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明細書 :立方晶窒化硼素多結晶体及びその製造方法、並びに切削工具及び研削工具

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 令和元年10月3日(2019.10.3)
発明の名称または考案の名称 立方晶窒化硼素多結晶体及びその製造方法、並びに切削工具及び研削工具
国際特許分類 C04B  35/5831      (2006.01)
B23B  27/14        (2006.01)
B23B  27/20        (2006.01)
B24D   3/00        (2006.01)
FI C04B 35/5831
B23B 27/14 B
B23B 27/20
B24D 3/00 320B
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 15
出願番号 特願2018-550194 (P2018-550194)
国際出願番号 PCT/JP2017/039979
国際公開番号 WO2018/088369
国際出願日 平成29年11月6日(2017.11.6)
国際公開日 平成30年5月17日(2018.5.17)
優先権出願番号 2016220331
優先日 平成28年11月11日(2016.11.11)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DJ , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JO , JP , KE , KG , KH , KN , KP , KR , KW , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT
発明者または考案者 【氏名】市田 良夫
【氏名】入舩 徹男
【氏名】大藤 弘明
出願人 【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110001069、【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 3C046
3C063
Fターム 3C046FF35
3C046FF57
3C046HH04
3C063AA01
3C063AB01
3C063BB02
3C063BB07
3C063CC01
3C063FF23
要約 本発明に係る立方晶窒化硼素(cBN)多結晶体は、平均粒径が200nm以下であるcBNの単相の結晶組織から成る無配向の多結晶体であって、ヌープ硬度が50GPa以上である。平均粒径を100nm以下とすることによりヌープ硬度を53GPa以上とすることができ、50nm以下とすることにより鋭利な工具切れ刃等に好適に用いることができる。平均粒径が70nm以下であるcBNの微細多結晶組織中に、平均粒径が120~165nmであるcBNの粗結晶粒が分散し、該微細多結晶組織と該粗結晶粒を合わせた多結晶体の平均粒径が100nm以下であるcBN多結晶体では、54.5GPa以上のヌープ硬度が得られる。本発明に係るcBN多結晶体は、熱分解窒化硼素(pBN)から成り[001]方向に配向している原料を圧力25GPa以上で所定温度に所定時間保持することによって、pBNをcBNに直接変換することにより製造する。
特許請求の範囲 【請求項1】
平均粒径が200nm以下である立方晶窒化硼素の単相の結晶組織から成る無配向の多結晶体であって、ヌープ硬度が50GPa以上であることを特徴とする立方晶窒化硼素多結晶体。
【請求項2】
前記平均粒径が100nm以下であって、前記ヌープ硬度が53GPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の立方晶窒化硼素多結晶体。
【請求項3】
平均粒径が70nm以下である立方晶窒化硼素の微細多結晶組織中に、平均粒径が115~165nmである立方晶窒化硼素の粗結晶粒が分散し、該微細多結晶組織と該粗結晶粒を合わせた多結晶体の平均粒径が100nm以下である多結晶体であって、ヌープ硬度が53.5GPa以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の立方晶窒化硼素多結晶体。
【請求項4】
前記粗結晶粒の平均粒径が120~165nmであって、前記ヌープ硬度が54.5GPa以上であることを特徴とする請求項3に記載の立方晶窒化硼素多結晶体。
【請求項5】
前記平均粒径が50nm以下であることを特徴とする請求項2に記載の立方晶窒化硼素多結晶体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の立方晶窒化硼素多結晶体から成る工具切れ刃を備えることを特徴とする切削工具。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかに記載の立方晶窒化硼素多結晶体から成る砥粒切れ刃を備えることを特徴とする研削工具。
【請求項8】
出発物質である熱分解窒化硼素から成り[001]方向に配向している原料を準備する工程と、
前記原料を圧力25GPa以上で所定温度に所定時間保持することによって、前記熱分解窒化硼素を立方晶窒化硼素に直接変換する工程と
を有することを特徴とする立方晶窒化硼素多結晶体製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、高い硬度が要求される切削工具や研削工具等に用いることができる材料である立方晶窒化硼素多結晶体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化硼素(boron nitride:BN)には、主に六方晶窒化硼素(hexagonal BN:hBN)、ウルツ鉱型窒化硼素(wurtzitic BN:wBN)、及び立方晶窒化硼素(cubic BN:cBN)という、結晶構造が異なる3種のものがある。これらのBNのうちcBNは、ダイヤモンドに次ぐ硬度を有し、且つ、熱的安定性及び化学的安定性がダイヤモンドよりも優れている、という特長を有する。特に、ダイヤモンドが鉄、ニッケル及びチタンといった材料と反応し易いのに対して、cBNはそれらの材料と反応しないため、cBNは鉄、ニッケル、あるいはチタンを含有するワークを加工する工具の材料として特に適している。
【0003】
hBNは常圧で作製することができるのに対して、cBN及びwBNは高圧下で作製される。特許文献1及び2、並びに非特許文献1には、原料であるhBN又はpBN(後述)に8~20GPaの圧力を印加しつつ1900~2300℃の温度で加熱することにより、cBNとwBNを含有し、cBNの結晶の平均粒径が500nm以下の多結晶体であるcBN/wBN複合多結晶体を作製することが記載されている。ここでpBN(pyrolytic boron nitride、熱分解窒化硼素)は、hBNと同じく[001]方向に配向した結晶構造を有する常圧相であり、減圧熱分解化学気相成長(Chemical Vapor Deposition, CVD)法で製造され、hBNより高純度の窒化硼素である。なお、特許文献2の比較例2、及び特許文献3の比較例1には、wBNを含有せずcBNのみから成る多結晶体が記載されているが、それらの多結晶体は結晶の平均粒径が1000nmを超えており、高い硬度を有しない。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2014-034487号公報
【特許文献2】特開2015-205789号公報
【0005】

【非特許文献1】H. Sumiya他3名、"Real indentation hardness of nano-polycrystalline cBN synthesized by direct conversion sintering under HPHT"(高圧高温下での直接変換焼成により作製された立方晶窒化硼素の実際の圧入硬度)、Diamond and Related Materials、Elsevier社発行、(オランダ)、第48巻、第47-51頁、2014年9月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これら特許文献1及び2、並びに非特許文献1に記載のcBN/wBN複合多結晶体は、硬度を表す指標の1つであるヌープ硬度が最大でも48GPaである。しかし、高速度鋼やダイス鋼といった高硬度鋼等の高い硬度を有するワークを能率が良く且つ高精度に切削・研削加工するためには、50GPa以上の硬度を有する材料から成る切削工具や研削工具が必要である。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、50GPa以上の硬度を有する窒化硼素の多結晶体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明に係る立方晶窒化硼素多結晶体(cBN多結晶体)は、平均粒径が200nm以下である立方晶窒化硼素(cBN)の単相の結晶組織から成る無配向の多結晶体であって、ヌープ硬度が50GPa以上であることを特徴とする。
【0009】
ここで「平均粒径」、「単相」及び「無配向」はそれぞれ、以下のように定義される。
本発明において「平均粒径」は、JIS G 0551:2013(鋼-結晶粒度の顕微鏡試験方法)に基づき、透過型電子顕微鏡(TEM)画像を用いた切断法により求められる値をいう。切断法では、TEM画像に円を描き、その円の中心を通る直線(直径)を30°間隔で6本(半径では12本)描き、各直線を横切る結晶粒の数を数え(但し、直線の端が結晶粒内にある場合はその結晶粒の数を0.5と数える)、その数の全ての直線での和(この和の値を「結晶粒数」とする)を求める。そして、直径の6倍を結晶粒数で除した値を平均粒径とする。なお、TEM画像に描く円の直径は特定の値に限定されないが、1本の直径における結晶粒数が10~40程度になるように定めることが望ましい。また、1つのcBN多結晶体に対して、複数箇所のTEM画像を取得し、それら複数箇所の平均値で平均粒径を求めることが望ましい。
【0010】
本発明において「単相」とは、管電圧40KV, 管電流30mAで作動するX線発生装置から発生させたCuKα線(波長: 0.15418nm、コリメーター: 0.1mm)をcBN多結晶体に照射することにより得られるX線回折パターンにおいて、cBNの結晶以外(特に、wBNから成る異結晶)に由来するピークが検出されないものをいう。
【0011】
本発明に係るcBN多結晶体における「無配向」とは、cBN多結晶体のバルクで(粉末にすることなく)測定したX線回折の220ピークの強度I(220)と111ピークの強度I(111)の比I(220)/I(111)が0.15以上であることをいう。その際のX線回折の測定条件は、上記の単相であることを確認する際の測定条件と同じである。
【0012】
本明細書では、本発明のcBN多結晶体の中でも特に、平均粒径が100nm以下のものを「微細組織cBNナノ多結晶体」と呼び、平均粒径が50nm以下であるものを「超微細組織cBNナノ多結晶体」と呼ぶ。なお、後述の、平均粒径が70nm以下である微細組織中に平均粒径が115~165nmであるcBNの粗結晶粒が分散した構成では、粗結晶粒も本発明のcBN多結晶体を構成する結晶に含まれる。つまり、「粗結晶粒」は、平均粒径が70nm以下である結晶粒との対比において相対的に結晶粒が大きいことを意味しており、(本発明のものに限らず)一般的なcBN多結晶体における結晶粒としては微細な結晶粒に分類される。
【0013】
cBN多結晶体では、結晶の平均粒径が200nmを超えると、結晶同士が強固に結合した多結晶体を得難い。また、多結晶体がcBN以外(wBN等)の結晶(異結晶)を含有すると、外部から多結晶体に力が与えられたときに当該異結晶がすべりや微小亀裂の起点となり、硬度が低下する原因となる。さらに、多結晶体が配向していると硬度に異方性が生じ、硬度が方向によってばらつく。そこで本発明では、(i)結晶の平均粒径が200nm以下という小さい値であり、(ii)cBNのみから成る単相であって、且つ(iii)無配向であることにより、従来のcBN多結晶体では実現できなかった50GPa以上という高いヌープ硬度を有するcBN多結晶体が得られる。このような高いヌープ硬度を有するcBN多結晶体は、切削工具の工具切れ刃や研削工具の砥粒切れ刃等の材料として好適に用いることができる。
【0014】
本発明に係るcBN多結晶体において、前記平均粒径が100nm以下(微細組織cBNナノ多結晶体)であって、前記ヌープ硬度が53GPa以上であることが望ましい。これにより、更にヌープ硬度が高く、工具切れ刃や砥粒切れ刃等により好適な材料が得られる。特に、切削加工をするだけで鏡面仕上げを行うことができるほどの鋭利な工具切れ刃や、より高精度な研磨加工を行うための鋭利な砥粒切れ刃を得るために、前記平均粒径は50nm以下(すなわち、cBN多結晶体が超微細組織cBNナノ多結晶体)であることが一層望ましい。
【0015】
本発明に係るcBN多結晶体は、平均粒径が70nm以下であるcBNの微細多結晶組織中に、平均粒径が115~165nmであるcBNの粗結晶粒が分散し、当該微細多結晶組織と当該粗結晶粒を合わせた多結晶体の平均粒径が100nm以下である多結晶体(微細組織cBNナノ多結晶体)であって、ヌープ硬度が53.5GPa以上であることが望ましい。ここで、前記粗結晶粒は120~165nm、前記ヌープ硬度が54.5GPa以上であることがより望ましい。このように上記微細多結晶組織中に粗結晶粒が分散していることにより、粒径が均一に近い結晶から成る場合よりもヌープ硬度を高くすることができる。以下、このようなcBN多結晶体を「粗粒分散cBNナノ多結晶体」と呼ぶ。
【0016】
本発明に係るcBN多結晶体は、以下の方法により製造することができる。すなわち、本発明に係る立方晶窒化硼素多結晶体製造方法は、
出発物質である熱分解窒化硼素(pBN)から成り[001]方向に配向している原料を準備する工程と、
前記原料を圧力25GPa以上で所定温度に所定時間保持することによって、前記熱分解窒化硼素を立方晶窒化硼素(cBN)に直接変換する工程と
を有することを特徴とする。
【0017】
ここで「[001]方向に配向している」とは、熱分解窒化硼素のバルクで(粉末にすることなく)測定したX線回折の100ピークの強度I(100)と002ピークの強度I(002)の比I(100)/I(002)が0.15以下あることをいう。その際のX線回折の測定条件は、上記のcBN多結晶体が単相であることを確認する際の測定条件と同じである。
【0018】
cBNの単相の結晶組織から成るcBN多結晶体を製造するためには、[001]方向に配向している熱分解窒化硼素を原料として用いることが必要である。なお、このように原料が配向していても、製造されるcBN多結晶体では結晶が配向していない状態となる。
【0019】
また、製造時の圧力が25GPaよりも低いと、多結晶体中にcBNの結晶の他にwBNから成る異結晶が生成されてしまうため、圧力の下限値は25GPaとする。一方、BNではcBNが最も高圧の状態で得られるため、圧力の上限は理論上、特に無い。
【0020】
前記所定温度は圧力により相違するが、予備実験により定めることができる。例えば、圧力が25GPaである場合には、温度が1900℃よりも低いと、多結晶体中にcBNの結晶の他にwBNから成る異結晶が生成されてしまい、温度が2000℃を超えると、多結晶体中のcBNの結晶の平均粒径が200nmを超えてしまうため、前記所定温度は1900~2000℃の範囲内の温度とする。
【0021】
前記所定時間、すなわち前記圧力及び温度で保持する時間は、それら圧力及び温度により相違するが、予備実験により定めることができる。保持時間が短すぎるとwBNから成る異結晶が混入してしまい、長すぎると結晶の平均粒径が200nmを超えてしまう。超微細組織cBNナノ多結晶体を作製するためには、保持時間はwBNから成る異結晶が混入しない範囲内で短くする。粗粒分散cBNナノ多結晶体を作製するためには、保持時間は超微細組織cBNナノ多結晶体を作製する場合よりも長くする。例えば、圧力が25GPa、温度が1950℃の場合には、保持時間を11~25分とすることにより本発明に係るcBN多結晶体を作製することができ、このうち保持時間を11~13分とすることにより超微細組織cBNナノ多結晶体を作製することができ、保持時間を15~20分とすることにより粗粒分散cBNナノ多結晶体を作製することができる。
【0022】
前記原料は、前記熱分解窒化硼素のバルクで測定したX線回折の100ピークの積分強度Area(100)、101ピークの積分強度Area(101)、及び102ピークの積分強度Area(102)によりGI=(Area(100)+Area(101))/Area(102)で表されるGI値が15以上であることが望ましい。GI値は、その値が高いほど結晶性(ここでは原料であるpBNの結晶性)が低いことを意味している。このように結晶性の低いpBNを原料として使用することにより、wBNから成る異結晶が生成され難くなる。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、50GPa以上の硬度を有する窒化硼素の多結晶体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係るcBN多結晶体の製造方法の一実施形態において用いる圧力媒体の概略構成図。
【図2】本実施形態のcBN多結晶体の製造方法において用いる静的超高圧付与装置の概略構成図。
【図3】本発明に係るcBN多結晶体の実施形態((c), (d))及び比較例((a), (b), (e))におけるX線回折パターン。
【図4】本実施形態(a)及び比較例(b)における断面のTEM画像。
【図5】TEM画像から平均粒径を求める方法を示す図。
【図6】本実施形態及び比較例における加熱温度と平均粒径の関係を示すグラフ。
【図7】本実施形態(a)~(c)及び比較例(d)における断面のTEM画像。
【図8】粗粒分散cBNナノ多結晶体の模式図。
【図9】本実施形態及び比較例における保持時間と平均粒径の関係を示すグラフ。
【図10】本実施形態及び比較例における平均粒径とヌープ硬度の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1~図10を用いて、本発明に係るcBN多結晶体及びその製造方法の実施形態を説明する。

【0026】
(1) 本発明に係るcBN多結晶体の製造方法の一実施形態
図1及び図2を用いて、本発明に係るcBN多結晶体の製造方法の一実施形態を説明する。本実施形態では、原料体11として、[001]方向に配向した、市販の板状のpBNを用いる。本実施形態で用いた原料体11のGI値は17.6である。まず、レーザー加工装置を用いてpBNを直径3mmの円盤状に切り出すことにより、原料体11を作製する。この原料体11を、図1に示すように、圧力媒体本体17a、上側圧力媒体17b及び下側圧力媒体17cから成る圧力媒体17内に収容する。その際、まず、原料体11を金属箔製のカプセル12内に装入し、このカプセル12を円筒状のスリーブ13内に入れる。また、原料体11の上下には断熱材14を詰める。このスリーブ13の外側を金属箔製のヒーター15で囲い、その周囲に断熱材16を配して、圧力媒体本体17aの中心に空けた円筒状の与圧室内に入れる。この本体17aの上下を四角錐状の上側圧力媒体17b及び下側圧力媒体17cで挟む。圧力媒体本体17aと上側圧力媒体17bの間、圧力媒体本体17aと下側圧力媒体17cの間にはそれぞれ、ヒーター15に電力を供給する上側金属箔電極18a、下側金属箔電極18bを介在させる。なお、図1は模式図であり、各部の寸法は正確な比率を表すものではない。

【0027】
このように圧力媒体17内に収容された原料体11に、図2に示す静的超高圧付与装置20により、後述の高圧及び高温を付与する。ここで用いる静的超高圧付与装置20は、「川井式マルチアンビル型高圧発生装置」と呼ばれ、油圧駆動のピストン21、ガイドブロック22、及びそれらを固定するプレスフレーム23から構成される。ガイドブロック22には、特殊鋼製の6個のブロックから成り内部に立方体状の空間が形成された第1段アンビル24が固定されている。この立方体状の空間内に、タングステンカーバイド製の8個のブロックから成り、内部に正八面体状の空間が形成された第2段アンビル25が収容される。この正八面体状の空間内に圧力媒体17が収容される。第1段アンビル24にピストン21によって圧力を印加することにより第2段アンビル25を圧縮し、それにより圧力媒体17を圧縮し、最終的に試料に下記の所定の圧力を印加する。また、外部の電源29からガイドブロック22、第1段アンビル24、第2段アンビル25、上側金属箔電極18a及び下側金属箔電極18bを介してヒーター15に通電し、試料を下記の所定の温度まで加熱することにより、本実施形態のcBN多結晶体が得られる。

【0028】
本実施形態では、原料体11に印加する圧力を23~30GPa、原料体11の加熱温度を1900~2000℃とした。なお、本発明では原料体11に印加する圧力の上限は特に無いが、本実施形態では静的超高圧付与装置20の仕様上、圧力の最大値を30GPaとした。また、比較のために、圧力が25GPaの場合において、温度1600℃以上1900℃未満、及び2000℃を超え最高で2600℃までの温度範囲においても同様の実験を行った。さらに、比較のために、温度が1950℃の場合において、圧力が23GPaの場合についても同様の実験を行った。また、圧力が25GPaの場合においては、所定の圧力及び温度に保持する時間(保持時間)が異なる複数の例について実験を行った。

【0029】
(2) 本発明に係る立方晶窒化硼素多結晶体の実施形態及び比較例
まず、作製時の圧力が25GPa、保持時間が20分間であって、加熱温度が1600℃~2600℃の範囲内で異なる複数の試料を作製した。図3に作製した試料のうち、加熱温度が(a)1600℃(比較例)、(b)1800℃(比較例)、(c)1900℃(本実施形態)、(d)1950℃(本実施形態)、(e)2150℃(比較例)の場合について、X線回折測定を行った結果を示す。このX線回折測定には、管電圧40KV, 管電流30mAで作動するX線発生装置から発生させたCuKα線(波長: 0.15418nm、コリメーター: 0.1mm)を用いた。いずれの試料においても、2θ=43.3°付近にcBNの(111)面に由来するピークが見られる。一方、(a)及び(b)では、cBNの111ピークよりもやや2θが小さい位置(2θ=40.8°付近)にwBN(異結晶)の100ピーク(図中に矢印を付したもの)が見られるのに対して、(c), (d)及び(e)ではwBNの100ピークが見られない。また、その他には、いずれの試料にもwBNやhBN等の第二相に由来するピークは見られない。これらの結果から、比較例である(a), (b)は単相のcBNではないのに対して、本実施形態である(c)及び(d)、並びに比較例である(e)では単相のcBNが得られていることが確認された。

【0030】
次に、上記「加熱温度:1600℃~2600℃、圧力:25GPa、保持時間:20分間」の条件で作製した試料のうち、加熱温度が(a)1950℃(図3(d)に対応)及び(b)2150℃(同(e))のものについてそれぞれ、断面の透過型電子顕微鏡(TEM)画像を図4に示す。平均粒径は、本実施形態である(a)では97.2nmであるのに対して、比較例である(b)では318nmである。ここで平均粒径は、図5に示すように、TEM画像中に円31を描いたうえで、円31の中心を通る直線32を30°間隔で6本描き、各直線32を横切る結晶粒の数を数え、その数の全ての直線での和で直線32の直径の6倍を除することにより求めた。円31は、1本の直径における結晶粒数が10~40程度になるように定め、このような円31及び直線32の組み合わせを1つの試料につき3組描いて組毎に平均粒径を求め、更にそれらの平均値を求めることで、最終的な平均粒径の値を定めた。

【0031】
図6に、上記「加熱温度:1600℃~2600℃、圧力:25GPa、保持時間:20分間」の条件で作製した全ての試料について、平均粒径を求めた結果を示す。加熱温度が1900~2000℃の範囲内で、平均粒径が200nm以下で且つ単相のcBNが得られている。

【0032】
次に、加熱温度を1950℃、圧力を25GPaとし、保持時間が1~60分間の範囲内で異なる複数の試料を作製した。X線回折測定の結果から、これら保持時間が11~60分間の試料はいずれも、単相のcBNが得られているのに対して、保持時間が1~10分間の試料ではwBNが混入していることが確認された。

【0033】
図7に、保持時間が(a)11分間、(b)20分間、(c)25分間、(d)30分間である試料について、断面のTEM画像を示す。なお、図7(b)のTEM画像は、図4(a)のものと同じである。平均粒径は、本実施形態である(a)では40.8nm、(b)では97.2nm、(c)では156nmと、いずれも200nm以下に収まっているのに対して、比較例である(d)では322nmという大きい値になっている。

【0034】
また、本実施形態のうち、(a)及び(c)では粒子同士の粒径が比較的近いように見えるのに対して、(b)では粒径が比較的小さい粒子から成る組織内に、比較的大きい粒子が分散しているように見える。目視で比較的小さい粒子(結晶組織の粒子)と比較的大きい粒子(粗結晶)に分けてそれぞれの平均粒径を求めると、結晶組織の粒子では68nm、粗結晶では165nmであった。このような構造は前述の粗粒分散cBNナノ多結晶体に該当する。図8に、粗粒分散cBNナノ多結晶体30を模式的に示す。粗粒分散cBNナノ多結晶体30は、平均粒径が70nm以下であるcBNの微細多結晶31から成る微細多結晶組織中に、平均粒径が115~165nm、望ましくは120~165nmであるcBNの粗結晶粒32が分散した構造を有する。本実施形態で作製した粗粒分散cBNナノ多結晶体の作製条件を、平均粒径及びヌープ硬度と共に表1に示す(ヌープ硬度については後述)。なお、表1中の「全体」は、微細多結晶組織と粗結晶粒を合わせた多結晶体の平均粒径を指す。
【表1】
JP2018088369A1_000003t.gif

【0035】
図9に、上記「加熱温度:1950℃、圧力:25GPa、保持時間:1~60分間」の条件で作製した試料について、平均粒径を求めた結果を示す。保持時間が11~25分の範囲内で、平均粒径が200nm以下である単相のcBNが得られる。

【0036】
図10に、上記「加熱温度:1600℃~2600℃、圧力:25GPa、保持時間:20分間」及び「加熱温度:1950℃、圧力:25GPa、保持時間:1~60分間」の条件で作製した全ての試料について、ヌープ硬度を測定した結果を示す。ここでは、縦軸にヌープ硬度、横軸に平均粒径dの平方根の逆数d-1/2をとったグラフで測定結果を示している。この測定結果より、wBNが混入していない試料である単相のcBN多結晶体では、粗粒分散cBNナノ多結晶体を除いてd-1/2の1次関数(図中の直線)で近似される傾向を有し、平均粒径dが200nm以下(d-1/2が0.071nm-1/2以上)のときに、ヌープ硬度が50GPa以上という従来のcBN多結晶体よりも高い値を有する。また、平均粒径dが100nm以下(d-1/2が0.1nm-1/2以上)のときには、ヌープ硬度が53GPa以上となる。一方、単相のcBNではなくwBNが混入した例では、ヌープ硬度の値は前述の1次関数に対応する値よりも低くなっており、相変態が不十分なため、第二相が残留すると硬度が低下することが確認された。

【0037】
これら本実施形態のcBN多結晶体は、50GPa以上という高いヌープ硬度を有することから、切削工具の工具切れ刃や、研削工具の砥粒切れ刃に好適に用いることができる。

【0038】
また、粗粒分散cBNナノ多結晶体では、前述の1次関数に対応する値よりも高いヌープ硬度を有しており(表1参照)、本実施形態ではヌープ硬度の値が53.5GPaを超えている。特に、全体の平均粒径dが97.2nm(d-1/2が0.101)であって粗結晶粒の平均粒径が165nmである試料では、ヌープ硬度の値が54.5GPaを超えており(表1の最上段)、dが84.6nm(d-1/2が0.109)であって粗結晶粒の平均粒径が130.2nmである試料では、ヌープ硬度の値が55GPaを超えている(表1の最下段。図10中に矢印を付したデータ。)。このように、微細多結晶組織中に粗粒が分散することにより、硬度が更に高まることが確認された。

【0039】
さらに、本実施形態では、図10に図示したように、平均粒径dが50nm以下であってヌープ硬度が53GPa以上である超微細組織cBNナノ多結晶体も得られている。超微細組織cBNナノ多結晶体は特に、切削加工をするだけで鏡面仕上げを行うことができるほどの鋭利な工具切れ刃や、より高精度な研磨加工を行うための鋭利な砥粒切れ刃を得るために好適に用いることができる。

【0040】
ここまで、作製時の圧力が25GPaである場合について説明したが、23GPa及び30GPaの場合についても上記と同様の方法でcBN多結晶体を作製した。

【0041】
圧力が23GPaのときには、作製時の温度を(圧力が25GPaのときに本発明に係るcBN多結晶体が得られた温度範囲内の中央値である)1950℃として作製したところ、wBNの含有率はほぼ0%であって単相のcBNが得られたものの、結晶の平均粒径は上述の200nmよりも大きい276nmとなり、本発明に係るcBN多結晶体は得られなかった。この試料のヌープ硬度を測定したところ49.5GPaであり、本発明に係るcBN多結晶体における値の下限値である50GPaよりも小さかった。

【0042】
圧力が30GPaのときには、作製時の温度を1800℃とした。得られた試料は、wBNの含有率が0%の単相のcBNであって、結晶の平均粒径は47nmであった。また、ヌープ硬度は55.6GPaであった。従って、この圧力及び温度の条件により、本発明に係るcBN多結晶体が得られたといえる。
【符号の説明】
【0043】
11…原料体
12…カプセル
13…スリーブ
14…断熱材
15…ヒーター
16…断熱材
17…圧力媒体
17a…圧力媒体本体
17b…上側圧力媒体
17c…下側圧力媒体
18a…上側金属箔電極
18b…下側金属箔電極
20…静的超高圧付与装置
21…ピストン
22…ガイドブロック
23…プレスフレーム
24…第1段アンビル
25…第2段アンビル
29…電源
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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