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明細書 :ペンタセンのラジカル誘導体およびその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-201200 (P2019-201200A)
公開日 令和元年11月21日(2019.11.21)
発明の名称または考案の名称 ペンタセンのラジカル誘導体およびその製造方法
国際特許分類 H01L  51/30        (2006.01)
H01L  51/05        (2006.01)
H01L  51/40        (2006.01)
C07F   7/10        (2006.01)
H01L  51/46        (2006.01)
FI H01L 29/28 250H
H01L 29/28 100A
H01L 29/28 310J
C07F 7/10 CSPS
H01L 31/04 154A
H01L 31/04 168
請求項の数または発明の数 4
出願形態 OL
全頁数 29
出願番号 特願2019-034289 (P2019-034289)
出願日 平成31年2月27日(2019.2.27)
優先権出願番号 2018090846
優先日 平成30年5月9日(2018.5.9)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】手木 芳男
【氏名】清水 章皓
【氏名】加島 源大
【氏名】加藤 賢
出願人 【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
個別代理人の代理人 【識別番号】100065248、【弁理士】、【氏名又は名称】野河 信太郎
【識別番号】100159385、【弁理士】、【氏名又は名称】甲斐 伸二
【識別番号】100163407、【弁理士】、【氏名又は名称】金子 裕輔
【識別番号】100166936、【弁理士】、【氏名又は名称】稲本 潔
【識別番号】100174883、【弁理士】、【氏名又は名称】冨田 雅己
審査請求 未請求
テーマコード 4H049
5F151
Fターム 4H049VN01
4H049VP01
4H049VQ70
4H049VR24
4H049VS70
4H049VU24
5F151AA11
要約 【課題】本発明は、減圧昇華法のみならずウェットプロセスに適用可能で、かつ光ならびに酸素および/またはオゾンに対して、より高い安定性を有するπ電子共役系化合物としてのペンタセンのラジカル誘導体およびその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】一般式(I):
JP2019201200A_000026t.gif
で表されるペンタセンのラジカル誘導体により、上記の課題を解決する。
【選択図】図1-2
特許請求の範囲 【請求項1】
一般式(I):
【化1】
JP2019201200A_000020t.gif
[式中、基-X-は、以下の:
【化2】
JP2019201200A_000021t.gif
を表し、ラジカル基-Y・は、以下の:
【化3】
JP2019201200A_000022t.gif
を表し、基-Zは、以下の:
【化4】
JP2019201200A_000023t.gif
(式中、基R1、R2およびR3は、それぞれ同一または異なって、炭素数1~4の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基である)を表す]
で表されるペンタセンのラジカル誘導体。
【請求項2】
前記一般式(I)の化合物が、式(1):
【化5】
JP2019201200A_000024t.gif
(式中、基R1、R2およびR3はすべてイソプロピル基である)
で表される請求項1に記載のペンタセンのラジカル誘導体。
【請求項3】
前記ペンタセン誘導体が、有機半導体材料である請求項1または2に記載のペンタセンのラジカル誘導体。
【請求項4】
請求項2に記載のペンタセンのラジカル誘導体の製造方法であり、以下の合成スキーム:
【化6】
JP2019201200A_000025t.gif
に基づき、
(A)6,13-ペンタセンジオンにトリイソプロピルシリルアセチレンを反応させイソプロピルシリル基を導入して、式(2)で表される13-ヒドロキシ-13-((トリイソプロピルシリル)エチニル)ペンタセン-6(13H)-オンを得、
(B)これに2-(4-エチニルフェニル)-1,3-ジオキソランを反応させエチニルフェニルアルデヒド基を導入するために、式(3)で表される6-((4-(1,3-ジオキソラン-2-イル)フェニル)エチニル)-13-((トリイソプロピルシリル)エチニル)-6,13-ジヒドロペンタセン-6,13-ジオールを得、
(C)これを還元剤で処理しペンタセン骨格を導入して、式(4)で表される4-[2-[13-[2-[トリス(1-メチルエチル)シリル]エチニル]-6-ペンタセニル]エチニル]- ベンズアルデヒドを得、
(D)これに1,1-ジメチル-カルボニックジヒドラジドを反応させて、2,4-ジメチル-6-(4-((13-((トリイソプロピルシリル)エチニル)ペンタセン-6-イル)エチニル)フェニル)-1,2,4,5-テトラジナン-3-オンを得、
(E)これをフェティゾン試薬で処理しラジカル置換基を導入して、2,4-ジメチル-6-(4-((13-((トリイソプロピルシリル)エチニル)ペンタセン-6-イル)エチニル)フェニル)-フェルダジル-3-オンを得る
ことを特徴とするペンタセンのラジカル誘導体の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ペンタセンのラジカル誘導体およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、安定ラジカルを利用した拡張π電子共役系化合物であって、光、酸素および/またはオゾンに対して、より高い安定性を有するペンタセンのラジカル誘導体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電界効果トランジスタや薄膜トランジスタなどの電子デバイスの分野において、従来から用いられているシリコンに代表される無機半導体材料に代わり、有機半導体材料が注目されている。
有機半導体材料は、シリコンなどの無機半導体材料に比べて、(1)安価に製造できる、(2)薄膜を用いた大面積の電子装置に応用できる、(3)製造工程において高温プロセスを必要とせず、プラスチック基板上に薄膜形成ができる、(4)可撓性を有し、素子特性を劣化させることなくフレキシブルな大面積装置に応用できる、などの有利な特性を有する。
【0003】
すなわち、有機半導体材料は、軽量で、耐衝撃性および柔軟性を有し、電子デバイスの低コスト化および大面積化を実現し得ることから、これらの特性を活かして、有機エレクトロルミネッセンス素子のような有機発光デバイス、有機電界効果トランジスタ、有機太陽電池、正孔注入輸送層を有する量子発光素子、電子写真感光体およびモバイル情報端末機用の電子素子などの広範な種々の有機電子デバイスの応用に期待できる。
【0004】
また近年、電子のスピンの自由度を利用する新しいエレクトロニクス分野(スピントロニクス)が注目されている。スピントロニクスは、エレクトロニクス分野の革新技術として期待され、無機材料を中心に研究され、既にハードディスクの磁気ヘッドなどに応用されている。一方、長いスピン拡散長などの特性を備えた有機分子材料も注目され、特に、スピン保有の情報をエネルギー損失なしで伝播できるスピン流に着目されている。
【0005】
このような有機分子材料の中でも、二重結合と一重結合が交互に並んだ形の部位を有するπ電子共役系化合物としてペンタセンなどのアセン系材料の研究が行われている。
アセン系材料は、高度に拡張されたπ電子系を有するため、ホールおよび電子の輸送性に優れ、例えば、有機半導体材料、エレクトロルミネッセンス材料、有機色素および有機顔料などに広く応用が検討されている。
【0006】
しかしながら、π電子共役系化合物の多くは、高い平面性を有し剛直であり、分子間の相互作用が非常に強固であることから、水や有機溶媒への溶解性に乏しく、開発の障害になっている。
例えば、π電子共役系化合物を有機顔料として用いる場合には、顔料が凝集し易くなり分散が不安定になるという問題、有機半導体材料およびエレクトロルミネッセンス材料として用いる場合には、溶液プロセスへの適用が難しく、真空蒸着などの気相製膜が必要になり、製造においてコスト増加およびプロセスの煩雑化という問題が生じる。
【0007】
他方、近年レトロディールスアルダー反応を利用した、溶媒可溶性の高いペンタセンのビシクロ化合物からの脱離反応によりペンタセンなどに変換する方法が提案されている。しかしながら、この方法では煩雑な合成ならびに脱離基の除去工程を必要とするため適用範囲が狭く、より簡便に合成可能な可溶性ペンタセン誘導体の開発が要求されている。
また、ペンタセンの可溶性前駆体を塗布し、加熱などにより製膜する方法も提案されている。しかしながら、この方法では、この前駆体から脱離するテトラクロロベンゼン分子を系外に除去することが困難であり、かつテトラクロロベンゼンの毒性も問題になる。
さらに、脱離性置換基を導入した、ペンタセンなどのベンゼン環を有するπ電子共役系化合物を製膜し、製膜後に脱離性置換基を脱離させてπ電子共役系化合物の膜状体を得る方法が提案されている。しかしながら、この方法によりペンタセンの製膜が可能であっても、得られたペンタセンの光ならびに酸素および/またはオゾンに対する安定性については何ら考慮されていない。
【0008】
一般に、ペンタセンは、結晶状態において高いホール伝導度を有し薄膜化が容易であることなどから有機半導体のベンチマーク化合物として広く知られている。しかしながら、(1)光化学的安定性が低く、酸素存在下で光により容易に酸化される、(2)ペンタセン単体は、あらゆる有機溶媒に対して難溶性である、という2つの欠点を有し、その実用化の大きな障害になっている(図2参照)
【0009】
そこで、ペンタセンの光耐久性の向上(安定化)の研究も盛んに行われている。
例えば、特開2014-148483号公報(特許文献1)およびY. Kawanaka, A. Shimizu, T. Shinada, R. Tanaka, Y. Teki, Angew. Chem. Int. Ed., 第52巻, 第26号, 2013年, p.6643-6647(非特許文献1)に記載のラジカル付加による安定化、米国特許第6,690,029号明細書(特許文献2)およびA. Shimizu, A. Ito, Y. Teki, Chem. Commun., 2016年, 第52巻, p.2889-2892(非特許文献2)に記載の嵩高い置換基や電子吸引性の置換基の導入による安定化が挙げられる。
特許文献1および非特許文献1に記載のペンタセン-ラジカル誘導体は、無置換ペンタセンに比べて約1400倍の光耐久性を有し、同じく特許文献2および非特許文献2に記載され、シグマアルドリッチ社から市販されている6,13-ビス(トリイソプロピルシリルエチニル)ペンタセン(TIPS-Pn)は、約1300倍の光耐久性を有する(図3参照)。
図4は、特許文献1のラジカル付加によるペンタセンの安定化のメカニズムを示す図である。すなわち、光照射により励起一重項状態になったペンタセンは、有機πラジカルの付加により励起三重項への非常に速い系間交差が起こり、さらに基底状態へと失活する。そのため電子状態を変えずに酸素との反応を抑制することができる。
【0010】
このようなことから、光ならびに酸素および/またはオゾンに対して、より安定で、かつ有機溶媒に可溶で、スピンコート、ブレードコート、グラビア印刷、インクジェット塗布、ディップコーティング塗布などのウェットプロセスに適応可能な、有機半導体材料としてのペンタセン誘導体が求められている。
【先行技術文献】
【0011】

【特許文献1】特開2014-148483号公報
【特許文献2】米国特許第6,690,029号明細書
【0012】

【非特許文献1】Y. Kawanaka, A. Shimizu, T. Shinada, R. Tanaka, Y. Teki, 「Using stable radicals to protect pentacene derivatives from photodegradatrion」, Angew. Chem. Int. Ed., 第52巻, 第26号, 2013年, p.6643-6647
【非特許文献2】A. Shimizu, A. Ito, Y. Teki, 「Photostability enhancement of the pentacene derivative having two nitronyl nitroxide radical substituents」, Chem. Commun., 2016年, 第52巻, p.2889-2892
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、減圧昇華法のみならずウェットプロセスに適用可能で、かつ光ならびに酸素および/またはオゾンに対して、より高い安定性を有するπ電子共役系化合物としてのペンタセンのラジカル誘導体およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、反応性の高いペンタセンの6,13位の一方に電子的安定化の代表例であるトリイソプロピルシリルエチニル基(TIPS-エチニル基)を導入し、もう一方にラジカル部位間を三重結合により架橋し、分子全体の平面性を高めたラジカル誘導体を導入することにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
かくして、本発明によれば、一般式(I):
【化1】
JP2019201200A_000003t.gif
[式中、基-X-は、以下の:
【0016】
【化2】
JP2019201200A_000004t.gif
を表し、ラジカル基-Y・は、以下の:
【0017】
【化3】
JP2019201200A_000005t.gif
を表し、基-Zは、以下の:
【0018】
【化4】
JP2019201200A_000006t.gif
(式中、基R1、R2およびR3は、それぞれ同一または異なって、炭素数1~4の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基である)を表す]
で表されるペンタセンのラジカル誘導体が提供される。
【0019】
また、本発明によれば、上記のペンタセンのラジカル誘導体の製造方法であり、以下の合成スキーム:
【化5】
JP2019201200A_000007t.gif
に基づき、
【0020】
(A)6,13-ペンタセンジオンにトリイソプロピルシリルアセチレンを反応させイソプロピルシリル基を導入して、式(2)で表される13-ヒドロキシ-13-((トリイソプロピルシリル)エチニル)ペンタセン-6(13H)-オンを得、
(B)これに2-(4-エチニルフェニル)-1,3-ジオキソランを反応させエチニルフェニルアルデヒド基を導入するために、式(3)で表される6-((4-(1,3-ジオキソラン-2-イル)フェニル)エチニル)-13-((トリイソプロピルシリル)エチニル)-6,13-ジヒドロペンタセン-6,13-ジオールを得、
(C)これを還元剤で処理しペンタセン骨格を導入して、式(4)で表される4-[2-[13-[2-[トリス(1-メチルエチル)シリル]エチニル]-6-ペンタセニル]エチニル]-ベンズアルデヒドを得、
(D)これに1,1-ジメチル-カルボニックジヒドラジドを反応させて、2,4-ジメチル-6-(4-((13-((トリイソプロピルシリル)エチニル)ペンタセン-6-イル)エチニル)フェニル)-1,2,4,5-テトラジナン-3-オンを得、
(E)これをフェティゾン試薬で処理しラジカル置換基を導入して、2,4-ジメチル-6-(4-((13-((トリイソプロピルシリル)エチニル)ペンタセン-6-イル)エチニル)フェニル)-フェルダジル-3-オンを得る
ことを特徴とするペンタセンのラジカル誘導体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、減圧昇華法のみならずウェットプロセスに適用可能で、かつ光ならびに酸素および/またはオゾンに対して、より高い安定性を有するπ電子共役系化合物としてのペンタセンのラジカル誘導体およびその製造方法を提供することができる。
本発明者らは、本発明のペンタセンのラジカル誘導体が、TIPS-エチニル基導入による安定化と有機ラジカルによる安定化という二つの異なるメカニズムを同時に利用することで、従来のものと比較して突出した顕著な効果が発揮されることを実証した。
本発明者らは、上記の二つの異なるメカニズムが相乗効果的に働くか否か、またそれにより突出した顕著な効果が発揮されるか否かは、従来技術からは簡単に予測し得ないものと考えている。具体的には、本発明のペンタセンのラジカル誘導体は、特許文献2のTIPS-Pnに比べて42倍の光耐久性を有する。
【0022】
本発明のペンタセンのラジカル誘導体は、非対称の置換基を有することによりペンタセンに比べて有機溶媒に対するより高い溶解性を有し、かつ光、酸素および/またはオゾンに対して高い安定性を有するので、真空蒸着法のみならず、スピンコート、ブレードコート、グラビア印刷、インクジェット塗布、ディップコーティング塗布などのウェットプロセスを適用して、有機電界効果トランジスタなど、および正孔注入輸送層を有する量子発光素子、電子写真感光体およびモバイル情報端末機用の電子素子などの広範な種々の有機電子デバイスに用いることができる。
【0023】
本発明のペンタセンのラジカル誘導体は、次の条件のいずれか1つを満たす場合に、上記の効果をより発揮する。
・一般式(I)の化合物が、式(1):
【化6】
JP2019201200A_000008t.gif
(式中、基R1、R2およびR3はすべてイソプロピル基である)で表される。
・ペンタセン誘導体が、有機半導体材料である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1-1】化合物(1)およびTIPS-Pnの極大吸収波長の吸光度の時間変化を示す図である。
【図1-2】化合物(1)およびTIPS-Pnの極大吸収波長の吸光度の時間変化を示す図である。
【図2】酸化によるペンタセン骨格の喪失を示す図である。
【図3】ペンタセンの安定化の代表例を示す図である。
【図4】ラジカル付加によるペンタセンの安定化のメカニズムを示す図である。
【図5】化合物(2)の1H-NMRスペクトルである。
【図6】化合物(2)のHRMS(DART)スペクトルである。
【図7】化合物(3)の1H-NMRスペクトルである。
【図8】化合物(3)のHRMS(DART)スペクトルである。
【図9】化合物(4)の1H-NMRスペクトルである。
【図10】化合物(4)のHRMS(FAB)スペクトルである。
【図11】化合物(5)の1H-NMRスペクトルである。
【図12】化合物(5)のHRMS(FAB)スペクトルである。
【図13】化合物(1)のHRMS(FAB)スペクトルである。
【図14】光耐久性の測定に用いた光照射装置の概略図である。
【図15】化合物(1)の基底状態における最適化構造を示す図である。
【図16】化合物(1)の基底二重項状態でのスピン密度分布を示す図である。
【図17】化合物(1)の励起四重項状態でのスピン密度分布を示す図である。
【図18】化合物(1)の基底状態でのエネルギー準位図およびその分子軌道のエネルギーを示す表である。
【図19】化合物(1)の励起四重項状態でのエネルギー準位図およびその分子軌道のエネルギーを示す表である。
【図20】化合物(1)のESRスペクトルの実測スペクトル(上図)およびシュミレーション(下図)ならびにマイクロ波周波数とg値、超微細結合定数を示す表である。
【図21】化合物(1)のモル吸光係数を示す図である。
【図22】化合物(1)の吸収スペクトルを示す図である。
【図23】TIPS-Pn(下部プロット)および化合物(1)(上部プロット)の蛍光スペクトルを示す図である。
【図24】TIPS-Pnの励起スペクトルを示す図である。
【図25】化合物(1)の励起スペクトを示す図である。
【図26-1】TIPS-Pnの吸光スペクトルの時間変化を示す図である。
【図26-2】TIPS-Pnの吸光スペクトルの時間変化を示す図である。
【図27-1】化合物(1)の吸光スペクトルの時間変化を示す図である。
【図27-2】化合物(1)の吸光スペクトルの時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、実施の形態により本発明を説明するが、本発明は、これらの形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。

【0026】
[ペンタセンのラジカル誘導体]
本発明のペンタセンのラジカル誘導体は、一般式(I):
【化7】
JP2019201200A_000009t.gif
で表される。

【0027】
一般式(I)における基-X-は、以下の:
【化8】
JP2019201200A_000010t.gif
を意味する。

【0028】
一般式(I)におけるラジカル基-Y・は、以下の:
【化9】
JP2019201200A_000011t.gif
を意味する。
上記のラジカル基-Y・と代替可能なラジカル基として、鎖状ラジカル基、例えば、チオアミニルラジカルなどが挙げられる。

【0029】
一般式(I)における基-Zは、以下の:
【化10】
JP2019201200A_000012t.gif
(式中、基R1、R2およびR3は、それぞれ同一または異なって、炭素数1~4の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基である)を意味する。

【0030】
基-Zにおける基R1、R2およびR3の炭素数1~4の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基アルキル基としては、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチルのような直鎖状のアルキル基、イソプロピル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチルのような分岐鎖状のアルキル基が挙げられ、これらの中でも、メチル、エチル、イソプロピル、n-ブチルが好ましく、有機溶媒への溶解性の点で実施例の化合物のイソプロピル基が特に好ましい。
また、基R1、R2およびR3は、それぞれ異なっていてもよいが、原料入手の容易さおよび合成の観点から、同一であること、例えば、トリイソプロピル基であることが好ましい。

【0031】
一般式(I)で表されるペンタセンのラジカル誘導体(以下、「ペンタセンのラジカル誘導体(I)」ともいう)の具体例としては、原料の入手のし易さおよび合成の観点から、式(1):
【化11】
JP2019201200A_000013t.gif
(式中、基R1、R2およびR3はすべてイソプロピル基である)
で表される2,4-ジメチル-6-(4-((13-((トリイソプロピルシリル)エチニル)ペンタセン-6-イル)エチニル)フェニル)-フェルダジル-3-オン(以下、「化合物(1)」ともいう)が挙げられる。

【0032】
[ペンタセンのラジカル誘導体の製造方法]
本発明のペンタセンのラジカル誘導体(I)、例えば、化合物(1)は、以下の5工程(A)~(E)の合成スキームにより製造することができる。(A)と(B)の工程は入れかえることも可能である。
なお、用いる溶媒および反応触媒、温度や時間などの反応条件、各工程後のろ過、洗浄、乾燥などの処理は、目的の化合物に応じて適宜選択および設定すればよい。
原料化合物、特にシリル基を有する原料化合物や合成中間体は、水やアルコールに溶解して分解し易く、また光化学反応を起こし易いことから、反応に際しては、無水溶媒を用いる、暗所条件にするなど、適宜条件を設定すればよい。

【0033】
【化12】
JP2019201200A_000014t.gif

【0034】
工程(A)
例えば、テトラヒドロフラン(THF)中、n-BuLiの存在下で、6,13-ペンタセンジオンにトリイソプロピルシリルアセチレンを反応させイソプロピルシリル基を導入して、式(2)で表される13-ヒドロキシ-13-((トリイソプロピルシリル)エチニル)ペンタセン-6(13H)-オン(以下、「化合物(2)」ともいう)を得る。

【0035】
工程(B)
例えば、テトラヒドロフラン(THF)中、n-BuLiの存在下で、得られた化合物(2)に、エチニルフェニルアルデヒド基をアセタール保護して得られる2-(4-エチニルフェニル)-1,3-ジオキソランを反応させて、式(3)で表される6-((4-(1,3-ジオキソラン-2-イル)フェニル)エチニル)-13-((トリイソプロピルシリル)エチニル)-6,13-ジヒドロペンタセン-6,13-ジオール(以下、「化合物(3)」ともいう)を得る。

【0036】
工程(C)
例えば、テトラヒドロフラン(THF)中、暗条件下で、得られた化合物(3)を、SnCl2などの還元剤で処理しペンタセン骨格を導入して、式(4)で表される4-[2-[13-[2-[トリス(1-メチルエチル)シリル]エチニル]-6-ペンタセニル]エチニル]-ベンズアルデヒド(以下、「化合物(4)」ともいう)を得る。

【0037】
工程(D)
例えば、メタノールと1,2-ジクロロエタンとの混合溶媒中、暗条件下で、得られた化合物(4)に、1,1-ジメチル-カルボニックジヒドラジドを反応させて、2,4-ジメチル-6-(4-((13-((トリイソプロピルシリル)エチニル)ペンタセン-6-イル)エチニル)フェニル)-1,2,4,5-テトラジナン-3-オン(以下、「化合物(5)」ともいう)を得る。

【0038】
工程(E)
例えば、ジクロロメタン中、暗条件下で、得られた化合物(5)を、セライト担持型炭酸銀(I)(フェティゾン試薬)で処理しラジカル置換基を導入して、化合物(1)を得る。

【0039】
この合成スキームにおいて適宜置換の異なる種々の原料化合物や反応試薬を選択することにより、同様にして、ペンタセンのラジカル誘導体(I)およびその合成中間体を製造することができる。

【0040】
例えば、工程(A)のイソプロピルシリル基を導入するトリイソプロピルシリルアセチレンの代わりに、他の原料化合物を用いることにより、他のアルキルシリル基を導入することができる。
このような原料化合物としては、例えば、トリメチルシリルアセチレン、トリエチルシリルアセチレン、(tert-ブチルジメチル)シリルアセチレンが挙げられる。

【0041】
また、工程(B)の2-(4-エチニルフェニル)-1,3-ジオキソランの代わりに、他の原料化合物を用いることにより、異なる基-X-を有するペンタセンのラジカル誘導体(I)を得ることができる。
このような原料化合物としては、例えば、2-ビニル-1,3-ジオキソラン、2-エチニル-1,3-ジオキソラン、2-フェニル-1,3-ジオキソラン、2-(4-ビニルフェニル)-1,3-ジオキソラン[別名:4-ビニルベンズアルデヒドエチレンアセタール]、2-(4-エチニルビフェニル)-1,3-ジオキソランが挙げられる。

【0042】
さらに、工程(D)の1,1-ジメチル-カルボニックジヒドラジドの代わりに、他の原料化合物を用いることにより、異なるラジカル基-Y・を有するペンタセンのラジカル誘導体(I)を得ることができる。
例えば、工程(D)において暗条件下、メタノール-1,2-ジクロロエタンのような混合溶媒中、化合物(4)と2,3-ビス(ヒドロキシアミノ)-2,3-ジメチルブタンとをアルゴン雰囲気下で加熱反応させ(この反応は、炭酸カリウムの存在下であれば、TIPS-エチニル基が脱保護するので好ましい)、室温まで冷却後に濾過し、次いで、工程(E)において暗条件下、得られた化合物に、ジクロロメタンのような溶媒中、NaIO4のような酸化剤の水溶液を加えて反応させ、有機層を常法により精製することにより、一般式(I)において下段2番目(中央)に例示のラジカル基-Y・を有する化合物を得ることができる。

【0043】
また、工程(D)において暗条件下アルデヒド基をブロモに変換して、((13-(4-ブロモフェニル)エチニル)ペンタセン-6-イル)エチニル)トリイソプロピルシランを合成するか、または工程(B)の2-(4-エチニルフェニル)-1,3-ジオキソランの代わりに、1-ブロモ-4-エチニルベンゼンなどのブロモ誘導体を用いて反応させ(4)の代わりに((13-(4-ブロモフェニル)エチニル)ペンタセン-6-イル)エチニル)トリイソプロピルシランを合成し、これを脱水THFのような無水溶媒に溶解し、ドライアイス-メタノール浴で-78℃まで冷却し、ブチルリチウム(BuLi)をゆっくり滴下し、続いて2-メチル-2-ニトロソプロパンをゆっくり滴下し、次いで、工程(E)において暗条件下、得られた化合物に、ジクロロメタンのような溶媒中、Ag2Oのような酸化剤を加えて反応させ、有機層を常法により精製することにより、一般式(I)において下段3番目(右側)に例示のラジカル基-Y・を有する化合物を得ることができると予想できる(例えば、Yoshio Teki、外2名、「p-Topology and spin alignment in the photo-excited states of phenylanthracene-t-butylnitroxide radicals」、Phys. Chem. Chem. Phys.、2015年、第17巻、p.31646-31652参照)。

【0044】
同様にして、工程(D)の1,1-ジメチル-カルボニックジヒドラジドの代わりに、2,4-ジイソプロピルカルボハイドライゾ-ビスヒドロクロライドを用い、ソディウムアセテートを加え、メタノールと1,2-ジクロロエタンとの混合溶媒のような溶媒中、暗条件下で、化合物(4)と反応させて2,4-ジイソプロピル-6-(4-((13-((トリイソプロピルシリル)エチニル)ペンタセン-6-イル)エチニル)フェニル)-1,2,4,5-テトラジナン-3-オンを得る。次いで、工程(E)と同様の方法で処理しラジカル置換基を導入して、一般式(I)において上段1番目(左側)に例示のラジカル基-Y・を有する化合物を得ることができると予想できる(例えば、Emily C.Pare、外4名、「Synthesis of 1,5-diisipropyl substituted 6-oxoverdazyls」、Org. Biomol. Chem.、2005年、第3巻、p.4258-4261参照)。

【0045】
同様にして、工程(D)の1,1-ジメチル-カルボニックジヒドラジドの代わりに、2,4-ジエニルカルボノヒドロクロライドを用い、2-ピリジンカルボアルデヒドを加え、メタノールと1,2-ジクロロエタンとの混合溶媒のような溶媒中、暗条件下で、化合物(4)と反応させて2,4-ジフェニル-6-(4-((13-((トリイソプロピルシリル)エチニル)ペンタセン-6-イル)エチニル)フェニル)-1,2,4,5-テトラジナン-3-オンを得る。次いで、工程(E)と同様の方法で処理しラジカル置換基を導入して、一般式(I)において上段2番目(右側)に例示のラジカル基-Y・を有する化合物を得ることができると予想できる(Cooper W. Johnston、外3名、「The first "Kuhn verdazyl" ligand and comparative studies of its PdCl2 complex with analogous 6-oxoverdazyl ligands」、Dalton Trans、2013年、第42巻、p.16829-16836参照)。

【0046】
本発明のペンタセンのラジカル誘導体(I)、例えば、化合物(1)は、従来から安定ペンタセンとして知られているTIPS-Pnに比べて約42倍もの光安定性を有し、かつ高い溶解度を有し、減圧昇華法のみならずウェットプロセスに適用可能で、かつ光ならびに酸素および/またはオゾンに対して、より高い安定性を有する有機半導体材料として有用である(図1-2参照)。

【0047】
したがって、本発明のペンタセンのラジカル誘導体(I)は、真空蒸着法のみならず、スピンコート、ブレードコート、グラビア印刷、インクジェット塗布、ディップコーティング塗布などのウェットプロセスを適用して、有機電界効果トランジスタなど、および正孔注入輸送層を有する量子発光素子、電子写真感光体およびモバイル情報端末機用の電子素子などの広範な種々の有機電子デバイスの有機半導体材料として用いることができる。
さらに、本発明によるペンタセンのラジカル誘導体は、酸素のみならず、オゾンまたはNOx(窒素酸化物)の存在下においても用いられることが期待される。
【実施例】
【0048】
以下に、本発明を合成例および試験例により具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
合成例で用いた試薬および溶媒は、特に記載のない限り、シグマアルドリッチ社、東京化成工業株式会社、メルク社または和光純薬工業株式会社(現:富士フィルム和光純薬株式会社)から購入したものをそのまま使用した。なお、テトラヒドロフラン(THF)およびメタノール(MeOH)は無水グレードを用いた。
【実施例】
【0049】
合成例で得られた中間化合物および目的化合物の物性および化学構造を以下の方法により分析した。
融点(m.p.)は、融点測定器(アズワン株式会社製、型式:ATM-01)を用いて測定し、未補正の値を示した。
1H-NMRは、核磁気共鳴装置(BRUKER社製、型式:AVANCE-300(300MHz)またはAVANCE-400(400MHz))を用いて測定した。
なお、測定には、標準物質としてSi(CH3)4(TMS:テトラメチルシラン)を含むCDCl3に溶解させた測定サンプルを用いた。1H-NMRのケミカルシフトは、CDCl3中のCHCl3 (δ=7.26もしくは77.1)または(CD3)2SO中の(CH3)2SO (δ=2.49もしくは39.5)と比べて百万分の一(δ(ppm))で記録した。
高分解能質量分析(HRMS)は、高速原子衝撃イオン化法(FAB)またはDirect Analysis in Real Time法(DARM)に対してタンデム質量分析計(日本電子株式会社製、型式:JMS-700T)によって得た。
【実施例】
【0050】
各反応は、UVランプを用いて可視化した、市販の既製薄層プレート(メルク社製の酸化アルミニウム60 F254、0.25 mm)を用いた薄層クロマトグラフィー(TLC)によりモニターした。
フラッシュクロマトグラフィーには、ダイソー社製IR-60 1002W (40/63mm)またはメルク社製酸化アルミニウム60を用いた。
ペンタセンが周囲光の条件下で不安定であることが公知であるので、必要に応じて反応は、暗状態でまたは反応容器をアルミホイルで被覆して行った。
【実施例】
【0051】
(合成例1)13-ヒドロキシ-13-((トリイソプロピルシリル)エチニル)ペンタセン-6(13H)-オン(化合物(2))の合成
アルゴン雰囲気下で、二つ口フラスコにトリイソプロピルシリルアセチレン(TIPSアセチレン:550.8 mg、3 mmol)と超脱水テトラヒドロフラン(THF:20 mL)を加えた。ドライアイス-メタノール浴を用いて-78℃まで冷却して30分間撹拌した。シリンジでn-BuLi(ヘキサン中、濃度1.6 M)を5分間かけて滴下し、30分間撹拌した。6,13-ペンタセンジオン(929.4 mg、3 mmol)を加え、徐々に昇温させながら18時間撹拌し、分液漏斗を用いて飽和NH4Cl水溶液(20 mL)で洗浄した。この洗浄操作を3回繰り返した。有機相に無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥させ、ろ過して減圧濃縮後ジクロロエタンで再結晶することにより黄色い固体を得た(収量701.5 mg、収率47%)。化合物の同定を1H-NMRとHRMSで行い、化合物(2)であることを確認した(図5および6参照)。
【実施例】
【0052】
m.p.:210 ℃;
1H-NMR(400 MHz、CDCl3)δ(ppm):8.85(s、2H)、8.74(s、2H)、8.06(d、2H)、7.95(d、2H)、7.68-7.57(m、4H)、2.94 (s, 1H)、1.22-1.15(m、21H);
HRMS(DART)(m/z):[M+H]+ C33H35O2Si、理論値:491.24063、実測値:491.24077
【実施例】
【0053】
(合成例2)6-((4-(1,3-ジオキソラン-2-イル)フェニル)エチニル)-13-((トリイソプロピルシリル)エチニル)-6,13-ジヒドロペンラタン-6,13-ジオール(化合物(3))の合成
アルゴン雰囲気下で、二つ口フラスコに2-(4-エチニルフェニル)-1,3-ジオキソラン(1082.4 mg、6.2 mmol)と超脱水THF(10 mL)を加えた。ドライアイス-メタノール浴を用いて-78℃まで冷却し30分間撹拌した。シリンジでn-BuLi(ヘキサン中、濃度ヘキサン)を5分間かけて滴下し、30分間撹拌した。化合物(2)(2060.0 mg、4.2 mmol)の粉末を加え、徐々に昇温させながら18時間撹拌し、分液漏斗を用いて飽和NH4Cl水溶液(20 mL)で洗浄した。この洗浄操作を3回繰り返した。有機相に無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥させ、ろ過して減圧濃縮した。TLCで目的物のスポットを確認(Rf = 0.29)し、カラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ジクロロメタン=1/50)によって分離精製し、白色固体を得た(収量1083 mg、収率39%)。化合物の同定を1H-NMRとHRMSで行い、化合物(3)であることを確認した(図7および8参照)。
【実施例】
【0054】
1H-NMR(300 MHz、CDCl3)δ(ppm):8.78(s、2H)、8.62(s、2H)、7.98-7.90(m、4H)、7.57-7.54(m、4H)、7.41-7.33(m、4H)、5.75(s、1H)、4.07-3.99(m、4H)、3.47(s、1H)、3.41(s、1H)、1.23-1.18(m、21H);
HRMS(DART)(m/z):[M+H]+ C44H45O4Si、理論値:665.30871、実測値:665.30901
【実施例】
【0055】
(合成例3)4-[2-[13-[2-[トリス(1-メチルエチル)シリル]エチニル]-6-ペンタセニル]エチニル]- ベンズアルデヒド(化合物(4))の合成
この反応で得られる目的物は溶存酸素と光化学反応を起こす可能性があるので、暗所条件下で反応させた。暗所中でアルミホイルを巻いた100 mL ナスフラスコに、化合物(3)(1083 mg、1.63 mmol)、THF(40 mL)を加え氷浴で0℃にして、SnCl2(4.2 g、22.3 mmol)および濃HCl(3 mL)を加えた。0℃で30分間撹拌し、水を加えて析出した固体を吸引ろ過することで、青緑色固体を得た(収量481.4 mg、収率50%)。化合物の同定を1H-NMRとHRMSで行い、化合物(4)であることを確認した(図9および10参照)。
【実施例】
【0056】
m.p.:225 ℃;
1H-NMR(300 MHz、CDCl3)δ(ppm):10.1(s、1H)、9.31(s、2H)、9.20(s、2H)、8.07-7.95(m、8H)、7.47-7.41(m、4H)、1.39-1.26(m、21H);
HRMS(FAB)(m/z):[M]+ C42H38OSi、理論値:586.26919、実測値:586.2699
【実施例】
【0057】
(合成例4)2,4-ジメチル-6-(4-((13-((トリイソプロピルシリル)エチニル)ペンタセン-6-イル)エチニル)フェニル)-1,2,4,5-テトラジナン-3-オン(化合物(5))の合成
この反応で得られる目的物は溶存酸素と光化学反応を起こす可能性があるので、暗所条件下で反応させた。メタノール(10 mL)、1,2-ジクロロエタン(10 mL)を100 mLナスフラスコに加え、脱気アルゴンバブリングした。暗所中でナスフラスコにアルミホイルを巻き、化合物(4)(99.8 mg、0.17 mmol)と1,1-ジメチルカルボニックジヒドラジド(61.2 mg、0.52mmol)を加え、3時間撹拌した。減圧濃縮し、水を加えてから超音波をあて固体を析出させ吸引ろ過し、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、原料をジクロロメタンで落としてから酢酸エチルで目的物を流しだした)で精製することで、青緑色固体を得た(収量79.8 mg、収率68%)。化合物の同定を1H-NMRとHRMSで行い、化合物(5)であることを確認した(図11および12参照)。
【実施例】
【0058】
m.p.:300 ℃以上;
1H-NMR(300MHz、CDCl3)δ(ppm):9.33(s、2H)、9.27(s、2H)、8.09-8.05(m、2H)、8.01-7.97(m、2H)、7.92(d、2H)、7.73(d、2H)、7.45-7.42(m、4H)、5.19(t、1H)、4.49(d、2H)、3.23(s、6H)、1.44-1.36(m、21H);
HRMS(FAB)(m/z):[M]+ C45H46N4OSi、理論値:686.34409、実測値:686.3426
【実施例】
【0059】
(合成例5)2,4-ジメチル-6-(4-((13-((トリイソプロピルシリル)エチニル)ペンタセン-6-イル)エチニル)フェニル)-フェルダジル-3-オン(化合物(1))の合成
この反応に用いる原料は溶存酸素と光化学反応を起こす可能性があるので、暗所条件下で反応させた。暗所中で50 mLナスフラスコにアルミホイルを巻き、化合物(5)(79.8 mg、0.12 mmol)、ジクロロメタン(10 mL)、セライト担持型炭酸銀(I)(Ag2CO3/セライト:138.2 mg、0.36 mmol)を加えた。TLCを確認しながら15時間撹拌し、ろ過、熱をかけずに減圧濃縮しながらヘキサンを加えて固体を析出させ、吸引ろ過により青緑色固体を得た(収量12.1 mg, 収率15%)。化合物の同定をHRMS(図13参照)と後で述べるESR、吸収スペクトルにより行い、化合物(1)であることを確認した。
【実施例】
【0060】
HRMS(FAB)(m/z):[M]+ C45H43 N 4OSi、理論値:683.32061、実測値:683.3217
【実施例】
【0061】
(試験例1)分子軌道計算
電子構造計算プログラム(CopyrightはGaussian Inc.製、製品名:Gaussian 09W[7])を用いて、化合物(1)の分子軌道計算を行った。
ab initio MO計算には、密度汎関数法(DFT)を使用し、密度汎関数の1つであるUB3LYPを選択し、基底関数6-31G(d,p)を用いて計算した。
計算には、パーソナルコンピュータを用い、その計算結果の可視化には、グラフィカル・ユーザー・インターフェイス(CopyrightはGaussian Inc.製、製品名:Gauss View 5.0)を用いた。
【実施例】
【0062】
(試験例2)ESR測定
化合物(1)の不対電子の確認、g値や超微細結合定数の決定を目的とし、溶媒にトルエンを用いて室温でESR測定を行った。
化合物(1)をトルエン溶媒に溶かし、得られた試料をESRチューブに4 mm程度加え、真空ラインに接続して凍結脱気(5分、10分、15分、20分、20分)して封管した。
測定には、電子スピン共鳴装置(ESR、日本電子株式会社製、型式:TE-300)を用い、超微細分裂のシミュレーションには、等方的シミュレーションプログラム(日本電子株式会社製)を用いた。
【実施例】
【0063】
(試験例3)紫外可視分光測定
紫外可視近赤外分光光度計(株式会社日立ハイテクサイエンス製、型式:UH4150)を用い、室温空気飽和条件下で、化合物(1)の紫外可視吸光スペクトルを測定し、モル吸光係数を決定した。
【実施例】
【0064】
モル吸光係数の決定には、次式:
【数1】
JP2019201200A_000015t.gif
[式中、Absは吸光度、εはモル吸光係数(M-1 cm-1)、cは濃度(M)、lは光路長(cm)、I0は入射光、Iは透過光を表す]
のLambert-Beerの法則を用いた。
溶媒として空気飽和のジクロロメタンを用い、化合物(1)の濃度を3.76 × 10-6から83 × 10-5の間で変化させた6種の試料を調製した。測定には10 mmの石英セルを用い、開始波長800 nm、終了波長250 nm、スリット幅0.5 nmとし、スキャンスピードを低速に設定した。
【実施例】
【0065】
(試験例4)蛍光分光測定
分光蛍光光度計(株式会社日立ハイテクサイエンス製、型式:F-7000)を用い、室温条件下で、化合物(1)および比較としてTIPS-Pnの蛍光スペクトルと励起スペクトルを測定した。
化合物(1)およびTIPS-Pnをそれぞれ空気飽和のジクロロメタンに溶かし、吸光度が0.05程度になるよう濃度を調整した試料を測定に用いた。
化合物(1)について、蛍光スペクトルを励起光源591 nmとして、励起スペクトルを観測波長670 nmとして測定した。
一方、TIPS-Pnについて、蛍光スペクトルを励起光源591 nmとして、励起スペクトルを観測波長652 nmとして測定した。
測定には、10 mm のガラス製四面セルを用いた。
蛍光分光測定では、測定範囲610 - 900 nm、励起波長591 nm、スリット幅10.0 nm、スキャンスピード240 nm / minに設定した。励起分光測定では、スリット幅1.0 nm、スキャンスピード240 nm / minに設定し、測定範囲を化合物(1)では342 nmから659 nmに、TIPS-Pnでは332 nmから640 nmに設定した。
【実施例】
【0066】
(試験例5-1)光耐久性の測定
紫外可視近赤外分光光度計(株式会社島津製作所、型式:UV-3600)と石英二面セルを用い、化合物(1)および比較として選択したTIPS-Pnの光安定性を以下の方法で調べた。
化合物(1)およびTIPS-Pnをそれぞれ空気飽和のジクロロメタンに溶かし、吸光度が1程度になるよう濃度を調整した試料を測定に用いた。
光源に500 W キセノンランプ(ウシオ電機株式会社製、型式:UI-501C)を用い、赤外線を取り除くために水フィルターを用いた。
ペンタセン骨格のππ*吸収帯を励起するために、中心波長650 nm、半値全幅50 nmのバンドパスフィルターを通した後、ライトガイドを用いてパワー37 mWの光を10 nmの石英製二面セルに入れた試料に照射した。測定では、開始波長800 nm、終了波長250 nm、スリット幅0.5 nmとし、スキャンスピードを低速に設定した。
化合物(1)について、初めは5分間隔で測定し、徐々に測定時間間隔を長くした。光照射はセルを分光器から出して外部で行い、5分間隔で光照射した吸収スペクトルの変化を測定した。光照射実験の概略図を図14に示す。
【実施例】
【0067】
(試験例5-2)光耐久性の測定
以下の条件とすること以外は試験例5-1に準じて試験した。
化合物(1)および比較としてのTIPS-Pn、ならびに比較としての下式で表される公知のペンタセン-ラジカル化合物(A1)および(A2)、ペンタセン-ビラジカル化合物(B1)をそれぞれ空気飽和のジクロロメタンに溶かし、吸光度が1程度になるよう濃度を調整した試料を測定に用いた。
光源に500 W キセノンランプ(ウシオ電機株式会社製、型式:UI-501C)を用い、赤外線を取り除くために水フィルターを用いた。
それぞれの化合物のペンタセン骨格のππ*吸収帯の0-0バンドを励起するために、化合物(1)およびTIPS-Pnでは中心波長650 nm、化合物(A1)、(A2)および(B1)では中心波長600 nmの半値全幅50 nmのバンドパスフィルターを通した後、それぞれライトガイドを用いてパワー37 mWの光を10 nmの石英製二面セルに入れた試料に照射した。測定では、開始波長800 nm、終了波長250 nm、スリット幅0.5 nmとし、スキャンスピードを低速に設定した。
【実施例】
【0068】
試験例5-1では、試験中に測定試料の溶媒の蒸発を防止するために、測定試料をテフロン(登録商標)シートとパラフィルムでシールして試験した。しかし、測定試料、特に化合物(1)の光耐久性は極めて高く、測定に長時間を要したため、溶媒の僅かな蒸発による吸光度の増大が生じ、これが系統的実験誤差、すなわち光耐久性の過大評価となっていたことが判明した。したがって、試験例5-2では、次の用法を採用して化合物(1)の再測定を実施した。また、TIPS-Pnに関しても再現性を確認した。
具体的には、石英セルに測定試料を入れた時点で、石英セルの外側面における測定試料液面部分に標線(線幅:約 0.5 mm)を記し、その液面を適時チェックし、液面の低下、すなわち溶媒の減少が僅かに(上記の標線幅程度)認められたら溶媒を追加しながら測定を行った。
【実施例】
【0069】
【化13】
JP2019201200A_000016t.gif
【実施例】
【0070】
(評価結果1)分子軌道計算
目的物である化合物(1)の基底二重項状態、および励起四重項状態についての軌道計算を行うことで得られた分子軌道の結果を示す。
図15は、化合物(1)の基底状態における最適化構造を示す図であり、ペンタセン骨格とオキソフェルダジル部位が同一平面上にあることがわかる。
図16は、化合物(1)の基底二重項状態でのスピン密度分布を示す図であり、基底二重項状態ではラジカルの不対電子がペンタセン骨格とTIPS-エチニル基を架橋する三重結合まで非局在化しており、エチニル基の導入により分子の平面性が向上した結果、不対電子の非局在化が生じていることがわかる。
図17は、化合物(1)の励起四重項状態でのスピン密度分布を示す図であり、励起四重項状態では、ペンタセン部位の励起三重項状態の不対電子も非局在化し、ラジカル部位のスピンとさらに強く相互作用していることがわかる。
【実施例】
【0071】
図18は、化合物(1)の基底状態でのエネルギー準位図およびその分子軌道のエネルギーを示す表であり、化合物(1)のα軌道の181番目はラジカルに局在したα-SOMOであり、182番目の軌道と183番目の軌道はそれぞれペンタセン部位のHOMOとLUMOに対応していることがわかり、この結果から、ペンタセンのHOMOよりラジカルの軌道がエネルギー的に低いことがわかる。
また、図19は、化合物(1)の励起四重項状態でのエネルギー準位図およびその分子軌道のエネルギーを示す表であり、励起四重項状態では、β軌道の181番目の軌道の電子が抜け、α軌道の183番目に占有される電子状態になることがわかる。
【実施例】
【0072】
(評価結果2)ESRスペクトル
図20は、室温トルエン溶媒における化合物(1)のESRスペクトルの実測スペクトル(上図)およびシミュレーション(下図)ならびにマイクロ波周波数とg値、超微細結合定数を示す表である。
表の値を用いたシミュレーションが、実測(観測)されたスペクトルとよく一致した。
13本の大きな分裂は、環境の異なる2種類の窒素によるもので、細かい分裂はメチル基の6つのプロトンによるものである。シミュレーションにより求めた各超微細結合定数の値は、Neugebauerらが報告した(F.A.NeugebauerおよびH.Fischer、「6-Oxoverdazyls」、Angew.Chem.,Int.Ed.、1980年、第19巻、p.724)、メチルオキソフェルダジルラジカルに対する電子-核二重共鳴測定により求められた値とよく一致した。このことから化合物(1)のラジカル種は、メチルオキソフェルダジルラジカルであると同定できた。
【実施例】
【0073】
(評価結果3)吸収・蛍光スペクトル
図21は、化合物(1)のモル吸光係数を示す図であり、具体的には、空気飽和のジクロロメタン溶媒中の化合物(1)の濃度を3.76 × 10-6から83 × 10-5の間で変化させた6種の試料を調製し、それらの吸光スペクトルの測定し、ペンタセン骨格のππ*吸収の極大値の波長658 nmにおける吸光度を、モル濃度に対してプロットしたものである。
Lambert-Beerの式を用い、吸光度の濃度依存性を、最小二乗法をフィットすることにより、その傾きから求めた658 nmのモル吸光係数はε658= 28100であった。
なお、相関関数は0.99927であり可視光領域におけるスペクトル形状の濃度依存性は観測されなかった。
【実施例】
【0074】
図22は、化合物(1)の吸収スペクトルを示す図であり、具体的には、室温条件下で化合物(1)のジクロロメタン溶液を用いた紫外可視吸収スペクトルである。
測定の結果、550 nm-700 nmにペンタセン骨格のππ*遷移由来と考えられる吸収体が観測された。また、非特許文献2によれば、TIPS-Pnのππ*吸収の極大値の波長は640 nmで、モル吸光係数はε640= 28900であることが報告されている。
【実施例】
【0075】
図23は、TIPS-Pn(下部プロット)および化合物(1)(上部プロット)の蛍光スペクトルを示す図であり、具体的には、室温条件下で化合物(1)およびTIPS-Pnのジクロロメタン溶液を用いた蛍光スペクトルである。
化合物(1)およびTIPS-Pnの蛍光の極大波長は、それぞれ668nmおよび652 nmであった。TIPS-Pnの極大波長での蛍光強度は化合物(1)の蛍光強度の約28倍であり、化合物(1)の蛍光が大きく減少していることから、系間交差が増強していることが予想できる。また、化合物(1)はエチニル基の導入によりπ共役が広がり、TIPS-Pnに比べて吸収・蛍光どちらも約15 nm長波長側にシフトしているものと考えられる。
【実施例】
【0076】
図24および25は、それぞれTIPS-Pnおよび化合物(1)の励起スペクトを示す図である。
何れの励起スペクトルも、吸収スペクトルと一致し、この結果から、図23の蛍光スペクトルは、それぞれTIPS-Pnおよび化合物(1)由来のものであることが確認できた。
【実施例】
【0077】
(評価結果3-1)紫外可視吸光スペクトル(光化学的安定性)
図26-1は、空気飽和条件での光照射に伴うTIPS-Pnの吸光スペクトルの時間変化を示す図である。これは、パワー37 mWの光を照射し、5分間隔で測定した結果である。光照射下で時間変化に伴って500 nm-680 nmの吸収帯が減少して、90分後にはペンタセン由来の吸収帯の吸光度が72%減少した。
一方、図27-1は、空気飽和条件での光照射に伴う化合物(1)の吸光スペクトルの時間変化を示す図である。TIPS-Pnと同様の条件での測定結果であるが、化合物(1)では、850分経過してもペンタセン由来の吸収帯の吸光度は5 %しか減少しなかった。この結果から、化合物(1)の光耐久性は、TIPS-Pnに比べて、著しく向上していることがわかる。
【実施例】
【0078】
図1-1は、化合物(1)およびTIPS-Pnの極大吸収波長の吸光度の時間変化を示す図であり、この図により、光化学反応による化合物の分解寿命を見積もった。
具体的には、次式:
【数2】
JP2019201200A_000017t.gif
[式中、kは光化学反応による分解速度定数を表す]を用いて、最小二乗法によるフィッティングを行った。
その結果、得られたkの値からTIPS-Pnの推定分解寿命(τdec = 1/k)を求めたところ、1.36±0.01時間であった。これに対して、ラジカル分子の化合物(1)の推定分解寿命(τdec = 1/k)は180±14時間で、TIPS-Pnの約132倍であること、すなわち光耐久性が向上したことがわかった。フィッティングから求めた各パラメータの値を表1-1に示す。
【実施例】
【0079】
【表1-1】
JP2019201200A_000018t.gif
【実施例】
【0080】
得られた結果から、図3のペンタセン-ビラジカル誘導体およびTIPS-Pnの光耐久性が無置換ペンタセンに比べて、それぞれ約4400倍および約1300倍であったことを踏まえると、化合物(1)ではTIPS-エチニル基の導入による立体的電子的効果とπラジカル基の導入による系間交差の増大という2つの異なるメカニズムの相乗効果が起きているものと考えられる。
【実施例】
【0081】
(評価結果3-2)紫外可視吸光スペクトル(光化学的安定性)
図26-2は、空気飽和条件での光照射に伴うTIPS-Pnの吸光スペクトルの時間変化を示す図である。これは、パワー37 mWの光を照射し、5分間隔で測定した結果である。光照射下で時間変化に伴って500 nm-680 nmの吸収帯が減少して、90分後にはペンタセン由来の吸収帯の吸光度が70%減少した。
一方、図27-2は、空気飽和条件での光照射に伴う化合物(1)の吸光スペクトルの時間変化を示す図である。TIPS-Pnと同様の条件での測定結果であるが、化合物(1)では、860分経過してもペンタセン由来の吸収帯の吸光度は20%しか減少しなかった。この結果から、化合物(1)の光耐久性は、TIPS-Pnに比べて、著しく向上していることがわかる。
【実施例】
【0082】
図1-2は、化合物(1)およびTIPS-Pnの極大吸収波長の吸光度の時間変化を示す図であり、この図により、光化学反応による化合物の分解寿命を見積もった。
具体的には、評価結果3-1と同様に数式を用いて最小二乗法によるフィッティングを行った。
その結果、得られたkの値からTIPS-Pnの推定分解寿命(τdec = 1/k)を求めたところ、1.425±0.004時間であった。これに対して、ラジカル分子の化合物(1)の推定分解寿命(τdec = 1/k)は60.2±1.2時間で、TIPS-Pnの約42倍であること、すなわち光耐久性が向上したことがわかった。また、公知のペンタセン-安定ラジカル系よりもずっと光耐久性が向上していることも解った。
なお、再測定により得られた図1-2は、図1-1から系統的実験誤差が差し引かれ、外見上、光耐久性の評価が低下しているが、従来の化合物よりは格段に優れた光耐久性を有していることがわかる。
フィッティングから求めた各パラメータの値を表1-2に示す。
【実施例】
【0083】
【表1-2】
JP2019201200A_000019t.gif
【実施例】
【0084】
(評価結果4)安定性の要因
TIPS-エチニル基は、嵩高く電子吸引性の強い置換基であるため、ペンタセンの6,13位の炭素の電子を吸引することで酸素との反応活性を低下させ、その結果、ペンタセンの光耐久性を向上させているものと考えられる。また、この効果は、ダイマー形成を防ぐ方向にも同様に働いているものと考えられる。このように、TIPS-エチニル基の導入は、電子状態を変化させることで、その化合物を安定化させる手法の代表例である。例えば、TIPS-Pnは、無置換ペンタセンに比べて、約500~1300倍の安定性を有することが報告されている(非特許文献2参照)。
一方、光照射により励起一重項状態になったペンタセンにおいて、有機ラジカルの導入により励起三重項への非常に速い系間交差が起こり、この三重項状態も、ラジカル付加によって基底状態への失活が加速されることが報告されている。このπラジカルを付加する方法は、電子状態を変えずにペンタセン骨格の酸素との反応を抑制することができ、酸素との反応性とダイマー形成の両方を防ぐ方向にものと考えられる(特許文献1参照)。
【実施例】
【0085】
本発明の化合物(1)は、TIPS-Pnに比べて、ペンタセン由来の蛍光が大きく消失していることから、系間交差が増強され、酸素との反応活性の高い励起一重項状態が失活しているものと考えられる。また、スピン密度分布によれば、本発明の化合物(1)は、励起四重項状態が強く非局在化し、ペンタセン部位とラジカル部位との間でのスピン交換効果が起こり易くなり、系間交差が増強されているものとも考えられる。
化合物(1)で見出された著しい光耐久性の向上は、上記のTIPS-エチニル基付加による反応活性部位の電子密度の低下と、ラジカル付加による系間交差過程の増強という2つの異なるメカニズムの相乗効果によるものであると考えられる。さらに、ラジカル部位とペンタセンを三重結合で架橋することで分子全体の平面性が向上していることも系間交差の増大を加速させているものと考えられる。
図面
【図1-1】
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【図1-2】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26-1】
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【図26-2】
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【図27-1】
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【図27-2】
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