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明細書 :イオン性固体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 令和元年9月19日(2019.9.19)
発明の名称または考案の名称 イオン性固体
国際特許分類 C07C 323/58        (2006.01)
C07F  19/00        (2006.01)
FI C07C 323/58 CSP
C07F 19/00
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 19
出願番号 特願2018-547855 (P2018-547855)
国際出願番号 PCT/JP2017/039329
国際公開番号 WO2018/079831
国際出願日 平成29年10月31日(2017.10.31)
国際公開日 平成30年5月3日(2018.5.3)
優先権出願番号 2016212460
優先日 平成28年10月31日(2016.10.31)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DJ , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JO , JP , KE , KG , KH , KN , KP , KR , KW , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT
発明者または考案者 【氏名】今野 巧
【氏名】吉成 信人
出願人 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
個別代理人の代理人 【識別番号】110000084、【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4H006
4H050
Fターム 4H006AA01
4H006AA03
4H006AB91
4H006TA04
4H006TC34
4H050AA01
4H050AA03
4H050AB91
4H050WB14
4H050WB15
要約 二次電池に使用可能な高いイオン伝導率を示す新たなイオン性固体及びそれを含有するイオン伝導体の提供。
Ir、Rh、Co、Os、Ru、Fe、Ni、Cr又はMnから選択される1種の金属M1とZn、Cd、Hg、Au、Ag又はCuから選択される1種の金属M2(ただし、M1がRhのときM2はZnではない)と配位子からなるアニオン性異種金属錯体が、集積して結晶格子を形成し、結晶格子の隙間にカチオン種が存在するイオン性固体。
特許請求の範囲 【請求項1】
Ir、Rh、Co、Os、Ru、Fe、Ni、Cr又はMnから選択される1種の金属M1とZn、Cd、Hg、Au、Ag又はCuから選択される1種の金属M2(ただし、M1がRhのときM2はZnではない)と配位子からなるアニオン性異種金属錯体が、集積して結晶格子を形成し、結晶格子の隙間にカチオン種が存在するイオン性固体。
【請求項2】
一般式(1)
(X)l〔(M1)4(M2)4(Am)12(E)m〕・nH2O・・・・・(1)
(式中、M1はIr、Rh、Co、Os、Ru、Fe、Ni、Cr又はMnを示し;
2はZn、Cd、Hg、Au、Ag又はCuを示し(ただし、M1がRhのときM2はZnではない);
Xはカチオンを示し;
Amはアミノ酸を示し;
EはO2-、S2-、Se2-、Te2-、F-、Cl-、Br-又はI-を示し;
lはXのイオン価との積が4~14になる数を示し;
mは0又は1の数を示し;
nは1~100の数を示す。)
で表されるイオン性固体。
【請求項3】
アニオン性異種金属錯体が一般式(2)
〔(M1)4(M2)4(Am)12(E)ml-・・・・・(2)
(式中、M1はIr、Rh、Co、Os、Ru、Fe、Ni、Cr又はMnを示し;
2はZn、Cd、Hg、Au、Ag又はCuを示し(ただし、M1がRhのときM2はZnではない);
Xはカチオンを示し;
Amはアミノ酸を示し;
EはO2-、S2-、Se2-、Te2-、F-、Cl-、Br-又はI-を示し;
lはXのイオン価との積が4~14になる数を示し;
mは0又は1の数を示す。)
で表される錯体である請求項1又は2記載のイオン性固体。
【請求項4】
Amが、チオール基を有するアミノ酸である請求項2又は3記載のイオン性固体。
【請求項5】
Xが、第1族又は第2族に属する金属のカチオンである請求項2~4のいずれか1項記載のイオン性固体。
【請求項6】
1が、Rh又はCoを示し、M2がAg又はZnを示す請求項2~5のいずれか1項記載のイオン性固体。
【請求項7】
Amが、システイン、ペニシラミン及びホモシステインから選ばれるアミノ酸である請求項2~6のいずれか1項記載のイオン性固体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項記載のイオン性固体を有するイオン伝導体。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項記載のイオン性固体を有する固体電解質。
【請求項10】
請求項8記載のイオン伝導体を含有する電気化学的デバイス。
【請求項11】
イオン二次電池、エレクトロクロミック素子及び熱電素子から選ばれる電気化学的デバイスである請求項10記載の電気化学的デバイス。
【請求項12】
請求項1~7のいずれか1項記載のイオン性固体を有するカチオン分離剤。
【請求項13】
放射性セシウムイオン分離剤である請求項12記載のカチオン分離剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン性固体並びにそれを用いたイオン伝導体及びカチオン分離剤に関する。
【背景技術】
【0002】
充放電可能な二次電池としては、鉛蓄電池が主流であったが携帯電話やノートパソコン等の開発により、高容量で小型軽量な二次電池としてリチウムイオン二次電池が使用されている。現在広く使用されているリチウムイオン二次電池は、正極にリチウム遷移金属複合物、負極に炭素材料を用い、電解質に有機溶媒に溶解したリチウム塩が用いられている。このリチウムイオン二次電池は、急速あるいは過度に充電すると正極側では電解液の酸化、結晶構造の破壊により発熱し、負極側では金属リチウムが析出する。この結果、両極が直接繋がり、回路がショートし、最悪の場合は破裂、発火する。
【0003】
そこで近年、電解質として固体電解質を使用した全固体二次電池が開発されつつある。従来報告されている固体電解質としては、リチウム硫化物系電解質(特許文献1、2)、リチウム酸化物系電解質(特許文献3、4)等が知られている。
【0004】
最近、金属錯体の新しい機能に関する研究もなされており、例えばプルシアンブルー型錯体(AxMAB〔(CN)6〕y・zH2O)は、発色制御、イオン伝導体等として研究されている(特許文献5、6)。また、本発明者は、イオン伝導性を示す一部の金属錯体を合成し、発表した(非特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2005-228570号公報
【特許文献2】特開2008-4459号公報
【特許文献3】特開2015-176854号公報
【特許文献4】特開2016-110792号公報
【特許文献5】国際公開第2008/081923号
【特許文献6】特開2016-50133号公報
【0006】

【非特許文献1】錯体化学会第65回討論会(2015年9月、奈良女子大学)3Aa-03 Ionic Conductivities of Alkaline Metal Salts of a RhIII4ZnII4 Octanuclear Complex with L-cysteinate
【非特許文献2】Inorg. Chem., 1994, 33, 538.
【非特許文献3】Cryst. Eng. Comm., 2013, 15, 10016-10019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記リチウム硫化物系電解質は硫化水素を発生することから実用化に至っていない。一方、リチウム酸化物系電解質はセラミック系であることから、成形のためには1000℃近い高温処理が必要であり、電池デバイスの作製には不向きである。また、プルシアンブルー型金属錯体は、特許文献6記載のようにプロトン伝導性を示すが、金属イオン伝導性を示さないため二次電池には使用できない。また、非特許文献1~3記載の金属錯体は、電池等に使用される成形体とした場合には十分なイオン伝導率を示さなかった。
従って、本発明の課題は、二次電池に使用可能な高いイオン伝導率を示す新たなイオン性固体及びそれを含有するイオン伝導体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者は、種々の金属錯体を製造し、その特性、機能を検討してきたところ、下記一般式(1)で表されるイオン性固体であって、アニオン性異種金属錯体が集積して結晶格子を形成し、結晶格子の隙間にカチオン種が存在するイオン性固体が、水分、湿度に対して安定であり、カチオン種は高い運動性を示し、実用性のあるペレット等の成形体とした場合であっても極めて高い金属イオン伝導率を示すとともに、セシウムイオン等のカチオンを速やかに交換する機能を有し、イオン伝導体、固体電解質、カチオン分離剤として有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔13〕を提供するものである。
【0010】
〔1〕Ir、Rh、Co、Os、Ru、Fe、Ni、Cr又はMnから選択される1種の金属M1とZn、Cd、Hg、Au、Ag又はCuから選択される1種の金属M2(ただし、M1がRhのときM2はZnではない)と配位子からなるアニオン性異種金属錯体が、集積して結晶格子を形成し、結晶格子の隙間にカチオン種が存在するイオン性固体。
〔2〕一般式(1)
(X)l〔(M1)4(M2)4(Am)12(E)m〕・nH2O・・・・・(1)
(式中、M1はIr、Rh、Co、Os、Ru、Fe、Ni、Cr又はMnを示し;
2はZn、Cd、Hg、Au、Ag又はCuを示し(ただし、M1がRhのときM2はZnではない);
Xはカチオンを示し;
Amはアミノ酸を示し;
EはO2-、S2-、Se2-、Te2-、F-、Cl-、Br-又はI-を示し;
lはXのイオン価との積が4~14になる数を示し;
mは0又は1の数を示し;
nは1~100の数を示す。)
で表されるイオン性固体。
〔3〕アニオン性異種金属錯体が一般式(2)
〔(M1)4(M2)4(Am)12(E)ml-・・・・・(2)
(式中、M1はIr、Rh、Co、Os、Ru、Fe、Ni、Cr又はMnを示し;
2はZn、Cd、Hg、Au、Ag又はCuを示し(ただし、M1がRhのときM2はZnではない);
Xはカチオンを示し;
Amはアミノ酸を示し;
EはO2-、S2-、Se2-、Te2-、F-、Cl-、Br-又はI-を示し;
lはXのイオン価との積が4~14になる数を示し;
mは0又は1の数を示す。)
で表される錯体である〔1〕又は〔2〕記載のイオン性固体。
〔4〕Amが、チオール基を有するアミノ酸である〔2〕又は〔3〕記載のイオン性固体。
〔5〕Xが、第1族又は第2族に属する金属のカチオンである〔2〕~〔4〕のいずれかに記載のイオン性固体。
〔6〕M1が、Rh又はCoを示し、M2がAg又はZnを示す〔2〕~〔5〕のいずれかに記載のイオン性固体。
〔7〕Amが、システイン、ペニシラミン及びホモシステインから選ばれるアミノ酸である〔2〕~〔6〕のいずれかに記載のイオン性固体。
〔8〕〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のイオン性固体を有するイオン伝導体。
〔9〕〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のイオン性固体を有する固体電解質。
〔10〕〔8〕記載のイオン伝導体を含有する電気化学的デバイス。
〔11〕イオン二次電池、エレクトロクロミック素子及び熱電素子から選ばれる電気化学的デバイスである〔10〕記載の電気化学的デバイス。
〔12〕〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のイオン性固体を有するカチオン分離剤。
〔13〕放射性セシウムイオン分離剤である〔12〕記載のカチオン分離剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明のイオン性固体は、水分に対して安定であり、容易にペレット化可能であり、ペレット等の成形体の状態で優れたイオン伝導性を示し、イオン二次電池、エレクトロクロミック素子、熱電素子等の電気化学的デバイス材料として有用である。
また、本発明のイオン性固体は、放射性セシウムイオン等のカチオンを速やかに交換するため放射性セシウムイオンに代表されるカチオン分離剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1の反応を示す図である。
【図2】実施例1で得られたイオン性固体の結晶構造を示す図である。
【図3】実施例2で得られたイオン性固体のセシウムイオンに対する交換能を示す図である。
【図4】実施例1および2で得られたイオン性固体のペレット検体に関するイオン伝導率を示す図である。
【図5】本発明イオン性固体のイオン伝導率の湿度依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のイオン性固体は、アニオン性異種金属錯体が結晶格子を形成し、結晶格子の隙間にカチオン種が存在しているものである。結晶格子の隙間にカチオン種が存在するとは、アニオン性異種金属錯体が結晶格子を形成する特定の位置に束縛されているのに対して、カチオン種は結晶格子の隙間において自由な位置に存在している状態を指している。本発明のイオン固体に電場をかけたときに、カチオン種はイオン性固体の中を移動することができるので、カチオン種はいわゆるイオン流動性を示す。本発明のイオン性固体は、固体電解質であり、一般のイオン性固体と同様にイオン交換体でもある。

【0014】
一般のイオン結晶では、カチオン種とアニオン種のイオンサイズが近いために、クーロン引力が効果的に働き、カチオン種とアニオン種の位置が完全に固定される。そのため、カチオン種もアニオン種も動くことができないため、流動性がない。一方本発明のイオン性固体においては、以下に述べる方策により、カチオン種の高い運動性を確保することができる。
第1には、イオンサイズの大きいアニオン種を用いることにより、アニオン種の表面電荷密度を下げ、カチオンーアニオン間のクーロン引力を小さくする。
第2には、水分子を構造中に含ませることにより、カチオンとアニオンの間に水分子が割り込み、水の大きな誘電率によりクーロン引力を低減させる。
第3には、アニオン性異種金属錯体に非クーロン相互作用に有利な置換基(例えば、水素結合を形成しうるアミノ基、カルボキシ基)を配し、アニオン性錯体同士を相互につなぎとめ、カチオン種の運動に必要な、無限に広がった「通路」を形成させることである。特に、球状構造を持つ錯体アニオンを利用した場合には、隣接する錯体アニオン間には外圧でも潰れることのない通路が自発的に形成されるので、好ましい。そのため、本発明のイオン性固体は、ペレットに成形することも出来る。アニオン性異種金属錯体が形成する「通路」をカチオンが流動するため、ペレットを形成したとしてもイオン伝導度の低下が起こりにくいと考えられる。
「通路」の大きさは、本発明に用いられるアニオン性異種金属錯体の直径により決定される。流動するカチオン性イオンの大きさを考慮する必要があるが、本発明の性質を有する「通路」を形成するためには、少なくとも直径1.5nm以上、好ましくは2nm以上のアニオン性異種金属錯体を用いることが好ましい。

【0015】
本発明のイオン性固体は、下記一般式(1)で表される。
(X)l〔(M1)4(M2)4(Am)12(E)m〕・nH2O・・・・・(1)
(式中、M1はIr、Rh、Co、Os、Ru、Fe、Ni、Cr又はMnを示し;
2はZn、Cd、Hg、Au、Ag又はCuを示し(ただし、M1がRhのときM2はZnではない);
Xはカチオンを示し;
Amはアミノ酸を示し;
EはO2-、S2-、Se2-、Te2-、F-、Cl-、Br-又はI-を示し;
lはXのイオン価との積が4~14になる数を示し;
mは0又は1の数を示し;
nは1~100の数を示す。)

【0016】
また、本発明イオン性固体のアニオン性異種金属錯体は一般式(2)で表される。
〔(M1)4(M2)4(Am)12(E)ml-・・・・・(2)
(式中、M1、M2、X、Am、E、l及びmは前記と同じ)

【0017】
1としては、カチオン吸着能及びイオン伝導性の点から、Co、Rhが好ましく、Rhがより好ましい。また、M2としては、カチオン吸着能及びイオン伝導性の点から、Ag、Cu、Znが好ましく、Ag、Znがより好ましく、Agがさらに好ましい。
上記の金属は、アニオン性異種金属錯体の安定性に影響を与える。特にM1とM2の金属の組み合わせは、アニオン性異種金属錯体の高核数化すなわちサイズ増大という観点から好ましい。そのため、カチオン吸着能、イオン伝導性に影響が与えられる。

【0018】
Xはカチオンを示す。Xは通常金属カチオンを示し、典型金属でもランタノイド系を含む遷移金属でも良い。なかでも、第1族又は第2族に属する金属のカチオンが好ましい。Xの典型金属の具体例としては、Li+、Na+、K+、Rb+、Cs+、Be2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Ra2+が挙げられ、Na+、K+、Rb+、Cs+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+がより好ましい。これらのカチオン種は、イオン流動性という点においてアニオン性異種金属錯体との静電的な相互作用が小さいため有利である。また、イオン交換体としては、交換すべきイオン種により最適なカチオン種を選択することもできる。また、イオン性固体の用途によっては、Al3+やTi4+などの価数がより高いものが好ましい場合もある。

【0019】
本発明者らは、本発明のイオン性固体中において、カチオンが、水あるいは錯体アニオンの周辺に配したカルボキシ基と配位結合を形成し、これらの配位結合の切断とイオンの移動が起こる反応が、イオン流動性を示すメカニズムの律速段階であると考えている。カチオンと水あるいはカルボキシラト基との配位結合の交換速度が十分に速いことが、移動速度が速いということであり、そのような観点から、カリウム、ナトリウムなどのアルカリ金属1価カチオンがさらに好ましい。一方、イオン価数が大きいイオンや配位子場安定化エネルギーをもつような遷移金属イオンなどは、交換反応が遅くなり、イオン伝導体、イオン交換体としての性能が低減する傾向にある。

【0020】
lはXのイオン価との積が4~14になる数を示す。例えば、Xが第1族金属イオンである場合、lは4~14の数を示す。Xが第2族金属イオンの場合、lは2~7の数を示す。イオン積が4~14の場合は、運動電荷量が大きいという点で有利である。

【0021】
Amとしては、M1及びM2に配位して安定なアニオン性異種金属錯体を形成する配位子を表す。配位子としては、公知の配位子を用いることもできる。ヒドロキシ基やイミダゾール基、カルボキシ基などの架橋型の官能基は水中での金属-配位子間の結合が強くない場合があるので、用いる場合は本発明の目的を損ねないように注意すべきである。金属イオンへの配位座を複数持つ多座配位子は金属イオンと安定なキレート構造にて配位結合を形成しうるため好ましい。特に、水中で安定に金属配位子結合を形成できるチオール基が存在することが好ましく、チオール基を有するアミノ酸がより好ましい。アミノ基とカルボキシル基の相対位置については限定はなく、αアミノ酸に限らず、いわゆるω位にカルボキシル基があっても良い。また、アミノ基とチオール基は、金属に対してキレート構造を取る配置であることが好ましく、カルボキシル基のβ位またはγ位の配置であることがより好ましい。このようなアミノ酸としては、具体的にはシステイン、ペニシラミン、ホモシステインが好ましく、特にシステイン、ペニシラミンが好ましい。

【0022】
Eはアニオンであり、O2-、S2-、Se2-、Te2-、F-、Cl-、Br-又はI-を示す。Eとしては、O2-、S2-、Cl-、Br-がより好ましく、O2-、S2-がさらに好ましい。mは0又は1の数を示し、mが0のときEは存在しない。Eはアニオン性異種金属錯体を形成する金属イオンの配位圏を満たし安定化させるために存在させるものである。

【0023】
nは1~100の数を示す。nとしては1~80が好ましく、20~80がより好ましく、30~60がさらに好ましい。nは、X(カチオン種)を通過させる媒体の量として、アニオン性配位子の種類、カチオン種の種類により、流動性が増すように調整される。nは、錯体形成後に単離操作の温度、時間等により調節することができる。

【0024】
1とM2の好ましい組み合わせとしては、RhとAg、CoとZn、CoとAg、RhとCuの組み合わせが挙げられ、さらにRhとAg、CoとZn、CoとAgの組み合わせが好ましい。これらの組合わせのときM1とM2の夾雑が起こらず、安定なアニオン性異種金属錯体を形成することができる。

【0025】
本発明のイオン性固体の具体例を挙げれば、次のとおりである。
(X)l〔(Rh)4(Ag)4(cys)12〕・nH2O、(X)l〔(Co)4(Zn)4(cys)12〕・nH2O、(X)l〔(Co)4(Ag)4(cys)12〕・nH2O(x、l、nは前記と同じ)。

【0026】
本発明のイオン性固体は、M1とM2とAmの3種が4:4:12の比で配位している。より具体的には、図1に示すようにM11分子に3分子のAmが配位し、これにM2を反応させることにより、M1:M2:Am=4:4:12の構造を形成している。場合によっては、4個のM2の中心に1個のEが存在している。そしてさらに、イオン性固体(1)は、図2のような結晶構造を有するイオン性固体である。
すなわち、本発明のイオン性固体は、自然界に存在するイオン性固体とは相違し、アニオン性異種金属錯体〔(M14(M24(Am)12(E)m〕が非クーロン力によって形成する結晶格子の隙間をカチオン種((X)l)が流動するというイオン流動型のイオン性固体である。
アニオン性金属錯体の形成する結晶格子の大きさは、通常1~10nmであり、好ましくは2~6nm、さらに好ましくは2~3nmである。

【0027】
イオン性固体(1)は、例えば金属M1にアミノ酸(Am)を反応させ、次いで金属M2を反応させ、さらにカチオン(X)を反応させることにより製造することができる。
1とアミノ酸との反応は、例えば塩基性水溶液等の溶媒中でM1とアミノ酸を撹拌することにより行うことができる。この反応により、M1(Am)3が得られる。M1(Am)3とM2との反応は、例えば水や酢酸/酢酸カリウム緩衝液等の溶媒中で撹拌下行うことができる。次に得られた化合物とカチオンとの反応は、水中でカチオンの無機塩等を添加することにより行なわれる。

【0028】
得られるイオン性固体(1)の単離操作は、例えばエタノール/メタノール等の添加やカチオン塩を大過剰に添加し、冷暗所に静置することにより行なわれる。

【0029】
本発明のイオン性固体(1)は、水や大気の存在下においても優れたイオン伝導率を示す。また、本発明のイオン性固体は、何ら加熱することなく、ペレットのような成形体への成形が可能であり、かつ成形体の状態におけるイオン伝導率が極めて高く、固体のイオン伝導体、例えば固体電解質として特に有用である。一方、非特許文献1~3記載の金属錯体のペレットにした際のイオン伝導率は、本発明のイオン性固体のそれに比べて低い。
従って、本発明のイオン性固体(1)は、種々の電気化学的デバイスに応用可能である。このような電気化学的デバイスの例としては、イオン二次電池、エレクトロクロミック素子、熱電素子等が挙げられる。

【0030】
ここで、イオン二次電池としては、リチウムイオン二次電池、ナトリウムイオン二次電池等が挙げられる。イオン二次電池とするには、正極に正極活性物質含有層を、負極に炭素材料等を含有する層を、その間に本発明のイオン性固体(固体電解質)含有層を設ければよい。本発明のイオン性固体は、水や水蒸気の存在下でも安定な固体電解質であるから、このイオン二次電池は、全固体イオン二次電池として有用である。また、本発明のイオン性固体は、リチウムイオンだけでなく、ナトリウムイオン、カリウムイオンに対する電導率も高いので、全固体リチウムイオン二次電池、全固体ナトリウムイオン二次電池とすることができる。

【0031】
エレクトロクロミック素子とするには、一対の電極の間に、固体電解質としての本発明イオン性固体とエレクトロクロミック性化合物を含有する組成物を配置すればよい。ここで、エレクトロクロミック性化合物としては、電気化学的な酸化還元反応により物質の呈色状態や光透過度等の光学的吸収の性質が変化する物質であり、例えば国際公開第2012/169093号記載の化合物が挙げられる。

【0032】
本発明者は、本発明イオン性固体(1)が、速やかなカチオン交換能(カチオン分離能)を有することを見出した。すなわち、イオン性固体(1)は、カチオン(X)を有するが、当該カチオンは他のカチオンと容易かつ速やかに交換する特性を有する。従って、イオン性固体(1)を用いれば、環境中に存在する放射性セシウムイオン等のカチオン分離剤として使用することができる。イオン交換可能なカチオンとしては、第1族又は第2族に属する金属のカチオンが挙げられ、例えば、Li+、Na+、K+、Rb+、Cs+、Be2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Ra2+が挙げられる。

【0033】
本発明のイオン性固体(1)をカチオン交換剤又はカチオン分離剤として使用する際、本発明のイオン性固体(1)は結晶の形態で使用してもよいし、ペレット状の形態で使用してもよい。本発明のイオン性固体(1)は、周囲にカチオンが存在すれば速やかに周囲のカチオンと、イオン性固体構造中のカチオン(X)を交換する。従って、分離すべきカチオンが存在する溶液と本発明イオン性固体(1)とを接触させれば、周囲のカチオンを分離することができる。
【実施例】
【0034】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【実施例】
【0035】
実施例1(イオン性固体の製造)
(1)Li8〔(Rh)4(Ag)4(L-cys)12〕の製造
図1に示すような反応により、Li8〔(Rh)4(Ag)4(L-cys)12〕を製造した。
50mgのΔLLL-H3[Rh(L-cys)3]を5mLの水に懸濁させ、これに0.5M LiOHを0.62mL添加すると黄色い溶液が得られた。この溶液に2.5mLの水に19mgの硝酸銀を溶かした無色溶液を添加し撹拌すると、即座に暗赤色溶液となった。この溶液を10分ほど撹拌後、エタノールを数日間蒸気拡散を行うと、暗赤色結晶として、目的物質を得た。単離収率は48%であった。
ΔLLL-H3[Rh(L-cys)3]は、Bull. Chem. Soc. Jpn. 1990, 63, 792あるいはInorg. Chem. 1994, 33, 538-544に記載の方法で合成される。
得られたイオン性固体の結晶構造を図2に示す。
【実施例】
【0036】
(2)同様にして次のイオン性固体を製造した。
Na8〔(Rh)4(Ag)4(L-cys)12
K8〔(Rh)4(Ag)4(L-cys)12
Rb8〔(Rh)4(Ag)4(L-cys)12
Cs8〔(Rh)4(Ag)4(L-cys)12
Mg8〔(Rh)4(Ag)4(L-cys)12
Ca4〔(Rh)4(Ag)4(L-cys)12
Ba4〔(Rh)4(Ag)4(L-cys)12
Mn4〔(Rh)4(Ag)4(L-cys)12
【実施例】
【0037】
実施例2
(1)K6〔(Co)4(Zn)4(L-cys)12O〕の製造
5gのΔLLL-K3[Co(L-cys)3]を0.5Mの酢酸カリウム水溶液(100mL)に溶解させ、これを氷温まで冷却した後に、0.7gの塩化亜鉛を添加すると即座に暗紫色溶液が得られた。このとき、懸濁する場合があり、その場合は、沈殿物をろ別する。この溶液を氷冷下20分撹拌後、50mLのエタノールを添加すると、目的物質の粗粉末として紫色粉末が生じた。この粗粉末を20mLの水に溶かし、不溶物を除去した後、20mLの飽和塩化カリウム水溶液を添加して冷蔵庫で静置すると、暗紫色結晶として目的物質が得られる。単離収率は14%であった。
ΔLLL-K3[Co(L-cys)3]は、J. Chem. Soc., Dalton Trans. 1999, 1221.に記載の方法で合成される。
【実施例】
【0038】
実施例3
(1)K8〔(Co)4(Ag)4(L-cys)12〕の製造
0.3gのΔLLL-K3[Co(L-cys)3]を水(30mL)に溶解させ、0.1M硝酸銀水溶液(3.1mL)を添加すると暗赤褐色溶液が得られた。この溶液を室温にて15分撹拌後、90mLのエタノールを添加すると、目的物質の粗粉末として赤色粉末が得られる。単離収率は36%であった。
前項と同様、ΔLLL-K3[Co(L-cys)3]はJ.Chem.Soc.,Dalton Trans.1999,1221.に記載の方法で合成される。
【実施例】
【0039】
実施例4(イオン交換能の測定)
水/エタノール(1/3)混合液を溶媒として用いて、0.1M酢酸セシウム溶液(溶液A)を準備した。50mLの溶液Aに対して、0.1gのK6[Zn4Co4(L-cys)12O]粉末を加えて、静置した。この時、粉末は溶解していない。時間経過毎に一部をろ別し、それぞれを水/エタノール(1/3)混合液により洗浄した。得られた検体を精秤し、0.6mLの重水に溶かし、133Cs NMRスペクトルを測定した。外部標準試料を用いて133Csシグナルの強度を濃度に換算し、粉末に含まれるセシウムイオンのモル数を決定した。
【実施例】
【0040】
得られた結果を図3に示す。粉末添加後60分で全てのK+イオンがCs+イオンに交換していることが明らかになった。
また、本発明のイオン性固体は、K+/Cs+交換能だけでなく、Na+、Li+、Mg2+、Mn2+、Sr2+のイオン交換能を有することが判明した。特に、K+、Na+、Li+、Cs+のイオン交換能は強かった。
【実施例】
【0041】
実施例5(イオン伝導率の測定)
(1)ペレットの作製
10~20mg程度の粉末状ないし結晶状の検体を3mmφの円筒形セルに詰め、5GPaの圧力で20分以上保持し、ペレットを作製した。
【実施例】
【0042】
(2)イオン伝導性の測定
前項の方法で得られたペレットを東陽テクニカ製SH-Zセルホルダーに圧着した。ケーブルを接続したセルホルダー全体を湿度と温度を調整した恒温槽内部に静置した。この状態で、Wayne Kerr 6430B Component Analyzer を用いて、500kHzから20Hzの周波数範囲で擬似4端子法を用いた交流インピーダンス測定を実施した。
得られた交流インピーダンスについて、実部(Z’)を横軸、虚部(Z”)を縦軸としたNyquistプロットを作成したところ、バルクイオン伝導に由来する半円状の形状が観察された。この直径をイオン伝導に由来するバルク抵抗(R)とみなし、検体全体の抵抗率を算出した。
【実施例】
【0043】
3種の本発明イオン性固体のペレットサンプルのイオン伝導率(σ/Scm-1)の測定結果を図4に示す。
一方、非特許文献1~3記載のLi6[Zn4Rh4(L-cys)12O]を用いたペレットの25℃のイオン伝導率(σ/Scm-1)を測定したところ、2×10-8Scm-1(Li+)であり、本発明のイオン性固体(1)に比べて低いものであった。
【実施例】
【0044】
実施例6(イオン伝導率の湿度依存性)
8[Rh4Ag4(L-cys)12]及びLi8[Rh4Ag4(L-cys)12]を用い、湿度条件を変化させて実施例5と同様にしてイオン伝導率を測定した。その結果を図5に示す。
その結果、本発明のイオン性固体(1)は、高湿度条件下でもイオン伝導率が低下しないことが判明した。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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