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明細書 :細胞培養用流体チップ、培養容器及び培養方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 令和元年11月21日(2019.11.21)
発明の名称または考案の名称 細胞培養用流体チップ、培養容器及び培養方法
国際特許分類 C12M   3/00        (2006.01)
C12N   5/071       (2010.01)
FI C12M 3/00 A
C12N 5/071
国際予備審査の請求
全頁数 29
出願番号 特願2018-567333 (P2018-567333)
国際出願番号 PCT/JP2018/001402
国際公開番号 WO2018/147032
国際出願日 平成30年1月18日(2018.1.18)
国際公開日 平成30年8月16日(2018.8.16)
優先権出願番号 2017022223
2017159658
優先日 平成29年2月9日(2017.2.9)
平成29年8月22日(2017.8.22)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DJ , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JO , JP , KE , KG , KH , KN , KP , KR , KW , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT
発明者または考案者 【氏名】萩原 将也
出願人 【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
個別代理人の代理人 【識別番号】100065248、【弁理士】、【氏名又は名称】野河 信太郎
【識別番号】100159385、【弁理士】、【氏名又は名称】甲斐 伸二
【識別番号】100163407、【弁理士】、【氏名又は名称】金子 裕輔
【識別番号】100166936、【弁理士】、【氏名又は名称】稲本 潔
審査請求 未請求
テーマコード 4B029
4B065
Fターム 4B029AA08
4B029AA27
4B029BB11
4B029CC02
4B029CC10
4B029GA08
4B029GB02
4B029GB03
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4B029GB09
4B065AA93X
4B065AC20
4B065BC42
4B065BC46
4B065BC50
4B065CA46
4B065CA60
要約 本発明は、準備段階で培養細胞の活性が低下することを抑制することができ、かつ、培養した細胞組織を流体チップから取り外して観察することを可能とする細胞培養用流体チップを提供する。本発明の細胞培養用流体チップは、基材と、蓋部材とを備え、前記基材及び前記蓋部材は、前記基材と前記蓋部材とを接着することにより前記基材と前記蓋部材との間に第1流路と、第1培養容器を着脱可能に収容するための第1収容部が形成されるように設けられ、第1培養容器は、細胞又は細胞組織を包埋する培養ゲルを内包し、かつ、少なくとも一部がハイドロゲル又は多孔質体からなり、前記基材及び前記蓋部材は、第1流路に流す培養液の少なくとも一部が第1収容部に供給されるように設けられたことを特徴とする。
特許請求の範囲 【請求項1】
基材と、蓋部材とを備え、
前記基材及び前記蓋部材は、前記基材と前記蓋部材とを接着することにより前記基材と前記蓋部材との間に第1流路と、第1培養容器を着脱可能に収容するための第1収容部とが形成されるように設けられ、
第1培養容器は、細胞又は細胞組織を包埋する培養ゲルを内包し、かつ、少なくとも一部がハイドロゲル又は多孔質体からなり、
前記基材及び前記蓋部材は、第1流路に流す培養液の少なくとも一部が第1収容部に供給されるように設けられたことを特徴とする細胞培養用流体チップ。
【請求項2】
前記基材又は前記蓋部材は、第1注入口と第1排出口とを有し、
第1流路は、第1注入口から注入された培養液が第1流路を流れ第1排出口から流出するように設けられた請求項1に記載の流体チップ。
【請求項3】
第1収容部は、第1培養容器を嵌め込むことができるように設けられた受け口を有する請求項1又は2に記載の流体チップ。
【請求項4】
前記基材及び前記蓋部材は、前記基材と前記蓋部材とを接着することにより前記基材と前記蓋部材との間に第2流路が形成されるように設けられ、
前記基材又は前記蓋部材は、第2注入口と、第2排出口とを有し、
第2流路は、第2注入口から注入された培養液又は生理食塩水が第2流路を流れ第2排出口から流出するように設けられ、
前記基材及び前記蓋部材は、第1流路に流す培養液の少なくとも一部と、第2流路に流す培養液又は生理食塩水の少なくとも一部との両方が第1収容部に供給されるように設けられた請求項1~3のいずれか1つに記載の流体チップ。
【請求項5】
第1収容部に収容された第1培養容器をさらに備え、
前記蓋部材は、前記蓋部材の一部が第1流路の流路壁又は前記収容部の内壁となるように設けられた請求項1~4のいずれか1つに記載の流体チップ。
【請求項6】
第1培養容器は、ハイドロゲル又は多孔質体からなる透光性の窓部を有し、
前記ハイドロゲルは、アガロースゲル、ポリアクリルアミドゲル、アルギン酸ナトリウム、コラーゲンゲルのうち少なくとも1つを含み、
前記多孔質体は、多孔質材料シート、メッシュ、エッチングシート、不織布、織布のうち少なくとも1つを含む請求項1~5のいずれか1つに記載の流体チップ。
【請求項7】
前記基材及び前記蓋部材は、前記基材と前記蓋部材とを接着することにより前記基材と前記蓋部材との間に第2培養容器を着脱可能に収容するための第2収容部が形成されるように設けられ、
第2培養容器は、細胞又は細胞組織を包埋する培養ゲルを内包し、かつ、少なくとも一部がハイドロゲル又は多孔質体からなり、
前記基材及び前記蓋部材は、第1流路に流す培養液が第1収容部に収容した第1培養容器の内部に浸透し供給されるように設けられ、かつ、第1培養容器の内部を浸透流として流れた後の培養液が第2収容部に収容した第2培養容器の内部に浸透し供給されるように設けられた請求項1又は2に記載の流体チップ。
【請求項8】
第1収容部は、第1培養容器が第1収容部に嵌合するように設けられ、
第2収容部は、第2培養容器が第2収容部に嵌合するように設けられた請求項7に記載の流体チップ。
【請求項9】
第1収容部に収容された第1培養容器をさらに備え、
第1培養容器は、各面に開口を有する多面体形状の第1枠部と、複数の開口のうち少なくとも1つの開口に設けられた第1窓部と、第1枠部及び第1窓部の内部に配置された培養ゲルとを有し、
第1窓部は、透光性のハイドロゲル又は多孔質体からなり、
第1収容部は、培養液が流入する第1流入口と、培養液が流入する第1流出口とを有し、
第1枠部の複数の開口は、第1窓部が設けられていない第1及び第2開口を含み、
第1収容部及び第1培養容器は、第1枠部の第1開口と第1流入口とが隣接するように設けられ、かつ、第1枠部の第2開口と第1流出口とが隣接するように設けられた請求項7又は8に記載の流体チップ。
【請求項10】
第2収容部に収容された第2培養容器をさらに備え、
第2培養容器は、各面に開口を有する多面体形状の第2枠部と、複数の開口のうち少なくとも1つの開口に設けられた第2窓部と、第2枠部及び第2窓部の内部に配置された培養ゲルとを有し、
第2窓部は、透光性のハイドロゲル又は多孔質体からなり、
第2収容部は、培養液が流入する第2流入口と、培養液が流入する第2流出口とを有し、
第2枠部の複数の開口は、第2窓部が設けられていない第3及び第4開口を含み、
第2収容部及び第2培養容器は、第2枠部の第3開口と第2流入口とが隣接するように設けられ、かつ、第2枠部の第4開口と第2流出口とが隣接するように設けられた請求項7~9のいずれか1つに記載の流体チップ。
【請求項11】
前記基材及び前記蓋部材は、前記基材と前記蓋部材とを接着することにより前記基材と前記蓋部材との間に第3培養容器を着脱可能に収容するための第3収容部が形成されるように設けられ、
第3培養容器は、細胞又は細胞組織を包埋する培養ゲルを内包し、かつ、少なくとも一部がハイドロゲル又は多孔質体からなり、
前記基材及び前記蓋部材は、第1流路に流す培養液が第1収容部に収容した第1培養容器の内部に浸透し供給されるように設けられ、かつ、第1培養容器の内部を浸透流として流れた後の培養液が第2収容部に収容した第2培養容器の内部及び第3収容部に収容した第3培養容器の内部に浸透し供給されるように設けられた請求項7~10のいずれか1つに記載の流体チップ。
【請求項12】
基材を備え、
前記基材は、第1流路と、第1培養容器を着脱可能に収容するための第1収容部とを有し、
第1培養容器は、細胞又は細胞組織を包埋する培養ゲルを内包し、かつ、少なくとも一部がハイドロゲル又は多孔質体からなり、
前記基材は、第1流路に流す培養液の少なくとも一部が第1収容部に供給されるように設けられたことを特徴とする細胞培養用流体チップ。
【請求項13】
各面に開口を有する多面体の枠部と、各開口にそれぞれ設けられた窓部とを有し、
前記枠部及び前記窓部は、前記枠部及び前記窓部の内部に培養ゲルを内包できるように設けられ、
前記窓部は、透光性のハイドロゲル又は多孔質体からなり、
少なくとも1つの前記窓部は、前記枠部の外側に突出した凸部を有することを特徴とする培養容器。
【請求項14】
細胞又は細胞組織を包埋する培養ゲルを内包し、かつ、少なくとも一部がハイドロゲル又は多孔質体からなる第1培養容器内において前記細胞又は細胞組織を準備培養するステップと、
準備培養した細胞又は細胞組織を内包した第1培養容器を細胞培養用流体チップの第1収容部に収容するステップと、
第1収容部に収容した第1培養容器に内包した細胞又は細胞組織に第1流路を介して培養液を供給するステップとを含む培養方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養用流体チップ、培養容器及び培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
培養ゲル中で細胞組織を立体培養することにより皮膚の三次元培養組織などを形成する研究が行われている(例えば特許文献1参照)。この研究では、培養ゾルに皮膚線維芽細胞を加えた細胞懸濁ゾルを培養皿に入れ、炭酸ガスインキュベータ内に2時間静置して細胞懸濁ゾルをゲル化している。また、この培養皿に接続されたシリコンチューブで培養皿に培養液を供給しまた他のシリコンチューブで培養液を排出することにより細胞組織を灌流培養している。このように細胞組織を灌流培養することにより、培養ゲル中の細胞組織に酸素や栄養素などを連続的に供給することができ、生体内に近い培養環境で細胞組織を培養することができる。
また、流体チップで細胞培養する研究が行われている(例えば、特許文献2参照)。流体チップを用いて細胞を培養することにより、流路設計が可能となり、精密・定量的な細胞培養環境の制御が可能になる。
また、マイクロ流体デバイスを活用して、生体内における細胞の微小環境や血流などの動的環境を模倣する研究が行われている(例えば、特許文献3)。このようなマイクロ流体デバイスは、生体機能チップ(Organ-on-a-chip又はBody-on-a-chip)と呼ばれ、組織間又は臓器間の相互作用を直接的に評価するデバイスとして、創薬などにおける前臨床試験での活用が期待されている。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開2014-113118号公報
【特許文献2】特開2008-519598号公報
【特許文献3】特表2016-533184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
培養皿を用いた灌流培養では、流路設計が難しく流体制御が困難であり、精密・定量的な細胞培養環境の制御ができない。
また、従来の流体チップを用いた細胞培養では、培養の準備として細胞及び培養ゾルの流体チップへの注入、架橋(ゲル化)などを流体チップ内で行う必要があり、細胞培養を始めるまでに時間を要する。このため、細胞培養の準備段階で培養細胞の活性が低下する場合があり、実験結果のばらつきの要因となっている。また、流体チップ内で培養した細胞組織を傷付けずに回収し、保存することが難しい。さらに、細胞組織の観察方向が流体チップの上側又は下側に限定され、培養した細胞組織の三次元構造を把握することが難しい。
また、従来の生体機能チップでは、マイクロチップの流路内において複数種類の細胞を培養し、生体内の動的環境を再現する必要があるため、生体内環境の再現することに多くの労力と時間を必要とする。また、すべての細胞組織が劣化していない状態で複雑な生体内環境を再現することは難しい。また、マイクロチップ内で複数種類の細胞を培養する場合、細胞の種類ごとに培養環境を変えることが難しく、効率的に細胞を培養することが難しい。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、準備段階で培養細胞の活性が低下することを抑制することができ、かつ、培養した細胞組織を流体チップから取り外して観察することを可能とする細胞培養用流体チップを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、基材と、蓋部材とを備え、前記基材及び前記蓋部材は、前記基材と前記蓋部材とを接着することにより前記基材と前記蓋部材との間に第1流路と、第1培養容器を着脱可能に収容するための第1収容部とが形成されるように設けられ、第1培養容器は、細胞又は細胞組織を包埋する培養ゲルを内包し、かつ、少なくとも一部がハイドロゲル又は多孔質体からなり、前記基材及び前記蓋部材は、第1流路に流す培養液の少なくとも一部が第1収容部に供給されるように設けられたことを特徴とする細胞培養用流体チップを提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の流体チップに含まれる基材及び蓋部材は、基材と蓋部材とを接着することにより基材と蓋部材との間に第1流路と、第1培養容器を着脱可能に収容するための第1収容部が形成されるように設けられる。このことにより、流体チップの内部に第1流路と第1収容部とを形成することができる。
第1流路に流す培養液の少なくとも一部が第1収容部に供給されるように設けられる。また、第1収容部に収容される第1培養容器は、細胞又は細胞組織を包埋する培養ゲルを内包し、かつ、少なくとも一部がハイドロゲル又は多孔質体からなる。このため、第1流路に培養液を流すことにより第1収容部に培養液を供給することができ、培養液に含まれる栄養素、タンパク質、化学物質、酸素などを第1培養容器(ハイドロゲル又は多孔質体)及び培養ゲルを介して細胞組織に供給することができ、培養容器内の細胞組織を培養することができる。また、培養液に含まれる刺激因子、成長因子などを細胞組織に供給することができ、刺激因子、成長因子などの細胞組織への影響を調べることができる。また、第1流路に培養液を流すことにより、生体内環境(血流など)を再現することが可能になる。
第1収容部は、第1培養容器を着脱可能に収容できるように設けられるため、第1収容部に第1培養容器を装着したり取り外したりすることができる。このため、予め準備した第1培養容器を任意のタイミングで第1収容部に装着することができ、流体チップ内で培養を始める前に細胞組織が劣化することを抑制することができる。また、実験時間を短縮することができ、実験結果にばらつきが生じることを抑制することができる。また、第1培養容器内の細胞又は細胞組織を最適な培養環境で準備培養した後、第1培養容器を第1収容部に装着することができるため、劣化していない細胞組織を流体チップ内に配置することができる。このことにより、流体チップに複数の種類の細胞組織を配置する場合でも、それぞれの細胞組織が劣化していない状態で流体チップ内に配置することができ、生体内環境を再現性よく再現することができる。また、多種の細胞組織を含む複雑な生体内環境であっても容易に再現することが可能である。さらに、複数の第1培養容器でそれぞれ細胞又は細胞組織を準備培養した後、準備培養した複数の第1培養容器から良好な第1培養容器を選抜して流体チップ内に配置することができる。このことにより、実験に適した細胞又は細胞組織を流体チップ内に配置することができ、生体内環境を再現性よく再現することができる。
第1収容部に収容した第1培養容器は、流体チップ内での細胞培養を終え、蓋部材を基材から取り外した後に第1収容部から取り外すことが可能であり、流体チップから取り外した状態で培養した細胞組織を顕微鏡などで観察することができる。このため、細胞組織を様々な方向から観察することが可能であり、培養した細胞組織の三次元構造を把握することが可能である。また、流体チップ内で培養した細胞組織を容易に傷付けずに回収することができ、保存することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の一実施形態の流体チップの概略上面図である。
【図2】(a)は図1の破線A-Aにおける流体チップの概略断面図であり、(b)は図1の破線B-Bにおける流体チップの概略断面図であり、(c)は図1の一点鎖線C-Cにおける流体チップの概略断面図であり、(d)は図1の一点鎖線D-Dにおける流体チップの概略断面図である。
【図3】本発明の一実施形態の流体チップの概略上面図である。
【図4】(a)は図3の破線E-Eにおける流体チップの概略断面図であり、(b)は図3の破線F-Fにおける流体チップの概略断面図であり、(c)は図3の一点鎖線G-Gにおける流体チップの概略断面図であり、(d)は図3の一点鎖線H-Hにおける流体チップの概略断面図である。
【図5】(a)(b)はそれぞれ本発明の一実施形態の流体チップの概略上面図である。
【図6】本発明の一実施形態の流体チップの概略上面図である。
【図7】本発明の一実施形態の流体チップの概略断面図である。
【図8】図7の破線で囲んだ範囲Hにおける流体チップの概略拡大図である。
【図9】(a)(b)はそれぞれ本発明の一実施形態の流体チップの概略上面図である。
【図10】本発明の一実施形態の流体チップの収容部に収容される培養容器の概略斜視図である。
【図11】図10の破線X-Xにおける培養容器の概略断面図である。
【図12】本発明の一実施形態の培養容器の概略断面図である。
【図13】本発明の一実施形態の流体チップの収容部に収容される培養容器の概略断面図である。
【図14】(a)は作製した培養容器の写真であり、(b)(c)はそれぞれ作製した培養容器を収容した流体チップの写真である。
【図15】細胞培養実験で準備培養した細胞を内包する培養容器を複数収容したマルチウェルプレートの写真である。
【図16】各種培養容器を収容した流体チップの写真である。
【図17】ドキソルビシンを含む培養液で培養する前と後における各種細胞の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の細胞培養用流体チップは、基材と、蓋部材とを備え、前記基材及び前記蓋部材は、前記基材と前記蓋部材とを接着することにより前記基材と前記蓋部材との間に第1流路と、第1培養容器を着脱可能に収容するための第1収容部が形成されるように設けられ、第1培養容器は、細胞又は細胞組織を包埋する培養ゲルを内包し、かつ、少なくとも一部がハイドロゲル又は多孔質体からなり、前記基材及び前記蓋部材は、第1流路に流す培養液の少なくとも一部が第1収容部に供給されるように設けられたことを特徴とする。

【0009】
本発明の流体チップに含まれる基材又は蓋部材は第1注入口と第1排出口とを有することが好ましく、第1流路は、第1注入口から注入された培養液が第1流路を流れ第1排出口から流出するように設けられることが好ましい。第1注入口に培養液を注入することにより、第1流路に培養液を流すことができる。
第1収容部は、第1培養容器を嵌め込むことができるように設けられた受け口を有することが好ましい。この受け口に培養容器を嵌め込むことにより収容部に培養容器を固定することができる。また、受け口から培養容器を抜き出すことにより収容部から培養容器を取り外すことができる。

【0010】
前記基材及び前記蓋部材は、基材と蓋部材とを接着することにより基材と蓋部材との間に第2流路が形成されるように設けられることが好ましく、基材又は蓋部材は、第2注入口と、第2排出口とを有することが好ましい。また、第2流路は、第2注入口から注入された培養液又は生理食塩水が第2流路を流れ第2排出口から流出するように設けられることが好ましい。また、基材及び蓋部材は、第1流路に流す培養液の少なくとも一部と、第2流路に流す培養液又は生理食塩水の少なくとも一部との両方が第1収容部に供給されるように設けられることが好ましい。このことにより、第1流路と第2流路とに成分の異なる培養液又は生理食塩水を流すことが可能になり、収容部に培養液成分の濃度勾配を形成することができる。このため、濃度勾配による培養細胞への影響を調べることができる。
本発明の流体チップは、第1収容部に収容された第1培養容器と、基材に接着する蓋部材とをさらに備えることが好ましく、蓋部材の一部が第1流路の流路壁又は前記収容部の内壁となるように設けられることが好ましい。このことにより、培養容器中の細胞組織を培養することができる。また、培養液が漏洩することを防止することができる。また、蓋部材を基材に接着する前に収容部に培養容器を装着することができ、蓋部材を基材から剥ぎ取った後に収容部から培養容器を取り外すことができる。

【0011】
前記培養容器はハイドロゲル又は多孔質体からなる透光性の窓部を有することが好ましく、前記ハイドロゲルは、アガロースゲル、ポリアクリルアミドゲル、アルギン酸ナトリウム、コラーゲンゲルのうち少なくとも1つを含み、前記多孔質体は、多孔質材料シート、メッシュ、エッチングシート、不織布、織布のうち少なくとも1つを含むことが好ましい。このことにより、培養液に含まれる栄養素、タンパク質、酸素などを窓部及び培養ゲルを介して細胞組織に供給することができる。また、窓部から培養容器内の細胞組織を顕微鏡などで観察することができる。
前記基材及び前記蓋部材は、基材と蓋部材とを接着することにより基材と蓋部材との間に第2培養容器を着脱可能に収容するための第2収容部が形成されるように設けられることが好ましい。また、第2培養容器は、細胞又は細胞組織を包埋する培養ゲルを内包し、かつ、少なくとも一部がハイドロゲル又は多孔質体からなることが好ましい。前記基材及び前記蓋部材は、第1流路に流す培養液が第1収容部に収容した第1培養容器の内部に浸透し供給されるように設けられ、かつ、第1培養容器の内部を浸透流として流れた後の培養液が第2収容部に収容した第2培養容器の内部に浸透し供給されるように設けられることが好ましい。このことにより、第1培養容器の内部の細胞組織からの細胞分泌物を培養液と共に第2培養容器の内部の細胞組織に供給することができ、第1培養容器内の細胞組織と第2培養容器内の細胞組織の相互作用を調べることができる。
第1収容部は第1培養容器が第1収容部に嵌合するように設けられることが好ましく、第2収容部は第2培養容器が第2収容部に嵌合するように設けられることが好ましい。このことにより、収容部と培養容器との間に培養液が流れる隙間ができることを抑制することができ、培養容器の内部に効率よく培養液を浸透流として流すことができる。

【0012】
また、本発明は、基材を備える細胞培養用流体チップであって、前記基材は、第1流路と、培養容器を着脱可能に収容するための収容部とを有し、前記培養容器は、細胞又は細胞組織を包埋する培養ゲルを内包し、かつ、少なくとも一部がハイドロゲル又は多孔質体からなり、前記基材は、第1流路に流す培養液の少なくとも一部が前記収容部に供給されるように設けられたことを特徴とする細胞培養用流体チップも提供する。
また、本発明は、各面に開口を有する多面体の枠部と、各開口にそれぞれ設けられた窓部とを有し、枠部及び窓部は、枠部及び窓部の内部に培養ゲルを内包できるように設けられ、窓部は、透光性のハイドロゲル又は多孔質体からなり、少なくとも1つの窓部は、枠部の外側に突出した凸部を有することを特徴とする培養容器も提供する。
また、本発明は、細胞又は細胞組織を包埋する培養ゲルを内包し、かつ、少なくとも一部がハイドロゲル又は多孔質体からなる第1培養容器内において前記細胞又は細胞組織を準備培養するステップと、準備培養した細胞又は細胞組織を内包した第1培養容器を細胞培養用流体チップの第1収容部に収容するステップと、第1収容部に収容した第1培養容器に内包した細胞又は細胞組織に第1流路を介して培養液を供給するステップとを含む培養方法も提供する。

【0013】
以下、図面を用いて本発明の一実施形態を説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
図1~13は本実施形態の細胞培養用流体チップ及び培養容器に関する図面で有り、詳細は上述の図面の説明と同様である。また、図1、2に示した流体チップ30は、培養容器9が装着されておらず、かつ、蓋部材3が接着されていない流体チップ30であり、図3、4に示した流体チップ30は、図1、2に示した流体チップ30に培養容器9を装着し、基材2に蓋部材3を接着し、流路4a、4bに培養液13を流した状態の流体チップ30である。また、図5(a)は培養容器9が装着されていない状態の流体チップ30の概略上面図であり、図5(b)は培養容器9を装着した状態の流体チップ30の概略上面図である。また、図6に示した流体チップ30は、培養容器9が装着されておらず、かつ、蓋部材3が接着されていない流体チップ30であり、図7に示した流体チップ30は、図6に示した流体チップ30に培養容器9a、9bを装着し、基材2に蓋部材3を接着し、流路4に培養液13を流した状態の流体チップ30である。なお、図7は図6の破線G-Gにおける流体チップ30の断面図である。また、図9(a)(b)に示した流体チップ30は、培養容器9が装着されておらず、かつ、蓋部材3が接着されていない流体チップ30である。

【0014】
本実施形態の細胞培養用流体チップ30は、基材2と、蓋部材3とを備え、基材2及び蓋部材3は、基材2と蓋部材3とを接着することにより基材2と蓋部材3との間に第1流路4と、培養容器9を着脱可能に収容するための収容部8が形成されるように設けられ、
培養容器9は、細胞又は細胞組織11を包埋する培養ゲル12を内包し、かつ、少なくとも一部がハイドロゲル15又は多孔質体15からなり、基材2及び蓋部材3は、第1流路4に流す培養液の少なくとも一部が収容部8に供給されるように設けられたことを特徴とする。
また、本実施形態の細胞培養用流体チップ30は、基材2を備え、基材2は、第1流路4と、培養容器9を着脱可能に収容するための収容部8とを有し、培養容器9は、細胞又は細胞組織11を包埋する培養ゲル12を内包し、かつ、少なくとも一部がハイドロゲル15又は多孔質体15からなり、基材2は、第1流路4に流す培養液13の少なくとも一部が収容部8に供給されるように設けられたことを特徴とする。
以下、本実施形態の細胞培養用流体チップ30について説明する。

【0015】
細胞培養用流体チップ30は、流路4に培養液13を流すことにより細胞又は細胞組織11を培養することが可能である流体チップである。また、細胞培養用流体チップ30は、マイクロ流体チップであってもよく、灌流培養装置であってもよく、培養環境制御装置であってもよく、生体機能チップであってもよい。
流体チップ30は、基材2を備える。基材2に、流路4、収容部8などを形成することができる。基材2の材料は、シリコーンゴム(例えばPDMS)、アクリル樹脂(例えばPMMA)、ポリカーボネートなどの高分子材料であってもよく、ガラスであってもよい。基材2の材料は透光性を有することが好ましい。このことにより、培養中の細胞組織11を容易に観察することができる。

【0016】
流体チップ30は、蓋部材3を備えることができる。流路4、収容部8が開放型である場合又は流路4、収容部8が基材2の内部に形成されている場合、蓋部材3は省略することができる。
蓋部材3は、例えばガラス板である。このことにより、蓋部材3側から培養容器9内の細胞組織11を観察することができ、流体チップ30中で培養している細胞組織11を観察することができる。

【0017】
蓋部材3は、流体チップ30で細胞培養をする際に基材2に接着される部材である。基材2と蓋部材3は、基材2の粘着性により接着されてもよく、クリップなどを用いて基材2と蓋部材3と圧接することにより基材2と蓋部材3とを接着してもよく、両面テープを用いて基材2と蓋部材3とを接着してもよく、基材2又は蓋部材3の接着面をプラズマエッチング処理することにより基材2と蓋部材3とを接着してもよい。これらの方法により、接着剤や加熱溶融処理などを用いずに基材2と蓋部材3とを接着することができる。また、基材2と蓋部材3の間に形成した流路4が閉塞することを防止することができる。また、基材2と蓋部材3との間にすき間が形成されることを防止することができ、培養液13が漏洩することを防止することができる。

【0018】
蓋部材3は、収容部8に培養容器9を収容した後に基材2と接着することができる。また、蓋部材3は、蓋部材3の一部が流路4の流路壁及び収容部8の内壁となるように設けることができる。
また、蓋部材3は、蓋部材3を基材2から剥ぎ取る又は取り外すことができるように設けることができる。このことにより、流体チップ30での細胞培養後に、流体チップ30から培養容器9を取り出すことができる。また、流体チップ30中の細胞組織11を回転させることも可能である。

【0019】
基材2及び蓋部材3は、基材2と蓋部材3とを接着することにより基材2と蓋部材3との間に少なくとも1つの流路4が形成されるように設けることができる。また、基材2が、少なくとも1つの流路4を有してもよい。流路4は培養液13又は生理食塩水が流れる流路である。流路4は例えば基材2に形成された溝であってもよい。又、流路4は蓋部材3に形成された溝であってもよい。溝状の流路4の上部は、基材2と蓋部材3を接着することにより塞ぐことができる。また、流路4は、流体チップ30の内部流路であってもよい。
基材2及び蓋部材3は、その間に複数の流路4が形成されるように設けることができる。このことにより、それぞれの流路4に成分の異なる培養液13を流すことができる。また、1つの流路4aに培養液13を流し、他の流路4bに生理食塩水を流すことができる。例えば、図1~4に示した流体チップ30のように、基材2は2つの流路4a、4bを有してもよい。また、図5に示した流体チップ30のように、基材2は、3つの流路4a、4b、4cを有することができる。また、図6~8に示した流体チップ30のように、流路4は、培養容器9の内部に培養液13が浸透流として流れるように設けることができる。また、図9(a)(b)に示した流体チップ30のように、流路4は複数の支流に枝分かれしていてもよい。
流路4は、例えば、基材2又は蓋部材3を機械加工することにより形成されてもよく、基材2又は蓋部材3の型取り成形により形成されてもよく、基材2又は蓋部材3のウェットエッチングにより形成されてもよい。

【0020】
流路4は、一方の端に注入口17を有し他方の端に排出口18を有することができる。このことにより注入口17に注入した培養液13が流路4を流れ排出口18から流出することができる。チューブ23aを注入口17に接続することができ、チューブ23bを排出口18に接続することができる。また、シリンジポンプから送液される培養液13をチューブ23aを介して注入口17に注入することができる。また、温度制御装置により温度制御された培養液13を注入口17に注入することができる。注入口17及び/又は排出口18は基材2に設けてもよく、蓋部材3に設けてもよい。また、注入口17から培養液と共に薬(例えば、抗生物質など)を注入することができる。このことにより、培養容器9の内部の細胞組織11に薬を供給することができ、薬の細胞組織11への影響を調べることができる。また、薬が細胞組織11に供給されることにより、細胞組織11から分泌される細胞分泌物の他の細胞組織11への影響を調べることができる。
例えば、図1~4に示した流体チップ30では、注入口17aから流入した培養液13aが流路4aを流れ排出口18aから排出され、注入口17bから流入した培養液13bが流路4bを流れ排出口18bから排出される。

【0021】
流体チップ30が複数の流路4を備える場合、複数の流路4は、排出口18を共有してもよい。例えば、第1流路4を流れる培養液と第2流路4を流れる培養液13とが合流し、合流した培養液13が1つの排出口18から流出するように基材を設けてもよい。
図6に示した流体チップ30のように、流体チップ30は流路4の下流側から培養液の一部を上流側に戻して循環させる循環流路5を備えてもよい。この循環流路5に逆流防止弁6を設けるなどして、流路4および循環流路5に培養液を循環させることにより、生体内における血液循環を再現することが可能になる。

【0022】
基材2及び蓋部材3は、基材2と蓋部材3とを接着することにより基材2と蓋部材3との間に培養容器9を着脱可能に収容するための収容部8が少なくとも1つ形成されるように設けることができる。収容部8を基材2と蓋部材3との間に設けて収容部8の上部が蓋部材3で閉じられた構成にすれば、外部から流路4及び収容部8に加圧しながら培養液13を供給することができる。また、注入口17に注入する培養液の圧力を調整することにより、流路4に流す培養液の流速を調整することも可能である。また、例えば、流路4と収容部8との間に変形可能な材料で壁を設け、流路4に培養液13などを流す圧力を変化させることにより、流路4と収容部8との間の壁を変形させ、収容部8に格納された培養容器9に力学刺激を与えることも可能である。
また、基材2が、少なくとも1つの収容部8を備えてもよい。例えば、基材2に収容部用の溝を形成して蓋部材3で上部を塞ぐことにより収容部8を設けてもよく、基材2に収容部用の溝を形成ことにより上部が開放された状態の収容部8を設けてもよい。

【0023】
収容部8は、培養容器9を着脱可能に収容するための空間(又はチャンバー)である。収容部8は、基材2に形成された溝であってもよく、蓋部材3に形成された溝であってもよい。このことにより、溝の上側から収容部8に培養容器9を装着したり、収容部8に収容した培養容器9を取り外したりすることができる。この溝状の収容部8の上部は、基材2と蓋部材3を接着することにより塞ぐことができる。
また、基材2と蓋部材3との間において収容部8を設ける位置については、収容部8を流路4の途中に設けて、流路4を流れる培養液の大部分が収容部8を通過するように収容部8を設けることができる。図1~4に示した例では収容部8の両縁部分が流路4a、4bに繋がっているが、収容部8を流路4の途中に設けて、流路4を流れる培養液の大部分が収容部8を通過するように収容部8を設けることもできる。

【0024】
一方、収容部8を流路4から離れた位置に設けて、収容部8と流路4とを繋ぐ連通流路を設けてもよい。この場合、流路4を流れる培養液の多くは収容部8を通過しないが、連通流路を介して一部が収容部8に供給される。
収容部8は基材2又は蓋部材3を機械加工することにより形成されてもよく、基材2又は蓋部材3の型取り成形により形成されてもよく、基材2又は蓋部材3をウェットエッチングすることにより形成されてもよい。
流体チップ30は、複数の収容部8を備えてもよい。また、基材2及び蓋部材3は、1つの収容部8に複数の培養容器9を収容できるように設けられてもよい。このことにより、複数の培養容器9を流体チップ30に装着することができ、培養容器9内の細胞組織11の細胞間相互作用を調べることができる。複数の培養容器9内の細胞組織11は、同種の細胞組織であってもよく、異種の細胞組織であってもよい。

【0025】
基材2及び蓋部材3は、流路4に流す培養液13又は生理食塩水の少なくとも一部が収容部8に供給されるように設けられる。例えば、流路4の途中に収容部8を設けてもよく、流路4を流れる培養液13又は生理食塩水の一部が収容部8に流入するように流路4及び収容部8を設けてもよい。また、流路4と収容部8とが連通流路により接続されていてもよい。
また、複数の流路4を流れる培養液13又は生理食塩水の一部がそれぞれ収容部8に流入するように流路4及び収容部8を設けてもよい。このように収容部8を設けることにより、複数の流路4に刺激因子などの成分の異なる培養液13を流し収容部8にそれぞれの培養液13の成分を流入させることができ、収容部8に培養液成分の濃度勾配を形成することができる。このように培養液成分の濃度勾配を形成することにより、培養液成分の細胞組織11への影響を調べることができる。

【0026】
収容部8は、流路4aと流路4bとを連通する連通路に設けられてもよい。例えば、図3、4に示した流体チップ30において、流路4aに成分Aを含む培養液13aを流し、流路4bに成分Aを含まない培養液13bを流すと、収容部8に成分Aの濃度勾配を形成することができる。このような培養環境で培養した細胞組織11を観察することにより、培養液成分Aの細胞組織11への影響を調べることができる。成分Aは、例えば、サイトカイン、ホルモンなどの刺激因子とすることができる。このことにより、細胞刺激の培養細胞への影響を調べることができる。

【0027】
収容部8は、流路4a、流路4b、流路4cにそれぞれ繋がるように設けられてもよい。例えば、図5に示した流体チップ30において、流路4aに成分Aを含む培養液13aを流し、流路4bに成分Bを含む培養液13bを流し、流路4cに成分Cを含む培養液13cを流すと、収容部8に成分A、B、Cの濃度勾配を形成することができる。このような培養環境で培養した細胞組織11を観察することにより、培養液成分A、B、Cの細胞組織11への影響を調べることができる。

【0028】
収容部8は、培養容器9を嵌め込んで固定することができるように設けられた受け口20を有することができる。
培養容器9を受け口20に嵌め込むことにより、収容部8に培養容器9を固定することができ、培養容器9の位置が変わることを防止することができる。また、受け口20から培養容器9と抜き取ることにより培養容器9を収容部8から取り外すことができる。
受け口20は、収容部8の内面に設けられた凹部であってもよい。例えば、受け口20は、図1~4に示した流体チップ30のように培養容器9の底部が丁度嵌まり込む形状でもよいし、培養容器9の底部を挟み込んで固定できる形状であれば溝形状であってもよい。
また、受け口20は、複数の凸部22により形成されてもよい。例えば、図5に示した流体チップ30では、収容部8に収納される培養容器9の周囲に空間が存在して培養液が流通できるようになっているが、複数の凸部22a~22hを収容部8に設けて、この凸部22a~22hで培養容器9の4辺近傍において培養容器9を挟み込む構成とすることによって培養容器9を収容部8内の定位置に固定できる。
なお、培養容器9を嵌め込んで固定する受け口(凹部、凸部)は、基材2に設ける代わりに蓋部材3に設けてもよい。

【0029】
基材2及び蓋部材3は、流路4に流す培養液13が収容部8aに収容した培養容器9aの内部(培養ゲル12a及び細胞組織11a)に浸透し供給されるように設けられ、かつ、培養容器9aの内部を浸透流として流れた後の培養液13が収容部8bに収容した培養容器9bの内部(培養ゲル12b及び細胞組織11b)に浸透し供給されるように設けられることができる。このことにより、培養容器9aの内部の細胞組織11aからの細胞分泌物を培養液13と共に培養容器9bの内部の細胞組織11bに供給することができ、細胞組織11aと細胞組織11bの相互作用を調べることができる。例えば、細胞組織11aを気管支組織とし、細胞組織11bを心臓組織とすることができる。このことにより、気管支組織の細胞分泌物が心臓組織へ与える影響を調べることができる。

【0030】
例えば、図6~8に示した流体チップ30のように、収容部8に培養容器9が嵌合するように、収容部8の形と培養容器9の形とを合わせることができる。そして、この収容部8の側面に設けられた流入口25から収容部8に培養液が流入し、収容部8の他の側面に設けられた流出口26から培養液が流出するように収容部8を設けることができる。このように収容部8を設けると、流入口25の培養液を、培養容器9の窓部15又は培養ゲル12に浸み込ませることができる。また、培養ゲル12に含まれる培養液を他の窓部15又は培養ゲルから滲出させた培養液を流出口26から流出させることができる。このように培養容器9の内部の培養ゲル12に培養液を浸透流として流すことができる。

【0031】
培養容器9と基材2又は蓋部材3との間に培養液流路が形成されないように、収容部8の内壁と培養容器9とを接触させることができる。このことにより、培養容器9の内部の培養ゲル12に効率よく培養液を浸透流として流すことができる。
培養容器9が、各面に開口を有する多面体形状の枠部16と、複数の開口のうち少なくとも1つの開口に設けられた窓部15と、枠部16及び窓部15の内部に配置された培養ゲル12とを有する場合、培養液の流入口25に隣接する枠部15の第1開口及び流出口26に隣接する枠部15の第2開口には窓部15を設けずに、培養ゲルに培養液が直接接触してもよい。このことにより、培養容器9の内部の培養ゲル12に効率よく培養液を浸透流として流すことができる。
例えば、図8のように、収容部8aに培養容器9aを収容することができ、収容部8bに培養容器9bを収容することができる。このことにより、注入口17から注入された培養液を、収容部8aに装着された培養容器9aの内部の培養ゲル12に浸透流として流すことができ、その後、収容部8bに装着された培養容器9bの内部の培養ゲル12に浸透流として流すことができる。培養容器9の内部に培養液を浸透流として流す方法は、上述の通りである。
また、細胞組織11aと細胞組織11bは、異なる細胞組織(例えば、異なる種類の細胞組織、又は異常な細胞組織と正常な細胞組織)とすることができる。例えば、細胞組織11aは気管支組織であり、細胞組織11bは心臓組織である。また、例えば、細胞組織11aはがん細胞であり、細胞組織11bは正常細胞である。このことにより、がん細胞の細胞分泌物が正常細胞に及ぼす影響を調べることができる。

【0032】
基材2及び蓋部材3は、流路4に流す培養液13が収容部8aに収容した培養容器9aの内部に浸透し供給されるように設けられ、かつ、培養容器9aの内部を浸透流として流れた後の培養液13が収容部8bに収容した培養容器9bの内部及び収容部8cに収容した培養容器9cの内部にそれぞれ浸透し供給されるように設けられてもよい。このことにより、培養容器9aの内部の細胞組織11aの細胞分泌物の、培養容器9bの内部の細胞組織11bへの影響および培養容器9cの内部の細胞組織11cへの影響を同時に調べることができる。培養容器9の内部に培養液を浸透流として流す方法は上述の通りである。
例えば、図9(a)(b)に示した流体チップ30のように、注入口17から注入された培養液が、収容部8aに装着された培養容器9aの内部に浸透流として流れ、その後、収容部8bに装着された培養容器9bの内部、収容部8cに装着された培養容器9cの内部、収容部8dに装着された培養容器9dの内部及び収容部8eに装着された培養容器9eの内部にそれぞれ浸透流として流れるように流路4及び収容部8を設けることができる。

【0033】
培養容器9は、細胞又は細胞組織11を包埋する培養ゲル12を内包する。また、培養容器9の少なくとも一部がハイドロゲル15又は多孔質体15からなる。この培養容器9を収容部8に収容することにより、流路4から収容部8に供給された培養液13中に培養容器9を浸漬することができる。このため、培養液13に含まれる栄養素、タンパク質(分子量:数万~数十万)、酸素などを培養容器9(ハイドロゲル15又は多孔質体15)及び培養ゲル12を介して細胞組織11に供給することができ、培養容器9内の細胞組織11を培養することができる。
また、流体チップ30に組み込む前の培養容器9を、培養皿又はウェルプレート中の培養液13に浸漬することができ、培養皿又はウェルプレート中の培養液13に含まれる栄養素、タンパク質、酸素などを培養容器9(ハイドロゲル15)及び培養ゲル12を介して細胞組織11に供給することができる。このため、流体チップ30に組み込む直前まで、培養容器9を培養液13中に浸漬することができ、細胞組織11の細胞活性が劣化することを抑制することができる。
また、流体チップ30に異なる種類の細胞組織11を組み込む場合、第1培養容器9aの内部の培養ゲルにA種の細胞組織を包埋して、A種の細胞組織に適した培養条件で第1培養容器9a内の細胞組織を培養し、第2培養容器9bの内部の培養ゲルにB種の細胞組織を包埋して、B種の細胞組織に適した培養条件で第2培養容器9b内の細胞組織を培養することができる。そして、流体チップを用いた実験の直前に第1培養容器9aを収容部8aに装着し及び第2培養容器9bを収容部8bに装着することができる。このため、劣化していないA種の細胞組織及び劣化していないB種の細胞組織を用いて実験することが可能になる。ここではA種とB種を用いて説明したが、より多くの種類の細胞組織を流体チップに組み込んで同様に実験することが可能である。

【0034】
培養容器9内の培養ゲル12は、培養ゲル12に包埋された細胞又は細胞組織11を培養するためのゲルである。培養ゲル12に包埋する細胞11は、一定のパターンで集合した構造を有する細胞組織であってもよく、このような組織構造を有さない細胞であってもよい。また、組織構造を有さない細胞11を培養することにより、細胞組織11が成長してもよい。また、培養ゲル12が細胞組織11の足場になることができ、細胞組織11が三次元的に成長することができる。

【0035】
培養ゲル12は、例えば、コラーゲン、ラミニン、エンタクチン、プロテオグリカンなどを含むことができる。また、培養ゲル12は、TGF-β、線維芽細胞増殖因子、組織プラスミノーゲン活性化因子などを含むことができる。さらに、培養ゲル12には、例えば、マトリゲル(登録商標)を用いることができる。
培養ゲル12は、培養容器9に内包され、流路4から供給される培養液13に直接接触しないため、培養ゲル12が培養液13を吸収し膨潤することにより細胞組織11の相対位置がずれることを抑制することができる。また、培養液13の流れにより培養ゲル12が変形することを抑制することができ、細胞組織11の相対位置がずれることを抑制することができる。また、細胞組織11の準備段階(準備培養)では、培養ゲル12が培養液13に直接接触しないように窓部15を設け、培養容器9を収容部8に組み込む前に複数の窓部15のうち少なくとも1つを除去することができる。このことにより、細胞組織11の準備培養において培養ゲル12の膨潤を抑制することができ、流体チップ30を用いた実験において、窓部15を除去したところから培養容器9の内部の培養ゲル12に培養液を接触させ浸透させることができ、培養ゲル12に培養液を浸透流として流すことができる。なお、比較的短時間の培養であれば培養ゲル12はあまり膨潤しない。

【0036】
培養容器9は、培養ゲル12を内包するように設けられる。また、細胞組織11を包埋した培養ゲル12が培養容器9内のスペースを満たす。このことにより、培養容器9中に培養ゲル12及び細胞組織11を閉じ込めることができ、培養容器9内で培養ゲル12が流動すること及び細胞組織11の相対位置がずれることを抑制することができる。このように細胞組織11及び培養ゲル12を培養容器9の内部に配置することにより、細胞組織11を包埋した培養ゲル12の取り扱いが容易になる。
また、培養容器9を収容部8に装着することにより、培養ゲル12及び細胞組織11を容易に流体チップ30内に入れることができる。また、収容部8から培養容器9を取り外すことにより、培養ゲル12及び細胞組織11を容易に流体チップ30から取り出すことができる。

【0037】
培養容器9の形状は、例えば、多面体であってもよい。このことにより、培養容器9を安定して収容部8に収容することができる。培養容器9の形状は、図10、11に示した培養容器9のように立方体であってもよく、直方体であってもよく、六角柱であってもよく、円柱であってもよい。培養容器9は、例えば、各辺の長さが1mm以上5cm以下となる大きさにすることができる。また、培養容器9の容量は、例えば、1μL以上10mL以下とすることができる。

【0038】
培養容器9は、透光性でハイドロゲル又は多孔質体からなる窓部15を有することができる。また、窓部15は、透光性であり、かつ、栄養成分透過性を有し、かつ、培養ゲル12に包埋された細胞又は細胞組織11を多面観察できるように設けることができる。この窓部15及び培養ゲル12を介して、培養液13に含まれる栄養素、タンパク質、酸素などを細胞組織11に供給することができる。また、流体チップ30から培養容器9を取り外した後に、培養容器9の内部の細胞組織7を窓部4から顕微鏡などにより観察することができる。培養容器9の形状が多面体である場合、窓部15は培養容器9の各面に設けることができる。このことにより、培養容器9内部の細胞組織11を培養容器9の各面からそれぞれ観察することができる。従って、細胞組織11の三次元構造を特定することが可能になる。例えば、図10、11のように、窓部15は、培養容器9の各面に設けることができる。なお、窓部15から細胞組織11を観察する際、培養容器9を光透過性の高いガラス容器にいれて細胞組織11を観察することができる。このことにより、培養液などが顕微鏡に付着することを防止することができる。

【0039】
培養容器9は、細胞組織11の相対位置がずれることを抑制して回転させることができるため、培養容器9の窓部15を設けた各面が観察面となるように培養容器9を回転させることができる。特に、培養容器9の上面と下面とが入れ替わるように培養容器9を回転させることや、培養容器9を横倒しにするように回転させることが可能になる。従って、培養容器9の各面から内部の細胞組織11を観察することが可能になり、細胞組織11の三次元的な立体形状を容易に明らかにすることができる。なお、細胞組織11の観察に用いる顕微鏡は、光学顕微鏡であってもよく、レーザー顕微鏡であってもよい。
培養容器9の形状が円柱である場合、窓部15は円柱の側面に設けることができる。このことにより、レーザー顕微鏡を用いて細胞組織11の三次元画像を取得することができる。また、窓部15は、円柱の上面および下面にも設けることができる。このことにより、上面及び下面からも細胞組織11を観察することができ、三次元画像の解像度を向上させることができる。

【0040】
窓部15を構成するハイドロゲルは、タンパク質を通し自立できるだけの硬さがあれば特に限定されない。ハイドロゲルとは、水中の分散質が繋がってネットワークを形成し系全体として固体状になったものである。例えば、窓部15は、50g/cm2以上10000g/cm2以下のゲル強度を有することができる。このことにより、培養容器9の内部の培養ゲル12の重さにより窓部15が変形することを抑制することができる。また、窓部15がタンパク質透過性を有することができる。このゲル強度は、ネットワークを形成する分散質の濃度を調整することにより調整することができる。分散質の濃度が低すぎると、ゲル強度が低下する。分散質の濃度が高すぎると、タンパク質透過性が低下する。なお、この分散質の適切な濃度は、分散質の種類により異なる。

【0041】
例えば、窓部15を構成するハイドロゲルは、アガロースゲル、ポリアクリルアミドゲル、アルギン酸ナトリウム又はコラーゲンゲルを含むことができる。このことのより、窓部15が透光性を有することができる。また、流路4から供給される培養液13に含まれるタンパク質などの栄養が窓部15を透過することができ、培養ゲル12及び細胞組織11に栄養を供給することができる。また、窓部15がアガロースゲル、ポリアクリルアミドゲル、アルギン酸ナトリウム又はコラーゲンゲルを含むことにより、培養容器9を回転させた場合でも窓部15が変形することを抑制することができる。窓部15がアガロースゲルの場合、アガロースの濃度は、例えば、0.5~4.0%とすることができる。また、窓部15がポリアクリルアミドゲルの場合、ポリアクリルアミドの濃度は、例えば、3~20%とすることができる。窓部15がアルギン酸ナトリウムを含む場合、窓部15は、アルギン酸ナトリウム水溶液にカルシウムイオンを加えてゲル化することにより形成することができる。窓部15がコラーゲンゲルの場合、高濃度のコラーゲンゲルで窓部15を形成することができる。このことにより窓部15が十分な強度を有することができる。
窓部15を構成する多孔質体は、多数の細かい孔を有する部材である。多孔質体は、例えば、多孔質材料シート、メッシュ、エッチングシート、不織布、織布などである。また、多孔質体はシート形状を有することができる。また、多孔質体は、生体適合性を有することが好ましい。多孔質体は、ポリカーボネートなどの樹脂であってもよく、金などの金属であってもよく、ガラスなどの無機化合物であってもよい。窓部15が多孔質体からなる場合、窓部15は、多孔質体のシートを枠部16に接着することにより形成することができる。

【0042】
培養容器9は、窓部15を囲む枠部16を有することができる。このことにより、培養容器9の強度を大きくすることができ、培養容器9の取り扱いが容易になる。また、窓部15が傷つくことを抑制することができる。例えば、図10、11に示した培養容器9のように、培養容器9を枠部16と窓部15から構成することができる。枠部15の材料は、生体適合性を有する樹脂とすることができる。また、枠部15の材料は、例えば、ポリカーボネートとすることができる。
図10、11に示したような培養容器9は、次のように作製することができる。まず、6面にそれぞれ開口を有する立方体の枠部16を準備し、窓部用のゾルを枠部16の開口に流し込みゲル化させハイドロゲルからなる膜状又はシート状の窓部15を形成する。このようにして、枠部16の5面にそれぞれ窓部15を形成した後、ゲル化前の培養ゲルおよび細胞組織11を枠部16の立方体中に注入して培養ゲルをゲル化させる。その後、窓部15用のゾルを残り1つの枠部16の開口に流し込みゲル化させ膜状又はシート状の窓部15を形成する。このようにして細胞組織11と培養ゲル12を内包した培養容器9を作製することができる。

【0043】
培養容器9に含まれる少なくとも1つの窓部15は、枠部16の外側に突出した凸部27を有することができる。この凸部27を引っ張ることにより、枠部16の開口から窓部15を除去することができる。このことにより、細胞組織11の準備段階の培養では、枠部16の開口に窓部15を設けておき、培養容器9を収容部8に装着する前に流入口25に隣接する開口の窓部15及び、流出口26に隣接する開口の窓部15を凸部27を利用して除去することができる。このことにより、細胞組織11の準備培養において培養ゲル12の膨潤を抑制することができ、流体チップ30を用いた実験において、培養容器9の内部の培養ゲル12に培養液を浸透流として流すことができる。凸部27は、例えば、図12に示した培養容器9のように設けることができる。

【0044】
培養容器9は、枠部16を有さず窓部15を形成するハイドロゲルから構成されてもよい。このことにより、窓部15から細胞組織を観察する際に死角が生じることを抑制することができる。特に、培養容器9のサイズが十分に小さい場合(例えば、5mm以下)に培養容器9を枠部15を有さない構成にすることができる。このような培養容器9は、次のように作製することができる。まず、窓部15用のゾルを型に流し込みゲル化させて、1つの面に開口を有する中空の立方体ゲルを形成する。その後、ゲル化前の培養ゲルおよび細胞組織11を立方体ゲル中に注入して培養ゲルをゲル化させる。その後、立方体ゲルの開口に窓部15用のゾルを流し込みゲル化させ窓部15を形成する。このようにして細胞組織11と培養ゲル12を内包した培養容器9を形成することができる。

【0045】
本実施形態の流体チップ30は、例えば、次のように使用することができる。まず、細胞組織11が包埋された培養ゲル12を内包した培養容器9を培養液に浸漬し、細胞組織11を準備培養し、図10、11に示したような培養容器9を作製する。この培養容器9を図1、2に示した流体チップ30の収容部8に装着し、基材2と蓋部材3とを接着することができる。得られた流体チップ30の注入口17及び排出口18にそれぞれチューブ23を接続させ、培養液13を流すことにより、図3、4に示したような流体チップ30を製造することができる。この流体チップ30を用いて培養容器9中の細胞組織11を培養することができ、培養液成分の細胞組織11への影響を調べることができる。また、細胞組織11の培養中は、流体チップ30をインキュベータ中に配置することができる。
また、流体チップ30を用いる細胞組織11の培養が終わった後、基材2から蓋部材3を剥ぎ取り、培養容器9を収容部8から取り出すことができる。流体チップ30から取り出した培養容器9を顕微鏡にセットし、培養容器9中の細胞組織11の観察を行うことができる。また、流体チップ30から取り出した培養容器9の内部の細胞組織11を蛍光色素で染色した後に顕微鏡で細胞組織11を蛍光観察してもよい。また、流体チップ30から取り出した細胞組織11を保存することも可能である。

【0046】
図6~8に示した流体チップ30は、例えば、次のように使用することができる。細胞組織11a(例えば気管支組織)が包埋された培養ゲル12aを内包した培養容器9aを培養液に浸漬し、細胞組織11aを準備培養し、図10、11に示したような培養容器9aを作製する。また、並行して細胞組織11b(例えば心臓組織)が包埋された培養ゲル12bを内包した培養容器9bを培養液に浸漬し、細胞組織11bを準備培養し、図10、11に示したような培養容器9bを作製する。この準備培養では、枠部16の各面の開口には、窓部15が設けられており、培養ゲル12と培養液は直接接触していない。

【0047】
その後、流入口25に隣接する開口の窓部15及び流出口26に隣接する開口の窓部15を凸部27などを利用して除去した後、培養容器9aを図6に示した基材2の収容部8aに装着し、培養容器9bを基材2の収容部8bに装着する。その後、基材2と蓋部材3とを接着し、得られた流体チップ30の注入口17及び排出口18にそれぞれチューブ23を接続させ、培養液13を流すことにより、図7に示したような流体チップ30を製造することができる。また、注入口30から培養液13と共に薬(例えば抗生物質)を流路4に注入することができる。この流体チップでは、培養液13が培養容器9aの内部の培養ゲル12aに浸み込み浸透流として流れた後、培養ゲル12aを浸み出た培養液13が流路4を流れ、その後培養液が培養容器9bの内部の培養ゲル12bに浸み込み浸透流として流れる。このため、薬の細胞組織11a、11bへの影響、細胞組織11aの細胞分泌物の細胞組織11bへの影響などを調べることができる。また、蓋部材3及び窓部15の上部に顕微鏡を設置することにより、培養液13を流している際の細胞組織11a、11bの変化を観察することができる。
また、所定の時間培養液を流した後、基材2から蓋部材3を剥ぎ取り、培養容器9a、9bを収容部8から取り出すことができる。流体チップ30から取り出した培養容器9a、9bをそれぞれ顕微鏡にセットし、培養容器9中の細胞組織11a、11bの観察をそれぞれ行うことができる。

【0048】
細胞培養実験(1)
図10、11に示したような気管支組織を内包した培養容器を作製し、培養容器を液体培地中に配置して気管支組織を培養した。まず、一辺3mmのポリカーボネート製の立方体の枠部を準備し、1.5%アガロースゲルで窓部を形成した。その後、立方体内部に培養ゲルであるマトリゲル(登録商標)と気管支組織を注入しゲル化した後、残りの開口に1.5%アガロースゲルで窓部を形成することにより、培養容器を作製した。この培養容器を液体培地中に配置して、気管支組織を10日間三次元培養した。その後、培養容器中の気管支組織を光学顕微鏡を用いて観察した。図14(a)は、培養した気管支組織を内包した培養容器の写真である。

【0049】
一方、図1、2に示したような流体チップを作製した。基材の材料はPDMSとした。また、蓋部材にはガラス板を用いた。培養した気管支組織を内包した培養容器を基材の収容部に装着し、基材を蓋部材に粘着させた。図14(b)は基材の収容部に培養容器を装着している写真であり、図14(c)は、基材と蓋部材とを接着した後の流体チップの写真である。その後、注入口及び排出口にチューブを接続し、流路4aに成長因子を含む培養液を流し、流路4bに生理食塩水を流しながら培養容器中の気管支組織を24時間培養し、細胞誘導の実験を行った。細胞誘導実験が終わった後、蓋部材を基材から剥がし取り、収容部から培養容器を取り出した。この培養容器中の気管支組織を光学顕微鏡を用いて観察し、流体チップでの培養前の気管支組織と比較し、気管支組織の変化を調べた。
このように、本発明の流体チップを用いて、培養液成分の気管支組織への影響を調べることができた。

【0050】
細胞培養実験(2)
抗がん剤として広く用いられているドキソルビシンにおける効果と副作用として知られている心毒性の評価を本発明の細胞培養用流体チップを用いて行った。
まず、ヒト肝癌由来細胞を内包した培養容器9aを5つ作製し、ヒト臍帯静脈内皮細胞を内包した培養容器9bを3つ作製し、ヒト心筋細胞を内包した培養容器9cを3つ作製し、ヒト気管支上皮細胞を内包した培養容器9dを3つ作製し、ヒト繊維芽細胞を内包した培養容器9eを3つ作製した。これらの培養容器9a~9eをマルチウェルプレート32のウェル33においてそれぞれ2日間準備培養(三次元培養)した。培養容器の作成方法は培養する細胞の種類を変えた以外は細胞培養実験(1)と同様である。準備培養後のマルチウェルプレート32の写真を図15に示す。

【0051】
その後、各培養容器9a~9eを光学顕微鏡にセットし、培養した各種細胞を観察することにより、各細胞が培養ゲル12内において安定して成長をしているのを確認した。そして、各細胞において形態として状態のよいサンプルのみを抽出し、図3(b)に示したような基材2(材料:PDMS)の収容部8aにヒト肝癌由来細胞を内包した培養容器9aを挿入し、収容部8bにヒト臍帯静脈内皮細胞を内包した培養容器9bを挿入し、収容部8cにヒト心筋細胞を内包した培養容器9cを挿入し、収容部8dにヒト気管支上皮細胞を内包した培養容器9dを挿入し、収容部8eにヒト繊維芽細胞を内包した培養容器9eを挿入した。

【0052】
その後、基材2に蓋部材3(ガラス板)を接着し、注入口17、排出口18にチューブ23を取り付けることにより、流体チップを作製した。作製した流体チップの写真を図16に示す。この流体チップでは、流路上流に肝癌細胞を配置し、下流に心毒性を評価するための心筋細胞と共にコントロールとしてその他の正常細胞を配置することで、生体内で生じている組織間の相互作用を模擬した。

【0053】
作製した流体チップの注入口17から抗がん剤であるドキソルビシン20μMを含む培養液を一定圧力で流体チップ内に供給し、流体チップの流路に24時間培養液を流し続けることにより各細胞を抗がん剤の存在下で3次元培養した。その後、各培養容器9a~9eを流体チップから取り出し光学顕微鏡にセットし、培養した各種細胞を観察することにより、各細胞がどのように形態変化したか確認した。

【0054】
ヒト肝癌由来細胞、ヒト心筋細胞、ヒト気管支上皮細胞及びヒト繊維芽細胞の抗がん剤処理前及び抗がん剤処理後の写真を図17に示す。
抗がん剤処理前において浸潤し始めていた肝癌細胞は、ドキソルビシン添加後、24時間で浸潤部分が消失し、抗がん剤としての効果が確認できた。また、肝癌細胞の下流に存在する気管支上皮細胞ではドキソルビシン添加後においても気管支の分岐は太く成長を続けることが確認できた。また、肝癌細胞の下流に存在する繊維芽細胞ではドキソルビシン添加後においても繊維芽は外に足を伸ばし成長を続けることが確認できた。心筋細胞以外の気管支上皮細胞や繊維芽細胞については、通常の三次元培養同様に成長を続けていることから、流体チップ内に封入すること自体の毒性は問題がないことが確認できた。
一方、肝癌細胞の下流に存在する心筋細胞は、抗がん剤処理により全体サイズが縮小したことが確認できた。これにより、2次元培養で既に確認されているドキソルビシンの存在下で癌細胞から生成する代謝物が心筋細胞に毒性を与えるという結果が三次元培養系においても生じていることが確認できた。

【0055】
従来であれば、5種類の細胞を流体チップ内に細胞活性を劣化されることなく封入することは熟練の技術が必要であったが、本発明により1分以内に5種の細胞を流体チップ内に封入を達成できる。またすでに培養開始2日目の安定した状態からさらに選別を行うことで、外乱となりやすい細胞活性のバラつきを抑え、複雑な実験系においても安定した結果を出すことができた。
【符号の説明】
【0056】
2:基材 3:蓋部材 4、4a、4b、4c:流路 5:循環流路 6:逆流防止弁 8、8a、8b、8c、8d、8e:収容部 9、9a、9b、9c、9d、9e:培養容器 11、11a、11b:細胞又は細胞組織 12、12a、12b:培養ゲル 13、13a、13b:培養液 15、15a、15b:窓部(ハイドロゲル又は多孔質体) 16、16a、16b:枠部 17、17a、17b、17c:注入口 18、18a、18b、18c:排出口 20、20a、20b:受け口 22、22a、22b、22c、22d、22e、22f、22g、22h:凸部 23、23a、23b、23c、23d:チューブ 25、25a、25b:流入口 26、26a、26b:流出口 27、27a、27b:凸部 30:流体チップ 32:マルチウェルプレート 33:ウェル
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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