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明細書 :ナトリウムフッ素雲母及びその合成方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2021-031351 (P2021-031351A)
公開日 令和3年3月1日(2021.3.1)
発明の名称または考案の名称 ナトリウムフッ素雲母及びその合成方法
国際特許分類 C01B  33/42        (2006.01)
C04B  35/16        (2006.01)
H01M   8/1246      (2016.01)
H01B   1/06        (2006.01)
H01M   8/12        (2016.01)
H01M   8/10        (2016.01)
H01M   8/1016      (2016.01)
FI C01B 33/42
C04B 35/16
H01M 8/1246
H01B 1/06 A
H01M 8/12
H01M 8/10
H01M 8/1016
請求項の数または発明の数 4
出願形態 OL
全頁数 13
出願番号 特願2019-155221 (P2019-155221)
出願日 令和元年8月28日(2019.8.28)
発明者または考案者 【氏名】樽田 誠一
出願人 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
審査請求 未請求
テーマコード 4G073
5G301
5H126
Fターム 4G073BA03
4G073BA04
4G073BA10
4G073BA63
4G073BA80
4G073BD12
4G073BD26
4G073CM23
4G073CP01
4G073FA30
4G073FB04
4G073FB05
4G073FB11
4G073FB50
4G073FC09
4G073FD01
4G073FD23
4G073FD27
4G073GA01
4G073GA03
4G073GA08
4G073GA30
4G073GB02
4G073GB05
4G073UB13
4G073UB60
5G301CA08
5G301CA17
5G301CA30
5G301CD01
5G301CE02
5H126AA03
要約 【課題】 従来のナトリウムフッ素雲母と比較して、イオン伝導度がきわめて高いナトリウムフッ素雲母を提供する。
【解決手段】 本発明に係るナトリウムフッ素雲母は、下記(1)式で表されるナトリウムフッ素雲母であることを特徴とする。
NaMgLi2(4ーx)Si20・・・・(1)
ただし、2≦x<4
本発明に係るナトリウムフッ素雲母は、600℃におけるイオン伝導度σが、2×10-3(S/cm)<σである合成雲母として提供される。
【選択図】 図1
特許請求の範囲 【請求項1】
下記(1)式で表されるナトリウムフッ素雲母。
NaMgLi2(4ーx)Si20・・・・(1)
ただし、2≦x<4
【請求項2】
600℃におけるイオン伝導度σが、
2×10-3(S/cm)<σ
である請求項1記載のナトリウムフッ素雲母。
【請求項3】
前記(1)式において、2≦x≦3により規定される請求項1記載のナトリウムフッ素雲母。
【請求項4】
請求項1記載のナトリウムフッ素雲母の合成方法であって、
合成しようとするナトリウムフッ素雲母の組成比に合わせて原料を秤量して用意する工程と、
前記容易した原料を混合して混合原料を調製する工程と、
前記混合原料を加圧成形して成形体を作製する工程と、
前記成形体を白金るつぼに封入し、焼成温度に加熱して焼成する焼成工程と、
を備えることを特徴とするナトリウムフッ素雲母の合成方法。

発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ナトリウムフッ素雲母及びその合成方法に関し、より詳細には高イオン伝導度を備えるナトリウムフッ素雲母及びその合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
層間イオンがK+イオンであるKフッ素金雲母(KMg3AlSi3O10F2)は典型的な人工合成雲母として知られている。このKフッ素金雲母はイオン伝導度が極めて低いのに対し、層間イオンがNaイオンであるNa系のフッ素雲母(ナトリウムフッ素雲母)はK系のフッ素雲母よりもイオン伝導度に優れることから、本発明者はこのイオン伝導度の相違に着目してナトリウムフッ素雲母の研究開発を行っている。
ナトリウムフッ素雲母としては、層間イオンがNa+イオンであるNaフッ素金雲母(NaMg3AlSi3O10F2)が知られている。このNaフッ素金雲母のイオン伝導度は、500℃で2.9×10-8(S/cm)である。これに対して、層間にNa+イオンが2倍入ったNa-4-マイカ(Na4Mg6Al4Si4O20F4)のイオン伝導度は、500℃で1.4×10-4(S/cm)であり、Naフッ素金雲母に比べてはるかに高いイオン伝導度を有する(非特許文献1)。
【0003】
また、本発明者等はナトリウムフッ素雲母の他の例として、ナトリウムフッ素雲母を構成する四面体シート層が酸化ケイ素の四面体層からなるNaテニオライト(NaMg2LiSi4O10F2)とNa四ケイ素マイカ(NaMg2.5Si4O10F2)についてイオン伝導度を測定し、それぞれ600℃で6.6×10-4(S/cm)、2.3×10-7(S/cm)の測定結果を得た(非特許文献2)。
なお、Na テニオライトは、ナトリウムフッ素雲母を構成する八面体シート層のMgの一部がLiに置換されたもので、四面体シート層は酸化ケイ素のみの四面体層から成る。これに対して前述したNaフッ素金雲母やNa-4-マイカは、四面体シート層のSiが部分的にAlに置換された構成となっている。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】S.Taruta et al. Mater.Lett., 60(2006)464-466
【非特許文献2】毛見他、日本セラミックス協会2017年年会、1P041,(2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、人工合成による雲母で実用に供し得るイオン伝導度を備えるものとしては、Na系のフッ素雲母が有力である。とくに、四面体シート層が酸化ケイ素の四面体シート層からなるNaテニオライト(NaMg2LiSi4O10F2)は、ナトリウムフッ素雲母の中でも、高いイオン伝導度を有することから、このNaテニオライトを利用してイオン伝導度の高い人工合成雲母を提供することが可能であると考えられる。
本発明は、従来知られているナトリウムフッ素雲母を利用して、より高いイオン伝導度及びイオン交換性を備えるナトリウムフッ素雲母及びその合成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は層間イオンがNaイオンであるナトリウムフッ素雲母を利用して、より高いイオン伝導度を備えるナトリウムフッ素雲母を得る方法として、層間のNa+イオンの数をNaテニオライト(NaMg2LiSi4O10F2)の2倍とするナトリウムフッ素雲母を合成することを検討した。層間のNa+イオンの数を増やすことにより電荷密度を増大させ、これによってイオン伝導度を高めることを想定したものである。
本発明者が実際に層間のNa+イオンの数を公知のNaテニオライト(NaMg2LiSi4O10F2)の2倍とするナトリウムフッ素雲母の合成を試み、合成品についてそのイオン伝導度を測定したところ、公知のNaテニオライトのイオン伝導度を想定以上に大きく上回る結果を得ることができ、本発明を想到するに至った。
すなわち、本発明に係るナトリウムフッ素雲母は、下記(1)式で表されるナトリウムフッ素雲母である。
NaMgLi2(4ーx)Si20・・・・(1)
ただし、2≦x<4
【0007】
本発明に係るナトリウムフッ素雲母は、上記(1)式において、2≦x≦4の範囲で任意のx値をとることができ、2≦x<4の組成範囲にあるナトリウムフッ素雲母は公知のNaテニオライトと比較して10倍~100倍程度のイオン伝導度を備える。具体的には、600℃におけるイオン伝導度σが、2×10(S/cm)<σであるナトリウムフッ素雲母として提供される。
また、好適なイオン伝導度を備えるナトリウムフッ素雲母としては、上記(1)式において、2≦x≦3により規定される組成範囲のナトリウムフッ素雲母が有効である。
【0008】
本発明に係るナトリウムフッ素雲母は公知のナトリウムフッ素雲母と比較してきわめて高いイオン伝導度を備えることが特徴である。したがって良好なイオン伝導度を備える材料が求められる分野、たとえば燃料電池の固体電解質等として利用する他に、イオン交換能が高い特性を備えることから、従来のイオン交換材と比べてはるかにイオン交換特性に優れたイオン交換材としての用途への利用が可能である。
【0009】
また、本発明に係るナトリウムフッ素雲母の合成方法としては、合成しようとするナトリウムフッ素雲母の組成比に合わせて原料を秤量して用意する工程と、用意した原料を混合して混合原料を調製する工程と、前記混合原料を加圧成形して成形体を作製する工程と、前記成形体を白金容器に封入し、焼成温度に加熱して焼成する焼成工程とを備えることを特徴とする。
このナトリウムフッ素雲母の合成方法を利用することにより、合成しようとするナトリウムフッ素雲母の組成に合わせて原料を用意し、所要の混合工程、焼成工程等を経ることでナトリウムフッ素雲母を合成することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るナトリウムフッ素雲母は公知のナトリウムフッ素雲母とくらべてきわめて高いイオン伝導度を備えるものとして提供することができ、好適なイオン交換体としての利用も可能である。また、本発明に係るナトリウムフッ素雲母の合成方法によれば、きわめて容易に本発明に係るナトリウムフッ素雲母を合成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】Naテニオライト(NTA)の結晶構造(a)と本発明に係るNa-4-テニオライトの結晶構造(b)、(c)を示す図である。
【図2】本発明に係るナトリウムフッ素雲母の合成方法を示すフロー図である。
【図3】イオン伝導度の測定に用いるサンプルを調製するための前処理工程を示すフロー図である。
【図4】3種のNa-4-テニオライトについてのXRD分析結果を示すXRDパターンである。
【図5】イオン伝導度の測定用にサンプルを調製する際の前処理条件を変えたサンプルについてのXRD分析結果を示すXRDパターンである。
【図6】x=2の組成を備えるNa-4-テニオライトについての合成後のサンプル(a)、イオン伝導度の測定用に前処理を施した後のサンプル(b)についてのSEM像である。
【図7】3種のNa-4-テニオライトのサンプルについてのイオン伝導度の測定結果を示すグラフである。
【図8】イオン伝導度の測定に用いるサンプルを調製する前処理工程における加熱条件を変えたサンプルについて測定したイオン伝導度の測定結果を示すグラフである。
【図9】NMRの測定結果を示すグラフと、グラフのピークに対応するナトリウムフッ素雲母中Na+イオンの位置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<ナトリウムフッ素雲母>
本発明に係るナトリウムフッ素雲母は、下記(1)式で表されるナトリウムフッ素雲母(Na-4-テニオライト)である。
NaMgLi2(4ーx)Si20・・・・(1)
ただし、2≦x≦4
このナトリウムフッ素雲母(Na-4-テニオライト)の組成において特徴とする構成は、層間イオンがNaイオンであるNa系のフッ素雲母として知られているNaテニオライト(NaMg2LiSi4O10F2)の層間にあるNa+イオンに対し、(1)式に示すように、層間にNa+イオンが2倍含むことが可能な組成として構成されている点にある。

【0013】
図1(a)にNaテニオライト(NTA)の結晶構造、図1(b)、(c)に本発明に係るNa-4-テニオライトの結晶構造を示す。
図1(a)のNaテニオライト(NTA)では、酸化ケイ素の四面体層からなる四面体シート層間にNa+イオンが存在する。
図1(b)は、(1)式でx=2とした場合のNa-4-テニオライト、図1(c)は(1)式でx=3、4とした場合のNa-4-テニオライトの構造を示す。図1(b)、(c)ともに、四面体シート層間にNa+イオンがNaテニオライトよりも2倍存在する状態を示したが、(1)式の組成を変えると、実際にはNa+イオンの配位位置が変化してくる。

【0014】
図1(a)、(b)、(c)に示すように、NaテニオライトとNa-4-テニオライトの四面体シート層は、酸化ケイ素(SiO4)の四面体によってシート状に構成されている。このシリカの四面体シート層の電荷は全体として0である。すなわち、NaテニオライトもNa-4-テニオライトも、電荷が0の四面体シート層間にNa+イオンが存在する構成となる。このNa+イオンのプラス電荷は、Mg、Li、Fを含む八面体シート層のマイナス電荷と釣り合う。

【0015】
このように、NaテニオライトもNa-4-テニオライトも、Naイオンは電荷のない四面体シート層に挟まれ、Na+イオンに作用する静電的な作用は四面体シート層を超えて八面体シート層との間で作用する遠距離的な作用になる。これに対して、層間イオンがNa+イオンであるNaフッ素金雲母(NaMg3AlSi3O10F2)の場合は、四面体シート層のSiが部分的にAlに置換された構成となることで、四面体シート層の電荷がマイナスになっている。この結果、層間のNa+イオンに作用する静電的な作用は、四面体シート層との間で近距離で作用し、Na+イオンと四面体シート層との結合性はNaテニオライト、Na-4-テニオライトと比較して強くなる。

【0016】
ナトリウムフッ素雲母のイオン伝導度には、イオン伝導に寄与するNa+イオンの数の多少の他に、ナトリウムフッ素雲母中におけるNa+イオンの可動性が大きく影響する。
前述したNaフッ素金雲母とNaテニオライトの600℃におけるイオン伝導度は、1.1×10-7(S/cm)、6.6×10-4(S/cm)であり、Naフッ素金雲母のイオン伝導度はNaテニオライトの1/1000程度である。このように、Naフッ素金雲母のイオン伝導度がNaテニオライトに比べて大幅に下回る理由は、Naフッ素金雲母の場合は、層間のNa+イオンと四面体シート層との結合性が高く、Na+イオンの可動性が阻害されるためと考えられる。

【0017】
本発明に係るNa-4-テニオライトは、図1(b)、(c)に示すように、四面体シート層間にNaテニオライトの2倍のNa+イオンを含み、Naテニオライトを高電荷密度化したものとなることから、Naテニオライトよりも大きなイオン伝導度を示すものとなることが期待される。
後述するように、本発明者がNa-4-テニオライトを新たに合成し、そのイオン伝導度を測定した結果、Na-4-テニオライトはきわめて優れたイオン伝導度を備えることが明らかとなった。その測定結果によると、Na-4-テニオライト(x=2)は、Naテニオライトのイオン伝導度の10倍程度のイオン伝導度を備えており、いままで知られている人工フッ素雲母のうち最も優れたイオン伝導度を備えるものであることが分かった。

【0018】
<ナトリウムフッ素雲母の合成方法>
本発明に係るナトリウムフッ素雲母(Na-4-テニオライト)の合成方法について、以下説明する。
図2は本発明に係るNa-4-テニオライトの合成方法をフロー図として示したものである。本発明に係るナトリウムフッ素雲母の合成方法は、Mgに置換されるLiの置換量を適宜変えて作製することが可能である。

【0019】
(原料を用意する工程)
まず、作成しようとするNa-4-テニオライトの組成比に合わせて原料を用意する。
例えば、(1)式でx=2とした、Na4Mg2Li4Si8O20F4を合成する場合は、Na-4-テニオライトの組成比に合わせて原料を用意する。使用する原料としては、たとえばNaとF源としてNaF、Mg源としてMgO、Si源としてSiO2、Li源としてLi2CO3をそれぞれ使用し、組成比に合わせて秤量して用意する。
図2の原料ステップが原料を用意する工程に相当する。

【0020】
なお、使用する原料は上記例に限らず適宜原料を選択して使用することができる。例えば、Na原料としては、フッ化ナトリウム、ケイフッ化ナトリウム、炭酸ナトリウム等を使用することができ、Mg原料としては、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム等を使用することができ、Li原料としては、フッ化リチウム、塩化リチウム、炭酸リチウム等を使用することができ、Si原料としては、二酸化ケイ素、シリカゲル等を使用することができ、F原料としては、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、フッ化ナトリウム、ケイフッ化カリウム、ケイフッ化ナトリウム等を使用することができる。

【0021】
(混合原料を調製する工程)
次に、秤量して用意した原料を混合して混合原料を調製する。
図2に示す合成例は、乾式混合と湿式混合とを併合して混合原料を調製する例である。乾式混合としては、乳鉢で原料を攪拌して混合する処理、湿式混合としては、2-プロパノール等の溶媒を使用して混合・撹拌する処理を行う。湿式混合を行った場合には、乾燥処理を行い、溶媒を除去してから次の成形工程へ進む。
図2に示す乾式混合時間、湿式混合時間、湿式処理を行った場合の乾燥処理温度、乾燥時間は一例であり、適宜設定することができる。
図2に示す、混合ステップと乾燥ステップが混合原料を調製する工程に相当する。

【0022】
(混合原料を成形する工程)
次に、混合原料を調製する工程で調製した混合原料を成形する工程へ進む。
この成形工程は混合原料を加圧成形して成形体を形成する工程である。成形方法としては、例として、一軸加圧成形後、200MPaでCIP成形し、混合原料を円柱体状に成形する。成形方法、成形体の形態は適宜選択可能である。
混合原料を加圧して成形することで、保形性を付与し、取扱い性を良くすることができる。
また、固相法により合成する場合は、混合原料を加圧成形することで原料同士を相互に接触させ、固相反応を促進させて確実に焼成することができる。溶融法による場合は、成形体とする処理は必ずしも必要とせず、混合原料のまま溶融した後、アニール処理により結晶化させてNa-4-テニオライトを合成することができる。

【0023】
(成形体を仮焼する工程)
混合原料を成形して成形体を得た後、成形体を仮焼し、焼成工程で成形体から放出されるガスをあらかじめ排出させる処理を行う(図2の仮焼ステップ)。
図2では、仮焼処理の一例として、成形体を620℃で1時間仮焼し、Li源のLi2CO3をLi2Oに変換する処理を行った例を示す。この仮焼工程では、使用する原料に応じて、仮焼温度、仮焼時間を適宜設定すればよい。なお、仮焼ステップは必須の工程ではなく、成形工程後、仮焼せずに焼成工程へ進めることもできる。

【0024】
(焼成工程)
次に成形体を本焼成する処理を行う。
図2に示す封入ステップは、白金るつぼ(白金容器)に成形体を封入するステップである。Na-4-テニオライトの本焼成は900℃以上といった高温で行うため、実際には白金るつぼを使用し、成形体を白金るつぼに封入して加熱処理する。
図2に示す焼成ステップは、成形体を封入した白金るつぼを焼成炉に収納して、所定の焼成温度に加熱して焼成する処理である。図2では、焼成ステップの例として、950℃で2時間加熱し、溶融法によって焼成した例を示している。焼成温度や焼成時間は合成しようとするNa-4-テニオライトの組成等に応じて適宜設定可能である。また、溶融法によらずに固相法によってNa-4-テニオライトを作製することもできる。
図2に示す封入ステップと焼成ステップが焼成工程に相当する。

【0025】
<イオン伝導度の測定方法>
上述した方法により合成して得られたNa-4-テニオライトについて、イオン伝導度を測定する際は、上述した方法によって得られたNa-4-テニオライトの合成品を棒状に成形し、この成形体を加熱処理したものを測定サンプルとして使用した。図3に、イオン伝導度を測定するためのサンプルを調製するための処理工程をフロー図として示す。なお、イオン伝導度の測定には四端子交流インピーダンス法を用いた。
Na-4-テニオライトの合成品に図3に示すような処理を施してイオン伝導度を測定する理由は、加熱しながらサンプルの伝導度を測定するので、あらかじめ高温でサンプルを加熱して測定中にサンプルが加熱変化しないようするためと、上述した合成方法によって得られたNa-4-テニオライトの合成品が、必ずしも緻密なものとして得られるとは限らず、イオン伝導度の測定ためには、測定結果にばらつきが生じないように、所要の緻密な成形体とする必要があるためである。

【0026】
図3に示す成形ステップは、前述した合成方法によって得られたNa-4-テニオライトをCIP成形により棒状に成形する処理である。焼成後のNa-4-テニオライトの合成品をそのままCIP成形してもよいし、合成品をあらかじめ粉砕してからCIP成形してもよい。図3に示す成形ステップでは、200MPaの加圧力で成形した。

【0027】
図3に示す乾燥ステップは、棒状に成形したNa-4-テニオライトの成形品を焼成する前に、成形品に含まれる水分を放出させる乾燥処理を施すものである。ここでは、200℃で24時間加熱して乾燥処理した。
次に、乾燥処理を施した成形品を加熱炉を用いて焼成処理(再加熱処理)する。この焼成処理はNa-4-テニオライトの成形品を高温に加熱することにより、伝導度の測定中に成形品が加熱変化を起こさないためと成形体を均質化するための処理である。実験では、再加熱による処理内容(加熱温度、加熱時間)によって結晶構造やイオン伝導度が変化するか否かについても確かめた。
【実施例】
【0028】
(Na-4-テニオライトの合成)
Na-4-テニオライトのイオン伝導度等の測定に用いるサンプルとして、前記(1)式でx=2、x=3、x=4とした3種のサンプルを合成して使用した。
NaMgLiSi20 (x=2)
NaMgLiSi20 (x=3)
NaMgSi20 (x=4)
【実施例】
【0029】
x=2、3、4のサンプルの合成には下記の試薬を用いた。
フッ化ナトリウム(NaF):和光純薬工業株式会社和光 特級
酸化マグネシウム(MgO):関東化学工業株式会社 特級
高純度二酸化ケイ素(SiO2):和光純薬工業株式会社和光 純度99.9%
炭酸リチウム(LiCO3):和光純薬工業株式会社和光 特級
これらの原料を上記3種のNa-4-テニオライトの組成にしたがって、全量が0.5gとなるようにそれぞれ秤取し、めのう乳鉢を用いて乾式で10分間混合し、さらに2-プロパノールを溶媒として湿式で10分間混合し、その後、60℃で2h以上乾燥させて3種の混合原料を調製した。
【実施例】
【0030】
次に、それぞれの混合原料を掌圧で一軸加圧成形をした後、200MPaでCIP成形した。成形して得られた成形体は、径:約10mm、高さ:約20mmの円柱体状である。
次に、成形体を620℃の加熱炉に収納し、1時間、仮焼処理(加熱処理)した。
次に、仮焼処理後の成形体を白金容器に収納し、白金容器の開封部分をバーナーで加熱しながら圧着し、成形体を封入した(封入処理)。
成形体を封入した白金容器を加熱炉に収納し、焼成処理してNa-4-テニオライトの合成品を得た。
なお、本実験で合成した3種のNa-4-テニオライトは、溶融温度が異なるため、焼成処理における焼成条件を下記のように設定した。
Na-4-テニオライト x=2 950℃ 2時間
Na-4-テニオライト x=3 1000℃ 2時間
Na-4-テニオライト x=4 1150℃ 2時間
【実施例】
【0031】
(XRD分析)
図4は、上述した方法により合成して得られた3種のNa-4-テニオライトのサンプルについてXRD測定を行った結果を示す。
図4に示すように、x=2とx=3のNa-4-テニオライトには、無水相のマイカの明確な回折パターンのみが表れており、完全なマイカの結晶として合成されたことを示している。また、x=4のNa-4-テニオライトには、無水相の回折ピークと水和相の回折ピークが表れているが、いずれもマイカに固有に起因する回折ピークであり、このサンプルについても完全なマイカの結晶として得られたことを示す。
【実施例】
【0032】
図4に示すXRDの分析結果は、x=2、x=3、x=4の組成を備えるNa-4-テニオライトが、上記の合成方法、すなわち、合成しようとするNa-4-テニオライトの組成にしたがって原料を秤量して混合原料を調製し、焼成処理にょり、前記(1)で、x=2、x=3、x=4とした組成を備えるNa-4-テニオライトを合成することができることを示す。なお、実験では、(1)式でx=2、x=3、x=4の組成としたNa-4-テニオライトを合成したが、Na-4-テニオライトの合成はx=2、3、4とする場合に限られるものではなく、x=2.1、3.5・・・といったように、中間の組成比として合成することが可能である。この場合も、Na-4-テニオライトの組成比に応じて原料を秤量した混合原料を用意して焼成することにより、任意の組成比のNa-4-テニオライトを合成することができる。
【実施例】
【0033】
図5は、Na-4-テニオライトのイオン伝導度を測定するために前処理として行う、加熱処理(再加熱処理)の加熱条件を変えたことによる影響を調べるために行ったXRD分析結果を示す。
ここでは、x=2の組成を備えるNa-4-テニオライトを対象とし、図3に示す処理工程での、再加熱処理の熱処理条件を650℃ 1時間、700℃ 30分間、700℃ 1時間としたサンプルについてXRD分析を行った結果を示す。
【実施例】
【0034】
図5では、図3に示す前処理を行う前の合成後のNa-4-テニオライトについてのXRDパターンも併せて示している。
図5に示すXRDパターンには、合成後のXRDパターンと前処理後のXRDパターンについて差が見られず、マイカ特有の回折パターンがあらわれている。この分析結果は、イオン伝導度の測定用に成形処理や加熱処理等の前処理を行っても合成品が分解したりすることはなく、前処理の熱処理条件を変えた実験範囲では、マイカの結晶構造が維持されることを示す。
【実施例】
【0035】
図6(a)は、x=2の組成を備えるNa-4-テニオライトについて、イオン伝導度の測定用に前処理(再加熱処理)を施していない合成品のサンプルのSEM像、図6(b)は、合成後に前処理(700℃ 1時間)を施したサンプルのSEM像である。図6(a)、(b)のSEM像からも、合成品に対する再加熱処理の有無にかかわらず、Na-4-テニオライトの構造上の変化は見られず、再加熱処理後もNa-4-テニオライトはマイカの結晶構造をそのまま保持していることが分かる。
【実施例】
【0036】
(イオン伝導度の測定)
図7に、x=2、x=3、x=4の組成を備えるNa-4-テニオライトについて、加熱温度を変えながら、四端子交流インピーダンス法によりイオン伝導度を測定した結果を示す。図7に示す測定結果は、イオン伝導度を測定する前処理(再加熱処理)の加熱条件を700℃ 1時間としたサンプルについての測定結果である。
図7から、x=2の組成を備えるNa-4-テニオライトのイオン伝導度が最も高く、次いでx=3の組成を備えるNa-4-テニオライト、x=4の組成を備えるNa-4-テニオライトの順となることが分かる。
【実施例】
【0037】
表1に、x=2、x=3、x=4の組成を備えるNa-4-テニオライト(Na-4-TA)について得られた600℃におけるイオン伝導度を示す。表1には、比較としてNaテニオライト(NTA)及びNa-4-マイカ(Na4Mg6Al4Si4O20F4)の600℃における既知のイオン伝導度を示した。
【表1】
JP2021031351A_000003t.gif
【実施例】
【0038】
表1から、x=2、x=3の組成を備えるNa-4-テニオライト(Na-4-TA)は、既知のNaテニオライト(NTA)のイオン伝導度と比較して、x=2については100倍程度、x=3については25倍程度、イオン伝導度が上回っていることが分かる。
これに対し、x=4の組成を備えるNa-4-テニオライト(Na-4-TA)は、Naテニオライト(NTA)と同程度のイオン伝導度であり、さほど変わらないイオン伝導である。
また、Na-4-マイカ(Na4Mg6Al4Si4O20F4)と比較すると、x=2の組成を備えるNa-4-テニオライト(Na-4-TA)では35倍程度、x=3の組成を備えるNa-4-テニオライト(Na-4-TA)では8倍程度、イオン伝導度が上回っている。このように、本発明に係るNa-4-テニオライトは、層間に同等の量のNa+イオンが存在するNa-4-マイカと比較しても、きわめて優れたイオン伝導度を備えることが分かる。
【実施例】
【0039】
上記実験結果から、本発明に係るナトリウムフッ素雲母(Na-4-テニオライト)が有効に利用できる組成範囲としては下記(1)において、組成範囲を2≦x<4とした範囲であり、さらに有効な組成範囲としては2≦x≦3となる。、4MgLi2(4ーx)Si20・・・(1)2≦x≦4
また、本発明に係るナトリウムフッ素雲母は、(1)式の組成を備え、かつ600℃におけるイオン伝導度σが、2×10-3(S/cm)<σとなるものであるということができる。。
【実施例】
【0040】
イオン伝導度に関する実験として、イオン伝導度を測定するサンプルを調製する際の前処理(再加熱処理)での加熱条件によってイオン伝導度が変動するかについて実験を行った。
図8は、x=2の組成を備えるNa-4-テニオライトについて、前処理での加熱条件を650℃ 1時間、700℃ 30分間、700℃ 1時間としたサンプルについてそれぞれイオン伝導度を測定した結果を示すグラフである。図8は、前処理での加熱条件が異なる場合でも、イオン伝導度については明らかな差異があらわれないことを示している。
【実施例】
【0041】
(NMR測定)
上述したNa-4-テニオライトについてのイオン伝導度についての測定結果は、x=2とx=3の組成を備えるNa-4-テニオライトは公知のナトリウムフッ素雲母と比較してきわめて優れたイオン伝導度を備えている一方、x=4の組成を備えるNa-4-テニオライトについては、ほとんどイオン伝導度の改善が見られないという顕著な差異を示している。
Na-4-テニオライトの組成が相違することでイオン伝導度に大きな差異が生じる理由としては、Na-4-テニオライト中におけるNa+イオンの可動性が影響していることが考えられる。
【実施例】
【0042】
Na-4-テニオライトの結晶中においてNa+イオンが存在するサイトを知るため、x=2、x=3、x=4の組成を備える3種のNa-4-テニオライトのサンプルについてNMR測定を行った。NMR測定は、結晶中におけるたとえばNa+イオンが存在するのサイトの情報を得る方法として有効である。
図9は、x=2、x=3、x=4の組成を備えるNa-4-テニオライトについてNMR測定を行った結果を示すグラフである。図9(a)は合成後のNa-4-テニオライトについての測定結果、図9(b)はイオン伝導度の測定用に再加熱処理したサンプルについての測定結果である。
【実施例】
【0043】
図9(a)、(b)に示すように、Chemical shiftを示すグラフには(i)~(vi)の6個のピークが見られる。図9にはこれらの(i)~(vi)のピークに対応するNa-4-テニオライトの結晶構造、言い換えればイオン伝導度に関与すると考えられるNa+イオンの結晶中の配位位置を示す。
(i)に示す構造は、Na+イオンが八面体シート層のサイトに位置し、四面体シート層の層間に存在しない構造である。
(ii)及び(iii)は、Na+イオンが四面体シート層の層間に存在する構造である。NMRの測定結果は、Na+イオンが少なくとも四面体シート層間に存在すること、また四面体シート層間に水が存在することを特定する。
(iv)は、Na+イオンが四面体シート層の表面のサイトに存在する構造である。
(v)(vi)は、Na+イオンが四面体シート層の内部のサイトに存在する構造である。
【実施例】
【0044】
図9(a)、(b)に示すChemical shiftの測定結果において顕著な差異は、合成後のサンプルについても、再加熱処理後のサンプルについても、x=4のサンプルに表れている(i)のピークが、x=2、x=3のサンプルにはまったく表れていないことである。この測定結果は、x=4のサンプルではMgを含む八面体シート層のvacancyにNa+イオンが配位する構成を備えるのに対して、x=2、x=3の場合には八面体シート層にNa+イオンが配位していないことを示唆する。八面体シート層に配位したNa+イオンの可動性はきわめて低いと考えられるから、x=4の組成を備えるNa-4-テニオライトのイオン伝導度がx=2、x=3の組成を備えるNa-4-テニオライトのイオン伝導度を大きく下回る理由の一つとして考えられる。
【実施例】
【0045】
なお、図9(a)、(b)で、層間にNa+イオンが配位する(ii)、(iii)のピークについてみると、x=4のサンプルについては比較的強い(iii)のピークが表れている。この測定結果はx=4のサンプルについても層間にNa+イオンが存在することを示唆する。しかしながら、x=4のサンプルのイオン伝導度が、Naテニオライトと同程度であることから、x=4の場合は層間のNaイオンの配位はNaテニオライトと同程度であると推定される。
【実施例】
【0046】
また、x=2とx=3のサンプルについては、四面体シート層間のNa+イオンの配位に加えて、(iv)、(v)、(vi)といったNa+イオン配位位置や四面体シート層、八面体シート層から作用する静電的な作用等により、Na+イオンの可動性に影響が及ぶことで、x=4の場合とはイオン伝導度が相違する結果になったものと考えられる。
【実施例】
【0047】
本発明に係るナトリウムフッ素雲母は、NaMgLi2(4ーx)Si20という基本組成を備えるNa-4-テニオライトの組成を選択することで、従来、イオン伝導度が高いマイカとして知られているNaテニオライト(NaMg2LiSi4O10F2)や、Na-4-マイカ(Na4Mg6Al4Si4O20F4)をはるかに超える優れたイオン伝導度を備えるものとして提供することが可能である。
本発明に係るナトリウムフッ素マイカはイオン伝導度に優れることを利用して、高いプロトン伝導体として利用することが可能であり、作動温度が150℃~600℃の中温域で利用される燃料電池の固体電解質として利用することが可能である。
また、本発明に係るナトリウムフッ素マイカはイオン交換能にも優れるから、イオン交換体としても有効に利用することができる。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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