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明細書 :抗がん剤のスクリーニング方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5978424号 (P5978424)
登録日 平成28年8月5日(2016.8.5)
発行日 平成28年8月24日(2016.8.24)
発明の名称または考案の名称 抗がん剤のスクリーニング方法
国際特許分類 C12N   5/09        (2010.01)
C12N   5/10        (2006.01)
A01K  67/027       (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
C12Q   1/42        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
FI C12N 5/09
C12N 5/10
A01K 67/027
C12Q 1/02
C12Q 1/42
G01N 33/50 Z
G01N 33/15 Z
請求項の数または発明の数 8
微生物の受託番号 NPMD NITE BP-1110
全頁数 26
出願番号 特願2012-526588 (P2012-526588)
出願日 平成23年7月29日(2011.7.29)
国際出願番号 PCT/JP2011/067393
国際公開番号 WO2012/015023
国際公開日 平成24年2月2日(2012.2.2)
優先権出願番号 61/368,807
優先日 平成22年7月29日(2010.7.29)
優先権主張国 アメリカ合衆国(US)
審査請求日 平成26年7月24日(2014.7.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】野田 亮
【氏名】村井 竜也
【氏名】北山 仁志
【氏名】吉田 陽子
個別代理人の代理人 【識別番号】100077012、【弁理士】、【氏名又は名称】岩谷 龍
審査官 【審査官】鳥居 敬司
参考文献・文献 Clinical and Experimental Metastasis, 2003, Vol.20, No.2, pp.181-185
調査した分野 C12N 5/00-5/28
A01K 67/00-67/04
C12Q 1/00-1/70
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
RM72細胞(受託番号NITE BP-1110)。
【請求項2】
請求項1に記載の細胞由来の腫瘍を有することを特徴とする非ヒトがん自然転移モデル動物。
【請求項3】
げっ歯類である請求項2に記載のがん自然転移モデル動物。
【請求項4】
マウスである請求項3に記載のがん自然転移モデル動物。
【請求項5】
請求項1に記載の細胞を実験動物に接種することを特徴とする非ヒトがん自然転移モデル動物の作製方法。
【請求項6】
請求項1に記載の細胞を実験動物の皮下に接種し、腫瘍を形成させることを特徴とする請求項5に記載の非ヒトがん自然転移モデル動物の作製方法。
【請求項7】
抗がん活性および/またはがん転移抑制活性を有する物質をスクリーニングする方法であって、
請求項2~4のいずれかに記載のがん自然転移モデル動物に、被験物質を投与する工程と、
被験物質の投与開始後に、細胞接種部位の腫瘍の大きさ、ならびに標的臓器における転移巣の数および/または大きさを評価する工程と、
被験物質を投与した動物と被験物質を投与していない動物の細胞接種部位の腫瘍の大きさ、ならびに標的臓器における転移巣の数および/または大きさを比較する工程と
を含むことを特徴とするスクリーニング方法。
【請求項8】
抗がん活性および/またはがん転移抑制活性を有する物質をスクリーニングする方法であって、
請求項2~4のいずれかに記載のがん自然転移モデル動物に、被験物質を投与する工程と、
被験物質の投与開始後に、被験物質を投与したがん自然転移モデル動物および被験物質を投与していない請求項2~4のいずれかに記載のがん自然転移モデル動物にルシフェリンを投与する工程と、
ルシフェリン投与後に、ルシフェリンを投与したがん自然転移モデル動物の細胞接種部位および/または標的臓器の化学発光像を記録する工程と、
前記被験物質を投与したがん自然転移モデル動物と前記被験物質を投与していないがん自然転移モデル動物の細胞接種部位および/または標的臓器の化学発光像を比較する工程と
を含むことを特徴とするスクリーニング方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、抗がん剤のスクリーニング方法に関するものであり、より詳細には、がん自然転移モデル動物を用いる抗がん剤のスクリーニング方法、当該スクリーニング方法に用いるがん自然転移モデル動物および当該モデル動物の作製に用いるがん細胞株、がん細胞のRECKの発現を増加させる物質を選択する抗がん剤のスクリーニング方法および当該スクリーニング方法に用いる哺乳動物細胞、ならびにこれらのスクリーニング方法により得られた化合物を有効成分とする抗がん剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
旧来の抗がん剤探索は、がん細胞に対する傷害活性や移植腫瘍の退縮を指標として実施されてきたが、これらの方法で選ばれた薬剤は一般に副作用が強く、許容投与量の幅が狭いという問題点を持つ。一方、最近、脚光を浴びている分子標的薬は、当該遺伝子に変異を持つ腫瘍にしか適用できない場合が多く、2次変異による耐性細胞の出現も見られる。このため、副作用が少なく、抗がん活性の強い薬剤の探索は急務である。
【0003】
本発明者らは、これまでに独自の悪性転換抑制遺伝子スクリーニング系を樹立し、これを用いて新規がん関連遺伝子を見出してきた。本発明者らが見出した新規がん関連遺伝子のなかで、RECK(reversion-inducing-cysteine-rich protein with kazal motifs)は膜アンカー型メタロプロテアーゼ制御因子をコードし、大腸、肺、胃、乳、膵、前立腺など多くのがんにおいて高頻度の発現低下が見られること、腫瘍組織におけるRECKの発現量が患者の生存率と正の相関性を示すことなどが明らかとなった。また、RECKを強制発現させたがん細胞株をヌードマウスに移植すると、親株に比べ、腫瘍増殖、血管新生、浸潤、転移などの抑制が観察された。これらの知見から、RECKは予後マーカーとして有用であるのみならず、がん治療の標的作用分子(エフェクター)としても有望であることが示唆された(非特許文献1、2、3)。
【0004】
他方、がんの転移実験では、メラノーマ細胞をマウスの尾静脈に接種し、2~8週間後に解剖して肺に生じたコロニーを計数するという方法(tail vein assay)が最も良く用いられる(非特許文献4、5)。これは「実験転移」とも呼ばれ、血行性転移の後半部分を再現したものとみなされている。ある組織中に接種した腫瘍細胞の遠隔組織への転移は実際の患者で起こる転移により近く、「自然転移」(spontaneous metastasis assay)と呼ばれる。自然転移のプロトコールとしては、マウスの手の平に腫瘍を接種し、腫瘍が一定の大きさに達した時点で手を切断して原発巣を除き、40~100日後に解剖して肺転移を観察する方法が知られている(非特許文献6)。しかし、判定までに長時間を要するという問題があり、短期間で自然転移を判定できる実験系の確立が望まれている。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】Oh J, Takahashi R, Kondo S, Mizoguchi A, Adachi E, Sasahara RM, Nishimura S, Imamura Y, Kitayama H, Alexander DB, Ide C, Horan TP, Arakawa T, Yoshida H, Nishikawa S, Itoh Y, Seiki M, Itohara S, Takahashi C, Noda M. The membrane-anchored MMP inhibitor RECK is a key regulator of extracellular matrix integrity and angiogenesis. Cell 107, 789-800 (2001).
【非特許文献2】Noda M, Oh J, Takahashi R, Kondo S, Kitayama H, Takahashi C. RECK: a novel suppressor of malignancy linking oncogenic signaling to extracellular matrix remodeling. Cancer Metastasis Rev 22, 167-175 (2003).
【非特許文献3】Noda M, Takahashi C. Recklessness as a hallmark of aggressive cancer. Cancer Sci 98, 1659-1665 (2007).
【非特許文献4】Fidler IJ. Selection of successive tumour lines for metastasis. Nat New Biol 242, 148-149 (1973).
【非特許文献5】Fidler IJ. The relationship of embolic homogeneity, number, size and viability to the incidence of experimental metastasis. Eur J Cancer 9, 223-227 (1973).
【非特許文献6】Fitzer-Attas CJ, Do MS, Feigelson S, Vadai E, Feldman M, Eisenbach L. Modification of PDGFalpha receptor expression or function alters the metastatic phenotype of 3LL cells. Oncogene 15, 1545-1554 (1997).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、短期間で自然転移を判定するために使用するがん細胞株、当該がん細胞株を用いたがん自然転移モデル動物およびその作製方法、当該がん自然転移モデル動物を用いるスクリーニング方法および当該スクリーニング方法で得られる抗がん剤またはがん転移抑制剤を提供することを目的とする。さらに本発明は、がん細胞のRECK発現を増加させる物質を選択するスクリーニング方法、当該スクリーニング方法に用いる哺乳動物細胞および当該スクリーニング方法で得られた抗がん剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の各発明を包含する。
[1]RM72細胞(受託番号NITE BP-1110)。
[2]前記[1]に記載の細胞由来の腫瘍を有することを特徴とするがん自然転移モデル動物。
[3]げっ歯類である前記[2]に記載のがん自然転移モデル動物。
[4]マウスである前記[3]に記載のがん自然転移モデル動物。
[5]前記[1]に記載の細胞を実験動物に接種することを特徴とするがん自然転移モデル動物の作製方法。
[6]前記[1]に記載の細胞を実験動物の皮下に接種し、腫瘍を形成させることを特徴とする前記[5]に記載のがん自然転移モデル動物の作製方法。
[7]抗がん活性および/またはがん転移抑制活性を有する物質をスクリーニングする方法であって、前記[2]~[4]のいずれかに記載のがん自然転移モデル動物に、被験物質を投与する工程と、被験物質の投与開始後に、細胞接種部位の腫瘍の大きさ、ならびに標的臓器における転移巣の数および/または大きさを評価する工程と、被験物質を投与した動物と被験物質を投与していない動物の細胞接種部位の腫瘍の大きさ、ならびに標的臓器における転移巣の数および/または大きさを比較する工程とを含むことを特徴とするスクリーニング方法。
[8]抗がん活性および/またはがん転移抑制活性を有する物質をスクリーニングする方法であって、前記[2]~[4]のいずれかに記載のがん自然転移モデル動物に、被験物質を投与する工程と、被験物質の投与開始後に、動物にルシフェリンを投与する工程と、ルシフェリン投与後に、動物の細胞接種部位および/または標的臓器の化学発光像を記録する工程と、被験物質を投与した動物と被験物質を投与していない動物の細胞接種部位および/または標的臓器の化学発光像を比較する工程とを含むことを特徴とするスクリーニング方法。
[9]がん細胞のRECK(reversion-inducing-cysteine-rich protein with kazal motifs)の発現を増加させる物質を選択することを特徴とする抗がん物質のスクリーニング方法。
[10]がん細胞のRECKの発現を増加させる物質が、がん細胞のReck遺伝子プロモーター活性を高める物質であることを特徴とする前記[9]に記載のスクリーニング方法。
[11]Reck遺伝子プロモーターとレポーター遺伝子を含むレポーターシステムおよびテトラサイクリン発現誘導システムで制御されるHRAS12Vがん遺伝子を備えた細胞を用いることを特徴とする前記[10]に記載のスクリーニング方法。
[12]Reck遺伝子プロモーターとレポーター遺伝子を含むレポーターシステムおよびテトラサイクリン発現誘導システムで制御されるHRAS12Vがん遺伝子を備えた細胞が、Tet-offシステムで制御されるHRAS12Vがん遺伝子を有するCREF細胞株由来の細胞であり、Reck遺伝子プロモーターとしてマウスReck遺伝子の上流4.1kb領域の断片を有し、レポーター遺伝子として分泌型アルカリホスファターゼ遺伝子を有し、さらにネオマイシン耐性遺伝子およびブラスチシジンS耐性遺伝子を有する細胞であることを特徴とする前記[11]に記載のスクリーニング方法。
[13]Reck遺伝子プロモーターとレポーター遺伝子を含むレポーターシステムおよびテトラサイクリン発現誘導システムで制御されるHRAS12Vがん遺伝子を備えることを特徴とする哺乳動物細胞。
[14]Reck遺伝子プロモーターとレポーター遺伝子を含むレポーターシステムおよびテトラサイクリン発現誘導システムで制御されるHRAS12Vがん遺伝子を備えたCREF細胞株由来の細胞であって、Tet-offシステムで制御されるHRAS12Vがん遺伝子、Reck遺伝子プロモーターとしてマウスReck遺伝子の上流4.1kb領域の断片、レポーター遺伝子として分泌型アルカリホスファターゼ遺伝子、ならびにネオマイシン耐性遺伝子およびブラスチシジンS耐性遺伝子を有する前記[13]に記載の哺乳動物細胞。
[15]前記[9]~[12]のいずれかに記載のスクリーニング方法により得られた、disulfiram、pyrithione、thimerosal、doxorubicin、camptothecine(s,+)、gramicidin、daunorubicin、cephaeline、mechlorethamine、emetine、mitoxantrone、diaziquone、haloprogin、lycorine、methotrexate、paclitaxel、menadione、albendazole、meclocycline、demeclocycline、minocycline、podophyllotoxin、harmine、pyrimethamine、trimeprazine、cycloheximide、perhexiline、triamterene、triflupromazine、raloxifene、piperlongumine、hycanthone、etoposideおよびdoxycyclineからなる群より選ばれる1種、またはその薬学的に許容される塩を有効成分とする抗がん剤。
[16]前記[9]~[12]のいずれかに記載のスクリーニング方法により得られるRECKの発現を増加させる物質を、被験物質として用いることを特徴とする前記[7]または[8]に記載のスクリーニング方法。
[17]前記[7]、[8]または[16]に記載のスクリーニング方法により得られた、disulfiram、harmine、pyrithione、gramicidinおよびlycorineからなる群より選ばれる1種、またはその薬学的に許容される塩を有効成分とする抗がん剤。
[18]前記[7]、[8]または[16]に記載のスクリーニング方法により得られた、disulfiram、harmine、pyrithione、gramicidinおよびlycorineからなる群より選ばれる1種、またはその薬学的に許容される塩を有効成分とするがん転移抑制剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、短期間で自然転移を判定するために使用するがん細胞株を提供することができる。当該細胞株を実験動物に接種することにより、がん自然転移モデル動物を作製することができ、当該がん自然転移モデル動物を用いるスクリーニング方法により、抗がん剤またはがん転移抑制剤の有効成分となり得る物質を取得することができる。また、本発明により、がん細胞のRECKの発現を増加させる物質選択するスクリーニング方法および当該スクリーニング方法に好適に用いることができる哺乳動物細胞を提供することができる。当該RECKの発現を増加させる物質選択するスクリーニング方法により抗がん剤の有効成分となり得る物質を取得することができる。また、当該RECKの発現を増加させる物質選択するスクリーニング方法は、上記がん自然転移モデル動物を用いるスクリーニング方法の一次スクリーニングの方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】YM3細胞に含まれる外来遺伝子を示す図である。
【図2】YM3細胞の性質を示す図である。
【図3】分泌型アルカリホスファターゼ(SEAP)アッセイの流れを示す図である。
【図4】880種のケミカルライブラリーについてSEAPアッセイを行い、陽性対照のHPMよりも高いReck遺伝子プロモーター活性を示した化合物の一部の結果を示した図である。
【図5】Reck遺伝子プロモーター誘導活性が強いdisulfiram(DSF)、doxorubicin(DXR)、gramicidin(Gra)、およびpyrithione sodium salt(Pyt)の4種について、YM3細胞に対する濃度依存的活性を確認した結果を示す図である。
【図6】pGL3-4110を安定導入したHT1080細胞に対して、DSF、Pyt、DXRまたはアンモニウム ピロリジン ジチオカーボメート(pDTC)を作用させ、ルシフェラーゼ活性によりReck遺伝子プロモーター誘導活性を測定した結果を示す図である。
【図7(A)】HT1080細胞にDSF、DXR、Gra、Pytを作用させ内在性RECKタンパク質発現誘導活性を確認した結果を示す図である。
【図7(B)】RZmet3細胞にDSF、DXR、Gra、Pytを作用させ内在性RECKタンパク質発現誘導活性を確認した結果を示す図である。
【図7(C)】A549細胞にDSF、DXR、Gra、Pytを作用させ内在性RECKタンパク質発現誘導活性を確認した結果を示す図である。
【図7(D)】SW480細胞にDSF、DXR、Gra、Pytを作用させ内在性RECKタンパク質発現誘導活性を確認した結果を示す図である。
【図7(E)】RM72細胞にDSF、DXR、Gra、Pytを作用させ内在性RECKタンパク質発現誘導活性を確認した結果を示す図である。
【図8(A)】RM72細胞にlycorine(Lyc)、harmine(Hr)を作用させ内在性RECK mRNA発現誘導活性を確認した結果を示す図である。
【図8(B)】RM72細胞にDSF、DXR、Gra、Pytを作用させ内在性RECKタンパク質発現誘導活性を確認した結果を示す図である。
【図9(A)】DSFの存在下または非存在下で24時間培養したRZmet3細胞の微分干渉コントラスト画像である。
【図9(B)】DSFの存在下または非存在下で24時間培養したRZmet3細胞の広がりを比較した結果を示す図である。
【図9(C)】DSFの存在下または非存在下で24時間培養したRZmet3細胞のランダムな遊走の相対速度を比較した結果を示す図である。
【図10】DSF、DXR、Gra、Pytで処理したRM72細胞の培養上清を用いたゼラチンザイモグラフィーの結果を示す図である。
【図11】RM72細胞を接種した自然肺転移モデルマウスを用いてDSFの抗腫瘍活性および転移抑制活性を評価した結果であり、溶媒群およびDSF群における全身および肺のバイオルミネッセンス像を示す図である。
【図12】RM72細胞を接種した自然肺転移モデルマウスを用いてDSFの抗腫瘍活性および転移抑制活性を評価した結果であり、溶媒群とDSF群の各個体の肺転移と腫瘍サイズの分布を示す図である。
【図13】RM72細胞を接種した自然肺転移モデルマウスを用いてDSFの抗腫瘍活性および転移抑制活性を評価した結果であり、溶媒群とDSF群の腫瘍サイズを比較した図である。
【図14】RM72細胞を接種した自然肺転移モデルマウスを用いてDSFの抗腫瘍活性および転移抑制活性を評価した結果であり、溶媒群とDSF群の肺転移を比較した図である。
【図15】RM72細胞を接種した自然肺転移モデルマウスを用いてDSFの抗腫瘍活性および転移抑制活性を評価した結果であり、溶媒群とDSF群の肺転移の程度を腫瘍サイズで標準化して対比した図である。
【図16】RM72細胞を接種した自然肺転移モデルマウスを用いてGraおよびLycの抗腫瘍活性および転移抑制活性を評価した結果であり、溶媒群、Gra群およびLyc群における全身および肺のバイオルミネッセンス像を示す図である。
【図17(A)】RM72細胞を接種した自然肺転移モデルマウスを用いてPytおよびHrの抗腫瘍活性および転移抑制活性を評価した結果であり、溶媒群に対するPyt群およびHr群の相対腫瘍サイズおよび相対肺転移を示す図である。
【図17(B)】RM72細胞を接種した自然肺転移モデルマウスを用いてPytおよびHrの抗腫瘍活性および転移抑制活性を評価した結果であり、溶媒群、Pyt群およびHr群の各個体の肺転移と腫瘍サイズの分布を示す図である。
【図17(C)】RM72細胞を接種した自然肺転移モデルマウスを用いてGraおよびLycの抗腫瘍活性および転移抑制活性を評価した結果であり、溶媒群に対するGra群およびLyc群の相対腫瘍サイズおよび相対肺転移を示す図である。
【図17(D)】RM72細胞を接種した自然肺転移モデルマウスを用いてGraおよびLycの抗腫瘍活性および転移抑制活性を評価した結果であり、溶媒群、Gra群およびLyc群の各個体の肺転移と腫瘍サイズの分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔RM72細胞〕
本発明は、RM72細胞(受託番号NITE BP-1110として、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8、郵便番号292-0818)に国際寄託済み。受託日:2011年6月22日)を提供する。RM72細胞は、ヒト線維肉腫由来細胞株HT1080(ATCC #CCL-121)由来の細胞であり、HT1080細胞に選択マーカーとしてneo(大腸菌由来カナマイシン耐性遺伝子)およびHygro(大腸菌由来ハイグロマイシンB耐性遺伝子)、ならびにLuc(ホタル由来ルシフェラーゼ遺伝子)を発現するプラスミドを導入した細胞である(実施例1(2)参照)。RM72細胞をヌードマウスの皮下に接種すると腫瘍を形成するとともに、接種後2週間以内に肺への自然転移が見られる。

【0011】
RM72細胞は、例えば10%ウシ胎児血清を含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)を用いて、5%CO、37℃で培養することができる。培地にはペニシリン(例えば約100U/ml)、ストレプトマイシン(例えば約100μg/ml)、ハイグロマイシンB(例えば約400U/ml)およびG418(例えば約100mg/ml)が添加されていることが好ましい。

【0012】
〔がん自然転移モデル動物およびその作製方法〕
本発明のがん自然転移モデル動物は、RM72細胞由来の腫瘍を有するものであればよい。本発明のがん自然転移モデル動物は、腫瘍形成とがん自然転移を同時に評価することができる点で非常に有用である。さらに、がん自然転移は、細胞の皮下接種後約2週間という短時間で評価することが可能であり、従来法(非特許文献6)のように判定までに長時間(40~100日)を要しない点で非常に優れている。さらに、RM72細胞にはルシフェラーゼ発現ベクターが導入されているため、動物にルシフェリンを投与して全身の化学発光像を記録することにより原発巣および転移巣の位置と体積を映像化することができる。つまり、動物を解剖することなく腫瘍形成とがん自然転移を評価できる点で、画期的ながん自然転移モデル動物である。

【0013】
本発明のがん自然転移モデル動物は、RM72細胞を実験動物に接種することにより作製することができる。実験動物は特に限定されないが、例えばマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、サルなどの哺乳動物が挙げられる。好ましくはマウス、ラット、ハムスター、モルモットなどのげっ歯類であり、より好ましくはマウスである。さらに、動物は免疫不全動物であることが好ましい。免疫不全動物としては、例えば、ヌードマウス、ヌードラット、SCIDマウスなどが挙げられる。

【0014】
RM72細胞を接種する部位は、RM72細胞が腫瘍を形成しやすい部位であれば特に限定されない。接種が容易であり、かつ腫瘍を形成しやすい点で、動物の皮下に接種することが好ましい。具体的には、背部皮下や腹部皮下が好適である。接種するRM72細胞の細胞数は、動物の種類や大きさ、接種部位等に応じて適宜選択すすることができる。ヌードマウスに皮下接種する場合は、例えば約1~5×10個の細胞を約100μl程度のPBSに懸濁して、注射器を用いて接種すればよい。接種後約5~7日で腫瘍形成の有無を確認することができる。通常、接種後約5~7日で直径が約3mm程度の腫瘍が形成される。腫瘍の形成が確認できた動物を、がん自然転移モデル動物として用いることができる。

【0015】
〔がん自然転移モデル動物を用いるスクリーニング方法〕
本発明のスクリーニング方法は、以下の工程(1)~(3)を含むものであればよい。本発明のスクリーニング方法により、抗がん活性(例えば、腫瘍増殖抑制、腫瘍退縮、腫瘍消滅など)を有する物質、がん転移抑制活性を有する物質、および両方の活性を有する物質を取得することができる。
(1)上記本発明のがん自然転移モデル動物に被験物質を投与する工程
(2)被験物質の投与開始後に、細胞接種部位の腫瘍の大きさ、ならびに標的臓器における転移巣の数および/または大きさを評価する工程
(3)被験物質を投与した動物と被験物質を投与していない動物の細胞接種部位の腫瘍の大きさ、ならびに標的臓器における転移巣の数および/または大きさを比較する工程

【0016】
上記工程(1)において、被験物質は限定されず、例えば、核酸、ペプチド、タンパク、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、細胞培養上清、植物抽出液、哺乳動物の組織抽出液、血漿等が挙げられる。被験物質は、新規な物質であってもよいし、公知の物質であってもよい。これら被験物質は塩を形成していてもよく、被験物質の塩としては、生理学的に許容される酸や塩基との塩が用いられる。
被験物質の用量は特に限定されず、公知文献や予備試験等に基づいて適宜設定すればよい。投与経路は被験物質に応じて選択すればよく、例えば、経口投与、静脈内投与、腹腔内投与、皮下投与、筋肉内投与、腫瘍内投与等の公知の投与経路から適宜選択することができる。投与期間、投与間隔、評価時期、評価回数等も特に限定されない。本発明のスクリーニング方法は、動物へのRM72細胞接種から約2週間経過すれば評価が可能であり、動物を解剖することなく細胞接種部位の腫瘍と転移巣の評価を行うことができるという利点を有しているので、このような特徴を踏まえ、用いる被験物質に応じて投与期間、投与間隔、評価時期、評価回数を適宜設定すればよい。被験物質投与群の他に陰性対照群(例えば溶媒を投与)を設けることが好ましい。また、既知の抗がん物質を投与する陽性対照群を設けてもよい。

【0017】
上記工程(2)において、評価を行う時期は被験物質の投与開始後であればいつでもよい。被験物質の投与期間中でもよく、投与期間終了時でもよく、投与期間終了から任意の期間経過後でもよい。後述のように、RM72細胞の化学発光により評価を行えば、動物を解剖することなく複数回の評価を行うことができる。細胞接種部位の腫瘍の大きさを評価する方法は特に限定されない。例えば、腫瘍の長さ、幅、高さをノギス等で測定して、腫瘍体積を算出する方法、腫瘍を摘出してその重量を測定する方法等が挙げられる。また、標的臓器における転移巣の数または大きさを評価する方法も特に限定されない。例えば、動物を解剖して標的臓器を採取し、肉眼または顕微鏡下で転移巣の数または大きさを測定する方法等が挙げられる。標的臓器は、細胞接種部位に生じた腫瘍から転移し得る臓器であればいずれの臓器でもよい。例えば、肺、リンパ節、肝臓、骨、脳などが挙げられる。なかでも、細胞接種から2週間以内に転移することが確認されている肺を標的臓器とすることが好ましい。

【0018】
RM72細胞にはルシフェラーゼ発現ベクターが導入されているため、上記工程(2)において、動物にルシフェリンを投与し、その後細胞接種部位および標的臓器の化学発光像を記録することにより、動物を解剖することなく細胞接種部位の腫瘍の大きさ、ならびに標的臓器における転移巣の数および/または大きさを評価することができる。すなわち、この場合、上記工程(2)は、以下の工程(2-1)および(2-2)を含むことが好ましい。
(2-1)被験物質の投与開始後に、動物にルシフェリンを投与する工程
(2-2)ルシフェリン投与後に、動物の細胞接種部位および/または標的臓器の化学発光像を記録する工程

【0019】
動物に投与するルシフェリンは、市販のd-ルシフェリンを好適に用いることができる。ルシフェリン溶液は、例えば、PBSや生理食塩液等にルシフェリンを溶解して調製することができる。ルシフェリンが動物内のRM72細胞の存在部位に到達できるように投与方法および投与経路を選択すればよい。したがって、腹腔内投与、静脈内投与等の全身性投与が好ましい。投与用量は特に限定されないが、全身性投与の場合、例えば約40~80mg/kgの範囲から適宜選択すればよい。

【0020】
ルシフェリン投与後に動物の細胞接種部位および/または標的臓器の化学発光像を記録する。化学発光像の記録は、動物の細胞接種部位および/または標的臓器の化学発光像が記録できる方法であればどのような方法でもよいが、麻酔下で動物の全身化学発光像を記録することが好ましい。ルシフェリン投与後、化学発光像を記録するまでの時間は特に限定されないが、例えば腹腔内投与の場合、クリアランスタイムが約30分と考えられるので、ルシフェリン投与後30分以内に記録することが好ましい。より好ましくは、ルシフェリン投与後0分~約20分以内である。全身化学発光の記録は、市販のin vivo発光イメージングシステム(例えば、Xenogen社製IVIS Imaging Systemなど)を用いて記録することができる。得られた画像は、市販の画像解析ソフト(例えば、Xenogen社製Living Image softwareなど)を用いて分析することができる。

【0021】
上記工程(3)において、被験物質を投与した動物と被験物質を投与していない動物の細胞接種部位の腫瘍の大きさ、ならびに標的臓器における転移巣の数および/または大きさを比較する。被験物質を投与していない動物は、通常陰性対照群(例えば、溶媒投与群)が該当する。
被験物質を投与していない動物の腫瘍の大きさと比較して、被験物質を投与した動物の腫瘍のほうが小さければ、当該被験物質は抗がん活性(例えば、腫瘍増殖抑制、腫瘍退縮、腫瘍消滅など)を有していると判定できる。好ましくは腫瘍の大きさを50%以下に低下させる被験物質、より好ましくは10%以下に低下させる被験物質を抗がん物質と判定する。
被験物質を投与していない動物の標的臓器における転移巣の数と比較して、被験物質を投与した動物の転移巣の数が減少していれば、当該被験物質はがん転移抑制活性を有していると判定できる。また、被験物質を投与していない動物の標的臓器における転移巣の大きさと比較して、被験物質を投与した動物の転移巣の大きさが小さければ、当該被験物質はがん転移抑制活性を有していると判定できる。好ましくは転移巣の数または大きさを20%以下に減少させる被験物質、より好ましくは5%以下に減少させる被験物質をがん転移抑制物質と判定する。

【0022】
〔がん細胞のRECKの発現を増加させる物質を選択するスクリーニング方法〕
本発明は、がん細胞のRECKの発現を増加させる物質を選択することを特徴とする抗がん物質のスクリーニング方法を提供する。RECKに関する本発明者らの過去の知見から(非特許文献1、2、3等)、RECKは予後マーカーとして有用であり、がん治療の標的分子としても有望であると考えられる。したがって、がん細胞のRECKの発現を増加させる物質は抗がん剤の有効成分として有用であると考えられる。

【0023】
本発明のがん細胞のRECKの発現を増加させる物質を選択することを特徴とする抗がん物質のスクリーニング方法は、例えば、培養がん細胞に被験物質を接触させ、当該細胞におけるRECKのタンパク質量またはmRNA量を測定し、被験物質依存的なRECKのタンパク質量またはmRNA量の変化を分析する方法が挙げられるが、これに限定されるものではない。

【0024】
被験物質は限定されず、例えば、核酸、ペプチド、タンパク、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、細胞培養上清、植物抽出液、哺乳動物の組織抽出液、血漿等が挙げられる。被験物質は、新規な物質であってもよいし、公知の物質であってもよい。これら被験物質は塩を形成していてもよく、被験物質の塩としては、生理学的に許容される酸や塩基との塩が用いられる。

【0025】
RECKタンパク質量は、公知の方法で細胞からタンパク質を抽出し、公知のタンパク質量測定方法を用いて定量することができる。公知のタンパク質量測定方法としては、例えば、ウエスタンブロット法、EIA法、ELISA法、RIA法、タンパク質測定試薬を用いる方法などが挙げられる。RECKmRNA量は、公知の方法で細胞からRNAを抽出し、公知のmRNA量測定方法を用いて定量することができる。公知のmRNA量測定方法としては、ノーザンブロット法、RT-PCR法、定量RT-PCR法、RNaseプロテクションアッセイなどが挙げられる。

【0026】
被験物質依存的なRECKのタンパク質またはmRNA量の変化を分析する方法は特に限定されず、例えば、被験物質を接触させない対照群におけるRECKのタンパク質量またはmRNA量と比較して、被験物質を接触させた場合にRECKのタンパク質量またはmRNA量が増加していれば、当該被験物質を目的物質として選択すれることができる。被験物質がRECKのタンパク質量またはmRNA量を増加させる程度は特に限定されないが、例えば、被験物質を接触させていない細胞のタンパク質量またはmRNA量と比較して150%以上にさせる被験物質が好ましく、175%以上にさせる被験物質がより好ましい。

【0027】
本発明者らは、がん細胞のRECKの発現を増加させる物質を効率よくスクリーニングするために好適な細胞株を樹立した。この細胞は、Reck遺伝子プロモーターとレポーター遺伝子を含むレポーターシステムおよびテトラサイクリン発現誘導システムで制御されるHRAS12Vがん遺伝子を備えた細胞である。この細胞は、テトラサイクリンの有無により、がん細胞の形態および正常細胞の形態を示すので、がん細胞と正常細胞におけるRECKの発現誘導の対比を容易に行うことができる点で、本スクリーニング方法に用いる細胞として好適である。

【0028】
このReck遺伝子プロモーターとレポーター遺伝子を含むレポーターシステムおよびテトラサイクリン発現誘導システムで制御されるHRAS12Vがん遺伝子を備えた細胞を用いる場合、がん細胞の形態において被験物質を接触させない場合と比較してレポーター遺伝子の発現量が増加していれば、当該被験物質を目的物質として選択すれることができる。同一の被験物質をテトラサイクリンの有無によりがん形態の細胞と正常形態の細胞に接触させた場合において、両細胞のレポーター遺伝子の発現量は同程度でもよいが、がん形態の細胞のレポーター遺伝子の発現量のほうが高いことが好ましい。がん形態の細胞のレポーター遺伝子の発現量が、正常形態の細胞のレポーター遺伝子の発現量より1.5倍以上高いことがより好ましく、2倍以上高いことがさらに好ましい。

【0029】
本発明者らが樹立した細胞は、具体的には、CREF細胞株(ラット線維芽細胞株、参考文献 Fisher PB, Babiss LE, Weinstein IB, Ginsberg HS. Analysis of type 5 adenovirus transformation with a cloned rat embryo cell line (CREF). Proc Natl Acad Sci U S A 1982; 79: 3527-3531.)由来の細胞であり、Tet-offシステムで制御されるHRAS12Vがん遺伝子、Reck遺伝子プロモーターとしてマウスReck遺伝子の上流4.1kb領域の断片、レポーター遺伝子として分泌型アルカリホスファターゼ遺伝子、ならびにネオマイシン耐性遺伝子およびブラスチシジンS耐性遺伝子を有している。この細胞は、実施例1(1)に記載の方法で作製することができる。本発明者らは、実施例1(1)に記載の方法で作製した細胞のなかで、テトラサイクリン系抗生物質であるドキシサイクリン処理後のSEAPの発現上昇の程度が最も高い1つのクローンを選択し、この細胞株をYM3と命名して当該スクリーニング方法に用いている。したがって、がん細胞のRECKの発現を増加させる物質を効率よくスクリーニングするために特に好適な細胞株は、YM3細胞株である。

【0030】
本発明者らは、レポーター遺伝子に分泌型アルカリホスファターゼ(SEAP)遺伝子を用いているが、これに限定されない。一般に用いられているレポーター遺伝子であれば、いずれも好適に用いることができる。レポーター遺伝子は、安定かつ活性の定量が容易なものが好ましい。例えば、ルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルクロニダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)等をコードする遺伝子が挙げられる。

【0031】
本発明者らは、Reck遺伝子プロモーターとしてマウスReck遺伝子の上流4.1kb領域(Gene ID: 53614、Chromosome 4 - NC_000070.5 43884251 - 43888453)を用いているが、これに限定されない。他の哺乳動物のReck遺伝子プロモーターも好適に用いることができる。他の哺乳動物としては、ヒト、チンパンジー、サル、イヌ、ウシ、ラット、モルモットなどが挙げられ、好ましくはヒトである。各種動物のReck遺伝子プロモーター領域の塩基配列は公知のデータベース(DDBJ/GenBank/EMBL等)から取得することができる。例えば、ヒトRECK遺伝子プロモーター領域は、Gene ID: 8434、Chromosome 9 - NC_000009.11 36,032,644 - 36,036,971である。

【0032】
本発明者らは、Tet-offシステムで制御されるHRAS12Vがん遺伝子を用いているが、Tet-onシステムで制御されるHRAS12Vがん遺伝子を用いてもよい。また、テトラサイクリン以外の薬剤による発現誘導システムを用いてもよい。このような発現誘導システムとしては、dexamethasone-MMTVプロモーター系、Cre-loxP組換え系を用いた方法などが挙げられる。

【0033】
本発明者らは、選択マーカーにネオマイシン耐性遺伝子およびブラスチシジンS耐性遺伝子を用いているが、これらに限定されない。哺乳動物細胞に使用可能な公知の選択マーカーは、いずれも好適に用いることができる。具体的には、例えば、ピューロマイシン、ハイグロマイシンB、ゼオシンなどが挙げられる。

【0034】
本発明には、上記がん細胞のRECKの発現を増加させる物質を効率よくスクリーニングするために好適な細胞が含まれる。つまり、Reck遺伝子プロモーターとレポーター遺伝子を含むレポーターシステムおよびテトラサイクリン発現誘導システムで制御されるHRAS12Vがん遺伝子を備えることを特徴とする哺乳動物細胞も、本発明に含まれる。より好ましくは、Reck遺伝子プロモーターとレポーター遺伝子を含むレポーターシステムおよびテトラサイクリン発現誘導システムで制御されるHRAS12Vがん遺伝子を備えたCREF細胞株由来の細胞であって、Tet-offシステムで制御されるHRAS12Vがん遺伝子、Reck遺伝子プロモーターとしてマウスReck遺伝子の上流4.1kb領域の断片、レポーター遺伝子として分泌型アルカリホスファターゼ遺伝子、ならびにネオマイシン耐性遺伝子およびブラスチシジンS耐性遺伝子を有する哺乳動物細胞である。

【0035】
本発明のがん細胞のRECKの発現を増加させる物質を選択するスクリーニング方法は、上記がん自然転移モデル動物を用いるスクリーニング方法に供する被験物質のプレスクリーニングに、好適に用いることができる。

【0036】
〔本発明のスクリーニング方法により得られた化合物を有効成分とする医薬〕
上記本発明のスクリーニング方法により選択されるRECKの発現を増加させる物質は、Reck活性化剤、抗がん剤、がん転移抑制剤の有効成分、有効成分候補、またはリード化合物として有用である。本発明者らは、880種のケミカルライブラリーを上記本発明のスクリーニング方法を用いてスクリーニングし、濃度依存的にReck遺伝子プロモーターを活性化させる34種の化合物を選択した。具体的には、disulfiram、pyrithione、thimerosal、doxorubicin、camptothecine(s,+)、gramicidin、daunorubicin、cephaeline、mechlorethamine、emetine、mitoxantrone、diaziquone、haloprogin、lycorine、methotrexate、paclitaxel、menadione、albendazole、meclocycline、demeclocycline、minocycline、podophyllotoxin、harmine、pyrimethamine、trimeprazine、cycloheximide、perhexiline、triamterene、triflupromazine、raloxifene、piperlongumine、hycanthone、etoposideおよびdoxycycline、またはこれらの薬学的に許容される塩である(実施例2の表1,2参照)。これらの化合物は、Reck活性化剤、抗がん剤またはがん転移抑制剤の有効成分として有用であると考えられる。したがって、本発明は、上記34種の化合物からなる群より選ばれる1種、またはその薬学的に許容される塩を有効成分とするReck活性化剤、抗がん剤またはがん転移抑制剤を提供する。

【0037】
上記34種の化合物のうち、少なくともdisulfiram、harmine、pyrithione sodium salt、gramicidinおよびlycorineの5種については、上記本発明のがん自然転移モデル動物を用いるスクリーニング方法により抗がん活性(例えば、腫瘍増殖抑制、腫瘍退縮、腫瘍消滅など)およびがん転移抑制活性を有することが確認されている。したがって、本発明は、disulfiram、harmine、pyrithione、gramicidinおよびlycorineからなる群より選ばれる1種、またはその薬学的に許容される塩を有効成分とする抗がん剤を提供し、また、disulfiram、harmine、pyrithione、gramicidinおよびlycorineからなる群より選ばれる1種、またはその薬学的に許容される塩を有効成分とするがん転移抑制剤を提供する。

【0038】
「薬学的に許容される塩」とは、例えば、アルカリ金属(例えば、カリウム、ナトリウム、リチウム等)の塩、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、マグネシウム等)の塩、アンモニウム塩(例えば、テトラメチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩等)、有機アミン(例えば、トリエチルアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、シクロペンチルアミン、ベンジルアミン、フェネチルアミン、ピペリジン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン、リジン、アルギニン、N-メチル-D-グルカミン等)の塩、酸付加物塩(例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩等の無機酸塩;例えば、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、シュウ酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、安息香酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、イセチオン酸塩、グルクロン酸塩、グルコン酸塩等の有機酸塩)などが挙げられる。

【0039】
上記34種の化合物はいずれも公知の化合物であり、それぞれ公知の方法で製造することができ、市販品を購入することができる。また、上記34種の化合物のうち光学異性体、立体異性体、位置異性体、回転異性体等の異性体を有する化合物は、いずれか一方の異性体でもよく混合物でもよい。また、上記34種の化合物は水和物または溶媒和物であってもよく、同位元素等で標識されていてもよい。

【0040】
本発明のスクリーニング方法により得られた上記化合物を有効成分とする医薬は、上記34種もしくは上記5種の化合物からなる群より選ばれる1種、またはその薬学的に許容される塩を有効成分とし、薬学的に許容される担体、さらに添加剤を適宜配合して製剤化することができる。具体的には錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等の経口剤;注射剤、輸液、坐剤、軟膏、パッチ剤等の非経口剤とすることができる。担体または添加剤の配合割合については、医薬品分野において通常採用されている範囲に基づいて適宜設定すればよい。配合できる担体または添加剤は特に制限されないが、例えば、水、生理食塩水、その他の水性溶媒、水性または油性基剤等の各種担体;賦形剤、結合剤、pH調整剤、崩壊剤、吸収促進剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、香料等の各種添加剤が挙げられる。

【0041】
錠剤、カプセル剤などに混和することができる添加剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガント、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸などのような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖またはサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油またはチェリーのような香味剤などが用いられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、上記タイプの材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。注射のための無菌組成物は注射用水のようなベヒクル中の活性物質、胡麻油、椰子油などのような天然産出植物油などを溶解または懸濁させるなどの通常の製剤実施に従って処方することができる。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液(例えば、D-ソルビトール、D-マンニトール、塩化ナトリウムなど)などが用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例、エタノール)、ポリアルコール(例、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤(例、ポリソルベート80TM、HCO-50)などと併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油などが用いられ、溶解補助剤である安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどと併用してもよい。また、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノールなど)、酸化防止剤などと配合してもよい。

【0042】
このようにして得られる製剤は、例えばヒトや他の哺乳動物(例えば、ラット、マウス、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して投与することができる。投与量、投与回数、投与間隔等は、投与対象動物の状態、対象癌種、症状、投与方法などに応じて適宜設定すればよい。

【0043】
なお、本発明には、以下の発明が含まれる。
(a)哺乳動物に対して、上記34種もしくは上記5種の化合物からなる群より選ばれる1種、またはその薬学的に許容される塩またはこれらの薬学的に許容される塩のいずれかの有効量を投与することを特徴とするがん治療方法。
(b)抗がん剤を製造するための、上記34種もしくは上記5種の化合物からなる群より選ばれる1種、またはその薬学的に許容される塩の使用。
(c)癌の治療に使用するための、上記34種もしくは上記5種の化合物からなる群より選ばれる1種、またはその薬学的に許容される塩。
(d)哺乳動物に対して、上記5種の化合物またはこれらの薬学的に許容される塩のいずれかの有効量を投与することを特徴とするがん転移抑制方法。
(e)がん転移抑制剤を製造するための、上記5種の化合物からなる群より選ばれる1種、またはその薬学的に許容される塩の使用。
(f)がん転移抑制に使用するための、上記5種の化合物からなる群より選ばれる1種、またはその薬学的に許容される塩。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
〔実施例1:細胞株の樹立〕
(1)Reck遺伝子プロモーターレポーターシステムを備えた細胞の樹立
マウスReck遺伝子の上流4.1kb領域(Gene ID:53614、Chromosome 4-NC_000070.5 43884251-43888453)をpSEAP2-Basicベクター(Clontech)に挿入し、pSEAP-RP4.1プラスミドを構築した。一方、本発明者らは、以前に、ラット線維芽細胞株CREF(Fisher PB,Babiss LE,Weinstein IB,Ginsberg HS.Analysis of type 5 adenovirus transformation with a cloned rat embryo cell line(CREF).Proc Natl Acad Sci U S A 1982;79:3527-3531.)にテトラサイクリン感受性トランスアクチベーター(Tet-off)システムによってHRAS12V遺伝子の発現を制御できるようにするためのプラスミド2種(trans-repressor発現ベクターと標的ベクター)を安定導入し、通常培養液中ではHRAS12Vが発現して悪性形質を示し、ドキシサイクリン(Dox;2μg/ml)存在下ではHRAS12V発現が抑制されて正常細胞の形態を示す細胞株TF323-C3(G418耐性)を樹立した(Sasahara RM, Takahashi C, Noda M. Involvement of the Sp1 site in ras-mediated downregulation of the RECK metastasis suppressor gene. Biochem Biophys Res Commun 1999; 264: 668-675.)。このTF323-C3細胞に、pSEAP-RP4.1とpUCSV-BSDとを4:1(w/w)の比で共導入した後、ブラスチシジンSを8μg/ml含有する増殖培地で選択した(G418/ブラスチシジンSの2重耐性)。Dox処理後のSEAPの発現上昇の程度が最も高い1つのクローンを選択し(YM3と命名)目的の細胞株を樹立した(図1、2参照)。YM3細胞のSEAPは、v-K-ras-形質転換細胞において平坦な形態の復帰体を誘導するMEK阻害剤であるHypothemycin(1μg/ml)による処理の後も上昇していた。なお、TF323-C3細胞は、本発明者の野田亮から分与可能である。
【実施例】
【0046】
(2)自然転移系細胞株の樹立
ヒト線維肉腫由来細胞株HT1080(ATCC #CCL-121)にneoマーカーを含むプラスミドを安定導入した株をヌードマウス皮下に移植し、約1か月後に腋下リンパ節に生じた腫瘤をG418(1mg/ml)を含む培養液中で分散培養し、生じたコロニーを分離してRZmet3株を得た。RZmet3細胞は、皮下移植すると2週間程度で腋下リンパ節への転移が見られる。次に、RZmet3細胞に2種のプラスミドpGL4(Photinus pyralis 由来のルシフェラーゼ遺伝子を含む、Promega社製)およびpcDNA3.1(-)-Hygro(hygromycin B phosphotransferase 遺伝子(耐性遺伝子)を含む、Invitrogen社製)を安定導入し、G418(1mg/ml)とハイグロマイシンB(400U/ml)を含む培養液中でクローニングを繰り返し、高いルシフェラーゼ活性を示すクローンを分離した。この中から、ゼラチナーゼ活性の高いクローン数種を選び、それぞれをヌードマウス皮下に移植したところ、2週間で肺転移を示す1株が見つかったため、これをRM72と命名した。
【実施例】
【0047】
〔実施例2:SEAPアッセイ〕
(1)実験方法
96ウェルプレートにYM3細胞を1×10個/100μl/ウェルで播種し、5時間インキュベートして細胞を定着させた後、化合物溶液(500μM、1μl)を培地に添加した。被験化合物として、880種の構造的に異なった既知の生物活性化合物からなるケミカルライブラリーPrestwick Chemical Library(Prestwick Chemical, Illkirch, France)をナノピュアーdimethyl sulfoxide(DMSO、和光純薬)で溶解したものを使用した。これらの異なる化合物の生物学的メカニズムまたは薬理学的効果は実験的に検証されており、85%以上の化合物は、広範囲の治療分野における医薬やサプリメントとして米国または欧州で市販されている。陰性対照として溶媒(DMSO、1μl)のみ、陽性対照としてHypothemycin(HPM、1mg/ml)をプレート毎に2ウェルずつ添加した。すべてのサンプルについて2プレートを用いた(2連サンプル)。
【実施例】
【0048】
48時間培養後、培養上清の一部(10μl)をサンプリングし、65℃で30分間インキュベート(熱処理)した後、Great EscAPeTM SEAP Chemiluminescence Detection Kit(タカラバイオ)を用いるSEAPアッセイに供した。残りの培地と細胞は、SF試薬を用いた細胞計数アッセイに供した。すなわち、SF試薬(ナカライ)を培地に添加し(10μl/ウェル)、COインキュベーター内で3時間培養後、450nmの吸光度(A450)を測定することによって相対的な細胞数を求めた。SEAP活性のデータは、「SEAP測定値/A450」を「細胞当たりSEAP活性」とし、各化合物の「細胞当たりSEAP活性」をネガティブコントロールの「細胞当たりSEAP活性」で割った値を「相対的SEAP活性」と定義し、2連サンプル間の「相対的SEAP活性」の平均値および誤差を求めた。細胞数のデータは、各化合物のSF測定値をネガティブコントロールのSF測定値で割った値を「相対的細胞数」と定義し、2連サンプル間の平均値と誤差を求めた。誤差が大きなものについては、再実験を行った。実験は、通常培養液およびDox(2μg/ml)を含む培養液のそれぞれにおいて2連サンプルを用意し、合計4つの値(Ras-ONの時の相対的細胞数と相対的SEAP活性、Ras-OFFの時の相対的細胞数と相対的SEAP活性)の平均値を得た(図3参照)。
【実施例】
【0049】
(2)結果
880種の既知生理活性低分子化合物からなるケミカルライブラリーにおいて、陽性対照のHPMよりも高い活性を示す化合物151種類が検出された。陽性対照のHPMはMEKを阻害することによって、通常約2倍SEAP活性を上昇させる薬剤である。図4に示すように、ほとんどのケースで、SEAP上昇の程度は、非形質転換細胞より形質転換細胞のほうが高かったが、30番目のクロルヘキシジンのように例外もあった。
【実施例】
【0050】
次に、これら151種類の化合物について濃度依存的な活性を調べる2次スクリーニングを行ったところ、表1に記載の34種の化合物が陽性サンプルとして選ばれた。このうち4種類はテトラサイクリン類縁物質(表1のClass欄の¶印)であり、活性の強さ(2.5~2.6倍)もDox(1.96倍)と大差がなく、Dox存在下では活性を示さないことからYM3細胞に組み込まれたTet-off-HRAS12V遺伝子の発現を抑制することによってReckプロモーターを活性化している可能性が高いと考えられた。他の30化合物を用途別に分類すると、7種類と「その他」に分けることができ(表2参照)、抗がん剤に分類される化合物が10種と最多であることが分かった(比率10/34=29%)。元のライブラリーには抗がん剤が18種類含まれている(比率18/880=2%)ことから、本スクリーニングによって約15倍の濃縮がかかったことになる。
【実施例】
【0051】
【表1】
JP0005978424B2_000002t.gif
【実施例】
【0052】
【表2】
JP0005978424B2_000003t.gif
【実施例】
【0053】
〔実施例3:濃度依存的活性の確認〕
Reck遺伝子プロモーター誘導活性が強く適用分野の異なる化合物として、disulfiram(以下「DSF」;抗アルコール剤)、doxorubicin(以下「DXR」;抗がん剤)、gramicidin(以下「Gra」;抗菌剤)、およびpyrithione sodium salt(以下「Pyt」;抗カビ薬)の4種を選択した。これらについて、再度YM3細胞に対する濃度依存的活性を確認した。
結果を図5に示した。グラフの下の表に、各化合物の濃度を示した。陰性対照(V、1%DMSO)および陽性対照(HPM、1μg/ml)のデータも示した。活性値は、平均値±SEM(n=4)で示した。
【実施例】
【0054】
〔実施例4:HT1080細胞のReck-ルシフェラーゼプロモーター活性の確認〕
pGL3-4110を安定導入したHT1080細胞に対して、DSF、Pyt、DXRまたはammonium pyrrolidine dithiocarbamate(以下、「pDTC」)を図6に記載の用量で48時間曝露した。具体的には、pGL3-4110を安定導入したHT1080細胞を96ウェルプレートに播種し(5×10個/100μl/ウェル)、24時間培養した後、1μlの化合物溶液または溶媒(DMSO)をウェルごとに添加した。48時間培養後、細胞を溶解し、Steady-Glo Luciferase Assay Kit(Promega)を用いて細胞溶解液におけるホタルルシフェラーゼ活性を測定し、細胞ごとに標準化した。
結果を図6に示した。無処理対称(NT)、陰性対照(V、1%DMSO)および陽性対照(HPM、1μg/ml)のデータも示した。活性値は、平均値±SEM(n=4)で示した。溶媒(V)に対してStudent’s t-testを行った。*はP<0.05、**はP<0.01を表す。
【実施例】
【0055】
〔実施例5:内在性RECK発現誘導活性の確認(その1)〕
5種のヒト悪性腫瘍由来細胞株(HT1080,RZmet3、A549(ヒト肺腺癌細胞)またはSW480(ヒト結腸腺癌細胞)、RM72に、DSF、DXR、GraおよびPytをそれぞれのIC50で作用させ(RZmet3およびRM72にはpDTCも用いた)、48時間あるいは72時間後に細胞を溶解し、免疫ブロット法にて内在性RECKタンパク質の発現量を検討した。具体的には、予め細胞(60mmディッシュあたりの細胞密度:HT1080およびA549は5×10個、RZmet3は1×10個、SW480は1.5×10個)播種しておき、コロニーフォーメーションアッセイで決定したIC50で各化合物を作用させた。また、陽性対処としてHPM(1μg/ml)、陰性対照として1%DMSO(溶媒)を用いた。作用時間は、HT1080、RZmet3およびRM72は48時間、A549およびSW480は72時間とした。培養終了後細胞溶解液を調製し、抗RECK抗体(5B11D12)を用いた免疫ブロットアッセイに供し、分析した。続いて、ストリッピングし、抗GAPDH抗体(6C5、Ambion)でリプロービングした。可視化するために、Enhanced Chemiluminescence kit(Millipore)を用い、二次抗体としてHRP標識抗マウスIgG-F(ab’)モノクローナル抗体(Cell Signaling)を用いた。画像はLAS-3000およびMultiGauge software(FUJIFILM)を用いて記録し、分析した。相対的なバンドの濃さは、GAPDHに基づいて標準化した後、溶媒処理した細胞の標準化後の値で割り算して求めた。
【実施例】
【0056】
結果を図7(A)~(E)に示した。(A)はHT1080細胞の結果、(B)はRZmet3細胞の結果、(C)はA549細胞の結果、(D)はSW480細胞の結果、(E)はRM72細胞の結果である。図7(A)~(E)から明らかなように、いずれの化合物もヒト悪性腫瘍由来細胞株の内在性RECKの発現を増強した。
【実施例】
【0057】
〔実施例6:内在性RECK発現誘導活性の確認(その2)〕
2次スクリーニングで選択された34種の化合物の中から、lycorine(以下「Lyc」、催嘔吐性アルカロイド)およびharmine(以下「Hr」、モノアミンオキシダーゼA)をについて、RM72細胞に対する内在性RECK発現誘導活性を確認した。具体的には、培養下のRM72細胞にIC30に相当するLyc(1.3μM)またはHr(11μM)を48時間作用させ、RECK mRNA(RT-PCR法)およびRECKタンパク質(免疫ブロット法)を調べた。相対的なバンドの濃さは、mRNAについてはHPRT1、タンパク質についてはGAPDHに基づいて標準化した後、溶媒処理した細胞の標準化後の値で割り算して求めた。
【実施例】
【0058】
結果を図8(A)、(B)に示した。(A)はRECK mRNAの結果、(B)はRECKタンパク質の結果である。図8(A)、(B)から明らかなように、mRNAレベルではLyc、Hr共にRECKの発現を上昇させたが、タンパク質レベルではHrのみが発現を亢進し、Lycは発現を低下させた。
【実施例】
【0059】
〔実施例7:in vitroでの腫瘍細胞に対するDSFの効果の確認〕
DSFの存在下または非存在下におけるRZmet3細胞の形態と挙動を、time-lapseビデオ顕微鏡を用いて調べた。具知的には、RZmet3細胞(2×10個)を35mmのガラスディッシュ(IWAKI)に播種し、24時間培養し、1%DMSO(溶媒)または10μMのDSFを含む増殖培地に交換した。さらに24時間培養後、培地を10%ウシ胎児血清と、1%DMSOまたは10μMのDSFとを含むLeibovitz’s L-15(GIBCO)に交換した。文献(Morioka Y, Monypenny J, Matsuzaki T, Shi S, Alexander DB, Kitayama H, Noda M. The membrane-anchored metalloproteinase regulator RECK stabilizes focal adhesions and anterior-posterior polarity in fibroblasts. Oncogene 2009; 28: 1454-1464.)の記載に準じて、細胞の運動性をtime-lapse顕微鏡を用いて3時間(3分間隔)記録した。移動スピードはDunnの式(Dunn GA. Characterising a kinesis response: time averaged measures of cell speed and directional persistence. Agents Actions Suppl 1983; 12: 14-33.)を用いて、時間の一連の座標(参照位置;核の中心)から計算した。統計的有意性は、Student’s T-testにより評価した。
【実施例】
【0060】
結果を図9(A)~(C)に示した。(A)はDSFの存在下または非存在下で24時間培養後のRZmet3細胞の微分干渉コントラスト画像、(B)は細胞の広がりをコントロールに対する比率で表した結果(平均値±SEMI、n=100)、(C)はランダムな遊走の相対速度の結果(平均値±SEMI、n=10)である。図9(A)~(C)から明らかなように、DSFはRZmet3細胞の平坦化と拡散化を誘導し、ランダムな遊走速度を抑制した。この結果は、RECK発現ベクターを形質転換細胞に導入した結果と一致するものであった。
【実施例】
【0061】
〔実施例8:ゼラチンザイモグラフィー〕
DSF、DXR、Gra、Pyt、pDTC、HPM、DMSO(溶媒)で処理したRM72細胞の培養上清を用いたゼラチンザイモグラフィーを行った。具体的には、RM72細胞を96ウェルプレートに播種(2×10個/ウェル)して24時間培養し、上記化合物を含む培地(DSF:16μM、DXR:210nM、Gra:32nM、Pyt:5μM、HPM:1μg/ml、pDTC:20μM)に交換して48時間培養した。その後、0.1%FBSを含む100μlDMEMに培地交換し、さらに12時間培養した。培養上清を集め、遠心分離で固形物を除き、文献(Takahashi C, Sheng Z, Horan TP, Kitayama H, Maki M, Hitomi K, Kitaura Y, Takai S, Sasahara RM, Horimoto A, Ikawa Y, Ratzkin BJ, Arakawa T, Noda M. Regulation of matrix metalloproteinase-9 and inhibition of tumor invasion by the membrane-anchored glycoprotein RECK. Proc Natl Acad Sci U S A 1998; 95: 13221-13226.)に記載の方法に準じてゼラチンザイモグラフィーで分析した。バンドの濃さはSFアッセイで測定した細胞数で標準化した。
【実施例】
【0062】
結果を図10に示した。DSF、DXR、GraおよびPytの4化合物は、培養上清中のプロMMP-9のレベルを低下させた。さらに、DSFは、プロMMP-2および成熟途中/成熟MMP-2のレベルも低下させた。
【実施例】
【0063】
〔実施例9:DSFの抗腫瘍活性および転移抑制活性の確認〕
(1)実験方法
0.1mlのPBSに懸濁したRM72細胞(3×10個)を、Balb/cヌードマウス(6週齢、雄、Charles River)の右後部脇腹の皮下に注射した。注射5日後に小腫瘍(直径約3mm)が生じたマウスを無作為に2群に分け(n=5/群)オリーブオイルに溶解したDSF(50mg/kg/day)またはオリーブオイルのみ(溶媒)を24ゲージの針を用いて腹腔内注射した。14日間の治療後、マウスに麻酔をかけ、下記の方法でバイオルミネッセンスを記録した。全身のバイオルミネッセンスを記録後、肺を切除してPBS(-)で洗浄し、バイオルミネッセンス記録に供した。腫瘍サイズ(長さ×幅×高さ)の測定は、週に1回行った。統計的有意性は、Student’s T-testにより評価した。
【実施例】
【0064】
(2)バイオルミネッセンスの記録方法
PBS(-)に溶解したd-ルシフェリンを75mg/kgの用量で、麻酔下のマウスに腹腔内注射した。バイオルミネッセンス画像は、注射5分後にIVIS Imaging System(Xenogen)で取得した(Wang S, El-Deiry WS. Requirement of p53 targets in chemosensitization of colonic carcinoma to death ligand therapy. Proc Natl Acad Sci U S A 2003; 100: 15095-15100. 、Minn AJ, Kang Y, Serganova I, Gupta GP, Giri DD, Doubrovin M, Ponomarev V, Gerald WL, Blasberg R, Massague J. Distinct organ-specific metastatic potential of individual breast cancer cells and primary tumors. J Clin Invest 2005; 115: 44-55.)。全身または単離した臓器から放出される光子を60秒間集め、積分した。画像はLiving Image software(Xenogen)を用いて分析した。
【実施例】
【0065】
(3)結果
全身および肺のバイオルミネッセンス像を図11に示した。各個体の肺転移と腫瘍サイズの分布を図12に示した。溶媒群とDSF群の腫瘍サイズの比較を図13に示した。溶媒群とDSF群の肺転移の比較を図14に示した。肺転移の程度を腫瘍サイズで標準化して対比した結果を図15に示した。なお、DSF群の全例に顕著な副作用は認められなかった。これらの結果から、DSFは弱い抗腫瘍活性と、強い転移抑制活性を有することが明らかとなった。
【実施例】
【0066】
〔実施例10:Pyt、Hr、Gra、Lycの抗腫瘍活性および転移抑制活性の確認〕
実施例9と同様のプロトコールでPyt、Hr、Gra、Lycについて抗腫瘍活性および転移抑制活性を確認した。実験は2回に分けて行い、実験1はPyt群、Hr群および溶媒群の3群を設け、実験2ではGra群、Lyc群および溶媒群の3群を設けた。被験化合物の投与量は、文献に基づいて適当と考えられた2つの量を設定した(表3、4参照)。
【実施例】
【0067】
溶媒群、Gra群およびLyc群における代表的な個体の全身および肺のバイオルミネッセンス像を図16に示した。Pyt群およびHr群の溶媒群に対する相対腫瘍サイズおよび相対肺転移を図17(A)に、Pyt群、Hr群および溶媒群の各個体の肺転移と腫瘍サイズの分布を図17(B)に、Gra群およびLyc群の溶媒群に対する相対腫瘍サイズおよび相対肺転移を図17(C)に、Gra群、Lyc群および溶媒群の各個体の肺転移と腫瘍サイズの分布を図17(D)に、それぞれ示した。実験1(Pyt群、Hr群、溶媒群)の結果を表3にまとめ、実験2(Gra群、Lyc群、溶媒群)の結果を表4にまとめた。
これらの結果から、以下の知見が得られた。なお、いずれの群においても顕著な副作用は認められなかった。
(i) Pytは低い投与量において強い抗腫瘍活性と強い転移抑制活性を有し、高い投与量においては弱い抗腫瘍活性と強い転移抑制活性を有すること。
(ii) Hrはいずれの投与量においても強い抗腫瘍活性と強い転移抑制活性を有すること。
(iii) Graはいずれの投与量においても弱い抗腫瘍活性と強い転移抑制活性を有すること。
(iv) Lycはいずれの投与量においても強い抗腫瘍活性を有し、高い投与量においては強い転移抑制活性を有し、低い投与量においては弱い転移抑制活性を有すること。
【実施例】
【0068】
【表3】
JP0005978424B2_000004t.gif
【実施例】
【0069】
【表4】
JP0005978424B2_000005t.gif
【実施例】
【0070】
以上の研究成果から、RM72細胞を用いた自然肺転移モデルは、短期間、少数の動物で確実に結果を出すことがでることが確認された。さらに、この自然肺転移モデルは、解剖することなく転移が判定できる点でも大変優れている。連日投与を必要とする治療実験では短期間で結果が出ることは決定的に重要であり、前臨床試験に新たな突破口を開く有用な実験系と考えられる。
また、Reckプロモーターを用いる化合物スクリーニング方法は、正常復帰誘導という生物活性を指標とするアプローチと、がん抑制分子であるRECKの活性化因子を探すという分子標的的なアプローチとの両方を兼ね備えている。Reckプロモーターを用いる化合物スクリーニング方法により、従来型の抗がん剤がきわめて効率良く検出できると共に、DSFに代表される毒性が弱く、転移抑制活性を持つような新たなタイプの化合物も同時に検出できることが明らかとなった。
【実施例】
【0071】
なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【受託番号】
【0072】
微生物の表示
識別の表示:RM72
受託番号:NITE BP-1110
受託日
2011年6月22日
国際受託当局
名称:独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター
住所:〒292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7(A)】
6
【図7(B)】
7
【図7(C)】
8
【図7(D)】
9
【図7(E)】
10
【図8(A)】
11
【図8(B)】
12
【図9(A)】
13
【図9(B)】
14
【図9(C)】
15
【図10】
16
【図11】
17
【図12】
18
【図13】
19
【図14】
20
【図15】
21
【図16】
22
【図17(A)】
23
【図17(B)】
24
【図17(C)】
25
【図17(D)】
26