図15Aは上皮再生の進行を確認するために、組織切片を組織学的観察した写真である。図15Aにおいて、矢印は創傷の端部を示し、点線は上皮再生の進行位置を示している。図15Bは組織切片の写真から測定した上皮再生の進行長さを示すグラフである。8日後において、高濃度群ではコントロール群の8倍という迅速な上皮再生が確認された。また低濃度群ではコントロール群の5倍という迅速な上皮再生が確認された。迅速な上皮再生は、創傷治癒の条件として優れていることを示している。
【実施例】
【0063】
図16は血管新生の進行を確認するために、8日経過後の組織切片をCD31染色した蛍光顕微鏡写真である。コントロール群及びブランク群ではCD31染色がほぼ観察されず、一方で、低濃度群及び高濃度群では矢印の部位にCD31染色が観察され、血管新生が進行していることが確認された。血管新生の進行は、創傷治癒の条件として優れていることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、2種以上の薬物を担持して独立して放出制御できる、薬物放出手段を提供する。本発明は産業上有用な発明である。
図面
【図1】
0
【図2A】
1
【図2B】
2
【図3】
3
【図4】
4
【図5A】
5
【図5B】
6
【図6A】
7
【図6B】
8
【図7】
9
【図8A】
10
【図8B】
11
【図9】
12
【図10】
13
【図11】
14
【図12】
15
【図13A】
16
【図13B】
17
【図14A】
18
【図14B】
19
【図15A】
20
【図15B】
21
【図16】
22