TOP > 国内特許検索 > 食品、食品の加熱処理方法、フィコシアニン含有物の製造方法、及び食品の製造方法 > 明細書

明細書 :食品、食品の加熱処理方法、フィコシアニン含有物の製造方法、及び食品の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6681065号 (P6681065)
公開番号 特開2017-123816 (P2017-123816A)
登録日 令和2年3月25日(2020.3.25)
発行日 令和2年4月15日(2020.4.15)
公開日 平成29年7月20日(2017.7.20)
発明の名称または考案の名称 食品、食品の加熱処理方法、フィコシアニン含有物の製造方法、及び食品の製造方法
国際特許分類 A23L   5/46        (2016.01)
C12N   1/12        (2006.01)
C12P  21/02        (2006.01)
C07K  14/405       (2006.01)
FI A23L 5/46
C12N 1/12 ZNAA
C12P 21/02 Z
C07K 14/405
請求項の数または発明の数 6
全頁数 25
出願番号 特願2016-005334 (P2016-005334)
出願日 平成28年1月14日(2016.1.14)
審査請求日 平成30年11月21日(2018.11.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】801000027
【氏名又は名称】学校法人明治大学
発明者または考案者 【氏名】小山内 崇
【氏名】飯嶋 寛子
個別代理人の代理人 【識別番号】100106909、【弁理士】、【氏名又は名称】棚井 澄雄
【識別番号】100126882、【弁理士】、【氏名又は名称】五十嵐 光永
【識別番号】100064908、【弁理士】、【氏名又は名称】志賀 正武
【識別番号】100108578、【弁理士】、【氏名又は名称】高橋 詔男
審査官 【審査官】小金井 悟
参考文献・文献 特開昭62-006691(JP,A)
特表2014-524248(JP,A)
Biochim Biophys Acta,2000年 1月10日,Vol.1456, No.2-3,p.99-107
調査した分野 A23L 2/00- 35/00
C12P 1/00- 41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/BIOSIS/EMBASE/MEDLINE/WPIDS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
イデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)シアニディオシゾン属(Cyanidioschyzon)に属する紅藻のフィコシアニンを含み、pHがpH0以上pH6以下であるフィコシアニン含有物を含む食品。
【請求項2】
飲料である請求項1に記載の食品。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の食品を加熱処理することを含む、食品の加熱処理方法。
【請求項4】
前記加熱処理の温度が、60℃以上85℃以下である、請求項3に記載の食品の加熱処理方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の食品に含まれる前記フィコシアニン含有物の製造方法であって、
イデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)シアニディオシゾン属(Cyanidioschyzon)に属する紅藻を培養物中で培養してフィコシアニンを製造させ、塩濃度が前記培養物以下である回収媒体と前記紅藻とを接触させて、前記回収媒体に前記紅藻が製造したフィコシアニンが抽出された色素回収物を得て、前記紅藻からフィコシアニンを採取することを含む、フィコシアニン含有物の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のフィコシアニン含有物の製造方法によって得られた前記フィコシアニン含有物を用いることを含む、請求項1又は2に記載の食品の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、紅藻シゾン等のフィコシアニンに係る、食品、食品の加熱処理方法、フィコシアニンの製造方法、有機酸の製造方法、及び水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酸性温泉から単離されたシアニディオシゾン メローラエ(以下、「シゾン」と略すことがある。)(Cyanidioschyzon merolae)は単細胞性の紅藻として着目されている。シゾンは、ゲノムサイズの小ささや培養の容易さ等から、主に研究対象としての利用に関心が寄せられており、産業利用についての検討は乏しい。
【0003】
色素タンパク質のフィコシアニンは、藍藻等の藻類が生産する光合成色素である。フィコシアニンは綺麗な青色を呈することに加え、経口摂取での安全性も高い。これらの優れた性質から食品用着色料として多く利用され、市場価値も非常に高い。フィコシアニンの製造法としては、藍藻を利用した製造法が知られており(特許文献1)、なかでも藍藻の一種であるスピルリナ(Spirulina)を用いた製造法が実用化されている。
【0004】
スピルリナからフィコシアニンを回収する際には、培養池からスピルリナを回収した後、スピルリナを分離濃縮し、乾燥粉末化したものからフィコシアニンを抽出している。
【0005】
また一方で、近年、地球温暖化や資源枯渇に関する懸念から、再生可能な資源であるバイオマスへの期待が高まっている。なかでも石油の代替資源の開発は重要な課題である。
有機酸は、利用価値の高い化合物である。例えば、有機酸である乳酸からは、優れた生分解性プラスチックであるポリ乳酸を製造可能である。なかでもコハク酸は、汎用の化学・工業原料であり、ポリブチレンサクシネート(PBS)の原料や、化学品中間体、溶剤、可塑剤として広く利用されている。例えば、コハク酸を原料として製造されるポリブチレンサクシネートは、農業用マルチフィルム、包装材、農場・土木資材等に使用され、2011年の出荷量は約3100tにのぼる。
現在、コハク酸は、主に石油を原料として製造されているが、石油の代わりにバイオマスを利用しようとする流れがある。例えば、非特許文献1には、従属栄養微生物を用いてコハク酸を生産する技術が開示されている。いくつかの企業ではバクテリア又は酵母の発酵により、コハク酸の生産を開始している。
【0006】
また一方で、石油に代わる新しいエネルギー源として、水素利用への期待も高まっている。水素は石油と異なり、燃焼させても二酸化炭素が発生しないため、地球温暖化対策の面からも優れる。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開昭62-6691号公報
【特許文献2】特開平11-299450号公報
【特許文献3】特開2005-295829号公報
【0008】

【非特許文献1】Sanchez AM, Bennett GN, San KY (2005) Novel pathway engineering design of the anaerobic central metabolic pathway in Escherichia coli to increase succinate yield and productivity. Metab Eng 7:229-239.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の藍藻由来のフィコシアニンは、耐熱性に劣るという問題がある。そのため、藍藻のフィコシアニンの主な配合対象は、氷菓や冷菓等にとどまっている。これに対し、従来、藍藻のフィコシアニンと糖類とを組み合わせることで、フィコシアニンの耐熱性を向上させようとする試みが知られている(特許文献2、特許文献3)。しかし、非常に高濃度の糖を用いなければならず、使用できる状況は限られている。
また、従来の藍藻を用いたフィコシアニンの製造方法では、フィコシアニンの回収のために、藍藻を乾燥粉末化しなくてはならず、そのための設備やコストが必要である。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、耐熱性に優れたフィコシアニン含有物を含む食品、該食品の加熱処理方法の提供を課題とする。
また、本発明は、効率的にフィコシアニンを製造可能なフィコシアニンの製造方法の提供を課題とする。
また、本発明は、イデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)に属する紅藻による、有機酸の製造方法及び水素の製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、イデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)に属する紅藻のフィコシアニンを含み、酸性のフィコシアニン含有物は、優れた耐熱性を有することを見出した。また、本発明者らは、イデユコゴメ綱に属する紅藻を用いることで、非常に容易にフィコシアニンを製造可能であることを見出した。また、本発明者らは、上記方法で得られたイデユコゴメ綱に属する紅藻のフィコシアニンは、従来用いられている藍藻由来のフィコシアニンと比べても、優れた耐熱性を有することを見出した。
【0012】
さらに本発明者らは、イデユコゴメ綱に属する紅藻を用いて有機酸を製造可能であること、及びイデユコゴメ綱に属する紅藻を用いて水素を製造可能であることを見出した。
【0013】
すなわち本発明は、下記の特徴を有する食品、食品の加熱処理方法、有機酸の製造方法、及び水素の製造方法を提供するものである。
【0014】
(1)イデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)シアニディオシゾン属(Cyanidioschyzon)に属する紅藻のフィコシアニンを含み、pHがpH0以上pH6以下であるフィコシアニン含有物を含む食品。
(2)飲料である前記(1)に記載の食品。
(3)前記(1)又は(2)に記載の食品を加熱処理することを含む、食品の加熱処理方法。
(4)前記加熱処理の温度が、60℃以上85℃以下である、前記(3)に記載の食品の加熱処理方法。
前記(1)又は(2)に記載の食品に含まれる前記フィコシアニン含有物の製造方法であって、
イデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)シアニディオシゾン属(Cyanidioschyzon)に属する紅藻を培養物中で培養してフィコシアニンを製造させ、塩濃度が前記培養物以下である回収媒体と前記紅藻とを接触させて、前記回収媒体に前記紅藻が製造したフィコシアニンが抽出された色素回収物を得て、前記紅藻からフィコシアニンを採取することを含む、フィコシアニン含有物の製造方法。
(6)前記(5)に記載のフィコシアニン含有物の製造方法によって得られた前記フィコシアニン含有物を用いることを含む、請求項1又は2に記載の食品の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐熱性に優れるフィコシアニン含有物を含む食品を提供可能である。
また、本発明によれば、高効率に、耐熱性に優れるフィコシアニンを製造可能なフィコシアニンの製造方法を提供可能である。
また、本発明によれば、イデユコゴメ綱に属する紅藻による、有機酸の製造方法、水素の製造方法を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るフィコシアニンの製造方法を説明する模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るフィコシアニン製造装置の構成の概略を示す模式図である。
【図3】実施例における、紅藻の培養後の上清に含まれる、フィコシアニン量を示すグラフである。
【図4】実施例における、紅藻の培養後の上清に含まれるフィコシアニンを示す写真である。
【図5】実施例における、シゾンフィコシアニンとスピルリナフィコシアニンとで、耐熱性を比較した結果のグラフである。
【図6】実施例における、シゾンフィコシアニンとスピルリナフィコシアニンとで、耐熱性を比較した結果のグラフである。
【図7】実施例における、紅藻の細胞外(培養物中)の有機酸量を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
≪食品≫
本発明の食品は、イデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)に属する紅藻のフィコシアニンを含み、pHが7未満であるフィコシアニン含有物を含む。
本発明の一態様に係るフィコシアニンは、イデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)に属する紅藻のフィコシアニンである。当該フィコシアニンとしては、後述するフィコシアニンの製造方法で説明したものが挙げられ、後述する本発明のフィコシアニンの製造方法によって得られたものが挙げられる。
以下、イデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)に属する紅藻のことを指して、単に「紅藻」ということがある。

【0018】
本発明者らは、後述する実施例において示すように、イデユコゴメ綱に属する紅藻のフィコシアニンは、従来用いられている藍藻由来のフィコシアニンと比べ、優れた耐熱性を有することを見出した。
本発明の一態様に係るフィコシアニンは、本発明の一態様に係るフィコシアニンを含むフィコシアニン含有物に対する、加熱処理後の色素残存率が、加熱処理前と比較して50%以上であってもよく、70%以上であってもよく、80%以上であってもよく、90%以上であってもよい。当該加熱処理の条件としては、後述の≪食品の加熱処理方法≫で例示した条件が挙げられる。色素残存率は、本明細書の実施例に示されるように、フィコシアニン含有物に対する620nmにおける吸光度を指標として、吸光度の減少率により求めることができる。残存率0%とするベースの吸光度は、例えば、上記フィコシアニン含有物の組成からフィコシアニンを除いたものに対する620nmにおける吸光度から求めてもよく、上記フィコシアニン含有物のフィコシアニンを変性させたものに対する620nmにおける吸光度から求めてもよい。

【0019】
本発明の一態様に係るフィコシアニン含有物は、イデユコゴメ綱に属する紅藻のフィコシアニンを含み、pHが7未満である。
発明者らは、イデユコゴメ綱に属する紅藻のフィコシアニンが、酸性条件下でより優れた耐熱性を有することを見出した。係る観点から、フィコシアニン含有物のpHは、pH0以上pH7未満であってもよく、pH1以上pH6以下であってもよく、pH2以上pH5以下であってもよく、pH3以上pH4.5以下であってもよく、pH3以上pH4未満であってもよい。なかでもpH4未満であるフィコシアニン含有物は腐敗し難く、保存のための加熱処理条件が緩和されるため好ましい。

【0020】
フィコシアニン含有物は、フィコシアニンが溶媒に溶解したフィコシアニン溶液のことを指し、フィコシアニン含有物としては、水を溶媒とするフィコシアニン水溶液が挙げられる。フィコシアニン含有物は液状に限られず、例えばゲル化された状態や、凍結状態、担体に含浸された状態であってもよい。フィコシアニン含有物は、フィコシアニンのほかに、任意のものを含有してもよい。

【0021】
フィコシアニン含有物中のフィコシアニン量は、例えば、50mg/L以上であってもよく、50mg/L~10000mg/Lであってもよく、80mg/L~1000mg/Lであってもよく、100mg/L~500mg/Lであってもよい。
フィコシアニン含有物中のフィコシアニン量は、分光光度計等を使用して、後述する実施例に記載の方法により求めることができる。また、SDS-PAGEによりフィコシアニンを分離して、おおよそのフィコシアニン量を見積もることができる。

【0022】
本発明の一態様に係るフィコシアニン含有物は、糖又は糖アルコールを使用せずとも優れた耐熱性を発揮できるという特徴を有する。係る観点から、フィコシアニン含有物は、糖又は糖アルコールの含有率が70(w/v)%未満であってもよく、50(w/v)%未満であってもよく、30(w/v)%未満であってもよく、10(w/v)%未満であってもよい。

【0023】
本発明の一態様に係るフィコシアニン含有物は、試薬類、食品、又は医薬品に含まれていてもよい。
本発明の一実施形態として、イデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)に属する紅藻のフィコシアニンを含み、pHが7未満であるフィコシアニン含有物を含む食品を提供する。
本発明の一実施形態として、イデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)に属する紅藻のフィコシアニンを含み、pHが7未満であるフィコシアニン含有物を含む試薬類を提供する。
本発明の一実施形態として、イデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)に属する紅藻のフィコシアニンを含み、pHが7未満であるフィコシアニン含有物を含む医薬品を提供する。
これらは、イデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)に属する紅藻のフィコシアニンを含み、pHが7未満であるフィコシアニン含有物からなる食品、試薬類、又は医薬品であってもよい。

【0024】
試薬類、食品、又は医薬品に含まれるフィコシアニン含有物は、液状であってもよく、ゲル化された状態や、凍結状態、担体に含浸された状態であってもよい。試薬類、食品、又は医薬品でのフィコシアニン含有物の形態は、特に制限されず、例えば、カプセル内にフィコシアニン含有物が内包された状態であってもよく、フィコシアニン含有物の液滴を含むエマルションの状態であってもよい。

【0025】
本発明の食品は、イデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)に属する紅藻のフィコシアニンを含み、pHが7未満であるフィコシアニン含有物を含む。本発明の一態様に係るフィコシアニンは加熱処理後の色素残存率に優れている。そのため、製造工程に加熱処理を含む食品や食品原料にも好適に使用できる。例えば、後述の実施例において示されるように、本発明の一態様に係るフィコシアニン含有物は60℃で1時間の加熱処理にも耐えうるので、加熱殺菌をして提供することができる。
本発明の食品は、食品のなかでも、特に飲料に好適である。ここで、フィコシアニン含有物のpHは4未満であることが好ましい。例えば、pH4未満である清涼飲料の製造基準では、65℃、10分又はそれと同等以上の加熱殺菌処理が求められることがある。pHが4未満であるフィコシアニン含有物は、例えば、65℃で10分の加熱処理により、色素の発色を良好なものとしつつ、食品衛生上の十分な殺菌を達成することができ、加熱処理後そのまま飲料として提供できる。

【0026】
例えば、フィコシアニン含有物がフィコシアニン水溶液である場合、食品としては、飲料、清涼飲料、ジャム類、かき氷、アイス等の氷菓、ゼリー等の菓子等が挙げられる。飲料としては、サイダー、炭酸水等の炭酸飲料;ビール、リキュール、ラム等のアルコール飲料等のほか、スポーツ飲料、ミネラルウォーター、野菜飲料、果実飲料等が挙げられる。食品には着色料等の食品原料も含まれる。
試薬類としては、細胞標識用試薬等が挙げられる。試薬類には着色料等の試薬原料も含まれる。
医薬品としては、内用剤、外用剤のどちらであってもよく、経口剤、注射剤、ドリンク剤、坐剤、点眼剤、ゼリー剤等を例示できる。医薬品に含まれるフィコシアニンは、有効成分であってもよく、有効成分以外の添加物であってもよい。

【0027】
本発明の一態様に係るフィコシアニン含有物は、後述する本発明のフィコシアニンの製造方法によって製造することができる。つまり、フィコシアニン含有物は、イデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)に属する紅藻を培養物中で培養してフィコシアニンを製造させ、塩濃度が前記培養物以下である回収媒体と前記紅藻とを接触させて、前記回収媒体に前記紅藻が製造したフィコシアニンが抽出された色素回収物を得て、前記紅藻から採取されたフィコシアニンを含んでいてもよい。
フィコシアニン含有物には、紅藻が含まれていてもよく、紅藻が含まれていなくてもよい。紅藻が含まれているフィコシアニン含有物としては、例えば、下記の本発明のフィコシアニンの製造方法における、紅藻から抽出されたフィコシアニンを含有する色素回収物が挙げられる。紅藻が含まれていないフィコシアニン含有物としては、例えば、下記の本発明のフィコシアニンの製造方法における、紅藻から抽出されたフィコシアニンを含有する回収媒体が挙げられる。なお、本明細書におけるフィコシアニン含有物は、フィコシアニンが溶媒に溶解したフィコシアニン溶液であり、単にフィコシアニンを体内蓄積した紅藻のみを含む液は、フィコシアニン含有物として扱わないものとする。

【0028】
また、本発明の一実施形態として、本発明のフィコシアニンの製造方法によって得られたフィコシアニンを提供する。
また、本発明の一実施形態として、本発明のフィコシアニンの製造方法によって得られたフィコシアニンを含む食品を提供する。
本発明の一実施形態として、本発明のフィコシアニンの製造方法によって得られたフィコシアニンを原材料として用いることを含む、食品の製造方法を提供する。
本発明の一実施形態として、本発明のフィコシアニンの製造方法によって得られたフィコシアニンを含む飲料を提供する。
本発明の一実施形態として、本発明のフィコシアニンの製造方法によって得られたフィコシアニンを原材料として用いることを含む、飲料の製造方法を提供する。
本発明の一実施形態として、本発明のフィコシアニンの製造方法によって得られたフィコシアニンを含む試薬を提供する。
本発明の一実施形態として、本発明のフィコシアニンの製造方法によって得られたフィコシアニンを原材料として用いることを含む、試薬の製造方法を提供する。
本発明の一実施形態として、本発明のフィコシアニンの製造方法によって得られたフィコシアニンを含む医薬品を提供する。
本発明の一実施形態として、本発明のフィコシアニンの製造方法によって得られたフィコシアニンを原材料として用いることを含む、医薬品の製造方法を提供する。
食品、飲料試薬、医薬品については、上記に説明したものが挙げられる。

【0029】
本発明に係る紅藻は、イデユコゴメ綱に属し、フィコシアニンを生産可能な紅藻である。紅藻はその名のとおり、典型的には紅色をした藻類の一群である。そのなかでイデユコゴメ綱に属する紅藻は、いわゆる温泉藻とも呼ばれ、温泉のような高温酸性環境でも生育可能な藻である。
イデユコゴメ綱に属する紅藻としては、シアニディオシゾン メローラエ(Cyanidioschyzon merolae)等のシアニディオシゾン属 (Cyanidioschyzon)紅藻、シアニジウム カルダリウム(Cyanidium caldarium)等のシアニジウム属紅藻、ガルディエリア スルフラリア(Galdieria sulphuraria)等のガルディエリア属紅藻が挙げられる。本明細書においてイデユコゴメ綱に属する紅藻とは、上記に挙げたもの以外にも、それらの変異体や組換え体であってもよい。新たに見出されるイデユコゴメ綱又は近縁の分類群に属する紅藻であって高温酸性環境で生育可能な紅藻も、イデユコゴメ綱に属する紅藻として扱われるものとする。
高温酸性環境とは、上記イデユコゴメ綱に属する紅藻が生育可能な高温酸性環境と同等の環境を指し、例えば、温度40℃以上でpH1~6、好ましくはpH1~3程度の環境である。一例としてシアニディオシゾン メローラエの至適生育条件は、温度42℃、pH2.5とされる。

【0030】
フィコシアニンは、藍藻や紅藻等の藻類が持つ光合成色素の一種であり、色素化合物とタンパク質との複合体である。フィコシアニンを構成するタンパク質にはαとβの2種類のサブユニットが存在することが知られており、生体内ではこの2量体がさらに会合して、3又は6量体のディスクを形成している。
本発明に係るフィコシアニンは、上記イデユコゴメ綱に属する紅藻から生産されたもの、すなわちイデユコゴメ綱に属する紅藻のフィコシアニンである。なかでも、シアニディオシゾン属に属する紅藻のフィコシアニンが好ましく、シアニディオシゾン メローラエのフィコシアニンがより好ましい。
シアニディオシゾン メローラエはゲノム情報の解読が完了している。その情報に基づくと、シアニディオシゾン メローラエのフィコシアニンのαサブユニットは、配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質であり、βサブユニットは、配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質とされる。

【0031】
一般的に、もとのアミノ酸配列と類似するアミノ酸配列を有するタンパク質は、もとのアミノ酸配列を有するタンパク質と同等の性質を有する。
一例として、本実施形態のフィコシアニンの製造方法において製造されるフィコシアニンのタンパク質は、シアニディオシゾン メローラエのフィコシアニンのタンパク質が一部改変されたものであってもよく、例えば、以下の(a)又は(b)のタンパク質であってもよい。
(a)配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、又は付加されたアミノ酸配列を有し、フィコシアニン色素を構成可能なタンパク質
(b)配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列との配列同一性が80%以上であるアミノ酸配列を有し、フィコシアニン色素を構成可能なタンパク質

【0032】
(a)のアミノ酸配列において、「1~数個」の塩基とは、例えば、1~30個、1~20個、1~10個、1~5個、又は1~3個であってもよい。
(a)のポリペプチドにおいて、「塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列」とは、配列番号1又は2に示されるアミノ酸配列に対して、アミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列であってもよく、欠失、置換、挿入及び付加からなる群から選ばれる少なくとも一種の改変又は変異により、改変前の配列番号1又は2に示されるアミノ酸配列に対して、1~数個のアミノ酸の相違が生じたものであってもよい。

【0033】
(b)のポリペプチドにおいて、配列番号1又は2に示されるアミノ酸配列との配列同一性は、80%以上100%未満であり、例えば、85%以上、90%以上、95%以上、又は98%以上であってもよい。
アミノ酸配列同士の配列同一性は、公知のシーケンスアライメントのアルゴリズムであるBLAST (Basic Local Alignment Search Tool)やblastpを用いて算出可能である。

【0034】
≪食品の加熱処理方法≫
本発明の食品の加熱処理方法は、本発明の食品を加熱処理することを含む。
本発明の食品としては、上記の≪食品≫の段で例示したものが挙げられる。
本発明の一態様に係るフィコシアニン含有物の加熱処理方法は、本発明の一態様に係るフィコシアニン含有物を加熱処理することを含む。

【0035】
前記加熱処理の温度は、60℃以上85℃以下が好ましく、60℃以上70℃以下がより好ましく、60℃以上65℃以下が更に好ましい。

【0036】
前記加熱処理の時間は、適宜定めればよいが、5分以上90分以下であってもよく、10分以上60分以下であってもよく、20分以上45分以下であってもよい。

【0037】
フィコシアニン含有物のpHは、pH0以上pH7未満であってもよく、pH1以上pH6以下であってもよく、pH2以上pH5以下であってもよく、pH3以上pH4.5以下であってもよく、pH3以上pH4未満であってもよい。

【0038】
本発明の一態様に係るフィコシアニン含有物の加熱処理方法は、食品のフィコシアニン含有物に対する加熱処理方法として好適である。

【0039】
本発明の食品の加熱処理方法は、本発明の食品を加熱処理することを含む。すなわち、本発明の食品の加熱処理方法は、イデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)に属する紅藻のフィコシアニンを含み、pHが7未満であるフィコシアニン含有物を含む食品を加熱処理することを含む。なかでも、イデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)に属する紅藻のフィコシアニンを含み、pHが4未満であるフィコシアニン含有物を含む食品を加熱処理することが好ましい。
本発明の一態様に係るフィコシアニン含有物の加熱処理方法は、フィコシアニン含有物の加熱殺菌方法として用いることができる。なかでも食品のフィコシアニン含有物に対する加熱殺菌方法として好適であり、pH4未満の食品のフィコシアニン含有物の加熱殺菌方法として好適である。

【0040】
本発明の一実施形態として、本発明のフィコシアニンの製造方法によって得られたフィコシアニンを加熱処理することを含む、フィコシアニン含有物の加熱処理方法を提供する。前記加熱処理の温度、時間としては、上記の加熱処理方法で挙げたものを例示できる。

【0041】
本発明の一態様に係るフィコシアニン含有物の加熱処理方法によれば、フィコシアニンの発色を良好なものとしつつフィコシアニン含有物の加熱処理が可能である。

【0042】
本発明の食品の加熱処理方法によれば、フィコシアニンの発色を良好なものとしつつ食品の加熱処理が可能である。

【0043】
≪フィコシアニンの製造方法≫
本発明のフィコシアニンの製造方法は、イデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)に属する紅藻を培養物中で培養してフィコシアニンを製造させ、塩濃度が前記培養物以下である回収媒体と前記紅藻とを接触させて、前記回収媒体に前記紅藻が製造したフィコシアニンが抽出された色素回収物を得て、前記紅藻からフィコシアニンを採取することを含む。
以下、図を参照しながら、本発明の一実施形態のフィコシアニンの製造方法について説明する。上記フィコシアニン、上記フィコシアニン含有物、上記食品と共通する部分について、説明を省略する。

【0044】
図1は、本実施形態に係るフィコシアニンの製造方法を説明する模式図である。まず、イデユコゴメ綱に属する紅藻30を培養液40(培養物)中で培養する。培養液40中で紅藻30を培養することで、紅藻30を増殖可能であり、紅藻30によりフィコシアニンが生合成されるのでフィコシアニンを製造可能である。次いで、培養液40中で培養された紅藻30を、回収液50(回収媒体)中に導入し、紅藻30と回収液50とを接触させ、紅藻30及び回収液50を含む色素回収液60(色素回収物)を得る。色素回収液60では、紅藻30と回収液50とが接触すると、紅藻30から回収液50中にフィコシアニンが抽出され、回収液50は、フィコシアニンを含む回収液51となる。色素回収液61(色素回収物)は、フィコシアニンが抽出された紅藻31と、回収液50に紅藻31から抽出されたフィコシアニンが溶けた回収液51とを含む。その後、色素回収槽20から回収液51又は色素回収液61を採取することで、紅藻30からフィコシアニンを回収する。

【0045】
このように、イデユコゴメ綱に属する紅藻及び回収媒体を含む色素回収物を得て、前記紅藻から前記回収媒体中に抽出されたフィコシアニンを採取することで、耐熱性に優れたフィコシアニンを効率的に得ることができる。これは、イデユコゴメ綱に属する紅藻を回収媒体に浸すと、容易に回収媒体中にフィコシアニンが抽出されることを利用したものである。
フィコシアニンを紅藻から抽出させる際に、紅藻の細胞は破壊されていてもよく、破壊されていなくてもよい。
回収媒体に浸すイデユコゴメ綱に属する紅藻としては、シアニディオシゾン属(Cyanidioschyzon)に属する紅藻が好ましく、シアニディオシゾン メローラエがより好ましい。シアニディオシゾン メローラエ(Cyanidioschyzon merolae)を用いることで、より容易にフィコシアニンを得ることができる。これは、シアニディオシゾン メローラエは強固な細胞壁を持たないため、回収媒体に浸すことで、非常に容易に藻の体内からフィコシアニンを回収媒体中に回収することができるためと考えられる。

【0046】
紅藻から回収媒体中にフィコシアニンを抽出させる方法に限定はない。紅藻を回収媒体に浸すだけで、紅藻から回収媒体中にフィコシアニンが抽出される場合であれば、紅藻を回収媒体に浸すだけでよい。
また、フィコシアニンの回収効率を高めるために、紅藻を回収媒体に浸すことに加え、さらに別の処理を行ってもよい。例えば、紅藻及び回収媒体を含む色素回収物を嫌気条件下に保持してもよい。
明細書中において嫌気条件下に保持するとは、例えば、色素回収物を保持する容器内を嫌気状態にすることを指す。嫌気状態とは、例えば、培養系内の気相の酸素濃度が0~1体積%であってもよく、0~0.5体積%であってもよく、0~0.2体積%であってもよく、0体積%であってもよい。
色素回収物を保持する容器内を嫌気状態にする方法としては、例えば、密閉され、光照射が遮られた培養容器内で紅藻を培養することで、紅藻の呼吸により培養容器内の酸素を消費させる方法が挙げられる。したがって、本実施形態のフィコシアニンの製造方法においては、紅藻及び回収媒体を含む色素回収物を暗条件下に保持してもよく、紅藻及び回収媒体を含む色素回収物を暗嫌気条件下に保持してもよい。
別例として、例えば、培養容器内に窒素ガスを流入させ、培養容器内の酸素を窒素で置換する方法が挙げられる。
嫌気条件下に色素回収物を保持することで、フィコシアニンの回収効率を高めることができる。

【0047】
回収媒体としては、紅藻からフィコシアニンを回収できるものであればよい。
紅藻を培養する培養物としては、その中で紅藻が生育可能なものが挙げられ、例えば、M-Allen培地、MA-2培地等の培地が挙げられる。

【0048】
培養物及び回収媒体は、液体であっても固体であってもよいが、フィコシアニンを生産させる際には、紅藻又はフィコシアニンの回収が容易であることから、液体であることが好ましい。

【0049】
紅藻を培養物から回収媒体へと移す方法は、特に制限されない。例えば、紅藻を培養物中で培養した後に、該紅藻及び培養物と、回収媒体とを混合する方法が挙げられる。又は、紅藻を培養物で培養した後に、培養した該培養物から液分と紅藻とを遠心分離等で分離して、分離した紅藻と回収媒体と混合する方法が挙げられる。或いは、紅藻を培養物中で培養した後に、該紅藻及び培養物と、培養物とは異なる組成の液とを混合し、混合後の液を色素回収物とする方法、等が挙げられる。また、紅藻を培養物で培養した後に、培養した該培養物から液分と紅藻とを遠心分離等で分離する方法も可能である。分離された紅藻は乾燥粉末化や破砕処理など、回収媒体と接触させること以外の細胞加工処理を受けてもよく、細胞加工処理を受けなくてもよい。耐熱性に優れるフィコシアニンを高効率に製造可能という利点からは、分離された紅藻は、回収媒体と接触させる前に、細胞加工処理を受けていないことが好ましい。

【0050】
ここで、回収媒体の塩濃度は培養物の塩濃度よりも低い。
紅藻を培養する培地には、通常塩が含まれており、培養物の塩濃度は10~80mMであることが好ましく、20~40mMであることがより好ましく、20~30mMであることがさらに好ましい。例えば、上記のM-Allen培地の塩濃度は、25mMである。
回収媒体の塩濃度は、0~20mMであることが好ましく、0~10mMであることがより好ましく、5 mM以下であることがさらに好ましい。培養物の塩濃度よりも塩濃度の低い回収媒体としては、バッファーが挙げられ、塩濃度5mM以下のバッファーが挙げられる。例えばHepesバッファーの塩濃度は、1mM以下である。バッファーのpHは、特に制限されるものではないが、一例としてpH6~8程度のものが挙げられる。
ここで、塩濃度とは、塩化ナトリウムのみの塩濃度を指すのではなく、全ての塩の塩濃度を指すものとする。

【0051】
回収媒体の塩濃度を培養物の塩濃度よりも低いものとすることで、フィコシアニンの回収効率を高めることができる。これは、塩濃度の低い液と紅藻を接触させることで、浸透圧の条件等により、紅藻の細胞からフィコシアニンが抽出されやすくなるためと考えられる。

【0052】
培養物の塩濃度よりも塩濃度の低い回収媒体としては、水が挙げられる。水は、実質的に塩を含まない水であってもよい。回収媒体として水を用いることで、フィコシアニンの回収効率を向上可能なことに加え、回収媒体中のフィコシアニンの純度を高めることができる。

【0053】
紅藻及び回収媒体を含む色素回収物は、静置したままの状態で保持してもよく、色素回収物に振盪、撹拌等の処理を加えてもよい。その他、フィコシアニンの回収効率を高めるために、当該分野で適用可能な藻の細胞破砕方法を適宜用いることができる。

【0054】
紅藻及び回収媒体を含む色素回収物の温度は、フィコシアニンを回収可能な温度とすればよく、-80~75℃とすることができ、好ましくは0~65℃とすることができ、より好ましくは15~40℃とすることができ、さらに好ましくは20~25℃とすることができる。

【0055】
フィコシアニンの回収について、図1を参照すると、例えば、色素回収液61からフィコシアニンを回収する際に、遠心分離や濾過等の分離処理を施し、紅藻30と回収液51が分離された回収液51を採取してもよく、紅藻30が分離されていない色素回収液61を採取してもよい。分離処理された回収液51中では、紅藻30が完全に除かれてなくともよい。

【0056】
フィコシアニンの採取と製造は同時に行われてもよく、別々に行われてもよい。
本実施形態のフィコシアニンの製造方法は、採取したフィコシアニンを精製することを含んでいてもよい。精製は、採取と同時におこなってもよく、採取した後におこなってもよい。精製の方法としては、例えば、結晶化精製によるもの、HPLCによるクロマトグラフィーやイオン交換樹脂等のカラム精製によるもの等が挙げられる。

【0057】
本発明のフィコシアニン製造方法に使用される紅藻、該紅藻により製造されるフィコシアニンとしては、上記の≪食品≫の段で例示したものが挙げられる。

【0058】
本実施形態のフィコシアニンの製造方法で得られたフィコシアニンは、優れた耐熱性を有する。
これは第一に、イデユコゴメ綱に属する紅藻のフィコシアニン自体が、優れた耐熱性を有しているからと考えられる。イデユコゴメ綱に属する紅藻に由来するタンパク質は、該紅藻の生育環境である高温酸性環境に、適応していることが考えられる。
また第二に、イデユコゴメ綱に属する紅藻を回収媒体に浸し、紅藻から前記回収媒体中に抽出されたフィコシアニンを採取するという方法が、得られたフィコシアニンの耐熱性を高めているもことも考えられる。本方法では、タンパク質を変性させる工程を経ずともフィコシアニンを回収可能であり、熱安定性に寄与する分子シャペロン等の結合状態や働きを阻害せずに、フィコシアニンを採取可能となっていることも考えられる。

【0059】
本実施形態のフィコシアニンの製造方法によれば、耐熱性に優れたフィコシアニンを高効率に製造可能である。

【0060】
≪フィコシアニン製造装置≫
本発明の一態様に係るフィコシアニン製造装置は、イデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)に属する紅藻を培養する培養槽と、前記紅藻及び回収媒体を含み前記紅藻から前記回収媒体中にフィコシアニンが抽出された色素回収物を保持する色素回収槽と、を備える。

【0061】
本実施形態の製造装置によれば、上記に挙げた実施形態のフィコシアニンの製造方法の一例を実施できる。例えば、一実施形態のフィコシアニン製造装置は、イデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)に属する紅藻を培養物中で培養してフィコシアニンを製造させ、塩濃度が前記培養物以下である回収媒体と前記紅藻を接触させて、前記回収媒体に前記紅藻が製造したフィコシアニンが抽出された色素回収物を得て、前記紅藻からフィコシアニンを採取するフィコシアニンの製造方法に用いられるものであり、前記紅藻を培養する培養槽と、前記紅藻及び回収媒体を含み前記紅藻から前記回収媒体中にフィコシアニンが抽出された色素回収物を保持する色素回収槽と、を備えるものである。なお、本発明のフィコシアニンの製造方法は、本発明の一態様に係るフィコシアニンの製造装置を用いた方法に限定されない。
以下、図を参照しながら、実施形態のフィコシアニン製造装置について説明する。フィコシアニンの製造方法と共通する部分について、説明を省略する。

【0062】
図2は、本実施形態に係るフィコシアニン製造装置1の構成の概略を示す模式図である。図2に示すように、フィコシアニン製造装置1は、培養槽10と、色素回収槽20と、培養槽10から色素回収槽20へと紅藻30を送る配管11(移送手段)と、を備える。
培養槽10では、紅藻30が培養液40中で培養されている。培養槽10では、紅藻30が増殖する。培養された紅藻30と培養液40は、配管11を介して色素回収槽20へと送られる。色素回収槽20には、培養液40とは異なる組成の液が導入され、該液と培養液40とが混ざり回収液50(回収媒体)となる。このようにして、色素回収槽20には、紅藻30と回収液50とを含む色素回収液60(色素回収物)が保持される。
色素回収液60では、紅藻30と回収液50とが接触すると、紅藻30から回収液50中にフィコシアニンが抽出される。色素回収液61(色素回収物)は、フィコシアニンが抽出された紅藻31と、回収液50に紅藻31から抽出されたフィコシアニンが溶けた回収液51とを含んでいる。その後、色素回収槽20から回収液51又は色素回収液61を採取することで、紅藻30からフィコシアニンを回収する。

【0063】
上記紅藻30、培養液40、回収液50としては、上記のフィコシアニンの製造方法において説明したものが挙げられる。
色素回収槽20は、嫌気条件下で色素回収液60,61を保持可能なものであってもよく、例えば、槽外との空気の連通が遮断可能なようにされていてもよい。また、色素回収槽20は、暗条件下で色素回収液60,61を保持可能なものであってもよく、例えば、色素回収液60への光照射が遮断可能なようにされていてもよい。

【0064】
なお、上記説明では、紅藻30は培養液40とともに色素回収槽20へと導入され、回収液50が培養液40を含む場合を説明したが、培養液40と紅藻30とが予め分離され、分離された紅藻30が色素回収槽20へと送られるようにしてもよい。係るフィコシアニンの製造方法を実施するに好適なものとして、フィコシアニン製造装置1は、更に分離手段を備えていてもよい。分離手段は、培養槽10で培養された紅藻30と培養液40とを分離する。分離手段としては、遠心分離装置等が挙げられる。

【0065】
本実施形態のフィコシアニン製造装置によれば、フィコシアニンを高効率に製造可能である。また、本実施形態のフィコシアニン製造装置によれば、上記フィコシアニンの製造方法を実施可能であり、耐熱性に優れたフィコシアニンを容易に得ることができる。

【0066】
≪有機酸の製造方法≫
本発明の有機酸の製造方法は、イデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)に属する紅藻を培養液中で培養して有機酸を製造させ、前記紅藻内及び/又は前記培養物中から前記有機酸を採取することを含む。

【0067】
本明細書中において、「有機酸」とは、実施形態に係る紅藻が生合成した有機化合物の酸のことをいう。有機酸は、実施形態に係る紅藻が嫌気呼吸によって生合成した有機酸であってもよく、実施形態に係る紅藻が解糖系及び/又はTCA回路の生化学反応によって生合成した有機酸であってもよい。有機酸としては、例えば、乳酸、ピルビン酸、クエン酸、α-ケトグルタル酸(2-オキソグルタル酸)、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸等が挙げられる。前記有機酸は、コハク酸及び/又は乳酸であることが好ましい。

【0068】
<培養>
本発明の一実施形態において、有機酸の製造方法は、上記紅藻を培養物で培養して有機酸を製造させ、紅藻内及び/又は培養後の培養物中から前記有機酸を採取することを含む。

【0069】
本明細書中において、培養物とは、紅藻を培養するために用いられるものであり、その中又はその上で紅藻が生育可能な物質である。培養物としては、例えば、培地、バッファー、水、水溶液などである。培養物は液体であっても、固体であってもよいが、有機酸を生産させる際には、紅藻又は有機酸の回収が容易であることから、液体であることが好ましい。

【0070】
効率的な有機酸製造の観点から、紅藻に有機酸を生産させるための培養は、嫌気培養であることが好ましい。これは、紅藻が嫌気条件下にさらされると、紅藻内で解糖系の反応が優先的に進むため、効率的に紅藻に有機酸を製造させることが可能と考えられるためである。本明細書中において嫌気培養とは、紅藻において嫌気発酵が可能な培養系においての培養のことをいう。培養系内は、例えば、紅藻を培養する容器内のことを指す。紅藻の嫌気発酵が可能な条件下は公知であり、例えば、培養系内の気相の酸素濃度が0~1体積%であってもよく、0~0.5体積%であってもよく、0~0.2体積%であってもよく、0体積%であってもよい。
紅藻を培養する培養系内を、紅藻が嫌気発酵可能な条件下とする方法としては、例えば、密閉され、光照射が遮られた培養容器内で紅藻を培養することで、紅藻の呼吸により培養容器内の酸素を消費させる方法が挙げられる。したがって、本実施形態の有機酸の製造方法においては、嫌気培養は暗条件下で行うことが好ましい。
別例として、例えば、培養容器内に窒素ガスを流入させ、培養容器内の酸素を窒素で置換する方法が挙げられる。

【0071】
前記紅藻を培養物中で培養することは、前記紅藻を好気培養した後に嫌気培養することを含むことが好ましい。まず、紅藻を好気培養することで、紅藻の生育や増殖を促したり、紅藻内に有機酸原料を蓄積させる利点がある。好気培養は明条件下で行うことが好ましく、且つ培養系内に二酸化炭素が存在することが好ましい。光が照射された培養容器内で紅藻を培養することで、紅藻の光合成により、有機酸の原料となる炭素源が合成される。紅藻が光合成可能な条件下は公知であり、例えば、紅藻に対し、20~200μmol photons m-2-1程度の光が照射される条件が挙げられる。

【0072】
前記嫌気培養において、窒素欠乏条件下で嫌気培養を行うことが好ましい。嫌気培養において、窒素欠乏状態で紅藻を培養することにより、紅藻の有機酸の生産能を向上させることができる。このメカニズムは明らかではないが、培養物中の窒素が少なくなると、紅藻体内でグリコーゲン、デンプン等の炭素源の蓄積が進むためと考えられる。

【0073】
紅藻を培養する培養物は、紅藻の培養が可能なものであればよく、紅藻の培地として用いることのできる培地を使用してもよい。培地としては、M-Allen培地、MA-2培地等の培地が挙げられる。これらの培地は、紅藻が利用可能な栄養源が豊富に含まれている。
上記に例示したような培地は、好気培養、嫌気培養のいずれにも使用可能であるが、嫌気培養では、主に紅藻内に蓄積された炭素源を用いて有機酸の生産が行われるため、栄養源を含む培地を使用せずともよい。嫌気発酵では、例えば、培地の代わりとして、紅藻を生存させることが可能なバッファーを、培養物として使用できる。

【0074】
紅藻を培養する温度は、使用する紅藻の種やその他の条件を加味して適宜定めればよいが、例えば、15~50℃程度でおこなってもよく、25℃~50℃でおこなってもよく、30℃~45℃程度とすることが好ましい。
紅藻を培養する期間は、培養物中の紅藻の濃度や有機酸の生産量に応じて適宜定めればよい。上記好気培養の期間は、1時間~20日程度としてもよく、1日~10日程度としてもよく、1~3日程度としてもよい。好気培養は、振とう培養や通気培養により行ってもよい。上記嫌気培養の期間は、1時間~20日程度としてもよく、1日~10日程度としてもよく、1~3日程度としてもよい。

【0075】
紅藻が紅藻体内に有機酸を蓄積している場合、紅藻内から前記有機酸を採取すればよく、例えば、培養後の培養物から紅藻を回収し、紅藻の細胞を破砕して、その破砕物から、有機酸を採取すればよい。
紅藻が紅藻外に有機酸を放出している場合、培養後の培養物中から前記有機酸を採取すればよい。例えば、上記実施形態の紅藻を培養物で培養して有機酸を製造させ、培養後の培養物中からコハク酸及び/又は乳酸を採取してもよい。当該培養後の培養物は、遠心分離や濾過等の分離処理が施され紅藻が分離されたものであってもよく、紅藻が分離されていない状態であってもよい。分離処理された培養物中では、紅藻が完全に除かれてなくともよい。

【0076】
有機酸の採取と製造は同時に行われてもよく、別々に行われてもよい。有機酸の採取と製造が同時に行われる場合としては、例えば、有機酸を生産している紅藻の培養液の上清を回収して、有機酸を採取する場合が挙げられる。

【0077】
本実施形態の有機酸の製造方法は、採取した有機酸を精製することを含んでいてもよい。精製は、採取と同時におこなってもよく、採取した後におこなってもよい。精製の方法としては、例えば、結晶化精製によるもの、HPLCによるクロマトグラフィーやイオン交換樹脂等のカラム精製によるもの等が挙げられる。

【0078】
本実施形態に係る紅藻は、光合成により二酸化炭素と光エネルギーを直接資源化でき、かつ有機酸の生産能に優れている。本実施形態の有機酸の製造方法によれば、紅藻により高効率に有機酸を製造することができる。そのため、従来法と比べ経済的にも環境的にも大変優れた方法である。

【0079】
≪水素の製造方法≫
本発明の水素の製造方法は、イデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)に属する紅藻を培養物中で培養して水素を製造させ、前記水素を採取することを含む。

【0080】
<培養>
本明細書中において、培養物とは、紅藻を培養するために用いられるものであり、その中又はその上で紅藻が生育可能な物質である。培養物としては、例えば、培地、バッファー、水、水溶液などである。培養物は液体であっても、固体であってもよいが、水素を生産させる際には、紅藻又は水素の回収が容易であることから、液体であることが好ましい。

【0081】
効率的な水素酸製造の観点から、紅藻に有機酸を生産させるための培養は、嫌気培養であることが好ましい。本明細書中において嫌気培養とは、紅藻において嫌気発酵が可能な培養系においての培養のことをいう。培養系内は、例えば、紅藻を培養する容器内のことを指す。紅藻の嫌気発酵が可能な条件下は公知であり、例えば、培養系内の気相の酸素濃度が0~1体積%であってもよく、0~0.5体積%であってもよく、0~0.2体積%であってもよく、0体積%であってもよい。
紅藻を培養する培養系内を、紅藻が嫌気発酵可能な条件下とする方法としては、例えば、密閉され、光照射が遮られた培養容器内で紅藻を培養することで、紅藻の呼吸により培養容器内の酸素を消費させる方法が挙げられる。したがって、本実施形態の有機酸の製造方法においては、嫌気培養は暗条件下で行うことが好ましい。
別例として、例えば、培養容器内に窒素ガスを流入させ、培養容器内の酸素を窒素で置換する方法が挙げられる。

【0082】
前記紅藻を培養物中で培養することは、前記紅藻を好気培養した後に嫌気培養することを含むことが好ましい。まず、紅藻を好気培養することで、紅藻の生育や増殖を促したり、紅藻内に水素原料を蓄積させる利点がある。好気培養は明条件下で行うことが好ましく、且つ培養系内に二酸化炭素が存在することが好ましい。紅藻が光合成可能な条件下は公知であり、例えば、紅藻に対し、20~200μmol photons m-2-1程度の光が照射される条件が挙げられる。

【0083】
紅藻を培養する培養物は、紅藻の培養が可能なものであればよく、紅藻の培地として用いることのできる培地を使用してもよい。培地としては、M-Allen培地、MA-2培地等の培地が挙げられる。これらの培地は、紅藻が利用可能な栄養源が豊富に含まれている。
上記に例示したような培地は、好気培養、嫌気培養のいずれにも使用可能であるが、嫌気培養では、主に紅藻内に蓄積された炭素源を用いて有機酸の生産が行われるため、栄養源を含む培地を使用せずともよい。嫌気発酵では、例えば、培地の代わりとして、紅藻を生存させることが可能なバッファーを、培養物として使用できる。

【0084】
紅藻を培養する温度は、使用する紅藻の種やその他の条件を加味して適宜定めればよいが、例えば、15~50℃程度でおこなってもよく、25℃~50℃でおこなってもよく、30℃~45℃程度とすることが好ましい。
紅藻を培養する期間は、培養物中の紅藻の濃度や有機酸の生産量に応じて適宜定めればよい。上記好気培養の期間は、1時間~20日程度としてもよく、1日~10日程度としてもよく、1~3日程度としてもよい。好気培養は、振とう培養や通気培養により行ってもよい。上記嫌気培養の期間は、1時間~20日程度としてもよく、1日~10日程度としてもよく、1~3日程度としてもよい。

【0085】
紅藻が紅藻外に水素を放出するので、培養後の培養容器内の気相中から水素を採取すればよい。
水素の採取と製造は同時に行われてもよく、別々に行われてもよい。水素の採取と製造が同時に行われる場合としては、例えば、水素を生産している紅藻の培養容器内の気相を回収して、水素を採取する場合が挙げられる。

【0086】
本実施形態に係る紅藻は、光合成により二酸化炭素と光エネルギーを直接資源化できる。本実施形態の水素の製造方法によれば、紅藻により高効率に水素を製造することができる。そのため、従来法と比べ経済的にも環境的にも大変優れた方法である。
【実施例】
【0087】
以下、本発明を、実施例を挙げて、より具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、以下の実施例及び比較例ではシゾンから得られるフィコシアニンをシゾンフィコシアニン、スピルリナから得られるフィコシアニンをスピルリナフィコシアニンという。
【実施例】
【0088】
1.シゾンフィコシアニンの製造(1)
<実施例1>
シゾン(NIESコレクション株番号:NIES-3377)を、OD730=20になるよう10 mL M-Allen培地(pH2.5)に懸濁し、40℃、空気(1%CO)、白色光40~60 μmol photons m-2-1の明条件で4~10日間好気培養した。
その後、上記好気培養後の培地を遠心してシゾンを回収し、10mLの純水(回収媒体)にOD730=20となるよう、細胞を再懸濁した。この再懸濁物(色素回収物)をガスクロバイアル瓶に入れ、ブチルゴムで密栓して栓にシリンジを2本連結した。片方のシリンジから、10分間Nガスをガスクロバイアル瓶に1時間吹き込み、瓶内の空気をNガスに置換した。Nガスを止めてシリンジを栓から抜き、瓶をアルミ箔で覆い、密閉状態で3日間、40℃、暗条件で振盪培養した。振盪培養後の上清(回収媒体)は青色を呈しており、上清にシゾンフィコシアニンが抽出されていることが確認できた。
振盪培養後の上清の吸収スペクトルを測定し、620nmの波長における吸光度から、上清中のシゾンフィコシアニン量(mg/L)を算出した。培養は2反復で行い、それぞれを実施例1-1、実施例1-2とした。結果を表2及び図3に示す。また、M-Allen培地の組成を以下の表1に示す。
【実施例】
【0089】
【表1】
JP0006681065B2_000002t.gif
【実施例】
【0090】
<実施例2>
上記実施例1において、瓶内の空気をNガスに置換しなかった以外は、実施例1と同様にして培養を行い、上清中のシゾンフィコシアニン量(mg/L)を算出した。培養は2反復で行い、それぞれを実施例2-1、実施例2-2とした。結果を表2及び図3に示す。
【実施例】
【0091】
<実施例3>
上記実施例1において、暗条件での振盪培養に代えて、明条件での振盪培養を行った以外は、実施例1と同様にして培養を行い、上清中のシゾンフィコシアニン量(mg/L)を算出した。培養は2反復で行い、それぞれを実施例3-1、実施例3-2とした。結果を表2及び図3に示す。
【実施例】
【0092】
<実施例4>
上記実施例1において、瓶内の空気をNガスに置換せず、暗条件での振盪培養に代えて、明条件での振盪培養を行った以外は、実施例1と同様にして培養を行い、上清中のシゾンフィコシアニン量(mg/L)を算出した。培養は2反復で行い、それぞれを実施例4-1、実施例4-2とした。結果を表2及び図3に示す。
【実施例】
【0093】
フィコシアニン量の算出方法は、市販のラン藻類スピルリナから抽出したフィコシアニン(フナコシ株式会社)を標準物質とし、マルチパーパス分光光度計(株式会社島津製作所)を用いて620nmの吸光度を測定して作成した検量線により算出した。
【実施例】
【0094】
【表2】
JP0006681065B2_000003t.gif
【実施例】
【0095】
結果を表2及び図3に示す。実施例1~4の振盪培養後の上清には、多量のシゾンフィコシアニンが含まれており、純水中でシゾンを振盪培養するという簡易な操作で、シゾンからシゾンフィコシアニンを得られることが示された。
実施例1~2と実施例3~4を比較すると、暗嫌気条件下にてシゾンを振盪培養させた実施例1~2では、明嫌気条件下にてシゾンを振盪培養させた実施例3~4に比べて、より多くのシゾンフィコシアニンが、振盪培養後の上清に含まれていた。
【実施例】
【0096】
2.シゾンフィコシアニンの製造(2)
<実施例5>
上記実施例1において、純水(回収媒体)に細胞を再懸濁した後、1.5mLチューブへと再懸濁液(色素回収物)を移し、密閉状態で3日間室温静置した。
放置後の上清(回収媒体)は青色を呈しており(表3)、上清にシゾンフィコシアニンが抽出されていることが確認できた。
その後さらに、同条件にて密閉状態で1か月間室温静置した。図4(右)に、純水への再懸濁から、1か月経過後のサンプルを示す。1か月経過後であっても、上清は濃い青色を保っていた。これは、シゾンフィコシアニンが優れた保存安定性を有することを示している。
実施例5の静置後の上清には、多量のシゾンフィコシアニンが含まれており、純水中にシゾンを投入し、静置するという非常に簡易な操作で、シゾンからシゾンフィコシアニンを得られることが示された。
【実施例】
【0097】
<比較例1>
上記実施例1において、純水(回収媒体)に代えてM-Allen培地に細胞を再懸濁した後、1.5mLチューブへと再懸濁液を移し、密閉状態で3日間室温静置した。放置後の上清は青色を呈していなかった(表3)。その後さらに、同条件にて密閉状態で1か月間室温静置した。
図4(左)に、M-Allen培地への再懸濁から、1か月経過後のサンプルを示す。1か月経過後であっても、上清は青色を呈していなかった。
【実施例】
【0098】
【表3】
JP0006681065B2_000004t.gif
【実施例】
【0099】
3.シゾンフィコシアニンの耐熱性の評価(1)
<実施例6>
実施例1で得られたシゾンフィコシアニンを含む回収媒体を30℃で1時間加熱処理した。
【実施例】
【0100】
<実施例7>
実施例6において加熱処理条件を30℃で1時間から60℃で1時間に変更した以外は、実施例6と同様にして加熱処理を行った。
【実施例】
【0101】
<実施例8>
実施例5において、回収媒体を純水から20mM Hepes-KOH(pH7.8)へと代えた以外は、実施例1と同様にしてシゾンフィコシアニンを含む回収媒体を得て、30℃で1時間加熱処理した。
【実施例】
【0102】
<実施例9>
実施例8において加熱処理条件を30℃で1時間から60℃で1時間に変更した以外は、実施例8と同様にして加熱処理を行った。
【実施例】
【0103】
<比較例2>
スピルリナフィコシアニン(製品:C-Phycocyanin、ジャパンアルジ社製)終濃度0.3mg/mLを、20mM Hepes-KOH(pH7.8)に懸濁し、30℃で1時間加熱処理した。
【実施例】
【0104】
<比較例3>
比較例2において加熱処理条件を30℃で1時間から60℃で1時間に変更した以外は、比較例2と同様にして加熱処理を行った。
【実施例】
【0105】
実施例6~9、及び比較例2~3の加熱処理後の液に対し、吸収スペクトルを測定した。
【実施例】
【0106】
結果を図5に示す。フィコシアニンの吸収極大は620nm付近である。実施例6~9と比較例2~3とを比べると、比較例2~3のスピルリナフィコシアニン(スピルリナPC)では、30℃の加熱処理と比べ60℃の加熱処理によって吸光度が半減しているのに対し、実施例6~9のシゾンフィコシアニン(シゾンPC)では、60℃の加熱処理を経ても吸光度の低下は僅かだった。これらの結果から、シゾンフィコシアニンの耐熱性が、スピルリナフィコシアニンの耐熱性よりも優れていることが明らかとなった。
【実施例】
【0107】
なお、回収媒体に純水を使用した実施例6~7では、回収媒体にHepes-KOH(pH7.8)を用いた実施例8~9と比較して、620nm付近以外の吸収極大が見られなかった。例えば、実施例8~9では、400nm付近や680nm付近にも極大が認められた。これらの結果から、回収媒体に純水を使用することで、回収されるシゾンフィコシアニンの純度が高められることが明らかとなった。
【実施例】
【0108】
4.シゾンフィコシアニンの耐熱性の評価(2)
<実施例10>
実施例1で得られたシゾンフィコシアニンを含む回収媒体0.1mLを、20mM Hepes-KOH(pH7.8)に懸濁し、30℃で1時間加熱処理した。
<実施例11>
実施例1で得られたシゾンフィコシアニンを含む回収媒体0.1mLを、20mM 酢酸バッファー(pH4)に懸濁し、30℃で1時間加熱処理した。
<実施例12>
実施例1で得られたシゾンフィコシアニンを含む回収媒体0.1mLを、20mM 酢酸バッファー(pH3.5)に懸濁し、30℃で1時間加熱処理した。
<実施例13>
実施例1で得られたシゾンフィコシアニンを含む回収媒体0.1mLを、20mM Hepes-KOH(pH7.8)に懸濁し、65℃で1時間加熱処理した。
<実施例14>
実施例1で得られたシゾンフィコシアニンを含む回収媒体0.1mLを、20mM 酢酸バッファー(pH4)に懸濁し、65℃で1時間加熱処理した。
<実施例15>
実施例1で得られたシゾンフィコシアニンを含む回収媒体0.1mLを、20mM 酢酸バッファー(pH3.5)に懸濁し、65℃で1時間加熱処理した。
【実施例】
【0109】
<比較例4>
スピルリナフィコシアニン(製品C-Phycocyanin、ジャパンアルジ社製)終濃度0.1mg/mLを、20mM Hepes-KOH(pH7.8)に懸濁し、30℃で1時間加熱処理した。
<比較例5>
スピルリナフィコシアニン(製品C-Phycocyanin、ジャパンアルジ社製)終濃度0.1mg/mLを、20mM 酢酸バッファー(pH4)に懸濁し、30℃で1時間加熱処理した。
<比較例6>
スピルリナフィコシアニン(製品C-Phycocyanin、ジャパンアルジ社製)終濃度0.1mg/mLを、20mM 酢酸バッファー(pH3.5)に懸濁し、30℃で1時間加熱処理した。
<比較例7>
スピルリナフィコシアニン(製品C-Phycocyanin、ジャパンアルジ社製)終濃度0.1mg/mLを、20mM Hepes-KOH(pH7.8)に懸濁し、65℃で1時間加熱処理した。
<比較例8>
スピルリナフィコシアニン(製品C-Phycocyanin、ジャパンアルジ社製)終濃度0.1mg/mLを、20mM 酢酸バッファー(pH4)に懸濁し、65℃で1時間加熱処理した。
<比較例9>
スピルリナフィコシアニン(製品C-Phycocyanin、ジャパンアルジ社製)終濃度0.1mg/mLを、20mM 酢酸バッファー(pH3.5)に懸濁し、65℃で1時間加熱処理した。
【実施例】
【0110】
実施例10~15、及び比較例4~9の加熱処理後の液に対し、吸収スペクトルを測定した。
結果を図6に示す。図6においてフィコシアニンの吸収極大は620nm付近である。
【実施例】
【0111】
実施例10~15と比較例4~9とを比べると、比較例4~9のスピルリナフィコシアニン(スピルリナPC)では、65℃の加熱処理によって吸光度が大幅に低下しているのに対し、実施例10~15のシゾンフィコシアニン(シゾンPC)では、65℃の加熱処理を経ても吸光度の低下は僅かだった。これらの結果から、シゾンフィコシアニンのほうが、スピルリナフィコシアニンよりも優れた耐熱性を有することが明らかとなった。
【実施例】
【0112】
また、実施例10及び13と、実施例11~12及び14~15とを比べると、pH7.8のHepes-KOHバッファー中でシゾンフィコシアニンを加熱処理した実施例10及び13の場合よりも、pH3.5またはpH4の酢酸バッファー中でシゾンフィコシアニンを加熱処理した実施例11~12及び14~15のほうが、65℃の加熱処理を経ても吸光度の低下は僅かだった。これらの結果から、シゾンフィコシアニンは、酸性条件下において、より優れた耐熱性を発揮することが明らかとなった。
【実施例】
【0113】
5.シゾンを用いた有機酸の生産
<実施例16>
(好気培養)
シゾン(NIESコレクション株番号:NIES-3377)を、OD730=20になるよう10 mL M-Allen培地(pH2.5)に懸濁し、40℃、空気(1%CO)、白色光40~60 μmol photons m-2-1の明条件で4~10日間好気培養した。
(嫌気培養)
その後、上記好気培養後の培地を遠心してシゾンを回収し、10mLの20mM Hepes-KOH(pH7.8)にOD730=20となるよう、細胞を再懸濁した。この再懸濁物をガスクロバイアル瓶に入れ、ブチルゴムで密栓して栓にシリンジを2本連結した。片方のシリンジから、10分間Nガスをガスクロバイアル瓶に吹き込み、瓶内の空気をNガスに置換した。Nガスを止めてシリンジを栓から抜き、瓶をアルミ箔で覆い、密閉状態で3日間、40℃、暗条件で振盪培養した。
【実施例】
【0114】
<実施例17>
上記実施例16において、好気培養時のM-Allen培地(pH2.5)に代えて、M-Allen培地(pH2.5)から窒素を除いた培地を用いて好気培養を行った以外は、実施例16と同様にして培養を行った。M-Allen培地から窒素を除いた培地を以下の表4に示す。
【実施例】
【0115】
【表4】
JP0006681065B2_000005t.gif
【実施例】
【0116】
上記の実施例16~17で得られた嫌気培養後の培養液のそれぞれを遠心分離し、上清1mlを集めた。上清を凍結乾燥させ、得られた固体成分を移動相である3mM HClO溶液100μlに溶解し、これらを高速液体クロマトグラフィー(HPLC) LC-2000 Plus(日本分光)を用い、定法に沿って成分分析した。
【実施例】
【0117】
HPLCの測定条件は以下のとおりである。
移動相:3mM過塩素酸水溶液
反応液:0.2mMブロモチモールブルー(BTB),15mM リン酸水素ナトリウム(NaHPO・12HO)
カラム:Shodex RSpak KC-811 x2
【実施例】
【0118】
結果を図7及び表5に示す。図7に示すグラフの縦軸は、HPLCにより得られた各有機酸の測定値を培養液1Lあたりの有機酸の量(mg/L)に換算した値である。
図7に示す結果から、シゾンによる有機酸(コハク酸、乳酸、酢酸)の細胞外生産が可能であることが示された。好気培養時に窒素欠乏条件で培養することで、培養液中のコハク酸量を増加させることが可能であった。また、培養液中に乳酸を得るためには、好気培養時に窒素欠乏条件で培養することが有効であることが示された。培養液中に酢酸を得るためには、好気培養時に窒素充足条件で培養することが有効であることが示された。
特に、乳酸は1g/Lを超える高濃度で生産可能であった。
【実施例】
【0119】
【表5】
JP0006681065B2_000006t.gif
【実施例】
【0120】
6.シゾンを用いた水素の生産
<実施例18>
(好気培養)
シゾン(NIESコレクション株番号:NIES-3377)を、OD730=20になるよう10 mL M-Allen培地(pH2.5)に懸濁し、40℃、空気(1%CO)、白色光40~70 μmol photons m-2-1の明条件で4~10日間好気培養した。
(嫌気培養)
その後、上記好気培養後の培地を遠心してシゾンを回収し、10mLの20mM Hepes-KOH(pH7.8)にOD730=20となるよう、細胞を再懸濁した。この再懸濁物をガスクロバイアル瓶に入れ、ブチルゴムで密栓して栓にシリンジを2本連結した。片方のシリンジから、 10分間Nガスをガスクロバイアル瓶に吹き込み、瓶内の空気をNガスに置換した。Nガスを止めてシリンジを栓から抜き、瓶をアルミ箔で覆い、密閉状態で3日間、40℃、暗条件で振盪培養した。
【実施例】
【0121】
<実施例19>
上記実施例18において、好気培養時のM-Allen培地(pH2.5)に代えて、M-Allen培地(pH2.5)から窒素を除いた培地を用いて好気培養を行った以外は、実施例16と同様にして培養を行った。
【実施例】
【0122】
<実施例20>
上記実施例18において、好気培養時のM-Allen培地(pH2.5)に代えて、Hepes-KOH(pH7.8)を用いて好気培養を行った以外は、実施例16と同様にして培養を行った。
【実施例】
【0123】
<実施例21>
上記実施例18において、好気培養時のM-Allen培地(pH2.5)に代えて、Hepes-KOH(pH7.8)から窒素を除いたものを用いて好気培養を行った以外は、実施例16と同様にして培養を行った。
【実施例】
【0124】
上記の実施例18~21で得られた嫌気培養後の培養後の密閉容器内の気相に対し、それぞれGC-TCD(ガスクロマトグラフ-熱伝導度検出器)を用いて水素量を測定した。
【実施例】
【0125】
結果を表6に示す。表6に示す結果から、シゾンによる水素の生産が可能であることが示された。
【実施例】
【0126】
【表6】
JP0006681065B2_000007t.gif
【実施例】
【0127】
以上で説明した各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。
【符号の説明】
【0128】
1…フィコシアニン製造装置、10…培養槽、11…配管、20…色素回収槽、30,31…紅藻、40…培養液、50,51…回収液、60,61…色素回収液
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6