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明細書 :MSPL特異的阻害剤、及び高病原性インフルエンザウイルス感染又は増殖抑制用組成物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2020-007234 (P2020-007234A)
公開日 令和2年1月16日(2020.1.16)
発明の名称または考案の名称 MSPL特異的阻害剤、及び高病原性インフルエンザウイルス感染又は増殖抑制用組成物
国際特許分類 A61K  38/07        (2006.01)
A61P  31/18        (2006.01)
A61P  31/12        (2006.01)
A61P  31/16        (2006.01)
A61P  31/14        (2006.01)
C07K   5/11        (2006.01)
FI A61K 38/07 ZNA
A61P 31/18
A61P 31/12
A61P 31/16
A61P 31/14
C07K 5/11
請求項の数または発明の数 6
出願形態 OL
全頁数 14
出願番号 特願2018-126822 (P2018-126822)
出願日 平成30年7月3日(2018.7.3)
発明者または考案者 【氏名】二川 健
【氏名】真板 綾子
【氏名】奥村 裕司
出願人 【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
【識別番号】500179736
【氏名又は名称】学校法人 相模女子大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4C084
4H045
Fターム 4C084AA02
4C084BA01
4C084BA16
4C084BA31
4C084CA59
4C084DC32
4C084NA14
4C084ZB331
4C084ZB332
4C084ZC551
4C084ZC552
4H045AA30
4H045BA13
4H045BA50
4H045DA56
4H045EA31
4H045FA20
要約 【課題】各種ウイルス、特に高病原性インフルエンザウイルスの感染の予防または処置に有効に利用できるMSPL阻害剤を提供する。
【解決手段】下式(I)で示される化合物の少なくとも1種を有効成分とするMSPL阻害剤:(R)x-(Lys)l-(Gln)m-(Arg)n-R(I)(式中、RはN末端側のアミノ基の修飾基、RはC末端のアルギニン残基のカルボキシル基の修飾基を意味する。xは0または1、lは1~3の整数、mは0または1、及びnは1~3の整数であって、l+m+n=4である。但し、lが2のときmは0である。)。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
下式(I)で示される化合物の少なくとも1種を有効成分とするMSPL阻害剤:
(R)x-(Lys)l-(Gln)m-(Arg)n-R (I)
(式中、RはN末端側のアミノ基の修飾基、RはC末端のアルギニン残基のカルボキシル基の修飾基を意味する。xは0または1、lは1~3の整数、mは0又は1、及びnは1~3の整数であって、l+m+n=4である。但し、lが2のときmは0である。)。
【請求項2】
が、クロロメチル基(-CHCl)またはフルオロメチル基(-CHF)であるである、請求項1記載のMSPL阻害剤。
【請求項3】
が、アセチル基、またはデカノイル基である、請求項1または2に記載するMSPL阻害剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載するMSPL阻害剤を有効成分とする、ウイルス感染または増殖抑制用組成物。
【請求項5】
前記ウイルスが、高病原性インフルエンザウイルス、コロナウイルス、豚流行性下痢ウイルス、HIV-1ウイルス、エボラウイルス、及び黄熱ウイルスからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項4に記載するウイルス感染または増殖抑制用組成物。
【請求項6】
天然型及び変異型を含む高病原性インフルエンザウイルスの感染の予防または処置に使用される、請求項5に記載するウイルス感染またはウイルス増殖抑制用組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
各種ウイルスの感染の予防または処置に有効に利用できるMSPL阻害剤に関する。特に高病原性インフルエンザウイルスの感染の予防または処置に有効に利用できるMSPL阻害剤に関する。また本発明はMSPL阻害剤を有効成分としたウイルス増殖抑制用またはウイルス感染抑制用組成物、特に高病原性インフルエンザウイルスの感染抑制用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルス感染過程は、ウイルス粒子(ビリオン)の標的細胞への付着、及びそれに続くウイルスエンベロープの標的細胞膜との融合によって開始される。こうしたウイルス粒子の付着及び細胞融合は、ウイルスエンベロープに存在する赤血球凝集素(ヘマグルチニン、以下、これを「HA蛋白質」と称する)によって媒介される。HA蛋白質はHA1とHA2の2つのサブユニットからなり、宿主細胞由来のエンドプロテアーゼによってHA1とHA2とのペプチド結合が開裂することにより、HA2の膜融合ドメインが露出し、標的細胞膜(エンドソーム膜)との融合が生じると報告されている。ウイルス膜とエンドソーム膜との融合によりウイルス遺伝子が細胞質内に侵入し、感染が成立することになる。この感染成立後、ウイルスは細胞内で増殖し、感染細胞から出芽することで、新たな細胞・組織へと感染が拡大していくことになる。このように、HA蛋白質のHA1とHA2との開裂は、インフルエンザウイルス感染過程における必須の工程であり、この感染を端にウイルス増殖、放出及び感染へと連鎖が生じることから、従来より、HA蛋白質の開裂(切断)による活性化を媒介する宿主細胞プロテアーゼが、インフルエンザ感染症に対する治療標的として提案されている(非特許文献1)。そして、宿主細胞プロテアーゼとして気道上皮細胞に発現するII型膜貫通結合型セリンプロテアーゼ(TMPRSS2、TMPRSS4、TMPRSS11D)等に対する阻害薬としてアプロチニン、カモスタット、ガベキサート、ロイペプチン、及びナファモスタットなどが、セリンプロテアーゼの活性部位を阻害してHA開裂を阻害することで、インフルエンザウイルスの増殖を抑えることが報告されている(非特許文献2参照)。
【0003】
ところで、鳥インフルエンザウイルスが高病原性(強毒性)であるか低病原性(弱毒性)であるかは、ウイルスのHA蛋白質の開裂部位のアミノ酸配列と宿主細胞のプロテアーゼによって決まる。具体的には、弱毒性ウイルスのHA蛋白質の開裂部位は塩基性アミノ酸が一つのアルギニンだけで構成されており、それを認識して切断するプロテアーゼは、トリプシンや気道上皮細胞に発現するセリンプロテア-ゼ(TMPRSS2、TMPRSS4、TMPRSS11D等)など、呼吸器や消化器に限局して存在する特殊な酵素である。このため、弱毒性ウイルスの感染が呼吸器や消化器以外の臓器に拡大しても、他の臓器には低病原性ウイルスのHA蛋白質を切断するプロテアーゼが存在しないため、増殖はできず、呼吸器や消化器といった局所感染に留まる。一方、H5やH7という亜型の高病原性ウイルスのHA蛋白質は、複数のアルギニンやリジンなどの塩基性アミノ酸が多数並んだ構造をしているため、それらを認識して開裂できるプロテアーゼは、すべての細胞のゴルジ装置に存在している。このため、高病原性のウイルスは、例えば脊髄、大腸、心臓、腎臓等といったすべての臓器で多段階に増殖し、強い病原性をもって全身感染を引き起こすことになる(非特許文献3参照)。
【0004】
自然界に存在する水禽類のインフルエンザウイルスの大部分は低病原性であるものの、近年、H5N1という強病原性ウイルスの感染が問題になっている。H5N1型鳥インフルエンザウイルスは、格段に広い宿主域と強い病原性を有することから、野鳥や家禽等の鳥類だけでなく、それを食したトラ、ネコ、犬等の哺乳動物も、その多くが全身感染を起こして死に至っている。またヒトへの感染も報告されており、1000名を超える感染者のうち6割近くが死亡しているとの報告もある(非特許文献3)。さらにH5N1型鳥インフルエンザウイルスは、遺伝子変異が生じることで、初期のウイルスよりも標的臓器域が拡大し、さらにより強い病原性を有するに至っているといわれている。このため、H5N1型鳥インフルエンザウイルスがいずれヒトからヒトへの伝撒性を獲得した場合は、新型インフルエンザとして世界中に大流行する危険性が懸念されている。
【0005】
このため、高病原性であるH5N1型鳥インフルエンザウイルスの感染を阻止し、また増殖を抑制するための方法が早急に求められている。
【先行技術文献】
【0006】

【非特許文献1】Bottcher et al., 2006, J. Viol. 80:9896-9898
【非特許文献2】山谷睦雄ら、「気道上皮プロテアーゼによるインフルエンザウイルスの活性化-治療への応用の可能性-」日呼吸誌5(4),2016, pp.172-183
【非特許文献3】田代眞人、「新型インフルエンザ 感染予防と治療対策」 MBC Forum, 2006, 特別号, pp.10-16
【非特許文献4】Y Okumura, et al., Journal of Virology, May 2010, p5089-5096
【非特許文献5】Biochemica et Biophysica Acta, 1518, 204-209, 2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来の問題である高病原性H5N1型インフルエンザウイルスの感染を阻止するための方法を提供することを課題とする。具体的には、高病原性H5N1型インフルエンザウイルス、特に変異型の高病原性H5N1型インフルエンザウイルスによる感染の抑制に有効に用いられる医薬組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
高病原性インフルエンザウイルスのHA蛋白質の開裂に関わるセリンプロテアーゼとして、以前よりフリン(furin)が代表的なものとして知られており、その阻害剤として、Dec-RVKR-cmk(decanoyl-Arg-Val-Lys-Arg-CH2Cl)が知られている。これに対して、本発明者らは、高病原性H5N1型鳥インフルエンザウイルスのHA蛋白質の開裂に関わる酵素として、新たにII型膜結合性セリンプロテアーゼMSPL(またはTMPRSS13)を見出し、実際に当該MSPLが高病原性H5N1型鳥インフルエンザウイルスの感染に関与することを確認している(非特許文献4)。
【0009】
前述するように、高病原性H5N1型鳥インフルエンザウイルスのHA蛋白質の開裂に関わるMSPLの作用を阻害することで、HA蛋白質の切断が阻止できれば、高病原性H5N1型鳥インフルエンザウイルスによる感染を予防し、またウイルス増殖による流行をも阻止することできると考えられる。発明者らは、かかる着想のもと、鋭意検討を重ねたところ、特定の配列構造を有する幾つかのペプチドがMSPLのHA切断作用を特異的に阻害することを見出した。またさらにこれらのペプチドにより、実際に高病原性H5N1型鳥インフルエンザウイルスの感染が阻止できることを確認した。
【0010】
本発明はこれらの知見に基づいて完成したものであり、下記の実施形態を有する
(I)MSPL阻害剤
(I-1)下式(I)で示される化合物の少なくとも1種を有効成分とするMSPL阻害剤:
(R)x-(Lys)l-(Gln)m-(Arg)n-R (I)
(式中、RはN末端側のアミノ基の修飾基、RはC末端のアルギニン残基のカルボキシル基の修飾基を意味する。xは0または1、lは1~3の整数、mは0または1、及びnは1~3の整数であって、l+m+n=4である。但し、lが2のときmは0である。)。
(I-2)Rが、クロロメチル基(-CHCl)またはフルオロメチル基(-CHF)であるである、(I-1)記載のMSPL阻害剤。

(I-3)Rが、アセチル基、またはデカノイル基である、(I-1)または(I-2)記載のMSPL阻害剤。
【0011】
(II)ウイルス感染または増殖抑制用組成物
(II-1)(I-1)~(I-3)のいずれかに記載するMSPL阻害剤を有効成分とする、ウイルス感染または増殖抑制用組成物。
(II-2)前記ウイルスが、高病原性インフルエンザウイルス、コロナウイルス、豚流行性下痢ウイルス、HIV-1ウイルス、エボラウイルス、及び黄熱ウイルスからなる群より選択される少なくとも1つである、(II-1)に記載するウイルス感染または増殖抑制用組成物。
(II-3)野生型及び変異型を含む高病原性インフルエンザウイルスの感染の予防または処置に使用される、(II-2)に記載するウイルス感染または増殖抑制用組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明のMSPL阻害剤によれば、MSPLの作用によって開裂し活性化するウイルス感染または増殖を、MSPLの活性を特異的に阻害することで阻止若しくは抑制することができる。その結果、MSPLの作用によって開裂・活性化するウイルスの感染または増殖を予防または処置することが可能である。特に本発明のMSPL阻害剤は、MSPLの作用によって開裂・活性化する高病原性のH5N1型インフルエンザウイルスの感染を予防または処置する医薬組成物の有効成分として有用である。
【0013】
また本発明のウイルス感染または増殖抑制用組成物によれば、MSPLの作用によって開裂・活性化するウイルスの感染または増殖を、MSPLの活性を特異的に阻害することで阻止若しくは抑制することができる。特に本発明の組成物は、MSPLの作用によって開裂・活性化する高病原性のH5N1型インフルエンザウイルスの感染を予防または処置する医薬組成物として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実験例2の結果を示す。図1(A)は、阻害剤としてFurin阻害剤(Dec-RVKR-cmk:比較例)を用いた免疫染色結果を、図1(B)は、阻害剤として本発明のMSPL阻害剤(Ac-KRRR-cmk:実施例4)を用いた免疫染色結果を示す。
【図2】実験例3の結果を示す。図3(A)は、阻害剤としてFurin阻害剤(Dec-RVKR-cmk:比較例)を用いた免疫染色結果を、図3(B)は、阻害剤として本発明のMSPL阻害剤(Ac-KRRR-cmk:実施例4)を用いた免疫染色結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(1)用語の説明
本発明及び本明細書において、特に下記の用語及び略語は以下の意味で使用される。
(a)MSPL:MSP長鎖(mosaic serine protease, long)
本件の発明者らによって、ヒト肺由来のcDNAライブラリーからクローニングされて配列決定されたII型膜貫通結合型セリンプロテアーゼである(非特許文献5)(GenBank Accession: AB048796)。ヒトの肺に発現する他、脊髄、大腸、心臓、腎臓などでも発現していることが知られている(非特許文献2の表1参照)。TMPRSS13(transmembrane protease/serine 13)は、このスプライシングバリアントである。
(b)HA蛋白質:赤血球凝集素(ヘマグルチニン)
(c)アミノ酸
本発明のペプチドを構成するアミノ酸は、天然に存在する蛋白質中に通常見出されるL-アミノ酸であり、慣用の一文字表記または三文字表記にて表示する。

【0016】
(2)MSPL阻害剤
本発明のMSPL阻害剤は、下式(I)で示されるペプチド性の化合物の少なくとも1つの有効成分とする。
(R)x-(Lys)l-(Gln)m-(Arg)n-R (I)

【0017】
上記式(I)において、RはN末端側のアミノ基の修飾基を意味する。ここでアミノ基の修飾基としては、本発明の効果を妨げないことを限度として制限されないが、例えば、アセチル基、デカノイル基、ビオチン基、ミリストイル基、パルミトイル基、マレイミド基等を挙げることができる。好ましくは、アセチル基等のように水溶性で扱いやすく、アミノペプチダーゼによる消化を防ぐことができる修飾基であり、またデカノイル基等のように標的細胞膜への透過性(細胞質内への浸透性)を高めることができる修飾基である。

【0018】
上記式(I)において、RはC末端のアルギニン残基のカルボキシル基の修飾基を意味する。ここでカルボキシル基の修飾基としてクロロメチル基またはフルオロメチル基を挙げることができる。好ましくはクロロメチル基である。具体的には、前記式(I)においてペプチド化合物は、C末端側のアルギニン残基のカルボキシル基(-COOH)の水酸基が、修飾基であるクロロメチル基(-CHCl)またはフルオロメチル基(-CHF)で置換されて、クロロメチルケトン基(-C(O)CHCl)またはフルオロメチルケトン基(-C(O)CHF)になっている。このようにC末端側のアルギニン残基のカルボキシル基がクロロメチルケトン基またはフルオロメチルケトン基になっていることで、MSPLと共有結合を介して(不可逆の)複合体を形成して、MSPLの酵素活性を不可逆的に阻害することができる。

【0019】
上記式(I)において、xは0または1である。つまり、N末端側のアミノ基は修飾されていてもよいし(x=1)、また修飾されていなくてもよい(x=0)。

【0020】
また上記式(I)において、l、m及びnはいずれも整数である。具体的にはlは1~3の整数、mは0または1、及びnは1~3の整数である。但し、lが2のときmは0である。また、lとmとnとの合計が4になるように設定される。

【0021】
本発明が対象とするペプチド化合物には下記のものが含まれる:
・l=1である場合
m=0、n=3:(R)x-KRRR-R・・・(A)配列番号1
m=1、n=2:(R)x-KQRR-R・・・(B)配列番号2
・l=2である場合
m=0、n=2:(R)x-KKRR-R・・・(C)配列番号3
・l=3である場合
m=0、n=1:(R)x-KKKR-R・・・(D)配列番号4
なお、上記(A)~(B)において、R、R及びxは前述した通りである。

【0022】
前記本発明のペプチド化合物は、後述する実施例に示すように、MSPLのプロテアーゼ活性(酵素分解活性)を低下させることで、HA蛋白質を、HA1及びHA2のサブユニットにタンパク質分解的に切断するMSPLの能力を阻害又は低減する作用を有する。本発明のペプチド化合物は、MSPLのプロテアーゼ活性は有意に低下させるものの、MSPLと同様に高病原性インフルエンザウイルスのHA蛋白質を開裂し活性化するfurinのプロテアーゼ活性に対する低下作用はMSPLに比べて弱いという、MSPLに対する選択特異性を有する。この意味で、本発明のペプチド化合物はMSPLに対して特異的な阻害活性を有することを特徴とする。前述する(A)~(D)のペプチド性化合物のうち、MSPLのプロテアーゼ活性を阻害し低下する作用が高いのは(C)>(A)>(B)>(D)であり、MSPLに対する特異性が高さについても同様である。これらのことから、これらのペプチド化合物を有効成分とする本発明のMSPL阻害剤は、MSPL特異的阻害剤ということもできる。

【0023】
(3)ウイルス感染または増殖抑制用組成物
前述するペプチド化合物(I)を有効成分とするMSPL阻害剤は、前述の通り、MSPLの能力を阻害又は低減する作用を有する。このため、当該MSPL阻害剤は、MSPLの作用によって開裂・活性化するウイルスの活性(感染、増殖)を阻止または抑制することができ、ウイルス感染または増殖抑制用組成物、特に医薬組成物として有用である。このため、本発明のウイルス感染または増殖抑制用組成物は、前述する本発明のMSPL阻害剤、言い換えれば前述するペプチド化合物(I)を有効成分として含有するものである。以下、本発明の組成物と称する。

【0024】
本発明の組成物は、前述するペプチド化合物(I)に加えて、薬学的に許容される担体や添加物を含有していてもよい。また本発明の効果を妨げない範囲において他の薬剤や生理活性成分を含有していてもよく、これらと一緒に製剤化した状態で調製することができる。これらの担体や添加物は、本発明の組成物の投与経路に応じた形態に基づいて、定法に従って選択設定することができる。本発明の組成物の投与経路としては、経口及び非経口経路が挙げられ、非経口経路としては皮内、皮下、筋肉内、静脈内、腹腔内、硬膜外、鼻腔内、粘膜経路(口腔粘膜等)、及び経腸経路を挙げることができる。経口経路で投与される組成物の形態としては、錠剤、丸剤、カプセル剤(硬質、軟質)、顆粒剤、粉末剤(散剤)、液剤などの製剤形態を制限なく挙げることができる。また、非経口経路で投与される組成物の形態としては、注射剤、点滴剤、クリ-ム、軟膏、ゼリー、及びワックス、ジェルなどの製剤形態を制限なく挙げることができる。また、公知の送達システムを含むものであってもよく、例えば、リポソームへのカプセル化、微粒子化、またはマイクロカプセル化等を、発明の組成物の投与効率を上げるために採用することもできる。これらの経口または非経口の組成物は、有効成分であるペプチド化合物(I)の1投与当たりの有効量(単位有効量)に適合するように、それに適した投与用量(単位用量)を備えた剤形に調製される。

【0025】
本発明の組成物の投与経路が皮下または静脈内である場合、標準的な針及びシリンジを用いて皮下又は静脈内に送達することができる。皮下送達する場合、ペン型送達デバイスを用いることもできる。この場合、ペン型送達デバイスは交換可能カートリッジを有し再利用可能なものであってもいし、又は使い捨てであってよい。

【0026】
本発明の組成物が注射剤の形態を有する場合、公知の方法によって調製されるが、例えば、本発明のペプチド化合物(I)を注射用に従来使用される滅菌水性媒体又は油性媒体中に溶解し、懸濁し又は乳化することにより調製され得る。注射剤用水性媒体としては、アルコール(例えば、エタノール);多価アルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール);非イオン性界面活性剤[例えば、ポリソルベート80、HCO-50(硬化ヒマシ油のポリオキシエチレン(50mol)付加物)]などの適切な可溶化剤と組み合わせて使用することができる、例えば生理食塩水;グルコース又は他の補助剤を含有する等張液などが例示される。油性媒体としては、安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどの可溶化剤と組み合わせて使用され得る、例えばゴマ油、大豆油などが例示される。

【0027】
本発明の組成物におけるMSPL阻害剤の含有量、具体的には本発明のペプチド化合物(I)の含有量は、本発明の組成物をウイルス感染の予防または処置に用いた場合に、当該目的の予防または処置が達成しえる量であればよく、例えば1~100質量%の範囲から適宜選択設定することができる。

【0028】
また本発明の組成物を用いてウイルス感染を予防または処置する場合、その投与量は、当該目的の予防または処置が達成しえる有効量であればよい。ここで「有効量」は、MSPLのタンパク質分解活性(例えば、HA蛋白質をHA1及びHA2サブユニットに切断する能力)を軽減する量であればよい。特に制限はされないものの、本発明のペプチド化合物(I)に代えて、MSPL阻害活性を有しない分子を有する対照組成物を用いて、同一又は実質的に同一の実験条件下で試験した場合において、当該対照組成物と比較して、MSPLのプロテアーゼ活性を少なくとも10%、好ましくは少なくとも25%低減することができる程度の量のMSPL阻害剤(具体的には、本発明のペプチド化合物(I))を単位投与あたりに含んでいることが好ましい。また、単位用量内に含有される本発明のペプチド化合物(I)の量は、患者体重あたりの量で規定することもでき(例えばmg/kg)、制限されないものの、例えば本発明のペプチド化合物(I)は、血中有効濃度6.8mg~68mg/L、体重60kg、分布容積40Lを基準とすると、患者体重あたり約0.4~約4mg/kgの用量で投与することもできる。

【0029】
なお、本発明の組成物は、第2の治療薬と併用して被験対象物に投与することもできる。語句「第2の治療薬と併用して」は、第2の治療薬が、被験対象物へMSPL阻害剤を含む本発明の組成物の投与前に(例えば、約1~72時間より前に)、または投与後に(例えば、約1~72時間後に)、または同時に(例えば、約1時間以内に)、同被験対象物に投与されることを意味する。第2の治療薬は、それ自体でウイルス感染の処置又は予防に有用である治療薬であってもよい。MSPL阻害剤を含む本発明の組成物との併用で投与され得る第2の治療薬の例としては、制限されないものの、例えば、アマンタジン、リマンタジン、オセルタミビル、ザナミビル、アプロチニン、ロイペプチン、カチオン性ステロイド抗菌薬、インフルエンザワクチン(例えば、不活化、生、弱毒化全ウイルス又はサブユニットワクチン)、又はインフルエンザウイルスに対する抗体(例えば、抗血球凝集素抗体)等が挙げられる。

【0030】
本発明の組成物はウイルス感染を予防又は処置するために好適に用いられる。本明細書で使用される表現「ウイルス感染を予防すること」は、ウイルスが、動物体内/その細胞中に入り込み、広がり及び/又は増殖することを阻害又は減弱することを意味する。また「ウイルス感染を予防すること」という用語には、哺乳類におけるウイルス感染の少なくとも1つの症状又は生物学的結果(biological consequence)を予防すること、及び/又はウイルス感染の少なくとも1つの症状又は生物学的結果に対する被験対象物の感受性を減少させることを含む。ウイルス感染の予防には、被験対象物がウイルスに感染する前に、及び/又は被験対象物がウイルス感染の1つ又はそれ以上の症状又は生物学的結果を示す前に、本発明の組成物を対象に投与することによって達成することができる。ウイルス感染を予防する方法は、感染が予想される時期や期間に、又は被験対象物が高頻度でウイルス感染の環境に曝される前に、及び/又は、被験対象物がウイルスに感染している他の対象者に近づきまたは接触する前に、本発明の組成物を当該被験対象物に投与することで行うこともできる。

【0031】
本明細書で使用される表現「ウイルス感染を処置すること」は、哺乳類におけるウイルス感染の少なくとも1つの症状又は生物学的結果を改善、低減、又は軽減し、及び/又はウイルスに曝された後の哺乳類におけるウイルス力価、複製又は増殖を低減又は減少することを意味する。また「ウイルス感染を処置すること」という用語には、被験対象物がウイルスに感染した後、ウイルス感染の少なくとも1つの症状又は生物学的結果を示す期間を短縮することを含む。ウイルス感染の処置は、被験対象物がウイルスに感染した後、及び/又は被験対象物がウイルス感染の1つ又はそれ以上の症状又は生物学的結果を示し又はそれと診断された後、本発明の組成物を当該被験対象物に投与することによって実施することができる。

【0032】
本発明並びに本明細書において対象とする「ウイルス」は、その蛋白質の開裂・活性化がMSPLのプロテアーゼ作用(切断作用)によって活性化されるものであり、その限りにおいて特に制限されるものではない。具体的には、高病原性インフルエンザウイルス(Pathogens and Disease (2013), 69, 87-100 )、コロナウイルス(Pawel Zmora, et al., Journal of Virology, October 2014, Vol.88, No.20, p.12087-12097)、豚流行性下痢ウイルス(Wen Shi, et al., Viruses 2017,9,114;doi:10.3390/v9050114)、HIV-1(Sabine Hallenberger, et al., Nature, Vol.360, 26, November 1992, pp.358-361)、エボラウイルス(Jeffrey E Lee, et al., Future Virol. 2009; 4(6):621-635.doi:10.2217/fvl.09.56.)、黄熱ウイルス(Manon Laporte et al., Current Opinion in Virology 2017, 24:16-24)等を挙げることができる。ここで高病原性インフルエンザウイルスには、H5型ウイルス、特にH5N1型、H5N2型、H5N3型、H5N8型及びH5N9型ウイルス、並びにH7型ウイルス、特にH7N3型、H7N4型、H7N7型及びH7N8型ウイルスが含まれる。またコロナウイルスには、SERS及びMERSが含まれる。なかでも好ましくは高病原性インフルエンザウイルスであり、より好ましくはH5型、特に好ましくはH5N1型の高病原性インフルエンザウイルスである。

【0033】
本明細書で使用される、「ウイルス感染の症状及び生物学的結果」は、1つ又はそれ以上の鼻づまり、副鼻腔欝血、鼻汁、くしゃみ、体(筋肉)痛、頭痛、悪寒、発熱、咳、咽頭痛、疲労、耳痛、又は各種ウイルス感染の診断指標を含む。例えば、インフルエンザウイルス感染の診断指標は、適切な試料(例えば、鼻スワブ、鼻咽頭スワブ、咽頭スワブ、気管内吸引液、痰、気管支洗浄液など)を用いる、例えば、ウイルス培養によるインフルエンザの検出、血球凝集素凝集阻害(HA1)アッセイ、免疫蛍光、又は核酸ベース検出(例えば、RT-PCR)を含む。このように、診断検査によって各ウイルス感染に対して陽性反応を示す対象は、「ウイルス感染の症状及び生物学的結果」を示す対象と考えられる。

【0034】
本発明の組成物は、本発明の組成物による処置又は予防が有益である被験対象物に対して、ウイルス感染を処置又は予防するのに使用することができる。被験対象物はヒト又はヒト以外の動物(ウマ、イヌ、ウシ、ネコ、ヒツジ、ブタ、トリなど)であってよい。処置の方法について、処置される被験対象物には、ウイルス感染の少なくとも1つの症状又は生物学的結果を示す個体が含まれる。予防の対象となる被験者には、ウイルスに曝されていないものの潜在的に感染のリスクを有する者、又はウイルスに感染した別の個体と接触する可能性を有する個体が含まれる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例および実験例を用いて本発明の構成及びその効果をより詳細に説明する。但し、本発明はこれらの実施例などに制限されるものではない。
【実施例】
【0036】
材料
以下の実験で使用した材料とその入手先は以下の通りである。
(1)阻害剤(ペプチド化合物)
Dec-RVKR-cmk(decanoyl-Arg-Val-Lys-Arg-CH2Cl:配列番号5):Merck(メルク)社より購入。
Ac-KQRR-cmk(acetyl-Lys-Gln-Arg-Arg-CH2Cl:配列番号2):株式会社ペプチド研究所に合成依頼。
Ac-KKKR-cmk(acetyl-Lys-Lys-Lys -Arg-CH2Cl:配列番号4):株式会社ペプチド研究所に合成依頼。
Ac-KKRR-cmk(acetyl-Lys-Lys-Arg-Arg-CH2Cl:配列番号3):株式会社ペプチド研究所に合成依頼。
Ac-KRRR-cmk(acetyl-Lys-Arg-Arg-Arg-CH2Cl:配列番号1):株式会社ペプチド研究所に合成依頼。
【実施例】
【0037】
(2)蛍光標識人工ペプチド基質
Pyr-RTKR-MCA(L-pyroglutamyl-Arg-Thr-Lys-Arg-4-methylcoumaryl-7-amide:配列番号6): 株式会社ペプチド研究所より購入。
【実施例】
【0038】
(3)セリンプロテアーゼ(酵素)
MSPL:リコンビナント酵素として発現・精製したものを使用。Furin: R&D SYSTEM 社より購入。
【実施例】
【0039】
実験例1 MSPL及びfurinに対する阻害活性
前記の各種阻害剤(表1参照)について、MSPL及びFurinのそれぞれのプロテアーゼ活性に対する阻害活性を測定した。
【実施例】
【0040】
具体的には、まず、トリス緩衝液(0.1MTris-HCl、pH8.0)を用いて、表1に記載する各阻害剤(ペプチド化合物)の存在下または非存在下で、MSPL及びFurinのそれぞれを37℃の条件下で5分間反応させた。次いで、反応後の反応液に蛍光標識人工ペプチド基質であるPyr-RTKR-MCAを添加し反応させ、その反応産物(AMC:7-amino-4-methylcoumarin)の生成量を蛍光分光光度計(HITACHI社製のModel 650-10MS)を用いて励起波長370nm、発光波長460nmで測定し、反応液中に残存するMSPL及びFurinの酵素活性を評価した。なお、残存する酵素活性は、1分間あたり1μmolのAMCを生成する酵素量を1単位(unit)とした。反応液中に残存するMSPL及びFurinの酵素活性から、各阻害剤のMSPL及びFurinの各セリンプロテアーゼに対する阻害活性を、50%阻害濃度(IC50)として算出した。
【実施例】
【0041】
結果を表1に示す。
【表1】
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この結果からわかるように、本発明のペプチド化合物(実施例1~4)はいずれも、従来よりFurin阻害剤として知られているDec-RVKR-cmk(比較例)よりもMSPLに対して有意に強い阻害活性を示した。一方、Furinに対しては、本発明のペプチド化合物(実施例1~4)はいずれも、MSPLに対する阻害活性の1/40~1/230に相当する低い阻害活性しか示さなかった(Dec-RVKR-cmk [SEQ ID NO:5]のFurinに対する阻害活性の1/40~1/183に相当)。このことから、本発明の阻害剤は、MSPLに対して特異的且つ高い阻害活性を発揮するペプチド化合物であり、MSPL特異的阻害剤として有用であることが確認された。
【実施例】
【0042】
実験例2 培養細胞を用いたウイルス感染及び増殖に対する阻害作用の評価
ウイルスとして、高病原性H5N1の野生型インフルエンザウイルス(A/Crow/Kyoto/53/2004)(HA蛋白質の切断部位:N’-RKKR↓G-C’(SEQ ID NO:7))(以下、「H5N1-WTウイルス」と称する)(実験A)、及びその変異体(以下、「H5N1-Mutウイルス」と称する)(HA蛋白質の切断部位:N’-KKKR↓G-C’ (SEQ ID NO:8))(実験B)をそれぞれ用いて、本発明のMSPL阻害剤のウイルス感染及び増殖阻害作用を評価した。なお、本発明のMSPL阻害剤として、実験例1でMSPLに対する特異的阻害活性が確認されたAc-KRRR-cmk(SEQ ID NO:1)(実施例4)を用いた。また比較の阻害剤として、実験例1でFurinとともにMSPLに対しても阻害活性があることが確認されたFurin阻害剤(Dec-RVKR-cmk(SEQ ID NO:5):比較例)を用いた。
【実施例】
【0043】
(1)材料の調製
(a)ECV304細胞株及び培養条件
ECV304-WT細胞(野生型ヒト血管内皮細胞株)はAmerican Type Culture Collection(ATCC)から購入した。ECV304-MSPL細胞は、MSPLを安定に発現するECV304細胞であり、非特許文献4の記載に従って調製した。具体的には、Flagタグ配列を有する完全長のMSPLのcDNAを、pIRES-puroベクター(BD Bioscience Cloentech)のNotI部位にサブクローニングし、これをECV304-WT細胞にトランスフェクションして、ピューロマイシンに耐性な細胞(ECV304-MSPL細胞)を選抜することで調製した。これらの細胞は、10%ウシ胎児血清(FBS; Roche Molecular Biochemicals、Indianapolis、IN)および50μg/ mlのゲンタマイシンを含有する最小必須培地(MEM; Invitrogen、Carlsbad、CA)中に、37℃、5%CO2の条件で維持した。
【実施例】
【0044】
(b)H5N1-WTウイルス、及びH5N1-Mutウイルス
高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N1-WT ウイルス:A/Crow/Kyoto/53/2004)は、死んだカラスから気管ホモジネートを接種した孵化卵から単離されたものを用いた(WHO/OIE/FAO H5N1 Evolution Working Group. 2008, Emerg. Infect.Dis.14:el)。
【実施例】
【0045】
H5N1-Mutウイルスは、下記の方法によって調製した。
まずTrizol試薬(Invitrogen)を用いてH5N1-WTウイルスRNAを単離し、ランダムヘキサマーを用いてcDNAを合成した。それからH5N1-WTウイルスの全長HA配列をPCRにより構築した。次いで、部位特異的突然変異誘発PCRにより、HA切断部位のR残基をK残基に変更することにより(P4部位のN'-RKKRG-C'(SEQ ID NO:7)をN'-KKKRG-C'(SEQ ID NO:8)に変更)、HA切断部位における変異HA配列を構築した。構築したHA遺伝子をpPOLIプラスミドにクローニングし、pPOLI-HAプラスミドを得た(J. Viol. 73:9679-9682,1999)。これから逆遺伝学的手法を用いて組換えウイルスを作製した(J. Viol. 82:11294-11307,2008、及び非特許文献1参照)。組換えウイルスのHA遺伝子を配列決定して、HA切断部位がN'-KKKR-C'になっているウイルスをH5N1-Mutウイルスとして調製した。
【実施例】
【0046】
(2)実験方法
(a)実験A
ECV304-WT細胞を含む培地にH5N1-WTウイルスを添加した(感染多重度(MOI):1)。添加から1時間後、ECV304-WT細胞をPBSで洗浄し、Furin阻害剤(1μM、10μMまたは100μM)を含むか、または含まない無血清培地(SFCM)、並びにMSPL阻害剤(1μM、10μMまたは100μM)を含むか、または含まない無血清培地(SFCM)に入れ、さらに24時間培養した。別途調製したMDCK細胞(イヌ腎臓尿細管上皮細胞由来株)を、前記で調製した各SFCMに添加して感染させた。これを12時間培養した後、既報に従って免疫蛍光アッセイを行った(Biophys. Res.Commun,378:197-202, 2009)。具体的には、感染細胞を、0.1%Triton X-100を含むPBS中の4%パラホルムアルデヒドで固定し、そこに含まれるウイルス蛋白質を検出するために、A/Duck/Hong Kong/342/78(H5N2)で免疫したウサギから得たポリクローナル抗体を一次抗体(1%ウシ血清アルブミンを含むPBSで1:2,000に希釈)として用い、さらにウイルス蛋白質に結合したポリクローナル抗体を、Alexa Fluor 488結合二次抗体(1%ウシ血清アルブミンを含有するPBSで1:500希釈)を用いて検出した。
【実施例】
【0047】
(b)実験B
ECV304細胞としてECV304-MSPL細胞を用い、高病原性H5N1インフルエンザウイルスとしてH5N1-Mutウイルスを用いる以外は、前記実験Aと同様にして免疫蛍光アッセイを行った。
【実施例】
【0048】
(3)実験結果
実験Aの結果を図1に示す。図1(A)は、阻害剤としてFurin阻害剤(Dec-RVKR-cmk:比較例)を用いた結果を、図1(B)は、阻害剤として本発明のMSPL阻害剤(Ac-KRRR-cmk:実施例4)を用いた結果(免疫染色結果)を示す。この結果から、本発明のMSPL阻害剤は、H5N1の野生型インフルエンザウイルスの感染を阻害ないし抑制することが確認された。しかし、感染阻止の程度は、本発明のMSPL阻害剤よりも従来のFurin阻害剤のほうが強い傾向が認められた。つまり、H5N1の野生型インフルエンザウイルスの感染阻止に対して、本発明のMSPL阻害剤も有効であるものの、従来のFurin阻害剤のほうがより効果が高く、低濃度で奏功することが確認された。
【実施例】
【0049】
実験Bの結果を図2に示す。図2(A)は、阻害剤としてFurin阻害剤(Dec-RVKR-cmk:比較例)を用いた結果を、図2(B)は、阻害剤として本発明のMSPL阻害剤(Ac-KRRR-cmk:実施例4)を用いた結果(免疫染色結果)を示す。この結果から、本発明のMSPL阻害剤は、野生型と同様に、H5N1の変異型インフルエンザウイルスについてもその感染を阻害ないし抑制することが確認された。特に変異型インフルエンザウイルスについては、従来のFurin阻害剤よりも、本発明のMSPL阻害剤のほうがウイルス感染をより強く阻害する傾向が認められた。つまり、本発明のMSPL阻害剤は、変異しやすい高病原性H5N1のインフルエンザウイルスを対象として有意にウイルス感染を阻害し、ウイルスの増殖を抑制することができるペプチド化合物であって、ウイルス感染予防または処置のための医薬組成物の有効成分として有用である。
【配列表フリ-テキスト】
【0050】
配列番号1~4は、本発明のMSPL阻害剤及びウイルス感染または増殖抑制用組成物の有効成分であるペプチド化合物のアミノ酸配列を示す。配列番号5は、実験例1で比較用に使用した、公知のFurin阻害剤(ペプチド化合物)のアミノ酸配列を示す。配列番号6は、蛍光標識人工ペプチド基質のアミノ酸配列を示す。配列番号7は、高病原性H5N1の野生型インフルエンザウイルス(A/Crow/Kyoto/53/2004)のHA蛋白質の切断部位領域のアミノ酸配列を、配列番号8は、変異型インフルエンザウイルスのHA蛋白質の切断部位領域のアミノ酸配列を示す。
図面
【図1】
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【図2】
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