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明細書 :精神疾患判定装置、及び、精神疾患判定方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6455656号 (P6455656)
公開番号 特開2016-054839 (P2016-054839A)
登録日 平成30年12月28日(2018.12.28)
発行日 平成31年1月23日(2019.1.23)
公開日 平成28年4月21日(2016.4.21)
発明の名称または考案の名称 精神疾患判定装置、及び、精神疾患判定方法
国際特許分類 A61B  10/00        (2006.01)
FI A61B 10/00 H
請求項の数または発明の数 8
全頁数 20
出願番号 特願2014-182369 (P2014-182369)
出願日 平成26年9月8日(2014.9.8)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用 開催日:平成26年3月14日 集会名、開催場所: 日本統合失調症学会主催 第9回日本統合失調症学会 京都テルサ(京都市南区東九条下殿田町70番地) 公開者:三浦健一郎、橋本亮太、藤本美智子、山森英長、安田由華、大井一高、梅田知美、及び 武田雅俊
審査請求日 平成29年7月12日(2017.7.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
発明者または考案者 【氏名】橋本 亮太
【氏名】藤本 美智子
【氏名】三浦 健一郎
個別代理人の代理人 【識別番号】100168583、【弁理士】、【氏名又は名称】前井 宏之
審査官 【審査官】門田 宏
参考文献・文献 国際公開第2013/102768(WO,A1)
国際公開第2012/165602(WO,A1)
調査した分野 A61B 10/00
特許請求の範囲 【請求項1】
精神疾患を判定する精神疾患判定装置であって、
予め選定された眼球運動テストの画像を見る際の被験者の眼球の動きを検出する検出手段と、
前記検出手段によって検出された眼球の動きを分析し、3個以上の第1所定数の眼球運動特徴を求める分析手段と、
前記分析手段によって求められた前記第1所定数の眼球運動特徴から、健常者と前記精神疾患の患者とを判別するために有効な2個以上の第2所定数の眼球運動特徴を、有意確率に基づいて選択し、前記第2所定数の眼球運動特徴に基づき、前記被験者の前記精神疾患を判定する判定手段と
を備える、精神疾患判定装置。
【請求項2】
統合失調症の患者であるか否かを判定する精神疾患判定装置であって、
予め選定された眼球運動テストの画像を見る際の被験者の眼球の動きを検出する検出手段と、
前記検出手段によって検出された眼球の動きを分析し、3個以上の第1所定数の眼球運動特徴を求める分析手段と、
前記分析手段によって求められた前記第1所定数の眼球運動特徴から、健常者と前記統合失調症の患者とを判別するために有効な2個以上の第2所定数の眼球運動特徴を、有意確率に基づいて選択し、前記第2所定数の眼球運動特徴に基づき、前記被験者が前記統合失調症の患者であるか否かを判定する判定手段と
を備える、精神疾患判定装置。
【請求項3】
前記判定手段は、前記第2所定数の眼球運動特徴の関数を判別式として求め、前記判別式によって、前記被験者が前記統合失調症の患者であるか否かを判定する、請求項2に記載の精神疾患判定装置。
【請求項4】
前記判定手段は、前記判別式として、前記第2所定数の眼球運動特徴に関する線形方程式を求める、請求項に記載の精神疾患判定装置。
【請求項5】
前記眼球運動テストは、フリービューイングテスト、スムースパシュートテスト、及び、注視テストを含む、請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の精神疾患判定装置。
【請求項6】
2個以上の第2所定数の眼球運動特徴に基づき、被験者が統合失調症の患者であるか否かを判定する精神疾患判定装置であって、
前記第2所定数の眼球運動特徴は、フリービューイングテストにおけるスキャンパス距離、スムースパシュートテストの第1リサージュにおける垂直方向の位置ゲイン、前記スムースパシュートテストの前記第1リサージュにおける注視数、注視テストの第1妨害刺激における注視期間、及び、前記スムースパシュートテストの水平パシュートにおけるS/N比を
前記スムースパシュートテストは、前記第1リサージュと、前記第1リサージュと相違する第2リサージュとを含み、
前記第1リサージュは、前記第2リサージュよりも注視点の動きが速く、
前記注視テストは、前記第1妨害刺激と、前記第1妨害刺激と相違する第2妨害刺激とを含み、
前記第1妨害刺激は、前記第2妨害刺激より位置が前記被験者の視点から遠い、精神疾患判定装置。
【請求項7】
精神疾患を判定する精神疾患判定装置における精神疾患判定方法であって、
前記精神疾患判定装置が、眼球運動テストの画像を見る際の被験者の眼球の動きを検出する検出工程と、
前記精神疾患判定装置が、前記検出工程において検出された眼球の動きを分析する分析工程と、
前記精神疾患判定装置が、前記分析工程において求められた3個以上の第1所定数の眼球運動特徴から、健常者と前記精神疾患の患者とを判別するために有効な2個以上の第2所定数の眼球運動特徴を、有意確率に基づいて選択し、前記第2所定数の眼球運動特徴に基づき、前記被験者の前記精神疾患を判定する判定工程と
を含む、精神疾患判定方法。
【請求項8】
統合失調症の患者であるか否かを判定する精神疾患判定装置における精神疾患判定方法であって、
前記精神疾患判定装置が、眼球運動テストの画像を見る際の被験者の眼球の動きを検出する検出工程と、
前記精神疾患判定装置が、前記検出工程において検出された眼球の動きを分析する分析工程と、
前記精神疾患判定装置が、前記分析工程において求められた2個以上の第1所定数の眼球運動特徴から、健常者と前記統合失調症の患者とを判別するために有効な2個以上の第2所定数の眼球運動特徴を、有意確率に基づいて選択し、前記第2所定数の眼球運動特徴に基づき、前記被験者が前記統合失調症の患者であるか否かを判定する判定工程と
を含む、精神疾患判定方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、精神疾患の患者であるか否かを判定する精神疾患判定装置、及び、精神疾患判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、統合失調症に罹患しているか否かの判定を行う統合失調症診断装置が知られている。例えば、刺激表示手段、視点特定手段、反応的探索スコア算出手段、運動数計測手段、及び、判定手段を備える統合失調症診断装置が開示されている(特許文献1参照)。
【0003】
上記刺激表示手段は、被験者に対して視覚的な刺激を提示する。上記視点特定手段は、上記刺激表示手段に対する被験者の視点を特定する。上記反応的探索スコア算出手段は、反応的探索スコアを算出する。上記運動数計測手段は、運動数を計測する。上記判定手段は、反応的探索スコア及び運動数から被験者が統合失調症に罹患しているか否かを判定する。
【0004】
特許文献1に記載の統合失調症診断装置によれば、被験者が統合失調症に罹患している可能性があるか、或いは健常者であるかを高精度で判定できると特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2004-298526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の統合失調症診断装置では、判定精度が充分ではない(70%~80%である)ため、臨床への適用が困難である。また、特許文献1に記載の統合失調症診断装置は、複雑な構造を備えるため製造コストが高いという問題もある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、精神疾患の患者であるか否かを正確に判定することの可能な精神疾患判定装置、及び、精神疾患判定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の精神疾患判定装置は、精神疾患を判定する精神疾患判定装置であって、検出手段、分析手段、及び、判定手段を備える。前記検出手段は、予め選定された眼球運動テストの画像を見る際の被験者の眼球の動きを検出する。前記分析手段は、前記検出手段によって検出された眼球の動きを分析し、3個以上の第1所定数の眼球運動特徴を求める。前記判定手段は、前記分析手段によって求められた前記第1所定数の眼球運動特徴に基づき、前記被験者の前記精神疾患を判定する。
【0009】
本発明の第2の精神疾患判定装置は、精神疾患の患者であるか否かを判定する精神疾患判定装置であって、検出手段、分析手段、及び、判定手段を備える。前記検出手段は、予め選定された眼球運動テストの画像を見る際の被験者の眼球の動きを検出する。前記分析手段は、前記検出手段によって検出された眼球の動きを分析し、3個以上の第1所定数の眼球運動特徴を求める。前記判定手段は、前記分析手段によって求められた前記第1所定数の眼球運動特徴に基づき、前記被験者が前記精神疾患の患者であるか否かを判定する。
【0010】
本発明の第3の精神疾患判定装置は、前記第2の精神疾患判定装置であって、前記判定手段は、前記分析手段によって求められた前記第1所定数の眼球運動特徴から、健常者と前記精神疾患の患者とを判別するために有効な2個以上の第2所定数の眼球運動特徴を選択する。また、前記判定手段は、前記第2所定数の眼球運動特徴に基づき、前記被験者が前記精神疾患の患者であるか否かを判定する。
【0011】
本発明の第4の精神疾患判定装置は、前記第3の精神疾患判定装置であって、前記判定手段は、前記分析手段によって求められた前記第1所定数の眼球運動特徴から、互いに独立性の強い前記第2所定数の眼球運動特徴を選択する。
【0012】
本発明の第5の精神疾患判定装置は、前記第4の精神疾患判定装置であって、前記判定手段は、ステップワイズ法によって、前記分析手段によって求められた前記第1所定数の眼球運動特徴から、前記健常者と前記精神疾患の患者とを判別するために有効な前記第2所定数の眼球運動特徴を選択する。
【0013】
本発明の第6の精神疾患判定装置は、前記第3の精神疾患判定装置から前記第5の精神疾患判定装置のいずれか1つの精神疾患判定装置であって、前記判定手段は、前記第2所定数の眼球運動特徴の関数を判別式として求め、前記判別式によって、前記被験者が前記精神疾患の患者であるか否かを判定する。
【0014】
本発明の第7の精神疾患判定装置は、前記第6の精神疾患判定装置であって、前記判定手段は、前記判別式として、前記第2所定数の眼球運動特徴に関する線形方程式を求める。
【0015】
本発明の第8の精神疾患判定装置は、前記第3の精神疾患判定装置から前記第6の精神疾患判定装置のいずれか1つの精神疾患判定装置であって、前記眼球運動テストは、前記健常者と前記精神疾患の患者との間でテスト結果に顕著な差異がある眼球運動テストである。
【0016】
本発明の第9の精神疾患判定装置は、前記第8の精神疾患判定装置であって、前記眼球運動テストは、注視テスト、スムースパシュートテスト、及び、フリービューイングテストのうち、少なくとも1つを含む。
【0017】
本発明の第10の精神疾患判定装置は、前記第3の精神疾患判定装置から前記第9の精神疾患判定装置のいずれか1つの精神疾患判定装置であって、前記精神疾患は、統合失調症であり、前記第2所定数の眼球運動特徴は、フリービューイングテストにおけるスキャンパス距離、又は、前記スキャンパス距離と相関の強い他の眼球運動特徴を含む。
【0018】
本発明の第11の精神疾患判定装置は、前記第3の精神疾患判定装置から前記第9の精神疾患判定装置のいずれか1つの精神疾患判定装置であって、前記第2所定数の眼球運動特徴は、スムースパシュートテストの速いリサージュにおける垂直方向の位置ゲイン、又は、前記位置ゲインと相関の強い他の眼球運動特徴を含む。
【0019】
本発明の第12の精神疾患判定装置は、2個以上の第2所定数の眼球運動特徴に基づき、被験者が統合失調症の患者であるか否かを判定する精神疾患判定装置であって、前記第2所定数の眼球運動特徴は、フリービューイングテストにおけるスキャンパス距離、スムースパシュートテストの速いリサージュにおける垂直方向の位置ゲイン、スムースパシュートテストの速いリサージュにおける注視数、注視テストの遠い妨害刺激における注視期間、及び、スムースパシュートテストの水平パシュートにおけるS/N比のうち、少なくとも1つを含む。
【0020】
本発明の第1の精神疾患判定方法は、精神疾患かを判定する精神疾患判定方法であって、検出工程、分析工程、及び、判定工程を含む。前記検出工程は、眼球運動テストの画像を見る際の被験者の眼球の動きを検出する。前記分析工程は、前記検出工程において検出された眼球の動きを分析し、3個以上の第1所定数の眼球運動特徴を求める。前記判定工程は、前記分析工程において求められた前記第1所定数の眼球運動特徴に基づき、前記被験者の前記精神疾患を判定する。
【0021】
本発明の第2の精神疾患判定方法は、精神疾患の患者であるか否かを判定する精神疾患判定方法であって、検出工程、分析工程、及び、判定工程を含む。前記検出工程は、眼球運動テストの画像を見る際の被験者の眼球の動きを検出する。前記分析工程は、前記検出工程において検出された眼球の動きを分析し、3個以上の第1所定数の眼球運動特徴を求める。前記判定工程は、前記分析工程において求められた前記第1所定数の眼球運動特徴に基づき、前記被験者が前記精神疾患の患者であるか否かを判定する。
【0022】
本発明の第3の精神疾患判定方法は、前記第2の精神疾患判定方法であって、前記判定工程において、前記分析工程において求められた前記第1所定数の眼球運動特徴から、健常者と前記精神疾患の患者とを判別するために有効な2個以上の第2所定数の眼球運動特徴を選択し、前記第2所定数の眼球運動特徴に基づき、前記被験者が前記精神疾患の患者であるか否かを判定する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の精神疾患判定装置、及び、精神疾患判定方法によれば、精神疾患の患者であるか否かを正確に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係る精神疾患判定装置の構成の一例を示す図である。
【図2】図1に示す眼球運動検出部によって検出された結果の一例を示す図である。(a)は、健常者の眼球運動の一例を示す図であり、(b)は、統合失調症患者の眼球運動の一例を示す図である。
【図3】図1に示す精神疾患判定装置による判別式生成処理に用いられる健常者及び統合失調症患者の構成の一例を示す図表である。
【図4】図1に示す精神疾患判定装置における判別式生成処理の一例を示すフローチャートである。
【図5】図1に示すモニタにフリービューイングテストの画像を表示した場合に、分析部によって得られる眼球運動特徴の一例を示す図表である。
【図6】図1に示すモニタにスムースパシュートテストの画像(水平パシュート及び遅いリサージュ)を表示した場合に、分析部によって得られる眼球運動特徴の一例を示す図表である。
【図7】図1に示すモニタにスムースパシュートテストの画像(速いリサージュ)を表示した場合に、分析部によって得られる眼球運動特徴の一例を示す図表である。
【図8】図1に示すモニタに注視テストの画像を表示した場合に、分析部によって得られる眼球運動特徴の一例を示す図表である。
【図9】図1に示す選択部によって選択された眼球運動特徴の一例を示す図表である。
【図10】図1に示す精神疾患判定装置における判別処理の一例を示すフローチャートである。
【図11】図1に示す評価部による評価結果の一例を示す図表である。
【図12】図1に示す評価部による評価結果の一例を示す棒グラフである。
【図13】図1に示す評価部による評価結果の一例を示すROCグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面(図1~図13)を参照しながら説明する。なお、図中、同一又は相当部分については同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。

【0026】
まず、図1を参照して、本実施形態に係る精神疾患判定装置100について説明する。図1は、本実施形態に係る精神疾患判定装置100の構成の一例を示す図である。精神疾患判定装置100は、モニタ1、ビデオカメラ2、及び、制御装置3を備えている。なお、本実施形態では、精神疾患判定装置100が、統合失調症であるか否かを判定する場合について説明する。

【0027】
モニタ1は、LCD(Liquid Crystal Display)等からなり、眼球運動テストの静止画像又は動画像を表示する。本実施形態では、モニタ1は、例えば、19インチ、解像度1280×1024ピクセルのLCDである。また、被験者は、モニタ1の画面から、例えば、視距離70cmの位置になるように椅子に座る。本実施形態では、眼球運動テストは、健常者と精神疾患(本実施形態では、統合失調症)の患者との間でテスト結果に顕著な差異がある眼球運動テストである。具体的には、眼球運動テストは、フリービューイング(free viewing)テスト、スムースパシュート(smooth pursuit)テスト、及び、注視(fixation stability)テストである。

【0028】
フリービューイングテストでは、例えば、56種類の静止画像が8秒ずつモニタ1に表示される。また、被験者にはモニタ1に表示された静止画像を自由に見るように指示される。

【0029】
スムースパシュートテストでは、例えば、全面黒色のモニタ1上に注視点が表示されて動かされる。また、被験者は、動く注視点を目で追うように指示される。注視点は、本実施形態では、下記の3種類の移動方法で、それぞれ、20秒間動かされる。
第1トライアル:注視点を水平方向に移動する(水平パシュート)
第2トライアル:軌跡がリサージュ図形を描くように注視点を遅く動かす(遅いリサージュ:例えば、水平方向0.15Hz、垂直方向0.2Hz)
第3トライアル:軌跡がリサージュ図形を描くように注視点を速く動かす(速いリサージュ:例えば、水平方向0.3Hz、垂直方向0.4Hz)

【0030】
注視テストでは、全面黒色のモニタ1の中央に注視点(白点)が表示され、その近傍(又は、遠方)に妨害刺激(白点)が表示される。また、被験者は妨害刺激が表示されても5秒間は上記注視点を注視するよう指示される。本実施形態では、上記近傍の妨害刺激は、上記注視点から視野角1.5度の位置に表示され、上記遠方の妨害刺激は、上記注視点から視野角2.5度の位置に表示される。

【0031】
ビデオカメラ2は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)を備え、被験者の眼球運動(眼球EBの動き)を検出する。具体的には、例えば、ビデオカメラ2として、カナダのSRリサーチ社製のアイリンク(EyeLink)1000を用いて、被験者の左目の眼球運動を検出する。ここで、ビデオカメラ2は、「検出手段」の一部に相当する。図1において、眼球EBは、被験者の眼球を示す。

【0032】
制御装置3は、例えば、パーソナルコンピュータであって、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、及び、HDD(Hard Disk Drive)を備える。上記ROMには、制御プログラムが格納されている。そして、上記CPUは、上記ROMに格納された制御プログラムを読み出して実行することによって、テスト表示部31、眼球運動検出部32、分析部33、選択部34、及び、評価部35を含む各種機能部として機能する。また、上記CPUは、上記ROMに格納された制御プログラムを読み出して実行することによって、上記HDDを、記憶部36として機能させる。上記RAMは、上記CPUが、上記制御プログラムを実行する際の作業領域として用いられる。

【0033】
記憶部36は、フリービューイングテスト、スムースパシュートテスト、及び、注視テストにおいてモニタ1に表示する静止画像データ及び動画像データ、並びに、眼球運動検出部32によって検出された眼球位置データを記憶する。また、記憶部36は、分析部33によって求められた各眼球運動特徴の値、及び、評価部35によって用いられる判別式データ等を記憶する。なお、判別式データにおいて示される判別式は、下記の(1)式である。

【0034】
テスト表示部31、眼球運動検出部32、分析部33、選択部34、及び、評価部35は、図4を用いて説明する判別式生成処理、及び、図10を用いて説明する判別処理を実行する。ここで、「判別式生成処理」とは、被験者が統合失調症患者であるか否かを判別する判別式を生成する処理である。また、「判別処理」とは、「判別式生成処理」によって生成された判別式によって、被験者が統合失調症患者であるか否かを判別する処理である。以下の説明においては、上記判別式生成処理を実行する場合の動作と、上記判別処理を実行する場合の動作とを区別して、テスト表示部31、眼球運動検出部32、分析部33、選択部34、及び、評価部35の機能を説明する。

【0035】
テスト表示部31は、上記判別式生成処理及び上記判別処理において、健常者と上記精神疾患(本実施形態では、統合失調症)の患者との間でテスト結果に顕著な差異がある眼球運動テストをモニタ1に表示する。具体的には、テスト表示部31は、フリービューイングテスト、スムースパシュートテスト、及び、注視テストにそれぞれ対応する静止画像又は動画像を記憶部36から読み出して、モニタ1に表示する。

【0036】
眼球運動検出部32は、上記判別式生成処理及び上記判別処理において、ビデオカメラ2を介して、被験者の眼球運動を検出し、記憶部36に記録する。ここで、眼球運動検出部32は、「検出手段」の一部に相当する。

【0037】
分析部33は、上記判別式生成処理において、ビデオカメラ2を介して検出した被験者の眼球位置データをデジタルFIR(Finite Impulse Response)フィルタで平滑化する。また、分析部33は、上記判別式生成処理において、平滑化された眼球運動データを、瞬き期間、サッケード(saccade:細かく急速な眼球運動)期間、及び、注視期間の3つの期間に分類して記憶部36に記憶する。更に、分析部33は、上記判別式生成処理において、眼球運動検出部32によって検出された眼球EBの動きを分析し、3個以上の第1所定数N1の眼球運動特徴を求める。具体的には、分析部33は、フリービューイングテストの際の眼球運動特徴として、図5を用いて後述する12個の眼球運動特徴を求める。また、分析部33は、スムースパシュートテストの際の眼球運動特徴として、図6、及び、図7を用いて後述する41個の眼球運動特徴を求める。更に、分析部33は、注視テストの際の眼球運動特徴として、図8を用いて後述する12個の眼球運動特徴を求める。このようにして、分析部33は、65個(=12+41+12)の眼球運動特徴を求める。分析部33によって求められた65個の眼球運動特徴は、第1所定数N1の眼球運動特徴に相当する。

【0038】
分析部33は、上記判別処理において、眼球運動検出部32によって検出された眼球EBの動きを分析し、上記判別式生成処理において選択された2個以上の第2所定数N2の眼球運動特徴(後述する5個の第1の眼球運動特徴A~第5の眼球運動特徴E)を求める。

【0039】
選択部34は、上記判別式生成処理において、分析部33によって求められた第1所定数N1(本実施形態では、65個)の眼球運動特徴から、健常者と統合失調症の患者とを判別するために有効な2個以上の第2所定数N2の眼球運動特徴を選択する。具体的には、選択部34は、例えば、有意確率(P値:P value)に基づいて、健常者と統合失調症の患者とを判別するために有効な眼球運動特徴を選択する。また、選択部34は、65個の眼球運動特徴から互いに独立性の強い眼球運動特徴を選択する。なお、選択部34は、「判定手段」の一部に相当する。

【0040】
更に具体的には、選択部34は、ステップワイズ(stepwise)法によって、分析部33によって求められた65個の眼球運動特徴から、健常者と統合失調症の患者とを判別するために有効な第2所定数N2(本実施形態では、5個)の眼球運動特徴を選択する。このようにして、選択部34は、後述する5個の眼球運動特徴(第1の眼球運動特徴A~第5の眼球運動特徴E)を選択する。

【0041】
評価部35は、判別式生成処理において、統合失調症の患者であるか否かを判別する判別式(下記(1)式)として、選択部34によって選択された第2所定数N2の眼球運動特徴の関数(本実施形態では、一次方程式)を求める。
Y=0.03×A+2.01×B+0.03×C+0.37×D
-1.53×E-4.92 (1)

【0042】
ここで、第1の眼球運動特徴Aは、フリービューイングテストにおいて求められた眼球運動特徴であるスキャンパス距離(scanpath length)である。第2の眼球運動特徴Bは、スムースパシュートテストの速いリサージュ(Lissajous)において求められた眼球運動特徴である垂直方向の位置ゲインである。第3の眼球運動特徴Cは、スムースパシュートテストの速いリサージュにおいて求められた眼球運動特徴である注視数である。第4の眼球運動特徴Dは、注視テストの遠い妨害刺激において求められた眼球運動特徴である注視時間である。第5の眼球運動特徴Eは、スムースパシュートテストの水平パシュートにおいて求められた眼球運動特徴であるS/N比である。眼球運動スコアYは、統合失調症の患者であるか否かを判定する値である。

【0043】
また、評価部35は、上記判別処理において、分析部33によって求められた5個の眼球運動特徴の値を、上記判別式生成処理において生成された判別式(上記(1)式)に代入することによって、被験者が統合失調症の患者であるか否かを判定する。具体的には、評価部35は、眼球運動スコアYが、事後確率によって定められる閾値(本実施形態では、-0.3)以上である場合に、健常者であると判定し、眼球運動スコアYが上記閾値未満である場合に、統合失調症の患者であると判定する。

【0044】
次に、図2を参照して、眼球運動テストについて説明する。図2は、図1に示す眼球運動検出部32によって検出された結果の一例を示す図である。(a)は、フリービューイングテストにおける健常者の眼球運動の一例を示す図であり、(b)は、フリービューイングテストにおける統合失調症患者の眼球運動の一例を示す図である。

【0045】
上述のように、フリービューイングテストでは、56種類の静止画像が8秒ずつモニタ1に表示される。図2では、静止画像の一例として、高層ビルが散在する市街地の静止画像FV1が表示されている。また、図2(a)に示すように、健常者の視点位置の軌跡NPが、広範囲に移動しているのに対して、図2(b)に示すように、統合失調症患者の視点位置の軌跡PPは、狭い範囲内での移動に止まっている。このような特徴は、上記(1)式において、第1の眼球運動特徴A(フリービューイングテストにおいて求められた眼球運動特徴であるスキャンパス距離)として表される。ここで、「スキャンパス距離」とは、視点を移動する距離の総和である。健常者は、スキャンパス距離が長く、統合失調症患者はスキャンパス距離が短い。

【0046】
次に、図3を参照して、図1に示す精神疾患判定装置100の被験者について説明する。図3は、図1に示す精神疾患判定装置100による判別式生成処理に用いられる健常者及び統合失調症患者の構成の一例を示す図表である。図3中の数値は、(平均値)±(標準偏差)である。なお、P値は、有意確率である。また、健常者と統合失調症患者との間で有意な差異のある変数は、P値の数値を太字で記載し下線を施している。病前の知能指数は、38人の統合失調症患者のデータである。統合失調症の病状の程度を示す変数の欄のPANSSは、「Positive And Negative Syndrome Scale」であり、CPZは、「chlorpromazine」であり、GAFは、「Global Assessment of Functioning」である。

【0047】
図3に示すように、統合失調症患者は、40名であり、健常者は69名であった。また、年齢、性別、及び、利き手に関しては、健常者と統合失調症患者との間で有意な差はなかった。一方、教育歴、現在の知能指数、及び、病前の知能指数は、健常者と比較して、統合失調症患者がかなり低かった。

【0048】
次に、図4を参照して、精神疾患判定装置100における判別式の生成処理について説明する。図4は、図1に示す精神疾患判定装置100における判別式生成処理の一例を示すフローチャートである。まず、テスト表示部31によって、モニタ1にフリービューイングテストの静止画像が表示される(ステップS101)。次に、眼球運動検出部32によって、ビデオカメラ2を介して、被験者の眼球運動が検出される(ステップS103)。そして、分析部33によって、ステップS103において検出された眼球EBの動きが分析され、図5に示す12個の眼球運動特徴が求められる(ステップS105)。

【0049】
次いで、テスト表示部31によって、モニタ1にスムースパシュートテストの動画像が表示される(ステップS107)。次に、眼球運動検出部32によって、ビデオカメラ2を介して、被験者の眼球運動が検出される(ステップS109)。そして、分析部33によって、ステップS109において検出された眼球EBの動きが分析され、図6及び図7に示す41個の眼球運動特徴が求められる(ステップS111)。

【0050】
次いで、テスト表示部31によって、モニタ1に注視テストの静止画像が表示される(ステップS113)。次に、眼球運動検出部32によって、ビデオカメラ2を介して、被験者の眼球運動が検出される(ステップS115)。そして、分析部33によって、ステップS115において検出された眼球EBの動きが分析され、図8に示す12個の眼球運動特徴が求められる(ステップS117)。

【0051】
次に、選択部34によって、全ての対象者(図3に示す健常者69名及び統合失調症患者40名、合計109名)について、3つのテストに対応する65個の眼球運動特徴が求められたか否かの判定が行われる(ステップS119)。テストが終わっていない対象者がいる(ステップS119でNO)と判定された場合には、処理がステップS101に戻され、テストが終わっていない対象者についてステップS101以降の処理が開始される。全ての対象者についてテストが終了した(ステップS119でYES)と判定された場合には、ステップS121に進められる。

【0052】
そして、選択部34によって、ステップワイズ法を用いて、ステップS105、ステップS111、及び、ステップS117において求められた65個の眼球運動特徴から、健常者と統合失調症の患者とを判別するために有効な第2所定数N2(ここでは、5個)の眼球運動特徴が選択される(ステップS121)。次に、評価部35によって、被験者が統合失調症の患者であるか否かを判定する判別式として、ステップS121において選択された5個の眼球運動特徴に関する一次方程式(上記(1)式)が求められ(ステップS123)、処理が終了される。

【0053】
図4に示すステップS103、ステップS109、及び、ステップS115は、「検出工程」の一部に相当する。図4に示すステップS105、ステップS111、及び、ステップS117は、「分析工程」の一部に相当する。図4に示すステップS121、及び、ステップS123は、「判定工程」の一部に相当する。

【0054】
上述のように、選択部34によって、第1所定数N1の眼球運動特徴から、健常者と統合失調症の患者とを判別するために有効な第2所定数N2の眼球運動特徴が選択されるため、健常者と統合失調症の患者とを単純な処理で判別することができる。

【0055】
本実施形態では、第2所定数N2が5個である場合について説明しているが、第2所定数N2は2個以上であればよい。第2所定数N2が2個である場合には、健常者と統合失調症の患者とを更に単純な処理で判別することができる。

【0056】
また、選択部34によって、ステップワイズ法を用いて、第1所定数N1の眼球運動特徴から、第2所定数N2の眼球運動特徴が選択されるため、適正な個数の適正な眼球運動特徴を選択することができる。したがって、精神疾患の患者であるか否かを更に正確に判定することができる。なお、ステップワイズ法を実行した結果、上記第2所定数が定まるのであって、ステップワイズ法では、上記第2所定数を予め定めることはない。

【0057】
本実施形態では、選択部34が、ステップワイズ法によって眼球運動特徴を選択する場合について説明しているが、選択部34が、その他の方法(例えば、遺伝的アルゴリズム、主成分分析等)によって、健常者と統合失調症の患者とを判別するために有効な眼球運動特徴を選択する形態でもよい。ただし、選択部34は、第1所定数N1の眼球運動特徴から、互いに独立性の強い第2所定数N2の眼球運動特徴を選択することが好ましい。なぜなら、互いに独立性の強い第2所定数N2の眼球運動特徴を選択することによって、精神疾患の患者であるか否かを更に正確に判定することができるからである。

【0058】
また、評価部35によって、被験者が統合失調症の患者であるか否かを判定する判別式として、第2所定数N2の眼球運動特徴に関する一次方程式(上記(1)式)が求められるため、簡素な構成で健常者と統合失調症の患者とを正確に判別することができる。

【0059】
本実施形態では、評価部35が、判別式として第2所定数N2の眼球運動特徴に関する一次方程式を求める場合について説明しているが、評価部35が、判別式として第2所定数N2の眼球運動特徴に関する関数を求める形態であればよい。例えば、評価部35が、判別式として第2所定数N2の眼球運動特徴に関する2次以上の線形方程式を求める形態でもよい。

【0060】
また、フリービューイングテスト、スムースパシュートテスト、及び、注視テストは、健常者と統合失調症患者との間でテスト結果に顕著な差異がある眼球運動テストである。よって、眼球運動検出部32によって、フリービューイングテスト、スムースパシュートテスト、及び、注視テストにおける眼球EBの動きが検出されるため、健常者と統合失調症患者との間で顕著な差異があるテスト結果が得られる。したがって、健常者と統合失調症患者とを正確に判別することが可能になる。

【0061】
本実施形態では、眼球運動検出部32が、フリービューイングテスト、スムースパシュートテスト、及び、注視テストにおける眼球EBの動きを検出する場合について説明しているが、眼球運動検出部32が、フリービューイングテスト、スムースパシュートテスト、及び、注視テストのうち、少なくとも1つのテストにおける眼球EBの動きを検出する形態であればよい。

【0062】
また、眼球運動テストが、フリービューイングテスト、スムースパシュートテスト、及び、注視テストに加えて(又は、替えて)、動画像を用いたフリービューイングテスト、及び、視覚探索テストの少なくとも一方を含む形態でもよい。

【0063】
上記動画像を用いたフリービューイングテストでは、眼球運動特徴として、サッケード回数、サッケード頻度等が得られる。また、上記視覚探索テストとは、モニタ画面に、例えば、多くの文字を表示して、その中から指示された文字を探すテストである。上記視覚探索テストでは、眼球運動特徴として、サッケード回数、探索時間等が得られる。

【0064】
ここで、図5~図8を参照して、図4のステップS105、ステップS111、及び、ステップS117において求められる65個の眼球運動特徴について説明した後、図4のステップS121で選択される5個の眼球運動特徴について説明する。

【0065】
図5は、図1に示すモニタ1にフリービューイングテストの静止画像を表示した場合に、分析部33によって得られる眼球運動特徴の一例を示す図表である。図5中の数値は、(平均値)±(標準偏差)である。なお、P値は、有意確率である。

【0066】
また、図5に示す12個の眼球運動特徴のうち、健常者と統合失調症患者との間で有意な差異のある眼球運動特徴は、対応するP値の数値を太字で記載し下線を施している。健常者と統合失調症患者との間で有意な差異のある眼球運動特徴は、具体的には、スキャンパス距離(視点を移動する距離の総和)、注視数(視点を固定する回数)、サッケード数(細かく急速な眼球運動の回数)、注視密度、注視時間等である。また、図5に示す12個の眼球運動特徴のうち、選択部34によって選択される眼球運動特徴は、スキャンパス距離(第1の眼球運動特徴A)である。

【0067】
図6は、図1に示すモニタ1にスムースパシュートテストの動画像(水平パシュート及び遅いリサージュ)を表示した場合に、分析部33によって得られる眼球運動特徴の一例を示す図表である。図7は、図1に示すモニタ1にスムースパシュートテストの動画像(速いリサージュ)を表示した場合に、分析部33によって得られる眼球運動特徴の一例を示す図表である。

【0068】
図6中、及び、図7中の数値は、(平均値)±(標準偏差)である。なお、P値は、有意確率である。また、図6及び図7に示す41個の眼球運動特徴のうち、健常者と統合失調症患者との間で有意な差異のある眼球運動特徴は、対応するP値の数値を太字で記載し下線を施している。

【0069】
具体的には、健常者と統合失調症患者との間で有意な差異のある眼球運動特徴は、速いリサージュにおける位置ゲイン(垂直)、位置ゲイン(水平)、注視数、サッケード数等である。また、図6及び図7に示す41個の眼球運動特徴のうち、選択部34によって選択される眼球運動特徴は、速いリサージュにおける垂直方向の位置ゲイン(第2の眼球運動特徴B)、注視数(第3の眼球運動特徴C)、及び、水平パシュートにおけるS/N比(第5の眼球運動特徴E)である。

【0070】
図8は、図1に示すモニタ1に注視テストの静止画像を表示した場合に、分析部33によって得られる眼球運動特徴の一例を示す図表である。図8中の数値は、(平均値)±(標準偏差)である。なお、P値は、有意確率である。また、図8に示す12個の眼球運動特徴のうち、健常者と統合失調症患者との間で有意な差異のある眼球運動特徴は、対応するP値の数値を太字で記載し下線を施している。

【0071】
具体的には、健常者と統合失調症患者との間で有意な差異のある眼球運動特徴は、遠い妨害刺激における注視時間、近い妨害刺激における注視時間、妨害刺激なしにおける注視時間、妨害刺激なしにおけるスキャンパス距離等である。また、図8に示す12個の眼球運動特徴のうち、選択部34によって選択される眼球運動特徴は、遠い妨害刺激における注視時間(第4の眼球運動特徴D)である。

【0072】
図9は、図1に示す選択部34によって選択された眼球運動特徴の一例を示す図表である。図9中の数値は、(平均値)±(標準偏差)である。なお、P値は、有意確率である。また、健常者と統合失調症患者との間で特に有意な差異のある眼球運動特徴は、対応するP値の数値を太字で記載し下線を施している。

【0073】
図9に示すように、図5~図8に示す65個の眼球運動特徴から選択部34によって、健常者と統合失調症の患者とを判別するために有効な眼球運動特徴として、下記の5つの眼球運動特徴が選択される。第1の眼球運動特徴Aは、フリービューイングテストにおいて求められた眼球運動特徴であるスキャンパス距離(図5の下から5個目の眼球運動特徴)である。第2の眼球運動特徴Bは、スムースパシュートテストの速いリサージュにおいて求められた眼球運動特徴である垂直方向の位置ゲイン(図7の上から5個目の眼球運動特徴)である。第3の眼球運動特徴Cは、スムースパシュートテストの速いリサージュにおいて求められた眼球運動特徴である注視数(図7の上から7個目の眼球運動特徴)である。第4の眼球運動特徴Dは、注視テストの遠い妨害刺激において求められた眼球運動特徴である注視時間(図8の下から3個目の眼球運動特徴)である。第5の眼球運動特徴Eは、スムースパシュートテストの水平パシュートにおいて求められた眼球運動特徴であるS/N比(図6の上から1個目の眼球運動特徴)である。

【0074】
次に、図10を参照して、被験者が統合失調症の患者であるか否かを判定する判別処理について説明する。図10は、図1に示す精神疾患判定装置100における判別処理の一例を示すフローチャートである。

【0075】
まず、テスト表示部31によって、モニタ1にフリービューイングテストの静止画像が表示される(ステップS201)。次に、眼球運動検出部32によって、ビデオカメラ2を介して、被験者の眼球運動が検出される(ステップS203)。そして、分析部33によって、ステップS203において検出された眼球EBの動きが分析され、第1の眼球運動特徴A(スキャンパス距離)が求められる(ステップS205)。

【0076】
次いで、テスト表示部31によって、モニタ1にスムースパシュートテストの動画像が表示される(ステップS207)。次に、眼球運動検出部32によって、ビデオカメラ2を介して、被験者の眼球運動が検出される(ステップS209)。そして、分析部33によって、ステップS209において検出された眼球EBの動きが分析され、第2の眼球運動特徴B(速いリサージュにおける垂直方向の位置ゲイン)、第3の眼球運動特徴C(速いリサージュにおける注視数)、及び、第5の眼球運動特徴E(水平パシュートにおけるS/N比)が求められる(ステップS211)。

【0077】
次いで、テスト表示部31によって、モニタ1に注視テストの静止画像が表示される(ステップS213)。次に、眼球運動検出部32によって、ビデオカメラ2を介して、被験者の眼球運動が検出される(ステップS215)。そして、分析部33によって、ステップS215において検出された眼球EBの動きが分析され、第4の眼球運動特徴D(遠い妨害刺激における注視時間)が求められる(ステップS217)。

【0078】
そして、評価部35によって、ステップS205、ステップS211、及び、ステップS217で求められた第1の眼球運動特徴A~第5の眼球運動特徴Eの値が、判別式である上記(1)式に代入され、眼球運動スコアYが求められる(ステップS219)。次に、評価部35によって、ステップS219で求められた眼球運動スコアYが零以上であるか否かの判定が行われる(ステップS221)。眼球運動スコアYが、事後確率によって定められる閾値(本実施形態では、-0.3)以上である(ステップS221でYES)と判定された場合には、評価部35によって、被験者は健常者であると判定され(ステップS223)、処理が終了される。眼球運動スコアYが、上記閾値(本実施形態では、-0.3)未満である(ステップS221でNO)と判定された場合には、評価部35によって、被験者は統合失調症の患者であると判定され(ステップS225)、処理が終了される。

【0079】
図10に示すステップS203、ステップS209、及び、ステップS215は、「検出工程」の一部に相当する。図10に示すステップS205、ステップS211、及び、ステップS217は、「分析工程」の一部に相当する。図10に示すステップS219、ステップS221、ステップS223、及び、ステップS225は、「判定工程」の一部に相当する。

【0080】
図10のステップS203、ステップS209、及び、ステップS215において、眼球運動検出部32によって、予め選定された眼球運動テスト(本実施形態では、フリービューイングテスト、スムースパシュートテスト、及び、注視テスト)の画像を見る際の被験者の眼球EBの動きが検出される。そして、図10のステップS205、ステップS211、及び、ステップS217において、分析部33によって、眼球運動検出部32によって検出された眼球EBの動きが分析される。また、図10のステップS219、ステップS221、ステップS223、及び、ステップS225において、評価部35によって、分析部33によって求められた眼球運動特徴に基づき、被験者が統合失調症の患者であるか否かが判定される。

【0081】
このようにして、分析部33によって求められた眼球運動特徴に基づき、被験者が統合失調症の患者であるか否かが判定されるため、統合失調症の患者であるか否かを正確に判定することができる。

【0082】
本実施形態では、分析部33によって求められた第1所定数N1の眼球運動特徴のうち、選択部34によって選択された第2所定数N2の眼球運動特徴に基づき被験者が統合失調症の患者であるか否かを判定する場合について説明したが、第1所定数N1の眼球運動特徴に基づき被験者が統合失調症の患者であるか否かを判定する形態であればよい。例えば、第1所定数N1の眼球運動特徴のうち健常者と統合失調症の患者とを判別するために最も有効な1個の眼球運動特徴(例えば、第1の眼球運動特徴A)に基づき、被験者が統合失調症の患者であるか否かを判定する形態でもよい。この場合には、判別式生成処理及び判別処理が簡略化される。また、例えば、第1所定数N1全ての眼球運動特徴基づき、被験者が統合失調症の患者であるか否かを判定する形態でもよい。

【0083】
また、第2所定数N2の眼球運動特徴が、健常者と統合失調症患者とを判別するために有効な眼球運動特徴であるフリービューイングテストにおけるスキャンパス距離(第1の眼球運動特徴A)を含むため、被験者が統合失調症の患者であるか否かを正確に判定することができる。なお、第2所定数N2の眼球運動特徴が、フリービューイングテストにおけるスキャンパス距離に替えて、上記スキャンパス距離と相関の強い他の眼球運動特徴を含む形態でもよい。

【0084】
また、第2所定数N2の眼球運動特徴が、健常者と統合失調症患者とを判別するために有効な眼球運動特徴であるスムースパシュートテストの速いリサージュにおける垂直方向の位置ゲイン(第2の眼球運動特徴B)を含むため、被験者が統合失調症の患者であるか否かを正確に判定することができる。なお、第2所定数N2の眼球運動特徴が、スムースパシュートテストの速いリサージュにおける垂直方向の位置ゲインに替えて、上記位置ゲインと相関の強い他の眼球運動特徴を含む形態でもよい。

【0085】
また、本実施形態では、第2所定数N2の眼球運動特徴が、第1の眼球運動特徴A~第5の眼球運動特徴Eである場合について説明したが、第2所定数N2の眼球運動特徴が、第1の眼球運動特徴A~第5の眼球運動特徴Eのうち、少なくとも1つを含む形態であればよい。

【0086】
次に、図11を参照して、上記(1)式による判別結果について説明する。図11は、図1に示す評価部35による評価結果の一例を示す図表である。図11の左側は、「全データを使った場合」であり、右側は、「Leave-one-out交差検証」を行った場合である。ここで、「全データを使った場合」とは、図3に示す対象者全員のデータを用いて判別式(上記(1)式)を生成し、生成された判別式を用いて図3に示す対象者全員について図10に示す判別処理を行う場合である。また、「Leave-one-out交差検証」とは、図3に示す対象者のうち1名(ここでは、除外者という)を除いたデータを用いて判別式を生成し、生成された判別式を用いて上記除外者について図10に示す判別処理を行う場合である。なお、上記除外者としては、図3に示す対象者である109名から、順次1名を選定する。その結果、上記除外者が選定される度に、残りの108名に関するデータを用いて判別式が生成されるため、判別式が109回生成される。

【0087】
図11の左側に示すように、「全データを使った場合」には、健常者69名のうち、評価部35によって健常者であると判定された人数は65名であり、正答率は94.2%であった。また、統合失調症患者40名のうち、評価部35によって統合失調症患者であると判定された人数は33名であり、正答率は82.5%であった。その結果、全体の正答率は、89.9%であった。

【0088】
図11の右側に示すように、「Leave-one-out交差検証」では、健常者69名のうち、評価部35によって健常者であると判定された人数は65名であり、正答率は94.2%であった。また、統合失調症患者40名のうち、評価部35によって統合失調症患者であると判定された人数は31名であり、正答率は77.5%であった。その結果、全体の正答率は、88.1%であった。

【0089】
このように、精神疾患判定装置100によれば、精神疾患(本実施形態では、統合失調症)の患者であるか否かを正確に判定することができる。なお、本実施形態では、精神疾患が統合失調症である場合について説明したが、精神疾患がその他の精神疾患(例えば、うつ病、躁うつ病等)である形態でもよい。

【0090】
次に、図12及び図13を用いて、図11における「Leave-one-out交差検証」での評価部35による評価結果を示す。図12は、図1に示す評価部35による評価結果の一例を示す棒グラフである。図13は、図1に示す評価部35による評価結果の一例を示すROC(Receiver Operating Characteristic)グラフである。

【0091】
図12において、横軸は、眼球運動スコアYを示し、縦軸は割合を示す。濃い網掛けが統合失調症の患者であり、薄い網掛けが健常者である。上述のように、評価部35によって、眼球運動スコアYが、事後確率によって定められる閾値(本実施形態では、-0.3)以上である場合に、健常者であると判定され、眼球運動スコアYが上記閾値未満である場合に、統合失調症の患者であると判定する。図12に示すように、健常者に関しては、極めて正確に判定されている。また、健常者であると誤判定された統合失調症患者は、眼球運動スコアYが零に近いケースが大半であり、今後の更なる研究により、正答率を向上できる可能性があることが判る。

【0092】
図13において、横軸は、偽陽性率を示し、縦軸は、真陽性率を示す。ROC曲線GRの下側の網掛けを施した領域の面積は、最大値(完璧に判別できる場合の値)1に対して0.94以上であった。これは、上記(1)式に示す判別式によって、統合失調症患者を健常者と明確に識別することができることを示している。

【0093】
以上、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明した。ただし、本発明は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能である(例えば、下記に示す(1)~(9))。図面は、理解しやすくするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、図示された各構成要素の厚み、長さ、個数等は、図面作成の都合上から実際とは異なる。また、上記の実施形態で示す各構成要素の形状、寸法等は一例であって、特に限定されるものではなく、本発明の構成から実質的に逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。

【0094】
(1)本実施形態では、制御装置3がテスト表示部31を備える場合について説明したが、モニタ1がテスト表示部31に相当する機能部を備える形態でもよい。

【0095】
(2)本実施形態では、制御装置3が眼球運動検出部32を備える場合について説明したが、ビデオカメラ2が眼球運動検出部32に相当する機能部を備える形態でもよい。

【0096】
(3)本実施形態では、精神疾患の患者であるか否かを判定する精神疾患判定装置100について説明したが、精神疾患判定装置100の有する機能を複数の装置で実現した精神疾患判定システムとして構成してもよい。例えば、精神疾患判定システムが、眼球運動テスト表示装置、眼球運動検出装置、分析装置、及び、判定装置を備える形態でもよい。上記眼球運動テスト表示装置は、モニタを備え、眼球運動テストの画像をモニタに表示する。上記眼球運動検出装置は、ビデオカメラを備え、被験者の眼球の動きを検出する。上記分析装置は、上記眼球運動検出装置によって検出された眼球の動きを分析し、眼球運動特徴を求める。上記判定装置は、上記分析装置によって求められた眼球運動特徴に基づき、被験者が精神疾患の患者であるか否かを判定する。

【0097】
(4)本実施形態では、ビデオカメラ2を介して被験者の眼球の動きを検出する場合について説明したが、その他の方法(例えば、赤外線を用いた強膜反射法)を用いて被験者の眼球の動きを検出する形態でもよい。

【0098】
(5)本実施形態では、評価部35が、眼球運動スコアYが上記閾値(本実施形態では、-0.3)零未満であるか否かに応じて、統合失調症の患者であるか否かを判定する場合について説明したが、評価部35が、統合失調症の患者である可能性を判定する形態でもよい。換言すれば、評価部35が、眼球運動スコアYの値が大きいほど健常者である可能性が高く、小さいほど精神疾患に罹患している可能性が高いと判定する形態でもよい。この場合には、医師が診断をする際に、眼球運動スコアYの値の大きさを、健常者であるかどうかの判断の参考とすることができる。

【0099】
(6)本実施形態では、第1所定数N1が65個の場合について説明したが、第1所定数N1は、例えば、50個~100個の範囲内の個数でもよい。

【0100】
(7)本実施形態では、第2所定数N2が5個の場合について説明したが、第2所定数N2は、例えば、5個~15個の範囲内の個数でもよい。

【0101】
(8)本実施形態では、評価部35が、統合失調症の患者であるか否かを判定する場合について説明したが、評価部が、統合失調症の患者であるか、自閉症の患者であるかを判定する形態でもよい。更には、評価部が、被験者が、予め設定された複数の精神疾患(例えば、統合失調症、自閉症、うつ病)のうち、どの精神疾患であるかを判定する形態でもよい。

【0102】
(9)本実施形態では、評価部35が、統合失調症の患者であるか否かを判定する場合について説明したが、評価部が、精神疾患の予後や程度を判定する形態でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明は、精神疾患の患者であるか否かを判定する精神疾患判定装置、及び、精神疾患判定方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0104】
100 精神疾患判定装置
1 モニタ
2 ビデオカメラ(検出手段の一部)
3 制御装置
31 テスト表示部
32 眼球運動検出部(検出手段の一部)
33 分析部(分析手段)
34 選択部(判定手段の一部)
35 評価部(判定手段の一部)
36 記憶部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12