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明細書 :肝臓における線維化抑制剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2020-007235 (P2020-007235A)
公開日 令和2年1月16日(2020.1.16)
発明の名称または考案の名称 肝臓における線維化抑制剤
国際特許分類 A61K  31/7048      (2006.01)
A61K  31/4375      (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61P   1/16        (2006.01)
A61P   3/06        (2006.01)
A61K  36/539       (2006.01)
A61K  36/718       (2006.01)
A61K  36/744       (2006.01)
A61K  36/756       (2006.01)
A61K  36/185       (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
FI A61K 31/7048
A61K 31/4375
A61P 43/00 121
A61P 1/16
A61P 3/06
A61K 36/539
A61K 36/718
A61K 36/744
A61K 36/756
A61K 36/185
A61P 35/00
A61P 43/00 105
請求項の数または発明の数 13
出願形態 OL
全頁数 13
出願番号 特願2018-127186 (P2018-127186)
出願日 平成30年7月3日(2018.7.3)
発明者または考案者 【氏名】山本 直樹
【氏名】高見 太郎
【氏名】瀬川 誠
【氏名】藤澤 浩一
【氏名】松本 俊彦
【氏名】久永 拓郎
【氏名】坂井田 功
出願人 【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100156443、【弁理士】、【氏名又は名称】松崎 隆
審査請求 未請求
テーマコード 4C086
4C088
Fターム 4C086AA01
4C086AA02
4C086CB22
4C086EA11
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA75
4C086ZB21
4C086ZB26
4C086ZC33
4C086ZC75
4C088AB12
4C088AB14
4C088AB32
4C088AB38
4C088AB62
4C088CA05
4C088MA07
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA75
4C088ZB21
4C088ZB26
4C088ZC33
4C088ZC75
要約 【課題】 本発明は生薬を有効成分とする肝線維化抑制剤であって、例えば、非ウイルス性肝炎等の肝線維化を伴う肝疾患に有用な肝線維化抑制剤の提供を課題とする。
【解決手段】 黄ごん、黄連、山梔子、および、黄柏の含有成分である、バイカリン、ベルベリン、および、ゲニポシドを含む、肝臓の線維化抑制剤を提供する。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
バイカリン、ベルベリン、および、ゲニポシドを含む、肝臓の線維化抑制剤。
【請求項2】
黄ごん(オウゴン)、黄連(オウレン)、山梔子(サンシン)、および、黄柏(オウバク)の四つの生薬またはこれらの抽出物を含む、肝臓の線維化抑制剤。
【請求項3】
黄連解毒湯を含む、肝臓の線維化抑制剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の肝臓の線維化抑制剤であって、
I型コラーゲン、TGFβ、TIMP1、および、TIMP2からなる遺伝子群より選択される少なくとも一つの遺伝子発現を抑制する、肝臓の線維化抑制剤。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の肝臓の線維化抑制剤であって、
I型コラーゲン、TGFβ、TIMP1、および、TIMP2の遺伝子発現を抑制する、肝臓の線維化抑制剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の肝臓の線維化抑制剤であって、
非アルコール性脂肪性肝炎に罹患した対象における肝臓の線維化抑制剤。
【請求項7】
バイカリン、ベルベリン、および、ゲニポシドを含む、肝臓の発癌抑制剤。
【請求項8】
黄ごん(オウゴン)、黄連(オウレン)、山梔子(サンシン)、および、黄柏(オウバク)の四つの生薬またはこれらの抽出物を含む、肝臓の発癌抑制剤。
【請求項9】
黄連解毒湯を含む、肝臓の発癌抑制剤。
【請求項10】
請求項7~9のいずれか一項に記載の肝臓の発癌抑制剤であって、
I型コラーゲン、TGFβ、TIMP1、および、TIMP2からなる遺伝子群より選択される少なくとも一つの遺伝子発現を抑制する、肝臓の発癌抑制剤。
【請求項11】
請求項7~9のいずれか一項に記載の肝臓の発癌抑制剤であって、
I型コラーゲン、TGFβ、TIMP1、および、TIMP2の遺伝子発現を抑制する、肝臓の発癌抑制剤。
【請求項12】
請求項7~11のいずれか一項に記載の肝臓の発癌抑制剤であって、
非アルコール性脂肪性肝炎に罹患した対象における肝臓の発癌抑制剤。
【請求項13】
黄連解毒湯を含む、肝がんの治療用または予防用組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、肝臓における線維化抑制剤に関する。特に、黄連解毒湯、それに配合させる生薬、または、それらの含有成分を含む肝臓の線維化抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
肝線維化は主に肝炎ウイルスやアルコールによる炎症に伴って起こり、特に炎症が慢性化した際に生じやすい。肝線維化を持つ慢性肝炎あるいは肝硬変からは肝細胞がんが発症しやすいことが知られている。
肝臓における慢性的な炎症は、I型コラーゲン(Collagen type I)に代表される細胞外マトリックスの、肝臓における過剰な蓄積として特徴づけられる肝線維化を引き起こし、肝臓の機能障害を招く。肝線維化では、主に、炎症性サイトカインによって活性化された肝星細胞(Hepatic stellate cells; HSCs)によって、I型コラーゲンが産生される。肝星細胞はレチノイド(Vitamin A)を含む脂肪滴と特徴的な星状の突起構造を有し、門脈血が類洞を介して肝小葉内へ流れ込む際の血流透過性を制御している。肝臓が障害を受けると肝星細胞は活性化し、その脂肪滴(レチノイド)の減少と、線維芽細胞や筋線維芽細胞に類似した形態への変化をたどり、コラーゲンなどの細胞外マトリックス生成を亢進する。この細胞外マトリックスが、何らかの刺激により定常的に過剰生成され続けると、細胞外マトリックスが沈着するようになり基底膜様構造物が出現し、この進展過程が肝繊維化と呼ばれる。
【0003】
一方、アルコール摂取を原因とせず、主に肥満者において肝臓内に過剰な中性脂肪の蓄積(脂肪肝)が認められる病態である非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD: nonalcoholic fatty liver disease)が報告されている。NAFLDは、良性の経過をとる脂肪肝と、一定の割合で肝硬変、肝細胞癌へと進行する非アルコール性脂肪肝炎(NASH:nonalcoholic steatohepatitis)に分類される。近年、わが国においてもNASHが急増しており、脂肪肝が1,500万症例、その10%程度がNASHに進行し、さらに10%程度が肝硬変や肝細胞癌を発症すると想定されている。
しかしながら、どのようにして脂肪肝がNASHに進行するかは未だ明らかになっておらず、NASHの確定診断には侵襲的な肝生検が必要であり、また、有効な治療法も存在しないことが大きな問題となっている。
【0004】
非特許文献1は、NASH発症メカニズムに関し、コリン欠乏食(CDAA)により誘導されたNASHでは、肝臓においてマクロファージから産生されるTNFαやIL-1βなどの炎症性サイトカインの発現レベルが高いこと、骨髄由来炎症性マクロファージであるLy6c陽性マクロファージが認められることを示している。コリン欠乏食誘導によるNASHモデルで誘導されるマクロファージは炎症性マクロファージが主体であると推定され、当該マクロファージがNASH病態に関わっていることが示唆されている。
【0005】
古来より様々な慢性炎症疾患に対して漢方薬が用いられてきた。例えば、黄連解毒湯は臨床において抗炎症効果を有する薬剤としてアトピー性皮膚炎等に使用されている。黄連解毒湯に関して、例えば特許文献1には、黄連解毒湯の含有成分が各種培養細胞においてアポトーシス抑制効果を示したことを記載している。黄連解毒湯に含まれる生薬(黄連など)には、含有成分としてベルベリンが含まれていることが知られている。特許文献2は、ベルベリン誘導体含有HSP47合成抑制剤に関する技術を開示しており、ベルベリンは細胞内でのHSP47の合成を抑制し、これにより臓器内でのコラーゲン合成を抑制し、ひいては肝硬変などの細胞外マトリックス産生亢進の病態を示す病気の治療に使用できると記載している。なお、特許文献2は、塩化ベルベリンが、45℃、15分間の熱ショック処理を行った各種ヒト培養癌細胞において、HSP47の発現を抑制したことを示すに留まり、例えば上述のインビボにおける炎症性サイトカインに起因した肝繊維化への進行に対して効果を有するのかについては明らかでない。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開平9-30983号公報
【特許文献2】特開平10-7569号公報
【0007】

【非特許文献1】三浦光一、”非アルコール性脂肪性肝炎から肝発癌における腸内細菌叢と肝自然免疫の役割の解明と治療応用へ向けた基礎的検討”、三島海雲記念財団平成23年度学術研究助成研究報告書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は生薬を有効成分とする肝線維化抑制剤であって、例えば、非ウイルス性肝炎等に伴う肝線維化を抑制可能な肝臓の線維化抑制剤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するため、コリン欠乏食(CDAA)の誘導による肝線維化・発癌モデルラットを用いて種々の生薬、漢方による肝線維化・発癌の抑制効果について鋭意検討を行った。その結果、黄連解毒湯が肝線維化抑制効果を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。さらに本発明者らは、黄連解毒湯が肝線維化抑制効果のみならず、発癌抑制効果を有することも見出した。すなわち、本発明は以下の態様を含む:
本発明は、一態様において、
〔1〕バイカリン、ベルベリン、および、ゲニポシドを含む、肝臓の線維化抑制剤に関する。
ここで、本発明に係る肝臓の線維化抑制剤は、一実施の形態において、
〔2〕黄ごん(オウゴン)、黄連(オウレン)、山梔子(サンシン)、および、黄柏(オウバク)の四つの生薬またはこれらの抽出物を含むことを特徴とする。
また、本発明に係る肝臓の線維化抑制剤は、一実施の形態において、
〔3〕黄連解毒湯を含むことを特徴とする。
また、本発明に係る肝臓の線維化抑制剤は、一実施の形態において、
〔4〕上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の線維化抑制剤であって、
I型コラーゲン、TGFβ、TIMP1、および、TIMP2からなる遺伝子群より選択される少なくとも一つの遺伝子発現を抑制することを特徴とする。
また、本発明に係る肝臓の線維化抑制剤は、一実施の形態において、
〔5〕上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の線維化抑制剤であって、
I型コラーゲン、TGFβ、TIMP1、および、TIMP2の遺伝子発現を抑制することを特徴とする。
また、本発明に係る肝臓の線維化抑制剤は、一実施の形態において、
〔6〕上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の肝臓の線維化抑制剤であって、
非アルコール性脂肪性肝炎に罹患した対象における肝臓の線維化を抑制することを特徴とする。
また、本発明は別の態様において、
〔7〕バイカリン、ベルベリン、および、ゲニポシドを含む、肝臓の発癌抑制剤に関する。
ここで、本発明の肝臓の発癌抑制剤は、一実施の形態において、
〔8〕黄ごん(オウゴン)、黄連(オウレン)、山梔子(サンシン)、および、黄柏(オウバク)の四つの生薬またはこれらの抽出物を含むことを特徴とする。
また、本発明の肝臓の発癌抑制剤は、一実施の形態において、
〔9〕黄連解毒湯を含むことを特徴とする。
また、本発明の肝臓の発癌抑制剤は、一実施の形態において、
〔10〕上記〔7〕~〔9〕のいずれかに記載の肝臓の発癌抑制剤であって、
I型コラーゲン、TGFβ、TIMP1、および、TIMP2からなる遺伝子群より選択される少なくとも一つの遺伝子発現を抑制することを特徴とする。
また、本発明の肝臓の発癌抑制剤は、一実施の形態において、
〔11〕上記〔7〕~〔9〕のいずれかに記載の肝臓の発癌抑制剤であって、
I型コラーゲン、TGFβ、TIMP1、および、TIMP2の遺伝子発現を抑制することを特徴とする。
また、本発明の肝臓の発癌抑制剤は、一実施の形態において、
〔12〕上記〔7〕~〔11〕のいずれかに記載の肝臓の発癌抑制剤であって、
非アルコール性脂肪性肝炎に罹患した対象における肝臓の発癌を抑制することを特徴とする。
また、本発明は別の態様において、
〔13〕黄連解毒湯を含む、肝がんの治療用または予防用組成物に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る黄連解毒湯を含む肝臓の線維化抑制剤によれば、肝炎により生じる線維化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、下記実施例3における、12週目の肝線維化・肝発がんラットから採取した肝臓の組織切片についてアザン染色した画像を示す(図1Aは「CDAAのみ持続投与したコントロール群」を示し、図1Bは「CDAA+TJ15(黄連解毒湯)持続投与群」を示す)。図1Cは組織切片におけるアザン陽性エリアの割合を示すグラフである。図1C中、**はt検定におけるp<0.01を示す。【0012】
本発明は一態様において、黄連解毒湯を含む線維化抑制剤を提供する。また、黄連解毒湯は肝臓における線維化抑制効果のみならず、肝臓における発癌抑制効果も奏する。本発明の別の態様は、黄連解毒湯を含む、肝臓の発癌抑制剤を提供する。
ここで本明細書において、「黄連解毒湯」とは、生薬である黄ごん(オウゴン)(Scutellariae Radix)、黄連(オウレン)(Copridis Rhizoma)、山梔子(サンシシ)(Gardeniae Fructus)、及び、黄柏(オウバク)(Phellodendri Cortex)を配合した漢方薬である。それぞれの乾燥生薬の配合重量は、通常処方される成人における1日量に換算すると、例えば黄ごん3.0g、黄連1.5g~2.0g、山梔子2.0g~3.0g、黄柏1.5g~3.0gとすることができる。上記は例示であり、本発明において肝臓の線維化抑制効果や発癌抑制効果が奏される限り、各生薬の配合割合や処方量は上記に限定されない。一実施の形態において、「黄連解毒湯」に含まれる各生薬の配合は、例えば、黄ごん:黄連:山梔子:黄柏=1.5:1.0:1.0:0.75の配合比とすることができる。

【0013】
本発明に用いられる「黄連解毒湯」は、黄ごん(オウゴン)、黄連(オウレン)、山梔子(サンシン)、および、黄柏(オウバク)の四つの乾燥生薬から上記配合重量を参考に調製してもよいし、上記四つの生薬のエキス製剤を入手して上記配合量比で混合して製造することもできる。または、市販の4つの生薬が配合された「黄連解毒湯」をそのまま用いても良い。
乾燥生薬から調製する場合、例えば、上記配合重量の乾燥生薬をそれぞれ一定量の湯に入れて1時間煮出し、得られた抽出液を混合して調製することができる。
市販の黄連解毒湯としては、ツムラ黄連解毒湯エキス顆粒(医療用)(ツムラ)、オースギ黄連解毒湯エキスT錠(大杉製薬)、クラシエ黄連解毒湯エキス錠(クラシエ薬品)、コタロー黄連解毒湯エキス細粒(小太郎漢方製薬)、サカモト黄連解毒湯エキス顆粒-S(阪本漢法製薬)、JPS黄連解毒湯エキス顆粒(調剤用)(ジェーピーエス)等を挙げることができる。

【0014】
ここで、本発明に係る肝臓の線維化抑制剤は、一実施の形態において、黄ごん(オウゴン)、黄連(オウレン)、山梔子(サンシン)、および、黄柏(オウバク)の四つの生薬またはそれらの抽出物を含むものとして提供することができる。また、本発明に係る肝臓の発癌抑制剤は、一実施の形態において、黄ごん(オウゴン)、黄連(オウレン)、山梔子(サンシン)、および、黄柏(オウバク)の四つの生薬またはそれらの抽出物を含むものとして提供することができる。
本明細書において、黄ごん(オウゴン)とは、コガネバナScutellaria baicalensis Georgi (Labiatae)の周皮を除いた根からなる生薬をいう。オウゴンの乾燥物に対しては、バイカリンが10.0%以上含まれる。
また、黄連(オウレン)はオウレン(Coptis japonica Makino, Coptis chinensis Franchet、Coptis deltoidea C.Y. Cheng et Hsiao、又は、Coptis teeta Wallich (Ranunculaceae))の根をほとんど除いた根茎からなる生薬をいう。オウレンの乾燥物に対してはベルベリン[ベルベリン塩化物(C20H18ClNO4:371.81)]が4.2%以上含まれる。
また、山梔子(サンシン)はクチナシ(Gardenia jasminoides Ellis (アカネ科 Rubiaceae))の果実を乾燥したものからなる生薬をいう。クチナシの乾燥物に対してはゲニポシド(イリドイド配糖体)が3.0%以上含まれる。
また、黄柏(オウバク)はキハダ(Phellodendron amurense Ruprecht 又は Phellodendron chinense Schneider (Rutaceae ミカン科))の樹皮から周皮を除き乾燥したものからなる生薬をいう。オウバクの乾燥物に対してはベルベリン(ベルベリン塩化物(C20H18ClNO4:371.81)]が1.2%以上含まれる。
上記四つの生薬またはそれらの抽出物の配合比は、肝臓の線維化抑制効果または発癌抑制効果が奏される限り限定されないが、例えば、上記に記載するような黄連解毒湯で通常配合される割合とすることが好ましい。また、4つの生薬は適宜、不要な部位の除去、粉砕、乾燥などの加工処理がされたものを用いることができ、当業者であれば各生薬ごとに公知の手法で生薬を加工することができる。
抽出物として用いる場合、例えば水、エタノール、アセトン、エーテル又はこれらの混合物のような各種溶剤を用いて各生薬から抽出物を得る方法を挙げることができ、水抽出物を用いることが好ましい。具体的な抽出物の調製例としては、各生薬を8~20倍量の熱水で抽出し、得られた抽出液を濾過する方法が挙げられる。この抽出物は必要に応じて乾燥させ、乾燥粉末として用いることもできる。黄ごん(オウゴン)、黄連(オウレン)、山梔子(サンシン)、または、黄柏(オウバク)から抽出物を得る方法は公知であり、当業者であれば適宜公知の手法に従い実施することができる。

【0015】
また、本発明に係る肝臓の線維化抑制剤は、一実施の形態において、バイカリン、ベルベリン、および、ゲニポシドを含むものとして提供することができる。また、本発明に係る肝臓の発癌抑制剤は、一実施の形態において、バイカリン、ベルベリン、および、ゲニポシドを含むものとして提供することができる。
バイカリンとは下記式で表されるフラボノイド配糖体であり、化学式はC21H18O11で示される(CAS登録番号:21967-41-9)。
【化1】
JP2020007235A_000002t.gif
ベルベリンとは下記式で表されるベンジルイソキノリンアルカロイドであり、化学式はC20H18NO4+で示される(CAS登録番号:633-66-9)。
【化2】
JP2020007235A_000003t.gif
ゲニポシドとは下記式で表されるイリドイド配糖体であり、化学式はC17H24O10で示される(CAS登録番号:24512-63-8)。
【化3】
JP2020007235A_000004t.gif
バイカリン、ベルベリン、および、ゲニポシドの配合比は、肝臓の線維化抑制効果または発癌抑制効果が奏される限り限定されない。黄連解毒湯に配合される4つの生薬の配合比と、各生薬に含まれる各成分の割合を考慮して適宜配合することができる。

【0016】
本明細書において「肝臓の線維化抑制」とは、肝炎ウイルスの持続感染やアルコールの過剰摂取、非アルコール性脂肪肝炎、自己免疫学的機序、肝内胆汁うっ滞、薬剤性、金属代謝異常、うっ血肝など様々な原因により生じる肝臓における線維化を抑制することを意味する。肝臓の線維化は、肝臓の障害によりコラーゲンなどの細胞外マトリクスの沈着により生じる構造をいう。線維化を引き起こす肝炎は限定されず、例えば、B型肝炎、C型肝炎などのウイルス性肝炎;慢性肝炎;急性肝炎、;非アルコール性脂肪肝炎;アルコール性肝炎;肝硬変;肝がんに付随する肝炎を含む。
特に、本発明に係る肝臓の線維化抑制剤は、非アルコール性脂肪肝炎に罹患した対象における肝臓の線維化抑制に有用である。すなわち、本発明の肝臓の線維化抑制剤は、一実施の形態において、非アルコール性脂肪性肝炎に罹患した対象における肝臓の線維化抑制剤として提供することができる。

【0017】
本発明に係る肝臓の線維化抑制剤による線維化抑制の評価は、例えば、肝臓の組織切片を作製し、アザン染色やシリウスレッド染色を行うことで行うことができる。アザン染色は膠原線維と筋線維を染め分けることができ、肝臓において線維化した組織はアザン染色に用いるアゾカルミンGまたはオレンジGにより染色される。また、シリウスレッドは親水性であり陽イオン性の金属錯塩染料と結合し、コラーゲン線維及びその関連組織を染色する。
例えば、下記実施例に示すように、一定期間において継続的に線維化抑制剤およびCDAAを与えた被験体(例えば、ラット)と線維化抑制剤を与えずCDAAのみ与えた被験体とにおける肝臓を用いて、上記アザン染色またはシリウスレッド染色により肝臓の切片を染色し、線維化領域を比較することで線維化の抑制を評価することができる。

【0018】
本明細書において「肝臓の発癌抑制」とは、肝臓における肝がんの発生を抑制することを意味し、具体的には肝臓における腫瘍の発生を抑えること、または、発生した腫瘍の成長を抑えることをいう。肝がんへと進行する肝疾患は特に限定されず、B型肝炎、C型肝炎などのウイルス性肝炎;慢性肝炎;急性肝炎、;非アルコール性脂肪肝炎;アルコール性肝炎;肝硬変などを挙げることができる。
特に、本発明に係る肝臓の発癌抑制剤は、非アルコール性脂肪肝炎に罹患した対象における肝臓の発癌抑制に有用である。すなわち、本発明の肝臓の発癌抑制剤は、一実施の形態において、非アルコール性脂肪性肝炎に罹患した対象における肝臓の発癌抑制剤として提供することができる。
このような、腫瘍の発生抑制や腫瘍サイズの成長抑制は、例えば、抗GST-P抗体を用いた免疫染色によって評価することができる。グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)の胎盤型アイソザイム(GST-P)は肝前癌病変マーカーであり、下記実施例に示すように、一定期間において継続的に線維化抑制剤およびCDAAを与えた被験体(例えば、ラット)と線維化抑制剤を与えずCDAAのみ投与した被験体とにおける肝臓を用いて、上記抗GST-P抗体を用いて肝臓切片を免疫染色し、染色された領域を比較することで発癌の抑制を評価することができる。

【0019】
また、本発明は、一態様として、黄連解毒湯を含む、肝がんの治療用または予防用組成物を提供する。
本発明に係る肝臓の線維化抑制剤、肝臓の発癌抑制剤、および、肝がんの治療用または予防用組成物は、一実施の形態おいて、対象に投与した際に、肝臓におけるI型コラーゲン、TGFβ、TIMP1、および、TIMP2からなる群より選択される少なくとも一つの遺伝子の発現を抑制する。
TGFβは細胞外マトリックス(ECM)の産生促進に関与する遺伝子であり、TGFβの持続的な高発現は肝線維化を進行させる。TIMP1およびTMIP2は、コラーゲン分解酵素であるmatrix metalloproteinases(MMP)を不活化し、TIMP1およびTIMP2の発現上昇はコラーゲン蓄積による線維化を促進する方向に働く。本発明に係る肝臓の線維化抑制剤、肝臓の発癌抑制剤、および、肝がんの治療用または予防用組成物は、好ましい実施の形態においては、I型コラーゲン、TGFβ、TIMP1、および、TIMP2からなる群より選択される二つの遺伝子の発現を抑制し、より好ましい実施の形態においては、I型コラーゲン、TGFβ、TIMP1、および、TIMP2からなる群より選択される三つの遺伝子の発現を抑制する。最も好ましい実施の形態においては、I型コラーゲン、TGFβ、TIMP1、および、TIMP2の四つの遺伝子の発現を抑制する。
ここで遺伝子の発現を抑制するとは、肝線維化または肝がんが進行しているまたは罹患している対象において、本発明に係る肝臓の線維化抑制剤、肝臓の発癌抑制剤、または、肝がんの治療用または予防用組成物を対象に投与した際に、当該線維化抑制剤、当該発癌抑制剤、または、当該組成物を投与していない場合の遺伝子の発現量と比較して、遺伝子の発現量を低下させることを意味する。

【0020】
本発明に係る肝臓の線維化抑制剤、肝臓の発癌抑制剤、および、肝がんの治療用または予防用組成物は、ヒトを含む哺乳類、例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、サル、ヒトなどに適用することができる。

【0021】
本発明に係る肝臓の線維化抑制剤、肝臓の発癌抑制剤、および、肝がんの治療用または予防用組成物は、薬剤または薬学的組成物の製造に通常用いる適宜な担体、賦形剤及び希釈剤をさらに含むことができ、それぞれ通常の方法に従い散剤、顆粒剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、溶液剤、油剤、懸濁剤、エマルジョン、シロップ剤などの経口用剤形物に用いられ得る。抽出物を含む組成物に含まれ得る担体、賦形剤及び希釈剤としてはラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、 マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルギネート、ゼラチン、カルシウムホスフェート、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、非晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、マグネシウムステアレート及び鉱物油を挙げることができる。経口投与のための固形製剤には錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが含まれ、このような固形製剤は上記抽出物に一つ以上の賦形剤、例えば、澱粉、カルシウムカーボネート、スクロース、ラクトース、ゼラチンなどを組み合わせて製造することができる。さらに、マグネシウムステアレート、タルクのような潤滑剤を用いることができる。経口のための液状製剤としては懸濁剤、溶液剤、油剤、シロップ剤などが該当し、通常用いられる水、リキッドパラフィン、又は多様な賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などが含まれ得る。

【0022】
本発明に係る肝臓の線維化抑制剤、肝臓の発癌抑制剤、および、肝がんの治療用または予防用組成物は、経口、経皮、皮下、筋肉、又は静脈を含む多様な経路を介して投与されてもよい。好ましい投与量は患者の年齢、性別及び体重、健康状態及び疾患の重症度などの多様な関連因子に照らし、当業者により適宜決定することができる。具体的に人の場合、1日投与量は0.02ないし1000 mg/kg体重、好ましくは1ないし200 mg/kg体重の範囲であり得、1回又は数回分けて投与することもできる。上記投与量は如何なる面においても本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0023】
[実施例1:肝線維化・肝発がんラットの作製]
6週齢Wister系雄性ラット(SLC社製)(各群15匹)にコリン欠乏食(Choline-deficient L-amino acid-defined:CDAA(518752 Choline Deficient Diet:Dyets Inc.社製)を連続投与して12時間明暗周期、25℃で飼育し、肝線維化・肝発がんラットを作製した(CDAAのみ投与して作製した肝線維化・肝発がんラットはコントロール群として用いた)。また、試験区として、CDAAに黄連解毒湯を加えたものを連続投与して、同様に12時間明暗周期、25℃で飼育し、肝線維化・肝発がんラットを作製した(以下、「CDAA+TJ15持続投与群」ともいう)。このようにして作製した肝線維化・肝発がんラットは、試験開始から12週間飼育した時点で各種解析を行った。なお、このCDAA食による肝線維化・肝発がんラットは、臨床で遭遇する肝硬変から肝がん発症状態を発現できる唯一のモデルである。
「CDAA+TJ15持続投与群」において用いた黄連解毒湯はツムラ黄連解毒湯エキス顆粒(株式会社ツムラ社製)を用い、3重量%の黄連解毒湯を含むCDAAをラットに与えた。
【実施例】
【0024】
[実施例2:体重、肝重量、採血での各種測定項目の検討]
実施例1で作製した「CDAA+TJ15持続投与群」の12週目(84日目)の肝線維化・肝発がんラットにおける体重、肝重量と採血による各種項目を測定し、コントロール群の測定値と比較した。
12週目における体重と肝重量は、「CDAA+TJ15持続投与群」とコントロール群とを比較した際に特に変化を認めなかった。
血清データでは、総蛋白(TP)、アルブミン値や肝機能、脂質、腎機能、血糖値等で(1)「CDAA+TJ15持続投与群」と(2)コントロール群とで変化を認めなかった。
【実施例】
【0025】
[実施例3:肝線維化抑制効果の検討]
実施例1で作製した「CDAA+TJ15持続投与群」の12週目(84日目)の肝線維化・肝発がんラットから肝組織を回収して、当該肝組織に対してアザン(Azan)染色またはシリウスレッド(Sirius Red)染色を行った。具体的には、以下のようにしてアザン染色およびシリウスレッド染色を行った。なお、アザン染色、シリウスレッド染色は線維化の指標として広く用いられている。
【実施例】
【0026】
(パラフィン包埋未染標本の作製、アザン染色、および、シリウスレッド染色)
まずラットから肝組織を採取し、採取された肝組織をホルマリンに漬け、ホルマリン固定した組織からパラフィン包埋未染標本を作製した。
上記のパラフィン包埋未染標本について、線維組織染色のためのアザン染色を常法に従って行った。すなわち、パラフィン切片の脱パラフィン操作を行った後、10%重クロム酸カリウム/10%トリクロル酢酸等量混合液中にて、20分間媒染し、蒸留水で水洗(5分間)した後、0.8%オレンジG水溶液中で10分間浸漬した。蒸留水水洗(約10秒間、以下同様)の後、アゾカルミンG液中で60分間浸漬し、蒸留水水洗の後、アニリン・アルコール中で3秒間浸漬して分別した。蒸留水で水洗した後、酢酸アルコール中で1分間処理し、蒸留水で水洗した後、さらに2.5%リンタングステン酸溶液中で20分間処理した。これを蒸留水で水洗した後、アニリン青/オレンジG混合液中で20~60分間、鏡検しながら染色した。染色後、水洗し、脱水、透徹および封入を行った。アザン陽性エリア比は、蛍光顕微鏡画像処理システム CA-H1DB(キーエンス社製)を用いて分析した。「CDAA+TJ15持続投与群」のアザン染色の結果を図1に、シリウスレッド染色の結果を図2に示す。
【実施例】
【0027】
図1および2のアザン染色およびシリウスレッド染色の写真図から明らかなように、CDAAのみ持続投与したコントロール群と比較して、「CDAA+TJ15持続投与群」はそれぞれ有意に肝線維化を抑制していた。図1および2下段のグラフは観察エリアにおけるアザン陽性エリアとシリウスレッド陽性エリアとをそれぞれを示す。CDAAのみ持続投与したコントロール群に対して「CDAA+TJ15持続投与群」はアザン陽性エリアがおよそ1/3低下し、シリウスレッド陽性エリアがおよそ1/4低下していた。これらの結果から黄連解毒湯投与による肝線維化抑制効果を示していることが明らかとなった。
【実施例】
【0028】
[実施例4:肝発がん抑制効果の検討]
(GST-P抗体による免疫組織染色)
実施例1で得られた12週目(84日目)の肝線維化・肝発がんラットに対してGST-P抗体による免疫組織染色を行った。まず、実施例3と同様の方法でパラフィン包埋未染標本を作製し、パラフィン切片の脱パラフィン操作を行った後、抗ラットGST-P抗体(ABCAM社製)を用いたアビジン-ビオチン-ペルオキシダーゼ複合体(ABC)法により免疫組織染色を行った。その後、GST-P抗体による染色結果を、高倍率顕微鏡(オリンパス社製)にて観察した。組織小片の面積あたりのGST-P陽性エリアの割合(%)と、単位面積(1cm)あたりの腫瘍個数とを蛍光顕微鏡画像処理システムCA-H1DB(キーエンス社製)によって解析した。
【実施例】
【0029】
GST-P抗体を用いた免疫染色結果を図3に示す。図3において、CDAAのみ持続投与したコントロール群に対して、「CDAA+TJ15持続投与群」は、腫瘍領域はおよそ1/4へと有意に低下していた。また、腫瘍の個数とサイズとが共に抑制されていた(図示なし)。この結果から、黄連解毒湯投与は、肝発癌抑制効果を示すことが明らかとなった。
【実施例】
【0030】
[実施例5:各投与群における各種遺伝子発現の検証]
(肝線維化・肝発がんラットの作製)
6週齢Wister系雄性ラット(SLC社製)30匹(各群10匹)にコリン欠乏食(Choline-deficient L-amino acid-defined:CDAA(518752 Choline Deficient Diet:Dyets Inc.社製)を持続投与して、12時間明暗周期、25℃で飼育し、実施例1と同様に肝線維化・肝発がんラットを作製した(CDAAのみ投与して作製した肝線維化・肝発がんラットはコントロール群として用いた)。試験区として、CDAAに黄連解毒湯を加えたものを連続投与して、同様に12時間明暗周期、25℃で飼育し、肝線維化・肝発がんラットを作製した(「CDAA+TJ15持続投与群」)。なお、本実施例に用いた黄連解毒湯は実施例1と同様であり、3重量%の黄連解毒湯を含むCDAAをラットに与えた。
このようにして作製した肝線維化・肝発がんラットは、試験開始から12週間飼育した時点(84日目)において各種遺伝子発現の解析に供した。12週間飼育した肝線維化・肝発癌ラットから肝組織を採取し、採取された肝組織を凍結させ、常法に従いRNAを抽出した。Real-TimePCRでCollagen Type1、TIMP-1、TIMP-2、TGFβの各種遺伝子発現の検討を行った。PCRに用いたプライマーは、Perfect Real Time Primerのサイト(http://www.takara-bio.co.jp/prt/intro.htm)を参照して既成のプライマーセットを選択し、用いた。
【実施例】
【0031】
遺伝子発現解析の結果を図4に示す。図4に示すように、「CDAA+TJ15持続投与群」におけるCollagen Type1、TIMP-1、TIMP-2、および、TGFβの遺伝子発現は、CDAAのみ持続投与したコントロール群の対応する遺伝子発現と比較して有意に低下していた。この結果から黄連解毒湯投与は、肝線維化関連遺伝子の抑制効果を示すことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明に係る黄連解毒湯を含む肝臓の線維化抑制剤によれば、肝炎により生じる線維化を抑制することができる。これにより、難治性肝硬変症や年々増加している非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の中で未だ治療方法が確立していないNASHによる肝硬変や肝発癌に対する予防的な面での治療方法を提供することができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3