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明細書 :ホウ化チタン/ジルコニア‐アルミナ系コンポジットの製造方法及び、優れた硬度及び靱性を有するホウ化チタン/ジルコニア‐アルミナ系コンポジット

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-038709 (P2019-038709A)
公開日 平成31年3月14日(2019.3.14)
発明の名称または考案の名称 ホウ化チタン/ジルコニア‐アルミナ系コンポジットの製造方法及び、優れた硬度及び靱性を有するホウ化チタン/ジルコニア‐アルミナ系コンポジット
国際特許分類 C04B  35/58        (2006.01)
C04B  35/488       (2006.01)
C04B  35/645       (2006.01)
FI C04B 35/58 071
C04B 35/488
C04B 35/645
請求項の数または発明の数 4
出願形態 OL
全頁数 12
出願番号 特願2017-160046 (P2017-160046)
出願日 平成29年8月23日(2017.8.23)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用申請有り 平成29年2月25日に行われた同志社大学先端複合材料研究センター2016年度末研究成果発表会
発明者または考案者 【氏名】廣田 健
【氏名】加藤 将樹
【氏名】吉田 雅志
出願人 【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
個別代理人の代理人 【識別番号】110000475、【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
審査請求 未請求
要約 【課題】高硬度・強靱性ホウ化チタン/ジルコニア‐アルミナ系コンポジット及びその製造方法を提供する。
【解決手段】平均粒子径2.5~4.0μmのホウ化チタン(TiB2)粉末と、平均粒子径0.3~0.8μmのTiB2粉末が6:4~8:2の重量比率にて混合してなるTiB2混合粉体を準備し(工程A)、ジルコニア(ZrO2)及びイットリア(Y2O3)としてのモル比率が97.0:3.0~98.0:2.0であるY2O3部分安定化ZrO2粉末と、アルミナ(Al2O3)粉末が80:20~75:25のモル比率にて混合してなるY2O3部分安定化ZrO2/Al2O3混合粉体を準備し(工程B)、前記TiB2混合粉体とY2O3部分安定化ZrO2/Al2O3混合粉体を80:20~60:40の体積比率にて混合し、得られた混合粉体を冷間静水圧プレスにて成形した後、パルス通電加圧焼結法で、不活性ガス雰囲気下、圧力30~60 MPa、1500~2000℃にて3~30分焼結する(工程C)。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の工程A~C:
工程A:平均粒子径2.5~4.0μmのホウ化チタン粉末と、平均粒子径0.3~0.8μmのホウ化チタン粉末が6:4~8:2の重量比率にて混合してなるホウ化チタン混合粉体を準備する工程、
工程B:ジルコニア及びイットリアとしてのモル比率が97.0:3.0~98.0:2.0であるイットリア部分安定化ジルコニア粉末と、アルミナ粉末が80:20~75:25のモル比率にて混合してなるイットリア部分安定化ジルコニア/アルミナ混合粉体を準備する工程、及び
工程C:前記ホウ化チタン混合粉体と、前記イットリア部分安定化ジルコニア/アルミナ混合粉体を80:20~60:40の体積比率にて混合し、得られた混合粉体を冷間静水圧プレスにて成形し、次いで、パルス通電加圧焼結法で、不活性ガス雰囲気下、圧力30~60 MPa、1500~2000℃で3~30分の条件にて焼結する工程
を含むことを特徴とするホウ化チタン/ジルコニア‐アルミナ系コンポジットの製造方法。
【請求項2】
前記工程Cにおいて前記ホウ化チタン混合粉体と、前記イットリア部分安定化ジルコニア/アルミナ混合粉体を混合する際の体積比率が70:30~60:40であることを特徴とする請求項1に記載のホウ化チタン/ジルコニア‐アルミナ系コンポジットの製造方法。
【請求項3】
ホウ化チタンと、イットリア部分安定化ジルコニア/アルミナとの体積比率が80:20~60:40であり、前記イットリア部分安定化ジルコニアにおけるジルコニアとイットリアのモル比率が97.0:3.0~98.0:2.0であり、前記イットリア部分安定化ジルコニアと前記アルミナのモル比率が80:20~75:25であり、ビッカース硬度Hvが20 GPa以上で、しかも、破壊靭性値KICが11 MPa・m1/2以上であることを特徴とするホウ化チタン/ジルコニア‐アルミナ系コンポジット。
【請求項4】
前記イットリア部分安定化ジルコニア中の正方晶ジルコニア/単斜晶ジルコニアの体積比が15/85~25/75であることを特徴とする請求項3に記載のホウ化チタン/ジルコニア‐アルミナ系コンポジット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、高硬度・強靱性を有したホウ化チタン/ジルコニア‐アルミナ系コンポジット(TiB2/[ZrO2(Y2O3)-Al2O3]系コンポジット)及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属に比較して、化学的安定性、耐腐食性、高温環境下での使用可能といった多くの特徴を有するセラミックス材料は、硬度や強度が高いが、靱性が低いという弱点があり、その応用が限定されている。
エンジニアリングセラミックスの機械的特性は非酸化物系の窒化ケイ素Si3N4で、ビッカース硬度Hv 12~15 GPa、破壊靭性値KIC 2~5 MPa・m1/2、サイアロンSiAlONでHv 15~17 GPa、KIC 4~7 MPa・m1/2である。一方、化学的に安定な酸化物系ではAl2O3でHv 16~18 GPa、KIC 2.7~4.2 MPa・m1/2、TiC-Al2O3系でもHv 20 GPa、KIC 5 MPa・m1/2程度である。これらのHvやKICでは十分とは言えず、特性が不足するという課題があった。
【0003】
又、セラミックスの強靭化、すなわち破壊靱性値を向上させる方法として、例えば下記の特許文献1において、ゾル‐ゲル法によりZrO2(0.3-1.7 mol% Y2O3)-25 mol% Al2O3固溶体粉体を調製し、パルス通電加圧焼結(Pulsed Electric-Current Pressure Sintering:PECPS)を行うことにより、緻密で、しかも、15 MPa・m1/2以上のKICと約1000 MPa(1 GPa)以上の曲げ強度(σb)を同時に示す高硬度・強靱性のセラミックスが得られることが開示されている。しかしながら、このセラミックスのビッカース硬度Hvは12~15 GPa程度であり、20 GPa以上のビッカース硬度Hvを有するセラミックスは得られていない。尚、このような方法の場合には、原料調製コストが高い(原料1 gあたりの価格が数千円以上)という問題点もあった。
更に、市販の一般的な強靭性ジルコニア作製用の3 mol% Y2O3を添加したZrO2粉体と市販のAl2O3微粒子を混合して焼結した複合セラミックスは、σb≧1 GPaの曲げ強度を示すが、KICは6~7 MPa・m1/2に留まり、靭性が低いという問題点があった。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】WO 2012/153645
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来技術における前述の問題点を解決し、ビッカース硬度Hvが20 GPa以上で、しかも、破壊靭性値KICが11 MPa・m1/2以上の高硬度・強靱性を有したホウ化チタン/ジルコニア‐アルミナ系コンポジット、及び、当該ホウ化チタン/ジルコニア‐アルミナ系コンポジットの製造方法を提供することを課題とする。
本発明者等は、種々検討を行った結果、特定の粒子径を有した大粒子(平均粒子径:2.5~4.0μm)と小粒子(平均粒子径:0.3~0.8μm)が混在したバイモーダル(bi-modal)の粒度分布を持つホウ化チタン(TiB2)粒子と、ジルコニア(イットリア)‐アルミナ(ZrO2(Y2O3)-Al2O3)系微粒子粉体を均質に混合し、得られた粉体を冷間静水圧プレス(cold isostatic pressing:CIP)にて成形した後、高速昇温短時間焼結が可能なパルス通電加圧焼結(PECPS)を行うことによって、ビッカース硬度が20 GPa以上、かつ、破壊靭性値が11 MPa・m1/2以上の特性を有する高密度ホウ化チタン/ジルコニア-アルミナ系コンポジット(TiB2/[ZrO2(Y2O3)-23mol%Al2O3])が作製できることを見出し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決可能な本発明のホウ化チタン/ジルコニア‐アルミナ系コンポジットの製造方法は、以下の工程A~C:
工程A:平均粒子径2.5~4.0μmのホウ化チタン(TiB2)粉末と、平均粒子径0.3~0.8μmのホウ化チタン粉末が6:4~8:2の重量比率にて混合してなるホウ化チタン混合粉体を準備する工程、
工程B:ジルコニア(ZrO2)及びイットリア(Y2O3)としてのモル比率が97.0:3.0~98.0:2.0であるイットリア部分安定化ジルコニア粉末と、アルミナ粉末が80:20~75:25のモル比率にて混合してなるイットリア部分安定化ジルコニア/アルミナ混合粉体を準備する工程、及び
工程C:前記ホウ化チタン混合粉体と、前記イットリア部分安定化ジルコニア/アルミナ混合粉体を80:20~60:40の体積比率(vol%)にて混合し、得られた混合粉体を冷間静水圧プレスにて成形し、次いで、パルス通電加圧焼結法で、不活性ガス雰囲気下、圧力30~60 MPa、1500~2000℃で3~30分の条件にて焼結する工程
を含むことを特徴とする。
尚、以下の説明において、「TiB2/[PSZ(2.5Y)-23A]」との表記は、TiB2/[77mol% (97.5mol% ZrO2- 2.5mol% Y2O3)-23mol% Al2O3]を意味している。
【0007】
又、本発明は、前記工程Cにおいて前記ホウ化チタン混合粉体と、前記イットリア部分安定化ジルコニア/アルミナ混合粉体を混合する際の体積比率が70:30~60:40であることを特徴とするものである。
【0008】
更に、本発明は、ホウ化チタンと、イットリア部分安定化ジルコニア/アルミナとの体積比率が80:20~60:40であり、前記イットリア部分安定化ジルコニアにおけるジルコニアとイットリアのモル比率が97.0:3.0~98.0:2.0であり、前記イットリア部分安定化ジルコニアと前記アルミナのモル比率が80:20~75:25であり、ビッカース硬度Hvが20 GPa以上で、しかも、破壊靭性値KICが11 MPa・m1/2以上であることを特徴とするホウ化チタン/ジルコニア‐アルミナ系コンポジットでもある。
【0009】
又、本発明は、上記の特徴を有したホウ化チタン/ジルコニア‐アルミナ系コンポジットにおいて、前記イットリア部分安定化ジルコニア中の正方晶ジルコニア/単斜晶ジルコニアの体積比が15:85~25:75であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法の場合、高速昇温短時間焼結が可能なパルス通電加圧焼結(PECPS)を採用し、ZrO2中に含まれる Y2O3量を最適化することによって、焼結体中の ZrO2の結晶相に正方晶を残し、かつTiB2成分の比率を最適化することで高硬度(ビッカース硬度Hv20 GPa以上)と強靭性値(破壊靭性値KIC 11 MPa・m1/2以上)を得ることが可能となる。
そして、本発明の製造方法を用いて製造されたTiB2/ZrO2(Y2O3)-Al2O3系コンポジットは、優れた硬度及び靱性を有しており、ビッカース硬度Hvが20 GPa以上で、しかも、破壊靭性値KICが11 MPa・m1/2以上である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の高硬度・強靱性TiB2/ZrO2(Y2O3)-Al2O3系コンポジットの製造方法における工程を示すフローチャートであり、実施例で用いた各工程の製造条件が記載されている。
【図2】実施例にて使用したTiB2出発粉末(モノ‐モーダルTiB2粉末(比較例)と、バイ‐モーダルTiB2粉末(本発明例))の粒度分布及び、粒子の形状を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図3】実施例にて使用したZrO2(2.5mol% Y2O3)-23mol% Al2O3粉体のSEM写真であり、ZrO2とAl2O3のそれぞれの存在位置が示されている。
【図4】上記のモノ‐モーダルTiB2粉末と、バイ‐モーダルTiB2粉末を用いて、Ar中、50 MPa下、1600℃で10分間の焼結条件にて焼結されたTiB2/PSZ(2.5Y)23Aコンポジットの特性を比較したものである。
【図5】焼結温度を変化させた際の、バイ‐モーダルTiB2/[PSZ(2.5Y)23A]=65/35vol%コンポジットの相対密度及び正方晶ZrO2比(t-ZrO2比、t-率)の変化を示す図である。
【図6】Ar中、50 MPa下、1600℃で10分間のPECPSを用いて製造された種々の組成を有するバイ‐モーダルTiB2/PSZ(2.5Y)23Aコンポジットの破断表面のSEM(BEI)写真である。
【図7】Ar中、50 MPa下、1600℃で10分間焼結された、バイ‐モーダルTiB2/PSZ(2.5Y)23A=65/35vol%コンポジットの破断表面におけるSEM写真であり、上側がBEI画像、下側がSEI画像である。
【図8】モノ‐モーダルTiB2とPSZ(2.5Y)23A粉末を用いて、Ar中、50 MPa下、10分間、(a)1400℃、(b)1500℃、(c)1600℃の温度で焼結を行うことにより製造されたモノ‐モーダルTiB2/PSZ(2.5Y)23A=65/35vol%コンポジット(比較品)のXRDパターンである。
【図9】バイ‐モーダルTiB2とPSZ(2.5Y)23A粉末を用いて、Ar中、50 MPa下、1600℃で10分間にて製造された、バイ‐モーダルTiB2/PSZ(2.5Y)23A=65/35vol%コンポジット(本発明品)のXRDパターンである。
【図10】PSZ(2.5Y)23A含量を変化させた際の、バイ‐モーダルTiB2/PSZ(2.5Y)23Aコンポジットの相対密度及びt-ZrO2比の変化を示すグラフである。
【図11】ZrO2(2.5mol% Y2O3)-23mol% Al2O3の含量(vol%)を変化させた際の、バイ‐モーダルTiB2/PSZ(2.5Y)23Aコンポジットの機械的特性(曲げ強度σb、ビッカース硬度Hv及び破壊靱性値KIC)の変化を示すグラフである。
【図12】ZrO2成分中のt-ZrO2体積比に対する、種々の条件で製造されたバイ‐モーダルTiB2/PSZ(2.5Y)23Aコンポジットのビッカース硬度Hv及び破壊靱性値KICの変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
高硬度・強靱性TiB2/ZrO2(Y2O3)-Al2O3系コンポジットを製造することが可能な本発明の製法における各工程について説明する。
図1は、本発明の高強度強靱性TiB2/ZrO2(Y2O3)-Al2O3系コンポジットの製造方法における工程を示すフローチャートである。

【0013】
本発明における工程A(ホウ化チタン混合粉体の準備工程)では、平均粒子径が2.5~4.0μmである大粒子ホウ化チタン(TiB2)粉末と、平均粒子径が0.3~0.8μmである小粒子ホウ化チタン粉末が6:4~8:2、好ましくは7:3の重量比率にて混合してなる混合粉体を準備する。この際、上記の平均粒子径を有した大粒子TiB2粉末と小粒子TiB2粉末は市販のものが利用できる。本発明では、平均粒子径の異なる2種類のTiB2粉末が混在したバイ‐モーダル粒度分布を有するTiB2混合粉体を使用することにより、大粒子TiB2粉末間に小粒子TiB2粉末が入り込み、PECPS後に得られるコンポジットの嵩密度、相対密度、ビッカース硬度、破壊靱性値、正方晶ZrO2/単斜晶ZrO2比が大きくなり、さらに不純物相(TiAl2O5)の生成が抑制される(後述の図8(c))。
TiB2自体は、高硬度(ビッカース硬度Hv 33 GPa)であるが、破壊靱性値KICが低く(4.5 MPa・m1/2)、単独焼結では2400~2500℃の高温を必要とし、難焼結性であるが、本発明においては、Y2O3部分安定化ZrO2/Al2O3混合粉体と混合してパルス通電加圧焼結することにより、1500~1700℃の温度で焼結を行うことができ、高硬度・強靱性のTiB2/ZrO2(Y2O3)-Al2O3系コンポジットが製造できる。

【0014】
本発明における工程B(Y2O3部分安定化ZrO2/Al2O3混合粉体の準備工程)では、ZrO2及びY2O3としてのモル比率(mol%)が97.0:3.0~98.0:2.0であるY2O3部分安定化ZrO2粉末と、Al2O3粉末が80:20~75:25のモル比率にて混合してなるY2O3部分安定化ZrO2/Al2O3混合粉体を準備する。
本製法の工程BにおいてZrO2:Y2O3のモル比率及びAl2O3の添加割合が上記比率に限定されるのは、Y2O3のモル比率が2.0 mol%より少ない場合でも3.0 mol%より多い場合でも、ビッカース硬度が20 GPaよりも小さくなり、破壊靱性値KICが11 MPa・m1/2より小さくなるからであり、特にY2O3のモル比率が2.0 mol%未満の場合は単斜晶ZrO2粒子が増えてクラックの原因となる。又、Al2O3のモル比率が20~25 mol%に限定されるのは、20 mol%未満ではZrO2セラミックスの性質が強くなり、逆に25 mol%を超えると、Al2O3セラミックスの性質が強くなり、破壊靭性値KICが11 MPa・m1/2より小さくなるからである。
本発明では、ジルコニアセラミックス作製用の市販のY2O3部分安定化ZrO2(3 mol% Y2O3を添加したZrO2粉体等)と市販のAl2O3粉体を混合して使用することも可能である。

【0015】
又、本発明における工程C(焼結工程)では、前記TiB2混合粉体と、前記Y2O3部分安定化ZrO2/Al2O3混合粉体を80:20~60:40、好ましくは70:30~60:40の体積比率(vol%)にて混合し、得られた混合粉体を冷間静水圧プレスにて成形し、次いで、パルス通電加圧焼結法で、不活性ガス雰囲気下、圧力30~60 MPa、温度1500~2000℃で3~30分の条件にて焼結する。

【0016】
前記TiB2混合粉体と、前記Y2O3部分安定化ZrO2/Al2O3混合粉体を混合する際、超音波ホモジナイザーを用いてアルコール(例えばエタノール)中で15分~1時間程度(好ましくは30分間)混合を行うことが好ましいが、これに限定されるものではない。
そして、上記の混合により得られた混合物を、バインダー(好ましくはポリビニルアルコール(PVA))を2~10 %含む水溶液にて整粒(造粒)し、これを金型成形(好ましくは一軸加圧50 MPa)し、ついで冷間静水圧(好ましくは245 MPa)プレス処理して密度を高める。その後、不活性ガス雰囲気下(例えばアルゴン(Ar)ガス又は窒素ガス雰囲気下)、昇温速度50℃/min以上、圧力30~60 MPa、焼結温度1500~2000℃で3~30分の条件にてパルス通電加圧焼結を行う。本発明において、一軸加圧下、低電圧でパルス状直流電流を流し、火花放電現象により瞬時に高エネルギーを発生させて試料の焼結を行うパルス通電加圧焼結法が適しているのは、急激なジュール加熱により溶解と高速拡散が起こり、短時間で高速焼結でき、これにより、比較的粒成長を抑えた緻密な焼結体(相対密度が約99%以上)が得られるからである。

【0017】
本発明におけるパルス通電加圧焼結の特に好ましい条件は、アルゴンガス雰囲気下、昇温速度50~120℃/分、加圧力40~60 MPa、焼結温度1600~1900℃、保持時間7~15分の条件である。この際、焼結温度が1500℃未満になると焼結体の密度が低くなり、高いビッカース硬度(20 GPa以上)、高い破壊靱性値(11 MPa・m1/2以上)が得られなくなるので好ましくない。保持時間については、3~30分で充分緻密化するが、加圧力が30MPa未満では焼結密度が低くなり、逆に60 MPaを超えると通電加圧焼結に使用する金型の強度に上限があり使用出来なくなるという問題がある。昇温速度については、50℃/分未満になると長時間の熱処理となり製造コストが高くなり、逆に120℃/分を超えると、焼結体内部の微細構造にムラが生じ、均質で大型の試料の作製が困難となるので好ましくない。

【0018】
上記の工程A~Cを含む本発明の製造方法では、バイ‐モーダル粒度分布を有するTiB2混合粉体と、安定化材Y2O3がZrO2に対して所定量添加されたY2O3部分安定化ZrO2-Al2O3混合粉体を所定割合で混合することにより、緻密な構造を有したTiB2/[ZrO2(Y2O3)-Al2O3]系コンポジットを製造することができ、当該製造方法は、高硬度・強靱性のコンポジット(ビッカース硬度Hv 20 GPa以上、破壊靭性値KIC 11 MPa・m1/2以上)を製造するのに適している。

【0019】
上記の工程A~Cを含む製造方法にて得られる本発明のTiB2/ZrO2(Y2O3)-Al2O3系コンポジットは、TiB2と、Y2O3部分安定化ZrO2/Al2O3との体積比率が80:20~60:40であり、前記Y2O3部分安定化ZrO2におけるZrO2とY2O3のモル比率が97.0:3.0~98.0:2.0であり、前記Y2O3部分安定化ZrO2と前記Al2O3のモル比率が80:20~75:25であり、20 GPa以上のビッカース硬度Hvと、11 MPa・m1/2以上の破壊靭性値KICを有している。
そして、上記の高硬度・強靱性を有した本発明のTiB2/ZrO2(Y2O3)-Al2O3系コンポジットにおける、前記Y2O3部分安定化ZrO2中の正方晶ジルコニア(t-ZrO2)/単斜晶ジルコニア(m-ZrO2)体積比は15/85~25/75(vol%)であることが好ましい。
【実施例】
【0020】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何等限定されるものではない。
尚、以下の実施例等で作製した各焼結体についてはそれぞれ、嵩密度(Dobs)、XRDパターン、ビッカース硬度(Hv)、破壊靱性値(KIC)、曲げ強度(σb)、t-ZrO2比(t-率)を測定し、SEM/TEM画像を測定・撮影し、特性評価を行った。
曲げ強度σbは、スパン長さ8 mm、クロスヘッドの送り0.5 mm/minの条件で測定された三点曲げ強度の値であり、破壊靱性値KICは、荷重20 kg(196N)で15秒間、正四角錐のダイヤモンド圧子をセラミックス表面に押し込み、形成された圧痕の四隅に発生するクラックの長さから評価するインデンテーション(IF)法(K. Niihara et al., J. Master. Sci. Lett., 1, 13-16 (1982))に従って測定された値である。
【実施例】
【0021】
実施例1:TiB2/[ZrO2(Y2O3)-Al2O3]系コンポジットの製造例
a)製造工程
図1は、本発明の高硬度・強靱性TiB2/[ZrO2(Y2O3)-Al2O3]系コンポジットの製造方法における工程の一例を示すフローチャートであり、実施例にて使用した各工程の製造条件が記載されているが、本発明は、これら条件に限定されるものではない。
PECPS時の焼結温度については、焼結を行う成形物の組成により適宜選択され、ZrO2を多く含む組成の場合には比較的低温(1400℃又は1500℃)での焼結が可能であるが、TiB2を多く含む組成の場合には比較的高温(1900℃又は2000℃)での焼結が必要であった。尚、特性評価における正方晶ZrO2比(t-ZrO2比、t-率)は、X線回折により、全ZrO2に対する単斜晶相の存在割合から求めた。
【実施例】
【0022】
b)出発粉末の調製例
図2には、本実施例で使用した出発粉末のTiB2粉末(モノ‐モーダルTiB2粉末(比較例)と、バイ‐モーダルTiB2粉末(本発明例))の粒度分布及び、粒子の形状を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真が示されている。
図2の左側に示された比較例の出発粉末(モノ‐モーダルTiB2粉末)の平均粒子径は1.9μmであり、右側に示された本発明例の出発粉末(バイ‐モーダルTiB2粉末)は、平均粒子径が大きい方のTiB2粉末(平均粒子径は3.2μm)と、小さい方のTiB2粉末(平均粒子径は0.5μm)が7:3の重量比率にて混合したものであり、この混合粉体はバイモーダルの粒度分布を有し、全体の平均粒子径は1.85μmであった。尚、これらのTiB2粉末は日本新金属株式会社の市販品(TiB2-NF)を用いた。
【実施例】
【0023】
一方、Y2O3部分安定化ZrO2粉体として、市販のY2O3部分安定化ZrO2粉体(2.5 mol% Y2O3添加品、第一稀元素化学工業株式会社製)を準備し、このY2O3部分安定化ZrO2粉体と、市販のAl2O3粉末(TM-Dグレード、大明化学工業株式会社製)とを、モル比率(mol%)が77:23となるように秤量し、ボールミルを用いて均質に混合し、原料粉体とした。
図3には、実施例で用いたZrO2(2.5mol% Y2O3)-23mol% Al2O3粉体のSEM写真が示されており、この写真の白い粒子がZrO2(2.5mol% Y2O3)で、灰色の粒子がAl2O3であることが確認された。尚、図3には、この粉体の物性値も示されている。
【実施例】
【0024】
上記のモノ‐モーダルTiB2粉末(比較例)と、バイ‐モーダルTiB2粉末(本発明例)を、それぞれ上記ZrO2(2.5mol% Y2O3)-23mol% Al2O3粉体と、65:35の体積比率にて混合し、得られた混合粉体を、ポリビニルアルコール(PVA)を7 %含む水溶液にて整粒(造粒)し、これを金型成形(一軸加圧50 MPa)し、ついで冷間静水圧(245 MPa/1 min)プレス処理して密度を高めた。その後、得られた成形体を、市販のパルス通電加圧焼結装置(SPSシンテックス(株)/SPS-510Aを使用)を用いて、アルゴン(Ar)ガス雰囲気下、加圧圧力50 MPa、焼結温度1600℃、保持時間10分、昇温速度100℃/分の条件でパルス通電加圧焼結を行い、焼結体を得た。
【実施例】
【0025】
c)出発粉末の違いによる焼結体の破断面構造の違い及び、物性値比較
図4には、前記のモノ‐モーダルTiB2粉末と、バイ‐モーダルTiB2粉末を用い、上記の焼結条件(Ar中、50 MPa、1600℃、10分)で焼結されたTiB2/PSZ(2.5Y)23Aコンポジットの破断面顕微鏡写真と、物性値が比較されており、左側がモノ‐モーダルTiB2粉末を用いた場合、右側がバイ‐モーダルTiB2粉末を用いた場合である。
図4の物性値の比較から、大粒子と小粒子が混在したバイ‐モーダルTiB2粉末を用いて得られたTiB2/PSZ(2.5Y)23Aコンポジット(本発明品)は、モノ‐モーダルTiB2粉末を用いた場合(比較例)よりも正方晶ZrO2比(t-ZrO2比)が大きく、これによって、ビッカース硬度Hv及び破壊靱性値KICが大きく、高硬度・強靱性であることが確認された。
【実施例】
【0026】
d)Y2O3添加量及び焼成温度を変化させて得られたバイ‐モーダルTiB2/PSZ(2.0, 2.5Y)23A=65/35vol%コンポジットのビッカース硬度及び破壊靭性値の測定
図5には、50 MPa下で10分間のPECPS温度を変化させた際の、バイ‐モーダルTiB2/PSZ(2.0, 2.5Y)23A=65/35vol%コンポジットの相対密度及びt-率(t-ZrO2比)がグラフで示されており、このグラフから、2.5mol% Y2O3添加の場合の方が、2.0mol% Y2O3添加の場合よりも正方晶ZrO2の比率が大きくなることが確認された。
この実験結果に基づき、以下のTiB2混合粉体とY2O3部分安定化ZrO2-Al2O3混合粉体の最適混合割合の検討実験におけるY2O3添加量は2.5mol%とした。
【実施例】
【0027】
e)TiB2とPSZ(2.5Y)23Aの配合割合を変化させた得られたバイ‐モーダルTiB2/PSZ(2.5Y)23Aコンポジットの破断表面観察
図6には、Ar中、50 MPa下、1600℃で10分間のPECPSを用いて製造された種々の組成を有するバイ‐モーダルTiB2/PSZ(2.5Y)23Aコンポジットの破断表面のSEM(BEI)写真が示されており、(a)は上記の体積比が20/80の場合(焼結温度1500℃)、(b)は40/60の場合(焼結温度1500℃)、(c)は60/40の場合(焼結温度1600℃)、(d)は80/20の場合(焼結温度1900℃)である。
これらのSEM(BEI)写真から、バイ‐モーダルTiB2とPSZ(2.5Y)23Aの比率を変化させることによって、コンポジットの破断表面の状態が大きく変化することが確認された。
又、図7には、Ar中、50 MPa下、1600℃で10分間焼結された、バイ‐モーダルTiB2/PSZ(2.5Y)23A=65/35vol%コンポジットの破断表面におけるSEM写真が示されており、上側の写真が反射電子像(BEI画像)、下側の写真が2次電子像(SEI画像)である。
これらBEI画像及びSEI画像から、上記の条件で焼結されたバイ‐モーダルTiB2/PSZ(2.5Y)23A=65/35vol%コンポジットは、緻密化された組織を有していることが確認された。
【実施例】
【0028】
f)出発粉末の粒度分布の違いによるTiB2/PSZ(2.5Y)23AコンポジットのXRDパターンの変化
図8は、モノ‐モーダルTiB2粉末とPSZ(2.5Y)23A粉末を用いて、Ar中、50 MPa下、10分間、(a)1400℃、(b)1500℃、(c)1600℃の温度で焼結を行うことにより製造されたモノ‐モーダルTiB2/PSZ(2.5Y)23A=65/35vol%コンポジット(比較品)のXRDパターンであり、図9は、バイ‐モーダルTiB2粉末とPSZ(2.5Y)23A粉末を用いて、Ar中、50 MPa下、1600℃で10分間にて製造された、バイ‐モーダルTiB2/PSZ(2.5Y)23A=65/35vol%コンポジット(本発明品)のXRDパターンである。
この図8及び図9において、○は正方晶ZrO2(t-ZrO2)の回折ピークを示し、□は単斜晶ZrO2(m-ZrO2)の回折ピークを示し、■はTiB2の回折ピークを示し、▲はTiAl2O5の回折ピークを示しており、いずれの場合にも、高硬度・強靱性をもたらすt-ZrO2(正方晶ZrO2)の存在が認められたが、モノ‐モーダルTiB2粉末を用いた場合ではTiAl2O5の生成が確認された。
【実施例】
【0029】
g)PSZ(2.5Y)23A含量を変化させて得られたTiB2/PSZ(2.5Y)23Aコンポジットの相対密度及びt-ZrO2比測定
図10には、PSZ(2.5Y)23A含量を変化させた際の、バイ‐モーダルTiB2/PSZ(2.5Y)23Aコンポジットの相対密度及びt-ZrO2比の変化がグラフにて示されている。
図10のグラフから、PSZ(2.5Y)23Aの比率が大きく(即ち、バイ‐モーダルTiB2の比率が小さく)なるにつれて、t-ZrO2比が大きくなる傾向があり、30vol%を超えるPSZ(2.5Y)23Aの比率にて、相対密度が100%に近い値(相対密度99.0%以上)の緻密な焼結体が得られることがわかった。
【実施例】
【0030】
h)PSZ(2.5Y)23A含量を変化させて得られたTiB2/PSZ(2.5Y)23Aコンポジットの曲げ強度、ビッカース硬度、破壊靱性値測定
図11には、PSZ(2.5Y)23A含量を変化させた際の、バイ‐モーダルTiB2/PSZ(2.5Y)23Aコンポジットの機械的特性(曲げ強度σb、ビッカース硬度Hv及び破壊靱性値KIC)の変化がグラフにて示されている。
図11のビッカース硬度Hv及び破壊靱性値KICの変化を示すグラフから、ビッカース硬度と破壊靱性値が最も大きくなるPSZ(2.5Y)23A含量の範囲は20~40 vol%であり、30~40 vol%が特に好ましいことがわかり、この範囲において、高硬度・強靱性(ビッカース硬度Hv 20 GPa以上、破壊靭性値KIC 11 MPa・m1/2以上)のTiB2/ZrO2(Y2O3)-Al2O3系コンポジットが製造できることがわかった。
【実施例】
【0031】
i)ZrO2成分中のt-ZrO2体積比を変化させて得られたTiB2/PSZ(2.5Y)23Aコンポジットのビッカース硬度、破壊靱性値測定
図12には、ZrO2成分中のt-ZrO2体積比を変化させた際の、バイ‐モーダルTiB2/PSZ(2.5Y)23Aコンポジットのビッカース硬度Hv及び破壊靱性値KICの変化がグラフにて示されている。
図12のビッカース硬度Hv及び破壊靱性値KICの変化を示すグラフから、ビッカース硬度が20 GPa以上で、破壊靭性値が11 MPa・m1/2以上の本発明のTiB2/ZrO2(Y2O3)-Al2O3系コンポジットの場合、t-ZrO2の占める体積割合が15~25vol%の範囲において高硬度・強靱性となり、Y2O3部分安定化ZrO2中のt-ZrO2/m-ZrO2体積比の好ましい範囲は15/85~25/75(vol%)であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の製造方法を用いることによって、ビッカース硬度Hv≧20 GPaで、破壊靱性値KIC≧11 MPa・m1/2である高硬度・強靱性TiB2/ZrO2(Y2O3)-Al2O3系コンポジットが製造でき、このような高硬度・強靱性TiB2/ZrO2(Y2O3)-Al2O3系コンポジットは、これらの特性が要求される各種用途、例えばセラミックス製機械部品、生体用セラミックス(人工歯根、人工関節、人工骨)等に利用可能である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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