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明細書 :液滴製造用マイクロ流体チップ

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-005700 (P2019-005700A)
公開日 平成31年1月17日(2019.1.17)
発明の名称または考案の名称 液滴製造用マイクロ流体チップ
国際特許分類 B01J  19/00        (2006.01)
G01N  37/00        (2006.01)
B01F   3/08        (2006.01)
B01F   5/04        (2006.01)
B81B   1/00        (2006.01)
FI B01J 19/00 321
G01N 37/00 101
B01F 3/08 A
B01F 5/04
B81B 1/00
請求項の数または発明の数 3
出願形態 OL
全頁数 12
出願番号 特願2017-123166 (P2017-123166)
出願日 平成29年6月23日(2017.6.23)
発明者または考案者 【氏名】橋本 雅彦
【氏名】田中 悠悟
出願人 【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
個別代理人の代理人 【識別番号】110000475、【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 3C081
4G035
4G075
Fターム 3C081AA14
3C081BA03
3C081BA09
3C081BA24
3C081BA30
3C081CA05
3C081CA32
3C081DA06
3C081DA10
3C081DA22
3C081EA27
3C081EA28
4G035AB37
4G035AB40
4G035AC22
4G035AE17
4G075AA13
4G075AA39
4G075BB08
4G075BD15
4G075DA02
4G075EB50
4G075FA01
4G075FA06
4G075FA12
4G075FB06
4G075FB12
4G075FC20
要約 【課題】液滴を低コストで短時間に大量生産できるマイクロ流体チップを提供する。
【解決手段】気体を吸蔵し得る合成樹脂からなるチップ本体1と、チップ本体の一面1aに密着状態で接合された第1の基板8を備える。チップ本体の他面1bに、連続相となる液体を貯める第1の液溜mと、分散相となる液体を貯める第2の液溜mと、液滴を捕集する第3の液溜mが開口する。チップ本体にそれぞれ第1~第3の液溜の底部からのびて一点で連結する第1~第3の管路n~nが設けられる。チップ本体の他面に、グリッド状の微細な溝9が形成される。グリッド状の微細な溝は、第3の液溜に接続するが、第1~第2の液溜の開口縁及びチップ本体の他方の面の外縁には達しない。チップ本体の他方の面に密着状態で接合された第2の基板10を備える。第2の基板にはそれぞれ第1~第2の液溜に整合する第1~第2の貫通穴11、12が設けられる。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
気体を吸蔵し得る合成樹脂から形成された板状のチップ本体と、
前記チップ本体の一方の面に密着状態で接合された第1の基板と、を備え、
前記チップ本体の他方の面に、連続相となる液体を貯める第1の液溜と、分散相となる液体を貯める第2の液溜と、液滴を捕集する第3の液溜とが開口し、
前記チップ本体には、それぞれ第1~第3の液溜の底部からのびて一点で互いに連結する第1~第3の管路が設けられ、さらに、
前記チップ本体の前記他方の面に密着状態で接合された第2の基板を備え、
前記第2の基板には、それぞれ前記第1および第2の液溜に整合する第1および第2の貫通穴が設けられ、さらに、
前記チップ本体の内部、または前記チップ本体および前記第2の基板間、またはそれらの両方に形成され、前記第3の液溜に連通する閉じた微細構造空間を備えたものであることを特徴とする液滴製造用マイクロ流体チップ。
【請求項2】
前記微細構造空間が、前記チップ本体の前記他方の面上に網目状に形成された微細な溝から形成され、前記網目状の微細な溝は、前記第3の液溜に接続するが、前記第1および第2の液溜の開口縁および前記他方の面の外縁には達しないように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の液滴製造用マイクロ流体チップ。
【請求項3】
前記網目状の微細な溝は、グリッド状の微細な溝からなっていることを特徴とする請求項2に記載の液滴製造用マイクロ流体チップ。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴製造用マイクロ流体チップに関するものである。
【背景技術】
【0002】
バイオテクノロジーや薬品製造等の分野では、分散相と連続相が共に液体である分散系溶液(エマルション)中の分散相(液滴)が、極微小反応容器およびマイクロセルの形成材等として広く使用されている。
【0003】
そして、通常、液滴の製造にはマイクロ流体チップが用いられており、液滴製造用マイクロ流体チップとして、例えば、特許文献1に記載されたものがある。
【0004】
特許文献1に記載されたマイクロ流体チップは、気体を吸蔵し得る合成樹脂から形成された板状のチップ本体と、チップ本体の一方の面に気密シールされた状態で接合された基板とを有している。
チップ本体には、第1~第3の液溜と、それぞれ第1~第3の液溜の底部からのび一点で互いに連結する第1~第3の管路とが設けられている。
【0005】
そして、マイクロ流体チップが、第3の液溜に蓋が被せられた状態で、減圧下において脱気され、脱気後、第3の液溜に蓋が被せられたままで大気圧下に置かれ、第1の液溜に連続相となる液体が注入される一方、第2の液溜に分散相となる液体が注入される。
【0006】
こうして、合成樹脂のガス吸蔵作用によって、第1の液溜から連続相となる液体が第1の管路を通じて第3の液溜に向けて送液されると同時に、第2の液溜から分散相となる液体が第2の管路を通じて第3の液溜に向けて送液され、第1および第2の管路と第3の管路との連結部においてエマルションが形成されて、第3の液溜に、分散相となる液体の液滴が連続相となる液体とともに捕集される。
【0007】
この液滴製造用マイクロ流体チップによれば、連続相となる液体および分散相となる液体それぞれの第1および第2の液溜への送液のためのシリンジポンプその他のマイクロポンプが不要となるので、低コストで簡単に液滴を製造することができる。
しかしながら、1秒間に製造可能な液滴数が最大で10個程度であり、液滴の生産性が非常に低いという問題があった。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特開2015-211931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の課題は、液滴を低コストで短時間に大量生産できるマイクロ流体チップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明によれば、気体を吸蔵し得る合成樹脂から形成された板状のチップ本体と、前記チップ本体の一方の面に密着状態で接合された第1の基板と、を備え、前記チップ本体の他方の面に、連続相となる液体を貯める第1の液溜と、分散相となる液体を貯める第2の液溜と、液滴を捕集する第3の液溜とが開口し、前記チップ本体には、それぞれ第1~第3の液溜の底部からのびて一点で互いに連結する第1~第3の管路が設けられ、さらに、前記チップ本体の前記他方の面に密着状態で接合された第2の基板を備え、前記第2の基板には、それぞれ前記第1および第2の液溜に整合する第1および第2の貫通穴が設けられ、さらに、前記チップ本体の内部、または前記チップ本体および前記第2の基板間、またはそれらの両方に形成され、前記第3の液溜に連通する閉じた微細構造空間を備えたものであることを特徴とする液滴製造用マイクロ流体チップが提供される。
【0011】
本発明の好ましい実施例によれば、前記微細構造空間が、前記チップ本体の前記他方の面上に網目状に形成された微細な溝から形成され、前記網目状の微細な溝は、前記第3の液溜に接続するが、前記第1および第2の液溜の開口縁および前記他方の面の外縁には達しないように形成されている。
本発明の別の好ましい実施例によれば、前記網目状の微細な溝は、グリッド状の微細な溝からなっている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、マイクロ流体チップのチップ本体を、気体を吸蔵し得る合成樹脂から形成し、チップ本体の両面に第1および第2の基板を密着状態に接合し、また、チップ本体の内部、またはチップ本体および第2の基板間、またはそれらの両方に、第3の液溜に連通する閉じた微細構造空間を形成して、第3の液溜の内部空間を微細構造空間によって拡張した。
【0013】
それによって、マイクロ流体チップを減圧下に置くと、チップ本体が脱気されるとともに、第1~第3の液溜(微細構造空間を含む)および第1~第3の管路の内部からも空気が外部に放出される。
次いで、脱気したマイクロ流体チップを大気圧下に置くと、第1および第2の液溜から第1~第3の管路を通じて第3の液溜(微細構造空間を含む)に向けて空気が流入するが、このとき、第1および第2の液溜にそれぞれ連続相となる液体および分散相となる液体を注入すると、連続相となる液体が自律的に第1の管路を通って第3の液溜に向けて送液されると同時に、分散相となる液体が自律的に第2の管路を通って第3の液溜に向けて送液され、第1および第2の管路と第3の管路との連結部においてエマルションが形成されて、第3の液溜に分散相となる液体の液滴が連続相となる液体と共に捕集される。
【0014】
この送液およびエマルション生成のプロセスは、第3の液溜(微細構造空間を含む)内に残された密閉空間が減圧状態に維持される間持続する。
ところで、減圧のレベルは、密閉空間内の空気のチップ本体内への溶解(吸蔵)速度が大きいほど高くなり、減圧のレベルが高いほど送液およびエマルション生成の速度が大きくなる。
【0015】
この場合、密閉空間の体積をVとし、密閉空間に占めるチップ本体の面積をSとして、S/V比が大きいほど、密閉空間内の空気のチップ本体内への溶解(吸蔵)速度が大きくなり、それに伴って送液およびエマルション生成の速度が大きくなる。
【0016】
そして、本発明によれば、第3の液溜に微細構造空間を連通させて第3の液溜を拡張することで、第3の液溜単独の場合よりもS/V比を大幅に増大させており、それによって、液滴を短時間に大量生産することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の1実施例による液滴製造用マイクロ流体チップの斜視図である。
【図2】図1の液滴製造用マイクロ流体チップを部分的に分解した斜視図である。
【図3】図1の液滴製造用マイクロ流体チップの液溜および管路の配置を示す図であり、(A)は平面図であり、(B)は(A)の一部を拡大した図である。
【図4】図1の液滴製造用マイクロ流体チップの第3の液溜付近の縦断面図である。
【図5】図1の液滴製造用マイクロ流体チップのグリッド状の微細な溝を示す図であり、(A)は当該溝の形成領域の大きさを示す平面図であり、(B)は当該溝の一部を拡大した図であり、(C)は(B)のX-X線に沿った断面図である。
【図6】実験結果を示すグラフであり、(A)は本発明の液滴製造用マイクロ流体チップによる液滴生成速度および液滴生成総数の時間変化を示すグラフであり、(B)は微細構造空間を備えない液滴製造用マイクロ流体チップによる液滴生成速度および液滴生成総数の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の構成を好ましい実施例に基づいて説明する。
図1は、本発明の1実施例による液滴製造用マイクロ流体チップの斜視図であり、図2は、図1の液滴製造用マイクロ流体チップを部分的に分解した斜視図である。図3Aは、図1の液滴製造用マイクロ流体チップの液溜および管路の配置を示す平面図であり、図3Bは、図3Aの一部を拡大した図である。また、図4は、図1の液滴製造用マイクロ流体チップの第3の液溜付近の縦断面図である。

【0019】
図1および図2を参照して、本発明による液滴製造用マイクロ流体チップは、気体を吸蔵し得る合成樹脂から形成された一定厚の板状のチップ本体1を有している。この実施例では、チップ本体1を形成する合成樹脂としてポリジメチルシロキサン(PDMS)が用いられる。

【0020】
チップ本体1には、その一方の面1a側から他方の面1b側に貫通する3つの円柱状の穴2~4が設けられている。この場合、3つの穴2~4の径は、第1の穴2の容積と第2の穴3の容積との合計値が、第3の穴4の容積よりも小さくなるような大きさに設定されている。

【0021】
チップ本体1の一方の面1aには、図3Aおよび図3Bに示すように、第1の穴2の開口縁に接続する微細な第1の溝5と、第2の穴3の開口縁に接続する微細な第2の溝6と、第3の穴4の開口縁に接続する微細な第3の溝7が設けられ、第1~第3の溝5~7は互いに一点Pで連結している。

【0022】
第1~第3の溝5~7は、それぞれ、連結点Pの手前から当該連結点Pに向かって先細り状に形成されている。
この実施例では、第1~第3の溝5~7のそれぞれが、その全長にわたって同じ深さを有し、かつ、関係する穴2~4から連結点Pの手前までのびる幅広の部分5a~7aと、幅広の部分5a~7aの先端に接続した次第に幅が狭くなるテーパー部分5b~7bと、テーパー部分5b~7bの先端から連結点Pまでのびる狭小な部分5c~7cとからなっている。

【0023】
さらに、連結点Pにおいて、第1~第3の溝5~7が、第1および第2の溝5、6のうちの一方(この実施例では、第1の溝5)と第3の溝7が一直線となり、第1および第2の溝5、6のうちの他方(この実施例では、第2の溝6)が、第3の溝7に対して直交する配置で互いにT字状に連結している。

【0024】
図1、図2および図4を参照して、チップ本体1の第1~第3の溝5~7が設けられた面(一方の面1a)には、第1の基板8が、密着状態で接合されている。この場合、チップ本体1を形成するPDMSの強い自己吸着性により、チップ本体1と第1の基板8を互いに接触させるだけで、両者を密着状態で接合することができる。

【0025】
第1の基板8は、この実施例では、アクリル板からなっている。
なお、第1の基板8の形成材料はこの実施例に限定されず、第1の基板8をアクリル樹脂とは別の種類の合成樹脂またはチップ本体1を形成する樹脂と同じ種類の合成樹脂から形成してもよいし、第1の基板8としてガラス板を用いることもできる。

【0026】
チップ本体1と第1の基板8との接合によって、チップ本体1の第1~第3の穴2~4のそれぞれの一端開口(一方の面1a側の開口)が封閉されて、マイクロ流体チップの第1~第3の液溜m~mが形成され、また、チップ本体1の第1~第3の溝5~7のそれぞれの上部開口が封閉されて、マイクロ流体チップの第1~第3の管路n~nが形成される。

【0027】
そして、第1の液溜mは連続相となる液体の貯留用の液溜として機能し、第2の液溜mは分散相となる液体の貯留用の液溜として機能し、第3の液溜mは液滴の捕集用の液溜として機能する。

【0028】
なお、第1~第3の液溜m~mおよび第1~第3の管路n~nの2次元的な配置は、上記実施例に限定されるものではなく、種々の変形例が可能である。
例えば、上記実施例では、マイクロ流体チップに第1~第3の液溜m~mを1組だけ設けているが、第1~第3の液溜m~mの組を複数組設けてもよい。

【0029】
また、上記実施例では、第1~第3の管路n~nが互いにT字状に連結しているが、第2の液溜mからのびる第2の管路nを一対設け、連結点Pにおいて、第1の管路nの組と、第2および第3の管路n、nの組を互いに十字状に連結してもよい。
あるいは、チップ本体1に、2つの第1の液溜mと、各1つの第2および第3の液溜m、mを設けるとともに、2つの第1の液溜mからそれぞれのびる2本の第1の管路nの組と、第2および第3の管路n、nの組を一点で互いに十字状に連結してもよい。

【0030】
図5Aは、グリッド状の微細な溝9の形成領域の大きさを示す平面図であり、図5Bは、グリッド状の微細な溝9の一部を拡大した図であり、図5Cは、図5BのX-X線に沿った断面図である。
図2および図5A~図5Cを参照して、チップ本体1の他方の面1bには、微細な溝9がグリッド状に形成されている。

【0031】
グリッド状の微細な溝9は、第3の液溜mに接続するが、第1~第2の液溜m、mの開口縁および他方の面1bの外縁には達しないようになっている。
この実施例では、グリッド状の微細な溝9は、レーザーマーカーによって、チップ本体1の他方の面1bに縦横方向の微細溝加工を施したものからなっている。なお、グリッド状の微細な溝9の形成方法は、この実施例に限定されない。
また、微細な溝9の2次元的な形成パターンは、特に限定されず、網目状となっておれば、どのような形状であってもよい。

【0032】
図1および図2に示すように、チップ本体1の他方の面1b(グリッド状の微細な溝9が形成された面)には、第2の基板10が密着状態で接合され、第2の基板10には、それぞれ第1および第2の液溜m、mに整合する第1および第2の貫通穴11、12が設けられている。
この場合も、第1の基板8の場合と同様、チップ本体1を形成するPDMSの強い自己吸着性により、チップ本体1と第2の基板10を互いに接触させるだけで、両者を密着状態で接合することができる。

【0033】
第2の基板10は、この実施例では、アクリル板からなっている。
なお、第2の基板10の形成材料はこの実施例に限定されず、第2の基板10をアクリル樹脂とは別の種類の合成樹脂またはチップ本体1を形成する樹脂と同じ種類の合成樹脂から形成してもよいし、第2の基板10としてガラス板を用いることもできる。また、第2の基板10が第1の基板8とは異なる材料から形成されていてもよい。

【0034】
図4に示すように、チップ本体1と第2の基板10との接合により、グリッド状の微細な溝9の上部開口が封閉されて、チップ本体1および第2の基板10間に、第3の液溜mに連通する閉じた微細構造空間fが形成される。微細構造空間fによって、第3の液溜mの内部空間が拡張される。

【0035】
次に、本発明の液滴製造用マイクロ流体チップの使用態様を説明する。
まず、マイクロ流体チップが減圧下に置かれて、チップ本体1が脱気されるとともに、第1~第3の液溜m~m(微細構造空間fを含む)および第1~第3の管路n~nの内部からも空気が外部に放出される。

【0036】
次いで、脱気されたマイクロ流体チップが大気圧下に置かれる。それによって、空気のチップ本体1内への溶解(吸蔵)が開始されるとともに、第1および第2の液溜m、mから第1~第3の管路n~nを通じて第3の液溜m(微細構造空間fを含む)に向けて空気が流入するが、このとき、第1および第2の液溜m、mにそれぞれ連続相となる液体および分散相となる液体が注入される。

【0037】
こうして、連続相となる液体が自律的に第1の管路nを通って第3の液溜mに向かって送液されると同時に、分散相となる液体が自律的に第2の管路nを通って第3の液溜mに向かって送液され、第1および第2の管路n、nと第3の管路nとの連結点Pにおいてエマルションが形成されて、第3の液溜mに分散相となる液体の液滴が連続相となる液体と共に捕集される。

【0038】
この送液およびエマルション生成のプロセスは、第3の液溜m(微細構造空間fを含む)内に残された密閉空間が減圧状態に維持される間持続する。
ところで、減圧のレベルは、密閉空間内の空気のチップ本体1内への溶解(吸蔵)速度が大きいほど高くなり、減圧のレベルが高いほど送液およびエマルション生成の速度が大きくなる。

【0039】
この場合、密閉空間の体積をVとし、密閉空間に占めるチップ本体1の面積をSとして、S/V比が大きいほど、密閉空間内の空気のチップ本体内への溶解(吸蔵)速度が大きくなり、それに伴って送液およびエマルション生成の速度が大きくなる。

【0040】
本発明によれば、第3の液溜mに微細構造空間fを連通させて第3の液溜mを拡張し、第3の液溜m単独の場合よりもS/V比を大幅に増大させることで、送液およびエマルション生成の速度を増大させたので、液滴を短時間に大量生産することが可能となった。

【0041】
また、本発明によれば、連続相となる液体および分散相となる液体をそれぞれ第1および第2の液溜から第3の液溜に向けて送液するためのシリンジポンプ等のマイクロポンプが不要となり、また、第1および第2の液溜にそれぞれ連続相となる液体および分散相となる液体を注入すれば、それぞれの液体が自律的に第3の液溜に向かって流れるので、各液体の送液流量を制御する必要もない。こうして、液滴を簡単にかつ低コストで製造することができる。

【0042】
以上、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明の構成は上記実施例に限定されず、添付の特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で種々の変形例を案出できる。
例えば、上記実施例では、チップ本体1の他方の面1b上に形成したグリッド状の微細な溝9によってチップ本体1および第2の基板10間に微細構造空間fを形成したが、微細構造空間fは、チップ本体1の内部、またはチップ本体1および第2の基板10間、またはそれらの両方に形成され、第3の液溜mに連通する閉じた空間でありさえすればどのような構成であってもよく、この場合、できるだけ大きなS/V比が得られるような構成であることが好ましい。

【0043】
[実験]
次に、本発明の効果を確認すべく、実験を行ってその結果を評価した。
実験においては、マイクロ流体チップとして、図1~図5に示したものと同様の構成のものを作成した。マイクロ流体チップの各部の寸法は次のとおりである。
(i)チップ本体1:縦50mm×横70mm×厚さ4mm
(一方の面1a側)
・第1の液溜mの径:d=6mm
・第2の液溜mの径:d=4mm
・第3の液溜mの径:d=8mm
・チップ本体横方向の、第1の液溜mの中心および点P間の距離:L=7mm
・チップ本体横方向の、第2の液溜mの中心および点P間の距離:L=7mm
・チップ本体縦方向の、第2の液溜m(第1の液溜m)の中心および点P間の距離L=7.5mm
・チップ本体縦方向の、第3の液溜mの中心および点P間の距離L+L=7.5mm
・チップ本体縦方向の、第3の液溜mの中心および第3の管路nとの接続点間の距離:L=1mm
・第1~第3の管路n~nの深さ:50μm
・第1~第3の管路n~nの幅広の部分5a、6a、7aのそれぞれの幅:d=250μm
・第1~第3の管路n~nのテーパー部分5b、6b、7bのそれぞれの長さ:d=300μm
・第1~第3の管路n~nの狭小な部分5c、6c、7cのそれぞれの幅:d=50μm
・第1の管路nの狭小な部分5cの長さd=0.2mm
・第2の管路nの狭小な部分6cの長さd=0.2mm
・第3の管路nの狭小な部分7cの長さd=2mm
(他方の面1b側)
・グリッド状の微細な溝9の形成領域の大きさ(図5A参照)
=50mm、L=34mm、L=25mm、L=25mm、L10=17mm、L11=17mm
・グリッド状の微細な溝9を構成する溝部分の幅d10=40μm
・グリッド状の微細な溝9を構成する溝部分の深さd11=5μm
・グリッド間の間隔d12=120μm
(ii)第1の基板8:縦52mm×横76mm×厚さ2mm
(iii)第2の基板10:縦50mm×横70mm×厚さ2mm
・第1の貫通穴11の径:6mm
・第2の貫通穴12の径:4mm

【0044】
上記の設計仕様においては、グリッド状の微細な溝9に基づく微細構造空間fの総体積(V)が2.22×10-3cmとなり、この微細構造空間fに占めるチップ本体1(PDMS)の占める面積(S)が9.60×10-1cmとなるので、S/V=432cm-1となる。
また、第3の液溜mについては、S/V=5.0cm-1となる。
よって、微細構造空間fによって拡張された第3の液溜mのS/Vは、9.6cm-1である。

【0045】
このマイクロ流体チップを、ポンプ内蔵真空デシケータ内に収容し、ポンプを作動させてデシケータ内を減圧し、デシケータ内が所定の圧力値に達した時点でポンプを停止させて、90分間デシケータ内を減圧状態に維持し、マイクロ流体チップを脱気した。

【0046】
脱気終了後、デシケータ内に外気を導入するとともに、デシケータ内において素早く、第1の液溜mに油相(2%Pico-Surf(登録商標)1を含むNovec7500)150μLを注入し、第2の液溜mに水相(0.18(w/v)%インジコカルミン溶液)20μLを注入した。

【0047】
そして、第1および第2の管路n、nと第3の管路nとの連結点Pにおいて油中水滴(エマルション)を生成し、第3の液溜mに捕集した。
このとき、倒立型蛍光顕微鏡(WRAYMER、AXJ-5300TPHFL MODEL)に接続した高速度カメラ(DITECT、HAS-D71)を用いて、連結点Pにおける油中水滴の生成の様子を記録した。

【0048】
油中水滴の生成プロセスが終了した後、記録した画像を解析することにより、油相と液相とが連結点Pで交差した時点を基準として、液滴の生成速度の時間変化を測定した。さらに、得られた生成速度を積分することによって、液滴の生成総数の時間変化を算出した。
結果を図6Aのグラフに示す。図6Aのグラフ中、縦軸は液滴生成速度(Hz)または液滴生成総数を示し、横軸は時間(min)を示している。また、曲線Iは液滴の生成速度を表し、曲線IIは液滴の生成総数を表している。

【0049】
次に、比較例として、図1~図5に示したものと、グリッド状の微細な溝9を有しない点のみが異なるマイクロ流体チップを準備し、このマイクロ流体チップを用いて、上と同様にして液滴の製造を行い、マイクロ流体チップの連結点Pにおける油中水滴の生成の様子を高速度カメラに記録した。

【0050】
そして、前と同様に、記録した画像を解析することによって、油相と液相とが連結点Pで交差した時点を基準として、液滴の生成速度の時間変化を測定した。さらに、得られた生成速度を積分することによって、液滴の生成総数の時間変化を算出した。
結果を図6Bのグラフに示す。図6Bのグラフ中、縦軸は液滴生成速度(Hz)または液滴生成総数を示し、横軸は時間(min)を示している。また、曲線Iは液滴の生成速度を表し、曲線IIは液滴の生成総数を表している。

【0051】
図6Aのグラフと図6Bのグラフの比較から、第3の液溜mを微細構造空間によって拡張することで、液滴の生成速度が飛躍的に増大し、それに伴って一定時間当たりの液滴の生成総数も大幅に増加することが確認できた。
【符号の説明】
【0052】
1 チップ本体
1a 一方の面
1b 他方の面
2 第1の穴
3 第2の穴
4 第3の穴
5 第1の溝
6 第2の溝
7 第3の溝
8 第1の基板
9 グリッド状の微細な溝
10 第2の基板
11 第1の貫通穴
12 第2の貫通穴
f 微細構造空間
第1の液溜
第2の液溜
第3の液溜
第1の管路
第2の管路
第3の管路
P 連結点
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5