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明細書 :成形体及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6503182号 (P6503182)
公開番号 特開2016-113595 (P2016-113595A)
登録日 平成31年3月29日(2019.3.29)
発行日 平成31年4月17日(2019.4.17)
公開日 平成28年6月23日(2016.6.23)
発明の名称または考案の名称 成形体及びその製造方法
国際特許分類 C08J   5/24        (2006.01)
D21H  19/24        (2006.01)
B32B   5/28        (2006.01)
B29C  70/06        (2006.01)
C08L  61/04        (2006.01)
C08L   1/02        (2006.01)
C08L  97/00        (2006.01)
B29K  61/04        (2006.01)
B29K 105/12        (2006.01)
B29L   9/00        (2006.01)
FI C08J 5/24 CEZ
D21H 19/24 A
B32B 5/28 Z
B29C 70/06
C08L 61/04
C08L 1/02
C08L 97/00
B29K 61:04
B29K 105:12
B29L 9:00
請求項の数または発明の数 8
全頁数 12
出願番号 特願2014-255911 (P2014-255911)
出願日 平成26年12月18日(2014.12.18)
審査請求日 平成29年7月4日(2017.7.4)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】小島 和重
【氏名】加藤 和生
【氏名】漆原 勝
【氏名】後藤 伸哉
【氏名】矢野 浩之
個別代理人の代理人 【識別番号】110000648、【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
審査官 【審査官】大村 博一
参考文献・文献 特開2009-019200(JP,A)
特開2014-216376(JP,A)
特開2011-162608(JP,A)
特開平07-144324(JP,A)
特開2001-354834(JP,A)
特開昭54-150474(JP,A)
特開昭54-034404(JP,A)
特表2000-515086(JP,A)
調査した分野 B29B 11/16;15/08-15/14
C08J 5/04-5/10;5/24
B32B 1/00-43/00
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
B29C 39/00-39/44
B29C 43/00-43/58
B29C 70/00-70/88
D21B 1/00- 1/38
D21C 1/00-11/14
D21D 1/00-99/00
D21F 1/00-13/12
D21G 1/00- 9/00
D21H 11/00-27/42
D21J 1/00- 7/00
C08G 4/00-16/06
D04H 1/00-18/04
D03D 1/00-27/18
特許請求の範囲 【請求項1】
植物繊維解繊物とレゾールタイプのフェノール樹脂との複合材料からなり、かつ、輸送機器の内装材、外装材、又は構造材に用いられる成形体(1)であって、
上記植物繊維解繊物は、セルロース成分とリグニン成分とを含有し、
上記複合材料中のセルロース成分の含有量が15質量%~30質量%であり、
上記成形体(1)の曲げ弾性率が12GPa~24GPaであることを特徴とする成形体(1)
【請求項2】
上記植物繊維解繊物中のリグニン成分の含有量が5質量%~25質量%であることを特徴とする請求項1に記載の成形体(1)
【請求項3】
上記フェノール樹脂が含浸された上記植物繊維解繊物からなるシート状の多孔体の積層体からなることを特徴とする請求項又はに記載の成形体(1)。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の成形体(1)の製造方法であって、
上記フェノール樹脂をアルコール又は水からなる溶媒に溶解してなる樹脂溶液を上記植物繊維解繊物からなる多孔体に含浸させる含浸工程と、上記フェノール樹脂の硬化温度未満の温度で上記多孔体中の溶媒を蒸発させる乾燥工程とを有する上記複合材料の製造方法によって得られる上記複合材料を上記フェノール樹脂の硬化温度以上の温度で成形する成形工程を有することを特徴とする成形体(1)の製造方法。
【請求項5】
上記複合材料の製造方法における上記含浸工程及び/又は上記乾燥工程は、減圧下において行うことを特徴とする請求項4に記載の成形体(1)の製造方法。
【請求項6】
上記複合材料の製造方法における上記多孔体は、シート状であることを特徴とする請求項4又は5に記載の成形体(1)の製造方法。
【請求項7】
上記成形工程においては、シート状の上記複合材料の積層体を成形することを特徴とする請求項4~6のいずれか1項に記載の成形体(1)の製造方法。
【請求項8】
上記成形工程においては、シート状の上記複合材料の粉砕物を成形することを特徴とする請求項4~6のいずれか1項に記載の成形体(1)の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、成体及の製造方法に関し、さらに詳しくは、植物繊維解繊物とフェノール樹脂との複合材料からなる成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース繊維は、全ての植物の基本骨格物質であり、地球上に一兆トンを超える蓄積がある。また、セルロース繊維は、鋼鉄の1/5の軽さであるにも関わらず、鋼鉄の5倍以上の強度、ガラスの1/50の低線熱膨張係数を有する繊維である。そこで、セルロース繊維は、樹脂等の機械的強度を向上させるためのフィラーとしての利用が期待されている。特にセルロース繊維を解繊処理したセルロースミクロフィブリルと樹脂との複合材料は、高強度な材料として期待されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特許第3641690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、フェノール樹脂とセルロースミクロフィブリルとの複合材料においては、高強度化のために、65質量%~100質量%程度の多量のセルロースミクロフィブリルの使用が必要になるという問題がある。一方、複合材料としては、高弾性の材料も望まれているが、フィラーの含有量を少なくしてより軽量化が図れると共に、高弾性の複合材料は未だ開発されていない。
【0005】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、セルロース成分の含有量を少なくしても高い弾性率を示すことができる、フェノール樹脂と植物繊維解繊物との複合材料の成形体、及びこの成形体の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、植物繊維解繊物とレゾールタイプのフェノール樹脂との複合材料からなり、かつ、輸送機器の内装材、外装材、又は構造材に用いられる成形体であって、
上記植物繊維解繊物は、セルロース成分とリグニン成分とを含有し、
上記複合材料中のセルロース成分の含有量が15質量%~30質量%であり、
上記成形体の曲げ弾性率が12GPa~24GPaであることを特徴とする成形体にある。
【0009】
本発明の他の態様は、上記成形体の製造方法であって、
上記フェノール樹脂をアルコール又は水からなる溶媒に溶解してなる樹脂溶液を上記植物繊維解繊物からなる多孔体に含浸させる含浸工程と、上記フェノール樹脂の硬化温度未満の温度で上記多孔体中の溶媒を蒸発させる乾燥工程とを有する上記複合材料の製造方法によって得られる上記複合材料を上記フェノール樹脂の硬化温度以上の温度で成形する成形工程を有することを特徴とする成形体の製造方法にある。
【発明の効果】
【0010】
リグニン成分とフェノール樹脂とは、互いに類似する分子構造を有するため、親和性が高い。そのため、リグニン成分とセルロース成分とを含有する植物繊維解繊物と、フェノール樹脂とは均一に混じり合い易い。そのため、複合材料中のセルロース成分の含有量が上記のごとく比較的少ない量であっても、複合材料からなる成形体は、高い弾性を発揮することが可能になる。
【0011】
従来、パルプ等を解繊してなる植物繊維解繊物においては、リグニンが原因となる変色を防止するために、亜塩素酸ナトリウムなどを用いた化学処理によりリグニンが除去されていた。そして、リグニンが除去された植物繊維解繊物は、フェノール樹脂との親和性が低いため、フェノール樹脂の弾性率等の機械的物性を高めるためには、添加量の増大を余儀なくされていた。本発明においては、上記のようにセルロース成分だけでなくリグニン成分を含有する植物繊維解繊物が用いられている。そのため、上記複合材料においては、植物繊維解繊物とフェノール樹脂との相溶性が高く、植物繊維解繊物とフェノール樹脂とが均一に混じり合う。それ故、複合材料からなる成形体は、上述のようにセルロース成分が比較的少ないにも関わらず、高い弾性率を発揮することができる。
【0012】
上記複合材料は、例えば上記含浸工程と上記乾燥工程とを行うことにより製造することができる。また、上記成形体は、例えば上記含浸工程と上記乾燥工程と上記成形工程とを行うことにより製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1における成形体の断面の走査型電子顕微鏡写真を示す図。
【図2】比較例2における成形体の断面の走査型電子顕微鏡写真を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の好ましい実施形態について説明する。
成形体を構成するための複合材料は、上述のように、セルロース成分とリグニン成分とを含有する植物繊維解繊物と、フェノール樹脂とからなる。

【0015】
(植物繊維解繊物)
植物繊維解繊物は、パルプを解繊することにより得られる。パルプは、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、綿、ビート、農産物残廃物、布等の天然植物素材、レーヨン、セロファン等の再生セルロース繊維、脱墨古紙、段ボール古紙、雑誌、コピー用紙等の紙から得られる。木材としては、例えばシトカスプルース、スギ、ヒノキ、ユーカリ、アカシア等が挙げられる。パルプは、これらのうち1種を原料としてもよいが、2種類以上を原料としてもよい。

【0016】
パルプは、化学的及び/又は機械的に植物原料をパルプ化することにより得られる。具体的には、ケミカルパルプ(クラフトパルプ(KP)、亜硫酸パルプ(SP))、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグランドパルプ(CGP)、ケミメカニカルパルプ(CMP)、砕木パルプ(GP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等が挙げられる。好ましくは、これらのパルプを主成分とする脱墨古紙パルプ、段ボール古紙パルプ、雑誌古紙パルプがよい。これらの原料は、必要に応じて脱リグニンを行うことにより、パルプ中のリグニン量を調整することができる。さらに脱ヘミセルロースを行ってもよい。

【0017】
これらのパルプの中でも、繊維の強度が強い針葉樹由来の各種クラフトパルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹酸素晒し未漂白クラフトパルプ(NOKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP))及びケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)が特に好ましい。リグニンやヘミセルロースが除去されていないパルプは、主にセルロース、ヘミセルロース、リグニンから構成される。リグニンの含有量は、ワイズ(wise)法により測定することができる。具体的には、例えば次のようにして測定することができる。

【0018】
まず、秤量したパルプ(又は植物繊維解繊物)2.5gに蒸留水150mlを加え、さらに亜塩素酸ナトリウム1gと氷酢酸0.2mlとを加えた後、温度80℃で1時間加熱する。さらに、亜塩素酸ナトリウム1g及び氷酢酸0.2mlを追加添加し、温度80℃で1時間加熱するという操作を4回実施した後、溶液をろ過する。回収物(固形分)を冷水500mlで洗浄した後、さらにアセトン50mlで洗浄する。その後、回収物を温度105℃で一定の重量(Xg)になるまで乾燥する。この操作による重量減少量(2.5g-Xg)がリグニン量に相当する。また、この方法を用いて、パルプ中又は植物繊維解繊物中のリグニン量を調整することが可能である。すなわち、上記方法でリグニン総量が分かっているパルプ又は植物繊維解繊物を用い、上述のワイズ法によるリグニンの除去反応時間等を調整することにより、リグニン残存量を変化させたパルプ又は植物繊維解繊物を得ることが可能になる。

【0019】
植物繊維解繊物を調製する方法としては、少なくともセルロース成分(セルロース繊維)とリグニン成分とを含有するパルプを解繊する方法が挙げられる。解繊方法としては、例えば、リファイナー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、一軸又は多軸混練機(好ましくは二軸混練機)、ビーズミル等によって、パルプの水懸濁液又はスラリーを機械的に摩砕或いは叩解する方法がある。必要に応じて、上記の解繊方法を組み合わせてもよい。解繊方法としては、特開2011-213754号公報、特開2011-195738号公報に記載された方法等を採用することができる。

【0020】
セルロース繊維長が可能な限り短くなるまで、パルプを解繊することが好ましい。これにより、繊維サイズの小さい植物繊維解繊物が得られる。植物繊維解繊物の繊維サイズの平均値(平均繊維幅、平均繊維長)は、電子顕微鏡の視野内に存在する少なくとも50本以上のセルロース繊維について測定した値の算術平均により算出される。植物の細胞壁の中には、幅4nm程のセルロースミクロフィブリル(シングルセルロースナノファイバー)が最小単位として存在する。これが、植物の基本骨格物質(基本エレメント)である。そして、このセルロースミクロフィブリルの他に、ヘミセルロース及びリグニンが集まって、植物の骨格を形成している。

【0021】
植物繊維解繊物の平均繊維幅は4nm~200nmであることが好ましく、10nm~100nmであることがより好ましく、20nm~50nmであることがさらに好ましい。平均繊維幅が大きすぎると、植物繊維解繊物による上述の弾性率向上効果が小さくなるおそれがある。一方、平均繊維幅が小さすぎると、植物繊維解繊物を得るための機械的解繊処理のコストが増大する。また、平均繊維長は1μm~100μmであることが好ましく、5μm~50μmであることがより好ましくは、5μm~30μmであることがさらに好ましい。繊維長が長すぎると加工時に繊維長が変化し、物性にばらつきが発生するおそれがある。また、繊維長が短すぎると、上述の植物繊維解繊物による弾性率向上効果が小さくなるおそれがある。なお、繊維長は、繊維の長手方向の長さ(最大値)であり、繊維幅は繊維長と直交する方向の長さ(最大値)である。植物繊維解繊物は、上述のようにパルプ中のセルロース繊維を機械的解繊等によりナノサイズのレベルまで解きほぐした繊維であることが好ましい。

【0022】
(フェノール樹脂)
フェノール樹脂としては、植物繊維解繊物との親和性が高いという観点から、レゾール型フェノール樹脂を用いる。レゾール型フェノール樹脂としては、例えばジメチレンエーテル型レゾール、メチロール型フェノール等を構成単位とする樹脂がある。また、フェノール樹脂としては、上述の樹脂をさらにメチロール化させた樹脂を用いることができる。さらに、フェノール樹脂としては、フェノール性水酸基を1つ以上含むリグニン、リグニン誘導体、リグニン分解物、及びこれらの変性物から選ばれる少なくとも1種と、石油資源から製造されたフェノール樹脂との混合物を用いることができる

【0023】
(複合材料)
複合材料は、必要に応じて、従来の熱硬化性樹脂に使用される各種添加剤を含有することができる。具体的には、例えば硬化剤(硬化触媒)、離型剤、植物繊維解繊物とフェノール樹脂との界面を強化させるためのカップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、染顔料、無機フィラー等を含有することができる。これらの添加剤は、本発明の所望の効果を損ねない範囲において添加することができる。

【0024】
複合材料は、例えば、フェノール樹脂を含有する樹脂溶液を植物繊維解繊物からなる多孔体に含浸させる含浸工程と、多孔体中の溶媒を蒸発させる乾燥工程とを行うことにより製造することができる。多孔体を得る方法としては、例えば、植物繊維解繊物の水スラリーをろ過することにより、シート状の多孔体を得る方法がある。ろ過する方法は、特に限定されず、ロートを用いても良いし、紙を作るときの方法を適用してもよい。水スラリーの濃度は、抄造性、流動性の観点から、0.01質量%~10質量%であることが好ましく、0.02質量%~5質量%であることがより好ましく、0.1質量%~1質量%であることがさらに好ましい。ろ過後、熱気乾燥、真空乾燥、圧縮等により、シート状の多孔体中の水分を減少させることができる。

【0025】
植物繊維解繊物とフェノール樹脂とを均一に混合する方法としては、上述の含浸工程のように、植物繊維解繊物からなる多孔体を、フェノール樹脂をアルコールまたは水に溶解してなる樹脂溶液に浸漬する方法がある。このとき、多孔体へのフェノール樹脂の含浸を促進するために、減圧下にて含浸を行うことが好ましい。より好ましくは、濃度5質量%~20質量%のフェノール樹脂溶液中にシート状の多孔体を浸漬し、減圧下にて徐々に多孔体中のフェノール樹脂を高濃度化する方法がよい。浸漬時間は限定されないが、1分~2日間が例示できる。アルコール又は水への溶解性や植物繊維解繊物との親和性という観点から、フェノール樹脂の数平均分子量は800~5000であることが好ましい。なお、この数平均分子量は、硬化前の分子量である。

【0026】
また、含浸工程においては、植物繊維解繊物の水またはアルコールのスラリーと、フェノール樹脂の水溶液またはアルコール溶液とを混合してなる混合スラリーをろ過することもできる。この場合にも、フェノール樹脂が含浸された植物繊維解繊物からなるシート状の多孔体を得ることができる。

【0027】
フェノール樹脂が含浸された多孔体の乾燥方法としては、減圧乾燥、熱気乾燥、真空乾燥がある。乾燥温度は、フェノール樹脂の硬化が進む温度(硬化温度)未満であることが好ましい。複合材料としては、例えば、上述のフェノール樹脂が含浸された多孔体、該多孔体の裁断物、粉砕物等がある。複合材料の形状としては、例えばシート状、ペレット状、粉末状等がある。

【0028】
(成形体)
上述の複合材料からなる成形体は、複合材料を成形して該複合材料中のフェノール樹脂を硬化させることにより得られる。成形体を製造する方法としては、フェノール樹脂が含浸されたシート状の多孔体からなる複合材料を加熱圧縮する方法がある(圧縮成形)。シート状の複合材料の積層体を成形に用いることもできる。例えば、圧縮成形を行う場合には、好ましくは1MPa~200MPa、より好ましくは10MPa~100MPaの圧縮条件下で成形を行うことが好ましい。また、圧縮成形を行う場合には、好ましくは120℃~200℃、より好ましくは140℃~180℃の加熱温度で成形を行うことが好ましい。加熱圧縮時間は特に限定されず、例えば1分~48時間、好ましくは0.1時間~24時間、より好ましくは0.1時間~10時間であることがよい。

【0029】
加熱圧縮の際には、多孔体のさらに内部までフェノール樹脂を含浸させるため、一旦、フェノール樹脂の粘度が低下する温度で多孔体を圧縮した状態で保持した後に、フェノール樹脂が硬化する温度まで加熱温度を上昇させてフェノール樹脂を硬化させることが好ましい。フェノール樹脂の粘度を低下させる加熱温度は、例えば50℃~140℃であり、好ましくは70℃~120℃であることがよい。この温度での保持時間は、例えば10秒~10時間であり、好ましくは30秒~5時間であることがよく、より好ましくは1分~2時間であることがよい。フェノール樹脂を硬化させる温度は、例えば160℃を超える温度である。これらの加熱温度は、フェノール樹脂の種類に応じて適宜調整することができる。

【0030】
フェノール樹脂が含浸された微細繊維のシートを細かく裁断し、その裁断物を樹脂の成形において汎用されるペレットと同じように成形を行うことにより成形体を得ることもできる。

【0031】
複合材料は、所望の形状に成形されて成形体が得られる。複合材料の形状としては、上述のように、例えばシート、ペレット、粉末等が挙げられ、複合材料の成形方法としては、上述の圧縮成形の他に、例えば射出成形、押出成形、中空成形、発泡成形等が挙げられる。成形条件は、一般的なフェノール樹脂の成形条件に基づいて適宜調整することが可能である。

【0032】
複合材料の成形体においては、リグニン成分を含有するパルプから得られた植物繊維解繊物がフェノール樹脂と均一混合しており、上述のように高い弾性率を示す。そのため、成形体は、高い弾性率が要求される用途に好適である。成形体の用途は、具体的には、例えば、自動車、電車、船舶、飛行機等の輸送機器の内装材、外装材、又は構造材である。
【実施例】
【0033】
(実施例1)
次に、本発明の実施例について説明する。まず、以下のようにして複合材料及びその成形体を製造した。具体的には、まず、パルプを機械的に解繊することにより、リグニンの含有量が22質量%、ヘミセルロースの含有量が25質量%、セルロースの含有量が53質量%であり、平均繊維長が30μm、平均繊維幅が50nmの植物繊維解繊物を得た。次いで、植物繊維解繊物を水に分散させて、植物繊維解繊物の含有量が0.2質量%の水スラリーを作製した。次に、保留粒子径サイズが4A(JIS P3801規格)である紙フィルターを配置したブフナーロート(直径150mm)を用いて水スラリー1Lをろ過することにより、植物繊維解繊物からなるシート状の多孔体を作製した。その後、多孔体を温度80℃で24時間真空乾燥させた。
【実施例】
【0034】
次に、数平均分子量3000のレゾール型のフェノール樹脂のメタノール溶液に、多孔体を浸漬させた。メタノール溶液中のフェノール樹脂の濃度は10質量%である。次いで、多孔体を浸漬したフェノール樹脂のメタノール溶液を減圧下において24時間静置させることにより、シート状の多孔体中へのフェノール樹脂の含浸を進行させた。減圧は、アスピレータを用いた連続吸引によって行った。次いで、フェノール樹脂が含浸されたシート状の多孔体をフェノール樹脂の硬化温度未満の温度で乾燥させた。これにより、複合材料として、フェノール樹脂が含浸されたシート状の多孔体を得た。質量の増加分より求められるフェノール樹脂の含浸量は51質量%であり、シート状の多孔体中のセルロースの含有量は26重量%であった。
【実施例】
【0035】
次いで、シート状の複合材料を直径50mmの円形シート状に分断し、金型内に5枚の複合材料(円形シート)を積層し、圧力100MPa、温度160℃の条件で30分間圧縮成形を行った。圧縮方向は積層方向である。これにより、フェノール樹脂が硬化し、植物繊維解繊物とフェノール樹脂との硬化物からなる成形体を得た。成形体の厚みは0.5mmであった。
【実施例】
【0036】
次に、成形体を幅8mmの短冊状に分断し、温度180℃で1時間エージング処理を行った。その後、温度23℃、相対湿度50%の条件で、三点支持中央集中荷重方式による測定法に基づいて曲げ弾性率を測定した(JIS K6911(1995年))。その結果を後述の表1に示す。また、成形体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。倍率30倍のSEM写真を図1に示す。
【実施例】
【0037】
(実施例2)
本例においては、シート状の多孔体中のセルロースの含有量を18質量%に変更した点を除いては、実施例1と同様に複合材料及び成形体を作製した。本例の成形体についても、実施例1と同様にして曲げ弾性率を測定した。その結果を表1に示す。
【実施例】
【0038】
(実施例3)
本例においては、シート状の多孔体中のセルロースの含有量を15質量%に変更した点を除いては、実施例1と同様に複合材料を作製した。また、圧縮成形時に、圧力100MPa、温度90℃の条件で30分間圧縮を行った後、圧力100MPa、温度160℃の条件で30分間さらに圧縮を行った点を除いては、実施例1と同様にして成形体を作製した。本例の成形体についても、実施例1と同様にして曲げ弾性率を測定した。その結果を表1に示す。
【実施例】
【0039】
(実施例4)
本例においては、シート状の多孔体中のセルロースの含有量を15質量%に変更した点を除いては、実施例1と同様にシート状の複合材料を作製した。次いで、シート状の複合材料を10mm×10mmのサイズに粉砕し、この粉砕物を用いた点を除いては、実施例1と同様にして行った。本例の成形体についても、実施例1と同様にして曲げ弾性率を測定した。その結果を表1に示す。
【実施例】
【0040】
(実施例5)
本例においては、シート状の多孔体中のセルロースの含有量を15質量%に変更した点を除いては、実施例1と同様に複合材料を作製した。また、圧縮成形時に、圧力36MPa、温度90℃の条件で30分間圧縮を行った後、圧力36MPa、温度160℃の条件で30分間さらに圧縮を行った点を除いては、実施例1と同様にして成形体を作製した。本例の成形体についても、実施例1と同様にして曲げ弾性率を測定した。その結果を表1に示す。
【実施例】
【0041】
(実施例6)
本例においては、リグニンの含有量が5質量%、ヘミセルロースの含有量が31質量%、セルロースの含有量が64質量%の植物繊維解繊物を用いた点を除いては、実施例1と同様にして複合材料及び成形体を作製した。本例の成形体についても、実施例1と同様にして曲げ弾性率を測定した。その結果を表1に示す。
【実施例】
【0042】
(比較例1)
本例においては、植物繊維解繊物を用いずに、フェノール樹脂を用いて実施例1と同様に圧縮成形を行うことにより、フェノール樹脂からなる成形体を作製した。本例の成形体についても、実施例1と同様にして曲げ弾性率を測定した。その結果を表1に示す。
【実施例】
【0043】
(比較例2)
本例においては、リグニンとヘミセルロースを含まないセルロース100質量%のシート状の多孔体を用い、多孔体中のセルロースの含有量を70質量%に変更した点を除いては、実施例1と同様にして複合材料及び成形体を作製した。本例の成形体についても、実施例1と同様にして曲げ弾性率を測定した。その結果を表1に示す。また、実施例1と同様に、本例の成形体の断面をSEMにより観察し、倍率30倍のSEM写真を図2に示す。
【実施例】
【0044】
(比較例3)
本例においては、リグニンとヘミセルロースを含まないセルロース100質量%のシート状の多孔体を用い、多孔体中のセルロースの含有量を50質量%に変更した点を除いては、実施例1と同様にして複合材料及び成形体を作製した。本例の成形体についても、実施例1と同様にして曲げ弾性率を測定した。その結果を表1に示す。
【実施例】
【0045】
【表1】
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【実施例】
【0046】
表1より知られるように、実施例1~実施例6のように、セルロース成分とリグニン成分とを含有する植物繊維解繊物と、フェノール樹脂との複合樹脂は、例えば15質量%~30質量%程度の少ないセルロース成分の含有量であっても、曲げ弾性率の高い成形体の製造を可能にする。これらの実施例の成形体は、フェノール樹脂からなる比較例1の成形体に比べて3倍を超える高い曲げ弾性率を示した。一方、リグニンを含有していない植物繊維解繊物を用いた比較例2及び3においては、複合材料中のセルロース成分を増大させることにより、比較例1に比べると成形体の曲げ弾性率の向上は可能であるが、リグニンを含有する植物繊維解繊物を用いた実施例程の大きな向上効果は認められない。
【実施例】
【0047】
リグニンを含有する植物繊維解繊物を用いて作製された複合材料の成形体の代表例として、実施例1の成形体の断面が図1に示されている。また、リグニンを含有していない植物繊維解繊物を用いて作製された複合材料の成形体の代表例として、比較例2の成形体の断面が図2に示されている。図1より知られるように、実施例1の成形体1においては、植物繊維解繊物からなるシート状の多孔体間の界面が明確ではなく、多孔体間に明確なフェノール樹脂の単独層は観察されなかった。即ち、リグニンを含有する植物繊維解繊物とフェノール樹脂とが均一に混合されていた。この均一な混合状態は、成形体1の全体が均一なうすい灰色で表されていることからわかる。一方、図2に示すごとく、比較例2の成形体9においては、植物繊維解繊物からなるシート状の多孔体91間の界面が明確であり、多孔体91間にフェノール樹脂の単独層92が明確に観察された。即ち、多孔体91を表す薄い灰色の層同士の間に、フェノール樹脂の単独層92を表す 濃い灰色の層が存在している。また、比較例2の成形体9においては、リグニンを含有していない植物繊維解繊物とフェノール樹脂との親和性が悪いため、気泡が存在していた。気泡は、図2において、白い部分として表わされている。なお、図1及び図2においては、成形体1、9を挟む治具99が表されているが、この治具99は成形体1、9を固定するためのものに過ぎない。
【実施例】
【0048】
実施例1~実施例6における複合材料は、植物繊維解繊物中のセルロース成分の表面に存在するリグニン成分がフェノール樹脂と類似構造を有するため、植物繊維解繊物とフェノール樹脂との相溶性が高い。また、リグニンはフェノール樹脂と共重合を形成することができるため、複合材料の成形体においては植物繊維解繊物とフェノール樹脂との界面の接着強度の向上が可能になる。その結果、植物繊維解繊物による補強効果を十分に得ることができ、上述のように成形体の弾性率を向上できると考えられる。
【実施例】
【0049】
また、実施例1~実施例6のように、植物繊維解繊物中のリグニン成分の含有量は、5~30質量%であることが好ましく、5質量%~25質量%であることがより好ましい。この場合には、複合材料中のセルロース成分が少なくても、より弾性率の高い複合材料を得ることできる。また、リグニン量を上記範囲に調整することにより、植物繊維解繊物からなる多孔体中へのフェノール樹脂の含浸が容易になる。
【実施例】
【0050】
また、実施例1~実施例6のように、フェノール樹脂は、レゾールタイプであることが好ましい。この場合には、フェノール樹脂と植物繊維解繊物との親和性がより向上し、複合材料の弾性率がより向上する。
【実施例】
【0051】
成形体の曲げ弾性率12GPa~24GPaである成形体は、特に高い弾性率が要求される自動車、電車、船舶、飛行機等の輸送機器の内装材、外装材、又は構造材の用途に特に好適である。
【実施例】
【0052】
実施例における複合材料は、フェノール樹脂を溶媒に溶解してなる樹脂溶液を植物繊維解繊物からなる多孔体に含浸させる含浸工程と、フェノール樹脂の硬化温度未満の温度で多孔体中の溶媒を蒸発させる乾燥工程とを行うことにより製造される。この製造方法において、含浸工程及び/又は上記乾燥工程は、減圧下において行うことが好ましい。含浸工程を減圧条件下で行うと、多孔体中にフェノール樹脂が含浸し易くなる。また、乾燥工程を減圧下において行うと、溶媒の除去が容易になる。
【実施例】
【0053】
また、実施例の成形体は、複合材料をフェノール樹脂の硬化温度以上の温度で成形する成形工程を行うことにより製造される。成形工程においては、実施例1~実施例3、実施例5、及び実施例6のように、シート状の複合材料の積層体を成形することができる。この場合には、厚みを大きくすることができるため、成形体の弾性率をより向上させることができる。
また、成形工程においては、実施例4のように、シート状の複合材料の粉砕物を成形することができる。この場合には、粉砕物をトランスファー成形又は射出成形に供することができるため、成形体の生産性の向上が可能になる。
【実施例】
【0054】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 成形体
図面
【図1】
0
【図2】
1