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明細書 :チオプリン高感受性キメラ抗原受容体遺伝子改変リンパ球

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 令和元年9月19日(2019.9.19)
発明の名称または考案の名称 チオプリン高感受性キメラ抗原受容体遺伝子改変リンパ球
国際特許分類 C12N  15/85        (2006.01)
C12N  15/113       (2010.01)
C12N  15/62        (2006.01)
C12N  15/54        (2006.01)
C12N   5/0783      (2010.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C12N  15/13        (2006.01)
C12N   5/0781      (2010.01)
C12N  15/12        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61K  35/17        (2015.01)
A61K  31/52        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
FI C12N 15/85 Z
C12N 15/113 130Z
C12N 15/62 ZNAZ
C12N 15/54
C12N 5/0783
C12N 5/10
C12N 15/13
C12N 5/0781
C12N 15/12
A61P 35/00
A61K 35/17 Z
A61K 31/52
A61P 43/00 121
A61P 43/00 105
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 28
出願番号 特願2018-547662 (P2018-547662)
国際出願番号 PCT/JP2017/038217
国際公開番号 WO2018/079497
国際出願日 平成29年10月23日(2017.10.23)
国際公開日 平成30年5月3日(2018.5.3)
優先権出願番号 2016209066
優先日 平成28年10月25日(2016.10.25)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DJ , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JO , JP , KE , KG , KH , KN , KP , KR , KW , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT
発明者または考案者 【氏名】中沢 洋三
【氏名】松田 和之
【氏名】盛田 大介
【氏名】村松 秀城
【氏名】奥野 友介
【氏名】▲高▼橋 義行
出願人 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100114362、【弁理士】、【氏名又は名称】萩野 幹治
審査請求 未請求
テーマコード 4B065
4C086
4C087
Fターム 4B065AA93Y
4B065AA94X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB07
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4C087NA06
4C087NA14
4C087ZB26
4C087ZC75
要約 CAR療法の臨床応用を更に進めるべく、安全性の高い方法によって投与後のキメラ抗原受容体遺伝子改変リンパ球の制御を可能にする、新たな自殺遺伝子システムの提供を課題とする。標的抗原特異的キメラ抗原受容体遺伝子とともに、NUDT15遺伝子を標的とするsiRNAを細胞内で生成する第1核酸コンストラクト及び/又はTPMT遺伝子を標的とするsiRNAを細胞内で生成する第2核酸コンストラクトを標的細胞に導入し、キメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変リンパ球を調製する。
特許請求の範囲 【請求項1】
標的抗原特異的キメラ抗原受容体遺伝子とともに、NUDT15遺伝子を標的とするsiRNAを細胞内で生成する第1核酸コンストラクト及び/又はTPMT遺伝子を標的とするsiRNAを細胞内で生成する第2核酸コンストラクトを標的細胞に導入するステップ、を含む、キメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変リンパ球の調製方法。
【請求項2】
標的抗原特異的キメラ抗原受容体遺伝子、第1核酸コンストラクト、及び第2核酸コンストラクトの導入が、トランスポゾン法によって行われる、請求項1に記載の調製方法。
【請求項3】
トランスポゾン法がpiggyBacトランスポゾン法である、請求項2に記載の調製方法。
【請求項4】
標的抗原特異的キメラ抗原受容体遺伝子と、第1核酸コンストラクト及び/又は第2核酸コンストラクトが同一のベクターに搭載され、該ベクターが標的細胞に導入される、請求項1~3のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項5】
標的細胞がT細胞である、請求項1~4のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項6】
キメラ抗原受容体を発現するとともに、NUDT15遺伝子を標的とするsiRNA及び/又はTPMT遺伝子を標的とするsiRNAを標的とするsiRNAが細胞内で生成される、請求項1~5のいずれか一項に記載の調製方法で得られた遺伝子改変リンパ球。
【請求項7】
請求項6に記載の遺伝子改変リンパ球を治療上有効量含む、細胞製剤。
【請求項8】
請求項6に記載の遺伝子改変リンパ球を、治療上有効量、がん患者に投与するステップを含む、がんの治療法。
【請求項9】
請求項8に記載の治療法を受けた前記がん患者にチオプリン製剤を投与するステップを含む、前記遺伝子改変リンパ球の細胞死を誘導する方法。
【請求項10】
標的抗原特異的キメラ抗原受容体遺伝子を含むキメラ抗原受容体発現カセットとともに、NUDT15遺伝子を標的とするsiRNAを細胞内で生成する第1核酸コンストラクト及び/又はTPMT遺伝子を標的とするsiRNAを細胞内で生成する第2核酸コンストラクトを含むsiRNA発現カセットを搭載したベクター。
【請求項11】
キメラ抗原受容体発現カセットとsiRNA発現カセットが一対のトランスポゾン逆向き反復配列に挟まれた構造を備える、請求項10に記載のベクター。
【請求項12】
請求項11に記載のベクターと、トランスポザーゼ発現ベクターを含む、キメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変リンパ球の調製キット。
【請求項13】
標的抗原特異的キメラ抗原受容体遺伝子を含むキメラ抗原受容体発現カセットを搭載したベクターと、
NUDT15遺伝子を標的とするsiRNAを細胞内で生成する第1核酸コンストラクト及び/又はTPMT遺伝子を標的とするsiRNAを細胞内で生成する第2核酸コンストラクトを含むsiRNA発現カセットを搭載したベクターと、
を含む、キメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変リンパ球の調製キット。
【請求項14】
キメラ抗原受容体発現カセットが一対のトランスポゾン逆向き反復配列に挟まれた構造を備え、
siRNA発現カセットが一対のトランスポゾン逆向き反復配列に挟まれた構造を備え、
トランスポザーゼ発現ベクターを更に含む、請求項13に記載の調製キット。
【請求項15】
標的抗原特異的キメラ抗原受容体遺伝子を含むキメラ抗原受容体第1発現カセットを搭載したベクターと、
NUDT15遺伝子を標的とするsiRNAを細胞内で生成する第1核酸コンストラクトを含む第1siRNA発現カセットを搭載したベクターと、
TPMT遺伝子を標的とするsiRNAを細胞内で生成する第2核酸コンストラクトを含む第2siRNA発現カセットを搭載したベクターと、
を含む、キメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変リンパ球の調製キット。
【請求項16】
キメラ抗原受容体発現カセットが一対のトランスポゾン逆向き反復配列に挟まれた構造を備え、
第1siRNA発現カセットが一対のトランスポゾン逆向き反復配列に挟まれた構造を備え、
第2siRNA発現カセットが一対のトランスポゾン逆向き反復配列に挟まれた構造を備え、
トランスポザーゼ発現ベクターを更に含む、請求項15に記載の調製キット。
【請求項17】
トランスポザーゼがpiggyBacトランスポザーゼである、請求項12、14、16のいずれか一項に記載の調製キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明はキメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変リンパ球(CAR遺伝子導入リンパ球)に関する。詳細には、自殺遺伝子システムを利用して安全性を高めたCAR遺伝子導入リンパ球及びその用途等に関する。本出願は、2016年10月25日に出願された日本国特許出願第2016-209066号に基づく優先権を主張するものであり、当該特許出願の全内容は参照により援用される。
【背景技術】
【0002】
キメラ抗原受容体(CAR)遺伝子あるいはT細胞受容体(TCR)遺伝子を導入した遺伝子改変リンパ球(T細胞、NK細胞など)を用いる細胞療法(CAR療法)が、難治性がんに対する効果的な治療法として期待されている。とりわけCD19を標的としたCAR-T細胞療法はB細胞性腫瘍に対して劇的な治療効果をもたらす。治療効果の持続と体内におけるCAR-T細胞の存続は密接に関係する。遺伝子改変リンパ球の投与においては、on/off-target副作用や高サイトカイン血症が問題となる。さらに、同種ドナーから製造された遺伝子改変リンパ球の投与においては、移植片対宿主病(GVHD)のリスクも伴う。
【0003】
CAR/TCR遺伝子とともに自殺遺伝子をリンパ球に導入することによって、上記のリスクを回避できるもしくは軽減化できると考えられる。自殺遺伝子としては、単純ヘルペスウイルス1型チミジンキナーゼ(HSV-TK)、CD20、inducible Caspase9 (iCasp9)の開発が進んでいる(非特許文献1、2)。これらの自殺遺伝子システムはすべて、自殺遺伝子と対応する自殺起動薬の組み合わせで作用する。通常、自殺システムには不可逆な細胞死誘導経路が利用されているため、一旦自殺システムが作動すると期待される治療効果もその時点で終了する。しかしながら、高サイトカイン血症やGVHDのような可逆的な副作用に対して自殺遺伝子システムを起動させる場合には、適量(少量)の自殺起動薬の投与によって異常活性化した遺伝子改変リンパ球のみが除去され、副作用の解決後には再びCAR/TCR遺伝子改変リンパ球の機能が持続することが治療効果と医療コストの面から望ましい。
【0004】
HSV-TK自殺遺伝子は、ガンシクロビルによって作動する。従って、治療を受けている患者はウイルス感染症の際にガンシクロビルを使用できない。ガンシクロビルはヒトにおける用量・用法及び安全性が確立されているため、その投与量を調節することによって、遺伝子改変リンパ球の自殺機能を調節できる可能性がある。しかし、HSV-TKの遺伝子産物は免疫原性の高いウイルス由来蛋白であるため、遺伝子導入されたリンパ球は患者の免疫系によって排除され、体内では長期間生存できない。CD20自殺遺伝子は、リツキシマブによって作動する。リツキシマブの投与によってon-target副作用としてのB細胞減少も生じる。リツキシマブもヒトにおける用量・用法が確立されていて、比較的安全性の高い薬剤である。遺伝子導入されるCD20に免疫原性はない。しかし、CD20自殺遺伝子の作用は、補体依存性細胞傷害活性及び抗体依存性細胞傷害活性によるため、T細胞表面におけるCD20の発現の程度や患者の免疫状態(エフェクター細胞の有無)に大きく依存する。iCasp9は、CID(chemical inducer of dimerization; AP1903)という低分子化合物によって二量体化され、内因性のCaspase3を活性化することによりT細胞にアポトーシスを誘導する。Caspase9には免疫原性がなく、その殺細胞効果は迅速かつ強力で、患者の免疫状態に依存しない。しかし、CIDは医薬品ではないため、その適切な用量・用法及び安全性が明らかでなく、用量依存的な自殺機能の調節は現時点では困難である。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】Marin V, Cribioli E, Philip B, Tettamanti S, Pizzitola I, Biondi A, Biagi E, Pule M. Comparison of different suicide-gene strategies for the safety improvement of genetically manipulated T cells. Hum Gene Ther Methods. 2012 Dec;23(6):376-86.
【非特許文献2】Jones BS, Lamb LS, Goldman F, Di Stasi A. Improving the safety of cell therapy products by suicide gene transfer. Front Pharmacol. 2014 Nov 27;5:254.
【非特許文献3】Relling MV, Hancock ML, Rivera GK, Sandlund JT, Ribeiro RC, Krynetski EY, Pui CH, Evans WE. Mercaptopurine therapy intolerance and heterozygosity at the thiopurine S-methyltransferase gene locus. J Natl Cancer Inst. 1999 Dec 1;91(23):2001-8.
【非特許文献4】Relling MV, Hancock ML, Boyett JM, Pui CH, Evans WE. Prognostic importance of 6-mercaptopurine dose intensity in acute lymphoblastic leukemia. Blood. 1999 May 1;93(9):2817-23.
【非特許文献5】Yang JJ, Landier W, Yang W, Liu C, Hageman L, Cheng C, Pei D, Chen Y, Crews KR, Kornegay N, Wong FL, Evans WE, Pui CH, Bhatia S, Relling MV. Inherited NUDT15 variant is a genetic determinant of mercaptopurine intolerance in children with acute lymphoblastic leukemia. J Clin Oncol. 2015 Apr 10;33(11):1235-42.
【非特許文献6】Tanaka Y, Kato M, Hasegawa D, Urayama KY, Nakadate H, Kondoh K, Nakamura K, Koh K, Komiyama T, Manabe A. Susceptibility to 6-MP toxicity conferred by a NUDT15 variant in Japanese children with acute lymphoblastic leukaemia. Br J Haematol. 2015 Oct;171(1):109-15.
【非特許文献7】Moriyama T, Nishii R, Perez-Andreu V, Yang W, Klussmann FA, Zhao X, Lin TN, Hoshitsuki K, Nersting J, Kihira K, Hofmann U, Komada Y, Kato M, McCorkle R, Li L, Koh K, Najera CR, Kham SK, Isobe T, Chen Z, Chiew EK, Bhojwani D, Jeffries C, Lu Y, Schwab M, Inaba H, Pui CH, Relling MV, Manabe A, Hori H, Schmiegelow K, Yeoh AE, Evans WE, Yang JJ. NUDT15 polymorphisms alter thiopurine metabolism and hematopoietic toxicity. Nat Genet. 2016 Apr;48(4):367-73.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上の背景の下で本発明は、CAR療法の臨床応用を更に進めるべく、安全性の高い方法によって投与後のキメラ抗原受容体遺伝子改変リンパ球の制御を可能にする、新たな自殺遺伝子システムの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
自殺遺伝子システムの開発においては、用量・用法及び安全性が確立されている医薬品(承認薬)を自殺起動薬に選択すること、自殺遺伝子に免疫原性がないこと、自殺誘導機序が患者の免疫状態(エフェクター細胞)に依存していないことを考慮すべきである。また、自殺遺伝子に自殺起動薬の感受性を高める仕組みを付加できれば、自殺起動薬自体による副作用の出現を回避でき、さらにCAR療法による副作用の種類や程度に応じた用量依存的な自殺機能の発現を実現できる可能性がある。
【0008】
チオプリン製剤の1つであるメルカプトプリン(6-MP)は、主に急性白血病、慢性骨髄性白血病の治療に用いられる、主に細胞周期S期(DNA合成期)に作用する代謝拮抗薬である。NUDT15遺伝子又はTPMT遺伝子のヘテロ接合変異又はホモ接合変異を有する患者では、各々NUDT15、TPMTの活性が低下し、有意な(ホモ接合体では高度な)白血球減少が生じる(非特許文献3~7)。しかしながら、それら両遺伝子の変異を有する患者において、チオプリン製剤の非服用時の白血球数及び白血球機能は正常である。本発明者らはこの点に着眼し、遺伝子改変リンパ球にNUDT15遺伝子又はTPMT遺伝子の発現を抑制する遺伝子工学的操作を加えれば、遺伝子改変リンパ球のチオプリン感受性が高まり、チオプリン製剤を自殺起動薬とする自殺遺伝子システムが構築できるという発想に至った。小児及び成人白血病患者において、6-MPの用量・用法は確立されている。さらに、NUDT15遺伝子又はTPMT遺伝子の変異を有する患者における6-MPの耐用量も報告されている(非特許文献3~7)。適正使用の範囲内では、遺伝子変異を有さない患者における白血球減少は軽度で、白血球減少以外の副作用はないか、あってもごく軽度である。NUDT15遺伝子又はTPMT遺伝子の発現抑制は免疫原性の獲得につながらない。6-MPによる細胞死の誘導に患者の免疫状態は影響しない。
【0009】
以上の着想及び考察に基づき新たな自殺遺伝子システムを構築し、その効果を検証した。(後述の実施例を参照)。その結果、期待を上回る実験結果が得られ、新規自殺遺伝子システムの有効性が確認された。当該成果に基づき、以下の発明が提供される。
【0010】
[1]標的抗原特異的キメラ抗原受容体遺伝子とともに、NUDT15遺伝子を標的とするsiRNAを細胞内で生成する第1核酸コンストラクト及び/又はTPMT遺伝子を標的とするsiRNAを細胞内で生成する第2核酸コンストラクトを標的細胞に導入するステップ、を含む、キメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変リンパ球の調製方法。
[2]標的抗原特異的キメラ抗原受容体遺伝子、第1核酸コンストラクト、及び第2核酸コンストラクトの導入が、トランスポゾン法によって行われる、[1]に記載の調製方法。
[3]トランスポゾン法がpiggyBacトランスポゾン法である、[2]に記載の調製方法。
[4]標的抗原特異的キメラ抗原受容体遺伝子と、第1核酸コンストラクト及び/又は第2核酸コンストラクトが同一のベクターに搭載され、該ベクターが標的細胞に導入される、[1]~[3]のいずれか一項に記載の調製方法。
[5]標的細胞がT細胞である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の調製方法。
[6]キメラ抗原受容体を発現するとともに、NUDT15遺伝子を標的とするsiRNA及び/又はTPMT遺伝子を標的とするsiRNAを標的とするsiRNAが細胞内で生成される、[1]~[5]のいずれか一項に記載の調製方法で得られた遺伝子改変リンパ球。
[7][6]に記載の遺伝子改変リンパ球を治療上有効量含む、細胞製剤。
[8][6]に記載の遺伝子改変リンパ球を、治療上有効量、がん患者に投与するステップを含む、がんの治療法。
[9][8]に記載の治療法を受けた前記がん患者にチオプリン製剤を投与するステップを含む、前記遺伝子改変リンパ球の細胞死を誘導する方法。
[10]標的抗原特異的キメラ抗原受容体遺伝子を含むキメラ抗原受容体発現カセットとともに、NUDT15遺伝子を標的とするsiRNAを細胞内で生成する第1核酸コンストラクト及び/又はTPMT遺伝子を標的とするsiRNAを細胞内で生成する第2核酸コンストラクトを含むsiRNA発現カセットを搭載したベクター。
[11]キメラ抗原受容体発現カセットとsiRNA発現カセットが一対のトランスポゾン逆向き反復配列に挟まれた構造を備える、[10]に記載のベクター。
[12][11]に記載のベクターと、トランスポザーゼ発現ベクターを含む、キメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変リンパ球の調製キット。
[13]標的抗原特異的キメラ抗原受容体遺伝子を含むキメラ抗原受容体発現カセットを搭載したベクターと、
NUDT15遺伝子を標的とするsiRNAを細胞内で生成する第1核酸コンストラクト及び/又はTPMT遺伝子を標的とするsiRNAを細胞内で生成する第2核酸コンストラクトを含むsiRNA発現カセットを搭載したベクターと、
を含む、キメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変リンパ球の調製キット。
[14]キメラ抗原受容体発現カセットが一対のトランスポゾン逆向き反復配列に挟まれた構造を備え、
siRNA発現カセットが一対のトランスポゾン逆向き反復配列に挟まれた構造を備え、
トランスポザーゼ発現ベクターを更に含む、[13]に記載の調製キット。
[15]標的抗原特異的キメラ抗原受容体遺伝子を含むキメラ抗原受容体第1発現カセットを搭載したベクターと、
NUDT15遺伝子を標的とするsiRNAを細胞内で生成する第1核酸コンストラクトを含む第1siRNA発現カセットを搭載したベクターと、
TPMT遺伝子を標的とするsiRNAを細胞内で生成する第2核酸コンストラクトを含む第2siRNA発現カセットを搭載したベクターと、
を含む、キメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変リンパ球の調製キット。
[16]キメラ抗原受容体発現カセットが一対のトランスポゾン逆向き反復配列に挟まれた構造を備え、
第1siRNA発現カセットが一対のトランスポゾン逆向き反復配列に挟まれた構造を備え、
第2siRNA発現カセットが一対のトランスポゾン逆向き反復配列に挟まれた構造を備え、
トランスポザーゼ発現ベクターを更に含む、[15]に記載の調製キット。
[17]トランスポザーゼがpiggyBacトランスポザーゼである、[12]、[14]、[16]のいずれか一項に記載の調製キット。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】pIRII-CAR.CD19-NUDT15KDベクターの構造。リーダー配列(配列番号20)及びCD19 CAR(軽鎖可変領域(配列番号21)、重鎖可変領域(配列番号22)、Fc領域(配列番号23)、CD28の膜貫通領域及び細胞内ドメイン(配列番号24)、CD3ζ(配列番号25))をコードする配列に加え、NUDT15遺伝子を標的としたshRNAをコードする配列が搭載されている。ベクター全長の配列を配列番号10(6680bp、No.1の例)、配列番号11(6682bp、No.2の例)に示す。
【図2】NUDT15遺伝子を標的としたRNAi用のDNA断片(No.1の例は配列番号13、No.2の例は配列番号14)の例。U6プロモーター(下線。配列番号15)とshRNAをコードする配列(二重下線。No.1の例は配列番号16、No.2の例は配列番号17)を含む。
【図3】pIRII-CAR.CD19-TPMTKDベクターの構造。リーダー配列(配列番号24)及びCD19 CAR(軽鎖可変領域(配列番号21)、重鎖可変領域(配列番号22)、Fc領域(配列番号23)、CD28の膜貫通領域及び細胞内ドメイン(配列番号24)、CD3ζ(配列番号25))をコードする配列に加え、TPMT遺伝子を標的としたshRNAをコードする配列が搭載されている。ベクターの全長の配列を配列番号12(6680bps)に示す。
【図4】TPMT遺伝子を標的としたRNAi用のDNA断片(配列番号18)。U6プロモーター(下線。配列番号15)とshRNAをコードする配列(二重下線。配列番号19)を含む。
【図5】遺伝子導入14日目の細胞数の比較。細胞数は、CD19.CAR-NUDT15KD-T細胞(NUDT15)が9.75×106、CD19.CAR-TPMTKD-T細胞(TPMT)が13.65×106、CD19.CAR-T細胞(コントロール)が21.75×106であった。
【図6】遺伝子導入14日目のT細胞上のCAR発現率の比較。CAR発現率は、CD19.CAR-NUDT15KD-T細胞(NUDT15)が28%、CD19.CAR-TPMTKD-T細胞(TPMT)が32%、CD19.CAR-T細胞(コントロール)が42%であった。
【図7】6-メルカプトプリン(6-MP)添加72時間後のCAR発現生存細胞比率(%)。CAR-T細胞の抗白血病(SU/SR細胞増殖抑制)効果と6-MP感受性を調べた。全てのCAR-T細胞について抗白血病効果(SU/SR細胞増殖抑制)は100%であった(6-MP濃度が0の場合)。一方、CAR-T細胞の6-MP感受性(50 ng/mLにおける生存細胞比率)は、CAR-NUDT15KD-T細胞(NUDT15)が42%、CD19.CAR-TPMTKD-T細胞(TPMT)が62.5%、CD19.CAR-T細胞(コントロール)が106.6%であった。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.キメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変リンパ球の調製方法
本発明はキメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変リンパ球(CAR遺伝子導入リンパ球)の調製方法に関する。本発明の調製方法で得られるCAR遺伝子導入リンパ球はCAR療法に利用することができる。本発明の調製方法では、以下のステップ、即ち、標的抗原特異的キメラ抗原受容体(CAR)遺伝子とともに、NUDT15(nudix hydrolase 15)遺伝子を標的とするsiRNA(以下、「NUDT15 siRNA」と呼ぶ)を細胞内で生成する第1核酸コンストラクト及び/又はTPMT(thiopurine S-methyltransferase)遺伝子を標的とするsiRNA(以下、「TPMT siRNA」と呼ぶ)を細胞内で生成する第2核酸コンストラクトを標的細胞に導入するステップ、を行う。このステップによって、標的抗原特異的CAR遺伝子に加え、NUDT15 siRNAを発現する細胞(第1核酸コンストラクトを導入した場合)、標的抗原特異的CAR遺伝子に加え、TPMT siRNAを発現する細胞(第2核酸コンストラクトを導入した場合)、又は標的抗原特異的CAR遺伝子に加え、NUDT15 siRNAとTPMT siRNAを発現する細胞(第1核酸コンストラクトと第2核酸コンストラクトの両者を導入した場合)が得られる。尚、特に言及しない限り、本明細書における各種細胞(例えばT細胞)はヒト細胞である。

【0013】
CAR遺伝子は、特定の標的抗原を認識するキメラ抗原受容体(CAR)をコードする。CARは、標的に特異的な細胞外ドメインと、膜貫通ドメイン、及び免疫細胞のエフェクター機能のための細胞内シグナルドメインを含む構造体である。以下、各ドメインについて説明する。

【0014】
(a)細胞外ドメイン
細胞外ドメインは標的に特異的な結合性を示す。例えば、細胞外ドメインは、抗標的モノクローナル抗体のscFv断片を含む。ここでのモノクローナル抗体として、例えば、齧歯類(マウス、ラット、ウサギなど)の抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体等が用いられる。ヒト化モノクローナル抗体は、他の動物種(例えばマウスやラット)のモノクローナル抗体の構造をヒトの抗体の構造に類似させた抗体であり、抗体の定常領域のみをヒト抗体のものに置換したヒト型キメラ抗体、及び定常領域及び可変領域に存在するCDR(相補性決定領域)以外の部分をヒト抗体のものに置換したヒト型CDR移植(CDR-grafted)抗体(P.T.Johons et al., Nature 321,522(1986))を含む。ヒト型CDR移植抗体の抗原結合活性を高めるため、マウス抗体と相同性の高いヒト抗体フレームワーク(FR)を選択する方法、相同性の高いヒト型化抗体を作製する方法、ヒト抗体にマウスCDRを移植した後さらにFR領域のアミノ酸を置換する方法の改良技術もすでに開発され(米国特許第5585089号、米国特許第5693761号、米国特許第5693762号、米国特許第6180370号、欧州特許第451216号、欧州特許第682040号、特許第2828340号などを参照)、ヒト化抗体の作製に利用することもできる。

【0015】
scFv断片とは、免疫グロブリンの軽鎖可変領域(VL)と重鎖可変領域(VH)がリンカーを介して連結された構造体であり、抗原との結合能を保持している。リンカーとしては、例えばペプチドリンカーを用いることができる。ペプチドリンカーとは、直鎖状にアミノ酸が連結したペプチドからなるリンカーである。ペプチドリンカーの代表例は、グリシンとセリンから構成されるリンカー(GGSリンカーやGSリンカー)である。GGSリンカー及びGSリンカーを構成するアミノ酸であるグリシンとセリンは、それ自体のサイズが小さく、リンカー内で高次構造が形成されにくい。リンカーの長さは特に限定されない。例えば、アミノ酸残基数が5~25個のリンカーを用いることができる。リンカーを構成するアミノ酸残基数は好ましくは8~25個、更に好ましくは15~20個である。

【0016】
標的には、典型的には、腫瘍細胞に特異的な発現が認められる抗原が用いられる。ここでの「特異的な発現」とは、腫瘍以外の細胞に比較して有意ないし顕著な発現が認められることをいい、腫瘍以外の細胞において全く発現がないものに限定する意図はない。標的抗原の例として、CD19抗原、CD20抗原、GD2抗原、CD22抗原、CD30抗原、CD33抗原、CD44variant7/8抗原、CD123抗原、CEA抗原、Her2/neu抗原、MUC1抗原、MUC4抗原、MUC6抗原、IL-13 receptor-alpha2、イムノグロブリン軽鎖、PSMA抗原、VEGF receptor2、mesothelin抗原、EGFRvIII、EphA2抗原、IGFRなどを挙げることができる。

【0017】
(b)膜貫通ドメイン
膜貫通ドメインは、細胞外ドメインと細胞内シグナルドメインの間に介在する。膜貫通ドメインとしては、CD28、CD3ε、CD8α、CD3、CD4又は4-1BBなどの膜貫通ドメインを用いることができる。人工的に構築したポリペプチドからなる膜貫通ドメインを用いることにしてもよい。

【0018】
(c)細胞内シグナルドメイン
細胞内シグナルドメインは、免疫細胞のエフェクター機能の発揮に必要なシグナルを伝達する。即ち、細胞外ドメインが標的の抗原と結合した際、免疫細胞の活性化に必要なシグナルを伝達することが可能な細胞内シグナルドメインが用いられる。細胞内シグナルドメインには、TCR複合体を介したシグナルを伝達するためのドメイン(便宜上、「第1ドメイン」と呼ぶ)と、共刺激シグナルを伝達するためのドメイン(便宜上、「第2ドメイン」と呼ぶ)が含まれる。第1ドメインとして、CD3ζの他、FcεRIγ等の細胞内ドメインを用いることができる。好ましくは、CD3ζが用いられる。また、第2ドメインとしては共刺激分子の細胞内ドメインが用いられる。共刺激分子としてCD28、4-1BB(CD137)、CD2、CD4、CD5、CD134、OX-40又はICOSを例示することができる。好ましくは、CD28又は4-1BBの細胞内ドメインを採用する。

【0019】
第1ドメインと第2ドメインの連結態様は特に限定されないが、好ましくは、過去の事例においてCD3ζを遠位につないだ場合に共刺激が強く伝わったことが知られていることから、膜貫通ドメイン側に第2ドメインを配置する。同一又は異種の複数の細胞内ドメインをタンデム状に連結して第1ドメインを構成してもよい。第2ドメインについても同様である。

【0020】
第1ドメインと第2ドメインは、これらを直接連結しても、これらの間にリンカーを介在させてもよい。リンカーとしては例えばペプチドリンカーを用いることができる。ペプチドリンカーとは、直鎖状にアミノ酸が連結したペプチドからなるリンカーである。ペプチドリンカーの構造、特徴等は前述の通りである。但し、ここでのリンカーとしては、グリシンのみから構成されるものを用いてもよい。リンカーの長さは特に限定されない。例えば、アミノ酸残基数が2~15個のリンカーを用いることができる。

【0021】
(d)その他の要素
CARの分泌を促すために、リーダー配列(シグナルペプチド)が用いられる。例えば、GM-CSFレセプターのリーダー配列を用いることができる。また、細胞外ドメインと膜貫通ドメインがスペーサードメインを介して連結した構造にするとよい。即ち、好ましい態様のCARは、細胞外ドメインと膜貫通ドメインの間にスペーサードメインを含む。スペーサードメインは、CARと標的抗原との結合を促進させるために用いられる。例えば、ヒトIgG(例えばヒトIgG1、ヒトIgG4)のFc断片をスペーサードメインとして用いることがきる。その他、CD28の細胞外ドメインの一部やCD8αの細胞外ドメインの一部等をスペーサードメインとして用いることもできる。尚、膜貫通ドメインと細胞内シグナルドメインの間にもスペーサードメインを設けることもできる。

【0022】
尚、これまでにCARを利用した実験、臨床研究などの報告がいくつかあり(例えばRossig C, et al. Mol Ther 10:5-18, 2004; Dotti G, et al. Hum Gene Ther 20:1229-1239, 2009; Ngo MC, et al. Hum Mol Genet 20 (R1):R93-99, 2011; Ahmed N, et al. Mol Ther 17:1779-1787, 2009; Pule MA, et al. Nat Med 14:1264-1270, 2008; Louis CU, et al. Blood 118:6050-6056, 2011; Kochenderfer JN, et al. Blood 116:4099-4102, 2010; Kochenderfer JN, et al. Blood 119 :2709-2720, 2012; Porter DL, et al. N Engl J Med 365:725-733, 2011; Kalos M, et al. Sci Transl Med 3:95ra73,2011; Brentjens RJ, et al. Blood 118:4817-4828, 2011; Brentjens RJ, et al. Sci Transl Med 5:177 ra38, 2013)、これらの報告を参考にして本発明におけるCARを構築することができる。

【0023】
NUDT15 siRNAを細胞内で生成する第1核酸コンストラクト及びTPMT siRNAを細胞内で生成する第2核酸コンストラクトは、いわゆるRNAi(RNA interference;RNA干渉)による発現抑制に利用される。換言すれば、第1核酸コンストラクト及び/又は第2核酸コンストラクトを標的細胞に導入することにより、標的細胞内においてRNAiにより標的遺伝子(NUDT15、TPMT)の発現を抑制することができる。尚、説明の便宜上、第1核酸コンストラクトと第2核酸コンストラクトを総称して「siRNA用コンストラクト」と呼ぶことがある。

【0024】
RNAiは真核細胞内で引き起こすことが可能な、配列特異的な転写後遺伝子抑制のプロセスである。哺乳動物細胞に対するRNAiでは、標的mRNAの配列に対応する配列の短い二本鎖RNA(siRNA)が使用される。通常、siRNAは21~23塩基対である。哺乳動物細胞は二本鎖RNA(dsRNA)の影響を受ける2つの経路(配列特異的経路及び配列非特異的経路)を有することが知られている。配列特異的経路においては、比較的長いdsRNAが短い干渉性のRNA(即ちsiRNA)に分割される。他方、配列非特異的経路は、所定の長さ以上であれば配列に関係なく、任意のdsRNAによって惹起されると考えられている。この経路ではdsRNAが二つの酵素、即ち活性型となり翻訳開始因子eIF2をリン酸化することでタンパク質合成のすべてを停止させるPKRと、RNAase L活性化分子の合成に関与する2',5'オリゴアデニル酸シンターゼが活性化される。この非特異的経路の進行を最小限に留めるためには約30塩基対より短い二本鎖RNA(siRNA)を使用することが好ましい(Hunter et al. (1975) J Biol Chem 250: 409-17; Manche et al. (1992) Mol Cell Biol 12: 5239-48; Minks et al. (1979) J Biol Chem 254: 10180-3; 及び Elbashir et al. (2001) Nature 411: 494-8を参照されたい)。

【0025】
標的特異的なRNAiを生じさせるためには標的遺伝子のmRNA配列の一部と相同なセンスRNA及びこれに相補的なアンチセンスRNAからなるsiRNAを細胞内で発現させればよい。第1核酸コンストラクト及び第2核酸コンストラクトは当該発現を実現する。

【0026】
特定の遺伝子(標的遺伝子)を標的とするsiRNAは、通常、当該遺伝子のmRNAの配列における連続する領域と相同な配列からなるセンスRNAとその相補配列からなるアンチセンスRNAがハイブリダイズした二本鎖RNAである。ここでの「連続する領域」の長さは通常15~30塩基長、好ましくは18~23塩基長、より好ましくは19~21塩基長である。

【0027】
末端に数塩基のオーバーハングを有する二本鎖RNAが高いRNAi効果を発揮することが知られている。そこで本発明においても、そのような構造のsiRNAを採用することが好ましい。オーバーハングを形成する塩基の長さは特に限定されないが、好ましくは2塩基長(例えばTT、UU)である。

【0028】
siRNAの設計は常法で行うことができる。siRNAの設計には通常、標的配列に固有の配列(連続配列)が利用される。尚、適当な標的配列を選択するためのプログラム及びアルゴリズムが開発されている。

【0029】
「siRNAを細胞内で生成する核酸コンストラクト」とは、それを細胞に導入すると細胞内でのプロセスによって所望のsiRNA(標的遺伝子に対するRNAiを引き起こすsiRNA)が生ずる核酸性分子をいう。典型的には、後のプロセスによってsiRNAに変換されるshRNAを発現するように核酸コンストラクトを構築し、適当なベクターに搭載する。このようにして、ステムループタイプ又はショートヘアピンタイプと呼ばれるsiRNA用ベクター(shRNAをコードする配列がインサートされたベクター)、或いは、タンデムタイプと呼ばれるsiRNA用ベクター(センスRNAとアンチセンスRNAを別々に発現するベクター)が得られる。これらのベクターは当業者であれば常法に従い作製することができる(Brummelkamp TR et al.(2002) Science 296:550-553; Lee NS et al.(2001) Nature Biotechnology 19:500-505; Miyagishi M & Taira K (2002) Nature Biotechnology 19:497-500; Paddison PJ et al.(2002) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99:1443-1448; Paul CP et al.(2002) Nature Biotechnology 19 :505-508; Sui G et al.(2002) Proc Natl Acad Sci USA 99(8):5515-5520; Paddison PJ et al.(2002) Genes Dev. 16:948-958等が参考になる)。shRNAは、センスRNAとアンチセンスRNAがループ構造部を介して連結された構造(ヘアピン構造)を有し、細胞内でループ構造部が切断されて二本鎖siRNAとなり、RNAi効果をもたらす。ループ構造部の長さは特に限定されないが、通常は3~23塩基である。

【0030】
本発明でその発現が抑制される遺伝子はNUDT15遺伝子及び/又はTPMT遺伝子である。公共のデータベースに登録されているNUDT15遺伝子の配列を配列番号1(ACCESSION: NM_018283, DEFINITION: Homo sapiens nudix hydrolase 15 (NUDT15), transcript variant 1.)と配列番号2(ACCESSION: NM_001304745, DEFINITION: Homo sapiens nudix hydrolase 15 (NUDT15), transcript variant 2, mRNA.)に、同TPMT遺伝子の配列を配列番号3(ACCESSION: NM_000367, DEFINITION: Homo sapiens thiopurine S-methyltransferase (TPMT), mRNA.)に示す。また、NUDT15 siRNAの配列(センス鎖)の例を配列番号4と配列番号5に、これらのNUDT15 siRNAに対応するshRNAの配列を配列番号6と配列番号7にそれぞれ示す。同様に、TPMT siRNAの配列(センス鎖)の例を配列番号8に、当該TPMT siRNAに対応するshRNAの配列を配列番号9に示す。

【0031】
shRNA自体をsiRNA用コンストラクトとして用いることもできる。この場合、CAR遺伝子を搭載したベクターとsiRNA用コンストラクトが標的細胞に導入されることになる。

【0032】
本発明の好ましい態様では、CAR遺伝子を含む発現カセット(CAR発現カセット)と、第1核酸コンストラクト及び/又は第2核酸コンストラクトを含む発現カセット(siRNA発現カセット)が同一のベクターに搭載される。当該構成を採用すれば、1種類のベクター(「CAR-siRNAベクター」と呼ぶ)を標的細胞に導入すればよいことになり、本発明の調製方法に必要な遺伝子導入操作が簡便なものとなる。

【0033】
一方、CAR発現カセットを搭載したベクター(CARベクター)と、siRNA発現カセットを搭載したベクター(siRNAベクター)を用意し、これらのベクターを標的細胞に導入することにしてもよい。導入の順序は特に限定されないが、好ましくは、CARベクターの導入を先行させる。この順序を採用した場合、CARベクターが適切に導入された標的細胞を選択、或いは濃縮ないし純化した上で、siRNAベクターを導入するとよい。このようにすれば、所望のCAR遺伝子導入リンパ球(即ち、CARを発現し、且つNUDT15 siRNA及び/又はTPMT siRNAを発現するリンパ球)の作製効率、純度などの向上が図られる。現在、種々のRNAi用ベクターが利用可能である。siRNA発現カセットを搭載したベクターは、このような公知のベクターを利用して構築することができる。例えば、所望のRNA(例えばshRNA)をコードするインサートDNAを用意した後、ベクターのクローニングサイトに挿入し、RNAi発現ベクターとする。標的遺伝子に対するRNAi作用を発揮するsiRNAを細胞内で生じさせるという機能を有する限り、ベクターの由来や構造は限定されるものではない。尚、siRNAベクターとして、NUDT15 siRNA発現カセットを搭載したベクター若しくはTPMT siRNA発現カセットを搭載したベクター、又はこれらの両者、或いは、NUDT15 siRNA発現カセットとTPMT発現カセットを搭載したベクターを用いる。

【0034】
CAR発現カセットに利用可能なプロモーターの例を示すと、CMV-IE(サイトメガロウイルス初期遺伝子由来プロモーター)、SV40ori、レトロウイルスLTP、SRα、EF1α、βアクチンプロモーター等である。プロモーターはCAR遺伝子に作動可能に連結される。ここで、「プロモーターがCAR遺伝子に作動可能に連結している」とは、「プロモーターの制御下にCAR遺伝子が配置されている」ことと同義であり、通常、プロモーターの3'末端側に直接又は他の配列を介してCAR遺伝子が連結されることになる。CAR遺伝子の下流にはポリA付加シグナル配列を配置する。ポリA付加シグナル配列の使用によって転写を終了させる。ポリA付加シグナル配列としてはSV40のポリA付加配列、ウシ由来成長ホルモン遺伝子のポリA付加配列等を用いることができる。

【0035】
siRNA発現カセットに利用可能なプロモーターの例を示すと、U6プロモーター、H1プロモーター、tRNAプロモーター等である。これらのプロモーターはRNAポリメラーゼIII系のプロモーターであり、高い発現効率を期待できる。

【0036】
上記の各ベクター(CAR-siRNAベクター、CARベクター、siRNAベクター)に検出用遺伝子(レポーター遺伝子、細胞又は組織特異的な遺伝子、選択マーカー遺伝子など)、エンハンサー配列、WRPE配列等を含めることにしてもよい。検出用遺伝子は、発現カセットの導入の成否や効率の判定、CARの発現の検出又は発現効率の判定、CAR遺伝子が発現した細胞の選択や分取等に利用される。一方、エンハンサー配列の使用によって発現効率の向上が図られる。検出用遺伝子としては、ネオマイシンに対する耐性を付与するneo遺伝子、カナマイシン等に対する耐性を付与するnpt遺伝子(Herrera Estrella、EMBO J. 2(1983)、987-995)やnptII遺伝子(Messing & Vierra.Gene 1 9:259-268(1982))、ハイグロマイシンに対する耐性を付与するhph遺伝子(Blochinger & Diggl mann,Mol Cell Bio 4:2929-2931)、メタトレキセートに対する耐性を付与するdhfr遺伝子(Bourouis et al.,EMBO J.2(7))等(以上、マーカー遺伝子)、ルシフェラーゼ遺伝子(Giacomin、P1. Sci. 116(1996)、59~72;Scikantha、J. Bact. 178(1996)、121)、β-グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子、GFP(Gerdes、FEBS Lett. 389(1996)、44-47)やその改変体(EGFPやd2EGFPなど)等の蛍光タンパク質の遺伝子(以上、レポーター遺伝子)、細胞内ドメインを欠く上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子等の遺伝子を用いることができる。検出用遺伝子は、例えば、バイシストロニック性制御配列(例えば、リボソーム内部認識配列(IRES))や自己開裂ペプチドをコードする配列を介してCAR遺伝子に連結する。自己開裂ペプチドの例はThosea asigna virus由来の2Aペプチド(T2A)であるが、これに限定されるものではない。自己開裂ペプチドとして蹄疫ウイルス(FMDV)由来の2Aペプチド(F2A)、ウマ鼻炎Aウイルス(ERAV)由来の2Aペプチド(E2A)、porcine teschovirus(PTV-1)由来の2Aペプチド(P2A)等が知られている。

【0037】
CAR遺伝子、第1核酸コンストラクト及び第2核酸コンストラクトの導入には、各種遺伝子導入法を利用することができる。遺伝子導入法はウイルスベクターを利用した方法と非ウイルスベクターを利用した方法に大別される。前者はウイルスが細胞へと感染する現象を巧みに利用するものであり、高い遺伝子導入効率が得られる。ウイルスベクターとしてレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、センダイウイルスベクター等が開発されている。この中でレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターではベクターに組み込んだ目的遺伝子が宿主染色体へと組み込まれ、安定かつ長期的な発現が期待できる。各ウイルスベクターは既報の方法に従い又は市販される専用のキットを用いて作製することができる。非ウイルスベクターの例としては、プラスミドベクター、リポソームベクター、正電荷型リポソームベクター(Felgner, P.L., Gadek, T.R., Holm, M. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 84:7413-7417, 1987)、YACベクター、BACベクターを挙げることができる。

【0038】
好ましくは、トランスポゾン法による遺伝子導入を行う。トランスポゾン法とは、非ウイルス遺伝子導入法の一つである。トランスポゾンは、進化の過程で保存されてきた、遺伝子転位を引き起こす短い遺伝子配列の総称である。遺伝子酵素(トランスポザーゼ)とその特異認識配列のペアで遺伝子転位を引き起こす。トランスポゾン法として、例えば、piggyBacトランスポゾン法を用いることができる。PiggyBacトランスポゾン法は、昆虫から単離されたトランスポゾンを利用するものであり(Fraser MJ et al., Insect Mol Biol. 1996 May;5(2):141-51.; Wilson MH et al., Mol Ther. 2007 Jan;15(1):139-45.)、哺乳類染色体への高効率な組込みを可能にする。PiggyBacトランスポゾン法は実際に遺伝子の導入に利用されている(例えばNakazawa Y, et al., J Immunother 32:826-836, 2009;Nakazawa Y et al., J Immunother 6:3-10, 2013等を参照)。本発明に適用可能なトランスポゾン法はpiggyBacを利用したものに限定されるものではなく、例えば、Sleeping Beauty(Ivics Z, Hackett PB, Plasterk RH, Izsvak Z (1997) Cell 91: 501-510.)、Frog Prince(Miskey C, Izsvak Z, Plasterk RH, Ivics Z (2003) Nucleic Acids Res 31: 6873-6881.)、Tol1(Koga A, Inagaki H, Bessho Y, Hori H. Mol Gen Genet. 1995 Dec 10;249(4):400-5.;Koga A, Shimada A, Kuroki T, Hori H, Kusumi J, Kyono-Hamaguchi Y, Hamaguchi S. J Hum Genet. 2007;52(7):628-35. Epub 2007 Jun 7.)、Tol2(Koga A, Hori H, Sakaizumi M (2002) Mar Biotechnol 4: 6-11.;Johnson Hamlet MR, Yergeau DA, Kuliyev E, Takeda M, Taira M, Kawakami K, Mead PE (2006) Genesis 44: 438-445.;Choo BG, Kondrichin I, Parinov S, Emelyanov A, Go W, Toh WC, Korzh V (2006) BMC Dev Biol 6: 5.)等のトランスポゾンを利用した方法を採用することにしてもよい。

【0039】
トランスポゾン法による導入操作は常法で行えばよく、過去の文献(例えばpiggyBacトランスポゾン法についてはNakazawa Y, et al., J Immunother 32:826-836, 2009、Nakazawa Y et al., J Immunother 6:3-10, 2013、Saha S, Nakazawa Y, Huye LE, Doherty JE, Galvan DL, Rooney CM, Wilson MH. J Vis Exp. 2012 Nov 5;(69):e4235、Saito S, Nakazawa Y, Sueki A, et al. Anti-leukemic potency of piggyBac-mediated CD19-specific T cells against refractory Philadelphia chromosome-positive acute lymphoblastic leukemia. Cytotherapy. 2014;16:1257-69.)が参考になる。

【0040】
本発明の好ましい一態様では、piggyBacトランスポゾン法が採用される。典型的には、piggyBacトランスポゾン法ではpiggyBacトランスポザーゼをコードする遺伝子を搭載したベクター(トランスポザーゼプラスミド)と、所望の核酸コンストラクト(CAR発現カセット及び/又はsiRNA発現カセット)がpiggyBac逆向き反復配列に挟まれた構造を備えるベクター(トランスポゾンプラスミド)を用意し、これらのベクターを標的細胞に導入(トランスフェクション)する。トランスフェクションには、エレクトロポレーション、ヌクレオフェクション、リポフェクション、リン酸カルシウム法など、各種手法を利用できる。

【0041】
標的細胞(CAR遺伝子と、第1核酸コンストラクト及び/又は第2核酸コンストラクトを導入する細胞)として、CD4陽性CD8陰性T細胞、CD4陰性CD8陽性T細胞、iPS細胞から調製されたT細胞、αβ-T細胞、γδ-T細胞、NK細胞、NKT細胞を挙げることができる。上記の如きリンパ球又は前駆細胞を含むものであれば、様々な細胞集団を用いることができる。末梢血から採取されるPBMC(末梢血単核細胞)は好ましい標的細胞の一つである。即ち、好ましい一態様では、PBMCに対して遺伝子導入操作を行う。PBMCは常法で調製すればよい。尚、PBMCの調製方法については、例えば、Saha S, Nakazawa Y, Huye LE, Doherty JE, Galvan DL, Rooney CM, Wilson MH. J Vis Exp. 2012 Nov 5;(69):e4235を参照することができる。

【0042】
以上のステップで得られたCAR遺伝子導入リンパ球は、典型的には、活性化処理に供される。例えば、抗CD3抗体及び抗CD28抗体で刺激し、CAR遺伝子導入リンパ球を活性化させる。この処理によれば、通常、CAR遺伝子導入リンパ球の生存・増殖も促される。例えば、抗CD3抗体と抗CD28抗体で培養面をコートした培養容器(例えば培養皿)で1日~20日、好ましくは3日~14日、更に好ましくは5日~10日、培養することによって、抗CD3抗体及び抗CD28抗体による刺激を加えることができる。抗CD3抗体(例えばミルテニーバイオテク社が提供する商品名CD3pure抗体を用いることができる)と抗CD28抗体(例えばミルテニーバイオテク社が提供する商品名CD28pure抗体を用いることができる)は市販もされており、容易に入手可能である。抗CD3抗体と抗CD28抗体がコートされた磁気ビーズ(例えば、VERITAS社が提供するDynabeads T-Activator CD3/CD28)を利用して当該刺激を行うことも可能である。尚、抗CD3抗体として「OKT3」クローンを用いることが好ましい。尚、遺伝子導入操作による損傷/障害からの回復を促すために、遺伝子導入操作直後ではなく、遺伝子導入操作から8時間~48時間(好ましくは16時間~24時間)程度経過した後に活性化処理を実施するとよい。

【0043】
細胞の生存率/増殖率を高めるために、活性化処理の際、T細胞増殖因子が添加された培養液を使用するとよい。T細胞増殖因子としてはIL-15が好適である。好ましくは、IL-15に加えIL-7が添加された培養液を用いる。IL-15の添加量は例えば1ng/ml~20ng/ml、好ましくは5ng/ml~10ng/mlとする。同様にIL-7の添加量は例えば1ng/ml~20ng/ml、好ましくは5ng/ml~10ng/mlとする。IL-15、IL-7等のT細胞増殖因子は常法に従って調製することができる。また、市販品を利用することもできる。ヒト以外の動物種のT細胞増殖因子の使用を排除するものではないが、通常、T細胞増殖因子はヒト由来のもの(組換え体であってもよい)を用いる。ヒトIL-15、ヒトIL-7等の増殖因子は用意に入手することができる(例えばミルテニーバイオテク社、R&Dシステムズ社等が提供する)。

【0044】
血清(ヒト血清、ウシ胎仔血清など)を添加した培地を用いてもよいが、無血清培地を採用することにより、臨床応用する際の安全性が高く、且つ血清ロット間の差による培養効率の違いが出にくいという利点を有する細胞を調製することが可能になる。リンパ球用の無血清培地の具体例はTexMACSTM(ミルテニーバイオテク社)、AIM V(登録商標)(Thermo Fisher Scientific社)である。血清を用いる場合には、自己血清、即ち、本発明の調製方法で得られるCAR遺伝子導入リンパ球の投与を受ける患者から採取した血清を用いるとよい。基本培地にはリンパ球の培養に適したものを用いればよく、具体例を挙げれば、上掲のTexMACSTM、AIM V(登録商標)である。その他の培養条件は、リンパ球の生存、増殖に適したものであればよく、一般的なものを採用すればよい。例えば、37℃に設定したCO2インキュベーター(CO2濃度5%)内で培養すればよい。

【0045】
活性化処理後、細胞を回収する。回収操作は常法で行えばよい。例えば、ピペッティング、遠心処理等によって回収する。好ましい一態様では、回収操作の前に、活性化処理後の細胞をT細胞増殖因子の存在下で培養するステップを行う。このステップによれば、効率的な拡大培養が可能になり、また、細胞の生存率を高める利点もある。ここでのT細胞増殖因子としてはIL-15、IL-7等を用いることができる。活性化処理の場合と同様に、IL-15とIL-7を添加した培地で培養することにしてもよい。培養期間は例えば1日~21日、好ましくは5日~18日、更に好ましくは10日~14日である。培養期間が短すぎると細胞数の十分な増加を望めず、培養期間が長すぎると細胞の活性(生命力)の低下、細胞の疲弊/疲労等のおそれがある。培養の途中で継代してもよい。また、培養中は必要に応じて培地交換をする。例えば3日に1回の頻度で培養液の1/3~2/3程度を新しい培地に交換する。

【0046】
一態様では、本発明のCAR遺伝子導入リンパ球として、ウイルス特異的なキメラ抗原受容体遺伝子改変T細胞(以下、「ウイルス特異的CAR-T細胞」と呼ぶ)を調製する。ウイルス特異的CAR-T細胞は、自家移植に利用する場合にはウイルスT細胞受容体からの刺激による体内持続性の向上が望めること、同種移植に利用する場合には更に同種免疫反応(GVHD)の軽減により移植ドナーからのCAR-T作製が可能になり、しかも第3者ドナーからのCAR-T細胞を製剤化できる可能性があることなど、臨床応用上、重要な利点を有する。実際、ウイルス特異的CAR-T細胞がより長期に体内に持続することが報告されている(Pule MA, et al. Nat Med. 2008 Nov;14(11):1264-70.)。また、第3者由来EBV特異的CTL臨床研究の報告(Annual Review血液2015、2015年1月発行、中外医学社)により、ウイルス特異的細胞傷害性T細胞(CTL)の安全性が高いことが裏づけられている。

【0047】
この態様の調製方法は以下のステップ(i)~(iv)を含む。
(i)T細胞を含む細胞集団を抗CD3抗体及び抗CD28抗体で刺激した後、ウイルスペプチド抗原存在下での培養及び増殖能を喪失させる処理を行うことによって得られる、ウイルスペプチド抗原を保持した非増殖性細胞を用意するステップ
(ii)標的抗原特異的キメラ抗原受容体遺伝子とともに、NUDT15遺伝子を標的とするsiRNAを細胞内で生成する第1核酸コンストラクト及び/又はTPMT遺伝子を標的とするsiRNAを細胞内で生成する第2核酸コンストラクトを標的細胞に導入し、遺伝子改変T細胞を得るステップ
(iii)ステップ(i)で用意した非増殖性細胞とステップ(ii)で得た遺伝子改変T細胞を混合し、共培養するステップ
(iv)培養後の細胞を回収するステップ

【0048】
ステップ(i)では、まず、T細胞を含む細胞集団を抗CD3抗体及び抗CD28抗体で刺激し、活性化T細胞を得る。「T細胞を含む細胞集団」として、好ましくは、末梢血から採取されるPBMC(末梢血単核細胞)を用いる。PBMCを精製し、T細胞の含有率を高めたものや、末梢血からフェレーシスによって採取した単核球等を、ここでの「T細胞を含む細胞集団」として用いることも可能である。

【0049】
例えば、抗CD3抗体と抗CD28抗体で培養面をコートした培養容器(例えば培養皿)で3時間~3日、好ましくは6時間~2日、更に好ましくは12時間~1日、培養することによって、細胞集団内のT細胞に対して抗CD3抗体及び抗CD28抗体による刺激を加えることができる。抗CD3抗体(例えばミルテニーバイオテク社が提供する商品名CD3pure抗体を用いることができる)と抗CD28抗体(例えばミルテニーバイオテク社が提供する商品名CD28pure抗体を用いることができる)は市販もされており、容易に入手可能である。抗CD3抗体と抗CD28抗体がコートされた磁気ビーズ(例えば、VERITAS社が提供するDynabeads T-Activator CD3/CD28)を利用してステップ(i)の刺激を行うことも可能である。尚、抗CD3抗体として「OKT3」クローンを用いることが好ましい。

【0050】
上記のようにして活性化T細胞を得た後、ウイルスペプチド抗原存在下での培養と増殖能を喪失させる処理を行う。これによって、非増殖性の「ウイルスペプチド抗原を細胞表面に保持した活性化T細胞」(以下、「ウイルスペプチド保持非増殖性細胞」と呼ぶ)が得られる。ウイルスペプチド抗原存在下での培養と、増殖能を喪失させる処理の順序は特に限定されない。従って、ウイルスペプチド抗原存在下で培養した後に増殖能を喪失させても、或いは増殖能を喪失させた後にウイルスペプチド抗原存在下で培養することにしてもよい。好ましくは、増殖能を喪失する前の方がウイルスペプチド抗原の取り込みがより良好であろうという期待から前者の順序を採用する。

【0051】
「増殖能を喪失させる処理」は、典型的には放射線照射であるが、薬剤を用いることにしてもよい。放射線照射の条件の一例を示すと、ガンマ線を用い、25Gy~50Gyの強度で15~30分間の処理である。

【0052】
ウイルスペプチド抗原存在下で培養するためには、例えば、ウイルスペプチド抗原が添加された培地を用いればよい。或いは、培養中にウイルスペプチド抗原を培地に添加すればよい。ウイルスペプチド抗原の添加濃度は例えば0.5μg/ml~1μg/mlとする。培養期間は例えば10分~5時間、好ましくは20分~3時間とする。本明細書における「ウイルスペプチド抗原」とは、特定のウイルスに特異的な細胞傷害性T細胞(CTL)を誘導しうるエピトープペプチドまたはエピトープを含むロングペプチドをいう。ウイルスペプチド抗原としては、これらに限定されるものではないが、例えばアデノウイルス(AdV)の抗原ペプチド(例えば、WO 2007015540 A1を参照)、サイトメガロウイルス(CMV)の抗原ペプチド(例えば、特開2002-255997号公報、特開2004-242599号公報、特開2012-87126号公報を参照)、エプスタインバールウイルス(EBV)の抗原ペプチド(例えば、WO 2007049737 A1、特願2011-177487号公報、特開2006-188513号公報を参照)、等を用いることができる。ウイルスペプチド抗原は配列情報に基づき常法(例えば液相合成法、固相合成法)で調製することができる。また、ウイルスペプチド抗原の中には市販されているものもある(例えば株式会社医学生物学研究所、タカラバイオ、ミルテニーバイオテックなどが提供する。)

【0053】
1種類の抗原ペプチドを用いることも可能であるが、通常は2種類以上の抗原ペプチド(抗原ペプチド混合物)を使用する。例えば、AdV抗原ペプチド混合物、CMV抗原ペプチド混合物又はEBV抗原ペプチド混合物、或いはこれら抗原ペプチド混合物の中の二つ以上を組み合わせたもの(例えば、AdV抗原ペプチド混合物、CMV抗原ペプチド混合物及びEBV抗原ペプチド混合物を混合したもの)を用いる。2種類以上の抗原ペプチドを併用することにより、標的(抗原ペプチド)が異なる複数の活性化T細胞を得ることができ、本発明の調製方法で得られるCAR-T細胞が有効な治療対象(患者)の増大(カバー率の向上)を望める。いずれのウイルスに由来する抗原ペプチドを使用するかを決定するにあたっては、本発明の調製方法で得られるCAR-T細胞の用途、具体的には治療対象となる疾患や患者の病態を考慮するとよい。例えば、造血幹細胞移植後の再発性白血病の治療を目的とする場合には、EBVウイルスの抗原ペプチド混合物を単独で又は他のウイルスの抗原ペプチド混合物との併用で用いるとよい。AdV抗原ペプチド混合物、CMV抗原ペプチド混合物、EBV抗原ペプチド混合物については市販もされており(例えば、ミルテニーバイオテク社が提供する、PepTivator(登録商標) AdV5 Hexon、PepTivator(登録商標) CMV pp65、PepTivator(登録商標) EBV EBNA-1、PepTivator(登録商標) EBV BZLF1、JPT Peptide Technologies社が提供するPepMixTM Collection HCMV、PepMixTM EBV (EBNA1)等)、容易に入手することができる。

【0054】
ステップ(ii)は、上で説明した遺伝子導入操作(CAR遺伝子、第1核酸コンストラクト及び第2核酸コンストラクトの導入)に対応するものであり、各種遺伝子導入法を利用することができる。好ましくはトランスポゾン法を採用する。このステップによって遺伝子改変T細胞(CAR-T細胞)が得られる。

【0055】
ステップ(iii)では、ステップ(i)で用意した非増殖性細胞(ウイルスペプチド保持非増殖性細胞)と、ステップ(ii)で得た遺伝子改変T細胞を混合し、共培養する。これによって、非増殖性細胞による共刺激分子及びウイルス抗原ペプチドを介した刺激が加わり、ウイルス抗原特異的な遺伝子改変T細胞が活性化するとともに、その生存・増殖が促される。

【0056】
共培養に使用する非増殖性細胞の数と遺伝子改変T細胞の数の比率(非増殖性細胞の数/遺伝子改変T細胞の数)は特に限定されないが、例えば、0.025~0.5とする。

【0057】
このステップは、ウイルス特異的CAR-T細胞を選択的に増殖させるため、強力な刺激を避けてT細胞の疲弊/疲労を防ぐため、等の理由から、原則として、抗CD3抗体及び抗CD28抗体による刺激を加えない。一方、細胞の生存率/増殖率を高めるために、共培養の際、T細胞増殖因子が添加された培養液を使用するとよい。T細胞増殖因子としてはIL-15が好適である。好ましくは、IL-15に加えIL-7が添加された培養液を用いる。IL-15の添加量は例えば5ng/ml~10ng/mlとする。同様にIL-7の添加量は例えば5ng/ml~10ng/mlとする。IL-15、IL-7等のT細胞増殖因子は常法に従って調製することができる。また、市販品を利用することもできる。ヒト以外の動物種のT細胞増殖因子の使用を排除するものではないが、通常、T細胞増殖因子はヒト由来のもの(組換え体であってもよい)を用いる。ヒトIL-15、ヒトIL-7等の増殖因子は用意に入手することができる(例えばミルテニーバイオテク社、R&Dシステムズ社等が提供する)。

【0058】
血清(ヒト血清、ウシ胎仔血清など)を添加した培地を用いてもよいが、無血清培地を採用することにより、臨床応用する際の安全性が高く、且つ血清ロット間の差による培養効率の違いが出にくいという利点を有する細胞を調製することが可能になる。T細胞用の無血清培地の具体例はTexMACSTM(ミルテニーバイオテク社)、AIM V(登録商標)(Thermo Fisher Scientific社)である。血清を用いる場合には、自己血清、即ち、ステップ(ii)で得られる遺伝子改変T細胞の由来である個体(典型的には本発明の調製方法で得られるキメラ抗原受容体遺伝子改変T細胞の投与を受ける患者)から採取した血清を用いるとよい。基本培地にはT細胞の培養に適したものを用いればよく、具体例を挙げれば、上掲のTexMACSTM、AIM V(登録商標)である。その他の培養条件は、T細胞の生存、増殖に適したものであればよく、一般的なものを採用すればよい。例えば、37℃に設定したCO2インキュベーター(CO2濃度5%)内で培養すればよい。

【0059】
ウイルスペプチド保持非増殖性細胞をステップ(iii)の途中で追加してもよい。或いは、共培養後の細胞を回収し、ウイルスペプチド保持非増殖性細胞と混合した後に再度、共培養を行うことにしてもよい。これらの操作を2回以上繰り返すことにしてもよい。このように、ウイルスペプチド保持非増殖性細胞を利用した刺激なしし活性化を複数回行うことにすれば、ウイルス特異的CAR-T細胞の誘導率の向上、ウイルス特異的CAR-T細胞数の増加を望める。尚、改めて用意したもの、又はステップ(i)で用意した細胞の一部を保存しておいたものを、ここでのウイルスペプチド保持非増殖性細胞として使用する。

【0060】
ステップ(iii)における共培養の期間は、例えば1日~21日、好ましくは5日~18日、更に好ましくは10日~14日である。培養期間が短すぎると十分な効果をを望めず、培養期間が長すぎると細胞の活性(生命力)の低下、細胞の疲弊/疲労等のおそれがある。

【0061】
ウイルスペプチド保持非増殖性細胞との共培養の前に、ステップ(ii)で得た遺伝子改変T細胞をウイルスペプチド保持非増殖性PBMC(末梢血単核球)と共培養することにしてもよい。この態様の場合、ステップ(ii)で得た遺伝子改変T細胞とウイルスペプチド保持非増殖性PBMCを共培養して得られた細胞と、ステップ(i)で用意したウイルスペプチド保持非増殖性細胞とを混合し、共培養することになる。ここでのウイルスペプチド保持非増殖性PBMCは、PBMCをウイルスペプチド抗原存在下での培養及び増殖能を喪失させる処理に供することによって調製することができる。具体的には、例えば、末梢血から分離したPBMCを放射線処理した後、ウイルスペプチド抗原存在下で培養し、ウイルスペプチド保持非増殖性PBMCを得る。尚、1回の採血で得た末梢血から分離したPBMCの一部を用いてウイルスペプチド保持非増殖性PBMCを調製するとともに、他の一部から遺伝子改変T細胞を調製することにすれば、本発明の実施に伴う採血回数を低減することができ、臨床応用上、極めて大きな利点となる。特に、残りのPBMCを用いてステップ(i)を行い、ウイルスペプチド保持非増殖性細胞(2段階目の共培養に使用する細胞)を調製することにすれば、必要な3種類の細胞、即ち、遺伝子改変T細胞、当該細胞との共培養に使用するウイルスペプチド保持非増殖性PBMC、2段階目の共培養に使用するウイルスペプチド保持非増殖性細胞を1回の採血によって用意することができることから、本発明で得られるCAR-T細胞を用いた治療における、患者の負担は大幅に軽減される。

【0062】
ステップ(iii)に続くステップ(iv)では、培養後の細胞を回収する。回収操作は常法で行えばよい。例えば、ピペッティング、遠心処理等によって回収する。ステップ(iii)とステップ(iv)の間に、共培養後の細胞をT細胞増殖因子の存在下で培養するステップ(拡大培養)を行うことにしてもよい。この拡大培養に際してウイルスペプチド保持非増殖性細胞を追加したり、或いは拡大培養の途中でウイルスペプチド保持非増殖性細胞を追加したりすることにしてもよい。

【0063】
別の一態様では、ステップ(ii)と同様の操作で得た遺伝子改変T細胞をウイルスペプチド保持非増殖性PBMC(末梢血単核球)と共培養した後、抗CD28抗体(抗CD3抗体を併用してもよい)で刺激する。続いて、必要に応じて培養(例えば拡大培養)した後、細胞を回収し、CAR-T細胞(本発明のCAR遺伝子導入リンパ球としてのウイルス特異的CAR-T細胞)を得る。

【0064】
2.CAR遺伝子導入リンパ球及びその用途
本発明の第2の局面は、本発明の調製方法で得られた、キメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変リンパ球(以下、「本発明のCAR遺伝子導入リンパ球」と呼ぶ)及びその用途に関する。本発明のCAR遺伝子導入リンパ球はCAR療法が有効と考えられる各種疾患(以下、「標的疾患」と呼ぶ)の治療、予防又は改善に利用され得る。標的疾患の代表はがんであるが、これに限定されるものではない。標的疾患の例を挙げると、各種B細胞リンパ腫(濾胞性悪性リンパ腫、びまん性悪性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、MALTリンパ腫、血管内B細胞性リンパ腫、CD20陽性ホジキンリンパ腫など)、骨髄増殖性腫瘍、骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍(CMML,JMML,CML,MDS/MPN-UC)、骨髄異形成症候群、急性骨髄生白血病、神経芽腫、脳腫瘍、ユーイング肉腫、骨肉腫、網膜芽細胞腫、肺小細胞腫、メラノーマ、卵巣がん、横紋筋肉腫、腎臓がん、膵臓がん、悪性中皮腫、前立腺がん等である。「治療」とは、標的疾患に特徴的な症状又は随伴症状を緩和すること(軽症化)、症状の悪化を阻止ないし遅延すること等が含まれる。「予防」とは、疾病(障害)又はその症状の発症/発現を防止又は遅延すること、或いは発症/発現の危険性を低下させることをいう。一方、「改善」とは、疾病(障害)又はその症状が緩和(軽症化)、好転、寛解、又は治癒(部分的な治癒を含む)することをいう。

【0065】
本発明のCAR遺伝子導入リンパ球を細胞製剤の形態で提供することもできる。本発明の細胞製剤には、本発明のCAR遺伝子導入リンパ球が治療上有効量含有される。例えば1回の投与用として、1×104個~1×1010個の細胞を含有させる。細胞の保護を目的としてジメチルスルフォキシド(DMSO)や血清アルブミン等、細菌の混入を阻止する目的で抗生物質等、細胞の活性化、増殖又は分化誘導などを目的とした各種の成分(ビタミン類、サイトカイン、成長因子、ステロイド等)等の成分を細胞製剤に含有させてもよい。

【0066】
本発明のCAR遺伝子導入リンパ球又は細胞製剤の投与経路は特に限定されない。例えば、静脈内注射、動脈内注射、門脈内注射、皮内注射、皮下注射、筋肉内注射、又は腹腔内注射によって投与する。全身投与によらず、局所投与することにしてもよい。局所投与として、目的の組織・臓器・器官への直接注入を例示することができる。投与スケジュールは、対象(患者)の性別、年齢、体重、病態などを考慮して作成すればよい。単回投与の他、連続的又は定期的に複数回投与することにしてもよい。

【0067】
本発明のCAR遺伝子導入リンパ球を用いた治療法では、治療上有効量のCAR遺伝子導入リンパ球を患者に投与する。本発明のCAR遺伝子導入リンパ球はその特徴的な構成(NUDT15遺伝子を標的とするsiRNA及び/又はTPMT遺伝子を標的とするsiRNAが生成する)により、チオプリン高感受性という特性を示す。そのため、チオプリン製剤の投与によってその制御、即ち特異的な細胞死の誘導が可能となる。例えば、CAR遺伝子導入リンパ球投与後に異常増殖や過剰なサイトカインの放出が認められた場合にチオプリン製剤を患者に投与し、当該副作用の鎮静化を図る。適量のチオプリン製剤を使用することにすれば、CAR遺伝子導入リンパ球の完全な除去には至らず、副作用が鎮静化した後、残存したCAR遺伝子導入リンパ球による治療効果の維持を期待できる。ここでの「適量」の設定においては、使用するチオプリン製剤、治療対象の疾患、患者の状態等を考慮するとよい。具体例を示すと、小児急性白血病患者への適用の場合、維持療法時の平均最高血漿濃度(88 ng/mL~195 ng/mL)の1/20~1/2になるように、適量(チオプリン製剤の使用量)を設定することができる。尚、重篤な副作用が認められた場合には、全てのCAR遺伝子導入リンパ球に細胞死を誘導できる量のチオプリン製剤を投与し、副作用の速やかな収束を目指すことが望まれる。

【0068】
CAR遺伝子導入リンパ球の細胞死の誘導に用いられるチオプリン製剤として、6-メルカプトプリン(6-mercaptopurine:6-MP)を有効成分としたロイケリン、Purinethol等、アザチオプリン(azathioprine:AZA)を有効成分としたイムラン、アザニン等を例示することができる。

【0069】
3.CAR遺伝子導入リンパ球調製用のベクター及びキット
本発明の更なる局面は本発明の調製方法に利用可能なベクター(CAR遺伝子導入リンパ球調製ベクター)及びキット(CAR遺伝子導入リンパ球調製キット)に関する。本発明のCAR遺伝子導入リンパ球調製ベクターは、CAR発現カセットとsiRNA発現カセットを搭載したもの(即ち、CAR-siRNAベクター)であり、一つのベクターで当該二つの発現カセットの標的細胞への導入を可能にする。CAR発現カセットにはCAR遺伝子の他、CAR遺伝子の発現に必要なプロモーター(CMV-IE、SV40ori、レトロウイルスLTP、SRα、EF1α、βアクチンプロモーター等)が含まれる。siRNA発現カセットには、siRNA用コンストラクト、即ち、NUDT15 siRNAを細胞内で生成する核酸コンストラクト(第1核酸コンストラクト)又はTPMT siRNAを細胞内で生成する核酸コンストラクト(第2核酸コンストラクト)、或いはこれらの両者と、siRNA用コンストラクトの発現に必要なプロモーター(U6プロモーター、H1プロモーター、tRNAプロモーター等)が含まれる。本発明のベクターに、検出用遺伝子(レポーター遺伝子、細胞又は組織特異的な遺伝子、選択マーカー遺伝子など)、エンハンサー配列、WRPE配列等を含めることができる。

【0070】
好ましくは、トランスポゾン法に利用されるベクターとして本発明のベクターを構築する。この場合、典型的には、CAR発現カセットとsiRNA発現カセットが一対のトランスポゾン逆向き反復配列に挟まれた構造(例えば5'側トランスポゾン逆向き反復配列、CAR発現カセット、siRNA発現カセット、3'側トランスポゾン逆向き反復配列の順に配置される)をベクターが備えることになる。

【0071】
本発明のキットの一態様は、トランスポゾン法を利用したCAR遺伝子導入リンパ球の調製方法に適したキットである。当該キットは、一対のトランスポゾン逆向き反復配列に挟まれた「CAR発現カセットとsiRNA発現カセット」を搭載した上記CAR-siRNAベクターとトランスポザーゼ発現ベクターを含む。CAR-siRNAベクターに組み込まれた一対のトランスポゾン逆向き反復配列と対応するようにトランスポザーゼを選択する。例えば、piggyBac逆向き反復配列とpiggyBacトランスポザーゼの組合せを採用する。

【0072】
本発明のキットの別の態様は、大別して2種類のベクター、即ち、CARベクターと、siRNAベクターを含む。換言すると、このキットではCAR発現カセットとsiRNA発現カセットが別々のベクターに搭載される。このキットを使用する際には、例えば、CARベクターと、siRNAベクターで標的細胞を共形質転換(コトランスフェクション)する、或いは、片方のベクターで標的細胞を形質転換した後、形質転換体(ベクター導入標的細胞)を他方のベクターで形質転換する。siRNAベクターとしては、NUDT15 siRNA発現カセットを搭載したベクター若しくはTPMT siRNA発現カセットを搭載したベクター、又はこれらの両者、或いは、NUDT15 siRNA発現カセットとTPMT発現カセットを搭載したベクターを用いる。これらのベクターが備えるべき構造は上記の通りである(1.の欄を参照)。各ベクターは、ウイルス遺伝子導入法、又は非ウイルス導入法に使用できるように構築される。好ましくは、非ウイルス導入法の一つであるトランスポゾン法での遺伝子導入に適するように各ベクターを構築する。即ち、CAR発現カセットが一対のトランスポゾン逆向き反復配列に挟まれた構造を備えるようにCARベクターを構築し、同様にsiRNA発現カセットが一対のトランスポゾン逆向き反復配列に挟まれた構造を備えるようにsiRNAベクターを構築する。当該キットには、トランスポザーゼを供給するためのトランスポザーゼ発現ベクターも含まれる。CARベクターに組み込まれる一対のトランスポゾン逆向き反復配列と、siRNAベクターに組み込まれる一対のトランスポゾン逆向き反復配列は、組み合わせるトランスポザーゼ発現ベクターが発現するトランスポザーゼの作用を受けるものとする。即ち、トランスポゾンとトランスポゾン逆向き反復配列が対応するように構成する。

【0073】
遺伝子導入操作に使用する試薬、器具、装置等、形質転換体の検出や選択などに使用する試薬、器具、装置等を本発明のキットに含めてもよい。尚、通常、本発明のキットには取り扱い説明書が添付される。
【実施例】
【0074】
CAR療法における新たな自殺遺伝子システムの開発を目指し、以下の検討を行った。
【実施例】
【0075】
1.材料及び方法
<pIRII-CAR.CD19-NUDT15KDベクター(図1)の作製>
(1)既報のCD19.CAR発現piggyBacトランスポゾンベクター(pIRII-CAR.CD19。Saito S, Nakazawa Y, Sueki A, Matsuda K, Tanaka M, Yanagisawa R, Maeda Y, Sato Y, Okabe S, Inukai T, Sugita K, Wilson MH, Rooney CM, Koike K. Anti-leukemic potency of piggyBac-mediated CD19-specific T cells against refractory Philadelphia chromosome-positive acute lymphoblastic leukemia. Cytotherapy. 2014 Sep;16(9):1257-69.)を制限酵素MunIとClaIの両者で切断した。
(2)U6プロモーター下でNUDT15遺伝子の発現を抑制するshRNA(NUDT15KD)配列及びその両側に制限酵素認識配列(5’側にMunI認識配列、3’側にClaI認識配列)を有するDNA断片(図2、配列番号13、配列番号14。各々、U6プロモーター(配列番号15)、shRNAをコードする配列(配列番号16、配列番号17)を含む)をMunIとClaIの両者で切断した。
(3)(1)で得られた6341bpのDNA断片と、(2)で得られた339bp (No1.)又は341bp (No.2)のDNA断片を各々T4 DNA ligaseを用いてライゲーションした。
(4)コンピテントセルを用いて、(3)で得られた6680bp (No.1)と6682bp (No.2)の環状DNAプラスミドを大量増幅した。
(5)シーケンサーを用いて全塩基配列(配列番号10、11)を確認した。
【実施例】
【0076】
<pIRII-CAR.CD19-TPMTKDベクター(図3)の作製>
(1)既報のCD19.CAR発現piggyBacトランスポゾンベクターを制限酵素MunIとClaIの両者で切断した。
(2)U6プロモーター下でTPMT遺伝子の発現を抑制するshRNA(TPMTKD)配列及びその両側に制限酵素認識配列(5’側にMunI認識配列、3’側にClaI認識配列)を有するDNA断片(図4、配列番号18。U6プロモーター(配列番号15)、shRNAをコードする配列(配列番号19)を含む)をMunIとClaIの両者で切断した。
(3)(1)で得られた6341bpのDNA断片と、(2)で得られた339bpのDNA断片をT4 DNA ligaseを用いてライゲーションした。
(4)コンピテントセルを用いて、(3)で得られた6680bpの環状DNAプラスミドを大量増幅した。
(5)シーケンサーを用いて全塩基配列(配列番号12)を確認した。
【実施例】
【0077】
<CD19.CAR-NUDT15KD-T細胞及びCD19.CAR-TPMTKD-T細胞の調製>
(1)末梢血約10 mlより比重遠心分離法を用いて単核球(PBMC)を分離した。
(2)4D-NucleofectorTM装置とP3 Primary Cell 4D-NucleofectorTM Xキット(ロンザ社)の組み合わせによるエレクトロポレーション法(Program EO-115)を用いて、pIRII-CAR.CD19-NUDT15KDベクター(5μg)とpCMV-piggyBacベクター(5μg)を1x107個のPBMCに遺伝子導入した。
(3)(2)で得られた遺伝子導入細胞と、4種類のウイルス抗原ペプチド(MACS GMP PepTivator; AdV5 Hexon, CMV pp65, EBV EBNA-1, EBV BZLF1, Miltenyi Biotec, Auburn, CA)でパルスした1x106個の放射線照射済みPBMCを混合し、インターロイキン(IL)-7(10 ng/ml, Miltenyi)及びIL-15 (5 ng/ml, Miltenyi) 添加TexMACS培地(Miltenyi)2 mlで満たされた、抗CD28抗体(Miltenyi)を固相化した24ウェル培養プレートの1ウェルに静置した。遺伝子導入3日後、非固相化24ウェル培養プレートの1ウェルに遺伝子導入細胞を移入した。その際、IL-7/IL-15添加TexMACS培地を1 ml交換した。遺伝子導入7日後、遺伝子導入細胞をIL-7/IL-15 (5 ng/ml)添加TexMACS培地30 mlで満たされたG-Rex10培養器(Wilson Wolf Manufacturing Inc, New Brighton, MN)に移入した。遺伝子導入14日目に細胞を回収した(CD19.CAR-NUDT15KD-T細胞, CD19.CAR-TPMTKD-T細胞)。一部の細胞を用いてCD19 CAR蛋白の発現をフローサイトメトリー法で確認した。尚、対照群として、既報のpIRII-CAR.CD19ベクターにコントロール(SNC1) shRNAを挿入したpIRII-CAR.CD19-SNC1KDを遺伝子導入したCD19.CAR-T細胞(コントロール)及び遺伝子未導入T細胞(mock T細胞)も同様の方法で増幅培養した。
【実施例】
【0078】
<共培養実験>
48ウェル培養プレートの1ウェルにCD19.CAR-T細胞(コントロール)、CD19.CAR-NUDT15KD-T細胞、CD19.CAR-TPMTKD-T細胞の各々3x105個を、3x105個の急性リンパ性白血病(ALL)細胞株SU/SRとT細胞:白血病細胞比1:1で各条件4ウェルずつ、1 mlの10%ウシ胎仔血清含RPMI1640培地下で5日間共培養した。T細胞単独の条件も4ウェルずつ培養した。共培養開始2日目に各培養条件に対し、6-MPを0、5、10、50 ng/mLの濃度で添加した。6-MP添加72時間後に、ウェル毎に細胞を回収し、トリパンブルー染色で生細胞数をカウントし、抗CD3-APC抗体と抗CD19-PE抗体で染色した後フローサイトメトリー法でCD3陽性細胞(T細胞)とCD19陽性細胞(ALL細胞)の比率を測定した。また同時に、CD3陽性細胞のCD19 CAR発現率をF(ab’)2 Fragment Goat anti-human IgG-FITC抗体を用いて解析した。
【実施例】
【0079】
2.結果
NUDT15遺伝子あるいはTPMT遺伝子の発現をノックダウンするCD19.CAR発現ベクター(pIRII-CAR.CD19-NUDT15KD及びpIRII-CAR.CD19-TPMTKD)を構築した(図1、図3)。pIRII-CAR.CD19-NUDT15KDを発現させたT細胞(CD19.CAR-NUDT15KD-T細胞)及びpIRII-CAR.CD19-TPMTKDを発現させたT細胞(CD19.CAR-TPMTKD-T細胞)の遺伝子導入14日目の細胞数とCAR発現率を確認したところ、コントロールと大差はなかった(図5)。また、急性リンパ性白血病(ALL)細胞株SU/SRとの共培養の結果、CD19.CAR-NUDT15KD-T細胞とCD19.CAR-TPMTKD-T細胞は強力な抗白血病効果を発揮する一方で、6-MPに対して高い感受性を示した(図7)。CD19.CAR-NUDT15KD-T細胞では6-MPの濃度依存性に細胞死が誘導された(図7左)。
【実施例】
【0080】
3.考察
CD19.CAR-T細胞におけるNUDT15遺伝子又はTPMT遺伝子の発現抑制は、CAR-T細胞の自殺機能になることが示された。即ち、NUDT15遺伝子又はTPMT遺伝子の発現抑制を利用した自殺遺伝子システムの有効性を確認できた。その自殺効果は、小児急性白血病患者における維持療法時の平均最高血漿濃度(Lafolie P, Bjork O, Hayder S, Ahstrom L, Peterson C. Variability of 6-mercaptopurine pharmacokinetics during oral maintenance therapy of children with acute leukemia. Med Oncol Tumor Pharmacother. 1989;6(4):259-65.; Hayder S, Lafolie P, Bjork O, Peterson C. 6-mercaptopurine plasma levels in children with acute lymphoblastic leukemia: relation to relapse risk and myelotoxicity. Ther Drug Monit. 1989 Nov;11(6):617-22.; Kato Y, Matsushita T, Chiba K, Hijiya N, Yokoyama T, Ishizaki T. Dose-dependent kinetics of orally administered 6-mercaptopurine in children with leukemia. J Pediatr. 1991 Aug;119(2):311-6.; Lafolie P, Hayder S, Bjork O, Ahstrom L, Liliemark J, Peterson C. Large interindividual variations in the pharmacokinetics of oral 6-mercaptopurine in maintenance therapy of children with acute leukaemia and non-Hodgkin lymphoma. Acta Paediatr Scand. 1986 Sep;75(5):797-803.)の約1/20~1/2の濃度で発揮された。6-MPの濃度を上げることによりCD19.CAR-T細胞に完全な細胞死が誘導されることが予想される。一方、6-MPは細胞周期のS期に作用することから、至適濃度以下で6-MPを投与することにより、異常増殖したもしくは過剰にサイトカインを放出したCD19.CAR-T細胞のみに細胞死を誘導できる可能性がある。また、6-MPは髄液中に移行することから(Hayder S, Lafolie P, Bjork O, Ahstrom L, Peterson C. 6-Mercaptopurine in cerebrospinal fluid during oral maintenance therapy of children with acute lymphoblastic leukemia. Med Oncol Tumor Pharmacother. 1988;5(3):187-9.)、6-MPを自殺起動薬に利用した新規自殺遺伝子システムは、CD19.CAR-T細胞療法の中枢神経合併症の治療にも有効であることを期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、CAR療法におけるon/off-target副作用や高サイトカイン血症、移植片対宿主病(GVHD)の問題に解決策を提供する。本発明の自殺遺伝子システムによれば、CAR療法の治療効果を維持しつつその安全性を高めることができる。
【0082】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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