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明細書 :骨成長の促進特性を有する生体埋植材及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-201688 (P2019-201688A)
公開日 令和元年11月28日(2019.11.28)
発明の名称または考案の名称 骨成長の促進特性を有する生体埋植材及びその製造方法
国際特許分類 A61C   8/00        (2006.01)
A61F   2/30        (2006.01)
A61F   2/44        (2006.01)
A61B  17/58        (2006.01)
FI A61C 8/00 Z
A61F 2/30
A61F 2/44
A61B 17/58
請求項の数または発明の数 11
出願形態 OL
全頁数 13
出願番号 特願2018-096756 (P2018-096756)
出願日 平成30年5月21日(2018.5.21)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用申請有り 1.発行者名:MATERIALS RESEACH SOCIETY(頒布日:平成29年11月26日) 2.集会名:Materials Research Society 2017 Fall Meeting & Exhibit(発表日:平成29年11月27日)
発明者または考案者 【氏名】塩澤 茉由子
【氏名】桑江 博之
【氏名】水野 潤
【氏名】魚島 勝美
【氏名】秋葉 陽介
出願人 【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100080089、【弁理士】、【氏名又は名称】牛木 護
【識別番号】100161665、【弁理士】、【氏名又は名称】高橋 知之
【識別番号】100178445、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 淳二
【識別番号】100121153、【弁理士】、【氏名又は名称】守屋 嘉高
【識別番号】100188994、【弁理士】、【氏名又は名称】加藤 裕介
【識別番号】100194892、【弁理士】、【氏名又は名称】齋藤 麻美
【識別番号】100207653、【弁理士】、【氏名又は名称】中村 聡
審査請求 未請求
テーマコード 4C097
4C159
4C160
Fターム 4C097AA03
4C097AA10
4C097BB01
4C097CC03
4C097DD06
4C097DD10
4C097MM01
4C159AA26
4C159AA27
4C159AA29
4C159AA30
4C160LL42
要約 【課題】
生体に埋植後、細胞増殖性及びオッセオインテグレーションが向上した生体埋植材を安定して提供するための製造方法、及び、該生体埋植材を提供することを課題とする。
【解決手段】
本発明者らは、鋭意研究し、チタン又はチタン合金の表面にナノメートルオーターの微細構造を精密に形成する方法を確立し、該微細構造を有する生体埋植材を製造することに成功した。その結果、体液流によって細胞が流されることなく生体埋植材表面で、再現性よく、細胞増殖性と早期のオッセオインテグレーション成立をもたらすことが可能であることを見出し、本発明を完成させた。また、前記微細構造の凹面を粗面とすることで、さらなる細胞増殖性と早期オッセオインテグレーション成立をもたらすことを見出した。
【選択図】図4
特許請求の範囲 【請求項1】
基材の外表面に金属からなる被覆層を有する生体埋植材の製造方法であって、
前記被覆層は、ナノメートルオーダーの周期的微細構造パターンを有し、
a. 基板上にイオンビームスパッタ法により基材層を成膜する工程、
b. 前記基材層上にエッチングマスクとして、紫外線硬化性樹脂を塗布し、紫外線硬化性樹脂層を形成する工程、
c. 紫外線ナノインプリト(UV-NIL)法により前記紫外線硬化性樹脂層に、レジストパターンを形成する工程、
d. 反応性イオンエッチング(RIE)法により前記レジストパターンに基づいたパターンを有する周期的微細構造パターンを前記基材層に形成する工程、
e. アッシングによりレジストパターンを除去する工程、及び、
f. 前記周期的微細構造パターンが形成された基材層上に、金属を含む被覆層を成膜する工程、
を含むことを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
前記周期的微細構造パターンが凹構造を有し、該凹構造の該表面が粗面を有する生体埋植材の製造方法であって、
前記工程fが、
f. 前記周期的微細構造パターンが形成された基材層上に、結晶粒度1~20 nmの金属を含む被覆層を成膜し、前記周期的微細構造の微細凹面表面に粗面を形成する工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記金属は、チタン若しくは酸化チタン又はそれらと他の金属との合金であり、結晶粒度が1~20 nmの範囲であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記基材層の材質が、チタン、チタン合金、パターン形成容易な金属、二酸化ケイ素(SiO2)、又はセラミックから選択されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記金属からなる被覆層の成膜方法が、イオンビームスパッタ法(IBS)又は 電子ビーム(EB)蒸着法から選択されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
基材の外表面に金属からなる被覆層を有し、前記被覆層は、ナノメートルオーダーの周期的な微細凹面構造を有し、該微細凹面構造の凹面の表面が粗面であることを特徴とする、生体埋植材。
【請求項7】
前記周期的微細構造が、平行線状(ライン&スペース形状)、格子状、メッシュ状、ハニカム状、ドット状及び/又はホール状に加工された周期的微細凹状構造であることを特徴とする、請求項6に記載の生体埋植材。
【請求項8】
前記周期的微細凹状構造は、幅が10~1000 nm、深さが10~1000 nm、ピッチが20~2000 nmの範囲から各々選択されることを特徴とする、請求項6又は7に記載の生体埋植材。
【請求項9】
前記金属は、チタン若しくは酸化チタン又はそれらと他の金属との合金から選択されることを特徴とする、請求項6~8のいずれか1項に記載の生体埋植材。
【請求項10】
前記基材層の材質が、チタン、チタン合金、パターン形成容易な金属、二酸化ケイ素(SiO2)、又はセラミックから選択されることを特徴とする、請求項6~9のいずれか1項に記載の生体埋植材。
【請求項11】
前記生体埋植材が、歯科用インプラント、顎骨インプラント、骨の補修及び安定化用のスクリュー、ピン及びプレート、脊椎インプラント、大腿骨インプラント、頸骨インプラント、膝関節インプラント、手関節インプラント、関節インプラント、(耳及び鼻インプラントなどの)顎顔面インプラント、傷害及び疾患により生じた症状のための四肢プロテーゼ、並びにそれらの組み合わせからなる群から選択されることを特徴とする、請求項6~10のいずれか1項に記載の生体埋植材。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、骨成長の促進特性を有する生体埋植材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科及び整形外科等の領域で、傷害を有する骨及び歯等の治療にインプラントをはじめとした各種の生体埋植材が使用されている。これらの生体埋植材は、生体に埋植後、その表面にコラーゲン等の細胞外マトリクス成分が結合する。その後、オステオポンチン等の細胞接着成分が結合し、そこに骨芽細胞が接着し分化増殖し、骨化し最終的にヒドロキシアパタイトとして蓄積することによって、生体組織との結合を形成すると考えられている(非特許文献1、2)。
【0003】
しかし、生体埋植材を傷害部位等に埋植し、埋植された生体埋植材が生体組織と結合するまで数十日~数か月を要するため、患者のQOLの向上のためには可及的に短期間で骨形成細胞が接着し分化増殖を経て生体組織と結合することが好ましい。
【0004】
また、骨と結合するとしても、その結合力は生体埋植材の材質、表面特性、患者の状態及び術者の技術によって相違する。そこで、より生体組織とより強い骨結合力を安定して形成可能な生体埋植材が望まれている。このような生体組織との骨結合性を表す概念が、オッセオインテグレーションとして表される。
【0005】
チタン又はチタン合金は、生体に対する安全性が高く、かつ、オッセオインテグレーションをもたらすため、生体埋植材の材料として汎用されている(非特許文献1、2)。また、このチタン又はチタン合金の表面をマイクロメートルオーダーとナノメートルオーダーの幅の周期溝を形成して粗面とすることにより、培養細胞を効率的に増殖できる(特許文献1)。
【0006】
一方、埋植材の表面にマイクロメートルオーダーとナノメートルオーダーの幅の微細周期溝を形成すると、平坦な(plane)平面よりも細胞接着は低下するものの、マイクロメートルオーダーの幅の周期溝の方が、ナノメートルオーダーの幅の溝と比較して、より多くの細胞が溝に沿って配列して増殖することが知られている(非特許文献3)。
【0007】
しかし、再現性良く安定した細胞増殖と、早期のオッセオインテグレーション成立をもたらす生体埋植材の表面加工法は確立されていなかった。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特開2017-055761号公報
【0009】

【非特許文献1】井上孝ら、表面技術 49:682-689(1998)
【非特許文献2】吉成正雄、歯科学報 103:313-319(2003)
【非特許文献3】Akasaka T., et al., e-J.Surf.Sci.Nanotech. 15:1-6(2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、生体に埋植後、細胞増殖性及び早期のオッセオインテグレーション成立をもたらす生体埋植材を再現性良く安定して提供するための製造方法、及び、該生体埋植材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究し、チタン又はチタン合金の表面にナノメートルオーダーの微細構造を精密に形成する方法を確立し、該微細構造を有する生体埋植材を製造することに成功した。その結果、体液流によって細胞が流されることなく生体埋植材表面で、再現性よく、細胞増殖性とオッセオインテグレーションの向上をもたらすことが可能であることを見出し、本発明を完成させた。また、前記微細構造の凹面を粗面とすることで、さらなる細胞増殖性とオッセオインテグレーションの向上をもたらすことを見出した。
【0012】
より具体的には、本発明は、基材の外表面に金属からなる被覆層を有し、前記被覆層は、ナノメートルオーダーの周期的微細構造パターンを有する生体埋植材の製造方法であって、
a. 基板にイオンビームスパッタ法により基材層を成膜する工程、
b. 前記基材層上にエッチングマスクとして、紫外線硬化性樹脂を塗布し、紫外線硬化性樹脂層を形成する工程、
c. 紫外線ナノインプリント(UV-NIL)法により前記紫外線硬化性樹脂層に、レジストパターンを形成する工程、
d. 反応性イオンエッチング(RIE)法により前記レジストパターンに基づいたパターンを有する周期的微細構造パターンを前記基材層に形成する工程、及び、
e. アッシングによりレジストパターンを除去する工程、
f. 前記周期的微細構造パターンが形成された基材層上に、金属を含む被覆層を成膜する工程、
を含む製造方法を提供する。
【0013】
本発明の製造方法において、前記周期的微細構造パターンが凹構造を有し、該凹構造の該表面が粗面を有する生体埋植材の製造方法であって、
前記工程fが、
f. 前記周期的微細構造パターンが形成された基材層上に、結晶粒度1~20 nmの金属を含む被覆層を成膜し、前記周期的微細構造の微細凹面表面に粗面を形成する工程を含む場合がある。
【0014】
本発明の製造方法において、前記金属は、チタン若しくは酸化チタン又はそれらと他の金属との合金であり、結晶粒度が1~20 nmの範囲である場合がある。
【0015】
本発明の製造方法において、前記基材層の材質が、チタン、チタン合金、パターン形成容易な金属、二酸化ケイ素(SiO2)、又はセラミックから選択される場合がある。
【0016】
本発明の製造方法において、前記金属からなる被覆層の成膜方法が、イオンビームスパッタ法(IBS)又は電子ビーム(EB)蒸着法から選択される場合がある。
【0017】
また、本発明は、基材の外表面に金属からなる被覆層を有し、前記被覆層は、ナノメートルオーダーの周期的な微細凹状構造を有し、該微細凹状構造の凹面表面が粗面である生体埋植材を提供する。
【0018】
本発明の生体埋植材において、前記周期的微細構造が、平行線状(ライン&スペース形状)、格子状、メッシュ状、ハニカム状、ドット状及び/又はホール状に加工された周期的微細凹状構造である場合がある。
【0019】
本発明の生体埋植材において、前記周期的微細凹状構造は、幅が10~1000 nm、深さが10~1000 nm、ピッチが20~2000 nmの範囲から各々選択される場合がある。
【0020】
本発明の生体埋植材において、前記金属は、チタン若しくは酸化チタン又はそれらと他の金属との合金から選択される場合がある。
【0021】
本発明の生体埋植材において、前記基材層の材質が、チタン、チタン合金、パターン形成容易な金属、二酸化ケイ素(SiO2)、又はセラミックから選択される場合がある。
【0022】
本発明の生体埋植材が、歯科用インプラント、顎骨インプラント、骨の補修及び安定化用のスクリュー、ピン及びプレート、脊椎インプラント、大腿骨インプラント、頸骨インプラント、膝関節インプラント、手関節インプラント、関節インプラント、(耳及び鼻インプラントなどの)顎顔面インプラント、傷害及び疾患により生じた症状のための四肢プロテーゼ、並びにそれらの組み合わせからなる群から選択される場合がある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の骨成長の促進特性を有する生体埋植材の製造方法の概略図。
【図2】作製した結晶粒を有しない基板の鳥観図。
【図3】作製した結晶粒を有する基板の鳥観図。
【図4】培養した骨髄間質細胞(BMSC)の蛍光顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0024】
1.生体埋植材の製造方法
本発明の実施形態の1つは、生体に埋植後、細胞増殖性及びオッセオインテグレーションが向上した生体埋植材を安定して提供するための製造方法である。

【0025】
本明細書において、「オッセオインテグレーション(Osseointegration)」とは、チタンと骨が光学顕微鏡のレベルで直接的に一体化した状態のことをいう。

【0026】
換言すると「オッセオインテグレーション」は、生体埋植材が、生体内に埋植後、より強固な骨結合を形成することを表す指標を意味する。例えば、チタン製の生体埋植材を生体内に埋植した場合、生体反応によってオッセオインテグレーションが形成されると考えられている。

【0027】
本発明をより詳細に説明すると、本発明は、基材の外表面に金属からなる被覆層を有し、前記被覆層は、ナノメートルオーダーの周期的微細構造パターンを有する生体埋植材の製造方法であって、
a. 基板にイオンビームスパッタ法により基材層を成膜する工程、
b. 前記基材層上にエッチングマスクとして、紫外線硬化性樹脂を塗布し、紫外線硬化性樹脂層を形成する工程、
c. 紫外線ナノインプリト(UV-NIL)法により前記紫外線硬化性樹脂層に、レジストパターンを形成する工程、
d. 反応性イオンエッチング(RIE)法により前記レジストパターンに基づいたパターンを有する周期的微細構造パターンを前記基材層に形成する工程、及び、
e. アッシングによりレジストパターンを除去する工程、
f. 前記周期的微細構造パターンが形成された基材層上に、金属を含む被覆層を成膜する工程、
を含む製造方法である。

【0028】
本発明の製造方法において、前記周期的微細構造パターンが凹構造を有し、該凹構造の該表面が粗面を有する生体埋植材の製造方法であって、
前記工程fが、
f. 前記周期的微細構造パターンが形成された基材層上に、結晶粒度1~20 nmの金属を含む被覆層を成膜し、前記周期的微細構造の微細凹面表面に粗面を形成する工程を含むことができる。

【0029】
また、本発明の製造方法において、前記金属は、例えば、チタン若しくは酸化チタン又はそれらと他の金属との合金であり、結晶粒度が、0.5~30 nmの範囲であり、好ましくは1~20 nmの範囲であり、より好ましくは生体タンパク質が認識できる範囲と考えられる約20 nmである。

【0030】
このとき、周期的微細構造の微細凹面表面に粗面を形成する工程は、溝構造全面で均一に結晶粒を付着させるために、成膜する際にTi源からのTiの直進性を下げることにより被覆性を向上させることができる。

【0031】
また、Tiの粒子の付着性と膜厚との関係は、弱い正の相関関係があるため、結晶粒を保持するためには膜厚は一定程度厚くする方が好ましい。そこで、上記工程において、Tiの結晶粒と膜厚の関係を考慮した上で膜厚を決定することが好ましい。

【0032】
本発明の製造方法は、前記基材層の材質が、例えば、チタン、チタン合金、パターン形成容易な金属、二酸化ケイ素(SiO2)、又はセラミックから選択される。

【0033】
本発明の製造方法は、前記金属からなる被覆層の成膜方法が、例えば、当業者に周知技術であるイオンビームスパッタ法(IBS)又は電子ビーム(EB)蒸着法から選択することができる。

【0034】
2.生体埋植材
本発明のもう1つの実施形態は、生体埋植材である。特に、該生体埋植材は、基材の外表面に金属からなる被覆層を有し、前記被覆層は、ナノメートルオーダーの周期的微細構造を有する。本生体埋植材は、ナノメートルオーダーの周期的微細構造を有していない生体埋植材と比較して、より早期にオッセオインテグレーション成立をもたらす。

【0035】
オッセオインテグレーションのメカニズムを説明すると、チタン製生体埋植材のオッセオインテグレーションは、骨とチタンとが直接的に結合しているのではなく、界面での中間層の形成により行われていることが明らかとなっている。チタンインプラント埋植初期には,幼若な骨芽細胞から産生されたオステオカルシン(oc)やオステオポンチン(op)が、Ca2+やこれらタンパク質のターミナルOH基を介してチタンに吸着する。一方、これらの骨性タンパク質は骨芽細胞の遊走性を高め、骨芽細胞のインテグリンと結合する。すなわち、Ti-TiO2-TiOH-Ca-Oc、Op(骨性タンパク)-Osteoblast(骨芽細胞)-Oc、Op-コラーゲン繊維-骨(Bone)の層構造になる。この構造は、時間の経過とともに、Ti-TiO2-(TiOH)-プロテオグリカン(タンパク多糖複合体)-osteoid類骨;石灰化前の骨組織)-骨の構造となり、オッセオインテグレーションが獲得されると考えられている(非特許文献2)。

【0036】
このようにTiインプラント材は、電子顕微鏡による観察では界面に無定型構造物を形成して接合が行われるため骨と直接結合しているわけでない。インプラントと骨間に結合組織が介在できないほど緊密であればオッセオインテグレーションが維持されるが、細菌感染や加重負担などの悪条件が重なり、インプラントと骨のギャップが大きくなれば、上皮の侵入を許してオッセオインテグレーションが失われる危険性がある(非特許文献2)。

【0037】
一方、Ti材は、分子状酸素を活性酸素に変換し、この活性酸素によって抗菌活性を発揮することがよく知られている。したがって、生体埋植材としてTiを含む金属を使用することは、細菌感染を予防できるとの特性を併せて有する。

【0038】
また、生体埋植材を生体内に埋植後、骨芽細胞が接着する際に、生体埋植材に接触した細胞が、配列して接着及び/又は増殖すると、より強固な骨結合を形成することが知られている(Kuroshima S., et al., Acta Biomaterialia 48, 433-444(2017))。

【0039】
そこで、本発明の生体埋植材は、骨芽細胞等の骨形成に関与する細胞が配列して接着し、より向上した細胞増殖性を発揮できるように生体埋植材の表面を加工したものである。

【0040】
本発明の生体埋植材において、前記周期的微細構造が、例えば、平行線状(ライン&スペース形状)、格子状、メッシュ状、ハニカム状、ドット状及び/又はホール状に加工された周期的微細凹状構造であり、平行線状(ライン&スペース形状)又は格子状が好ましい。

【0041】
本発明の生体埋植材において、前記周期的微細凹状構造は、例えば、幅が10~1000 nmの範囲であり、好ましくは50~500 nmの範囲であり、より好ましくは100 nmである。また、深さは10~1000 nmの範囲であり、好ましくは50~200 nmの範囲であり、より好ましくは100 nmである。また、ピッチは、例えば、20~2000 nmの範囲であり、好ましくは100~1000 nmの範囲であり、より好ましくは200 nmである。

【0042】
本発明の生体埋植材において、前記周期的微細凹状構造の幅、深さ及びピッチの各々が、例えば、5%以内、好ましくは3%以内、より好ましくは1%以内の誤差率を有する。

【0043】
本発明の生体埋植材における前記周期的微細凹状構造において、凹面の表面が粗面であるとより細胞接着性が向上する。

【0044】
そこで、本発明の生体埋植材において、前記周期的微細凹状構造の粗面は、例えば、0.5~2.0であり、好ましくは0.6~1.7の範囲の表面粗さを有する。ここで、表面粗さの定義は、JISの定義及び測定法に基づく(JIS B 0601:1994)。

【0045】
また、本発明の生体埋植材において、前記周期的微細凹状構造の粗面は、例えば、接触角1~60°の親水性又は濡れ性を有することが好ましい。

【0046】
本発明の生体埋植材において、例えば、前記被覆層の厚さが、1~1000 nmの範囲が好ましい。

【0047】
本発明の生体埋植材において、前記金属は、例えば、チタン若しくは酸化チタン又はそれらと他の金属との合金から選択されることが好ましい。

【0048】
本発明の生体埋植材において、前記基材層の材質が、例えば、チタン、チタン合金、ジルコニア、パターン形成容易な金属、二酸化ケイ素(SiO2)、又はセラミックから選択される。

【0049】
本発明の生体埋植材において、前記基材からなる基材層の厚さが、例えば、50 nm以上であることが好ましい。

【0050】
本発明の生体埋植材が、例えば、歯科用インプラント、顎骨インプラント、骨の補修及び安定化用のスクリュー、ピン及びプレート、脊椎インプラント、大腿骨インプラント、頸骨インプラント、膝関節インプラント、手関節インプラント、人工股関節などの関節インプラント、耳及び鼻インプラントなどの顎顔面インプラント、傷害及び疾患により生じた症状のための四肢プロテーゼ、並びにそれらの組み合わせからなる群から選択される。

【0051】
本発明の生体埋植材は、好ましくは、抗菌性生体埋植材である。抗菌性生体埋植材を用いることにより、生体内に埋植後、細菌が繁殖することなく、すなわち、細菌に対する生体反応としての化膿を惹起することなく、生体埋植材を生体に埋植することができる。

【0052】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。ここに記述される実施例は本発明の実施形態を例示するものであり、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例1】
【0053】
材料及び方法
骨成長の促進特性を有する生体埋植材の製造方法
図1は、本発明の骨成長の促進特性を有する生体埋植材の製造方法の概略図である。
【実施例1】
【0054】
[a] SiO2の成膜
[a]工程前に、ガラス基材を、アセトン及びイソプロピルアルコール(IPA)により5分ずつ超音波洗浄後、2回純水置換し、2分間流水洗浄した。
図1中の[a]に示すように、イオンビームスパッタ(IBS)法によってガラス基材上にSiO2層を形成した。[a]工程の詳細な条件を表1に示す。
【表1】
JP2019201688A_000003t.gif
【実施例1】
【0055】
[b] UVナノインプリント
[b]工程前に、ガラス基材上に製膜したSiO2層の表面を、アセトン及びイソプロピルアルコール(IPA)により5分ずつ超音波洗浄後、2回純水置換し、2分間流水洗浄した。
図1中の[b]に示すように、UV硬化性樹脂(PAK-01-60、東洋合成株式会社)を用いてスピンコートによってSiO2層上に樹脂マスク層を形成した。その後、UVナノインプリントによって樹脂マスク層にライン及びスペースのナノメートルオーダーの周期微細構造のパターンを形成し、UV照射によってUV硬化性樹脂を硬化させた。[b]工程の詳細な条件を表2に示す。
【表2】
JP2019201688A_000004t.gif
【実施例1】
【0056】
[c] 残渣除去
図1中の[c]に示すように、O2プラズマによる誘導性結合プラズマ-反応性イオンエッチングによって樹脂マスク層の残渣を除去した。[c]工程の詳細な条件を表3に示す。ICP-RIE装置によって、インプリントによって形成した樹脂マスクパターンに沿ってSiO2をパターニングした。
【表3】
JP2019201688A_000005t.gif
【実施例1】
【0057】
[d] SiO2エッチング
図1中の[d]に示すように、C3F8/O2プラズマによる誘導性結合プラズマ-反応性イオンエッチングによって樹脂マスク層のエッチングマスクを行い、SiO2層にライン及びスペースのナノメートルオーダーの周期微細構造パターンを形成した。[d]工程の詳細な条件を表4に示す。
【表4】
JP2019201688A_000006t.gif
【実施例1】
【0058】
[e] アッシング
図1中の[e]に示すように、O2プラズマによる誘導性結合プラズマ-反応性イオンエッチングによってSiO2層上に残っている樹脂を除去した。なお、[c]、[d]及び[e]工程は誘導性結合プラズマ-反応性イオンエッチング装置を用いて連続して行った。
【実施例1】
【0059】
[f] Ti成膜
アセトン及びイソプロピルアルコール(IPA)により5分ずつ超音波洗浄後、2回純水置換し、2分間流水洗浄した。
図1中の[f]に示すように、基板1(ナノパターン上に1 nm以上の結晶粒を有しない基板)に、SiO2層上にTiの60 nmの層を形成した。基板1の[f]工程の詳細な条件を表5に示す。なお、膜厚については、Tiの結晶粒と膜厚との関係を考慮して決定した。基板1のTi層を、基板温度が室温、到達真空度が5.0×10-6 Torrの条件下でイオンビームスパッタ法によって形成した。
【表5】
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【実施例1】
【0060】
結果
図2は、上記方法で作製した結晶粒を有しない基板の鳥観図である。本発明の製造方法によって、ライン及びスペースの均一なパターンを崩すことなく、イオンビームスパッタ法によって1 nm以上のTi粒子を有しないTi層を基板に形成できた。
【実施例2】
【0061】
材料及び方法
原則として、実施例1と同様に、骨成長の促進特性を有する生体埋植材を製造した。ただし、[f]工程において、Ti層を、基板温度が室温、到達真空度が4.0×10-4 Torrの条件下で電子ビーム(EB)蒸着法によって形成した。基板2の[f]工程の詳細な条件を表6に示す。
【表6】
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【実施例2】
【0062】
結果
図3は、作製したTiの結晶粒を有する基板の鳥観図である。ライン及びスペースの均一なパターンを崩すことなく、EB蒸着法によって約20 nmのTi粒子を有するTi層を基板に形成できた。
【実施例3】
【0063】
材料及び方法
細胞培養
作製した基板1、2のチタン層が骨細胞に与える影響を評価する目的で、培養細胞として、骨髄間質細胞(BMSC)を使用した。BMSCは、骨細胞等に分化する間葉系の接着性細胞である。
培養前に基板を100%のアルコールに12時間浸水し、PBSで2回、培養液で2回洗浄した。
BMSCを、1.0×10-4 cells/mlの濃度で基板上に2 mL播種し、1%FBS、1%ペニシリン-ストレプトマイシンを添加したα-MEM(GIBCO)を用いて、37℃、5%CO2及び飽和水蒸気雰囲気下で72時間インキュベーションした。
培養後、培養72時間後にBMSCを定法に従って蛍光染色した。核はDapi-Fluoromount-G(商標)(コスモ・バイオ、東京)を用いて封入時に染色した。アクチンはF-actin Polyclonal Antibody(Bioss、米国)及びAnti-rabbit Alexa Fluor 488(Thermo Fisher、米国)を用いて、細胞接着班は、FAK(D-1) mouse monoclonal anti body (Santa Cruz、米国)及びAnti-mouse Alexa Fluor 594(Thermo Fisher、米国)を用いて染色した。染色した細胞は蛍光顕微鏡で観察した。
【実施例3】
【0064】
結果
図4は、培養した骨髄間質細胞(BMSC)の蛍光顕微鏡写真である。基板1及び2ともに、本発明の基板上の微細構造溝の幅は1細胞の幅よりも小さいにも関わらず、細胞は配向性を持って増殖した。基板1と比較して基板2では、細胞増殖配向度が顕著に増大し、加えて細胞増殖量も顕著に増加した。以上の結果から粒子径約20 nmのTi粒子は細胞増殖配向度に影響することが明らかとなった。
また、細胞増殖の初期段階における配向性は、質の高い骨形成を促進できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、細胞の3次元培養が可能となる均質な足場を安定的に提供し、配向性を持った組織形成に繋がる細胞培養も行うことができる。また、本発明の骨成長の促進特性を有する生体埋植材は、組織工学や再生医療の分野で利用できる。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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