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明細書 :ドライバーの注意力低下推定装置および方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-190310 (P2018-190310A)
公開日 平成30年11月29日(2018.11.29)
発明の名称または考案の名称 ドライバーの注意力低下推定装置および方法
国際特許分類 G08G   1/16        (2006.01)
B60R  21/00        (2006.01)
FI G08G 1/16 F
B60R 21/00 626B
B60R 21/00 626D
請求項の数または発明の数 7
出願形態 OL
全頁数 13
出願番号 特願2017-094443 (P2017-094443)
出願日 平成29年5月11日(2017.5.11)
発明者または考案者 【氏名】イヴァン タネヴ
【氏名】下原 勝憲
【氏名】ディパク シャルマ
出願人 【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
個別代理人の代理人 【識別番号】100076406、【弁理士】、【氏名又は名称】杉本 勝徳
【識別番号】100117097、【弁理士】、【氏名又は名称】岡田 充浩
審査請求 未請求
テーマコード 5H181
Fターム 5H181AA01
5H181LL01
5H181LL02
5H181LL04
5H181LL06
5H181LL20
要約 【課題】運転中のドライバーの注意力低下を、高い確率で、かつリアルタイムで推定できる装置を提供する。
【解決手段】本発明に係るドライバーの注意力低下推定装置は、自動車の進行方向に対して横方向の加速度を測定する加速度センサ4と、加速度センサ4で測定した加速度から加加速度の絶対値を算出すると共に、当該算出された加加速度の絶対値に基づいてドライバーの注意力の低下を推定する演算手段321とを備えている。演算手段321は、時間軸において加加速度の絶対値が予め定めた閾値を超えたときから第1の時間と、第1の時間より長い第2の時間との間に検出窓を設定し、かつ検出窓に含まれる加加速度の絶対値が前記閾値を超えたときを起点として検出窓の設定を繰り返し、検出窓の設定が連続して行われたとき、ドライバーの注意力が低下していると推定する。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
自動車の進行方向に対して横方向の加速度を測定する加速度センサと、
当該加速度センサで測定した加速度から加加速度の絶対値を算出すると共に、当該算出された加加速度の絶対値に基づいてドライバーの注意力の低下を推定する演算手段と、を備え、
前記演算手段は、
時間軸において前記加加速度の絶対値が予め定めた閾値を超えたときから第1の時間と、当該第1の時間より長い第2の時間との間に検出窓を設定し、
かつ当該検出窓に含まれる加加速度の絶対値が前記閾値を超えたときを起点として前記検出窓の設定を繰り返し、
前記検出窓の設定が連続して行われたとき、ドライバーの注意力が低下していると推定することを特徴とするドライバーの注意力低下推定装置。
【請求項2】
前記閾値は、前記自動車の仕様および平均走行速度に応じて変化し、走行試験を繰り返すことによって決定される、請求項1に記載のドライバーの注意力低下推定装置。
【請求項3】
前記検出窓の第1の時間は、コーナリングの際にタイヤの横壁の弾力によって生じる高い周波数成分を排除する値に設定され、前記第2の時間は、自動車の通常のコーナリングに伴って生じる低い周波数成分を排除する値に設定される、請求項1または2に記載のドライバーの注意力低下推定装置。
【請求項4】
前記演算手段は、前記検出窓において閾値を越える加加速度の絶対値を検出しなかったとき、前記第2の時間が経過した時点で検出窓の設定を解除し、その後、加加速度の絶対値が前記閾値を超えたときに前記検出窓の設定を再開する、請求項1ないし3のいずれかに記載のドライバーの注意力低下推定装置。
【請求項5】
視覚および聴覚を通じてドライバーの注意を喚起する報知手段を更に備え、
前記演算手段は、前記検出窓において加加速度の絶対値が前記閾値を超えた時、ドライバーのハンドル操作の遅れによって振動が生じていると判定し、当該振動の発生を、前記報知手段を用いてドライバーに報知する、請求項1ないし4のいずれかに記載のドライバーの注意力低下推定装置。
【請求項6】
前記演算手段は、前記検出窓の設定が4回以上連続して行われたとき、前記報知手段により、ドライバーの注意力が低下していることを警告する、請求項5に記載のドライバーの注意力低下推定装置。
【請求項7】
加速度センサを用いて、自動車の進行方向に対して横方向の加速度を測定する第1のステップと、
当該第1のステップで測定した加速度から加加速度の絶対値を算出すると共に、当該算出された加加速度の絶対値に基づいてドライバーの注意力の低下を推定する第2のステップと、を有し、
前記第2のステップにおいて、
時間軸において前記加加速度の絶対値が予め定めた閾値を超えたときから第1の時間と、当該第1の時間より長い第2の時間との間に検出窓を設定し、
かつ当該検出窓に含まれる加加速度の絶対値が前記閾値を超えたときを起点として前記検出窓の設定を繰り返し、
前記検出窓の設定が連続して行われたとき、ドライバーの注意力が低下していると推定することを特徴とするドライバーの注意力低下推定方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、運転中のドライバーの注意力低下を推定する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ドライバーが事故を起こす原因のほとんどは、ヒューマンエラーすなわち意図しない結果を生じる人間の行為にある。例えば、正しくない運転操作であり、あるいは遅すぎる反応などである。そしてそれらは、運転に向けられている注意力が、当該時点の交通状況で運転に必要とされる注意力より低いときに生じる。
【0003】
一方、ドライバーの注意力が低下しているとき、自動車の進行方向の変化に対して後追いのタイミングでステアリングハンドルの操作(以降「ハンドル操作」と略す。)が行われることから、ハンドル操作のタイミングが自動車の進行方向の変化に対して遅れ気味となる。
【0004】
上述したドライバーに共通の運転特性を利用して、ドライバーの注意力が低下していることを推定する装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
具体的には、進行方向センサから出力される自動車の進路情報と、ハンドルの操舵センサから出力される操舵角情報とを比較し、車の進行に対してハンドルの操作が遅れている場合に、ドライバーの注意力が低下している(例えば居眠りをしている)と推定して警告を行なっている。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2016-186766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の推定装置では、ステアリング装置に遊びがあるために、ハンドル操作に対する操舵角の変化を正確に検出することが難しいという問題がある。
【0008】
更に、進路情報と操舵角情報とを一定期間比較する必要があることから、注意力が低下した状態が継続することが前提となる。従って、上述の推定装置でドライバーの注意力の低下を推定できたとしても、そのとき既に事故を起こしている可能性がある。
【0009】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたもので、ドライバーの注意力が低下したことを高い確率で、かつリアルタイムで推定できる装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係るドライバーの注意力低下推定装置は、
自動車の進行方向に対して横方向の加速度を測定する加速度センサと、
当該加速度センサで測定した加速度から加加速度の絶対値を算出すると共に、当該算出された加加速度の絶対値に基づいてドライバーの注意力の低下を推定する演算手段と、を備え、
前記演算手段は、
時間軸において前記加加速度の絶対値が予め定めた閾値を超えたときから第1の時間と、当該第1の時間より長い第2の時間との間に検出窓を設定し、
かつ当該検出窓に含まれる加加速度の絶対値が前記閾値を超えたときを起点として前記検出窓の設定を繰り返し、
前記検出窓の設定が連続して行われたとき、ドライバーの注意力が低下していると推定することを特徴とする。
【0011】
ここで、前記閾値は、前記自動車の仕様および平均走行速度に応じて変化し、走行試験を繰り返すことによって決定することが好ましい。
【0012】
また前記検出窓の第1の時間は、コーナリングの際にタイヤの横壁の弾力によって生じる高い周波数成分を排除する値に設定され、前記第2の時間は、自動車の通常のコーナリングに伴って生じる低い周波数成分を排除する値に設定されることが好ましい。
【0013】
前記演算手段は、前記検出窓において閾値を越える加加速度の絶対値を検出しなかったとき、前記第2の時間が経過した時点で検出窓の設定を解除し、その後、加加速度の絶対値が前記閾値を超えたときに前記検出窓の設定を再開することが好ましい。
【0014】
視覚および聴覚を通じてドライバーの注意を喚起する報知手段を更に備え、前記演算手段は、前記検出窓において加加速度の絶対値が前記閾値を超えた時、ドライバーのハンドル操作の遅れによって振動が生じていると判定し、当該振動の発生を、前記報知手段を用いてドライバーに報知することが好ましい。
【0015】
更に、前記演算手段は、前記検出窓の設定が4回以上連続して行われたとき、前記報知手段により、ドライバーの注意力が低下していることを警告することが好ましい。
【0016】
また本発明に係るドライバーの注意力低下推定方法は、
加速度センサを用いて、自動車の進行方向に対して横方向の加速度を測定する第1のステップと、
当該第1のステップで測定した加速度から加加速度の絶対値を算出すると共に、当該算出された加加速度の絶対値に基づいてドライバーの注意力の低下を推定する第2のステップと、を有し、
前記第2のステップにおいて、
時間軸において前記加加速度の絶対値が予め定めた閾値を超えたときから第1の時間と、当該第1の時間より長い第2の時間との間に検出窓を設定し、
かつ当該検出窓に含まれる加加速度の絶対値が前記閾値を超えたときを起点として前記検出窓の設定を繰り返し、
前記検出窓の設定が連続して行われたとき、ドライバーの注意力が低下していると推定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るドライバーの注意力低下推定装置および方法を採用すれば、運転中のドライバーの注意力低下を高い確率で、かつリアルタイムで推定できる。従って、推定結果に基づいてドライバーに警告を行えば、運転時の安全性を飛躍的に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態に係るドライバーの注意力低下推定装置の構成を示すブロック図である。
【図2】推定装置本体と加速度センサが自動車の車体に取り付けられた状態を示す概略斜視図である。
【図3】自動車が右にカーブした道路のコーナーに沿って走行する様子を示す図である。
【図4】ドライバーが図3のコーナーを、ハンドル操作の遅れのない滑らかな運転で通過したときに測定した車体の加速度と加加速度のグラフである。
【図5】図4に示すグラフを得たときのドライバーのハンドル操作の様子を示す図である。
【図6】注意力が低下したドライバーが図3のコーナーを運転して通過したときに測定した車体の加速度と加加速度のグラフである。
【図7】図6に示すグラフを得たときのドライバーのハンドル操作の様子を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態に係るドライバーの注意力低下推定装置の動作を説明する図(その1)である。
【図9】本発明の実施の形態に係るドライバーの注意力低下推定装置の動作を説明する図(その2)である。
【図10】報知手段の表示画面の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態に係るドライバーの注意力低下推定装置および方法について、図面を参照して説明する。
<ドライバーの注意力低下推定装置の構成>
図1は、本実施の形態に係るドライバーの注意力低下推定装置の構成を示すブロック図、図2は、同装置本体と加速度センサが自動車の車体に取り付けられた状態を示す概略斜視図である。

【0020】
図1に示すように、ドライバーの注意力低下推定装置(以降、「推定装置」と略す。)2は、シャーシに収容された推定装置本体3と加速度センサ4とで構成されている。そして図2に示すように、推定装置本体3は自動車1のダッシュボードの上に設置され、加速度センサ2は、車体10の横方向の加速度を測定するのに適した箇所に設置される。

【0021】
図2に基づき、自動車1を操舵するステアリング装置について説明する。ハンドル11の回転は、ステアリングシャフト12を介して、ラックピニオン式のステアリングギア機構13に伝達され、ハンドル11の回転運動は、操舵輪(図では前輪)14の転舵運動に変換される。

【0022】
加速度センサ4で測定された、自動車1の進行方向に対する横方向の加速度は推定装置本体3に入力される。推定装置本体3は、加速度センサ4の出力信号を微分して加加速度の絶対値を算出すると共に、その値が所定の値を超えたときに、ドライバーの注意力が低下していると推定して、ドライバーの注意を喚起する。

【0023】
推定装置2の構成と動作について説明する前に、図3~図7を参照して、ドライバーの注意力低下を推定する原理について説明する。図3は、自動車1が右にカーブした道路Lのコーナーに沿って走行する様子を示す図、図4は、ドライバーが図3のコーナーを、ハンドル操作の遅れが生じない滑らかな運転をしたときに測定した車体の加速度(破線)と加加速度(実線)のグラフである。ここで、加加速度は、加速度を微分した値で、図3の上半分にその絶対値を示している。

【0024】
図4のグラフに示した符号(a)~(e)は、図3に示した自動車の走行位置に対応しており、(a)は自動車がコーナーに入る前、(b)はコーナーの入口に差し掛かったとき、(c)はコーナー内を移動しているとき、(d)はコーナーの出口に差し掛かったとき、(e)はコーナーを出た後を、それぞれ示している。

【0025】
また図5(a)~(e)は、図3(a)~(e)の位置を自動車1が通過するときの、ドライバーによるハンドル操作の様子を示している。図5(b)に示すように、ドライバーは、自動車がコーナーの入口に差し掛かると右回りにハンドルを切り、また図5(d)に示すように、コーナーの出口に差し掛かると左回りにハンドルを切る。

【0026】
自動車1の進行に対してハンドル操作が遅れることなく、滑らかに操作された場合、図4に示すように、コーナーの入口と出口で、ハンドル操作に伴うパルス状の信号(以降、便宜上、この信号を「パルス」という)が発生するだけである。

【0027】
2つのパルスの間に生じる小さな信号の起伏は、細かなハンドル操作に伴って発生するもので、コーナーの入口および出口で発生するパルスとは、振幅および周期の両方において明確に区別できる。

【0028】
一方、図6のグラフは、注意力が低下したドライバーが、図3に示したコーナーを走行した際の車体の加速度(破線)と加加速度の絶対値(実線)を示したものである。図4と同様に、符号(a)は自動車がコーナーに入る前、(b)はコーナーの入口に差し掛かったとき、(d)はコーナーの出口に差し掛かったとき、(e)はコーナーを出た後を、それぞれ示している。

【0029】
これに対し、新たに追加した符号(f)(g)(h)(i)は、コーナーの走行中に、ハンドル操作の遅れを取り戻すために、ドライバーがハンドルを小刻みに操作した位置を示している。図6に示すように、小刻みなハンドル操作に伴って振動が発生している。また図7にその時のハンドル操作の様子を示す。

【0030】
図4に示した、滑らかなハンドル操作による加加速度のグラフと、図6に示した、ハンドル操作に遅れが生じたときの加加速度のグラフを比較する。

【0031】
図4に示した滑らかなハンドル操作においては、コーナーを通過するときに2つのパルスが発生する。具体的には、自動車がコーナーの入口に差し掛かったとき(87秒~89秒)と出口に差し掛かったとき(93秒~94秒)にパルスが発生する。またその間隔は、約40km/hでコーナーを通過する場合、5.5秒~6秒である。

【0032】
これに対し、図6に示したようにハンドル操作に遅れが生じた場合、コーナーを通過する間に6つのパルスが発生し、それぞれのパルスの間隔は、約40km/hでコーナーを通過する場合、1秒~1.5秒である

【0033】
上述の実験結果より、自動車がコーナーを通過した際に、加加速度のグラフにおいて、繰り返し周期が一定範囲に含まれるパルスが発生した場合、ドライバーの注意力低下に伴ってハンドル操作に遅延が生じていると推定することができる。本発明は、この原理に基づき、加加速度のグラフにおいて、繰り返し周期が一定範囲に含まれるパルスを連続して検出したときに、ドライバーの注意力が低下していると推定するものである。

【0034】
<推定装置の構成と動作>
次に、前述の図1および図2、更に図8~図10を参照して、推定装置2の各部の機能と動作を説明する。

【0035】
図1において、推定装置本体3は、インターフェース31、CPU32、ROM33、RAM34、フラッシュメモリ35および報知手段36で構成されており、自動車1の車体10に設置された加速度センサ4の出力信号を微分して加加速度を算出すると共にその絶対値を求め、その強さが予め定めた閾値Thを超えたときに、自動車に振動が生じていると判定する。更に、推定装置本体3は、振動に伴うパルスを連続して検出したときに、ドライバーの注意力が低下してハンドル操作に遅れが生じていると推定し、報知手段36によりドライバーに報知する。

【0036】
図2に示すように、加速度センサ4は、車体フレームのように車体10の横方向の加速度を測定するのに適した箇所に設置され、ケーブル5によりダッシュボード上の推定装置本体3に接続されている。

【0037】
インターフェース31は、加速度センサ4からの信号を受信し、その信号を内蔵のA/Dコンバータを用いてデジタル信号に変換した後、CPU32に転送する。

【0038】
CPU32は、ROM33に記憶されたソフトウェアを読み出して演算を行うと共に、その結果に基づいて報知手段36の動作を制御するもので、演算手段321と制御手段322の機能を実現する。なおRAM34はワーキングメモリとして機能し、またフラッシュメモリ35には演算の際に用いる閾値データが格納されている。

【0039】
演算手段321は、加速度センサ4の出力信号を微分して加加速度を求める機能、加加速度の絶対値を算出する機能、算出された加加速度の絶対値のうち時間軸に設けられた検出窓に含まれる値を取り出す機能、および取り出された加加速度の絶対値をフラッシュメモリ35から読み出された閾値と比較する機能を実現する。また制御手段322は、演算手段321の演算結果に基づいて、報知手段36の動作を制御する。

【0040】
なお、フラッシュメモリ35に格納された閾値のデータは、使用する自動車の仕様や平均走行速度によって変化するので、コーナーでの走行試験を繰り返しながら、ハンドル操作の遅れに伴って生じるパルスと、遅れのないハンドル操作で生じるパルスとを区別できる値を選定する。

【0041】
次に、本実施の形態において、時間軸に検出窓を設ける理由を説明する。前述の図6において、加加速度の絶対値のグラフには、コーナーの入口および出口において発生するパルスと、コーナーの進行中に、ドライバーのハンドル操作の遅れに伴って発生するパルスが含まれる。

【0042】
これらのうち、コーナーの入口および出口で発生するパルス(図6(b)(d))は、通常のコーナリングにおいて発生するパルスであり、それぞれのパルスには、コーナリングに伴って生じる低い周波数成分と、タイヤの横壁の弾力によって生じると考えられる高い周波数成分が含まれている。

【0043】
このように、加加速度の絶対値のグラフには、ハンドル操作の遅れに伴って発生する振動成分以外に、それよりも周波数の低い成分や高い成分が混在している。

【0044】
加加速度の絶対値のグラフからハンドル操作の遅れに伴って発生する振動成分だけを取り出す方法として、フーリエ変換によって繰り返し周期が一定範囲に含まれるパルスを取り出すことも考えられるが、装置が高価になり、また処理速度が遅くなるために、ドライバーの注意力の低下を推定する手段としては好ましくない。

【0045】
そこで、本実施の形態では、時間軸に検出用の窓を設けることによって、繰り返し周期が一定範囲に含まれるパルスだけを抽出するようにしている。具体的には、加加速度の絶対値のパルスが閾値を超えた時刻をTSとしたとき、それから第1の時間T1を経過した後、第2の時間T2を経過するまでの、下記の式(1)を満たす時間TWを検出窓とし、この時間に閾値を超えるパルスだけを検出するようにしている。
S+T1≦TW≦TS+T2———(1)

【0046】
ここで、時間T1は、コーナリングの際にタイヤの横壁の弾力によって生じる高い周波数成分を排除する値に設定され、時間T2は、自動車の通常のコーナリングに伴って生じる低い周波数成分を排除する値に設定される。普通乗用車を用いて試験を重ねた結果、時間T1を1秒、T2を2.8秒に設定した場合、ハンドル操作の遅れによって生じる振動のパルスを検出できることがわかった。

【0047】
ただし、時間T1およびT2は、使用する自動車の仕様および平均走行速度によって異なるため、フラッシュメモリ35に、自動車の種類と平均速度に対応した閾値のデータを格納しておく必要がある。

【0048】
図1の説明に戻り、報知手段36は、視覚および聴覚を通じてドライバーの注意を喚起するものであり、液晶ディスプレイとスピーカで構成されている。演算手段321の演算結果に基づいて、ドライバーのハンドル操作に遅れが生じていると判定した場合、ドライバーの注意力が低下していることを報知手段36の画面に表示し、操作遅れの頻度が増した場合、スピーカから警告音を発し、注意力が低下して危険な状態にあることをドライバーに知らせる。

【0049】
次に、図8および図9に基づいて推定装置3の動作を説明する。図8および図9は、図6と同様に、自動車の加速度と加加速度の絶対値を示したグラフであり、図8はコーナリングの前半の処理を示し、図9は後半の処理を示す。

【0050】
図8(a)に示すように、自動車がコーナーの入口に差し掛かって加加速度の絶対値が最初に閾値Thを超えた時(時刻77.5秒)、演算手段321は、パルスの数1を計数すると共に、その時TSを起点として時間軸に検出窓TWを設定する。

【0051】
前述したように、本実施の形態では第1の時間T1を1秒、第2の時間T2を2.8秒、検出窓TWを1.8秒に設定している。

【0052】
引き続いて演算手段321は、設定した検出窓TWにおいて、加加速度の絶対値が最初に閾値Thを超える時(時刻78.7秒)を検出する。

【0053】
図8(b)に示すように、演算手段321は、加加速度の絶対値が閾値Thを超えた時(時刻78.7秒)、パルスの数2を計数すると共に、その時を基準として新たな検出窓を設定する。そして図8(a)と同様に、検出窓TWに含まれるパルスが最初に閾値Thを超える時刻(時刻80.7秒)を検出する。

【0054】
次に、図9(a)に示すように、演算手段321は、加加速度の絶対値が閾値Thを超えた時(時刻80.7秒)、パルスの数3を計数すると共に、その時を基準として新たな検出窓TWを設定する。そして図8(b)と同様に、検出窓に含まれるパルスが最初に閾値Thを超える時刻(時刻83.4秒)を検出する。

【0055】
同様に、図9(b)に示すように、演算手段321は、加加速度の絶対値が閾値Thを超えた時、パルス数4を計数すると共に、その時(時刻80.7秒)を基準として新たな検出窓TWを設定する。新たな検出窓TWには、閾値を超えるパルスが存在しないため、パルス数の計数および新たな検出窓の設定は終了する。

【0056】
図8および図9に記載された加加速度の絶対値のグラフでは、検出窓TWが連続して4回設定された。ドライバーによるハンドル操作に遅れが生じていない場合には、検出窓TWの設定は1回しか行われない。従って、検出窓TWの設定が連続して行われた場合、ドライバーによるハンドル操作に遅れが生じていると推定できる。

【0057】
なお、図9(b)に示すように、検出窓TWに閾値を超えるパルスがない場合、設定された検出窓TWによって閾値を超えるパルスが生じても、そのままではパルスを検出できなくなる。このため、検出窓TWで閾値Thを超えるパルスを検出しなかった場合、時間T2を経過した時点で検出窓TWの設定が解除される。従って、その後、閾値Thを越えるパルスがあった場合、検出窓TWの再設定が行われる。

【0058】
次に、図10を参照して、報知手段によるドライバーへの報知について説明する。図10に報知手段36の表示画面の変化を示す。表示画面にはストライプ状の複数のバーが横方向に配列されており、演算手段321で設定した検出窓の数に応じて表示が変化する。

【0059】
図10(a)に示すように、閾値を超えるパルスが計数されない状態、例えば、自動車が直線状の道路を走行中の場合には、表示は行われない。これに対し、図10(b)に示すように、演算手段321がパルス数1を計数して検出窓が設定された場合、中央の2つのバーが赤色に変わり、ドライバーのハンドル操作の遅れによって横方向の振動が生じていることを知らせる。

【0060】
図10(c)~(e)に示すように、演算手段321で設定した検出窓の数が増えるに従って、赤色で表示されるバーの数が増加し、設定した検出窓の数が4になったとき、全てのバーが赤色に変わる。

【0061】
それに併せてバーの上部に「振動検出」の文字が赤色で表示され、ハンドル操作の遅れが顕著であることをドライバーに知らせ、更にスピーカから警告の音声を発する。

【0062】
上述したように、時間軸に検出窓を設けてパルスを検出した場合、ハンドル操作の遅れよって生じる車体の振動を高い確率で検出できる。図8および図9に示す例では、車体の振動に伴って生じた2つのパルスと、コーナーの入口と出口で生じた2つのパルスを検出できた。

【0063】
コーナーの入口で生じたパルスに続いてパルスを検出した場合、ハンドル操作の遅れによって車体に振動が生じていると判定でき、更には、ドライバーの注意力が低下していると推定できるために、報知手段を用いてドライバーに警告を行えば、注意力の低下による事故を未然に防ぐことができる。

【0064】
なお、本実施の形態では、自動車がカーブしたコーナーを走行する場合を例に挙げて説明したが、ハンドル操作の遅れによる振動の発生は、高速道路等において車線を変更する際にも起こり得るため、注意力低下の推定は、コーナーでの振動発生の場合に限定されない。

【0065】
また本実施の形態では、推定装置本体として、コンピュータをベースに設計された専用の機器を用いることを前提としたが、市販されているスマートフォンに演算手段および制御手段の機能を実現するソフトウェアをインストールし、推定装置本体の代わりとして用いてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1 自動車
2 推定装置
3 推定装置本体
4 加速度センサ
5 ケーブル
10 車体
11 ハンドル
12 ステアリングシャフト
13 ステアリングギア機構
14 前輪
31 インターフェース
32 CPU
33 ROM
34 RAM
35 フラッシュメモリ
36 報知手段
321 演算手段
322 制御手段
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9