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明細書 :赤血球保護剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 令和元年12月12日(2019.12.12)
発明の名称または考案の名称 赤血球保護剤
国際特許分類 A61P   7/00        (2006.01)
A61P   7/06        (2006.01)
A61K  35/18        (2015.01)
A61K  47/42        (2017.01)
FI A61P 7/00
A61P 7/06
A61K 35/18
A61K 47/42
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 18
出願番号 特願2018-568621 (P2018-568621)
国際出願番号 PCT/JP2018/005391
国際公開番号 WO2018/151243
国際出願日 平成30年2月16日(2018.2.16)
国際公開日 平成30年8月23日(2018.8.23)
優先権出願番号 2017028738
優先日 平成29年2月20日(2017.2.20)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DJ , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JO , JP , KE , KG , KH , KN , KP , KR , KW , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT
発明者または考案者 【氏名】西堀 正洋
【氏名】和氣 秀徳
【氏名】衷 輝
【氏名】森 秀治
【氏名】阪口 政清
出願人 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100088904、【弁理士】、【氏名又は名称】庄司 隆
【識別番号】100124453、【弁理士】、【氏名又は名称】資延 由利子
【識別番号】100135208、【弁理士】、【氏名又は名称】大杉 卓也
審査請求 未請求
テーマコード 4C076
4C087
Fターム 4C076AA22
4C076BB18
4C076CC14
4C076EE41Q
4C076FF63
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB36
4C087CA04
4C087DA17
4C087MA05
4C087NA03
4C087ZA55
要約 赤血球含有溶液、例えば赤血球濃縮液をより長期間保存でき、より安全に使用するための赤血球保護剤を提供する。赤血球を長期保存すると赤血球膜表面にホスファチジルセリン(Phosphatidylserine: PS)が発現する。本発明のヒスチジンリッチ糖タンパク質(HRG)を有効成分として含有する赤血球保護剤によれば、HRGが赤血球表面のPS発現を抑制し、赤血球含有溶液を長期間保存でき、より安全に使用することができる。
特許請求の範囲 【請求項1】
ヒスチジンリッチ糖タンパク質を有効成分として含有する、赤血球保護剤。
【請求項2】
赤血球の保護が、ヒスチジンリッチ糖タンパク質により赤血球膜表面のホスファチジルセリンの発現を抑制することによる、請求項1に記載の赤血球保護剤。
【請求項3】
赤血球の保護が、赤血球細胞内のカルシウムイオン濃度を低下することによる、請求項1に記載の赤血球保護剤。
【請求項4】
赤血球の保護が、赤血球細胞内の抗酸化酵素の遊離を抑制することによる、請求項1に記載の赤血球保護剤。
【請求項5】
ヒスチジンリッチ糖タンパク質を有効成分として含有する、赤血球含有溶液の安定化剤。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載の赤血球保護剤を含む、赤血球含有溶液の安定化剤。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の安定化剤を赤血球含有溶液に添加することを特徴とする、赤血球含有溶液の安定化方法。
【請求項8】
ヒスチジンリッチ糖タンパク質を有効成分として含有する、赤血球膜表面のホスファチジルセリン発現抑制剤。
【請求項9】
ヒスチジンリッチ糖タンパク質を赤血球含有溶液に添加することを特徴とする、赤血球膜表面のホスファチジルセリン発現抑制方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、赤血球保護剤に関する。より詳しくはヒスチジンリッチ糖タンパク質を含む赤血球保護剤に関する。
【0002】
本出願は、参照によりここに援用されるところの日本出願特願2017-28738号優先権を請求する。
【背景技術】
【0003】
輸血用血液製剤には赤血球製剤、血漿製剤、血小板製剤及び全血製剤等がある。赤血球製剤は、血液から血漿、白血球及び血小板の大部分を除去したものである。赤血球(Red blood cell:RBC)は、長期間保存すると赤血球膜が破壊され、ヘモグロビンが遊離する、いわゆる溶血が生じる。血球濃厚液の保存には、酸-クエン酸ナトリウム-デキストロース(Acid-citrate-dextrose)を含むACD液やクエン酸ナトリウム-リン酸ナトリウム-デキストロース(Citrate-phosphate-dextrose)を含むCPD液が古くより用いられてきた。さらに脱アミノ反応によって損失したアデニンを補うために、近年では保存液にアデニンが添加されている。保存温度は2~3℃で有効期間は採血後3週間であり、条件により6週間まで延長することができるといわれている。しかしながら赤血球の冷蔵保存を継続すると、グルコースの消費が低下し、代謝廃棄物(すなわち、乳酸及び水素イオン)が増加することが確認された。このようなグルコースの代謝低下により、アデノシン三リン酸(ATP)が枯渇し、赤血球の劣化が生じる。全血から赤血球を分離した後に、赤血球を保存するための開発が進められている。例えば、Adsol(商標名)(AS-1)、Nutricel(商標名)(AS-3)、Optosol(商標名)(AS-5)及びErythro-sol(商標名)等が挙げられる。これらのAS(AS-1、AS-2及びAS-3)は、食塩水、アデニン、グルコース、並びに「細胞膜の保護剤」としての少量のクエン酸及び/又はマンニトールを含むものである。アデニンとデキストロースと、少なくとも1つの非代謝性の膜保護糖と、pH緩衝系とを含む赤血球の保存のための組成物及び方法について開示がある(特許文献1)。
【0004】
ヒスチジンリッチ糖タンパク質(Histidine-rich glycoprotein; HRG)は、1972年にHeimburger et al (1972)によって同定された分子量約80kDaの血漿タンパク質である。合計507個のアミノ酸より構成され、そのうちヒスチジンが66存在する高ヒスチジン含有タンパク質であり、主として肝臓で合成され、約100~150μg/mLという非常に高いと考えられる濃度でヒト血漿中に存在する。HRGは、凝固線溶系の調節や血管新生の制御に関与していることが知られている(非特許文献1)。さらに、HRGポリペプチドを投与することによる血管形成を阻害する方法、HRGポリペプチド、HRGポリペプチドに結合する抗体及び受容体、HRG欠乏性血漿及びポリヌクレオチド、HRGポリペプチドをコードするベクター及び宿主細胞を含む、製薬的組成物及び製品が開示されている(特許文献2)。また、血管新生の分野に関し、HRGの中央領域に由来するサブフラグメントを含む抗血管新生活性のある実質的に純粋な連続ポリペプチドの使用に関する開示がある(特許文献3)。さらに、HRGを有効成分とする好中球‐血管内皮細胞接着抑制剤についても開示がある(特許文献4)。
【0005】
しかしながら、HRGによる赤血球の安全性、安定性に及ぼす効果については、報告されていない。赤血球を保護するさらなる方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【0006】

【非特許文献1】Blood, Vol.117, No.7, 2093-2101 (2011)
【0007】

【特許文献1】特表2008-529550号公報
【特許文献2】特表2004-527242号公報
【特許文献3】特表2007-528710号公報
【特許文献4】特許第5807937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、赤血球含有溶液、例えば赤血球濃縮液をより長期間保存でき、より安全に使用するための赤血球保護剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、赤血球を長期保存すると赤血球膜表面にホスファチジルセリン(Phosphatidylserine;PS)が発現すること、このPSの発現より赤血球の血管内皮細胞とコラーゲン繊維とが接着することに着目し、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、HRGが細胞表面のPS発現を抑制しうることを初めて見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は、以下よりなる。
1.HRGを有効成分として含有する、赤血球保護剤。
2.赤血球の保護が、HRGにより赤血球膜表面のホスファチジルセリンの発現を抑制することによる、前項1に記載の赤血球保護剤。
3.赤血球の保護が、赤血球細胞内のカルシウムイオン濃度を低下することによる、前項1に記載の赤血球保護剤。
4.赤血球の保護が、赤血球細胞内の抗酸化酵素の遊離を抑制することによる、前項1に記載の赤血球保護剤。
5.HRGを有効成分として含有する、赤血球含有溶液の安定化剤。
6.前項1~4のいずれかに記載の赤血球保護剤を含む、赤血球含有溶液の安定化剤。
7.前項5又は6に記載の安定化剤を赤血球含有溶液に添加することを特徴とする、赤血球含有溶液の安定化方法。
8.HRGを有効成分として含有する、赤血球膜表面のホスファチジルセリン発現抑制剤。
9.HRGを赤血球含有溶液に添加することを特徴とする、赤血球膜表面のホスファチジルセリン発現抑制方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の赤血球保護剤によれば、赤血球保存による赤血球劣化を抑制することができる。有効成分としてのHRGを、既存の血液保存用液や赤血球保存用液、又は今後開発される血液保存用液や赤血球保存用液に添加することで、より効果的に赤血球を保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】赤血球溶液試料に各濃度のZn2+を加えたときのホスファチジルセリン(PS)の発現量の結果を示す図である。Zn2+濃度依存的に赤血球膜表面においてPSが発現していることが確認された。(参考例1)
【図2】Zn2+により発現誘導される赤血球膜表面PSに対する同時に添加されたHRG又はヒト血清アルブミン(HSA)の作用を確認した結果を示す図である。Zn2+の効果はCa2+,Mg2+には認められない。(実施例4)
【図3】Zn2+により発現誘導される赤血球膜表面PSに対する同時に添加されたHRG又はHSAの作用を確認した結果図である。HRGはHSAと比べて、より強力にPS発現を抑制することが観察された結果を示す図である。(実施例5)
【図4】あらかじめZn2+により発現誘導された赤血球膜表面PSに対するHRG又はHSAのその後の作用を確認した結果図である。HRGはHSAと比べて、より強力にPS発現を抑制することが観察された結果を示す図である。(実施例6)
【図5】HRGによる無刺激状態の赤血球のコラーゲンIへの接着抑制能を確認した結果図である。HRG濃度依存的に赤血球がコラーゲンIに接着するのが抑制された結果を示す。(実施例7)
【図6】Zn2+で赤血球をあらかじめ刺激し、その後HRGを添加し、血管内皮細胞への接着能を調べた結果図である。HRG濃度依存的に赤血球が血管内皮細胞に接着するのが抑制された結果を示す。(実施例8)
【図7】赤血球保存用液にHSAを加えて4℃で21日間保存したときの赤血球膜表面のPS陽性率に及ぼす影響を確認した結果を示す図である。(実施例9)
【図8】CLPマウス赤血球膜表面のPS発現確認結果を示す図である。採血直後の赤血球及び4時間37℃インキュベートした後の赤血球について、赤血球膜表面のPS陽性率とin vivoでのHRG投与による作用を示す図である。(実施例10)
【図9】Zn2+により発現誘導された赤血球膜表面PSに対するHRGの作用を確認したフローサイトメトリーの実験結果を示す図である。(実施例11)
【図10】Zn2+による細胞内カルシウムの上昇とHRGによる抑制を確認した結果を示す図である(図10A)。図10Aは、HRGを添加しないグループでは赤血球細胞内のカルシウム量は上昇したが、HRGを添加したグループで、遊離カルシウム濃度が低下した結果を示す。また、図10Bは、Zn2+刺激による赤血球の凝集と血管内皮細胞への凝集した赤血球の接着に及ぼすHRGの抑制効果を示す。(実施例12)
【図11】Zn2+刺激又はカルシウムイオノフォアで刺激した赤血球懸濁液試料について、ペルオキシレドキシン2(Prx2)遊離を確認した結果を示す図である。図11AはZn2+濃度依存的に上清中のPrx2が増加することを示し、図11Bはカルシウムイオノフォアで刺激した赤血球溶液試料について、Prx2が増加することを示す。(参考例2)
【図12】Zn2+によるPrx2遊離とHRGによる抑制効果を確認した結果を示す図である。(実施例13)
【図13】CLP敗血症モデルマウスからCLP作製24時間後に採血し、得られた血漿中のPrx2を確認した結果を示す図である。CLPマウスでは、血漿中Prx2が上昇していることを確認した結果を示す図である。(参考例3)
【図14】CLP敗血症モデルマウスについて、血中遊離ヘモグロビン、PS陽性赤血球、赤血球細胞内カルシウム濃度、臓器組織内Zn含量を確認した結果を示す図である。図14Aは遊離ヘモグロビンのウエスタンブロットとその定量結果を示し、図14Bは採血直後と、血液4時間インキュベーション後のPS陽性赤血球の割合を示し、図14Cは4時間インキュベーション後の赤血球内遊離カルシウム濃度を示し、図14Dは臓器組織のZn含量を示す。(実施例14)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、赤血球保護剤に関し、より詳しくはヒスチジンリッチ糖タンパク質(HRG)を含む赤血球護剤に関する。

【0014】
本明細書において「赤血球保護剤」とは、血液中に含まれる赤血球や、血液から分離された赤血球を保存液等に懸濁させた場合等、生体外での赤血球の劣化を防ぐために使用される保護剤をいう。本発明の赤血球保護剤は、薬理学的に許容しうる担体を含ませることができる。該薬理学的に許容しうる担体としては、例えば、賦形剤、崩壊剤若しくは崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤若しくは溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、及び粘着剤等が挙げられる。

【0015】
本明細書において「血液保存用液」とは、血液を保存するために用いられる溶液であって、例えば輸血用血液製剤に使用される保存用液、具体的には赤血球製剤、血漿製剤、血小板製剤及び全血製剤等に用いられる保存用液をいう。本明細書において、「血液保存用液」は、自体公知の保存用液、又は今後開発されるあらゆる保存用液であってもよい。具体的には、ACD液やCPD液であってもよい。例えば、マニトール、アデニン及びリン酸を含む赤血球保存用添加液(MAP液)であってもよいし、ACD液やCPD液に、MAP液を混合したものであってもよい。MAP液の組成として、例えばD-マンニトール、アデニン、結晶リン酸二水素ナトリウム 、クエン酸ナトリウム、クエン酸、ブトウ糖、塩化ナトリウム等が挙げられる。

【0016】
本明細書において「赤血球保存用液」とは、赤血球を保存するために用いられる溶液であって、例えば輸血用血液製剤に使用される保存用液、具体的には赤血球製剤等に用いられる保存用液をいう。本明細書において、「赤血球保存用液」は、自体公知の保存用液、又は今後開発されるあらゆる保存用液であってもよい。具体的にはACD液、CPD液やMAP液であってもよいし、ACD液やCPD液に、MAP液を混合したものであってもよい。

【0017】
本明細書において「赤血球含有溶液」とは、赤血球が保存可能な溶液に含まれている溶液であればよく、特に限定されない。例えば、前述の血液保存用液に赤血球が含まれているものが挙げられる。赤血球含有溶液の例として、赤血球製剤であるところの赤血球濃厚液が挙げられる。赤血球濃厚液は、CPD液を28 mL混合したヒト血液200 mLから白血球及び血漿の大部分を除去した赤血球層にMAP液を約46 mL混和したもので、CPD液を少量含有する濃赤色の液剤である。後述する実施例では、赤血球溶液試料という場合もある。

【0018】
本明細書において「赤血球含有溶液の安定化剤」とは、例えば赤血球濃厚液等の赤血球含有溶液において、赤血球の劣化を防ぎ、安定にするために使用されるものをいう。本発明の赤血球含有溶液の安定化剤は、例えばMAP液のような赤血球保存用液にHRGを添加して作製することができる。具体的には、赤血球保存用液に対してHRGが10~100μg/mL、好ましくは50~100μg/mL、より好ましくは100μg/mL含むものが好適である。本発明の赤血球含有溶液の安定化剤に使用可能な赤血球保存用液としては、MAP液に限定されるものではないことは明らかである。本発明の赤血球含有溶液の安定化剤には、薬理学的に許容しうる担体を含ませることができる。該薬理学的に許容しうる担体としては、例えば、賦形剤、崩壊剤若しくは崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤若しくは溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、及び粘着剤等が挙げられる。

【0019】
本発明の赤血球保護剤や赤血球含有溶液の安定化剤等の有効成分としての「HRG」は、生体成分から単離・精製する方法、遺伝子組換え技術を用いて調製する方法、あるいは合成により調製することができる。例えば血漿、血清等の血液、脊髄液、リンパ液等の生体成分から精製され/若しくは単離することができる。好適な生体成分は、血漿、血清等の血液成分である。生体成分から単離・精製する方法は、自体公知の方法又は今後開発されるあらゆる方法を適用することができる。例えば、Ni-NTA(nickel-nitrilotriacetic acid)アガロース樹脂を用いて調製したアフィニティカラムに血漿を通すことによって調製することもできる。

【0020】
遺伝子組換え技術を用いてHRGを調製する方法も自体公知の方法又は今後開発されるあらゆる方法を適用することができる。例えば、HRGをコードする全長cDNA、又はHRGの活性を有する部分をコードするcDNAを、発現ベクターにクローニングし、調製することもできる。例えば、GenBank Accession No.NM000412で特定されるヌクレオチドの全体または部分から生合成されるタンパク質であっても良い。例えば、成熟HRGのアミノ酸配列(配列番号1)をコードする全長cDNA、又は部分をコードするcDNAを、発現ベクターにクローニングし、調製することもできる。本発明の有効成分としてのHRGは、HRGタンパク質の全体であっても良いし、HRG活性を有する部分タンパク質又はペプチドであっても良い。さらに、糖鎖を含むものであってもよいし糖鎖が付加していなくても良い。

【0021】
成熟HRGのアミノ酸配列(配列番号1)
VSPTDCSAVEPEAEKALDLINKRRRDGYLFQLLRIADAHLDRVENTTVYYLVLDVQESDCSVLSRKYWNDCEPPDSRRPSEIVIGQCKVIATRHSHESQDLRVIDFNCTTSSVSSALANTKDSPVLIDFFEDTERYRKQANKALEKYKEENDDFASFRVDRIERVARVRGGEGTGYFVDFSVRNCPRHHFPRHPNVFGFCRADLFYDVEALDLESPKNLVINCEVFDPQEHENINGVPPHLGHPFHWGGHERSSTTKPPFKPHGSRDHHHPHKPHEHGPPPPPDERDHSHGPPLPQGPPPLLPMSCSSCQHATFGTNGAQRHSHNNNSSDLHPHKHHSHEQHPHGHHPHAHHPHEHDTHRQHPHGHHPHGHHPHGHHPHGHHPHGHHPHCHDFQDYGPCDPPPHNQGHCCHGHGPPPGHLRRRGPGKGPRPFHCRQIGSVYRLPPLRKGEVLPLPEANFPSFPLPHHKHPLKPDNQPFPQSVSESCPGKFKSGFPQVSMFFTHTFPK

【0022】
成熟HRGは、シグナルペプチドからタンパク質分解酵素によって切断されたのち、シスタチン様領域1,2、His/Pro領域、C末端領域の主要な4つの領域から構成されている。His/Pro領域は、プロリン残基及びヒスチジン残基に非常に富んでおり、例えばヒト型ではペンタペプチドGHHPH(配列番号2)が保存されたタンデム反復を約12回含む。別の態様では、配列番号1で特定されるアミノ酸配列の第330位~第389位に示すアミノ酸配列で特定される。

【0023】
本発明の赤血球保護剤に用いられるHRGは、赤血球膜表面のホスファチジルセリン(PS)の発現を抑制する作用を有する。赤血球膜表面のPSは、赤血球を長期保存した場合や、エネルギー枯渇条件に置いた場合、あるいはProstaglandin E2(PGE2)、Platelet activating factor(PAF)、レチノイン酸や特定の薬物等による刺激を受けた際に発現するといわれている。また、PSを発現した赤血球と血管内皮細胞の相互作用によって、血管内皮細胞が損傷されることが示唆されている。本発明は、HRGを有効成分として含有する赤血球膜表面のPS発現抑制剤にも及び、HRGを赤血球含有溶液に添加することを特徴とする赤血球の保護方法にも及ぶ。さらに本発明は、HRGを赤血球含有溶液に添加することを特徴とする、赤血球膜表面のPS発現抑制方法にも及ぶ。

【0024】
本発明の赤血球保護剤に用いられるHRGは、さらに細胞内カルシウム濃度の低下作用、細胞内の重要な酵素の遊離を抑制する等の作用を有する。細胞内の重要な酵素として、抗酸化酵素が挙げられ、具体的にはペルオキシダーゼ、さらに具体的にはペルオキシレドキシン(Peroxiredoxin; Prx)が挙げられる。Prxは、強い抗酸化作用を持ち、細胞内において多量に存在することから、細胞の生理機能を維持する上で重要な抗酸化酵素である。

【0025】
本発明は、本発明の「赤血球保護剤」又は「赤血球含有溶液の安定化剤」を赤血球含有溶液に添加することを特徴とする赤血球の安定化方法にも及ぶ。即ち、HRGを有効成分とする赤血球保護剤又はHRGを有効成分とする赤血球含有溶液の安定化剤を用いた安定化方法にも及ぶ。赤血球保護剤を赤血球含有溶液に添加することで、例えば赤血球膜表面にPSが発現するのを抑制することができ、又は発現したPSも抑制することができる。PSは、リン脂質の成分であり、通常はフリッパーゼと呼ばれる酵素によって細胞膜の内葉(細胞質側)に留められている。細胞にアポトーシスが起こるとき、PSは細胞の表面に露出するようになる。赤血球では、網状赤血球から核が切り離されると、核はPSを細胞表面上に露出するといわれている。PSは、アポトーシス細胞表面に発現される脂質で、死細胞でのみ細胞膜上に露出されることが知られている。赤血球においても、アポトーシスにおけるDNAの分解と赤血球の核の崩壊の過程で、PSが細胞表面に露出すると考えられることから、赤血球の崩壊の過程でも赤血球表面にPSが露出することが考えられた。そこで、赤血球表面へのPSの露出に及ぼすHRGの作用を確認し、HRGが赤血球表面へのPSの露出を抑制しうることより、HRGを含む赤血球保存用液は、赤血球含有溶液に含まれる赤血球の保護剤として使用可能である。
【実施例】
【0026】
以下、参考例及び実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明はもとより下記実施例等により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0027】
(実施例1) ヒト血漿由来ヒスチジンリッチ糖タンパク質(HRG)の精製
本実施例では、ヒト血漿由来HRGの精製を行った。ヒト血漿(240 mL)を出発原料とし、Ni-NTAアフィニティクロマトグラフィ及び高性能液体クロマトグラフィ(陰イオン交換カラム(単分散系親水性ポリマービーズ:Mono Q))を用いて、HRGタンパク質を精製した。分子量約80kDa画分にHRG精製試料を得た。
【実施例】
【0028】
(実施例2)遺伝子組換えヒトHRGの産生
遺伝子組換えヒトHRGは、10% FCS含有GIBCO(R) Dulbecco's Modified Eagle Medium / Nutrient Mixture F-12 (DMEM/F-12) で培養を行ったCHO細胞(Chinese Hamster Ovary cells)にFuGENE(商標)-HD(遺伝子導入試薬)を用いて、HRG発現ベクター、トランスポゼース発現ベクター、薬剤耐性遺伝子発現ベクターをDNA量 5 : 4:1でコトランスフェクトした。 遺伝子導入し、48時間培養後から、Puromycin(抗生物質)10μg/mLを添加して、3日に1回培地交換を行いながら3週間薬剤選択培養を行った。
【実施例】
【0029】
組換えヒトHRGを含む培養上清を回収した。PBS(-) 30 mLで予め洗浄したQIAGEN(R) Ni-NTAアガロースゲル(Sepharose CL-6B支持体にNi-NTAを結合したゲル)を前記培養上清に加え、4℃で2時間回転インキュベートし、組換えヒトHRGをQIAGEN(R) Ni-NTAアガロースゲルに結合させた。QIAGEN(R) Ni-NTAアガロースゲルを精製用カラムに移した後、洗浄液1(30 mM Imidazoleを含むPBS(-)(pH7.4))、洗浄液2(1M NaCl +10 mM PB (pH7.4))、洗浄液3(PBS(-) (pH7.4))で順次カラムを洗浄した。組換えヒトHRG は、500 mM Imidazoleを含むPBS(-) (pH7.4)で、4℃で溶出を行なった。精製品は、ウエスタンブロットとSDS-PAGE 後のタンパク染色でHRGを確認した。本実施例で作製するHRGは、国際出願番号PCT/JP2016/79219の実施例12に示す方法で作製した。
【実施例】
【0030】
(実施例3)赤血球濃厚液の保護剤
50 mLあたりD-マンニトール(728.5mg)、アデニン(7.0mg)、リン酸二水素ナトリウム(47.0mg)、クエン酸ナトリウム水和物(75.0mg)、クエン酸水和物(10.0mg)、ブドウ糖(360.5mg)及び塩化ナトリウム(248.5mg)を含む市販の赤血球保存液MAP液(MAP液バッグ)に、ヒト血漿から作製したHRG及びヒト血清アルブミン(HSA)を各々最終濃度が100μg/mLとなるように加えたものを赤血球含有溶液の保護剤とした。
【実施例】
【0031】
(参考例1)Zn2+による赤血球膜表面のホスファチジルセリン(PS)発現誘導
本参考例では、赤血球濃厚液に対するZn2+の影響を確認した。
【実施例】
【0032】
10%のACD液を抗凝固剤として含む試験管に10 mLずつ採血し、3000 rpmで10分間遠心処理を行い、血漿及びバフィーコートを除去して赤血球濃厚液を調製し、赤血球溶液試料とした。
【実施例】
【0033】
上記作製した赤血球溶液試料についてZn2+を加えたときの赤血球表面のPSの発現率を測定した。Zn2+が0、5、10、15及び20μMとなるように加えて37℃で1時間インキュベートした後、赤血球表面のPS発現量を測定した。PS発現量は、赤血球溶液試料400μLにFITC標識アネキシンV反応液(Funakoshi製)4μLを加え、室温で15分間静置したのち4%パラホルムアルデヒド(PFA)を400μL加え、固定後、FACS解析した。これらの操作は、FITC標識アネキシンVアッセイキット(Funakoshi製)の使用説明書に従った。
【実施例】
【0034】
上記の結果、添加した亜鉛濃度依存的に、赤血球表面のPS発現割合が上昇することが確認された(図1)。
【実施例】
【0035】
(実施例4)金属イオンにより発現誘導された赤血球上PSに対するHRGの作用
参考例1と同手法で調製した赤血球溶液試料に、HBSS(Hank's Balanced Salt Solutions)のみ、あるいはHBSSにZnCl2(20μM)、MgCl2(20μM)、CaCl2(20μM)、ZnCl2(20μM)+HRG(100μg/mL)、ZnCl2(20μM)+HSA(100μg/mL)、HRG単独(100μg/mL)又はHSA単独(100μg/mL)を含む系で37℃で1時間インキュベートした後、赤血球表面のPS発現量を測定した。PS発現量は、参考例1と同手法により測定した。
【実施例】
【0036】
上記の結果、Zn2+の添加により、赤血球表面にPSが発現したが、HRGの添加又はHSAを含む系によりPSの発現抑制が観察された(図2)。
【実施例】
【0037】
(実施例5)Zn2+により発現誘導された赤血球表面のPSに対する作用
本実施例では、HSA又はHRGについて、Zn2+により赤血球表面に発現誘導されるPSに対する作用を確認した。参考例1と同手法で調製した赤血球溶液試料に、PBS+ZnCl2(20μM)、HSA(1、10、100μg/mL)+ZnCl2(20μM)、HSA(100μg/mL)+生理食塩液、HRG(1、10、100μg/mL)+ZnCl2(20μM)、HRG(100μg/mL)+生理食塩液を加えた系で37℃で1時間インキュベートした後、赤血球表面のPS発現量を測定した。PS発現量は、参考例1と同手法により測定した。
【実施例】
【0038】
上記の結果、ZnCl2(20μM)を含むグループで、HRGは1μg/mLでPSの発現抑制が観察されたのに対し、HSAでは1μg/mLでPSの発現抑制認められなかった(図3)。これにより、HRGはHSAと比べて、より強力にPS発現を抑制することが観察された。
【実施例】
【0039】
(実施例6)Zn2+によりあらかじめ発現誘導された赤血球上PSに対する作用
本実施例では、HSA又はHRGについて、Zn2+によりあらかじめ赤血球表面に発現誘導されたPSに対する作用を比較検討した。参考例1と同手法で調製した赤血球溶液試料に、ZnCl2(20μM)を加えて37℃で1時間インキュベートした。ZnCl2(20μM)で処理した赤血球をRBC(Z)とした。コントロールとして、ZnCl2(20μM)の代わりにPBSを加えて37℃で1時間インキュベートした(RBC(s))。
【実施例】
【0040】
RBC(Z)について、各濃度のHRG又はHSAを添加し、37℃で15分間インキュベートした。赤血球表面のPS発現量を参考例1と同手法により測定した。
【実施例】
【0041】
上記の結果、RBC(Z)について、HRGは100μg/mLでPSの発現抑制が観察されたのに対し、HSAでは100μg/mLでも十分なPSの発現抑制認められなかった(図4)。これにより、HRGはHSAと比べて、より強力にPS発現を抑制することが観察された。
【実施例】
【0042】
(実施例7)HRGによる赤血球のコラーゲンIへの接着抑制
本実施例では、赤血球のコラーゲンIへの接着に及ぼすHRGの作用を確認した。本実施例では、参考例1と同手法で調製した赤血球溶液試料を用いて検討した。
【実施例】
【0043】
コラーゲンIをコートした市販の細胞培養用プレート(Corning Biocoat Collagen I Cellware)に、上記HRG(1、10、100μg/mL)を含むPBSで保存した赤血球溶液試料(赤血球数:4×106/mL)を播種し、37℃で30分間培養した。HRGを含まないPBSのみで保存した赤血球を播種したものをコントロールとした(PBS)。その結果、HRG濃度依存的に赤血球がコラーゲンIに接着するのが抑制されることが観察された(図5)。
【実施例】
【0044】
(実施例8)HRGによる赤血球のコラーゲンIへの接着抑制
本実施例でも、コラーゲンIをコートした市販の細胞培養用プレート(Corning Biocoat Collagen I Cellware)に、実施例6又は7と同手法にてあらかじめ亜鉛刺激した赤血球溶液試料(赤血球数:4×106/mL)をHRG(1、10、100μg/mL)依存下に播種し、37℃で30分間培養した。その後実施例7と同手法にてプレートに接着した赤血球数を計測した。本実施例では、実施例6と同手法によりPBSで処理した赤血球をRBC(s)とし、各濃度のZnCl2を含むPBSで処理した赤血球をRBC(Z)とした。その結果、ZnCl2を含むグループでもHRG濃度依存的に赤血球がコラーゲンに接着するのが抑制された(図6)。その結果、HRGを含むグループで赤血球を保存した場合に、Zn2+の存在、非存在に関わらず、コラーゲンへの接着を抑制することが確認された(図6)。
【実施例】
【0045】
(実施例9)赤血球保存用液の赤血球保護作用の確認
本実施例では、赤血球溶液試料に対するHRGの赤血球保護作用を確認した。MAP赤血球保存液に最終濃度が100μg/mLとなるようにHRG又はHSAを加え、以下に示す方法で調製した赤血球溶液試料(赤血球数:8×109/mL)を加え、4℃で21日間保存した。保存7日目、14日目及び21日目に赤血球溶液試料を採取し、PS陽性の赤血球の割合をFACSで算出した。その結果、保存日数に応じてPS陽性の赤血球の割合が漸増しているが、HRG添加のグループでPS陽性率が抑制されていることが確認された(図7)。
【実施例】
【0046】
本実施例で使用する赤血球溶液試料は以下の方法で調製した。ここで、赤血球溶液試料調製のために、採血バッグとMAP液入りバッグ及びこれらを連結してなるチューブを備えた赤血球濃厚液保存用バッグ(テルモ株式会社)を用いた。
(1)赤血球濃厚液保存用バッグ(50 mL)に、MAP液バッグより取り出したMAP液を2.7 mL加えた。上記赤血球濃厚液保存用バッグにフィルター滅菌後のHRGを500μL添加し、HRGとHSAの最終濃度が各々100μ/mLとなるように混和し、赤血球保存用液を調製した。
(2)8.8 mLのACD液を含む試験管に1人あたり80 mLずつ採血し、3000 rpmで10分間遠心処理を行い、血漿及びバフィーコートを除去し、赤血球濃厚液を調製した。
(3)(2)で調製した濃厚赤血球液6.8 mLを(1)で調製した赤血球保存用液を含むバッグに加え、先端のチューブをクリップでとめて密閉した。バッグを4℃の条件でゆっくり転倒混和し、赤血球濃厚液を含むバッグのチューブのあるほうを上にして保存した。
(4)一定時間後に赤血球保存用液バッグから赤血球サンプルを取り出す時には、バッグを転倒混和し、チューブ部分を一部切り取り、サンプルを採取した。経時的なサンプル採取のため、チューブの先端はその都度密閉した。
【実施例】
【0047】
(実施例10)敗血症モデルマウスの赤血球表面のPS発現確認
本実施例では、盲腸結紮腹膜炎(cecal ligation and puncture; CLP)敗血症モデルマウス(以下、「CLPマウス」ともいう。)から採取した赤血球に及ぼすHRGの影響を確認した。
【実施例】
【0048】
CLP術後10分目にHRG(10mg/kg)、HSA(10mg/kg)及びコントロールとしてのPBS(100μL)を静注投与した。術後24時間目にマウスを麻酔し、10%のACD液を抗凝固剤として心臓から200μL採血した。採血した血液を400gで遠心し、血漿及びバフィーコートを吸引除去した。得られた赤血球液をHBSSで400g、5分間三回洗浄した。洗浄した赤血球1μLを1 mLのHBSSに加えた。400μLの懸濁液に4μLのFITC-conjugated Annexin V を加えて室温で15分間インキュベートした。その後、4%のPFA樹脂液を400μL加えて、15間固定した。固定後はFACSでPS陽性細胞数を測定した。別途洗浄した赤血球1μLを1 mLのHBSSに加えたものを37℃で4時間インキュベートした後、同様にFITC染色し、PS陽性細胞数を測定した。
【実施例】
【0049】
その結果、採血直後のPS陽性率は、何れのグループでも2%程度であったのに対し、4時間インキュベートした後では、HRG投与群でPS陽性率が抑制されていることが確認できた(図8)。
【実施例】
【0050】
(実施例11)Zn2+誘発性ホスファチジルセリン(PS)発現とHRGによる抑制
本実施例では、Zn2+刺激した赤血球溶液試料にHRGを添加したときの、赤血球表面のPS発現量を確認した。参考例1で調製した赤血球溶液試料にZn2+を20μMとなるように加えたものについてHRG濃度が1、10、及び100μg/mLとなるように加えて37℃で1時間インキュベートした後、赤血球表面のPS発現量を参考例1と同手法により測定した。
【実施例】
【0051】
上記の結果、HRGを添加しないグループでは赤血球表面のPS発現細胞率が40%であったのに対し、HRGを添加したグループ(1μg/mL)で、PS発現細胞率が10%以下に抑制されることが確認された(図9)。
【実施例】
【0052】
(実施例12)Zn2+による細胞内カルシウムの上昇とHRGによる抑制
本実施例では、Zn2+刺激した赤血球溶液試料にHRGを添加したときの、赤血球細胞内のカルシウム量について確認した。参考例1で調製した赤血球溶液試料にZn2+を20μMとなるように加えたものについてHRG濃度が1μg/mLとなるように加えて37℃で1時間インキュベートした後、赤血球細胞内のカルシウム量を測定した。
【実施例】
【0053】
上記の結果、HRGを添加しないグループでは赤血球細胞内のカルシウム量は上昇したが、HRGを添加したグループ(1μg/mL)で、カルシウム量が抑制されることが確認された(図10A)。また、HRGを添加しないグループでは赤血球が凝集し、血管内皮細胞に赤血球が接着するのに対し、HRGを添加したグループでは赤血球は凝集せず、血管内皮細胞への接着も認められなかった(図10B)。
【実施例】
【0054】
(参考例2)赤血球ペルオキシレドキシン2遊離
本参考例では、Zn2+刺激又はカルシウムイオノフォアで刺激した赤血球溶液試料について、ペルオキシレドキシン2(Peroxiredoxin 2; Prx2)遊離量を確認した。Prxは、強い抗酸化作用を持つペルオキシダーゼの1種であり、細胞内において多量に存在することから、細胞の生理機能を維持する上で重要な抗酸化酵素である。赤血球からのPrx2遊離量を測定することで、赤血球の細胞傷害性を測定する指標となる。
【実施例】
【0055】
まずはじめに参考例1で調製した赤血球溶液試料に、Zn2+を1、5、10、20及び50μMとなるように加え、37℃で1時間インキュベートした後の赤血球溶液試料上清中のPrx2を非還元条件及び還元条件にて電気泳動により確認した。その結果、Zn2+濃度依存的に上清中のPrx2が増加することが確認された(図11A)。同様に参考例1で調製した赤血球溶液試料に、カルシウムイオノフォア(A23187)を1、5、10及び20μMとなるように加え、37℃で1時間インキュベートした後の赤血球溶液試料上清中のPrx2を非還元条件及び還元条件にて電気泳動により確認した。その結果、カルシウムイオノフォア濃度依存的に上清中のPrx2が増加することが確認された(図11B)。
【実施例】
【0056】
(実施例13)Zn2+によるPrx2遊離とHRGによる抑制
本実施例では、Zn2+刺激した赤血球溶液試料にHRGを添加したときの、赤血球からのPrx2遊離の特性を確認した。Zn2+を50μMとなるように赤血球溶液試料に加え、さらに100μg/mLのHSA又はHRGを添加した系で37℃で1時間インキュベートした後の赤血球溶液試料上清中のPrx2を非還元条件にて電気泳動により確認した。その結果、HRG添加のグループでPrx2の低下が認められ、その効果はHSA添加のグループよりも顕著であった(図12)。
【実施例】
【0057】
(参考例3)CLPマウス血漿中Prx2確認
本参考例では、実施例10に示す方法で作製したCLPマウスから採血し、得られた血漿中のPrx2を確認した。
【実施例】
【0058】
CLP術後24時間目にマウスを麻酔し、10%のACD液を抗凝固剤として心臓から200μL採血した。採血した血液を400gで遠心して血漿を得、血漿に含まれるPrx2を非還元条件での電気泳動により確認した。その結果、CLPマウスの血漿中にPrx2が認められたが、SHAMではほとんど認められなかった(図13)。
【実施例】
【0059】
(実施例14)CLPマウスでの確認
本実施例では、実施例10に示す方法で作製したCLPマウスから採取した血液での遊離ヘモグロビン、赤血球表面のPS、赤血球内遊離カルシウム濃度、各種臓器に含まれる亜鉛含量を確認した。
【実施例】
【0060】
A.CLPマウスに対しCLP誘導10分後にHRG(20mg/kg,i.v.)、HSA(20mg/kg,i.v.)、PBS(200μl,i.v.)を投与し、術後24時間目にマウスを麻酔し、10%のACD液を抗凝固剤として心臓から200μL採血した。血漿分離後、各グループにおける血漿遊離ヘモグロビンレベルをウエスタンブロットで検出した。ウエスタンブロットの結果をデンシトメトリーで定量化し、下の棒グラフを作成した。CLPマウスにおけるPBS投与マウス(コントロール)では、明らかに血漿遊離ヘモグロビンの上昇が見られるが、HRG投与マウスでは、遊離ヘモグロビン上昇は強く抑制され、偽手術群のレベルまで低下した(図14A)。
【実施例】
【0061】
B.CLPマウスに対しCLP誘導10分後にHRG(20mg/kg,i.v.)、HSA(20mg/kg)及びコントロールとしてのPBSPBS(200μl,i.v.)を投与した。術後24時間目にマウスを麻酔し、10%のACD液を抗凝固剤として心臓から200μL採血した。採血した血液を400gで遠心し、血漿及びバフィーコートを吸引除去した。得られた赤血球液をHBSSで400g、5分間三回洗浄した。洗浄した赤血球1μLを1 mLのHBSSに加えた。400μLの懸濁液に4μLのFITC-conjugated Annexin Vを加えて室温で15分間インキュベートした。その後、4%のPFA樹脂液を400μL加えて、15分間固定した。固定後はFACSでPS陽性細胞数を測定した。別途洗浄した赤血球1μLを1 mLのHBSSに加えたものを37℃で4時間インキュベートした後、同様にFITC染色し、PS陽性細胞数を測定した。
【実施例】
【0062】
その結果、採血直後のPS陽性率は、何れのグループでも2%程度であったのに対し、4時間インキュベートした後では、HRG投与群でPS陽性率が抑制されていることが確認できた(図14B)。
【実施例】
【0063】
C.Bの実験で得た赤血球懸濁液(0 h)を用いて、細胞内カルシウムレベルを測定した。細胞内フリーカルシウム測定用の蛍光プロ—ブFlou4-AMで30分間インキュベートし、FACSにより各グループの細胞内Ca2+レベルを定量した。図が示すように、CLPマウスのPBS投与マウスでは正常(intact)マウスと比較し、細胞内カルシウムの上昇がみられたが、HRG投与マウスでは、上昇が有意に抑制された(図14C)。
【実施例】
【0064】
D.CLPマウスの脾臓、腎臓、肺を24時間後に採取し、RIPA緩衝液でホモジナイズした。ホモジネートの遠心上清をMetallo Assay Zn2+ LS kit(Metallogenice,千葉,日本)を用いて測定した。CLPマウスでは正常(intact)マウスと比較し、腎臓と肺のZn2+含量が増加していたが、脾臓では両者に差はなかった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上詳述したように、本発明の赤血球保護剤によれば、保存による赤血球劣化を抑制することができる。有効成分としてのHRGを、既存の赤血球保存用液や血液保存用液、又は今後開発される赤血球保存用液や血液保存用液に添加することで、より効果的に赤血球を保護することができる。これにより、輸血用血液製剤の内、赤血球製剤や全血製剤について、より品質の高い製剤を提供することができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13