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明細書 :線維化非ヒト動物及びその用途

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6222665号 (P6222665)
登録日 平成29年10月13日(2017.10.13)
発行日 平成29年11月1日(2017.11.1)
発明の名称または考案の名称 線維化非ヒト動物及びその用途
国際特許分類 A01K  67/027       (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
FI A01K 67/027
C12N 15/00 ZNAA
G01N 33/15 Z
G01N 33/50 Z
請求項の数または発明の数 6
全頁数 24
出願番号 特願2014-544591 (P2014-544591)
出願日 平成25年10月31日(2013.10.31)
国際出願番号 PCT/JP2013/079623
国際公開番号 WO2014/069597
国際公開日 平成26年5月8日(2014.5.8)
優先権出願番号 61/721,301
優先日 平成24年11月1日(2012.11.1)
優先権主張国 アメリカ合衆国(US)
審査請求日 平成28年10月27日(2016.10.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
発明者または考案者 【氏名】芦田 昇
【氏名】横出 正之
【氏名】カリン、マイケル
【氏名】ニュエン ティエン、ダット
個別代理人の代理人 【識別番号】100080791、【弁理士】、【氏名又は名称】高島 一
【識別番号】100125070、【弁理士】、【氏名又は名称】土井 京子
【識別番号】100136629、【弁理士】、【氏名又は名称】鎌田 光宜
【識別番号】100121212、【弁理士】、【氏名又は名称】田村 弥栄子
【識別番号】100117743、【弁理士】、【氏名又は名称】村田 美由紀
【識別番号】100163658、【弁理士】、【氏名又は名称】小池 順造
【識別番号】100174296、【弁理士】、【氏名又は名称】當麻 博文
審査官 【審査官】太田 雄三
参考文献・文献 特開2012-100663(JP,A)
国際公開第2010/038465(WO,A1)
芦田昇,炎症性シグナル分子の意外な役割,医学のあゆみ,2012年 6月23日,Vol. 241, No. 12,p. 919, 920
Nature Communications [online],2011年 5月17日,internat,URL,http://www.nature.com/ncomms/journal/v2/n5/full/ncomms1317.html
調査した分野 A01K 67/027
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
筋線維芽細胞及び/又は平滑筋細胞特異的にIKKβ遺伝子を欠損した、組織の線維化を示す非ヒト動物又はその生体の一部。
【請求項2】
組織の線維化が、自己免疫疾患、膠原病、皮膚疾患、心疾患、呼吸器系疾患、食道疾患、胃腸疾患、肝疾患、腎疾患、脳神経疾患、癌及び糖尿病からなる群より選択される疾患に伴う線維化を再現することを特徴とする、請求項1に記載の非ヒト動物又はその生体の一部。
【請求項3】
強皮症モデルである、請求項1に記載の非ヒト動物又はその生体の一部。
【請求項4】
動物がげっ歯類である、請求項1に記載の非ヒト動物又はその生体の一部。
【請求項5】
組織の線維化の予防用及び/又は治療用の物質をスクリーニングする方法であって、
(a)請求項1に記載の非ヒト動物又はその生体の一部に試験物質を接触させる工程、及び
(b)前記非ヒト動物又はその生体の一部における組織の線維化を分析する工程
を含む前記方法。
【請求項6】
強皮症の予防用及び/又は治療用の物質をスクリーニングする方法であって、
(a)請求項1に記載の非ヒト動物又はその生体の一部に試験物質を接触させる工程、及び
(b)前記非ヒト動物又はその生体の一部における強皮症の病態を反映する事象を分析する工程
を含む前記方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、線維化非ヒト動物及びその用途に関する。より詳細には、筋線維芽細胞及び/又は平滑筋細胞特異的にIKKβ遺伝子を欠損させることで、組織の線維化を示すことを特徴とする非ヒト動物、並びに、該非ヒト動物を用いた線維化の予防及び/又は治療薬のスクリーニング方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
膠原線維の沈着を伴う組織の線維化は、炎症反応の終末像として生体の創傷治癒過程で生じる現象であり、傷が治る等、生体内で重要な役割を果たしている。その一方で、過度の組織の線維化は、炎症を基盤とする種々の疾患、例えば、皮膚疾患、心疾患、呼吸器系疾患、自己免疫疾患、膠原病、癌、動脈硬化、糖尿病等において、該疾患の発症又は増悪因子とされている。しかも、線維化のメカニズムは十分に解明されておらず、線維化を伴うこれらの疾患の治療は困難である。
【0003】
膠原病の一つである強皮症(全身性強皮症)は、皮膚や内臓における膠原線維の合成亢進と蓄積とを主体とする疾患である。該疾患の特徴は、男女比が約1:9と圧倒的に女性が多く、その年齢は30~50歳代の中年期に多く認められることである。また、その病態は、レイノー症状・皮膚の硬化といった皮膚病変の他、肺線維症、腎障害、逆流性食道炎等の内臓疾患をもきたす。そのため、強皮症は生活の質のみならず、生命予後にも影響を与える難病であり、現在、有効な治療法等も確立されていない。
【0004】
従来、線維化、中でも強皮症のモデル動物として用いられているのは、ブレオマイシン等の薬物やTGFβ(transforming growth factor beta)、CTGF (connective tissue growth factor)、bFGF (basic fibroblast growth factor)等のサイトカイン投与により人為的に線維化を生じさせたマウス(非特許文献1、2)、または、Fibrillin-1の遺伝子異常によるTight skin mouseである(非特許文献3、4)。しかしながら、これら公知のモデル動物には、例えば皮膚にサイトカインを投与したマウスは該投与部位の皮膚が局所的に硬化するだけであり、Tight skin mouseは雄雌同程度に皮膚硬化が認められ、腎障害や逆流性食道炎等が観察されない、等の問題が存在する。そのため、公知の強皮症モデル動物は、いずれもヒトでの病態との類似性、人為性等の面で十分なものとは言えない。しかも、近年Fibrillin-1は強皮症とは全く別の遺伝病であるStiff Skin Syndromeの原因遺伝子であることが報告されたことから(非特許文献5)、Tight skin mouseの強皮症モデルマウスとしての有用性が疑問視されている。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】Yamamoto T. et al., Animal model of sclerotic skin. I: Local injections of bleomycin induce sclerotic skin mimicking scleroderma,(1999), J. Invest. Dermatol., vol.112, no.4, p.456-462
【非特許文献2】Mori T. et al., Role and interaction of connective tissue growth factor with transforming growth factor-β in persistent fibrosis: A mouse fibrosis model, (1999), J. Cell Physiol., vol.181, no.1, p.153-159
【非特許文献3】Green M.C. et al., Tight-skin, a new mutation of the mouse causing excessive growth of connective tissue and skeleton, (1976), Am. J. Pathol., vol.82, no.3, p.493-512
【非特許文献4】Siracusa L.D. et al., A tandem duplication within the fibrillin 1 gene is associated with the mouse tight skin mutation, (1996), Genome Res., vol.6, no.4, p.300-313
【非特許文献5】Loeys B.L. et al., Mutations in fibrillin-1 cause congenital scleroderma: stiff skin syndrome, (2010), Sci. Transl. Med., vol.2, no.23, p.23ra20.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、各種疾患で認められる組織の線維化を示す実用性の高い非ヒト線維化動物及びその用途を提供する。また、本発明は、線維化モデル動物の中でも、強皮症のモデル動物を提供する。さらに、本発明は該モデル動物を、組織の線維化又は強皮症の機構を解明するために使用する。また、該モデル動物を用いて、組織の線維化又は強皮症を予防又は治療するための物質をスクリーニングする方法も提供する。加えて、本発明は、該モデル動物が自己抗体を産生することを利用して、自己抗体の産生機序の解明に応用する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、筋線維芽細胞及び/又は平滑筋細胞特異的にIKKβ遺伝子を欠損させたマウス(以下、「ノックアウトマウス」、「KOマウス」、「ΔIKKβ」又は「IKKβΔMF」ともいう。)において、驚くべきことに、頭部、尾部に糜爛を伴う皮膚硬化を観察し、組織学的にも表皮及び真皮の顕著な肥厚と、膠原線維(以下、「コラーゲン」ともいう。)の著しい蓄積が認められることを見出した。さらに、該マウスは下部食道において粘膜下の膠原線維による平滑筋の置換と食道の拡張を示すこと、肺においては、膠原線維の蓄積と肺胞の拡大を示し、肺高血圧を示唆する右心室の拡大を示すこと、腎臓においては、膠原線維の蓄積及び糸球体輸出入動脈の狭窄化、それによると思われる尿中タンパク質の増加と高血圧等を示すことを見出した。つまり、該マウスは、皮膚、食道、肺、腎臓等の各種組織又は臓器において線維化が認められると共に、それらに伴う右心室の拡大、高血圧等の様々な症状を示すことを見出した。
【0008】
さらに、糜爛皮膚病変を来した雄雌の比率は、雄マウスと比べて雌マウスが3~4倍高く偏りがあることを見出した。しかも、驚くべきことに、前記病変を示すマウスは、強皮症患者同様、該患者で特異的に検出される自己抗体も産生し、脾臓の腫大も認められることから、該マウスは、ヒト強皮症の病態を強く反映していると結論するに至った。最終的に、該マウスは1年を過ぎると急激に死亡すること、死亡したマウスの腎臓で癌が認められることも見出した。
【0009】
加えて、本発明者らは、該マウスから調製した線維芽細胞と樹状細胞とを共培養すると抗原提示によるT細胞刺激が増加することも見出した。
【0010】
しかも、本発明者らは強皮症患者皮膚から調製した線維芽細胞において、NFκB p65の核内及び細胞全体での発現量が低下しており、NFκB活性が低下していることを見出した。そして、NFκB活性の低下が、強皮症病態発症の基幹メカニズムである可能性も明らかにした。
【0011】
本発明者らは、これらの発見に基づいて鋭意検討し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は下記のとおりである:
[1]筋線維芽細胞及び/又は平滑筋細胞特異的にIKKβ遺伝子を欠損した、組織の線維化を示す非ヒト動物又はその生体の一部。
[2]組織の線維化が、自己免疫疾患、膠原病、皮膚疾患、心疾患、呼吸器系疾患、食道疾患、胃腸疾患、肝疾患、腎疾患、脳神経疾患、癌及び糖尿病からなる群より選択される疾患に伴う線維化を再現することを特徴とする[1]に記載の非ヒト動物又はその生体の一部。
[3]強皮症モデルである[1]に記載の非ヒト動物又はその生体の一部。
[4]動物がげっ歯類である[1]に記載の非ヒト動物又はその生体の一部。
[5]組織の線維化の予防用及び/又は治療用の物質をスクリーニングする方法であって、
(a)[1]に記載の非ヒト動物又はその生体の一部に試験物質を接触させる工程、及び
(b)前記非ヒト動物又はその生体の一部における組織の線維化を分析する工程
を含む前記方法。
[6]強皮症の予防用及び/又は治療用の物質をスクリーニングする方法であって、
(a)[1]に記載の非ヒト動物又はその生体の一部に試験物質を接触させる工程、及び
(b)前記非ヒト動物又はその生体の一部における強皮症の病態を反映する事象を分析する工程
を含む前記方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、より実用的な線維化モデル動物を提供することができる。該モデル動物は、様々な組織又は臓器で線維化を示すことから、従来不明であった線維化のメカニズム解明のために使用することができる。また、該線維化モデル動物を用いて、線維化の予防又は治療のための物質のスクリーニング方法も提供することができる点でも有用である。
【0013】
さらに、本発明は線維化、中でも、従来の強皮症モデル動物と比べて、よりヒトの病態に類似した強皮症モデル動物を提供することができる。該モデル動物は、従来不明であった強皮症のメカニズムの解明のために使用することができる。また、該強皮症モデル動物を用いて、強皮症の予防又は治療のための物質のスクリーニング方法も提供することができる点でも有用である。
【0014】
加えて、本発明の非ヒト動物は、強皮症患者と同様の自己抗体を産生すること、該動物由来の線維芽細胞と抗原提示細胞とを共培養するとT細胞が活性化されることから、本発明の非ヒト動物は、免疫反応の異常な亢進や自己抗体の産生メカニズム解明に応用可能な点でも極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1-1】図1-1は、ノックアウトマウス(ΔIKKβ)及び野生型マウス(control)の体重変化を示す。
【図1-2】図1-2は、それぞれノックアウトマウスの毛包(左)及び動脈(右)の免疫染色の結果を示す顕微鏡像であり、平滑筋細胞又は筋線維芽細胞(SM22α+)でIKKβが欠損していることを示す。
【図2】図2(a)は、生後4週目、16週目のノックアウトマウス(ΔIKKβ)の写真を示す。ノックアウトマウスに糜爛を伴う皮膚硬化が認められる。図2(b)は、ノックアウトマウス及び野生型マウスの皮膚組織の解析結果を示す。ノックアウトマウスでは、表皮及び真皮の肥厚と膠原線維の著しい蓄積を示す。これに対し、野生型マウスでは、前記病変が認められなかった。
【図3】図3は、ノックアウトマウス(IKKβΔMF)及び野生型マウス(control)の病変部(左)及び非病変部(右)の皮膚の厚さを測定した結果を示す。ノックアウトマウスでは、顔及び尾の皮膚で、病変部だけでなく非病変部にも膠原線維の沈着が認められる。
【図4-1】図4-1は、ノックアウトマウス(ΔIKKβ)及び野生型マウス(control)の食道のマッソントリクローム染色結果を示す顕微鏡像(左)(下パネルは上パネルの四角で囲んだ部分の拡大像)及び両マウスの食道粘膜筋板の長さ(右)を示す。ノックアウトマウスでは、下部食道の粘膜下で膠原線維による平滑筋の置換及び食道の拡張が認められる。
【図4-2】図4-2は、ノックアウトマウス(ΔIKKβ)及び野生型マウス(control)の肺のマッソントリクローム染色結果を示す顕微鏡像(上)並びに両マウスの肺胞の大きさ(下)を示す。ノックアウトマウスでは、肺での膠原線維の蓄積と肺胞の拡大が認められる。
【図4-3】図4-3は、ノックアウトマウス(ΔIKKβ)及び野生型マウス(control)の肥大化した右心室の写真(上)並びに両マウスの右心室の面積(下)を示す。ノックアウトマウスでは、肺高血圧を示唆する右心室の拡大が認められる。
【図4-4】図4-4は、ノックアウトマウス(ΔIKKβ)の腎糸球体のpicrosirius red/fast green染色結果を示す顕微鏡像(左)、並びに、野生型マウス(control)との尿中タンパク質/クレアチニン比(中)及び血圧(右)の比較を示す。腎臓での膠原線維の蓄積が認められる上に、尿中タンパク質の増加と高血圧が認められる。
【図5】図5は、ノックアウトマウス(IKKβΔMF)及び野生型マウス(control)の皮膚における、コラーゲンI mRNAの量をqRT-PCRで測定し、コントロールを1とした場合の増加の割合を示す。ノックアウトマウスの皮膚では、コントロールと比較して約6倍、コラーゲンIの量の増加が認められる。
【図6-1】図6-1は、ノックアウトマウス(ΔIKKβ)及び野生型マウス(control)由来の血清における自己抗体の有無を示す肝臓のDAB染色後の顕微鏡像、並びに、染色された面積割合(%)を示す。ノックアウトマウスでは、自己抗体が存在することが認められる。
【図6-2】図6-2は、ノックアウトマウス(ΔIKKβ)及び野生型マウス(control)の脾臓の写真並びに、両マウスの脾臓の重さを示す。ノックアウトマウスでは、脾臓の腫大が認められる。
【図6-3】図6-3は、活性化B細胞や胚中心のマーカーであるpeanuts agglutinin (PNA)で染色したノックアウトマウス(IKKβΔMF)及び野生型マウス(control)の脾臓の写真を示す。ノックアウトマウスでは、B細胞の活性化が認められる。
【図7】図7は、ノックアウトマウス(ΔIKKβ)における抗セントロメア抗体の存在を示す。ノックアウトマウスでは、強皮症患者に特異的な自己抗体の存在が認められる。
【図8】図8は、ノックアウトマウス(ΔIKKβ、IKKβΔMF)皮膚における、TGFβタンパク質(上)及びmRNA(下)の発現を示す。強皮症患者において増加が認められるTGFβの増加が、タンパク質及びmRNAともに認められた。
【図9-1】図9-1及び9-2は、IKKβがマトリクスメタロプロテイナーゼ9(MMP9)の発現又は活性を制御していることを示す。ノックアウトマウス(ΔIKKβ)の皮膚組織から線維芽細胞を調製し、mRNA及びタンパク質を抽出し、種々のコラーゲン調節因子のmRNAの発現レベルをqRT-PCR法で(図9-1(a))、MMPタンパク質の活性をゼラチンザイモグラフィー法で(図9-1(b))、それぞれ確認したところ、コントロールと比較して、ノックアウトマウスでは、MMP9のmRNA発現及び活性が顕著に減少した。
【図9-2】図9-2は、IKKβを過剰発現させた場合に(IKKβKA)、MMP9のmRNA及び活性が顕著に増大したことを示す。
【図9-3】図9-3及び9-4は、IKKβがβ-カテニンの発現を制御していることを示す。図9-3は、活性型β-カテニンの発現がIKKβノックアウトマウス(ΔIKKβ)では増大し、IKKβ過剰発現マウス(IKKβKA)では減少したことを示す。
【図9-4】図9-4は、FLAGタグを有するIKKβを過剰発現するマウスの線維芽細胞溶解液(1mg)を1μgのコントロールのIgG、抗FLAG抗体(上)又は抗β-catenin抗体(下)と免疫沈降(IP)し、共沈降したIKKβ-β-cateninを、抗β-catenin抗体又は抗FLAG抗体を用いてイムノブロッティングで検出した結果を示す。
【図10】図10は、成体のノックアウトマウス(ΔIKKβ)及び野生型マウス(control)から筋線維芽細胞(AFbs)を調製し、正常マウスから得られた樹状細胞と共培養を行い、卵白アルブミン(OVA)を抗原とした場合のOVA特異的T細胞の増加を、[3H]チミジンの取り込みを指標として測定した結果を示す。野生型マウスの筋線維芽細胞は抗原提示によるT細胞刺激を強く抑制したのに対し、ノックアウトマウスの筋線維芽細胞との共培養では、抗原提示によるT細胞刺激が回復した。
【図11-1】図11-1~11-3は、強皮症患者の線維芽細胞におけるIKKβ及びNFκBの抑制を示す。強皮症患者及び健常人の皮膚由来の線維芽細胞における、全細胞溶解液(図11-1(a))及び核抽出液(図11-1(b))中のp65タンパク質量(ウェスタンブロット像(左)、デンシトメトリーの結果(中))、p65遺伝子発現量(図11-1(a)右)、NFκB活性(図11-1(b)右)を調べた。強皮症患者の線維芽細胞では、p65の発現及びNFκB活性の低下が認められる。
【図11-2】図11-2は、60分間のIL-1β(2.5ng/mL)刺激による、強皮症患者及び健常人の皮膚由来の線維芽細胞における、全細胞溶解液(左)及び核抽出液(右)中のIKKβ及びp65タンパク質の変化を示す。
【図11-3】図11-3は、IL-1β刺激前に、2時間2μMのMG132で処理した場合の強皮症患者の線維芽細胞におけるIKKβ発現の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の詳細を説明する。
線維化
組織の線維化とは、フィブロネクチンや膠原線維等の細胞外基質が組織に著しく沈着した状態、又は、膠原線維が著しく増加し、瘢痕組織を残すといった線維性結合組織の増加した状態をいう。

【0017】
組織の線維化が認められる疾患とは、自己免疫疾患、膠原病、皮膚疾患、心疾患、呼吸器系疾患、食道疾患、胃腸疾患、肝疾患、腎疾患、脳神経疾患、眼疾患、骨髄疾患、癌、動脈硬化又は糖尿病等が挙げられるが、組織の線維化が認められる限り、これらの疾患に限定されない。本発明の線維化モデル動物は、上記の種々の疾患に伴う線維化をよく再現することから、これらの疾患の発症もしくは増悪因子としての線維化の研究、線維化の改善を指標とした当該疾患の治療手段の開発等に有用であり得る。

【0018】
より具体的には、自己免疫疾患としては、天疱瘡、バセドウ病等が挙げられる。膠原病としては、強皮症(びまん性強皮症若しくは限局型強皮症を含む全身性強皮症、又は線状強皮症若しくは斑状強皮症を含む限局性強皮症)、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群等が挙げられる。皮膚疾患としては強皮症(びまん性強皮症若しくは限局型強皮症を含む全身性強皮症、又は線状強皮症若しくは斑状強皮症を含む限局性強皮症)等が挙げられる。心疾患としては、拘束型心筋症等の心筋症、心内膜心筋線維症、心筋梗塞、狭心症、心不全、高血圧性心疾患等が挙げられる。呼吸器系疾患としては、薬剤性肺線維症、特発性肺線維症又は特発性間質性肺炎等を含む肺線維症等が挙げられる。食道疾患としては、逆流性食道炎、筋線維肥厚型先天性食道狭窄症等が挙げられる。

【0019】
胃腸疾患としては、潰瘍性大腸炎、クローン病、嚢胞性線維症、膵炎等が挙げられる。肝疾患としては肝炎、肝硬変等が挙げられる。腎疾患としては腎炎、腎硬化症、慢性腎臓病、糖尿病性腎症、強皮症腎クリーゼ、腎不全等が挙げられる。脳神経疾患としては、アルツハイマー病、進行性核上性麻痺、皮質基底核変性症、家族性前頭側頭痴呆、神経線維腫症等が挙げられる。眼疾患としては、甲状腺眼症、バセドウ病等が挙げられる。骨髄疾患としては、骨髄線維症等が挙げられる。癌は各種組織又は臓器、例えば、脳、舌、咽頭、皮膚、食道、肺、乳、胃、膵臓、肝臓、胆嚢、胆管、小腸、大腸、腎臓、膀胱、前立腺、子宮、卵巣、血管、骨髄における癌等が含まれる。動脈硬化には、非アテローム硬化性動脈硬化、細動脈硬化等が含まれる。糖尿病には、1型糖尿病、2型糖尿病、続発性糖尿病、特定遺伝子異常による糖尿病等が含まれる。

【0020】
「筋線維芽細胞及び/又は平滑筋細胞特異的」とは、「筋線維芽細胞」のみで特異的、又は「平滑筋細胞」のみで特異的、あるいは「筋線維芽細胞及び平滑筋細胞」の両細胞で特異的であることを意味する。好ましくは、筋線維芽細胞のみに特異的であるか、筋線維芽細胞及び平滑筋細胞の両方に特異的である。

【0021】
筋線維芽細胞及び/又は平滑筋細胞特異的に「IKKβ遺伝子が欠損する」とは、IKKβ遺伝子が本来有する正常な機能が十分に発揮できない状態をいい、例えば、IKKβ遺伝子が全く発現していない状態、IKKβ遺伝子が本来有する正常な機能が発揮できない程度にその発現量が低下している状態、IKKβ遺伝子産物の機能が完全に喪失した状態、または遺伝子変異等によりIKKβ遺伝子が本来有する正常な機能が発揮できない程度にIKKβ遺伝子産物の機能が低下した状態が挙げられる。

【0022】
本発明において、組織等の線維化は、目視、組織学的解析、画像解析(超音波、CT、MR等)、血液生化学解析等、自体公知の方法で確認することができる。

【0023】
自体公知の免疫学的手法としては、例えば、免疫組織化学的染色法、ウェスタンブロット法、酵素免疫測定法(EIA)(例、直接競合ELISA、間接競合ELISA、サンドイッチELISA)、放射免疫測定法(RIA)、蛍光免疫測定法(FIA)等が挙げられる。これらの方法を利用した各種キット等も公知であり、当業者は目的に応じて適宜使用することができる。例えば、強皮症患者の診断に使用するMESACUP(登録商標) anti-RNAポリメラーゼ III テスト(MBL)、MESACUP(登録商標)-2テスト CENP-B(MBL)、MESACUP(登録商標) ANA テスト(MBL)、フルオロ HEPANA テスト(MBL)等を使用することができる。

【0024】
非ヒト動物
筋線維芽細胞及び/又は平滑筋細胞特異的にIKKβ遺伝子が欠損した非ヒト動物は、(a)筋線維芽細胞及び/又は平滑筋細胞特異的に発現するマーカー遺伝子に隣接して部位特異的組換え酵素をコードする遺伝子が、遺伝子座に存在する非ヒト動物を調製する工程、(b)前記部位特異的組換え酵素の認識部位をIKKβ遺伝子座に有する非ヒト動物を調製する工程、及び前記(a)及び(b)の非ヒト動物を掛け合わせることにより得ることができる。あるいは、筋線維芽細胞及び/又は平滑筋細胞特異的にIKKβが欠損される限り、前記方法に限定されない。

【0025】
IKKβ遺伝子は、様々な種由来の配列が公知であり、例えば、マウス(GenBank Accession No.AF026524)、ラット(GenBank Accession No. NM_053355)、ニワトリ(GenBank Accession No. NM_001031397.1)、チンパンジー(GenBank Accession No. XM_528121.2)等の配列を利用することができる。さらに、これらのホモログ等も使用することができる。

【0026】
筋線維芽細胞及び/又は平滑筋細胞特異的に発現するマーカー遺伝子としては、例えば、Sm22α(Smooth muscle 22 α)、αSMA(α smooth muscle actin)、SMMHC(smooth muscle myosin heavy chain)等が挙げられるが、これらに限定されない。マーカー遺伝子に隣接する部位特異的組換え酵素としては、リコンビナーゼが挙げられ、より具体的にはCreタンパク質が挙げられる。Creタンパク質を使用する場合の認識部位としては、loxP配列(5'-ATAACTTCGTATAGCATACATTATACGAAGTTAT-3';配列番号1)が挙げられるが、その配列が、欠失、置換、付加等されても、Creタンパク質が認識することができる配列も含まれる。

【0027】
筋線維芽細胞及び/又は平滑筋細胞特異的に発現するマーカー遺伝子に隣接して部位特異的組換え酵素をコードする遺伝子が、遺伝子座に存在する非ヒト動物を得るためには、該マーカーのプロモーター下にCreタンパク質をコードする遺伝子を連結させたベクターを構築する。例えば、マーカー遺伝子をSM22αとする場合、SM22α遺伝子のプロモーター下流に、Creタンパク質をコードする遺伝子を連結させたベクターを構築する。該ベクターを、マウス、ラット等の非ヒト動物の生殖細胞系に該ベクターを導入して該非ヒト動物を得ることができる。該動物として、例えば、トランスジェニックマウスが公知である(例えば、SM22α-CreマウスはJackson Laboratoryから市販(ストック番号004746、006878)されている)。あるいは、Science (2003), vol.300, p.329-332の方法により作製することができる。

【0028】
loxP配列をIKKβ遺伝子座に有する非ヒト動物としては、自体公知の方法、例えば、Rajewsky K et al., Conditional gene targeting., J. Clin. Invest.,(1996), 98(3),p.600-603等を参考に作製することができる。より具体的には、loxP配列並びに薬剤選択マーカー遺伝子、例えば、ネオマイシン耐性(NeoR)遺伝子で挟んだIKKβ遺伝子内(イントロン等)に挿入したターゲティングベクター(IKKβ遺伝子の外側にチミジンキナーゼ(TK)やジフテリアトキシン等の致死遺伝子がさらに挿入されていることが望ましい)を構築し、該ターゲティングベクターをES細胞又はiPS細胞に導入する。導入は、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、マイクロインジェクション法、リン酸カルシウム法等により行うことができる。Neo/TKを選択マーカーとして用いる場合は、GT418耐性かつガンシクロビル耐性のコロニーを選択することにより、IKKβ遺伝子座にloxP配列に挟まれたNeoR遺伝子を含むカセットが相同組換えにより挿入されたクローンを取得することができる。そして、シングルコロニーから染色体DNAを抽出し、ターゲティングベクターが導入された目的のES細胞又はiPS細胞であることを、Southern Hybridization法やPCR法等の公知の手法により確認する。さらに、該ES又はiPS細胞を非ヒト動物由来の胚内に導入してキメラ胚を作製し、ヒト以外の動物の子宮又は卵管に該キメラ胚を着床させてキメラ動物を発生させる。例えば、loxP配列でIKKβ遺伝子を挟んだ遺伝子座を有するマウス(floxマウス)は公知である(例えば、J. Immunol., (2003), vol. 170, p.4630-4637)。

【0029】
また、上記以外にもCre-loxPシステムとFLP-frtシステムとを組み合わせ、前記ターゲティングベクターにおける薬剤選択マーカーの影響を除くために、該薬剤選択マーカーをfrt配列(5'-GAAGTTCCTATTCTCTAGAAAGTATAGGAACTTC-3';配列番号2)で挟んでおき、適した時期にFLPを作用させて薬剤選択マーカーを取り除いてもよい。前記frt配列には、欠失、置換、付加等されても、FLPタンパク質が認識することができる配列も含まれる。

【0030】
前記ターゲティングベクターを導入する動物はヒト以外であればよく、トランスジェニック並びにES細胞及び/又はiPS細胞の作製法が確立されたものが挙げられる。例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類、ウサギ、ブタ、ウシ、ニワトリ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、イヌ、ネコ、サル等が挙げられる。好ましくは、げっ歯類、より好ましくは、マウス、ラット、ハムスター、モルモットが挙げられる。

【0031】
上述の方法で得られる、筋線維芽細胞及び/又は平滑筋細胞特異的にIKKβ遺伝子を欠損した、本発明の非ヒト動物、例えば、後述の実施例に記載の筋線維芽細胞及び/又は平滑筋細胞特異的にIKKβ遺伝子が欠損したマウスは、各種組織又は臓器の線維化が認められるため、線維化のモデル動物として使用することができる。より具体的には、本発明の非ヒト動物は、少なくとも皮膚及び他の組織又は臓器、例えば、食道、肺、腎臓等の線維化の表現型を示す。さらに、一実施態様においては、該非ヒト動物(例、マウス)の皮膚においてコラーゲンI、TGFβ及びβ-カテニンの発現上昇が認められる。別の実施態様においては、該非ヒト動物は、病変部のみならず、非病変部(外見上正常な皮膚)でも表皮及び真皮の肥厚を認める。さらに別の実施態様においては、該非ヒト動物は、平滑筋細胞におけるIKKβ欠損の如何に拘わらず、大動脈などの血管平滑筋細胞においてコラーゲンの沈着の亢進を認めない。また、本発明の非ヒト動物は、雄に比べて雌で顕著に線維化の病態を発症する。
また、本発明の非ヒト動物では、各種組織の線維化のみならず、右心室の拡大、高血圧、脾臓の腫大等が認められる上に、強皮症患者で特異的に検出される自己抗体(抗セントロメア抗体等)も産生し、脾臓においてB細胞・T細胞の活性化が認められる。即ち、該非ヒト動物は強皮症の病態を強く反映していることから、強皮症のモデル動物として使用することもできる。

【0032】
本発明はまた、上述の方法で得られる非ヒト動物の生体の一部及びその使用を提供する。例えば、該非ヒト動物から採血し、血液又はその調製物を使用すること、あるいは、該非ヒト動物の各種組織又は臓器から一部を採取し、組織片又は培養細胞等の調製物を使用することもできる。これらの調製は自体公知の方法で行うことができる。調製する細胞としては、線維芽細胞、筋線維芽細胞、樹状細胞、ケラチノサイト、心臓細胞、食道細胞、筋肉細胞、骨髄細胞、Bリンパ球、Tリンパ球、好中球、赤血球、血小板、マクロファージ、単球、骨細胞、骨髄細胞、脂肪細胞、間葉細胞、上皮細胞、表皮細胞、内皮細胞、血管内皮細胞等が挙げられるが、これらに限定されず、目的に応じて当業者は適宜調製することができる。調製する組織としては、皮膚、食道、肺、胃、膵臓、肝臓、胆嚢、胆管、小腸、大腸、腎臓、膀胱、前立腺、子宮、卵巣、血管、骨髄、脳、舌、咽頭等が挙げられるが、これらに限定されず、目的に応じて当業者は適宜調製することができる。
例えば、本発明の非ヒト動物(例、マウス)から採取した成体皮膚線維芽細胞では培養条件においてIKKβの発現を欠いており、NFκBの活性化が阻害され、in vivoと同様にコラーゲンの沈着が亢進している。該線維芽細胞では、MMP9の発現及び活性が低下している一方、活性型である非リン酸化β-カテニンの発現が増大している。

【0033】
本発明によれば、上述の方法で得られる非ヒト動物の組織又は臓器から細胞を採取して培養細胞(例えば、成体線維芽細胞等)を調製し、該細胞と抗原提示細胞とを共培養し、免疫反応の異常な亢進や自己抗体産生のメカニズムを解明する等のために前記共培養系を使用することもできる。抗原提示細胞としては、樹状細胞、単球・マクロファージ、B細胞等が挙げられる。

【0034】
共培養の培養温度、CO2濃度等は当業者が適宜設定することができる。培養温度は例えば、20℃~50℃、より好ましくは30℃~40℃である。CO2濃度は例えば、約1~10%、好ましくは約5%である。培養に使用する培地は、細胞の種類に応じて適宜選択し得るが、例えば、MEM培地、DMEM培地、αMEM培地、IMDM培地、Eagle MEM培地、ハム培地、RPMI1640培地、Fischer’s培地、McCoy's 5A培地等が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、培地は血清(例、FCS)、血清代替物(例、KSR、アルブミン、トランスフェリン、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体)、脂肪酸若しくは脂質、アミノ酸、ビタミン、増殖因子、サイトカイン、抗酸化剤、2-メルカプトエタノール、ピルビン酸、緩衝剤又は無機塩類等を含むことができる。

【0035】
本発明で得られる細胞(例、線維芽細胞)と抗原提示細胞との共培養による抗原提示能の評価は、後述の実施例で記載する方法により行うことができる。
あるいは、自体公知の方法を用いて行うことができる。

【0036】
スクリーニング方法
本発明は、本発明の線維化非ヒト動物又は該非ヒト動物から調製する組織又は培養細胞等を用いることを特徴とする、被検物質のスクリーニング方法を提供する。特に本発明の線維化非ヒト動物は、皮膚、食道、肺、腎臓等の様々な組織又は臓器において線維化が認められるため、該非ヒト動物、又は、該非ヒト動物から調製する組織や培養細胞等を線維化の予防又は治療薬のスクリーニング、線維化のメカニズムの解明、さらには線維化の新たな治療方法の開発等に適用することができる。

【0037】
本発明の組織の線維化の予防用及び/又は治療用の物質をスクリーニングする方法は、(a)本発明で得られる非ヒト動物に試験物質を投与する工程、及び(b)前記非ヒト動物における組織又は臓器の線維化を分析する工程を含む。より詳細には、前記非ヒト動物及び対照群(コントロール)に試験物質を投与し、両動物における組織又は臓器の線維化、肥厚、コラーゲンの沈着、コラーゲンI、TGFβ、β-カテニンの発現等の程度を測定し、比較する工程、並びに、前記比較結果に基づいて、試験物質の効果を確認する工程を含む。

【0038】
前記投与は、経口投与又は非経口投与により行われる。経口投与は、口腔内投与、舌下投与等、非経口投与は静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、経皮投与、経鼻投与、経肺投与等が挙げられるが、目的に応じて当業者が適宜決定することができる。また、その投与期間、投与回数、用量等も試験物質の種類、対象とする動物の種類、体重等に応じて当業者が適宜決定することができる。

【0039】
前記組織又は臓器には、脳、舌、咽頭、皮膚、食道、肺、乳、胃、膵臓、肝臓、胆嚢、胆管、小腸、大腸、腎臓、膀胱、前立腺、子宮、卵巣、血管、骨髄等が含まれるがこれに限定されない。

【0040】
また、本発明で得られる非ヒト動物から組織、組織断片又は培養細胞等(即ち、本発明の非ヒト動物の生体の一部)の培養調製物を調製して、線維化の予防用及び/又は治療用の物質をスクリーニングすることもできる。該スクリーニング方法は、(a)本発明で得られる非ヒト動物から調製する組織、組織断片又は培養調製物に試験物質を接触させる工程、及び(b)前記組織、組織断片又は培養調製物における線維化を分析する工程を含む。より詳細には、前記組織、組織断片又は培養調製物及びコントロールとなる組織、組織断片又は培養調製物に試験物質を接触させ、両組織、組織断片又は培養調製物における線維化、肥厚、コラーゲンの沈着、コラーゲンI、TGFβ、β-カテニンの発現等の程度を測定し、比較する工程、及び前記比較結果に基づいて、試験物質の効果を確認する工程を含む。
さらに、本発明は前記スクリーニング方法で得られた物質を、本発明の非ヒト動物、細胞又は組織と接触させ、線維化の程度を確認する方法も包含する。

【0041】
上述のスクリーニング方法において、線維化を分析するとは、線維化の程度が減少若しくは抑制される、増加若しくは亢進される、又は増減等の変化がない、いずれの状態であるかを測定して評価することをいう。測定方法は、上述の目視、組織学的解析、生化学的解析、画像解析等、自体公知の方法で行うことができ、当業者が適宜決定することができる。

【0042】
線維化を予防又は治療するためには、試験物質の投与又は接触により、線維化の程度が減少若しくは抑制されることが好ましい。

【0043】
さらに、本発明の線維化非ヒト動物又はその生体の一部(例えば、成体線維芽細胞等)は、ヒトの強皮症の病態を強く反映することから、本発明はまた、該非ヒト動物を用いて強皮症の予防用及び/又は治療用の物質をスクリーニングする方法を提供する。特に本発明の線維化非ヒト動物は、様々な組織又は臓器において線維化が認められる上に、強皮症患者特異的な自己抗体も産生されるように、強皮症の病態を強く反映するため、該非ヒト動物又は、該非ヒト動物から調製する培養細胞等を強皮症の予防又は治療薬のスクリーニング、強皮症のメカニズムの解明、さらには強皮症の新たな治療方法の開発等に適用することができる。スクリーニング方法は上述の方法を適用することができる。

【0044】
強皮症の検査は、上述の線維化を測定する以外にも、強皮症患者の検査を適用することができる。例えば、自己抗体検査、皮膚生検、内臓検査等を行う。強皮症に特異的な自己抗体としては、抗核抗体、特に抗Scl-70抗体 (抗トポイソメラーゼI抗体)、抗セントロメア抗体、抗RNA ポリメラーゼIII抗体、抗核小体抗体等が挙げられ、ELISA法等により検出することができる。これらに使用する抗体やキットは、上述の市販品等を適宜使用することができる。皮膚生検、内臓検査等は、常法を行う。
さらには、試験物質非投与群と比較した場合の右心室の拡大、高血圧、脾臓の腫大の改善、皮膚病変部へのB及び/又はT細胞の浸潤抑制、脾臓におけるB細胞及び/又はT細胞の活性化抑制など、あるいは、該非ヒト動物由来の生体線維芽細胞におけるMMP9の発現及び/又は活性の増大、活性型β-カテニンの発現阻害、樹状細胞と共培養した場合の抗原提示能(T細胞の活性化)の阻害、p65の発現もしくはNFκB活性の増大等を指標として、強皮症の予防及び/又は治療効果を有する候補物質を選択することができる。

【0045】
上述の方法で「試験物質」としては、例えば、線維化又は強皮症の予防薬又は治療薬として有効性を確認したい物質、その他の疾患の治療薬であって線維化又は強皮症への影響(例えば、毒性)を確認することが必要な物質が挙げられる。該物質は、低分子化合物、高分子化合物、タンパク質(サイトカイン、ケモカイン、抗体等)、核酸(DNA、RNA等)、ウイルス、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、または、微生物、動植物若しくは海洋生物等由来の天然成分等が挙げられる。このような物質は、当業者が適宜決定することができる。

【0046】
組成物
上記スクリーニング方法により得られる物質は、線維化又は強皮症の予防又は治療に有効な候補物質となり得ることから、本発明は、該物質を有効成分として含む医薬組成物又は製剤も提供する。該医薬組成物又は製剤は、以下の任意の担体を含むことができる。

【0047】
任意の担体の中で、医薬上許容され得る担体としては、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム-グリコール-スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、クエン酸、メントール、グリシルリシン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水、オレンジジュース等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックス等が挙げられるが、これらに限定されない。

【0048】
経口投与に好適な製剤は、水、生理食塩水のような希釈液に有効量の物質を溶解させた液剤、有効量の物質を固体や顆粒として含んでいるカプセル剤、サッシェ剤又は錠剤、適当な分散媒中に有効量の物質を懸濁させた懸濁液剤、有効量の物質を溶解させた溶液を適当な分散媒中に分散させ乳化させた乳剤、あるいは散剤、顆粒剤等である。

【0049】
非経口的な投与(静脈内注射、皮下注射、筋肉注射、局所注入等)に好適な製剤は、水性又は非水性の等張な無菌の注射液剤があり、さらに、抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分および医薬上許容され得る担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解又は懸濁すればよい状態で保存することもできる。

【0050】
本発明において、IKKβがβ-カテニンに直接結合してその活性型分子の発現を調節していることが見出された。従って、本発明はまた、試験物質が、IKKβとβ-カテニンとの相互作用(結合)を阻害するか否かを指標とした、線維化及び/又は強皮症の予防及び/又は治療用物質のスクリーニング法を提供する。当該スクリーニング法として、例えば、免疫沈降アッセイ(プルダウンアッセイ)、two-hybrid法などの自体公知のタンパク質相互作用の解析方法を応用することができる。

【0051】
トランスジェニック非ヒト動物
さらに本発明はまた、別の態様として、筋線維芽細胞及び/又は平滑筋細胞特異的にIKKβ遺伝子を過剰発現するトランスジェニック(Tg)非ヒト動物を提供する。該Tg動物は、上記と同様の筋線維芽細胞及び/又は平滑筋細胞特異的プロモーター(例えば、SM22αプロモーター)の制御下にIKKβ遺伝子を挿入した発現カセットを、自体公知の方法(例えば、受精卵へのマイクロインジェクション等)により導入することによって得ることができる。当該Tg動物はIKKβ遺伝子を筋線維芽細胞及び/又は平滑筋細胞特異的に発現可能な状態で安定に保持する。当該Tg動物由来の成体線維芽細胞では、MMP9の発現及び活性が野生型に比べて顕著に上昇する一方、活性型β-カテニンの発現が低下している。
これらの知見は、筋線維芽細胞及び/又は平滑筋細胞特異的にIKKβ遺伝子を過剰発現させることにより、コラーゲンの分解を促進し、組織の線維化を抑制し得ることを示している。従って、当該Tg動物の表現型は、筋線維芽細胞及び/又は平滑筋細胞特異的なIKKβの補充療法の可能性を示唆する。

【0052】
強皮症患者
本発明の非ヒト動物から得られた知見はまた、強皮症患者における治療効果の評価方法を提供する。後述の実施例で記載するように、強皮症患者では、IL-1βの刺激によりIKKβの発現が強く抑制され、p65の発現及びNFκBの活性が阻害されている。従って、治療前と治療後において、例えば、強皮症患者から生検、採血等を行い、線維芽細胞等を調製し、当該細胞におけるIKKβ及び/又はp65の発現、p65の核移行、NFκBの活性等を、自体公知の方法で測定し、治療前後で比較することにより、当該治療の効果を判定することができる。IKKβの発現、p65の発現・核移行、NFκBの活性の測定は、線維芽細胞等の細胞もしくは核抽出物に対してELISA、EMSA、ウェスタンブロッティング、レポーター遺伝子アッセイ等により行うことができる。
また、強皮症患者由来の線維芽細胞におけるIL-1β刺激によるIKKβの発現抑制は、プロテアソーム阻害剤で前処理することによって緩和されたことから、本発明はまた、プロテアソーム阻害によるIKKβの分解抑制及びNFκB経路の活性化に基づく、新規な強皮症の予防及び/又は治療を提供し得る。

【0053】
以下の実施例により本発明をより具体的に説明するが、実施例は本発明の単なる例示を示すものにすぎず、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【実施例】
【0054】
抗体及び試薬
実施例で使用した抗体及び試薬は以下のとおりである。
抗IKKβポリクローナル抗体(ミリポア)、抗Sm22α(別名TAGLN)ポリクローナル抗体(Lifespan Bioscience)、抗MMP9ポリクローナル抗体(Abnova)、GAPDH(Cell Signaling Technology 以下、「CST」という)、TGFβ(CST)、p65抗体(CST)、抗β-catenin抗体(CST)、抗活性β-catenin抗体(ミリポア)、抗PNA(Vector Laboratories Inc., Burlingame, CA, USA)を使用した。また、市販されている以下のプライマー、TGFβ、CTGF、CollagenI及びMMP9 (Applied Biosystems(商標))を使用して、qRT-PCRを行った。NE-PER核タンパク質・細胞質タンパク質分離抽出用キット(Thermo Scientific)を用いて核タンパク質を抽出した。RNAaqueous(商標)キット(Applied Biosytems(商標))を用いてRNAを単離し、TaqMan(登録商標)Gene Expression Assaysキット(Applied Biosytems(商標))を使用して、遺伝子発現量を測定した。プロテアソーム阻害剤としては、MG132(CAS登録番号;133407-82-6)を使用した。
【実施例】
【0055】
TaqMan(登録商標) Gene Expression Assaysで使用したプライマーを表1~3に示す。
【実施例】
【0056】
【表1】
JP0006222665B2_000002t.gif
【実施例】
【0057】
【表2】
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【実施例】
【0058】
【表3】
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【実施例】
【0059】
統計解析
本発明の統計解析は2標本のt検定を行い、P<0.05で有意差ありと判断した。図表中の数値は平均値±標準偏差で表記している。Kolmogorov-Smirnov検定で独立性が棄却された場合には、Wilcoxon-Mann-Whitney検定を行った。また、図中、*はp<0.05、**はp<0.01、***はp<0.005、****はp<0.001を示す。【0060】
実施例1 筋線維芽細胞・平滑筋細胞特異的なIKKβ遺伝子欠損マウスの作製
公知のIKKβflox/floxマウスとSm22α-Cre+マウス(Science (2003), vol.300, p.329-332)とを交配し、ヘテロ接合マウスIKKβflox/wt Sm22α-Cre+/-マウスを得た。前記マウスと、IKKβflox/floxマウスとを交配させ、IKKβflox/flox Sm22α-Cre+/-マウス(以下、KOマウスという)及びIKKβflox/flox Sm22α-Cre-/-マウス(以下、WTマウスという)を得た。KOマウスはメンデリアンの法則に従った比率で出生し、その体重推移等の成長はWTマウスと違いが認められなかった。なお、本発明で得られたKOマウスは純系の動物系統C57BL/6同士の交配にて得られた。
【実施例】
【0061】
KOマウスにおいて、IKKβが欠損したことを免疫染色により確認した。免疫染色は、以下の方法で行った。脱パラフィン処理及び抗原性賦活化した切片を、0.3%過酸化水素・メタノール中で30分間インキュベートし、該切片を希釈した一次抗体と、4℃で一晩反応させた。そこに、希釈したビオチン標識二次抗体をアプライして室温で60分間反応させ、ABC試薬をアプライし、室温で30分間反応させた。さらに、3%過酸化水素を添加した(1:125)DAB試薬(TBST、pH7.6で1:10に希釈)をアプライし、1分間反応させた。なお、対比染色はヘマトキシリンを使用した。結果を図1-1及び1-2に示す。図1-1は、KOマウス及びWTマウスの成長に違いがないことを示す。図1-2は、毛包周囲の筋線維芽細胞及び血管平滑筋細胞において、前記KOマウスではIKKβが欠損し、WTマウスではIKKβが存在していることを示す。
【実施例】
【0062】
実施例2 IKKβ KOマウスにおける組織の線維化
(1)皮膚の線維化
実施例1で得られたマウスは、出生後から4週齢のKOマウスは、頭部の一部が無毛の皮膚病変を認めた(図2(a)、左)。これに対し、WTマウスでは前記病変は認められなかった。また、平均16週齢のKOマウスにおいて、頭部及び尾部に糜爛を伴う皮膚硬化が高頻度に認められた(図2(a)、中及び右)。そこで、組織学的な観察も行った。皮膚組織の染色は、パラフィン包埋組織の2-4μm連続した切片を、ヘマトキシリンエオジン(H&E)染色して行った。コラーゲン量及びコラーゲン組織を評価するために、脱パラフィン化切片をpicrosirius red/fast green染色した。その結果、KOマウスにおいて組織学的にも表皮及び真皮の著明な肥厚と膠原線維の著しい蓄積が認められた。これに対し、WTマウスでは前記病変は認められなかった(図2(b))。
【実施例】
【0063】
皮膚の厚さは以下の方法で測定した。顔又は尾の皮膚を6mm生検パンチで採取してパラフィン包理して4μm切片とし、ヘマトキシリンエオジン(H&E)染色して顕微鏡観察を行った。写真は200倍率で撮影した。結果を図3に示す。病変部皮膚(左)のみならず、外見上正常な非病変部皮膚(右)においても、表皮及び真皮のいずれにおいても肥厚が認められ、真皮に著しいコラーゲンの沈着が観察された。また、該傾向は、雄マウスと比べて雌マウスが3-4倍高く、偏りがあった。尚、SM22αは血管平滑筋細胞でも発現するが、大動脈を調べても形態学的変化やコラーゲンの沈着は認められなかった。
【実施例】
【0064】
(2)食道の病変
実施例1で得られたマウスの食道を観察した。パラフィン包理した食道の4μm切片を、マッソントリクローム染色し、顕微鏡下で観察した。粘膜筋板の長さは、Image J ソフトウエアを用いて測定及び分析を行った。その結果、KOマウスでは、下部食道において粘膜下の膠原線維による平滑筋の置換と食道の拡張が認められた。これに対し、WTマウスでは前記病変は認められなかった。結果を図4-1に示す。
【実施例】
【0065】
(3)肺及び心臓の病変
実施例1で得られたマウスの肺を観察した。パラフィン包理した肺及び心臓の4μm切片を、ヘマトキシリンエオジン(H&E)染色及びマッソントリクローム染色し、顕微鏡下で観察した。肺胞のサイズは、Image J ソフトウエアを用いて測定及び分析を行った。その結果、KOマウスでは、肺において膠原線維の蓄積と肺胞の拡大が認められた。これに対し、WTマウスでは前記病変は認められなかった。結果を図4-2に示す。さらに、KOマウスは肺高血圧を示唆する右心室の拡張が認められた。これに対し、WTマウスでは前記病変は認められなかった。結果を図4-3に示す。
【実施例】
【0066】
(4)腎臓の病変
実施例1で得られたマウスの腎臓を観察した。上述の方法で腎臓組織をpicrosirius red/fast green染色した。また、24時間かけてマウスの尿を採取し、尿中の全タンパク質及びクレアチニン濃度を測定した。収縮期(BPS)および拡張期(BPD)の血圧は、tail-cuff法による自動血圧測定器(MK-2000A、Muromachi、Tokyo、Japan)を用いて測定した。その結果、KOマウスは、腎臓において糸球体輸出入動脈の狭窄化と膠原線維の蓄積、及び前記病変によると思われる尿中タンパク質の増加及び高血圧が認められた。これに対し、WTマウスでは前記病変は認められなかった。結果を図4-4に示す。
【実施例】
【0067】
(5)コラーゲンIの蓄積
実施例1で得られたマウス皮膚のコラーゲンIのmRNA量をqRT-PCR法で確認した。上述の市販のプライマー及びキットを使用した。KOマウスは、WTマウスと比較して、約6倍のコラーゲンI mRNAの増加が認められた。結果を図5に示す。
【実施例】
【0068】
実施例3 筋線維芽細胞・平滑筋細胞特異的IKKβ遺伝子欠損マウスにおける自己抗体の産生
(1)核及び細胞質並びに脾臓の病変
実施例1で得られたマウスの自己抗体の存在を検討した。同一の正常肝組織をWT及びKOマウスそれぞれの血清(20倍希釈)とインキュベートし、上述の方法でDAB染色を行った。その結果、KOマウスでは核及び細胞質の染色が認められ、自己抗体の存在が示された(図6-1)。
さらに、両マウスから脾臓を摘出して観察したところ、KOマウスでは脾臓の腫大が認められ、自己免疫異常状態が示唆された(図6-2)。さらに、KOマウスの脾臓ではB細胞が活性化されていた(図6-3)。また、KOマウスの病変部皮膚では、強皮症患者と同様、CD45陽性のB又はT細胞の浸潤が認められた。これに対し、WTマウスでは前記いずれの病変も認められなかった(図6-1~6-3)。
【実施例】
【0069】
(2)強皮症に特異的な自己抗体の産生
さらに、前記マウスにて強皮症に特異的な自己抗体である、抗セントロメア抗体の存在の有無をELISA法で検討した。KOマウスでは、WTマウスと比べて抗セントロメア抗体が有意に高値を示した。結果を図7に示す。
【実施例】
【0070】
実施例4 IKKβ KOマウスにおけるサイトカイン及びコラーゲンの発現
実施例2及び3で認められたKOマウスの表現型のメカニズムを探索するため、実施例1で得られたマウスの皮膚組織におけるタンパク質をWestern blot法で、mRNAをqRT-PCR法で測定した。その結果、強皮症患者において増加が認められるTGFβの増加が蛋白・mRNAともに認められた。結果を図8に示す。
さらに、in vitroでの実験系として、成体マウスの皮膚組織から線維芽細胞(AFbs)を調製した。AFbsは平板培養するとSM22αを発現するため、TGFβ刺激による筋線維芽細胞分化誘導前に既にIKKβを欠損していた。IKKβの欠損により、AFbsではNFκBの活性化が阻害されていた。また、in vivoで観察されたように、AFbsの培養細胞でもコラーゲンの沈着が亢進していた。
このAFbsを用いて、当該細胞からタンパク質及びRNAを抽出した。種々のコラーゲン蓄積・分解の調節因子のmRNAの発現レベルをqRT-PCR法で調べたところ、いずれの実験でも、MMP9のmRNA発現が野生型に比べて有意に抑制されていた(図9-1(a))。次いで、MMP9タンパク質の活性をゼラチンザイモグラフィー法で確認した(図9-1(b))。その結果、KOマウス由来のAFbsでは、WTマウスと比べてMMP9 の活性が顕著に減少しており、コラーゲンが蓄積する機構と考えられた(図9-1(b))。
【実施例】
【0071】
さらに、SM22αプロモーター下でキナーゼ活性型IKKβを過剰発現するIKKβKAMFマウスを作製し、その成体マウスから線維芽細胞を採取した。上記同様に、該細胞から、MMP9のmRNA量及び活性を確認した結果、予想通りMMP9のmRNA量と活性が顕著に増大していた。結果を図9-2に示す。
一方、線維化に関与しているとされているβ-カテニンの発現を確認した結果、IKKβKOマウスでは活性型β-カテニンの発現が顕著に増加していたのに対し、IKKβKAMFマウスでは顕著に抑制されていた。結果を図9-3に示す。さらに、IKKβとβ-カテニンとの結合を調べた結果を図9-4に示す。IKKβKAMF線維芽細胞溶解液(1mg)を1μgのコントロールのIgG、抗β-カテニン抗体又は抗FLAG抗体と4℃で1晩インキュベートし、25μL Protein G Sepharose(GE Healthcare)を加えて4℃で1時間振とう後、細胞溶解バッファーで3回、Tris(pH7.5)バッファーで1回沈殿物を洗浄後、SDSサンプルバッファーで溶出し、抗β-カテニン抗体又は抗FLAG抗体を用いたイムノブロッティングで検出した。その結果、IKKβとβ-カテニンとは直接的に相互作用することが示された。
【実施例】
【0072】
実施例5 IKKβKOマウスにおけるT細胞活性
実施例1で得られたマウスから筋線維芽細胞を調製し、正常マウスから得られた樹状細胞と共培養を行った。培養は37℃、5%CO2条件下で行い、卵白アルブミン(Ovalbmin)を抗原として使用、添加されたOVA特異的T細胞の増殖を[H]チミジンの取り込みを指標としてT細胞増殖能を測定した。
その結果、KOマウスから線維芽細胞を樹状細胞と共培養することで、抗原提示によるT細胞刺激が増加していた。結果を図10に示す。
【実施例】
【0073】
実施例6 強皮症患者におけるNFκB活性
強皮症患者(n=5)及び健常人(n=5)の皮膚を生検で採取し、線維芽細胞を調製した。当該線維芽細胞をL-グルタミン、ペニシリン/ストレプトマイシン及び10%FCSを添加したDMEM培地中で、37℃、5%CO2濃度で培養した。培養後、線維芽細胞からNE-PER核タンパク質・細胞質タンパク質分離抽出用キット(Thermo Scientific)を用いて核タンパク質を抽出し、全細胞溶解液(whole-cell lysate)及び核抽出液中のp65タンパク質量を比較した。また、当該線維芽細胞からRNAaqueous(商標)キット(Applied Biosytems(商標))を用いてRNAを単離し、TaqMan(登録商標)Gene Expression Assaysキット(Applied Biosytems(商標))を用いて、p65のmRNA量を比較した。さらに、当該線維芽細胞におけるNFκB活性をNFκB p65 Transcription Assay Kit (Thermo Scientific)で測定して比較した。強皮症患者皮膚からの線維芽細胞のNFκB p65は、核内及び細胞全体で発現量が低下しており(図11-1(a)、(b))、mRNA量も減少していた(図11-1(a))。また、NFκB活性も低下していた(図11-1(b))。さらに、強皮症患者皮膚からの線維芽細胞を、60分間IL-1β(2.5ng/mL)で刺激し、IKKβ及び核内p65タンパク質量を比較した。その結果、IL-1β刺激によりIKKβ及び核内p65タンパク質量の発現が顕著に抑制された(図11-2)。また、強皮症患者皮膚からの線維芽細胞を前記IL-1β刺激を行う前に、2μMの MG132で2時間処理しIKKβ量を測定した。その結果、MG132処理によりIKKβ量が回復した(図11-3)。
つまり、NFκB活性やp65発現量の低下は、IKKβの発現量の低下によるものであることが示された。また、強皮症患者の線維芽細胞におけるIKKβの発現量の減少には、ユビキチン-プロテアソーム系による分解の関与が示唆された。
【実施例】
【0074】
本発明を好ましい態様を強調して説明してきたが、好ましい態様が変更され得ることは当業者にとって自明である。さらに、特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、ここに引用されたことによって、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、筋線維芽細胞及び/又は平滑筋細胞特異的にIKKβ遺伝子を欠損させることで様々な組織の線維化を示す非ヒト動物を提供する。また、該非ヒト動物は、線維化のメカニズムの解明や、線維化の予防又は治療薬の開発に使用することが可能である。
【0076】
該非ヒト動物は、ヒト強皮症で認められる病態と高い類似性を示すことから、強皮症のモデル動物として使用することも可能である。強皮症は原因不明の難病であり、そのメカニズムの解明や予防又は治療薬の開発に有用な「モデル動物」を提供することができる点でも極めて有用である。
【0077】
本出願は、米国仮特許出願第61/721,301号(出願日:2012年11月1日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。
図面
【図1-1】
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【図1-2】
1
【図2】
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【図3】
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【図4-1】
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【図4-2】
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【図4-3】
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【図4-4】
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【図5】
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【図6-1】
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【図6-2】
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【図6-3】
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【図7】
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【図8】
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【図9-1】
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【図9-2】
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【図9-3】
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【図9-4】
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【図10】
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【図11-1】
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【図11-2】
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【図11-3】
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