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明細書 :人工多能性幹細胞由来腸管幹細胞の維持培養

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 令和元年11月21日(2019.11.21)
発明の名称または考案の名称 人工多能性幹細胞由来腸管幹細胞の維持培養
国際特許分類 C12N   5/10        (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
C12N   9/99        (2006.01)
FI C12N 5/10
C12Q 1/02
C12N 9/99
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 32
出願番号 特願2018-568660 (P2018-568660)
国際出願番号 PCT/JP2018/005849
国際公開番号 WO2018/151307
国際出願日 平成30年2月20日(2018.2.20)
国際公開日 平成30年8月23日(2018.8.23)
優先権出願番号 2017029448
優先日 平成29年2月20日(2017.2.20)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DJ , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JO , JP , KE , KG , KH , KN , KP , KR , KW , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT
発明者または考案者 【氏名】岩尾 岳洋
【氏名】松永 民秀
【氏名】近藤 聡志
【氏名】水野 翔太
出願人 【識別番号】506218664
【氏名又は名称】公立大学法人名古屋市立大学
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
個別代理人の代理人 【識別番号】110000109、【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
審査請求
テーマコード 4B063
4B065
Fターム 4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
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4B063QR62
4B063QS25
4B063QS36
4B063QX02
4B065AA93X
4B065AC20
4B065BA30
4B065BB04
4B065BB19
4B065BD25
4B065BD39
4B065CA44
要約 腸管幹細胞の性質を維持させたまま、人工多能性幹細胞由来腸管幹細胞を維持・培養することを可能にする培養方法を提供することを課題とする。人工多能性幹細胞由来腸管幹細胞様細胞をGSK-3β阻害剤、ヒストン脱アセチル化阻害剤、及び血清代替物の存在下、或いはGSK-3β阻害剤及び血清代替物の存在下で培養する。好ましくは、上皮成長因子、TGFβ受容体阻害剤及び線維芽細胞増殖因子からなる群より選択される一以上の化合物が更に存在する条件下で培養する。
特許請求の範囲 【請求項1】
人工多能性幹細胞由来の腸管幹細胞様細胞をGSK-3β阻害剤、ヒストン脱アセチル化阻害剤、及び血清代替物の存在下、或いはGSK-3β阻害剤及び血清代替物の存在下で培養する工程を含む、人工多能性幹細胞由来の腸管幹細胞様細胞を培養する方法。
【請求項2】
GSK-3β阻害剤がCHIR 99021、SB216763、CHIR 98014、TWS119、Tideglusib、SB415286、BIO、AZD2858、AZD1080、AR-A014418、TDZD-8、LY2090314、IM-12、Indirubin、Bikinin又は1-Azakenpaulloneであり、ヒストン脱アセチル化阻害剤がバルプロ酸、ボリノスタット、トリコスタチンA、ツバスタチンA、ギビノスタット又はプラシノスタットであり、血清代替物がノックアウト血清代替物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記培養が、上皮成長因子、TGFβ受容体阻害剤及び線維芽細胞増殖因子からなる群より選択される一以上の化合物が更に存在する条件下で行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
TGFβ受容体阻害剤がA-83-01であり、線維芽細胞増殖因子がFGF2、FGF4又はFGF10である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記培養が、BMP阻害剤、Wntシグナル活性化剤及びWntアゴニストからなる群より選択される一以上の化合物が更に存在する条件下で行われる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
BMP阻害剤がNogginであり、Wntシグナル活性化剤がR-spondin 1であり、WntアゴニストがWnt3aである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記培養が、ニコチンアミド、N-アセチルシステイン、p38阻害剤及びROCK阻害剤からなる群より選択される一以上の化合物が更に存在する条件下で行われる、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
p38阻害剤がSB202190であり、ROCK阻害剤がY-27632である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
人工多能性幹細胞がヒト人工多能性幹細胞である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の方法で培養した腸管幹細胞様細胞を腸管上皮細胞様細胞へと分化させる工程を含む、腸管上皮細胞様細胞を調製する方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法で得られた腸管上皮細胞様細胞。
【請求項12】
請求項11に記載の腸管上皮細胞様細胞を用いた、被検物質の体内動態又は毒性を評価する方法。
【請求項13】
前記体内動態が、代謝、吸収、排泄、薬物相互作用、薬物代謝酵素の誘導、又は薬物トランスポーターの誘導である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
以下の工程(i)~(iii)を含む、請求項12又は13に記載の方法:
(i)請求項11に記載の腸管上皮細胞様細胞で構成された細胞層を用意する工程;
(ii)前記細胞層に被検物質を接触させる工程;
(iii)前記細胞層を透過した被検物質を定量し、被検物質の吸収性ないし膜透過性、薬物相互作用、薬物代謝酵素の誘導、薬物トランスポーターの誘導、又は毒性を評価する工程。
【請求項15】
以下の工程(I)及び(II)を含む、請求項12又は13に記載の方法:
(I)請求項11に記載の腸管上皮細胞様細胞に被検物質を接触させる工程;
(II)被検物質の代謝若しくは吸収、薬物相互作用、薬物代謝酵素の誘導、薬物トランスポーターの誘導、又は毒性を測定・評価する工程。
【請求項16】
以下の工程(a)及び(b)を含む、被検物質の消化管粘膜障害作用を評価する方法:
(a)請求項11に記載の腸管上皮細胞様細胞に被検物質を接触させる工程;
(b)前記腸管上皮細胞様細胞におけるムチン2又はクロモグラニンAの発現を検出し、検出結果に基づき被検物質の消化管粘膜障害作用を判定する工程であって、ムチン2又はクロモグラニンAの発現低下が認められることが、被検物質が消化管粘膜障害作用を有することの指標となる工程。
【請求項17】
以下の工程(A)及び(B)を含む、被検物質の消化管粘膜保護作用を評価する方法:
(A)消化管粘膜障害作用を示す物質の存在下、請求項11に記載の腸管上皮細胞様細胞に被検物質を接触させる工程;
(B)前記腸管上皮細胞様細胞におけるムチン2又はクロモグラニンAの発現を検出し、検出結果に基づき被検物質の消化管粘膜保護作用を判定する工程であって、前記物質によるムチン2又はクロモグラニンAの発現低下の抑制が認められることが、被検物質が消化管粘膜保護作用を有することの指標となる工程。
【請求項18】
請求項11に記載の腸管上皮細胞様細胞を含む、細胞製剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は人工多能性幹細胞由来の腸管幹細胞を培養する技術及びその用途に関する。本出願は、2017年2月20日に出願された日本国特許出願第2017-029448号に基づく優先権を主張するものであり、当該特許出願の全内容は参照により援用される。
【背景技術】
【0002】
小腸には多くの薬物代謝酵素や薬物トランスポーターが存在することから、肝臓と同様、薬物の初回通過効果に関わる臓器として非常に重要である。そのため、医薬品開発早期の段階から小腸における医薬品の膜透過性や代謝を評価することが、薬物動態特性に優れた医薬品の開発に必要である。現在、小腸のモデル系としてはヒト結腸癌由来のCaco-2細胞が多用されている。しかし、Caco-2細胞における薬物トランスポーターの発現パターンはヒト小腸とは異なる。また、Caco-2細胞には薬物代謝酵素の発現及び酵素誘導はほとんど認められないことから、正確に小腸での薬物動態を評価することは難しい。したがって、小腸における薬物代謝及び膜透過性を総合的に評価するためには初代小腸上皮細胞の利用が望ましいが、初代小腸上皮細胞の入手は困難である。
【0003】
そこで、ヒト胚性幹細胞(embryonic stem cells:ES細胞)と同様の多分化能とほぼ無限の増殖能を有するヒト人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells:iPS細胞)から作製される腸管上皮細胞の利用が期待されている。
【0004】
尚、生体の腸管から腸管幹細胞を単離し、体外で腸管幹細胞や腸管上皮細胞を培養する技術やヒトiPS細胞から腸管上皮細胞を分化誘導する技術はいくつか報告されているが(例えば特許文献1~4、非特許文献1~3を参照)、ヒトiPS細胞由来の腸管幹細胞の維持又は増殖を目的とした培養技術は報告されていない。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】国際公開第2014/132933号パンフレット
【特許文献2】特表2016-512958号公報
【特許文献3】特表2014-516562号公報
【特許文献4】再表2012-060315号公報
【0006】

【非特許文献1】Yin X. et al., Niche-independent high-purity cultures of Lgr5(+) intestinal stem cells and their progeny. Nature Methods, 2014. 11(1): p. 106-112.
【非特許文献2】Wang X. et al., Cloning and Variation of Ground State Intestinal Stem Cells. Nature, 522 (7555):173-178. (2015)
【非特許文献3】Sato T. et al., Long-term expansion of epithelial organoids from human colon, adenoma, adenocarcinoma, and Barrett's epithelium. Gastroenterology. 2011 Nov;141(5):1762-72
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
iPS細胞から腸管上皮細胞まで分化させるには多くの時間と費用がかかることが課題である。また、ヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞を大量に供給するためには、分化途中の腸管幹細胞の段階における培養技術の開発が必要不可欠である。そこで、本発明は、腸管幹細胞の性質、即ち、未分化性、増殖能及び腸管上皮細胞への分化能を維持させたまま、iPS細胞由来腸管幹細胞を維持・培養することを可能にする培養技術及びその応用・用途を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これまでの報告を踏まえつつ、未分化性の維持に必要又は有効と考えられる因子の様々な組合せを設定し、ヒトiPS細胞から誘導した腸管幹細胞様細胞の培養における効果・影響を詳細に検討した。その結果、特に有効な因子の組合せが見出され、当該組合せを用いた培養液を使用することにより、その性質を維持させたままでヒトiPS由来腸管幹細胞様細胞を維持、増殖させることが可能になった。また、驚くべきことに、当該培養方法で維持した腸管幹細胞様細胞を腸管上皮細胞へと分化誘導したところ、当該培養方法による培養を経ていない場合に比較して、腸管上皮マーカー及び薬物動態関連遺伝子の発現が大きく上昇した。即ち、確立に成功した培養方法が、腸管幹細胞様細胞を大量に調製することや長期間にわたって維持することのみならず、腸管上皮細胞への分化促進及び機能向上にも有用であることが判明した。以下の発明は、主として、以上の成果に基づく。
[1]人工多能性幹細胞由来の腸管幹細胞様細胞をGSK-3β阻害剤、ヒストン脱アセチル化阻害剤、及び血清代替物の存在下、或いはGSK-3β阻害剤及び血清代替物の存在下で培養する工程を含む、人工多能性幹細胞由来の腸管幹細胞様細胞を培養する方法。
[2]GSK-3β阻害剤がCHIR 99021、SB216763、CHIR 98014、TWS119、Tideglusib、SB415286、BIO、AZD2858、AZD1080、AR-A014418、TDZD-8、LY2090314、IM-12、Indirubin、Bikinin又は1-Azakenpaulloneであり、ヒストン脱アセチル化阻害剤がバルプロ酸、ボリノスタット、トリコスタチンA、ツバスタチンA、ギビノスタット又はプラシノスタットであり、血清代替物がノックアウト血清代替物である、[1]に記載の方法。
[3]前記培養が、上皮成長因子、TGFβ受容体阻害剤及び線維芽細胞増殖因子からなる群より選択される一以上の化合物が更に存在する条件下で行われる、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]TGFβ受容体阻害剤がA-83-01であり、線維芽細胞増殖因子がFGF2、FGF4又はFGF10である、[3]に記載の方法。
[5]前記培養が、BMP阻害剤、Wntシグナル活性化剤及びWntアゴニストからなる群より選択される一以上の化合物が更に存在する条件下で行われる、[1]~[4]のいずれか一に記載の方法。
[6]BMP阻害剤がNogginであり、Wntシグナル活性化剤がR-spondin 1であり、WntアゴニストがWnt3aである、[5]に記載の方法。
[7]前記培養が、ニコチンアミド、N-アセチルシステイン、p38阻害剤及びROCK阻害剤からなる群より選択される一以上の化合物が更に存在する条件下で行われる、[1]~[6]のいずれか一に記載の方法。
[8]p38阻害剤がSB202190であり、ROCK阻害剤がY-27632である、[7]に記載の方法。
[9]人工多能性幹細胞がヒト人工多能性幹細胞である、[1]~[8]のいずれか一に記載の方法。
[10][1]~[9]のいずれか一に記載の方法で培養した腸管幹細胞様細胞を腸管上皮細胞様細胞へと分化させる工程を含む、腸管上皮細胞様細胞を調製する方法。
[11][10]に記載の方法で得られた腸管上皮細胞様細胞。
[12][11]に記載の腸管上皮細胞様細胞を用いた、被検物質の体内動態又は毒性を評価する方法。
[13]前記体内動態が、代謝、吸収、排泄、薬物相互作用、薬物代謝酵素の誘導、又は薬物トランスポーターの誘導である、[12]に記載の方法。
[14]以下の工程(i)~(iii)を含む、[12]又は[13]に記載の方法:
(i)[11]に記載の腸管上皮細胞様細胞で構成された細胞層を用意する工程;
(ii)前記細胞層に被検物質を接触させる工程;
(iii)前記細胞層を透過した被検物質を定量し、被検物質の吸収性ないし膜透過性、薬物相互作用、薬物代謝酵素の誘導、薬物トランスポーターの誘導、又は毒性を評価する工程。
[15]以下の工程(I)及び(II)を含む、[12]又は[13]に記載の方法:
(I)[11]に記載の腸管上皮細胞様細胞に被検物質を接触させる工程;
(II)被検物質の代謝若しくは吸収、薬物相互作用、薬物代謝酵素の誘導、薬物トランスポーターの誘導、又は毒性を測定・評価する工程。
[16]以下の工程(a)及び(b)を含む、被検物質の消化管粘膜障害作用を評価する方法:
(a)[11]に記載の腸管上皮細胞様細胞に被検物質を接触させる工程;
(b)前記腸管上皮細胞様細胞におけるムチン2又はクロモグラニンAの発現を検出し、検出結果に基づき被検物質の消化管粘膜障害作用を判定する工程であって、ムチン2又はクロモグラニンAの発現低下が認められることが、被検物質が消化管粘膜障害作用を有することの指標となる工程。
[17]以下の工程(A)及び(B)を含む、被検物質の消化管粘膜保護作用を評価する方法:
(A)消化管粘膜障害作用を示す物質の存在下、[11]に記載の腸管上皮細胞様細胞に被検物質を接触させる工程;
(B)前記腸管上皮細胞様細胞におけるムチン2又はクロモグラニンAの発現を検出し、検出結果に基づき被検物質の消化管粘膜保護作用を判定する工程であって、前記物質によるムチン2又はクロモグラニンAの発現低下の抑制が認められることが、被検物質が消化管粘膜保護作用を有することの指標となる工程。
[18][11]に記載の腸管上皮細胞様細胞を含む、細胞製剤。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】ヒトiPS細胞から分化させた腸管幹細胞の維持培養における腸管幹細胞関連遺伝子の発現。FGF2を培地に添加した場合の結果を示す。コントロールはヒトiPS細胞から腸管幹細胞へ分化させた細胞(未継代)。
【図2】ヒトiPS細胞から分化させた腸管幹細胞の維持培養における腸管幹細胞関連遺伝子の発現。FGF4を培地に添加した場合の結果を示す。コントロールはヒトiPS細胞から腸管幹細胞へ分化させた細胞(未継代)。
【図3】ヒトiPS細胞から分化させた腸管幹細胞の維持培養における腸管幹細胞関連遺伝子の発現。FGF10を培地に添加した場合の結果を示す。コントロールはヒトiPS細胞から腸管幹細胞へ分化させた細胞(未継代)。
【図4】腸管幹細胞から分化させた腸管上皮細胞における各種マーカー遺伝子のmRNA発現量。平均値± S.D. (n=3)で結果を示した。コントロールは腸管幹細胞として維持培養せずに分化させた群。
【図5】腸管幹細胞から分化させた腸管上皮細胞におけるムチン2の発現(mRNAレベル)及びそれを利用したアッセイの結果。縦軸は、市販のヒト小腸細胞(SI)の発現レベルを基準(1)にした相対値。 Con:コントロール(インドメタシン及びレバミピド非添加の培地で培養した腸管上皮細胞)。 I50:インドメタシンを濃度50μMで添加した培地で培養した腸管上皮細胞。 I200:インドメタシンを濃度200μMで添加した培地で培養した腸管上皮細胞。 R50:レバミピドを濃度50μMで添加した培地で培養した腸管上皮細胞。 R100:レバミピドを濃度100μMで添加した培地で培養した腸管上皮細胞。 R200:レバミピドを濃度200μMで添加した培地で培養した腸管上皮細胞。 I200+R50:インドメタシンを濃度200μM、レバミピドを濃度50μMで添加した培地で培養した腸管上皮細胞。 I200+R100:インドメタシンを濃度200μM、レバミピドを濃度100μMで添加した培地で培養した腸管上皮細胞。 I200+R200:インドメタシンを濃度200μM、レバミピドを濃度200μMで添加した培地で培養した腸管上皮細胞。 SI:市販のヒト小腸細胞。 Caco-2:ヒト結腸癌由来細胞。
【図6】腸管幹細胞から分化させた腸管上皮細胞におけるクロモグラニンA(CgA)の発現(mRNAレベル)及びそれを利用したアッセイの結果。縦軸は、市販のヒト小腸細胞(SI)の発現レベルを基準(1)にした相対値。 Con:コントロール(インドメタシン及びレバミピド非添加の培地で培養した腸管上皮細胞)。 I50:インドメタシンを濃度50μMで添加した培地で培養した腸管上皮細胞。 I200:インドメタシンを濃度200μMで添加した培地で培養した腸管上皮細胞。 R50:レバミピドを濃度50μMで添加した培地で培養した腸管上皮細胞。 R100:レバミピドを濃度100μMで添加した培地で培養した腸管上皮細胞。 R200:レバミピドを濃度200μMで添加した培地で培養した腸管上皮細胞。 I200+R50:インドメタシンを濃度200μM、レバミピドを濃度50μMで添加した培地で培養した腸管上皮細胞。 I200+R100:インドメタシンを濃度200μM、レバミピドを濃度100μMで添加した培地で培養した腸管上皮細胞。 I200+R200:インドメタシンを濃度200μM、レバミピドを濃度200μMで添加した培地で培養した腸管上皮細胞。 SI:市販のヒト小腸細胞。 Caco-2:ヒト結腸癌由来細胞。
【図7】ヒトiPS細胞から分化させた腸管幹細胞の維持培養における腸管幹細胞関連遺伝子の発現。P0は未継代。n=1、P:=継代数、SI:ヒト小腸、C:Caco-2細胞。
【図8】腸管幹細胞から分化させた腸管上皮細胞における各種マーカー遺伝子のmRNA発現量。平均値± S.D. (n=3)で結果を示した。P0は腸管幹細胞として維持培養せずに分化させた群。P:継代数、SI:ヒト小腸、C:Caco-2細胞。
【図9】腸管幹細胞から分化させた腸管上皮細胞における各種マーカー遺伝子のmRNA発現量。P:継代数、SI:ヒト小腸、C:Caco-2細胞。CYP3A4については、Caco-2での発現は検出されず(N.D.)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、人工多能性幹細胞(iPS細胞)由来の腸管幹細胞様細胞を培養する方法に関する。本発明によれば、腸管幹細胞の性質、即ち、未分化性、増殖能及び上皮細胞への分化能を維持させたまま、iPS細胞由来腸管幹細胞様細胞を維持し、増殖させることが可能になる。

【0011】
1.用語
本発明において重要な用語の一部を説明する。「iPS細胞由来腸管幹細胞様細胞」とは、iPS細胞を腸管上皮細胞系譜へ分化誘導することによって得られる、生体における腸管幹細胞に類似した特徴を示す細胞である。iPS細胞由来腸管幹細胞様細胞を適切な条件で更に分化誘導すれば、生体における腸管上皮細胞に類似した細胞(腸管上皮細胞様細胞)が得られる。尚、本明細書において「分化誘導する」とは、特定の細胞系譜に沿って分化するように働きかけることをいう。

【0012】
「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」とは、初期化因子の導入などにより体細胞をリプログラミングすることによって作製される、多能性(多分化能)と増殖能を有する細胞である。人工多能性幹細胞はES細胞に近い性質を示す。iPS細胞の作製に使用する体細胞は特に限定されず、分化した体細胞でもよいし、未分化の幹細胞でもよい。また、その由来も特に限定されないが、好ましくは哺乳動物(例えば、ヒトやチンパンジーなどの霊長類、マウスやラットなどのげっ歯類)の体細胞、特に好ましくはヒトの体細胞を用いる。iPS細胞は、これまでに報告された各種方法によって作製することができる。また、今後開発されるiPS細胞作製法を適用することも当然に想定される。

【0013】
iPS細胞作製法の最も基本的な手法は、転写因子であるOct3/4、Sox2、Klf4及びc-Mycの4因子を、ウイルスを利用して細胞へ導入する方法である(Takahashi K, Yamanaka S: Cell 126 (4), 663-676, 2006; Takahashi, K, et al: Cell 131 (5), 861-72, 2007)。ヒトiPS細胞についてはOct4、Sox2、Lin28及びNonogの4因子の導入による樹立の報告がある(Yu J, et al: Science 318(5858), 1917-1920, 2007)。c-Mycを除く3因子(Nakagawa M, et al: Nat. Biotechnol. 26 (1), 101-106, 2008)、Oct3/4及びKlf4の2因子(Kim J B, et al: Nature 454 (7204), 646-650, 2008)、或いはOct3/4のみ(Kim J B, et al: Cell 136 (3), 411-419, 2009)の導入によるiPS細胞の樹立も報告されている。また、遺伝子の発現産物であるタンパク質を細胞に導入する手法(Zhou H, Wu S, Joo JY, et al: Cell Stem Cell 4, 381-384, 2009; Kim D, Kim CH, Moon JI, et al: Cell Stem Cell 4, 472-476, 2009)も報告されている。一方、ヒストンメチル基転移酵素G9aに対する阻害剤BIX-01294やヒストン脱アセチル化酵素阻害剤バルプロ酸(VPA)或いはBayK8644等を使用することによって作製効率の向上や導入する因子の低減などが可能であるとの報告もある(Huangfu D, et al: Nat. Biotechnol. 26 (7), 795-797, 2008; Huangfu D, et al: Nat. Biotechnol. 26 (11), 1269-1275, 2008; Silva J, et al: PLoS. Biol. 6 (10), e 253, 2008)。遺伝子導入法についても検討が進められ、レトロウイルスの他、レンチウイルス(Yu J, et al: Science 318(5858), 1917-1920, 2007)、アデノウイルス(Stadtfeld M, et al: Science 322 (5903), 945-949, 2008)、プラスミド(Okita K, et al: Science 322 (5903), 949-953, 2008)、トランスポゾンベクター(Woltjen K, Michael IP, Mohseni P, et al: Nature 458, 766-770, 2009; Kaji K, Norrby K, Pac a A, et al: Nature 458, 771-775, 2009; Yusa K, Rad R, Takeda J, et al: Nat Methods 6, 363-369, 2009)、或いはエピソーマルベクター(Yu J, Hu K, Smuga-Otto K, Tian S, et al: Science 324, 797-801, 2009)を遺伝子導入に利用した技術が開発されている。

【0014】
iPS細胞への形質転換、即ち初期化(リプログラミング)が生じた細胞はFbxo15、Nanog、Oct/4、Fgf-4、Esg-1及びCript等の多能性幹細胞マーカー(未分化マーカー)の発現などを指標として選択することができる。選択された細胞をiPS細胞として回収する。

【0015】
iPS細胞は、例えば、国立大学法人京都大学又は国立研究開発法人理化学研究所バイオリソースセンターから提供を受けることもできる。

【0016】
2.人工多能性幹細胞由来腸管幹細胞様細胞の培養
本発明の培養方法の一態様(以下の説明において「第1培養方法」と呼ぶことがある)は、iPS細胞を分化誘導することによって得られるiPS細胞由来腸管幹細胞様細胞をGSK-3β阻害剤、ヒストン脱アセチル化阻害剤、及び血清代替物の存在下で培養することを特徴とする。換言すれば、本発明では、iPS細胞由来腸管幹細胞様細胞をGSK-3β阻害剤、ヒストン脱アセチル化阻害剤、及び血清代替物の存在下で培養する工程を行う。

【0017】
「GSK-3β阻害剤、ヒストン脱アセチル化阻害剤、及び血清代替物の存在下」とは、これらの化合物が培地中に添加された条件と同義である。従って、これらの化合物が添加された培地を用いて培養を実施すればよい。これら3成分を併用することにより、腸管幹細胞の性質、即ち、未分化性、増殖能及び上皮細胞への分化能を維持させる効果を期待できる。尚、説明の便宜上、GSK-3β阻害剤、ヒストン脱アセチル化阻害剤、及び血清代替物をまとめて、「第1群の成分」と呼ぶ。

【0018】
本発明の別の一態様(以下の説明において「第2培養方法」と呼ぶことがある)では、第1群の成分の内、ヒストン脱アセチル化阻害剤を省略する。換言すれば、GSK-3β阻害剤及び血清代替物の存在下で培養することを特徴とし、簡素化された培養方法となる。

【0019】
GSK-3β阻害剤としてCHIR 99021、SB216763、CHIR 98014、TWS119、Tideglusib、SB415286、BIO、AZD2858、AZD1080、AR-A014418、TDZD-8、LY2090314、IM-12、Indirubin、Bikinin、1-Azakenpaulloneを例示することができる。同様にヒストン脱アセチル化阻害剤としてバルプロ酸、ボリノスタット、トリコスタチンA、ツバスタチンA、ギビノスタット、プラシノスタットを例示することができる。一方、血清代替物とは、iPS細胞やES細胞等をその未分化な状態を維持させたままで培養するために、分化誘導因子を含む血清の代わりとして使用される組成物である。好ましくは、ノックアウト血清代替物(Knockout serum replacement(KSR))を用いる。

【0020】
GSK-3β阻害剤の添加濃度の例(CHIR 99021の場合)を示すと1μM~100μM、好ましくは3μM~30μMである。第2培養方法の場合には2μM~20μMも好ましい添加濃度範囲である。同様に、ヒストン脱アセチル化阻害剤の添加濃度の例(バルプロ酸の場合)を示すと0.1 mM~10 mM、好ましくは0.5 mM~3 mMであり、血清代替物の添加濃度の例(KSRの場合)を示すと5%(v/v)~20%(v/v)、好ましくは5%(v/v)~10%(v/v)である。

【0021】
活性や増殖率の低下を防止する等の理由から、必要に応じて培地交換をする。例えば、24時間~3日に1回の頻度で培地交換するとよい。また、コンフルエント又はサブコンフルエントになった段階で継代するとよい。

【0022】
好ましい一態様では、上記の第1群の成分に加えて、上皮成長因子(EGF)、TGFβ受容体阻害剤及び線維芽細胞増殖因子からなる群より選択される一以上の化合物が更に存在する条件下で培養を実施する。尚、説明の便宜上、上皮成長因子(EGF)、TGFβ受容体阻害剤及び線維芽細胞増殖因子をまとめて、「第2群の成分」と呼ぶ。

【0023】
上皮成長因子を用いることにより、細胞増殖を促進させる効果を期待できる。同様に、TGFβ受容体阻害剤には間葉系細胞への転換と分化誘導因子を抑制する効果、線維芽細胞増殖因子には細胞増殖を促進させる効果と、分化を抑制する効果を期待できる。好ましくは、これら第2群の成分を全て併用する(第1群の成分と合わせ、合計で6成分が併用されることになる)。

【0024】
TGFβ受容体阻害剤として例えばA-83-01を用いることができる。また、線維芽細胞増殖因子としてはFGF2、FGF4又はFGF10を採用するとよい。これらFGFファミリーの2つ又は3つを組み合わせて使用してもよい。

【0025】
上皮成長因子の添加濃度の例を示すと10 ng/mL~500 ng/mL、好ましくは50 ng/mL~200 ng/mLである。同様に、TGFβ受容体阻害剤の添加濃度の例(A-83-01の場合)を示すと0.3μM~5μM、好ましくは0.5μM~3μMであり、線維芽細胞増殖因子の添加濃度の例(FGF2の場合)を示すと5 ng/mL~200 ng/mL、好ましくは20 ng/mL~50 ng/mLである。第2培養方法の場合のTGFβ受容体阻害剤の添加濃度については、0.3μM~3μM(A-83-01の場合)も好ましい添加濃度範囲である。

【0026】
更に好ましい一態様では、BMP阻害剤、Wntシグナル活性化剤及びWntアゴニストからなる群より選択される一以上の化合物が更に存在する条件下で培養を実施する。尚、説明の便宜上、BMP阻害剤、Wntシグナル活性化剤及びWntアゴニストをまとめて、「第3群の成分」と呼ぶ。

【0027】
BMP阻害剤を用いることにより、幹細胞の分化を抑制し、幹細胞性を維持する効果を期待できる。同様に、Wntシグナル活性化剤には幹細胞の増殖と幹細胞性を維持する効果、WntアゴニストにはWntシグナルを活性化することで幹細胞の増殖と幹細胞性を維持する効果を期待できる。好ましくは、上記第2群の成分の全てと、これら第3群の成分の全てを併用する(第1培養方法の場合、第1群の成分と合わせ、合計で9成分が併用されることになる)。

【0028】
BMP阻害剤として例えばNogginを用いることができる。また、Wntシグナル活性化剤として例えばR-spondin 1を用いることができる。Wntアゴニストとして例えばWnt3aを用いることができる。

【0029】
BMP阻害剤の添加濃度の例(Nogginの場合)を示すと10 ng/mL~500 ng/mL、好ましくは50 ng/mL~200 ng/mLである。同様に、Wntシグナル活性化剤の添加濃度の例(R-spondin 1の場合)を示すと10 ng/mL~1000 ng/mL、好ましくは50 ng/mL~500 ng/mLであり、Wntアゴニストの添加濃度の例(Wnt3aの場合)を示すと10 ng/mL~500 ng/mL、好ましくは50 ng/mL~200 ng/mLである。

【0030】
より一層好ましい一態様では、ニコチンアミド、N-アセチルシステイン、p38阻害剤及びROCK阻害剤からなる群より選択される一以上の化合物が更に存在する条件下で培養を実施する。尚、説明の便宜上、ニコチンアミド、N-アセチルシステイン、p38阻害剤及びROCK阻害剤をまとめて、「第4群の成分」と呼ぶ。

【0031】
ニコチンアミドを用いることにより、幹細胞性を維持する効果を期待できる。同様に、N-アセチルシステインには細胞死を抑制する効果、p38阻害剤には細胞ストレスや炎症を抑制する効果、及び分化を抑制する効果、ROCK阻害剤には細胞死を抑制する効果を期待できる。第1培養方法においては、好ましくは、上記第2群の成分の全てと、上記第3群の成分の全てと、これら第4群の成分の全てを併用する(第1群の成分と合わせ、合計で13成分が併用されることになる)。第2培養方法においては、好ましくは、第3群の成分は省略し、第2群の成分の全てと、第4群の成分の内、ROCK阻害剤のみを併用する(第1群の成分(GSK-3β阻害剤と血清代替物)と合わせ、合計で6成分が併用されることになる)。

【0032】
p38阻害剤として例えばSB202190を用いることができる。また、ROCK阻害剤として例えばY-27632を用いることができる。

【0033】
ニコチンアミドの添加濃度の例を示すと0.1 mg/mL~5 mg/mL、好ましくは0.5 mg/mL~2 mg/mLである。同様に、N-アセチルシステインの添加濃度の例を示すと0.1mM~5mM、好ましくは0.5 mM~2 mMであり、p38阻害剤の添加濃度の例(SB202190の場合)を示すと1μM~50 mM、好ましくは5μM~20 mMであり、ROCK阻害剤の添加濃度の例(Y-27632の場合)を示すと1 μM~50 μM、好ましくは3 μM~30 μMである。第2培養方法の場合のROCK阻害剤の添加濃度については、1 μM~10 μM(Y-27632の場合)も好ましい添加濃度範囲である。尚、ROCK阻害剤については、培地交換に使用する培養液には含めないことが好ましい。但し、第2培養方法の場合は、培地中にROCK阻害剤が常時添加された条件を採用してもよい。

【0034】
その他の培養条件(培養温度など)は、動物細胞の培養において一般に採用されている条件とすればよい。即ち、例えば37℃、5%CO2の環境下で培養すればよい。また、基本培地は、腸管幹細胞様細胞の維持、増殖が可能である限り特に限定されない。好ましくは、上皮細胞の培養に適した基本培地(例えばD-MEMとハムF12培地の混合培地、D-MEM)を用いる。培地に添加可能な成分の例としてウシ血清アルブミン(BSA)、抗生物質、2-メルカプトエタノール、PVA、非必須アミノ酸(NEAA)、インスリン、トランスフェリン、セレニウムを挙げることができる。典型的には培養皿などを用いて二次元的に細胞を培養する。本発明の方法によれば、二次元培養によってiPS細胞から腸管上皮細胞様細胞を得ることが可能となる。但し、ゲル状の培養基材あるいは3次元培養プレートなどを用いた3次元培養を実施することにしてもよい。

【0035】
尚、培養中又は培養後の細胞が所望の性質を維持しているか否かは、例えば、腸管幹細胞マーカーであるロイシンリッチリピートを含むGタンパク質共役受容体5(LGR5)、腸管前駆細胞マーカーであるSOX9、後腸マーカーであるCDX2の発現を指標として判定ないし評価することができる。

【0036】
3.iPS細胞由来腸管幹細胞様細胞の調製
本発明の培養工程に用いるiPS細胞由来腸管幹細胞様細胞の調製方法は特に限定されない。例えば、過去の報告に準じてiPS細胞を分化誘導することによってiPS細胞由来腸管幹細胞様細胞を調製すればよい。iPS細胞由来腸管幹細胞様細胞の調製方法の具体例を以下で説明する。この例の調製方法は、iPS細胞を内胚葉様細胞へと分化させる工程(工程(1))と、得られた内胚葉様細胞を腸管幹細胞様細胞へと分化させる工程(工程(2))を含む。尚、特に言及しない培養条件は、動物細胞の培養において一般に採用されている条件とすればよい。例えば、37℃、5%CO2の環境下で培養する。また、基本培地として、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)(GIBCO社等)、ハムF12培地(HamF12)(SIGMA社、Gibco社等)、ダルベッコ変法イーグル培地(D-MEM)(ナカライテスク株式会社、シグマ社、Gibco社等)、グラスゴー基本培地(Gibco社等)、RPMI1640培地等を用いることができる。二種以上の基本培地を併用することにしてもよい。工程(2)には、好ましくは上皮細胞の培養に適した基本培地(例えばD-MEMとハムF12培地の混合培地、D-MEM)を用いる。また、培地に添加可能な成分の例としてウシ血清アルブミン(BSA)、抗生物質、2-メルカプトエタノール、PVA、非必須アミノ酸(NEAA)、インスリン、トランスフェリン、セレニウムを挙げることができる。

【0037】
<工程(1) 内胚葉様細胞への分化>
この工程ではiPS細胞を培養し、内胚葉様細胞へと分化させる。換言すれば、内胚葉様細胞への分化を誘導する条件下でiPS細胞を培養する。iPS細胞が内胚葉様細胞に分化する限り、培養条件は特に限定されない。例えば、常法に従い、アクチビンAを添加した培地で培養する。この場合、培地中のアクチビンAの濃度を例えば10 ng/mL~200 ng/mL、好ましくは20 ng/mL~150 ng/mLとする。細胞の増殖率や維持等の観点から、培地に血清又は血清代替物(Knockout serum replacement(KSR)など)を添加することが好ましい。血清はウシ胎仔血清に限られるものではなく、ヒト血清や羊血清等を用いることもできる。血清又は血清代替物の添加量は例えば0.1%(v/v)~10%(v/v)である。

【0038】
Wnt/β-カテニンシグナル経路の阻害剤(例えば、ヘキサクロロフェン、クエルセチン、WntリガンドであるWnt3a)を培地に添加し、内胚葉様細胞への分化の促進を図ってもよい。

【0039】
好ましい一態様では、工程(1)として2段階の培養を行う。1段階目の培養では比較的低濃度の血清(例えば、0.1%(v/v)~1%(v/v))を添加した培地で行い、続く2段階目の培養では一段階目の培養よりも血清濃度を高めた培地(血清濃度を例えば1%(v/v)~10%(v/v))で行う。このように2段階の培養を採用することは、1段階目の培養により未分化細胞の増殖を抑制し、続く2段階目により分化した細胞を増殖させる点で好ましい。

【0040】
工程(1)の期間(培養期間)は例えば1日間~10日間、好ましくは2日間~7日間である。工程(1)として2段階の培養を採用する場合には1段階目の培養期間を例えば1日間~7日間、好ましくは2日間~5日間とし、2段階目の培養期間を例えば1日間~6日間、好ましくは1日間~4日間とする。

【0041】
<工程(2) 腸管幹細胞様細胞への分化>
この工程では、工程(1)で得られた内胚葉様細胞を培養し、腸管幹細胞様細胞へと分化させる。換言すれば、腸管幹細胞様細胞への分化を誘導する条件下で内胚葉細胞を培養する。内胚葉様細胞が腸管幹細胞様細胞へ分化する限り、培養条件は特に限定されない。好ましくは、FGF2(線維芽細胞増殖因子2)の存在下で培養を行う。好ましくはヒトFGF2(例えばヒト組換えFGF2)を用いる。

【0042】
典型的には、工程(1)を経て得られた細胞集団又はその一部を、選別することなく工程(2)に供する。一方で、工程(1)を経て得られた細胞集団の中から内胚葉様細胞を選別した上で工程(2)を実施することにしてもよい。内胚葉様細胞の選別は例えば、細胞表面マーカーを指標にしてフローサイトメーター(セルソーター)で行えばよい。

【0043】
「FGF2の存在下」とは、FGF2が培地中に添加された条件と同義である。従って、FGF2の存在下での培養を行うためには、FGF2が添加された培地を用いればよい。FGF2の添加濃度の例を示すと100 ng/mL~500 ng/mLである。

【0044】
工程(2)の期間(培養期間)は例えば2日間~10日間、好ましくは3日間~7日間である。当該培養期間が短すぎると、期待される効果(分化効率の上昇、腸管幹細胞としての機能の獲得の促進)が十分に得られない。他方、当該培養期間が長すぎると、分化効率の低下を引き起こす。

【0045】
腸管幹細胞様細胞へ分化したことは、例えば、腸管幹細胞マーカーの発現を指標にして判定ないし評価することができる。腸管幹細胞マーカーの例を挙げると、ロイシンリッチリピートを含むGタンパク質共役受容体5(LGR5)、エフリンB2受容体(EphB2)である。

【0046】
4.腸管上皮細胞様細胞の調製
本発明の第2の局面は、本発明の培養方法で培養した腸管幹細胞様細胞から腸管上皮細胞様細胞を調製する方法に関する。本発明の調製方法は、本発明の培養方法で培養した腸管幹細胞様細胞を腸管上皮細胞様細胞へと分化させることを特徴とする。換言すれば、本発明の調製方法では、本発明の培養方法で培養した腸管幹細胞様細胞を腸管上皮細胞様細胞へと分化させる工程(分化工程)を行う。腸管幹細胞様細胞を腸管上皮細胞様細胞へと分化させることが可能な限り、当該工程の操作、条件等は特に限定されない。以下、好ましい分化工程の具体例(例1、例2)を示す。以下の例1及び例2において、特に言及しない培養条件は、動物細胞の培養において一般に採用されている条件とすればよい。例えば、37℃、5%CO2の環境下で培養することにし、基本培地は好ましくは上皮細胞の培養に適した基本培地(例えばD-MEMとハムF12培地の混合培地、D-MEM)を用いる。また、培地に添加可能な成分の例としてウシ血清アルブミン(BSA)、抗生物質、2-メルカプトエタノール、PVA、非必須アミノ酸(NEAA)、インスリン、トランスフェリン、セレニウムを挙げることができる。

【0047】
尚、腸管上皮細胞様細胞へ分化したことは、例えば、腸管上皮細胞マーカーや薬物動態関連遺伝子の発現、ペプチドの取り込み、或いはビタミンD受容体を介した薬物代謝酵素の発現誘導を指標にして判定ないし評価することができる。腸管上皮細胞マーカー及び薬物動態関連遺伝子の例を挙げると、ビリン 1(Villin 1)、スクラーゼ-イソマルターゼ、SLC(solute carrier)有機アニオントランスポーター2B1(SLCO2B1/OATP2B1)、SLC(solute carrier)ファミリーメンバー15A1/ペプチドトランスポーター1(SLC15A1/PEPT1)、SLC(solute carrier)ファミリーメンバー46A1/プロトン共役葉酸トランスポーター(SLC46A1/PCFT)、ATP結合カセットトランスポーターB1/多剤耐性タンパク1(ABCB1/MDR1)、ATP結合カセットトランスポーターG2/乳ガン耐性タンパク(ABCG2/BCRP)、尾側型ホメオボックス転写因子2(CDX2)、ジペプチジルペプチダーゼ4(DPP4)、プレグナンX受容体(PXR)、ウリジン2リン酸-グルクロン酸転移酵素1A1(UGT1A1)、ウリジン2リン酸-グルクロン酸転移酵素1A4(UGT1A4)である。この中でも、腸管上皮に特異性の高いスクラーゼ-イソマルターゼ及びビリン1、小腸でのペプチドの吸収に関与するSLC15A1/PEPT1、小腸での有機アニオンの吸収に関与するSLCO2B1/OATP2B1は特に有効なマーカーである。

【0048】
4-1.分化工程の例1
この例では、MEK1阻害剤、DNAメチル化阻害剤及びTGFβ受容体阻害剤からなる群より選択される一以上の化合物(以下、「第1誘導因子」とも呼ぶ)とEGF(以下、「第2誘導因子」とも呼ぶ)の存在下で培養を行い、腸管幹細胞様細胞を腸管上皮細胞様細胞へと分化させる。典型的には、本発明の培養方法を適用することで得られた細胞集団又はその一部を、選別することなく分化工程に供する。一方で、本発明の培養方法を適用することで得られた細胞集団の中から腸管幹細胞様細胞を選別した上で分化工程を実施することにしてもよい。腸管幹細胞様細胞の選別は例えば、細胞表面マーカーを指標にしてフローサイトメーター(セルソーター)で行えばよい。

【0049】
MEK1阻害剤、DNAメチル化阻害剤及びTGFβ受容体阻害剤からなる群より選択される一以上の化合物(第1誘導因子)とEGF(第2誘導因子)の存在下とは、第1誘導因子と第2誘導因子が培地中に添加された条件と同義である。従って、第1誘導因子と第2誘導因子の存在下での培養を行うためには、第1誘導因子と第2誘導因子が添加された培地を用いればよい。

【0050】
MEK1阻害剤として、PD98059、PD184352、PD184161、PD0325901、U0126、MEK inhibitor I、MEK inhibitor II、MEK1/2 inhibitor II、SL327を挙げることができる。同様に、DNAメチル化阻害剤として5-アザ-2’-デオキシシチジン、5-アザシチジン、RG108、ゼブラリンを挙げることができる。TGFβ受容体阻害剤については、A-83-01がTGF-β受容体ALK4、ALK5、ALK7に阻害活性を示した実験結果を考慮すれば、好ましくは、TGF-β受容体ALK4、ALK5、ALK7の一以上に対して阻害活性を示すものを用いるとよい。例えば、A-83-01、SB431542、SB-505124、SB525334、D4476、ALK5 inhibitor、LY2157299、LY364947、GW788388、RepSoxが当該条件を満たす。

【0051】
MEK1阻害剤の添加濃度の例(PD98059の場合)を示すと4μM~100μM、好ましくは10~40μMである。同様にメチル化阻害剤の添加濃度の例(5-アザ-2’-デオキシシチジンの場合)を示すと、1μM~25μM、好ましくは2.5μM~10μMであり、TGFβ受容体阻害剤の添加濃度の例(A-83-01の場合)を示すと0.1μM~2.5μM、好ましくは0.2μM~1μMである。

【0052】
好ましい一態様では、第1誘導因子として、MEK1阻害剤、DNAメチル化阻害剤、TGFβ受容体阻害剤の中の二以上を併用する。異なる二以上の第1誘導因子を併用することにより、相加的又は相乗的効果が得られ、腸管上皮への分化を促進できる。最も好ましくは、全て(即ち3種類)の第1誘導因子を併用する。

【0053】
当該工程の期間(培養期間)は例えば7日間~30日間、好ましくは10日間~20日間である。当該培養期間が短すぎると、期待される効果(分化効率の上昇、腸管上皮細胞としての機能の獲得の促進)が十分に得られない。他方、当該培養期間が長すぎると、分化効率の低下を引き起こす。

【0054】
好ましい一態様では当該工程として2段階の培養、即ち、本発明の培養方法を適用することで得られた腸管幹細胞様細胞をGSK阻害剤(例えばGSK3iXV)及び/又はBMP阻害剤(例えばドルソモルフィン)とEGFの存在下で培養する工程(分化工程1)とそれに続いて、MEK1阻害剤、DNAメチル化阻害剤及びTGFβ受容体阻害剤からなる群より選択される一以上の化合物(第1誘導因子)とEGF(第2誘導因子)の存在下で培養する工程(分化工程2)を行う。従って、この態様では、第1誘導因子と第2誘導因子を用いた培養の前に、GSK阻害剤及び/又はBMP阻害剤の存在下での培養を行うことになる。GSK阻害剤及び/又はBMP阻害剤の存在下での培養の主たる目的は、腸管幹細胞の増殖を促進することである。

【0055】
分化工程1と分化工程2を行う場合、分化工程1の培養期間は例えば3日間~14日間、好ましくは4日間~10日間であり、分化工程2の培養期間は例えば3日間~21日間、好ましくは5日間~15日間である。

【0056】
各工程において、途中で継代培養を行ってもよい。例えばコンフルエント又はサブコンフルエントになった際に細胞の一部を採取して別の培養容器に移し、培養を継続する。分化を促進するために細胞密度を低く設定することが好ましい。例えば1×104個/cm2~1×106個/cm2程度の細胞密度で細胞を播種するとよい。

【0057】
培地交換や継代培養などに伴う、細胞の回収の際には、細胞死を抑制するためにY-27632等のROCK阻害剤(Rho-associated coiled-coil forming kinase/Rho結合キナーゼ)で予め細胞を処理しておくとよい。

【0058】
目的の細胞(腸管上皮細胞様細胞)のみからなる細胞集団又は目的の細胞が高比率(高純度)で含まれた細胞集団を得ようと思えば、目的の細胞に特徴的な細胞表面マーカーを指標にして培養後の細胞集団を選別・分取すればよい。

【0059】
4-2.分化工程の例2
この例では、MEK1阻害剤、DNAメチル化阻害剤、TGFβ受容体阻害剤及びEGFの存在下(以下、この条件を「第1条件」と呼ぶ)、且つcAMPが細胞へ供給される条件下(以下、この条件を「第2条件」と呼ぶ)で培養し、本発明の培養方法を適用することで得られた腸管幹細胞様細胞を腸管上皮細胞様細胞へと分化させる。典型的には、本発明の培養方法を適用することで得られた細胞集団又はその一部を、選別することなく分化工程に供する。一方で、本発明の培養方法を適用することで得られた細胞集団の中から腸管幹細胞様細胞を選別した上で分化工程を実施することにしてもよい。腸管幹細胞様細胞の選別は例えば、細胞表面マーカーを指標にしてフローサイトメーター(セルソーター)で行えばよい。

【0060】
第1条件、即ちMEK1阻害剤、DNAメチル化阻害剤、TGFβ受容体阻害剤及びEGFの存在下とは、これらの化合物が培地中に添加された条件と同義である。従って、第1条件を満たすためには、これらの化合物が添加された培地を用いればよい。

【0061】
MEK1阻害剤として、PD98059、PD184352、PD184161、PD0325901、U0126、MEK inhibitor I、MEK inhibitor II、MEK1/2 inhibitor II、SL327を挙げることができる。同様に、DNAメチル化阻害剤として5-アザ-2’-デオキシシチジン、5-アザシチジン、RG108、ゼブラリンを挙げることができる。TGFβ受容体阻害剤については、A-83-01がTGF-β受容体ALK4、ALK5、ALK7に阻害活性を示した実験結果を考慮すれば、好ましくは、TGF-β受容体ALK4、ALK5、ALK7の一以上に対して阻害活性を示すものを用いるとよい。例えば、A-83-01、SB431542、SB-505124、SB525334、D4476、ALK5 inhibitor、LY2157299、LY364947、GW788388、RepSoxが当該条件を満たす。

【0062】
MEK1阻害剤の添加濃度の例(PD98059の場合)を示すと4μM~100μM、好ましくは10~40μMである。同様にメチル化阻害剤の添加濃度の例(5-アザ-2’-デオキシシチジンの場合)を示すと、1μM~25μM、好ましくは2.5μM~10μMであり、TGFβ受容体阻害剤の添加濃度の例(A-83-01の場合)を示すと0.1μM~2.5μM、好ましくは0.2μM~1μMである。尚、例示した化合物、即ち、PD98059、5-アザ-2’-デオキシシチジン及びA-83-01とは異なる化合物を使用する場合の添加濃度については、使用する化合物の特性と、例示した化合物(PD98059、5-アザ-2’-デオキシシチジン、A-83-01)の特性の相違(特に活性の相違)を考慮すれば、当業者であれば上記濃度範囲に準じて設定することができる。また、設定した濃度範囲が適切であるか否かは、予備実験によって確認することができる。

【0063】
第2条件、即ち、cAMPが細胞へ供給される条件とは、細胞内へ取り込み可能な化合物であって、細胞内に取り込まれるとcAMPとして作用する化合物が存在する条件と同義である。従って、第2条件を満たすためには、例えば、細胞内へと取り込み可能なcAMP誘導体が添加された培地を用いればよい。cAMP誘導体としてPKA活性剤(例えば、8-Br-cAMP(8-Bromoadenosine-3′,5′-cyclic monophosphate sodium salt, CAS Number : 76939-46-3)、6-Bnz-cAMP(N6-Benzoyladenosine-3',5'-cyclic monophosphate sodium salt salt, CAS Number : 1135306-29-4)、cAMPS-Rp((R)-Adenosine, cyclic 3',5'-(hydrogenphosphorothioate) triethylammonium salt, CAS Number : 151837-09-1)、cAMPS-Sp((S)-Adenosine, cyclic 3',5'-(hydrogenphosphorothioate) triethylammonium salt, CAS Number : 93602-66-5)、Dibutyryl-cAMP(N6,O2'-Dibutyryl adenosine 3',5'-cyclic monophosphate sodium salt salt, CAS Number : 16980-89-5)、8-Cl-cAMP(8-Chloroadenosine- 3', 5'- cyclic monophosphate salt, CAS Number : 124705-03-9))、Epac活性剤(Rp-8-Br-cAMPS(8-Bromoadenosine 3',5'-cyclic Monophosphothioate, Rp-Isomer . sodium salt, CAS Number : 129735-00-8)、8-CPT-cAMP(8-(4-Chlorophenylthio)adenosine 3',5'-cyclic monophosphate, CAS Number : 93882-12-3)、8-pCPT-2'-O-Me-cAMP(8-(4-Chlorophenylthio)-2'-O-methyladenosine 3',5'-cyclic monophosphate monosodium, CAS Number : 634207-53-7)等)を採用することができる。cAMP誘導体の添加濃度の例(8-Br-cAMPの場合)を示すと、0.1 mM~10 mM、好ましくは0.2 mM~5 mM、更に好ましくは0.5 mM~2 mMである。尚、例示した化合物、即ち、8-Br-cAMPとは異なる化合物を使用する場合の添加濃度については、使用する化合物の特性と、例示した化合物(8-Br-cAMP)の特性の相違(特に活性の相違)を考慮すれば、当業者であれば上記濃度範囲に準じて設定することができる。また、設定した濃度範囲が適切であるか否かは、予備実験によって確認することができる。

【0064】
当該工程の期間(培養期間)は例えば7日間~40日間、好ましくは10日間~30日間である。当該培養期間が短すぎると、期待される効果(分化効率の上昇、腸管上皮細胞としての機能の獲得の促進)が十分に得られない。他方、当該培養期間が長すぎると、分化効率の低下を引き起こす。

【0065】
目的の細胞(腸管上皮細胞様細胞)のみからなる細胞集団又は目的の細胞が高比率(高純度)で含まれた細胞集団を得ようと思えば、目的の細胞に特徴的な細胞表面マーカーを指標にして培養後の細胞集団を選別・分取すればよい。

【0066】
好ましくは、分化工程として、以下のA~Cのいずれかの培養工程を行う。
<培養工程A>
培養工程Aでは、(a-1)MEK1阻害剤、DNAメチル化阻害剤、TGFβ受容体阻害剤及びEGFの存在下での培養と、当該培養に続く、(a-2)MEK1阻害剤、DNAメチル化阻害剤、TGFβ受容体阻害剤及びEGFの存在下、且つcAMPが細胞へ供給される条件下での培養を行う。即ち、cAMPが細胞へ供給される条件の有無で異なる2段階の培養を行う。このようにすれば、腸管上皮細胞への分化促進、成熟化、機能獲得の効果が得られる。(a-1)の培養の期間は例えば1日間~5日間である。同様に、(a-2)の培養の期間は例えば3日間~15日間である。尚、特に説明しない事項(各培養に使用可能な化合物、各化合物の添加濃度等)については、上記の対応する説明が援用される。

【0067】
(a-2)の培養を、MEK1阻害剤、DNAメチル化阻害剤、TGFβ受容体阻害剤及びEGFに加えてcAMP分解酵素阻害剤も存在する条件で行うことにしてもよい。当該条件を採用すると、cAMPの分解阻害によって細胞内cAMP濃度の低下が抑えられ、腸管上皮への分化誘導、特に腸管上皮細胞としての機能の獲得が促されることを期待できる。即ち、当該条件は、より機能的な腸管上皮細胞様細胞の調製に有利なものである。cAMP分解酵素阻害剤として、IBMX (3-isobutyl-1-methylxanthine) (MIX)、Theophylline、Papaverine、Pentoxifylline (Trental)、KS-505、8-Methoxymethyl-IBMX、Vinpocetine (TCV-3B)、EHNA、Trequinsin (HL-725)、Lixazinone (RS-82856)、(LY-186126)、Cilostamide (OPC3689)、Bemoradan (RWJ-22867)、Anergrelide (BL4162A)、Indolidan (LY195115)、Cilostazol (OPC-13013)、Milrinone (WIN47203)、Siguazodan (SKF-94836)、5-Methyl-imazodan (CI 930)、SKF-95654、Pirilobendan (UD-CG 115 BS)、Enoximone (MDL 17043)、Imazodan (CL 914)、SKF-94120、Vesnarinone (OPC 8212)、Rolipram (Ro-20-1724)、(ZK-62711)、Denbufyll'ine、Zaprinast (M&B-22, 948)、Dipyridamole、Zaprinast (M&B-22, 948)、Dipyridamole、Zardaverine、AH-21-132、Sulmazol (AR-L 115 BS)を例示することができる。cAMP分解酵素阻害剤の添加濃度の例(IBMXの場合)を示すと、0.05 mM~5 mM、好ましくは0.1 mM~3 mM、更に好ましくは0.2 mM~1 mMである。尚、例示した化合物、即ち、IBMXとは異なる化合物を使用する場合の添加濃度については、使用する化合物の特性と、例示した化合物(IBMX)の特性の相違(特に活性の相違)を考慮すれば、当業者であれば上記濃度範囲に準じて設定することができる。また、設定した濃度範囲が適切であるか否かは、予備実験によって確認することができる。

【0068】
(a-2)の培養の後に、MEK1阻害剤、DNAメチル化阻害剤、TGFβ受容体阻害剤及びEGFの存在下での培養((a-3)の培養)を行うことにしてもよい。この培養の期間は例えば1日間~10日間とする。この培養を行うと腸管上皮細胞への分化促進、成熟化、機能獲得の効果が得られる。

【0069】
<培養工程B>
培養工程Bでは、(b-1)MEK1阻害剤、DNAメチル化阻害剤、TGFβ受容体阻害剤及びEGFの存在下、且つcAMPが細胞へ供給される条件下での培養と、当該培養に続く、(b-2)MEK1阻害剤、DNAメチル化阻害剤、TGFβ受容体阻害剤、EGF及びcAMP分解酵素阻害剤の存在下での培養を行う。このように、cAMPが細胞へ供給される条件で培養した後、cAMP分解酵素阻害剤が存在する条件で培養すると、腸管上皮細胞への分化促進、成熟化、機能獲得の効果が得られる。(b-1)の培養の期間は例えば3日間~15日間である。同様に、(b-2)の培養の期間は例えば3日間~15日間である。尚、特に説明しない事項(各培養に使用可能な化合物、各化合物の添加濃度等)については、上記の対応する説明が援用される。

【0070】
(b-1)の培養を、MEK1阻害剤、DNAメチル化阻害剤、TGFβ受容体阻害剤及びEGFに加えてcAMP分解酵素阻害剤も存在する条件で行うことにしてもよい。当該条件を採用すると、早い段階から細胞内cAMP濃度の低下が抑えられ、腸管上皮への分化誘導、特に腸管上皮細胞としての機能の獲得が促されることを期待できる。即ち、当該条件は、より機能的な腸管上皮細胞様細胞の効率的な調製に有利なものである。

【0071】
(b-2)の培養の後に、MEK1阻害剤、DNAメチル化阻害剤、TGFβ受容体阻害剤及びEGFの存在下での培養((b-3)の培養)を行うことにしてもよい。この培養の期間は例えば1日間~10日間とする。この培養を行うと腸管上皮細胞への分化促進、成熟化、機能獲得の効果が得られる。

【0072】
<培養工程C>
培養工程Cでは、(c-1)MEK1阻害剤、DNAメチル化阻害剤、TGFβ受容体阻害剤及びEGFの存在下、且つcAMPが細胞へ供給される条件下での培養を行う。(c-1)の培養の期間は例えば3日間~15日間である。尚、特に説明しない事項(各培養に使用可能な化合物、各化合物の添加濃度等)については、上記の対応する説明が援用される。

【0073】
(c-1)の培養を、MEK1阻害剤、DNAメチル化阻害剤、TGFβ受容体阻害剤及びEGFに加えてcAMP分解酵素阻害剤も存在する条件(cAMPが細胞へ供給される条件も併用される)で行うことにしてもよい。当該条件を採用すると、cAMPを細胞へ供給しつつ、細胞内cAMP濃度の低下を抑えることができる。従って、細胞内cAMPを高レベルに維持するために有効な条件となり、腸管上皮細胞への効率的な分化誘導が促されることを期待できる。

【0074】
(c-1)の培養の後に、MEK1阻害剤、DNAメチル化阻害剤、TGFβ受容体阻害剤及びEGFの存在下での培養((c-2)の培養)を行うことにしてもよい。この培養の期間は例えば1日間~10日間とする。この培養を行うと腸管上皮細胞への分化促進、成熟化、機能獲得の効果が得られる。

【0075】
本発明を構成する各工程において、途中で継代培養を行ってもよい。例えばコンフルエント又はサブコンフルエントになった際に細胞の一部を採取して別の培養容器に移し、培養を継続する。分化を促進するために細胞密度を低く設定することが好ましい。例えば1×104個/cm2~1×106個/cm2程度の細胞密度で細胞を播種するとよい。

【0076】
培地交換や継代培養などに伴う、細胞の回収の際には、細胞死を抑制するためにY-27632等のROCK阻害剤(Rho-associated coiled-coil forming kinase/Rho結合キナーゼ)で予め細胞を処理しておくとよい。

【0077】
5.腸管上皮細胞様細胞の用途
本発明の更なる局面は腸管上皮細胞様細胞の用途に関する。第1の用途として各種アッセイが提供される。本発明の腸管上皮細胞様細胞は腸管、特に小腸のモデル系に利用可能であり、腸管、特に小腸での薬物動態(吸収、代謝など)の評価や毒性の評価に有用である。換言すれば、本発明の腸管上皮細胞様細胞は、化合物の体内動態の評価や毒性の評価にその利用が図られる。

【0078】
具体的には、本発明の腸管上皮細胞様細胞を用いて被検物質の吸収性ないし膜透過性、薬物相互作用、薬物代謝酵素の誘導、薬物トランスポーターの誘導、毒性等を試験することができる。即ち、本発明は、腸管上皮細胞様細胞の用途の一つとして、被検物質の吸収性ないし膜透過性、薬物相互作用、薬物代謝酵素の誘導、薬物トランスポーターの誘導、毒性等を評価する方法(第1の態様)を提供する。当該方法では、(i)本発明の分化誘導方法で得られた腸管上皮細胞様細胞で構成された細胞層を用意する工程と、(ii)前記細胞層に被検物質を接触させる工程と、(iii)前記細胞層を透過した被検物質を定量し、被検物質の吸収性ないし膜透過性、薬物相互作用、薬物代謝酵素の誘導、薬物トランスポーターの誘導、又は毒性を評価する工程を行う。尚、被検物質の吸収性については、後述の方法(第2の態様)でも評価することができる。

【0079】
工程(i)では、典型的には、半透過性膜(多孔性膜)の上で腸管上皮細胞様細胞を培養し、細胞層を形成させる。具体的には、例えば、カルチャーインサートを備えた培養容器(例えば、コーニング社が提供するトランスウェル(登録商標))を使用し、カルチャーインサート内に細胞を播種して培養することにより、腸管上皮細胞様細胞で構成された細胞層を得る。

【0080】
工程(ii)での「接触」は、典型的には、培地に被検物質を添加することによって行われる。被検物質の添加のタイミングは特に限定されない。従って、被検物質を含まない培地で培養を開始した後、ある時点で被検物質を添加することにしても、予め被検物質を含む培地で培養を開始することにしてもよい。

【0081】
被検物質には様々な分子サイズの有機化合物又は無機化合物を用いることができる。有機化合物の例として核酸、ペプチド、タンパク質、脂質(単純脂質、複合脂質(ホスホグリセリド、スフィンゴ脂質、グリコシルグリセリド、セレブロシド等)、プロスタグランジン、イソプレノイド、テルペン、ステロイド、ポリフェノール、カテキン、ビタミン(B1、B2、B3、B5、B6、B7、B9、B12、C、A、D、E等)を例示できる。医薬品、栄養食品、食品添加物、農薬、香粧品(化粧品)等の既存成分或いは候補成分も好ましい被検物質の一つである。植物抽出液、細胞抽出液、培養上清などを被検物質として用いてもよい。2種類以上の被検物質を同時に添加することにより、被検物質間の相互作用、相乗作用などを調べることにしてもよい。被検物質は天然物由来であっても、或いは合成によるものであってもよい。後者の場合には例えばコンビナトリアル合成の手法を利用して効率的なアッセイ系を構築することができる。

【0082】
被検物質を接触させる期間は任意に設定可能である。接触期間は例えば10分間~3日間、好ましくは1時間~1日間である。接触を複数回に分けて行うことにしてもよい。

【0083】
工程(iii)では、細胞層を透過した被検物質を定量する。例えば、トランスウェル(登録商標)のようなカルチャーインサートを備えた培養容器を使用した場合には、カルチャーインサートを透過した被検物質、即ち、細胞層を介して上部もしくは下部容器内に移動した被検物質を、被検物質に応じて、質量分析、液体クロマトグラフィー、免疫学的手法(例えば蛍光免疫測定法(FIA法)、酵素免疫測定法(EIA法))等の測定方法で定量する。定量結果(細胞層を透過した被検物質の量)と被検物質の使用量(典型的には培地への添加量)に基づき、被検物質の吸収性ないし膜透過性、薬物相互作用、薬物代謝酵素の誘導、薬物トランスポーターの誘導、又は毒性を判定・評価する。

【0084】
本発明は別の態様(第2の態様)として、被検物質の代謝又は吸収を評価する方法も提供する。当該方法では、(I)本発明の分化誘導方法で得られた腸管上皮細胞様細胞に被検物質を接触させる工程と、(II)被検物質の代謝若しくは吸収、薬物相互作用、薬物代謝酵素の誘導、薬物トランスポーターの誘導、又は毒性を測定・評価する工程を行う。

【0085】
工程(I)、即ち腸管上皮細胞様細胞と被検物質の接触は、上記工程(ii)と同様に実施することができる。但し、予め細胞層を形成させることは必須ではない。

【0086】
工程(I)の後、被検物質の代謝若しくは吸収、薬物相互作用、薬物代謝酵素の誘導、薬物トランスポーターの誘導、又は毒性を測定・評価する(工程(II))。工程(I)の直後、即ち、被検物質の接触の後、実質的な時間間隔を置かずに代謝等を測定・評価しても、或いは、一定の時間(例えば10分~5時間)を経過した後に代謝等を測定・評価することにしてもよい。代謝の測定は、例えば、代謝産物の検出によって行うことができる。この場合には、通常、工程(I)後の培養液をサンプルとして、予想される代謝産物を定性的又は定量的に測定する。測定方法は代謝産物に応じて適切なものを選択すればよいが、例えば、質量分析、液体クロマトグラフィー、免疫学的手法(例えば蛍光免疫測定法(FIA法)、酵素免疫測定法(EIA法))等を採用可能である。

【0087】
典型的には、被検物質の代謝産物が検出されたとき、「被検物質が代謝された」と判定ないし評価する。また、代謝産物の量に応じて被検物質の代謝量を評価することができる。代謝産物の検出結果と、被検物質の使用量(典型的には培地への添加量)に基づき、被検物質の代謝効率を算出することにしてもよい。

【0088】
腸管上皮細胞様細胞における薬物代謝酵素(シトクロムP450(特にCYP3A4)、ウリジン2リン酸-グルクロン酸転移酵素(特にUGT1A8、UGT1A10)、硫酸転移酵素(特にSULT1A3など))の発現を指標として被検物質の代謝を測定することも可能である。薬物代謝酵素の発現はmRNAレベル又はタンパク質レベルで評価することができる。例えば、薬物代謝酵素のmRNAレベルに上昇を認めたとき、「被検物質が代謝された」と判定することができる。同様に、薬物代謝酵素の活性に上昇を認めたとき、「被検物質が代謝された」と判定することができる。代謝産物を指標として判定する場合と同様に、薬物代謝酵素の発現量に基づいて定量的な判定・評価を行うことにしてもよい。

【0089】
被検物質の吸収を評価するためには、例えば、培養液中の被検物質の残存量を測定する。通常、工程(I)後の培養液をサンプルとして被検物質を定量する。測定方法は被検物質に応じて適切なものを選択すればよい。例えば、質量分析、液体クロマトグラフィー、免疫学的手法(例えば蛍光免疫測定法(FIA法)、酵素免疫測定法(EIA法))等を採用可能である。典型的には、培養液中の被検物質の含有量の低下を認めたとき、「被検物質が吸収された」と判定・評価する。また、低下の程度に応じて被検物質の吸収量ないし吸収効率を判定・評価することができる。尚、細胞内に取り込まれた被検物質の量を測定することによっても、吸収の評価は可能である。

【0090】
尚、代謝の測定・評価と吸収の測定・評価を同時に又は並行して行うことにしてもよい。

【0091】
後述の実施例に示す通り、本発明の方法を利用して調製した人工多能性幹細胞由来腸管上皮細胞様細胞では、ヒト小腸上皮細胞で高発現を認めるムチン2及びクロモグラニンA(CgA)が、小腸のモデル系として頻用されているCaco-2細胞(ヒト結腸癌由来の細胞)とは比較にならないレベルで高発現していることが判明した。この事実は当該細胞が小腸のモデル系として極めて利用価値が高いことを裏づけるとともに、当該細胞を用いたアッセイの指標としてムチン2及びCgAの発現が有用であることを示す。そこで本発明は、腸管上皮細胞様細胞を用いたアッセイの更なる態様(第3の態様)として、ムチン2又はCgAの発現を指標とした二つの評価法、即ち、被検物質の消化管粘膜障害作用を評価する方法(第3の態様。以下、「障害作用評価法」と略称することがある)と被検物質の消化管粘膜保護作用を評価する方法(第4の態様。以下、「保護作用評価法」と略称することがある)を提供する。尚、本発明の障害作用評価法は、副作用として粘膜障害(潰瘍)を起こす可能性がある薬物の予測(副作用リスクの予測)に特に有用であり、本発明の保護作用評価法はこの様な副作用又はストレス性潰瘍を抑制する作用を持つ新規薬物のスクリーニングに特に有用である。

【0092】
本発明の障害作用評価法(第3の態様)では、(a)本発明の分化誘導方法で得られた腸管上皮細胞様細胞に被検物質を接触させる工程と、(b)前記腸管上皮細胞様細胞におけるムチン2又はCgAの発現を検出し、検出結果に基づき被検物質の消化管粘膜障害作用を判定する工程であって、ムチン2又はCgAの発現低下が認められることが、被検物質が消化管粘膜障害作用を有することの指標となる工程を行う。

【0093】
工程(a)、即ち腸管上皮細胞様細胞と被検物質の接触は、上記態様(第1態様、第2態様)と同様に実施することができる。但し、予め細胞層を形成させることは必須ではない。使用可能な被検物質についても、上記の態様(第1態様及び第2態様)と同様であるため、その説明を省略する。

【0094】
工程(a)に続く工程(b)では、腸管上皮細胞様細胞におけるムチン2又はCgAの発現を検出し、検出結果に基づき被検物質の消化管粘膜障害作用を判定する。即ち、本発明ではムチン2又はCgAの発現を利用して被検物質の消化管粘膜障害作用が判定される。より具体的には、ムチン2又はCgAの発現低下が認められることを、被検物質が消化管粘膜障害作用を有することの指標として用いる。従って、ムチン2又はCgAの発現低下を認めた場合に被検物質は消化管粘膜障害作用を有すると判定し、ムチン2又はCgAの発現低下を認めない場合に被検物質は消化管粘膜障害作用を有しないと判定する。ムチン2又はCgAの発現低下の程度(レベル)に基づき、消化管粘膜障害作用の強さ(程度)を決定することにしてもよい。また、複数の被検物質を用いた場合には、ムチン2又はCgAの発現低下の程度(レベル)に基づき、各被検物質の消化管粘膜障害作用の強弱を比較評価することにしてもよい。

【0095】
ムチン2とCgAはどちらも分泌タンパク質である。ムチン2は腸管粘膜の保護に関わっている粘膜質であり、ムチン2の質や量の低下は潰瘍性大腸炎や癌を誘発することが知られている。他方、CgAは自律神経が興奮することで分泌される物質であり、血中濃度においては臨床化学的に腫瘍マーカーの一つとして知られており、また、近年、唾液のCgA濃度はストレスの指標として注目されている(豊田中央研究所 R&D レビュー Vol. 34 No. 3, 17-22 (1999. 9)、高知女子大学看護学会誌VOL.40, NO.1, pp24-30 2014等)。

【0096】
ムチン2及びCgAの発現は例えば常法に従って検出すればよい。ムチン2及びCgAの検出方法として、RT-PCR法やリアルタイムPCR法(mRNAの測定/定量)、蛍光免疫測定法(FIA法)や酵素免疫測定法(EIA法)等の免疫学的手法、質量分析法等を例示することができる。CgAについては、検出用試薬やキット(例えば株式会社矢内原研究所が提供するYK070 Human Chromogranin A)もあり、これらを利用することもできる。

【0097】
通常は、比較対照として、被検物質に接触させない腸管上皮細胞様細胞(その他の条件は同一とする)(以下、「コントロール」と呼ぶ)を用意し、そのムチン2又はCgAの発現も検出する。そして、当該コントロールの発現レベルと比較することによって、被検物質がムチン2又はCgAの発現を低下させたか判断する。このようにコントロールとの比較によって被験物質の消化管粘膜障害作用を判定すれば、より信頼性の高い判定結果が得られる。

【0098】
本発明の保護作用評価法(第4の態様)では、(A)消化管粘膜障害作用を示す物質の存在下、本発明の分化誘導方法で得られた腸管上皮細胞様細胞に被検物質を接触させる工程と、(B)前記腸管上皮細胞様細胞におけるムチン2又はCgAの発現を検出し、検出結果に基づき被検物質の消化管粘膜保護作用を判定する工程であって、前記物質によるムチン2又はCgAの発現低下の抑制が認められることが、被検物質が消化管粘膜保護作用を有することの指標となる工程を行う。

【0099】
工程(A)では、消化管粘膜障害作用を示す物質(以下、「粘膜障害剤」と呼称する)の存在下で、腸管上皮細胞様細胞と被検物質の接触が行われる。腸管上皮細胞様細胞と被検物質の接触は、上記態様(第3態様)と同様に実施することができ、典型的には、粘膜障害剤と被検物質の存在下(即ち培地にこれら両者が添加された状態)で腸管上皮細胞様細胞を培養することになる。粘膜障害剤と被検物質の添加のタイミングは特に限定されない。従って、例えば、粘膜障害剤と被検物質を含まない培地で培養を開始した後、ある時点で粘膜障害剤と被検物質を添加することにしても、予め粘膜障害剤と被検物質を含む培地で培養を開始することにしてもよい。また、粘膜障害剤と被検物質の添加の順序は特に問わない。即ち、前者を先に添加、後者を先に添加、両者を同時に添加、のいずれであってもよい。

【0100】
ムチン2及び/又はCgAの発現を低下させることで消化管粘膜を障害する各種物質を、本発明における粘膜障害剤として採用することができる。粘膜障害剤として用いることが可能な物質の例を挙げると、インドメタシン、アスピリン、ケトプロフェン、イブプロフェン等である。粘膜障害剤の使用量(添加濃度)は、使用する粘膜障害剤の作用に関する過去の報告等を参考にして、或いは予備実験を通して設定すればよい。二以上の物質を併用することにしてもよい。尚、使用可能な被検物質については、上記の態様(第1態様及び第2態様)と同様であるため、その説明を省略する。

【0101】
工程(A)に続く工程(B)では、腸管上皮細胞様細胞におけるムチン2又はCgAの発現を検出し、検出結果に基づき被検物質の消化管粘膜保護作用を判定する。即ち、本発明ではムチン2又はCgAの発現を利用して被検物質の消化管粘膜保護作用が判定される。より具体的には、粘膜障害剤によるムチン2又はCgAの発現低下の抑制が認められることを、被検物質が消化管粘膜保護作用を有することの指標に用いる。従って、粘膜障害剤によるムチン2又はCgAの発現低下を抑制した場合に被検物質は消化管粘膜保護作用を有すると判定し、粘膜障害剤によるムチン2又はCgAの発現低下を抑制しない場合に被検物質は消化管粘膜保護作用を有しないと判定する。ムチン2又はCgAの発現低下を抑制した程度(レベル)に基づき、消化管粘膜保護作用の強さ(程度)を決定することにしてもよい。また、複数の被検物質を用いた場合には、ムチン2又はCgAの発現低下を抑制した程度(レベル)に基づき、各被検物質の消化管粘膜保護作用の強弱を比較評価することにしてもよい。

【0102】
上記態様(第3の態様)と同様、より信頼性の高い判定結果を得るため、比較対照(コントロール)を設け、コントロールとの比較によって被検物質の消化管粘膜保護作用を判定することが好ましい。この場合のコントロールとしては、粘膜障害剤の非存在下で被検物質を接触させた腸管上皮細胞様細胞、及び/又は被検物質に接触させない腸管上皮細胞様細胞(粘膜障害剤は存在下)を用いることができる。

【0103】
上でも言及したように、当該態様(第4の態様)の評価法は、薬物の副作用としての粘膜障害又はストレス性潰瘍を抑制する作用を持つ新規薬物のスクリーニングに特に有用である。本発明の評価法をスクリーニングに利用する場合には、工程(B)での判定結果に基づき有効な被検物質を選抜する。選択した物質が十分な薬効を有する場合には、当該物質をそのまま腸管粘膜保護薬の有効成分として使用することができる。一方で十分な薬効を有しない場合には化学的修飾などの改変を施してその薬効を高めた上で、腸管粘膜保護薬の有効成分として使用することができる。勿論、十分な薬効を有する場合であっても、更なる薬効の増大を目的として同様の改変を施してもよい。

【0104】
本発明の分化誘導方法で調製した腸管上皮細胞様細胞の第2の用途として腸管上皮細胞様細胞を含有する細胞製剤が提供される。本発明の細胞製剤は各種腸疾患の治療に適用可能である。特に、障害された(機能不全を含む)腸管上皮組織の再生・再建用の材料としての利用が想定される。即ち、再生医療への貢献を期待できる。本発明の細胞製剤は、例えば、本発明の方法によって得られた腸管上皮細胞様細胞を生理食塩水や緩衝液(例えばリン酸系緩衝液)等に懸濁すること、或いは当該細胞を用いて三次元組織体(オルガノイドやスフェロイド)を作製することによって調製することができる。治療上有効量の細胞を投与できるように、一回投与分の量として例えば1×105個~1×1010個の細胞を含有させるとよい。細胞の含有量は、使用目的、対象疾患、適用対象(レシピエント)の性別、年齢、体重、患部の状態、細胞の状態などを考慮して適宜調整することができる。

【0105】
細胞の保護を目的としてジメチルスルホキシド(DMSO)や血清アルブミン等を、細菌の混入を阻止することを目的として抗生物質等を、細胞の活性化、増殖又は分化誘導などを目的として各種の成分(ビタミン類、サイトカイン、成長因子、ステロイド等)を本発明の細胞製剤に含有させてもよい。さらに、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)を本発明の細胞製剤に含有させてもよい。
【実施例】
【0106】
A.ヒトiPS細胞由来腸管幹細胞様細胞の新規培養方法の開発
腸管幹細胞の性質を維持させたままヒトiPS細胞由来腸管幹細胞様細胞を維持・増殖可能な培養方法の確立を目指し、以下の検討を行った。
【実施例】
【0107】
1.方法
(1)細胞
ヒトiPS細胞(iPS-51:Windy)は、ヒト胎児肺線維芽細胞MRC-5にoctamer binding protein 3/4(OCT3/4)、sex determining region Y-box 2(SOX2)、kruppel-like factor 4(KLF4)、v-myc myelocytomatosis viral oncogene homolog(avian)(c-MYC)を、パントロピックレトロウイルスベクターを用いて導入後、ヒトES細胞様コロニーをクローン化したものであり、国立成育医療研究センター梅澤明弘博士よりご供与いただいた。フィーダー細胞はマウス胎仔線維芽細胞(MEF)を使用した。
【実施例】
【0108】
(2)培地
MEFの培養には10%ウシ胎仔血清(FBS)、2 mmol/L L-グルタミン(L-Glu)、1%非必須アミノ酸(NEAA)、100 units/mLペニシリンG、100μg/mLストレプトマイシンを含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を用いた。MEFの剥離液には0.05%トリプシン-エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を、MEFの保存液にはセルバンカー1を用いた。ヒトiPS細胞の維持培養には20%ノックアウト血清代替物(KSR)、0.8% NEAA、2 mmol/L L-Glu、0.1 mmol/L 2-メルカプトエタノール(2-MeE)、5 ng/mL線維芽細胞増殖因子(FGF)2を含むDMEM Ham’s F-12(DMEM/F12)を用いた。ヒトiPS細胞の剥離液には1 mg/mLコラゲナーゼIV、0.25%トリプシン、20% KSR、1 mmol/L塩化カルシウムを含むダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いた。ヒトiPS細胞の保存液には霊長類ES/iPS細胞用凍結保存液を用いた。
【実施例】
【0109】
(3)ヒトiPS細胞の培養
ヒトiPS細胞はマイトマイシンC処理を施したMEF(5×105 cells/100 mmディッシュ)上に播種し、5% CO2/95% air条件下CO2インキュベーター中37℃にて培養した。ヒトiPS細胞の継代は、3~5日培養後、1:2~1:3のスプリット比で行った。ヒトiPS細胞は解凍48時間後に培地を交換し、それ以降は毎日交換した。
【実施例】
【0110】
(4)ヒトiPS細胞の腸管幹細胞への分化
ヒトiPS細胞の腸管幹細胞への分化は、ヒトiPS細胞が培養ディッシュに対し、未分化コロニーの占める割合が約70%になった状態で開始した。0.5% FBS、100 ng/mLアクチビンA、100 units/mLペニシリンG、100μg/mLストレプトマイシンを含むロズウェルパーク記念研究所(RPMI)+グルタマックス培地で2日間、2% FBS、100 ng/mLアクチビンA、100 units/mLペニシリンG、100μg/mLストレプトマイシンを含むRPMI+グルタマックス培地で1日間培養することで内胚葉に分化させた。その後、2% FBS、1%グルタマックス、250 ng/mL FGF2を含むDMEM/F12で4日間培養することで腸管幹細胞へと分化させた。
【実施例】
【0111】
(5)腸管幹細胞の培養と継代
これまでの報告も考慮し、幹細胞性を維持するのに必要と考えられる因子を含んだ維持培地(10% KSR、100 units/mLペニシリンG、100μg/mLストレプトマイシン、1%グルタマックス、5μM Y-27632、100 ng/mL EGF、100 ng/mL Noggin、100 ng/mL R-spondin 1、100 ng/mL Wnt 3a、線維芽細胞増殖因子(5 ng/mL FGF2または100 ng/mL FGF4または100 ng/mL FGF10)、10μM CHIR 99021、1 mM バルプロ酸、1 mg/mL ニコチンアミド、1.5μM A-83-01、10μM SB202190、1 mM N-Acetylcysteinを含むAdvanced DMEM/F12)を新たに考案し、本検討で使用した。
【実施例】
【0112】
iPS細胞から分化させた腸管幹細胞をアクターゼで剥離し、維持培地に懸濁させ、ゼラチンコーティングした細胞培養用6または10 cmディッシュに播種した。この時をPassage 1とした。培地交換は維持培地からY-27632を除いた培地で2~3日おきに交換した。継代は、細胞が培養ディッシュに対し占める割合が約80%になった状態で開始した。培養ディッシュから培養液を吸引除去し、D-PBS(-)5 mL/10 cmディッシュで2回洗浄した。アクターゼにて剥離し、細胞懸濁液を15 mL遠沈管に回収した。継代には継代前のディッシュ1枚当たり約50%の細胞数を使用し、約25%の細胞数は総リボ核酸(RNA)抽出に使用した。継代する細胞は、1,000 rpm(160×g)で3分間遠心後、上清を可能な限り吸引除去した。維持培地で懸濁し、ゼラチンコーティングした細胞培養用6または10 cmディッシュに播種した。継代後24時間後にY-27632を含まない培地に交換した。
【実施例】
【0113】
(6)腸管幹細胞の腸管上皮細胞への分化
腸管上皮細胞への分化は、腸管幹細胞が培養ディッシュに対し、約80%になった状態で開始した。細胞をアクターゼで剥離し、あらかじめヒトiPS細胞用培地で30倍に希釈した、成長因子を除去したマトリゲルにてコートした細胞培養用24ウェルプレートに播種した。その後、2% FBS、2 mmol/L L-Glu、1% NEAA、2% B27 supplement、1% N2 supplement、100 units/mLペニシリンG、100μg/mLストレプトマイシン、20 ng/mL上皮成長因子(EGF)、10μmol/L Y-27632を含むDMEM/F12で1日間、2% FBS、2 mmol/L L-Glu、1% NEAA、2% B27 supplement、1% N2 supplement、100 units/mLペニシリンG、100μg/mLストレプトマイシン、20 ng/mL EGFを含むDMEM/F12で18日間培養することで腸管上皮細胞へ分化させた。また、分化の際に以前我々が見出した低分子化合物であるPD98059(20μmol/L)、5-アザ-2’-デオキシシチジン(5μmol/L)、A-83-01(0.5μmol/L)を添加した。
【実施例】
【0114】
(7)RNA抽出
腸管幹細胞の継代培養での回収および腸管上皮細胞への分化後の回収終了後、Agencourt(登録商標) RNAdvanceTMissue Kitの添付マニュアルに従い抽出した。
【実施例】
【0115】
(8)逆転写反応
相補的DNA(cDNA)の合成は、ReverTra Ace(登録商標) qPCR RT Master Mixを使用し、添付マニュアルに従い行った。
【実施例】
【0116】
(9)リアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(Real-Time RT-PCR)
Real-Time RT-PCRはKAPA SYBR Fast qPCR Kitを用い、cDNAを鋳型にして、反応は添付マニュアルに従い行った。結果は内在性コントロールとしてグリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素(GAPDH)を用いて補正した。
【実施例】
【0117】
尚、幹細胞性の評価にはLGR5(ロイシンリッチリピートを含むGタンパク質共役型受容体、腸管幹細胞のマーカー)とSOX9(腸管前駆細胞マーカー)を利用し、腸管上皮様細胞へ分化したことの評価にはVillin(ビリン1、微絨毛の主要な構成成分)、Sucrase-isomaltase(スクラーゼ-イソマルターゼ、腸管上皮に存在する二糖分解酵素、腸管上皮特異的マーカー)、PEPT1(SLC(solute carrier)ファミリーメンバー15A1/ペプチドトランスポーター1、小腸の頂側膜側に発現している)、MDR1(ATP結合カセットトランスポーターB1/多剤耐性タンパク1、P糖タンパク質、排出トランスポーター)を利用した。
【実施例】
【0118】
2.結果・考察
(1)腸管幹細胞の培養方法の検討
新たに考案した維持培地の幹細胞性維持への影響とその際に添加する線維芽細胞増殖因子(FGF2、FGF4、FGF10)の影響を継代培養することで検討した。その結果、幹細胞性マーカーであるLGR5や前駆細胞マーカーであるSOX9のmRNA発現レベルはヒト小腸と比較して同程度の発現量が確認された(図1~3)。また、その発現量は若干の変動と減衰は認められたものの、ヒト小腸と比較して同程度の発現量が維持されていた(図1~3)。線維芽細胞増殖因子については大きな違いは認められなかった。これらの結果は、新たに考案した維持培地を用いれば、腸管幹細胞の継代培養が可能になることを示す。尚、維持培地に使用する線維芽細胞増殖因子(FGF2、FGF4、FGF10)の間に大きな違いは認められなかった。
【実施例】
【0119】
(2)腸管幹細胞の分化の検討
iPS細胞から腸管幹細胞へ分化させ、継代培養することなくそのまま腸管上皮細胞へ分化させた場合(コントロール)と、iPS細胞から腸管幹細胞へ分化させ、1回継代し、本検討で確立した腸管幹細胞の培養方法で維持培養させた細胞(FGF2添加維持群、FGF4添加維持群、FGF10添加維持群)を腸管上皮細胞へ分化させた場合の間で、腸管上皮マーカーおよび薬物動態関連遺伝子のmRNA発現量を比較した。その結果、コントロールと比較して維持培養した群ではVillinは4.1~15.8倍、Sucrase-isomaltaseは53.6~86.2倍、PEPT1は4.0~6.1倍、MDR1は23.4~28.0倍のmRNA発現量の増加が認められた(図4)。
【実施例】
【0120】
以上の通り、新たに考案した維持培地を使用することで、ヒトiPS細胞より分化させた腸管幹細胞を腸管幹細胞の性質を維持したまま培養することが可能となった。また、驚くべきことに、維持培養した腸管幹細胞を腸管上皮細胞に分化させたところ、コントロールと比較して腸管上皮マーカーおよび薬物動態関連遺伝子のmRNA発現量が大きく上昇した。この結果は、確立に成功した、ヒトiPS細胞由来腸管幹細胞の維持培養法が、腸管幹細胞を大量に増殖させることや長期間にわたって維持する手段としてだけでなく、腸管上皮細胞への分化促進および機能向上にも有用であることを示す。
【実施例】
【0121】
B.ヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞の特性の検討
iPS細胞由来腸管上皮細胞の有用性を更に検討するため、腸管粘膜の保護に関わっている粘膜質であるムチン2と、ストレスの指標として注目されているCgAに着目し、iPS細胞由来腸管上皮細胞におけるこれらの物質の発現状態を調べた。
【実施例】
【0122】
1.方法
iPS細胞から腸管幹細胞へ分化させ、1回継代した後、上記検討で確立した腸管幹細胞の培養方法で維持培養した細胞を腸管上皮細胞へ分化させた。
【実施例】
【0123】
(1)ムチン2の検出
腸管上皮細胞へと分化させる過程で、培地中にインドメタシン(50μM、200μM)、レバミピド(50μM、100μM、200μM)を6日間添加し、ムチン2の発現に対する影響を検討した。
<RNA抽出>
腸管上皮細胞への分化後の回収終了後、Agencourt(登録商標) RNAdvanceTMissue Kitの添付マニュアルに従い抽出した。
<逆転写反応>
相補的DNA(cDNA)の合成は、ReverTra Ace(登録商標) qPCR RT Master Mixを使用し、添付マニュアルに従い行った。
<リアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(Real-Time RT-PCR)>
Real-Time RT-PCRはKAPA SYBR Fast qPCR Kitを用い、cDNAを鋳型にして、反応は添付マニュアルに従い行った。結果は内在性コントロールとしてヒポキサンチン-グアニンホスホリボシル トランスフェラーゼ(HPRT)を用いて補正した。
【実施例】
【0124】
(2)CgAの検出
腸管上皮細胞へと分化させる過程で、培地中にインドメタシン(50μM、200μM)、レバミピド(50μM、100μM、200μM)を6日間添加し、CgAの発現に対する影響を検討した。
<RNA抽出>
腸管上皮細胞への分化後の回収終了後、Agencourt(登録商標) RNAdvanceTMissue Kitの添付マニュアルに従い抽出した。
<逆転写反応>
相補的DNA(cDNA)の合成は、ReverTra Ace(登録商標) qPCR RT Master Mixを使用し、添付マニュアルに従い行った。
<リアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(Real-Time RT-PCR)>
Real-Time RT-PCRはKAPA SYBR Fast qPCR Kitを用い、cDNAを鋳型にして、反応は添付マニュアルに従い行った。結果は内在性コントロールとしてヒポキサンチン-グアニンホスホリボシル トランスフェラーゼ(HPRT)を用いて補正した。
【実施例】
【0125】
2.結果・考察
(1)ムチン2の発現及びその変化
ムチン2 mRNAの検出結果を図5に示す。本法で調製した腸管上皮細胞(Con)は、ヒト結腸癌由来のCaco-2細胞(Caco-2)では殆ど発現していないムチン2を高発現していた。その発現量は、市販のヒト小腸由来細胞(SI)の発現量の約30%にも達する。この事実は、本法で調製した腸管上皮細胞が小腸のモデル系として極めて利用価値が高いことを示す。
【実施例】
【0126】
インドメタシンを濃度200μMで培地に添加すると、本法で調製した腸管上皮細胞のムチン2の発現(mRNAレベル)が低下した(I200)。一方、レバミピドを培地に添加(50μM、100μM、200μM)することでムチン2の発現(mRNAレベル)が上昇した(R50、R100、R200)。尚、レバミピドを濃度200μMで培地に添加した場合(R200)は、濃度が高すぎて細胞毒性が出た可能性が考えられる。インドメタシン(200μM)とレバミピド(100μM、200μM)を培地に添加した場合、ムチン2の発現(mRNAレベル)の低下が抑制される傾向がみられた(I200+R100、I200+R200)。以上の結果は、本法で調製した腸管上皮細胞が、ムチン2の発現を指標にしたアッセイ(具体的には、副作用として粘膜障害(潰瘍)を起こす薬物の予測(副作用リスクの予測)及びこの様な副作用あるいはストレス性の潰瘍を抑制する作用を持つ薬物のスクリーニング系)に有用であることを示す。
【実施例】
【0127】
(2)CgAの発現及びその変化
CgA mRNAの検出結果を図6に示す。本法で調製した腸管上皮細胞(Con)は、ヒト結腸癌由来のCaco-2細胞(Caco-2)とは比較にならないレベルでCgAを発現していた。この事実も、本法で調製した腸管上皮細胞が小腸のモデル系として極めて利用価値が高いことを裏づける。
【実施例】
【0128】
インドメタシンを培地に添加すると(50μM、200μM)、本法で調製した腸管上皮細胞のCgAの発現(mRNAレベル)が低下した(I50、I200)。一方、レバミピドを培地に添加(50μM、100μM、200μM)してもCgAの発現(mRNAレベル)の上昇は特に認められなかった(R50、R100、R200)。しかし、インドメタシン(200μM)とレバミピド(100μM、200μM)を培地に添加した場合、CgAの発現(mRNAレベル)の低下が抑制される傾向がみられた(I200+R100、I200+R200)。以上の結果は、本法で調製した腸管上皮細胞が、CgAの発現を指標にしたアッセイ(具体的には、副作用として粘膜障害(潰瘍)を起こす薬物の予測(副作用リスクの予測)及びこの様な副作用あるいはストレス性の潰瘍を抑制する作用を持つ薬物のスクリーニング系)に有用であることを示す。
【実施例】
【0129】
C.ヒトiPS細胞由来腸管幹細胞様細胞の新規培養方法の開発2
ヒトiPS細胞由来腸管幹細胞様細胞の培養方法の改良を目指し、培地に添加する因子を変更し、その影響/効果を調べた。具体的には、10% KSR、100 units/mLペニシリンG、100μg/mLストレプトマイシン、1%グルタマックス、2μM Y-27632、100 ng/mL EGF、30 ng/mL FGF2、3μM CHIR 99021、0.5μM A-83-01を含むAdvanced DMEM/F12を用い、ヒトiPS細胞を分化させて得られた腸管幹細胞を継代培養し、マーカー(LGR5:小腸幹細胞マーカー、CDX2:後腸マーカー)の発現レベルを指標として幹細胞性が維持されているか評価した。培地条件以外は上記Aの場合と同様とした。また、使用する細胞(ヒトiPS細胞、MEF)、ヒトiPS細胞の培養方法等も上記Aの場合と同様とした。尚、本検討に使用した培地は、上記Aの検討で使用した培地に比べて添加する因子の数が大幅に少なく、特に、ヒストン脱アセチル化阻害剤であるバルプロ酸が添加されていない点に特徴がある。
【実施例】
【0130】
実験結果を図7に示す。継代を重ねても(P1~P11)、幹細胞性マーカーであるLGR5、後腸マーカーであるCDX2のmRNA発現レベルはヒト小腸と同等以上であり、上記培地がヒトiPS細胞由来腸管幹細胞様細胞の維持(継代培養)に極めて有効であることが示された。
【実施例】
【0131】
継代前(P0)及び継代後(P1~P10)のヒトiPS細胞由来腸管幹細胞様細胞を腸管上皮細胞へと分化させ(方法は上記Aの場合に準じた)、各種マーカー(Villin:腸管マーカー、Sucrase-isomaltase: 腸管マーカー、ISX:腸管マーカー、LGR5:腸管幹細胞マーカー、MDR1:トランスポーター遺伝子、PEPT1:トランスポーター遺伝子、CYP3A4:薬物代謝酵素遺伝子)の発現を調べた。結果を図8及び9に示す。継代後に腸管上皮細胞へ分化させた場合でも、腸管上皮マーカーおよび薬物動態関連遺伝子の高い発現が見られた。Villin1、ISX、MDR1等は、継代を重ねると発現レベルが高くなる傾向を示し、ヒト小腸よりも高い発現が認められた。
【実施例】
【0132】
以上の通り、上記の培地を用いた維持培養法が、ヒトiPS細胞由来腸管幹細胞様細胞の維持(培養)、並びに腸管上皮細胞への分化促進および機能向上に極めて有効であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明の培養方法はiPS細胞由来の腸管幹細胞様細胞を大量に調製することや、長期間にわたって維持することを可能にする。また、本発明の培養方法を介してiPS細胞由来の腸管上皮細胞様細胞を調製することにより、より成熟した腸管上皮細胞様細胞を取得し得る。腸管上皮細胞様細胞は小腸のモデル系として有用であり、吸収・代謝・膜透過性、薬物代謝酵素の誘導、薬物トランスポーターの誘導、毒性の評価等に利用できる。また、各種腸疾患治療用の細胞製剤の有効成分として、或いは再生医療の材料としての利用も期待される。更に、本発明には、腸管幹細胞の機能解明、腸管の発生過程の解明、消化管疾患の原因や進展機構の解明などへの貢献も期待される。
【0134】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
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【図4】
3
【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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