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Specification :(In Japanese)エレクトロスプレー法による電極触媒層の形成方法及び装置

Country (In Japanese)日本国特許庁(JP)
Gazette (In Japanese)再公表特許(A1)
Date of issue Nov 21, 2019
Title of the invention, or title of the device (In Japanese)エレクトロスプレー法による電極触媒層の形成方法及び装置
IPC (International Patent Classification) H01M   4/88        (2006.01)
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H01M   8/10        (2016.01)
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Total pages 30
Application Number P2018-562443
International application number PCT/JP2018/001540
International publication number WO2018/135611
Date of international filing Jan 19, 2018
Date of international publication Jul 26, 2018
Application number of the priority 2017009373
Priority date Jan 23, 2017
Claim of priority (country) (In Japanese)日本国(JP)
Designated state AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DJ , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JO , JP , KE , KG , KH , KN , KP , KR , KW , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT
Inventor, or creator of device (In Japanese)【氏名】内田 誠
【氏名】柿沼 克良
Applicant (In Japanese)【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
Representative (In Japanese)【識別番号】110001830、【氏名又は名称】東京UIT国際特許業務法人
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Abstract (In Japanese) 粘度の低い触媒インクも使用可能なエレクトロスプレー堆積法(デポジション)による電極触媒層の形成方法を提供する。容器内部と連通する導電性ノズルを有する絶縁性容器内に触媒インクを入れ,前記ノズルにエレクトロスプレー電圧を印加することによって前記ノズル先端から触媒インクのエレクトロスプレーを生じさせ,これによって電極触媒層を形成する方法において,少なくとも電極触媒と,高分子電解質バインダーと,揮発性有機化合物及び/又は水との混合物を含有する触媒インクを用意し,この触媒インクを前記容器内にその内部に空間を残した状態で入れかつ前記容器を気密に密閉し,前記ノズルから触媒インクが滴下しない程度に前記密閉容器内の空間を負圧に調整した状態でエレクトロスプレーする。
Scope of claims (In Japanese)【請求項1】
少なくとも電極触媒と,高分子電解質バインダーと,揮発性有機化合物及び/又は水との混合物を含有する触媒インクを絶縁性容器内に,前記容器内部に空間を残した状態で入れ,かつ前記容器を気密に密閉し,
前記容器内部と連通する導電性ノズルから触媒インクが滴下しない程度に前記密閉容器内の空間を負圧に調整した状態で,前記ノズルにエレクトロスプレー電圧を印加することによって前記ノズル先端から触媒インクのエレクトロスプレーを生じさせ,これによって電極触媒層を形成する,
エレクトロスプレー法による電極触媒層の形成方法。
【請求項2】
容器内部と連通するノズルを有する容器内に触媒インクを入れ,前記触媒インクにエレクトロスプレー電圧を印加することによって前記ノズル先端から触媒インクのエレクトロスプレーを生じさせ,これによって電極触媒層を形成する方法において,
少なくとも電極触媒と,高分子電解質バインダーと,揮発性有機化合物及び/又は水との混合物を含有する触媒インクを用意し,
この触媒インクを前記容器内にその内部に空間を残した状態で入れかつ前記容器を気密に密閉し,
前記ノズルから触媒インクが滴下しない程度に前記密閉容器内の空間を負圧に調整した状態でエレクトロスプレーする,
エレクトロスプレー法による電極触媒層の形成方法。
【請求項3】
前記触媒インクの粘度に応じて前記密閉容器内の空間の負圧を調整する,請求項1または2に記載のエレクトロスプレー法による電極触媒層の形成方法。
【請求項4】
前記密閉容器内の空間の負圧の範囲が0~0.47kPaである(0kPaを含まない),請求項1から3のいずれか一項に記載のエレクトロスプレー法による電極触媒層の形成方法。
【請求項5】
前記密閉容器内の空間の負圧の範囲が0.05~0.4kPaである,請求項1から3のいずれか一項に記載のエレクトロスプレー法による電極触媒層の形成方法。
【請求項6】
前記ノズルが前記容器の下部に設けられ,前記ノズルの先端が下方を向いている,請求項1または2に記載のエレクトロスプレー法による電極触媒層の形成方法。
【請求項7】
前記ノズルの下方に,電極触媒層を形成すべきフィルム状媒体を配置する,請求項6に記載のエレクトロスプレー法による電極触媒層の形成方法。
【請求項8】
フィルム状媒体を載置する基板を設ける,請求項7に記載のエレクトロスプレー法による電極触媒層の形成方法。
【請求項9】
前記ノズルを上下動自在で所望位置に固定可能に支持する,請求項1または2に記載のエレクトロスプレー法による電極触媒層の形成方法。
【請求項10】
前記ノズルと,電極触媒層を形成すべきフィルム状媒体とを,少なくともフィルム状媒体の広さの範囲で相対的にかつ2次元的にスキャニングする,請求項1,2,6から9のいずれか一項に記載のエレクトロスプレー法による電極触媒層の形成方法。
【請求項11】
前記容器内の空間の圧力を測定する,請求項1から10のいずれか一項に記載のエレクトロスプレー法による電極触媒層の形成方法。
【請求項12】
前記ノズルと,電極触媒層を形成すべきフィルム状媒体との間に,前記ノズルの延長上に中心を有する制御穴があけられた導電性ゲート板を配置する,請求項1,2,6から10のいずれか一項に記載のエレクトロスプレー法による電極触媒層の形成方法。
【請求項13】
前記ノズルと前記ゲート板とを,その配置関係を保って一緒に移動させる,請求項12に記載のエレクトロスプレー法による電極触媒層の形成方法。
【請求項14】
触媒インクをその内部に気体が満たされた空間を残した状態で入れるための気密に密閉可能な容器と,前記容器の内部下部と連通するノズルとを保持するための保持機構,
前記保持機構に保持されるノズルの延長上に配置され,その表面に電極触媒層を形成すべきフィルム状媒体を保持する媒体保持部材,
前記保持機構に保持される容器内の空間の圧力を測定する圧力測定手段,
前記保持機構に保持される容器内の空間を負圧に調整するための圧力調整手段,及び
前記容器内の触媒インク又は前記ノズルと前記フィルム状媒体又は媒体保持部材との間にエレクトロスプレー電圧を印加する電圧調整可能な高電圧発生装置,
を備えるエレクトロスプレー法による電極触媒層の形成装置。
【請求項15】
前記ノズルの延長上に中心を有する制御穴があけられた導電性ゲート板が,前記ノズルと前記媒体保持部材との間に配置されている,請求項14に記載のエレクトロスプレー法による電極触媒層の形成装置。
【請求項16】
前記保持機構が前記容器を位置調整自在に保持するものである,請求項14または15に記載のエレクトロスプレー法による電極触媒層の形成装置。
【請求項17】
前記ゲート板を位置調整自在に保持するゲート板保持機構を有する,請求項15に記載のエレクトロスプレー法による電極触媒層の形成装置。
【請求項18】
前記保持機構と前記媒体保持部材とを相対的に平行移動させるスキャニング機構を有する,請求項14から17のいずれか一項に記載のエレクトロスプレー法による電極触媒層の形成装置。
【請求項19】
前記保持機構及び前記ゲート板保持機構と,前記媒体保持部材とを相対的に平行移動させるスキャニング機構を有する,請求項17に記載のエレクトロスプレー法による電極触媒層の形成装置。
Detailed description of the invention (In Japanese)【技術分野】
【0001】
この発明は,固体高分子形燃料電池(PEFC),水電解等で使用する電極の触媒層をエレクトロスプレー(ES)法またはエレクトロスプレー堆積法(デポジション)により形成する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池,水電解の開発の重点項目の一つとして高価な電極触媒である白金(Pt)の使用量の削減が求められている。Ptの使用量削減は材料化学の観点から活発に行なわれているが,実際に電極触媒層を作製するプロセスの観点からの研究,開発にはあまり目が向けられていないのが現状である。
【0003】
高分子電解質膜に電極触媒層を形成(塗工)するプロセスには,スクリーンプリント(スクリーンプリンティング,スクリーン印刷)法,ドクターブレード(コート)法,スキージ法,スプレー(印刷,塗布,コート)法,バーコータ法等があるが,Ptの使用量を削減すること,高分子電解質膜を電極触媒粒子表面全体に被覆すること等の課題を直接的に解決するものではない。
【0004】
電極触媒層の形成に優れた可能性のある方法としてエレクトロスプレー(ES)法ないしはエレクトロスプレー(ES)堆積法に着目した研究も行なわれ,以下の非特許文献1~3の報告がある。しかしながら,これらの報告にはあまり具体的記述はなく,エレクトロスプレー(ES)法による電極触媒層の形成の研究はまだ端緒についたばかりである。
【0005】
発明者らは非特許文献4に示すように,電極触媒層をエレクトロスプレー法を用いて形成し,Ptの使用量を大幅に減少させることができた。本発明は,以下に示すように,基本的には非特許文献4のエレクトロスプレー法をさらに改善するものである。
【先行技術文献】
【0006】

【非特許文献1】Yun Wang, Ken S. Chen, Jeffrey Mishler, Sung Chan Cho, Xavier Cordobes Adroher“A review of polymer electrolyte membrane fuel cells: Technology, applications, and needs on fundamental research”Applied Energy, Volume 88, Issue 4, April 2011, Pages 981-1007
【非特許文献2】Wei Yuan, Yong Tang, Xiaojun Yang, Zhenping Wan “Porous metal materials for polymer electrolyte membrane fuel cells-A review”Applied Energy, Volume 94, June 2012, Pages 309-329
【非特許文献3】Elliot Martin, Susan A. Shaheen, Timothy E. Lipman, Jeffrey R. Lidicker“Behavioral response to hydrogen fuel cell vehicles and refueling: Results of California drive clinics”International Journal of Hydrogen Energy, Volume 34, Issue 20, October 2009, Pages 8670-8680
【非特許文献4】Kento Takahashi, Katsuyoshi Kakinuma, and Makoto Uchida“Improvement of Cell Performance in Low-Pt-Loading PEFC Cathode Catalyst Layers Prepared by the Electrospray Method”Journal of The Electrochemical Society, 163(10)F1182-F1188 (August 17, 2016)
【発明の概要】
【0007】
すなわち,この発明は,使用する電極触媒や触媒インクの観点,電極触媒層の構造の観点,発電性能,水電解性能の観点などからエレクトロスプレー(ES)法を改良することを目的とするものである。
【0008】
特にこの発明は,エレクトロスプレー(ES)法で使用可能な電極触媒の選択の範囲を広げるものである。
【0009】
より具体的には粘度の低い触媒インクも使用可能なエレクトロスプレーによる電極触媒層の形成方法及び装置を提供するものである。
【0010】
この発明はさらに,より制御が容易で,より厚さの均一な電極触媒層を形成でき,さらに触媒インクの節約を図ることができる方法及び装置を提供するものである。
【0011】
さらにこの発明は,Pt等の高価触媒金属の使用量を低減し,さらに電極触媒粒子表面を高分子電解質バインダーでほぼ全面的に被覆した構造を有する電極触媒層を形成するのに適した方法及び装置を提供するものである。
【0012】
この発明によるエレクトロスプレー法による電極触媒層の形成方法は,少なくとも電極触媒と,高分子電解質バインダーと,揮発性有機化合物及び/又は水との混合物を含有する触媒インクを絶縁性容器内に,前記容器内部に空間を残した状態で入れ,かつ前記容器を気密に密閉し,前記容器内部と連通する導電性ノズルから触媒インクが滴下しない程度に前記密閉容器内の空間を負圧に調整した状態で,前記ノズルにエレクトロスプレー電圧を印加することによって前記ノズル先端から触媒インクのエレクトロスプレーを生じさせ,これによって電極触媒層を形成するものである。前記密閉容器内の空間には空気,その他の気体が入っており,この気体により前記密閉容器内の空間の圧力(負圧)を調整することができる。
【0013】
触媒インクに含有される電極触媒には,触媒そのものである均質触媒と,触媒とそれを担持する担体からなる不均質触媒が含まれる。触媒インクに含有される高分子電解質バインダーはプロトン伝導(電導・導電)性を有し,電極触媒の表面を薄く被覆するものである。揮発性有機化合物(アルコール,アルデヒド類)を代表とする非水系媒体と水を混合した媒体は電極触媒を分散させる分散媒体であるとともに,触媒インクの粘度を調整するために用いられる。この分散媒体は非水系媒体(揮発性有機化合物)のみ,または水のみでもよい(すなわち,揮発性有機化合物(非水系媒体)および水の少なくともいずれか一方でよい)。これらのすべての態様を含めて揮発性有機化合物(非水系媒体)及び/又は水と表現している。
【0014】
上述のように触媒インクは導電性材料を含むので導電性である。したがって,ノズルにエレクトロスプレー電圧を印加することと触媒インクにエレクトロスプレー電圧を印加することとは等価であり,この態様は非特許文献4に記載されている。非特許文献4に記載の従来技術を前提としてこの発明を規定すると,次のようになる。すなわち,この発明は,容器内部の少なくとも下部と連通するノズルを有する容器内に触媒インクを入れ,前記ノズルまたは触媒インクにエレクトロスプレー電圧を印加することによって前記ノズル先端から触媒インクのエレクトロスプレーを生じさせ,これによって電極触媒層を形成する方法において,少なくとも電極触媒と,高分子電解質バインダーと,揮発性有機化合物及び/又は水との混合物を含有する触媒インクを用意し,この触媒インクを前記容器内にその内部に空間を残した状態で入れかつ前記容器を気密に密閉し,前記ノズルから触媒インクが滴下しない程度に前記密閉容器内の空間を負圧に調整した状態でエレクトロスプレーするものである。前記空間内には上記のように負圧調整のための空気,その他の気体が入っている。
【0015】
これらの触媒インクを容器に入れるとともに,前記容器に連通した導電性ノズルまたは触媒インクと電極触媒層を形成すべき高分子電解質膜(またはその支持基板(保持部材))との間にエレクトロスプレーを発生させる電圧(印加する電圧の正負は触媒に依存する)を印加することによってノズル先端から触媒インクがスプレーされる。スプレーされた触媒インクのミストは静電的な反発力によって微細化され,高分子電解質膜上に堆積する。前記ノズルは少なくともノズル先端部が導電性であればよい,または絶縁体でもよい。前記容器も絶縁性,導電性のいずれの態様もあり得る。
【0016】
容器内の触媒インクで占有されていない空間内が大気圧のときに,触媒インクの粘度が低く,容器に取付けられた導電性ノズル先端から滴下してしまうような場合であっても,容器内の触媒インクで占有されない空間を負圧にすることにより,触媒インクの自重による滴下を抑制することができる。負圧の程度は導電性ノズルの内径や触媒インクの粘度に依存するが,触媒インクが導電性ノズルから滴下している状態から容器内の触媒インクで占有されない空間の負圧を調整することで,導電性ノズルの下部先端から滴下が丁度止んだときの負圧状態が好ましい。このときの状態は,導電性ノズルの下部先端に触媒インクの表面によるメニスカスが形成される程度である。もちろん,触媒インクで占有されない空間の使用可能な負圧は許容範囲をもっているから,その範囲内であればよい。
【0017】
すなわち,好ましい態様では前記触媒インクの粘度に応じて前記密閉容器内の空間の負圧を調整するとよい。一実施態様では,前記密閉容器内の空間の負圧の範囲は0から0.47kPa(0kPaを含まない)である。好ましい実施態様では,前記密閉容器内の空間の負圧の範囲は0.05~0.4kPaである。
【0018】
エレクトロスプレー(ES)法によると,触媒インクの微細なミストが堆積するので,均一かつ必要な厚さの電極触媒層を得ることができ,高価なPtやPt合金触媒の使用量を少なくすることができる。また,エレクトロスプレーによる噴霧後に空間内ですばやく揮発性有機化合物や水が揮発して微細ミストが乾燥するので,後工程における乾燥が必要ないか,または短時間ですむ効果も得られる。更に,触媒インク中の揮発性有機化合物や水がすみやかに乾燥するので,触媒インク中に分散している高分子電解質バインダーの凝集も抑制され,高分子電解質バインダーが電極触媒の表面に均一にかつその殆ど全表面に被覆され,この触媒層を用いた燃料電池または水電解の性能が向上する。
【0019】
特にこの発明によると,粘度の低い触媒インクも用いることができるので,電極触媒の選択の範囲が広くなる。
【0020】
ノズルは水平よりも下方を向いていればよいが,好ましい実施態様では,ノズルが前記容器の下部に設けられ,前記ノズルの先端が下方を向いている。またノズルの下方に,その表面上に電極触媒層を形成すべきフィルム状媒体(フィルム状基体)を配置する。このフィルム状媒体は高分子電解質膜またはガス拡散層などの電極基材もしくは転写に用いる転写用基材を含む。望ましくは高分子電解質膜等をその上に載置する基板を設ける。
【0021】
好ましい実施態様では,さらにノズルを上下動自在で所望位置に固定可能に支持する。ノズルと,電極触媒層を形成すべき高分子電解質膜とを,少なくとも高分子電解質膜の広さの範囲で相対的にかつ2次元的にスキャニング(走査)することにより,高分子電解質膜等(フィルム状媒体。以下,高分子電解質膜等という)の全体にわたって電極触媒層を均一に形成することができる。
【0022】
当然ながら容器内の触媒インクで占有されない空間の圧力(空間内の気体の圧力)を測定するとよい。
【0023】
望ましい実施態様では,ノズルと,その表面に電極触媒層を形成すべき高分子電解質膜等との間に,ノズルの延長上に中心を有する制御穴があけられた導電性ゲート板を配置する。上記スキャニングにおいて,ノズルとゲート板とを,その配置関係を保って一緒に移動させる。ゲート板にはノズルと反対極性の電圧が印加(アースも含む)される。
【0024】
ノズルから噴霧される微細な触媒インクのミストの広がりがゲート板の制御穴によって抑制され,この制御穴を通って高分子電解質膜等上に堆積する。これによって,触媒インクの堆積の範囲を限定することが可能となり,不要な電極触媒層の形成を省くことができるとともに,スキャニングの制御が容易となり,さらに堆積した電極触媒層の均一性を向上させることができる。
【0025】
この発明は上記の方法の実施に用いるエレクトロスプレー法による電極触媒層の形成装置も提供している。この装置は,触媒インクをその内部に気体が満たされた空間を残した状態で入れるための気密に密閉可能な容器と,前記容器の内部と連通するノズルとを保持するための保持機構,前記保持機構に保持されるノズルの延長上に配置され,その表面に電極触媒層を形成すべき高分子電解質膜等(フィルム状基体)を保持する媒体保持部材,前記保持機構に保持される容器内の空間の圧力を測定する圧力測定手段,前記保持機構に保持される容器内の空間を負圧に調整するための圧力調整手段,及び前記容器内の触媒インク又は前記ノズルと前記高分子電解質膜等又は媒体保持部材との間にエレクトロスプレー電圧を印加する電圧調整可能な高電圧発生装置を備えるものである。容器内の空間には空気,その他の気体が入っている。
【0026】
好ましい実施態様では,前記ノズルの延長上に中心を有する制御穴があけられた導電性ゲート板が,前記ノズルと前記媒体保持部材との間に配置されている。導電性ゲート板の電位は,好ましくは媒体保持部材(少なくとも高分子電解質膜等を保持する部分は導電性)または高分子電解質膜等と同電位とするが,若干の電位差があってもよい。
【0027】
また,好ましくは,前記保持機構は前記容器を位置調整自在に保持するものである。
【0028】
さらに好ましくは,前記ゲート板を位置調整自在に保持するゲート板保持機構を設ける。
【0029】
望ましい実施態様では,前記保持機構と前記媒体保持部材とを相対的に平行移動させるスキャニング機構を設ける。
【0030】
このスキャニング機構は,好ましくは前記保持機構及び前記ゲート板保持機構と,前記媒体保持部材とを相対的に平行移動させるものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】エレクトロスプレー(ES)法による電極触媒層の形成装置を示す斜視図である。
【図2】特定の粘度において,導電性ノズル先端に現われるテーラーコーンの状態を導電性ノズルの内径をパラメータとして印加電圧を変えて示す写真およびグラフである。
【図3】特定の粘度において,導電性ノズル先端に現われるテーラーコーンのモードを導電性ノズルの内径をパラメータとし,印加電圧を変えて示すグラフである。
【図4】特定の粘度において,導電性ノズル先端に現われるテーラーコーンのモードを導電性ノズルの内径をパラメータとし,印加電圧を変えて示すグラフである。
【図5】触媒インクの粘度を変えて適切なテーラーコーンが発生するインクリザーバー内の圧力(差圧)の範囲を示すグラフである。
【図6】エレクトロスプレー(ES)法およびパルススワールスプレー(PSS)法で準備した触媒インクを高分子電解質膜上に着弾させた場合の液滴の写真である。
【図7】エレクトロスプレー(ES)法およびパルススワールスプレー(PSS)法によるカソード触媒の構造の異同を示すもので,カソード触媒層の断面SIM画像とその高倍率画像である。
【図8】FIB-SEM三次元画像のエレクトロスプレー(ES)法とパルススワールスプレー(PSS)法の異同を示す。
【図9】個々の細孔体積と累積細孔体積の細孔直径による変化についてエレクトロスプレー(ES)法とパルススワールスプレー(PSS)法とを比較したグラフである。
【図10】触媒表面を被覆するナフィオンの分布状態の透過電子像を示し,エレクトロスプレー(ES)法とパルススワールスプレー(PSS)法の異同を示す。
【図11】80℃80%RHにおけるサイクリックボルタモグラムである。
【図12】発電評価結果を示すグラフである。
【図13】発電評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(1) エレクトロスプレー(ES)法による電極触媒層の形成装置
図1はエレクトロスプレー(ES)法による電極触媒層の形成装置1の概略構成の例を示している。図示の通り,水平面上に互いに直交するX軸(左右方向)とY軸(手前,奥行方向)をとり,鉛直上方にZ軸(上下方向)をとる。

【0033】
手前にXYテーブル11が,その奥方向にXテーブル(X方向テーブル)10が設けられている。XYテーブル11はその上に置かれた金属製基板12をX方向およびY方向に移動させる。後に示すように,この実施例ではスキャニングのためにY方向移動のみを使用する。Xテーブル10はその上にX方向に並んで鉛直に立設(固定)された2つの支柱30と40を一緒にX方向に移動させる。X方向テーブルの代わりに単なる基台を設け,XYテーブル11によりXY方向スキャニングを実現してもよいし,XテーブルをXYテーブルに置換してこれによりXYスキャニングを実現してもよい。

【0034】
支柱30の内部は空洞で案内路となっており,この案内路内に昇降体31が昇降自在に設けられている。昇降体31は上下動するのみで,回転も横方向移動もできない。昇降体31の内部には雌ねじが形成され,この内部を上下方向に通るねじ軸33が雌ねじにねじはめられている。ねじ軸33はその上下端部で支柱30に回転自在に支持されている。ねじ軸33は回転のみ許され,上下動しない。ねじ軸33をモータのような回転駆動装置により回転させてもよいし,ハンドル等を設けて手動で回転させてもよい(いずれも図示略)。ねじ軸33が回転することにより昇降体31が上下動する。

【0035】
支柱40も同じ昇降機構を有している。すなわち,支柱40の内部は空洞で案内路となっており,この案内路内に昇降体41が昇降自在に設けられている。昇降体41は上下動するのみで,回転も横方向移動もできない。昇降体41の内部には雌ねじが形成され,この内部を上下方向に通るねじ軸43が雌ねじにねじはめられている。ねじ軸43はその上下端部で支柱40に回転自在に支持されている。ねじ軸43は回転のみ許され,上下動しない。ねじ軸43をモータのような回転駆動装置により回転させてもよいし,ハンドル等を設けて手動で回転させてもよい(いずれも図示略)。ねじ軸43が回転することにより昇降体41が上下動する。

【0036】
昇降体31には挟持具(把持具,保持具)32が取付けられ,支柱30の前面に上下方向に形成されたスリットを通って前方(XYテーブル11の方向)にのびている。この挟持具32にはインクリザーバー容器(容器)21が着脱自在に保持される。インクリザーバー容器21は絶縁体でつくられ,気密に密閉可能である。インクリザーバー容器21の下面には,その内部と連通する金属製の導電性ノズル22が着脱自在に取付けられ,鉛直下方に向っている。インクリザーバー容器21内にはその内部の上部に空間が存在する程度に触媒インクが入れられる。該空間内には空気,その他の気体が存在する。

【0037】
インクリザーバー容器21の上面(蓋)にはその内部と連通するY字管23が取付けられている。Y字管23の一方の分岐管には圧力測定器(マノメータ)24が接続され,他方の分岐管にはインクリザーバー容器21の内部を減圧させて負圧にすることのできる圧力調整器(装置)25が接続されている。圧力調整器25は手動で圧力を調整するシリンジのようなものでもよいし,圧力制御が可能な自動装置でもよい。これらの圧力測定器24と圧力調整器25を挟持具32または支柱30に取付けてもよい。その場合には配管が短くてすむ。配管は差圧によって容易に変形しない硬質のものがよい。必要に応じてインクリザーバー容器21には触媒インク供給管26が設けられ,バルブ27を介して触媒インク供給装置28に接続される。圧力調整器25に圧力設定器を設け,圧力測定器24による測定圧力をフィードバックし,圧力調整器25がインクリザーバー容器21内の圧力を自動調節するようにしてもよい。

【0038】
昇降体41に腕42が固定され,この腕42が,支柱40の前側に上下方向に形成されたスリットを通って手前の方向に延び,その先端に金属製ゲート板14が固定されている。ゲート板14は水平であり,挟持具32に保持されたインクリザーバー容器21に取付けられた導電性ノズル22の延長上(鉛直下方)に中心をもつ貫通穴(制御穴)15があけられている。

【0039】
X方向テーブル10によって導電性ノズル付インクリザーバー容器21とゲート板14とは一緒に平行移動する。

【0040】
エレクトロスプレーを行うときには,導電性ノズル22が高電圧発生装置50の正側出力端子に接続され,ゲート板14とXYテーブル11上に置かれた金属製(導電性)基板(膜保持部材,媒体保持部材)12とが高電圧発生装置50のアース側端子にそれぞれ接続される。高電圧発生装置50はその出力電圧の値を調整可能である。また,基板12上には触媒をエレクトロスプレーにより塗布すべき高分子電解質膜(フィルム状媒体)13が置かれ,かつ固定される。導電性ノズル22と穴15の中心と高分子電解質膜13の中心を一致させることができるし,導電性ノズル22をゲート板14とともに(導電性ノズル22は常に穴15の中心に対応している)XY方向に移動させ,高分子電解質膜13の表面をその範囲でスキャニングすることが可能である。インクリザーバー容器21とゲート板14の高さ位置はねじ軸33,43の回転により調整可能であり,かつ任意の高さ位置に固定ねじ等の固定具で固定することができる。

【0041】
(2) 電極触媒
この実施例では,電子伝導性(10-4Scm-1以上)を有し,Brunauer-Emmett-Teller(ブルナウワー・エミット・テラー,BET )吸着法にて評価した表面積が15m2g-1以上あり,粒子同士が部分的に融着結合した連珠状の微細構造を有する無機微粒子を用いており,これには酸化物,炭化物,窒化物等のセラミックスや炭素微粒子などが含まれる。無機微粒子に触媒作用を有するものがあり,IrOx,RuOx等があげられる。これら無機微粒子を均質触媒と定義する。また,無機微粒子に格段の触媒作用が見られない場合,触媒作用をもつPtやPtを含有する合金ナノ粒子を担持する必要がある。PtやPtを含有する合金ナノ粒子(触媒)を担持した無機微粒子を不均質触媒と定義し,その際の無機微粒子を担体と定義する。無機微粒子は液相法,気相法など一般的な方法で合成可能である。また,PtやPtを含有する合金ナノ粒子はコロイド法,逆ミセル法などの一般的な方法で合成可能である。

【0042】
不均質触媒の一例として,この実施例ではTaをドープしたSnO2を用いているが,Taに代えて5価以上の価数を有するNb,Sb等の元素を用いることができ,SnO2についても5価数以上の元素を置換固溶する酸化物・窒化物・炭化物に代えても,同様の性能が得られる。また前記の担体上には貴金属であるPt及び/又はPtを含む金属元素からなる合金ナノ粒子が10wt%以上担持されており,Pt及び/又はPtを含む金属元素からなる合金ナノ粒子の粒子径は電子顕微鏡像で評価した場合,平均値として2nm~10nmの範囲になる。

【0043】
(3) 担持触媒の作製
担体であるTaドープSnO2(Ta-SnO2)は火炎法にて合成した。オクチル酸Sn,オクチル酸Taのターペン溶液をSnとTaのモル比(Sn/Ta)が0.9-0.99になるように混合し,30分間マグネチックスターラーで攪拌することでSnとTaの前駆体混合溶液を作製した。プロパン(1L/min)と酸素(5L/min)の混合ガスで発生させた化学炎を火炎装置内に発生させ,その化学炎へ,ぺリスタポンプとスプレー装置を用いて,前駆体混合溶液を3g/minの割合で噴霧することで,Ta-SnO2を合成した。合成したTa-SnO2を800℃4h空気中で熱処理した。

【0044】
その際のTa-SnO2の表面積をBET吸着法(Belsorp Max,MicrotracBEL株式会社製)で測定したところ25.6m2g-1であった。またX線回折装置(XRD,リガク製,Ultima IV,CuKα線,管電圧40kV,管電流40mA,Niフィルター利用,走査範囲10°≦2θ≦90°)を用いて,火炎法で合成した直後のTa-SnO2及び800℃4h空気中で熱処理したTa-SnO2の結晶相を確認したところ,ルチル相の単一相であることを確認した。

【0045】
Ptナノ粒子の合成及びTa-SnO2への担持にはコロイド法を用いた。まず,塩化白金酸溶液0.57mLを超純水38mLにより希釈し,還元剤として亜硫酸ナトリウムを1.76g加えて撹拌し,白金含有溶液を作製した。白金含有溶液に超純水150mLを加え,電位差自動滴定装置(京都電子工業製,AT-500)を用いて0.6Mの炭酸ナトリウム水溶液を滴下することで,白金含有溶液のpHを5に調整した。更に,1.3Mの水酸化ナトリウム水溶液を電位差自動滴定装置で白金含有溶液に滴下することで白金含有溶液のpHを5に保持しながら,白金含有溶液に35%の過酸化水素水を2mL min-1の速度で滴下した。次に,15mLの超純水に0.50gのTa-SnO2を分散させた分散液を35%の過酸化水素水を滴下した白金含有溶液に加え,PtコロイドとTa-SnO2の混合液を作製した。PtコロイドとTa-SnO2の混合液を90℃まで昇温して3時間撹拌した後,室温まで冷却及び一晩撹拌し,ろ過及び洗浄を行うことでPtコロイドを担持したTa-SnO2の粉末を合成した。なお,上記の洗浄操作は,洗浄操作の際に得られたろ液に硝酸銀水溶液を滴下して,塩化銀による白色沈殿が検出されなくなるまで繰り返した。Ptコロイドを担持したTa-SnO2の粉末は恒温槽で80℃一晩乾燥させた。

【0046】
恒温槽で80℃一晩乾燥させたTa-SnO2の粉末を,窒素ガス(流量100mL min-1)を流通させた管状電気炉(アルファ技研製)に入れ,Ta-SnO2の粉末を400℃,30分間,窒素ガス雰囲気中で熱処理し,さらに,Ptコロイドを担持したTa-SnO2の粉末を窒素ガス雰囲気に保持したままで室温まで急冷した。室温まで急冷後,電気炉の雰囲気を窒素雰囲気として,2時間以上保持した。一連の操作で得られた粉末の結晶相をXRDで評価したところ,PtとTa-SnO2だけであることを確認すると共に,透過型電子顕微鏡(TEM,日立ハイテク製,H-9500,加速電圧200kV)にて,PtがTa-SnO2上に高分散担持していることを確認した。なお,Ta-SnO2上に高分散担持されたPtの粒子径はTEM画像から5.05±0.71nmであった。また,誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS,アジレントテクノロジー,7500CX)にてTa-SnO2上に担持されたPt量を測定したところ,17.5wt%であった。これまでの手順で,最終的に得られた粉末(不均質触媒)(担持触媒)を,以後,Pt/Ta-SnO2と表記する。

【0047】
(4) 触媒インク(カソード触媒インク)の作製
次に,Pt/Ta-SnO2,高分子電解質(アイオノマー)バインダー,揮発性有機化合物及び水の混合液(触媒インク)を作製した。高分子電解質バインダーはプロトン伝導性を有し,触媒表面を厚さ数nmで被覆する性質があればよく,パーフルオロスルホン酸の一種であるナフィオン(登録商標),フレミオンTM,aquivionなどがあるが,今回はナフィオンを用いた。揮発性有機化合物は室温にて揮発性の高い有機化合物であり,高分子電解質バインダーを5vol%以上溶解させる能力のあるものが好ましい。具体例としては,メタノール,エタノール,プロパノール,ブタノール等がある。今回は,触媒としてPt/Ta-SnO2を0.45g,高分子電解質バインダーとしてナフィオンをPt/Ta-SnO2の体積に対して0.2又は0.7の割合で混合した。すなわち,Pt/Ta-SnO2とナフィオンの混合割合を変えて2種の触媒インクを作製した。これら2種類の触媒インクを,この混合割合を用いて区別し,以後I/S=0.2,I/S=0.7と表記する。I/S=0.2又はI/S=0.7のPt/Ta-SnO2とナフィオンの上記混合物に対し,揮発性有機化合物の一種である2-プロパノール1.98g,及び水2g,及びジルコニア製ボール(直径5mm)20個を,ジルコニア製ポット(フリッチュ製,容積45cm2)に入れ,遊星ボールミル(フリッチュ製,P-6,回転数270rpm)にて30分混合した。この遊星ボールミルでの混合で得られた混合物を,ミルポット回転機(日東科学製,ANZ-61S,回転数60rpm)にてさらに2時間混合し,得られた混合物を保冷庫(12℃)にて24時間静置した。24時間静置した混合物をさらにミルポット回転機にてさらに1時間混合し,さらに,超音波ホモジナイザー(SMT製,UH-50)にて再分散処理を行った。一連の操作で得られたPt/Ta-SnO2及びナフィオンの混合物を,以後,カソード触媒インクと表記する。前記混合物を保冷庫に静置することにより安定性を高めることができる。

【0048】
(5) 触媒インク(アノード触媒インク)の作製
また,Ptを担持したカーボンブラック(Pt/CB,田中貴金属製,TEC10E50E,Pt担持量46wt%),ナフィオン,エタノール及び水の混合液も前記カソード触媒インクの作製条件と同様な方法にて作製した。具体的には,Pt/CBを0.45g,ナフィオンをPt/Ta-SnO2の体積に対して0.7の割合で混合し,揮発性有機化合物の一種であるエタノール3.96g,水2g,及びジルコニア製ボール(直径5mm)20個を,ジルコニア製ポット(フリッチュ製,容積45cm2)に入れ,遊星ボールミル(フリッチュ製,P-6,回転数270rpm)にて30分混合した。この遊星ボールミルでの混合で得られた混合物を,ミルポット回転機(日東科学製,ANZ-61S,回転数60rpm)にてさらに2時間混合し,得られた混合物を保冷庫(12℃)にて24時間静置した。24時間静置した混合物をさらにミルポット回転機にてさらに12時間混合し,さらに,超音波ホモジナイザー(SMT製,UH-50)にて再分散処理を行った。一連の操作で得られたPt/CB及びナフィオンの混合物を,以後,アノード触媒インクと表記する。

【0049】
(6) エレクトロスプレー(ES)堆積法によるカソード側触媒層の形成と実験結果
図1を参照して上述したエレクトロスプレー法(ES)による電極触媒層の形成装置10を用いる。

【0050】
カソード触媒インクを入れるプラスチック性インクリザーバー21(容積10cm3)(絶縁性インクリザーバー容器)に,金属製(導電性)ノズル22(一例として内径210μm)を底部中心に設置した。金属製ノズル22の先端と基板12との距離は2.5cmであり,金属製ノズル22から鉛直下方に金属製ノズル先端から0.5cmのところに金属製ゲート板14が位置している。この金属製ゲート板14には直径1cmの貫通穴15があり,その貫通穴15の中心の真上に金属製ノズル22の先端が位置している。

【0051】
インクリザーバー21上面にはインクリザーバー内部の圧力(差圧)を測定可能なマノメータ(圧力測定器)24及びインクリザーバー内部の圧力を制御可能なシリンジ(圧力調整器,装置)25を,それぞれシリコン製チューブを介して接続した。触媒インクを塗布する間は,インクリザーバー21内部を気密に密閉できるように蓋を設けてある。そのインクリザーバーの内圧(負圧)を,大気圧との差圧として0.32kPa~0.38kPaの範囲で制御した(この点については図5を参照して後に詳述する)。

【0052】
また,金属製ノズル22をプラス極として,直流高電圧発生装置50(Trec Japan, 610E)を接続すると共に,高電圧発生装置50のマイナス極側は,基板12および金属製ゲート板14に接続し,さらにアースしている。高電圧発生装置50により,触媒インクをエレクトロスプレーする間に,プラスとマイナス極の間を2.0kV-4.0kVに制御することができる。

【0053】
基板12はXYテーブル11により図面手前から奥の方向(Y方向)に 2cm移動することができ,その際の移動速度は5mm/secである。基板12が図面手前から奥の方向に2cm移動すると,触媒インクのリザーバー21は金属製ゲート板14と連動してX方向テーブル10により0.20mmピッチで左又は右に(X方向)移動することができる。このようなインクリザーバー21及びゲート板14と基板12の一連の動作により,2cm×2cmの正方形の範囲内に触媒インクを塗布することができる。すなわち,基板12上には高分子電解質膜(プロトン伝導(導電)性高分子膜またはイオン交換膜)13が固定されており(単に置くだけでもよく,粘着テープ等で固定してもよい),この高分子電解質膜13上を,X方向に一定間隔( 0.2mm)のピッチで,導電性ノズル22がY方向に相対的にスキャンしながら,高分子電解質膜13表面上にカソード触媒インクをエレクトロスプレーにより堆積(形成)していく。金属製ゲート板14の穴15の存在により,エレクトロスプレーにより形成される触媒インクのミストがこの穴15を通過するさいにその広がりが抑制され,導電性ノズル22の真下に向っていくように制御される。これにより,所定の範囲内で均一な膜厚で電極触媒層の形成(塗膜,塗布)が可能となる。

【0054】
触媒インクの塗布にあたっては,導電性ノズル22の位置をX方向に移動させて,高分子電解質膜13の存在する位置から外しておく。この状態でインクリザーバー21に触媒インクを入れ,リザーバー21内を気密に密閉状態とする。このとき,インクリザーバー内の触媒インクにより占有されていない空間は大気圧である。触媒インクの粘度が低い場合には触媒インクが導電性ノズル22から滴下する。圧力調整器25によりインクリザーバー21内の上記空間の圧力を下げていくと(負圧状態)触媒インクが自重により滴下するのがインクリザーバー21内の負圧により阻止される。触媒インクの滴下が丁度止んだときには導電性ノズル22の先端の触媒インクの表面はメニスカスを形成する状態となる。この状態からエレクトロスプレーを開始し,次にのべる安定なコーン・ジェット・モードになることを確認して,導電性ノズル22を高分子電解質膜13上方を相対的に移動させて,上述したスキャニングを行う。

【0055】
実際に,触媒インクを塗布する際に,まず,インクリザーバー21に1cm3のカソード触媒インクを入れ蓋にて密閉し,高電圧発生装置50にて導電性ノズル22-基板12(ゲート板14)間に所定の電圧を印加した。さらに,インクリザーバー21内の差圧(大気圧との差。負側)を上記シリンジにて制御することで,導電性ノズル22先端に触媒インクのメニスカスを形成することを,CCDカメラを用いて確認した。

【0056】
その後,高電圧発生装置50から3.0kV以上の電圧を印加すると,導電性ノズル先端の触媒インクから円錐状の突起が現れ,数ミクロンの液滴が落下する状態になる。この状態をディッピング・モード(dippinng mode)と定義する。

【0057】
また,高電圧発生装置50からの印加電圧を上げると,メニスカスの先端から触媒インクの液滴(直径5μm以下)が連続的に吐出される状態になる。この状態をコーン・ジェット・モード(cone-jet mode)と定義する。

【0058】
さらに高電圧発生装置の印加電圧を上げると,メニスカスの先端から円錐状の突起が再び現れると共に,前記突起は不規則的に移動しながら液滴を吐出するようになる。この状態をマルチ・ジェット・モード(multi-jet mode)と定義する。

【0059】
触媒インクの塗布にはcone-jet mode にて行うことが望ましく,その吐出された触媒インクの液滴をナフィオン膜上に数回塗布すると共に,続けて60℃の恒温槽にて乾燥させることで,白金担持量が約0.048-0.054mg-Pt/cm2となるカソードの触媒形成膜(catalyst coated membrane)(CCM,触媒層面積4.4cm2)を作製することができた。

【0060】
図2は印加電圧(Applied Votage)を変えたときに発生する上述のドリッピング・モード,コーン・ジェット・モードおよびマルチ・ジェット・モードの写真とそのときの各モードにおける印加電圧の範囲を,導電性ノズル内径(Nozzle inner diameter )をパラメータ(180,210,250μm)として示すものである。このときの触媒インクの粘度(viscosity)は5.68mPa・sである。

【0061】
図3および図4は,触媒インクの粘度を揮発性有機化合物または水の割合を変えて,図2に示すものと同じ実験を行った結果を示すグラフである。いずれも縦軸が導電性ノズル内径,横軸が印加電圧である。図3は粘度が17.8mPa・sの場合,図4は粘度が22.0mPa・sの場合である。

【0062】
粘度が低くなると触媒インクは導電性ノズルから滴下しやすくなるので適切なエレクトロスプレーを生じさせるためにはインクリザーバー21の圧力を低くして(大気圧との差圧を大くして),触媒インクの重力による滴下を阻止していく必要がある。実験により得られた触媒インクの粘度とインクリザーバー(容器)内の圧力(大気圧との差圧で表現)との関係を示すのが図5である。図5の横軸は触媒インクの粘度(Paste viscosity ),縦軸はインクリザーバー内の圧力(負圧)(大気圧との差圧で表現)である。粘度が5.68mPa・sの点が図2より得られるもの,粘度が17.8mPa・sの点が図3により得られるもの,粘度が22.0mPa・sの点が図4により得られるものである。MAXとMINの点(直線)は,インクリザーバー内の圧力の許容範囲を示している。このMAXとMINの間の圧力であれば,印加電圧によっては適切なコーン・ジェット・モードのエレクトロスプレーが生じる(印加電圧にも許容範囲がある)。図5は導電性ノズル内径が210μmの場合であり,上述した容積10cm3のインクリザーバーに1cm3の触媒インクを収容したときの実験結果である。

【0063】
まとめると,インクリザーバー内の圧力(負圧)の調整には,インクリザーバー内の触媒インクの重力,インクリザーバーやノズルの内面との間の摩擦力,触媒インクの粘度等のファクタが影響を与えるが,その中で触媒インクの粘度の影響が最も大きい。そして,ノズルの内径が 180~250μmの範囲において,インクリザーバー内の負圧(絶対値,単位はkPa)Pと触媒インクの粘度(単位はmPa・s)vとの関係が,図5の直線MIN(下記式(1) で表わされる)と直線(折線)MAX(下記式(2),(3) で表わされる)との間の範囲内にあるときに,適切なコーン・ジェット・モードのエレクトロスプレーが生じる。

【0064】
P≧0.407-0.0160×v(mPa・s) ただし,0<v≦25mPa・s ‥式(1)
P≦0.476-0.0157×v(mPa・s) ただし,0<v≦22mPa・s ‥式(2)
P≦1.17-0.0467×v(mPa・s) ただし,22mPa・s<v≦25mPa・s‥式(3)

【0065】
したがって,インクリザーバー内の負圧は触媒インクの粘度に応じて調整することができ,また好ましくは,その範囲は0~0.47kPa(0kPaを除く),より好ましくは0.05~0.4kPa,粘度の小さな触媒インクの場合には先に例示したように0.32~0.38kPa程度である。

【0066】
このように,インクリザーバー内の圧力を大気圧よりも低くして触媒インクの滴下を防止しているので,触媒インクに含有させる揮発性有機化合物および/または水の割合を高くすること(粘度を低くすること)が可能となる。これらの揮発性有機化合物や水はエレクトロスプレーの微細なミストが高分子電解質膜上に堆積していく過程で空間内において揮発するために堆積した電極触媒層に残る量が少なく,または殆ど残らないので,後の乾燥工程を省略またはその時間を短くすることが可能となるとともに,気孔率(空隙率)を高めることができる。

【0067】
(7) 比較対象の作製
比較対象として,従来のパルススワールスプレー法(PSS)を用いて,Pt/Ta-SnO2のCCM(面積,4.4cm2)も作製した。霧化圧を0.15MPa,オペレーション圧を0.4MPa,シリンジ圧を0.1MPa,基板温度を55℃に調整し,白金担持量が約0.5mg-Pt/cm2になるように触媒インクをナフィオン膜上に数回塗布し,続けて60℃の恒温槽にて乾燥させることで,白金担持量が約0.048-0.054mg-Pt/cm2となるカソードのCCM(触媒層面積4.4cm2)を作製した。

【0068】
なお,エレクトロスプレー(ES)法及びパルススワールスプレー(PSS)法で準備した触媒インクの液滴について,基板への着弾後の直径をデジタルマイクロスコープ(keyence 製,VHX-1000)にて評価すると,エレクトロスプレー(ES)法では,I/S=0.7の場合で4.40±1.39μm(図6の(b)),I/S=0.2の場合で3.64±2.55μm(図6の(c))となった。また,パルススワールスプレー(PSS)法ではI/S=0.7の場合で 109.9±51.8μmとなった(図6の(a))。

【0069】
(8) アノード側の触媒層の作製
アノード側の触媒層の作製にはパルススワールスプレー(PSS)法用いた。カーボンペーパーを用いたガス拡散層(GDL,25BCH,SGL carbon group)に,アノード触媒インクを塗布した。霧化圧を0.15MPa,オペレーション圧を0.4MPa,シリンジ圧を0.1MPa,基板温度を55℃に調整し,白金担持量が約0.5mg-Pt/cm2になるようにアノード触媒インクをGDL上に数回塗布すると共に,60℃の恒温槽にて乾燥させた。その結果,白金担持量が約0.5mg-Pt/cm2となるアノードのガス拡散電極(GDE,触媒層面積4.4cm2)を作製することができた。アノード側の触媒層もカソード側の触媒層と同じようにエレクトロスプレー(ES)法で作成することができるのはいうまでもない。

【0070】
(9) 膜電極接合体(MEA)の作製
上記のCCMにおいて,カソード触媒層が塗布されていない高分子電解質膜の面に対して前記のGDEを積層し,さらにCCMのカソード触媒層上にガス拡散層(GDL)を重ね,ホットプレス(140℃,圧力10kg・f/cm2)を3分間行った。これにより,ナフィオン膜にカソード触媒層及びアノード触媒層がそれぞれ対向するように積層された膜電極接合体(MEA)を得た。

【0071】
(10)電極触媒層の構造
カソード触媒層及びアノード触媒層のPt担持量はICP-MSを用いて測定した。その結果,エレクトロスプレー(ES)法で作製したI/S=0.2のカソード触媒層のPt担持量は0.054mgPt/cm2,I/S=0.7のカソード触媒層のPt担持量は0.048mgPt/cm2,パルススワールスプレー(PSS)法で作製したI/S=0.7のカソード触媒層のPt担持量は0.048mgPt/cm2,パルススワールスプレー(PSS)法で作製したI/S=0.7のアノード触媒層のPt担持量は0.50mgPt/cm2であった。

【0072】
また,収束イオンビーム法(FIB,日立ハイテクノロジーズ,FB-2200)で厚さ20nmの触媒層の超薄切片を作製し,Gaイオンによる走査イオン顕微鏡像(SIM)を取得して,各触媒層の断面厚を求めた。

【0073】
図7を参照して,エレクトロスプレー(ES)法で作製したI/S=0.2のカソード触媒層(CL)の厚さは5.8±0.3μm(図7の(c)),I/S=0.7のカソード触媒層(CL)の厚さは5.4±0.5μm(図7の(b)),パルススワールスプレー(PSS)法で作製したI/S=0.7のカソード触媒層(CL)の厚さは2.1±1.1μm(図7の(a))であった。

【0074】
上記のFIBにて作製した各触媒層を走査透過電子顕微鏡(STEM,日立ハイテクノロジーズ,HD-2700)にて観察し,その走査二次電子(SEM)の低倍率像を取得して,触媒層の空隙を観察し,その画像を二値化処理して各触媒層のサブミクロンレベル以上の空隙の割合を求めたところ,エレクトロスプレー(ES)法で作製したI/S=0.2のカソード触媒層では0.36±0.026,I/S=0.7のカソード触媒層では 0.33±0.023,パルススワールスプレー(PSS)法で作製したI/S=0.7のカソード触媒層では0.21±0.024であった。

【0075】
同様に上記のFIBにて作製した各触媒層を走査透過電子顕微鏡(STEM,日立ハイテクノロジーズ,HD-2700)にて観察し,その走査二次電子(SEM)の高倍率像を取得して,触媒層のより小さな空隙を観察し,各組成像を二値化処理して各触媒層のサブミクロンレベル未満の空隙の割合を求めた。その結果エレクトロスプレー(ES)法で作製したI/S=0.2のカソード触媒層では0.45±0.039(図7の(f)),I/S=0.7のカソード触媒層では0.42±0.036(図7の(e)),パルススワールスプレー(PSS)法で作製したI/S=0.7のカソード触媒層では0.25±0.026(図7の(d))であった。表1参照。

【0076】
【表1】
JP2018135611A1_000003t.gif

【0077】
また,FIB-SEM(Thermo Fisher Scientific製,Helios NanoLab,G3UC )による触媒層の三次元画像から取得した各カソード触媒層の空隙率をもとめた(図8の(a)と(b))。その結果,エレクトロスプレー(ES)法で作製したI/S=0.7のカソード触媒層では53.7%(図8(b)),パルススワールスプレー(PSS)法で作製したI/S=0.7のカソード触媒層では43.1%(図8(a))であり,各空隙の体積分布を比較すると,直径50nm以上の空隙がI/S=0.7のカソード触媒層にて多く存在することを確認した。図9はFIB-SEMから得られた二値化画像によって推定された累積細孔容積(図9(a))と細孔容積(図9(b))の細孔直径分布を示す。図9において,横軸は細孔の直径(Pore diameter ),縦軸は各細孔容積(Pore Volume)(b)と累積細孔容積(Cumulative pore volume )(a)である。

【0078】
低加速透過電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ,HT7700S)にて,触媒表面を被覆するナフィオンの分布状態の透過電子像を取得したところ,パルススワールスプレー(PSS)法で作製したI/S=0.7のカソード触媒層ではナフィオンの多くは局所的に孤立して存在しているが(図10の(a)),エレクトロスプレー(ES)法で作製したI/S=0.2及びI/S=0.7のカソード触媒層では多くのナフィオンが連続的に継がっていることを確認した(図10の(b)及び(c))。更に高倍率の触媒表面の透過電子像を取得したところ,I/S=0.7のパルススワールスプレー(PSS)法で作製したカソード触媒層及びI/S=0.7のエレクトロスプレー(ES)法で作製したカソード触媒層では周囲をPt/Ta-SnO2で囲まれた空隙がナフィオンで閉塞していることが確認され(図10の(d)及び(e)),I/S=0.2のエレクトロスプレー(ES)法で作製したカソード触媒層では周囲をPt/Ta-SnO2で囲まれた空隙内にて,Pt/Ta-SnO2表面にナフィオンが均一に被覆されているものの,前記の空隙は閉塞していないことが確認された(図10の(f))。図10は,Ta-SnO2に担持されたPt上のナフィオンのモルフォルジー(a) PSS I/S=0.7,(b) ES I/S=0.7,(c) ES I/S=0.2とそれぞれの高倍率画像(d) PSS I/S=0.7,(e) ES I/S=0.7,(f) ES I/S=0.2である。それぞれの白金担持量は0.048mg cm-2(PSS I/S=0.7),0.048mg cm-2(ES I/S=0.7),0.054mg cm-2(ES I/S=0.2)である。

【0079】
(11)発電評価
上記の各MEAを用いて単セルを組み立て,発電評価装置(Panasonic Production Technology製,FCE-1)に設置し,アノードには水素を100ml/min,カソードは窒素を150ml/minの流量で供給し,80℃,80%RHに保持した状態に保持した。ポテンショスタット(Metrohm AutoLab B.V製,)を用いて,アノード電位に対してカソード電位を0.075Vから1.0Vの電位範囲で20mV/secの掃引速度で数サイクル電位掃引し,ボルタモグラムが安定するまで行った。電圧を0.08Vに3秒保持後に窒素の供給を停止し,20mV/secでボルタモグラムの測定を行った。図11は,80℃80%RHにおけるサイクリックボルタモグラムである。Ptの電気化学的活性表面積(ECA)は,大気圧下にて測定した水素吸着波の電気量(QH)を,白金上への水素原子の吸着に寄与するエネルギー(210μC/cm2)と電極の幾何学的表面積(A),触媒担持量(MPt)で割ることで算出した。結果を表2にまとめた。また,Pt/Ta-SnO2のPtの利用率(UPt)を下記式(4)で求めた。ここでSPt,TEMとはTEMでもとめたPtの平均粒子径から見積もられるPtの幾何学的表面積を意味する。

【0080】
【表2】
JP2018135611A1_000004t.gif

【0081】
UPt=(ECA/SPt,TEM)×100 ‥式(4)

【0082】
これより,エレクトロスプレー(ES)で作製したI/S=0.7のカソード触媒層では85%,エレクトロスプレー(ES)で作製したI/S=0.2のカソード触媒層では103%,パルススワールスプレー(PSS)で作製したI/S=0.7のカソード触媒層では78%となった。これより,エレクトロスプレー(ES)法で合成した触媒層の方がパルススワールスプレー(PSS)で合成したものより,Ptの利用率が高くなることを明らかにした。この結果は,低加速透過電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ,HT7700S)にて,触媒表面を被覆するナフィオンの分布状態を観察(図10)した結果の裏付けになっている。よって,パルススワールスプレー(PSS)法に比べエレクトロスプレー(ES)法で合成した触媒層では,不均質触媒表面に高分子電解質バインダーを均一に被覆する効果があることを明らかにした。パルススワールスプレー(PSS)法に比べ,エレクトロスプレー(ES)法での触媒インクの液滴径は小さく,それに伴い,触媒インクの塗布後の揮発性有機化合物がより早く蒸発する効果がある。その結果,パルススワールスプレー(PSS)法に比べ,エレクトロスプレー(ES)法では高分子電解質バインダーが揮発性有機化合物中に高分散した状態にて,不均質触媒上に被覆しやすく,Ptの利用率も向上したものと考えられる。この効果は,乾燥工程の差であり,従って,均質触媒でも同様に得られると考えられる。

【0083】
電流と電圧(I-E)の関係は電子負荷装置(菊水電子製,PLZ-664WA)を用いて測定した。アノードには水素(100ml/min,大気圧),カソードには酸素もしくは空気を100ml/minの流量で,大気圧,及び150kPaもしくは200kPaの差圧を加えて導入した。温度は80℃で,湿度は80%RHに保持した。セル抵抗はミリオームメータ(鶴賀電機製,Model 356E)にて測定した。各カソード触媒層を用いた単セルのセル性能(図12の(a),(b))を比較すると,カソードに酸素,空気を導入した場合それぞれにおいて,セル抵抗は同じであり,ターフェルスロープ(図12の(c),(d))を比較すると各触媒層で同じである。エレクトロスプレー(ES)法で作製したI/S=0.7とパルススワールスプレー(PSS)法で作製したI/S=0.7の0.85Vでの質量活性を比較すると,エレクトロスプレー(ES)法のセル性能が高い。また,エレクトロスプレー(ES)法で作製したセルの0.85Vでの質量活性は,I/S=0.7よりI/S=0.2にて高いことから,エレクトロスプレー(ES)法でのPtの有効利用率の向上が,質量活性の向上に起因していると考えられる(図12の(e))。図12において,(a)はIR分極曲線,(b)は80℃80%RH,大気圧における酸素または空気/水素時のオーム抵抗,(c)は酸素を用いた場合におけるターフェルプロット,(d)は空気を用いた場合におけるターフェルプロット,(e)は酸素または空気/水素時の0.85V(IR損無)における質量活性を示す。それぞれの白金担持量は0.048mg cm-2(パルススワールスプレー(PSS)I/S=0.7),0.048mg cm-2(エレクトロスプレー(ES)I/S=0.7),0.054mg cm-2(エレクトロスプレー(ES)I/S=0.2)。

【0084】
更に,カソードの差圧を変えて測定(図13の(a),(b))すると,エレクトロスプレー(ES)法で作製したI/S=0.2及び0.7の触媒層を用いたセルの質量活性は,パルススワールスプレー(PSS)法で作製したI/S=0.7に比べ8倍から10倍も向上することを確認した(図13の(c)および表2)。この結果はパルススワールスプレー(PSS)法に比べエレクトロスプレー(ES)法で作製した触媒層の方が,高い空隙率をもち,高分子電解質バインダーのネットワークがより発達していることを意味していると考えられる。図13において,(a)は背圧150kPa(絶対値)または200kPa(絶対値)での80℃80%RH,空気/水素時のIR分極曲線とオーム抵抗,(b)は背圧150kPa(絶対値)または200kPa(絶対値)での80℃80%RH,空気/水素を用いた場合におけるターフェルプロット,(c)は酸素または空気/水素時の0.85V(IR損無)と0.65V(IR損無)における質量活性を示す。それぞれの白金担持量は0.048mg cm-2(パルススワールスプレー(PSS)I/S=0.7),0.048mg cm-2(エレクトロスプレー(ES)I/S=0.7),0.054mg cm-2(ES I/S=0.2)。

【0085】
これまでのエレクトロスプレー(ES)法とエレクトロスピニング法で作製した触媒層を用いたセル性能を比較しても(表3),本実施例の性能が最も高く,負圧制御を新たに取り入れたエレクトロスプレー(ES)法は燃料電池の触媒層形成及び性能向上に有効であることが証明した。

【0086】
表3に引用されている論文は次の通りである。
A.M. Chaparro et al.
A.M. Chaparro, P. Ferreira-Aparicio, M.A. Folgado, E. Brightman, G. Hinds“Study of superhydrophobic electrosprayed catalyst layers using a localized reference electrode technique”Journal of Power Sources, Volume 325, 1 September 2016, Pages 609-619
P. Pintauro et al.
M. Brodt, T. Han, N. Dale, E. Niangar, R. Wycisk, and P. Pintauro, “Fabrication, In-Situ Performance, and Durability of Nanofiber Fuel Cell Electrodes”J. Electrochem. Soc., 162(1), F84-F91 (2015).

【0087】
【表3】
JP2018135611A1_000005t.gif

【0088】
略語の説明
Ta-SnO2:TaドープSnO2(タンタル・ドープ酸化スズ)
I/S=0.2:Pt/Ta-SnO2の体積に対してナフィオンを0.2の割合で混合した触媒インク
I/S=0.7:Pt/Ta-SnO2の体積に対してナフィオンを0.7の割合で混合した触媒インク
CCM:Catalyst Coated Membrane(触媒形成膜)
GDL:ガス拡散層
GDE:ガス拡散電極
MEA:膜電極接合体
CL:触媒層
RHE:可逆水素電極
ECA:電気化学的活表面積
BET:Brunauer-Emmett-Teller(ブルナウワー・エミット・テラー,BET)吸着法
ES法:エレクトロスプレー(堆積)法
PSS法:パルススワールスプレー法
FIB:収束イオンビーム法
XRD:X線回折装置
TEM:透過型電子顕微鏡
ICP-MS:誘導結合プラズマ質量分析計
SIM:走査イオン顕微鏡
STEM:走査透過電子顕微鏡
【符号の説明】
【0089】
1 エレクトロスプレー(ES)(堆積)法による電極触媒の形成装置
10 X方向テーブル(スキャニング機構)
11 XYテーブル(スキャニング機構)
12 基板(膜保持部材)(媒体保持部材)
13 高分子電解質膜(フィルム状媒体,フィルム状基体)
14 ゲート板
15 制御穴(貫通穴)
21 インクリザーバー容器
22 導電性ノズル
24 圧力測定器(装置,手段)
25 圧力調整器(装置,手段)(シリンジ)
30,40 支柱(保持機構)
31,41 昇降体(保持機構)
32 挟持具(把持具,保持具)(保持手段)(保持機構)
33,43 ねじ軸(昇降装置)
42 腕
50 高電圧発生装置
Drawing
(In Japanese)【図1】
0
(In Japanese)【図2】
1
(In Japanese)【図3】
2
(In Japanese)【図4】
3
(In Japanese)【図5】
4
(In Japanese)【図6】
5
(In Japanese)【図7】
6
(In Japanese)【図8】
7
(In Japanese)【図9】
8
(In Japanese)【図10】
9
(In Japanese)【図11】
10
(In Japanese)【図12】
11
(In Japanese)【図13】
12