TOP > 国内特許検索 > 睡眠段階推定装置、睡眠段階推定方法および睡眠段階推定プログラム > 明細書

明細書 :睡眠段階推定装置、睡眠段階推定方法および睡眠段階推定プログラム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-166195 (P2019-166195A)
公開日 令和元年10月3日(2019.10.3)
発明の名称または考案の名称 睡眠段階推定装置、睡眠段階推定方法および睡眠段階推定プログラム
国際特許分類 A61B   5/16        (2006.01)
A61B   5/11        (2006.01)
FI A61B 5/16 130
A61B 5/11 100
請求項の数または発明の数 5
出願形態 OL
全頁数 15
出願番号 特願2018-057505 (P2018-057505)
出願日 平成30年3月26日(2018.3.26)
発明者または考案者 【氏名】▲高▼玉 圭樹
【氏名】桃原 明里
出願人 【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000925、【氏名又は名称】特許業務法人信友国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4C038
Fターム 4C038PP05
4C038PS07
4C038VA04
4C038VA15
4C038VB31
4C038VB35
4C038VC20
要約 【課題】被測定者に負担をかけずに、被測定者の睡眠段階を精度良く推定する。
【解決手段】被測定者の睡眠中の体動または圧力変化を生体データとして検出する。そして、検出した生体データを周波数解析して、近似心拍中周波成分を検出すると共に、近似心拍中周波成分よりも低い近似心拍低周波成分を、サーカディアンリズム成分に相当する成分として検出する。さらに、検出した近似心拍中周波成分を、近似心拍低周波成分の変動に基づいて補正した値から、睡眠段階を判定する。
【選択図】図4
特許請求の範囲 【請求項1】
被測定者の睡眠中の体動または圧力変化に基づいた生体データを得る生体データ取得部と、
前記生体データ取得部が取得した前記生体データを周波数解析して、近似心拍中周波成分を検出すると共に、前記生体データの前記近似心拍中周波成分よりも低い近似心拍低周波成分を検出するデータ処理部と、
前記データ処理部で検出した前記近似心拍中周波成分を、前記近似心拍低周波成分の変動に基づいて補正した値から、睡眠段階を判定する睡眠段階判定部と、を備える
睡眠段階推定装置。
【請求項2】
前記睡眠段階判定部は、前記近似心拍中周波成分と前記近似心拍低周波成分との差分の値に、補正係数を乗算することで、前記近似心拍中周波成分を補正した値を得るようにし、
得られた前記近似心拍中周波成分を補正した値と、判定用閾値との比較で、睡眠段階を判定する
請求項1に記載の睡眠段階推定装置。
【請求項3】
生体データ取得部は、睡眠中の前記被測定者の圧力変化を検出する圧力検出マットから、生体データを取得するようにした
請求項1~2のいずれか1項に記載の睡眠段階推定装置。
【請求項4】
被測定者の睡眠中の体動または圧力変化に基づいた生体データを生体データ取得部により得る取得処理と、
前記取得処理により取得した前記生体データを周波数解析して、近似心拍中周波成分を検出すると共に、前記生体データの前記近似心拍中周波成分よりも低い近似心拍低周波成分をデータ処理部により検出するデータ処理と、
前記データ処理で検出した前記近似心拍中周波成分を、前記近似心拍低周波成分の変動に基づいて補正した値から、睡眠段階判定部により睡眠段階を判定する睡眠段階判定処理と、を含む
睡眠段階推定方法。
【請求項5】
被測定者の睡眠中の体動または圧力変化に基づいた生体データを得る生体データ取得手順と、
前記生体データ取得手順により取得した前記生体データを周波数解析して、近似心拍中周波成分を検出すると共に、前記生体データの前記近似心拍中周波成分よりも低い近似心拍低周波成分を検出するデータ処理手順と、
前記データ処理手順で検出した前記近似心拍中周波成分を、前記近似心拍低周波成分の変動に基づいて補正した値から、睡眠段階を判定する睡眠段階判定手順と、
をコンピュータに実行させる睡眠段階推定プログラム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の睡眠段階を推定する睡眠段階推定装置、睡眠段階推定方法および睡眠段階推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
医療現場では、睡眠障害などによる睡眠の質の低下を診断するために、被測定者の睡眠段階を測定することが行われている。人間の睡眠段階は、睡眠の深さの観点で6段階に分類したものが知られており、その6つの睡眠段階は、眠りが浅い段階から順に、覚醒、レム睡眠、ノンレム睡眠(ステージ1~4)と呼ばれている。これらの6段階の睡眠段階の判定は、従来、例えば被計測者の顔や頭部に多数の電極を装着して、その多数の電極から脳波、眼球運動、及び顎筋電を測定し、測定結果の解析により行われていた。
【0003】
このような顔や頭部に多数の電極を装着した状態での睡眠段階の検査は、通常、医療機関に宿泊して、長時間連続して電極を身体に装着して行う検査であり、日常と異なる状況での睡眠であるため、被測定者(患者)に精神的な負担と肉体的な負担を強いることになる。また、電極を使って取得したデータは、専門知識と経験を持つ医師が解析して判定する必要があり、睡眠状態を簡単に判定できるものではないという問題があった。
【0004】
これらの問題を解決するために、専門医師による診断を不要とする睡眠段階推定手法が従来から数多く提案されている。
例えば、特許文献1には、遺伝的アルゴリズムによる学習手法を改良したDatabase-based Compact Genetic Algorithmと称される手法で、マットレス型圧力センサの検出データから睡眠段階を推定する技術が記載されている。この特許文献1に記載された技術は、マットレス型圧力センサが検出した被測定者の体動と心拍に基づいて、睡眠段階を推定するものである。このようなマットレス型圧力センサを使って睡眠段階を推定することで、被測定者に負担を強いることなく、被測定者の睡眠状態を推定することができる。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2014-239789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した6段階の睡眠段階を考えた場合に、眠りが浅い段階から順に、覚醒、レム睡眠、4つのノンレム睡眠(ステージ1~4)が存在するが、これら6つの段階を、マットレス型圧力センサのような検出手段を使って精度良く判定することは、非常に難しいという問題があった。
【0007】
図14は、マットレス型圧力センサの出力を使って睡眠段階を判定する従来手法の1つである、非拘束的睡眠段階推定法(Real-time Sleep Stage Estimation:以下、「RSSE法」と称する)の概要を示す。
RSSE法では、まず、被験者の下のマットレスに圧力センサを設け、その圧力センサの出力として、検出信号Saを得る。検出信号Saには、被験者の心拍の成分が含まれている。
RSSE法では、圧力センサの検出信号Saから、複数の三角関数の和で近似することで、近似心拍中周波成分Sbを取り出し、取り出した近似心拍中周波成分Sbと、その近似心拍中周波成分Sbと平均値Scとの差のレベルを判断する。図14の下段は、近似心拍中周波成分Sbと平均値Scとの差の値の変化を示す。RSSE法では、この近似心拍中周波成分Sbと平均値Scとの差の値から、覚醒W、レム睡眠R、ステージ1~4のノンレム睡眠NR1,NR2,NR3,NR4の6段階を判定する。
【0008】
このように、従来から、マットレス組み込み型の圧力センサを使って、RSSE法により睡眠段階を判定できることが知られている。しかしながら、このようにして得られる睡眠段階は、被験者によっては、判定精度が高くない場合があり、より高い精度で簡単に睡眠段階を判定できることが望まれていた。
【0009】
本発明の目的は、被測定者に負担をかけずに、被測定者の睡眠段階を精度よく推定できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の睡眠段階推定装置は、被測定者の睡眠中の体動または圧力変化に基づいた生体データを得る生体データ取得部と、生体データ取得部が取得した生体データを周波数解析して、近似心拍中周波成分を検出すると共に、生体データの近似心拍中周波成分よりも低い近似心拍低周波成分を検出するデータ処理部と、データ処理部で検出した近似心拍中周波成分を、近似心拍低周波成分の変動に基づいて補正した値から、睡眠段階を判定する睡眠段階判定部と、を備える。
【0011】
また、本発明の睡眠段階推定方法は、被測定者の睡眠中の体動または圧力変化に基づいた生体データを生体データ取得部により得る生体データ取得処理と、生体データ取得処理により取得した生体データを周波数解析して、近似心拍中周波成分を検出すると共に、生体データの近似心拍中周波成分よりも低い近似心拍低周波成分をデータ処理部により検出するデータ処理と、データ処理で検出した近似心拍中周波成分を、近似心拍低周波成分の変動に基づいて補正した値から、睡眠段階判定部により睡眠段階を判定する睡眠段階判定処理と、を含む。
【0012】
また、本発明の睡眠段階推定プログラムは、上記睡眠段階判定方法の生体データ取得処理とデータ処理と睡眠段階判定処理とを実行する手順を、コンピュータに実行させるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、近似心拍低周波成分を検出する処理を行うことで、サーカディアンリズムに相当する成分を検出することになり、サーカディアンリズムに基づいて補正した心拍成分から睡眠段階を判定するため、被測定者の体調などを考慮した正確な睡眠段階判定が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態例による睡眠段階判定装置の構成例を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施の形態例による睡眠段階の判定状態の例を示す図である。
【図3】本発明の一実施の形態例の睡眠段階判定装置のハードウェア構成例を示すブロック図である。
【図4】本発明の一実施の形態例による睡眠段階判定処理の全体の流れを示すフローチャートである。
【図5】サーカディアンリズムの例を示す特性図である。
【図6】本発明の一実施の形態例による心拍中周波の定義とパラメータ推定の例を示す図である。
【図7】本発明の一実施の形態例によるパラメータ推定の計算式の導出の例を示す図である。
【図8】本発明の一実施の形態例によるパラメータ推定の概念図である。
【図9】本発明の一実施の形態例による心拍中周波成分、心拍低周波成分の検出と、睡眠段階の判定手法(RSSE-CR手法)の概要を示す原理図である。
【図10】本発明の一実施の形態例による判定手法(RSSE-CR手法)による睡眠段階判定状態と従来の判定手法(RSSE手法)による睡眠段階判定状態とを比較した図である。
【図11】本発明の一実施の形態例による判定手法(RSSE-CR手法)による一致率と、従来の判定手法(RSSE手法)による一致率とを比較した図である。
【図12】本発明の一実施の形態例による生体データ(心拍データ)の検出処理例を示すフローチャートである。
【図13】図12のフローチャートでの判別状態の例を示す特性図である。
【図14】従来手法(RSSE手法)による判定処理の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態例(以下、「本例」と称する)について、添付図面を参照して説明する。なお、以下の説明では、本例の睡眠段階の判定手法を、RSSE-CR(Realtime Sleep Stage Estimation with Circadian Rhythm)手法と称する。
[1.睡眠段階判定装置の構成]
図1は、本例の睡眠段階判定装置10の構成を示すブロック図である。図2は、本例の睡眠段階判定装置10を使って睡眠段階の判定を行う状態の例を示す図である。
本例の睡眠段階判定装置10は、被測定者の体動をマットレスセンサ2で圧力データとして取得する。マットレスセンサ2は、例えば図2に示すように、被測定者Aが睡眠を行うベッド1のマットレスの上に敷いて、被測定者Aの睡眠中の上半身の体動を圧力の変化として検出する。被測定者Aの下側になるマットレスの上にマットレスセンサ2を配置するのは一例であり、例えばマットレスの中にマットレスセンサ2を内蔵させてもよい。
図2では、ベッド1の脇に睡眠段階判定装置10を設置し、マットレスセンサ2と睡眠段階判定装置10をケーブルで接続した例を示すが、例えばマットレスセンサ2が取得した圧力データを、無線伝送で別の部屋の睡眠段階判定装置10に伝送するようにしてもよい。

【0016】
睡眠段階判定装置10は、図1に示すように、生体データ取得部11と、生体データ処理部12と、睡眠段階判定部13と、出力部14とを備える。
生体データ取得部11は、マットレスセンサ2が出力する圧力データを取得する取得処理を行う。生体データ取得部11が取得した圧力データは、生体データ処理部12に供給される。生体データ処理部12は、供給される圧力データの解析処理を行う。具体的には、圧力データをサンプリングしてデジタルデータ化し、そのデジタルデータ化された圧力データを高速フーリエ変換処理(以下、「FFT処理」と称する)することにより、各周波数の成分を取得する。そして、取得したそれぞれの周波数成分の状態から、心拍成分を取得する。本例の場合には、近似心拍中周波と近似心拍低周波を取得する。これらの近似心拍中周波と近似心拍低周波の詳細については後述する。

【0017】
そして、生体データ処理部12で得られた近似心拍中周波と近似心拍低周波に基づいて、睡眠段階判定部13が被測定者Aの睡眠段階を判定する。睡眠段階判定部13は、覚醒、レム睡眠、ノンレム睡眠(ステージ1~4)の6段階の判定を行う。なお、ノンレム睡眠のステージ1~4は、ステージ1から4の順に睡眠が深くなることを示す。例えば、ステージ2はステージ1よりも睡眠が深い状態を示す。

【0018】
出力部14は、睡眠段階判定部13が判定した睡眠段階を出力する。出力部14は、例えば表示装置により構成され、睡眠段階を表示する。あるいは、出力部14を記録装置として構成して、一晩の睡眠状態を記録するようにしてもよい。

【0019】
[2.睡眠段階判定装置のハードウェア構成例]
図3は、睡眠段階判定装置10をコンピュータ装置で構成した場合のハードウェア構成例を示す。
コンピュータ装置Cは、バスC8に接続されたCPU(Central Processing Unit:中央処理装置)C1、ROM(Read Only Memory)C2、及びRAM(Random Access Memory)C3を備える。さらに、コンピュータ装置Cは、不揮発性ストレージC4、ネットワークインターフェイスC5、入力装置C6、及び表示装置C7を備える。

【0020】
CPU C1は、睡眠段階判定装置10の生体データ処理部12や睡眠段階判定部13が備える各機能を実現するソフトウェアのプログラムコードをROM C2から読み出して実行する。圧力データを周波数解析するFFT処理についても、該当する処理を実行するプログラムをROM C2から読み出して、CPU C1が実行する。RAM C3には、演算処理の途中に発生した変数やパラメータ等が一時的に書き込まれる。

【0021】
不揮発性ストレージC4としては、例えば、HDD(Hard disk drive)、SSD(Solid State Drive)、フレキシブルディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、CD-R、磁気テープ、不揮発性のメモリ等が用いられる。この不揮発性ストレージC4には、OS(Operating System)、各種のパラメータの他に、コンピュータ装置Cを睡眠段階判定装置10として機能させるためのプログラムが記録されている。また、睡眠段階判定部13が判定した睡眠段階についてのデータが、不揮発性ストレージC4に記録される。

【0022】
ネットワークインターフェイスC5には、例えば、NIC(Network Interface Card)等が用いられ、端子が接続されたLAN(Local Area Network)、専用線等を介して各種のデータを送受信することが可能である。例えば、コンピュータ装置Cは、マットレスセンサ2が出力する圧力データを、ネットワークインターフェイスC5を介して取得する。入力装置C6は、例えばキーボード等の機器で構成され、この入力装置C6により、睡眠段階判定装置10で睡眠段階を判定する期間の設定や、睡眠段階の表示形態の指示等が行われる。表示装置C7は、睡眠段階判定装置10で判定された睡眠段階を表示する。
なお、睡眠段階判定装置10をコンピュータ装置から構成するのは一例であり、例えばFFT処理などのデータ処理を、専用のハードウェアを用意して行うようにしてもよい。

【0023】
[3.睡眠段階判定処理の全体の流れ]
図4は、本例の睡眠段階判定装置10が行う睡眠段階判定処理手順の全体の流れを示すフローチャートである。
まず、睡眠段階判定装置10の生体データ取得部11は、被測定者の就寝開始から所定のY分間にわたり生体データを取得し、生体データ処理部12は取得したY分間の生体データを記録する(ステップS11)。この生体データを記録するY分間は、生体データから睡眠段階を判定するX分間よりも長い時間とする。被測定者の就寝開始は、被測定者が就寝を開始した時点であり、管理者の指示入力により判断するほか、マットレスセンサ2の信号変化や他のセンサ等により自動判断するようにしてもよい。最初に寝始めから睡眠段階を判定するX分間よりも長いY分間にわたり生体データを取得するのは、生体データがある程度の数だけ集まらないと充分な推定が行えないからである。Y分間の経過前は充分な推定が行えないが、長時間を要するものではないため、その意味では充分なリアルタイム性を確保することができる。

【0024】
次いで、生体データ処理部12は、記録した生体データから、心拍の周波数成分に相当する近似心拍中心周波を算出し、その近似心拍中心周波の成分を取得する(ステップS12)。近似心拍中心周波を算出する処理については、図6~図8で後述する。
そして、生体データ処理部12は、記録した生体データから、近似心拍中心周波を算出し、その近似心拍低周波の成分を取得する(ステップS13)。ここでの近似心拍低周波は、ステップS12で算出した近似心拍中心周波よりも低い周波数成分であり、具体的には、サーカディアンリズムに相当する24時間を周期とした低周波成分である。近似心拍低周波を算出する処理についても後述する。なお、ステップS12とステップS13は、順番を入れ替えて行ってもよく、また、同時に行っても良い。

【0025】
ここで、サーカディアンリズムについて説明する。
サーカディアンリズムは、人間の1日の生活リズムの指標であり、一般的には約24時間を1周期とした波形で表現される。サーカディアンリズムは、人間の体温の変化から計測できることが知られている。

【0026】
図5は、24時間の体温変化から検出されるサーカディアンリズムCRを示す図である。図5に示すように、体温に現れるサーカディアンリズムCRは、非活性時(すなわち睡眠中)に最低値となり、活性時に最高値となるサインカーブ状の特性である。サーカディアンリズムCRが午前3時から午前4時頃にかけて最低値になり、夕方に最高値にある。そして、夕方の最高値から徐々に値が低下し、就寝することで最低値まで低下する。
但し、図5に示すサーカディアンリズムCRは、正常な状態であり、例えば時差ボケがある場合や、夜更かしをした場合には、サーカディアンリズムCRが正常状態からずれてしまう。

【0027】
図4のフローチャートの説明に戻ると、ステップS13では、このサーカディアンリズムCRに相当する約24時間を周期とした近似心拍低周波を算出する処理が行われる。
そして、生体データ処理部12は、近似心拍中心周波から近似心拍低周波を減算して、補正中周波を算出する(ステップS14)。さらに、生体データ処理部12は、算出された補正中周波に、パラメータβを乗算して補正中周波の調整処理を行う(ステップS15)。パラメータβは、1以下の値である。

【0028】
そして、睡眠段階判定部13が、ステップS15で生体データ処理部12により調整された補正中周波を使って、直近のX分間の睡眠段階を推定し、その推定した睡眠段階を出力部14が出力する(ステップS16)。その後、生体データ取得部11が、前回のデータ取得から続いたX分間の生体データの取得処理を行い、取得したX分間の生体データを記録する(ステップS17)。X分間の生体データを記録した後、ステップS12に戻って、記録したX分間の生体データについての処理を繰り返す。

【0029】
[4.近似心拍中周波及び近似心拍低周波の検出処理]
次に、図6~図8を参照して、生体データ処理部12が、マットレスセンサ2の検出データから近似心拍中周波を検出する処理の一例について説明する。
ここでは、まず、心拍の波を定義した数式f(t)のパラメータc、a、bを推定する。

【0030】
図6の上段には、数式f(t)の定義式の例を示しており、基本周期L(寝始めから起床までの就寝時間に対応)とそのn分の1の周期の波の合成として表している。パラメータcは定数項、パラメータaは余弦成分の係数、パラメータbは正弦成分の係数である。なお、時間tとして秒を単位とした場合、基本周期Lは例えば215秒(約9時間)、nの下限値は1、nの上限値Nは例えば25として固定で与えるが、これらの値は一例であり、変更することができる。

【0031】
図6の下段には、パラメータc、a、bの計算式を示している。HR(t)は生体データの時間tにおける値である。mは、計算式の下に示すように、表記を簡略化するためのものである。Tは寝始めから現時点までの時間である。

【0032】
ここで、パラメータの計算式(図6の下段)の導出について、図7を用いて説明する。図7において、心拍の波の値f(t)と、実測値である生体データの値HR(t)との差の二乗の総和を時間Tで割り、正則項を加えたものを尤度関数Jとする。正則項は生体データHR(t)の数が少ない場合のオーバーフィットを抑制するものであり、係数λは例えば1というように、適切な値を与える。

【0033】
心拍の波を定義した数式f(t)が実測値である生体データの値HR(t)と最も一致するパラメータc、a、bを求めるため、尤度関数Jをパラメータc、a、bのそれぞれで偏微分したものを0とおく。これにより、パラメータc、a、bと同数の式を得ることができ、その連立式の解の行列式がパラメータの計算式(図6の下段)となる。

【0034】
図8は上述したパラメータ推定の概念図を示しており、基本周期Lとそのn分の1の周期の波の合成として表したf(t)が実測値である生体データの値HR(t)に最も一致する際のパラメータc、a、bを求めることになる。なお、寝始めから起床までの就寝時間に対応する時間Lに対し、実際に計算を行うのは、寝始めからY分間を経過した後であり、寝始めからその時点までの期間Tの実測値である生体データの値HR(t)に基づいて時間Lの全期間に有効なf(t)を求めることになる。

【0035】
続いて、生体データ処理部12が、マットレスセンサ2の検出データから近似心拍低周波を検出する処理の一例について説明する。
近似心拍低周波を検出する処理は、上述の近似心拍中周波を検出する処理と同様であり、図6及び図7の計算式のパラメータについて、Nを1とし、Lを217秒(約36時間)とすることで、周期が約36時間になるような心拍低周波を求める。
近似心拍低周波は、先に説明したように、約24時間を周期としたサーカディアンリズムに相当する成分を取り出すものであるが、生体データ処理部12では、フーリエ変換における計算を2の累乗で行うことで、計算の簡易化が図れるため、本例の場合には、Lを217秒とした約36時間を周期とした心拍低周波を取り出す処理を行う。

【0036】
近似心拍中周波と近似心拍低周波が得られた後、補正中周波を得る。
補正中周波は、近似心拍中周波と心拍低周波の差分によって、次の式に示すように求められる。ここで、h(t,φMF)は近似心拍中周波、h(t,φLF)は近似心拍低周波を示し、近似心拍中周波と近似心拍低周波のパラメータφは、それぞれφMF,φLFとして最適に計算されているものとする。例えば、近似心拍中周波の場合、上述のとおりN=25、L=215秒とすることが挙げられ、近似心拍低周波の場合、上述のとおりN=1、L=217秒とすることが挙げられる。なお、先に説明した図6の式では、心拍の波をf(t)として示したが、ここではfをhに替えて、hの式として示す。

【0037】
【数1】
JP2019166195A_000003t.gif

【0038】
このようにして、標準化するための基準線を、RSSE手法で示した近似心拍中周波の平均値から、RSSE-CR手法ではサーカディアンリズムに置き換えて、睡眠段階を判定するための値(補正中周波)を得る処理が行われる。
補正中周波を得る際には、次式に示すように、適切な値に設定したパラメータβを乗算して、サーカディアンリズムの重み付け処理を行う。

【0039】
【数2】
JP2019166195A_000004t.gif

【0040】
パラメータβは、例えば0.1から1までの0.1刻みでの適切な値として、そのように設定されたパラメータβを、近似心拍中周波と近似心拍低周波の差に乗算することで、サーカディアンリズムの勾配を調整することが行われる。

【0041】
[5.睡眠段階の判定手法の概要]
次に、本例の睡眠段階判定装置10で、上述した補正中周波から睡眠段階を判定する手法の概要を説明する。
既に図4のフローチャートで説明したように、本例の睡眠段階の判定手法では、近似心拍中周波と近似心拍低周波(サーカディアンリズム成分)とを取得して、近似心拍中周波を補正した補正中周波を得て、睡眠段階を判定するようにした。

【0042】
この睡眠段階の判定を行うために、補正中周波を次式に示すように離散化する。この[数3]式において、h(t,φ)は補正中周波(上述の[数1]式)を示し、s(t)は、時間tにおける睡眠段階を示す。s(t)が離散化時に0以下の値となった場合は0とし、5以上の値になった場合は5とすることで、0から5までの6段階で睡眠を推定する(小数点以下は切り捨て)。
この[数3]式において、aveは平均値、stedevは標準偏差を示す。ここでの平均値aveと標準偏差stedevは、パラメータβ=1.0として求めた値である。

【0043】
【数3】
JP2019166195A_000005t.gif

【0044】
この[数3]式に示すように離散化して得られたs(t)の値、すなわち、0から5までの6段階で、覚醒(W)、レム睡眠(R)、ノンレム睡眠のステージ1(NR1)~ノンレム睡眠のステージ4(NR4)の6段階の睡眠段階を判定する。具体的には、s(t)=0のときノンレム睡眠のステージ4(NR4)、s(t)=1のときノンレム睡眠のステージ3(NR3)、s(t)=2のときノンレム睡眠のステージ2(NR2)、s(t)=3のときノンレム睡眠のステージ1(NR1)、s(t)=4のときレム睡眠(R)、s(t)=5のとき覚醒(W)、と判定する。

【0045】
図9は、RSSE-CR手法の概要を示す図である。
まず、マットレスセンサ2の出力として、生体データ取得部が検出信号Saを得る。このマットレスセンサ2の検出信号Saから、生体データ処理部12が、心拍成分に相当する近似心拍中周波Sbを得ると共に、サーカディアンリズム成分に相当する約24時間周期の近似心拍低周波Sdを得る。
そして、生体データ処理部12は、近似心拍中周波Sbと近似心拍低周波Sdとの差分を、補正中周波として取得する。

【0046】
得られた補正中周波には、パラメータβが乗算され、振幅が調整された補正中周波とされる。例えばパラメータβを最大の1とした補正中周波B1や、パラメータβを0.6とした補正中周波B2が、図9に示すように得られる。パラメータβとしていずれの値を使用するかは、例えば睡眠段階判定時の調整により決定する。

【0047】
そして、睡眠段階判定部13は、補正中周波(例えば補正中周波B1またはB2)の値から、睡眠段階を判定する。ここでは、覚醒W、レム睡眠R、ステージ1~4のノンレム睡眠NR1,NR2,NR3,NR4の6段階を判定する。

【0048】
[6.RSSE-CR手法とRSSE手法との比較]
図10および図11は、本例の睡眠段階判定装置10で行われる睡眠段階の判定手法であるRSSE-CR手法を、従来手法であるRSSE手法と比較した図である。
図10(A)は、RSSE-CR手法によって取り出した心拍中周波Sbと、心拍低周波(サーカディアンリズム成分)Sdとを示す。
図10(B)は、従来手法であるRSSE手法によって取り出した心拍中周波Sbと、その心拍中周波の平均Scとを示す。
図10(A)および図10(B)のいずれの場合も、各周波を取り出す元の生体データSaは同じ信号である。

【0049】
図10(C)は、図10(A)に示すRSSE-CR手法で得た補正中周波から、6段階(覚醒W、レム睡眠R、ノンレム睡眠NR1~NR4)の睡眠段階を判定した例を示す。
図10(D)は、図10(B)に示すRSSE手法で得た補正中周波から、6段階の睡眠段階を判定した例を示す。
この図10(C)と図10(D)を比較すると分かるように、例えば図10(A)の範囲a1から判別した睡眠段階の判定値(範囲c1の判定値)と、図10(B)の同じ範囲b1から判別した判定値(範囲d1の判定値)には、大きな相違がある。同様に、例えば図10(A)の範囲a2から判別した睡眠段階の判定値(範囲c2の判定値)と、図10(B)の同じ範囲b2から判別した判定値(範囲d2の判定値)についても、大きな相違がある。

【0050】
これはRSSE-CR手法が、サーカディアンリズムを考慮して補正を行うようにしたため、従来手法であるRSSE手法よりもより正確に、被測定者の睡眠段階を判別できていることを示す。

【0051】
図11は、予め睡眠段階が既知の9種類の生体データ[01]~[09]に対して、従来手法であるRSSE手法で得た睡眠段階の一致度と、RSSE-CR手法で補正パラメータβを1.0とした場合の睡眠段階の一致度と、RSSE-CR手法で補正パラメータβを0.6とした場合の睡眠段階の一致度とを示す。ここでの既知の睡眠段階は、脳波計を使って得た睡眠段階である。
図11から分かるように、補正パラメータβが0.6と1.0のいずれの場合でも、全体的には従来手法(RSSE手法)より一致度が高くなるが、補正パラメータβが1.0の場合には、従来手法より一致度が若干低くなるケースもある。また、補正パラメータβが0.6の場合には、全ての生体データ[01]~[09]で、従来手法より一致度が高くなっていることが分かる。

【0052】
以上説明したように、本例の睡眠段階判定装置10によると、睡眠段階を従来よりも正確に判別できるようになる。すなわち、本例の睡眠段階判定装置10によると、図2に示すように被測定者が睡眠を行うベッド1の下に敷いたマットレスセンサ2から得たセンサ値の解析のみで、被測定者の頭部に電極を装着して行う測定手法とほぼ同等の高精度の睡眠段階の判別ができるようになる。したがって、被測定者の体に電極を装着するなどの負担を強いることなく、精度の良い測定ができ、日常的に睡眠している状態と全く同じ状態で、被測定者の睡眠状態を測定できるようになる。

【0053】
[7.生体データ(心拍データ)の検出処理]
本発明は、マットレスセンサより得られる圧力センサのデータより生体データとしての心拍データが取得できることを前提としている。
ここで、図12は、ステップS11(図4)で取得される生体データ(心拍データ)の取得に関する処理の例を示すものである。
まず、生体データ処理部12は、取得した圧力センサのデータをFFT処理する(ステップS21)。そして、生体データ処理部12は、FFT処理して得られた各周波数帯を比較して、パワースペクトルのピークが1つか否かを判断する(ステップS22)。

【0054】
ここで、パワースペクトルのピークが1つであり、かつピークの左右に偏りが無い場合には(ステップS22のYES)、そのパワースペクトルのピーク位置の周波数成分の値を、心拍の値に決定する(ステップS23)。このピーク位置の周波数を心拍とする処理を、最大値手法と称する。
また、ステップS22の判断でパワースペクトルのピークが1つでない場合、又はピークの左右に偏りができる場合には(ステップS22のNO)、全ての周波数成分を並べたパワースペクトルを展開して、そのパワースペクトルの面積が半分になる位置の周波数成分の値を、心拍の値に決定する(ステップS24)。この面積が半分になる周波数を心拍とする処理を、面積手法と称する。

【0055】
図13は、最大値手法と面積手法の概要を示す図である。図13(A)および図13(B)において、横軸はFFT処理をした周波数帯域の番号であり、左側が低い周波数帯域である。また、縦軸は各周波数帯域の成分の値である。
図13(A)は、最大値手法で心拍データを得る場合である。この場合には、パワースペクトルのピーク位置f1が明確で1つに定まり、そのピーク位置f1を与える周波数を心拍の値に決定する。

【0056】
図13(B)は、面積手法で心拍データを得る場合である。この場合には、パワースペクトルのピーク位置が不明確であり、最大値手法で心拍の値を得ることができない。この面積手法には、図13(B)に示すように、FFT処理で得られた周波数帯域と各帯域の値を展開したグラフ上で、低い周波数成分の面積x1と、高い周波数成分の面積x2とが等しくなる、面積上の中点に相当する周波数帯域の位置f2を算出する。
この面積上の中点に相当する位置f2を与える周波数を心拍の値に決定する。
生体データ処理部12はこうして得られた心拍データに基づいて、上述のとおり近似心拍中周波及び近似心拍低周波を算出する。なお、もちろん、心拍データの検出処理は、生体データ処理部12で行われる必要はなく、マットレスセンサ2側で行われ、心拍データが生体データ処理部12に送信される構成でもよい。

【0057】
[8.変形例]
なお、上述した実施の形態例では、覚醒、レム睡眠、ステージ1~ステージ4のノンレム睡眠の6段階の睡眠段階の判定を行うようにしたが、例えばステージ4のノンレム睡眠などの一部の睡眠段階の判定は省略して、5段階や4段階などのより少ない段数での判定を行うようにしてもよい。

【0058】
また、上述した実施の形態例では、近似心拍中周波及び近似心拍低周波を検出する処理として、図14に示した三角関数近似法により算出しているが、リアルタイムに睡眠段階を判定する必要が無く、就寝から起床までの心拍データがそろっている場合には、FFT処理をして所定の周波数帯域の成分のみを抽出することで、これら近似心拍中周波及び近似心拍低周波を検出してもよい。
【符号の説明】
【0059】
1…ベッド、2…マットレスセンサ、10…睡眠段階判定装置、11…生体データ取得部、12…生体データ処理部、13…睡眠段階判定部、14…出力部、A…被測定者、C…コンピュータ装置、C1…CPU、C2…ROM、C3…RAM、C4…不揮発性ストレージ、C5…ネットワークインターフェイス表示部、C6…入力装置、C7…表示装置、C8…バス
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13