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明細書 :六方晶窒化ホウ素薄膜とその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 令和元年11月7日(2019.11.7)
発明の名称または考案の名称 六方晶窒化ホウ素薄膜とその製造方法
国際特許分類 C01B  21/064       (2006.01)
C23C  16/38        (2006.01)
H01L  29/786       (2006.01)
B82Y  30/00        (2011.01)
B82Y  40/00        (2011.01)
FI C01B 21/064 J
C23C 16/38
H01L 29/78 618B
B82Y 30/00
B82Y 40/00
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 34
出願番号 特願2018-560410 (P2018-560410)
国際出願番号 PCT/JP2018/000107
国際公開番号 WO2018/128193
国際出願日 平成30年1月5日(2018.1.5)
国際公開日 平成30年7月12日(2018.7.12)
優先権出願番号 2017001291
優先日 平成29年1月6日(2017.1.6)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DJ , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JO , JP , KE , KG , KH , KN , KP , KR , KW , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT
発明者または考案者 【氏名】吾郷 浩樹
【氏名】河原 憲治
【氏名】内田 勇気
【氏名】仲村渠 翔
【氏名】田中 大地
出願人 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
個別代理人の代理人 【識別番号】100190067、【弁理士】、【氏名又は名称】續 成朗
審査請求 未請求
テーマコード 4K030
5F110
Fターム 4K030AA17
4K030AA24
4K030BA39
4K030BB03
4K030CA02
4K030CA04
4K030CA05
4K030CA17
4K030FA10
4K030GA02
4K030JA01
4K030JA05
4K030JA06
4K030JA09
4K030JA10
4K030JA11
4K030JA12
4K030LA02
4K030LA15
5F110DD01
5F110DD04
5F110GG04
5F110GG25
5F110GG44
要約 本発明は、大面積で、1nm以上の均一な厚さを有し、かつグレインバンダリーの少ない六方晶窒化ホウ素薄膜を安価に製造することができる、エレクトロニクスへの応用などの工業的な利用に適した新規な六方晶窒化ホウ素薄膜の製造方法と六方晶窒化ホウ素薄膜を提供する。本発明の六方晶窒化ホウ素薄膜は、厚さが1nm以上であり、ラマンスペクトルにより得られるE2gピークの半値幅の平均値が9~20cm-1であることを特徴とする。
特許請求の範囲 【請求項1】
厚さが1nm以上であり、ラマンスペクトルにより得られるE2gピークの半値幅の平均値が9~20cm-1である六方晶窒化ホウ素薄膜。
【請求項2】
光学顕微鏡によって得られるRGB画像のG成分の強度分布の変動係数が5%以下である請求項1に記載の六方晶窒化ホウ素薄膜。
【請求項3】
前記G成分の強度分布が単峰性を示す請求項2に記載の六方晶窒化ホウ素薄膜。
【請求項4】
厚さが1nm以上、50nm以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の六方晶窒化ホウ素薄膜。
【請求項5】
3層以上の層からなる請求項1~3のいずれか一項に記載の六方晶窒化ホウ素薄膜。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の六方晶窒化ホウ素薄膜の製造方法であって、
金属薄膜の表面にホウ素原子、窒素原子、またはホウ素原子と窒素原子の両方を含む原料ガスを接触させることによりこの金属薄膜の表面上に厚さが1nm以上の窒化ホウ素の膜を生成する工程を含み、
前記金属薄膜が、2つ以上の元素を主成分元素として含む六方晶窒化ホウ素薄膜の製造方法。
【請求項7】
前記金属薄膜が、NiとFe、CoとFe、またはCrとFeを主成分元素として含む、請求項6に記載の六方晶窒化ホウ素薄膜の製造方法。
【請求項8】
前記金属薄膜がNiとFeを主成分元素として含み、前記金属薄膜の表面が面心立方格子の(111)面、(100)面、または(110)面を有する、請求項7に記載の六方晶窒化ホウ素薄膜の製造方法。
【請求項9】
前記金属薄膜がNiを10%以上含む、請求項8に記載の六方晶窒化ホウ素薄膜の製造方法。
【請求項10】
化学気相成長(CVD)法により六方晶窒化ホウ素薄膜を形成する、請求項6~9に記載の六方晶窒化ホウ素薄膜の製造方法。
【請求項11】
ホウ素原子または窒素原子を含む第二の原料ガスをさらに供給する、請求項10に記載の六方晶窒化ホウ素薄膜の製造方法。
【請求項12】
厚さが1nm以上、50nm以下の六方晶窒化ホウ素薄膜を形成する、請求項6~11のいずれか一項に記載の六方晶窒化ホウ素薄膜の製造方法。
【請求項13】
3層以上の層からなる六方晶窒化ホウ素薄膜を形成する、請求項6~11のいずれか一項に記載の六方晶窒化ホウ素薄膜の製造方法。
【請求項14】
請求項1~5のいずれか一項に記載の六方晶窒化ホウ素薄膜を含む積層体。
【請求項15】
請求項14に記載の積層体を用いた薄膜トランジスタ。
【請求項16】
請求項15に記載の薄膜トランジスタを備える電子デバイス。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、六方晶窒化ホウ素薄膜とその製造方法および六方晶窒化ホウ素薄膜を含む積層体に関するものであり、さらに詳しくは、触媒としての金属膜を用いた六方晶窒化ホウ素薄膜とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
六方晶窒化ホウ素(h-BN)は、ホウ素原子と窒素原子が交互に配列した六方格子からなる層状構造を有し、バルク結晶はこの層が多数積層したものである。六方晶窒化ホウ素は、バンドギャップが5.9eVと大きく、優れた絶縁体である。また、六方晶窒化ホウ素は原子レベルで高い平坦性を有している。
【0003】
このような特徴から、六方晶窒化ホウ素薄膜は、グラフェンなどの二次元原子膜材料の絶縁基板として優れた特性を示すことが知られている。例えば、グラフェンを酸化シリコン基板上で電極を取り付けてデバイス化し、キャリア移動度を測定すると2,000-20,000 cm2/Vsという値が得られるのに対して、グラフェンと酸化シリコン基板の間に厚さ10 nm程度の六方晶窒化ホウ素薄膜を挟むことで、キャリア移動度が15,000-60,000 cm2/Vsまで向上できることが知られている。
【0004】
遷移金属カルコゲナイドと呼ばれる遷移金属と硫黄などのカルコゲンとの層状材料の原子膜も六方晶窒化ホウ素薄膜により大きく特性が向上することが知られている。例えば、二枚の六方晶窒化ホウ素薄膜で二硫化モリブデンの二次元原子膜を挟むことで、キャリア移動度が10 Kの低温で34,000 cm2/Vsまで高くなることが報告されている。さらに、二硫化タングステンの下に六方晶窒化ホウ素薄膜を配置することで、二硫化タングステンの蛍光強度が強くなり、発光ピークの半値幅も大幅に小さくなることが報告されている。酸化シリコン基板には表面凹凸や光学フォノン、表面の電荷不純物が存在し、それらが酸化シリコン基板上の二次元原子膜材料の特性低下につながるのに対し、六方晶窒化ホウ素薄膜はこのような影響を遮蔽することができ、二次元材料の電気的、光学的な特性の大幅な向上につながる。このため、六方晶窒化ホウ素薄膜は多様な原子膜材料の絶縁性基板として理想的なものである。
【0005】
このような用途で用いられる従来の六方晶窒化ホウ素薄膜のほぼ全てが、小さな六方晶窒化ホウ素のバルク結晶粒から剥離することで作られている。六方晶窒化ホウ素の単結晶合成には高温・高圧が必要な上、剥離転写された六方晶窒化ホウ素薄膜は約1 μm程度とサイズが非常に小さく、また厚さや形状も制御が困難である。そのため、六方晶窒化ホウ素の絶縁膜としての産業応用は非常に難しいとされてきた。
【0006】
そのような中、バルク結晶粒からの剥離に代わる方法として、基板表面に化学気相成長(CVD)法等により窒化ホウ素の膜を形成することが提案されている。
【0007】
例えば、特許文献1では、化学的に溶解可能な金属または金属化合物からなる基体の表面に単結晶構造を形成し、原料ガスを接触させるCVD法によりこの単結晶表面上に厚さが1原子分のh-BNの単原子膜を形成することが提案されている。
【0008】
また、特許文献2では、金属または金属化合物からなる基体の表面を、表面粗さ(Rmax)5nm以下に研磨した後、この被研磨面をテンプレートとして、基体表面に厚さが1~2原子層分の単原子層または2原子層からなるh-BN薄膜を形成することが提案されている。
【0009】
また、特許文献3には、半導体基板の上にグラフェン層を形成する方法に関し、基板とグラフェン層との間に窒化ホウ素層を含めることが記載されており、この窒化ホウ素層は、単層または2層以上の単原子層膜厚の窒化ホウ素層の連続層とすることが記載されている。なお、特許文献3では、半導体基板の表面に金属膜が形成され、グラフェン層と窒化ホウ素層は、半導体基板の表面と金属膜裏面との間に形成されることが記載されている。
【先行技術文献】
【0010】

【特許文献1】国際公開第2009/119641号
【特許文献2】特開2013-67549号公報
【特許文献3】国際公開第2014/182540号
【特許文献4】米国特許出願公開第2014/0264282号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2014/0287244号明細書
【0011】

【非特許文献1】S. Lee, Sci. Rep., 6, 30499 (2016)
【非特許文献2】K. K. Kim et al., Nat. Commun., 6, 9662 (2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、これまでに報告されてきた六方晶窒化ホウ素の膜のほとんどは、特許文献1~3のように原子一個分の厚みに相当する単原子層膜、またはせいぜい2原子層からなる膜であり、厚さは1 nm未満であり、酸化シリコンなどの基板の表面の影響を遮蔽するには不十分であった。つまり、1 nm未満の厚さの六方晶窒化ホウ素の膜では、酸化シリコンの表面凹凸や電荷不純物のクーロンポテンシャルなどの影響を大幅に低減することができない。また、例えば単原子層を複数積層させることによって厚みを有する薄膜とした場合、基板上に単原子層が繰り返し堆積する過程で不純物が混入することなどにより、期待される性能が発揮されないことが懸念される。
【0013】
一方、厚みをもたせた六方晶窒化ホウ素の薄膜合成の報告(非特許文献1)では、ホウ素と窒素を含む分子を気相中で反応させ基板上に堆積させるために、六方晶窒化ホウ素の結晶性が低く、グレインサイズは10-100 nm未満と非常に小さい。また、この場合には、薄膜の厚みも非常に不均一である。
【0014】
また、最近、Feホイルを触媒にすることで結晶性の高い六方晶窒化ホウ素薄膜が合成できることが報告されている(非特許文献2)。ここでは、Feホイル中にホウ素と窒素を固溶させ、5℃/minの冷却速度で析出させて六方晶窒化ホウ素を生成させている。この方法によって得られた六方晶窒化ホウ素薄膜は、結晶性は高いものの、厚さが不均一であり、電子デバイスへの応用には不十分である。これは、Feホイルが多結晶であり、多数の結晶粒界(グレインバウンダリー)が存在すること、さらにはFe中へのホウ素と窒素の固溶量の制御が難しいことが原因である。
【0015】
特許文献4には、厚さ約125 μmのCuホイル(金属基板)を触媒としてh-BN層を合成し、その上にグラフェン層を形成した層構造に関し、得られたグラフェン層とh-BN層との合計の厚さが約2 nmであったことが記載されているが、h-BN層の膜厚の均一性に関する裏付けは得られていない。
【0016】
特許文献5には、シリコン基板上にドロップキャスト法で製膜した六方晶窒化ホウ素膜の上にNiなどの金属層を形成した基板アセンブリや、予めシリコン基板上に形成した金属層に存在する複数のグレインバウンダリーから気相もしくは固相のホウ素源と窒素源を通過させて、この金属層と基板との間に六方晶窒化ホウ素膜を製膜させた基板アセンブリを作製することが提案されているが、シリコン基板上に形成したNi層にアンモニアボラン溶液を用いてドロップキャスト法で製膜した六方晶窒化ホウ素膜は、原子間力顕微鏡像において比較的均一な表面を含んでいるとされているに過ぎず、膜表面全体の均一性や膜厚の均一性に関する裏付けは得られていない。
【0017】
そのため、上記のようなこれまでの様々な試みにも関わらず、依然として原子膜材料の実用化に耐え得るレベルの六方晶窒化ホウ素薄膜は得られておらず、大面積で、厚みが1 nm以上であり、結晶性が高く、かつ均一な厚みを有する六方晶窒化ホウ素薄膜の製造法が求められている。
【0018】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、大面積で、1 nm以上の均一な厚さを有し、かつグレインバウンダリーの少ない六方晶窒化ホウ素薄膜を安価に製造することができる、エレクトロニクスへの応用などの工業的な利用に適した新規な六方晶窒化ホウ素薄膜の製造方法と六方晶窒化ホウ素薄膜を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の六方晶窒化ホウ素薄膜は、厚さが1nm以上であり、ラマンスペクトルにより得られるE2gピークの半値幅の平均値が9~20cm-1であることを特徴とする。
好ましい態様では、この六方晶窒化ホウ素薄膜は、光学顕微鏡によって得られるRGB画像のG成分の強度分布の変動係数が5%以下である。
また、好ましい態様では、この六方晶窒化ホウ素薄膜は、前記G成分の強度分布が単峰性を示す。
また、好ましい態様では、この六方晶窒化ホウ素薄膜は、厚さが1nm以上、50nm以下である。
また、好ましい態様では、この六方晶窒化ホウ素薄膜は、3層以上の層からなる。
【0020】
本発明の六方晶窒化ホウ素薄膜の製造方法は、金属薄膜の表面にホウ素原子、窒素原子、またはホウ素原子と窒素原子の両方を含む原料ガスを接触させることによりこの金属薄膜の表面上に厚さが1nm以上の窒化ホウ素の膜を生成する工程を含むことを特徴とする。
【0021】
この六方晶窒化ホウ素薄膜の製造方法における好ましい態様では、前記金属薄膜が、Fe、Ni、Co、CuおよびCrからなる群より選択される少なくとも1つ以上の元素を主成分元素として含む。
【0022】
この六方晶窒化ホウ素薄膜の製造方法における好ましい態様では、前記金属薄膜が、2つ以上の元素を主成分元素として含む。
【0023】
この六方晶窒化ホウ素薄膜の製造方法における好ましい態様では、前記金属薄膜が、NiとFe、CoとFe、またはCrとFeを主成分元素として含む。
【0024】
この六方晶窒化ホウ素薄膜の製造方法における好ましい態様では、前記金属薄膜がNiとFeを主成分元素として含み、前記金属薄膜の表面が面心立方格子の(111)面、(100)面、または(110)面を有する。
【0025】
この六方晶窒化ホウ素薄膜の製造方法における好ましい態様では、前記金属薄膜がNiを10%以上含む。
【0026】
この六方晶窒化ホウ素薄膜の製造方法における好ましい態様では、化学気相成長(CVD)法により六方晶窒化ホウ素薄膜を形成する。
【0027】
この六方晶窒化ホウ素薄膜の製造方法における好ましい態様では、ホウ素原子または窒素原子を含む第二の原料ガスをさらに供給する。
【0028】
この六方晶窒化ホウ素薄膜の製造方法における好ましい態様では、厚さが1nm以上、50nm未満の六方晶窒化ホウ素薄膜を形成する。
【0029】
この六方晶窒化ホウ素薄膜の製造方法における好ましい態様では、3層以上の層からなる六方晶窒化ホウ素薄膜を形成する。
【0030】
本発明の六方晶窒化ホウ素薄膜を含む積層体は、上記の六方晶窒化ホウ素薄膜を含むことを特徴とする。
【0031】
本発明の薄膜トランジスタは、上記の積層体を用いたことを特徴とする。
【0032】
本発明の電子デバイスは、上記の薄膜トランジスタを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、酸化マグネシウム(MgO)やサファイア(α-Al2O3)、スピネル(MgAl2O4)、または水晶(SiO2)などの比較的安価で大面積の単結晶基板の上に、二成分以上の金属膜の積層膜、または二成分以上の金属合金の薄膜を製膜して触媒として用い、あるいは二成分以上の金属合金の箔を触媒として用い、ホウ素と窒素を含むガスと接触させて反応させることで、大面積に厚さが均一で結晶性の高い六方晶窒化ホウ素薄膜を得ることができる。
【0034】
また、本発明によれば、高品質で厚さの均一な六方晶窒化ホウ素の薄膜を大面積かつ低コストに得ることができ、グラフェンや遷移金属カルコゲナイド、黒リン、シリセンなど様々な原子層材料の工業的な利用に適した新規な六方晶窒化ホウ素薄膜が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例に示すh-BN薄膜の合成において用いたCVD法の温度プロファイル。
【図2】異なる金属触媒を用いて合成し、SiO2/Si基板に転写したh-BNの光学顕微鏡像(高倍率)。(a)Fe/MgO(100)、(b)Ni/MgO(100)、(c)Fe0.7-Ni0.3/MgO(100) (Ni=30%)、(d)Fe0.3-Ni0.7/MgO(100) (Ni=70%)、(e)Feホイル。各図中のスケールバーは20 μmである。
【図3】異なる金属触媒を用いて合成し、SiO2/Si基板に転写したh-BNの光学顕微鏡像(低倍率)。(a)Fe/MgO(100)、(b)Ni/MgO(100)、(c)Fe0.7-Ni0.3/MgO(100) (Ni=30%)、(d)Fe0.3-Ni0.7/MgO(100) (Ni=70%)、(e)Feホイル。各図中のスケールバーは100 μmである。
【図4A】SiO2/Si基板に転写したh-BNの光学顕微鏡像(a、b)およびラマンスペクトルの測定結果(c、d)。(a、c)Fe/MgO(100)を用いて合成したh-BN、(b、d)Ni/MgO(100)を用いて合成したh-BN。ラマンスペクトル中の波数は、h-BN由来のE2gピークの中心波数と半値幅を表す。
【図4B】SiO2/Si基板に転写したh-BNの光学顕微鏡像およびラマンスペクトルの測定結果。(a、c)Fe0.7-Ni0.3/MgO(100) (Ni=30%)を用いて合成したh-BN、(b、d)Fe0.3-Ni0.7/MgO(100) (Ni=70%)を用いて合成したh-BN。ラマンスペクトル中の波数は、h-BN由来のE2gピークの中心波数と半値幅を表す。
【図4C】FeホイルからSiO2/Si基板に転写したh-BNの光学顕微鏡像およびラマンスペクトルの測定結果。ラマンスペクトル中の波数は、h-BN由来のE2gピークの中心波数と半値幅を表す。
【図5】Fe0.7-Ni0.3/MgO(100) (Ni=30%)とFe0.3-Ni0.7/MgO(100) (Ni=70%)で得られたh-BNに対して行ったラマンマッピング測定の結果。1365-1370 cm-1に確認されたh-BN由来のE2gピークの強度を示す。(a)Fe0.7-Ni0.3/MgO(100) (Ni=30%)、(b)Fe0.3-Ni0.7/MgO(100) (Ni=70%)。
【図6】Fe0.3-Ni0.7/MgO(100) (Ni=70%)からSiO2/Si基板に転写したh-BNのラマンスペクトルの測定結果。E2gピークの半値幅の分布を示すヒストグラムである。
【図7】CVD後の金属薄膜のEBSD像。(a)Fe/MgO(100)、(b)Ni/MgO(100)、(c)Fe0.7-Ni0.3/MgO(100) (Ni=30%)、(d)Fe0.3-Ni0.7/MgO(100) (Ni=70%)、(e)α-FeとNiの結晶方位を示すカラーチャート。
【図8】異なる金属触媒を用いて合成したh-BNの原子間力顕微鏡像。(a)Fe/MgO(100)、(b)Ni/MgO(100)、(c)Fe0.7-Ni0.3/MgO(100) (Ni=30%)、(d)Fe0.3-Ni0.7/MgO(100) (Ni=70%)。(e)(d)のサンプルの高さプロファイル。
【図9】(a)図8(c)Fe0.7-Ni0.3/MgO(100) (Ni=30%)の原子間力顕微鏡像の拡大画像。(b)図8(d)Fe0.3-Ni0.7/MgO(100) (Ni=70%)の原子間力顕微鏡像の拡大画像。
【図10】Fe0.3-Ni0.7/スピネル(100) (Ni=70%)で合成したh-BNの光学顕微鏡像および原子間力顕微鏡像。(a)光学顕微鏡像(低倍率。図中のスケールバーは100 μmである。)、(b)光学顕微鏡像(高倍率。図中のスケールバーは20 μmである。)、(c)原子間力顕微鏡像(図中のスケールバーは10 μmである。)。
【図11】Fe0.3-Ni0.7/スピネル(100) (Ni=70%)で合成したh-BNの断面方向の透過型電子顕微鏡像。左側の画像のスケールバーは5 nmであり、右側の画像のスケールバーは1 nmである。
【図12】(a)Fe0.3-Ni0.7/スピネル(100) (Ni=70%)からSiO2/Si基板に転写したh-BNの原子間力顕微鏡像。(b)原子間力顕微鏡から求めたh-BNの高さプロファイル。(c)(a)と同じエリアのラマンスペクトルのE2gピークの強度マッピング。(d)(c)に記した番号の位置のラマンスペクトル。
【図13】Fe0.3-Ni0.7/スピネル(100) (Ni=70%)からSiO2/Si基板に転写したh-BNのラマンスペクトルの測定結果。E2gピークの半値幅の分布を示すヒストグラムである。
【図14】CVD後のFe0.3-Ni0.7/スピネル(100) (Ni=70%)のEBSD像。左:相分布マップ、右:結晶方位マップ。
【図15】Fe0.7-Ni0.3/スピネル(100) (Ni=30%)で合成したh-BNの光学顕微鏡像。図中のスケールバーは100 μmである。
【図16】CVD後のFe0.7-Ni0.3/スピネル(100) (Ni=30%)のEBSD像。左:相分布マップ、右:結晶方位マップ。
【図17】Feホイル、Fe/MgO(100)、Fe0.3-Ni0.7/MgO(100) (Ni=70%)およびFe0.3-Ni0.7/スピネル(100) (Ni=70%)で得られたSiO2/Si基板に転写した後のh-BNについて、光学顕微鏡によって得たRGB画像のG成分の分布の測定結果を示す図。(a)RGB画像から抽出したG成分の強度分布を示すグラフ、(b)光学顕微鏡によって得られたRGB画像のG成分像。
【図18】Fe0.7-Ni0.3/MgO(100) (Ni=30%)基板を用い、CVDでの冷却速度を変えて合成したh-BNの光学顕微鏡像。(a)5℃/min、(b)2.5℃/min、(c)1℃/min。各図中のスケールバーは20 μmである。
【図19】3種類の金属箔を用い、CVDでの冷却速度を5℃/minとして合成したh-BNの光学顕微鏡像。(a)スーパーインバー、(b)42インバー、(c)78パーマロイ。各図中のスケールバーは20 μmである。
【図20】3種類の金属箔を用い、CVDでの冷却速度を1℃/minとして合成したh-BNの光学顕微鏡像。(a)スーパーインバー、(b)42インバー、(c)78パーマロイ。各図中のスケールバーは20 μmである。
【図21】金属箔のスーパーインバーを用い、CVDでの合成温度から700℃までの冷却速度を変えて合成したh-BNの光学顕微鏡像。(a)5℃/minで700℃まで冷却、(b)1℃/minで700℃まで冷却、(c)0.5℃/minで900℃まで冷却し、5℃/minで700℃まで冷却、(d)0.25℃で1050℃まで冷却し、5℃/minで700℃まで冷却。各図中のスケールバーは20 μmである。
【図22】金属箔のスーパーインバーを用い、CVDでの冷却速度を1℃/minとして合成したh-BNのラマンスペクトルの測定結果。(a)のラマンスペクトル中の波数は、h-BN由来のE2gピークの中心波数と半値幅を表す。(b)はE2gピークの半値幅の分布を示すヒストグラムである。
【図23】金属箔のスーパーインバーを用い、CVDでの反応温度を変えて合成したh-BNの光学顕微鏡像。(a)1100℃(高倍率)、(b)1150℃(高倍率)、(c)1100℃(低倍率)、(d)1150℃(低倍率)。(a)および(b)中のスケールバーは20 μmであり、(c)および(d)中のスケールバーは100 μmである。
【図24】(a)Fe0.3-Ni0.7/MgO(100) (Ni=70%)基板を用いて合成したh-BN上にCVD法によって合成したWS2原子膜の原子間力顕微鏡像。(b)Fe0.3-Ni0.7/MgO(100) (Ni=70%)基板を用いて合成したh-BNおよびSiO2/Si基板上にCVD法によって合成したWS2原子膜の蛍光スペクトル。
【図25】図24(b)に示した蛍光スペクトルの半値幅のヒストグラム。(a)h-BN上に合成したWS2、(b)SiO2/Si基板上に合成したWS2
【図26】図25のヒストグラムの情報に、図24(b)の蛍光スペクトルでのピーク位置の情報を加えて得られた散布図。(a)h-BN上に合成したWS2、(b)SiO2/Si基板上に合成したWS2
【図27】金属箔のスーパーインバーを用いて合成したh-BN上に積層した単層グラフェン、およびSiO2/Si上に転写した単層グラフェンのラマンスペクトルの測定結果。
【図28】金属箔のスーパーインバーを用いて合成したh-BN上に積層した単層グラフェン、およびSiO2/Si上に転写した単層グラフェンのラマンスペクトルの測定結果。複数の測定点での2Dバンドの半値幅(FWHM)の分布を示すヒストグラムである。(a)SiO2/Si上のグラフェン、(b)h-BN上のグラフェン。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、具体的な形態は以下の実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計の変更等があっても本発明に含まれる。

【0037】
上述した六方晶窒化ホウ素の結晶構造は、ホウ素原子と窒素原子が炭素原子に置き換わったグラフェンの結晶構造と類似しているため、従来、グラフェン膜の製造方法を六方晶窒化ホウ素膜の製造に適用することが提案されてきた。例えば、特許文献1および2では、原料ガスとして、炭化水素ガスに代えてボラジン等のホウ素原子と窒素原子を含む分子のガスを用いて、CVD法によりh-BN膜が製造できるとされている。しかしながら、特許文献1には、単結晶Ni板(基体)の(111)面をテンプレートとして、エチレンガスを用いてグラフェンの単原子膜を作製したことが具体的に記載されているに過ぎない。また、特許文献2には、所定の条件で研磨した単結晶または多結晶のNi基板表面に、トルエンガスを接触させて炭素ドーピングを行うことにより、所望のグラフェン膜が得られたことが具体的に記載されているに過ぎない。さらに、特許文献3に記載の方法では、基板と金属膜との間に窒化ホウ素層を形成する場合の例(例4)が記載されているが、実際に目的の窒化ホウ素層が得られたことまでは示されていない。このように、単に結晶構造が類似していることを理由に、グラフェン膜の製造方法を六方晶窒化ホウ素膜の製造に適用することができるかどうかは必ずしも明らかではなかった。

【0038】
グラフェンが単一の原子(炭素原子)で構成されるのとは異なり、六方晶窒化ホウ素では、ホウ素原子と窒素原子が規則的に配列して構成されるため、ホウ素原子と窒素原子のバランス(原子比率)が重要な要素となる。加えて、窒化ホウ素が生成される場所、すなわち、金属薄膜の表面上で、このバランスが1:1に近いほど、窒化ホウ素の生成量が増え、その結果、より厚みのある六方晶窒化ホウ素膜が得られると考えられる。そして、本発明者は、金属薄膜の表面上でホウ素原子と窒素原子のバランスを制御することで窒化ホウ素の生成量を増大させ、さらに、形成される膜の結晶性および均一性を高めることについて鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。

【0039】
本発明の例示的な実施形態では、金属薄膜の表面にホウ素原子、窒素原子、またはホウ素原子と窒素原子の両方を含む原料ガスを接触させることによりこの金属薄膜の表面上に厚さが1nm以上の窒化ホウ素の膜を生成する。

【0040】
本明細書において、「金属薄膜」とは、少なくとも1つ以上の元素を主成分元素として含み、金属薄膜の特性に影響を及ぼさない程度の微量で、原料中に存在したり、作製工程において不可避的に混入したりする不純物(不可避的不純物)を含み得る。

【0041】
金属薄膜の主成分元素としては、少なくともホウ素溶解度および窒素溶解度のいずれかを有する金属であることが好ましい。例えば、金属薄膜の主成分元素としては、Fe、Ni、Co、CuおよびCrなどが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施形態では、金属薄膜は、Fe、Ni、Co、CuおよびCrからなる群より選択される少なくとも1つ以上の元素を主成分元素として含む。より好ましい実施形態では、金属薄膜は、2つ以上の元素を主成分元素として含む。さらにより好ましい実施形態では、金属薄膜は、NiとFe、CoとFe、またはCrとFeを主成分元素として含む。

【0042】
金属薄膜における主成分元素の組成比は特に制限されず、ホウ素溶解度および窒素溶解度に応じて適宜調整され得る。具体的には、例えば、金属薄膜の主成分元素が2つ(XおよびY)である場合、元素Xに対するホウ素および窒素の溶解度、元素Yに対するホウ素および窒素の溶解度を考慮して、これらの元素の組成比(X:Y)が調整され得る。これにより、原料ガスが当該金属薄膜の表面に接触した際のホウ素および窒素の溶解度が適切に制御され、均一な厚さを有し、かつ結晶性が高い六方晶窒化ホウ素薄膜を形成することができる。また、主成分元素の組成比を適切に調整することにより、窒化ホウ素の生成および六方晶窒化ホウ素薄膜の形成時における不純物の生成が抑制され得る。例えば、金属薄膜の主成分元素がNiとFeである場合には、NiとFeの組成比は、1:99~99:1の範囲、5:95~95:5の範囲、10:90~90:10の範囲、20:80~80:20の範囲、30:70~70:30の範囲、40:60~60:40の範囲、または50:50とすることができる。好ましい実施形態では、NiとFeの組成比は、10:90~99:1の範囲とすることができ、金属薄膜がNiを10%以上含むように調整することが望ましく考慮される。これにより、後述する化学気相成長(CVD)法により六方晶窒化ホウ素薄膜を製造する場合に、CVD反応中に、Feが体心立方構造(bcc構造)から面心立方構造(fcc構造)に相転移(変態)することが抑制され、より高品質で厚さの均一性の高い六方晶窒化ホウ素薄膜とすることができる。

【0043】
金属薄膜は、二成分以上の金属膜の積層膜であってもよく、また、二成分以上の金属合金の薄膜であってもよい。なお、本発明において、二成分以上の金属合金の薄膜としては、所定の基板上に形成された膜であってもよく、また、基板を有しない単体の金属箔であってもよい。

【0044】
金属薄膜が二成分以上の金属膜の積層膜である場合、主成分元素の組成比は、例えば、各々の金属膜の膜厚を調整することによって調整され得る。本発明では、例えば、金属薄膜が、2種類の単一成分の金属膜がそれぞれ0.5 μm積層した合計1 μmの膜である場合、主成分元素の組成比は50:50であるものとする。

【0045】
金属薄膜が二成分以上の金属合金の薄膜である場合、金属合金としては、2つの元素を主成分とする二元合金であってもよく、3つの元素を主成分とする三元合金であってもよく、また、3つより多い元素を主成分とする合金であってもよい。例えば、二元合金としては、Ni-Fe、Co-FeおよびCr-Feが挙げられるが、これらに限定されない。なお、金属薄膜が二成分以上の金属合金の薄膜である場合には、当該金属薄膜における主成分元素の組成比は、当該金属合金における組成比と同じであるものとする。

【0046】
金属薄膜の表面は、特定の面方向を有していることが好ましい。具体的には、例えば、金属薄膜に含まれる主成分元素が形成する結晶構造の密度等が考慮され得る。つまり、同一の金属種であっても、より広い面積で制御された結晶面を用いることによって、原料ガスが当該金属薄膜の表面に接触した際のホウ素および窒素の溶解度が適切に制御され、均一な厚さを有し、かつ結晶性が高い六方晶窒化ホウ素薄膜を形成することができると考えられる。例えば、金属薄膜がNiとFeの金属膜の積層膜である場合、または二元合金のNi-Feの薄膜である場合には、その表面は、面心立方格子の(111)面、(100)面、または(110)面を有することが好ましい。なお、後述する実施例の結果から示唆されるように、2つ以上の元素を主成分元素として含む金属薄膜を用いてCVD法により六方晶窒化ホウ素薄膜を作製する場合、CVD反応中に主成分元素が変態し金属薄膜が小さなグレインからなる多結晶構造となることが抑制され、CVD反応後の金属薄膜に比較的大きな結晶グレインが存在することが望ましく考慮される。例えば、金属薄膜がNiとFeの金属膜の積層膜である場合、または二元合金のNi-Feの薄膜である場合には、CVD反応後の金属薄膜が、面心立方格子の(111)面、(100面)、または(110)面を有することが好ましい。

【0047】
このような金属薄膜の表面に、ホウ素原子、窒素原子、またはホウ素原子と窒素原子の両方を含む原料ガスを接触させることにより、金属薄膜が触媒として作用し、窒化ホウ素が生成される。なお、本明細書では、その文脈に応じて、金属薄膜を「金属触媒」とも称する。

【0048】
原料ガスとしては、特に限定されないが、例えば、ホウ素原子と窒素原子の両方を含むガスを用いることができる。この場合、ホウ素と窒素を1:1のモル比で含むことが好ましく考慮されるが、これに限定されない。具体的には、例えば、ボラジン(B3N3H6)、アンモニアボラン(BH3NH3)、2,4,6-トリクロロボラジン(B3Cl3H3N3)等の気化ガスが挙げられる。

【0049】
また、原料ガスとしては、ホウ素原子を含むガスと窒素原子を含むガスを別々に用いることもできる。例えば、ホウ素ガスと窒素を含む分子のガス、ホウ素を含む分子のガスと窒素ガス、またはホウ素を含む分子のガスと窒素を含む分子のガスを組み合わせて用いることができる。ホウ素を含む分子としては、例えば、ジボラン(B2H6)、トリクロロボラン(BCl3)、トリフロロボラン(BF3)等が挙げられる。窒素を含む分子としては、例えば、アンモニア(NH3)、窒素分子(N2)等が挙げられる。

【0050】
なお、原料ガスとしては、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。例えば、原料ガスとしては、ホウ素原子と窒素原子の両方を含むガスを1種単独で用いてもよく、ホウ素原子と窒素原子の両方を含むガスを2種以上併用してもよい。また、例えば、原料ガスとしては、ホウ素原子と窒素原子の両方を含むガスと、ホウ素原子または窒素原子を含むガスとを併用して用いてもよい。このような原料ガスの選択および組み合わせは、用いる金属触媒の性質(例えば、ホウ素溶解度、窒素溶解度等)、必要とされる六方晶窒化ホウ素薄膜の厚さ等に応じて適宜調整することができる。

【0051】
本発明の例示的な実施形態により作製される六方晶窒化ホウ素薄膜は、例えば、化学気相成長(CVD)法により窒化ホウ素薄膜が形成される。以下、CVD法により本発明の六方晶窒化ホウ素薄膜を製造する方法について説明する。

【0052】
好ましい実施形態では、窒化ホウ素生成の触媒となる金属薄膜は、基板(例えば、単結晶基板)上に形成される。また、別の好ましい実施形態では、基板を有しない単体の金属箔を金属触媒として用いる。単結晶基板上に金属薄膜を形成する場合、単結晶基板としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ土類金属、遷移金属、希土類金属などの金属酸化物単結晶を用いることができる。具体的には、例えば、MgO(酸化マグネシウム)、α-Al2O3(サファイア)、MgAl2O4(スピネル)、SiO2(水晶)、LaAlO3(LAO)、TiO2(二酸化チタン)、マイカ(例えばKMg3AlSi3O10F2)などが挙げられる。

【0053】
単結晶基板のサイズは、特に限定されないが、良好な六方晶窒化ホウ素薄膜を得ることやその他の条件も考慮すると、例えば1~1,000,000 mm2であり、好ましくは100~20,000 mm2である。また、金属箔のサイズは特に限定されず、六方晶窒化ホウ素薄膜の用途等に応じて適宜調整することができる。

【0054】
単結晶基板の表面に金属薄膜を成膜する際には、例えば、単結晶基板の上にスパッタリングを行う。スパッタするときの基板の熱処理温度などの条件は、用いる金属の種類等に応じて適宜調整される。また、スパッタリング以外の成膜法としては、例えば、抵抗加熱での蒸着や電子線による蒸着、あるいはメッキ製膜なども可能である。

【0055】
金属薄膜の膜厚は、良好な六方晶窒化ホウ素薄膜を得ることやその他の条件も考慮すると、0.005~1000 μmが好ましく、より好ましくは0.1~100 μmである。

【0056】
好ましい実施形態では、金属薄膜は、Fe、Ni、Co、CuおよびCrからなる群より選択される少なくとも1つ以上の元素を主成分元素として含む。より好ましい実施形態では、金属薄膜は、2つ以上の元素を主成分元素として含む。

【0057】
金属薄膜は、二成分以上の金属膜の積層膜とすることができる。この場合において、金属薄膜の主成分元素の組成比は、例えば、各元素の膜厚により制御することができる。本発明では、例えば、2種類の単一成分の金属膜として、一方の金属(X)の膜を300 nm積層し、もう一方の金属(Y)の膜を700 nm積層させて合計1 μmの積層膜とする場合、この金属薄膜における元素Xと元素Yの組成比はX:Y=30:70であるものとする。

【0058】
また、金属薄膜は、二成分以上の金属合金の薄膜とすることができる。例えば、二成分以上の組成の決まった合金ターゲットを用いて、所定の組成比をもった金属薄膜を作製することができる。なお、金属薄膜を二成分以上の金属合金の薄膜とする場合において、主成分元素の組成比は、当該金属合金における組成比と同じであるものとする。

【0059】
金属薄膜の表面の結晶構造は、特に限定されないが、金属薄膜に含まれる主成分元素に対するホウ素および窒素の溶解度が考慮され得る。後述する実施例に示されるように、本発明の製造方法では、原料ガス中のホウ素と窒素が金属薄膜の表面に接触することによりこの金属中に固溶し、それらが冷却時に析出する際に窒化ホウ素が生成され、基板上で薄膜を形成すると考えられる。したがって、金属薄膜の表面の結晶構造が特定の面方向を有することにより、ホウ素および窒素が効率よく金属中に固溶し、これにより、冷却時の析出量が増大し、1 nm以上で均一な厚みを有する六方晶窒化ホウ素薄膜が形成され得る。なお、金属中へのホウ素および窒素の固溶量に関しては、主成分元素の組成比や金属の結晶粒のサイズ等も主要な要因となり得ることが理解される。

【0060】
このような金属薄膜の表面に原料ガスを接触させることにより窒化ホウ素を生成し、六方晶窒化ホウ素薄膜を成長させる。原料ガスは、単結晶基板の表面に金属薄膜を成膜した基板、あるいは金属箔を配置したチャンバー内に一定の圧力で供給することが好ましい。このとき、チャンバー内に、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスや水素ガスと共に供給してもよい。

【0061】
チャンバー内の原料ガスの圧力は、大気圧ないし減圧下、好ましくは105~10-5 Pa、より好ましくは105~10-3 Paである。熱処理温度は、窒化ホウ素の形成速度や良好な六方晶窒化ホウ素薄膜を得る点からは、好ましくは300~1500℃、より好ましくは400~1200℃、さらにより好ましくは500~1150℃である。熱処理時間は、好ましくは1~300分間、より好ましくは10~60分間である。

【0062】
熱処理のための加熱手段としては、特に限定されないが、例えば、熱輻射、誘導加熱、レーザ、赤外線、マイクロ波、プラズマ、紫外線、表面プラズモンによる加熱などを用いることができる。

【0063】
また、CVD法で窒化ホウ素を合成する前に、CVD合成温度よりも低温での水素アニールによって触媒の金属薄膜表面を還元することで、CVD合成時の高温においても金属薄膜表面の結晶性を改善することができる。具体的には、低温での水素アニールを行うことで金属触媒の凝集や金属薄膜表面におけるピットの生成を抑制し、これにより大面積な六方晶窒化ホウ素薄膜の成長が可能とされる。この低温での水素アニール後、CVD温度での水素アニールを行うことも有効である。

【0064】
この水素アニールは、CVDを行うチャンバー内に試料を設置し、CVD合成の直前に行うことができる。水素アニールの温度は、例えば400~600℃、ないしは1000~1200℃で行うことができ、アニール時間を長くするほど金属触媒の結晶性が向上し、合成される窒化ホウ素の質も向上する。水素アニール時におけるガスの供給は、チャンバーの容積に応じて流量は設定されるが、例えば、チャンバー容積1リットルあたり10~10000sccmの水素を不活性ガスとともに流しながら行うことができる。

【0065】
一定時間原料ガスを供給した後、冷却を行う。このとき、金属触媒中に固溶したホウ素および窒素が、金属薄膜の表面に析出し、窒化ホウ素が生成され、金属薄膜の表面上で六方晶窒化ホウ素の薄膜が形成される。冷却速度は、特に限定されないが、より遅い速度で冷却することにより、ホウ素および窒素がより均等に析出して窒化ホウ素が生成され、形成される六方晶窒化ホウ素薄膜の均一性がより向上すると考えられる。具体的には、例えば、冷却速度は、0.01~50℃/minで行うことができ、0.1~10℃/minが好ましく、0.1~5.0℃/minがより好ましく、0.1~1.0℃/minがさらにより好ましい。また、冷却速度は一定の速度であってもよく、複数の冷却速度条件を組み合わせてもよい。例えば、CVD合成後、CVD合成温度から冷却工程の途中まで(例えば700℃に達するまで)、0.1~1.0 ℃/minの冷却速度とし、その後上記の冷却速度条件から選択した任意の冷却速度に調節することができる。なお、冷却は、例えば水素ガスを流しながら行われる。

【0066】
ここで、金属薄膜の表面への原料ガスの供給および/または冷却の際に、上記の不活性ガスや水素ガスの一部または全部を、ホウ素原子または窒素原子を含む原料ガス(第二の原料ガス)に置き換えることもできる。これにより、上記金属中へのホウ素および窒素の固溶量に関して、固溶量の少ないホウ素原子または窒素原子が第二の原料ガスによって補われ、窒化ホウ素の生成をより効率的に行うことができる。すなわち、金属触媒に対するホウ素および窒素の固溶度は、用いられる金属種によって異なることが想定されるため、原料ガスの種類や供給量等を調整することに加えて、ホウ素原子または窒素原子を含むガスを第二の原料ガスとして供給することによって、金属触媒中に固溶したホウ素および窒素が冷却時に析出する際に不足分のホウ素原子または窒素原子が補われ、金属薄膜の表面上でホウ素原子と窒素原子のバランスが1:1により近づくことにより、窒化ホウ素の生成量がより増大し、1 nm以上の一定の厚みを有する六方晶窒化ホウ素薄膜が形成され得る。

【0067】
本発明の製造方法では、上記の各種の製造条件が相互に関連することにより、均一な厚さを有し、かつ結晶性の高い六方晶窒化ホウ素薄膜を得ることができる。すなわち、例示したようなCVD法により窒化ホウ素を生成する場合、金属触媒に関する金属種、結晶面、結晶粒サイズ等の要素と、原料ガスに関するガスの種類、組成等の要素と、CVDに関するガス供給(第二の原料ガスとしてのガス供給を含む)、温度プロファイル等の要素とが相互に関連することにより、大面積で、1 nm以上の均一な厚さを有し、かつグレインバウンダリーの少ない六方晶窒化ホウ素薄膜を得ることができる。

【0068】
上記に例示されるような製造方法によって作製される本発明の六方晶窒化ホウ素薄膜は、大面積に厚さが均一で結晶性の高い六方晶窒化ホウ素薄膜である。このような六方晶窒化ホウ素薄膜は、これを含む積層体とすることにより、この積層体を用いた薄膜トランジスタやこの薄膜トランジスタを備える電子デバイス等としての応用が可能となる。

【0069】
例えば、上記のCVD法によれば、酸化マグネシウム(MgO)やサファイア(α-Al2O3)、スピネル(MgAl2O4)、水晶(SiO2)、あるいはマイカなどの比較的安価で大面積の単結晶基板上に製膜した金属薄膜の上に、大面積な六方晶窒化ホウ素薄膜が形成される。また、上記のCVD法を用いて、単体の金属箔の上に、大面積な六方晶窒化ホウ素薄膜を形成することもできる。

【0070】
また、本発明の六方晶窒化ホウ素薄膜は、厚さが1 nm以上、すなわち、3層以上の原子層からなる窒化ホウ素薄膜である。例えば、上記のCVD法によれば、厚さが1 nm以上、50 nm以下の六方晶窒化ホウ素薄膜を得ることができる。ここで、六方晶窒化ホウ素薄膜の厚さは、例えば、単結晶から剥離した六方晶窒化ホウ素の薄片を用いて見積もることができる。具体的には、例えば、酸化膜を有するシリコン基板(例えば、300nmのSiO2のついたSi基板)に、単結晶から剥離、あるいは金属触媒から転写した六方晶窒化ホウ素の薄片の高さを、原子間力顕微鏡により測定し、その光学コントラストを光学顕微鏡により測定することにより、六方晶窒化ホウ素薄膜の厚さを見積もることができる。他にも、作製した薄膜の断面を原子間力顕微鏡や透過型電子顕微鏡で解析することにより、六方晶窒化ホウ素薄膜の厚さを見積もることができる。

【0071】
また、本発明の六方晶窒化ホウ素薄膜は、厚さの均一性に優れている。ここで、六方晶窒化ホウ素薄膜の厚さの均一性は、例えば、酸化膜を有するシリコン基板(例えば、300nmのSiO2のついたSi基板)に、単結晶から剥離、あるいは金属触媒から転写した六方晶窒化ホウ素の薄片を、光学顕微鏡により所定の倍率で観察した際の顕微鏡像(RGB画像)からRGBの各成分の値を測定し、抽出されたG成分の分布を評価・分析することにより確認することができる。より具体的には、好ましい実施形態では、本発明の六方晶窒化ホウ素薄膜は、酸化膜を有するシリコン基板上において、光学顕微鏡によって得られるRGB画像のG成分の強度分布の変動係数が5%以下である。より好ましい実施形態では、本発明の六方晶窒化ホウ素薄膜は、酸化膜を有するシリコン基板上において、光学顕微鏡によって得られるRGB画像のG成分の強度分布が単峰性を示す。

【0072】
RGB画像のG成分の強度分布に関し、「変動係数」は、値の分散度合を意味する。G成分の強度(およびその平均)は観察試料の作製方法や観察条件等で変動するため、本発明では、標準偏差を平均で除することで得られる変動係数を指標として用いる。変動係数の値が小さいほどG成分の強度分布が単一色に近く、六方晶窒化ホウ素薄膜がより均一な層構造を有することを意味する。
「単峰性」とは、視野内において六方晶窒化ホウ素薄膜がシリコン基板を覆っていることを意味する。視野内においてシリコン基板の露出が確認される場合には、シリコン基板表面の酸化物に起因するピークが生じるため、G成分の強度分布は「二峰性」となる。また、六方晶窒化ホウ素薄膜の層構造(層数)が不均一である場合には、G成分の強度分布は幅広く分散し、「多峰性」となる。ここで、G成分の強度分布が二峰性を示す場合であっても、シリコン基板表面のシリコン酸化膜に起因するピークは、転写手法の精度等に依存して生じ得るため、六方晶窒化ホウ素薄膜自体の品質を直接的に示すものではなく、六方晶窒化ホウ素に起因する鋭いピークが得られる限りにおいて、六方晶窒化ホウ素薄膜は層構造(層数)の均一性に優れていると理解され得る点に留意されたい。

【0073】
また、本発明の六方晶窒化ホウ素薄膜は、高い結晶性を有している。ここで、六方晶窒化ホウ素薄膜の結晶性は、例えば、ラマンスペクトル測定を行い、六方晶窒化ホウ素に由来するE2gピークの位置および半値幅を測定することによって確認することができる。具体的には、例えば、光学顕微鏡により所定の倍率で六方晶窒化ホウ素薄膜を観察した際の顕微鏡像から、複数(例えば、少なくとも50以上)の測定位置を選定し、それぞれの測定位置で得られたラマンスペクトルからE2gピークの位置および半値幅を測定して比較し、それらのピーク強度の均一性を評価・分析することにより、六方晶窒化ホウ素薄膜における結晶の均一性を確認することができる。より具体的には、好ましい実施形態では、本発明の六方晶窒化ホウ素薄膜は、ラマンスペクトルにより得られるE2gピークの半値幅(半値全幅:FWHM)の平均値が20cm-1以下である。より好ましい実施形態では、本発明の六方晶窒化ホウ素薄膜は、ラマンスペクトルにより得られるE2gピークの半値幅(半値全幅:FWHM)の平均値が9~20cm-1である。
【実施例】
【0074】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0075】
<実施例1>
単結晶基板として(100)面をもつMgO基板を用いた。この基板をRFマグネトロンスパッタリング装置のチャンバー内に装着して、基板を加熱した状態で基板表面にFe金属またはNi金属、あるいはその両方をスパッタリングにより成膜した(Ar雰囲気、真空度は0.6 Paが標準)。
【実施例】
【0076】
これにより、膜厚1 μmのFe膜またはNi膜、あるいはFe-Ni積層膜を基板上に堆積させた。Fe-Ni積層膜の場合は、合計膜厚が1 μmになるように設定し、FeとNiの組成比は膜厚により制御した。基板の温度は、Fe使用時は500-400℃、Ni使用時は600-500℃で製膜した。なお、基板の温度は、Fe使用時およびNi使用時のいずれも、室温(約25℃)やその他の任意の温度であってもよい。以下では、これらの金属触媒を堆積させた基板を、それぞれ、Fe/MgO(100)、Ni/MgO(100)、Fe-Ni積層/MgO(100)と称する。
【実施例】
【0077】
金属触媒のスパッタ製膜後、基板を、必要に応じて、適当な大きさ、例えば5 mm角や10 mm角に切断して、以下の手順でCVD法によるh-BN薄膜の合成を行った。
水平型の管状炉を用い、管状炉に取り付けた石英管の中央部に触媒金属を成膜した単結晶基板を、石英ボートを用いて設置した。
【実施例】
【0078】
基板には上記のようにして作製したFe/MgO(100)、Ni/MgO(100)、またはFe-Ni積層/MgO(100)を用いた。Fe-Ni積層/MgO(100)としては、(1)Fe0.7-Ni0.3/MgO(100) (Ni=30%)(Fe膜700 nm、Ni膜300 nm)、および(2)Fe0.3-Ni0.7/MgO(100) (Ni=70%)(Ni膜700 nm、Fe膜300 nm)の2種類の基板を用いた。また、比較のため、Feホイル(ニラコ社製、厚さ 20 μm)も用いた。CVD合成は図1に示す温度プロファイルを用いて行った。
【実施例】
【0079】
基板を管状炉の内部にセットした後、ロータリーポンプにより石英管全体を排気した。その後、水素ガスを10 sccm流して40~50 Paとした。同量の水素ガスを流しながら、図1に示すように1100℃まで60分かけて昇温し、その温度で60分保持した。これにより、スパッタ製膜した金属触媒の結晶性を高め、かつ表面の平滑性を向上させた。同時に、水素ガスにより、金属表面の自然酸化膜が除去される。
【実施例】
【0080】
ホウ素と窒素の原料にはボラジン(B3N3H6)を用いた。液体ボラジンを0.12~0.13 MPaの水素雰囲気のボトル内におき、ボトルを-10℃に冷却した。そのボトルからボラジン気化ガスを含む水素ガス0.27 sccmをメインラインの水素ガス10 sccmと混合して、管状炉内に導入した。この反応を30分間行った。
【実施例】
【0081】
その後、ボラジン気化ガスを含む水素ガスを遮断し、メインラインの水素ガス10 sccmのみを流しながら、1℃/minで冷却速度を制御して700℃まで冷却した。700℃に達した後は管状炉の電源を切り、室温まで冷却した。
【実施例】
【0082】
CVD反応の終了後、基板を取り出した。生成したh-BNの詳細な評価を行うために、金属膜上に形成したh-BNをSiO2/Si基板上に転写した。h-BNをSiO2/Si基板上に転写することで、光学顕微鏡でh-BNの生成量や厚さ分布を容易に観察することができる。また、ラマン分光においてもh-BNから得られるピークが強くなり、より正確な評価が可能となる。
【実施例】
【0083】
典型的には次の方法で転写を行った。合成後の金属薄膜表面にポリメタクリル酸メチル(PMMA)溶液をスピンコートして115℃で20分間のベーキングによりh-BNを保護するためのPMMA膜を形成させた。PMMA上にサーマルテープ(日東電工社製Revalpha)を貼り付けた。FeCl3水溶液と塩酸の混合溶液に基板を浸し、触媒が十分にエッチングされてh-BNがサーマルテープとPMMAごと溶液表面に浮き上がった後、これをピンセットで拾い上げた。イオン交換水を用いてFeCl3と塩酸を丁寧に洗い流した後、SiO2/Si基板(SiO2の厚さ300 nm)上に置いて60~100℃で乾燥させた。その後120℃まで加熱し、サーマルテープの粘着性をなくしてPMMA膜上から取り除き、弱く加熱したアセトンでPMMA膜を除去した。
【実施例】
【0084】
SiO2/Si基板に転写した後のh-BNを光学顕微鏡により解析した。光学顕微鏡はニコン社製ECLIPSE ME600、CCDカメラとしてニコン社製DS-Fi1を用いた。図2と図3に顕微鏡写真を示す。なお、図2は高倍率、図3は低倍率の像である。
【実施例】
【0085】
Fe/MgO(100)を触媒に用いた場合(図2(a))では厚いh-BN膜が生成していた。しかし、光学コントラストには大きなばらつきがあり、厚さは非常に不均一であることが分かった。加えて、図3(a)では、黒い粒子が多数観察されている。それに対して、Ni/MgO(100)を用いた場合(図2(b))には、ごくわずか、部分的にしかh-BNが生成していなかった。また、光学コントラストは弱く、h-BNが薄いことが分かる。一方、FeとNiの積層膜を触媒に用いた場合では、光学コントラストが均一になった。Feが70%の場合(図2(c))には、Fe単体と比べて(図2(a))、h-BNの厚さの均一性が向上していた。しかし、一部で厚みのある領域が見られている。Niが70%の場合(図2(d))には、ほぼ均一な光学コントラストが得られ、非常に均一にh-BNが生成していることが示された。同時に、Niの働きのため析出量は少なくなっている。Feホイルの場合(図2(e))では、厚いh-BNが局所的に生成しており、一層から二層の薄いh-BNがFeホイルのほぼ全面を覆っていた。
【実施例】
【0086】
図2(d)に示すh-BNの厚さを、単結晶から剥離したh-BN薄片を用いて見積もった。剥離h-BN薄片の高さを原子間力顕微鏡(ブルカー製、Nanoscope V)で決め、その光学コントラストを光学顕微鏡により測定した。その結果、図2(d)に示すh-BNの厚みは、おおよそ3-10 nm程度と見積もられた。
【実施例】
【0087】
図4A~Cは、SiO2/Si基板に転写したh-BNの光学顕微鏡像およびラマンスペクトルの測定結果である。ラマンスペクトルの測定には東京インスツルメンツ社製のNanofinder30を使用し、励起波長は532 nm、スポットサイズは約0.6 μmとした。図4Aは、Fe/MgO(100)とNi/MgO(100)で得られたh-BNの光学顕微鏡像とラマンスペクトルである。図4BはFe0.7-Ni0.3/MgO(100) (Ni=30%)とFe0.3-Ni0.7/MgO(100) (Ni=70%)で得られたh-BNの光学顕微鏡像とラマンスペクトルである。図4Cは、FeホイルからSiO2/Si基板に転写したh-BNの光学顕微鏡像とラマンスペクトルである。図4A~Cの光学顕微鏡像にはラマンスペクトルを測定した位置を記した。また、ラマンスペクトルには、ピーク位置と半値幅(FWHM)を記載した。
【実施例】
【0088】
図4A(a)、(c)に示すように、Fe/MgO(100)のサンプルでは、h-BN由来のE2gピークが1368-1370 cm-1に確認され、半値幅の値から結晶性が良好であることが分かるが、測定位置A~C間でピーク強度の均一性は見られなかった。また、図4A(b)、(d)に示すように、Ni/MgO(100)のサンプルでは、測定位置BにおいてE2gピークが非常に弱い強度で観察されたのみであり、その半値幅は31.4 cm-1と広く、結晶性も乏しいことが分かる。一方、図4Bでは、Fe0.7-Ni0.3/MgO(100) (Ni=30%)とFe0.3-Ni0.7/MgO(100) (Ni=70%)の両方のサンプルで、h-BN由来のE2gピークが1365-1370 cm-1に明瞭に観測されたことから、生成した膜はh-BNであることが確認できた。また、図4B(a)、(c)に示すように、Fe0.7-Ni0.3/MgO(100) (Ni=30%)では測定位置B、C間でピーク強度の均一性が見られたのに対して、図4B(b)、(d)に示すように、Fe0.3-Ni0.7/MgO(100) (Ni=70%)では測定位置A~C間でより均一なピーク強度が得られた。このことから後者のh-BN膜の方が均一性により優れていることが示される。また、図4B(c)、(d)におけるE2gピークの半値幅は13~20 cm-1の範囲に収まっており、結晶性が高いことを反映している。図4Cに示すFeホイルのサンプルでは、h-BN由来のE2gピークが確認されたが、測定位置A~C間でピーク強度の均一性は見られず、E2gピークの半値幅の値から結晶性にもバラつきがあることが分かる。
【実施例】
【0089】
より空間的な均一性に関して調べるため、Nanofinder30を用い、E2gピーク強度に対するラマンマッピングを行った。図5(a)および(b)は、それぞれ、Fe0.7-Ni0.3/MgO(100) (Ni=30%)とFe0.3-Ni0.7/MgO(100) (Ni=70%)で得られたh-BNに対して行ったラマンマッピング測定の結果である。ともにピーク強度はグレイン内部で均一である。特に、後者は均一性に優れていることがラマンマッピングからも確認された。
【実施例】
【0090】
さらに、Fe0.3-Ni0.7/MgO(100) (Ni=70%)について、SiO2/Si基板に転写したh-BNの20 μm四方の領域から無作為に310箇所を選択し、h-BN由来のE2gピークの強度および半値幅(FWHM)を測定した。図6に示すように、E2gピークの半値幅の平均値は15 cm-1であり、結晶性の高いh-BNであることが確認された。
【実施例】
【0091】
次に、金属触媒の結晶性と結晶面の効果を調べるため、Fe/MgO(100)、Ni/MgO(100)、Fe0.7-Ni0.3/MgO(100) (Ni=30%)、Fe0.3-Ni0.7/MgO(100) (Ni=70%)のCVD後のEBSD (Electron Back Scatter Diffraction)を測定した。図7(a)に示すFe/MgO(100)基板のFe薄膜は、小さく様々な方位をもったグレインからなっている。Feは加熱していくと910℃で体心立方構造(bcc構造、α鉄)から面心立方構造(fcc構造、γ鉄)に相転移(変態)するとことが知られている。CVD反応中に、MgO(100)上のFeもbccからfccに変態し、fcc構造でボラジンと反応し、冷却時に再度bccへと変わるため、このような小さなグレインからなる多結晶になったものと考えられる。一方、Ni/MgO(100)のNi金属(図7(b))は、均一なfcc(100)面を示す。これは、Niは室温から高温までfcc構造が安定であり、MgO(100)上にエピタキシャルに堆積したNi(100)薄膜が、高温のCVD中にも保たれていることを示す。それらとは異なり、Fe0.7-Ni0.3/MgO(100) (Ni=30%)とFe0.3-Ni0.7/MgO(100) (Ni=70%)は、fcc(110)面に相当する結晶面が得られた(図7(c)、(d))。特にFe0.3-Ni0.7/MgO(100) (Ni=70%)はfcc構造をもつNiの強い作用のため、均一なコントラストのEBSD像が得られている。つまり、一定量のNiの存在により、Feの変態が抑制されていることを示唆している。図7(d)に示したような大きな結晶グレインの存在により、h-BN薄膜が金属表面から均一に析出成長したものと考えることができる。
【実施例】
【0092】
図8は、原子間力顕微鏡(AFM)でh-BNの転写膜の表面観察を行った結果である。Fe/MgO(100)上に生成したh-BNは比較的平滑であるが、エッジでは薄膜グレインのそり上がりが顕著であった(図8(a))。Ni/MgO(100)上ではh-BNの生成がほとんど起こっておらず、ごく一部に薄片が見られた(図8(b))。Fe0.7-Ni0.3/MgO(100) (Ni=30%)から転写したh-BNは、表面が平滑であるが、複数の粒子が存在していた(図8(c))。一方、Fe0.3-Ni0.7/MgO(100) (Ni=70%)から転写したh-BNでは、粒子はほとんど見られず、また表面平滑性が高いことが分かった(図8(d))。このh-BNのグレインの厚さは、原子間力顕微鏡の高さプロファイルの解析から約4.5 nmと見積もられた(図8(e))。また、図8(d)では、隣接するグレインでも高さがかなり近いことも分かる。
【実施例】
【0093】
図9はFe0.7-Ni0.3/MgO(100) (Ni=30%)とFe0.3-Ni0.7/MgO(100) (Ni=70%)の原子間力顕微鏡像の拡大画像である。ともに皺(リンクル)が観測されている。これは、金属薄膜とh-BNの熱膨張係数の違いによって生じたものと、転写時に導入されたリンクルの可能性がある。転写前にも同様のリンクルが観察されることが多かったことから、リンクルは主にCVD時に生成した可能性が高いと考えられる。
【実施例】
【0094】
<実施例2-1>
単結晶基板として(100)面をもつスピネル基板を用いたこと以外は実施例1と同様の手順で、基板表面にFe金属およびNi金属をスパッタリングにより成膜して、Fe0.3-Ni0.7/スピネル(100) (Ni=70%)(Ni膜700 nm、Fe膜300 nm)を作製した。
【実施例】
【0095】
このFe0.3-Ni0.7/スピネル(100) (Ni=70%)基板を用いて、原料のボラジン気化ガスの供給および冷却の際に用いる水素ガスに窒素ガスを25 %混合したこと以外は実施例1と同様の条件でCVD法によるh-BN薄膜の合成を行い、生成したh-BNを実施例1と同様にしてSiO2/Si基板上に転写した。
【実施例】
【0096】
SiO2/Si基板に転写した後のh-BNを光学顕微鏡および原子間力顕微鏡(AFM)により解析した。図10(a)~(c)は、それぞれ、合成したh-BNの光学顕微鏡像(低倍率および高倍率)、および原子間力顕微鏡像である。これらの顕微鏡像より、厚さ約3 nmの非常に均一なh-BN薄膜が得られたことが確認された。
【実施例】
【0097】
また、CVD後のFe0.3-Ni0.7/スピネル(100) (Ni=70%)基板上のh-BN薄膜の断面を透過型電子顕微鏡で解析した結果を図11に示す。図11の顕微鏡像より、約0.35 nmの層間隔をもって、7層程度が積層した、厚さ約3 nmの非常に均一なh-BN薄膜が形成されていることが確認された。
【実施例】
【0098】
図12は、SiO2/Si基板に転写したh-BNの原子間力顕微鏡像およびラマンスペクトルの測定結果である。図12(a)、(b)は、それぞれ、Fe0.3-Ni0.7/スピネル(100) (Ni=70%)からSiO2/Si基板に転写したh-BNの原子間力顕微鏡像、および原子間力顕微鏡から求めたh-BNの高さプロファイルである。図12(c)は、図12(a)と同じエリアのラマンスペクトルのE2gピークの強度マッピングであり、図12(d)は、図12(c)に記した番号の位置のラマンスペクトルである。
図12(a)の原子間力顕微鏡像から、この多層h-BNは膜厚が極めて均一であることが確認できる。また、図12(b)より、このh-BNの厚さは約2.5 nmであった。さらに、図12(c)、(d)のラマンマッピング像からも、E2gピークの強度が均一であり、層数均一性に優れたh-BNが合成・転写できていることを示している。
【実施例】
【0099】
さらに、Fe0.3-Ni0.7/スピネル(100) (Ni=70%)からSiO2/Si基板に転写したh-BNの20 μm四方の領域から無作為に882箇所を選択し、h-BN由来のE2gピークの強度および半値幅(FWHM)を測定した。図13に示すように、E2gピークの半値幅の平均値は18 cm-1であり、結晶性の高いh-BNであることが確認された。
【実施例】
【0100】
図14は、CVD後のFe0.3-Ni0.7/スピネル(100) (Ni=70%)のEBSD測定結果である。図14に示すように、Fe0.3-Ni0.7/スピネル(100) (Ni=70%)では、fcc(111)面に相当する均一な結晶面が得られた。
【実施例】
【0101】
<参考例1>
単結晶基板として(100)面をもつスピネル基板を用いたこと以外は実施例1と同様の手順で、基板表面にNi金属をスパッタリングにより成膜して、Ni/スピネル(100)を作製した。
【実施例】
【0102】
このNi/スピネル(100)基板を用いて、原料のボラジン気化ガスの供給および冷却の際に用いる水素ガスに窒素ガスを50 %混合したこと以外は実施例1と同様の条件でCVD法によるh-BN薄膜の合成を行い、生成したh-BNを実施例1と同様にしてSiO2/Si基板上に転写した。
【実施例】
【0103】
SiO2/Si基板に転写した後のh-BNを光学顕微鏡で解析した結果、厚いh-BN膜が生成していることが確認されたが、一部で厚さが不均一な領域が見られた。また、ラマンスペクトルの測定結果より、h-BN由来のE2gピークの半値幅は15~20 cm-1の範囲に収まっており、結晶性が高いことが確認された。これらの結果は、本発明において、CVD法による窒化ホウ素の生成では、上述したように、金属触媒に関する要素と、原料ガスに関する要素と、CVDに関する要素とが相互に関連することにより、目的の六方晶窒化ホウ素薄膜が得られることを示唆していると考えられる。
【実施例】
【0104】
<実施例2-2>
単結晶基板として(100)面をもつスピネル基板を用いたこと以外は実施例1と同様の手順で、基板表面にFe金属およびNi金属をスパッタリングにより成膜して、Fe0.7-Ni0.3/スピネル(100) (Ni=30%)(Ni膜300 nm、Fe膜700 nm)を作製した。
【実施例】
【0105】
このFe0.7-Ni0.3/スピネル(100) (Ni=30%)基板を用いて、原料のボラジン気化ガスの供給および冷却の際に用いる水素ガスに窒素ガスを25 %混合したこと以外は実施例1と同様の条件でCVD法によるh-BN薄膜の合成を行い、生成したh-BNを実施例1と同様にしてSiO2/Si基板上に転写した。
【実施例】
【0106】
SiO2/Si基板に転写した後のh-BNを光学顕微鏡により解析した。図15に示すように、光学コントラストがほぼ均一の顕微鏡像が得られ、均一性の高いh-BNが生成していることが確認された。
【実施例】
【0107】
また、Fe0.7-Ni0.3/スピネル(100) (Ni=30%)のCVD後のEBSDを測定した。図16に示すように、Fe0.7-Ni0.3/スピネル(100) (Ni=30%)では、fcc(111)面に相当する均一な結晶面が得られた。
【実施例】
【0108】
<実施例3>
次に、Feホイル、Fe/MgO(100)、Fe0.3-Ni0.7/MgO(100) (Ni=70%)で得られたSiO2/Si基板に転写した後のh-BN(以上、実施例1)、およびFe0.3-Ni0.7/スピネル(100) (Ni=70%)で得られたSiO2/Si基板に転写した後のh-BN(実施例2-1)について、光学顕微鏡によって得たRGB画像のG成分の分布を測定した。図17(a)は、RGB画像から抽出したG成分の強度分布を示す図であり、図17(b)は、光学顕微鏡によって得られたRGB画像のG成分像である。本実施例では、各々のRGB画像から約30,000ポイントを任意に選択してG成分の値を測定した。図17(a)には、G成分強度の平均(MEAN)、標準偏差(SD)、変動係数(CV(%))を記載した。なお、図17(a)において、G値170~185付近に見られるピークは、Si基板の酸化物(SiO2)に由来するピークである。
【実施例】
【0109】
Feホイルの場合には、Si基板に由来するピークが見られ、G成分強度の分布はブロードであった。また、Fe/MgO(100)の場合には、G値230~250付近にh-BNに由来すると思われる分布の盛り上がりが見られるが、Feホイルの場合よりも広範囲にわたる強度分布であった。これに対して、Fe0.3-Ni0.7/MgO(100) (Ni=70%)の場合には、G成分の強度分布は二峰性となり、Fe0.3-Ni0.7/スピネル(100) (Ni=70%)の場合には単峰性の強度分布が得られた。これらの結果より、FeとNiの積層膜を触媒に用いた場合では、厚さの均一性に優れたh-BN薄膜が生成されたことが確認された。
【実施例】
【0110】
<参考例2>
金属触媒を製膜する単結晶基板の結晶面とh-BN生成との関係を調べるため、(111)面をもつMgO基板(MgO(111))、および(111)面をもつスピネル基板(スピネル(111))を用いたこと以外は実施例1と同様の手順で、基板表面にFe金属およびNi金属をスパッタリングにより成膜して、Fe0.3-Ni0.7/MgO(111) (Ni=70%)、Fe0.3-Ni0.7/スピネル(111) (Ni=70%)を作製した。
【実施例】
【0111】
このFe0.3-Ni0.7/MgO(111) (Ni=70%)、およびFe0.3-Ni0.7/スピネル(111) (Ni=70%)基板を用いて、実施例1と同様の条件でCVD法によるh-BN薄膜の合成を行い、生成したh-BNを実施例1と同様にしてSiO2/Si基板上に転写した。なお、Fe0.3-Ni0.7/スピネル(111) (Ni=70%)基板でのCVD反応では、原料のボラジン気化ガスの供給および冷却の際に用いる水素ガスに窒素ガスを25 %混合した。
【実施例】
【0112】
SiO2/Si基板に転写した後のh-BNを光学顕微鏡で解析した結果、h-BN膜が生成していることが確認されたが、(100)面をもつMgOおよびスピネルを用いた場合と比較して、h-BNの生成は少なかった。この結果は、本発明において、基板上に形成した金属薄膜を触媒としたCVD法による窒化ホウ素の生成では、金属触媒の結晶面等の要素に加えて、基板の結晶面に関する要素も相互に関連することにより、目的の六方晶窒化ホウ素薄膜が得られることを示唆していると考えられる。
【実施例】
【0113】
<実施例4>
次に、実施例1で用いたFe0.7-Ni0.3/MgO(100) (Ni=30%)を用い、CVDでの冷却速度を5℃/min、2.5℃/min、1℃/minと変えて、冷却速度とh-BN生成量との関係を調べた。結果を図18に示す。冷却速度が5℃/min(図18(a))の場合と比較して、2.5℃/min(図18(b))と1℃/min(図18(c))ではより広がったh-BN薄膜が観察された。この両者では、1℃/minの方がh-BN薄膜の生成量はより多かった。これらの結果は、CVDでの冷却速度がh-BN生成量に大きな影響を与える要因のひとつであり、冷却速度が遅いほど、より均一で広がったh-BN薄膜の生成につながることを示唆している。
【実施例】
【0114】
<実施例5-1>
実施例1で用いた単結晶基板上に製膜したFe-Ni積層膜(金属触媒)に代えて、以下の組成を有する3種類の金属箔を用いて、CVD法によるh-BN薄膜の合成を行った。
(1)スーパーインバー(Feリッチ)
Fe:Balance(63~65 %)
Ni:31 %
Co:4~6 %
(2)42インバー(Feリッチ)
Fe:Balance(56~57 %)
Ni:約42 %
Co:1~2 %
(3)78パーマロイ(Niリッチ)
Fe:Balance(約16~17 %)
Ni:約78 %
Co:1~2 %
Mo:4 %
【実施例】
【0115】
まず、CVDでの冷却速度を5℃/minとしたこと以外は実施例1と同様の条件で、CVD法によるh-BN薄膜の合成を行った。結果を図19に示す。
図19(a)~(c)の光学顕微鏡像より、いずれの金属箔でもh-BNの生成が確認され、スーパーインバー(図19(a))、42インバー(図19(b))、78パーマロイ(図19(c))の順に、h-BNの生成量が少なくなっており、h-BNの広がりも抑制されている傾向が見られた。
【実施例】
【0116】
次に、CVDでの冷却速度を1℃/minとしたこと以外は実施例1と同様の条件で、CVD法によるh-BN薄膜の合成を行った。結果を図20に示す。
図20(a)~(c)の光学顕微鏡像より、いずれの金属箔でもh-BNの生成が確認された。一方、冷却速度が5℃/minの場合(図19)と比較して、全体的にh-BNの生成の広がりが見られた。特に、スーパーインバーでは金属箔全面に多層h-BN膜が被覆するようになっている。このことは、CVDでの冷却速度がh-BN生成量に影響を与える要因のひとつであり、冷却速度を遅くするとh-BN生成量が増加し、より均一で広がったh-BN薄膜の生成につながることを示唆している。
【実施例】
【0117】
次に、スーパーインバーを用いて、CVDでの合成温度から700℃までの冷却速度を以下の(i)~(iv)の4通りに変えたこと以外は実施例1と同様の条件で、CVD法によるh-BN薄膜の合成を行った。
(i) 5℃/minで700℃まで冷却する
(ii) 1℃/minで700℃まで冷却する
(iii) 0.5℃/minで900℃まで冷却し、5℃/minで700℃まで冷却する
(iv) 0.25℃で1050℃まで冷却し、5℃/minで700℃まで冷却する
図21(a)~(d)の光学顕微鏡像より、合成温度からの冷却速度を5℃/min、1℃/min、0.5℃/min、0.25℃/minと遅くなるにつれてより均一性に優れたh-BN薄膜が観察された。このことは、冷却工程の初期段階における合成温度に近い温度領域での冷却速度が、h-BN生成量の増加、およびより均一で広がったh-BN薄膜の生成につながる可能性を示唆している。特に図21(d)は、h-BNの均一性が非常に向上し、高品質のh-BNが合成できたことを示している。
【実施例】
【0118】
図22は、上記(ii)の条件で合成したh-BNのラマンスペクトルの測定結果である。図22(a)に示すように、h-BN由来のE2gピークが1368-1369 cm-1に確認され、半値幅の値から結晶性が良好であることが分かる。また、h-BNの20 μm四方の領域から無作為に150箇所を選択し、h-BN由来のE2gピークの強度および半値幅(FWHM)を測定した結果、図22(b)に示すように、E2gピークの半値幅の平均値は13 cm-1であり、結晶性の高いh-BNであることが確認された。
【実施例】
【0119】
<実施例5-2>
実施例5-1で用いたスーパーインバーを用いて、CVD合成の温度プロファイルを変更し、h-BN薄膜の合成を行った。具体的には、図1に示すように1100℃まで60分かけて昇温し、その温度で40分保持した後、1150℃まで20分かけて昇温し、その温度で実施例1と同様の手順でCVD反応を30分間行った。その後、5℃/minの速度で700℃まで冷却し、700℃に達した後は管状炉の電源を切り、室温まで冷却した。
【実施例】
【0120】
図23は、SiO2/Si基板に転写した後のh-BNの光学顕微鏡像である。図23(a)および図23(c)は、実施例5-1の(i)の条件で合成したh-BNの高倍率像および低倍率像であり、図23(b)および(d)は、本実施例で合成したh-BNの高倍率像および低倍率像である。図23(a)~(d)より、本実施例で合成したh-BNは、実施例5-1の(i)の条件で生成したh-BNと比較して、h-BNのグレインサイズが拡大しており、核生成点が減少して、h-BNの不均一性も抑制されている傾向が見られた。この結果は、CVDでの反応温度(温度プロファイル)がより高品質なh-BNの生成に影響を与える要因のひとつであることを示唆している。なお、本実施例で合成したh-BNは、SiO2/Si基板への転写前の、CVD反応終了後の金属箔上に生成された状態でも、実施例5-1の(i)の条件で合成したh-BNと比較して、光学顕微鏡像においてh-BNの不均一な析出が抑制されている傾向が見られ、より均一性に優れたh-BN膜であることが確認された。
【実施例】
【0121】
<実施例6>
ところで、図2および図3に関する上記の結果は、ホウ素と窒素がFe中に固溶し、それらが冷却時に析出する際にh-BNが生成され、基板上で薄膜を形成することによるものであると解釈できる。すなわち、Feへのホウ素と窒素の固溶度は十分高いため、比較的厚いh-BN薄膜が形成される。それに対し、Niは窒素の固溶量が少ないため、比較的薄くて密度の低いh-BN薄膜が形成されるものと解釈できる。
【実施例】
【0122】
そこで、上記の仮定を確認するため、図2(d)に示すFe0.3-Ni0.7/MgO(100) (Ni=70%)基板を用いたCVD合成において、合成と冷却中に流す水素10 sccmのうち、半分を窒素ガスで置き換えた。その結果、h-BNの生成量が、水素ガス単独の場合よりも増えた。このことは、Feに比べてNiの窒素固溶量は少なく、それをガス中の窒素ガスが補っているものと推測できる。
【実施例】
【0123】
<実施例7>
次に、CVD法により合成されたh-BN薄膜が、他の原子膜材料の絶縁材料として有効であることを実証するため、Fe0.3-Ni0.7/MgO(100) (Ni=70%)基板を用いて合成したh-BN上とSiO2/Si基板上にCVD法によってWS2原子膜を合成し、その蛍光スペクトルを評価した。なお、WS2原子膜は、WO3と硫黄粉末を原料として用い、独立して温度を制御して昇華させ、基板温度は800℃に加熱して結晶成長させた。図24(a)は、h-BN上に成長したWS2の原子間力顕微鏡像である。WS2が薄く、かつ小さな単結晶として成長していることが、三角形の形状から分かる。
【実施例】
【0124】
同じ条件でSiO2/Si上にもWS2を成長させ、それらの蛍光スペクトルを測定した。測定には、上記のNanofinder30を用い、励起光の波長は同じく532 nmとした。図24(b)が蛍光スペクトルの結果である。h-BN上に成長させたWS2のピーク強度が強く、SiO2上に成長したWS2よりも46倍強いことが分かる。また、h-BN上のWS2のPLの線幅が、72 meVから24 meVまで非常に狭くなっていることが分かる。図25は、図24(b)に示した蛍光スペクトルの半値幅のヒストグラムである。図25(a)および(b)に示すヒストグラムから、h-BN上のWS2のPLの線幅がSiO2上に成長したWS2よりも狭くなっていることが定量的に理解される。このWS2の蛍光の強度の増大とピークの先鋭化は、本実施例で合成したh-BN薄膜が、SiO2基板の表面粗さや電荷不純物、光学フォノンなどの影響を遮蔽できていることを示している。図26は、図25のヒストグラムの情報に、図24(b)の蛍光スペクトルでのピーク位置の情報を加えて得られた散布図である。図26(a)および(b)に示す散布図では、蛍光スペクトルのピーク位置が低エネルギー側にシフトするほど、SiO2基板上の電荷不純物の影響を受けていることを示している。より詳しくは、2.01 eV付近はエキシトンからの蛍光であるが、1.98 eV付近にSiO2表面の負電荷に由来する負のトリオンからの蛍光が混ざってくる。つまり、これらの散布図からも、h-BN上のWS2の方がSiO2基板の電荷不純物の影響を受けにくいことが確認された。これらの結果は、本発明によって製造されるh-BN薄膜は、CVD法による大面積化という利点を有するとともに、種々の原子膜材料の基板材料として優れた特性をもって応用可能であることを示している。
【実施例】
【0125】
<実施例8>
次に、金属箔のスーパーインバーを用いて合成したh-BN上とSiO2/Si上に、CVD法によって製膜した単層グラフェンを転写し、グラフェンの特性をラマンスペクトルにより分析した。なお、単層グラフェンは、サファイア基板上のCu(111)にCVD法によって成膜した後、その表面にポリメタクリル酸メチル(PMMA)溶液をスピンコートし、Cuをエッチングにより除去したものをh-BN上あるいはSiO2/Si上に転写した。
【実施例】
【0126】
図27に示すように、h-BN上のグラフェン(上側のスぺクトル)の2Dバンドの半値幅(26 cm-1)は、SiO2/Si上のグラフェン(下側のスぺクトル)での半値幅(34 cm-1)よりも狭く、h-BNがSiO2からの影響を大幅に低減していることが分かる。また、h-BN上のグラフェンとSiO2/Si上のグラフェンとで、2DバンドとGバンドとの強度比(I2D/I)を比較すると、前者が3.6であり、後者が2.4であることから、h-BN上のグラフェンが、その特性を発揮するのにより理想的な状態であることが理解できる。なお、このh-BN上のグラフェンの2Dバンドの半値幅(26 cm-1)は、バルク単結晶から剥離したh-BN上のグラフェンに関してこれまでに報告された値と同程度であり、本発明のh-BNが剥離によるものと同程度の遮蔽効果を有していることを示している。
【実施例】
【0127】
図28は、h-BN上のグラフェン、およびSiO2/Si上のグラフェンについて、複数の測定点での2Dバンドの半値幅(FWHM)の分布を示すヒストグラムである。SiO2/Si上のグラフェン(図28(a))では、239箇所(N=239)での平均半値幅が34 cm-1であったのに対して、h-BN上のグラフェン(図28(b))では、229箇所(N=229)での平均半値幅が29 cm-1であった。このように、本発明によるCVD法により合成されたh-BN薄膜を用いることにより、グラフェンが本来有する特性をより効率的かつ効果的に発揮され得ることが、複数の測定点において確認された。
【実施例】
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明による六方晶窒化ホウ素薄膜は、大面積に厚さが均一で結晶性が高いという特性を持つため、半導体装置をはじめ、多様な電子デバイスへの利用が可能である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
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【図4A】
3
【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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