TOP > 国内特許検索 > 抗HIV治療薬を利用した抗がん剤 > 明細書

明細書 :抗HIV治療薬を利用した抗がん剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-184373 (P2018-184373A)
公開日 平成30年11月22日(2018.11.22)
発明の名称または考案の名称 抗HIV治療薬を利用した抗がん剤
国際特許分類 A61K  45/00        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61K  31/4725      (2006.01)
A61K  31/496       (2006.01)
A61K  31/427       (2006.01)
A61K  31/472       (2006.01)
A61K  31/513       (2006.01)
A61K  31/341       (2006.01)
A61K  31/4402      (2006.01)
A61K  31/4433      (2006.01)
A61K  31/665       (2006.01)
A61K  31/34        (2006.01)
C07K  14/47        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI A61K 45/00 ZNA
A61P 35/00
A61P 43/00 111
A61K 31/4725
A61K 31/496
A61K 31/427
A61K 31/472
A61K 31/513
A61K 31/341
A61K 31/4402
A61K 31/4433
A61K 31/665
A61K 31/34
C07K 14/47
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 4
出願形態 OL
全頁数 10
出願番号 特願2017-087470 (P2017-087470)
出願日 平成29年4月26日(2017.4.26)
発明者または考案者 【氏名】和久 剛
【氏名】小林 聡
【氏名】畠中 惇至
出願人 【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4C084
4C086
4H045
Fターム 4C084AA17
4C084NA14
4C084ZB262
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA03
4C086BC17
4C086BC30
4C086BC42
4C086BC50
4C086BC82
4C086CA01
4C086DA37
4C086GA01
4C086GA02
4C086GA07
4C086GA08
4C086GA10
4C086NA14
4C086ZB26
4H045BA10
4H045CA40
要約 【課題】がん細胞に特異的に作用する新たな抗がん剤を提供する。
【解決手段】抗HIV治療薬を有効成分として含有する、NRF3を高発現するがんに対する抗がん剤。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
抗HIV治療薬を有効成分として含有する、NRF3を高発現するがんに対する抗がん剤。
【請求項2】
前記抗HIV治療薬がHIVプロテアーゼ阻害剤である、請求項1に記載の抗がん剤。
【請求項3】
前記HIVプロテアーゼ阻害剤が、サキナビル、インジナビル、リトナビル、ネルフィナビル、ロピナビル、アンブレナビル、アタザナビル、チプラナビル、ダルナビル及びホスアンプレナビルからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の抗がん剤。
【請求項4】
前記がんが、大腸癌、前立腺癌、肺癌、乳癌、子宮癌、胃癌、卵巣癌、腎癌、胸腺腫、小腸癌又は膵臓癌である、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗がん剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、抗がん剤に関する。
【背景技術】
【0002】
がんは国内外を問わず罹患率及び死亡率が高い疾患の一つである。現在、核酸合成、増殖因子受容体などの阻害剤が抗がん剤として臨床治療で使用されている。しかしながら、このような既知の抗がん剤は正常細胞にも作用してしまうため重篤な副作用を呈する場合が多い。
【0003】
そのため、正常細胞の生存及び増殖に影響を与えない新たな抗腫瘍剤の開発が望まれている。
【0004】
NRF3[Nuclear factor (erythoid-derived2)-like 3; NFE2L3]は、Cap‘n’Collarファミリーに属する塩基性ロイシンジッパー型転写因子であり、小Maf転写因子群とヘテロ2量体を形成しDNAに結合する(非特許文献1、2)。NRF3が直接転写する遺伝子候補には、第二相薬物代謝酵素のひとつであるNAD(P)H:キノンオキシドレダクターゼ-1(NQO1)、平滑筋細胞マーカーの平滑筋アクチンαA及び22αなどがある(非特許文献3、4)。
【0005】
ヒトNRF3 mRNAの発現量は、胎盤、特に絨毛膜絨毛で高い(非特許文献2、5)。一方で、心臓、脳、肺、腎臓、膵臓、白血球、大腸、胸腺及び脾臓での発現は中~低程度であり、精巣、前立腺、骨格筋及び子宮ではほとんど発現していない(非特許文献2)。
【0006】
そして、遺伝子改変マウスを用いた研究から、Nrf3欠損による顕著な変化は見られないが(非特許文献6、7)、タバコ煙に含まれる発がん物質ベンゾピレンの連続暴露によるリンパ腫が亢進することが報告されている(非特許文献8)。また、高濃度の抗酸化剤ジブチルヒドロキシトルエンに暴露されたNrf3欠損マウスは、急性肺障害及び体重減少が誘発される(非特許文献9)。さらに、Nrf3欠損マウスの肺及び白色脂肪組織では、抗炎症性タンパク質Pparγ2の基底発現量が亢進している(非特許文献9)。以上の報告は、NRF3が炎症及び代謝異常に関与していることを示唆している。
【0007】
また、マカクザル線維芽細胞から多能性幹細胞へリプログラミングする際、Nrf3の発現量が急激に上昇することが報告されている(非特許文献10、11)。加えて、マウスの平滑筋細胞の分化、及びトリの胚発生に関与することも明らかとなっている(非特許文献12)。
【先行技術文献】
【0008】

【非特許文献1】Sykiotis GP, Bohmann D (2010) Stress-activated Cap‘n’Collar transcription factors in aging and human disease. Sci Signal 3(112):re3. doi:10.1126/scisignal.3112re3
【非特許文献2】Kobayashi A, Ito E, Toki T, Kogame K, Takahashi S, Igarashi K, Hayashi N, Yamamoto M (1999) Molecular cloning and functional characterization of a new Cap‘n’Collar family transcription factor Nrf3. J Biol Chem 274(10):6443-6452
【非特許文献3】Sankaranarayanan K, Jaiswal AK (2004) Nrf3 negatively regulates antioxidant-response element-mediated expression and antioxidant induction of NAD(P)H:quinone oxidoreductase1 gene. J Biol Chem 279(49):50810-50817
【非特許文献4】Pepe AE, Xiao Q, Zampetaki A, Zhang Z, Kobayashi A, Hu Y, Xu Q (2010) Crucial role of nrf3 in smooth muscle cell differentiation from stem cells. Circ Res 106(5):870-879. doi:10.1161/CIRCRESAHA.109.211417
【非特許文献5】Chenais B, Derjuga A, Massrieh W, Red-Horse K, Bellingard V, Fisher SJ, Blank V (2005) Functional and placental expression analysis of the human NRF3 transcription factor. Mol Endocrinol 19(1):125-137. doi:10.1210/me.2003-0379
【非特許文献6】Derjuga A, Gourley TS, Holm TM, Heng HH, Shivdasani RA, Ahmed R, Andrews NC, Blank V (2004) Complexity of CNC transcription factors as revealed by gene targeting of the Nrf3 locus. Mol Cell Biol 24(8):3286-3294
【非特許文献7】Kobayashi A, Ohta T, Yamamoto M (2004) Unique function of the Nrf2-Keap1 pathway in the inducible expression of antioxidant and detoxifying enzymes. Methods Enzymol 378:273-286
【非特許文献8】Chevillard G, Paquet M, Blank V (2011) Nfe2l3 (Nrf3) deficiency predisposes mice to T-cell lymphoblastic lymphoma. Blood 117(6):2005-2008. doi:10.1182/blood-2010-02-271460
【非特許文献9】Chevillard G, Nouhi Z, Anna D, Paquet M, Blank V (2010) Nrf3-deficient mice are not protected against acute lung and adipose tissue damages induced by butylated hydroxytoluene. FEBS Lett 584(5):923-928. doi:10.1016/j.febslet.2010.01.028
【非特許文献10】Ben-Yehudah A, CAt Easley, Hermann BP, Castro C, Simerly C, Orwig KE, Mitalipov S, Schatten G (2010) Systems biology discoveries using non-human primate pluripotent stem and germ cells: novel gene and genomic imprinting interactions as well as unique expression patterns. Stem Cell Res Ther 1(3):24. doi:10.1186/scrt24
【非特許文献11】Byrne JA, Pedersen DA, Clepper LL, Nelson M, Sanger WG, Gokhale S, Wolf DP, Mitalipov SM (2007) Producing primate embryonic stem cells by somatic cell nuclear transfer. Nature 450(7169):497-502. doi:10.1038/nature06357
【非特許文献12】Etchevers HC (2005) The Cap‘n’Collar family member NF-E2-related factor 3 (Nrf3) is expressed in mesodermal derivatives of the avian embryo. Int J Dev Biol 49(2-3):363-367. doi:10.1387/ijdb.041942he
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、がん細胞に特異的に作用する新たな抗がん剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、転写因子NRF3が大腸、肺など複数の腫瘍部位で高発現していることを発見している(第89回日本生化学会大会講演要旨集, 2T15-07/2P-266, 2016)。そして、本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、NRF3はアスパラギン酸プロテアーゼDDI2によるタンパク質切断で活性化することを見出し、HIVプロテアーゼ阻害剤であるロピナビル及びネルフィナビルはDDI2によるNRF3の切断を阻害できること、これらの抗HIV治療薬はNRF3依存的に肺癌細胞の増殖を有意に低下させることができるという知見を得た。
【0011】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次の抗がん剤を提供するものである。
【0012】
項1.抗HIV治療薬を有効成分として含有する、NRF3を高発現するがんに対する抗がん剤。
項2.前記抗HIV治療薬がHIVプロテアーゼ阻害剤である、項1に記載の抗がん剤。
項3.前記HIVプロテアーゼ阻害剤が、サキナビル、インジナビル、リトナビル、ネルフィナビル、ロピナビル、アンブレナビル、アタザナビル、チプラナビル、ダルナビル及びホスアンプレナビルからなる群から選択される少なくとも1種である、項1又は2に記載の抗がん剤。
項4.前記がんが、大腸癌、前立腺癌、肺癌、乳癌、子宮癌、胃癌、卵巣癌、腎癌、胸腺腫、小腸癌又は膵臓癌である、項1~3のいずれか一項に記載の抗がん剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明の抗がん剤は、新たな作用機序を利用するものであり、優れた抗がん作用を有する。さらに、本発明の抗がん剤は、がん細胞に特異的に作用するという優れた特性を有しているため、既知の抗がん剤より副作用の低減が期待される。
【0014】
また、既存の抗HIV治療薬を抗がん剤へ転用することは、薬物動態や安全性などの問題
を回避することができるため、抗がん剤の効率的な開発が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】試験例1におけるDDI2によるNRF3タンパク質の切断の結果を示す写真である。WT:野生型、mut:変異体、▲:全長NRF3、△:切断されたNRF3
【図2】試験例2におけるDDI2によるNRF3タンパク質切断の抗HIV治療薬による阻害の結果を示す写真である。WT:野生型、mut:変異体、▲:全長NRF3、△:切断されたNRF3
【図3】試験例3における抗HIV治療薬による癌細胞の増殖抑制の結果を示すグラフである(上:ロピナビル、下:ネルフィナビル)。n=3, mean±SD, * p<0.05, *** p<0.005 (Paired t-test)【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。

【0017】
なお、本明細書において「含む、含有する(comprise)」とは、「本質的にからなる(essentially consist of)」という意味と、「からなる(consist of)」という意味をも包含する。

【0018】
本明細書では、NRF3をコードする遺伝子をNRF3遺伝子と称し、単にNRF3と記載する場合はタンパク質を意味しているものとする。

【0019】
本発明において「遺伝子」とは、特に言及しない限り、2本鎖DNA、1本鎖DNA(センス鎖又はアンチセンス鎖)、及びそれらの断片が含まれる。また、本発明において「遺伝子」とは、特に言及しない限り、調節領域、コード領域、エクソン、及びイントロンを区別することなく示すものとする。

【0020】
本発明の抗がん剤は、NRF3を高発現するがんに対するものであって、抗HIV治療薬を有効成分として含有することを特徴とする。

【0021】
NRF3は、転写因子であって、正式名称Nuclear factor, erythroid 2-like 3、別名NFE2L3であり、1999年にHeLa細胞から初めて単離された(A Kobayashi et al., J Biol Chem. 1999 Mar 5;274(10):6443-6452)。NRF3遺伝子の塩基配列は、NCBIのweb siteにRefSeq Accesstion No. NM_004289(ヒト)(配列番号1)、NM_010903(マウス)(配列番号2)として登録されおり、アミノ酸配列は、RefSeq Accession No.NP_004280(ヒト)(配列番号3)、NP_035033(マウス)(配列番号4)として登録されている。

【0022】
本発明におけるNRF3遺伝子には、前述するようなデータベースに登録されている塩基配
列を有するもの以外であっても、その縮重物及び変異体も含まれ、縮重物及び変異体としては上記アミノ酸配列からなるタンパク質と同等の生物学的活性を有するタンパク質をコードするものが望ましい。同等の生物学的活性を有するタンパク質としては、例えば、他の生物由来のタンパク質が挙げられる。

【0023】
変異体としては、例えば、(a)前述するようなデータベースに登録されているアミノ酸配列において、1又は2個以上、例えば、1~50個、1~25個、1~12個、1~9個、1~5個のアミノ酸が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子、(b)前述するようなデータベースに登録されている塩基配列と70%以上、80%以上、90%以上、95%以上の同一性を有する塩基配列からなる遺伝子などが挙げられる。

【0024】
塩基配列の同一性は、市販の又は電気通信回線(インターネット)を通じて利用可能な解析ツールを用いて算出することができる。塩基配列の同一性(%)は、当該分野で慣用のプログラム(例えば、BLAST、FASTA等)を初期設定で用いて決定することができる。

【0025】
後述する実施例において示しているように、NRF3はアスパラギン酸プロテアーゼであるDDI2 (DNA Damage-Inducible 1 Homolog 2)により切断され、活性化される。

【0026】
抗HIV (Human Immunodeficiency Virus)治療薬としては、HIVに対する治療効果を有する化合物であって且つNRF3の機能を阻害できるものであれば特に制限無く使用することができる。中でも、好ましくはDDI2によるNRF3の切断を阻害できる化合物であり、より好ましくはHIVプロテアーゼ阻害剤、特にHIV-1プロテアーゼ阻害剤である。後述する実施例で示すように、HIVプロテアーゼ阻害剤はDDI2によるNRF3の切断を阻害することができる。

【0027】
抗HIV治療薬としては、市販されており、臨床の現場で使用されている既存の抗HIV治療薬を使用することは、薬物動態や安全性などの問題を回避することができるため望ましい。また、抗HIV治療薬は、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。

【0028】
HIVプロテアーゼ阻害剤としては、HIVプロテアーゼの活性を阻害することができるものであれば特に限定されず、例えば、サキナビル(Saquinavir(SQV))、インジナビル(Indinavir(IDV))、リトナビル(Ritonavir(RTV))、ネルフィナビル(Nelfinavir(NFV))、ロピナビル(Lopinavir(LPV))、アンプレナビル(Amprenavir(APV))、アタザナビル(Atazanavir(ATV))、チプラナビル(Tipranavir(TPV))、ダルナビル(Darunavir(DRV))、ホスアンプレナビル(Fosamprenavir(FPV))などが挙げられる。

【0029】
「NRF3を高発現するがん」とは、腫瘍部位において正常部位と比べてNRF3の発現量が多いがんを意味する。正常部位と比べて腫瘍部位においてNRF3の発現量が、例えば、10%以上、25%以上、50%以上、75%以上、100%以上増加している場合を、「NRF3を高発現するがん」と判断することができる。

【0030】
本発明の抗がん剤は、NFR3を標的とするので、NRF3を高発現するがんに適用することで、がん細胞に特異的に作用させることができる。

【0031】
本発明の抗がん剤により治療できる癌の種類としては、胃癌、大腸癌(直腸癌、結腸癌)、小腸癌、肝臓癌、膵臓癌、肺癌、咽頭癌、食道癌、腎癌、胆のう及び胆管癌、頭頸部癌、膀胱癌、前立腺癌、乳癌、子宮癌(子宮頸癌、子宮体癌)、卵巣癌、脳腫瘍(例えば、神経膠腫など)、胸腺腫、白血病、悪性リンパ腫等が挙げられる。中でも大腸癌、前立腺癌、肺癌、乳癌、子宮癌、胃癌、卵巣癌、腎癌、胸腺腫、小腸癌及び膵臓癌はNRF3を高発現するので高い効果が期待される。

【0032】
本発明の抗がん剤は、薬学上許容される担体と混合された状態とされていてもよい。これら薬学上許容される担体として、例えば、賦形剤、緩衝剤、保存料、安定剤、懸濁剤、等張化剤、界面活性剤、結合剤、崩壊剤、着色料、着香料、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等が挙げられる。

【0033】
本発明の抗がん剤を製剤化するにあたっては、常法に従って、必要に応じて上記担体を添加することができ、担体としては、例えば、軽質無水ケイ酸、乳糖、マンニトール、デンプン、ゼラチン、コーンスターチ、結晶セルロース、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、無機塩類等を添加することができる。

【0034】
本発明の抗がん剤の剤型の種類としては、経口剤として錠剤、丸剤、散剤、粉末剤、顆粒剤、細粒剤、軟又は硬カプセル剤、フィルムコーティング剤、舌下剤、ペレット剤、ペースト剤などが、非経口剤として注射剤、経皮剤、軟膏剤、硬膏剤、坐剤、外用液剤などが挙げられ、投与経路、投与対象等に応じて最適な剤型を選択することができる。

【0035】
本発明における「抗がん剤」は、抗腫瘍剤、抗腫瘍薬剤、抗腫瘍医薬組成物等と表現される場合もある。

【0036】
本発明の抗がん剤における有効成分である抗HIV治療薬の配合量は、剤型、投与経路等に応じて適宜選択されるが、通常、製剤全量中0.0001~90質量%程度、好ましくは0.001~70質量%程度である。

【0037】
本発明の抗がん剤は、ヒトを含む哺乳動物に対して投与される。本発明の抗がん剤の投与方法は、特に限定されないが、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射などの当業者に公知の方法により行うことができる。本発明の抗がん剤の投与量は、剤型の種類、投与方法、患者の年齢及び体重、患者の症状等を考慮して、最終的には医師の判断により適宜決定できる。

【0038】
本発明の抗がん剤は、優れた抗がん作用を有している。また、本発明の抗がん剤は、NRF3を標的とする新たな作用機序を利用するものであるため、正常細胞に作用せず、がん細胞に特異的に作用するという優れた特性を有している。結果として、正常細胞にも作用する既知の抗がん剤と比べて副作用の低減が期待される。

【0039】
また、既存の抗HIV治療薬を抗がん剤へ転用することができるので、薬物動態や安全性
などの問題を回避することができるため、抗がん剤の効率的な開発が可能になる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
試験例1
DDI2によるNRF3タンパク質切断を、プラスミドを用いた過剰発現によって調べた。N末端側にFLAGタグを融合した野生型(WT)及びプロテアーゼ活性を欠損したD252N変異体(mut)DDI2プラスミドを構築した。また、N末端側にFLAGタグを融合した野生型(WT)及びDDI2認識配列をアラニン置換したW111A/L112A変異体(mut)NRF3発現プラスミドも構築した。細胞にはヒト子宮頸がん細胞HeLaを用い、D-MEM培地(高グルコース、L-グルタミン、フェノールレッド含有)(和光純薬工業(株)、044-29765)に最終濃度10%のFBS ((株)ニチレイバイ
オサイエンス、171012)、最終濃度40 units/mLのペニシリン/ストレプトマイシン混合溶液(Thermo Fisher Scientific、15140-122)を添加して37℃、5% CO2環境下で培養した。
【実施例】
【0042】
2×105細胞ずつ6 well plate (Thermo Fisher Scientific、1299815)に播種し24時間培養後、1 well当たりOpti-MEM (Thermo Fisher Scientific、31985070) 200μL、DDI2及びNRF3の各発現プラスミド3.5μg、1 mg/mlポリエチレンイミンMAX溶液(pH7.5, Polysciences, Inc., 24765) 14μLの混合液を添加した。プラスミド導入24時間後、細胞を回収しウエスタンブロットを行った。3×FLAG-NRF3は抗NRF3抗体(ハウスメイド、#9408)で、FLAG-DDI2は抗FLAG抗体(Sigma-Aldrich, ANTI-FLAG M2 Monoclonal Antibody, F1804)で、参照タンパク質として用いたα-Tubulinは抗α-Tubulin抗体(Sigma-Aldrich, Monoclonal Anti-α-Tubulin antibody produced in mouse, clone DM1A, T9026)でそれぞれ検出した。
【実施例】
【0043】
結果を図1に示す。WT-NRF3はWT-DDI2により切断を受けるが、活性欠失mut-DDI2では切断を受けなかった(4 vs 6)。また、切断配列mut-NRF3は、WT-DDI2でも切断されなかった(4 vs 5)。以上の結果から、DDI2はNRF3タンパク質を切断することが明らかになった。
【実施例】
【0044】
試験例2
DDI2によるNRF3タンパク質切断が抗HIV治療薬で阻害されるかを、プラスミドを用いた過剰発現によって調べた。N末端側にFLAGタグを融合した野生型(WT)及びプロテアーゼ活性を欠損したD252N変異体(mut)DDI2プラスミドを構築した。また、N末端側にFLAGタグを融合した野生型(WT)NRF3発現プラスミドも構築した。細胞にはヒト子宮頸がん細胞HeLaを用い、D-MEM培地(高グルコース、L-グルタミン、フェノールレッド含有)(和光純薬工業(株)、044-29765)に最終濃度10%のFBS ((株)ニチレイバイオサイエンス、171012)、最終濃度40 units/mLのペニシリン/ストレプトマイシン混合溶液(Thermo Fisher Scientific、15140-122)を添加して37℃、5% CO2環境下で培養した。
【実施例】
【0045】
2×105細胞ずつ6 well plate (Thermo Fisher Scientific、1299815)に播種し24時間培養後、1 well当たりOpti-MEM (Thermo Fisher Scientific、31985070) 200μL、DDI2及びNRF3の各発現プラスミド3.5μg、1 mg/ml ポリエチレンイミンMAX 溶液(pH7.5, Polysciences, Inc., 24765) 14μLの混合液を添加した。プラスミド導入24時間後、抗HIV治療薬ロピナビル(LPV、Sigma-Aldrich、SML1222-10MG)又はネルフィナビル(NFV、東京化成工業(株)、N0986)を最終濃度100μMになるように添加した培地に交換し、さらに24時間培養した。Flag-DDI2 mutはネガティブコントロール、薬剤の溶媒であるDMSO添加はポジティブコントロールとして用いた。その後、細胞を回収しウエスタンブロットを行った。3×FLAG-NRF3は抗NRF3抗体(ハウスメイド、#9408)で、FLAG-DDI2は抗FLAG抗体(Sigma-Aldrich, ANTI-FLAG M2 Monoclonal Antibody, F1804)で、参照タンパク質として用いたα-Tubulinは抗α-Tubulin抗体(Sigma-Aldrich, Monoclonal Anti-α-Tubulin antibody produced in mouse, clone DM1A, T9026)で検出した。
【実施例】
【0046】
結果を図2に示す。WT-DDI2によるWT-NRF3のタンパク質切断は、DMSO添加に比べLPVやNFV添加で阻害されることが明らかになった(2 vs 3あるいは2 vs 4)。活性欠失mut-DDI2とWT-NRF3を過剰発現させた条件をネガティブコントロールに用いた(1)。
【実施例】
【0047】
M. Siva et al., Scientific Reports, 6:30443, DOI:10.1038/srep30443には、HIVプロテアーゼ阻害剤がhDDI2のレトロウイルスプロテアーゼ様ドメインに結合しないことが
証明されたことが記載されている。そのため、本試験例の結果は予想外の結果である。
【実施例】
【0048】
試験例3
抗HIV治療薬がNRF3依存的にガン細胞の増殖を抑制できるかをWST-1アッセイにより調べた。細胞には、N末端側にFLAGタグを融合したヒト全長NRF3を恒常的に発現するヒト肺癌
細胞H1299を用いた。また、コントロール細胞として、N末端側にFLAGタグを融合した緑色蛍光タンパク質GFPを恒常的に発現するヒト肺癌細胞H1299を用いた。各H1299細胞は、RPMI 1640培地(L-グルタミン含有)(ナカライテスク(株)、30264-56)に最終濃度10%のFBS ((株)ニチレイバイオサイエンス、171012)、最終濃度40 units/mLのペニシリン/ストレプトマイシン混合溶液(Thermo Fisher Scientific、15140-122)、最終濃度50μg/mlのG418 (ナカライテスク(株)、08973-14)を添加して37℃、5% CO2環境下で培養した。
【実施例】
【0049】
各細胞を1×103細胞ずつ96 well plate (Thermo Fisher Scientific、167008)に播種した直後、1 well当たり最終濃度0, 0.2, 0.4, 0.6, 0.8, 1.0μMの抗HIV治療薬ロピナビル(Sigma-Aldrich、SML1222-10MG)又はネルフィナビル(東京化成工業(株)、N0986)を添加した。48時間培養した後、1 well当たり5μLのWST-1試薬(Roche、5015944001)を添加し2時間培養した。その後、蛍光プレートリーダー(BioTek, Synergy HTX)を用いてOD450の吸収を測定し、各薬剤濃度の細胞量を次式で算出した;OD450[各薬剤濃度]-OD450[薬剤未処理(0μM)]。
【実施例】
【0050】
結果を図3に示す。ロピナビル又はネルフィナビルは、GFP発現細胞に比べ、NRF3発現細胞の増殖を有意に低下させることを明らかにした。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2