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明細書 :スクリーニング用ベクター

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2020-018287 (P2020-018287A)
公開日 令和2年2月6日(2020.2.6)
発明の名称または考案の名称 スクリーニング用ベクター
国際特許分類 C12N  15/63        (2006.01)
C12Q   1/04        (2006.01)
C12Q   1/6897      (2018.01)
C12N  15/12        (2006.01)
C12N   1/21        (2006.01)
FI C12N 15/63 ZNAZ
C12Q 1/04
C12Q 1/6897 Z
C12N 15/12
C12N 1/21
請求項の数または発明の数 7
出願形態 OL
全頁数 18
出願番号 特願2018-187129 (P2018-187129)
出願日 平成30年10月2日(2018.10.2)
優先権出願番号 2018137929
優先日 平成30年7月23日(2018.7.23)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】近藤 興
【氏名】祐村 惠彦
出願人 【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
審査請求 未請求
テーマコード 4B063
4B065
Fターム 4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ06
4B063QQ13
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QS05
4B063QS28
4B063QS38
4B063QX02
4B065AA26X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA46
要約 【課題】IPTG等の発現誘導剤を必要とせず、かつ蛍光を発した株を選択(ポジティブセレクション)することでインサートDNAが導入されたベクターを含有する株をスクリーニング可能なベクターの提供。
【解決手段】特定の塩基配列からなるミオシン調節軽鎖(myosin regulatory light chain:mlcR)をコードするポリヌクレオチドの全長又は部分配列であって、前記塩基配列の少なくとも474~483番目の塩基配列を含むポリヌクレオチドと、リボソーム結合サイトをコードするポリヌクレオチドと、発色団を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドとを順次備えたベクター。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の(1)又は(2)記載のポリヌクレオチドと、リボソーム結合サイトをコードするポリヌクレオチドと、発色団を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドとを順次備えたベクター。
(1)配列番号1に示すミオシン調節軽鎖(myosin regulatory light chain:mlcR)をコードするポリヌクレオチドの全長又は部分配列であって、前記配列番号1に示す塩基配列の少なくとも474~483番目の塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(2)上記(1)記載のポリヌクレオチドと少なくとも90%以上の配列同一性を有するポリヌクレオチド;
【請求項2】
発色団を有するタンパク質が、蛍光タンパク質であることを特徴とする請求項1記載のベクター。
【請求項3】
リボソーム結合サイトをコードするポリヌクレオチドと、発色団を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドの間に4~20塩基のスペーサー配列を備えることを特徴とする請求項1又は2記載のベクター。
【請求項4】
配列番号1に示す塩基配列の少なくとも474~483番目の塩基配列が、配列番号2に示す塩基配列であることを特徴とする請求項1~3のいずれか記載のベクター。
【請求項5】
以下の工程(a)~(c)を備えた、インサートDNAを含むベクターが導入された形質転換体をスクリーニングする方法。
(a)請求項1~4のいずれか記載のベクターにインサートDNAをライゲーションして、インサートDNAを含むベクターを作製する工程;
(b)工程(a)で作製したインサートDNAを含むベクターを宿主細胞に導入する工程;
(c)工程(b)でベクターを導入した宿主細胞における発色の有無により、インサートDNAを含むベクターが導入された形質転換体か否かを判断する工程;
【請求項6】
宿主細胞が大腸菌であることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
インサートDNAを含むベクターが導入された形質転換体をスクリーニングするためのキットであって、請求項1~4のいずれか記載のベクターと、請求項5又は6に記載の方法を実施するための説明書を含むキット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は形質転換体のスクリーニングに用いることが可能なベクターや、かかるベクターを用いてインサートDNAを含むベクターが導入された形質転換体をスクリーニングする方法や、インサートDNAを含むベクターが導入された形質転換体をスクリーニングするためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子クローニングは、遺伝子工学実験の基礎技術の一つである。生命科学に関する基礎研究やバイオテクノロジーの応用分野等の様々な場面で日常的に利用されている。制限酵素が発見されて以降、遺伝子クローニングは汎用性の高い手法として浸透し、さらに近年では、DNA配列に依存しないシームレスクローニング(In-Fusion法等)の発達により、自由なDNA配列の改変が可能になっている。その一方で、クローニングが成功したかどうかを判別するスクリーニング方法は、現在でも限定的である。
【0003】
現在最も広く知られるスクリーニング方法は、「ブルー・ホワイトスクリーニング」である。β-ガラクトシダーゼ(β-galactosidase:β-gal)遺伝子の産物が無色の試薬である5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-D-ガラクトピラノシド(X-galactopyranoside:X-gal)を加水分解し、青い色素を生成する性質に基づく方法である。簡単に説明すると、まず、β-gal遺伝子の内部にインサートDNA配列(目的DNA配列)をライゲーションしたプラスミドベクターを作製する。そのプラスミドベクターを大腸菌(Escherichia coli)に形質転換し(Transformation)、X-galを含む寒天プレートに播種し一晩培養する。その後、形成された青色のコロニーはβ-gal遺伝子がそのままの状態(インサートDNAが入っていない、すなわちハズレ)を示し、白色のコロニーはβ-gal遺伝子が破壊された状態(インサートDNAが入っている、すなわちアタリ)を示すため、青色・白色で目的のコロニーをスクリーニングすることができる。
【0004】
しかしこの方法には、以下のような問題点がある。まず、形質転換体が白と青の中間色を示す場合があることや、インサートDNAが短い時にインサートDNAを有するコロニーとインサートDNAを有さないコロニーとの区別が難しいこと等により識別が難しく、信頼性がそもそも高いとはいえない。また、色素原基質としてX-galを培地に添加することに加え、β-gal遺伝子の発現を高める為にイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)も培地に添加する。これらの試薬は、熱や光に弱く不活化しやすいため、使用する直前に個別の寒天プレートに逐一塗り広げる等する必要があり、作業が非常に煩雑である。さらに、プラスミドベクターの宿主株として、野生型lacZの欠損に加えてLacZのωフラグメントのみをコードしているlacZΔM15遺伝子を持つ変異株を用いなければならないという制限もあった。
【0005】
上記「ブルー・ホワイトスクリーニング」に代わる技術も開発されている。例えば、プロモーター/オペレーター領域とGFP遺伝子の間にマルチクローニング部位を設けたベクター(非特許文献1参照)が開示されている。かかるベクターを用いれば、コロニーの緑色蛍光によってインサートの挿入の有無を判別することができる。さらに、GFP遺伝子の上流及び下流にマルチクローニング部位を設けたベクター(非特許文献2参照)や、GFPのオープンリーディングフレームの上流にストップコドンを設けたベクター(特許文献1、非特許文献3参照)が開示されている。
【0006】
また、「ブルー・ホワイトスクリーニング」方法のβ-gal遺伝子の代わりにGFP遺伝子を用いて、目的DNA配列挿入をGFP蛍光の有無によって確認する方法(特許文献2参照)が開示されている。この方法では、インサートDNAが導入された場合には発現するGFPの構造が変化することで緑色蛍光性が損なわれることを利用して、緑色蛍光を発しない株をインサートDNAが導入された株として選択するというものであった。この方法は、ブルー・ホワイトスクリーニングと比較すると偽陽性が少ない。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特表2012-501192号公報
【特許文献2】特開2001-204474号公報
【0008】

【非特許文献1】Inouye, S. et al., (1997). Gene 189, 159-162.
【非特許文献2】Tang, J., Liang, S., Zhang, J., Gao, Z., and Zhang, S. (2009) Analytical Biochemistry 388,173-174.
【非特許文献3】Banerjee, S., Kumar, J., Apte-Deshpande, A., and Padmanabhan, S. (2010). Microb. Cell Fact. 9, 30.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記非特許文献1に記載の方法では、コロニーの色の判別が難しいという問題や、IPTGを必要とするという問題があった。さらに、上記特許文献1及び非特許文献3に記載の方法では、GFP蛍光が出現することでクローニングの成否を判定するが、GFPだけではなく、挿入したインサートDNA断片も同時に翻訳されて発現するため、その毒性等で生育を阻害することが起こりうる。
【0010】
また、上記特許文献2に記載の方法では、基本的にはIPTG等の発現誘導剤を必要とすることからコストがかかる上、作業の煩雑さは根本的に変わっていない。しかも、突然変異が生じる等の何らかの要因でGFP蛍光が消失する場合もあり、偽陽性が生じる可能性も残されていた。そこで、本発明の課題は、IPTG等の発現誘導剤を必要とせず、かつ蛍光を発した株を選択(ポジティブセレクション)することでインサートDNAが導入されたベクターを含有する株をスクリーニング可能なベクターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、細胞性粘菌のミオシン調節軽鎖(myosin regulatory light chain:mlcR)遺伝子に着目し、mlcR遺伝子をコードするポリヌクレオチドと共にリボソーム結合部位(Ribosome binding site:RBS)をコードするポリヌクレオチドとGFP遺伝子コードするポリヌクレオチドを、汎用されているpUCベクターに組み込んで大腸菌を形質転換したところ、形質転換体において緑色蛍光を発することを確認した。さらに、mlcR遺伝子をコードするポリヌクレオチドの中でも、3’末端から少なくとも10bp(停止コドンは含まず)の領域を含むことで緑色蛍光の発色が確認できることを見いだし、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]以下の(1)又は(2)記載のポリヌクレオチドと、リボソーム結合サイトをコードするポリヌクレオチドと、発色団を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドとを順次備えたベクター。
(1)配列番号1に示すミオシン調節軽鎖(myosin regulatory light chain:mlcR)をコードするポリヌクレオチドの全長又は部分配列であって、前記配列番号1に示す塩基配列の少なくとも474~483番目の塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(2)上記(1)記載のポリヌクレオチドと少なくとも90%以上の配列同一性を有するポリヌクレオチド;
[2]発色団を有するタンパク質が、蛍光タンパク質であることを特徴とする上記[1]記載のベクター。
[3]リボソーム結合サイトをコードするポリヌクレオチドと、発色団を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドの間に4~20塩基のスペーサー配列を備えることを特徴とする上記[1]又は[2]記載のベクター。
[4]配列番号1に示す塩基配列の少なくとも474~483番目の塩基配列が、配列番号2に示す塩基配列であることを特徴とする上記[1]~[3]のいずれか記載のベクター。
[5]以下の工程(a)~(c)を備えた、インサートDNAを含むベクターが導入された形質転換体をスクリーニングする方法。
(a)上記[1]~[4]のいずれか記載のベクターにインサートDNAをライゲーションして、インサートDNAを含むベクターを作製する工程;
(b)工程(a)で作製したインサートDNAを含むベクターを宿主細胞に導入する工程;
(c)工程(b)でベクターを導入した宿主細胞における発色の有無により、インサートDNAを含むベクターが導入された形質転換体か否かを判断する工程;
[6]宿主細胞が大腸菌であることを特徴とする上記[5]記載の方法。
[7]インサートDNAを含むベクターが導入された形質転換体をスクリーニングするためのキットであって、上記[1]~[4]のいずれか記載のベクターと、上記[5]又は[6]に記載の方法を実施するための説明書を含むキット。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、IPTGを用いず、かつ蛍光の有無によって組換えコンストラクトをスクリーニングすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】プラスミドベクター「mlcR-RBS-Spacer-GFP-pUC19」の作製工程において、mlcR遺伝子とフォワードプライマー、リバースプライマーの位置関係を示した図である。
【図2】プラスミドベクター「mlcR-RBS-Spacer-GFP-pUC19」のマップを示す図である。
【図3】実施例1において、プラスミドベクター「mlcR-RBS-Spacer-GFP-pUC19」及び「GFP-pUC19」で形質転換した大腸菌をLB寒天培地に塗布して37℃で一晩暗黒環境下にて培養し、青色LED照射下で撮影した写真である。
【図4】実施例1において、緑色蛍光を発することが確認されたコロニーをLB培地で一晩暗黒環境下にて培養後、培養液を蛍光顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【図5】実施例1において、赤色蛍光を発することが確認されたコロニーをLB培地で一晩暗黒環境下にて培養後、培養液を蛍光顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【図6】実施例2において、(a)はmlcRの欠損部位を表す図であり、(b)は欠損mlcR-GFP形質転換体を培養し、GFPの蛍光強度(Z score)を蛍光顕微鏡で観察して計算した結果を示す図である。
【図7】実施例3において、GFP発現の有無における菌の生育速度及びプラスミドベクター収量を比較した結果を示す図である。(a)における横軸は時間、縦軸は生育開始時の細胞濃度を1とした場合の相対細胞濃度を示す。(b)における縦軸はプラスミドベクターの収量を示す。
【図8】実施例4において、連結した3つのDNA断片の概念図である。
【図9】実施例4において、3つのDNA断片を連結して作製したプラスミドベクターを大腸菌に形質転換して、緑色蛍光を有するコロニーを選択した後、コロニーPCRを行い、アガロース電気泳動を行った結果を示す図である。図中、矢印は約1500bpの位置を示す。
【図10】実施例5において、インサートDNAを含むプラスミドベクターを大腸菌に形質転換して、緑色蛍光を有するコロニーを選択した後、コロニーPCRを行い、アガロース電気泳動を行ってインサートDNAの有無を確認した結果を示す図である。横軸は緑色蛍光(GFP)が観察されなかったコロニーの割合、縦軸は緑色蛍光(GFP)が観察されなかったコロニーのうち、インサートDNAを有していたものの割合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明におけるベクターは、(1)配列番号1に示すミオシン調節軽鎖(mlcR)をコードする塩基配列の全長又は部分配列であって、前記配列番号1に示す塩基配列の少なくとも474~483番目の塩基配列を含むポリヌクレオチド;(2)上記(1)記載のポリヌクレオチドと90%以上の配列同一性を有するポリヌクレオチド;の(1)又は(2)記載のポリヌクレオチドと、リボソーム結合サイトをコードするポリヌクレオチドと、発色団を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドとを順次備えたベクター(以下、「本件ベクター」ともいう)であればよく、かかるベクターを用いれば、IPTGを用いず、かつ蛍光の有無によって組換えコンストラクトをスクリーニングすることが可能となる。

【0016】
本件ベクターにおけるミオシン調節軽鎖(myosin regulatory light chain:mlcR)は、アクチン上を動くモータータンパク質であるミオシンIIの構成要素である。かかるミオシン調節軽鎖は、細胞分裂、細胞の運動、細胞の形態変化等の機能に関与していることが知られている。

【0017】
上記ミオシン調節軽鎖の由来としては、細胞性粘菌(Dictyostelium discoideum)、真正粘菌(Physarum polycephalum)、襟鞭毛虫、海綿、線虫等の環形動物、ショウジョウバエ等の昆虫、ホヤ等の尾索動物、ギボシムシ等の半索動物、ウニ等の棘皮動物、ナメクジウオ等の頭索動物、ゼブラフィッシュ等の魚類、アフリカツメガエル等の両生類、ニワトリ等の鳥類、ヒト、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ウマ、ウシ、サル、ヒツジ、ヤギ、ブタ等の哺乳動物を挙げることができ、細胞性粘菌を好適に挙げることができる。

【0018】
ミオシン調節軽鎖(mlcR)をコードするポリヌクレオチドは、公知の文献やNCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/guide/)等のデータベースを検索して適宜入手することができる。細胞性粘菌由来のミオシン調節軽鎖(mlcR)の全長をコードするポリヌクレオチドとしては、配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドを挙げることができる。

【0019】
ミオシン調節軽鎖(mlcR)をコードするポリヌクレオチドの部分配列とは、ミオシン調節軽鎖(mlcR)の全長をコードするポリヌクレオチドの一部が欠損した配列を意味する。かかるミオシン調節軽鎖(mlcR)をコードするポリヌクレオチドの部分配列としては、
配列番号2に示す塩基配列(配列番号1に示す塩基配列の474~483番目の10塩基)や、
配列番号3に示す塩基配列(配列番号1に示す塩基配列の464~483番目の20塩基)や、
配列番号4に示す塩基配列(配列番号1に示す塩基配列の459~483番目の25塩基)や、
配列番号5に示す塩基配列(配列番号1に示す塩基配列の454~483番目の30塩基)や、
配列番号6に示す塩基配列(配列番号1に示す塩基配列の444~483番目の40塩基)や、
配列番号7に示す塩基配列(配列番号1に示す塩基配列の439~483番目の45塩基)や、
配列番号8に示す塩基配列(配列番号1に示す塩基配列の424~483番目の60塩基)や、
配列番号9に示す塩基配列(配列番号1に示す塩基配列の410~483番目の74塩基)や、
配列番号10に示す塩基配列(配列番号1に示す塩基配列の374~483番目の110塩基)や、
配列番号11に示す塩基配列(配列番号1に示す塩基配列の249~483番目の235塩基)や、
配列番号12に示す塩基配列(配列番号1に示す塩基配列の219~483番目の265塩基)や、
配列番号13に示す塩基配列(配列番号1に示す塩基配列の129~483番目の355塩基)からなるポリヌクレオチドを挙げることができる。

【0020】
本明細書において、「配列番号1に示すミオシン調節軽鎖(mlcR)をコードするポリヌクレオチドの全長又は部分配列であって、前記配列番号1に示す塩基配列の少なくとも474~483番目の塩基配列を含む」とは、配列番号1に示す塩基配列の少なくとも474~483番目の塩基配列、すなわち配列番号1に示すミオシン調節軽鎖(mlcR)をコードするポリヌクレオチド中の3’末端側の10塩基を含んでいればよいことを意味する。具体的には、配列番号1に示すミオシン調節軽鎖(mlcR)の全長をコードするポリヌクレオチドでもよく、配列番号1に示すミオシン調節軽鎖(mlcR)をコードするポリヌクレオチド中の3’末端側の10塩基を含んでいる限り、配列番号1に示すミオシン調節軽鎖(mlcR)中の5’末端側の任意の塩基が欠損した部分配列をコードするポリヌクレオチドでもよい。

【0021】
本明細書において、「少なくとも90%以上の配列同一性」とは、配列同一性が90%以上であることを意味し、好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、さらにより好ましくは99%以上、最も好ましくは100%の配列同一性を意味する。

【0022】
「上記(1)記載のポリヌクレオチドと少なくとも90%以上の配列同一性を有する塩基配列」とは、換言すると、「上記(1)記載のポリヌクレオチドにおいて、1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたポリヌクレオチド」であり、かつ、上記(1)記載のポリヌクレオチドと同等の機能を有する塩基配列である。ここで、「1若しくは数個の塩基配列が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたポリヌクレオチド」とは、ポリヌクレオチドの長さに応じて適宜調整できるが、例えば1~30個の範囲内、好ましくは1~20個の範囲内、より好ましくは1~15個の範囲内、さらに好ましくは1~10個の範囲内、さらにより好ましくは1~5個の範囲内、特に好ましくは1~3個の範囲内、最も好ましくは1~2個の範囲内の数のポリヌクレオチドが欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたポリヌクレオチドを意味する。これらポリヌクレオチドの変異処理は、化学合成、遺伝子工学的手法、突然変異誘発等の当業者に既知の任意の方法により行うことができる。

【0023】
本件ベクターにおけるリボソーム結合サイト(Ribosome binding site:RBS)をコードするポリヌクレオチドとは、原核生物のmRNAにおいて翻訳開始コドン(AUG、GUG、UUG、AUU、CUG)の約3~9塩基上流に位置するプリン塩基(アデニン(A)、グアニン(G))に富むポリヌクレオチドであり、mRNAにリボソームを動員するのを助け、リボソームを開始コドンに配置することによってタンパク質合成を開始させるサイトである。リボソーム結合サイトをコードするポリヌクレオチドとしては、シャイン・ダガルノ配列(Shine-Dalgarno sequence)に基づいて設計することができる。具体的には、プリン塩基(アデニン(A)、グアニン(G))に富む4~9塩基からなるポリヌクレオチドを挙げることができ、GGAG、AGGA、GGAGG、AGGAG、GGAGGT、AGGGAG、GAGGAG、AGGAGG、AGGAGGT、AGAGGAGA等を挙げることができる。

【0024】
リボソーム結合サイトとして機能する任意のプリン塩基(アデニン(A)、グアニン(G))に富む配列の活性は、任意の好適な方法を使用して試験することができる。例えば、発現は、国際公開第2004/046321号パンフレットの実施例1に記載のとおり、mRNAによりコードされるレポータータンパク質の活性を計測することにより計測することができる。

【0025】
本件ベクターにおける発色団とは、タンパク質が色をもつために必要とされる原子団を意味し、具体的には、不飽和結合系に作用して共役系を延長したり電荷の偏りを偏重させる原子団である。かかる発色団を有するタンパク質としては、蛍光タンパク質、色素タンパク質、発光タンパク質を挙げることができ、蛍光タンパク質を好適に挙げることができる。

【0026】
蛍光タンパク質としては、緑色蛍光タンパク質(GFP)、シアン蛍光蛋白質(CFP)、黄色蛍光蛋白質(YEP)、赤色蛍光蛋白質(RFP)、青色蛍光蛋白質(BFP)、イソギンチャクモドキ赤色蛍光タンパク質(DsRed)、ルシフェラーゼ(LUC)、mCherry等が挙げられ、これらの改変体等を利用してもよい。改変体としては、EGFP、ECFP、EYFP、ERFP、EBFP、mFruits、mRuby等が挙げられる。

【0027】
色素タンパク質としては、色素と結合しているタンパク質であればよく、ヘモグロビン、チトクロム、ミオグロビン、カタラーゼ、ペルオキシダーゼ等のヘムタンパク質や、ヘモシアニン、フェリチン等の金属錯化合物や、フィコエリトリン、フィコシアニン等のフィコ色素タンパク質等を挙げることができる。

【0028】
発光タンパク質としては、ルシフェリン等を挙げることができる。

【0029】
リボソーム結合サイトをコードするポリヌクレオチドと発色団を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドの間には、任意の塩基配列からなるスペーサー配列を含むことが好ましい。スペーサー配列としては、4~20塩基、好ましくは5~11塩基、より好ましくは6~10塩基からなるポリヌクレオチドであり、かかる配列により、リボソーム結合サイトをコードするポリヌクレオチドと発色団を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドにおける開始コドンが、翻訳制御機能を発揮できる適切な距離で配置されることなる。スペーサー配列の塩基としては特に制限されず、アデニン、グアニン、シトシン、チミンのいずれの塩基でもよい。

【0030】
本明細書における、
(a)本件ベクターにインサートDNAをライゲーションして、インサートDNAを含むベクターを作製する工程;
(b)工程(a)で作製したインサートDNAを含むベクターを宿主細胞に導入する工程;
(c)工程(b)でベクターを導入した宿主細胞における発色の有無により、インサートDNAを含むベクターが導入された形質転換体か否かを判断する工程;
の工程(a)~(c)を備えた、インサートDNAを含むベクターが導入された形質転換体をスクリーニングする方法(以下、「本件スクリーニング方法」ともいう)におけるインサートDNAとは、ベクターに連結するDNAであれば特に制限されず、目的とするタンパク質遺伝子の全長又は一部を含むDNAや、shRNA(small hairpin RNA)、siRNA(short interfering RNA)、miRNA(micro-RNA)、核酸アプタマー、デゴイ、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム等の機能性核酸を発現しうるDNAを挙げることができ、生体由来のDNAでも、人工的に合成されたDNAでもよい。また、かかるインサートDNAは、宿主細胞において発現が最適化されるように改変されたDNAであってもよい。

【0031】
本件スクリーニング方法におけるベクターとしては、原核生物内でインサートDNAをコードするポリヌクレオチドを発現できるベクターであれば良く、プラスミドベクター、フォスミド、コスミド、BAC(bacterial artificial chromosome)ベクター等を挙げることができ、プラスミドベクターであることが好ましい。プラスミドベクターとしては、pUC18、pUC19、pBR322、pBR325、pGEM3、pGEM4等の大腸菌で複製可能なプラスミドベクターや、pUB110、pE194、pTP5、pC194等の枯草菌で複製可能なプラスミドベクターを挙げることができる。

【0032】
また、上記ベクターには、プロモーター、複製開始点、オペレーター、薬剤耐性遺伝子、マルチクローニング部位、異化活性化タンパク質結合サイト(Catabolite activator protein)を含んでもよい。

【0033】
上記プロモーターとしては、T7プロモーター、lacプロモーター、trpプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーター、PSEプロモーター、SP01プロモーター、SP02プロモーター、penPプロモーター等を挙げることができる。またP trpを2つ直列させたプロモーター(P trp×2)、tacプロモーター、let1プロモーター、lacT7プロモーターのように人為的に設計改変されたプロモーター等も用いることができる。

【0034】
上記複製開始点としては、用いる宿主細胞に合わせて適宜選択すればよく、大腸菌を宿主細胞とする場合にはpBR322由来の複製開始点を挙げることができる。

【0035】
上記オペレーターとしては、用いる宿主細胞に合わせて適宜選択すればよく、大腸菌を宿主細胞とする場合にはlacオペレーターを挙げることができる。

【0036】
上記薬剤耐性遺伝子としては、アンピシリン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子等を挙げることができる。

【0037】
本件ベクターにインサートDNAをライゲーションする場合において、インサートDNAをライゲーションする位置は、目的に応じて適宜選択することができる。

【0038】
ポジティブセレクションによりスクリーニングを行う場合には、インサートDNAをライゲーションする位置として、「配列番号1に示すミオシン調節軽鎖(mlcR)をコードする塩基配列の全長又は部分配列であって、前記配列番号1に示す塩基配列の少なくとも474~483番目の塩基配列を含むポリヌクレオチド、リボソーム結合サイトをコードするポリヌクレオチド、及び発色団を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド」からなる塩基配列以外の位置、好ましくは「発色団を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドの3’末端の下流」を選択することができる。

【0039】
一方、ネガティブセレクションスクリーニングを行う場合には、インサートDNAをライゲーションする位置として、「配列番号1に示すミオシン調節軽鎖(mlcR)をコードする塩基配列の全長又は部分配列であって、前記配列番号1に示す塩基配列の少なくとも474~483番目の塩基配列を含むポリヌクレオチド、リボソーム結合サイトをコードするポリヌクレオチド、及び発色団を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドからなる塩基配列」中のいずれかの位置や、「配列番号1に示すミオシン調節軽鎖(mlcR)をコードする塩基配列の全長又は部分配列であって、前記配列番号1に示す塩基配列の少なくとも474~483番目の塩基配列を含むポリヌクレオチ」と「リボソーム結合サイトをコードするポリヌクレオチド」との間、「リボソーム結合サイトをコードするポリヌクレオチド」と「発色団を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド」との間の位置を選択することができる。また、「配列番号1に示すミオシン調節軽鎖(mlcR)をコードする塩基配列の全長又は部分配列であって、前記配列番号1に示す塩基配列の少なくとも474~483番目の塩基配列を含むポリヌクレオチド、リボソーム結合サイトをコードするポリヌクレオチド、及び発色団を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドからなる塩基配列」の全部又は一部配列とインサートDNAが置換するようにインサートDNAを本件ベクターにライゲーションしてもよい。

【0040】
インサートDNAを含むベクターを宿主細胞に導入する方法は特に制限されず、カルシウムリン酸法、エレクトロポレーション法等の公知の方法を挙げることができる。

【0041】
本件スクリーニング方法における宿主細胞としては真正細菌又は枯草菌、すなわち原核生物であればよく、真正細菌としては、大腸菌等のグラム陰性細菌や枯草菌等のグラム陽性細菌を挙げることができ、大腸菌を好適に挙げることができる。

【0042】
宿主細胞における発色の有無の確認は、目視観察や顕微鏡観察を挙げることができる。観察の際には、用いる蛍光団を有するタンパク質における蛍光団の特徴に合わせた特定の波長の光を照射したうえで観察したり、オレンジフィルター等のフィルターを通して観察してもよい。また、蛍光タンパク質の発色を観察する場合には、蛍光顕微鏡を用いてもよい。

【0043】
本発明におけるキットとしては、インサートDNAを含むベクターが導入された形質転換体をスクリーニングするためのキットであって、上記のいずれか記載の本件ベクターと、上記本件スクリーニング方法に記載の方法を実施するための説明書を含むキット(以下、「本件キット」ともいう)であればよい。

【0044】
本件キットには、本件ベクター及び上記説明書の他に、例えば、滅菌水、生理食塩水、界面活性剤、緩衝剤、保存剤、形質転換用試薬等を必要に応じて含んでいてもよい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの
例示に限定されるものではない。なお、大腸菌の培養、プラスミドベクターの作製、蛍光顕微鏡観察、大腸菌の増殖測定については以下の手順によって行った。
【実施例】
【0046】
[大腸菌の培養]
大腸菌はK-12由来株のHST08(タカラバイオ社)を用いた。LB培地は市販のLB培地(日本ジェネティクス社)を用いた。LB寒天培地は、市販寒天(和光純薬工業社)を上記LB培地に追添加し作製した。培養は、37℃にて暗黒環境下で行なった。
【実施例】
【0047】
[プラスミドベクターの作製]
(1)GFP発現プラスミドベクター「GFP-pUC19」の作製
mEGFP(monomeric enhanced green fluorescent protein:以下、単に「GFP」ともいう)遺伝子が挿入されていたプラスミドベクターGFP-pUC19kan(ファスマック社)を鋳型に、以下のプライマーを使ってPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)を行い、mEGFP遺伝子を増幅した。
フォワードプライマー 配列番号14
GFP_FOR:GGTCTAGAGATCTATGGTTAGTAAAGGAG
リバースプライマー 配列番号15
GFP_REV:GCCCGGATCCCTACTTATACA
【実施例】
【0048】
得られたPCR増幅産物を制限酵素XbaI(「5’-TCTAGA-3’」)及びBamHI(「5’-GGATCC-3’」)で処理し、pUC19ベクター(タカラバイオ社)に挿入し、プラスミドベクター「GFP-pUC19」を作製した。なお、上記フォワードプライマーGFP_FORには、XbaI、BglIIサイト及びGFPの開始コドン(下線:ATG)が含まれ、上記リバースプライマーGFP_REVには、BamHIサイト及び停止コドン(下線:CTA)が含まれる。
【実施例】
【0049】
(2)mlcR、RBS、スペーサー、及びGFP発現プラスミドベクター「mlcR-RBS-Spacer-GFP-pUC19」の作製
(2-1)mlcR遺伝子の増幅
発明者らが公知の手法に基づいて作製した細胞性粘菌cDNAライブラリーを鋳型として、耐熱性DNA複製酵素PrimeSTAR Max DNA Polymerase(タカラバイオ社)を用いて、PCRでmlcR遺伝子を増幅した。このときPCRは増幅効率を高めるために2種類のリバースプライマーを用いて2段階で行った。1回目のPCRは、5’末端側に制限酵素XbaI、BglII切断サイトを含むフォワードプライマー(配列番号16:mlcR-FW 5’-GGTCTAGAGATCTATGGCCTCAAC-3’と、3’末端側にRBS及びスペーサーの一部の配列の相補配列を含むリバースプライマー(配列番号17:mlcR-RV1 5’-CCACCTCCTTTCTTACTGAAGAG-3’)を設計して用いた。2回目のPCRは、上記フォワードプライマー(配列番号16:mlcR-FW)と、3’末端側にRBS、スペーサーの全配列及びBamHI切断サイトの相補配列を含むリバースプライマー(配列番号18:mlcR-RV2 5’-TAGGATCCACCACCTCCTTTC-3’)を設計して用いた。mlcR遺伝子と上記フォワードプライマー、リバースプライマーの位置関係を示した図を図1に示す。
【実施例】
【0050】
(2-2)mlcR、RBS、スペーサー、及びGFP発現プラスミドベクターの作製
上記で得られたmlcR遺伝子の増幅産物をアガロースゲル電気泳動し、分離及び精製後、BglII及びBamHIを用いて制限酵素消化し、同様にBglIIで消化した上記プラスミドベクター「GFP-pUC19」とライゲーションを行い、プラスミドベクター「mlcR480G-RBS-Spacer-GFP-pUC19」を作製した。さらに、大腸菌K-12由来株のHST08(タカラバイオ社)に上記プラスミドベクター「mlcR480G-RBS-Spacer-GFP-pUC19」を導入し、アンピシリン含有LB寒天培地で培養して形質転換を行なった。得られた形質転換体をさらにアンピシリン含有LB培地で培養後、市販のプラスミドベクター精製キット:FastGene Plasmid Mini(日本ジェネティクス社)によりプラスミドベクター「mlcR480G-RBS-Spacer-GFP-pUC19」を精製した。
【実施例】
【0051】
なお、配列番号17に示すmlcR-RV1の3~8番目の6塩基、及び配列番号18に示すmlcR-RV2の12~17番目の6塩基はRBS(リボソーム結合サイト)の相補配列、配列番号17に示すmlcR-RV1の1~2番目の塩基はスペーサー配列の一部の相補配列、配列番号18に示すmlcR-RV2の3~11番目の塩基はスペーサー配列の相補配列である。
【実施例】
【0052】
ここで、上記のmlcR-RV1及びmlcR-RV2プライマーを使うことによって配列番号1に示すmlcRをコードするポリヌクレオチドの480位に塩基置換(本来アデニン(A)がグアニン(G))が生じる。そこで、生じた塩基置換を修正(グアニン(G)をアデニン(A)に修正)するために、フォワードプライマー:mlcR-repair-FW(配列番号19:5’-TTCAGTAAAAAAGGAGGTGGTGGAT-3’)及びリバースプライマー:mlcR-repair-RV(配列番号20:5’-TCCTTTTTTACTGAAGAGAGTATTAACGAAAAG-3’)を用いたInverse PCRにより増幅した。増幅産物を大腸菌K-12由来株のHST08(タカラバイオ社)に導入してアンピシリン含有LB寒天培地で培養して形質転換を行なった。得られた形質転換体をさらにアンピシリン含有LB培地で培養後、上記と同様の方法でプラスミドベクターを精製し、プラスミドベクター「mlcR-RBS-Spacer-GFP-pUC19」を得た。得られたプラスミドベクターのマップを図2に示す。図2中、CAPはcatabolite activator protein binding site、Placはlac promoter、lacOはlac operatorを示す。
【実施例】
【0053】
(3)RBS、スペーサー、及びGFP発現プラスミドベクター「RBS-Spacer-pUC19」の作製
mlcRなしのコントロールとして、上記プラスミドベクター「mlcR-RBS-Spacer-GFP-pUC19」をテンプレートとして、mlcRをコードするポリヌクレオチドの3’末端のさらに3’側(下流)のグアニン(G)を含むフォワードプライマー:RBS-FW(配列番号21:5’-ATTCTAGAGGAGGTGGTGGATC-3’)と上記リバースプライマー:GFP_REV(配列番号15)を用いてPCRにより増幅後、制限酵素(XbaI、BamHI)処理したpUC19に挿入して、プラスミドベクター「RBS-Spacer-pUC19」を作製した。
【実施例】
【0054】
(4)欠損mlcR-GFPキメラ遺伝子の作製
上記(2)で作製したプラスミドベクター「mlcR-RBS-Spacer-GFP-pUC19」を鋳型に、mlcR遺伝子の全長483bpにおける3’末端(停止コドンは含まず)から10、20、25、30、40、45、60、74,110、235、265、355bpの部分塩基配列をPCRによって増幅し、mlcR遺伝子の5’末端側から所定の領域を欠損させた欠損mlcR-GFPキメラ遺伝子断片(それぞれ順にmlcR_R10、mlcR_R20、mlcR_R25、mlcR_R30、mlcR_R40、mlcR_R45、mlcR_R60、mlcR_R74、mlcR_R110、mlcR_R235、mlcR_R265、mlcR_R355断片)を作製した。PCRに用いたプライマーは、増幅産物の5’末端側にXbaI切断サイト、3’側にBamHI切断サイトを含むように設計した。
【実施例】
【0055】
得られたそれぞれのmlcRの部分塩基配列をXbaI及びBamHIで消化し、その後同じXbaI及びBamHIで制限酵素処理したpUC19とライゲーションすることで、プラスミドベクター「mlcR-RBS-Spacer-GFP-pUC19」における配列番号1に示すmlcRの全長(full)を、mlcRの5’末端から所定の領域を欠損させた部分塩基配列(配列番号2~13)に置き換えたプラスミドベクター「mlcR_10-RBS-Spacer-GFP-pUC19」「mlcR_20-RBS-Spacer-GFP-pUC19」「mlcR_25-RBS-Spacer-GFP-pUC19」「mlcR_30-RBS-Spacer-GFP-pUC19」「mlcR_40-RBS-Spacer-GFP-pUC19」「mlcR_45-RBS-Spacer-GFP-pUC19」「mlcR_60-RBS-Spacer-GFP-pUC19」「mlcR_74-RBS-Spacer-GFP-pUC19」「mlcR_110-RBS-Spacer-GFP-pUC19」「mlcR_235-RBS-Spacer-GFP-pUC19」「mlcR_265-RBS-Spacer-GFP-pUC19」「mlcR_355-RBS-Spacer-GFP-pUC19」を作製した。
【実施例】
【0056】
(5)mlcR、RBS、及びmRuby3発現プラスミドベクター「mlcR-RBS-Spacer-mRuby-pUC19」の作製
上記mEGFP遺伝子の代わりにmRuby3遺伝子(Bajar, B.T. et al., 2016. Improving brightness and photostability of green and red fluorescent proteins for live cell imaging and FRET reporting. Sci Rep, 6, p.20889.)を用いた以外は、上記と同様の用法を行って、「mlcR-RBS-Spacer-mRuby-pUC19」を作製した。
【実施例】
【0057】
[蛍光顕微鏡観察]
カバーガラス(24×60mm:松浪硝子工業社)に大腸菌培養液を5μL滴下し、その上に1.5%アガロース片(8×8×1mm)を被せ、さらにカバーガラス(18×18mm:松浪硝子工業社)を被せ、励起光源として水銀ランプが搭載された倒立型蛍光顕微鏡(Nikon)を用いて、観察を行なった。mEGFP又はmRuby3の蛍光のZ scoreは、以下のように計算した。なお、大腸菌の蛍光値は、大腸菌内の任意の1箇所を代表値として用いた。背景蛍光は、カバーガラス上で大腸菌が観察されない任意箇所を用いた。
【実施例】
【0058】
Z score=(大腸菌の蛍光値-10箇所の背景蛍光の平均値)/(10箇所の背景蛍光の標準偏差)
【実施例】
【0059】
[大腸菌の増殖測定]
分光光度計(島津製作所)を用いて、600nmでの吸光度を測定し求めた。
【実施例】
【0060】
[実施例1]形質転換体の観察
上記プラスミドベクター「mlcR-RBS-Spacer-GFP-pUC19」で形質転換した大腸菌(mlcR-GFP/pUC19株)、及びコントロールとして上記プラスミドベクター「GFP-pUC19」で形質転換した大腸菌(GFP/pUC19株)をLB寒天培地に塗布して37℃で一晩暗黒環境下にて培養し、青色LED照射下で撮影した写真を図3に示す。図3中、左上がGFP/pUC19株、右下がmlcR-GFP/pUC19株である。
【実施例】
【0061】
さらに、LB培地を加えたカルチャーチューブに、上記で緑色蛍光を発することが確認されたコロニーを加えて一晩暗黒環境下にて培養後、大腸菌培養液を上述の蛍光顕微鏡観察方法によって観察した結果を図4に示す。
【実施例】
【0062】
図3、図4より、mlcR-GFP/pUC19株では、LB培地で培養するだけで恒常的に緑色蛍光を発することが確認された。したがって、GFPをコードするポリヌクレオチドの上流にmlcR遺伝子及びRBSをコードするポリヌクレオチドを配置するだけで、GFPを恒常的に発現させることが可能であることが明らかとなった。
【実施例】
【0063】
なお、上記における「mlcR-RBS-Spacer-GFP-pUC19」の代わりに上記「mlcR480G-RBS-Spacer-GFP-pUC19」で大腸菌を形質転換した場合も、同様に恒常的に緑色蛍光を発することが確認された(図示なし)。すなわち、mlcRをコードする塩基配列の一部が変異した配列であっても、恒常的に緑色蛍光を発することに影響はないことが確認された。
【実施例】
【0064】
さらに、上記における「mlcR-RBS-Spacer-GFP-pUC19」の代わりに「mlcR-RBS-Spacer-mRuby-pUC19」で大腸菌を形質転換した以外は、上記と同様の方法で蛍光顕微鏡観察を行った。結果を図5に示す。図5に示すように、mRuby3をコードするポリヌクレオチドの上流にmlcR遺伝子及びRBSをコードするポリヌクレオチドを配置するだけで、恒常的に赤色蛍光を発することが可能であることが明らかとなった。
【実施例】
【0065】
[実施例2]欠損mlcR-GFP形質転換体の蛍光強度
mlcR全長の塩基配列の代わりに、mlcRの5’末端から所定の領域を欠損させた部分塩基配列に置き換えたそれぞれのプラスミドベクターを用い、実施例1と同様の方法で大腸菌K-12由来株のHST08に形質転換して培養し、GFPの蛍光強度を蛍光顕微鏡で観察した結果を図6に示す。図6中、(a)はmlcRの欠損部位を表す図であり、(b)はそれぞれのプラスミドベクターで形質転換した株のGFP蛍光強度(Z score)を示す図である。また、図6中「mlcR_10」、「mlcR_20」「mlcR_25」「mlcR_30」「mlcR_40」「mlcR_45」「mlcR_60」「mlcR_74」「mlcR_110」「mlcR_235」「mlcR_265」「mlcR_355」、「mlcR_full」はそれぞれ上記で作製したプラスミドベクター「mlcR_10-RBS-Spacer-GFP-pUC19」、「mlcR_20-RBS-Spacer-GFP-pUC19」「mlcR_25-RBS-Spacer-GFP-pUC19」「mlcR_30-RBS-Spacer-GFP-pUC19」「mlcR_40-RBS-Spacer-GFP-pUC19」「mlcR_45-RBS-Spacer-GFP-pUC19」「mlcR_60-RBS-Spacer-GFP-pUC19」「mlcR_74-RBS-Spacer-GFP-pUC19」「mlcR_110-RBS-Spacer-GFP-pUC19」「mlcR_235-RBS-Spacer-GFP-pUC19」「mlcR_265-RBS-Spacer-GFP-pUC19」「mlcR_355-RBS-Spacer-GFP-pUC19」、「mlcR-RBS-Spacer-GFP-pUC19」で形質転換した株を表す。さらに、GFPはプラスミドベクターGFP/pUC19株、RBS+Spacerはプラスミドベクター「RBS-Spacer-pUC19」で形質転換した株を表す。
【実施例】
【0066】
図6(b)に示すように、mlcR遺伝子の5’末端側の一部を欠損してもGFPの蛍光が観察された。特に、蛍光強度に関して、mlcR遺伝子の3’末端から10塩基の部分塩基配列を用いた場合、コントロールのRBS+Spacerと比較して27倍ものZ scoreを有していた。また、mlcR遺伝子の3’末端から40塩基、235塩基、265塩基の部分配列を用いた場合、部分塩基配列にも関わらずmlcR遺伝子全長を用いた場合と同様のZ scoreを有し、mlcR遺伝子の3’末端から25塩基の部分塩基配列を用いた場合には、mlcR遺伝子全長を用いた場合の約2倍ものZ scoreを有していた。また、図6(b)に示すように、「RBS+Spacer」や「GFP」ではほとんど蛍光が見られなかった。かかる結果より、配列番号1に示すミオシン調節軽鎖(mlcR)をコードする塩基配列の少なくとも474~483番目の塩基配列を含むポリヌクレオチドと、リボソーム結合サイトをコードするポリヌクレオチドにより、リボソーム結合サイトの下流にある遺伝子を高発現させることが可能であることが明らかとなった。
【実施例】
【0067】
[実施例3]GFPの発現による生育とプラスミドベクター収量への影響
GFPを発現させることよるクローニングへの悪影響がないか調べた。まず、GFP発現の有無における菌の生育速度を比較した。培養はLB培地で行った。その結果、GFP蛍光なしの株(pUC19株:プラスミドベクター「pUC19」で形質転換した株)の生育とGFP蛍光ありの株(mlcR-GFP/pUC19株)の生育は同程度であった(図7(a))。図7(a)中、横軸は培養時間、縦軸は培養開始時を1とした場合の相対細胞密度(relative cell density)を吸光度測定した結果である。また、それぞれの株から公知の手法でプラスミドベクターを精製し、プラスミドベクターの収量を比較した。プラスミドベクターの収量は、分光光度計(島津製作所社)を用いて、260nmでの吸光度を測定し求めた。その結果、GFP蛍光ありの株(mlcR-GFP/pUC19株)の方が平均的にGFP蛍光なしのpUC19株に対して収量が約2倍であった(図7(b))。上記結果から、GFP発現によるクローニングに対する悪影響は観察されず、かつプラスミドベクターの収量が多いことが明らかとなった。
【実施例】
【0068】
[実施例4]蛍光の有無よる、インサートDNAを含むベクターが導入された形質転換体の判断-1
pUC19、上記プラスミドベクター「mlcR_25-RBS-Spacer-GFP-pUC19」、又はmRuby3-pUC57(Genewiz社)を鋳型とし、以下のプライマーを用いてPCR法により3つのDNA断片を増幅した。まず、pUC19ベクターを増幅するために、pUC19を鋳型として、フォワードプライマー:linear_FOR(5’-GGCGTAATCATGGTCATAGCT-3’:配列番号22)、及びリバースプライマー:linear_REV(5‘-TAATCGCCTTGCAGCACATC-3’:配列番号23)を用いて増幅した。また、mlcRの3’末端から25bp(mlcR25)、RBS、スペーサー及びGFP遺伝子(停止コドンを含む)からなる断片を増幅するために「mlcR_25-RBS-Spacer-GFP-pUC19」を鋳型として、フォワードプライマー:mlcR25-GFP_FW(5’-GACCATGATTACGCCCGTTAATACTCTCTTCAGTAA-3’:配列番号24)、及びリバースプライマー:mlcR25-GFP_RV(5’-CTTACTTACCATAGATCTCTACTTATACAATTCATCC-3’:配列番号25)を用いて増幅した。さらに、インサートDNAとしてのmRuby3遺伝子断片を増幅するためにmRuby3-pUC57を鋳型として、フォワードプライマー:mRuby_FW(5’-TTGTATAAGTAGAGATCTATGGTAAGTAAGGGAGA-3’:配列番号26)、及びリバースプライマー:mRuby_RV(5’-GCTGCAAGGCGATTAGGATCCTTACTTGTACAGC-3’:配列番号27)を用いて増幅した。また、市販のシームレスクローニングキット:In-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ社)を用いて、1)上記pUC19ベクター断片と、2)上記mlcRの3’末端から25bp(mlcR25)、RBS、スペーサー及びGFP遺伝子(停止コドンを含む)からなる断片と、3)上記mRuby遺伝子断片の1)~3)の3つを連結させた。上記3つのDNA断片の概念図を図8に示す。図8中、GOIはインサートDNA(gene-of-interest:714bpのmRuby遺伝子断片)を表す。
【実施例】
【0069】
上記で作製したベクターを大腸菌に形質転換して、緑色蛍光を有するコロニーを8個選択してコロニーPCRを行い、アガロース電気泳動を行った結果を図9に示す。図9から明らかなように、緑色蛍光を示したすべてのコロニーにおいて、714bpのインサートDNA(mRuby遺伝子断片)が導入されていることが確認された。よって、本発明のベクターを用いれば、緑色蛍光を示すコロニーを選択(ポジティブセレクション)することによってインサートDNAを含む大腸菌を選択可能であること、換言すれば、蛍光の有無によって、インサートDNAを含むベクターが導入された形質転換体か否かを判断できることが確認された。なお、コロニーはすべて緑色蛍光であったことから、インサートDNAであるmRuby3は、遺伝子としては存在しているものの発現していないと考えられる。また、mlcR25の5’末端側からGFPの3’末端側までが760bp、mRuby遺伝子が714bpのため、増幅産物は合わせて約1500bpになる。
【実施例】
【0070】
上記実施例の結果より、一般的な培地以外に必要な試薬はなく、大腸菌が生来持っている遺伝子発現方法を活用し、大腸菌コロニーの蛍光を観察するだけで、安価で簡便にクローニングが成功したかどうか判別することができる。さらに、従来はGFP蛍光の”消失”によってインサートDNAを選択する「ネガティブスクリーニング」しかできなかったが、逆に蛍光を”発する”ことでクローニングが成功したかどうか判定する「ポジティブスクリーニング」も可能な技術である。さらに、ネガティブセレクション方法では、培地組成の影響等、何らかの要因でGFP蛍光が消失する場合もあり、偽陽性が生じる可能性も残されていたが、上記ポジティブスクリーニングではそのような偽陽性の可能性をは除することができる。
【実施例】
【0071】
[実施例5]蛍光の有無よる、インサートDNAを含むベクターが導入された形質転換体の判断-2
上記プラスミドベクター「mlcR_25-RBS-Spacer-GFP-pUC19」を制限酵素XbaI及びBamHIで処理してGFP遺伝子(5’-XbaI-mlcR_25-RBS-Spacer-GFP-BamHI-3’)を切断した。また、配列番号28に示す細胞性粘菌α-チューブリン遺伝子の5’側に制限酵素XbaIサイト及びBglIIサイト(5’-TCTAGAGATCT-3’:配列番号29)、3’側にBamHIサイト(5’-GGATCC-3’:配列番号30)をPCR法によって付加してインサートDNAを調製した。つぎに、上記インサートDNAを上記GFP遺伝子を切断したプラスミドベクターとライゲーションし、大腸菌に形質転換して上記LB培地で37℃にて培養した。コントロールとしてライゲーションの際に反応液に上記インサートDNAなしで行ったプラスミドベクターを大腸菌に形質転換し、同様に培養した。培養後、それぞれ青色LED照射下で観察を行うと共に上記実施例4と同様にコロニーPCR及びアガロース電気泳動によりインサートDNAの有無を確認した。結果を図10に示す。図10において、横軸はGFP蛍光が観察されなかったコロニーの割合、すなわちランダムにコロニーを選択する場合に目的とするインサートDNAが入ったコロニーを選択できる理論的な確率であり、縦軸はGFPの蛍光が観察されなかったコロニーのうち、インサートDNAが入っていたものの割合を示す。
【実施例】
【0072】
図10に示すように、GFP蛍光が観察されなかったコロニーにおいて90%以上の確率でインサートDNAが入っていた。したがって、本発明のベクターを用いれば、緑色蛍光を失ったコロニーを選択(ネガティブセレクション)することによってインサートDNAを含む大腸菌を選択可能であること、換言すれば、蛍光の有無によって、インサートDNAを含むベクターが導入された形質転換体か否かを判断できることが確認された。特に、たとえ緑色蛍光を失ったコロニーが少ない場合であっても、目的とするインサートDNAを含むベクターが導入された形質転換体を選べることができるという点は、遺伝子クローニンを行うに当たって有用である。具体的には、図10の矢印で示す位置のように、緑色蛍光を失ったコロニーがわずか6%しかない場合であっても、90%以上の確率でインサートDNAを含む大腸菌を選択できる。さらに、通常、蛍光観察に紫外線照射が用いられるが、この場合には紫外線照射により形質転換体のDNAが損傷する可能性や、作業者の手に紫外線が照射される可能性が生じる。本発明のベクターを用いれば蛍光強度が強く、紫外線を用いずにLED照射でも十分に蛍光観察ができる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
遺伝子クローニングを行う際のクローニングの成否確認を行う方法として利用される。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
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【図9】
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【図10】
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