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明細書 :蛍光共鳴エネルギー移動の原理に基づく一分子型FRETバイオセンサーのリンカー

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5802674号 (P5802674)
登録日 平成27年9月4日(2015.9.4)
発行日 平成27年10月28日(2015.10.28)
発明の名称または考案の名称 蛍光共鳴エネルギー移動の原理に基づく一分子型FRETバイオセンサーのリンカー
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C07K  14/00        (2006.01)
C12N   1/15        (2006.01)
C12N   1/19        (2006.01)
C12N   1/21        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
A01K  67/027       (2006.01)
C12M   1/00        (2006.01)
C12M   1/34        (2006.01)
C12Q   1/48        (2006.01)
FI C12N 15/00 A
C07K 14/00 ZNA
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/00 101
A01K 67/027
C12M 1/00 A
C12M 1/34 Z
C12Q 1/48 Z
請求項の数または発明の数 21
全頁数 46
出願番号 特願2012-536438 (P2012-536438)
出願日 平成23年9月26日(2011.9.26)
国際出願番号 PCT/JP2011/071891
国際公開番号 WO2012/043477
国際公開日 平成24年4月5日(2012.4.5)
優先権出願番号 2010215738
優先日 平成22年9月27日(2010.9.27)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成26年4月18日(2014.4.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
【識別番号】511031618
【氏名又は名称】LSIPファンド運営合同会社
発明者または考案者 【氏名】松田 道行
【氏名】小松 直貴
【氏名】青木 一洋
【氏名】上岡 裕治
【氏名】幸長 弘子
【氏名】稲岡 芳恵
【氏名】櫻井 敦朗
【氏名】清川 悦子
【氏名】隅山 健太
個別代理人の代理人 【識別番号】100107515、【弁理士】、【氏名又は名称】廣田 浩一
【識別番号】100107733、【弁理士】、【氏名又は名称】流 良広
【識別番号】100115347、【弁理士】、【氏名又は名称】松田 奈緒子
【識別番号】100107515、【弁理士】、【氏名又は名称】廣田 浩一
審査官 【審査官】太田 雄三
参考文献・文献 特開2004-187544(JP,A)
国際公開第02/14373(WO,A1)
英国特許出願公開第2375538(GB,A)
小松直貴 他,生細胞内でタンパク質のリン酸化反応を可視化するFRETバイオセンサーの網羅的開発,生化学,2009年 9月25日,抄録CD-ROM,4P-849
KIYOKAWA, E., et al.,Fluorescence (Forster) resonance energy transfer imaging of oncogene activity in living cells,Cancer Science,2006年 1月,Vol. 97, No. 1,p. 8-15
清川悦子 他,1.癌のFRETライブイメージング,Surgery Frontier,2011年 3月 1日,Vol. 18(1),p. 9-18
調査した分野 C12N 15/09
C07K 14/00
C12Q 1/48
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
CiNii
WPIDS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
蛍光共鳴エネルギー移動の原理に基づく一分子型FRETバイオセンサーのリンカーであって、52アミノ酸残基以上400アミノ酸残基以下を含むポリペプチドであって、全アミノ酸残基数の少なくとも45%がグリシン及びアラニンの少なくともいずれかであり、下記(i)及び(ii)のいずれかを満たすことを特徴とするリンカー
(i)全アミノ酸残基数の少なくとも95%がグリシン、セリン、スレオニン及びアラニンであり、全アミノ酸残基数の35%から65%がグリシンであり、全アミノ酸残基数の10%から40%がセリン及びスレオニンの少なくともいずれかであり、全アミノ酸残基数の10%から40%がアラニンであり、全アミノ酸配列の少なくとも88%がSAGG及びGGASのいずれかのアミノ酸配列の繰り返しからなるリンカー、
(ii)全アミノ酸残基数の少なくとも10%がアルギニン及びグルタミン酸の少なくともいずれかであり、全アミノ酸残基数の少なくとも95%がグリシン、アルギニン、グルタミン酸及びアラニンであり、全アミノ酸残基数の4%から30%がグリシンであり、全アミノ酸残基数の5%から30%がアルギニンであり、全アミノ酸残基数の5%から30%がグルタミン酸であり、全アミノ酸残基数の30%から60%がアラニンであり、全アミノ酸配列の少なくとも89%がEAAARのアミノ酸配列の繰り返しからなるリンカー
【請求項2】
84アミノ酸残基以上を含むポリペプチドである請求項1に記載のリンカー。
【請求項3】
下記(i)を満たす請求項1に記載のリンカー、
(i)全アミノ酸残基数の少なくとも95%がグリシン、セリン、スレオニン及びアラニンであり、全アミノ酸残基数の35%から65%がグリシンであり、全アミノ酸残基数の10%から40%がセリン及びスレオニンの少なくともいずれかであり、全アミノ酸残基数の10%から40%がアラニンであり、全アミノ酸配列の少なくとも88%がSAGG及びGGASのいずれかのアミノ酸配列の繰り返しからなるリンカー。
【請求項4】
SAGG及びGGASのいずれかのアミノ酸配列の繰り返し単位を13個以上100個以下含む請求項3に記載のリンカー。
【請求項5】
SAGG及びGGASのいずれかのアミノ酸配列の繰り返し単位を12個以上54個以下含む請求項3に記載のリンカー。
【請求項6】
配列番号:12、配列番号:15、配列番号:18、配列番号:23、及び配列番号:26のいずれかで表されるアミノ酸配列からなる請求項3から5のいずれかに記載のリンカー。
【請求項7】
下記(ii)を満たす請求項1に記載のリンカー、
(ii)全アミノ酸残基数の少なくとも10%がアルギニン及びグルタミン酸の少なくともいずれかであり、全アミノ酸残基数の少なくとも95%がグリシン、アルギニン、グルタミン酸及びアラニンであり、全アミノ酸残基数の4%から30%がグリシンであり、全アミノ酸残基数の5%から30%がアルギニンであり、全アミノ酸残基数の5%から30%がグルタミン酸であり、全アミノ酸残基数の30%から60%がアラニンであり、全アミノ酸配列の少なくとも89%がEAAARのアミノ酸配列の繰り返しからなるリンカー。
【請求項8】
配列番号:45及び配列番号:46のいずれかで表されるアミノ酸配列からなる請求項7に記載のリンカー。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載のリンカーをコードすることを特徴とする遺伝子。
【請求項10】
請求項1から8のいずれかに記載のリンカーをコードする遺伝子を含むことを特徴とする発現ベクター。
【請求項11】
請求項10に記載の発現ベクターを保持してなることを特徴とする形質転換された細胞。
【請求項12】
請求項10に記載の発現ベクターを保持してなることを特徴とするトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項13】
蛍光共鳴エネルギー移動の原理に基づく一分子型FRETバイオセンサーであって、センサー領域、リガンド領域、アクセプター蛍光タンパク質領域、ドナー蛍光タンパク質領域、及び、該センサー領域と該リガンド領域とを連結するリンカー領域を有する融合タンパク質であり、該リンカー領域が、請求項1から8のいずれかに記載のリンカーからなることを特徴とする一分子型FRETバイオセンサー。
【請求項14】
該ドナー蛍光タンパク質がYPetである請求項13に記載の一分子型FRETバイオセンサー。
【請求項15】
請求項13及び14のいずれかに記載の一分子型FRETバイオセンサーをコードすることを特徴とする遺伝子。
【請求項16】
請求項15に記載の一分子型FRETバイオセンサーをコードする遺伝子を含むことを特徴とする発現ベクター。
【請求項17】
請求項16に記載の発現ベクターを保持してなることを特徴とする形質転換された細胞。
【請求項18】
請求項16に記載の発現ベクターを保持してなることを特徴とするトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項19】
請求項13に記載の一分子型FRETバイオセンサーを用いてFRETを検出する工程を含み、セリンスレオニンリン酸化酵素活性、チロシンリン酸化酵素活性、及び、低分子量GTP結合タンパク質活性のいずれかを測定することを特徴とする測定方法。
【請求項20】
請求項17に記載の形質転換された細胞または請求項18に記載のトランスジェニック非ヒト動物を用いてFRETを検出する工程を含み、セリンスレオニンリン酸化酵素活性、チロシンリン酸化酵素活性、及び、低分子量GTP結合タンパク質活性のいずれかを測定することを特徴とする測定方法。
【請求項21】
(a)請求項17に記載の形質転換された細胞と被検物質とを接触させる工程、及び
(b)FRETを検出することによりセリンスレオニンリン酸化酵素活性、チロシンリン酸化酵素活性、及び、低分子量GTP結合タンパク質活性のいずれかの変化を検出する工程、
を含む、セリンスレオニンリン酸化酵素活性、チロシンリン酸化酵素活性、及び、低分子量GTP結合タンパク質活性のいずれかの調節物質のスクリーニング方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光共鳴エネルギー移動の原理に基づく一分子型FRETバイオセンサーを最適化するためのリンカー、該リンカーを含むバイオセンサー、該リンカー又は一分子型FRETバイオセンサーをコードする遺伝子、該リンカー又は一分子型FRETバイオセンサーを含む発現ベクター、該発現ベクターを有する形質転換された細胞およびトランスジェニック非ヒト動物、前記バイオセンサーを用いる測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光共鳴エネルギー移動(Fluorescence resonance energy transfer、以下FRETと称することがある)の原理と蛍光蛋白とを利用したバイオセンサーが生命科学の分野において急速に広がっている(例えば非特許文献1-4参照)。
【0003】
FRETとは、励起状態にある蛍光分子(ドナー:エネルギー供与体)からごく近傍の蛍光分子(アクセプター:エネルギー受容体)へ励起エネルギーが移動する現象のことである。FRETを利用したバイオセンサーの普及には、緑色蛍光蛋白(GFP)の色変異体の出現やそれらの改良が大きく寄与している。現在、多くの場合、GFP変異体であるCFP(シアン蛍光蛋白)とYFP(黄色蛍光蛋白)とがドナーおよびアクセプター蛍光タンパク質として利用されている。
【0004】
蛍光タンパク質を用いたFRETバイオセンサーの系は、二分子型FRETバイオセンサー(図1)と一分子型FRETバイオセンサー(図2)に大別される。二分子型FRETバイオセンサーは分子間相互作用を検出するものであり、一分子型FRETバイオセンサーは分子の構造変化を検出するものである(例えば非特許文献1-4参照)。
【0005】
このうち、1分子型のバイオセンサー(一分子型FRETバイオセンサー)は、イオン、糖、脂質などの低分子の定量や、低分子量GTP結合タンパク、リン酸化酵素などの活性測定に用いられるものが開発されている(例えば非特許文献4参照)。
しかし、このバイオセンサー作成のためには、少なくとも3つ、多くの場合4つ以上のタンパク質ドメインを結合する必要があり、それらを単に結合しただけでは通常、十分な感度を有する一分子型FRETバイオセンサーを作成することはできない。すなわち、このような一分子型FRETバイオセンサーを作成するためには、i)ドナー蛍光タンパク質の発光スペクトラムとアクセプター蛍光タンパク質の吸光スペクトラムとの重なり、ii)ドナー蛍光タンパク質とアクセプター蛍光タンパク質間の距離、iii)ドナー蛍光タンパク質の発光モーメントとアクセプター蛍光タンパク質の吸光モーメントの配向の3因子を考慮しなければならない。また、蛍光タンパク質を他のタンパク質と融合する場合、他のタンパク質と融合することがストレスとなって蛍光タンパク質のミスフォールディングが生じ、その結果、発色団形成の効率が低下し、無蛍光となる可能性をも考慮しなければならない。このように、ドナー蛍光タンパク質とアクセプター蛍光タンパク質を利用して両者間にFRETの良好な発現を生じさせるには厳格な条件が存在し、両者間の配置等に一定の規則も見出されていないため、作成する一分子型FRETバイオセンサーごとに、それぞれのタンパク質ドメインの長さや、ドメイン間のリンカー配列などをさまざまに変更させて、至適なものを作成することが行われているが、これには、多くの試行錯誤や複雑高度の実験等を要し、十分な感度を有する一分子型FRETバイオセンサーの開発は非常な困難を伴うものであった。
【0006】
各ドメインをつなぐリンカーとしては、9アミノ酸のグリシン、セリン、スレオニンからなるものや(例えば非特許文献5参照)、72アミノ酸のグリシンリンカー(例えば非特許文献6参照)が報告されているが、十分に最適化しているとはいえなかった。また、これらのリンカーにおいては、多くの種類の一分子型FRETバイオセンサーに共通して最適化を図れるものではなかった。
【先行技術文献】
【0007】

【非特許文献1】Aoki, K. and M. Matsuda. 2009. Visualization of small GTPase activity with fluorescence resonance energy transfer-based biosensors. Nature Protocol 4:1623-1631.
【非特許文献2】Giepmans, B. N., S. R. Adams, M. H. Ellisman, and R. Y. Tsien. 2006. The fluorescent toolbox for assessing protein location and function. Science 312:217-224.
【非特許文献3】Jares-Erijman, E. A. and T. M. Jovin. Imaging molecular interactions in living cells by FRET microscopy. 2006. Curr.Opin.Chem.Biol. 10:409-416.
【非特許文献4】Kiyokawa, E., S. Hara, T. Nakamura, and M. Matsuda. 2006. Fluorescence (Forster) resonance energy transfer imaging of oncogene activity in living cells. Cancer Sci. 97:8-15.
【非特許文献5】Itoh, R. E., K. Kurokawa, Y. Ohba, H. Yoshizaki, N. Mochizuki, and M. Matsuda. 2002. Activation of Rac and Cdc42 video-imaged by FRET-based single-molecule probes in the membrane of living cells. Mol.Cell.Biol. 22:6582-6591.
【非特許文献6】Harvey, C. D., A. G. Ehrhardt, C. Cellurale, H. Zhong, R. Yasuda, R. J. Davis, and K. Svoboda. 2008. A genetically encoded fluorescent sensor of ERK activity. Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来における問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。すなわち、本発明は、蛍光共鳴エネルギー移動の原理に基づく一分子型FRETバイオセンサーを最適化し高感度の一分子型FRETバイオセンサーを得るために広く使用することができるリンカー(以下、本明細書においては、本発明のリンカーをEV(Enhanced visualization)リンカーと称することがある)、該リンカーを含むバイオセンサー、該リンカー又はバイオセンサーをコードする遺伝子、該リンカー又はバイオセンサーを含む発現ベクター、該発現ベクターを有する形質転換された細胞およびトランスジェニック非ヒト動物、および、前記リンカーを含むバイオセンサーを用いるセリンスレオニンリン酸化酵素活性、チロシンリン酸化酵素活性、低分子量GTP結合タンパク質の活性を測定するのに好適な前記一分子型FRETバイオセンサーを用いる測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために鋭意検討したところ、一定以上の長さを有するリンカーが前記問題を解決し、蛍光共鳴エネルギー移動の原理に基づく一分子型FRETバイオセンサーを最適化し高感度の一分子型FRETバイオセンサーを得るために広く使用することができるリンカーとなることを見出した。さらに、特定のアミノ酸を一定の割合又は一定の配列の繰り返しとして含むことにより、最適化の効果が高まることを見出した。
すなわち、本発明は、一定以上の長さを有するリンカーを用いることで、一分子型FRETバイオセンサーのゲインを低くする要因である基底状態のFRETを、著しく低減させることができるという知見に基づくものであり、一分子型FRETバイオセンサー作成に汎用的に用いることが出来るものである。本発明のリンカーは、前記一分子型FRETバイオセンサーのゲインを増大させるために開発されたものであり、その技術的価値は非常に大きい。
【0010】
即ち、前記課題を解決するための手段は以下のとおりである。
<1> 蛍光共鳴エネルギー移動の原理に基づく一分子型FRETバイオセンサーのリンカーであって、52アミノ酸残基以上400アミノ酸残基以下を含むポリペプチドであって、全アミノ酸残基数の少なくとも45%がグリシン及びアラニンの少なくともいずれかであり、アラニンを全アミノ酸残基数の少なくとも10%含むことを特徴とするリンカーである。
<2> 84アミノ酸残基以上を含むポリペプチドである前記<1>に記載のリンカーである。
<3> セリン及びスレオニンの少なくともいずれかを全アミノ酸残基数の少なくとも10%含む前記<1>又は<2>に記載のリンカーである。
<4> 全アミノ酸残基数の少なくとも95%がグリシン、セリン、スレオニン及びアラニンからなり、グリシンを35から65%、セリン及びスレオニンの少なくともいずれかを10から40%、アラニンを10から40%含む前記<3>に記載のリンカーである。
<5> 全アミノ酸配列の少なくとも95%がSAGG及びGGASのいずれかのアミノ酸配列の繰り返しからなり、SAGG及びGGASのいずれかのアミノ酸配列の繰り返し単位を13個以上100個以下含むことを特徴とする前記<4>に記載のリンカーである。
<6> アルギニン及びグルタミン酸の少なくともいずれかを全アミノ酸残基数の少なくとも10%含む前記<1>又は<2>に記載のリンカーである。
<7> 全アミノ酸残基数の少なくとも95%がグリシン、アルギニン、グルタミン酸及びアラニンからなり、グリシンを4から30%、アルギニンを5から30%、グルタミン酸を5から30%、及びアラニンを30から60%含む前記<6>に記載のリンカーである。
<8> 前記<1>から<7>のいずれかに記載のリンカーをコードすることを特徴とする遺伝子である。
<9> 前記<1>から<7>のいずれかに記載のリンカーをコードする遺伝子を含むことを特徴とする発現ベクターである。
<10> 前記<9>に記載の発現ベクターを保持してなることを特徴とする形質転換された細胞である。
<11> 前記<9>に記載の発現ベクターを保持してなることを特徴とするトランスジェニック非ヒト動物である。
<12> 蛍光共鳴エネルギー移動の原理に基づく一分子型FRETバイオセンサーであって、センサー領域、リガンド領域、アクセプター蛍光タンパク質領域、ドナー蛍光タンパク質領域、及び、該センサー領域と該リガンド領域とを連結するリンカー領域を有する融合タンパク質であり、該リンカー領域が、前記<1>から<7>のいずれかに記載のリンカーからなることを特徴とする一分子型FRETバイオセンサーである。
<13> 該ドナー蛍光タンパク質がYPetである前記<12>に記載の一分子型FRETバイオセンサーである。
<14> 前記<12>及び<13>のいずれかに記載の一分子型FRETバイオセンサーをコードすることを特徴とする遺伝子である。
<15> 前記<14>に記載の一分子型FRETバイオセンサーをコードする遺伝子を含むことを特徴とする発現ベクターである。
<16> 前記<15>に記載の発現ベクターを保持してなることを特徴とする形質転換された細胞である。
<17> 前記<15>に記載の発現ベクターを保持してなることを特徴とするトランスジェニック非ヒト動物である。
<18> 前記<12>に記載の一分子型FRETバイオセンサーを用いてFRETを検出する工程を含み、セリンスレオニンリン酸化酵素活性、チロシンリン酸化酵素活性、及び、低分子量GTP結合タンパク質活性のいずれかを測定することを特徴とする測定方法である。
<19> 前記<16>に記載の形質転換された細胞または前記<13に記載のトランスジェニック非ヒト動物を用いてFRETを検出する工程を含み、セリンスレオニンリン酸化酵素活性、チロシンリン酸化酵素活性、及び、低分子量GTP結合タンパク質活性のいずれかを測定することを特徴とする測定方法である。
<20> (a)前記<16>に記載の形質転換された細胞と被検物質とを接触させる工程、および
(b)FRETを検出することによりセリンスレオニンリン酸化酵素活性、チロシンリン酸化酵素活性、及び、低分子量GTP結合タンパク質活性のいずれかの変化を検出する工程、
を含む、セリンスレオニンリン酸化酵素活性、チロシンリン酸化酵素活性、及び、低分子量GTP結合タンパク質活性のいずれかの調節物質のスクリーニング方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のリンカーによれば、蛍光共鳴エネルギー移動の原理に基づく一分子型FRETバイオセンサーを最適化し高感度の一分子型FRETバイオセンサーを得ることができる。また、本発明の一分子型FRETバイオセンサーによれば、非侵襲的なセリンスレオニンリン酸化酵素活性、チロシンリン酸化酵素活性、低分子量GTP結合タンパク質の活性の測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、二分子FRETバイオセンサーの基本構造ならびに作動原理を示す。AとBの分子間相互作用を検出するために、AにFRETドナー蛍光タンパク質(CFPを例示してある)を、BにFRETアクセプター蛍光タンパク質(YFPを例示してある)を融合している。AとBが結合すると、FRETドナー蛍光タンパク質がFRETアクセプター蛍光タンパク質に近接し、FRETによりFRETアクセプター蛍光タンパク質からの蛍光を検出できる。矢印付波線は、励起光ならびに蛍光を示している。
【図2】図2は、一分子FRETバイオセンサーの基本構造ならびに作動原理を示す。Aという分子が構造変化を起こすことが知られている場合、二箇所にFRETドナー蛍光タンパク質(CFPを例示してある)とFRETアクセプター蛍光タンパク質(YFPを例示してある)を融合させる。A分子の構造変化により、FRETの効率が変化する。矢印付波線は、励起光ならびに蛍光を示している。
【図3】図3は、センサー領域とリガンド領域を含むFRETを利用した一分子型FRETバイオセンサーの原理を示す。FRETドナー蛍光タンパク質(CFPを例示してある)とFRETアクセプター蛍光タンパク質(YFPを例示してある)の間に、センサー領域ならびにリガンド領域をリンカー配列を介して結合する。センサー領域は、リン酸化酵素の活性化や、GTP交換因子の活性化など、様々な細胞内環境の変化に対応して構造が変化する部分を含む。リガンド領域は、該センサー領域の構造変化に対応して結合するドメインである。センサー領域の構造が変化するとリガンド領域が結合する。これに伴い、FRETドナー蛍光タンパク質がFRETアクセプター蛍光タンパク質に近接し、FRETによりFRETアクセプター蛍光タンパク質からの蛍光を検出できる。
【図4】図4は、センサー領域とリガンド領域を含むFRETを利用した一分子型FRETバイオセンサーにおけるリンカー領域の役割を、PKAに対するバイオセンサーEevee-PKAを例に示す。センサー領域は、PKAにより特異的にリン酸化される基質配列を含む。リガンド領域は、該リン酸化ペプチドに結合することが知られているRad1タンパク質のFHA1ドメインである。センサー領域の基質配列がPKAによりリン酸化されるとリガンド領域が結合する。これに伴い、FRETドナー蛍光タンパク質(CFP)がFRETアクセプター蛍光タンパク質(YFP)に近接し、FRETによりFRETアクセプター蛍光タンパク質からの蛍光を検出できる。
【図5】図5は、EVリンカーの長さとゲインの関係を示す。HeLa細胞に様々な長さのEVリンカーを有するEevee-PKAを発現させ、24時間後に、1mMのジブチリルcAMPにてPKAを活性化した。刺激前と刺激後30分のFRET/CFP蛍光比を測定し、刺激前に対しての増加の割合をゲインとした。
【図6】図6は、YFPアクセプタータンパク質をYPet変異体にすることで、さらにEVリンカーの効果が顕著になることを示す。YPetと様々な長さのEVリンカーを有するEevee-PKAを作成した。次に、HeLa細胞にこれらのEevee-PKAを発現させ、24時間後に、1mMのジブチリルcAMPにてPKAを活性化した。刺激前と刺激後30分のFRET/CFP蛍光比を測定し、刺激前に対しての増加の割合をゲインとした。
【図7A】図7は、EVリンカーの効果が基底状態のFRETを低下させることによることを示す。図7Aは、Eevee-PKA-52をHeLa細胞に発現させ、共焦点レーザー顕微鏡FV1000にて、438nmのレーザーで励起し、各波長における蛍光強度を測定した結果である。
【図7B】図7Bは、Eevee-PKA-84について、図7Aと同様に測定した結果である。
【図7C】図7Cは、Eevee-PKA-116について、図7Aと同様に測定した結果である。基底状態におけるFRETを示す530nmの蛍光がEVリンカーを長くすることで著明に低下することがわかる。
【図8A】図8Aは、EVリンカーによる基底状態のFRET効率の低下は、リン酸化の低下に由来することを示す。図7と同様に、Eevee-PKAをHeLa細胞に発現させた。刺激前サンプル、1mM ジブチリルcAMPを15分間処理したもの、1mM ジブチリルcAMPと50nMカリクリンとを15分間処理したものに分けて、50μM PhosTagを含む6%SDSポリアクリルアミドゲルにて分離した。その後、抗GFP抗体マウスモノクローナル抗体で免疫ブロッティングした。EVリンカーが短くなるにつれ、基底状態のリン酸化が低下するのがわかる。
【図8B】図8Bは、図8Aのリン酸化の割合をグラフに表したものである。
【図9A】図9Aは、PIP結合ドメインを有するAktバイオセンサー(Eevee-Akt-84)の構造を示す。84a.a.と記載してあるのが、EV84リンカーである。AktPHは、Aktタンパク質のPHドメインを、NESは、核外移行シグナルを示している。
【図9B】図9Bは、PIP結合ドメインを有するAktバイオセンサー(Eevee-Akt-116)の構造を図9Aと同様に示す。116a.a.と記載してあるのが、EV116リンカーである。
【図10】図10は、EVリンカーによる基底状態のFRETの低下はAktのバイオセンサーについても観察されることを示す。Eevee-AktをCOS7細胞に発現させ、FRET/CFP蛍光比を測定した。5個以上の細胞について測定し、平均値とともに表示した。EVリンカーが116のものが72Glyリンカーと比較して、低い基底状態のFRETを有していることが分かる。
【図11A】図11は、Eevee-ERKによるERKの活性測定をグリシンリンカーを有する場合との比較において示した図である。図11Aは、HeLa細胞にEV116リンカーを含むEevee-ERK(3560NES)を発現させ、10ng/mlのEGFで刺激して、実測値のFRET/CFP蛍光比をY軸にとったものである。
【図11B】図11Bは、上記FRET/CFP蛍光比を刺激前の状態に標準化したものを示す。
【図11C】図11Cは、グリシンリンカーを有するEKAR-1667nes(72Glyリンカー)(1667NES)についての結果を図11Aと同様に示したものである。
【図11D】図11Dは、上記FRET/CFP蛍光比を刺激前の状態に標準化したものを示す。実測値のFRET/CFPは、2.2程度が上限であるので、グリシンリンカーを有するEKAR-1667nesよりもEV116リンカーを含むEevee-ERK(図11A及びB参照)が、広いゲインを有するのは、低い基底状態のFRET効率によることを示している。
【図12】図12は、EVリンカーを有するEGFR/AblのバイオセンサーPicchu-734の反応性を示す。HeLa細胞にPicchu-734を発現させ、10ng/mlのEGFで刺激した。EVリンカーを有しないPicchu-730よりも広いゲインを有することがわかる。
【図13A】図13Aは、EVリンカーを有するRaichu-Rac1(2246X)によるRac1活性の測定を示す。HeLa細胞にEVリンカーを持たないpRaichu-Rac1(2241X)およびEVリンカーを有するpRaichu-Rac1(2246X)をトランスフェクトして、48時間後に実施例2に記載の方法でイメージングを行った。共焦点レーザー顕微鏡FV1000にて、438nmのレーザーで励起し、各波長における蛍光強度を測定した図である。基底状態におけるFRETを示す530nmの蛍光がEVリンカーを長くすることで著明に低下することがわかる。
【図13B】図13Bは、図13Aのイメージングにおいて、イメージング開始10分後に上皮細胞増殖因子(EGF)を25ng/mlになるように投与し、さらにイメージングを続けた。正規化したFRET/CFPをグラフとして表示している。EVリンカーを有するRaichu-Rac1(2246X)のほうが、高い反応性を有していることがわかる。
【図14A】図14Aは、Raichu-2246Xを安定に発現するラットC6細胞を24時間にわたってタイムラプスイメージし、FRET/CFP効率(Rac1活性と記載してある)を測定したデータを示す。矢印は細胞分裂を示す。EVリンカーを発現する細胞においてFRETが長時間にわたり安定的に測定できることを示している。
【図14B】図14Bは、上記と同じ条件で撮影した別の細胞の結果である。
【図14C】図14Cは、上記と同じ条件で撮影した別の細胞の結果である。
【図14D】図14Dは、上記と同じ条件で撮影した別の細胞の結果である。
【図15A】図15Aは、EVリンカーを有するRaichu-Cdc42をCOS7細胞に発現させた。基底状態のFRET効率を比較し、EVリンカーが顕著に基底状態のFRETを低減させることを示す。
【図15B】図15Bは、EVリンカーを有するRaichu-Cdc42について、イメージング開始10分後に上皮細胞増殖因子(EGF)を25ng/mlになるように投与し、さらにイメージングを続けたときの、正規化したFRET/CFPをグラフとして表示している。
【図15C】図15Cは、EVリンカーを有さないRaichu-Cdc42について、図15Bと同様に、正規化したFRET/CFPをグラフとして表示している。EVリンカーを有するRaichu-Cdc42のほうが、EVリンカーを有さないRaichu-Cdc42より高い反応性を有していることがわかる。
【図16A】図16Aは、EVリンカーを有するRaichu-Ras(3705X)をHeLa細胞に発現させ、10ng/mlのEGFで刺激し、1分おきにタイムラプス画像を取得した図である。EVリンカーを有しないRaichu-HRas(図16B)と比較して、EVリンカーを有するRaichu-HRasは早期にかつ強く活性化を検出できていることがわかる。
【図16B】図16Bは、EVリンカーを有しないRaichu-HRasについて図16Aと同様に画像を取得した図である。
【図17】図17は、Eevee-ERKを発現するトランスジェニックマウスの胎児の矢状断を蛍光顕微鏡で撮影し、FRETの画像を取ったものである。基底状態から前後40%を擬似カラーで示している(暖色が高いFRETを示す)。個体内でのERKの活性分布を見ることができる。
【図18A】図18はHeLa細胞にEevee-ERKを安定発現させたものを96ウェル培養皿にて植え、段階希釈した阻害剤を入れたのちに、25ng/mlのEGFで刺激した結果である。30個以上の細胞について、ERKの活性を自動測定し、平均したものをグラフ化した。図18AはDMSOのコントロールを表す。
【図18B】図18Bは、阻害剤としてEGF受容体阻害剤(AG1478)を用いた場合を表す。
【図18C】図18Cは、阻害剤として、MEK阻害剤(PD15035)を用いた場合を表す。
【図18D】図18Dは、阻害剤として、BRAFの阻害剤(PLX4720)
【図18E】図18Eは、阻害剤として、MEK阻害剤(PD184351)を用いた場合を表す。
【図18F】図18Fは、阻害剤として、ホスファチジルイノシトール3リン酸キナーゼの阻害剤(LY294002)、を用いた場合を表す。
【図18G】図18Gは、阻害剤として、RSKの阻害剤(BI-D1870)、を用いた場合を表す。
【図18H】図18Hは、阻害剤として、JNKの阻害剤(JNK inhibitor VIII)を用いた場合を表す。EGF依存性のERK活性化が、HeLa細胞においてはEGF受容体およびMEKの阻害剤によって効果的に抑制されることを示している。
【図19】図19は、Eevee-PKA(3536NES)を発現するトランスジェニックマウスに、ホスホジエステラーゼの阻害剤であるテオフィリンおよび環状アデノシン三リン酸のアナログであるアクトシンをそれぞれ静注し、PKAの活性を測定した結果である。筋間神経細胞、腸管平滑筋、血管平滑筋のそれぞれにおけるPKAの活性変化がリアルタイムに可視化できる。
【図20】図20は、図19の画像をグラフ化したものである。
【図21】図21は、グリシン含量を減らしたEV3x8およびEV6x4リンカーを用いたバイオセンサーもEV116リンカーを用いたバイオセンサーとほぼ同等の効果を有することを示す図である。図7と同様にEevee-PKA-3x8,Eevee-PKA-4x6、Eevee-PKA-116をHeLa細胞に発現させ、共焦点レーザー顕微鏡FV1000にて、438nmのレーザーで励起し、各波長における蛍光強度を測定した。EV3x8およびEV4x6はEV116リンカーに匹敵する効能を有することがわかる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。
本発明のリンカー(EVリンカーと称する)は、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)の原理に基づく一分子型FRETバイオセンサーのリンカーであって、52アミノ酸残基以上400アミノ酸残基以下を含むポリペプチドであって、全アミノ酸残基数の少なくとも45%がグリシン及びアラニンの少なくともいずれかであり、アラニンを全アミノ酸残基数の少なくとも10%含むことを特徴とするリンカーである。

【0014】
本発明のリンカーは、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)の原理に基づく一分子型FRETバイオセンサー、すなわち、一分子型FRETバイオセンサー中に構成要素のひとつとして連結されて用いられるものである。本発明において、FRETとは、励起状態にある蛍光分子(ドナー:エネルギー供与体)からごく近傍の蛍光分子(アクセプター:エネルギー受容体)へ励起エネルギーが移動する現象のことをいう。一分子型FRETバイオセンサーは、一般にドナー蛍光タンパク質、アクセプター蛍光タンパク質、センサードメイン、リガンドドメインの4つの領域を有するが、リンカーはそれらの2つの領域の間をつないで連結されるものである。

【0015】
図3は一分子型FRETバイオセンサー中に用いられる本発明のリンカーの例示である。CFPをドナー蛍光タンパク質の一例として、YFPをアクセプター蛍光タンパク質の一例として、本発明の具体的説明を行なうが、後述するようにドナー蛍光タンパク質及びアクセプター蛍光タンパク質はこれに限られない。センサードメインとリガンドドメインは、基底状態では空間的に離れた位置にあり、この状態では、ドナー蛍光タンパク質とアクセプター蛍光タンパク質もまた空間的に離れた位置にあり、基底状態のFRET効率は低い。活性化状態においては、リン酸化、GTP結合など様々なシグナルにより誘導されるセンサー領域「A」の構造変化を構造認識ドメインからなるリガンド領域「B」が認識して結合することにより、ドナーとアクセプターが近接し、これにより、FRET効率が上昇する。
ここで、FRET効率とは、ドナー蛍光タンパク質を励起して得られる蛍光強度の、アクセプター蛍光タンパク質存在下における減少割合を指すが、本明細書においては、一分子型FRETバイオセンサーをドナー蛍光タンパク質の励起波長で照射した場合の、ドナー蛍光タンパク質の蛍光強度とアクセプター蛍光タンパク質の蛍光強度との比(蛍光強度比)を便宜的に用いる(非特許文献1及び3参照)。以下、本明細書において記載する参照文献は参照により、その全教示が本明細書中に取り込まれる。

【0016】
本明細書に係るEVリンカーは、少なくとも52アミノ酸以上400アミノ酸以下の長さを有し、安定した3次構造をとらないポリペプチドである。52アミノ酸未満であると、基底状態でのFRET効率が高くなりゲインを大きく取れず、400アミノ酸を超えると、FRETバイオセンサーの分子量が大きくなり発現量が低下する等の問題が生じる。前記ゲインを大きく取る観点からは、84アミノ酸以上であることがより好ましく、116アミノ酸以上であることが特に好ましい。前記分子量を抑える観点からは244アミノ酸以下であることがより好ましい。前記観点から、リンカーの長さとしては、84アミノ酸以上244アミノ酸以下であることが特に好ましい。

【0017】
本発明のEVリンカーは、安定した3次構造をとらないポリペプチドであり、全アミノ酸残基数の少なくとも45%がグリシン及びアラニンの少なくともいずれかであり(即ち、グリシン残基とアラニン残基の合計が全アミノ酸残基数の少なくとも45%を占める意である)、アラニンを全アミノ酸残基数の少なくとも10%含むことを特徴とするリンカーである。全アミノ酸残基数の少なくとも45%がグリシン及びアラニンの少なくともいずれかからなることは、可動性が大きいポリペプチドを作成する観点から重要であり、アラニンを全アミノ酸残基数の少なくとも10%含むことにより、グリシンのみのリンカーよりゲインを大きくとることができる。グリシン及びアラニン以外のアミノ酸残基としては安定した3次構造をとらないことに配慮すれば、他のアミノ酸を含むことができる。安定した三次構造をとらないポリペプチドを作成する観点から、セリン、スレオニン、アルギニン、グルタミン酸などを特に好適に含むことができる。
例えば、アラニン及びグリシンに加えて、セリン及びスレオニンの少なくともいずれかを全アミノ酸残基数の少なくとも10%含むポリペプチドが好ましい。このようなポリペプチドとしては、全アミノ酸残基の数の少なくとも95%がGly、Ser、Thr、及び、Alaからなり、Glyを35から65%、Ser及びThrの少なくともいずれかを10から40%、Alaを10から40%含むポリペプチドが挙げられる。これらのアミノ酸残基は、全長にわたって均一に分布させることが好ましく、中でも、Ser-Ala-Gly-Gly、その逆配列であるGly-Gly-Ala-Ser、または、Gly-Ala-Gly-Serを繰り返し含む配列が好ましい。このような配列としては、例えば、Ser-Ala—Gly-Gly、Gly-Gly-Ala-Ser、または、Gly-Ala-Gly-Serの繰り返し単位を全アミノ酸残基の数の95%以上含み、前記基本配列の他にGly、Ser、Ala、Thr等が全体の5%未満の範囲で配列中に挿入されているような配列も好ましい。さらに、上記配列において、Serと性質の非常に近いアミノ酸であるThrをSerと置換した配列もまた好ましい。前記、アミノ酸配列の繰り返し単位を13個以上100個以下含むことが好ましい。このようなリンカーの具体例としては次のものが挙げられる。
EV52リンカー(配列番号:12)
SAGGSAGGSAGGSAGGSAGGSGSAGGSAGGSTSAGGSAGGSAGGSAGGSAGG
EV84リンカー(配列番号:15)
SAGGSAGGSAGGSAGGSAGGSGSAGGSAGGSTSAGGSAGGSAGGSAGGSAGGSGSAGGSAGGSTSAGGSAGGSAGGSAGGSAGG
EV116リンカー(配列番号:18)
SAGGSAGGSAGGSAGGSAGGSGSAGGSAGGSTSAGGSAGGSAGGSAGGSAGGSGSAGGSAGGSTSAGGSAGGSAGGSAGGSAGGSGSAGGSAGGSTSAGGSAGGSAGGSAGGSAGG
EV180リンカー(配列番号:23)
SAGGSAGGSAGGSAGGSAGGSGSAGGSAGGSTSAGGSAGGSAGGSAGGSAGGSGSAGGSAGGSTSAGGSAGGSAGGSAGGSAGGSGSAGGSAGGSTSAGGSAGGSAGGSAGGSAGGSGSAGGSAGGSTSAGGSAGGSAGGSAGGSAGGSGSAGGSAGGSTSAGGSAGGSAGGSAGGSAGG
EV244リンカー(配列番号:26)
SAGGSAGGSAGGSAGGSAGGSGSAGGSAGGSTSAGGSAGGSAGGSAGGSAGGSGSAGGSAGGSTSAGGSAGGSAGGSAGGSAGGSGSAGGSAGGSTSAGGSAGGSAGGSAGGSAGGSGSAGGSAGGSTSAGGSAGGSAGGSAGGSAGGSGSAGGSAGGSTSAGGSAGGSAGGSAGGSAGGSGSAGGSAGGSTSAGGSAGGSAGGSAGGSAGGSGSAGGSAGGSTSAGGSAGGSAGGSAGGSAGG
また、アラニン及びグリシンに加えて、アルギニン及びグルタミン酸の少なくともいずれかを全アミノ酸残基数の少なくとも10%含むポリペプチドも好ましい。このようなポリペプチドとしては、全アミノ酸残基数の少なくとも95%がグリシン、アルギニン、グルタミン酸及びアラニンからなり、グリシンを4から30%、アルギニンを5から30%、グルタミン酸を5から30%、及びアラニンを30から60%含むポリペプチドが挙げられる。これらのアミノ酸残基は、全長にわたって均一に分布させることが好ましく、例えば下記のような配列が挙げられる。
EV3x8リンカー(配列番号:45)
EAAAREAAAREAAARGGEAAAREAAAREAAARGGEAAAREAAAREAAARGGEAAAREAAAREAAARGGEAAAREAAAREAAARGGEAAAREAAAREAAARGGEAAAREAAAREAAARGGEAAAREAAAREAAAR
EV6x4リンカー(配列番号:46)
EAAAREAAAREAAAREAAAREAAAREAAARGGEAAAREAAAREAAAREAAAREAAAREAAARGGEAAAREAAAREAAAREAAAREAAAREAAARGGEAAAREAAAREAAARAAREAAAREAAAR
EV3x8リンカーは、EAAARの配列を3回繰り返した15アミノ酸残基の配列単位を8個、GG配列で繋げた134アミノ酸残基のポリペプチドである。全アミノ酸残基数134個のうちのアラニンが72個(53.7%)、グリシンが14個(10.4%)、グルタミン酸が24個(17,9%)、アルギニンが24個(17.9%)である。アラニン及びグリシンを合わせると64.1%である。また、EV6x4リンカーは、124アミノ酸残基のポリペプチドであり、全アミノ酸残基数124個のうちのアラニンが71個(57,3%)、グリシンが6個(4,8%)、グルタミン酸が23個(18,5%)、アルギニンが24個(19,4%)であり、アラニン及びグリシンを合わせると62,1%である。

【0018】
本発明のEVリンカーは、一分子型FRETバイオセンサーのゲインを大きくさせるものであり、その一分子型FRETバイオセンサー中の挿入部位は基底状態と活性化状態におけるFRET効率の差、すなわち、ゲインの増大を考慮して、適宜選択され得る。すなわち、一分子型FRETバイオセンサーのドナー蛍光タンパク質、アクセプター蛍光タンパク質、センサードメイン、および、リガンドドメインの領域から選択されるいずれか2つの領域の間を連結して用いることができ、どの領域間に用いるかは特に制限されない。例えば、図3のように、センサードメインとリガンドドメインの間の連結に用いることができる。

【0019】
本発明に係る一分子型FRETバイオセンサーは、蛍光共鳴エネルギー移動の原理に基づく一分子型FRETバイオセンサーであって、センサー領域、リガンド領域、アクセプター蛍光タンパク質領域、ドナー蛍光タンパク質領域、及び、該センサー領域と該リガンド領域とを連結するリンカー領域を有する融合タンパク質であり、該リンカー領域が、前記本発明のリンカーからなる。本発明に係る一分子型FRETバイオセンサーの好ましい態様としては、ドナー蛍光タンパク質、アクセプター蛍光タンパク質、センサードメイン、リガンドドメイン、リンカーの5つの領域を少なくともひとつずつ含み、かつ、アミノ末端側より、ドナー(またはアクセプター)蛍光タンパク質、センサー(またはリガンド)ドメイン、EVリンカー、リガンド(またはセンサー)ドメイン、アクセプター(またはドナー)蛍光タンパク質を含む態様(1)、ドナー蛍光タンパク質、アクセプター蛍光タンパク質、センサードメイン、リガンドドメイン、リンカーの5つの領域を少なくともひとつずつ含み、かつ、アミノ末端側より、センサー(またはリガンド)ドメイン、ドナー(またはアクセプター)蛍光タンパク質、EVリンカー、アクセプター(またはドナー)蛍光タンパク質、リガンド(またはセンサー)ドメインを含む態様(2)、ドナー蛍光タンパク質、アクセプター蛍光タンパク質、センサードメイン、リガンドドメイン、リンカーの5つの領域を少なくともひとつずつ含み、かつ、アミノ末端側より、ドナー(またはアクセプター)蛍光タンパク質、センサー(またはリガンド)ドメイン、EVリンカー、アクセプター(またはドナー)蛍光タンパク質、リガンド(またはセンサー)ドメインを含む態様(3)、ドナー蛍光タンパク質、アクセプター蛍光タンパク質、センサードメイン、リガンドドメイン、リンカーの5つの領域を少なくともひとつずつ含み、かつ、アミノ末端側より、センサー(またはリガンド)ドメイン、ドナー(またはアクセプター)蛍光タンパク質、EVリンカー、アクセプター(またはドナー)蛍光タンパク質、リガンド(またはセンサー)ドメインを含む態様(4)が挙げられる。

【0020】
センサー領域に、リン酸化されるペプチドあるいは低分子量GTP結合タンパク質を含む場合は態様(1)が好ましい。従って、該EVリンカーは、一分子型FRETバイオセンサーにおいて、リガンド領域とセンサー領域との間に介在することが好ましい。なお、一分子型FRETバイオセンサーにおいて、ドナー蛍光タンパク質、アクセプター蛍光タンパク質、リガンド領域、アクセプター領域、EVリンカーは必ずしもひとつずつである必要はなく、複数存在してもよい。

【0021】
ドナー蛍光タンパク質領域を構成するドナー蛍光タンパク質としてはFRETのペアとなる機能が保たれていれば特に限定されるものはないが、機能的観点から、好ましくはCFPまたはTFP(Teal Fluorescence Protein)である。一方のアクセプター蛍光タンパク質領域を構成するアクセプター蛍光タンパク質も同様にFRETのペアとなる機能が保たれていれば特に限定されるものはないが、機能的観点から、好ましくはYFPである。ここで、FRETのペアとなる機能とは、励起状態にあるドナー蛍光タンパク質から近傍のアクセプター蛍光タンパク質へ励起エネルギーが移動し、該励起エネルギーの移動が検出できることをいう。

【0022】
ドナー蛍光タンパク質および/またはアクセプター蛍光タンパク質は、FRETのペアとなる機能が保たれていればそれらタンパク質の一部でもよく、必ずしも全部(全長)である必要はない。しばしば、それらのアミノ酸配列のカルボキシル末端を短くすることにより、FRET効率の差の増大が生ずる。たとえば、アクセプター蛍光タンパク質および/またはドナー蛍光タンパク質の一部としては、それらのアミノ酸配列のカルボキシル末端領域に好ましくは少なくとも1個、より好ましくは1~11個の欠損を有してなるものを挙げることができる。なお、かかる領域におけるアミノ酸の欠損部位には特に限定はない。たとえば、YFPの場合、そのアミノ酸配列のカルボキシル末端領域において好ましくは少なくとも1個、より好ましくは1~11個、さらに好ましくは11個のアミノ酸の欠損を有してなるものが好ましい。また、CFPの場合、そのアミノ酸配列のカルボキシル末端領域において好ましくは少なくとも1個、より好ましくは1~11個、さらに好ましくは11個のアミノ酸の欠損を有してなるものが好ましい。

【0023】
ここで、カルボキシル末端領域とは、本発明に使用するGFP関連タンパク質のアミノ酸配列において、そのカルボキシル末端から、アミノ酸の個数で好ましくは1~20個までの、より好ましくは11個までの領域をいう。なお、FRETのペアとなる機能が保たれているか否かは、たとえば、公知の方法に従いFRETのペアを形成すると想定される1対のタンパク質分子を共に大腸菌で生産し、当該1対のタンパク質を含む細胞抽出液において、当該タンパク質それぞれの想定される励起波長での蛍光強度を観察するという方法により評価することができる。

【0024】
さらに、アクセプター蛍光タンパク質および/またはドナー蛍光タンパク質は変異を有していてもかまわない。かかる変異の導入は、FRETのペアとなる機能が保たれている限り、アクセプター蛍光タンパク質および/またはドナー蛍光タンパク質のアミノ酸配列における任意の部位に対し行うことができる。たとえば、変異の態様としては複数のアミノ酸の置換が挙げられ、かかるアミノ酸置換の具体的態様としては、たとえば、GFPの変異体であるLeu65Phe、Phe47Leu、Thr66Serなどが挙げられる。このような変異を導入することで発色団形成効率の上昇や、FRET効率の上昇などの効果が得られるので好ましい。変異の導入は、公知のPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)を用いる方法などにより行うことができる。YFPの変異体としては、例えば、Ypet〔Nguyen A. W., and P. S. Daugherty. Evolutionary optimization of fluorescent proteins for intracellular FRET. 2005. Nat.Biotechnol. 23:355-360〕、EYFP(Clontech社) ,Venus〔Nagai, T., K. Ibata, E. S. Park, M. Kubota, K. Mikoshiba, and A. Miyawaki. A variant of yellow fluorescent protein with fast and efficient maturation for cell-biological applications. 2002. Nat.Biotechnol. 20:87-90〕などが挙げられ、CFPの変異体としては、例えば、CyPet〔Nguyen A. W., and P. S. Daugherty. Evolutionary optimization of fluorescent proteins for intracellular FRET. 2005. Nat.Biotechnol. 23:355-360〕、ECFP(Clontech社)、SECFP(非特許文献5)、 Turquoise(Goedhart, J. , L. an Weeren, M. A. Hink, N. O. Vischer, K. Jalink, and T. W. Gadella, Jr. Bright cyan fluorescent protein variants identified by fluorescence lifetime screening. 2010. Nat.Methods 7:137-139.)などが挙げられる。アクセプター蛍光タンパク質およびドナー蛍光タンパク質の組み合わせとしては、VenusとECFP、YPetとECFP、VenusとTurquoise、YPetとTurquoiseが好適に使用できる。

【0025】
センサー領域を構成するセンサータンパク質及びリガンド領域を構成するリガンドの組み合わせとしては、特に制限はないが、セリンスレオニンリン酸化酵素活性、チロシンリン酸化酵素活性、及び、低分子量GTP結合タンパク質活性のいずれかを測定可能な組み合わせが好適に挙げられる。セリンスレオニンリン酸化酵素活性を測定する組み合わせとしては、ホークヘッド会合(Forkhead-associated, 以下FHA1と記載する)ドメイン、WW(Trp-Trp)ドメイン、あるいはBRCT(BRCA1-C末端)ドメインとセリンまたはスレオニンを含むペプチド配列が、チロシンリン酸化酵素活性を測定する組み合わせとしては、SH2(Srcホモロジー2)ドメインまたはPTB(Phsophotyrosine-binding)ドメインとチロシンを含むペプチド配列が、低分子量GTP結合タンパク質活性を測定する組み合わせとしては、Rasファミリー低分子量GTP結合タンパク質、Rhoファミリー低分子量GTP結合タンパク質、Rabファミリー低分子量GTP結合タンパク質、Arfファミリー低分子量GTP結合タンパク質、あるいはRan低分子量GTP結合タンパク質と、とそれぞれの標的タンパク質が好適に挙げられる。

【0026】
本発明の一分子型FRETバイオセンサーの構成要素およびそれぞれの特に好ましい組み合わせとしては、有効性、特異性および感度の観点から、センサー領域が低分子量GTP結合タンパク質Rasであり、リガンド領域がRasの標的タンパク質Rafであり、ドナー蛍光タンパク質がCFPであり、アクセプター蛍光タンパク質がYFPであるか、センサー領域が低分子量GTP結合タンパク質Rac1であり、リガンド領域がRac1の標的タンパク質Pakであり、ドナー蛍光タンパク質がCFPであり、アクセプター蛍光タンパク質がYFPであるか、またはセンサー領域が低分子量GTP結合タンパク質Cdc42であり、リガンド領域がCdc42の標的タンパク質Pakであり、ドナー蛍光タンパク質がCFPであり、アクセプター蛍光タンパク質がYFPであるか、または、センサー領域がプロテインキナーゼA(Aキナーゼ、以下PKAと記載する)によりリン酸化されるペプチドであり、リガンド領域がFHA1ドメインであり、ドナー蛍光タンパク質がCFPであり、アクセプター蛍光タンパク質がYFPであるか、または、センサー領域が細胞外シグナル調節キナーゼ(Extracellular Signal-regulated Kinase、以下ERKと記載する)によりリン酸化されるペプチドであり、リガンド領域がWWドメインであり、ドナー蛍光タンパク質がCFPであり、アクセプター蛍光タンパク質がYFPであるか、または、センサー領域がチロシンリン酸化酵素によりリン酸化されるペプチドであり、リガンド領域がCrkタンパク質のSH2ドメインであり、ドナー蛍光タンパク質がCFPであり、アクセプター蛍光タンパク質がYFPである。

【0027】
アクセプター(またはドナー)蛍光タンパク質、リガンド(またはセンサー)ドメインまた、低分子量GTP結合タンパク質、標的タンパク質、の結合の順序は、ゲインの増大の観点から、本発明のEVリンカーを含む一分子型FRETバイオセンサーにおいて、好ましくはアミノ末端側よりYFP-FHA1-EVリンカーPKA基質ペプチド-CFP、YFP-FHA1-EVリンカーERK基質ペプチド-CFP、YFP-Raf-EVリンカーRas-CFP、YFP-Rac1-EVリンカーPak-CFP、YFP-Cdc42-EVリンカーPak-CFP、またはYFP-CRK SH2ドメイン-EVリンカーチロシンキナーゼ基質ペプチド-CFPが挙げられる。また、これらにおいてYFPとCFPとの位置が互いに交換されてなるもの、あるいは、YFPおよびCFPの様々な変異体、たとえば、Ypet、CyPet、EYFP(Clontech社),ECFP(Clontech社),SECFP、Venusなども好適に使用できる。

【0028】
本発明の一分子型FRETバイオセンサーは、前記5つの領域を有するものであればよく、細胞内分布を目的に応じて変化させるため、あるいは一分子型FRETバイオセンサーの精製を容易にする目的などのために、ペプチドタグあるいは、他の蛍光タンパク質、あるいは細胞内局在シグナル、タンパク-タンパク質間相互作用を司るドメインなどをそのN末端、C末端、あるいはまた、一分子型FRETバイオセンサー内部に含むものも好適に用いることが出来る。

【0029】
なお、上述する本発明のEVリンカーが本発明の所望の効果を発現し得るか否かについての評価は、たとえば、後述の実施例1に記載の方法に準じて評価することができる。

【0030】
本発明はまた、本発明に係る前記EVリンカーをコードする遺伝子(DNA)ならびに本発明に係る前記一分子型FRETバイオセンサーをコードする遺伝子(DNA)を提供する。EVリンカーの遺伝子は、化学合成することが可能であり、また、前記一分子型FRETバイオセンサーの遺伝子は、EVリンカー以外の前記各構成タンパク質については遺伝子情報をGenBank等から入手し、公知のPCRを用いた方法と制限酵素とリガーゼとを用いた方法により常法に従って作製することができる。

【0031】
本発明はさらに、前記遺伝子を含む発現ベクターを提供する。かかるベクターは、公知の方法に従い、本発明のEVリンカーまたは一分子型FRETバイオセンサーをコードする遺伝子を公知の原核細胞発現ベクター、例えばpGEX-2T(GE・ヘルスケア社製)、真核細胞発現ベクター、例えばpCAGGS〔Niwa, H., K. Yamamura, and J. Miyazaki. 1991. Efficient selection for high-expression transfectants with a novel eukaryotic vector. Gene 108:193-200.〕に、あるいはウイルスベクター、例えばpCX4〔Iwahara, T., T. Akagi, Y. Fujitsuka, and H. Hanafusa. 2004. CrkII regulates focal adhesion kinase activation by making a complex with Crk-associated substrate, p130Cas. Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A 101:17693-17698.〕に挿入することにより得ることができる。

【0032】
本発明はさらに、前記発現ベクターを保持する形質転換された細胞およびトランスジェニック非ヒト動物を提供する。かかる形質転換された細胞は、前記発現ベクターを対象とする細胞に導入することにより得られる。細胞への導入法としては公知のトランスフェクション法やウイルス感染法が使用でき特に制限はないが、たとえばリン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法、あるいはトランスポゾンを用いる方法等が使用できる。該細胞としては真核細胞あるいは原核細胞を用いることができ、特に制限はない。たとえば、真核細胞としては、ヒト癌由来のHeLa細胞、ヒト胎児腎臓由来HEK293細胞、イヌ腎臓由来MDCK細胞、サル腎臓由来COS7細胞、ラットC6グリオーマ細胞、酵母など、原核細胞としては、大腸菌など、その他、各種細胞を使用できる。

【0033】
一方、前記発現ベクターを公知の方法、たとえば、マウス受精卵の核内にプラスミドDNAをマイクロインジェクションする方法、あるいはTol2トランスポゼースを介する方法〔Sumiyama, K., K. Kawakami, and K. Yagita. 2010. A simple and highly efficient transgenesis method in mice with the Tol2 transposon system and cytoplasmic microinjection. Genomics 95:306-311. 〕などにより、マウス等の個体に直接導入することでトランスジェニック非ヒト動物を得ることができる。トランスジェニック非ヒト動物としては、ヒト以外であれば特に制限はないが、マウス、ラット、ブタ、ゼブラフィッシュ、線虫などが挙げられる。医薬産業への応用の観点からマウスが好ましい。

【0034】
本発明においてはさらに、本発明の一分子型FRETバイオセンサーを用いてFRETを検出する工程を含み、セリンスレオニンリン酸化酵素活性、チロシンリン酸化酵素活性、及び、低分子量GTP結合タンパク質活性のいずれかを測定する測定方法を提供する。本発明の一分子型FRETバイオセンサーを用いてFRETを検出する工程としては、一分子型FRETバイオセンサーを発現する細胞株を蛍光顕微鏡において観察し、タイムラプスイメージングを行なう方法や、一分子型FRETバイオセンサーを発現する細胞株をフローサイトメーターを用いて解析する手法などが挙げられる。かかる方法によれば、本発明に係る一分子型FRETバイオセンサーにおけるFRETを検出することでセリンスレオニンリン酸化酵素活性、チロシンリン酸化酵素活性、低分子量GTP結合タンパク質の活性を測定することができる。

【0035】
また、本発明においては、本発明に係る形質転換された細胞またはトランスジェニック非ヒト動物を用いてFRETを検出する工程を含む、セリンスレオニンリン酸化酵素活性、チロシンリン酸化酵素活性、及び、低分子量GTP結合タンパク質活性のいずれかを測定する測定方法を提供する。セリンスレオニンリン酸化酵素活性、チロシンリン酸化酵素活性、及び、低分子量GTP結合タンパク質活性は、前述のセリンスレオニンリン酸化酵素活性、チロシンリン酸化酵素活性、及び、低分子量GTP結合タンパク質活性のいずれかを測定可能なセンサー領域およびリガンド領域を有する一分子型FRETバイオセンサーを用いることにより測定することができる。FRETを検出する工程としては、FRETによる励起エネルギーの移動が検出できれば特に制限はないが、例えば、顕微鏡を用いた測定方法、フローサイトメーターを用いた測定方法、分光光度計を用いた方法、蛍光ELISAリーダーを用いた方法などが挙げられる。この測定方法においては、FRETを検出し、当該細胞または動物におけるセリンスレオニンリン酸化酵素活性、チロシンリン酸化酵素活性、低分子量GTP結合タンパク質の活性を直接測定することもできる。かかる場合、別途、リン酸化特異的抗体を用いて、リン酸化の割合を算出し、さらに対応するFRET効率を測定して検量線を作成することや、GTPの結合した低分子量GTP結合タンパク質とGTPからの無機リン酸の遊離によって生じるGDPの結合した低分子量GTP結合タンパク質とを測定してGTP/GDP比〔またはGTP/(GDP+GTP)比〕(いずれもモル比)を算出し、さらに対応するFRET効率を測定して検量線を作成することができる。かかる検量線を用いれば、当該細胞または動物におけるFRET効率に基づいて、リン酸化やGTP/GDP比を算出することができる。

【0036】
たとえば、具体的には以下のような方法が例示される。
本発明に係る一分子型FRETバイオセンサーを発現した本発明の形質転換細胞またはトランスジェニック非ヒト動物を蛍光顕微鏡で観察し、センサー領域の構造変化前後に生ずるFRET効率の変化を直接的に検出する。この測定法については、(非特許文献1)に準じて行うことができる。トランスジェニック非ヒト動物の場合には、例えば外耳など固定しやすい部位を観察対象とすることが好ましい。
用いる蛍光顕微鏡には特に制限はないが、公知のキセノン光源を有する倒立型蛍光顕微鏡(IX81、オリンパス社製)に回転式蛍光励起フィルターおよび回転式蛍光発光フィルターを備え、高感度冷却CCDカメラを備えたものが好ましい。さらにフィルターおよびカメラ画像は、モレキュラーデバイス社製MetaMorph画像解析ソフトにて制御ならびに解析できるシステムが望ましい。

【0037】
前記細胞または動物にドナー蛍光タンパク質の励起光を照射し、ドナー蛍光タンパク質の蛍光波長での画像をCCDカメラにより撮影し、その後、アクセプター蛍光タンパク質の蛍光波長での画像を撮影する。両画像の蛍光強度の比を測定することにより各測定点でのFRET効率を算出できる。

【0038】
本発明によれば、本発明に係るEVリンカーを含み、非侵襲的にセリンスレオニンリン酸化酵素活性、チロシンリン酸化酵素活性、低分子量GTP結合タンパク質の活性を測定することを可能にする一分子型FRETバイオセンサー、その遺伝子等が提供される。非侵襲的な活性測定が可能となるのは、用いる励起光が可視光領域であるためである。また、かかる一分子型FRETバイオセンサーを発現し、非侵襲的なセリンスレオニンリン酸化酵素活性、チロシンリン酸化酵素活性、低分子量GTP結合タンパク質の活性の測定に有用な前記発現ベクターを保持する形質転換された細胞およびトランスジェニック非ヒト動物、ならびに前記EVリンカーを含む一分子型FRETバイオセンサーを用いるセリンスレオニンリン酸化酵素活性、チロシンリン酸化酵素活性、低分子量GTP結合タンパク質の活性を測定する方法が提供される。従って、セリンスレオニンリン酸化酵素活性、チロシンリン酸化酵素活性、低分子量GTP結合タンパク質の活性を細胞内または個体内で非侵襲的に知ることが可能となり、生命現象の理解のみならず、薬剤開発(たとえば、癌、自己免疫疾患、アレルギー性疾患等の治療剤または予防剤)において多大な利益をもたらし得る。

【0039】
さらに本発明の別の態様として、セリンスレオニンリン酸化酵素活性、チロシンリン酸化酵素活性、低分子量GTP結合タンパク質の活性調節物質のスクリーニング方法を提供する。すなわち、(a)本発明の形質転換された細胞と被検物質とを接触させる工程、および、(b)FRETを検出することによりセリンスレオニンリン酸化酵素活性、チロシンリン酸化酵素活性、及び、低分子量GTP結合タンパク質活性のいずれかの変化を検出する工程、を含む、セリンスレオニンリン酸化酵素活性、チロシンリン酸化酵素活性、及び、低分子量GTP結合タンパク質活性のいずれかの調節物質のスクリーニング方法である。本発明の形質転換された細胞は、本発明の一分子型FRETバイオセンサーを発現する、EVリンカーを含む一分子型FRETバイオセンサー遺伝子を含む発現ベクターを保持する形質転換された細胞である。本発明のスクリーニング方法によれば、本発明のEVリンカーを含む一分子型FRETバイオセンサーを発現する細胞を構築し、バイオアッセイ系を用いることによって、セリンスレオニンリン酸化酵素活性、チロシンリン酸化酵素活性、低分子量GTP結合タンパク質の活性を変化させる物質またはその塩(すなわち、セリンスレオニンリン酸化酵素活性、チロシンリン酸化酵素活性、低分子量GTP結合タンパク質の活性調節物質)を効率よくスクリーニングすることができる。当該方法における被検物質としては特に限定されるものではないが、たとえば、ペプチド、タンパク質、非ペプチド性物質、合成物質、発酵生産物等を挙げることができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明の範囲はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
(実施例1)
Eevee-PKAによるセリンスレオニンリン酸化酵素Aキナーゼ(PKA)の酵素活性の測定
(1)PKAの酵素活性を測定するための、EVリンカーを含む一分子型FRETバイオセンサーをコードする遺伝子の作成
(i)EVリンカー遺伝子を挿入するためのプラットフォームEevee-PKA-G72(3520NES)遺伝子の作成
一分子型FRETバイオセンサーEevee-PKA-G72(3520NES)遺伝子は、PCR等の公知の方法を用いて作成した(図3)。すなわち、一分子型FRETバイオセンサーは、アミノ末端よりYFP、リンカー、リガンドドメイン(ここではリン酸化スレオニンに特異的に結合するFHA1ドメイン)、リンカー、PKAによりリン酸化される基質配列、リンカー、CFPドナー蛍光タンパク質を有する。この塩基配列(配列番号:1)および予測されるアミノ酸配列(配列番号:2)を説明する:
nt 1 - 714 :オワンクラゲ(Aequorea)のYFP(YPet)
nt 715 - 720 :リンカー(Leu-Glu)
nt 721 - 1143 :酵母のRad53遺伝子のFHA1ドメイン
nt 1144 - 1149 :リンカー(Gly-Thr)
nt 1150 - 1392 :グリシンリンカー
nt 1393 - 1437 :PKAの基質配列
nt 1438 - 1446 :リンカー(Gly-Gly-Arg)
nt 1447 - 2163 :オワンクラゲのCFP(ECFP)
nt 2164 - 2169 :リンカー(Ser-Arg)
nt 2170 - 2205 :核外移行シグナル(NES)
nt 2206 - 2208 :終止コドン
【実施例】
【0042】
(ii)EV20リンカーの合成とEevee-PKA-20遺伝子(3532NES)の作成
センスプライマーF_20a.a_linker(配列番号:3)およびアンチセンスプライマーR_20a.a_linker (配列番号:4)をアニーリングし、3520NESのAsp718IとAor13HIの制限酵素切断部位に挿入した。この挿入されたヌクレオチドがコードする20アミノ酸のリンカーをEV20リンカーと呼ぶ(配列番号:5)。さらに、YPetはVenusに置換した。作成された一分子型FRETバイオセンサーをEevee-PKA-20(3532NES)と命名した。かかる塩基配列(配列番号:6)および予測されるアミノ酸配列(配列番号:7)を説明する:
nt 1 - 714 :オワンクラゲ(Aequorea)のYFP(Venus)
nt 715 - 720 :リンカー(Leu-Glu)
nt 721 - 1143 :酵母のRad53遺伝子のFHA1ドメイン
nt 1143 - 1149 :リンカー(Gly-Thr)
nt 1150 - 1209 :EV20リンカー(配列番号:5)
nt 1210 - 1215 :リンカー(Ser-Gly)
nt 1216 - 1239 :PKAの基質配列
nt 1239 - 1248 :リンカー(Gly-Gly-Arg)
nt 1249 - 1965 :オワンクラゲのCFP(ECFP)
nt 1966 - 1971 :リンカー(Ser-Arg)
nt 1972 - 2007 :核外移行シグナル(NES)
nt 2008 - 2010 :終止コドン
【実施例】
【0043】
(iii)Eevee-PKA-52(3535NES)の作成
Eevee-PKA-20の哺乳細胞発現ベクターpEevee-PKA-20を制限酵素EcoRIとAsp718Iで切断し、サイズの大きいほうの断片をベクターとして調整した。このpEevee-PKA-20断片をEcoRIとAor13HIで切断したリンカーを含む部分および、センスプライマーF_10a.a_linker(配列番号:8)およびアンチセンスプライマーR_10a.a_linker(配列番号:9)をアニーリングしたDNAの3者をライゲーションし、pEevee-PKA-52を作成した。かかる塩基配列(配列番号:10)および予測されるアミノ酸配列(配列番号:11)を説明する:
nt 1 - 714 :オワンクラゲ(Aequorea)のYFP(Venus)
nt 715 - 720 :リンカー(Leu-Glu)
nt 721 - 1143 :酵母のRad53遺伝子のFHA1ドメイン
nt 1144 - 1149 :リンカー(Gly-Thr)
nt 1150 - 1305 :EV52リンカー(配列番号:12)
nt 1306 - 1311 :リンカー(Ser-Gly)
nt 1312 - 1335 :PKAの基質配列
nt 1336 - 1344 :リンカー(Gly-Gly-Arg)
nt 1345 - 2061 :オワンクラゲのCFP(ECFP)
nt 2062 - 2067 :リンカー(Ser-Arg)
nt 2068 - 2103 :核外移行シグナル(NES)
nt 2104 - 2106 :終止コドン
【実施例】
【0044】
(iv)pEevee-PKA-84(3537NES)の作成
Eevee-PKA-20の哺乳細胞発現ベクターpEevee-PKA-20を制限酵素EcoRIとAsp718Iで切断し、サイズの大きいほうの断片をベクターとして調整した。このpEevee-PKA-20断片をEcoRIとAor13HIで切断したリンカーを含む部分および、センスプライマーF_10a.a_linker(配列番号:8)およびアンチセンスプライマーR_10a.a_linker(配列番号:9)をアニーリングしたDNAの3者をライゲーションし、Eevee-PKA-84を作成した。かかる塩基配列(配列番号:13)および予測されるアミノ酸配列(配列番号:14)を説明する。:
nt 1 - 714 :オワンクラゲ(Aequorea)のYFP(YPet)
nt 715 - 720 :リンカー(Leu-Glu)
nt 721 - 1143 :酵母のRad53遺伝子のFHA1ドメイン
nt 1144 - 1149 :リンカー(Gly-Thr)
nt 1150 - 1401 :EV84リンカー(配列番号:15)
nt 1402 - 1407 :リンカー(Ser-Gly)
nt 1408 - 1431 :PKAの基質配列
nt 1432 - 1440 :リンカー(Gly-Gly-Arg)
nt 1441 - 2157 :オワンクラゲのCFP(ECFP)
nt 2158 - 2163 :リンカー(Ser-Arg)
nt 2164 - 2199 :核外移行シグナル(NES)
nt 2200 - 2202 :終止コドン
【実施例】
【0045】
(v)pEevee-PKA-116(3536NES)の作成
Eevee-PKA-52の哺乳細胞発現ベクターpEevee-PKA-20を制限酵素EcoRIとAsp718Iで切断し、サイズの大きいほうの断片をベクターとして調整した。このpEevee-PKA-52断片をEcoRIとAor13HIで切断したリンカーを含む部分および、センスプライマーF_10a.a_linker(配列番号:8)およびアンチセンスプライマーR_10a.a_linker(配列番号:9)をアニーリングしたDNAの3者をライゲーションし、Eevee-PKA-116を作成した。かかる塩基配列(配列番号:16)および予測されるアミノ酸配列(配列番号:17)を説明する。
nt 1 - 714 :オワンクラゲ(Aequorea)のYFP(YPet)
nt 715 - 720 :リンカー(Leu-Glu)
nt 721 - 1143 :酵母のRad53遺伝子のFHA1ドメイン
nt 1144 - 1149 :リンカー(Gly-Thr)
nt 1150 - 1497 :EV116リンカー(配列番号:18)
nt 1498 - 1503 :リンカー(Ser-Gly)
nt 1504 - 1527 :PKAの基質配列
nt 1528 - 1536 :リンカー(Gly-Gly-Arg)
nt 1537 - 2247 :オワンクラゲのCFP(ECFP)
nt 2248 - 2253 :リンカー(Ser-Arg)
nt 2254 - 2289 :核外移行シグナル(NES)
nt 2290 - 2292 :終止コドン
【実施例】
【0046】
(vi)pEevee-PKA-5(3522NES)の作成
一分子型FRETバイオセンサーpEevee-PKA-5は、PCR等の公知の方法を用いて作成した。かかる塩基配列(配列番号:19)および予測されるアミノ酸配列(配列番号:20)を説明する。
nt 1 - 714 :オワンクラゲ(Aequorea)のYFP(Venus)
nt 715 - 720 :リンカー(Leu-Glu)
nt 721 - 1143 :酵母のRad53遺伝子のFHA1ドメイン
nt 1144 - 1170 :リンカー(Gly-Thr-Gly-Gly-Ser-Gly-Gly-Ser-Gly )
nt 1171 - 1194 :PKAの基質配列
nt 1195 - 1203 :リンカー(Gly-Gly-Arg)
nt 1204 - 1920 :オワンクラゲのCFP(ECFP)
nt 1921 - 1926 :リンカー(Ser-Arg)
nt 1927 - 1962 :核外移行シグナル(NES)
nt 1963 - 1965 :終止コドン
【実施例】
【0047】
(vii)pEevee-PKA-180(3597NES)の作成
pEevee-PKA-116を制限酵素EcoRIとAsp718Iで切断し、サイズの大きいほうの断片をベクターとして調整した。このpEevee-PKA-116断片をEcoRIとAor13HIで切断したリンカーを含む部分および、センスプライマーF_10a.a_linker(配列番号:8)およびアンチセンスプライマーR_10a.a_linker(配列番号:9)をアニーリングしたDNAの3者をライゲーションし、Eevee-PKA-180を作成した。さらにVenusはYPetに置換した。かかる塩基配列(配列番号:21)および予測されるアミノ酸配列(配列番号:22)を説明する。
nt 1 - 714 :オワンクラゲ(Aequorea)のYFP(YPet)
nt 715 - 720 :リンカー(Leu-Glu)
nt 721 - 1143 :酵母のRad53遺伝子のFHA1ドメイン
nt 1144 - 1149 :リンカー(Gly-Thr)
nt 1150 - 1689 :EV180リンカー(配列番号:23)
nt 1690 - 1695 :リンカー(Ser-Gly)
nt 1696 - 1719 :PKAの基質配列
nt 1720 - 1728 :リンカー(Gly-Gly-Arg)
nt 1729 - 2439 :オワンクラゲのCFP(ECFP)
nt 2440 - 2445 :リンカー(Ser-Arg)
nt 2446 - 2481 :核外移行シグナル(NES)
nt 2482 - 2484 :終止コドン
【実施例】
【0048】
(vii)pEevee-PKA-244(3598NES)の作成
pEevee-PKA-116を制限酵素EcoRIとAsp718Iで切断し、サイズの大きいほうの断片をベクターとして調整した。このpEevee-PKA-116断片をEcoRIとAor13HIで切断したリンカーを含む部分および、センスプライマーF_10a.a_linker(配列番号:8)およびアンチセンスプライマーR_10a.a_linker(配列番号:9)をアニーリングしたDNAの3者をライゲーションし、Eevee-PKA-244を作成した。かかる塩基配列(配列番号:24)および予測されるアミノ酸配列(配列番号:25)を説明する。
nt 1 - 714 :オワンクラゲ(Aequorea)のYFP(YPet)
nt 715 - 720 :リンカー(Leu-Glu)
nt 721 - 1143 :酵母のRad53遺伝子のFHA1ドメイン
nt 1144 - 1149 :リンカー(Gly-Thr)
nt 1150 - 1881 :EV244リンカー(配列番号:26)
nt 1882 - 1887 :リンカー(Ser-Gly)
nt 1888 - 1911 :PKAの基質配列
nt 1912 - 1920 :リンカー(Gly-Gly-Arg)
nt 1921 - 2631 :オワンクラゲのCFP(ECFP)
nt 2632 - 2637 :リンカー(Ser-Arg)
nt 2638 - 2673 :核外移行シグナル(NES)
nt 2674 - 2676 :終止コドン
【実施例】
【0049】
(2)哺乳類細胞でのEVリンカーを含む一分子型FRETバイオセンサー(Eevee-PKA)の発現とタイムラプス蛍光顕微鏡による解析
ここでは、様々な長さのEVリンカーを有するPKAのバイオセンサーをEevee-PKA、その哺乳細胞発現ベクターをpEevee-PKAと総称する。哺乳細胞発現ベクターとしては、pCAGGS 〔Niwa, H., K. Yamamura, and J. Miyazaki. 1991. Efficient selection for high-expression transfectants with a novel eukaryotic vector. Gene 108:193-200. 〕を至適に用いることが出来る。子宮頸癌由来HeLa細胞は10%ウシ胎仔血清を含むDMEM培地(INVITROGEN社製)で培養した。該HeLa細胞に前記(1)で得られたpEevee-PKAを293fectin(INVITROGEN社製)を用いて、該試薬に添付のプロトコールに従いトランスフェクトした。トランスフェクト後のHeLa細胞を10%ウシ胎仔血清を含むDMEM培地(INVITROGEN社製)で培養し、Eevee-PKAタンパク質を発現させた。トランスフェクションの24時間後に、培養細胞をタイムラプス蛍光顕微鏡による観察に供した。
【実施例】
【0050】
かかる顕微鏡は、回転式蛍光励起フィルター装置および回転式蛍光発光フィルター装置(LUDL electronic 社製)を備え、さらに高感度冷却CCDカメラ(日本ローパー社製、CoolSNAP-HQ)を備えた、キセノン光源を有する倒立型蛍光顕微鏡(オリンパス社製、IX81)であり、観察の際は、該顕微鏡の制御ならびに観察結果の解析を日本モレキュラーデバイス社製メタモルフ画像解析ソフトにより行うシステムを用いた。蛍光励起フィルター、蛍光発光フィルター、ダイクロイックミラーはオメガ社より購入した。
【実施例】
【0051】
前記培養細胞に440nmの励起光を照射し、480nmのCFPドナーの蛍光波長での画像をCCDカメラにより撮影し、次いで、530nmのYFPアクセプターの蛍光波長での画像を撮影した。両画像データをもとに両者の蛍光強度の比を求めることにより各測定点でのFRET効率の指標とした。
PKAの活性化剤である1mMのヂブチリルcAMPを添加し、刺激前のFRET効率と比較することでEevee-PKAのゲインを知ることができる。図4に示すように、PKAの活性化によって変化するゲインは、52アミノ酸以上の長さのEVリンカーを用いることにより顕著に増加することがわかる。
さらに、YFPドナータンパク質を、FRETに最適化したもの、例えばYPetにすることで、その効果はさらに顕著となる(図6)。しかし、その効果は116アミノ酸でほぼ飽和しており、それ以上長くしても顕著な効果はない。
【実施例】
【0052】
このゲインの増大の原因を調べるために、基底状態における蛍光プロフィールを測定した(図7A、B及びC)。EVリンカーが長くなるにつれ、基底状態におけるYFPドナータンパク質の蛍光が減少することがわかった。すなわち、EVリンカーは、基底状態におけるFRETを低減させることで高いゲインをもたらしていることがわかった。この効果は244アミノ酸まで続いた。
【実施例】
【0053】
(3)Eevee-PKAのリン酸化レベルのイムノブロッティングによる解析
前記と同様に、Eevee-PKAをHeLa細胞に発現させ、24時間後に、1mMのヂブチリルcAMPおよび50nMカリクリンで処理したのちに、公知の方法で細胞を可溶化し、SDS-PAGEにより分離した。なお、PhosTag(PhosTagコンソーシアム)50μMを含むポリアクリルアミド6%ゲルをタンパク質の分離に用いた。PVDFメンブレン(ミリポア社製)に転写後、anti-GFP抗体(自家製)と反応させ、引き続き、IRDye800CW標識抗ウサギ抗体(LI-COR社製)でEevee-PKAタンパク質を検出した。結合した蛍光標識抗体はオデッセイ蛍光アナライザー(LI-COR社製)にて定量した。図8Aおよび図8Bに示すように、EVリンカーは、基底状態におけるリン酸化レベルを著しく低減させていることがわかる。すなわち、リガンドドメインは一般に、センサードメインに結合することにより、活性化状態のセンサードメインが基底状態に戻るのを阻害する効果があるが、EVリンカーはこの効果を低下させ、それによって基底状態のFRETを低下させ、このことがゲインの増大をもたらしていることが明らかとなった。
【実施例】
【0054】
(実施例2)
Eevee-Aktによるセリンスレオニンリン酸化酵素Aktの酵素活性の測定
(1)セリンスレオニンリン酸化酵素Aktの酵素活性を測定するための、EVリンカーを含む一分子型FRETバイオセンサーをコードする遺伝子の作成
Eevee-Akt-84(3547NES)およびEevee-Akt-116(3548NES)のPKA基質配列部位を、Aktのリン酸化に適したアミノ酸配列に置換した遺伝子を、合成プライマー等を利用して作成した。前記Eevee-PKAにこの配列を挿入し、かつ、アミノ末端にAktのPHドメインを挿入することにより作成した遺伝子Eevee-Akt-84およびEevee-Akt-116の塩基配列(配列番号:27,29)および予測されるアミノ酸配列(配列番号:28,30)を提示する。また、その構造を図9A及びBに示す。
【実施例】
【0055】
Eevee-Akt-84(3547NES)

nt 1 - 453 :Aktタンパク質のAHドメイン
nt 454 - 462 :リンカー(Glu-Phe-Gly)
nt 463 - 1176 :オワンクラゲ(Aequorea)のYFP(YPet)
nt 1177 - 1182 :リンカー(Leu-Glu)
nt 1183 - 1605 :酵母のRad53遺伝子のFHA1ドメイン
nt 1606 - 1611 :リンカー(Gly-Thr)
nt 1612 - 1863 :EV84リンカー
nt 1864 - 1869 :リンカー(Ser-Gly)
nt 1870 - 1902 :PKAの基質配列
nt 1903 - 1911 :リンカー(Gly-Gly-Arg)
nt 1912 - 2622 :オワンクラゲのCFP(ECFP)
nt 2623 - 2628 :リンカー(Ser-Arg)
nt 2629 - 2664 :核外移行シグナル(NES)
nt 2665 - 2667 :終止コドン
【実施例】
【0056】
Eevee-Akt-116(3548NES)

nt 1 - 453 :Aktタンパク質のAHドメイン
nt 454 - 462 :リンカー(Glu-Phe-Gly)
nt 463 - 1176 :オワンクラゲ(Aequorea)のYFP(YPet)
nt 1177 - 1182 :リンカー(Leu-Glu)
nt 1183 - 1605 :酵母のRad53遺伝子のFHA1ドメイン
nt 1606 - 1611 :リンカー(Gly-Thr)
nt 1612 - 1959 :EV116リンカー
nt 1864 - 1965 :リンカー(Ser-Gly)
nt 1870 - 1998 :PKAの基質配列
nt 1903 - 2007 :リンカー(Gly-Gly-Arg)
nt 1912 - 2718 :オワンクラゲのCFP(ECFP)
nt 2623 - 2724 :リンカー(Ser-Arg)
nt 2629 - 2760 :核外移行シグナル(NES)
nt 2665 - 2763 :終止コドン
【実施例】
【0057】
(2)哺乳類細胞でのEVリンカーを含む一分子型FRETバイオセンサー(Eevee-Akt)の発現とタイムラプス蛍光顕微鏡による解析
実施例1—(2)に記載の方法により、解析した。ただし、細胞はCOS7細胞を用いた。図10に示すように、116アミノ酸のEVリンカーは顕著に基底状態の顕著な低下をもたらす。
【実施例】
【0058】
(実施例3)
Eevee-ERKによるERKの酵素活性の測定
(1)ERKの酵素活性を測定するための、EVリンカーを含む一分子型FRETバイオセンサーEevee-ERK(3550NES)をコードする遺伝子の作成
(i) Eevee-PKA-116の基質配列部位およびリン酸化ペプチド認識配列をERKの基質配列に置換したプラスミドを、PCRおよび合成プライマーを利用して作成した。作成したプラスミドをEevee-ERKと命名した。かかる塩基配列(配列番号:31)および予測されるアミノ酸配列(配列番号:32)を説明する:

nt 1 - 714 :オワンクラゲ(Aequorea)のYFP(YPet)
nt 715 - 720 :リンカー(Leu-Glu)
nt 721 - 882 :Pin1遺伝子のWWドメイン
nt 1144 - 888 :リンカー(Gly-Thr)
nt 1150 - 1236 :EV116リンカー
nt 1498 - 1242 :リンカー(Ser-Gly)
nt 1504 - 1272 :ERKの基質配列
nt 1528 - 1281 :リンカー(Gly-Gly-Arg)
nt 1537 - 1992 :オワンクラゲのCFP(ECFP)
nt 2248 - 2004 :リンカー(Gly-Arg-Ser-Arg)
nt 2254 - 2040 :核外移行シグナル(NES)
nt 2290 - 2043 :終止コドン
【実施例】
【0059】
(ii) さらに、ERKの基質に特有のドッキング配列を付加したベクターも同様に作成し、Eevee-ERK-DS(3560NES)と命名した。かかる塩基配列(配列番号:33)および予測されるアミノ酸配列(配列番号:34)を説明する:

nt 1 - 714 :オワンクラゲ(Aequorea)のYFP(YPet)
nt 715 - 720 :リンカー(Leu-Glu)
nt 721 - 882 :Pin1遺伝子のWWドメイン
nt 883 - 888 :リンカー(Gly-Thr)
nt 889 - 1236 :EV116リンカー
nt 1237 - 1242 :リンカー(Ser-Gly)
nt 1243 - 1272 :ERKの基質配列
nt 1273 - 1284 :リンカー(Ala-Lys-Leu-Ser)
nt 1285 - 1296 :ドッキング配列(Phe-Gln-Phe-Pro)
nt 1297 - 1305 :リンカー(Gly-Gly-Arg)
nt 1306 - 2016 :オワンクラゲのCFP(ECFP)
nt 2017 - 2028 :リンカー(Gly-Arg-Ser-Arg)
nt 2029 - 2064 :核外移行シグナル(NES)
nt 2065 - 2067 :終止コドン
【実施例】
【0060】
(2)哺乳類細胞でのEVリンカーを含む一分子型FRETバイオセンサー(Eevee—ERK)の発現とタイムラプス蛍光顕微鏡による解析
実施例1(2)に記載の方法により、解析した。すなわち、HeLa細胞にEvee-ERKを発現させ、EGFで刺激した。図11A、B、C及びDに示すように、EVリンカーを有するバイオセンサー(3560NES)は、Glyリンカーを含むバイオセンサー(EKAR-1667nes)より広いゲインを有する。この効果の一つは、基底状態におけるFRETの低さに起因している。
【実施例】
【0061】
(実施例4)
EVリンカーを含む一分子型FRETバイオセンサーPicchu-734によるチロシンキナーゼ活性の測定
(1)チロシンキナーゼ活性を測定するための、EVリンカーを含む一分子型FRETバイオセンサーPicchu-734の作成
(i) Eevee-PKA-116(3536NES)のXhoIおよびAsp718Iで切断したものにCrkIIタンパク質のSH2ドメインを含む領域をPCRにて増幅して挿入した。さらに、基質配列部位を置換し、Picchu-734の遺伝子を作成した。かかる塩基配列(配列番号:35)および予測されるアミノ酸配列(配列番号:36)を説明する:

nt 1 - 714 :オワンクラゲ(Aequorea)のYFP(YPet)
nt 715 - 720 :リンカー(Leu-Glu)
nt 721 - 1332 :CRKII遺伝子のSH2ドメイン
nt 883 - 1338 :リンカー(Gly-Thr)
nt 889 - 1686 :EV116リンカー
nt 1237 - 1692 :リンカー(Ser-Gly)
nt 1243 - 1719 :CRKIIのチロシンリン酸化基質配列
nt 1273 - 1728 :リンカー(Ala-Lys-Leu-Ser)
nt 1306 - 2439 :オワンクラゲのCFP(ECFP)
nt 2017 - 2451 :リンカー(Gly-Arg-Ser-Arg)
nt 2029 - 2487 :核外移行シグナル(NES)
nt 2065 - 2490 :終止コドン
【実施例】
【0062】
(2)哺乳類細胞でのチロシンキナーゼ活性を測定するための、EVリンカーを含む一分子型FRETバイオセンサーPicchu-734の発現とタイムラプス蛍光顕微鏡による解析。
実施例3-(2)に記載の方法により、解析した。図12に示すように、EVリンカーを含むPicchuバイオセンサー(Picchu-734)はこれを含まないPicchuバイオセンサー(Picchu-730)〔Kurokawa, K., N. Mochizuki, Y. Ohba, H. Mizuno, A. Miyawaki, and M. Matsuda. 2001. A pair of FRET-based probes for tyrosine phosphorylation of the CrkII adaptor protein in vivo. J.Biol.Chem. 276:31305-31310.〕より広いゲインを有することがわかった。
【実施例】
【0063】
(実施例5)
Raichu-Rac1によるRac1活性の測定
(1)Rac1活性を測定するための、EVリンカーを含む一分子型FRETバイオセンサーRaichu-Rac1(2246X)の作成
(i) Rac1活性を測定する一分子型FRETバイオセンサーRaichu-Rac1(2241X)は、PCR等を用いて、既知のRaichu-Rac1(1011X)〔非特許文献5〕をもとに作成した。かかる塩基配列(配列番号:37)および予測されるアミノ酸配列(配列番号:38)を説明する:

nt 1 - 714 :オワンクラゲ(Aequorea)のYFP(YPet)
nt 715 - 720 :リンカー(Leu-Glu)
nt 721 - 969 :Pakタンパク質のCRIBドメイン
nt 883 - 996 :グリシンリンカー
nt 1237 - 1527 :Rac1
nt 1273 - 1536 :リンカー(Arg-Gly-Arg)
nt 1306 - 2247 :オワンクラゲのCFP(Turquoise)
nt 1273 - 2253 :リンカー(Ser-Arg)
nt 2017 - 2313 :KRasタンパク質のC末端ドメイン
nt 2065 - 2316 :終止コドン
【実施例】
【0064】
(i i) Rac1活性を測定するEVリンカーを含む一分子型FRETバイオセンサーRaichu-Rac1(2246X)は、Raichu-Rac1(2241X)をもとに、リンカーを入れ替えることで作成した。かかる塩基配列(配列番号:39)および予測されるアミノ酸配列(配列番号:40)を説明する:

nt 1 - 714 :オワンクラゲ(Aequorea)のYFP(YPet)
nt 715 - 720 :リンカー(Leu-Glu)
nt 721 - 969 :Pakタンパク質のCRIBドメイン
nt 970 - 1332 :EV116リンカー
nt 1333 - 1860 :Rac1
nt 1861 - 1869 :リンカー(Arg-Gly-Arg)
nt 1870 - 2580 :オワンクラゲのCFP(Turquoise)
nt 2581 - 2586 :リンカー(Ser-Arg)
nt 2587 - 2646 :KRasタンパク質のC末端ドメイン
nt 2647 - 2649 :終止コドン
【実施例】
【0065】
(2)哺乳類細胞でのRac1活性を測定するための、EVリンカーを含む一分子型FRETバイオセンサーをRaichu-Rac1の発現とタイムラプス蛍光顕微鏡による解析。
実施例3-(2)に記載の方法により、解析した。図13Aおよび図13Bに示すように、EVリンカーを有するRaichuバイオセンサー(Raichu-2246X)は通常のリンカーを有するRaichuバイオセンサー(Raichu-2241X)よりも基底状態におけるFRETが低く、EGF刺激下に観察される上昇、すなわち感度が大きく上昇している。
【実施例】
【0066】
(3)Raichu-Rac1(2246X)を安定発現する細胞株の樹立。
Raichu-Rac1(2246X)の遺伝子をpPBプラスミドに挿入した。このプラスミドと、トランスポゼース発現ベクター(pCMV-mPBase)〔Yusa, K., R. Rad, J. Takeda, and A. Bradley. 2009. Generation of transgene-free induced pluripotent mouse stem cells by the piggyBac transposon. Nat.Methods 6:363-369. 〕と同時にC6細胞にトランスフェクトし、2日後にBlasticidineを10μg/mlの濃度に添加し、2週間培養を続けた。その後、96ウェル培養皿でクローニングを行った。その結果、バイオセンサーを安定に発現する培養細胞株の樹立に成功した。この細胞株を用いることにより、長期間にわたってRac1の活性をモニターすることができた。(図14A、B、C及びD)。
【実施例】
【0067】
(実施例6)
Raichu-Cdc42(2253X)によるCdc42活性の測定
(1)Cdc42活性を測定するための、EVリンカーを含む一分子型FRETバイオセンサーRaichu-Cdc42(2253X)の作成
(i) Cdc42活性を測定する一分子型FRETバイオセンサーRaichu-Cdc42(2253X)は、PCR等を用いて、既知のRaichu-Cdc42(1054X)をもとに作成した。作成した遺伝子Raichu-Cdc42(2253X)の塩基配列(配列番号:41)および予測されるアミノ酸配列(配列番号:42)を提示する。
nt 1 - 714 :オワンクラゲ(Aequorea)のYFP(YPet)
nt 715 - 720 :リンカー(Leu-Glu)
nt 721 - 969 :Pakタンパク質のCRIBドメイン
nt 970 - 1332 :EV116リンカー
nt 1333 - 1857 :Cdc42
nt 1858 - 1866 :リンカー(Arg-Gly-Arg)
nt 1867 - 2577 :オワンクラゲのCFP(Turquoise)
nt 2578 - 2583 :リンカー(Ser-Arg)
nt 2584 - 2643 :KRasタンパク質のC末端ドメイン
nt 2644 - 2646 :終止コドン
【実施例】
【0068】
(2)哺乳類細胞でのCdc42活性を測定するためのEVリンカーを含む一分子型FRETバイオセンサーRaichu-Cdc42の発現とタイムラプス蛍光顕微鏡による解析。
実施例3-(2)に記載の方法により、解析した。図15Aから図15Cに示すように、このバイオセンサーも基底状態における低いFRETが観察され、これまで困難であったEGF刺激依存性のCdc42の活性化を高感度に検出することが出来るようになった。
【実施例】
【0069】
(実施例8)
Raichu-HRas(3705X)によるHRas活性の測定
(1)HRas活性を測定するための、EVリンカーを含む一分子型FRETバイオセンサーRaichu-HRas(3705X)の作成
(i) HRas活性を測定する一分子型FRETバイオセンサーRaichu-HRas(3705X)は、PCR等を用いて、既知のRaichu-HRas〔Mochizuki, N., S. Yamashita, K. Kurokawa, Y. Ohba, T. Nagai, A. Miyawaki, and M. Matsuda. 2001. Spacio-temporal images of growth factor-induced activation of Ras and Rap1. Nature 411:1065-1068.〕をもとに作成した。作成した遺伝子Raichu-HRas(3705X)の塩基配列(配列番号:43)および予測されるアミノ酸配列(配列番号:44)を提示する。
nt 1 - 714 :オワンクラゲ(Aequorea)のYFP(YPet)
nt 715 - 720 :リンカー(Leu-Glu)
nt 721 - 1236 :HRasタンパク質
nt 1237 - 1602 :EV116リンカー
nt 1603 - 1845 :Rafタンパク質のRBDドメイン
nt 1846 - 1854 :リンカー(Gly-Gly-Arg)
nt 1855 - 2565 :オワンクラゲのCFP(Turquoise)
nt 2566 - 2571 :リンカー(Ser-Arg)
nt 2584 - 2631 :KRasタンパク質のC末端ドメイン
nt 2632 - 2634 :終止コドン
【実施例】
【0070】
(2)哺乳類細胞でのHRas活性を測定するためのEVリンカーを含む一分子型FRETバイオセンサーRaichu-HRasの発現とタイムラプス蛍光顕微鏡による解析。
実施例3-(2)に記載の方法により、解析した。図16A及びBにはタイムラプスFRETイメージングのデータを示している。プロトタイプのHRas〔Mochizuki, N., S. Yamashita, K. Kurokawa, Y. Ohba, T. Nagai, A. Miyawaki, and M. Matsuda. 2001. Spacio-temporal images of growth factor-induced activation of Ras and Rap1. Nature 411:1065-1068.〕より早期にかつ、強く活性化を検出できていることがわかる。
【実施例】
【0071】
(実施例10)
Eevee-ERK(3560NES)およびEevee-PKA(3536NES)を発現するトランスジェニックマウスの作成
(1)ERKおよびPKAの酵素活性を測定するための、EVリンカーを含む一分子型FRETバイオセンサーEevee-ERK(3560NES)およびEevee-PKA(3536NES)をコードする遺伝子の受精卵へのマイクロインジェクション
実施例1に記載のEevee-PKA(3536NES)あるいは実施例3に記載のEevee-ERK(3560NES)遺伝子を含む哺乳細胞発現プラスミドを、トランスポゾン認識配列を有するプラスミドpT2Aに挿入した。このプラスミドと、Tol2トランスポゾンを既報のとおりマイクロインジェクションした〔Sumiyama, K., K. Kawakami, and K. Yagita. 2010. A simple and highly efficient transgenesis method in mice with the Tol2 transposon system and cytoplasmic microinjection. Genomics 95:306-311. 〕。
【実施例】
【0072】
(2)バイオセンサーを発現するトランスジェニックマウスのスクリーニング
生まれたマウスは、420nmのLEDで照射し、470nmの短波長カットフィルターを使い、カラーデジタルカメラで撮影して緑色蛍光を確認することで容易に組み込みの起きたマウスを同定することができる。また、胎児の矢状断のFRET画像を実施例1に記載の蛍光顕微鏡で撮影することで、ERKあるいはPKA活性の空間分布を調べることもできる(図17)。
【実施例】
【0073】
(実施例11)
Eevee-ERK(3560NES)を発現する細胞株を用いた薬剤感受性試験
(1)ERKの酵素活性を測定するための、EVリンカーを含む一分子型FRETバイオセンサーEevee-ERK(3560NES)をコードする遺伝子を安定発現する細胞株の樹立
実施例3に記載のEevee-ERK(3560NES)遺伝子を含む哺乳細胞発現プラスミドを、トランスポゾン認識配列を有するプラスミドに挿入した。このプラスミドと、トランスポゾン発現ベクターを既報のとおりトランスフェクションし、ブラストサイジンでバイオセンサー発現細胞株を選別した〔Yusa, K., R. Rad, J. Takeda, and A. Bradley. 2009. Generation of
transgene-free induced pluripotent mouse stem cells by the piggyBac transposon.
Nat.Methods 6 (5):363-369〕。
【実施例】
【0074】
(2)バイオセンサーを安定発現する細胞株でのFRET測定を行った。
培養細胞株を96ウェル培養皿に植え、段階希釈した阻害剤を入れたのちに、25ng/mlのEGFで刺激した。30分後に、実施例3に記載のとおりERKの活性を測定した(図18A~図18H)。30個以上の細胞について、ERKの活性を測定し、平均したものをグラフ化した。用いた阻害剤はEGF受容体阻害剤(AG1478)、MEK阻害剤(PD15035、PD184351)、BRAFの阻害剤(PLX4720)、ホスファチジルイノシトール3リン酸キナーゼの阻害剤(LY294002)、RSKの阻害剤(BI-D1870)、JNKの阻害剤(JNK inhibitor VIII)である。結果はEGF依存性のERK活性化が、HeLa細胞においてはEGF受容体(AG1478)およびMEKの阻害剤(PD153035、PD184352)によって効果的に抑制されることを示している。EGF依存性のERK活性化が、これらの阻害剤によって濃度依存性に阻害されることが、生細胞を用いてきわめて容易に測定できた。
【実施例】
【0075】
(実施例12)
Eevee-PKA(3536NES)を発現するトランスジェニックマウスを用いた薬剤感受性試験
(1)Eevee-PKA(3536NES)を発現するトランスジェニックマウスの小腸イメージング
実施例10で作成したEevee-PKA(3536NES)を発現するトランスジェニックマウスをイソフルレンで麻酔し、小腸をオリンパス社製倒立型二光子顕微鏡IX81/FV1000にてタイムラプス撮影した。Spectra Physics社のチタンサファイヤレーザMai Tai DeepSee HPを用いて、細胞を840nmで励起し、CFPの蛍光をBA460-500
(オリンパス)蛍光フィルター、YFPの蛍光をBA520-560 (オリンパス)にて取得し、実施例3に記載のようにFRET画像を作成した。
【実施例】
【0076】
(2)生きたマウスでの薬剤効果の可視化
マウスにホスホジエステラーゼの阻害剤であるテオフィリンおよび環状アデノシン三リン酸のアナログであるアクトシンをそれぞれ静注し、PKAの活性を測定した。図19および図20に示すように、筋間神経細胞、腸管平滑筋、血管平滑筋のそれぞれにおけるPKAの活性変化がリアルタイムに可視化できる。
【実施例】
【0077】
(実施例13)
リンカーの長さを長くすると、プロテアーゼによる分解が起こりやすくなることが懸念される。そこで、リンカーからグリシンを減らして、アルファヘリクスを獲りやすいアラニンを増加させたリンカーである、EV3x8およびEV6x4を作成し、ゲインを調べた。
(1)(i)Eevee-PKA-3x8(3676NES)の作成
実施例1(1)(iii)と同様に、Eevee-PKA-20の哺乳細胞発現ベクターpEevee-PKA-20を制限酵素Asp718IとAor13HIで切断し、サイズの大きいほうの断片をベクターとして調整した。EV3x8リンカー(配列番号:45)に対応するDNAに制限酵素Asp718IとAor13HIを両端に付加したDNAは、合成した。このDNAをAsp718IとAor13HIで切断したものをインサートとして用いた。インサートとベクターをライゲーションし、pEevee-PKA-3x8を作成した。かかる塩基配列(配列番号:47)および予測されるアミノ酸配列(配列番号:48)を説明する:
nt 1 - 714 :オワンクラゲ(Aequorea)のYFP(YPet)
nt 715 - 720 :リンカー(Leu-Glu)
nt 721 - 1143 :酵母のRad53遺伝子のFHA1ドメイン
nt 1144 - 1149 :リンカー(Gly-Thr)
nt 1150 - 1551 :EV3x8リンカー(配列番号:45)
nt 1552 - 1557 :リンカー(Ser-Gly)
nt 1558 - 1581 :PKAの基質配列
nt 1582 - 1590 :リンカー(Gly-Gly-Arg)
nt 1591 - 2307 :オワンクラゲのECFP
nt 2308 - 2313 :リンカー(Ser-Arg)
nt 2314 - 2349 :核外移行シグナル(NES)
nt 2350 - 2352 :終止コドン
【実施例】
【0078】
(1)(ii)Eevee-PKA-6x4(3677NES)の作成
Eevee-PKA-20の哺乳細胞発現ベクターpEevee-PKA-20を制限酵素Asp718IとAor13HIで切断し、サイズの大きいほうの断片をベクターとして調整した。EV6x4リンカー(配列番号:46)に対応するDNAに制限酵素Asp718IとAor13HIを両端に付加したDNAは、合成した。このDNAをAsp718IとAor13HIで切断したものをインサートとして用いた。インサートとベクターをライゲーションし、pEevee-PKA-6x4を作成した。かかる塩基配列(配列番号:49)および予測されるアミノ酸配列(配列番号:50)を説明する:
nt 1 - 714 :オワンクラゲ(Aequorea)のYFP(YPet)
nt 715 - 720 :リンカー(Leu-Glu)
nt 721 - 1143 :酵母のRad53遺伝子のFHA1ドメイン
nt 1144 - 1149 :リンカー(Gly-Thr)
nt 1150 - 1521 :EV6x4リンカー(配列番号:46)
nt 1522 - 1527 :リンカー(Ser-Gly)
nt 1528 - 1551 :PKAの基質配列
nt 1552 - 1560 :リンカー(Gly-Gly-Arg)
nt 1561 - 2277 :オワンクラゲのECFP
nt 2278 - 2283 :リンカー(Ser-Arg)
nt 2284 - 2319 :核外移行シグナル(NES)
nt 2320 - 2322 :終止コドン
(2) 実施例1と同様にゲインを調べたところ、EV3x8およびEV6x4とも、116アミノ酸と匹敵するゲインを有することが分かった(図21)。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、非侵襲的なセリンスレオニンリン酸化酵素活性、チロシンリン酸化酵素活性、低分子量GTP結合タンパク質の活性などの測定を可能にするEVリンカー及び概EVリンカーを含む一分子型FRETバイオセンサー;該EVリンカー又はバイオセンサーをコードする遺伝子;該遺伝子を含む発現ベクター;前記バイオセンサーを発現し、非侵襲的なセリンスレオニンリン酸化酵素活性、チロシンリン酸化酵素活性、低分子量GTP結合タンパク質の活性の測定に有用な前記発現ベクターを保持する形質転換された細胞およびトランスジェニック非ヒト動物;前記バイオセンサーを用いるセリンスレオニンリン酸化酵素活性、チロシンリン酸化酵素活性、低分子量GTP結合タンパク質の活性を測定する方法、ならびにセリンスレオニンリン酸化酵素活性、チロシンリン酸化酵素活性、低分子量GTP結合タンパク質の活性調節物質のスクリーニング方法が提供される。
図面
【図10】
0
【図16A】
1
【図16B】
2
【図1】
3
【図2】
4
【図3】
5
【図4】
6
【図5】
7
【図6】
8
【図7A】
9
【図7B】
10
【図7C】
11
【図8A】
12
【図8B】
13
【図9A】
14
【図9B】
15
【図11A】
16
【図11B】
17
【図11C】
18
【図11D】
19
【図12】
20
【図13A】
21
【図13B】
22
【図14A】
23
【図14B】
24
【図14C】
25
【図14D】
26
【図15A】
27
【図15B】
28
【図15C】
29
【図17】
30
【図18A】
31
【図18B】
32
【図18C】
33
【図18D】
34
【図18E】
35
【図18F】
36
【図18G】
37
【図18H】
38
【図19】
39
【図20】
40
【図21】
41