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明細書 :心電モニタリングシステム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-202097 (P2019-202097A)
公開日 令和元年11月28日(2019.11.28)
発明の名称または考案の名称 心電モニタリングシステム
国際特許分類 A61B   5/0452      (2006.01)
A61B   5/0456      (2006.01)
A61B   5/02        (2006.01)
FI A61B 5/04 312A
A61B 5/04 312R
A61B 5/02 310A
請求項の数または発明の数 9
出願形態 OL
全頁数 12
出願番号 特願2018-101096 (P2018-101096)
出願日 平成30年5月27日(2018.5.27)
発明者または考案者 【氏名】梅津 信二郎
【氏名】廣瀬 佳代
【氏名】藤枝 俊宣
出願人 【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100114524、【弁理士】、【氏名又は名称】榎本 英俊
審査請求 未請求
テーマコード 4C017
4C127
Fターム 4C017AA09
4C017AA19
4C017AB03
4C017AC26
4C017BC11
4C017BC21
4C017BD01
4C017BD04
4C017CC01
4C017CC08
4C017EE01
4C017EE15
4C017FF05
4C127AA02
4C127AA04
4C127CC02
4C127GG02
4C127GG05
4C127GG16
4C127JJ03
要約 【課題】自動車等の移動体の移動操作を行っている際の被検者の動作等を考慮しながら、当該被検者の心電図波形を長時間に亘って解析することで、心房細動を含む不整脈等の体内異常の日常的な検知をより正確に行うシステムを提供する。
【解決手段】心電モニタリングシステム10は、自動車の運転時に運転者の皮膚が接触する接触部15を通じて心電図波形を含むバイタルデータを取得するバイタルデータ取得手段11と、心電図波形に影響する運転者の運転操作時の身体動作に対応した動作対応データを検出する動作対応データ検出手段12と、バイタルデータ及び動作対応データに基づく所定の処理を行うデータ処理手段13とを備えている。データ処理手段13では、取得時間に対応させた動作対応データ検出手段12での検出結果に基づき、心電図波形に基づく所定の疾患の診断に際して不適切となる心電図波形の部分を除外領域として特定する。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
移動体に乗りながら当該移動体の移動操作を行っている被検者の心電図波形を逐次取得し、当該心電図波形により、前記被検者の健康状態をモニタリングするための心電モニタリングシステムにおいて、
前記移動操作時に前記被検者の皮膚が接触する接触部を通じて前記心電図波形を含むバイタルデータを取得するバイタルデータ取得手段と、前記心電図波形に影響する前記被検者の前記移動操作時の身体動作に対応した動作対応データを検出する動作対応データ検出手段と、前記バイタルデータ及び前記動作対応データに基づく所定の処理を行うデータ処理手段とを備え、
前記データ処理手段では、取得時間に対応させた前記動作対応データ検出手段での検出結果に基づき、前記心電図波形に基づく所定の疾患の診断に際して不適切となる前記心電図波形の部分を除外領域として特定することを特徴とする心電モニタリングシステム。
【請求項2】
前記データ処理手段は、前記除外領域を特定する除外領域特定部と、前記除外領域を除く前記心電図波形の部分から前記疾患の疑いの有無を判定する疾患判定部とを含むことを特徴とする請求項1記載の心電モニタリングシステム。
【請求項3】
前記除外領域特定部では、前記動作対応データの検出結果から、前記被検者の筋電位が前記心電図波形に影響を及ぼすタイミングを特定し、当該タイミングに対応する前記心電図波形の部分を前記除外領域として特定することを特徴とする請求項2記載の心電モニタリングシステム。
【請求項4】
前記動作対応データ検出手段は、前記移動体の速度及び加速度を検出する速度加速度センサを含み、
前記除外領域特定部は、前記速度加速度センサの測定値から、前記除外領域を特定する操作用動作除外機能を含み、
前記操作用動作除外機能では、前記測定値が予め設定された範囲外となるときに、前記身体動作により、前記心電図波形に影響を及ぼす筋電位を発生させたとして、そのタイミングを前記除外領域として特定することを特徴とする請求項2記載の心電モニタリングシステム。
【請求項5】
前記動作対応データ検出手段は、前記接触部への前記被検者の接触力を検出する圧力センサを含み、
前記除外領域特定部は、前記圧力センサの測定値から、前記除外領域を特定する不正常接触除外機能を含み、
前記不正常接触除外機能では、前記測定値が予め設定された範囲外となるときに、前記被検者の前記接触部への接触が、前記心電図波形の正確な取得に影響を及ぼす不正常な状態であるとして、そのタイミングを前記除外領域として特定することを特徴とする請求項2記載の心電モニタリングシステム。
【請求項6】
前記バイタルデータ取得手段は、前記被検者の脈波を計測可能なパルスオキシメータを含み、
前記不正常接触除外機能では、前記パルスオキシメータで計測された前記被検者の脈波が予め設定された正常状態で表れる場合に、前記不正常な接触状態が発生したとして、そのタイミングを前記除外領域として特定することを特徴とする請求項5記載の心電モニタリングシステム。
【請求項7】
前記疾患判定部は、前記心電図波形から前記除外領域をカットした判定用心電図波形を生成する心電図補正機能と、前記判定用心電図波形から、隣り合うR波の経過時間であるRR間隔を求め、当該RR間隔に関する第1の判定を行うRR間隔判定機能と、前記判定用心電図波形の基線の揺れの有無に関する第2の判定を行う基線揺れ判定機能と、これら第1及び第2の判定により心房細動の疑いの有無を判定する総合判定機能とを有することを特徴とする請求項2記載の心電モニタリングシステム。
【請求項8】
前記バイタルデータ取得手段は、前記被検者の脈波を計測可能なパルスオキシメータを含み、
前記RR間隔判定機能では、前記脈波の状態に対応させ、前記除外領域に前記R波が本来存在するか否かを推定し、前記R波が存在すると推定された場合に、前記除外領域を挟む前記RR間隔を不定領域として、前記第1の判定に用いないことを特徴とする請求項7記載の心電モニタリングシステム。
【請求項9】
前記移動体の移動状態を経時的に記録する移動記録手段を更に備え、
前記データ処理手段は、前記移動体の移動時に発生した事故が、当該事故前後における前記心電図波形と前記移動記録手段での記録とから、過失か病気によるものかを判定する事故判定部を更に備えたことを特徴とする請求項1記載の心電モニタリングシステム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、心電モニタリングシステムに係り、更に詳しくは、自動車を運転している運転者等を被検者として心電図波形を長時間に亘ってモニタリングすることで、自覚症状のない心疾患等の早期発見に資する心電モニタリングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
心臓内の血栓が脳内血管に移動して発生する心原性脳梗塞は、脳梗塞全体の3割を占めると言われており、その原因の一つとして、心臓が不規則に拍動する心房細動という一種の不整脈が挙げられる。心房細動と診断された患者は、脳梗塞にならないように抗凝固薬を服用する等の治療がなされるが、自身が心房細動の症状を自覚していない未診断の隠れ心房細動患者も診断患者と同数程度に存在すると言われている。隠れ心房細動患者が診断に至らない理由としては、次の通りである。先ず、第1の理由として、心房細動は、約40%が無症状であることから、隠れ心房細動患者は、必要性を感じずに健康診断を受診しないためである。また、第2の理由として、発作性の心房細動の場合、受診した健康診断時の心電図波形に心房細動が出現せずに正常と判定されてしまうからである。このような発作性の心房細動を発見するには、長時間に亘って正確に心電図を測定する必要がある。また、地方は、公共交通機関が都心ほど充実しておらず車社会であるため、健康を維持するためのウオーキング時間が短く、一日当たりの歩数が少ない等の理由から、脳梗塞を発症するリスクも高くなる。
【0003】
そこで、本発明者らは、地方での車社会に着目し、自動車に乗っている時間が長い運転者のハンドルの接触を通じて、当該運転者の心電図を長時間モニタリングするシステムが、少しでも多くの隠れ心房細動患者を発見できる手段として有用であるとの考えに至った。
【0004】
ところで、特許文献1には、自動車の運転者の両手がハンドルに接触している状態で、運転者の心電図波形を継続的に取得し、眠気、疲労や不整脈の有無等を検知する生体情報検出装置が提案されている。
【0005】
また、特許文献2にも、車両の運転者の心電図波形を計測する車両用心電計測装置が開示されている。この車両用心電計測装置は、車両のシートに取り付けられて被検者の皮膚に接触せずに被検者の身体電位を検出する静電結合型電極と、ハンドル等を通じて被検者の皮膚に直接接触して被検者の身体電位を検出する直接電極とを備えている。この車両用心電計測装置では、静電結合型電極及び直接電極を通じて取得した心電図波形に基づいて、不整脈の有無を判定するようになっている。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2009-45077号公報
【特許文献2】特開2010-46310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献1の生体情報検出装置にあっては、運転者がハンドルを握った状態で自身の心電図波形を測定することから、運転者の腕によるハンドル操作の際等において、取得した心電図波形に、運転者の筋電位の影響によるノイズが乗ってしまい、心房細動の正確な診断が難しくなる。また、運転者がハンドルの把持を緩めた場合等においても、正確な心電図波形が得られず、心房細動等の不整脈の正確な診断が難しくなる。
【0008】
また、前記特許文献2の車両用心電計測装置においても、運転者の心電図を計測する際に、ハンドルに設けられた直接電極が用いられるため、前記特許文献1の装置と同様、ハンドル操作時等の筋電の影響が付加され、不整脈の正確な判定が難しくなる。加えて、この車両用心電計測装置では、車両のシートに取り付けられた静電結合型電極が用いられるが、例えば、被検者のズボンの後ろポケットに収容した携帯電話や服の厚み等によって、取得される心電図波形が変化する場合もある。従って、この点からも、当該車両用心電計測装置では、心房細動等の不整脈の判定を正確に行うことが難しい。
【0009】
本発明は、このような課題を解決するために案出されたものであり、その目的は、自動車等の移動体の移動操作を行っている際の被検者の動作等を考慮しながら、当該被検者の心電図波形を長時間に亘って解析することで、心房細動を含む不整脈等の体内異常の日常的な検知をより正確に行うことができる心電モニタリングシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明は、主として、移動体に乗りながら当該移動体の移動操作を行っている被検者の心電図波形を逐次取得し、当該心電図波形により、前記被検者の健康状態をモニタリングするための心電モニタリングシステムにおいて、前記移動操作時に前記被検者の皮膚が接触する接触部を通じて前記心電図波形を含むバイタルデータを取得するバイタルデータ取得手段と、前記心電図波形に影響する前記被検者の前記移動操作時の身体動作に対応した動作対応データを検出する動作対応データ検出手段と、前記バイタルデータ及び前記動作対応データに基づく所定の処理を行うデータ処理手段とを備え、前記データ処理手段では、取得時間に対応させた前記動作対応データ検出手段での検出結果に基づき、前記心電図波形に基づく所定の疾患の診断に際して不適切となる前記心電図波形の部分を除外領域として特定する、という構成を採っている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、自動車等の運転時に被検者の両手が接触するハンドル等に接触部を設けることで、心電図の電極を意識的に被検者が装着する手間を省き、被検者の心電図を長時間に亘って無理なく計測することができる。しかも、前記データ処理手段では、取得した心電図波形に影響する被検者のハンドル操作等の身体動作に対応した動作対応データから、心電図波形に基づく疾患の有無の判断に不適切となる心電図波形の除外領域が特定される。従って、心電図波形に影響する前記身体動作による筋電位等が発生しても、前記除外領域を除く心電図波形の部分を用いることで、疾患の有無に関する判定精度をより高めることができ、心房細動を含む不整脈等の体内異常の日常的な検知をより正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態に係る心電モニタリングシステムの概念図である。
【図2】前記心電モニタリングシステムの構成を表すブロック図である。
【図3】(A)は、健常者の心電図波形の一例を表す図であり、(B)は、心房細動患者の心電図波形の一例を表す図である。
【図4】RR間隔の部分を不定とする処理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。

【0014】
図1には、本実施形態に係る心電モニタリングシステムの概念図が示されている。この図において、前記心電モニタリングシステム10は、移動体としての自動車Cの運転を行っている運転者(図示省略)を被検者として、運転者の心電図波形を含むバイタルデータ等の各種データを自動車C内で逐次取得し、運転者の健康状態を日常的にモニタリングするためのシステムである。

【0015】
すなわち、本実施形態では、自動車C内で逐次取得したバイタルデータ等の後述する各種データがスマートフォン等の通信手段Mを通じて、自動車Cとは別の固定基地局となるデータ処理センタP1に送信される。そして、データ処理センタP1において、後述する適正化処理が施された心電図波形から心房細動の疑いの有無を判定し、当該判定結果が、病院等の診断拠点P2や運転者に対し、それぞれ所有する端末を通じて通信により伝達される。

【0016】
この心電モニタリングシステム10は、図2にも示されるように、自動車C内に設けられて運転者の心電図波形を含むバイタルデータを逐次取得するバイタルデータ取得手段11と、自動車C内に設けられるとともに、取得した心電図波形に影響する運転操作時の運転者の身体動作に対応した動作対応データを検出する動作対応データ検出手段12と、データ処理センタP1に設けられるとともに、バイタルデータ及び動作対応データに基づき、心電図波形を処理した上で心房細動の疑いの有無を判定するデータ処理手段13とを備えている。

【0017】
前記バイタルデータ取得手段11は、運転時に運転者の皮膚が接触する接触部15と、接触部15に繋がる心電計16及びパルスオキシメータ17とにより構成される。

【0018】
前記接触部15は、自動車CのハンドルH(図1参照)の左右両側に設けられた一対の電極からなる。これら電極は、特に限定されるものではないが、フィルム若しくはシート状をなし、運転時に運転者が両手で把持するハンドルHの左右両側の領域に、相互に非接続となるように貼付されている。運転者は、左右両手の皮膚(素手)でこれら各電極に直接接触することで、心電計16及びパルスオキシメータ17による後述の各種バイタルデータを取得可能になる。

【0019】
前記心電計16は、電極として機能する接触部15への運転者の皮膚の接触を通じて心電図を計測可能となる公知の機器が用いられている。ここで得られる心電図波形は、左右両手のみから計測されるI誘導波形となる。

【0020】
前記パルスオキシメータ17は、脈波、脈拍数、酸素飽和度等を逐次取得可能となる公知の機器が用いられている。

【0021】
なお、以上の心電計16及びパルスオキシメータ17の詳細構造については、本発明の本質部分ではないため、具体的な説明は省略する。また、本発明において、心電計16及びパルスオキシメータ17としては、前述した各種バイタルデータを取得できる限りにおいて、種々の機器を適用することができる。

【0022】
前記動作対応データ検出手段12は、図2に示されるように、自動車Cの速度及び加速度を検出する速度加速度センサ19と、ハンドルH(図1参照)に対する運転者の接触力すなわち把持力を検出する圧力センサ20とからなる。これら速度、加速度及び把持力の時系列データは、取得した心電図波形に影響する運転者の運転操作時の身体動作に対応した動作対応データとなる。

【0023】
前記速度加速度センサ19は、特に限定されるものではないが、自動車Cのダッシュボード等の所定位置に固定されたスマートフォンM(図1参照)に搭載されたセンサが用いられる。なお、本発明において、速度加速度センサ19は、スマートフォンMに搭載されたセンサの利用に限定されるものではなく、走行している自動車Cの速度及び加速度を計測可能な限りにおいて、種々の機器やシステムを利用することができる。

【0024】
前記圧力センサ20は、ハンドルH(図1参照)の左右両側に設けられた接触部15にそれぞれ配置されており、接触部15に対する運転者の接触力、すなわちハンドルHの把持力を左右それぞれで計測可能となっている。

【0025】
なお、以上の各センサ19,20の詳細構造については、本発明の本質部分ではないため、具体的な説明は省略する。

【0026】
以上のように取得されたバイタルデータ及び動作対応データは、同一の取得時間で紐付けされた上で、スマートフォンMの無線通信機能を利用した無線通信により、データ処理手段13に送信される。

【0027】
前記データ処理手段13は、自動車Cとは別の前記データ処理センタP1に設けられたサーバにより構成されており、プロセッサ等、複数のプログラムモジュール及び/又は処理回路より成り立っている。

【0028】
このデータ処理手段13は、自動車Cから送信されたバイタルデータ及び動作対応データを受信する受信部22と、受信部22で受信した各データを処理して所定の解析を行うデータ解析部23と、前記各データの少なくとも一部のデータとデータ解析部23での解析結果を診断拠点P2等の所定の場所に送信する送信部24とを備えている。

【0029】
前記データ解析部23は、取得時間に対応させたバイタルデータ取得手段11及び動作対応データ検出手段12での検出結果に基づき、長時間に亘って取得した運転者の心電図波形の中から、心房細動の診断に際して不適切となる心電図波形の部分を除外領域として特定する除外領域特定部26と、除外領域を除く心電図波形の部分から心房細動の疑いの有無を判定する疾患判定部27とを備えている。

【0030】
ところで、運転者の運転中に取得される心電図波形は、ハンドル操作等、運転者の腕の動き等による筋電位が乗っている部分が含まれ、当該部分の存在は、心房細動の診断を行う際の阻害要素となる。また、例えば、運転者が、運転中に一時的に片手若しくは両手を接触部15から離したときや、接触部15に対する把持を緩めたときのような不正常な接触状態が生じると、正確な心電図波形が得られなくなり、これらについても心房細動の診断を行う際の阻害要素となる。

【0031】
従って、前記除外領域特定部26では、動作対応データの検出結果から、運転中に運転者の腕等に力の入る身体動作がなされた運転操作時のタイミングや、運転者の両手の接触部15の不正常な接触時のタイミングを検出し、当該各タイミングに対応する心電図波形の部分を除外領域として特定する。

【0032】
具体的に、前記除外領域特定部26は、速度加速度センサ19での測定値から、前記運転操作時のタイミングにおける前記除外領域を特定する操作用動作除外機能29と、パルスオキシメータ17及び圧力センサ20の測定値から、前記不正常な接触時のタイミングにおける前記除外領域を特定する不正常接触除外機能30とを有する。

【0033】
例えば、運転者の緊張状態が高まって肩に力が入り易くなる自動車の高速走行時や、コーナリングの際等のハンドル操作時には、取得される心電図波形に影響を及ぼす筋電位が発生する。

【0034】
そこで、前記操作用動作除外機能29では、取得した心電図波形の中から、次のようにして、心房細動の判定の際に無視できない筋電位が発生している除外領域が特定される。すなわち、ここでは、検出した自動車の速度が予め設定された速度の上限値を超えた場合に、取得される心電図波形に影響を及ぼす筋電位が発生する身体動作を伴う高速走行時とされ、この時間に対応する心電図波形の部分が前記運転操作時のタイミングでの前記除外領域として特定される。また、ここでは、検出した自動車の加速度が、予め設定された加速度の絶対値における所定範囲から外れた場合、アクセルやブレーキの踏込み等の動作による急加速や急減速や、減速を伴うコーナリング等のハンドル操作がなされ、取得される心電図波形に影響を及ぼす筋電位が発生する身体動作が行われていると推定される。これらの場合も同様に、対応する心電図波形の部分が前記除外領域として特定される。

【0035】
また、運転者が接触部15への接触を緩めた場合には、取得される心電図波形にノイズが乗り易くなる一方、運転者がハンドルを強く把持する等、接触部15への接触を強めた場合には、取得される心電図波形に筋電位が乗り易くなり、これらの場合も取得される心電図波形に影響を及ぼす。更に、運転者の少なくとも一方の手が接触部15から離れた場合、心電図波形がフラットな波形として表れるが、このフラットな波形の出現は、心停止や洞不全症候群等の心疾患の場合もあり得ることから、これら場合の何れかを推定し、前者の場合のみ、疾患の診断を阻害する除外領域とする必要がある。

【0036】
そこで、前記不正常接触除外機能30では、取得した心電図波形の中から、次のようにして、不正常な接触時のタイミングにおける除外領域が特定される。すなわち、この不正常接触除外機能30では、検出した左右両側の接触部15の少なくとも一方の接触力が、予め設定された範囲外になった場合に、運転者のハンドルHの把持を緩めたり、ハンドルHから手を外したり、また、ハンドルHを強く握り過ぎていると推定される。更に、この場合に加え、パルスオキシメータ17で計測された運転者の脈波を時間対応させ、当該脈波が予め設定された正常範囲で表れる場合に、心停止や洞不全症候群等の心疾患が発生しておらず、単に運転者のハンドルHの把持状態が不正常として、この際の時間に対応する心電図波形の部分が不正常な接触時のタイミングにおける除外領域として特定される。

【0037】
前記疾患判定部27では、心電計16で取得された心電図波形から、除外領域特定部26で特定された除外領域をカットした判定用心電図波形を生成する適正化処理を行った上で、判定用心電図波形を用いて心房細動の疑いの有無が判定される。

【0038】
ここでは、健常者と心房細動患者の各心電図波形における次の特徴に基づいて、心房細動の疑いの有無の判定が行われる。

【0039】
すなわち、図3(A)に示されるように、健常者の心電図波形は、1周期中において、P波、Q波、R波、S波、T波の各成分が含まれており、T波の終了時から次周期におけるP波の開始時までの部分が直線状の基線Lとして表れるようになっている。

【0040】
一方、心房細動患者の心電図波形は、例えば、図3(B)に示されるように、各周期間におけるR波の間隔D(RR間隔)が一定でなく不規則で、健常者において表れる直線状の基線Lが細かく振動するいわゆる基線の揺れが見られる等の特徴がある。

【0041】
前記疾患判定部27は、前記判定用心電図波形を生成する心電図補正機能32と、判定用心電図波形から、隣り合うR波の経過時間であるRR間隔Dを求め、当該RR間隔Dに関する第1の判定を行うRR間隔判定機能34と、判定用心電図波形における基線の揺れの有無に関する第2の判定を行う基線揺れ判定機能35と、第1及び第2の判定により心房細動の疑いの有無を判定する総合判定機能36とを有する。

【0042】
前記RR間隔判定機能34では、過去の所定周期分の判定用心電図波形から、RR間隔Dをそれぞれ求め、得られたRR間隔Dについてのばらつきが、予め設定された範囲内に無い場合に、RR間隔Dが一定でないとされ、そうでない場合には、RR間隔Dが一定とされる。例えば、RR間隔Dの変動率が10%以上のときに、RR間隔Dが一定でないとされる。

【0043】
また、RR間隔判定機能34では、図4に示されるように、判定用心電図波形で隣り合うR波の間に前記除外領域(同図中破線部分)がある場合に、次の点をも考慮してRR間隔Dについての判定がなされる。例えば、前述した通り、ハンドルHから片手を一時的に離した時間帯は、前記除外領域として、心電計16から得られた心電図波形からカットされる。このカットされた除外領域の時間帯において、運転者の心電図波形が正確に計測されていたとすると、その部分にR波(同図中破線の山)が出現している可能性がある。そこで、先ず、更に1周期前のRR間隔Dと同一の間隔の時間が、前記除外領域の時間帯に含まれる場合、当該時間帯にR波が存在すると推定する。そして、パルスオキシメータ17で脈波が取得されていれば、当該脈波について、除外領域の時間帯に対応する部分に山部分が出現している場合に、当該時間帯に実際にR波が存在する可能性が高いとされる。そこで、このような場合に、判定用心電図波形でRR間隔Dを求めると、同図中1点鎖線で示されるように、実際に発生しているR波が飛ばされ、RR間隔Dがその前後に対して一定でないと判定されてしまう。このため、当該場合においては、除外領域の時間帯を挟むRR間隔Dの同図中1点鎖線の部分は不定とされ、この部分は、RR間隔Dについての前述の判定に利用されない。

【0044】
前記基線揺れ判定機能35では、図3(A),(B)に示されるような基線の状態の差を医学的見地に基づき自動的に導出することで、基線の揺れ有無を判定するようになっている。例えば、隣り合うR波の間となるRR間で、R波の高さの2%以上の高さの揺らぎが予め設定した複数回数(例えば3回)以上表れた場合に、基線の揺らぎが発生していると判定される。

【0045】
前記総合判定機能36では、RR間隔判定機能34でRR間隔が一定でないと判定され、且つ、基線揺れ判定機能35で基線の揺れが有ると判定された場合に、心房細動の疑いが「有」と判定され、それ以外の場合には、心房細動の疑いが「無」と判定される。

【0046】
前記送信部24では、疾患判定部27での判定結果と、前記除外領域に関する情報を含む心電図波形等のバイタルデータ等の情報とを病院等の診断拠点P2に送信し、医師の遠隔診断等に利用される。医師は、電子メール等を通じて診断結果を運転者に連絡することが可能となる。また、送信部24では、疾患判定部27で心房細動の疑い「有」と判定されたときに、運転者に対して、例えば、「病院で精密検査を受診して下さい」という旨の電子メール等を自動的に送信することもできる。

【0047】
医療現場では、心房細動を診断する場合、両手の他に、脚若しくは下腹部や腰に電極を設置して計測するII誘導心電図が最も有用とされているが、本実施形態では、運転者がハンドルHを握る両手の電極のみを通じたI誘導心電図が得られる。本実施形態では、データ解析部23において、取得した心電図波形の中から、測定に適したタイミングの心電図波形が抽出されることになるため、I誘導心電図での心房細動の判定精度を高めることができる。

【0048】
また、自動車Cを運転しながら運転者の心電図波形を長時間に亘ってモニタリングしながら、心房細動の判定に有用となる心電図の部分を抽出することにより、心房細動の疑いを正確に判定することができ、定期健診で発見できない発作性心房細動等の早期発見に有用となる。

【0049】
なお、前記データ解析部23は、自動車の走行中に発生した事故が、当該事故前後における自動車Cの移動状態を経時的に記録するドライブレコーダ(移動記録手段)からの記録データと心電図波形とから、過失か病気によるものかを判定する事故判定部を更に備えることもできる。すなわち、自動車Cの運転中に致死性の不整脈が発生する可能性があり、この事故判定部では、運転中の事故が過失か病気によるものかを判定することができる。具体的に、当該事故判定部では、致死性不整脈が発生し運転者の意識が無くなって、交通事故が発生したのか、或いは、ハンドルHの操作ミス等による過失による衝突事故に起因する心室細動(R on T波形の出現)が発生しているのかが判定される。従って、この変形例によれば、ハンドルやアクセル等の誤操作等と、致死性不整脈のどちらが先に発生したかを判定することができ、交通事故の原因や責任所在の証明に有用となる。

【0050】
また、前記実施形態では、データ処理手段13を自動車Cとは別のデータ処理センタP1に設けられたサーバにより構成した場合を説明したが、本発明はこれに限らず、自動車Cの車内に設けられたコンピュータをデータ処理手段13として機能させることもできる。

【0051】
更に、心電モニタリングシステム10としては、データ解析部23での判定アルゴリズムを変えることで、除外領域特定部26で特定された除外領域をカットした判定用心電図波形から、前記心房細動の他に、心房粗動、発作性上室性頻拍症、重心房室ブロック、洞不全症候群等の他の心疾患の疑いの有無について判定するシステムとしても構成できる。

【0052】
また、運転者の血糖値や血圧に関するデータを逐次取得することで、糖尿病等の様々な疾患の日常的なモニタリングの適用も可能である。

【0053】
更に、前記実施形態では、自動車Cを運転する運転者の心電図波形等をモニタリングするシステムとしているが、本発明はこれに限らず、航空機や船舶等の他の移動体に乗りながら当該移動体の移動操作を行う被検者の健康状態をモニタリングするシステムとしても構成可能である。

【0054】
その他、本発明における装置各部の構成は図示構成例に限定されるものではなく、実質的に同様の作用を奏する限りにおいて、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0055】
10 心電モニタリングシステム
11 バイタルデータ取得手段
12 動作対応データ検出手段
13 データ処理手段
15 接触部
17 パルスオキシメータ
19 速度加速度センサ
20 圧力センサ
26 除外領域特定部
27 疾患判定部
29 操作用動作除外機能
30 不正常接触除外機能
32 心電図補正機能
34 RR間隔判定機能
36 総合判定機能
C 自動車(移動体)
D RR間隔
L 基線
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3