TOP > 国内特許検索 > 電解法 > 明細書

明細書 :電解法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-081919 (P2019-081919A)
公開日 令和元年5月30日(2019.5.30)
発明の名称または考案の名称 電解法
国際特許分類 C25C   7/02        (2006.01)
C25C   7/06        (2006.01)
C25C   1/16        (2006.01)
FI C25C 7/02 307
C25C 7/06 301Z
C25C 1/16 A
請求項の数または発明の数 4
出願形態 OL
全頁数 9
出願番号 特願2017-208735 (P2017-208735)
出願日 平成29年10月30日(2017.10.30)
発明者または考案者 【氏名】盛満 正嗣
出願人 【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
個別代理人の代理人 【識別番号】110000475、【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4K058
Fターム 4K058AA07
4K058BA25
4K058BB04
4K058CA04
4K058EA01
4K058ED03
要約 【課題】陰極で金属が析出し、陽極では主反応としてガスが発生する電解法において、陽極で金属酸化物の生成を抑制でき、かつ陰極では金属の溶解を抑制できる電解法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る電解法は、陽極としての非晶質酸化物被覆電極および陰極を用意する工程と、所望の金属を含む水溶液に前記陽極および前記陰極を浸漬させる工程と、前記陽極において前記水溶液中の金属イオンが酸化されて金属酸化物が生成される反応が抑制され、かつ、前記陰極において析出した前記所望の金属の溶解が生じないような範囲内で、前記陽極および前記陰極の幾何学面積を基準とした電流密度を設定して電解を行う工程とを備えたことを特徴とする。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
陽極としての非晶質酸化物被覆電極および陰極を用意する工程と、
所望の金属を含む水溶液に前記陽極および前記陰極を浸漬させる工程と、
前記陽極において前記水溶液中の金属イオンが酸化されて金属酸化物が生成される反応が抑制され、かつ、前記陰極において析出した前記所望の金属の溶解が生じないような範囲内で、前記陽極および前記陰極の幾何学面積を基準とした電流密度を設定して電解を行う工程と、
を備えたことを特徴とする電解法。
【請求項2】
前記金属酸化物がマンガン酸化物であり、
前記所望の金属が亜鉛であり、
前記電流密度を0.15mA/cm~0.30mA/cmの範囲内で設定する
ことを特徴とする請求項1に記載の電解法。
【請求項3】
前記所望の金属が、銅、亜鉛、スズ、ニッケル、コバルト、鉛、クロム、インジウム、白金、銀、イリジウム、ルテニウム、パラジウムのうちのいずれか1つである
ことを特徴とする請求項1に記載の電解法。
【請求項4】
前記陽極の有効表面積が、前記陰極の有効表面積の10倍以上である
ことを特徴とする請求項1に記載の電解法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の電解採取法や電気めっき法をはじめとして、陰極に金属を析出させることを主たる目的とする電解法に関し、特に水溶液を電解質として陰極では目的とする金属または合金が析出し、陽極では水溶液が分解して酸素または塩素が発生する反応が主たる電極反応となる電解法に関する。
【背景技術】
【0002】
電解法はイオン導電性の電解質に陽極と陰極を接触させ、2つの電極間に通電して、陽極では酸化反応、陰極では還元反応を起こし、陽極、陰極、または両方の電極で目的とする物質を得る方法であり、金属の電解採取や電気めっき等がよく知られている。これらの電解法では陰極で金属を析出させることが主な目的であり、金属イオンを含む水溶液が電解質である場合は、陽極では水溶液が分解して酸素または塩素が発生する反応が主たる電極反応となる。例えば、亜鉛の電解採取や亜鉛の電気めっきでは、亜鉛イオンが溶解した硫酸酸性の水溶液を電解して、陰極上に亜鉛を析出させる。亜鉛の電解採取の場合は陰極上に一定量の亜鉛を析出させたのち、水溶液から陰極を取り出して、析出した亜鉛をはぎ取る。これが、鉱石や亜鉛が用いられた種々の使用済み材料を原料として、その原料から亜鉛イオンを抽出した水溶液を電解質とし、これを電解することで高純度亜鉛を製造する一般的な電解法である。亜鉛の電気めっきの場合は、陰極がめっきを施す基材となっており、その基材表面を一定量の亜鉛で被覆する。自動車の車体にはこのようにして製造された亜鉛めっき鋼板が用いられている。一方、これらの方法では電解質は硫酸酸性の水溶液がベースとなっており、陰極に亜鉛が析出するのと同時に陽極では酸素が発生する。仮に、電解質がある程度の濃度の塩化物イオンを含む場合は、陽極の反応は塩素の発生、または塩素と酸素の発生となる場合もある。しかし、このような酸素や塩素が発生するのは、陽極上でこれらの反応以外には何も起こらない場合のみであり、実際の電解採取や電気めっきでは、これらの反応以外に陽極で他の反応が同時に生じることがある。その代表的な例は、亜鉛の電解採取における陽極でのマンガン酸化物の生成である。以下に、この反応がどのように生じるかを説明する。
【0003】
亜鉛の電解採取は、鉱石等から抽出した亜鉛イオン(Zn2+)が溶解した硫酸酸性の水溶液が一般に電解質に用いられるが、この電解質には亜鉛イオン、硫酸イオン以外に、例えば金属イオンとして2価のマンガンイオン(Mn2+)が溶解している。このマンガンイオンは鉱石中または亜鉛イオンを抽出する過程で電解質に混入する。例えば、亜鉛の電解採取で一般に使用されている鉛合金製の陽極を用いて電解採取を行うと、陽極では酸素が発生するとともに、Mn2+からMn3+への酸化と、これに続くMn3+からMnOOH(オキシ水酸化マンガン)の生成や、さらにMnO(二酸化マンガン)の生成が起こる。これらのマンガン酸化物は陽極上に析出し、電解を続けると陽極上にマンガン酸化物が蓄積する。そののち、マンガン酸化物は陽極材料である鉛合金の一部や電解質中に含まれる他のイオン、化合物等とともに陽極上でスラッジを形成し、ついには陽極から剥離して電解採取の電解槽内に沈殿、蓄積する。この蓄積したスラッジは定期的に電解槽から取り出されて産業廃棄物として処理される。このように亜鉛電解採取における陽極でのマンガン酸化物の生成とこれに続くスラッジの発生は、産業廃棄物を発生させ、同時に陽極の一部がはぎ取られて消耗することから、望まれない副反応である。このような望まれない副反応の問題については、特許文献1~6の中で指摘されている。また、亜鉛の電解採取以外でも、例えば使用済み金属を原料として調製した電解質から電解採取や電気めっきを行う場合には、上記のような本来は起こってほしくない副反応が陽極で生じることがある。
【0004】
例えば、電気めっきの一例として、電解銅箔の製造では、硫酸をベースとする電解質中にはCu2+のほかに、Pb2+が含まれている。この鉛イオンは、鉛合金からなる陽極上では、酸化されて陽極上にPbO(二酸化鉛)として析出する。このような二酸化鉛の陽極上への析出は、陽極での主反応である酸素発生と同時に生じることになるが、二酸化鉛が析出すると陽極の電位を上昇し、その結果、電解電圧は増加する。また、陽極の寿命・耐久性を低下させる原因となる。
【0005】
本願発明者は、上記のような電解法における課題を解決する手段として、非晶質の酸化イリジウムまたは非晶質の酸化ルテニウムを含む触媒層を導電性基体上に形成した陽極を発明し、これを用いた電解法では、陽極での望まれない副反応が抑制されること等を特許文献1~6においてすでに開示した。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特許第4516617号公報
【特許文献2】特許第4516618号公報
【特許文献3】特許第4916040号公報
【特許文献4】特許第5008043号公報
【特許文献5】特許第5013438号公報
【特許文献6】特許第5522484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、本願発明者による陽極を用いた場合にも、電解時の電流密度が極端に低くなると、陽極での望まれない副反応を抑制する効果が十分に得られない場合があった。すなわち、先に例を挙げた亜鉛の電解採取では、日本や韓国のように昼間に対して夜間の電気料金が安い場合は、夜間に高電流密度で、昼間は低電流密度で電解して、昼間の電力消費を抑制する。このように昼夜間で電流密度を変える電解法において、低い電流密度で電解すると、望まれない副反応による陽極上への電着物の生成を抑制しにくくなるという課題があった。
【0008】
本発明は上記の事情を鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、金属の電解採取や電気めっきをはじめとする陰極に金属を析出させる電解法において、陽極上への望まれない副反応による電着物の析出とスラッジの生成を防止でき、同時に陰極での金属の溶解を防止できる電解法を提供することであり、特に水溶液を電解質として陰極では金属が析出し、陽極では酸素または塩素の発生が主たる電極反応となる電解法において、陽極上への金属酸化物の析出とスラッジの生成を防止でき、陰極では析出した金属の溶解を防止できる電解法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者は、上記の課題を解決するために種々検討した結果、非晶質の酸化イリジウムまたは非晶質の酸化ルテニウムを含む触媒層を導電性基体上に形成した陽極を用いる電解法において、電解時の電流密度をある範囲に制御することによって、上記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、上記課題を解決するため、本発明は、陽極としての非晶質酸化物被覆電極および陰極を用意する工程と、所望の金属を含む水溶液に前記陽極および前記陰極を浸漬させる工程と、前記陽極において前記水溶液中の金属イオンが酸化されて金属酸化物が生成される反応が抑制され、かつ、前記陰極において析出した前記所望の金属の溶解が生じないような範囲内で、前記陽極および前記陰極の幾何学面積を基準とした電流密度を設定して電解を行う工程とを備えたことを特徴とした電解法である。
【0011】
非晶質酸化物被覆電極を陽極とすることで、鉛合金製の陽極等の他の陽極に比べて、酸素発生や塩素発生に対する実際の反応表面積を大きくすることが可能となり、これは同時に陰極との比較でも反応表面積を大きくすることが可能となる。すなわち、陽極と陰極の外形寸法が同じで、これにより計算される二次元に投影される幾何学面積(以下、単に幾何学面積とする)が同じであっても、陽極の反応に対して実際に有効に働く表面積(以下、単に有効表面積とする)を陰極に比べて著しく大きくすることが可能となる。一例として非晶質酸化物被覆電極に特許文献3に記載された非晶質酸化ルテニウム-酸化タンタル被覆チタン電極を用いると、陰極に対する陽極の有効表面積は10倍以上となる。電解採取や電気めっきは一定電流で行うのが通常であり、したがって陰極と陽極に流れる電流は同じで、これを有効表面積で割った電流密度を有効電流密度として定義すると、陰極に対して陽極の有効電流密度は10分の1以下となる。このような関係から、陰極では金属イオンから金属が析出するようなファラディックな反応(電極と電解質の界面を電子が移動する電気化学反応)が起こっていても、陽極ではファラディックな反応が起こるような電流密度に達しないため、通常、電気化学反応においてファラディックな反応が生じる前に起こるノンファラディックな反応(電極と電解質の界面を電子が移動しない電気化学反応。ただし、外部回路との間で電流は流れる)である電気二重層の充電のみが生じる。電気二重層の充電とは電極に電位が印可された際に、電極と電解質の界面において正と負の荷電粒子が交互に配列する際に外部回路に電流が流れる現象であり、この際、電極と電解質の界面を横切る電子の流れはないため、陽極では金属イオンの酸化や酸素発生等は生じない。したがって、陽極で問題となる金属イオンの酸化とそれに伴う金属酸化物の陽極上への析出を抑制し、同時に陰極では金属が析出して、析出した金属が溶解することを防止することができる。この電解法は、非晶質酸化物被覆電極のように有効表面積が極めて大きく、陰極との間で有効電流密度に10倍以上の差を設けることができるような陽極を用いることで初めて可能となる。また、陽極と陰極の有効表面積の差が大きくなれば、本発明の電流密度の範囲は広くなる。この際、陰極側の有効表面積は陰極表面の粗さによって変わり、かつ電流密度の規定は幾何学面積によることから、本発明の電解法における電流密度を一律に規定することは困難であるが、亜鉛の溶解を防止するためには亜鉛が析出する電位に維持することが必要であり、かつ陽極での金属酸化物の析出を防止するためには電気二重層の充電のみが生じる範囲に電流密度を制限しておく必要があることから、これらを同時に満たす電流密度の範囲は、0.01mA/cm~1mA/cmの範囲内で決定できるものと考えられるが、これはあくまで目安である。より定量的な数値で規定をする場合には、例えば、本発明の実施例で示したような幾何学面積基準の電流密度に対して、電気二重層の充電電気量を用いて電流密度を規定することも考えられる。この場合の電流密度の単位は、例えばmA/C(Cはクーロンで電気量の単位)のようになる。
【0012】
ここで、非晶質酸化物被覆電極の導電性基体としては、特許文献1~6に開示されたような、チタン、タンタル、ジルコニウム、ニオブ、タングステン、モリブデン等のバルブ金属や、チタン-タンタル、チタン-ニオブ、チタン-パラジウム、チタン-タンタル-ニオブ等のバルブ金属を主体とする合金、バルブ金属と白金族金属および/または遷移金属との合金、または導電性ダイヤモンド(例えば、ホウ素をドープしたダイヤモンド)が好ましいが、これに限定されるものではない。また、その形状は、板状、網状、棒状、シート状、管状、線状、多孔板状、多孔質状、真球状の金属粒子を結合させた三次元多孔体等の種々の形状とすることができる。導電性基体としては、上記のものの他、上記のバルブ金属、合金、導電性ダイヤモンド等を鉄、ニッケル等のバルブ金属以外の金属または導電性セラミックス表面に被覆させたものを使用してもよい。
【0013】
導電性基体上に形成される非晶質酸化物層には、特許文献1~6に開示された非晶質の酸化イリジウムまたは非晶質酸化ルテニウムを含む触媒層が用いられる。このような触媒層には、例えば、非晶質の酸化イリジウムと非晶質の酸化タンタルを含む触媒層や、非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルを含む触媒層が挙げられる。触媒層が非晶質相を含むかどうかは、一般的に用いられるX線回折法によって、各金属酸化物に対応する回折ピークが観察されないか、またはブロードになっていることによって知ることができる。また、ルテニウムはイリジウムに比べて1/5以下の価格であることから、非晶質の酸化イリジウムと非晶質の酸化タンタルを含む触媒層の触媒活性以上の高い酸素発生に対する触媒活性を、非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルを含む触媒層では、より安価な触媒層で達成することができる。
【0014】
以下に、一例として、導電性基体上に非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルを含む触媒層を形成する方法を説明する。ルテニウムとタンタルを含む前駆体溶液を導電性基体上に塗布した後、所定の温度で熱処理する熱分解法の他、スパッタリング法やCVD法等の各種の物理蒸着法や化学蒸着法等を用いることが可能である。ここで、本発明の電気めっき用陽極を作製する方法の中で、特に熱分解法による作製方法についてさらに述べる。例えば、無機化合物、有機化合物、イオン、錯体等の様々な形態のルテニウムおよびタンタルを含む前駆体溶液をチタン基体上に塗布し、これを少なくとも350℃よりも低い温度範囲で熱分解するか、350℃以上であっても熱分解の温度を5~15分程度に短くすることによって、チタン基体上に非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルを含む触媒層が形成される。例えば、塩化ルテニウム水和物と塩化タンタルを溶解したブタノール溶液を前駆体溶液として、これをチタン基体上に塗布して熱分解するとき、例えばブタノール溶液中のルテニウムとタンタルのモル比が10:90~90:10であるとき、熱分解温度を300℃とすると、非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルを含む触媒層が形成される。また、上記の前駆体溶液を塗布した後に、280℃で熱分解すると、非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルの混合物からなる触媒層が形成される。なお、本発明の電解法で用いる非晶質酸化物被覆電極は、上記の範囲に限定されるものではない。
【0015】
熱分解法において非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルを含む触媒層を導電性基体上に形成する場合、チタン基体に塗布する前駆体溶液中に含まれるルテニウムとタンタルのモル比、熱分解温度、さらには前駆体溶液中にルテニウムとタンタル以外の金属成分が含まれる場合は、その金属成分の種類と前駆体溶液に含まれる全金属成分中でのモル比等によっても、触媒層中に非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルが含まれるかどうかは変化する。例えば、前駆体溶液に含まれる金属成分以外の成分が同じであり、かつ金属成分としてはルテニウムとタンタルだけが含まれる場合では、前駆体溶液中のルテニウムのモル比が低いほうが、非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルを含む触媒層が得られる熱分解温度の範囲は広くなる傾向を示す。また、このような金属成分のモル比だけでなく、非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルが含まれる触媒層を形成する条件は、前駆体溶液の調製方法や材料、例えば前駆体溶液の調製の際に用いるルテニウムおよびタンタルの原材料、溶媒の種類、熱分解を促進するために添加されるような添加剤の種類や濃度によっても変化する。
【0016】
したがって、本発明に用いる非晶質酸化物被覆電極において、熱分解法で非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルを含む触媒層を形成する際の条件は、上記に述べた熱分解法おけるブタノール溶媒の使用、ルテニウムとタンタルのモル比やこれに関連した熱分解温度の範囲に限定されたものではなく、上記の条件はあくまでその一例であり、本発明は上記に示した以外のあらゆる方法において、導電性基体上に非晶質の金属酸化物を含む触媒層を形成できるものであれば、これらはすべて含まれる。
【0017】
なお、本発明で用いる非晶質酸化物被覆電極は、触媒層と導電性基体の間に、中間層が形成されていてもよい。ここで、中間層とは、触媒層に比べて陽極の主反応に対する触媒活性は低いが、導電性基体を十分に被覆しており、導電性基体の腐食を抑制する作用を有するものであり、金属、合金、ボロンドープダイヤモンド(導電性ダイヤモンド)等の炭素系材料、酸化物や硫化物等の金属化合物、金属複合酸化物等の複合化合物等が挙げられる。例えば、金属であればタンタル、ニオブ等の薄膜が好適であり、また合金であればタンタル、ニオブ、タングステン、モリブデン、チタン、白金等の合金が好適である。このような金属または合金が触媒層と導電性基体の間に中間層として形成され、同時に導電性基体の表面を被覆していることによって、触媒層中に電解液が浸透しても、導電性基体に到達することを防止し、したがって導電性基体が電解液によって腐食し、腐食生成物によって導電性基体と触媒層の間で電流が円滑に流れなくなることを抑制する。また、ボロンドープダイヤモンド(導電性ダイヤモンド)等の炭素系材料を用いた中間層についても同様な作用を有する。上記の金属、合金、炭素系材料からなる中間層は、熱分解法、スパッタリング法やCVD法等の各種の物理蒸着法や化学蒸着法、溶融めっき法、電気めっき法等の様々な方法により形成することができる。酸化物や硫化物等の金属化合物、または金属複合酸化物からなる中間層としては、例えば、結晶質の酸化イリジウムを含む酸化物からなる中間層等が好適である。特に、触媒層を熱分解法で作製する場合、同じ熱分解法で酸化物や複合酸化物からなる中間層を形成することは、陽極の作製工程の簡素化の点で有利である。また、同じではなくても、例えば、中間層が、結晶質の酸化イリジウムと非晶質の酸化タンタルを含むものは、酸素発生に対する耐久性が高い。
【0018】
また、本発明は、前記金属酸化物がマンガン酸化物であり、前記所望の金属が亜鉛であり、前記電流密度を0.15mA/cm~0.30mA/cmの範囲内で設定することを特徴とした電解法である。この電解法によって、亜鉛の電解採取や亜鉛の電気めっきで生じる陽極へのマンガン酸化物の析出と電解槽内へのスラッジの蓄積を防止することが可能となる。
【0019】
また、本発明は、前記所望の金属が、銅、亜鉛、スズ、ニッケル、コバルト、鉛、クロム、インジウム、白金、銀、イリジウム、ルテニウム、パラジウムのうちのいずれか1つであることを特徴とした電解法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば下記の効果が得られる。
1)水溶液を電解質とする金属の電解採取や電気めっきにおいて、陽極で望まれない副反応を抑制できるため、陽極での金属酸化物の電着およびスラッジの生成と、産業廃棄物化を防止できるという効果を有する。
2)また、陽極での金属酸化物の電着を抑制できるため、金属酸化物が電着することで陽極の触媒活性が低下するのを防止できるという効果を有する。
3)上記の効果とともに、副反応によって陽極上に析出・蓄積する酸化物やその他の化合物を取り除く必要がなくなることから、このような作業による陽極のダメージが抑制され、したがって陽極の寿命が長くなるという効果を有する。
4)上記の効果とともに、副反応によって陽極上に析出・蓄積した酸化物やその他の化合物を取り除く作業が不要となることから、金属の電解採取や電気めっきにおける陽極のメンテナンス・交換が抑制または軽減されるという効果を有する。また、このような除去作業によって、電解採取や電気めっきを休止する必要性が抑えられるため、連続的かつより安定した電気めっきが可能になるという効果を有する。
5)上記の効果とともに、陽極上への析出物が抑制されることから、析出物によって陽極の有効表面積が制限され、または陽極での電解可能な面積が不均一となって陰極上に金属が不均一に析出し、平滑性が乏しい、密度が低いといった陰極で得られる金属の品質低下を抑制することができるという効果を有する。
6)また、上記のような理由で陰極上で不均一に成長した金属が、陽極に達してショートし、電解採取や電気めっきができなくなることを防止することができるという効果を有する。また、陰極上で金属が不均一にかつデンドライト成長することが抑制されるため、陽極と陰極の極間距離を短くすることができ、電解液のオーム損による電解電圧の増加を抑制できるという効果を有する。
7)また、上記のように、副反応で生じる陽極上への析出物による様々な問題が解消されることによって、安定で連続的な電解採取または電気めっきが可能になり、これらのプロセスにおける保守・管理作業を低減することができるとともに、陰極で得られる金属の製品管理が容易になるという効果を有する。また、長期間の電解採取や電気めっきにおける陽極のコストを低減できるという効果を有する。
8)上記の効果とともに、様々な金属の電解採取や電気めっきにおいて、全体の生産コストやメンテナンスコストを低減できるという効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施例、比較例を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明は亜鉛以外の電解採取や、亜鉛を含む様々な金属の電気めっきにも適用可能である。また、本発明は、以下に示す非晶質酸化イリジウム-酸化タンタル被覆チタン電極に陽極を限定するものでもない。また、本発明は、陽極で酸素や塩素が発生する反応以外の他の反応が同時に起こるような電解法にも適用可能である。

【0022】
(実施例1)
市販のチタン板(長さ5cm、幅1cm、厚さ1mm)を10%のシュウ酸溶液中に90℃で60分間浸漬してエッチング処理を行った後、水洗し、乾燥した。次に、6vol%の濃塩酸を含むブタノール(n-COH)溶液に、イリジウムとタンタルのモル比が80:20で、イリジウムとタンタルの合計が金属換算で70g/Lとなるように塩化イリジウム酸六三水和物(HIrCl・6HO)と五塩化タンタル(TaCl)を添加した塗布液を調製した。この塗布液を上記乾燥後のチタン板に塗布し、120℃で10分間乾燥し、次いで340℃に保持した電気炉内で60分間熱分解した。この塗布、乾燥、熱分解を計7回繰り返し行い、導電性基体であるチタン板上に触媒層を形成した陽極を作製した。

【0023】
実施例1の陽極をX線回折法により構造解析したところ、X線回折像にはIrOに相当する2θにブロードな回折ピークが見られたが、Taに相当する回折ピークは見られなかった。また、XPS(X線光電子分光法)によるイリジウム、タンタル、酸素の化学状態の分析結果から、触媒層はIrOとTaの混合物であることが判った。すなわち、実施例1の陽極には、チタン板上に非晶質の酸化ルテニウムと非晶質の酸化タンタルを含む触媒層が形成されていた。

【0024】
2.0mol/Lの硫酸に0.1mol/Lの硫酸マンガンと0.65mol/Lの硫酸亜鉛を溶解したものを電解液とし、この電解液に亜鉛板(幾何学面積1cm×1cm=1cm)を陰極として浸漬した。また、上記の陽極をポリテトラフルオロエチレン製ホルダーに埋設し、電解液に接触する電極面積を1cm×1cm=1cmに規制した状態で、同じく電解液に上記の陰極と所定の極間距離をおいて対向配置した。電解液を40℃として、陽極と陰極との間に幾何学面積基準での電流密度を0.15mA/cmに設定して14時間通電した。また、陽極と陰極は、それぞれ電解前と14時間の電解後で重量を測定して、電解前後の重量変化を求めた。陽極は電解前後でX線回折像を測定した。

【0025】
(実施例2)
実施例1に対して陽極と陰極の間に通電した電流密度を0.25mA/cmに設定した以外は、すべて同じ条件で実験を行った。

【0026】
(実施例3)
実施例1に対して陽極と陰極の間に通電した電流密度を0.30mA/cmに設定した以外は、すべて同じ条件で実験を行った。

【0027】
(比較例1)
実施例1に対して陽極と陰極の間に通電した電流密度を0.01mA/cmに設定した以外は、すべて同じ条件で実験を行った。

【0028】
(比較例2)
実施例1に対して陽極と陰極の間に通電した電流密度を0.10mA/cmに設定した以外は、すべて同じ条件で実験を行った。

【0029】
(比較例3)
実施例1に対して陽極と陰極の間に通電した電流密度を0.40mA/cmに設定した以外は、すべて同じ条件で実験を行った。

【0030】
実施例1~実施例3、比較例1~比較例3の電解における陽極の重量変化は表1のように、また陰極の重量変化は表2のようになった。
【表1】
JP2019081919A_000002t.gif

【0031】
【表2】
JP2019081919A_000003t.gif
表1に示したように、本発明の実施例1~実施例3では電解前後で陽極の重量増加はなく、かつ表2に示したように、電解後には電解前に比べて陰極の重量が増加した。これらのことから、陽極では金属酸化物であるマンガン酸化物の析出が防止され、かつ陰極では亜鉛の溶解が防止されたことが判った。一方、比較例では、比較例3の場合は表1に示したように電解後に陽極の重量増加が見られ、かつX線回折像からマンガン酸化物の析出が確認された。また、比較例1および比較例2の場合は、表1の結果からマンガン酸化物は析出しなかったが、表2に示したように、陰極の重量が電解前に対して電解後では減少し、陰極が溶解したことを示した。すなわち、比較例1~比較例3では、陽極でのマンガン酸化物の析出と陰極での亜鉛の溶解を同時に防止することはできなかった。以上のように、本発明によれば、非晶質酸化物被覆電極を陽極とし、水溶液を電解して陰極に金属を析出させる電解法であって、陽極では水溶液中の金属イオンが酸化されて金属酸化物が生成する反応が抑制され、かつ陰極では析出した金属の溶解が生じない電流密度で電解する方法によって、陽極上への望まれない副反応による電着物の析出とスラッジの生成を防止し、同時に陰極での金属の溶解を防止できること、より具体的には水溶液を電解質として陰極では金属が析出し、陽極では酸素または塩素の発生が主たる電極反応となる電解法において、陽極上への金属酸化物の析出とスラッジの生成を防止し、陰極では析出した金属の溶解を防止できることが判った。