TOP > 国内特許検索 > 細胞選別法 > 明細書

明細書 :細胞選別法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 令和2年1月23日(2020.1.23)
発明の名称または考案の名称 細胞選別法
国際特許分類 C12Q   1/24        (2006.01)
C12Q   1/06        (2006.01)
C12Q   1/04        (2006.01)
C12N   5/071       (2010.01)
FI C12Q 1/24
C12Q 1/06
C12Q 1/04
C12N 5/071
国際予備審査の請求
全頁数 35
出願番号 特願2019-504611 (P2019-504611)
国際出願番号 PCT/JP2018/008615
国際公開番号 WO2018/164133
国際出願日 平成30年3月6日(2018.3.6)
国際公開日 平成30年9月13日(2018.9.13)
優先権出願番号 2017043744
優先日 平成29年3月8日(2017.3.8)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DJ , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JO , JP , KE , KG , KH , KN , KP , KR , KW , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT
発明者または考案者 【氏名】武部 貴則
【氏名】谷口 英樹
【氏名】松崎 賢寿
出願人 【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100098121、【弁理士】、【氏名又は名称】間山 世津子
【識別番号】100107870、【弁理士】、【氏名又は名称】野村 健一
審査請求 未請求
テーマコード 4B063
4B065
Fターム 4B063QA01
4B063QQ08
4B063QR41
4B063QR48
4B063QR49
4B065AA90X
4B065BA30
4B065BB12
4B065BB13
4B065BB19
4B065CA44
要約 簡便かつ容易な新規細胞分離法を提供する.a)標的細胞と非標的細胞との細胞膜流動性の差を拡大させる処理を行うこと,及びb) 細胞膜流動性の差を利用して,標的細胞を選別することを含む,細胞選別法.細胞選別用キット,細胞選別用培地,標的細胞と非標的細胞との細胞膜流動性の差を拡大させる処理を行うための試薬,基質に対する細胞の接着性を定量する方法も提供する.
特許請求の範囲 【請求項1】
a)標的細胞と非標的細胞との細胞膜流動性の差を拡大させる処理を行うこと,及び
b) 細胞膜流動性の差を利用して,標的細胞を選別すること
を含む,細胞選別法.
【請求項2】
未分化細胞を除去するために用いられる請求項1記載の方法.
【請求項3】
分化細胞を濃縮するために用いられる請求項1記載の方法.
【請求項4】
細胞集団を構成する細胞を均質化するために用いられる請求項1記載の方法.
【請求項5】
標的細胞と非標的細胞との細胞膜流動性の差を拡大させる処理が,細胞膜流動性を細胞種特異的に変化させることができる物質を培地に添加することである請求項1~4のいずれかに記載の方法.
【請求項6】
細胞膜流動性の差を拡大することにより、基質に対する細胞の接着性の差を拡大させ、この差を利用して、標的細胞を選別する請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
細胞膜流動性を細胞種特異的に変化させることができる物質が、ポリフェノール、分化誘導因子、インヒビター、増殖因子、薬剤又はアミノ酸・界面活性剤のいずれかである請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
細胞膜流動性を細胞種特異的に変化させることができる物質が、下記の群から選択される少なくとも1つの化合物である請求項7記載の方法。
(1) ポリフェノール群:resveratrol、epigallocatechin gallate (EGCG)、curcumin及びgenistein
(2) 分化誘導因子群:activin-A、wint-3a、sodium butylate、basic fibroblast growth factor (bFGF)、oncostatin M (OSM)、dexamethasone (DEX)、hepatocyte growth factor (HGF)、CHIR-99021及びforskolin
(3) インヒビター群:Y-27632 (rock inhibitor)、(s)-(-)-blebbistatin、IWP2、A83-01、LY294002、SB-431542、NVP-BHG、Cyclopamine-KAAD、及びPD-0325901
(4) 増殖因子群:FGF4、LDN-193189、insulin like growth factor (IGF)、bone morphogenetic protein (BMP)2、transforming growth factor (TGF)β2、BMP4、FGF-7、platelet-derived growth factor (PDGF)β3、epidermal growth factor (EGF)、exendin-4、human neuregulin (hHRG)β3、retionic acid (RA)、L-Ascorbic acid 2-phosphate (AA2P)、ascorbic acid、insulin-transferrin-selenium ethanolamine solution (ITS-X)、及びinsulin
(4) 薬剤群:rifampicin、prostaglandin E2 (PGE2)及びpeniciline/streptomycine solution
(5) アミノ酸・界面活性剤群:2-mercaptoethanol、3-mercaptopropane-1,2-diol (thioglycerol)、L-proline、L-glutamine、non-essential amino acid mixture(NEAA)、sodium pyruvate、trypsin-EDTA及びphosphatidylinositol (PI)
【請求項9】
標的細胞と非標的細胞との細胞膜流動性の差を拡大させる処理を行うための試薬を含む,細胞選別用キット.
【請求項10】
標的細胞と非標的細胞との細胞膜流動性の差を拡大させる処理を行うための試薬を含む,細胞選別用培地.
【請求項11】
細胞膜流動性を細胞種特異的に変化させることができる物質を含む,標的細胞と非標的細胞との細胞膜流動性の差を拡大させる処理を行うための試薬.
【請求項12】
基質に接着した細胞の割合(接着率)を培養時間毎に測定することを含む,基質に対する細胞の接着性を定量する方法.
【請求項13】
細胞を提供するドナー間の差を調べるために測定を行う請求項12記載の方法.
【請求項14】
細胞種間の差を調べるために測定を行う請求項12記載の方法.
【請求項15】
a1) 未分化細胞を分化誘導するにあたり,未分化細胞の分化前と分化後との細胞膜流動性の差を拡大させる処理を行なうこと,及び
b1)細胞膜流動性の差を利用して,分化細胞を選別すること
を含む,細胞の分化誘導方法.
【請求項16】
a1) 未分化細胞を分化誘導するにあたり,未分化細胞の分化前と分化後との細胞膜流動性の差を拡大させる処理を行なうこと,及び
b1)細胞膜流動性の差を利用して,分化細胞を選別すること
を含む,分化細胞の調製方法.
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は,細胞選別法に関する.
【背景技術】
【0002】
Takebeらは肝臓発生の初期プロセスの出芽現象(形態形成)に関わる3つの細胞群を同定し,それらをin vitroで混合することで肝臓原基(臓器の種)の創出に成功した(非特許文献1:Nature 2013, 特許文献1:WO2013/047639 A1:組織及び臓器の作製方法).この肝臓原基は移植後に肝臓機能を発現するため,臓器不全の患者に対する画期的な治療法として脚光を浴びている.また,同手法は腸,腎臓,膵臓,脳,肺,癌,心臓など,多様な組織へと拡張可能である(特許文献2:WO2015/012158 A1,特許文献3:WO2015/129822 A1)ことから,器官原基の構築する基盤原理として,さまざまな分野への応用が期待されている.そこで,実際の臓器再生医療へ応用するためには,均質でかつ安全性が担保された器官原基を誘導する手法を確立する必要性がある.しかしながら,本システムが抱える大きな問題点として,細胞原料における「安全性」と「均質性」の問題がある.
器官原基はヒトiPS細胞などの幹細胞から複数の細胞材料を調整し,誘導することが可能であるが,未分化iPS細胞や,分化途上にある未分化な前駆細胞などの非標的細胞が混入する可能性があり,安全性や均質性に課題が残されていた.例えば,これまでに残存する未分化細胞ががん化・増殖するリスクが示されてきているものの,実験実施者レベルで簡便かつ容易な未分化細胞の分離手法が確立されていない(非特許文献2:Cunningham et al., Nat. Biothechnol. 2012).また,分化途上にある内胚葉細胞や目的外の腸細胞へ分化した細胞が残存することで腸管組織を形成したり,同様に間質細胞の残存が過剰な線維化組織を形成することなどのリスクが指摘されているものの,このような組織の前駆細胞を細胞原料から選択的に除去する手法は存在しない.実際の研究室レベルでは,数多くのドナー細胞を用いた器官原基機能の網羅解析という研究者の経験論に依存した手法がとられており,産業応用上の決定的な障壁となっていた.
細胞選別法として再生医療研究・創薬研究の分野で広く用いられるのがFluorescence activated cell sorting (FACS)や,Magnetic-activated cell sorting (MACS)である(非特許文献3:Maecker et al., Nature Immunology 2010).本手法は表面抗原に対応する蛍光や磁性物質を付与した抗体を反応させ,蛍光や磁力を発する細胞のみを選択的に単離できる.しかしながら,表面抗原の同定と蛍光抗体の選定,さらにFACS装置の購入に膨大な時間とコストが必要である.また,実際の再生医療の現場での利用を想定した場合,固形臓器などの疾患治療に必要な超大量(1010~)の細胞の正確な選別が必要となるが, 選別に要する時間や伴う細胞へのダメージのため利用が困難である.さらに,標識物質の残存およびそのリスク評価についても大きな課題が残っていた.そこで非標識であり,安価・迅速な細胞選別法の開発が期待されている.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
臓器再生医療への安全でかつ均質性が担保された器官原基を誘導するためには,標的細胞と非標的細胞(例えば,未分化細胞)の細胞特性の違いに基づき,均質で高機能な器官原基を誘導する標的細胞の定量評価基準を確立するなどを通じ, 実験実施者レベルで簡便かつ容易な標的細胞の分離手法を確立することが必要である.
従来技術としてFACSなどの手法が存在するものの,熟練を要する高コストな装置を導入する必要がある.そのため実験実施者レベルで簡便かつ容易な新規細胞分離法の確立が必須である.
本発明は,簡便かつ容易な新規細胞分離法を提供することを目的とする.

【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは,基質をコーティングしたプラスチックディッシュ上へ細胞を播種後,培養時間τ分後に上澄みを回収することで基板接着性の悪い細胞を除去した(図1).その後,酵素に頼らない温和条件で細胞を剥離し,基板(基質)接着細胞のみを選択的に回収した.本手法を用いることで細胞原料の安全性と均質性の両立が可能である.以下詳細を述べる.
1.非標的細胞の除去による標的細胞の分離 (例.間質細胞に混入する未分化細胞の除去)
幹細胞ベースの様々な細胞治療法が提案される一方で,がん化の恐れのある未分化細胞を除去する抜本的な方法が確立されていない(非特許文献2:Cunningham et al., Nat. Biothechnol. 2012).そこで,本発明者らは,図1の培養において,がん細胞の接着を阻害する緑茶カテキン(Epigallocatechin gallate, EGCG)を組み込んだ.つまり分離時間と緑茶カテキンの濃度の2つのパラメータで未分化細胞の接着率を評価した.すると100μM EGCGの添加で分離時間とともにiPS細胞(未分化細胞)の接着数が減少する一方で,ヒトiPS細胞から分化誘導された間葉系細胞(septum transversum mesenchyme,STM)(分化細胞)の接着性は向上していることがわかる(図2A).接着率を定量してみると,τ=22.5分に置いて顕著にiPS細胞の接着率の減少する一方で,STMについてはその接着率に変化が見られない.緑茶カテキンを組み合わせることで,分化細胞の接着を維持したまま,未分化細胞の混入を約2.6倍減少させることに成功した.EGCGが存在しない条件でSTMを細胞分離し,肝臓原基を誘導すると,アルブミン産生能に違いは見られない(図7A).しかしながらτ=22.5分において未分化細胞の混入率は減量していることが推測され,本細胞分離法により細胞自身へダメージを与えることなく未分化細胞の除去を促進していることが期待される.
2.細胞原料の均質化と肝臓原基の高機能化
肝臓原基の集合運動に大きく寄与する間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cells, MSC)のドナー細胞を2種,さらにヒトiPS細胞から分化誘導された間葉系細胞(septum transversum mesenchyme,STM)及び内皮細胞(endothelial cell, EC)の計4種を用いて接着率の分離時間依存性を測定した.するとMSCドナー間で接着ダイナミクスが異なるカーブを描くことを見出した(図4).さらに興味深いことにiPS細胞から誘導したSTM・ECはドナー由来のMSCよりも強い基板接着率のカーブを描いている.これらの結果は本評価システムがMSCドナー間差,及び細胞種間の接着性の違いを定量区別可能であることを示している.
さらに,本発明者らは,各分離時間において回収した細胞を用いて誘導した肝臓原基のアルブミン産生能を測定した(図7). MSC Donor1ではτ=7.5分において極大値を取るアルブミン産生能を示し,ECにおいてはτが増大するにつれアルブミン産生能が向上することを見出した.よって本細胞選別法により均質な細胞が選別され,より高機能な肝臓原基が誘導されたことを示している.
3.未分化細胞の特異的な膜流動性を利用した,新規膜流動性ソーティング法の開発
なぜポリフェノールは未分化細胞の接着を特異的に阻害するのだろうか?その原理を理解することで,未分化細胞の着目すべき物理指標に合わせた論理的な薬剤スクリーニングが可能となる.緑茶カテキンには細胞膜のタンパク質に対する生化学的な反応(リガンドーレセプター相互作用)だけでなく,それを支える脂質膜を硬化させることを見出している(非特許文献4:Matsuzaki et al., Phys. Chem. Chem. Phys. 2017).膜流動性を物性値(Generalized polarization factor, GP値)で評価可能な蛍光プローブであるラダン(非特許文献5:Owen et al., Nature protocols 2011)を用いて,まずは未分化・分化細胞膜の定量評価を行った(図10).すると未分化細胞は流動的な脂質分子と,コレステロール豊富な細胞膜をしていることを見出した(図10B).さらにこれは内胚葉誘導特異的な現象ではなく,中胚葉・外胚葉由来細胞も同様の傾向を示しており(図11),さらにその胚葉特異的な流動性の個性差があることを見出した.これらの細胞にポリフェノールを作用させると未分化—分化細胞との流動性の個性差が劇的に拡大していることを見出した(図13). さらに未分化細胞に特異的に反応する低分子化合物は他に存在するのであろうか?ポリフェノール以外に,分化誘導因子,阻害剤,成長因子,薬剤,アミンと界面活性剤を含んだ独自のライブラリーを構築し,未分化細胞に反応させたときの流動性変化を測定した(図13).色の強度が強いものほど低分子化合物が良く反応しており, GP値の高い領域でその反応性が強いものはポリフェノール群のみである.本手法によって,未分化細胞の除去に着目すべき新規の物理指標として膜流動性があることを見出し,その制御には我々の生活に身近な天然化合物のポリフェノールが非常に有効であることを示した.本研究においては確立した流動性評価アッセイを未分化細胞特異的に反応する低分子化合物のスクリーニングに用いたが,本アッセイは未分化細胞だけでなく幅広い細胞種に応用可能であり,細胞種毎のスクリーニングか可能となる.
4.新規選別法の優位性~既存手法との比較~
本手法は細胞の機能を維持したまま(図6,図7),未分化細胞の除去を超高速(<30分以内)・超膨大量の選別が可能な手法である.既存手法の一つであるFACSを例にとって見ると,10個の細胞を選別するだけで1日かかるだけでなく,その長時間ソートによる細胞へのダメージが甚大であり,最終的に回収できる細胞数は初期の10%以下となる(図8A).一方でTatenoらが開発した未分化細胞殺傷薬剤(非特許文献6:Tatano et al., Stem cell reports 2015)においては,未分化細胞だけでなく,中途分化細胞まで剥離してしまう(図8B).これは未分化細胞と器官原基(オルガノイド)の原料である中途分化細胞の糖鎖表面マーカーが共通しており,分化途中の細胞にも効率的に毒素が反応してしまうせいだと考えられる.以上をまとめると,FACSはそのソーティングスピードの遅さから,臨床応用に耐えられる超大量の細胞選別には向かず,さらにレクチンについては,中途分化細胞のような未分化細胞の性質をまだ共有しているものたちに対しては毒となってしまう.本手法は未分化細胞の膜流動性の特性に着目し,その流動性を身近な天然化合物(ポリフェノール)を用いて標的細胞へのダメージを最小限に選別可能な手法であることが見出された.器官の芽(オルガノイド)の創出に必要不可欠な分化途中の細胞原料の選別には本手法が強力なツールとして利用可能であることが考えられる.
【0005】
本発明の要旨は以下の通りである.
(1)a)標的細胞と非標的細胞との細胞膜流動性の差を拡大させる処理を行うこと,及び
b) 細胞膜流動性の差を利用して,標的細胞を選別すること
を含む,細胞選別法.
(2)未分化細胞を除去するために用いられる(1)記載の方法.
(3)分化細胞を濃縮するために用いられる(1)記載の方法.
(4)細胞集団を構成する細胞を均質化するために用いられる(1)記載の方法.
(5)標的細胞と非標的細胞との細胞膜流動性の差を拡大させる処理が,細胞膜流動性を細胞種特異的に変化させることができる物質を培地に添加することである(1)~(4)のいずれかに記載の方法.
(6)細胞膜流動性の差を拡大することにより、基質に対する細胞の接着性の差を拡大させ、この差を利用して、標的細胞を選別する(1)~(5)のいずれかに記載の方法。
(7)細胞膜流動性を細胞種特異的に変化させることができる物質が、ポリフェノール、分化誘導因子、インヒビター、増殖因子、薬剤又はアミノ酸・界面活性剤のいずれかである(5)又は(6)に記載の方法。
(8)細胞膜流動性を細胞種特異的に変化させることができる物質が、下記の群から選択される少なくとも1つの化合物である(7)記載の方法。
(1) ポリフェノール群:resveratrol、epigallocatechin gallate (EGCG)、curcumin及びgenistein
(2) 分化誘導因子群:activin-A、wint-3a、sodium butylate、basic fibroblast growth factor (bFGF)、oncostatin M (OSM)、dexamethasone (DEX)、hepatocyte growth factor (HGF)、CHIR-99021及びforskolin
(3) インヒビター群:Y-27632 (rock inhibitor)、(s)-(-)-blebbistatin、IWP2、A83-01、LY294002、SB-431542、NVP-BHG、Cyclopamine-KAAD、及びPD-0325901
(4) 増殖因子群:FGF4、LDN-193189、insulin like growth factor (IGF)、bone morphogenetic protein (BMP)2、transforming growth factor (TGF)β2、BMP4、FGF-7、platelet-derived growth factor (PDGF)β3、epidermal growth factor (EGF)、exendin-4、human neuregulin (hHRG)β3、retionic acid (RA)、L-Ascorbic acid 2-phosphate (AA2P)、ascorbic acid、insulin-transferrin-selenium ethanolamine solution (ITS-X)、及びinsulin
(4) 薬剤群:rifampicin、prostaglandin E2 (PGE2)及びpeniciline/streptomycine solution
(5) アミノ酸・界面活性剤群:2-mercaptoethanol、3-mercaptopropane-1,2-diol (thioglycerol)、L-proline、L-glutamine、non-essential amino acid mixture(NEAA)、sodium pyruvate、trypsin-EDTA及びphosphatidylinositol (PI)
(9)標的細胞と非標的細胞との細胞膜流動性の差を拡大させる処理を行うための試薬を含む,細胞選別用キット.
(10)標的細胞と非標的細胞との細胞膜流動性の差を拡大させる処理を行うための試薬を含む,細胞選別用培地.
(11)細胞膜流動性を細胞種特異的に変化させることができる物質を含む,標的細胞と非標的細胞との細胞膜流動性の差を拡大させる処理を行うための試薬.
(12)基質に接着した細胞の割合(接着率)を培養時間毎に測定することを含む,基質に対する細胞の接着性を定量する方法.
(13)細胞を提供するドナー間の差を調べるために測定を行う(12)記載の方法.
(14)細胞種間の差を調べるために測定を行う(12)記載の方法.
(15)a1) 未分化細胞を分化誘導するにあたり,未分化細胞の分化前と分化後との細胞膜流動性の差を拡大させる処理を行なうこと,及び
b1)細胞膜流動性の差を利用して,分化細胞を選別すること
を含む,細胞の分化誘導方法.
(16)a1) 未分化細胞を分化誘導するにあたり,未分化細胞の分化前と分化後との細胞膜流動性の差を拡大させる処理を行なうこと,及び
b1)細胞膜流動性の差を利用して,分化細胞を選別すること
を含む,分化細胞の調製方法.
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願、特願2017-43744の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【発明の効果】
【0006】
上述した従来技術(FACS)に比べて,本発明の手法は非蛍光標識でかつ観察に用いるのはルーチン顕微鏡のため,安価・迅速・簡便である.
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】細胞種特有の接着現象に着目した未分化細胞の除去法.(A)本細胞分離法の概念図.培養後τ分に置いて弱接着性細胞(球状の細胞)を含む上澄みを洗い流し,強接着細胞(進展した細胞)を温和に剥離培養することで細胞原料の安全化と均質化を達成できる.(B)未分化細胞と分化細胞の各分離時間における接着細胞の顕微像.未分化細胞としてはヒトiPS,分化細胞としてはiPSから誘導した間葉系細胞septum transversum mesenchyme,STMを用いた.どちらの細胞種も分離時間が長くなるにつれて接着している細胞数は大きくなったが,より多くの成熟細胞が基板に接着していることが明らかになった.本結果は細胞種毎の接着性の違いを利用すればiPS細胞の分離効率を最大化できる可能性を示唆している.
【図2】緑茶カテキンを用いたiPS細胞の選択的細胞選別.(A)緑茶カテキン存在下における本細胞選別法の概念図.弱接着性細胞(球状の細胞)が未分化細胞(iPS)とみなして,上澄みを除去することで排除が可能である.(B)未分化細胞と分化細胞の接着率の分離時間依存性に対する緑茶カテキンの効果.本結果は成熟細胞の接着率に変化を与えない一方で,未分化細胞の接着率のみを特異的に緑茶カテキンが低下させている.このことからヒトiPSから誘導した分化細胞からiPS細胞を特異的に排除できる可能性を示唆している.また後述(図5)のカテキン非存在下でSTM細胞を選別すると肝臓原基機能を損なうことなく,iPS細胞の残存率を低下させていることが予想され,FACSなどのように選別手法による細胞のダメージなどは存在しないことが示唆される.
【図3】未分化細胞の分離を最大化させるための時間因子と培養液因子と基質因子の網羅的解析.溶液因子としてはカテキンのほかに抗がん作用を有するクルクミンを使用し,接着する場の基質因子としてはゲラチン,フィブロネクチン,ラミニン511断片を組み合わせて分離度を最大化する条件の検討を各時間(時間因子)毎に行った.(A)iPS細胞とiPS細胞から誘導したDE(definitive endoderm, 内胚葉細胞),HE(hepatic endoderm,肝内胚葉細胞),EC(endothelial cells, 内皮細胞),Pre-STM (STMの前駆細胞)の4種である.セルの色が黒色になるほど接着率が高い.(B)成熟細胞の接着率をiPS細胞の接着率で割ることで,その分離度に変化したもの.黒色(>1)になるほど成熟細胞の接着率がiPS細胞よりも大きいため分離効率が高いことを示す.本結果は細胞分離“時間”だけでなく,溶液因子と基質因子のパラメーターを考慮することで,細胞種特異的に分離効率を最大化する条件が存在することを示している.
【図4】細胞種の接着率の分離時間依存性.点線は指数関数曲線でのフィッティング結果.iPSから誘導されたSTM,ECさらに骨髄ドナーの異なるMSCについて接着率のカーブがすべて異なることが見出され,細胞種毎に特有の接着ダイナミクスを有することが示された.
【図5】分化細胞に対して未分化細胞(GFPラベル)が同時に混入した溶液からの未分化細胞の除去率バルーンプロット.(A)実験操作のイラストと除去率バルーンの低後.(B)時間・溶質・基質を掛け合わせた分化細胞(生体内の全胚葉を網羅)からのみ分化細胞の除去率.(C)ポリフェノール存在下における各種細胞の接着ダイナミクス.(D)ポリフェノールが内胚葉細胞では初期除去率を縮める方向に,中胚葉では広げる方向に誘導する力学的メカニズムの模式図.なお外胚葉としてNeural crestを新規に導入している.
【図6】HE-iPSC混合溶液からの機能的でかつ未分化性の低いHE細胞の濃縮.選別後8日間培養することで得られたMHの機能をアルブミン産生能で評価し,さらに未分化細胞のレベルを未分化細胞のtra2-49/6E(未分化性の代表的なマーカー)のピークの蛍光強度から算出したFlow cytometry(FCM)のデータ.
【図7】様々な細胞種の選別による肝臓原基の機能および構造の向上.(A)肝臓原基を構成する間葉系幹細胞の骨髄ドナー1および骨髄ドナー2,さらにEC,STMを細胞原料に,本細胞選別後に培養した肝臓原基の機能評価.培養後Day10,13,16日目における培養液上澄をELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)試薬を用いてアルブミン濃度を測定した.分離時間τ=7.5分において接着していたMSCを用いて肝臓原基を誘導した際には,分離しない場合(τ=0)に比べて最大で3-4倍程度アルブミン産生能が向上する.さらに肝臓原基を構成する上皮細胞をiPSから誘導したECにおいても同様の実験を行うとτ=30分において約1.5倍程度の肝臓原基の機能向上が確認できた.この結果から細胞種毎に特有でかつ肝臓原基の機能を最大化するような分離時間が存在することがわかる.(B)対応する肝臓原基の構造評価.ドナー1においては7.5分において肝臓原基の数が最大化しており,ドナー2の肝臓原基数に近づいている.ECについては肝臓原基数が減っているものの,丸く大きな肝臓原基が形成されており,肝臓原基一つあたりの機能が向上していることが示唆される.
【図8】既存手法であるFACS法とレクチン法の欠点(A)FACSを用いて未分化細胞混入溶液から機能的なHEを選別するためには,長時間(10の細胞選別するのに1日,臨床レベルには利用不可)かかり,さらに収率も10%以下と非常に悪い.(B)レクチン法においては未分化細胞特異的に高発現する表面糖鎖を認識するrBC2LCN-PE23が,中途分化細胞においても中程度発現しているため,細胞剥離を促す.生細胞をlive dead staing 試薬(Lifetechnologies japan inc)で染色し,その蛍光領域を定量した.
【図9】本手法(黒)と既存手法(グレー)がカバーするmaturation levelの細胞集団の模式図.縦軸には未分化細胞の割合を,横軸には標的細胞への成熟度(未分化細胞から分化誘導をかけてかかる日数)を示し,黒点線が分化誘導とともに減少していく未分化細胞の割合を模式的に示した.細胞として表示したのは肝内胚葉誘導の例であり,未分化細胞(iPSC)からDE(definitive endoderm ), HE (hepatic endoderm),MH (matured hepatocye).これまで既存手法(previous methods)がターゲットとして用いてきたのは成熟しきった分化細胞である(グレー点線,MH).既存手法の代表例であるFACSは一つ一つ細胞を選別していくため,その選別スピードが非常に遅く非生理的環境下にさらされる時間の長さから細胞毒性による回収率の悪さが問題である(図8A).さらに未分化細胞除去剤であるレクチンは,未分化細胞だけでなく,分化途中の細胞に対しても殺傷効果を示す(図9A,DE&HE).よって既存手法がターゲットとしていたのは成熟しきった細胞(そもそも長期培養によって未分化残存もかなり低い)であって,臓器原基(オルガノイド)の原料となる“分化途中”の細胞にはフィットしない手法であった(黒実線,DE,HE).一方で本手法は成熟細胞もターゲットにしながら,分化途中の細胞の機能を維持したまま細胞毒性を示さない手法であり(図9),かつそのソーティングスピードは30分以内と非常に速いため(図5),臨床応用に利用可能な膨大量の細胞を迅速にバルクソーティング可能である.こうした温和・迅速・超膨大量の細胞選別の原理として機能しているのが,未分化細胞の膜流動性の“指紋”に特異的に反応することで分化細胞と未分化細胞の個性差を拡大するポリフェノールの存在が肝である(図10,図13)
【図10】内胚葉誘導における脂質膜流動性の時間変化.(A)未処理(native)とコレステロール除去剤(Methyl-β-cyclodextrin,MβCD)を処理したときの,未分化細胞と前期・後期分化細胞(definitive endoderm, DE)の膜流動性.流動性の物性値であるGP値をカラーで表示した.(B)膜流動性のタイムラプスの統計値.脂質膜流動性を決める要素として脂質分子の配向性とコレステロールのレベルがあるが,コレステロール脱離したグラフでnativeから引くと,膜内に存在するコレステロールのレベルが推測できる(図中右).
【図11】未分化細胞,内・中・外胚葉由来の各種細胞の膜流動性.(A)NativeとMβCD添加した細胞膜における流動性をGP値で表示したもの.コレステロールを脱離する前でも既にEndo/Ectodermは流動性が低く,Mesodermは流動性が未分化細胞のそれに近い状態になっている.一方でコレステロールをぬくともっとも未分化細胞が流動化する.(B)実際にどのような流動性の個性を持っているか示すために,ヒストグラム(Number of pixel vs GP値)をレーダープロットしたものを示す.各条件におけるピーク値を矢印で示し,native-コレステロール脱離膜が膜中のコレステロールレベル(青矢印のベクトル)を示す.すると脂質膜の配向性の強さはiPSC<<MC<NC<EC<HEとなり,一方でコレステロールレベルはiPSC>>EC,MC,NC>HEと細胞種毎に得意的な脂質膜流動性の個性差が存在することを示している.
【図12】独自低分子化合物のライブラリーを用いた未分化細胞の膜流動性モジュレーターの探索.Y軸にGP値,X軸に低分子化合物のライブラリー,Z軸にはGPヒストグラムにおいて反応後から反応前の頻度を引いたものを示す.色が濃くなるにしたがって反応後と反応前との差が大きい,つまり良く未分化細胞の流動性を変化させていることを示している.
【図13】A:ポリフェノール反応前(黒枠)と反応後の分化細胞と未分化細胞との間の流動性の差.内・中・外胚葉細胞の膜流動性のヒストグラム(数 vs GP値)から未分化細胞ものを引いた強度を縦軸に,横軸にはGP値(膜流動性の指標)をプロットした.ポリフェノール反応前はその強度(縦軸)が0ではない,そもそも分化細胞と未分化細胞との間には膜流動性の差があることを示している.これがポリフェノール(ここではresveratrol, EGCG, Curcumin, Genistein)の添加によってその強度(縦軸)が増大していくことがわかる.B:Aにおける縦軸強度の正の割合の総和を,細胞種ごとに,反応前と反応後でまとめたものを示す.ほぼ全ての細胞種においてCurcuminおよびGenisteinがその総和を数倍以上に向上させており,本結果は未分化細胞と分化細胞との流動性の差をポリフェノールが増大させていることを示している.
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下,本発明を詳細に説明する.
本発明は,a)標的細胞と非標的細胞との細胞膜流動性の差を拡大させる処理を行うこと,及び
b) 細胞膜流動性の差を利用して,標的細胞を選別すること
を含む,細胞選別法を提供する。

【0009】
本発明の方法において,選別の対象となる細胞は,接着性細胞であるとよく,iPS細胞,胚体内胚葉細胞,肝内胚葉細胞,内皮細胞,間葉系細胞,横中隔間質細胞,臍帯静脈内皮細胞,間葉系幹細胞などが例示されるが,腎臓,心臓,肺臓,脾臓,食道,胃,甲状腺,副甲状腺,胸腺,生殖腺,脳,脊髄などの器官に分化可能な細胞などであってもよく,脳,脊髄,副腎髄質,表皮,毛髪・爪・皮膚腺,感覚器,末梢神経,水晶体などの外胚葉性器官に分化可能な細胞,腎臓,尿管,心臓,血液,生殖腺,副腎皮質,筋肉,骨格,真皮,結合組織,中皮などの中胚葉性器官に分化可能な細胞,肝臓,膵臓,腸管,肺,甲状腺,副甲状腺,尿路などの内胚葉性器官に分化可能な細胞,膵臓の内分泌細胞,膵臓の膵管上皮細胞,肝臓の肝細胞,腸管の上皮細胞,腎臓の尿細管上皮細胞,腎臓の糸球体上皮細胞,心臓の心筋細胞,血液のリンパ球や顆粒球,赤血球,脳の神経細胞やグリア細胞,脊髄の神経細胞やシュワン細胞,endothelial cells,umbilical vein endothelial cells,endothelial progenitor cells,endothelial precursor cells,vasculogenic progenitors,hemangioblast mesenchymal stem cells,mesenchymal progenitor cells,mesenchymal cellsなども例示することができ,ヒト・非ヒト由来のいずれであってもよいが,これらに限定されるわけではない.また,これらの細胞は,,機能細胞又は機能細胞へと分化する未分化細胞のいずれであってもよく,例えば,ES/iPS細胞から分化誘導されたものであってもよい.

【0010】
本発明の方法において,標的細胞と非標的細胞とは,同じ系譜で、分化の程度が異なる細胞(例えば、iPS細胞から誘導した分化細胞と未分化の細胞),ドナー検体から提供された細胞中のある特定のドナー由来の細胞とその他のドナー由来の細胞,iPS細胞から誘導した分化細胞と意図せず目的外の組織へ分化した細胞、などを例示することができるが,これらに限定されるわけではない.本発明の方法により、未分化細胞と中途分化細胞を含む細胞集団から、中途未分化細胞を選別することができる。また、分化のステージが異なる細胞を含む細胞集団から、特定のステージ(例えば、前期、後期など)の細胞を選別することができる。

【0011】
本明細書において、「細胞膜流動性」とは、生体膜における脂質分子やタンパク質分子の拡散係数などの膜のやわらかさの指標として式1(実施例)で定義したものをいう。をいう.細胞が強く接着するためにはまず流動的な膜上で接着タンパク質が集合することが重要である。強く接着しようとする動きは膜の柔軟性で決まる。遺伝子発現などが変わる時間スケールよりも超速(<15分)で膜の柔軟な揺らぎが変わるので,細胞の接着性は膜流動性に支配されていることがわかる.
細胞膜流動性は、膜流動性に応じて蛍光強度が変化するラダンを用いて評価することができる(後述の実施例参照)。

【0012】
標的細胞と非標的細胞との細胞膜流動性の差を拡大させる処理としては,細胞膜流動性を細胞種特異的に変化させることができる物質を標的細胞と非標的細胞に接触させる(例えば、培地に添加する)ことを例示することができるが,これらに限定されるわけではない.細胞膜流動性を細胞種特異的に変化させることができる物質としては,ポリフェノール、分化誘導因子、インヒビター、増殖因子、薬剤、アミノ酸・界面活性剤などを例示することができるが、これらに限定されるわけではない。より具体的には、以下の化合物が例示される。
(1) ポリフェノール群:resveratrol、epigallocatechin gallate (EGCG)、curcumin及びgenistein
(2) 分化誘導因子群:activin-A、wint-3a、sodium butylate、basic fibroblast growth factor (bFGF)、oncostatin M (OSM)、dexamethasone (DEX)、hepatocyte growth factor (HGF)、CHIR-99021及びforskolin
(3) インヒビター群:Y-27632 (rock inhibitor)、(s)-(-)-blebbistatin、IWP2、A83-01、LY294002、SB-431542、NVP-BHG、Cyclopamine-KAAD、及びPD-0325901
(4) 増殖因子群:FGF4、LDN-193189、insulin like growth factor (IGF)、bone morphogenetic protein (BMP)2、transforming growth factor (TGF)β2、BMP4、FGF-7、platelet-derived growth factor (PDGF)β3、epidermal growth factor (EGF)、exendin-4、human neuregulin (hHRG)β3、retionic acid (RA)、L-Ascorbic acid 2-phosphate (AA2P)、ascorbic acid、insulin-transferrin-selenium ethanolamine solution (ITS-X)、及びinsulin
(4) 薬剤群:rifampicin、prostaglandin E2 (PGE2)及びpeniciline/streptomycine solution
(5) アミノ酸・界面活性剤群:2-mercaptoethanol、3-mercaptopropane-1,2-diol (thioglycerol)、L-proline、L-glutamine、non-essential amino acid mixture(NEAA)、sodium pyruvate、trypsin-EDTA及びphosphatidylinositol (PI)
その他、細胞接着阻害剤(Rho activator, FAK inhibitor)なども例示される。

【0013】
培地中に添加する物質濃度は,適宜調整するとよく,例えば,1 μM以上であるとよく,好ましくは,1~100 μMであり,より好ましくは,10~100 μMである.
細胞膜流動性の差を拡大することにより、基質に対する細胞の接着性の差を拡大させ、この差を利用して、標的細胞を選別することができる。標的細胞の接着力が非標的細胞よりも小さい場合には、細胞培養液の上澄みから標的細胞を回収するとよい。逆に、標的細胞の接着力が非標的細胞よりも大きい場合には、培養容器の基板(基質)に接着している標的細胞を回収すればよい。

【0014】
基質とは,細胞を培養する際に,細胞が接着する足場となる分子をいう.接着性細胞が増殖するためには足場となる基質が必要である.細胞培養には、マトリゲル,ラミニン,コラーゲン,ゼラチン,フィブロネクチン,細胞外マトリックスなどの基質をコーティングした培養容器(基板)が使われるが,このとき,細胞は,基質を介して培養容器に接着して,足場を確保している.特定の分子をコーティングしていない培養容器に細胞が接着する場合には、培養容器の培養面を構成する分子を基質ととらえることができる。

【0015】
基質に対する細胞の接着性は,基質に接着した細胞の割合(接着率)を培養時間毎に測定することにより,定量化することができる.本発明は,基質に接着した細胞の割合(接着率)を培養時間毎に測定することを含む,基質に対する細胞の接着性を定量する方法も提供する.

【0016】
基質に対する細胞の接着性は,細胞を提供するドナーによっても,また,細胞種間でも異なりうる.よって,細胞を提供するドナー間の差を調べるために,基質に対する細胞の接着性を測定するとよい.また,細胞種間の差を調べるために,基質に対する細胞の接着性を測定するとよい.

【0017】
本発明の細胞選別法においては、基質の「物理特性(硬さなど)」を変更(あるいは調整)してもよい.また、基質の「生化学特性(種類)」を変更(あるいは最適化)してもよい.

【0018】
基質の「物理特性(硬さなど)」を変更する(あるいは調整する)手法として,基質の濃度を調整すること,基質の種類を変更すること,基質の硬さを変えることができる物質を添加すること,基質を構成する成分の組成(混合比率)を変えることなどを例示することができるが,これらに限定されるわけではない.
基質の「生化学特性(種類)」を変更する(あるいは最適化する)手法としては,例えば,生体内における細胞外マトリックスの成分等の中から,細胞の接着と生育に関わるタンパク質群を選択する乃至は,複数の基質に対する細胞の接着性を定量し,細胞が所望の接着性を示す基質を選択するという方法を挙げることができるが,それに限定されるわけではない.

【0019】
細胞は,基質でコーティングされた細胞培養容器において接着培養するとよい.
細胞の培養のための培地は,細胞の種類,目的とする細胞の分化誘導の種類などによって,適宜選択するとよい.培地には,細胞膜流動性を細胞種特異的に変化させることができる物質(ポリフェノール、分化誘導因子、インヒビター、増殖因子、薬剤又はアミノ酸・界面活性剤など),フェノールレッド,ピルビン酸塩,HEPES,微量金属,リン酸塩,酢酸塩,ビタミン類,アスコルビン酸,ニコチンアミド,2-メルカプトエタノール,デキサメタゾン,インスリン,上皮成長因子(EGF),肝細胞増殖因子(HGF),アクチビンA,塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF),骨形成タンパク質(BMP)4,オンコスタチンM,ヒドロコルチゾン,ヘパリン,血管内皮細胞成長因子(VEGF),インシュリン様成長因子(R3-IGF)-1,ウシ脳抽出物(BBE),ウシ胎児血清(FBS),トランスフェリン,ウシ血清アルブミン(BSA),血清代替物(N2,B27サプリメントなど),緩衝剤,抗生物質(ゲンタマイシン,ペニシリン,ストレプトマイシン,アンホテリシン-B等)等の他の成分を添加してもよい.

【0020】
培地の溶媒としては,水,血清,または,pH緩衝溶液などを用いることができる.あるいはまた,市販の培地(例えば,ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM),E-MEM,IMDM,乳糖含有glucose-free DMEM,ハム(Ham)F12,RPMI-1640,ウイリアムズE,など,及びそれらの混和物)に分岐鎖アミノ酸を添加して,細胞膜流動性を細胞種特異的に変化させることができる物質を含むように調整してもよい.

【0021】
細胞の培養は34℃~38℃,好ましくは37℃の温度で行い,CO濃度は2%~10%が好ましく,5%が最も好ましい.

【0022】
細胞膜流動性の差を利用して,標的細胞を選別するには、例えば、細胞膜流動性を細胞種特異的に変化させることができる物質を培地に添加することで、標的細胞と非標的細胞との基質に対する接着性の差を拡大させ、標的細胞の接着率を非標的細胞の接着率で割った値(分離度)が最大になる時間あるいはそれに近い時間まで培養する。標的細胞の基質に対する接着力が非標的細胞のそれよりも小さい場合には、浮遊する細胞を洗い流すことで、標的細胞を単離することができる。逆に、標的細胞の基質に対する接着力が非標的細胞のそれよりも大きい場合には、基質にに接着している標的細胞を回収すればよい。

【0023】
本発明の方法は,未分化細胞を除去するために用いることができる.例えば,同じ系譜の細胞集団の中から、特定の分化段階の細胞を分別すること、その一例として、iPS細胞から誘導した分化細胞の中から未分化細胞を除去することができる.
未分化細胞の「未分化」とは,分化が完全に終わっていない状態をいい,未分化細胞とは,分化可能なあらゆる細胞(例えば、特定の細胞への分化運命が決定しているが、まだその細胞へ分化していない細胞)を含む概念である.未分化細胞としては,iPS細胞やES細胞などの多能性幹細胞や生体組織(臓器も含む)に由来する未分化な組織・臓器(例えば,肝臓)細胞などを例示することができる.未分化な組織・臓器細胞としては,生体組織に由来する幹細胞,前駆細胞などを例示することができる.

【0024】
本発明の方法により,未分化細胞を除去することは,安全で均質な細胞原料に利用することができる.よって,本発明は,a1) 未分化細胞を分化誘導するにあたり,未分化細胞の分化前と分化後との細胞膜流動性の差を拡大させる処理を行なうこと,及び
b1)細胞膜流動性の差を利用して,分化細胞を選別すること
を含む,細胞の分化誘導方法を提供する.また,本発明は,a1) 未分化細胞を分化誘導するにあたり,未分化細胞の分化前と分化後との細胞膜流動性の差を拡大させる処理を行なうこと,及び
b1)細胞膜流動性の差を利用して,分化細胞を選別すること
を含む,分化細胞の調製方法も提供する.

【0025】
また,本発明の方法は,分化細胞を濃縮するために用いることができる.例えば,iPS細胞から誘導した分化細胞を濃縮することができる.

【0026】
本発明の方法は,細胞集団を構成する細胞を均質化するために用いることもできる.例えば,iPS細胞から誘導した成熟細胞並びにヒトドナー献体から提供された細胞材料の安全性だけでなく,立体組織の機能を向上する細胞原料の均質性を担保する細胞分離法としても有効である.

【0027】
本発明は,標的細胞と非標的細胞との細胞膜流動性の差を拡大させる処理を行うための試薬を含む,細胞選別用キットも提供する.

【0028】
標的細胞と非標的細胞との細胞膜流動性の差を拡大させる処理を行うための試薬は,細胞膜流動性を細胞種特異的に変化させることができる物質を含むとよく,このような物質については上述した。本発明は,細胞膜流動性を細胞種特異的に変化させることができる物質を含む,標的細胞と非標的細胞との細胞膜流動性の差を拡大させる処理を行うための試薬も提供する.

【0029】
標的細胞と非標的細胞との細胞膜流動性の差を拡大させる処理を行うための試薬は,希釈液,基質,基質の硬さを変えることができる物質,さらに基質の足場として用いる基板を硬さの調整できる高分子ゲルなどを含むとよい.これらの物質により、標的細胞と非標的細胞との基質に対する接着性の差をさらに拡大することができる。

【0030】
標的細胞と非標的細胞との細胞膜流動性の差を拡大させる処理を行うための試薬は,複数の基質を含むんでもよい.そうすれば、複数の基質に対する細胞の接着性を定量し,細胞が所望の接着性を示す基質を選択することができる。

【0031】
標的細胞と非標的細胞との細胞膜流動性の差を拡大させる処理を行うための試薬は,培地に添加されてもよい.よって,本発明は,標的細胞と非標的細胞との細胞膜流動性の差を拡大させる処理を行うための試薬を含む,細胞選別用培地も提供する.

【0032】
本発明は,安価で身近で安全な物質(緑茶カテキンやクルクミン)を添加するという安価かつ単純な方法を用いることにより,ヒト臓器細胞の工業的製造に向けて劇的なコストダウンが可能な基盤的培養技術となる.本発明者らが過去に開発した技術(「組織・臓器の作製方法」WO2013/047639)と連動することにより,再生医療や産業応用上極めて有益な細胞操作技術となる.例えば,本発明によりヒトiPS細胞から分化誘導した肝臓細胞の中から混入しているiPS細胞を選択的に除去可能であり,臨床応用・創薬開発において必要な安全なヒト成熟肝細胞を大量に安価に製造することが可能となる.また,個人毎に樹立された複数のiPS細胞株を用いることで,人種・性別・個体差などスペックの明らかなヒト成熟肝細胞を,安定的かつ安価に大量供給することが可能となる.これにより,創薬開発における課題であった個人における反応性の相違を検出する革新的なスクリーニング技術となることが期待される.さらに器官原基だけに限らず未分化・分化細胞を原料として用いる様々な組織工学の手法において,未分化細胞の除去が可能な基礎的な細胞選別法として利用可能性が高い.
【実施例】
【0033】
以下,実施例により本発明を更に詳細に説明する.本実施例において,特に断りがない限り,未成熟細胞はヒトiPS細胞であり,成熟細胞はiPS細胞から分化誘導された分化細胞である.
〔実施例1〕
1.細胞原料の安全化(未分化細胞の除去)
1.1細胞種特有の分離ダイナミクスに着目したによる細胞原料の安全化(未分化細胞の除去)
幹細胞ベースの様々な細胞治療法が提案される一方で,がん化の恐れのある未分化細胞を除去する抜本的な方法が確立されていない(非特許文献2:Cunningham et al., Nat. Biothechnol. 2012).そこで発明者は細胞種特異的な接着ダイナミクスの違いを利用して,未分化細胞の除去を行った(図1).実験としては図1Aにあるように,培養後τ分に置いて弱接着性細胞(図中球状の細胞)を含む上澄みを洗い流し,強接着細胞(図中,進展した細胞)を温和に剥離培養することで細胞原料の安全化と均質化を達成できる.実際に未分化細胞と分化細胞の各分離時間における接着細胞の顕微像を取得すると,どちらの細胞種も分離時間が長くなるにつれて接着している細胞数は大きくなったが,より多くの成熟細胞が基板に接着していることが明らかになった.なお未分化細胞としてはヒトiPS,分化細胞としてはiPSから誘導した間葉系細胞septum transversum mesenchyme,STMを用いた.本結果は細胞種毎の接着性の違いを利用すればiPS細胞の分離効率を最大化できる可能性を示唆している.
後述にはなるが,STM分離時間における肝臓原基の機能への影響を定量評価するために,各分離時間で得たSTM細胞を原料として肝臓原基の機能評価を行った.実際には10,13,16日目における培養液上澄中に存在するアルブミン量をELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)試験によって定量している.各分離時間,培養時間においてもどちらもアルブミン産生能に違いは見られない(図7).しかしながらτ=22.5分において未分化細胞の混入率は減量していることが推測され,本細胞分離法により細胞自身へダメージを与えることなく未分化細胞の除去を促進していることが期待される.
【実施例】
【0034】
1.2緑茶カテキンのがん細胞接着阻害効果を利用した細胞原料の安全化(未分化細胞の除去)
未分化細胞の分離効率を向上させるために緑茶カテキン(Epigallocatechin gallate, EGCG)を組み込んだ.EGCGはがん細胞の接着や生育を阻害でき,副作用がなく安全な天然低分子化合物である(非特許文献7:Matsuzaki et al., J. Phys. Chem B 2015, 非特許文献8:In Vitro Cell.Dev.Biol.-Animal 2016 非特許文献9:Molecules 2016).ここでは図2AにあるようにEGCGを培養液に添加し,各分離時間における接着している細胞数を接着率で評価した.すると100 μM カテキンの添加で分離時間とともにiPS細胞の接着数が減少することを見出した.一方で,成熟細胞の代表としてiPS細胞から誘導した間葉系細胞であるseptum transversum mesenchyme (STM) の接着に対しては影響がないことがわかる(図2B).よって緑茶カテキンを組み合わせることで,分化細胞の接着を維持したまま,未分化細胞の混入を約2.6倍減少させることに成功した.
【実施例】
【0035】
1.3培養液因子と基質因子の網羅的解析による細胞原料の安全性の最大化(未分化細胞の除去)
1.1と1.2においては分離時間と緑茶カテキンのみを考慮した細胞選別法であった.しかしながら2つのパラメータだけでは,分化細胞から未分化細胞の分離を最大化できているかどうかの最終判断はできない.そこで培養液の因子を緑茶カテキンだけでなく,がん細胞接着を阻害すると考えられる「溶液因子」,及び細胞種毎に接着の“好み”がある「基質因子」の接着率に与える網羅的な解析を各時間(時間因子)毎に行った(図3).着目する溶液因子としては,抗がん効果を有するクルクミン(非特許文献10:Sun et al., Biophysical J. 2009)に着目した.さらに基質因子(生化学的特性(種類))についてはSTMの培養に用いるゼラチン,ECの増殖を増大させるフィブロネクチン,さらにDE,HEの接着・増殖を促進するラミニンの計4種類を用いている.これらの溶液因子・基質因子が独立に制御されたウェルに対してiPS細胞とiPS細胞から誘導されたDE,HE,EC,PreSTM(STMの前駆細胞)の計6種類の細胞接着率の時間変化を測定した.すると各細胞特異的に接着率の分離時間変化が各々の因子条件で測定された(図4A).この中から成熟細胞の中からiPS細胞を除去率を最大化するセルを見つけ出すために,各接着率をiPS細胞の接着率で規格化した(図4B).すなわちiPS細胞のセルについては分母分子が同じであるため,すべて同じ1の値を取るのに対して,成熟細胞のセルについてはiPS細胞よりも接着率が大きい場合は分離度の値が高く(赤),一方でiPS細胞よりも接着率が小さい場合は分離度が小さく(青)なる.iPSと成熟細胞の接着率が同じ場合,分離度が1となり白いセルつまり分離効率が非常に悪いことを示す.緑茶カテキンによってiPS細胞分離は促進されるものの,その分離度を最大化する基質・溶液因子・分離度の組み合わせは必ずしもすべての細胞において最大化するわけでなく,DEについてはフィブロネクチンx1,HEについてはカテキン100 μM,ECについてはクルクミン10μM,STMについてはゲラチンということがわかり,各細胞に応じて最大化する因子は固有のものである.よってこれまで未分化細胞の表面糖鎖マーカーを識別研究(非特許文献6:Tateno, H et al., Stem Cell Reports. 2015)だけに着目する研究では見えてこなかった,細胞固有の接着性の“好み”に着目することで未分化細胞の分離を最大化することが可能となった.
このように基質・培養液因子を網羅的に解析する必要があることが明らかになった.
【実施例】
【0036】
1.4.未分化—分化細胞の混合溶液下における細胞選別
1.3項では未分化細胞と分化細胞とが「独立した」溶液中での細胞接着の個性差から未分化細胞の効率的な除去の可能性を示唆した(図3および4).しかしながら実際の細胞原料としては分化細胞中に未分化細胞が混入しているケースを考えなくてはならない.そこで分化細胞の原料に50%の蛍光ラベルされた未分化細胞が混入する極端な条件(実際には未分化残存は数%以下)において,未分化細胞の除去率のバルーンで表示した.除去率としては式1および式2によって定義されており,強接着細胞中(基板側)の除去率が多い場合は色塗りされたバルーンで,一方で弱接着細胞中(上澄み)の除去率が多い場合は色抜きのバルーンで示される(図5A)
JP2018164133A1_000003t.gifバルーンプロットとして,細胞条件(内・中・外胚葉×培養時間条件(τ =4, 8, 15, 23, 30 分 )×基質条件(coatなし,gelatin, Fibronectin laminin, matrigel, collagen,濃度条件は2条件ずつ)×溶質条件(resveratrol, EGCG, curcumin, Genistein,濃度条件は3つずつ)でトータル575条件の超網羅条件化での除去率を測定した.すると内胚葉と外胚葉においては色が塗られていないバルーンが多いのに対して,中胚葉は色塗りのパターンが多いというコントラストのついた実験結果が得られた(図5B).さらに未分化細胞の除去率の最大値を矢印で示すと,中胚葉はポリフェノールによって未分化細胞の除去率が向上しているが,内・外胚葉においてはその変化が顕著ではない.なぜこういった除去率の違いが生じるのであろうか?内胚葉と中胚葉における接着率の時間依存性をまず見てみると,その接着率のパワーバランスは中胚葉(Fmesorderm)>未分化細胞(Fpluripotent)>内胚葉(Fendoderm)となっていることがわかる(図5C左).これにポリフェノールを添加すると未分化細胞特異的にその細胞接着性を抑制するために,そのパワーバランスが中胚葉(Fmesorderm)>>未分化細胞(Fpluripotent)~内胚葉(Fendoderm)となるため,中胚葉特異的にポリフェノールが分離率を向上させていることが考えられる.ポリフェノールはこれまでにコレステロールとよく相互作用することが知られており,未分化細胞中に多く含まれるコレステロールを特異的に脱離し(図10,後述),その接着性を抑制していることが考えられる(図5Dにそのサマリーを示す).
【実施例】
【0037】
2.細胞原料からの高機能細胞濃縮
2.1.iPSC-HE混合溶液からの高機能で安全な細胞集団の選別
ポリフェノールは内胚葉など未分化細胞よりも接着力が弱い系に対しては有効性がないのであろうか?それを検証するために,HEと未分化細胞の混合溶液を播種し,上澄み中に残る接着しない(weakly adhered cells)と基板に強く接着する(strongly adhered cells)を回収し,それをMatured hepatocyte(MH)まで分化誘導し,その機能性と未分化細胞の残存率を定量評価した.すると全ての弱接着性の細胞条件でアルブミン産生能が非常に高く,さらに無選別条件(control, 黒)に比べてアルブミン産生能が向上していることが明らかになった.これは未分化細胞だけでなく,分化細胞中に元から含まれる低機能性細胞が除去され,高機能細胞が濃縮されているものと考えられる.さらに未分化細胞の残存のレベルを未分化細胞のtra2-49/6E (代表的な未分化マーカー)の高発現領域(ピークの蛍光強度から最大値まで)でプロットしたものを図6右に示す.すると機能が保持される弱接着性細胞(Day1)において,コントロールに比べて(黒丸),未分化細胞の混入レベルが低い条件(矢印,弱接着細胞curcumin, laminin)を見出した.さらに長期培養するとcurcuminはFCM分解能以下になってしまうのに対して,lamininはその6倍の混入率になっていることがわかる.よってポリフェノール自身が未分化細胞の接着性を落とすだけでなく,その後の生育阻害に寄与している可能性がある.以上によって本手法により高機能で安全な細胞原料化に本選別法が有効であることを示している.
【実施例】
【0038】
2.2細胞原料の均質化と肝臓原基の高機能化
肝臓原基の集合運動に大きく寄与する間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cells, MSC)のドナー細胞を2種,さらにヒトiPS細胞から分化誘導された間葉系細胞(septum transversum mesenchyme,STM)及び内皮細胞(endothelial cell, EC)の計4種を用いて接着率の分離時間依存性を測定した.するとMSCドナー間で接着ダイナミクスが異なるカーブを描くことを見出した(図4).さらに興味深いことにiPS細胞から誘導したSTM・ECはドナー由来のMSCよりも強い基板接着率のカーブを描いている.これらの結果は本評価システムがMSCドナー間差,及び細胞種間の接着性の違いを定量区別可能であることを示している.
さらに発明者は各分離時間において回収した細胞を用いて誘導した肝臓原基のアルブミン産生能を測定した(図5A). MSC Donor1ではτ=7.5分において極大値を取るアルブミン産生能を示し,ECにおいてはτが増大するにつれアルブミン産生能が向上することを見出した.よって本細胞選別法により均質な細胞が選別され,より高機能な肝臓原基が誘導されたことを示している.図5Bにおいては対応する肝臓原基の構造評価を行った.ドナー1においては7.5分において肝臓原基の数が最大化しており,ドナー2の肝臓原基数に近づいている.ECについては肝臓原基数が減っているものの,丸く大きな肝臓原基が形成されており,肝臓原基一つあたりの機能が向上していることが示唆される.
以上の結果から1・2の方法と組み合わせることで,iPS細胞から誘導された成熟細胞中に残存するiPS細胞の除去が行えるだけでなく,不均一な細胞集団を均一化し肝臓原基などの立体組織の機能最大化が行える手法として期待される.
【実施例】
【0039】
3.未分化細胞のどんな物性に着目すれば効率的に選別が可能か?
3.1—未分化細胞の膜流動性の評価
本発明における肝は未分化細胞特異的に反応するポリフェノールを用いた,超高速・簡便・安価な細胞選別法である.そこでなぜポリフェノールが未分化細胞特異的に反応するのかを知ることで,より反応特異性の高い新規物質の探索や合成が可能となる.着目したのはMatsuzaki らが緑茶の抗がんメカニズムの一つとして着目している膜物性の変化である.がん細胞膜のように柔軟に揺らぐモデル膜に対して緑茶カテキンを作用させると,その膜の曲げ弾性を60倍近く増大させることが明らかになった(非特許文献4:Matsuzaki et al., Phys. Chem. Chem. Phys. 2017). そのため,発生の初期において柔軟に変化する未分化細胞の膜流動性ががん細胞の柔軟な膜に酷似している可能性がある.実際に膜流動性に応じてその蛍光波長が変化するラダン(非特許文献5:Owen et al., Nature protocols 2011)を用いて,膜流動性(Generalized polarization factor, GP値)の評価を行った.実際には未分化細胞と,内胚葉誘導中における前期分化細胞と後期分化細胞の膜流動性を評価した.すると膜流動性の指標であるGP値に大きな変化は見られなかった(図10A左).しかしながら膜流動性を決めるパラメーターの一つであるコレステロールを強力に排除するMethyl-βCD(10 mM 30 min)を反応させると,未分化細胞のほうが低GP(赤)で,分化が進むにしたがって硬化していることを見出した.定量評価のために,GP値を分化誘導の日数に対して取ってみると,若干のGP値の低下が見られるものの未処理の(native membrane)はその膜流動性に変化が見られなかった(図10B左).しかしながらMβCDを処理した膜は分化が進むにつれて膜流動性が低く,硬い膜になっていくことが見出された(図10B真ん中).このとき膜流動性を決めるもう一つのパラメーターは脂質分子の流動性であるが,MβCD添加した膜の流動性をnativeのものから引けばコレステロールのレベルの指標になりえる(図10B右).実際にコレステロールのレベルは分化とともに低下していくことが見出された.よって分化と膜組成の変化を模式図に書くと図10B下のようになる.未分化状態ではコレステロールのレベルが高く,かつその脂質分子は非常に流動的である.分化が進むにしたがってコレステロールのレベルは減少し,脂質膜分子も配向性の高いのになっていくことが推測される.
図10においては未分化細胞と“内胚葉”誘導中の細胞の膜流動性との比較であった.これは他の胚葉誘導においても同じことが言えるのだろうか?未分化細胞と内胚葉(図10はDEで,ここでは後期のHE),中胚葉(EC/MC),外胚葉(NC)の細胞集団を先ほどと同様の方法で膜流動性を評価した.すると初期の内胚葉と未分化細胞の流動性はほぼ同程度であったが,後期の誘導になるにつれて内・外胚葉は硬く,中胚葉は柔らかい膜になっていることを見出した(図11A左).このときMβCDを用いてコレステロールを抜くと未分化細胞特異的にその膜流動性が向上することを見出した(図11A右).この変化を表現上見やすくするためにradar-plotにしたものを図11Bに示す.コレステロール脱離のピーク値を矢印(グレー,実践)で,未処理(native)のものを青色領域とそのピーク値を矢印(グレー点線)で示すと,コレステロールレベルは図10Bの場合と同じようにその差し引いたベクトル強度(実線矢印,黒)で表される.先ほどのデータと同じように(図10B),未分化細胞は流動的な脂質膜(+MβCD,左回り)で,そのコレステロールレベルが非常に高い(実線矢印,黒).一方で内胚葉はコレステロールのレベルが低く,脂質膜としても硬い.中胚葉・外胚葉はコレステロールレベルが内胚葉に比べると多く,その脂質膜流動性も比較的高い.以上の結果を総合すると,脂質膜の配向レベルはiPSC<<MC<NC<EC<HEであり,コレステロールのレベルもiPSC>>EC,MC,NC>HEとなっていることが明らかになった.よって未分化細胞の特異的な脂質膜の物性だけでなく(cholesterol rich, lowly ordered lipid),胚葉特異的な流動性の個性差を有することを見出した.
【実施例】
【0040】
3.2未分化細胞の膜流動性を変える低分子化合物の網羅的アッセイ
細胞の膜流動性は本申請の細胞接着だけでなく(非特許文献11:Schaeffer and Curtis, J. Cell. Sci. 1977),細胞内シグナルなど(非特許文献12:Salaita et al., Science 2010)さまざまな細胞機能を制御することが知られている.よってポリフェノールによって流動性が変化するのかという点と他の低分子化合物によっても同程度に引き起こされるのだろうかという点は,より効果的な未分化細胞の選別剤の発見につながる.そこでポリフェノール以外に,分化誘導因子,阻害剤,成長因子,薬剤,アミンと界面活性剤を含んだ独自のライブラリーを構築し,未分化細胞に反応させたときの流動性変化を測定した.未分化細胞において試薬を反応後のものから反応前のヒストグラムを差し引いた強度をZ軸に,GP値を縦軸に,各種低分子化合物を横軸にプロットしたものを示す(図12).色が明るく強度が強いものほど低分子化合物が良く反応しており,さらにGP値の高い領域でその反応性が強いものはポリフェノール郡のみである.本実験においては未分化細胞の流動性をよく変化させるものとして本アッセイを用いたが,原理的にはターゲットの細胞種はどんなものでもよく,目的細胞の流動性を変化させる低分子化合物の超網羅的スクリーニングに本系が利用させることが可能である.
【実施例】
【0041】
3.3ポリフェノールは未分化細胞と分化細胞との差を大きく広げるのだろうか?
分化細胞のGP値のヒストグラムから未分化細胞のそれを引くと,もし流動性に違いがない場合はその差は0%となり 直線が引かれることになる.しかしながら内胚葉(HE),中胚葉(EC/STM),さらに外胚葉それぞれで異なる関数の形を示すことを見出した(図13A,太枠コントロール).実際に各種ポリフェノールを作用させるとその関数の強度(縦軸)が増大し,その正の領域の総和は数倍増大することを見出した(図13B).つまり未分化細胞と分化細胞との流動性の差がポリフェノール(特にcurcumin, genistein)によって増大したことがわかる.
【実施例】
【0042】
4.新規選別法の優位性~既存手法との比較~
本手法は細胞の機能を維持したまま(図6,図7),未分化細胞の除去を超高速(<30分以内)・超膨大量に行得る手法である.これまでの手法と比べて本手法はどのように優れているのであろうか?細胞を一つ一つ超純度で選別できる手法の代表としてFACSがある(図8A).HEとiPSCを9:1で混合した条件で,FCMデータをCXCR4(DEの代表的なマーカー)とtra2-49/6Eで取得すると,HEとiPSCの集団を分離できる条件(青ゲートと赤ゲート)が見出される.実際にHEのみを選別し,その翌日に回収細胞のFCMをもう一度行うと,tra2-49/6Eを高発現する点線以上の領域が見出され,実際にはFACSも混ざりこんでしまう問題点が生じる(図8A左).実際にはソートするスピードをさらに遅くすれば,原理的には純度が増大していくことが考えられるが,非生理条件化におかれた細胞は死んでしまい回収率が激減する.実際に縦軸(左)にはソーティング速度,縦軸(右)には回収率を,横軸には未分化細胞の混入率をプロットしたものを示す(図8A右).すると標的となる分化細胞数の割合が多くなれば当然ソーティングスピードも向上するものの,臨床応用に耐えられる10個の細胞を選別する間には丸一日かかる上にその回収率は10 %以下とかなり少なくなってしまう.
一方でTatenoらが開発したiPSC糖鎖タンパク質を特異的に認識するrBC2LCN-PE23は比較的短時間(添加後24-48h)で大量のiPSCを末端に結合した緑膿菌由来毒素の触媒ドメイン(PE23)が殺傷することで,再生医療の安全性の向上が期待されている(非特許文献6:Stem Cell Reports 2015).しかし,実際にレクチンをiPSCと内胚葉誘導における初期細胞(DE)と後期細胞(HE)に作用させ,そのときの生細胞を緑色蛍光(ライブデッドステイニング試薬を使用)で染色すると,未分化細胞に対して比較的減弱に反応するのに対し,その分化誘導がかかった細胞の剥離を促進することが観察された(図8B左).このときの生細胞領域を定量すると濃度依存的にDE,HEの領域が激減していることが見出された.
以上をまとめると,FACSはそのソーティングスピードの遅さから,臨床応用に耐えられる超大量の細胞選別には向かず,さらにrBC2LCN-PE23については,中途分化細胞のような未分化細胞の性質をまだ共有しているものたちに対しては毒となってしまう.本手法は未分化細胞の膜流動性の特性に着目し,その流動性を身近な天然化合物(ポリフェノール)を用いて細胞へのダメージを最小限に選別可能な手法であることが見出された.器官の芽(オルガノイド)の創出に必要不可欠な分化途中の細胞原料の選別には本手法が強力なツールとして利用可能であることが考えられる.
【実施例】
【0043】
実験材料及び方法
細胞培養法と分化誘導法
iPS細胞は緑色蛍光タンパク質が遺伝子導入されたGFP-TKDA株(東京大学より供与)であり,分化誘導に用いたiPS細胞はFF-I01株(京都大学iPS細胞研究所(CiRA)より供与)の2種である. 10 cm dish(BD)に対してLaminin 511原液(ニッピ)が50 μL / PBS 8 mLになるように添加し, 37 ℃ の5 % CO2インキュベータ内で1時間コートする.上澄みをアスピレート後,トータルで8×104 細胞を10 cm dish(BD)に播種し培養を行った.細胞培養にはStemFit AK02N(Reprocell)を用いた.以下の分化誘導に利用する際には培養液をアスピレート後,PBS 8mLで2回洗浄し,2 mLのアキテース(Funakoshi)で8分反応させて細胞剥離する.そして2倍量のRPMI-1640で限界希釈して,1000 rpmで3分遠心分離後,上澄みを除去して1 mLのRPMI-1640で懸濁させたものを使用する.
次にiPS細胞(FF-I01株)から分化誘導をかけているHEはDEの後期の分化細胞であるため,以下途中までのプロトコールは一緒である. DE及びHEの誘導では既報(非特許文献13:Si‐Tayeb, Karim, et al. Hepatology 2010, 非特許文献1:Takebe, T et al., Nature, 2013および特許文献1: WO2013/047639 A1:組織及び臓器の作製方法)をベースにしている.Laminin 511をiPSの未分化維持に用いていた濃度よりも低い Laminin511 原液10 μL / 8 mL PBSの濃度で 6 cm dishのプラスチックディッシュ(BD)にコーティングする.上澄みをアスピレートした後次に2x106個のiPS細胞が懸濁した培養液を4 mL添加する.この時に用いる培養液はRPMI-1640 (Wako)をベースに1 % Peniciline/streptomycine (Wako)さらに分化誘導因子として 0.1 % Activin (Wako), 0.1 % Wint3a (Wako)が添加され,iPS細胞死を阻害する目的で0.001 % のrock inhibitorが添加された培地である.培養1日後に上述の培養液からRock inhibitor(Y-27632)を抜き,さらに0.1 %のSodium butylateを添加したものを4 mL添加する. この培養液で3日間培養後(毎日培養液は交換),この培養液からsodium butylateのみを抜いたものに変えさらに2日間培養する(毎日培養液は交換).iPS細胞を播種した日を0dayにして6日目にDEとして細胞を利用する.HEの場合は6日目にRPMI-1640 (Wako)をベースに1 % Peniciline/streptomycine (Wako), 1 % 無血清サプリメントB27(Thermo), 0.2 % bFGF (basic fibroblast growth factor, Wako)を添加した培養液4 mLに置き換え,4日間培養し,iPS細胞を播種した日から10 day目にHEとして使用する.MHの場合は,Day10の段階でHCM-hepatocyte culture media bullet kit培養液に交換し,Day18まで培養したものをMHとする.以下の細胞接着実験に利用する際には培養液をアスピレート後,PBS 8mLで2回洗浄し,2 mLのアキテース(Funakoshi)で8分反応させて細胞剥離する.そして2倍量のHE分化誘導培地で希釈して,1000 rpmで3分遠心分離後,上澄みを除去して1 mLのHE分化誘導培地で懸濁させたものを使用する.
ECの誘導法については既報(非特許文献14:Patsch, et al. Nature cell biology 2015)をベースに誘導を行っている.まずECについてはiPSをDE,HEの時と同様にLaminin511がコートされたディッシュに播種する.この時に細胞を懸濁する培養液はStemPro-34 SFM (Thermo)に1 % Peniciline/streptmycine ,2 μM Forskolin, 200 ng/mL VEGF (Vascular epidermal growth factor), 10 μM rock inhibitor が添加された分化誘導培地である.播種日を0 dayとして1 day目にはrock inhibitorを抜いた分化誘導培地 4 mLに置き換え, 3 dayから8 dayまで毎日培養液を 4 mLずつ交換する. 9 day目にはStemPro-34 SFM (Thermo)に1 % Peniciline/streptmycine,50 ng/mL VEGF にした分化維持培地に置き換え,10 dayにECとして使用する.以下の細胞接着実験に利用する際には培養液をアスピレート後,PBS 8mLで2回洗浄し,2 mLの0.1 % Trypsin EDTA(Life technology)で3分反応させて細胞剥離する.そして2倍量のHUVEC培養用培地EGM(Lonza)で希釈して,1000 rpmで3分遠心分離後,上澄みを除去して1 mLのEGMで懸濁させたものを使用する.
STMの誘導法については既報(Patsch, et al. Nature cell biology 2015)をベースに誘導を行っている. iPSをDE,HEの時と同様にLaminin511がコートされたディッシュに播種する.この時に細胞を懸濁する培養液はDMEM/F12 (Thermo)に1 % Peniciline/streptmycine ,1 % Glutamax (Life technology), 1 % B27 (Thermo), 25 ng/ mL BMP4 (Wako), 8 μM CHIR 99021 (Wako), 10 μM rock inhibitor が添加されたMesoderm分化誘導培地である.播種日を0 dayとして1 day目にはrock inhibitorを抜いたMesoderm分化誘導培地 4 mLに置き換え, Day 2から3まで(ただしDay2は培養液交換なし)で培養する.Day 4において誘導用A培地に置き換える.誘導用A培地はDMEM/F12に1 % Peniciline/streptmycine , 1 % Glutamax, 1 % B27, 10 ng/mL PDGF BB (Wako),2 ng/nL Activinの培養液である.これでDay 4からDay 5まで培養を行う.Day6目からは誘導用B培地に置き換える.誘導用B培地はDMEM/F12に1 % Peniciline/streptmycine , 1 % Glutamax, 1 % B27, 10 ng/mL bFGF,12 ng/mL BMP4の培養液である.これでDay 6からDay 7まで培養を行う.Day8においてトリプシンEDTA(Wako)を用いて細胞剥離を行い,0.1 % w/vのゼラチン溶液 4 mLを 10 cm dish に1時間コートした10 cm dishに5x106播種した.この時に細胞を懸濁する培養液はMSCの分化維持用の培養液であるMSCGM(Lonza)を8 mL添加する.この状態で Day 8,Day9と培養を行いDay10においてSTMとして使用する.以下の細胞接着実験に利用する際には培養液をアスピレート後,PBS 8mLで2回洗浄し,2 mLの0.1 % Trypsin EDTA(Life technology)で3分反応させて細胞剥離する.そして2倍量のMSC培養用培地MGM(Lonza)で希釈して,1000 rpmで3分遠心分離後,上澄みを除去して1 mLのMGMで懸濁させたものを使用する.
MSCについては骨髄ドナー1(Lot.307219)及び骨髄ドナー2(Lot.458207)はどちらも同じプロトコールで継代培養を行っている.10 cm dish に10 mLのMSCGM(Lonza)を添加し,そこに3×105の細胞を播種して,3日おきに培養液を交換する.基板表面の約80 %が細胞で絞めてきたらTrypsin-EDTA(Wako)を 2 mL添加して3分間37 ℃ の5 % CO2インキュベータ内で反応させる.当量のMSCGMで反応を止め.1000 rpmで3分遠心分離後,上澄みを除去して1 mLのMSCGMで懸濁させたものをMSCとして使用する.
HUVECについては,10 cm dish に10 mLのEGM(Lonza)を添加し,そこに3×105の細胞を播種して,3日おきに培養液を交換する.基板表面の約80 %が細胞で絞めてきたらTrypsin-EDTA(Wako)を 2 mL添加して3分間37 ℃ の5 % CO2インキュベータ内で反応させる.当量のMSCGMで反応を止め.1000 rpmで3分遠心分離後,上澄みを除去して1 mLのEGMで懸濁させたものをMSCとして使用する.
【実施例】
【0044】
基質・培養液因子を独立かつ厳密に制御されたウェルプレートの作成
まず本実施例で用いる代表的な基質因子としてはゲラチン・フィブロネクチン・ラミニン511が挙げられる.ゼラチンについては,MilliQ水に対して0.1 w/vになるようにゼラチン粉末(Thermo)を添加しオートクレーブにより120℃10分間加熱・溶解処理を行う.室温まで戻したゼラチン溶液を用いて,0.09 mg/cm2(x1gelatin)と0.27 μg/well (x3 gelatin)になるように300 μL ずつ添加し,37 ℃ の5 % CO2インキュベータ内で1時間コートする.x1ゼラチンはSTMのDay 8における10cm dishのコート密度(μg/cm2)と同等にしてある.フィブロネクチンについてはヒトfibronectin 粉末(Wako)を滅菌水に溶解して1 mg/mLになるように調整したものを用いて,Day 10における細胞播種後の生育を評価するのにこれまで用いられてきた濃度と同等になるようにフィブロネクチン溶液を0.91 μg/cm2 (x1 fibronectin)と2.73 μg/cm2 (x3 fibronectin)になるように添加し,37 ℃ の5 % CO2インキュベータ内で1時間コートする.ラミニンについてはラミニン511(ニッピ)を用いて,iPS細胞の分化誘導時に用いてきたラミニン濃度と同等になるようにラミニン溶液を0.24μg/cm2 (x1 ラミニン)と0.48 μg/well (x2 ラミニン,iPSの未分化維持用の濃い濃度)になるように添加し,37 ℃ の5 % CO2インキュベータ内で1時間コートする.
本実施例で用いる代表的な溶液因子としては緑茶カテキン(Epigallocatechin gallate, EGCG)とウコンの成分であるクルクミンである.緑茶カテキン(Sigma)・クルクミン(Sigma)粉末を最終濃度が6 mMになるようにPBS中に溶かす.なお粉末の溶解度を向上させるために,10 %最終濃度になるようにエタノール(Wako)を添加している.これらの溶液を母液として,細胞添加前の培養液に対してそれぞれ10 μMおよび100 μMになるように溶液因子をとかし,続いて目的細胞を添加して48 well plateに播種する.
以上のように溶液因子と基質因子を独立かつ厳密に制御した48 well plateを用いて,細胞懸濁液を播種し,分離時間が3.75, 7.47, 15, 22.5, 30分に置いて素早く上澄みをアスピレートし,細胞接着率の評価の際にはPBS-EDTA (0.8 mM)を200 μL添加して細胞観察を行う.この時PBS-EDTA溶液を添加するのは細胞を剥離することで細胞のカウントのしやすさを向上させるだけでなく,基板に不均一に接着した細胞集団を撹拌し均一化する目的がある.その後の生育を評価する際には細胞種を懸濁した細胞種固有の培養液を添加し培養を続ける.
【実施例】
【0045】
細胞接着率の定量評価
本発明においては細胞接着率の定量評価法として以下2種類の方法を別々に用いている.(A)については膨大な基質・溶液因子の条件の48 well plateに対して貴重な数少ない細胞を添加した際の少ない細胞数を網羅的に容易に画像解析的にカウントするものである.(B)については実際の細胞原料の均一化に向けて貴重な細胞を大量に準備し,その接着数を容易にカウントするだけでなく,接着した細胞を温和な条件で回収できる方法である.
(A)基質・培養液因子を独立かつ厳密に制御されたウェルプレートの場合
膨大な基質・溶液因子の条件のウェル内で接着した細胞数をカウントするには後述するBの方法は向かない.さらにiPSから誘導するにはコストがかかるだけでなく,その細胞数に限りがある.そこでプレート撮影に最適化された自動撮影システム(KeyenceBZ-X700)及びその膨大な数の画像を網羅的に解析可能なソフト(keyence, BZ analyzer)を用いて,x4倍の対物レンズの視野内に存在する細胞数の網羅的なカントを行った. 本システムを用いることで一つ一つの条件における細胞接着数をセルカウンターなどで手動でカウントする必要がなく大幅な実験時間の短縮に成功している.

(B)肝臓原基の誘導に向けた均一細胞集団の選別の場合
細胞原料の均一化に向けて貴重な細胞を大量に準備し,その接着数を容易にカウントするだけでなく,接着した細胞を温和な条件で回収できる方法である.細胞を汎用の10 cm dishに対して8 mLの培養液を添加し(MSCとSTMについてはMSCGM,ECはEGM),2×105以上の細胞数で播種してすぐさま37℃ の5 % CO2インキュベータ内で培養を開始する.これを培養分離時間の数だけ独立に10 cm dishを準備するが,本実験においては分離時間=7.5,15,22.5,30分の5枚の独立したディッシュを準備する.それぞれの時間において上澄みを除去し,すぐさまPBS-EDTA溶液を8 mL加え 37℃ の5 % CO2インキュベータ内で30分間培養する.すると細胞接着が次第に弱くなり最後は顕微鏡で観察するためにインキュベータから出して運搬している間に剥離する.細胞は接着する際にカルシウム依存性の接着タンパク質(インテグリン)を介して基質に対して接着する.酵素処理に頼らないEDTAを用いることで細胞周囲のカルシウム濃度を低下させることで脱接着を温和に促していることが考えられる.肝臓原基に誘導する際には溶液に対して剥離後すぐに当量の培養液(8mL)を添加して溶液中にカルシウムを提供し,細胞に対して最小限のダメージで済むように調整してある.その後1000 rpm で3分間遠心分離を行い選別細胞を得る.この時に用いる遠沈管としては表面に細胞非接着処理を行ったステムフル(住友ベークライト) を用いるとより細胞回収率が向上する.培養液1mLで細胞を懸濁し,トリパンブルー(Wako)で2倍希釈し,細胞数をワケンカウンター(Wako)でカウントした.本手法は膨大な基質・溶液因子の検討には向かないものの,膨大な因子の中から見出した溶液・基質因子を用いて膨大な細胞数を回収することが可能である.本手法を用いて選別した細胞原料を用いて後述の肝臓原基の材料として用いた.
【実施例】
【0046】
ヒトiPS細胞を用いた肝臓原基の創出
肝臓原基の誘導法としては既報(特許文献1:「組織・臓器の作製方法」WO2013/047639,非特許文献1:Takebe, T et al., Nature, 2013)をベースに用いる.肝臓原基の創出には3つの細胞種が重要である.まずは肝前駆細胞に相当する分化段階のヒトiPS細胞由来肝臓細胞(iPS-hepatic endoderm, HE).次に移植後血管誘導を促すヒト臍帯静脈内皮細胞(Human Umbilical Vein Endothelial Cells, HUVEC)である.さらに間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cells, MSC)の三種類を共培養することで肝臓原基が誘導できる.本細胞選別法で誘導に用いた肝臓原基の組み合わせは以下のとおりである.骨髄ドナーの異なるドナー1MSCとドナー2MSCを用いて,iPS-HE:HUVEC:MSCを10:7:2の比率で混合したドナー1MSC-LB(liver bud)およびドナー2MSC-LBを誘導した.さらにHUVECの代わりにiPS細胞から誘導したECを用い,ここから間葉系幹細胞を抜いたEC-LBの場合はHE:EC=5:1である.さらに通常LBにおいてMSCの代わりにSTMを用いたSTM-LBが挙げられる.これらの細胞混合液を1 well あたりに2x106になるようにkuraray plate (12 well, kuraray,ディンプル状のパターンをμパターンで修飾されたもの)に添加し,10,13,16 day目の培養液を添加している.肝臓原基の誘導の培養液にはHCM(Lonza)40 mLとEGM (Lonza) 40 mL混合し,肝臓誘導に必要な 20 ng/mL OSM(Oncostatin M, Wako)及び20 ng/mLの HGF (Hepatic growth factor, Wako)を含む培養液であり,播種後Day0においてはrock inhibitorを10 μM添加したものを用いている.Day1から半量(500 μL)交換を毎日行い,ELISA用の培養液を取得するDay 10, 13, 16においてはその前日に全量 (1 mL)交換し,翌日24時間後に全量をELISA用に取得した.ELISAはBethyl社のヒトアルブミン定量キットに書かれている方法で定量している.
【実施例】
【0047】
膜流動性の評価手法
膜流動性の評価には既報のプロトコールをベースに行った(Owen et al., Nature protocols 2011).具体的には dimethyl-6-dodecanoyl-2-naphthylamine (ラダン, AdipoGen life science Inc., CA, USA) を膜流動性プローブとしてDMSO溶液を作成した(最終濃度9 mM).最終濃度が33 μMで一定になるようにRPMI 1640 medium (+ 10 mM MβCD) 及び StemFit AK02N (iPSC培養液)に添加した.添加後の細胞を30 分間,37℃でインキュベーションし,インキュベーション機能(Tokken Inc. Tokyo, Japan@37℃)が付与された共焦点顕微鏡で観察した(TCS-SP8, Leica microsystems, Tokyo, Japan).光源としては405 nm ダイオードレーザーを用いて, λ = 406-460 nm(I406-460)及び λ = 470-530 nm(I470-530)の2波長の蛍光強度をスペクトルアナライザーを用いて測定した.膜流動性の指標であるGP値(Generalized polarization factor)の計算には式1および2を用いた.
JP2018164133A1_000004t.gifここでGPref = 0.207は文献値としてOwen et al., が定義しており,GP=0付近で脂質膜の秩序/無秩序領域(order/disordered domain)が分かれるように便宜的に定義したものである. GPmeas はDMSOに融解したラダン (33 μM)を同一光学セットアップを用いて測定した補正値(式3)である:
JP2018164133A1_000005t.gifこのとき注意したいのは膜流動性評価実験に使用した細胞は全てアキュテースで剥離した直後の浮遊状態の細胞である.播種する基板はラダンからの蛍光を効率よく回収しやすいように底面がガラス基板となっている96 well ガラスプレートであり,表面が未処理のため細胞接着が阻害され浮遊状態での細胞観察が可能である.
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【先行技術文献】
【0048】

【非特許文献1】Takebe, et al. Nature, 499: 481-484, 2013
【非特許文献2】Cunningham et al. Nat. Biothechnol.VOL.30 NO.9:849-857, 2012
【非特許文献3】Maecker, et al. Nature Immunology,11:975-978, 2010(巻数とページ番号を入れてください.)
【非特許文献4】Matsuzaki et al., Phys. Chem. Chem. Phys.,19:19937-19947 2017.
【非特許文献5】Owen et al., Nature protocls 7:24-35,2011.
【非特許文献6】Tateno et al., Stem Cell Reports 4:811-820,2015.
【非特許文献7】Matsuzaki et al. J. Phys. Chem. B,120: 1221-1227, 2016.
【非特許文献8】Sakamoto, Matsuzaki, Yoshikawa, Tanii et al. In vitro Cell Dev. Biol. Animal,52: 799-805, 2016.
【非特許文献9】Suganuma, Matsuzaki, Yoshikawa,Fujiki et al. Molecules,21: 1566, 2016.
【非特許文献10】Sun et al. Biophys. J.,96: 1026-1035, 2009.
【非特許文献11】Schaeffer and Curtis et al., J. Cell. Sci. 26:47-55(1997).
【非特許文献12】Salaita et al., Science 327:1380-1385,2010.
【非特許文献13】Si-Tayeb et al. Hepatology,51: 297-305, 51,2010.
【非特許文献14】Patsch et al. Nature Cell Biology,17: 994-1003,2015.
【0049】

【特許文献1】WO2013/047639 A1
【特許文献2】WO2015/012158 A1
【特許文献3】WO2015/129822 A1
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は,安価で身近で安全な物質(緑茶カテキンやクルクミン)を添加するという安価かつ単純な方法を用いることにより,ヒト臓器細胞の工業的製造に向けて劇的なコストダウンが可能な基盤的培養技術となる.本発明者らが過去に開発した技術(「組織・臓器の作製方法」WO2013/047639)と連動することにより,再生医療や産業応用上極めて有益な細胞操作技術となる.例えば,本発明によりヒトiPS細胞から分化誘導した肝臓細胞の中から混入しているiPS細胞を選択的に除去可能であり,臨床応用・創薬開発において必要な安全なヒト成熟肝細胞を大量に安価に製造することが可能となる.また,個人毎に樹立された複数のiPS細胞株を用いることで,人種・性別・個体差などスペックの明らかなヒト成熟肝細胞を,安定的かつ安価に大量供給することが可能となる.これにより,創薬開発における課題であった個人における反応性の相違を検出する革新的なスクリーニング技術となることが期待される.さらに器官原基だけに限らず未分化・分化細胞を原料として用いる様々な組織工学の手法において,未分化細胞の除去が可能な基礎的な細胞選別法として利用可能性が高い.
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12