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明細書 :真菌におけるタンパク質の選択的分泌技術

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 令和元年11月14日(2019.11.14)
発明の名称または考案の名称 真菌におけるタンパク質の選択的分泌技術
国際特許分類 C12N   1/15        (2006.01)
C12P  19/12        (2006.01)
FI C12N 1/15 ZNA
C12P 19/12
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 20
出願番号 特願2018-559146 (P2018-559146)
国際出願番号 PCT/JP2017/046107
国際公開番号 WO2018/123856
国際出願日 平成29年12月22日(2017.12.22)
国際公開日 平成30年7月5日(2018.7.5)
優先権出願番号 2016252330
優先日 平成28年12月27日(2016.12.27)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DJ , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JO , JP , KE , KG , KH , KN , KP , KR , KW , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT
発明者または考案者 【氏名】玉置 尚▲徳▼
【氏名】二神 泰基
【氏名】岩元 正孝
出願人 【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
【識別番号】390037604
【氏名又は名称】カクイ株式会社
個別代理人の代理人 【識別番号】110002572、【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
審査請求
テーマコード 4B064
4B065
Fターム 4B064AF03
4B064CA05
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA10
4B064DA20
4B065AA70X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA20
4B065CA41
4B065CA60
要約 本発明は、望ましくない酵素の量が低減された培養上清を簡便に得るための方法、該方法に用いられ得る微生物、及び該微生物を用いて目的の物質を生産する方法等を提供すること等を目的とする。
本発明は、内在性分泌酵素をコードするポリヌクレオチドに、GPI付加シグナル配列をコードするポリヌクレオチドが連結された融合ポリヌクレオチドを発現する改変真菌、及び該改変真菌を用いて目的の物質を生産する方法等に関する。
特許請求の範囲 【請求項1】
内在性分泌酵素をコードするポリヌクレオチドの3'末端側に、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)付加シグナル配列をコードする外来性ポリヌクレオチドが連結された融合ポリヌクレオチドを発現し、それによって、前記分泌酵素がGPIにより細胞表面に固定されたことを特徴とする改変真菌。
【請求項2】
糸状菌に属する、請求項1に記載の真菌。
【請求項3】
Trichoderma属、Aspergillus属、Penicillium属、Monascus属、及びThermoascus属からなる群から選択される糸状菌に属する、請求項2に記載の真菌。
【請求項4】
Trichoderma reesei種に属する、請求項3に記載の真菌。
【請求項5】
分泌酵素がグリコシダーゼ、リパーゼ、プロテアーゼ、及びヌクレアーゼからなる群から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の真菌。
【請求項6】
真菌が目的の物質の生産に用いられるものであり、目的の物質と分泌酵素が、以下の組み合わせ:
(a)目的の物質が糖であり、分泌酵素がグリコシダーゼである;
(b)目的の物質が脂質であり、分泌酵素がリパーゼである;
(c)目的の物質がタンパク質であり、分泌酵素がプロテアーゼである;及び
(d)目的の物質が核酸であり、分泌酵素がヌクレアーゼである;
からなる群から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の真菌。
【請求項7】
目的の物質がセロビオースであり、分泌酵素がβグルコシダーゼである、請求項6に記載の真菌。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載の真菌を培地で培養する工程、及び
培養された該真菌から内在性分泌酵素の量が低減された培養上清を回収する工程
を含む、内在性分泌酵素の量が低減された真菌培養上清を生産する方法。
【請求項9】
原料物質を、請求項1~5のいずれか一項に記載の真菌又は請求項8に記載の真菌培養上清と接触させ、原料物質から目的の物質を生産する工程
を含む、目的の物質を生産する方法。
【請求項10】
目的の物質と分泌酵素が、以下の組み合わせ:
(a)目的の物質が糖であり、分泌酵素がグリコシダーゼである;
(b)目的の物質が脂質であり、分泌酵素がリパーゼである;
(c)目的の物質がタンパク質であり、分泌酵素がプロテアーゼである;及び
(d)目的の物質が核酸であり、分泌酵素がヌクレアーゼである;
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
目的の物質がセロビオースであり、分泌酵素がβグルコシダーゼである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
目的の物質を回収する工程を含む、請求項9~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
内在性分泌酵素をコードするポリヌクレオチドの3'末端側に、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)付加シグナル配列をコードする外来性ポリヌクレオチドが連結された融合ポリヌクレオチドを発現するように真菌を改変する工程を含む、前記分泌酵素がGPIにより細胞表面に固定された改変真菌の作製方法。
【請求項14】
真菌がTrichoderma reesei種に属する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
分泌酵素がグリコシダーゼ、リパーゼ、プロテアーゼ、及びヌクレアーゼからなる群から選択される、請求項13又は14に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、内在性分泌酵素をコードするポリヌクレオチドに、GPI付加シグナル配列をコードするポリヌクレオチドが連結された融合ポリヌクレオチドを発現する改変真菌、及び該改変真菌を用いて目的の物質を生産する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
真菌、特に糸状菌は多種多様な酵素を分泌生産するため、その培養上清が酵素製剤として使用されている。しかしながら、真菌の培養上清を酵素製剤として使用する場合には、真菌由来の望ましくない酵素、例えば目的物質を分解する活性を有する酵素の混入が問題となる。培養上清から望ましくない酵素を除去するには、精製又は分離プロセス等が必要になるため、真菌由来の酵素製剤には、コストが高く、生産量が一定せず安定供給が難しいという2つの大きな問題があった。また、望ましくない酵素の量を低減する方法として、該酵素をコードする遺伝子を破壊した株を用いる方法も考えられるが、この方法では真菌の増殖性が顕著に低下する可能性がある。したがって、真菌の増殖性を顕著に損ねることなく、望ましくない酵素の量が低減された培養上清を得る方法が求められていた。
【0003】
一方、GPI(グリコシルホスファチジルイノシトール)は、翻訳後修飾によってタンパク質のC末端に付加される糖脂質であり、ある種のタンパク質を細胞表面に固定化(アンカー)する機能を有する。これまでに、GPIは、酵母においてタンパク質を細胞表面にディスプレイさせるために用いることが示されているが(特許文献1)、GPIを内在性の分泌酵素に適用することは、これまでに全く考えられていなかった。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特表2012-511920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、真菌の増殖性を顕著に損ねることなく、望ましくない酵素の量が低減された培養上清を得るための方法、該方法に用いられ得る微生物、及び該微生物又は培養上清を用いて目的の物質を生産する方法を提供すること等を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、内在性の分泌酵素をコードする遺伝子にGPI付加シグナル配列を付加することによって、内在性の分泌酵素が細胞表層に留まり、培養上清中の内在性の分泌酵素の量が低減されることを見出し、本願発明を完成させた。
【0007】
したがって、本願発明は以下の態様を包含する。
(1)内在性分泌酵素をコードするポリヌクレオチドの3'末端側に、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)付加シグナル配列をコードする外来性ポリヌクレオチドが連結された融合ポリヌクレオチドを発現し、それによって、前記分泌酵素がGPIにより細胞表面に固定されたことを特徴とする改変真菌。
(2)糸状菌に属する、(1)に記載の真菌。
(3)Trichoderma属、Aspergillus属、Penicillium属、Monascus属、及びThermoascus属からなる群から選択される糸状菌に属する、(2)に記載の真菌。
(4)Trichoderma reesei種に属する、(3)に記載の真菌。
(5)分泌酵素がグリコシダーゼ、リパーゼ、プロテアーゼ、及びヌクレアーゼからなる群から選択される、(1)~(4)のいずれかに記載の真菌。
(6)真菌が目的の物質の生産に用いられるものであり、目的の物質と分泌酵素が、以下の組み合わせ:
(a)目的の物質が糖であり、分泌酵素がグリコシダーゼである;
(b)目的の物質が脂質であり、分泌酵素がリパーゼである;
(c)目的の物質がタンパク質であり、分泌酵素がプロテアーゼである;及び
(d)目的の物質が核酸であり、分泌酵素がヌクレアーゼである;
からなる群から選択される、(1)~(5)のいずれかに記載の真菌。
(7)目的の物質がセロビオースであり、分泌酵素がβグルコシダーゼである、(6)に記載の真菌。
(8)(1)~(5)のいずれかに記載の真菌を培地で培養する工程、及び
培養された該真菌から内在性分泌酵素の量が低減された培養上清を回収する工程
を含む、内在性分泌酵素の量が低減された真菌培養上清を生産する方法。
(9)原料物質を、(1)~(5)のいずれかに記載の真菌又は(8)に記載の真菌培養上清と接触させ、原料物質から目的の物質を生産する工程
を含む、目的の物質を生産する方法。
(10)目的の物質と分泌酵素が、以下の組み合わせ:
(a)目的の物質が糖であり、分泌酵素がグリコシダーゼである;
(b)目的の物質が脂質であり、分泌酵素がリパーゼである;
(c)目的の物質がタンパク質であり、分泌酵素がプロテアーゼである;及び
(d)目的の物質が核酸であり、分泌酵素がヌクレアーゼである;
(9)に記載の方法。
(11)目的の物質がセロビオースであり、分泌酵素がβグルコシダーゼである、(10)に記載の方法。
(12)目的の物質を回収する工程を含む、(9)~(11)のいずれかに記載の方法。
(13)内在性分泌酵素をコードするポリヌクレオチドの3'末端側に、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)付加シグナル配列をコードする外来性ポリヌクレオチドが連結された融合ポリヌクレオチドを発現するように真菌を改変する工程を含む、前記分泌酵素がGPIにより細胞表面に固定された改変真菌の作製方法。
(14)真菌がTrichoderma reesei種に属する、(13)に記載の方法。
(15)分泌酵素がグリコシダーゼ、リパーゼ、プロテアーゼ、及びヌクレアーゼからなる群から選択される、(13)又は(14)に記載の方法。
【0008】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2016-252330号の開示内容を包含する。
【0009】
本発明の一実施形態において、望ましくない内在性の分泌酵素の量が低減された培養上清を得ることができ、これを酵素製剤としてそのまま用いることができる。また、一実施形態において、本方法を真菌が分泌する様々な酵素に適用することで、分泌される酵素の組み合わせを容易にカスタマイズすることができるため、様々な目的に合った酵素製剤の生産及び物質生産への応用が可能となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、野生株、及び実施例で作製した変異株(Bgl1-GPI株)に対してPCRを行った際の電気泳動の結果を示す。Bgl1-GPI株において配列挿入によるシフトアップを観察することによって、Bgl1-GPI株においてbgl1遺伝子にGPI付加シグナル配列をコードする外来性ポリヌクレオチドが付加されたことを確認した。
【図2】図2は、野生株、及び実施例で作製した変異株(Bgl1-GPI株)の凍結乾燥菌体重量(A)、及び両株の培養上清のBgl1活性の測定結果(B)を示す。
【図3】図3は、野生株、及び実施例で作製した変異株(Bgl1-GPI株)の培養上清のCMCase活性(A)、CBH活性(B)、及びBgl1活性の測定結果(C)を示す。
【図4】図4は、野生株、及び実施例で作製した変異株(Bgl1-GPI株)の、セルロースから産生されたグルコース/セロビオースの比の経時的変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.改変真菌
一態様において、本発明は改変真菌に関する。

【0012】
本発明の改変真菌は、内在性分泌酵素をコードするポリヌクレオチドの3'末端側に、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)付加シグナル配列をコードする外来性ポリヌクレオチドを連結することによって、遺伝子的に改変されている。

【0013】
本明細書において、「内在性分泌酵素」とは、遺伝子的に改変されていない真菌が、もともと分泌するあらゆる酵素、特にその分泌が望ましくない酵素を指す。その分泌が「望ましくない」酵素の例として、例えば本発明の改変真菌が物質生産に用いられる場合、目的の物質を分解する活性を有するもの、目的の物質の生産を阻害するもの、目的の物質の活性に干渉するもの等が挙げられる。内在性分泌酵素の具体例として、限定するものではないが、グリコシダーゼ(特にグルコシダーゼ)、リパーゼ、プロテアーゼ、及びヌクレアーゼ、好ましくはグリコシダーゼ(特にグルコシダーゼ)、リパーゼ、プロテアーゼ、さらに好ましくはグリコシダーゼ(特にグルコシダーゼ)、例えばセロビオヒドラーゼ(EC3.2.1.91)、エンドグルカナーゼ(EC3.2.1.4)、及びβグルコシダーゼ(EC 3.2.1.21)が挙げられる。改変真菌がトリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)である場合、内在性分泌酵素は好ましくはβグルコシダーゼ(EC 3.2.1.21)、好ましくは分泌性のβグルコシダーゼであるBgl1、Cel3b、Cel3e、Cel3f、及びCel3gの少なくとも一つであり、特に好ましくはBgl1である。これらの酵素の活性は当業者に公知の方法により、例えばこれらの酵素により分解されて蛍光物質又は吸光物質を生ずる基質を用いて測定することができる。例えば、βグルコシダーゼの活性は、βグルコシダーゼ活性を有する酵素により分解されて吸光物質を生ずるp-nitrophenyl-β-D-glucopyranoside等の基質等を用いて、測定することができる。

【0014】
内在性分泌酵素の配列は、公のデータベース(例えば、NCBI(米国)、DDBJ(日本)、EMBL(欧州))より、入手することができ、例えばTrichoderma reeseiのBgl1(βグルコシダーゼ1)は、配列番号13で示されるアミノ酸配列を含む。また、Trichoderma reeseiのBgl1をコードするポリヌクレオチドは、配列番号14で示されるポリヌクレオチド配列を含む。Bgl1は、上記アミノ酸配列の機能的等価体、例えば(i)配列番号13で示されるアミノ酸配列と例えば70%以上、80%以上、好ましくは90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列、(ii)配列番号13で示されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が付加、欠失、及び/若しくは置換されたアミノ酸配列、(iii)配列番号13で示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドの相補鎖にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列を含んでもよい。同様に、Bgl1をコードするポリヌクレオチドは、上記ポリヌクレオチド配列の機能的等価体、例えば(i)配列番号14で示されるポリヌクレオチド配列と例えば70%以上、80%以上、好ましくは90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の同一性を有するポリヌクレオチド配列、(ii)配列番号14で示されるポリヌクレオチド配列において1若しくは複数個のヌクレオチドが付加、欠失、及び/若しくは置換されたポリヌクレオチド配列、(iii)配列番号14で示されるポリヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドの相補鎖にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドのポリヌクレオチド配列を含んでもよい。

【0015】
本明細書において、アミノ酸配列及び塩基配列に関する同一性の値は、複数の配列間の同一性を演算するソフトウェア(例えば、FASTA、DANASYS、及びBLAST)を用いてデフォルトの設定で算出した値を示す。同一性の決定方法の詳細については、例えばAltschul et al, Nuc. Acids. Res. 25, 3389-3402, 1977及びAltschul et al, J. Mol. Biol. 215, 403-410, 1990を参照されたい。

【0016】
また、本明細書において、アミノ酸配列及び塩基配列に関する「1若しくは複数個」の範囲は、1から10個、好ましくは1から7個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは数個、例えば1から4個又は1から3個、あるいは1個又は2個である。

【0017】
また、本明細書において、「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味する。ストリンジェントな条件は、例えばGreen and Sambrook, Molecular Cloning, 4th Ed (2012), Cold Spring Harbor Laboratory Press を参照して適宜決定することができる。具体的には、サザンハイブリダイゼーションの際の温度や溶液に含まれる塩濃度、及びサザンハイブリダイゼーションの洗浄工程の際の温度や溶液に含まれる塩濃度によりストリンジェントな条件を設定すればよい。より詳細には、ストリンジェントな条件としては、例えば、ナトリウム濃度25~500mM、好ましくは25~300mM、かつ温度42~68℃、好ましくは42~65℃が挙げられる。より具体的には、5×SSC(ここで、1×SSCは150mM NaCl及び15mMクエン酸ナトリウムである)、温度42℃が挙げられる。

【0018】
本明細書において、グリコシルホスファチジルイノシトール(以下、単に「GPI」とも記載する)とは、オリゴ糖鎖とイノシトールリン脂質を含む糖脂質であり、ある種のタンパク質を細胞表面に固定化(アンカー)する機能を有する。GPIは基本的に、エタノールアミン、リン酸、トリマンノシド、グルコサミン、及びイノシトールリン脂質をこの順序で含む(例えば、Hiroh IKEZAWA, Biol. Pharm. Bull. 25(4)409-417を参照されたい)。GPIの糖鎖部分の側鎖、及び脂質部分の分子種については、生物種、細胞又はタンパク質に応じてバリエーションが認められることが知られている。

【0019】
GPIは小胞体において合成され、タンパク質のC末端に連結される。GPIアンカーが付加されるタンパク質は、通常、N末端のシグナルペプチドに加え、C末端にGPI付加シグナル配列(「GPI付加シグナル」とも呼ばれる)を含む。このGPI付加シグナル配列が切断され、新たに生じたカルボキシ末端(「ω部位」と呼ばれる)に、小胞体で合成されたGPIのエタノールアミン部分が連結する。その後、GPIアンカーが付加されたタンパク質は、さらなる修飾を受けながら、細胞表面へ輸送される。

【0020】
本発明の改変真菌は、内在性分泌酵素をコードするポリヌクレオチドの3'末端側に、GPI付加シグナル配列をコードする外来性ポリヌクレオチドが連結することによって、分泌酵素がGPIにより細胞表面に固定されている。GPI付加シグナル配列をコードする外来性ポリヌクレオチドは、内在性分泌酵素をコードするポリヌクレオチドの3'末端側に直接連結してもよいし、適当な介在配列、例えば1~300、5~200、又は10~100程度のヌクレオチドを読み枠がずれないように加えて連結してもよい。

【0021】
上記改変の結果として、本発明の改変真菌は、内在性分泌酵素の分泌量が野生型に対して低減され得る。本発明の改変真菌は、一つの内在性分泌酵素をコードするポリヌクレオチドのみが改変されていてもよいし、複数の内在性分泌酵素をコードするポリヌクレオチドが改変されてもよい。複数の内在性分泌酵素をコードするポリヌクレオチド改変する場合、例えば、2個、3個、4個、又は5個以上の内在性分泌酵素をコードするポリヌクレオチド改変することができる。

【0022】
上記改変による内在性分泌酵素の分泌量の低減の程度は特に限定しないが、例えば、野生型に対し90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、好ましくは50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下の発現量であってよく、また内在性分泌酵素の分泌を完全に消失させるものであってもよい。

【0023】
本発明の改変真菌においては、内在性分泌酵素の分泌量が低減され得るが、内在性分泌酵素は細胞表面に存在し、発現自体は低減されないため、遺伝子ノックアウトや発現抑制に比べ、真菌の生育に与える影響が少ないと考えられる。

【0024】
本発明の改変真菌の生育性は、野生型と同程度であってもよく、野生型と比べて劣るものであってもよい。例えば、本発明の改変真菌の生育性は、培養後の凍結乾燥菌体重量(g)、培養後又は培養中の特定の時期の濁度(OD660)、培養後又は培養中の特定の時期の生菌数(cfu/ml)、好ましくは培養後の凍結乾燥菌体重量(g)で測定される生育性が、野生型に比較して50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、好ましくは90%以上、95%以上、98%以上、99%以上、又は100%以上であってよい。

【0025】
本明細書において、GPI付加シグナル配列をコードする外来性ポリヌクレオチドの種類及び配列は特に限定しない。本明細書において、「外来性ポリヌクレオチド」とは、「内在性分泌酵素」をコードする天然のポリヌクレオチドには含まれないポリヌクレオチドを指す。したがって、「外来性ポリヌクレオチド」は、「内在性分泌酵素」を発現する生物と同種に由来してもよいし、異種に由来してもよい。好ましくは、「外来性ポリヌクレオチド」は、「内在性分泌酵素」を発現する生物と同じ属に由来し、さらに好ましくは、「内在性分泌酵素」を発現する生物と同じ種に由来する。

【0026】
GPI付加シグナル配列にはコンセンサス配列はないが、多くのGPI付加シグナル配列の特徴として、以下の四つの特徴:(i)GPIのエタノールアミン部分が連結する部位(ω部位)として側鎖の小さいアミノ酸が用いられる、(ii)ω+2(ω部位から2残基C末端側、以下同じ)のアミノ酸もGly、Ala、Serのような側鎖の小さいアミノ酸が用いられる、(iii)ω+3から6~10アミノ酸の親水性領域がある、(iv)その後のC末端までの10~20アミノ酸が疎水領域である、が挙げられる(藤田盛久、生化学第85巻第11号、pp.985-995、2013)。近年、GPI付加シグナル配列を予測するプログラムが多数公開されており、また当業者であれば、公のデータベースから、容易にGPI付加シグナル配列を入手することができる。

【0027】
GPI付加シグナル配列の例として、例えばTrichoderma reesei由来の配列番号15で示されるアミノ酸配列を含むGPI付加シグナル配列、Aspergillus kawachii由来の配列番号17で示されるアミノ酸配列を含むGPI付加シグナル配列、Penicillium chrysogenum由来の配列番号19で示されるアミノ酸配列を含むGPI付加シグナル配列が挙げられる。また、GPI付加シグナル配列の例として、(i)配列番号15、17、又は19で示されるアミノ酸配列と例えば70%以上、80%以上、好ましくは90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列、(ii)配列番号15、17、又は19で示されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が付加、欠失、及び/若しくは置換されたアミノ酸配列、(iii)配列番号15、17、又は19で示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドの相補鎖にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列が挙げられる。

【0028】
GPI付加シグナル配列をコードするポリヌクレオチドの例として、配列番号15、17、及び19で示されるアミノ酸配列をそれぞれコードする配列番号16、18、及び20で示されるヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。また、GPI付加シグナル配列をコードするポリヌクレオチドの例として、(i)配列番号16、18、又は20で示されるポリヌクレオチド配列と例えば70%以上、80%以上、好ましくは90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の同一性を有するポリヌクレオチド配列、(ii)配列番号16、18、又は20で示されるポリヌクレオチド配列において1若しくは複数個のヌクレオチドが付加、欠失、及び/若しくは置換されたポリヌクレオチド配列、(iii)配列番号16、18、又は20で示されるポリヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドの相補鎖にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドのポリヌクレオチド配列が挙げられる。

【0029】
本発明の改変真菌の由来となる真菌の属及び種は特に限定しないが、好ましくは酵母又は糸状菌である。酵母の例として、サッカロミセス(Saccharomyces)属、クルイウェロミセス(Kluyveromyces)属、カンジダ(Candida)属、ピチア(Pichia)属、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属、ハンセヌラ(Hansenula)属、及びヤロウィア(Yarrowia)属からなる群から選択される属の酵母、例えばサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、及びピチア・パストリス種(Pichia pastoris)が挙げられる。

【0030】
改変真菌は、好ましくは糸状菌である。糸状菌の例として、限定するものではないが、トリコデルマ(Trichoderma)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ペニシリウム(Penicillium)属、モナスカス(Monascus)属、サーモアスカス(Thermoascus)属、セファロスポリウム(Cephalosporium)属、アクレモニウム(Acremonium)属、及びニューロスポラ(Neurospora)属、好ましくはトリコデルマ属、アスペルギルス属、ペニシリウム属、モナスカス属、及びサーモアスカス属からなる群から選択される属の糸状菌、例えばトリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)、アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)、及びペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)が挙げられる。本発明の改変真菌は、特に好ましくは、Trichoderma属の糸状菌、例えば、トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)、トリコデルマ・ハルジアヌム(Trichoderma harzianum)、トリコデルマ・コニンギイ(Trichoderma koningii)、トリコデルマ・ロンジブラチアトウム(Trichoderma longibrachiatum)、トリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride)、又はトリコデルマ・アトロビリデ(Trichoderma atroviride)であり、さらに好ましくはトリコデルマ・リーセイである。本発明の改変真菌の由来となる真菌の株は限定されず、単離株を用いてもよいし、ATCC及びNBRC等の寄託機関から分譲された株、例えばTrichoderma reesei NBRC 31327を用いてもよい。

【0031】
本発明の改変真菌は、当業者に知られる任意の方法により作製することができる(例えば、遺伝子組み換え技術の詳細についてはSambrookら,“Molecular Cloning, A Laboratory Manual fourth edition”, Cold Spring Harber Laboratory Press, 2012を参照されたい)。本発明の改変真菌は、例えば以下に記載する改変真菌の作製方法に従って作製することができる。

【0032】
一態様において、本発明は、内在性分泌酵素がGPIにより細胞表面に固定された上記改変真菌の作製方法に関する。本改変真菌の作製方法は、内在性分泌酵素をコードするポリヌクレオチドの3'末端側に、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)付加シグナル配列をコードする外来性ポリヌクレオチドが連結された融合ポリヌクレオチドを発現するように真菌を改変する工程を含む。

【0033】
例えば、本改変工程は、例えば遺伝子組換え技術及び相同組換え技術を利用して、野生型真菌ゲノム由来の、内在性分泌酵素遺伝子の一部又は全部を含んでもよい該遺伝子の上流約1~3kbpのDNA及び該遺伝子の下流約1~3kbpのDNAのそれぞれを、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)付加シグナル配列をコードする外来性ポリヌクレオチドの5'側及び3'側にフランキングしたDNAを含む遺伝子カセットを野生型真菌細胞内に導入することにより得ることができる。遺伝子カセットは、野生型の真菌が内在性分泌酵素をコードするポリヌクレオチドを有する遺伝子座に導入することができる。この場合、上記遺伝子カセットにおいて、上記GPI付加シグナル配列をコードする外来性ポリヌクレオチドを、上記分泌酵素をコードするポリヌクレオチドの3'末端に連結して含む場合には、相同組換え法によって該遺伝子カセットを、野生型の内在性分泌酵素をコードするポリヌクレオチドの3'末端側に連結される様に、又は野生型の内在性分泌酵素をコードするポリヌクレオチドを置換する様に導入することができる。あるいは、野生型の真菌の内在性分泌酵素をノックアウトし、野生型の真菌が内在性分泌酵素をコードするポリヌクレオチドを有する遺伝子座とは異なる遺伝子座に遺伝子カセットを導入してもよい。

【0034】
真菌に導入する遺伝子カセットは、改変真菌の選択を容易にするため、ハイグロマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、又はカナマイシン耐性遺伝子等の選択マーカーをさらに含んでいてもよい。

【0035】
遺伝子カセットは適当なベクター、例えば大腸菌由来のプラスミド(例えばpGEM(登録商標)-T Easy、pET22b(+)、pBR322、pUC118、及びpBluescript等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5等)、及び酵母由来のプラスミド(例えばYEp13、YCp50等)等を利用して、真菌に導入することができる。遺伝子カセット又はベクターの導入は、例えば、プロトプラスト-PEG法、エレクトロポレーション法、及び金属処理法等の当業者に知られる方法により行うことができる。

【0036】
本発明の改変真菌の作製方法は、上記改変工程に加えて、改変真菌を選抜する工程を含んでもよい。選抜工程は、例えば選択マーカーを含む遺伝子カセット又はベクターを上記の通り導入して真菌を形質転換し、形質転換された真菌を選択圧下で増殖させることにより行うことができる。

【0037】
本発明の改変真菌の作製方法は、改変真菌を選抜する工程に加えて、又は選抜工程とは別に、改変真菌において所望の遺伝子改変がなされたか否かを決定する工程を含んでよい。本工程は、例えばPCR法及び電気泳動によるヌクレオチド挿入の確認、又はPCR法による配列解析等により行うことができる。

【0038】
一態様において、本発明は、本明細書に記載の真菌を培地で培養する工程、及び培養された該真菌から内在性分泌酵素の量が低減された培養上清を回収する工程を含む内在性分泌酵素の量が低減された培養上清を生産する方法に関する。

【0039】
本方法における培養工程は、例えば、真菌細胞を、小スケール又は大スケール発酵(連続式、バッチ式、供給バッチ式、又は固状発酵等)により、適当な培地中で当業者に知られる方法により実施することができる。培地としては、炭素及び窒素源並びに無機塩を含む適当な栄養培地、例えば市販の培地又は公開された処方に従って調製された培地を用いることができる。

【0040】
培養上清を回収する工程は、当業者に公知の方法により行うことができ、例えば濾過又は遠心等によっておこなうことができる。また、本方法は、培養工程及び回収工程以外に、培養上清から特定のタンパク質を精製又は分離する工程を任意に含んでよい。

【0041】
本方法における内在性分泌酵素の分泌量の低減の程度は特に限定しないが、例えば、野生型に対し90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、好ましくは50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下の発現量であってよく、また内在性分泌酵素の分泌量を完全に消失させるものであってもよい。

【0042】
上記培養上清は、望ましくない内在性分泌酵素の量が低減された酵素製剤として、そのまま、或いは他の成分を加えて用いることができる。添加し得る他の成分の例として、水、アルコール類、保存剤、賦形剤、pH調整剤、ミネラル類、抗酸化剤、可溶化剤、結合剤、懸濁剤、矯臭剤、界面活性剤、及び流動性促進剤等が挙げられる。これらの成分は単独で、または組み合わされて使用され得る。また、上記培養上清に対し、濾過滅菌、濃縮、所望の酵素の精製又は分離等のさらなる処理を行うこともできる。

【0043】
本発明の改変真菌又は上記培養上清は、目的の物質の生産に用いることができる。改変真菌においてGPIにより細胞表面に固定される内在性分泌酵素は、目的の物質に応じて適宜選択することができ、一つであっても、二つ以上であってもよい。例えば、目的の物質と分泌酵素の組み合わせは、以下:(a)目的の物質が糖であり、分泌酵素がグリコシダーゼである;(b)目的の物質が脂質であり、分泌酵素がリパーゼである;(c)目的の物質がタンパク質(又はペプチド)であり、分泌酵素がプロテアーゼである;及び(d)目的の物質が核酸であり、分泌酵素がヌクレアーゼである;からなる群から選択される組み合わせであってよい。目的の物質と分泌酵素の組み合わせは好ましくは上記(a)~(c)からなる群から選択される組み合わせであってよく、さらに好ましくは、目的の物質はセロビオースであり、分泌酵素はBgl1である。
2.目的の物質の生産方法
一態様において、本発明は、原料物質を、上記「1.改変真菌」に記載の改変真菌又は培養上清と接触させ、原料物質から目的の物質を生産する工程を含む、目的の物質の生産方法に関する。

【0044】
本方法において、原料物質は、目的の物質に応じて選択することができる。例えば目的の物質が糖である場合、原料物質は目的の物質よりも大きな分子量を有する糖、例えばセルロース等の多糖であってよい。同様に、目的の物質が脂質である場合、原料物質は目的の物質よりも大きな分子量を有する脂質であってよく、目的の物質がタンパク質又はペプチドである場合、原料物質は目的の物質よりも大きな分子量を有するタンパク質であってよく、目的の物質が核酸である場合、原料物質は目的の物質よりも大きな分子量を有する核酸であってよい。

【0045】
本方法において、目的の物質と、内在性分泌酵素の組み合わせは上記の通り、例えば上記(a)~(d)又は(a)~(c)からなる群から選択される組み合わせであり、好ましくは目的の物質はセロビオースであり、分泌酵素はβグルコシダーゼである。

【0046】
本発明の生産方法において、原料物質から目的の物質を生産する工程は特に限定しない。例えば、本明細書に記載の改変真菌を原料物質を含む培地で培養することにより行ってもよいし、本明細書に記載の培養上清又はこれを含む酵素製剤を、適当な条件、例えば水又は緩衝液中、常温(10℃~40℃、例えば20℃~30℃)又は低温(4~10℃)で原料物質と接触させ、反応させてもよい。

【0047】
本発明の生産方法は、原料物質から目的の物質を生産する工程に加えて、目的の物質を回収する工程を含んでよい。回収工程は、例えば遠心又は濾過等により改変真菌を除くことにより行うことができる。また、本発明の生産方法は、原料物質を精製又は分離する工程を含んでよい。精製又は分離工程は、常法により、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換カラムクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー、HPLC等のクロマトグラフィー、硫安分画、限外ろ過、及び免疫吸着法のいずれか一つ、又はこれらを二以上組み合わせて用いることによって行うことができる。
【実施例】
【0048】
実施例1:Bgl1-GPI株の構築と活性測定
<材料と方法>
(使用菌株と培地)
本実験では、親株としてTrichoderma reesei NBRC 31327(NBRCから入手)を用いた。T. reeseiの分生子の取得のための培養にはAM寒天培地(10 g/L グルコース、6 g/L NaNO3、0.52 g/L KCl、0.52 g/L MgSO4(7H2O)、1.52 g/L KH2PO4、2.11 g/L アルギニン、5μg/mL ビオチン、Hutner’s trace elements、pH 6.5)を用いた。次に、プロトプラスト調製用の菌体の培養には、TM液体培地(10 g/L glucose、10 g/L KH2PO4、6 g/L (NH4)2SO4、1 g/L MgSO4(7H2O)、3 g/L tri-sodium citrate(2H2O)、5 mg/L FeSO4(7H2O)、2.5 mg/L MnSO4(5H2O)、1.4 mg/L ZnSO4(7H2O)、2 mg/L CaCl2(2H2O)、pH 6.0)を用いた。また、形質転換体の選択培地には、TM培地に浸透圧調節剤として0.5 M KClと選択圧として150 μg/mL Hygromycin Bを添加した寒天培地を用いた。さらに、β-グルコシダーゼ活性を測定するための培地としてTM液体培地の炭素源を10 g/L グルコースから10 g/L セロビオースに変更した培地を用いた。
(Bgl1にGPI付加シグナル配列を付加した株の構築)
NBRC 31327株のβグルコシダーゼ1(Bgl1)のC末端にGPI付加シグナル配列が連結されたアミノ酸(配列番号11、本アミノ酸配列をコードするcDNAは配列番号12で示す塩基配列を有する)を発現する変異株を、以下の方法に従って調製した。
【実施例】
【0049】
NBRC 31327株の染色体上のbgl1遺伝子に、GPI付加シグナル配列をコードするポリヌクレオチドを相同組換えにより付加した。相同組換えに用いるDNAカセットを作成するために、NBRC 31327株のゲノムDNAを鋳型として、TRbgl1gpi-FC/TRbgl1gpi-R1、TRbgl1gpi-F2/TRbgl1gpi-R2、およびTRbgl1gpi-F4/TRbgl1gpi-RCのプライマーセット(表1)によりPCRを行い、それぞれbgl1遺伝子の部分配列、GPI付加シグナル配列をコードするポリヌクレオチド、及びbgl1遺伝子の3’UTR領域を増幅した。また、プラスミドpAN7.1を鋳型としてプライマーセットTRbgl1gpi-F3/TRbgl1gpi-R3によりハイグロマイシン耐性マーカーをコードするhph遺伝子を増幅した。これらの4つのPCR産物をfusion PCRにより連結して、プライマーセットTRbgl1gpi-F1/TRbgl1gpi-R4により増幅した産物を、pGEM T-Easyベクター(Promega)にTAクローニングし、pG-bgl1-gpiとした。pG-bgl1-gpiを制限酵素NotIで切断して、NBRC 31327株の形質転換に用いた。NBRC 31327の形質転換は、プロトプラスト-PEG法により行った。NBRC 31327株をTM液体培地で30℃、80 rpmで培養後、集菌して0.4 g/L Yatalase(Takara Bio)と0.4 g/L Cellulase Onozuka R-10(Yakult)で処理することによりプロトプラスト化した。形質転換体は、AM培地に0.5 M KClと150 μg/mL Hygromycin Bを添加した寒天培地を用いて選択した。bgl1遺伝子にGPI付加シグナル配列をコードするポリヌクレオチドが付加した株の取得の確認は、プライマーセットTRbgl1gpi-FC/TRbgl1gpi-RによるPCRにより行った。その際、野生株の遺伝子型の場合、4.4 kb、GPI付加シグナル配列をコードするポリヌクレオチドを付加した株の遺伝子型の場合、8.4 kbのサイズのPCR産物が増幅することを判断基準とした。取得したGPI付加シグナル配列をコードするポリヌクレオチドを付加した株は、Bgl1-GPI株とした。
【実施例】
【0050】
本実験で用いたプライマーを以下に示す。
【実施例】
【0051】
【表1】
JP2018123856A1_000003t.gif
【実施例】
【0052】
(β-グルコシダーゼ活性の測定)
セロビオースを炭素源とするTM液体培地 100 mLにNBRC 31327株とBgl1-GPI株の分生子2×107を接種して、30℃、140 rpmで2日間培養した。菌体と培養上清をろ過により分離して、菌体を凍結乾燥して重量を測定した。一方、培養上清を10 kDaの限外ろ過フィルターユニット(Vivacon 500、Sartorius)により濃縮し、100 mM酢酸バッファー(pH5.0)にバッファー交換した。これを150 mM p-nitrophenyl-β-D-glucopyranoside(Sigma)と反応(50℃、1時間)させた後、吸光度(Abs = 400 nm)を測定した。
<結果>
上記の通り、bgl1遺伝子の部分配列、GPI付加シグナル配列をコードするポリヌクレオチド、bgl1遺伝子の3’UTR領域、及びhph遺伝子を含むpG-bgl1-gpiを形質転換し、ハイグロマイシンによって選択することによって、Trichoderma reesei NBRC 31327株の変異株を構築した。野生株及び変異株に対してPCRを行い、マーカー遺伝子とGPI付加シグナル配列をコードするポリヌクレオチドの配列挿入によるシフトアップを観察することによって、bgl1遺伝子にGPI付加シグナル配列をコードするポリヌクレオチドが付加した株が得られたことを確認した(図1)。
【実施例】
【0053】
続いて、NBRC 31327株(野生株)と得られた変異株(Bgl1-GPI株)を、セロビオースを炭素源とするTM液体培地で2日間培養した。培養後、菌体と培養上清をろ過により分離して、菌体を凍結乾燥して重量を測定した。その結果、Bgl1-GPI株の凍結乾燥菌体重量が野生株より低い傾向が認められたことから、Bgl1-GPI株は野生株に比べて生育性がやや低下することが示唆された(図2A)。
【実施例】
【0054】
続いて、野生株及びBgl1-GPI株の培養上清のBgl活性を、p-nitrophenyl-β-D-glucopyranosideを基質として用いて測定した。その結果、Bgl1-GPI株の培養上清のBgl活性は、野生株に比べて顕著に低下していた(図2B)。
実施例2:Bgl1-GPI株の各種酵素活性の比較
<材料と方法>
実施例1で得られたBgl1-GPI株と、野生株であるNBRC31327株の胞子1×107を培地150mLに接種し、30℃、163 rpmで2日間培養した。培地としては、以下の組成を有し、10 N NaOHでpHを6.0に調整した培地を用いた。
【実施例】
【0055】
【表2】
JP2018123856A1_000004t.gif
【実施例】
【0056】
培養後、ガラス濾過器(IWAKI、3G1)により菌体と培養上清に分けて、菌体を凍結乾燥して重量を測定した。また、培養上清の酵素活性(CMCase活性、CBH活性、およびBGL活性)を以下の通り測定し、タンパク質量あたりの酵素活性として計算した。具体的には、BGL活性は、基質セロビオース濃度1%、pH5.0、50℃、10分間の反応により生成したグルコースを酵素法(和光純薬:グルコースCIIテストワコー)で定量し測定した。CMC分解活性は、Sigma社のカルボキシメチルセルロースを用い、基質濃度1%、pH5.0、50℃、10分間の反応により生成した還元糖を3,5-ジニトロサリチル酸を用いる定量法(DNS法)でグルコースを標準にして定量した。CBH活性は日本製紙製のKCフロック(W-400G)あるいはシグマAvicel(PH-101)を用い、基質濃度1(w/v)%、pH5.0、50℃、10分間の反応により生成した還元糖を3,5-ジニトロサリチル酸を用いる定量法(DNS法)でグルコースを標準にして定量した。
<結果>
凍結乾燥菌体重量は、野生株では0.12 g、Bgl1-GPI株では0.1 gであった。培養上清の酵素活性の測定結果を図3に示す。図3に示す通り、CMCase活性(A)、及びCBH活性(B)は低下せず、BGL活性(C)のみ顕著に低下したことから、Bgl1がGPIアンカー付加されたことにより培養上清へのBgl1の放出が抑えられたことが示された。
実施例3:Bgl1-GPI株と野生株におけるセロビオース生産性の比較
<材料と方法>
実施例2と同様の方法で菌株を培養し、ガラス濾過器により菌体と培養上清に分けた。続いて、培養上清とカクイ製脱脂綿を粉砕して得られたコットンセルロースを反応させて(0.25%コットン、酢酸バッファー[pH5.0]中、反応は50℃で行った)、継時的(1時間、4時間、10時間)にサンプリングを行った。得られた培養上清とコットンセルロースの反応液を、東洋濾紙製の口径0.2 μmの酢酸セルロースメンブレンフィルター(アドバンテック、25CS020AS)を用いて濾過し、その濾液をHPLCにより測定し、グルコースとセロビオースのピーク面積からそれぞれの濃度とセロビオースとグルコースの割合を求めた。
<結果>
グルコース/セロビオースの生産比を測定結果を図4に示す。コットンセルロースから生産されるセロビオースに対するグルコースの比率は、野生株では継時的に上昇したが、Bgl1-GPIアンカー付加株においては、上昇しなかった。このことから、Blg1-GPIアンカー株により生産される酵素が、セルロースからのセロビオース生産、及びグルコースの生産抑制に効果的であることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明により、特定の内在性の分泌酵素の量が低減された培養上清を得ることができ、これを酵素製剤としてそのまま用いることができる。また、本方法を真菌が分泌する様々な酵素に適用することで、分泌される酵素の組み合わせを容易にカスタマイズすることができるため、様々な目的に合った酵素製剤の生産が可能となる。望ましくない酵素の量が低減された酵素製剤を用いることで物質生産の効率が向上し得るため、本発明の産業上の利用可能性は大きい。
【0058】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3