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明細書 :有機酸の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6688497号 (P6688497)
公開番号 特開2017-070252 (P2017-070252A)
登録日 令和2年4月8日(2020.4.8)
発行日 令和2年4月28日(2020.4.28)
公開日 平成29年4月13日(2017.4.13)
発明の名称または考案の名称 有機酸の製造方法
国際特許分類 C12N  15/53        (2006.01)
C12P   7/40        (2006.01)
C12P   7/42        (2006.01)
C12P   7/46        (2006.01)
C12P   7/52        (2006.01)
C12P   7/56        (2006.01)
C12N   1/13        (2006.01)
FI C12N 15/53
C12P 7/40 ZNA
C12P 7/42
C12P 7/46
C12P 7/52
C12P 7/56
C12N 1/13
請求項の数または発明の数 10
全頁数 16
出願番号 特願2015-200116 (P2015-200116)
出願日 平成27年10月8日(2015.10.8)
審査請求日 平成30年7月20日(2018.7.20)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】801000027
【氏名又は名称】学校法人明治大学
発明者または考案者 【氏名】小山内 崇
【氏名】飯嶋 寛子
個別代理人の代理人 【識別番号】100106909、【弁理士】、【氏名又は名称】棚井 澄雄
【識別番号】100126882、【弁理士】、【氏名又は名称】五十嵐 光永
【識別番号】100064908、【弁理士】、【氏名又は名称】志賀 正武
【識別番号】100108578、【弁理士】、【氏名又は名称】高橋 詔男
審査官 【審査官】千葉 直紀
参考文献・文献 特表2010-538602(JP,A)
国際公開第2015/115520(WO,A1)
国際公開第2014/142051(WO,A1)
米国特許第08846354(US,B1)
特開2010-041920(JP,A)
Microbiology, 2012, Vol.158, pp.448-464
J. Am. Chem. Soc., 2011, Vol.133, pp.11308-11319
Applied and Environmental Microbiology, 2013, Vol.79, pp.5384-5393
調査した分野 C12P 7/00-7/66
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00-1/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS/WPIX(STN)



特許請求の範囲 【請求項1】
ヒドロゲナーゼ遺伝子の発現が抑制若しくは喪失している藍藻、又はヒドロゲナーゼ活性が低下若しくは喪失している藍藻、を培養物で培養して有機酸を製造させ、前記藍藻内及び/又は前記培養後の前記培養物中から前記有機酸を採取することを含み、
前記ヒドロゲナーゼ遺伝子がhoxであり、前記ヒドロゲナーゼがHoxであり、
前記有機酸が、ピルビン酸、乳酸、コハク酸、フマル酸及びリンゴ酸からなる群から選ばれる少なくとも一種である、有機酸の製造方法。
【請求項2】
記藍藻が、hoxH遺伝子及び/又は前記hoxH遺伝子の発現調節領域の配列が改変されたものである、請求項1に記載の有機酸の製造方法。
【請求項3】
前記hoxH遺伝子が、以下の(a)~(c)からなる群から選ばれるタンパク質をコードする遺伝子である請求項2に記載の有機酸の製造方法。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、又は付加されたアミノ酸配列を有し、Hoxにおいてヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列番号1で表されるアミノ酸配列との配列同一性が90%以上であるアミノ酸配列を有し、Hoxにおいてヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質
【請求項4】
前記藍藻を培養物中で培養することが、前記藍藻を好気培養した後に嫌気培養することを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の有機酸の製造方法。
【請求項5】
前記好気培養において、前記培養物中の窒素イオン濃度が1mM以下の低窒素期間を有する請求項4に記載の有機酸の製造方法。
【請求項6】
前記嫌気培養開始時に藍藻が非休眠状態である、請求項5に記載の有機酸の製造方法。
【請求項7】
前記嫌気培養を暗条件下で行う、請求項4~6のいずれか一項に記載の有機酸の製造方法。
【請求項8】
前記有機酸がコハク酸及び/又は乳酸である、請求項1~7のいずれか一項に記載の有機酸の製造方法。
【請求項9】
前記培養物が培養液であり、前記培養液中から前記有機酸を採取する、請求項1~8のいずれか一項に記載の有機酸の製造方法。
【請求項10】
前記藍藻がシネコシスティス(Synechocystis)属の藍藻である、請求項1~9のいずれか一項に記載の有機酸の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、藍藻を用いた有機酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化や資源枯渇に関する懸念から、再生可能な資源であるバイオマスへの期待が高まっている。なかでも石油の代替資源の開発は重要な課題である。
有機酸は、利用価値の高い化合物である。例えば、有機酸である乳酸からは、優れた生分解性プラスチックであるポリ乳酸を製造可能である。なかでもコハク酸は、汎用の化学・工業原料であり、ポリブチレンサクシネート(PBS)の原料や、化学品中間体、溶剤、可塑剤として広く利用されている。例えば、コハク酸を原料として製造されるポリブチレンサクシネートは、農業用マルチフィルム、包装材、農場・土木資材等に使用され、2011年の出荷量は約3100tにのぼる。
現在、コハク酸は、主に石油を原料として製造されているが、石油の代わりにバイオマスを利用しようとする流れがある。例えば、非特許文献1には、従属栄養微生物を用いてコハク酸を生産する技術が開示されている。いくつかの企業ではバクテリア又は酵母の発酵により、コハク酸の生産を開始している。
【先行技術文献】
【0003】

【非特許文献1】Sanchez AM, Bennett GN, San KY (2005) Novel pathway engineering design of the anaerobic central metabolic pathway in Escherichia coli to increase succinate yield and productivity. Metab Eng 7:229-239.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の非特許文献等に開示された方法では、有機酸原料として、微生物に対するグルコース等の植物由来の炭素源の供給が必須である。しかし、このような植物由来の炭素源は、食糧としても利用されているため、糖価格の高騰や安定供給体制に対する不安がある。
一方、藍藻は上記微生物とは異なり、光合成により二酸化炭素と光エネルギーを直接資源化することができる。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、藍藻を用いて高効率に有機酸を製造可能な、有機酸の製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記の特徴を有する有機酸の製造方法を提供するものである。
【0006】
(1)ヒドロゲナーゼ遺伝子の発現が抑制若しくは喪失している藍藻、又はヒドロゲナーゼ活性が低下若しくは喪失している藍藻、を培養物で培養して有機酸を製造させ、前記藍藻内及び/又は前記培養後の前記培養物中から前記有機酸を採取することを含み、
前記ヒドロゲナーゼ遺伝子がhoxであり、前記ヒドロゲナーゼがHoxであり、
前記有機酸が、ピルビン酸、乳酸、コハク酸、フマル酸及びリンゴ酸からなる群から選ばれる少なくとも一種である、有機酸の製造方法。
(2)記藍藻が、hoxH遺伝子及び/又は前記hoxH遺伝子の発現調節領域の配列が改変されたものである、前記(1)に記載の有機酸の製造方法。
(3)前記hoxH遺伝子が、以下の(a)~(c)からなる群から選ばれるタンパク質をコードする遺伝子である前記(2)に記載の有機酸の製造方法。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、又は付加されたアミノ酸配列を有し、Hoxにおいてヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列番号1で表されるアミノ酸配列との配列同一性が90%以上であるアミノ酸配列を有し、Hoxにおいてヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質
(4)前記藍藻を培養物中で培養することが、前記藍藻を好気培養した後に嫌気培養することを含む、前記(1)~(3)のいずれか一つに記載の有機酸の製造方法。
(5)前記好気培養において、前記培養物中の窒素イオン濃度が1mM以下の低窒素期間を有する前記(4)に記載の有機酸の製造方法。
(6)前記嫌気培養開始時に藍藻が非休眠状態である、前記(5)に記載の有機酸の製造方法。
(7)前記嫌気培養を暗条件下で行う、前記(4)~(6)のいずれか一つに記載の有機酸の製造方法。
(8)前記有機酸がコハク酸及び/又は乳酸である、前記(1)~(7)のいずれか一つに記載の有機酸の製造方法。
(9)前記培養物が培養液であり、前記培養液中から前記有機酸を採取する、前記(1)~(8)のいずれか一つに記載の有機酸の製造方法。
(10)前記藍藻がシネコシスティス(Synechocystis)属の藍藻である、前記(1)~(9)のいずれか一つに記載の有機酸の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る藍藻は、光合成により二酸化炭素と光エネルギーを直接資源化でき、かつ有機酸の生産能に優れている。このため、本発明によれば、藍藻により高効率に有機酸を製造可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例で得られた形質転換候補株に対し、hoxH発現解析を行った結果を示すグラフである。
【図2】本発明に係るhoxH発現抑制株と野生株とで、培養後の密閉容器内の水素量の値を比較した結果を示すグラフである。
【図3】本発明に係るhoxH発現抑制株と野生株とで、細胞内の有機酸濃度を比較した結果を示すグラフである。
【図4】本発明に係るhoxH発現抑制株と野生株とで、細胞外(培養物中)の有機酸量を比較した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の有機酸の製造方法は、ヒドロゲナーゼ遺伝子の発現が抑制若しくは喪失している藍藻、又はヒドロゲナーゼ活性が低下若しくは喪失している藍藻、を培養物で培養して有機酸を製造させ、前記藍藻内及び/又は前記培養後の前記培養物中から前記有機酸を採取することを含む。
以下、本発明の一実施形態の有機酸の製造方法について説明する。

【0010】
<藍藻>
藍藻はシアノバクテリアとも呼ばれ、光合成を行う真正細菌である。他の大部分の藻類が真核生物であるのに対し、原核生物に分類される。
実施形態に係る藍藻は、藍藻が本来有する内在性のヒドロゲナーゼの、ヒドロゲナーゼ遺伝子の発現が抑制若しくは喪失している藍藻、又はヒドロゲナーゼ活性が低下若しくは喪失している藍藻である。

【0011】
本明細書中において、「有機酸」とは、実施形態に係る藍藻が生合成した有機化合物の酸のことをいう。有機酸は、実施形態に係る藍藻が嫌気呼吸によって生合成した有機酸であってもよく、実施形態に係る藍藻が解糖系及び/又はTCA回路の生化学反応によって生合成した有機酸であってもよい。有機酸としては、例えば、乳酸、ピルビン酸、クエン酸、α-ケトグルタル酸(2-オキソグルタル酸)、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸等が挙げられる。

【0012】
「ヒドロゲナーゼ」は、2H+2e←→Hの反応を触媒する酵素である。藍藻のヒドロゲナーゼには、取り込み型のHoxヒドロゲナーゼと双方向型のHupヒドロゲナーゼが知られている。ヒドロゲナーゼはHoxであってもよく、Hupであってもよい。
藍藻において、Hoxヒドロゲナーゼは、5つのタンパク質(HoxEFUYH)から構成されることが知られている(文献:Carrie Eckert et al., THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY VOL. 287, NO. 52, pp. 43502-43515,"Genetic Analysis of the Hox Hydrogenase in the Cyanobacterium Synechocystis sp. PCC 6803 Reveals Subunit Roles in Association, Assembly, Maturation, and Function"参照)。HoxYとHoxHは、ヒドロゲナーゼ部分を構成する。HoxEとHoxFとHoxUは、NADHからNAD+を生成するジアホラーゼ部分を構成する。このように、ヒドロゲナーゼが複数のタンパク質から構成されている場合、ヒドロゲナーゼの活性に寄与するものであれば、実施形態に係るヒドロゲナーゼに包含される。

【0013】
藍藻内でヒドロゲナーゼ遺伝子の発現量が抑制されていることとは、コントロールとなる野生型等の藍藻と比較して、ヒドロゲナーゼ遺伝子産物の量が抑制されていることである。藍藻内でヒドロゲナーゼ遺伝子の発現量が喪失していることとは、コントロールとなる野生型等の藍藻と比較して、ヒドロゲナーゼ遺伝子産物が喪失していることである。遺伝子産物としては、例えば、ヒドロゲナーゼmRNA、ヒドロゲナーゼタンパク質等が挙げられる。遺伝子の発現量は、公知の測定方法により測定可能であり、リアルタイムPCR、ウェスタンブロッティング等の方法を採用可能である。結果の比較は、比較可能な同条件のもとに行われた実験結果によるものとする。

【0014】
藍藻内でヒドロゲナーゼ活性が低下していることとは、コントロールとなる野生型等の藍藻と比較して、ヒドロゲナーゼ活性が低下していることである。藍藻内でヒドロゲナーゼ活性が喪失していることとは、コントロールとなる野生型等の藍藻と比較して、ヒドロゲナーゼ活性が喪失していることである。

【0015】
藍藻におけるヒドロゲナーゼ活性は、公知の測定方法により測定可能である。例えば、活性測定対象の藍藻から得た細胞抽出物から、ポリアクリルアミドゲル電気泳動によりヒドロゲナーゼを分離し、その際メチルビオローゲン等の指示薬を用いて活性染色を行って染色強度を測定することにより、ヒドロゲナーゼ活性を求めることができる。
或いは、発生した水素量に基づき、藍藻におけるヒドロゲナーゼ活性を求めてもよい。例えば、活性測定対象の藍藻または藍藻から得た細胞抽出物を、ヒドロゲナーゼの水素発生条件を満たした密閉容器内で反応させ、反応後の密閉容器内の気体の水素濃度を測定してもよい。コントロールとなる野生型等の藍藻と活性測定対象の藍藻とを比較して、活性測定対象の藍藻のほうが容器内の水素濃度が低く、ヒドロゲナーゼ活性が水素蓄積量の律速となっていると認識できる場合、測定対象の藍藻のヒドロゲナーゼ活性が低下若しくは喪失していると判断できる。結果の比較は、比較可能な同条件のもとに行われた実験結果によるものとする。野生型の藍藻としては、Synechocystis GT株を例示できる。なお、藍藻におけるヒドロゲナーゼ活性測定方法は上記方法に限定されない。

【0016】
コントロールとなる藍藻とは、藍藻が本来有する内在性のヒドロゲナーゼの遺伝子及びヒドロゲナーゼ活性を有する、野生型と同等の藍藻である。

【0017】
発明者らは、後述する実施例において示すように、ヒドロゲナーゼ遺伝子の発現が抑制された藍藻では、コントロールとなる野生型等の藍藻と比較して、有機酸生産能が向上していることを見出した。なお、後述の実施例に示すように、ヒドロゲナーゼ遺伝子の発現量が抑制又は喪失された藍藻であれば、対応するヒドロゲナーゼの活性が低下若しくは喪失しているものと理解される。
本実施形態に係る藍藻は、ヒドロゲナーゼ活性が低下又は喪失している藍藻であってもよい。本実施形態に係る藍藻は、ヒドロゲナーゼ遺伝子の発現が抑制又は喪失しており、ヒドロゲナーゼ活性が低下又は喪失している藍藻であってもよい。

【0018】
実施形態に係る藍藻が、ヒドロゲナーゼ遺伝子の発現が抑制している藍藻の場合、ヒドロゲナーゼ遺伝子の発現の抑制の程度は、コントロールとなる野生型等の藍藻と比較して、藍藻に有機酸生産能の向上が認められる程度であればよい。
実施形態に係る藍藻が、ヒドロゲナーゼ活性が低下している藍藻の場合、ヒドロゲナーゼ活性の低下の程度は、コントロールとなる野生型等の藍藻と比較して、藍藻に有機酸生産能の向上が認められる程度であればよい。

【0019】
藍藻における有機酸生産能の向上は、公知の測定方法により測定可能であり、後述に実施例に記載の方法により行うことができる。例えば、有機酸生産能の測定対象の藍藻から得た細胞抽出物中の有機酸濃度を測定することにより、求めることができる。また、例えば、生産能測定対象の藍藻を培養した培養物中の有機酸濃度を測定することにより、求めることができる。
コントロールとなる野生型等の藍藻と、有機酸生産能の測定対象の藍藻とを比較して、生産能測定対象の藍藻のほうで、細胞抽出物中の有機酸濃度が高い場合、測定対象の藍藻の有機酸蓄積能(有機酸生産能)が向上していると判断できる。
コントロールとなる野生型等の藍藻と、有機酸生産能の測定対象の藍藻とを比較して、生産能測定対象の藍藻のほうで、培養物中の有機酸濃度が高い場合、測定対象の藍藻の細胞外への有機酸生産能(有機酸生産能)が向上していると判断できる。
結果の比較は、比較可能な同条件のもとに行われた実験結果によるものとする。野生型の藍藻としては、Synechocystis GT株を例示できる。なお、藍藻における有機酸生産能の測定方法は上記方法に限定されない。

【0020】
本実施形態に係る藍藻は、コントロールとなる野生型等の藍藻に対し、有機酸生産能が向上している。
前記有機酸は、コハク酸及び/又は乳酸であることが好ましい。実施形態に係る藍藻は、例えば、コントロールとなる野生型等の藍藻に対し、細胞内のコハク酸蓄積能が2倍以上であってもよく、10倍以上であってもよく、15倍以上であってもよい。実施形態に係る藍藻は、例えば、コントロールとなる野生型等の藍藻に対し、細胞外へのコハク酸生産能が2倍以上であってもよく、3倍以上であってもよく、5倍以上であってもよい。
実施形態に係る藍藻は、例えば、コントロールとなる野生型等の藍藻に対し、細胞内の乳酸蓄積能が2倍以上であってもよく、4倍以上であってもよい。実施形態に係る藍藻は、例えば、コントロールとなる野生型等の藍藻に対し、細胞外への乳酸生産能が2倍以上であってもよく、5倍以上であってもよく、10倍以上であってもよい。

【0021】
ヒドロゲナーゼ遺伝子の発現の抑制は、例えば、ヒドロゲナーゼ遺伝子に対するmiRNAやsiRNA等のRNAi核酸、アンチセンス核酸、アプタマー若しくはリボザイムなどの核酸の発現を生じさせる核酸をモデル動物に導入することで、達成されてもよい。

【0022】
実施形態の藍藻は、ヒドロゲナーゼ遺伝子の発現が抑制若しくは喪失するよう、又は、ヒドロゲナーゼ活性が低下若しくは喪失するよう、ゲノム配列が改変されたものであることが好ましい。係る藍藻としては、ヒドロゲナーゼ遺伝子及び/又はヒドロゲナーゼ遺伝子の発現調節領域の配列が改変された藍藻が挙げられる。藍藻のヒドロゲナーゼ遺伝子の配列を改変することにより、ヒドロゲナーゼ遺伝子を破壊又は機能低下させ、藍藻内での機能的なヒドロゲナーゼの生産を抑制又は喪失させることが可能である。ヒドロゲナーゼ遺伝子とは、構造遺伝子の領域が挙げられる。藍藻のヒドロゲナーゼ遺伝子の発現調節領域の配列を改変することにより、ヒドロゲナーゼ遺伝子の発現調節領域を破壊又は機能低下させ、藍藻内でのヒドロゲナーゼ遺伝子産物の発現量を抑制又は喪失させることが可能である。発現調節領域とは、プロモータ、エンハンサー等の領域が挙げられる。

【0023】
実施形態に係る藍藻が、ヒドロゲナーゼ遺伝子及び/又はヒドロゲナーゼ遺伝子の発現調節領域の配列が改変された藍藻である場合、上記コントロールの藍藻とは、当該配列が改変されていない野生型等の藍藻を指す。

【0024】
配列の改変方法としては任意の方法を採用でき、例えば、ヒドロゲナーゼ遺伝子及び/又はヒドロゲナーゼ遺伝子の発現調節領域における、一部又は全部の塩基配列の欠失、置換、挿入、付加、及びそれらの組み合わせが挙げられる。例えば、ヒドロゲナーゼ遺伝子の配列が欠失されることにより、機能的なヒドロゲナーゼの生産を抑制又は喪失させることができる。例えば、ヒドロゲナーゼ遺伝子の配列に別の配列が挿入されることにより、フレームシフトが生じ、機能的なヒドロゲナーゼの生産を抑制又は喪失させることができる。例えば、ヒドロゲナーゼ遺伝子の配列に別の配列が付加されることにより、遺伝子産物の構造変化が生じ、機能的なヒドロゲナーゼの生産を抑制又は喪失させることができる。例えば、ヒドロゲナーゼ遺伝子の発現調節領域の配列が改変されることにより、mRNAの転写の抑制又は喪失が生じ、ヒドロゲナーゼ遺伝子の発現量を抑制又は喪失させることができる。

【0025】
配列の改変の手法は、当該分野においてよく知られており、種々の遺伝子工学的方法を採用可能である。例えば、変異原性物質(Mutagen)による処理、紫外線照射、相同組み換え技術等による遺伝子ターゲッティング、Cre-loxP系等による条件的ノックアウト、CRISPR/Casシステム等によるゲノム編集等の手法を用いて行うことができる。藍藻においては、容易に相同組み換えが可能であり、所望の配列を容易に改変することが可能である。
一般的に使われるシアノバクテリア野生株であるSynechocystis GT株などは、一般的に培養物にDNAを加えると、それを細胞の中に取り込み、相同組換えが進む(Natural Transformation)。Synechocystis sp.PCC 6803(GT株)は、Natural Transformationが可能である。

【0026】
実施形態に係るヒドロゲナーゼはHoxであることが好ましく、実施形態に係る藍藻は、hoxヒドロゲナーゼ遺伝子の発現が抑制若しくは喪失している藍藻、又はHoxヒドロゲナーゼ活性が低下若しくは喪失している藍藻であることが好ましい。

【0027】
実施形態に係るヒドロゲナーゼ遺伝子がhoxである場合、改変されるhoxは、hoxY、hoxH、hoxE、hoxF及びhoxUからなる群から選ばれる一つ以上であってもよく、hoxY及びhoxHからなる群から選ばれる一つ以上であってもよい。
HoxHの機能が喪失した藍藻では、Hoxヒドロゲナーゼの活性が喪失することが知られている(Appel et al. (2000) The bidirectional hydrogenase of Synechocystis sp. PCC 6803 works as an electron valve during photosynthesis. Arch. Microbiol. 173(5-6)333-338)。係る観点から、実施形態に係る前記ヒドロゲナーゼ遺伝子はhoxHであることが好ましい。実施形態に係る藍藻は、hoxH遺伝子の発現が抑制若しくは喪失している藍藻、又はHoxHが構成するヒドロゲナーゼ活性が低下若しくは喪失していてもよく、さらにhoxH遺伝子及び/又はhoxH遺伝子の発現調節領域の配列が改変された藍藻であることが好ましい。

【0028】
藍藻では、ゲノムに同一の遺伝子が複数コピー存在する場合がある。藍藻がヒドロゲナーゼ遺伝子を複数コピー有している場合、ヒドロゲナーゼ遺伝子の全てのコピーが改変されていてもよく、ヒドロゲナーゼ遺伝子の一部のコピーが改変されていてもよい。例えば、Synechocystis GT株では、10個のhoxH遺伝子のコピーを有しているとされる。改変されるコピーの割合は、ヒドロゲナーゼ遺伝子の発現の抑制若しくは喪失の程度、又はヒドロゲナーゼ活性の低下若しくは喪失の程度を考慮し、適宜定めればよい。例えば、10個すべてのhoxH遺伝子の全部の遺伝子配列が完全に欠損されている場合、ヒドロゲナーゼ遺伝子の発現は喪失し、ヒドロゲナーゼ活性が喪失した藍藻となる。例えば、10個のうち5個のhoxH遺伝子の全部の遺伝子配列が完全に欠損されている場合、ヒドロゲナーゼ遺伝子の発現は抑制され、ヒドロゲナーゼ活性が抑制された藍藻となる。改変する条件を適宜変化させることにより、10個のうち6個以上の個数(10個を含む)のhoxH遺伝子の全部の遺伝子配列を完全に欠損させることも可能である。なお、10個のうち10個全部のhoxH遺伝子の遺伝子配列を完全に欠損させるよりも、10個のうち10未満の個数のhoxH遺伝子の全部の遺伝子配列を完全に欠損させる方が、改変が容易である。
ヒドロゲナーゼ遺伝子の全コピーのうち、改変されるコピーの割合は、コントロールとなる野生型等の藍藻と比較して、藍藻に有機酸生産能の向上が認められる程度であればよい。有機酸生産能の向上については上記のとおりである。

【0029】
本明細書中において、ヒドロゲナーゼは、ヒドロゲナーゼ活性に寄与する限り、いかなるものであってもよい。したがって、後述する実施例で具体的に示されたヒドロゲナーゼ以外であっても、例えば当該ヒドロゲナーゼと同等の機能を有するホモログは、実施形態に係るヒドロゲナーゼに包含される。
有機酸の製造に用いる藍藻のヒドロゲナーゼが既知である場合、その情報に基づき、対象とする藍藻のヒドロゲナーゼ遺伝子を容易に特定可能である。
有機酸の製造に用いる藍藻のヒドロゲナーゼが未知である場合であっても、当業者であれば、既知ヒドロゲナーゼの配列情報等に基づき、対象とする藍藻におけるヒドロゲナーゼ遺伝子を、容易に特定可能である。

【0030】
一例として、ヒドロゲナーゼがHoxである場合、前記hoxH遺伝子は、以下の(a)~(c)からなる群から選ばれるタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、又は付加されたアミノ酸配列を有し、Hoxにおいてヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列番号1で表されるアミノ酸配列との配列同一性が80%以上であるアミノ酸配列を有し、Hoxにおいてヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質

【0031】
配列番号1で表されるアミノ酸配列は、Synechocystis sp. PCC 6803株のHoxHのアミノ酸配列である。

【0032】
一般的に、アミノ酸配列から1~数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたポリペプチドも、元のポリペプチドと同等の機能を有することが知られている。
したがって、本発明の一実施形態に係るHoxHは、以下の(b)のアミノ酸配列を有するものである。(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1~数個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列からなるポリペプチド。

【0033】
(b)のアミノ酸配列において、「1~数個」の塩基とは、例えば、1~30個、1~20個、1~10個、1~5個、又は1~3個であってもよい。
(b)のポリペプチドにおいて、「塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列」とは、配列番号1に示されるアミノ酸配列に対して、アミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列であってもよく、欠失、置換、挿入及び付加からなる群から選ばれる少なくとも一種の改変又は変異により、改変前の配列番号1に示されるアミノ酸配列に対して、1~数個のアミノ酸の相違が生じたものであってもよい。

【0034】
一般的に、アミノ酸配列との配列同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドも、元のポリペプチドと同等の機能を有することが知られている。
したがって、本発明の一実施形態に係るHoxHは、以下の(c)のアミノ酸配列を有するものである。(c)配列番号1に示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(c)のポリポリペプチドにおいて、配列番号1に示されるアミノ酸配列との配列同一性は、80%以上100%未満であり、例えば、85%以上、90%以上、95%以上、又は98%以上であってもよい。
アミノ酸配列同士の配列同一性は、公知のシーケンスアライメントのアルゴリズムであるBLAST (Basic Local Alignment Search Tool)やblastpを用いて算出可能である。

【0035】
「Hoxにおいてヒドロゲナーゼ活性を有する」とは、Hoxヒドロゲナーゼの複合体において、ヒドロゲナーゼの活性に寄与することをいう。

【0036】
前記(a)のタンパク質をコードする遺伝子としては、配列番号2で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドが挙げられる。
配列番号2で表される塩基配列は、Synechocystis sp. PCC 6803株のhoxHのコーディング領域の塩基配列である。

【0037】
実施形態に係る藍藻の種類としては、有機酸生産能を有するものであれば、特に制限されない。例えば、Synechocystis sp. PCC 6803等のSynechocystis属藍藻;Gloeobacter violaceus PCC 7421等のGloeobacter属藍藻;Anabaena sp. PCC 7120、Anabaena variabilis ATCC 29413等のAnabaena属藍藻;Synechococcus sp. PCC 6301、Synechococcus sp. PCC 7002、Synechococcus elongatus PCC 7942、Synechococcus sp. WH8102、Synechococcus sp. WH 7803、Synechococcus sp. CC9311、Synechococcus sp. CC9605、Synechococcus sp. CC9902、Synechococcus sp. JA-2-3B'a(2-13)、Synechococcus sp. JA-3-3Ab、Synechococcus sp. RCC307等のSynechococcus属藍藻;Prochlorococcus marinus SS120、Prochlorococcus marinus MED4、Prochlorococcus marinus MIT 9313、Prochlorococcus marinus str. MIT 9211、Prochlorococcus marinus str. MIT 9215、Prochlorococcus marinus str. MIT 9301、Prochlorococcus marinus str. MIT 9303、Prochlorococcus marinus str. MIT 9312、Prochlorococcus marinus str. MIT 9515、Prochlorococcus marinus str. NATL1A、Prochlorococcus marinus str. NATL2A、Prochlorococcus marinus str. AS9601等のProchlorococcus属藍藻;Cyanothece sp. ATCC 51142、Cyanothece sp. PCC 7424、Cyanothece sp. PCC 7425、Cyanothece sp. PCC 8801等のCyanothece属藍藻;Acaryochloris marina MBIC11017等のAcaryochloris属藍藻;Thermosynechococcus elongatus BP-1等のThermosynechococcus属藍藻;Gloeobacter violaceus PCC 7421等のGloeobacter属藍藻;Microcystis aeruginosa NIES-843等のMicrocystis属藍藻;Nostoc punctiforme ATCC 29133等のNostoc属藍藻;Chlorobium tepidum TLS等の、Chlorobium属藍藻;Rhodopseudomonas palustris CGA009等のRhodopseudomonas属藍藻;Trichodesmium erythraeum IMS101等のTrichodesmium属藍藻;Arthrospira platensis NIES-39等のArthrospira属藍藻等が挙げられる。上記に例示した藍藻のなかでも、実施形態に係る藍藻の種類としては、シネコシスティス(Synechocystis)属の藍藻であることが好ましい。

【0038】
<培養>
本発明の一実施形態において、有機酸の製造方法は、上記実施形態の藍藻を培養物で培養して有機酸を製造させ、藍藻内及び/又は培養後の培養物中から前記有機酸を採取することを含む。

【0039】
本明細書中において、培養物とは、藍藻を培養するために用いられるものであり、その中又はその上で藍藻が生育可能な物質である。培養物としては、例えば、培地、バッファー、水、水溶液などである。培養物は液体であっても、固体であってもよいが、有機酸を生産させる際には、藍藻又は有機酸の回収が容易であることから、液体であることが好ましい。

【0040】
効率的な有機酸製造の観点から、藍藻に有機酸を生産させるための培養は、嫌気培養であることが好ましい。これは、藍藻が嫌気条件下にさらされると、藍藻内で解糖系の反応が優先的に進むため、効率的に藍藻に有機酸を製造させることが可能と考えられるためである。本明細書中において嫌気培養とは、藍藻において嫌気発酵が可能な培養系においての培養のことをいう。培養系内は、例えば、藍藻を培養する容器内のことを指す。藍藻の嫌気発酵が可能な条件下は公知であり、例えば、培養系内の気相の酸素濃度が0~1体積%であってもよく、0~0.5体積%であってもよく、0~0.2体積%であってもよく、0体積%であってもよい。
藍藻を培養する培養系内を、藍藻が嫌気発酵可能な条件下とする方法としては、例えば、密閉され、光照射が遮られた培養容器内で藍藻を培養することで、藍藻の呼吸により培養容器内の酸素を消費させる方法が挙げられる。したがって、本実施形態の有機酸の製造方法においては、嫌気培養は暗条件下で行うことが好ましい。
別例として、例えば、培養容器内に窒素ガスを流入させ、培養容器内の酸素を窒素で置換する方法が挙げられる。

【0041】
前記藍藻を培養物中で培養することは、前記藍藻を好気培養した後に嫌気培養することを含むことが好ましい。まず、藍藻を好気培養することで、藍藻の生育や増殖を促したり、藍藻内に有機酸原料を蓄積させる利点がある。好機培養は明条件下で行うことが好ましく、且つ培養系内に二酸化炭素が存在することが好ましい。光が照射された培養容器内で藍藻を培養することで、藍藻の光合成により、有機酸の原料となる炭素源が合成される。藍藻が光合成可能な条件下は公知であり、例えば、藍藻に対し、20~200μmol photons m-2-1程度の光が照射される条件が挙げられる。

【0042】
前記好気培養において、前記培養物中の窒素イオン濃度が1mM以下の低窒素期間を有することが好ましい。好機培養において、窒素イオン濃度が1mM以下の低窒素状態で藍藻を培養することにより、続く嫌気培養において、藍藻の有機酸の生産能を向上させることができる。このメカニズムは明らかではないが、培養物中の窒素が少なくなると、藍藻体内でグリコーゲン、デンプン等の炭素源の蓄積が進むためと考えられる。
ここで、低窒素とは、藍藻にとって窒素が欠乏した状態ではなく、その前段階の状態のことを指す。藍藻にとって窒素が欠乏した状態が続くと、藍藻が休眠状態に移行することが知られている。発明者は、窒素が欠乏して休眠状態へ移行した藍藻よりも、その前段階の状態の藍藻のほうが、有機酸の生産能が高いことを見出した。
したがって、嫌気培養開始時に、藍藻は非休眠状態であることが好ましい。藍藻が休眠状態か非休眠状態かを判断するには、藍藻の色の変化を指標とすればよい。休眠状態への移行に伴い、藍藻の色は、緑色から黄色へと変化することが知られている。これは、フィコビリソームと呼ばれる集光装置を壊して、窒素原を回収するためである。

【0043】
藍藻を培養する培養物は、藍藻の培養が可能なものであればよく、藍藻の培地として用いることのできる培地を使用してもよい。培地としては、例えば、BG-11培地や、BG-11培地、AA培地等が挙げられる。これらの培地は、藍藻が利用可能な栄養源が豊富に含まれている。
上記に例示したような培地は、好機培養、嫌気培養のいずれにも使用可能であるが、嫌気培養では、主に藍藻内に蓄積された炭素源を用いて有機酸の生産が行われるため、栄養源を含む培地を使用せずともよい。嫌気発酵では、例えば、培地の代わりとして、藍藻を生存させることが可能なバッファーを、培養物として使用できる。

【0044】
藍藻を培養する温度は、使用する藍藻の種やその他の条件を加味して適宜定めればよいが、例えば、15~50℃程度でおこなってもよく、20℃~40℃でおこなってもよく、25℃~30℃程度とすることが好ましい。
藍藻を培養する期間は、培養物中の藍藻の濃度や有機酸の生産量に応じて適宜定めればよい。上記好気培養の期間は、1時間~20日程度としてもよく、1日~10日程度としてもよく、1~3日程度としてもよい。好機培養は、振とう培養や通気培養により行ってもよい。上記嫌気培養の期間は、1時間~20日程度としてもよく、1日~10日程度としてもよく、1~3日程度としてもよい。

【0045】
藍藻が藍藻体内に有機酸を蓄積している場合、藍藻内から前記有機酸を採取すればよく、例えば、培養後の培養物から藍藻を回収し、藍藻の細胞を破砕して、その破砕物から、有機酸を採取すればよい。
藍藻が藍藻外に有機酸を放出している場合、培養後の培養物中から前記有機酸を採取すればよい。例えば、上記実施形態の藍藻を培養物で培養して有機酸を製造させ、培養後の培養物中からコハク酸及び/又は乳酸を採取してもよい。当該培養後の培養物は、遠心分離や濾過等の分離処理が施され藍藻が分離されたものであってもよく、藍藻が分離されていない状態であってもよい。分離処理された培養物中では、藍藻が完全に除かれてなくともよい。

【0046】
有機酸の採取と製造は同時に行われてもよく、別々に行われてもよい。有機酸の採取と製造が同時に行われる場合としては、例えば、有機酸を生産している藍藻の培養液の上清を回収して、有機酸を採取する場合が挙げられる。

【0047】
本実施形態の有機酸の製造方法は、採取した有機酸を精製することを含んでいてもよい。精製は、採取と同時におこなってもよく、採取した後におこなってもよい。精製の方法としては、例えば、結晶化精製によるもの、HPLCによるクロマトグラフィーやイオン交換樹脂等のカラム精製によるもの等が挙げられる。

【0048】
本実施形態に係る藍藻は、光合成により二酸化炭素と光エネルギーを直接資源化でき、かつ有機酸の生産能に優れている。本実施形態の有機酸の製造方法によれば、藍藻により高効率に有機酸を製造することができる。そのため、従来法と比べ経済的にも環境的にも大変優れた方法である。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を、実施例を挙げて、より具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0050】
1. hoxH発現抑制株の作製
・pUC119へのクローニング
WEB公開されたSynechocystis sp. PCC 6803株のゲノム情報(http://genome.microbedb.jp/cyanobase/Synechocystis)の、hoxHの遺伝子情報(ID:sll1226)に基づき、Synechocystis sp. PCC 6803株から、以下のプライマーセットでhoxHを増幅した[hoxHF: 5’-TTCCGCATGCTTACAAGATCCGGCTTTC-3’(配列番号3)、hoxHR: 5’-TTAAGATATCAGCCCGTTGCCGATATT-3’(配列番号4)]。hoxHFプライマーとhoxHRプライマーには、それぞれ、SphI(Forward)サイト、EcoRV(Reverse)サイトを付けている。
増幅したhoxHをSphIとEcoRVで切断し、pUC119プラスミドのSphI、SmaIサイトに導入し、得られたプラスミドをpUC-hoxHと名付けた。
【実施例】
【0051】
・プロモータと薬剤耐性マーカーの導入
pTGP2031Vプラスミドの薬剤マーカー領域及びプロモータ領域を、下記のプライマーセットで増幅した[pUC-Reg45-IntegF: 5’-TATTCTGGGCCCTTTGCTTCATCGCTCGAG-3’(配列番号5)、pUC-Reg45-IntegR: 5’-TATCAAGGGCCCATCCAATGTGAGGTTAAC-3’(配列番号6)]。プライマーには、それぞれ、ApaIサイトを付けている。
上記で得られたpUC-hoxHをMscIで切断し、MscIサイトに上記で得られたpTGP2031Vプラスミドの薬剤マーカー領域及びプロモータ領域を連結した。得られたプラスミドを、pTGP1226と名付けた。
pTGP1226では、hoxH遺伝子の構造遺伝子配列の一部に、薬剤マーカー及びプロモータの配列などが挿入された配列を有している。
【実施例】
【0052】
・形質転換
Synechocystis sp.PCC 6803株をBG-11液体培地に植菌し、通常の培養条件(30℃、1% CO、50~100μmol photons m-2-1)で3~4日培養した。OD730=3~4の培養物100~500μLに対し、上記で得られたpTGP1226プラスミドを100~300ng/μlの濃度で含む溶液を1~2μl加え、プラスミド混合培養液を得た。
BG-11 plate上に、ニトロセルロース膜(ミリポア、Immobilon-NC、Cat.No.HATF08250、Pore size 0.45 μm、Cut size 82mm)を載せ、その上にプラスミド混合培養液を塗り広げ、一晩培養した。
終濃度3μg/mlのゲンタマイシンを含むBG-11プレートに、上記培養後のメンブレンを移し3~4週間培養した。得られたコロニーを別の上記BG-11プレートに再播種して数日間培養した。培養及び再播種を2、3回繰り返した。BG-11培地の組成を以下に示す。
【実施例】
【0053】
【表1】
JP0006688497B2_000002t.gif
【実施例】
【0054】
2.hoxHの発現解析
上記で得られた形質転換体候補株に対しhoxH発現解析を行った。形質転換体候補株からmRNAを抽出してcDNAを合成し、リアルタイムPCRでhoxHのmRNA量を測定した。hoxHのmRNA量の測定に用いたプライマーセットは、以下のとおりである[hoxHF: 5’-GGCAATTTGGCCAAACGGTA-3’(配列番号7)、hoxHR: 5’-TCCACAATCCATTGTCTGCC-3’(配列番号8)]。
結果を図1に示す。発現解析の結果、野生型のGT株と比べて、hoxHのmRNAの発現量が約半分にまで低下したhoxH発現抑制株(△hoxH)が得られたことが確認できた。
【実施例】
【0055】
3.水素量の測定
上記hoxH発現抑制株又はGT株を、OD730=20になるよう10 mL HEPES-KOH(pH7.8)に濃縮し、暗条件下の密閉容器内で3日間嫌気培養した。培養後の密閉容器内の気相に対し、GC-TCD(ガスクロマトグラフ-熱伝導度検出器)を用いて水素量を測定した。
結果を図2に示す。野生型のGT株と比べ、hoxH発現抑制株では密閉容器内に蓄積した水素量の値が低下していた。
【実施例】
【0056】
4.<実施例1>有機酸の製造
(好機培養)
50 ml程度のBG-11液体培地に、hoxH発現抑制株をプレートから植菌し、30℃、空気(1%CO)、白色光50~80 μmol photonsm-2-1の明条件で3~4日間、前培養した。70ml BG-11(窒素源の入っていない培地) +5mM NHClに、OD730=0.4となるように、遠心して回収した前培養の細胞を加え、上記と同じ明条件で3日間培養した。3日間培養後の培地中のアンモニアの濃度は1mM以下(検出限界以下)であった。また、3日間培養後の藍藻の細胞は、低窒素条件下であっても、休眠していない状態であった。
(嫌気培養)
上記好機培養後の細胞を回収し、10mLの20mM Hepes-KOH(pH7.8)にOD730=20となるよう、細胞を再懸濁した。この再懸濁物をガスクロバイアル瓶に入れ、ブチルゴムで密栓して栓にシリンジを2本連結した。片方のシリンジから、1時間Nガスをガスクロバイアル瓶に吹き込み、瓶内の空気をNガスに置換した。Nガスを止めてシリンジを栓から抜き、瓶をアルミ箔で覆い、密閉状態で3日間、暗条件で振盪培養し培養液を得た。BG-11培地+5mM NHClの組成を以下に示す。
【実施例】
【0057】
【表2】
JP0006688497B2_000003t.gif
【実施例】
【0058】
<参考例1>
上記実施例1において、瓶内の空気をNガスに置換せず、嫌気培養に代えて好機培養を行った以外は、実施例1と同様にして培養を行い、培養液を得た。
【実施例】
【0059】
<比較例1>
上記実施例1において、hoxH発現抑制株に代えて野生株(GT株)を用いた以外は、実施例1と同様にして培養を行い、培養液を得た。
【実施例】
【0060】
<比較例2>
上記比較例1において、瓶内の空気をNガスに置換せず、嫌気培養に代えて好機培養を行った以外は、比較例1と同様にして培養を行い、培養液を得た。
【実施例】
【0061】
5-1.細胞内の有機酸量の測定
上記の暗条件で振盪培養して得られた実施例1、参考例1、比較例1及び比較例2の培養液のそれぞれを、OD730=1×10ml分サンプリングし、フィルター濾過し、フィルターに細胞を集めた。
1μMの10-カンファースルホン酸を含む500μLメタノールを氷冷したものを抽出液として用意した。この抽出液に上記のフィルターを浸して、ボルテックスミキサーを用いて20秒間撹拌した。撹拌後の抽出液に、氷冷した500μLクロロホルム及び氷冷した200μLの滅菌水を加えた後、ボルテックスミキサーを用いて30秒間撹拌し、その後15,000rpm×5分, 4℃の条件で遠心分離させた。分離した上清300μlを新しいチューブに移し、1mM ピメリン酸を7μL加えたものを定法に沿って調製し、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)により成分を分析した。
【実施例】
【0062】
結果を図3に示す。図3に示すグラフの縦軸は、サンプルに加えたピメリン酸の値を標準物質とし、比較例2の培養液(GT_Aerobic)から得られた藍藻の細胞内の各有機酸の濃度に対する相対値である。
実施例1の培養液から得られた藍藻(hoxH_Anaerobic)では、参考例1の培養液から得られた藍藻(hoxH_Aerobic)、比較例1の培養液から得られた藍藻(GT_Anaerobic)、及び比較例2の培養液から得られた藍藻(GT_Aerobic)と比べて、細胞内の有機酸(ピルビン酸、乳酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸)の量が顕著に増加していることが明らかとなった。
【実施例】
【0063】
5-2.細胞外(培養物中)の有機酸量の測定
上記の暗条件で振盪培養して得られた実施例1及び比較例1の培養液のそれぞれを遠心分離し、上清1mlを集めた。上清を凍結乾燥させ、得られた固体成分を移動相である3mM HClO溶液100μlに溶解し、これらを高速液体クロマトグラフィー(HPLC) LC-2000 Plus(日本分光)を用い、定法に沿って成分分析した。
【実施例】
【0064】
HPLCの測定条件は以下のとおりである。
移動相:3mM過塩素酸水溶液
反応液:0.2mMブロモチモールブルー(BTB),15mM リン酸水素ナトリウム(NaHPO・12HO)
カラム:Shodex RSpak KC-811 x2
【実施例】
【0065】
結果を図4に示す。図4に示すグラフの縦軸は、HPLCにより得られた各有機酸の測定値を培養液1Lあたりの有機酸の量(mg/L)に換算した値である。
図4に示す結果から、hoxH発現抑制株により有機酸(コハク酸、乳酸)の細胞外生産が可能であることが示された。実施例1で得られた培養液(hoxH)では、比較例1で得られた培養液(GT)と比べて、培養液中の有機酸(コハク酸、乳酸)の量が顕著に増加していることが明らかとなった。
【実施例】
【0066】
以上で説明した各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3