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Specification :(In Japanese)病理組織標本または細胞診標本の走査型電子顕微鏡による観察方法

Country (In Japanese)日本国特許庁(JP)
Gazette (In Japanese)公開特許公報(A)
Publication number P2020-034410A
Date of publication of application Mar 5, 2020
Title of the invention, or title of the device (In Japanese)病理組織標本または細胞診標本の走査型電子顕微鏡による観察方法
IPC (International Patent Classification) G01N  23/2202      (2018.01)
G01N  23/2251      (2018.01)
FI (File Index) G01N 23/2202
G01N 23/2251
Number of claims or invention 9
Filing form OL
Total pages 19
Application Number P2018-160921
Date of filing Aug 30, 2018
Inventor, or creator of device (In Japanese)【氏名】河崎 秀陽
【氏名】針山 孝彦
Applicant (In Japanese)【識別番号】504300181
【氏名又は名称】国立大学法人浜松医科大学
Representative (In Japanese)【識別番号】100190067、【弁理士】、【氏名又は名称】續 成朗
Request for examination (In Japanese)未請求
Theme code 2G001
F-term 2G001AA03
2G001BA07
2G001CA03
2G001KA20
2G001LA01
2G001RA08
Abstract (In Japanese)【課題】単一の病理組織標本または細胞診標本から、走査型電子顕微鏡を含む複数の観察手段による同一視野の観察を可能とすること。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る病理組織標本または細胞診標本の走査型電子顕微鏡による観察方法は、染色された病理組織標本または細胞診標本に、生存環境付与成分、糖類および電解質を主成分として含有する電子顕微鏡観察用保護剤と、水、有機溶媒または水と有機溶媒の混合溶媒を含む標本用保護液を塗布し、電子線またはプラズマを照射して前記標本の表面に薄膜を形成する工程を含むことを特徴とする。
【選択図】図2
Scope of claims (In Japanese)【請求項1】
病理組織標本または細胞診標本の走査型電子顕微鏡による観察方法であって、染色された病理組織標本または細胞診標本に、生存環境付与成分、糖類および電解質を主成分として含有する電子顕微鏡観察用保護剤と、水、有機溶媒、または水と有機溶媒の混合溶媒を含む標本用保護液を塗布し、電子線またはプラズマを照射して前記標本の表面に薄膜を形成する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記標本用保護液が、前記電子顕微鏡観察用保護剤と、両親媒性溶媒、または水と両親媒性溶媒の混合溶媒を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記両親媒性溶媒がエタノールである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記標本の染色が、一次抗体、標識二次抗体、および標識二次抗体に特異的に結合する化合物で表面が修飾されたナノ粒子によってなされた免疫染色である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
単一の標本を用いた病理組織標本または細胞診標本の観察方法であって、
染色された病理組織標本または細胞診標本を光学顕微鏡で観察し、対象の部位をマーキングする工程、
前記標本の表面に生存環境付与成分、糖類および電解質を主成分として含有する電子顕微鏡観察用保護剤を含む標本用保護液を塗布し、前記標本用保護液が塗布された標本に電子線またはプラズマを照射して前記標本の表面に薄膜を形成する工程、
前記薄膜が形成された標本を走査型電子顕微鏡による観察に供し、前記マーキングされた部位を観察する工程、
前記標本に形成された薄膜を除去する工程、および
前記薄膜が除去された標本を別の観察手段に供する工程
を含む、方法。
【請求項6】
前記標本用保護液の溶媒が水、有機溶媒、または水と有機溶媒の混合溶媒である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記標本用保護液の溶媒が両親媒性溶媒、または水と両親媒性溶媒の混合溶媒である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記両親媒性溶媒がエタノールである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記標本の表面に標本用保護液を塗布する前に、前記標本に塩化金による核染色を施す、請求項5~8のいずれか一項に記載の方法。
Detailed description of the invention (In Japanese)【技術分野】
【0001】
本発明は、病理組織標本または細胞診標本の走査型電子顕微鏡による観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、病理組織標本の電子顕微鏡による観察には、主に光学顕微鏡や透過型電子顕微鏡(TEM)が活用されているが、組織標本の作製や観察の実施には熟練した技術を要する。近年、光学顕微鏡観察用のパラフィン包埋切片を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察する手法が提案された(非特許文献1)。このようにSEMを用いて組織標本を観察することによって、光学顕微鏡やTEMによる二次元データでは得られない三次元データを取得し、対象の病理組織に関する情報を簡便かつ迅速に解析することが期待されている。
【0003】
また、昨今、液状化した細胞診検体から作製された病理診断用標本を用いる液状化細胞診(Liquid based cytology、LBC)が頻繁に行われており、自然に近い三次元構造、凝集構造を保った状態で細胞塗抹標本を作製する試みなどが行われている。このような細胞診標本をSEM観察し、細胞表面の微細構造の三次元データを取得することによって、新たな診断基準となり得る病理情報を解析することが期待されている。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】国際公開第2015/115502号
【0005】

【非特許文献1】Inaga S., Hirashima S., Tanaka K., Katsumoto T., Kameie, T., Nakane H., Naguro T. “Low vacuum scanning electron microscopy for paraffin sections utilizing the differential stainability of cells and tissues with platinum blue.”, Archives of Histology and Cytology, Vol. 72, pp101-106, December 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような従来の観察方法では、ヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)、特殊染色、免疫染色等を施したパラフィン包埋切片をそのままSEM観察に用いることはできず、新たにパラフィンブロックから連続切片を作製する必要があるため、異常が確認された部位自体をSEM観察することは困難であるという課題があった。
【0007】
また、SEM観察では、光学顕微鏡とは異なり、可視光よりも短い波長の電子線を用いて試料を観察するため、電子シグナル増強剤として機能する染色剤として白金ブルーなどが用いられるが、この場合、白金(重金属)で覆われた状態の組織像を観察することになり、試料そのものの構造を観察することが困難であるという課題があった。
【0008】
加えて、SEM観察においては、病理組織標本や細胞診標本の試料は真空下に置かれるため、組織・細胞の萎縮を防ぎ、試料の含水状態を維持したまま観察することが求められる。
【0009】
本発明者等はこれまでに、真空下においても哺乳動物、植物の組織や培養細胞、単一細胞等の含水状態の生物試料を変形させずに、生きたままの状態を保護できる真空下での電子顕微鏡観察用保護剤とそれを用いた電子顕微鏡による試料の観察、診断の方法を提案している(特許文献1)。本発明者等による先行発明では、生体から摘出した含水状態の癌細胞またはこれを含む組織に電子顕微鏡観察用保護剤を塗布し、電子線またはプラズマを照射して試料表面に薄膜を形成して覆うことによって、電子顕微鏡による画像診断を可能とするものであった。具体的には、例えば、ヒト胃癌の病理標本の観察結果から、癌細胞と正常細胞との形態の差異を確認することや、皮膚癌患者から採取した癌細胞を培養した試料を観察することによって、当該癌細胞が転移株か非転移株であるのかを診断することなどが可能であることを示している。
【0010】
しかしながら、病理組織標本による診断内容は多岐に渡ることに鑑みると、種々の細胞や組織における病変の観察に適した条件の最適化が必ずしも十分とは言えなかった。また、細胞診標本については、病理組織標本に比べて少ない処理工程で作製されるというメリットはあるものの、従来の技術では癌でないのに癌と診断されたり、癌であるのに癌でないと見落とされたりすることがあり、細胞診だけで最終診断とせず、推定診断として行われるようになってきている状況に鑑み、上記の先行発明の技術が適用可能であることに関して、より具体的な検討の進展が望まれていた。
【0011】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、単一の病理組織標本または細胞診標本から、走査型電子顕微鏡を含む複数の観察手段による同一視野の観察を可能とすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の病理組織標本または細胞診標本の走査型電子顕微鏡による観察方法は、染色された病理組織標本または細胞診標本に、生存環境付与成分、糖類および電解質を主成分として含有する電子顕微鏡観察用保護剤と、水、有機溶媒、または水と有機溶媒の混合溶媒を含む標本用保護液を塗布し、電子線またはプラズマを照射して前記標本の表面に薄膜を形成する工程を含むことを特徴とする。
【0013】
この観察方法の好ましい態様では、前記標本用保護液が、前記電子顕微鏡観察用保護剤と、両親媒性溶媒、または水と両親媒性溶媒の混合溶媒を含む。
また、この観察方法の好ましい態様では、前記両親媒性溶媒がエタノールである。
また、この観察方法の好ましい態様では、前記標本の染色が、一次抗体、標識二次抗体、および標識二次抗体に特異的に結合する化合物で表面が修飾されたナノ粒子によってなされた免疫染色である。
【0014】
本発明の単一の標本を用いた病理組織標本または細胞診標本の観察方法は、
染色された病理組織標本または細胞診標本を光学顕微鏡で観察し、対象の部位をマーキングする工程、
前記標本の表面に生存環境付与成分、糖類および電解質を主成分として含有する電子顕微鏡観察用保護剤を含む標本用保護液を塗布し、前記標本用保護液が塗布された標本に電子線またはプラズマを照射して前記標本の表面に薄膜を形成する工程、
前記薄膜が形成された標本を走査型電子顕微鏡による観察に供し、前記マーキングされた部位を観察する工程、
前記標本に形成された薄膜を除去する工程、および
前記薄膜が除去された標本を別の観察手段に供する工程
を含むことを特徴とする。
【0015】
この観察方法の好ましい態様では、前記標本用保護液の溶媒が水、有機溶媒、または水と有機溶媒の混合溶媒である。
また、この観察方法の好ましい態様では、前記標本用保護液の溶媒が両親媒性溶媒、または水と両親媒性溶媒の混合溶媒である。
また、この観察方法の好ましい態様では、前記両親媒性溶媒がエタノールである。
また、この観察方法の好ましい態様では、前記標本の表面に標本用保護液を塗布する前に、前記標本に塩化金による核染色を施す。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、単一の病理組織標本または細胞診標本から、走査型電子顕微鏡を含む複数の観察手段による同一視野の観察を可能とする方法が提供される。
また、本発明によれば、走査型電子顕微鏡による観察において、後述する標本保護膜によって標本の帯電(チャージアップ)が軽減されるため、染色された病理組織標本または細胞診標本の光学顕微鏡観察等で特定された病変部位(観察対象部位)の同一視野を、走査型電子顕微鏡によって鮮明に観察することができる。加えて、必ずしも標本に色素や蛍光による染色が施されていなくても、ナノ粒子(例えば、金粒子)を用いた免疫染色の増感処理を組み合わせることによって、走査型電子顕微鏡による観察において、病変部位(観察対象部位)の鮮明な画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】種々の病原体を含む標本の観察画像。(a):HE染色されたアスペルギルス菌体を含む標本の画像。(b):(a)と同一の標本のFE-SEM画像。(c):(b)の拡大画像。(d):HE染色されたアメーバ虫体を含む標本の画像。(e):(d)と同一の標本のFE-SEM画像。(f):(e)の拡大画像。(g):HE染色された細菌標本の画像。(h):(g)と同一の標本のFE-SEM画像。(i):(h)の拡大画像。
【図2】サイトメガロウイルス(CMV)核内封入体を有する細胞を含む組織標本の観察画像。(a):HE染色された標本の画像。(b):(a)と同一の標本のFE-SEM画像。
【図3】(a):図2(b)のFE-SEM画像の拡大画像。(b):(a)中の四角で囲んだ部分の拡大画像。
【図4】卵巣境界悪性細胞の細胞診標本の観察画像。(a):パパニコロウ染色された標本の画像。(b):(a)と同一の標本のFE-SEM画像。(c):(a)と(b)の合成画像。(d)、(e):(b)における細胞表面の拡大画像。(f):(b)における細胞突起の拡大画像。
【図5】標本に施した染色に対する、標本用保護液の効果の一例を示す画像。(a)HE染色を施した多臓器切片を含む標本(対照A)、(b)原液:エタノール=1:10の比率で調製した標本用保護液を用いてSEM観察した後の標本、(c)原液:水=1:10の比率で調製した標本用保護液を用いてSEM観察した後の標本。(d):SEM観察後の(b)の標本にエオジンによる再染色を施した標本。(e):SEM観察後の(c)の標本にエオジンによる再染色を施した標本。(f)HE染色を施した肺組織切片を含む標本(対照F)、(g)原液:エタノール=1:10の比率で調製した標本用保護液を用いてSEM観察した後の標本、(h)原液:水=1:10の比率で調製した標本用保護液を用いてSEM観察した後の標本。(i):SEM観察後の(g)の標本にエオジンによる再染色を施した標本。(j):SEM観察後の(h)の標本にエオジンによる再染色を施した標本。
【図6】標本に対する標本保護膜の帯電抑制効果を示す卓上SEM画像。(a)対照、(b)導電性効果を有する市販の塗布剤を用いた場合、(c)原液:水=1:10の比率で調製した標本用保護液を用いた場合。(d)原液:エタノール=1:10の比率で調製した標本保護液を用いた場合。
【図7】塩化金による核染色を施した胃癌(印環細胞癌)標本および悪性中皮腫標本の観察画像。(a):HE染色された胃癌(印環細胞癌)標本の画像。(b):(a)の標本に塩化金染色を施した標本の卓上SEMによる反射電子像。(c):(b)と2次電子像の合成画像。(d):HE染色された悪性中皮腫標本の画像。(e):(d)の標本に塩化金染色を施した標本の卓上SEMによる反射電子像。(f):(e)と2次電子像の合成画像。
【図8A】塩化金による核染色を施した子宮頸癌の悪性細胞の細胞診標本の卓上SEMによる反射電子像。
【図8B】塩化金による核染色を施した子宮頸癌の悪性細胞の細胞診標本の観察画像。(a)塩化金染色を施した標本の卓上SEMによる反射電子像。(b)塩化金染色を施していない標本(対照)の卓上SEMによる反射電子像。
【図9】塩化金による核染色を施した副腎標本および骨格筋標本の観察画像。(a):HE染色された副腎標本の画像。(b):(a)と同一のブロックからの連続切片標本の卓上SEMによる反射電子像(対照;塩化金染色なし)。(c)~(f):(a)の標本を作製したのと同じパラフィンブロックから作製した副腎標本に塩化金染色を施した連続切片標本の卓上SEMによる反射電子像;(c)0.001%塩化金水溶液を用いた場合;(d)0.05%塩化金水溶液を用いた場合;(e)0.1%塩化金水溶液を用いた場合;(f)1%塩化金水溶液を用いた場合。(g)HE染色された骨格筋標本の画像。(h)(g)と同一のブロックからの連続切片標本の卓上SEMによる反射電子像(対照;塩化金染色なし)。(i)~(l):(g)の標本を作製したのと同じパラフィンブロックから作製した骨格筋標本に塩化金染色を施した標本の卓上SEMによる反射電子像;(i)0.001%塩化金水溶液を用いた場合;(j)0.05%塩化金水溶液を用いた場合;(k)0.1%塩化金水溶液を用いた場合;(l)1%塩化金水溶液を用いた場合。
【図10】免疫染色された標本に対して塩化金染色を施した標本の観察画像。(a):DAB染色された、平滑筋アクチン(smooth muscle actin; SMA)抗原陽性部位を含む標本の光学顕微鏡像(倍率25倍)。(b):(a)の標本に塩化金染色を施した標本の、同一視野の卓上SEMによる反射電子像。(c):(a)の標本に塩化金染色を施した標本の、同一視野の卓上SEMによる反射電子像。(d):(a)と同一の標本の光学顕微鏡像(倍率100倍)。(e):(a)の標本に塩化金染色を施した標本の、(d)と同一視野の卓上SEMによる反射電子像。(f):(a)と同一の標本の光学顕微鏡像(倍率1000倍)。(g):(a)の標本に塩化金染色を施した標本の、(f)と同一視野の卓上SEMによる反射電子像。(h):CD1a抗原陽性部位(樹状細胞)を含む標本の光学顕微鏡像(倍率2500倍)。(i):(h)の標本に塩化金染色を施した標本の、同一視野のFE-SEMによる反射電子像と2次電子像の混合像。(j):(h)の標本に塩化金染色を施した標本の、同一視野のFE-SEMによる2次電子像。
【図11】免疫染色された乳癌のHER2病理組織標本に対して塩化金染色を施した標本の観察画像。(a):DAB染色された乳癌のHER2スコア3+標本の光学顕微鏡像。(b):(a)の標本に塩化金染色を施した標本の、同一視野の卓上SEMによる反射電子像。(c):(b)の反射電子像の拡大画像。(d):DAB染色された乳癌のHER2スコア0標本の光学顕微鏡像。(e):(d)の標本に塩化金染色を施した標本の、同一視野の卓上SEMによる反射電子像。(f):(e)の反射電子像の拡大画像。
【図12】金粒子を用いた免疫染色による、乳癌のHER2病理組織標本の観察画像。(a):DAB染色された乳癌のHER2スコア3+標本の光学顕微鏡像。(b):(a)の標本に金粒子による免疫染色の増感処理を施した標本の、卓上SEMによる反射電子像。白点:40nm金粒子像。(c):(b)の拡大画像。白点:40nm金粒子像。(d):乳癌のHER2スコア0標本の光学顕微鏡像。(e):(d)の標本の卓上SEMによる反射電子像。(f):(e)の拡大画像。
【図13】EDXによる病理組織標本の元素分析結果。(a):HE染色された鉄沈着症の肝臓組織標本の光学顕微鏡像。(b):(a)と同一の標本の卓上SEMによる反射電子像。(c):(a)と同一の標本のEDX分析装置による観察画像(Fe Kα1)。(d):HE染色された炭粉沈着症の肺組織標本の光学顕微鏡像。(e):(d)と同一の標本の卓上SEMによる反射電子像。(f)~(i):(d)と同一の標本のEDX分析装置による観察画像;(f)Al Kα1;(g)Mg Kα1;(h)Si Kα1;(i)O Kα1。(j):グロコット染色された真菌症の病理組織標本の、卓上SEMによる反射電子像。(k)~(l):(j)と同一の標本のEDX分析装置による観察画像;(k)Au Mα1;(l)Ag Lα1。
【図14】電子顕微鏡観察用保護剤の原液によるマーキングを行った標本の観察画像。(a)、(b):マーキングを行った標本のSEM画像、(c):(a)および(b)のSEM観察後、標本用保護膜を除去した標本の光学顕微鏡画像。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、具体的な形態は以下の実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計の変更等があっても本発明に含まれる。

【0019】
本明細書において、「電子顕微鏡観察用保護剤」の用語は、本発明者等による先行発明(特許文献1)に開示される、生存環境付与成分、糖類および電解質を主成分として含有する溶液(Surface Shielding Enhancer(SSE)溶液)をいう。

【0020】
本発明者等による先行発明(特許文献1)では、病理標本や細胞試料に、生存環境付与成分、糖類および電解質を含有する電子顕微鏡観察用保護剤を塗布し、電子線またはプラズマを照射して当該標本または試料の表面に薄膜を形成して覆うことによって、電子顕微鏡による画像観察を行うことが開示されている。

【0021】
本発明者等は、HE染色等が施された病理組織標本について、上記電子顕微鏡観察用保護剤を用いたSEM観察、病理診断を重ねた結果、単一の標本で、走査型電子顕微鏡を含む複数の観察手段を用いて同一視野を観察できることを具体的に確認し、さらにその手法について鋭意検討を重ねて、本発明を完成させるに至った。

【0022】
本発明の一実施形態に係る病理組織標本または細胞診標本の走査型電子顕微鏡による観察方法は、染色された病理組織標本または細胞診標本に、生存環境付与成分、糖類および電解質を主成分として含有する電子顕微鏡観察用保護剤と有機溶媒を含む標本用保護液を塗布し、電子線またはプラズマを照射して前記標本の表面に薄膜を形成する工程を含む。

【0023】
<第一の実施形態>
病理組織標本および細胞診標本の作製法は当該分野で公知である。例えば、病理組織標本(以下、単に「標本」ともいう。)は、典型的には、スライドグラス上にパラフィン包埋切片を載せ、脱パラフィン処理、染色処理の後、カバーガラスを載せて封入して作製される。

【0024】
作製した標本を光学顕微鏡で観察し、対象の部位(病変部位)を特定し、マーキングする。マーキングは、例えば、後述するカバーガラスの取り外し工程で用いる溶媒(例えば、封入剤がマリノールである場合はキシレン)に抵抗性のマジックペンを用いて、標本の表側(標本の表面、またはカバーガラスの上面)および/または裏側(スライドグラスの下面)に印を付すことによって行うことができる。このマーキングは、同一の標本を光学顕微鏡以外の観察手段(例えば、SEM)で観察する際に、観察対象の部位の特定を容易にするために行われる。そのため、マーキングは上述した以外の任意の手法を用いてもよい。

【0025】
ここで、必要に応じて、光学顕微鏡による写真撮影、あるいは、市販のガラススライド用スキャナによるスキャンによって、標本の画像を取得してもよい。

【0026】
次いで、標本のカバーガラスを、溶媒(例えば、キシレン)を用いて取り外し、標本上の溶媒を乾燥させる。その後、標本をエタノール、水の順で処理し、標本の表面を親水化する。

【0027】
次いで、カバーガラスを外した標本に、電子顕微鏡観察用保護剤を塗布する。電子顕微鏡観察用保護剤の塗布手段としては特に限定されないが、標本を損なわないようにするために、標本に直接触れることなく適用することが望ましい。例えば、一般に用いられるピペッターを用いて電子顕微鏡観察用保護剤を標本に塗布することができる。また、微量な液滴を塗布する装置を用いてもよい。

【0028】
電子顕微鏡観察用保護剤の組成は特に限定されないが、代表的には、以下の組成を例示することができ、これを原液とすることができる。
電子顕微鏡観察用保護剤の原液の組成および調製方法の具体例:水 500mLに、スクロース 5g、フルクトース 5g、塩化ナトリウム 5gを溶解させたものに、クエン酸 1.25g、グルタミン酸ナトリウム 0.05gを加え、pHを7.4に調整し、この水溶液とグリセリンを、水溶液:グリセリン=1:2の比率で混合する。
電子顕微鏡観察用保護剤は、上述した原液をそのまま用いてもよく、原液を任意の溶剤で希釈して用いてもよい。溶剤としては、例えば、水、有機溶媒、および水と有機溶媒の混合溶媒が挙げられる。本明細書において、上記の組成に代表される電子顕微鏡観察用保護剤の原液を任意の溶剤で希釈して調製される溶液を、「標本用保護液」という。

【0029】
本実施形態では、上記原液を水で希釈して、標本用保護液を調製する。希釈割合としては、例えば、原液:水の比率を、1:1~1:30の範囲とすることができ、1:2~1:20の範囲が好ましく、1:5~1:10の範囲がより好ましい。

【0030】
標本用保護液を塗布した標本は、必要に応じてスピンコート装置を用いてスピン乾燥させるとともに、標本上の標本用保護液の層をより均一にする。

【0031】
次いで、標本を走査型電子顕微鏡の試料台に載置し、電子線またはプラズマを照射して標本の表面に薄膜を形成する。本明細書において、標本に塗布された標本用保護液に電子線またはプラズマを照射して形成される薄膜を、「標本保護膜」という。

【0032】
標本保護膜が形成された標本を、SEM観察に供し、上記マーキングされた病変部位を観察する。本実施形態では、標本保護膜によって標本の帯電(チャージアップ)が軽減されるため、光学顕微鏡による観察で特定した病変部位の同一視野を、SEM観察によって鮮明に得ることができる。また、先の工程で取得した標本画像とSEM画像とを組み合わせることで、従来にない新たな標本画像を生成することができる。このことは、本発明者等による新たな知見であり、実際に特定の標本を用いて初めて実証された。

【0033】
図1は、種々の病原体を含む標本の観察画像である。
図1(a)~(c)は、アスペルギルス菌体を含む標本の観察画像である。図1(a)は、HE染色されたアスペルギルス菌体を含む標本をガラススライド用スキャナ(浜松ホトニクス社製のNanoZoomer。以下同様。)でスキャンした画像である。図1(b)は、図1(a)と同一の標本のFE-SEM画像である。図1(a)と同一視野のFE-SEM画像において、アスペルギルス菌体の三次元情報を含む立体的な像が得られていることが分かる。なお、図1~4に関してのSEM観察には、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM;日立製 S-4800)を用いた。以下、特に記載しない限り、図1~4に関しては「SEM観察」とは、上記のFE-SEMを用いた観察をいい、「SEM画像」とは、上記のFE-SEMを用いて得られた2次電子像または反射電子像をいう。図1(c)は、図1(b)のSEM画像の拡大画像である。

【0034】
図1(d)~(f)は、アメーバ感染症と診断された病理組織標本(アメーバ虫体を含む標本)の観察画像である。図1(d)は、HE染色されたアメーバ虫体を含む標本をガラススライド用スキャナでスキャンした画像である。図1(e)は、図1(d)と同一の標本のSEM画像である。図1(d)と同一視野のSEM画像において、病変部位の三次元情報を含む立体的な像が得られていることが分かる。図1(f)は、図1(e)の病変部位の拡大SEM画像である。

【0035】
図1(g)~(i)は、細菌標本の観察画像である。図1(g)は、HE染色された細菌標本をガラススライド用スキャナでスキャンした画像である。図1(h)は、図1(g)と同一の標本のSEM画像である。図1(g)と同一視野のSEM画像において、細菌の三次元情報を含む立体的な像が得られていることが分かる。図1(i)は、図1(h)のSEM画像の拡大画像である。

【0036】
図1(a)~(i)に示されるように、HE染色された病理組織標本において特定された病変部位(観察対象部位)を、同一の標本を用いて走査型電子顕微鏡で観察することができ、単一の標本から病変部位の三次元データを取得することができることが確認された。

【0037】
図2は、サイトメガロウイルス(CMV)核内封入体の形成が認められる細胞を含む組織標本の観察画像である。図2(a)は、HE染色された標本をガラススライド用スキャナでスキャンした画像である。図2(b)は、図2(a)と同一の標本のSEM画像である。図2(a)と同一視野のSEM画像において、CMV核内封入体の三次元情報を含む立体的な像が得られていることが分かる。

【0038】
図3は、図2(b)のSEM画像の拡大画像である。図3(a)に示されるように、CMV核内封入体の三次元構造を鮮明に確認することができる。図3(b)は、図3(a)において四角で囲んだ部分の拡大画像である。図中に矢印で示したように、CMV粒子が細胞外へ放出される様子が確認できる。このように、本実施形態によれば、単一の標本を用いて、走査型電子顕微鏡を含む複数の観察手段による同一視野の観察が可能であり、対象の病理組織に関する情報を簡便かつ迅速に解析するこができることが実証された。

【0039】
図4は、卵巣境界悪性細胞の細胞診標本の観察画像である。図4(a)は、パパニコロウ染色された標本をガラススライド用スキャナでスキャンした画像である。図4(b)は、図4(a)と同一の標本のSEM画像である。図4(a)と同一視野のSEM画像において、卵巣境界悪性細胞の三次元情報を含む立体的な像が得られていることが分かる。図4(c)は、図4(a)と図4(b)の画像を合成して得られた画像である。このように、本実施形態によれば、単一の標本を用いて、走査型電子顕微鏡を含む複数の観察手段による同一視野の観察が可能であるので、得られた観察画像を合成処理することによって、従来の技術では得られなかった三次元データを含む新たな観察像を簡便かつ迅速に得ることができる。これにより、対象の病理に関する新たな診断基準となり得る病理情報を解析することも可能であると考えられる。

【0040】
図4(d)、(e)は、図4(b)のSEM画像について、細胞表面を拡大した画像である。図4(f)は、図4(b)のSEM画像について、細胞突起を拡大した画像である。このように、細胞診標本において特定された病変部位(観察対象部位)を、同一の標本を用いて走査型電子顕微鏡で観察することができ、単一の標本から観察対象部位の三次元データを取得することができることが確認された。

【0041】
本実施形態では、走査型電子顕微鏡による観察の後、標本を、水、エタノール、キシレン(使用する封入剤の種類によって選択される溶媒)の順で処理し、標本用保護膜を部分的に除去することができる。なお、エタノール処理としては、例えば、70%エタノール、80%エタノール、95%エタノール、100%エタノールを用いることができるが、これらに限定されない。また、各溶媒を用いた処理は、各々1回ずつ行ってもよく、必要に応じて複数回行ってもよい。

【0042】
ここで、驚くべきことに、標本用保護膜を除去した標本は、同一の標本を用いてそのまま光学顕微鏡観察等に供することができる程度に染色された状態が維持されている。すなわち、本実施形態では、単一の標本で、光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡による同一視野の観察が可能であることに加えて、上記の一連の観察工程を経た後の標本を(たとえ標本用保護膜の除去が完全でなくても、保護膜は可視光に対して透明であるため)、再び、光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡による観察、あるいは別の観察手段を用いた観察に供することができる。このことは、本発明者等による新たな知見であり、実際に特定の標本を用いて初めて実証された。

【0043】
なお、標本用保護膜の除去後の標本は、必要に応じて、改めて染色処理を施すこともできる。一般に、HE染色を施した標本の場合、組織切片が乾燥すると変色が生じ、変色前の状態には戻らないとされているが、本実施形態では、標本用保護膜の除去後に肉眼で確認し得るような変色は生じず、ヘマトキシリンおよびエオジンの一方または両方による再染色を施すことによって、走査型電子顕微鏡による観察前の染色状態に戻すことができる。このことは、標本用保護膜が有する水/ガスバリア性能(Surface Shielding Effect、SS効果)によるものと考えられる。

【0044】
<第二の実施形態>
以下では、上記第一の実施形態からの変更点について説明する。第一の実施形態と同様の工程についてはその説明を省略する。

【0045】
本実施形態では、上記第一の実施形態における電子顕微鏡観察用保護剤の原液を有機溶媒で希釈して、標本用保護液を調製する。有機溶媒としては特に限定されないが、例えば、エタノールなどの両親媒性溶媒を用いることができる。原液の希釈割合としては、例えば、原液:有機溶媒の比率を、1:1~1:30の範囲とすることができ、1:2~1:20の範囲が好ましく、1:5~1:10の範囲がより好ましい。

【0046】
このようにして調製される標本用保護液を用いることによって、本実施形態では、標本のカバーガラスを溶媒(例えば、キシレン)を用いて取り外し、標本上の溶媒を乾燥させた後、標本用保護液を塗布することができる。すなわち、本実施形態では、第一の実施形態における、標本の表面の親水化処理工程を省略することができ、観察時間をより短縮することができる。また、これにより、標本に施された染色が退色すること、あるいは退色が生じた場合であっても退色の程度を低減することができ、観察の精度をより高く保つことができる。また、有機溶媒を用いることによって、標本に対する標本用保護液の塗布の均一性をより高めることができる。そのような観点では、電子顕微鏡観察用保護剤の原液を、水と有機溶媒を任意の割合で混合した混合溶媒で希釈することも有効である。

【0047】
加えて、有機溶媒で希釈して調製される標本用保護液から形成される標本用保護膜は、走査型電子顕微鏡による観察において、より優れた帯電抑制効果を発揮し得る。具体的には、原液:エタノールの比率を1:10として調製した標本用保護液の場合、15kVの加速電圧条件でのSEM観察において十分な帯電抑制効果が確認されている。このことは、同一の標本をEDX分析等に供することが可能であることを示している。
一方、10kV以下の加速電圧条件(例えば、5kV~10kVの範囲の加速電圧条件)でのSEM観察であれば、上述した第一の実施形態のように電子顕微鏡観察用保護剤の原液を水で希釈して調製した標本用保護液を用いた場合でも、優れた帯電抑制効果が発揮され得る。

【0048】
図5は、標本に施した染色に対する、標本用保護液の効果の一例を示す顕微鏡画像である。
図5(a)は、HE染色を施した多臓器切片を含む標本(対照A)をガラススライド用スキャナでスキャンした画像であり、図5(b)は、対照Aの標本に、原液:エタノール=1:10の比率で調製した標本用保護液を適用してSEM観察した後の画像であり、図5(c)は、対照Aの標本に、原液:水=1:10の比率で調製した標本用保護液を適用してSEM観察した後の画像である。図5(b)および(c)の標本は、図5(a)の標本(対照A)と比較して、部分的にエオジンによる細胞質等の赤もしくはピンク色の染色の退色が認められるが、ヘマトキシリンによる細胞核等の青もしくは紫色の染色は保持されている。これらの標本は、そのまま光学顕微鏡観察等に供することもできるし、必要に応じてエオジンによる再染色を施すことによって対照Aの標本と同様の染色状態とした後、光学顕微鏡観察等に供することもできる(図5(d)および(e))。
図5(f)は、HE染色を施した肺組織切片を含む標本(対照F)をガラススライド用スキャナでスキャンした画像であり、図5(g)は、対照Fの標本に、原液:エタノール=1:10の比率で調製した標本用保護液を適用してSEM観察した後の画像であり、図5(h)は、対照Fの標本に、原液:水=1:10の比率で調製した標本用保護液を適用してSEM観察した後の画像である。図5(g)および(h)の標本では、図5(f)の標本(対照F)と比較して、エオジンによる細胞質等の赤もしくはピンク色の染色の大部分が退色しているが、ヘマトキシリンによる細胞核等の青もしくは紫色の染色は保持されている。これらの標本は、そのまま光学顕微鏡観察等に供することもできるし、必要に応じてエオジンによる再染色を施すことによって、対照Fの標本と同様の染色状態とした後、光学顕微鏡観察等に供することもできる(図5(i)および(j))。

【0049】
図6は、標本に対する標本保護膜の帯電抑制効果を示すSEM画像である。図6(a)は、HE染色を施した肺組織標本(対照)であり、図6(b)は、対照の肺組織標本に、走査型電子顕微鏡による観察において導電性効果を有することが報告されている市販の塗布剤(ライオン社製)を適用したもの、図6(c)は、対照の肺組織標本に、原液:水=1:10の比率で調製した標本用保護液を適用したもの、図6(d)は、対照の肺組織標本に、原液:エタノール=1:10の比率で調製した標本用保護液を適用したものである。各標本を、15kVの加速電圧条件で卓上SEM(日立製 Miniscope TM4000plus)を用いて100倍、500倍、1000倍の倍率で観察した。図6に示されるように、本実施形態の標本用保護液によって形成された標本保護膜による標本の帯電(チャージアップ)の抑制効果は、より高い倍率で観察を行うほど、より顕著に認められる。特に、本実施形態の標本用保護液を適用することによって、500倍および1000倍の倍率においても、三次元データを含む鮮明な像として、標本の観察が可能であることが分かる。このことは、本発明の第一の実施形態および第二の実施形態によって対象の病理組織に関する三次元データを含む情報をより簡便かつ迅速に解析することにおいて、標本の表面に形成された標本保護膜が有意に寄与していることを示している。

【0050】
上述したように、本発明の第一の実施形態および第二の実施形態の標本用保護液によって形成された標本保護膜により、観察対象の標本の帯電(チャージアップ)が有意に軽減されることが具体的に実証された。
そこで、本発明者らは、従来、走査型電子顕微鏡による観察には適用し得ないと考えられていた増感法を組み合わせることによって、標本における病変部位(観察対象部位)のより鮮明な画像を得ることができることを想到した。
増感法としては、例えば、組織や細胞の染色が挙げられ、具体的には、核染色、細胞小器官(オルガネラ)の染色、細胞内タンパク質の染色などが挙げられる。

【0051】
図7は、塩化金による核染色を施した胃癌(印環細胞癌)標本((a)~(c))および悪性中皮腫標本((d)~(f))の観察画像である。核染色に用いた塩化金は1%水溶液であり、標本に対する処理時間は5分間とした。染色後の標本は純水で洗浄した。
なお、本明細書において、「塩化金」とは、金の塩化物、すなわち塩化金酸をいい、具体的には、例えば、塩化金(III)(AuCl3)、塩化金(I)(AuCl)、八塩化四金(Au4Cl8)などが挙げられる。
図7(a)は、HE染色された胃癌(印環細胞癌)標本をガラススライド用スキャナでスキャンした画像である。図中に矢印で示した部分は、腫瘍細胞である。図7(b)は、図7(a)の標本に塩化金染色を施した後、卓上SEM(日立製 TM4000plus)を用いて観察した反射電子像である。腫瘍細胞の核が、細胞膜や細胞質よりも淡く白みがかって見えることが確認できる。図7(c)は、図7(b)の反射電子像と2次電子像を合成して得られた画像である。
図7(d)は、HE染色された悪性中皮腫標本をガラススライド用スキャナでスキャンした画像である。図中に矢印で示した部分は、腫瘍細胞である。図7(e)は、図7(d)の標本に塩化金染色を施した後、卓上SEM(日立製 TM4000plus)を用いて観察した反射電子像である。腫瘍細胞の核が、細胞膜や細胞質よりも淡く白みがかって見えることが確認できる。図7(f)は、図7(e)の反射電子像と2次電子像を合成して得られた画像である。図7(e)、(f)ともに、細胞突起が明瞭に観察することができる。

【0052】
図8Aおよび図8Bは、0.1%TritonX PBSで洗浄後に塩化金による核染色を施した子宮頸癌の悪性細胞の細胞診標本の観察画像である。核染色に用いた塩化金は1%水溶液であり、標本に対する処理時間は10分間とした。染色後の標本は純水で洗浄した。
図8Aは、塩化金による核染色を施した子宮頸癌の悪性細胞の細胞診標本の卓上SEMによる反射電子像である。白色矢印で示すように細胞核を容易に同定することができる。
図8Bは、図8Aとは異なる検体から作成した細胞診標本について、塩化金染色を施した場合(図8B(a))と、塩化金染色を施していない場合(図8B(b);対照)の、卓上SEMによる反射電子像である。いずれも観察倍率は1000倍である。図8B(b)の標本(対照)では、悪性細胞の外形が確認できる程度であり、細胞核を同定することはできないが、塩化金染色を施すことによって、図8B(a)のように細胞の構造のコントラストが向上し、細胞核を容易に同定することができる。

【0053】
図9は、塩化金による核染色を施した副腎標本((a)~(f))および骨格筋標本((g)~(l))の観察画像である。核染色に用いた塩化金は0.001%水溶液、0.05%水溶液、0.1%水溶液および1%水溶液であり、標本に対する処理時間は5分間とした。染色後の標本は純水で洗浄した。
図9(a)は、HE染色された副腎標本をガラススライド用スキャナでスキャンした画像である。図9(b)は、図9(a)と同一のブロックからの連続切片標本を、卓上SEM(日立製 TM4000)を用いて観察した反射電子像である。なお、この標本は、塩化金による核染色を施していない対照である。図9(c)~(f)は、図9(a)の標本を作製したのと同じパラフィンブロックから作製した連続切片標本に、0.001%水溶液、0.05%水溶液、0.1%水溶液または1%水溶液を用いて塩化金染色を施した標本の、卓上SEMによる反射電子像である。
図9(g)は、HE染色された骨格筋標本をガラススライド用スキャナでスキャンした画像である。図9(h)は、図9(g)と同一のブロックからの連続切片標本を、卓上SEM(日立製 TM4000)を用いて観察した反射電子像である。なお、この標本は、塩化金による核染色を施していない対照である。図9(i)~(l)は、図9(g)の標本を作製したのと同じパラフィンブロックから作製した副腎標本に、0.001%水溶液、0.05%水溶液、0.1%水溶液または1%水溶液を用いて塩化金染色を施した標本の、卓上SEMによる反射電子像である。

【0054】
図7、図8Aおよび図8Bに示されるように、本発明の重金属を用いない標本用保護液によって形成された標本保護膜と、重金属を用いない塩化金による核染色を組み合わせることにより、走査型電子顕微鏡による観察において、病理組織標本および細胞診標本における対象の部位(病変部位)のより鮮明な画像を得ることができることが実証された。また、図9に示されるように、対象の組織または細胞の種類に応じて、核染色に用いる塩化金水溶液の濃度を調整することができることが確認された。

【0055】
図10は、免疫染色(DAB(ジアミノベンジジン)染色)された標本に対して塩化金染色を施した標本の観察画像である。用いた塩化金は1%水溶液であり、標本に対する処理時間は5分間とした。染色後の標本は純水で洗浄した。
図10(a)は、DAB染色された、平滑筋アクチン(smooth muscle actin; SMA)抗原陽性部位を含む標本の光学顕微鏡像(倍率25倍)である。図10(b)は、図10(a)の標本に塩化金染色を施した標本の、同一視野の卓上SEMによる反射電子像である。図10(c)は、図10(a)の標本に塩化金染色を施した標本の、同一視野の卓上SEMによる反射電子像である。
図10(d)および(f)は、図10(a)と同一の標本の光学顕微鏡像(倍率100倍および倍率1000倍)である。図10(e)および(g)は、それぞれ、図10(a)の標本に塩化金染色を施した標本の、図10(d)または(f)と同一視野の卓上SEMによる反射電子像と2次電子像の混合像である。
図10(h)は、CD1a抗原陽性部位(樹状細胞)を含む標本の光学顕微鏡像(倍率2500倍)である。図10(i)は、図10(h)の標本に塩化金染色を施した標本の、同一視野のFE-SEMによる反射電子像である。図10(j)は、図10(h)の標本に塩化金染色を施した標本の、同一視野のFE-SEMによる2次電子像である。

【0056】
図10に示されるように、免疫染色(DAB染色)された標本に対する塩化金染色と、本発明の標本用保護液によって形成された標本保護膜を組み合わせることにより、標本における対象部位(免疫染色部位)のより鮮明な画像を得ることができることが実証された。また、DAB染色などの免疫染色が施された標本の光学顕微鏡観察によって特定された発色部位を、同一の標本を用いて走査型電子顕微鏡で観察することができ、対象部位の三次元情報を含む立体的な像を得ることができることが確認された。
従来、免疫染色された観察試料に対して、四酸化オスミウム(OsO4)、酢酸ウラニル、鉛などの重金属またはその化合物を用いて電子顕微鏡像のコントラストを増大することが行われていた。しかしながら、四酸化オスミウムは揮発性が高く、毒性があり、その取扱いは容易ではないという問題があった。これに対して、本発明によれば、従来の増感剤よりも取扱いが容易な塩化金と、本発明の標本用保護液によって形成された標本保護膜を組み合わせることにより、走査型電子顕微鏡による観察において、DNA特異的にコントラストが増大した画像を得ることができる。

【0057】
図11は、免疫染色(DAB染色)された乳癌のHER2病理組織標本に対して塩化金染色を施した標本の観察画像である。用いた塩化金は1%水溶液であり、標本に対する処理時間は5分間とした。染色後の標本は純水で洗浄した。

【0058】
図11(a)は、DAB染色された乳癌のHER2スコア3+標本の光学顕微鏡像である。図11(b)は、図11(a)の標本に塩化金染色を施した標本の、同一視野の卓上SEMによる反射電子像である。図11(c)は、図11(b)の反射電子像の拡大画像である。
図11(d)は、DAB染色された乳癌のHER2スコア0標本の光学顕微鏡像である。図11(e)は、図11(d)の標本に塩化金染色を施した標本の、同一視野の卓上SEMによる反射電子像である。図11(f)は、図11(e)の反射電子像の拡大画像である。

【0059】
図11に示されるように、免疫染色(DAB染色)された標本に対する塩化金染色と、本発明の標本用保護液によって形成された標本保護膜を組み合わせることにより、走査型電子顕微鏡による観察において、標本における対象部位(免疫染色部位)のより鮮明な画像を得ることができることが実証された。また、DAB染色などの免疫染色が施された標本の光学顕微鏡観察によって特定された発色部位を、同一の標本を用いて走査型電子顕微鏡で観察することができ、対象部位の三次元情報を含む立体的な像を得ることができることが確認された。

【0060】
一方、従来のDABなどの色素や蛍光を用いた免疫染色による、標本における病変部位の同定には、染色の程度(光学顕微鏡観察において確認される発色の程度)が影響し、染色処理の条件(温度、時間など)に依存し得ることが知られている。
そこで、本発明者等は、ナノ粒子(例えば、金粒子)を用いた免疫染色によって、病理組織標本に色素や蛍光を用いた免疫染色を施すことなく、病変部位(観察対象部位)の走査型電子顕微鏡による観察を行った。
図12は、金粒子を用いた免疫染色による、乳癌のHER2病理組織標本の観察画像である。
図12(a)は、DAB染色された乳癌のHER2スコア3+標本の光学顕微鏡像である。図12(b)は、図12(a)の連続切片標本に金粒子による免疫染色の増感処理を施した標本の、卓上SEMによる反射電子像である。図中、白色の点として確認されるものが金粒子である。図12(c)は、図12(b)の拡大画像である。金粒子に相当する白色の点がより明瞭に確認される。
金粒子(ナノ粒子)による免疫染色の増感処理としては、例えば、一次抗体、標識二次抗体、および標識二次抗体に特異的に結合する化合物で表面が修飾されたナノ粒子を用いる方法が挙げられる。具体的には、一次抗体として抗HER2抗体を用い、二次抗体としてビオチン標識抗マウス抗体を反応させた後、表面がアビジンで修飾されたナノ粒子(例えば、平均粒径が40nm程度の金粒子)を用いて標識することによって行うことができる。
図12(d)は、乳癌のHER2スコア0標本の光学顕微鏡像である。図12(e)は、図12(d)の標本の卓上SEMによる反射電子像である。図12(f)は、図12(e)の拡大画像である。白色の点として認識される金粒子はみられない。

【0061】
図12に示されるように、本発明の標本用保護液によって形成された標本保護膜とナノ粒子による免疫染色の増感処理を組み合わせることにより、従来の色素や蛍光による免疫染色を用いることなく、ナノ粒子を指標とする抗原抗体反応を利用して、病理組織標本の抗原陽性部位の同定・観察をより迅速かつ簡便に行うことができることが実証された。

【0062】
図13は、EDX分析(エネルギー分散型X線分析)による、病理組織標本の元素分析結果である。
図13(a)は、HE染色された鉄沈着症の肝臓組織標本の光学顕微鏡像である。図13(b)は、図13(a)と同一の標本の卓上SEMによる反射電子像である。図13(c)は、図13(a)と同一の標本のEDX分析装置による観察画像である。標本における鉄(Fe)の沈着の様子をはっきりと確認することができる。なお、EDX分析装置は、卓上SEM(日立製 Miniscope TM4000plus)に備え付けのオックスフォード社製の装置を用いた。
図13(d)は、HE染色された炭粉沈着症の肺組織標本の光学顕微鏡像である。炭粉の沈着が黒色の点として確認される。図13(e)は、図13(d)と同一の標本の卓上SEMによる反射電子像である。図13(f)~(i)は、図13(d)と同一の標本のEDX分析装置による観察画像である。図13(f)において、緑色の部分はアルミニウムの存在を示す。図13(g)において、黄色の部分はマグネシウムの存在を示す。図13(h)において、赤色の部分はケイ素の存在を示す。図13(i)において、緑色の部分は酸素の存在を示す。
図13(j)は、グロコット染色された真菌症の病理組織標本の、卓上SEMによる反射電子像である。図13(k)および(l)は、図13(j)と同一の標本のEDX分析装置による観察画像である。図13(k)において、緑色の部分は金の存在を示す。図13(l)において、青色の部分は銀の存在を示す。

【0063】
図13に示されるように、病理組織標本に対して本発明の標本用保護液を用いて標本保護膜を形成することにより、同一の標本を用いて、光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡による観察、およびEDX分析を行うことができることが実証された。

【0064】
<第三の実施形態>
以下では、上記第一の実施形態からの変更点について説明する。第一の実施形態と同様の工程についてはその説明を省略する。

【0065】
本実施形態では、上記第一の実施形態における標本用保護液を塗布した標本を必要に応じてスピンコート装置を用いてスピン乾燥させた後、電子線またはプラズマを照射して標本の表面に薄膜を形成する前に、電子顕微鏡観察用保護剤の原液を用いて、対象の部位(病変部位)またはその周辺をマーキングする。当該原液は、標本用保護液よりも粘稠性を有していることが好ましく、これにより、標本上に滴下した際に、マジックペンを用いた場合と同程度の径を有する液滴を形成することができる。なお、標本用保護液を調製する際に用いた電子顕微鏡観察用保護剤の原液の組成に応じて、本実施形態のマーキング処理に用いる溶液の組成を適宜調整することができる。

【0066】
標本上に当該原液を適用する手段としては特に限定されないが、標本を損なわないようにするために、標本に直接触れることなく適用することが望ましい。例えば、一般に用いられるピペッターを用いて、当該原液を標本上に滴下することができる。また、市販の微量液滴装置を用いて、当該原液を標本上に滴下してもよい。

【0067】
このようにして標本上に形成した電子顕微鏡観察用保護剤の原液によるマーキングは、当該マーキング自体が三次元的な形状を有しているので、走査型電子顕微鏡による観察においてマーキングした場所の特定がより容易になり、その結果、観察対象の病変部位をより迅速に特定することができ、観察時間のさらなる短縮が可能となる。

【0068】
また、上記マーキングは、走査型電子顕微鏡による観察の後、標本用保護膜を除去する工程において標本用保護膜と一緒に標本から除去されるので、標本に対して損傷が生じる可能性をより軽減し、同一の標本を用いて次の観察を行う必要がある場合により望ましい。例えば、上述したように、光学顕微鏡での観察においてマジックペンを用いてマーキングを施した標本を用いて走査型電子顕微鏡による観察を行った場合、走査型電子顕微鏡での観察の後、標本に再度染色処理を施すと、組織にマジックペンの痕が残り、当該組織の一部に損傷が見られることがあるが、本実施形態では、そのような損傷が生じることを抑制することができる。

【0069】
図14は、電子顕微鏡観察用保護剤の原液によるマーキングを行った標本の観察画像である。図14(a)および(b)は、卓上SEMを用いて、マーキングを行った標本をSEM観察した画像であり、(a)は位相コントラストイメージング(phase contrast imaging)、(b)は反射電子像である。図14(c)は、図14(a)および(b)のSEM観察後、水、エタノール、キシレンの順で処理して標本用保護膜を除去した標本の、光学顕微鏡画像である。図14(a)および(b)に示されるように、本実施形態によれば、走査型電子顕微鏡による観察におけるマーキング部位の特定が容易であり、これにより、観察対象の病変部位をより迅速に解析することができる。また、図14(c)に示されるように、標本用保護膜の除去処理によりマーキングが取り除かれ、染色が維持された状態で、同一の標本を光学顕微鏡等の別の観察手段による観察に供することができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
上述した本発明の実施形態により、本発明者等は、単一の病理組織標本または細胞診標本から、走査型電子顕微鏡を含む複数の観察手段による同一視野の観察が可能であることを具体的に確認した。単一の標本を複数の観察手段による観察に供する場合、従来の手法では、重金属を用いた染色剤を用いることによって標本の再染色が必須であったり、標本の損傷が避けられないといった問題があったが、本発明によれば、標本の損傷は最小限に抑えられ、必ずしも再染色処理を行うことを要せず、同一の標本を複数の観察手段に供し、対象の病理組織に関する三次元情報を簡便かつ迅速に解析することができる。加えて、標本を観察前のもとの状態にもどすことが可能となる。これにより、貴重な症例を損失することなく、従来発見されていなかった新たな病理所見等が得られ、新たな診断基準の策定や診断法の開発のきっかけにつながることが期待される。
Drawing
(In Japanese)【図1】
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(In Japanese)【図2】
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(In Japanese)【図3】
2
(In Japanese)【図4】
3
(In Japanese)【図5】
4
(In Japanese)【図6】
5
(In Japanese)【図7】
6
(In Japanese)【図8A】
7
(In Japanese)【図8B】
8
(In Japanese)【図9】
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(In Japanese)【図10】
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(In Japanese)【図11】
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(In Japanese)【図12】
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(In Japanese)【図13】
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(In Japanese)【図14】
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