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明細書 :新規組織再生材料およびその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 令和元年11月7日(2019.11.7)
発明の名称または考案の名称 新規組織再生材料およびその製造方法
国際特許分類 A61L  27/36        (2006.01)
A61L  27/24        (2006.01)
A61L  27/38        (2006.01)
A61L  27/44        (2006.01)
A61K  35/12        (2015.01)
A61K  35/28        (2015.01)
A61K  35/545       (2015.01)
A61P  19/08        (2006.01)
A61P  19/04        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
FI A61L 27/36 100
A61L 27/24
A61L 27/38 300
A61L 27/44
A61L 27/38 112
A61L 27/38 110
A61K 35/12
A61K 35/28
A61K 35/545
A61P 19/08
A61P 19/04
A61P 43/00 107
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 16
出願番号 特願2018-561425 (P2018-561425)
国際出願番号 PCT/JP2018/000577
国際公開番号 WO2018/131673
国際出願日 平成30年1月12日(2018.1.12)
国際公開日 平成30年7月19日(2018.7.19)
優先権出願番号 2017004526
優先日 平成29年1月13日(2017.1.13)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DJ , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JO , JP , KE , KG , KH , KN , KP , KR , KW , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT
発明者または考案者 【氏名】藤江 裕道
【氏名】山崎 雅史
出願人 【識別番号】305027401
【氏名又は名称】公立大学法人首都大学東京
個別代理人の代理人 【識別番号】100140109、【弁理士】、【氏名又は名称】小野 新次郎
【識別番号】100118902、【弁理士】、【氏名又は名称】山本 修
【識別番号】100106208、【弁理士】、【氏名又は名称】宮前 徹
【識別番号】100120112、【弁理士】、【氏名又は名称】中西 基晴
【識別番号】100128750、【弁理士】、【氏名又は名称】廣瀬 しのぶ
審査請求 未請求
テーマコード 4C081
4C087
Fターム 4C081AB02
4C081AB03
4C081AB04
4C081AB05
4C081AB18
4C081BA12
4C081BA13
4C081CD122
4C081CD34
4C081CE02
4C081EA02
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB44
4C087BB57
4C087BB64
4C087CA04
4C087MA05
4C087MA67
4C087NA14
4C087ZA96
4C087ZB22
要約 本発明は、新規組織再生材料およびその製造方法に関する。当該組織再生材料の製造方法は、(1)コラーゲン溶液または分散体と、幹細胞を含む中性の培養培地と混合する;(2)(1)の混合物を遠心分離して、幹細胞とコラーゲンを集積させる;(3)幹細胞とコラーゲンの集積物を培養する;工程を含む。
特許請求の範囲 【請求項1】
組織再生材料の製造方法であって、以下の工程:
(1)幹細胞を含む中性の培養培地と、コラーゲン溶液または分散体とを混合する;
(2)(1)の混合物を遠心分離して、幹細胞とコラーゲンを集積させる;
(3)幹細胞とコラーゲンの集積物を培養する;
を含む、前記方法。
【請求項2】
幹細胞が、間葉系幹細胞、ES細胞、または人工多能性幹細胞(iPS細胞)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(1)の幹細胞が、1.0×10細胞/cm~6.0×10細胞/cmの細胞密度まで培養した幹細胞である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
コラーゲンが、I型、II型またはIII型コラーゲンである、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
工程(1)のコラーゲン溶液または分散体が、再線維化コラーゲンの線維分散体である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
工程(1)または工程(3)においてアスコルビン酸もしくはアスコルビン酸誘導体またはそれらの塩を添加することを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の方法により製造される、組織再生材料。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、新規組織再生材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
老化やスポーツによる軟骨や靱帯の変性、損傷は増加の一途をたどっている。関節に存在する腱、靱帯、軟骨は関節の安定を保つ重要な役割を担う一方で、一度損傷すると自己治癒しにくい特性を有している。これらの組織が損傷した場合、同一個体内の移植により治療が行われることが多いが、修復組織の力学特性が正常組織と比較して劣るという問題がある。国民の30%以上が罹患している変形性関節症などでは、QOL維持・向上のために組織修復の質的レベルを向上させることが急務とされている。
【0003】
そのための修復材料として最も有望視されているのがiPS細胞や間葉系幹細胞などの幹細胞を基本とする幹細胞由来組織修復材料である。幹細胞は増殖能(自己を増やす能力)と分化能(他の細胞になる能力)をあわせもつ細胞の総称であり、理論的にはすべて生体組織を作り上げることができるため、幹細胞を基本とする組織修復材料に寄せる期待は大きい。幹細胞のなかの間葉系幹細胞は生体内に存在している体性幹細胞の一種であり、個体から容易に収集でき、拒絶反応の心配も少ないため、再生医療の現実的な切り札として注目されている。
【0004】
例えば、腱、靱帯、軟骨の修復に関する問題を解決するためのアプローチとして、膝滑膜より採取した間葉系幹細胞(MSCs)にコラーゲンなどの細胞外基質(extracellular matrix:ECM)を自己生成させて作製される幹細胞自己生成組織(stem cell-based self-assembled tissue:scSAT)が開発され、基礎的な研究が行われている(非特許文献1)。scSATは、当該技術分野においてティッシュ・エンジニアード・コンストラクト(tissue engineered construct:TEC)としても知られている。scSATは、動物由来のコラーゲンや人工化合物からなるスキャフォールドを必要としないため、生体内に埋入した際に拒絶反応等を起こしにくいといった特徴を有している。これまでにscSATは軟骨修復に効果があることが報告されている(非特許文献2)。しかし、scSATは細胞およびそれが自己生成する細胞外基質で構成される組織であり、薄く破れやすいなど移植手術の現場での取り扱いが難しい点が課題であったことに加え、修復組織の力学特性は正常軟骨と比較して低く、特に表層のコラーゲン密度が正常軟骨ほど高まらないことが課題となっている(非特許文献3)。
【0005】
しかし、上記の技術を含め、間葉系幹細胞由来の組織再生材料には以下の3つの問題がある。
a)培養環境の制約から幹細胞の分化能などのポテンシャルが最大限活かされていない。
b)組織再生材料の力学的強度が低く、また周囲組織と癒合能が低い。
c)調製可能な組織再生材料が小体積のため広領域の治療に用いることができない。
【0006】
組織再生材料において力学的強度を高めるためには、細胞と何らかのスキャフォールドの複合体を作成することが考えられるが、一般に、細胞とスキャフォールドの複合体の作成では、細胞をスキャフォールド内に侵入させることは困難とされている。例えば、陰圧の負荷や培養液の環流により、細胞をスキャフォールド内に侵入させる検討が行われているが、これらの方法は効果が少なく、生体組織のように細胞をある程度均一かつ高密度に含むような状態は作り出すことができない。
【0007】
Yokoyamaらは、コラーゲンゲル内で細胞を培養するコラーゲンゲル培養法を用いて、低分子量コラーゲンからなる基質内に多量の幹細胞を含有させることに成功している(非特許文献4)。この培養法は、既存の細胞培養方としてニッタゼラチン(ニッタ)など、市販品も存在する。この方法は細胞をスキャフォールド内に充分に侵入させるという観点で、上記の問題を解決するものであるが、この方法では10細胞/cm以上の多量の細胞が必要な上、生成された材料内のコラーゲンは量が少なく、再線維化度の低い低分子量の線維がほとんどである。これより少量の細胞を用い、より生体内環境に近い線維化度の高い多量のコラーゲン線維内に高密度に細胞を含有させることは不可能であった。
【先行技術文献】
【0008】

【非特許文献1】Ando, W., et al., Biomaterials, Vol.28, No.36, pp.5462-5470, 2007
【非特許文献2】Shimomura, K., et al., Biomaterials, Vol.31, No. 31, pp.8004-8011, 2010
【非特許文献3】Ando, W., et al., European Cells and Materials, Vol.24, pp.292-307, 2012
【非特許文献4】Yokoyama, A., et al., Cell Tissue Res., Vol.32, pp.289-298, 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、新規組織再生材料およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上に鑑み、本件の発明者は、コラーゲン溶液中での幹細胞の培養に注目し、研究を開始した。鋭意検討の結果、少量の幹細胞を含む培養液にコラーゲン溶液またはコラーゲン分散体を混入させ、遠心分離による遠心力を与えて幹細胞とコラーゲンを培養平面に高密度に集積させ、その集積物を再び培養環境に戻す培養法の開発に至った(図1)。この手法により、幹細胞と線維化度の高いコラーゲン線維を基本組成とし、両材料の密度および密着度の極めて高い、新規の組織再生材料(本願明細書において、「幹細胞/コラーゲン複合体」とも称する)を開発することに成功した。当該知見に基づいて、本発明は完成された。
【0011】
すなわち、一態様において、本発明は以下のとおりであってよい。
【0012】
[1] 組織再生材料の製造方法であって、以下の工程:
(1)幹細胞を含む中性の培養培地と、コラーゲン溶液または分散体とを混合する;
(2)(1)の混合物を遠心分離して、幹細胞とコラーゲンを集積させる;
(3)幹細胞とコラーゲンの集積物を培養する;
を含む、前記方法。
【0013】
[2] 幹細胞が、間葉系幹細胞、ES細胞、または人工多能性幹細胞(iPS細胞)である、上記[1]に記載の方法。
【0014】
[3] 工程(1)の幹細胞が、1.0×10細胞/cm~6.0×10細胞/cmの細胞密度まで培養した幹細胞である、上記[1]または[2]に記載の方法。
【0015】
[4] コラーゲンが、I型、II型またはIII型コラーゲンである、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の方法。
【0016】
[5] 工程(1)のコラーゲン溶液または分散体が、再線維化コラーゲンの線維分散体である、上記[1]~[4]のいずれか1項に記載の方法。
【0017】
[6] 工程(1)または工程(3)においてアスコルビン酸もしくはアスコルビン酸誘導体またはそれらの塩を添加することを含む、上記[1]~[5]のいずれか1項に記載の方法。
【0018】
[7] 上記[1]~[6]のいずれか1項に記載の方法により製造される、組織再生材料。
【発明の効果】
【0019】
本願に記載した手法により調製される新規の組織再生材料(幹細胞/コラーゲン複合体)は、従来のTECと比較して、細胞含有度が高く、大型の組織として得られた。また、幹細胞/コラーゲン複合体における再線維化コラーゲンの構造は、細胞が生体内に置かれた際の周囲環境に酷似しており、メカノバイオロジーの観点から、その環境下で培養される幹細胞の分化能等が最大限発揮される可能性が高い。これらの特徴から、好ましい特性を有する組織再生材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、幹細胞/コラーゲン複合体の作製方法の概念図である。
【図2】図2は、SEM画像解析によるTECおよび幹細胞/コラーゲン複合体の比較である。(A)および(B)は500倍観察の画像であり、異なる視野について解析した画像である。(C)は1000倍観察の画像である。
【図3】図3は、培養14日目における幹細胞/コラーゲン複合体と、コラーゲン線維/MSCs溶液のを遠心分離する工程を欠く実験で作製した組織、およびコラーゲンゲル内培養で生成される組織を比較した写真である。
【図4】図4は、培養7日目におけるコラーゲンゲル内培養により得られた組織、幹細胞/コラーゲン複合体(アスコルビン酸2-リン酸無し)、および幹細胞/コラーゲン複合体(アスコルビン酸2-リン酸有り)、についてのSEM画像解析結果の比較である。(A)、(B)および(C)はそれぞれ、200倍観察の画像、1000倍観察の画像、および2500倍観察の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。

【0022】
本明細書で特段に定義されない限り、本発明に関連して用いられる科学用語及び技術用語は、当業者によって一般に理解される意味を有するものとする。

【0023】
組織再生材料の製造方法
一態様において本発明は以下の工程:
(1)幹細胞を含む中性の培養培地と、コラーゲン溶液または分散体とを混合する;
(2)(1)の混合物を遠心分離して、幹細胞とコラーゲンを集積させる;
(3)幹細胞とコラーゲンの集積物を培養する;
を含む、組織再生材料の製造方法に関する。

【0024】
上記の方法において、幹細胞の種類は特に限定されないが、例えば、間葉系幹細胞、ES細胞、および人工多能性幹細胞(iPS細胞)、からなる群より選択してもよい。好ましくは、幹細胞は間葉系幹細胞である。幹細胞は哺乳動物由来の細胞、好ましくはヒト由来の細胞である。

【0025】
上記工程(1)において、幹細胞の密度は特に限定されないが、例えば、1.0×10細胞/cm~1.0×10細胞/cmの細胞密度まで培養した幹細胞であってもよく、好ましくは1.0×10細胞/cm~6.0×10細胞/cmの細胞密度まで培養した幹細胞である。さらに好ましくは2.0×10細胞/cm~4.0×10細胞/cmの細胞密度まで培養した幹細胞である。

【0026】
培養培地または培地は、幹細胞の培養に適した培地である限り特に限定はないが、例えば、DMEMなどを好適に使用することができる。培養培地または培地は、血清、抗生物質等の追加の成分を含んでいてもよく、これらは培養する幹細胞の種類に応じて当業者が適宜選択することができる。培地のpHは中性であり、例えばpH6.0~8.0、またはpH6.5~7.5、の範囲で調製される。

【0027】
コラーゲン溶液または分散体は、コラーゲンを含む溶液または分散体であれば特に制限はない。コラーゲン分散体は、好ましくは再線維化コラーゲンの線維分散体である。コラーゲンの再線維化は、コラーゲン溶液を中性の環境に置くことで進行する。したがって、再線維化コラーゲンの線維分散体は、コラーゲン溶液を中性の条件下に置くことで調製してもよい。

【0028】
コラーゲン溶液または分散体に含まれるコラーゲンは、コラーゲンであれば特に限定されない。好ましくは、中性、37℃でインキュベートすることで線維形成することができるコラーゲンであればよい。そのようなコラーゲンとしては、例えば、I型、II型、またはIII型コラーゲンが挙げられる。より好ましくは、コラーゲンは、I型またはII型コラーゲンであってもよい。

【0029】
上記工程(1)を実施する温度は、幹細胞の培養に適した温度である限り特に制限はなく、当業者が適宜選択することができる。好ましい温度は、例えば、35℃~40℃、より好ましくは37℃である。

【0030】
上記工程(2)において、遠心分離は、細胞を沈降・集積させるのに当業者が通常使用する条件であれば特に限定されない。例えば1000rpm~3000rpm、好ましくは1000rpm~1500rpm、より好ましくは1000rpm、の回転数で5分間、といった条件を利用してもよい。

【0031】
上記工程(3)において、幹細胞とコラーゲンの集積物を培養は、上述のとおりの培養培地または培地中で行うことができる。培養温度は、幹細胞の培養に適した温度である限り特に制限はなく、当業者が適宜選択することができる。好ましい温度は、例えば、35℃~40℃、より好ましくは37℃である。培養時間は、例えば、6日~28日の間、より好ましくは6日~14日の間、であってよい。

【0032】
一態様において、上記の方法において、工程(1)または(3)においてアスコルビン酸もしくはアスコルビン酸誘導体またはそれらの塩を添加してもよい。これらの添加は、細胞によるコラーゲンを含む細胞外基質の生成を向上させる作用が期待される。

【0033】
アスコルビン酸誘導体は、特に限定されないが、アスコルビン酸の2位、3位、5位、および/または6位の水酸基が、リン酸、硫酸、グルコースなどの糖、脂肪酸(例えば、ステアリン酸、パルミチン酸、ヘキシルデカン酸、など)、でエステル化された誘導体やアルキル基(例えば、C~C20アルキル)でエーテル化された誘導体、などが挙げられる。アスコルビン酸誘導体には、アスコルビン酸2-リン酸、アスコルビン酸2-硫酸、アスコルビル-2-グルコシド、アスコルビル-6-グルコシド、が含まれてもよい。

【0034】
アスコルビン酸の塩またはアスコルビン酸誘導体の塩は、特に限定されないが、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(マグネシウム塩、カリウム塩など)を含む。

【0035】
アスコルビン酸もしくはアスコルビン酸誘導体またはそれらの塩は、水和物の形で存在していてもよい。

【0036】
上記工程(1)~(3)を経て、幹細胞がコラーゲン分散体を巻き込む形で三次元化した構造を有する組織構築物を生じてくる。この得られた組織構築物を組織再生材料として利用できる。

【0037】
組織再生材料
一態様において本発明は、以下の工程:
(1)幹細胞を含む中性の培養培地と、コラーゲン溶液または分散体とを混合する;
(2)(1)の混合物を遠心分離して、幹細胞とコラーゲンを集積させる;
(3)幹細胞とコラーゲンの集積物を培養する;
を含み、ここで上記(1)または(3)の工程においてアスコルビン酸もしくはアスコルビン酸誘導体またはそれらの塩を添加することを含む方法、により製造される組織再生材料に関する。

【0038】
上記組織再生材料を製造する方法の各構成に関する説明は、上記「組織再生材料の製造方法」の項目において記載したとおりである。

【0039】
組織再生材料は、強固なシート状の組織の形態を有する。その厚みは600μm~1500μm程度、面積は30mm~360mm程度のものも作成可能である。これは、非特許文献1に記載されるような従来のTECと比較して10倍程度厚く、体積も100倍程度大きい。

【0040】
上記の方法により製造された組織再生材料を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、多孔性の高い表面を有するとともに、直径がサブマイクロメーターレベルのコラーゲン(フィブリル、サブフィブリル)構造に加え、その高次構造であるマイクロメーターレベルのコラーゲン(ファシクル)構造が共存している様子が観察された。このようなコラーゲンの構造は天然の生体線維構造に酷似している。また、細胞に結合するコラーゲンが多量かつ立体的である様子も観察された。したがって、上記の方法により製造された組織再生材料は、当該材料内のコラーゲン原線維が豊富であり、線維形成度も高く、細胞が生体内に置かれた際の周囲環境に近い。

【0041】
本発明の組織再生材料は、腱、靱帯および軟骨の修復のために用いることができる。腱、靱帯および軟骨の修復のために本発明の組織再生材料を用いる際は、腱、靱帯および軟骨の欠損部位に本発明の組織再生材料を置くことで埋入し、当該欠損部位を覆う皮膚を縫合すればよい。本発明の組織再生材料は、幹細胞が細胞外基質を自己生成することから接着因子等が分泌されるため、腱、靱帯および軟骨の欠損部位と組織修復材を抱合または接着するための特別な手順は不要である。

【0042】
また、本発明の組織再生材料は、上記のように従来のTECと比較して厚みがある材料として、または大きなサイズの材料として得ることができる。これらの特性は、従来のTECと比較して、手術時に材料をハンドリングする際の安定性の向上する、腱修復および軟骨修復が必要な場合に欠損患部への移植が容易になる、より広範な欠損部への移植に利用可能である、等の利点を提供する。
【実施例】
【0043】
以下に本発明の具体例を示す。これらの具体例は、本発明を理解するための説明を提供することを目的とするものであって、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0044】
実施例1:幹細胞/コラーゲン複合体の作製およびSEM観察
(1)幹細胞/コラーゲン複合体の作製
ヒト滑膜より採取した間葉系幹細胞(MSCs)を、培養培地(DMEM、10%ウシ胎児血清(FBS)、1%P/S(ペニシリン/ストレイプトマイシン)中で、4.0×10細胞/cmまたは2.0×10細胞/cmとなるまで培養した。培養した細胞をチューブに集め、培養培地(DMEM、10%FBS、1%P/S、0.2mMアスコルビン酸2-リン酸)中、5.6×10細胞/mLまたは2.8×10細胞/mLの細胞懸濁液となるよう調製した。
【実施例】
【0045】
別のチューブに、3.0mg/mLのI型コラーゲン溶液2.5mLに対し、培地(DMEM、10%FBS、1%P/S、0.2mMアスコルビン酸2-リン酸)およびNaHCOを添加して中性にした。37℃で1日間インキュベートすることにより、再線維化コラーゲン分散液を得た。これを、37℃で、4000rpm、20分間遠心分離し、上清を除去した。
【実施例】
【0046】
上清を除去した再線維化コラーゲンに上記細胞懸濁液を3mL加え、駒込ピペットで懸濁させ、コラーゲン線維/MSCs溶液を得た。このコラーゲン線維/MSCs溶液を、細胞培養インサートを設置した6ウェルプレートに移した。このプレートを、1000rpmで5分間遠心分離し、コラーゲン線維およびMSCs線維を圧縮および脱水した。これをインキュベータで37℃で培養した。培地交換は、上記遠心分離の翌日、およびその後は2日おきに行った。培養は上記遠心分離の日を0日とし、14日目まで行った。培養6日目頃から自己組織化が観察され、ピンセットでも把持可能な強固なシート状の組織を生じた。この組織を、本願において幹細胞/コラーゲン複合体と称する。
【実施例】
【0047】
(2)幹細胞/コラーゲン複合体のSEM観察
上記(1)において、2.8×10細胞/mLの細胞懸濁液を用いて作製した幹細胞/コラーゲン複合体を用い、特許文献1の方法に従って作製したTECとの比較を走査型電子顕微鏡(SEM)画像解析により行った。結果を図2に示す。
【実施例】
【0048】
TECについては、多孔度の低い表面が観察され、コラーゲン構造は確認できなかった。また、TECでは、壁状の構造に細胞が埋め込まれているか、球形状の細胞が点在する様子が観察された。
【実施例】
【0049】
一方、幹細胞/コラーゲン複合体については、多孔度の高い表面が観察され、直径がサブマイクロメーターレベルのコラーゲン(フィブリル、サブフィブリル)構造と、その高次構造であるマイクロメーターレベルのコラーゲン(ファシクル)構造が共存していることが観察された。このようなコラーゲンの構造は天然の生体線維構造に酷似している。また、細胞とコラーゲン構造の連結性が高い様子も観察された。
【実施例】
【0050】
実施例2:遠心分離の影響
実施例1(1)では、コラーゲン線維/MSCs溶液を6ウェルプレートにおいて遠心分離を行った。実施例2においては、この遠心分離工程のない実験により得られる組織と、実施例1(1)の方法による幹細胞/コラーゲン複合体を比較した。また、下記実施例4において示すコラーゲンゲル内培養で生成される組織と、実施例1(1)の方法による幹細胞/コラーゲン複合体を比較した。
【実施例】
【0051】
その結果、培養14日時点において、上記遠心分離工程のない実験およびコラーゲンゲル内培養では、非常に脆く、円盤形状の大きい組織が得られたのに対し、上記遠心分離工程を含む実施例1(1)の方法では、シート状の強固な組織が得られた。(図3)
【実施例】
【0052】
実施例3:アスコルビン酸2-リン酸添加の影響
幹細胞/コラーゲン複合体生成におけるアスコルビン酸2-リン酸添加の影響を検討すべく、以下の方法で幹細胞/コラーゲン複合体を調製した。
【実施例】
【0053】
方法
ヒト滑膜より採取した間葉系幹細胞(MSCs)を、培養培地(DMEM、10%FBS、1%P/S(ペニシリン/ストレイプトマイシン)中で、2.0×10細胞/cmとなるまで培養した。培養した細胞をチューブに集め、培養培地(DMEM、10%FBS、1%P/S、0.2mMアスコルビン酸2-リン酸)中、2.8×10細胞/mLの細胞懸濁液となるよう調製した。
【実施例】
【0054】
別のチューブに、3.0mg/mLのI型コラーゲン溶液2.5mLに対し、培地(DMEM、10%FBS、1%P/S)およびNaHCOを添加して中性にした。37℃で1日間インキュベートすることにより、再線維化コラーゲン分散液を得た。これを、37℃で、4000rpm、20分間遠心分離し、上清を除去した。
【実施例】
【0055】
上清を除去した再線維化コラーゲンに上記細胞懸濁液を3mL加え、駒込ピペットで懸濁させ、コラーゲン線維/MSCs溶液を得た。このコラーゲン線維/MSCs溶液を、細胞培養インサートを設置した6ウェルプレートに移した。このプレートを、1000rpmで5分間遠心分離し、コラーゲン線維およびMSCs線維を圧縮および脱水した。これをインキュベータで37℃で培養した。上記遠心分離の日を0日とし、培養1日目にアスコルビン酸2-リン酸(0.2mM)を添加した群、培養4日目にアスコルビン酸2-リン酸(0.2mM)を添加した群、およびアスコルビン酸2-リン酸を添加しない群、を調製した。培地交換は、上記遠心分離の翌日、およびその後は2日おきに行った。培養は上記遠心分離の日を0日とし、14日目まで行った。
【実施例】
【0056】
結果
上記の培養1日目にアスコルビン酸2-リン酸(0.2mM)を添加した群、培養4日目にアスコルビン酸2-リン酸(0.2mM)を添加した群、およびアスコルビン酸2-リン酸を添加しない群はともに、シート状の幹細胞/コラーゲン複合体を形成した。
【実施例】
【0057】
肉眼による形態観察では、アスコルビン酸2-リン酸の添加の有無による影響、およびアスコルビン酸2-リン酸の添加時期による影響は、いずれも確認されなかった。
【実施例】
【0058】
また、実施例1(1)の方法により作製された幹細胞/コラーゲン複合体(アスコルビン酸2-リン酸有り)と、本実施例のアスコルビン酸2-リン酸を添加しない群として調製された幹細胞/コラーゲン複合体(アスコルビン酸2-リン酸無し)についてのSEM画像を比較した。いずれにおいても、多孔度が高い表面を有する様子、直径がサブマイクロメーターレベルのコラーゲン(フィブリル、サブフィブリル)構造に加え、その高次構造であるマイクロメーターレベルのコラーゲン(ファシクル)構造が共存している様子、および細胞に結合するコラーゲンが多量かつ立体的である様子、が観察された(図4)。そして、高倍率(1500~2000倍)のSEM観察では、両者において立体的形状の細胞の存在や、細胞に結合するコラーゲンが多量かつ立体的であることが観察されたが、この傾向はアスコルビン酸2-リン酸有りの幹細胞/コラーゲン複合体においてより顕著であった。
【実施例】
【0059】
実施例4:コラーゲンゲル内培養との比較
上記(1)において、2.8×10細胞/mLの細胞懸濁液を用いて作製した幹細胞/コラーゲン複合体を用い、以下に示すコラーゲンゲル内培養によって作製した組織との形態学的な比較を、肉眼による形態観察およびSEM画像解析により行った。
【実施例】
【0060】
コラーゲンゲル内培養(比較例)
コラーゲン線維とともに細胞培養を行う一般的な方法として、コラーゲンゲル内培養が知られている。非特許文献4の記載に基づき、以下の方法により、組織を調製した。
【実施例】
【0061】
氷冷下で、3mg/mLのコラーゲン溶液 7mL、5倍DMEM 2mL、37g/L NaHCO 1mLを混合し、10mLのゲル溶液を作製した。10%FBS、1%P/S、0.2mMアスコルビン酸2-リン酸を添加した。
【実施例】
【0062】
細胞数2.0×10細胞/cmのMSCsを含む細胞懸濁液を遠心分離し、細胞を遠沈管の底に集積させ、上清を除去した。細胞の集積物に、上記の10%FBS、1%P/S、0.2mMアスコルビン酸2-リン酸を添加したコラーゲンゲル溶液を3.7mL添加し、37℃でインキュベート(培養)し、ゲル化した。培養は7日目、ないし14日目まで行った。
【実施例】
【0063】
結果
結果を図4に示す(「コラーゲンゲル内培養」と「細胞/コラーゲン複合体(アスコルビン酸2リン酸有り」の画像)。実施例2において言及したとおり、コラーゲンゲル内培養では大きいものの、ピンセットで把持すると破壊しそうな、多量の水を含む非常に弱い組織が生じた。一方、実施例1(1)の方法により作製した幹細胞/コラーゲン複合体は、強固なシート状の組織であった。
【実施例】
【0064】
また、低倍率(200倍)のSEM観察では、コラーゲンゲル内培養で得られた組織について、実施例1(2)で比較に用いたTECと同様に、コラーゲン線維構造が確認されず、のっぺりとした多孔度の低い表面が観察された。一方、実施例1(1)の方法により作成した幹細胞/コラーゲン複合体については、低倍率(200倍観察)で多孔度の高い表面が観察され、直径がマイクロメーターレベルのコラーゲン(ファシクル)構造が存在することが確認された(図4(A))。
【実施例】
【0065】
中倍率(1000倍)のSEM観察では、コラーゲンゲル内培養で得られた組織について、直径がサブマイクロメーターレベルのコラーゲン(フィブリル、サブフィブリル)構造が観察された。一方、幹細胞/コラーゲン複合体については、直径がサブマイクロメーターレベルのコラーゲン(フィブリル、サブフィブリル)構造に加え、その高次構造であるマイクロメーターレベルのコラーゲン(ファシクル)構造が共存している様子が観察された。また、細胞に結合するコラーゲンが多量かつ立体的である様子も観察された(図4(B))。
【実施例】
【0066】
高倍率(1500倍~2500倍)のSEM観察では、コラーゲンゲル内培養で得られた組織について、平板状の細胞が存在する様子が観察された。一方、幹細胞/コラーゲン複合体については、立体的形状の細胞が存在する様子が観察された。また、中倍率の観察と同様に、細胞に結合するコラーゲンが多量かつ立体的である様子も観察された(図4(C))。
【実施例】
【0067】
したがって、幹細胞/コラーゲン複合体は、多孔度が高く、フィブリルとファシクルを有するコラーゲン線維の階層構造を有すること確認された。また、幹細胞/コラーゲン複合体では、細胞周囲のコラーゲン線維が密であることから、細胞の基質生成が盛んであると推測される。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本願に記載した手法により調製される新規の組織再生材料(幹細胞/コラーゲン複合体)は、細胞含有度が高く大型の組織として得られる、および幹細胞/コラーゲン複合体における再線維化コラーゲンの構造は、細胞が生体内に置かれた際の周囲環境に酷似している、といった特性から、組織再生材料として利用可能である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3