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明細書 :易分散性セルロース組成物の製造方法、及びセルロース用の水系の分散処理剤の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B1)
特許番号 特許第5825653号 (P5825653)
登録日 平成27年10月23日(2015.10.23)
発行日 平成27年12月2日(2015.12.2)
発明の名称または考案の名称 易分散性セルロース組成物の製造方法、及びセルロース用の水系の分散処理剤の製造方法
国際特許分類 C08L   1/02        (2006.01)
C08L  97/00        (2006.01)
C08F 293/00        (2006.01)
C08J   3/05        (2006.01)
B01F  17/52        (2006.01)
FI C08L 1/02
C08L 97/00
C08F 293/00
C08J 3/05 CEY
B01F 17/52
請求項の数または発明の数 8
全頁数 26
出願番号 特願2015-525664 (P2015-525664)
出願日 平成27年3月30日(2015.3.30)
国際出願番号 PCT/JP2015/060029
優先権出願番号 2014072483
優先日 平成26年3月31日(2014.3.31)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成27年5月18日(2015.5.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】今井 貴宏
【氏名】青柳 太洋
【氏名】嶋中 博之
【氏名】辻井 敬亘
【氏名】榊原 圭太
【氏名】後藤 淳
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100098707、【弁理士】、【氏名又は名称】近藤 利英子
【識別番号】100135987、【弁理士】、【氏名又は名称】菅野 重慶
【識別番号】100161377、【弁理士】、【氏名又は名称】岡田 薫
審査官 【審査官】安田 周史
参考文献・文献 特開2002-146116(JP,A)
特開2009-138024(JP,A)
平成22年度~平成24年度成果報告書,独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構,2013年,p.39-42
榊原 圭太 et al.,セルロースナノファイバーに適した高分子分散剤の開発と樹脂複合材料への応用,繊維学会予稿集,2013年,68(1),p.2H15
榊原 圭太 et al.,高分子分散剤を用いたセルロースナノファイバー強化樹脂材料の開発,成形加工,2013年,24,p.119-120
榊原 圭太 et al.,ジブロック共重合体添加によるセルロースナノファイバー/樹脂複合材料の作製,セルロース学会年次大会講演要旨集,2013年,20,p.67
榊原 圭太 et al.,高分子分散剤を用いたセルロースナノファイバー強化複合材料の高性能化と構造評価,繊維学会予稿集,2013年,68(2),p.72
調査した分野 C08L 1/02
要約 ナノセルロースの表面改質等を行うことなく、簡便で効率的な方法で、水を主媒体とした系で、顔料等の微細な疎水性物質を分散させるために開発された高分子分散剤を、親水性の物質であるセルロースに処理し、樹脂等の疎水性物質中にセルロースを容易に分散させる技術の提供を目的とし、該目的を、樹脂親和性セグメントAと、セルロース吸着性セグメントBとを有するブロック共重合体構造を有する高分子分散剤を親水性有機溶剤溶液に溶解し、これに界面活性剤を添加し、その後に水を添加することで高分子分散剤を含有した水系の分散処理剤を作製し、得られた水系の分散処理剤を、含水状態又は乾燥状態のセルロースに添加して易分散性セルロース組成物を得る製造方法、これに用いる水系の分散処理剤の製造方法、易分散性セルロース組成物、これを用いたセルロース分散樹脂組成物によって解決する。
特許請求の範囲 【請求項1】
セルロースの樹脂中への分散性を高めた易分散性セルロース組成物の製造方法であって、樹脂親和性セグメントAと、セルロース吸着性セグメントBとを有するブロック共重合体構造を有する高分子分散剤を親水性有機溶剤溶液に溶解し、これに界面活性剤を添加し、その後に水を添加することで前記高分子分散剤を含有した水系の分散処理剤を作製し、得られた水系の分散処理剤を、含水状態又は乾燥状態のセルロースに添加して易分散性セルロース組成物を得ることを特徴とする易分散性セルロース組成物の製造方法。
【請求項2】
前記界面活性剤が、脂肪族アミン類のカルボン酸塩、無機酸塩及び4級アンモニウム塩からなる群から選ばれる少なくともいずれかである請求項1に記載の易分散性セルロース組成物の製造方法。
【請求項3】
前記親水性有機溶剤が、アルコール系溶剤又はグリコール系溶剤である請求項1又は2に記載の易分散性セルロース組成物の製造方法。
【請求項4】
前記セルロースが、セルロースナノファイバー、セルロースナノクリスタル、パルプ、リグノセルロース及び木粉からなる群から選ばれる少なくとも1種の、含水状態又は乾燥状態のセルロース繊維である請求項1~3のいずれか1項に記載の易分散性セルロース組成物の製造方法。
【請求項5】
前記高分子分散剤が、更に、下記(1)~(5)の要件をすべて満たすブロック共重合体である請求項1~4のいずれか1項に記載の易分散性セルロース組成物の製造方法。
(1)前記A-Bブロック共重合体の構成成分の90質量%以上がメタクリレート系モノマーで構成されていること;
(2)前記セルロース吸着性セグメントBは、構成成分の50質量%以上が、水酸基を1個以上有するメタクリレート系モノマー及び/又は尿素基を有するメタクリレート系モノマーで構成されており、且つ、樹脂との相溶性がないこと;
(3)前記樹脂親和性セグメントAのゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が500~20000であり、且つ、前記A-B共重合体全体に占める該樹脂親和性セグメントAの割合が5~95質量%であること;
(4)前記セルロース吸着性セグメントBのゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が500~20000であり、且つ、前記A-B共重合体全体に占める該セルロース吸着性セグメントBの割合が5~95質量%であること;
(5)前記A-Bブロック共重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が1000~40000であり、且つ、分子量分布指数(重量平均分子量/数平均分子量)が1.0~1.6であること。
【請求項6】
前記(2)のセルロース吸着性セグメントBの構成成分の70質量%以上が、水酸基を1個以上有するメタクリレート系モノマー及び/又は尿素基を有するメタクリレート系モノマーで構成されており、更に、構成成分の3~15質量%が、アルカリで中和されたメタクリル酸及び/又はカルボキシ基を有するメタクリレート系モノマー又は第4級アンモニウム塩基を有するメタクリレート系モノマーで構成されている請求項5に記載の易分散性セルロース組成物の製造方法。
【請求項7】
前記高分子分散剤が、有機ヨウ素化合物を開始化合物とし、リン化合物、窒素化合物、酸素化合物又は炭素化合物を触媒とするリビングラジカル重合法である可逆連鎖移動触媒重合(RTCP)法で合成されたものである請求項5又は6に記載の易分散性セルロース組成物の製造方法。
【請求項8】
樹脂親和性セグメントAと、セルロース吸着性セグメントBとを有するブロック共重合体構造を有する高分子分散剤を親水性有機溶剤溶液に溶解し、これに界面活性剤を添加し、その後に水を添加することで高分子分散剤を含有した水系の分散処理剤を製造することを特徴とする、セルロースの樹脂中への分散性を高めた易分散性セルロース組成物の製造に用いる水系の分散処理剤の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、優れたフィラーとしての機能が注目されているものの、親水性の物質であることから、樹脂等への分散が難しく、現状では、その利用が促進されていない微細なセルロース繊維の広範な利用の実現を可能にする新たな技術に関し、具体的には、高分子分散剤を用いてセルロースに処理して、セルロースの樹脂分散性を高めた易分散性セルロース組成物の製造方法、これに用いる水系の分散処理剤の製造方法、易分散性セルロース組成物、これを用いたセルロース分散樹脂組成物を提供する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース繊維は、全ての植物の基本骨格物質であり、地球上に一兆トンを超える蓄積があり、植樹によって再生可能の資源であることからも、その有効活用が望まれる。セルロース繊維は、鋼鉄の1/5の軽さであるにも関わらず、鋼鉄の5倍以上の強度、ガラスの1/50の低線熱膨張係数を有する繊維である。そこで、セルロース繊維を、樹脂等のマトリックス中にフィラーとして含有させ、機械的強度を付与させる技術が提案されている(特許文献1)。また、セルロース繊維が有する機械的強度を更に向上させる目的で、セルロース繊維を解繊して、セルロースナノファイバー(CNF、ミクロフィブリル化植物繊維)が添加剤中に分散した状態で存在するようにした繊維状樹脂補強剤についての提案がある(特許文献2)。また、CNFと同様にセルロース繊維を解繊処理したものとして、セルロースナノクリスタル(CNC)が知られている。CNFは、セルロース繊維を機械的解繊等の処理を施すことで得られる繊維であり、繊維幅4~100nm程度、繊維長5μm程度以上の繊維である。CNCは、セルロース繊維を酸加水分解等の化学的処理を施すことで得られる結晶であり、結晶幅10~50nm程度、結晶長500nm程度の結晶である。これらCNF及びCNCは、総称してナノセルロースと称される。ナノセルロースは、高比表面積(250~300m2/g)であり、鋼鉄と比較して軽量であり且つ高強度である。
【0003】
ナノセルロースは、ガラスと比較して熱変形が小さい。高強度且つ低熱膨張であるナノセルロースは、持続型資源材料として有用な素材であり、例えば、ナノセルロースと樹脂等の高分子材料と組み合わせて高強度・低熱膨張とする複合材料、エアロゲル材料、CNCの自己組織化によるキラルネマチック液晶相を利用した光学異方性材料、ナノセルロースに機能性官能基を導入して高機能性材料の開発及び創製がなされている。一方で、ナノセルロースは、水酸基を豊富に有するので、親水性で極性が強く、疎水性で極性の無い汎用性樹脂との相溶性に劣る側面がある。このため、ナノセルロースを用いた材料開発では、化学処理により、ナノセルロースの表面改質又はナノセルロースへの官能基導入を行い、ナノセルロースの汎用性樹脂との相溶性を向上させることが検討されている。つまり、ナノセルロースの汎用性樹脂に対する分散性を向上させることが検討されている。
【0004】
また、セルロース繊維をフィラーとして含む汎用性樹脂組成物の作製において、分散剤を添加して、セルロース繊維と汎用性樹脂との分散性、相溶性を向上させることが検討されている。非特許文献1では、セルロースナノクリスタル(セルロースナノウィスカー)に界面活性剤を吸着させて、セルロースナノクリスタルの有機溶媒分散性を向上させている。非特許文献2では、界面活性剤を吸着したセルロースナノクリスタルを補強材としたアイソタクチックポリプロピレン(iPP)複合材料を作製し、iPP単独に比べて約1.4倍に引張強度を向上させている。前記した特許文献2では、熱可塑性樹脂の補強材としてセルロースを利用する場合に、セルロースの凝集塊の発生を抑え、樹脂にセルロースを均一に分散する目的で、セルロースファイバーと親水性であり且つ特定のHLB値(親水親油バランス)を有する添加剤(低分子系界面活性剤)を用い、セルロースファイバーが添加剤中に分散した状態にさせている。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2008-266630号公報
【特許文献2】国際公開第2012/111408号
【0006】

【非特許文献1】Heuxら、Langmuir、Vol.16、No.21、2000、8210-8212
【非特許文献2】Ljungbergら、Polymer、Vol.47、2006、6285-6292
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記した従来例ではいずれも、分散剤として低分子化合物を用いてナノセルロースの分散性向上を試みている。これに対し、本発明者らは、顔料等の微細な疎水性物質を樹脂や、水系媒体中に分散させるために開発されてきた高分子分散剤を、簡便で、多量の有機溶剤を使用することがない環境にも配慮した方法で、親水性物質であるセルロースに適用することができれば、実用化に向けて非常に有用であるとの認識を持つに至った。ここで、セルロースの汎用樹脂への分散に、高分子分散剤を用いることができれば、以下に挙げるような技術的な利点があると考えられる。まず、モノマー設計により多種多様な構造の高分子設計が可能であるので、目的、用途に応じた分子設計が可能になる点である。すなわち、高分子分散剤として無数の構造の設計が可能なため、モノマー設計によって、分散させる樹脂の種類等に適合させた、より高性能の分散剤の合成が期待できる。高分子分散剤としては、オレフィン系ポリマー、アクリル系ポリマー、エステル系ポリマー、ウレタン系ポリマーなど、様々な種類のものが使用できると考えられる。その中で、特にアクリル系ポリマーは、穏和な条件で重合が可能で比較的容易にポリマーを得ることができ、また、多種多様なアクリル系モノマーが存在するため、配合上無数の組成を選択し、目的、用途に応じた分子設計がし易いため、より有用であることが予想される。
【0008】
更に、アクリル系ポリマーを高分子分散剤として用いる場合、その構造としてブロック共重合体構造とすることが、以下の理由から、有用であると考えられる。ブロック共重合体は、構成成分の異なる、2種類以上のポリマーセグメントが1本のポリマー鎖に含まれた構造であるため、モノマー組成を工夫することで、それぞれのポリマーセグメントに異なる機能性を付与できるという利点がある。例えば、異なるモノマー組成(成分)からなるA鎖とB鎖からなるA-B型ブロック共重合体を例にとれば、ポリマーセグメントA(A鎖)として汎用性樹脂と親和性の高い成分を有するものとし、一方で、ポリマーセグメントB(B鎖)としてセルロースと吸着性の高い成分を有するものとなるようにブロック共重合体を設計できれば、分散剤として利用することで、A鎖とB鎖とがそれぞれ効果的に作用して、汎用性樹脂中におけるセルロースの凝集抑制、分散安定化が期待できると考えられる。すなわち、樹脂親和性セグメントA及びセルロース吸着性セグメントBを有するブロック共重合体をセルロース分散樹脂組成物の分散剤として用いた場合、セルロースの分散性が良好となり、フィラーとして機械的強度を十分に高めることが期待できる。
【0009】
本発明者らは、高分子分散剤の機能を十分に発揮させるためには、高分子分散剤のセルロースへの処理方法が重要となると考えた。前記した技術にもあるように、高分子分散剤による分散は、セルロースの凝集塊の発生を抑えることが、良好な分散を達成するための前提条件となる。このため、良好な分散状態を達成したセルロース分散樹脂組成物を得るための前処理方法として、セルロースを凝集させることなく、如何にセルロースに高分子分散剤を処理するかが重要となる。具体的な方法として、例えば、水不溶性のアクリルポリマーを高分子分散剤としてセルロースに処理する場合は、水不溶のために高分子分散剤を有機溶剤に溶解させて、セルロースに添加する工程が必要になると考えられる。しかし、このような、水を含んだ状態のセルロースに、有機溶剤に溶解した高分子分散剤を添加した場合は、水の存在によって高分子分散剤が析出し、セルロースに効果的に作用しない恐れがある。一方、水ではなく、高分子分散剤を溶解させる有機溶剤を含んだ状態のセルロースに高分子分散剤を添加した場合は、析出させることなく高分子分散剤をセルロースに処理できるが、ろ過や乾燥などによって多量の有機溶剤を除去する必要が生じるという別の問題が生じる。また、この場合は、この点に加え、更に、セルロースは水酸基を多数有しており親水性が強いため、有機溶剤が含まれることによりセルロースが凝集し、十分なセルロースの分散状態が得られない恐れがある。そこで、使用する有機溶剤の量を少なくでき、水を主媒体とした系で、簡便で、効率的に高分子分散剤をセルロースに処理し、セルロースを樹脂に対して易分散性とできる方法の開発が待望される。
【0010】
本発明は、前記の背景を鑑みてなされたものであり、その目的は、従来技術のように、ナノセルロースの表面改質や、ナノセルロースへの官能基導入といったことを行うことなく、従来、顔料等の微細な疎水性物質を分散させるために開発されてきた高分子分散剤による分散を、簡便な方法で親水性の物質であるセルロースに適用可能なものにし、多量の有機溶剤を使用せず、水を主媒体とした系で、簡便で効率的に高分子分散剤をセルロースに処理し、樹脂等の疎水性物質中にセルロースを容易に分散させることができる易分散性セルロース組成物を提供すること、更には、これによって有用なセルロース分散樹脂組成物の提供を可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、高分子分散剤を用いてセルロース分散樹脂組成物を得る際に必要となる、樹脂等の疎水性物質中にセルロースを容易に分散可能にした易分散性セルロース組成物を、多量の有機溶媒を用いることなく、極めて簡便な方法で得る方法を見出し、これによって、高分子分散剤を親水性の物質であるセルロースに適用可能にでき、セルロースの凝集塊の発生を抑えつつ、良好なセルロース分散樹脂組成物が得られることを見出して、本発明を達成した。
【0012】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、セルロースの樹脂中への分散性を高めた易分散性セルロース組成物の製造方法であって、樹脂親和性セグメントAと、セルロース吸着性セグメントBとを有するブロック共重合体構造を有する高分子分散剤を親水性有機溶剤溶液に溶解し、これに界面活性剤を添加し、その後に水を添加することで前記高分子分散剤を含有した水系の分散処理剤を作製し、得られた水系の分散処理剤を、含水状態又は乾燥状態のセルロースに添加して易分散性セルロース組成物を得ることを特徴とする易分散性セルロース組成物の製造方法を提供する。
【0013】
上記の易分散性セルロース組成物の製造方法の好ましい形態としては、前記界面活性剤が、界面活性剤が、脂肪族アミン類のカルボン酸塩、無機酸塩、及び4級アンモニウム塩からなる群から選ばれる少なくともいずれかであること;前記親水性有機溶剤が、アルコール系又はグリコール系溶剤であること;前記セルロースが、セルロースナノファイバー、セルロースナノクリスタル、パルプ、リグノセルロース及び木粉からなる群から選ばれる少なくとも1種の、含水状態又は乾燥状態のセルロース繊維であることが挙げられる。
【0014】
また、上記の易分散性セルロース組成物の製造方法の好ましい形態としては、前記高分子分散剤が、更に、下記(1)~(5)の要件をすべて満たすブロック共重合体であることが挙げられる。
(1)前記A-Bブロック共重合体の構成成分の90質量%以上がメタクリレート系モノマーで構成されていること;
(2)前記セルロース吸着性セグメントBは、構成成分の50質量%以上が、水酸基を1個以上有するメタクリレート系モノマー及び/又は尿素基を有するメタクリレート系モノマーで構成されており、且つ、樹脂との相溶性がないこと;
(3)前記樹脂親和性セグメントAのゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が500~20000であり、且つ、前記A-B共重合体全体に占める該樹脂親和性セグメントAの割合が5~95質量%であること;
(4)前記セルロース吸着性セグメントBのゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が500~20000であり、且つ、前記A-B共重合体全体に占める該セルロース吸着性セグメントBの割合が5~95質量%であること;
(5)前記A-Bブロック共重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が1000~40000であり、且つ、分子量分布指数(重量平均分子量/数平均分子量)が1.0~1.6であること。
【0015】
更に、上記の易分散性セルロース組成物の製造方法の好ましい形態としては、上記の構文素分散剤の構成が、前記(2)のセルロース吸着性セグメントBの構成成分の70質量%以上が、水酸基を1個以上有するメタクリレート系モノマー及び/又は尿素基を有するメタクリレート系モノマーで構成されており、更に、構成成分の3~15質量%が、アルカリで中和されたメタクリル酸及び/又はカルボキシ基を有するメタクリレート系モノマー又は第4級アンモニウム塩基を有するメタクリレート系モノマーで構成されていることが挙げられる。
【0016】
また、上記いずれかの易分散性セルロース組成物の製造方法の好ましい形態としては、前記高分子分散剤が、有機ヨウ素化合物を開始化合物とし、リン化合物、窒素化合物、酸素化合物又は炭素化合物を触媒とするリビングラジカル重合法である可逆連鎖移動触媒重合(RTCP)法で合成されたものであることが挙げられる。
【0017】
また、本発明は、別の実施形態として、上記したいずれかの易分散性セルロース組成物の製造方法により得られたことを特徴とする易分散性セルロース組成物を提供する。
【0018】
また、本発明は、別の実施形態として、上記した易分散性セルロース組成物と、樹脂とを含む樹脂組成物を溶融混練して得られたものであることを特徴とするセルロース分散樹脂組成物を提供する。その好ましい形態としては、前記樹脂組成物が、前記易分散性セルロース組成物に起因する液分を含んだまま溶融混練して得られたものであること;また、前記樹脂が、熱可塑性樹脂であること;が挙げられる。
【0019】
また、本発明は、別の実施形態として、樹脂親和性セグメントAと、セルロース吸着性セグメントBとを有するブロック共重合体構造を有する高分子分散剤を親水性有機溶剤溶液に溶解し、これに界面活性剤を添加し、その後に水を添加することで高分子分散剤を含有した水系の分散処理剤を製造することを特徴とする、セルロースの樹脂中への分散性を高めた易分散性セルロース組成物の製造に用いる水系の分散処理剤の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、樹脂中に良好な状態でセルロースが分散された状態のセルロース分散樹脂組成物を得るのに有用で、簡便な方法で、使用する有機溶剤の量を少なくでき、水を主媒体とした系で高分子分散剤をセルロースに処理することを可能にした、セルロース用の水系の分散処理剤、更に、易分散性セルロース組成物が提供される。より具体的には、界面活性剤を用いた簡便な方法で、セルロース用として有用な高分子分散剤を含む水系の分散処理剤を安定に作製することができる。この水系の分散処理剤は、セルロースが、含水状態又は乾燥状態のいずれであっても用いることができる有用なものである。すなわち、本発明によれば、従来、疎水性の顔料等に適用してきた高分子分散剤を、親水性の物質であるセルロースに処理する工程において、主成分の溶剤として水で実施することができ、有機溶剤によるセルロース凝集を抑制しながら高分子分散剤をセルロースに処理でき、簡便で効率的に、易分散性セルロース組成物の提供が可能になる。この結果、再生が可能な天然素材であり、優れたフィラーとしての機能が注目されているものの、親水性の物質であることから、汎用樹脂である熱可塑性樹脂等への分散が難しく、現状では、その利用が促進されていない微細なセルロース繊維の広範な利用の実現が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
発明を実施するための最良の形態を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。
本発明の特徴は、高分子分散剤を用いたセルロース分散樹脂組成物を得るために必要となる、高分子分散剤によってセルロースの樹脂への分散性を良好なものとした易分散性セルロース組成物の提供を可能できる、簡便な前処理方法を見出した点にある。具体的には、特定のブロック共重合体構造を有する高分子分散剤及び界面活性剤を含む親水性有機溶剤溶液に水を添加し、水系の分散処理剤とする場合に、界面活性剤を用い、その添加順を特定のものとするという極めて簡便な方法で、セルロースに対して有効に機能する、高分子分散剤を含む水系の分散処理剤を得た点に大きな特徴を有する。この水系の分散処理剤をセルロースに添加混合することで、易分散性セルロース組成物が提供され、この易分散性セルロース組成物を用いて樹脂との複合化をすることで、極めて容易に、セルロース分散樹脂組成物を得ることができる。本発明者らの検討によれば、得られるセルロース分散樹脂組成物は、セルロースが樹脂中に良好に分散したものとなり、更に、射出成型した場合に、その機械的強度が向上したものとなる。このように、多量の有機溶剤を使用しない、極めて簡便な方法で、樹脂への相溶性に優れる易分散性セルロース組成物が得られるので、機能性材料として優れたセルロースの広範な利用が期待できる。

【0022】
以下、本発明を特徴づける高分子分散剤を含むセルロース用の水系の分散処理剤について詳細に説明する。
本発明のセルロース用の水系の分散処理剤は、界面活性剤を含む高分子分散剤の親水性有機溶剤溶液に水を添加することで作製することができる。特に、本発明では、まず、特定のブロック共重合体構造を有する高分子分散剤を親水性有機溶剤溶液に溶解し、これに界面活性剤を添加し、その後に水を添加することで、高分子分散剤を含有した水系の分散処理剤を作製することを必須とする。以下、使用するそれぞれの材料について説明する。

【0023】
本発明で用いることのできる好適な高分子分散剤について詳細な特徴は後述するが、本発明においては、特に、親水性有機溶剤に溶解するものであるものを用いる。また、本発明で用いる親水性有機溶剤としては、水と相溶して均一になるものであれば、いずれのものでもよいが、特にアルコール系溶剤又はグリコール系溶剤を用いることが好ましい。本発明のセルロース用の水系の分散処理剤の作製においては、高分子分散剤の親水性有機溶剤溶液を用いるが、その際の有機溶剤中における高分子分散剤の濃度としては、5~80質量%であることが好ましい。80質量%より濃度が高い場合、高分子分散剤溶液の粘度が高くなり過ぎて、水を添加する場合に均一な混合が難しくなる恐れがあるので好ましくない。また、5質量%より濃度が低い場合、相対的に親水性有機溶剤の量が多くなるため、得られる水系の分散処理剤においても親水性有機溶剤が多くなってしまい、その後の有機溶剤の除去処理の問題が生じるので好ましくない。したがって、有機溶剤中における高分子分散剤の濃度としては、5~80質量%であることが好ましく、5~50質量%がより好ましく、10~30質量%が更に好ましい。本発明で使用する高分子分散剤の親水性有機溶剤溶液として、高分子分散剤を作製する際に得られる重合溶液をそのまま用いることができ、この場合は、より簡便な方法になる。また、重合溶液を親水性有機溶剤で希釈して、上記した濃度範囲に調整したものを用いることができる。勿論、重合溶液から高分子分散剤を一旦析出させたものを、親水性有機溶剤で再溶解させたものを用いることもできる。

【0024】
先述したように、本発明の特徴は、本発明で規定する特有の方法で、特有のブロック共重合体構造を有する高分子分散剤及び界面活性剤を含む親水性有機溶剤溶液に水を添加することで、高分子分散剤を含有してなるセルロース用の水系の分散処理剤を作製したことにある。親水性有機溶剤溶液における界面活性剤の濃度としては、0.01~1質量%であることが好ましい。1質量%より濃度が高い場合は、セルロース分散樹脂組成物において界面活性剤の含有量が多くなり過ぎてしまい、可塑剤として働き、物性に影響を及ぼす恐れがあるので好ましくない。また、0.01質量%より濃度が低い場合は、界面活性剤としての効果が低く、本発明を特徴づける高分子分散剤を含有してなるセルロース用の水系の分散処理剤が均一に形成されずに、高分子分散剤が析出して沈降してしまう恐れがある。また、この場合は、セルロースに処理した時に高分子分散剤が効果的に作用しない恐れがあるので好ましくない。したがって、親水性有機溶剤溶液における界面活性剤の濃度としては、0.01~1質量%であることが好ましく、0.05~0.5質量%であることがより好ましい。

【0025】
本発明で使用するセルロース用の水系の分散処理剤は、界面活性剤を含む高分子分散剤の親水性有機溶剤溶液に水を添加することで得られるが、その全量中における水が50質量%以上であり、且つ、親水性有機溶剤が30質量%以下であることが好ましい。本発明の方法は、水を主媒体として高分子分散剤をセルロースに処理して、易分散性セルロース組成物にすることを特徴とするため、本発明のセルロース用の水系の分散処理剤は、水の含有量が多く、親水性有機溶剤量が少ないことが好ましい。上記したように、本発明では、特に、水の添加量を調整することで、本発明のセルロース用の水系の分散処理剤中における水の含有量が50質量%以上であり、且つ、親水性有機溶剤が30質量%以下とすることが好ましい。しかし、これらの濃度について限定されるものではない。

【0026】
(高分子分散剤)
次に、本発明において好適に用いることのできる高分子分散剤について詳細に説明する。
本発明で用いる高分子分散剤は、樹脂親和性セグメントAと、セルロース吸着性セグメントBとを有するブロック共重合体構造を有するものを用いるが、更に、下記(1)~(5)の要件をすべて満たすブロック共重合体であることが好ましい。
(1)前記A-Bブロック共重合体の構成成分の90質量%以上がメタクリレート系モノマーで構成されていること;
(2)前記セルロース吸着性セグメントBは、構成成分の50質量%以上が、水酸基を1個以上有するメタクリレート系モノマー及び/又は尿素基を有するメタクリレート系モノマーで構成されており、且つ、樹脂との相溶性がないこと;
(3)前記樹脂親和性セグメントAのゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が500~20000であり、且つ、前記A-B共重合体全体に占める該樹脂親和性セグメントAの割合が5~95質量%であること;
(4)前記セルロース吸着性セグメントBのゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が500~20000であり、且つ、前記A-B共重合体全体に占める該セルロース吸着性セグメントBの割合が5~95質量%であること;
(5)前記A-Bブロック共重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が1000~40000であり、且つ、分子量分布指数(重量平均分子量/数平均分子量)が1.0~1.6であること;である。

【0027】
以下に、上記に挙げた各要件について、それぞれ説明する。まず、本発明で使用する高分子分散剤は、樹脂親和性セグメントAと、セルロース吸着性セグメントBとを有するブロック共重合体構造を有するものである。ブロック共重合体は、性質の異なる2種類以上のモノマー成分において、各モノマー成分が形成するポリマーセグメント同士が共有結合で結合し、性質の異なる2種類以上のポリマーセグメントが1本のポリマー鎖に含まれた構造のものである。2種類のセグメントからなるA-B型ブロック共重合体を例にとると、性質(機能性)の異なるポリマーセグメントA及びポリマーセグメントBとが共有結合した構造を有する。ブロック共重合体は、ポリマー鎖において性質の異なる2種類以上のモノマー成分が、モノマー成分ごとに局在化している部分を有しているため、各モノマー成分がランダムに配列したランダム共重合体と比べ、各々の成分の性能がより発揮されると期待できる。すなわち、分散剤の構造を、樹脂親和性セグメントA及びセルロース吸着性セグメントBを有するA-Bブロック共重合体とすることで、樹脂親和性能及びセルロース吸着性能が各々のポリマー鎖によって十分に発揮されることが期待できる。本発明では、前記した理由により、使用する高分子分散剤の構造を、樹脂親和性セグメントAとセルロース吸着性セグメントBとを有するA-Bブロック共重合体構造とするものである。

【0028】
本発明によって、本発明の顕著な効果が得られた理由について、本発明者らは、以下のように考えている。すなわち、上記したブロック共重合体構造を有する高分子分散剤を用い、先に述べたようにして得た、該高分子分散剤を含むセルロース用の水系の分散処理剤で、セルロースに処理すると、高分子分散剤の有するセルロース吸着性セグメントBと、セルロースの表面における多点相互作用により、セルロースの表面に分散剤が効果的に被覆される。また、上記構造の分散剤の樹脂親和性セグメントAにより、セルロースの表面が疎水化され、セルロース及び樹脂との親和性を向上させることができ、セルロースは、樹脂に対して易分散性を示すセルロース組成物となる。また、該組成物を用いて樹脂と複合化することで得られる樹脂組成物は、高分子分散剤の効果によってセルロースの分散性に優れたものとなり、また、高分子分散剤がセルロースを被覆し、セルロースと樹脂との界面の強度が高まり、その結果、強度及び弾性率に優れる樹脂組成物を得ることができたものと考えられる。

【0029】
本発明で使用できる高分子分散剤は、(1)に挙げたように、その構成成分の90質量%以上がメタクリレート系モノマーで構成されたものであることが好ましい。これは下記の理由による。90質量%以上がメタクリレート系モノマーで構成された分散剤は、分散剤の構造として良好なだけでなく、詳細は後述するが、より機能性に優れた高分子分散剤を得るためには、分散剤の合成にリビングラジカル重合法である可逆連鎖移動触媒重合(RTCP)法を用いることが好ましく、RTCP法では、主としてメタクリル系モノマーにおいて優れたリビング重合性を発揮でき、重合収率がよく、分子量分布が狭く、ブロック化が容易であるためである。より具体的には、アクリル系モノマーやスチレン系モノマー、ビニル系モノマーが存在すると、分子量分布が広くなったり、重合収率が悪くなったりするので、本発明に用いる高分子分散剤は、その構成成分が、90質量%以上のメタクリル系モノマーであることが好ましい。本発明で使用する高分子分散剤は、その構成成分が、90質量%以上のメタクリル系モノマーで構成することで、各ブロック構造の違いがより明確な高分子分散剤となり、より機能性に優れたものとなる。

【0030】
また、本発明で使用する高分子分散剤は、(2)に挙げたように、そのセルロース吸着性セグメントBの構成成分の50質量%以上が、水酸基を1個以上有するメタクリレート系モノマー及び/又は尿素基を有するメタクリレート系モノマーで構成されており、且つ、樹脂との相溶性がないことが好ましい。これは、下記の理由による。一つは、前記(1)で説明したように、その構成成分の90質量%以上がメタクリレート系モノマーであることを要するからである。また、(2)のように構成すれば、セグメント中に、水酸基及び/又は尿素基を有する構造となるため、ブロック共重合体において、セルロース吸着性セグメントBとして効果が高いと考えられことによる。この作用は、下記の理由で達成されると考えられる。まず、セルロースは、その骨格に水酸基を有しており、その水酸基同士の水素結合が働くので、セルロースは非常に強固で水に不溶なポリマーである。このようなセルロースの水酸基と、本発明の高分子分散剤を構成するセグメントBにおける水酸基及び/又は尿素基が水素結合にて吸着し、結果として、分散剤がセルロースに吸着する働きをすると考えられる。本発明者らの検討によれば、このセルロース吸着性セグメントBの構成成分における水酸基成分及び/又は尿素基の割合は、60質量%以上が好ましく、更に、70質量%以上であることがより好ましい。これに対し、セグメントBを構成する水酸基を1個以上有するメタクリレート系モノマー及び/又は尿素基を有するメタクリレート系モノマーの割合が50質量%未満であると、セルロース吸着性セグメントBとしての効果が不十分であり、分散剤としての効果が十分に発揮されない場合があるので好ましくない。

【0031】
本発明で使用する高分子分散剤は、(3)に挙げたように、樹脂親和性セグメントAのゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が、500~20000であることが好ましい。更に、樹脂と樹脂親和性(樹脂との相溶性)を示すためには、1000~8000程度であることがより好ましい。これは、樹脂親和性セグメントAの最も樹脂親和効率が高いと思われる分子量領域である。更に、分散剤全体に占める樹脂親和性セグメントAの割合は、5~95質量%が好ましく、30~70質量%がより好ましい。5質量%未満であると、相対的に樹脂親和成分が少なく、樹脂親和性能を十分に発揮できない場合があるので好ましくない。一方で、95%質量%より大きいと、相対的にセルロース吸着成分が少なく、セルロース吸着性能を十分に発揮できない場合があるので好ましくない。

【0032】
本発明で使用する高分子分散剤は、(4)に挙げたように、樹脂親和性セグメントBのゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるポリスチレン換算の数平均分子量は500~20000であることが好ましい。更に、セルロースとの高いセルロース吸着性を示すためには、1000~8000程度であることがより好ましく、セルロース吸着性セグメントBの最もセルロース吸着効率が高いと思われる分子量領域である。また、分散剤全体に占めるセルロース吸着性セグメントBの割合は5~95質量%が好ましく、30~70質量%がより好ましい。5質量%未満であると、相対的にセルロース吸着成分が少なく、セルロース吸着性能を十分に発揮できない。一方で、95%質量%より大きいと、相対的に樹脂親和成分が少なく、樹脂親和性能を十分に発揮できない。

【0033】
本発明で使用する高分子分散剤は、(5)に挙げたように、そのゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が1000~40000であることが好ましい。更に、2000~16000程度であることがより好ましい。分子量が大きくなると、高分子分散剤の水系分散液が安定に形成がされない可能性があり、高分子分散剤をセルロースに効果的に処理できない恐れがあるので好ましくない。また、分子量分布指数(重量平均分子量/数平均分子量)が1.0~1.6であることが好ましい。更に1.0~1.5であることがより好ましい。高分子分散剤の分子量分布指数は、分子量分布の程度を表し、その値が小さいことは、高分子分散剤の分子量の分布が狭いこと、すなわち、分子量の均一性が高いことを意味する。分子量の分布が狭いということは、分子量が大きいものや小さいものが少なく、高分子分散剤の性質が均一なものとなり、高分子分散剤によってもたらされる高度な微分散状態を与える効果を、より向上させることができることを意味している。

【0034】
<樹脂親和性セグメントA>
本発明で使用される好適な高分子分散剤を構成する樹脂親和性セグメントAは、セルロース吸着性セグメントBを介して、セルロースの表面を疎水化する。ここで、樹脂親和性の基本は、対象となる樹脂の構造に類似又は対象となる樹脂に近い疎水性を有することが好ましく、また、前記した本発明に好適に用いられる高分子分散剤の条件(1)より、メタクリレート系モノマーであることが好ましい。本発明で用いる樹脂親和性セグメントAのモノマー成分としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、テトラデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ボルニルメタクリレート、イソボロニルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、オクタフルオロオクチルメタクリレート、テトラフルオロエチルメタクリレート等の、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、芳香環、ハロゲン元素含有のメタクリレート等が挙げられる。

【0035】
<セルロース吸着性セグメントB>
本発明者らの検討によれば、本発明で使用される高分子分散剤を構成するセルロース吸着性セグメントBは、セルロースの表面に存在する水酸基に対して、水素結合により相互作用を示す。前記(2)の要件の通り、本発明に好適なセルロース吸着性セグメントBは、セルロース吸着性セグメントBの構成成分の50質量%以上が、水酸基を1個以上有するメタクリレート系モノマー及び/又は尿素基を有するメタクリレート系モノマーで構成される。このように構成することで、セルロースの表面に存在する水酸基と水素結合を形成し、及び、高分子鎖において多点相互作用を示すことで、セルロース吸着性セグメントBは、セルロースと効果的に吸着するものとなる。すなわち、このセルロース吸着性セグメントBが、セルロースと効果的に吸着し、この結果、その構造中の上記した樹脂親和成分Aの効果で、セルロースが疎水化される。また、水酸基等を有することで親水性有機溶剤に溶解しやすくなり、本発明で使用する、高分子分散剤を含有するセルロース用の水系の分散処理剤の作製において有利となり、また高分子分散剤は析出せずに安定な水系分散液を得ることができる。なお、このセグメントBは、分散媒体である樹脂に相溶性(親和性)を有してはいけない。本願において、親和性とは、お互いに混ざることを示し、相溶性を示すものである。樹脂と、セグメントBに親和性があると、セルロースと吸着したセグメントBが、樹脂にも親和することによってセルロースから脱離してしまい、良好な分散状態を示さない場合があるので好ましくない。

【0036】
本発明で使用する高分子分散剤を構成するセルロース吸着性セグメントBの構成成分は、先の条件(1)より、メタクリレート系モノマーであることが好ましい。このため、本発明で用いる水酸基を1個以上有するメタクリレート系モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、3-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシブチルメタクリレート、3-ヒドロキシブチルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、グリセリルモノメタクリレート等の水酸基含有メタクリレートが挙げられる。

【0037】
セルロース吸着性セグメントBを形成する尿素基を有するメタクリレート系モノマーとしては、例えば、メタクリロイロキシエチルウレア、メタクリロイロキシエチルエチレンウレア等が挙げられる。

【0038】
また、セルロース吸着性セグメントBを構成するそれ以外のモノマーとしては、前記したアルキル、アルケニル、シクロアルキル、芳香環、ハロゲン元素含有のメタクリレートが使用でき、更に、アルコキシ基、グリシジル基を有するメタクリレート系モノマーも前記した使用範囲で用いることができる。具体的には、例えば、メトキシエチルメタクリレート、エトキシエチルメタクリレート、メトキシプロピルメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノエチルエーテルメタクリレート、エトキシポリエチレングリコールモノエチルエーテルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメタクリレート、メタクリロイロキシエチルグリシジルエーテル、メタクリロイロキシエトキシエチルグリシジルエーテル、ジエチルアミノエチルメタクリレート、t-ブチルアミノエチルメタクリレート等のアミノ基含有メタクリレート及びその4級アンモニウム型等が挙げられる。なお、上記における「ポリ」及び「(ポリ)」は、いずれもn=2以上を意味する。これらの中で、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、グリセリルモノメタクリレート、メタクリロイルオキシエチルエチレンウレアが、汎用性モノマーであり、且つ、その1個の水酸基や尿素基に対して分子量が小さいので、その官能基数を多くすることができるので、効果が高くなり、また樹脂との相溶性が劣ることから好ましい。

【0039】
以下に、本発明で使用する好適な高分子分散剤を構成するセルロース吸着性セグメントBの更に好ましい構成について説明する。より好適には、界面活性剤を極力少なくして乳化させることが好ましい場合があり、その場合には、このセルロース吸着性セグメントBを形成する際に、形成モノマー成分の3~15質量%を、アルカリで中和された、メタクリル酸及び/又はカルボキシ基を有するメタクリレート系モノマー、或いは、第4級アンモニウム塩基を有するメタクリレート系モノマーとする。これらのモノマーはイオン化かされているモノマーである。その理由は、セルロース吸着性セグメントBの構成成分として、中和されたカルボキシ基や第4級アンモニウム塩といった水に親和するモノマーがあると、よりセルロースへの吸着性が高まる効果に加えて、このように構成することで、水系の分散処理剤として好適に使用できるものとなる。すなわち、セルロース吸着性セグメントBの構造中に、カルボキシ基や第4級アンモニウム塩などの官能基を導入することによって、このセグメントBが水に溶解するので、本発明で使用するA-Bブロック共重合体構造を有する高分子分散剤を自己乳化性にでき、この構成により、界面活性剤の乳化性を補助する効果がある。この結果、容易に水系の分散処理剤とすることができるからである。

【0040】
この際に使用するメタクリル酸及び/又はカルボキシ基を有するメタクリレート系モノマー、或いは、第4級アンモニウム塩基を有するメタクリレート系モノマーとしては、下記のものが挙げられる。具体的には、メタクリル酸や、メタクリル酸2-ヒドロキシエチルなどの水酸基を有するメタクリレート系モノマーにフタル酸等の多塩基酸を反応させて得られるカルボキシ基を有するメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレートやジエチルアミノエチルメタクリレートなどの塩化メチル、塩化ベンジル、ジメチル硫酸などで4級化した第4級アンモニウム塩含有メタクリレート系モノマーが挙げられる。好ましくは、加水分解する可能性がない、メタクリル酸、ジメチルアミノエチルメタクリレートの塩化メチル又は塩化ベンジルの第4級アンモニウム塩が、汎用性が高い材料であるので好ましい。また、アルカリにて中和するが、このアルカリは特に限定はされない。例えば、アンモニア、ジメチルアミノエタノールなどの有機アミン、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの水酸化物などが挙げられる。

【0041】
また、セルロース吸着性セグメントBに導入するこのイオン化されたメタクリレートの導入量は、このセグメントB中に3~15質量%である。3質量%未満であると、自己乳化性が足りず、後記する界面活性剤が必要となり、15質量%より多いと、耐水性が悪くなってしまう可能性がある。より好ましくは5~13質量%である。また、このイオン化されたメタクリレートは、樹脂親和性セグメントに導入してはいけない。イオン化されていることから、相溶性が悪く、セルロースの分散性を妨げる可能性がある。

【0042】
<高分子分散剤の製造方法>
次に、上記に挙げた要件(1)~(5)の全てを具備する本発明に好適な高分子分散剤の合成方法について説明する。本発明で用いる高分子分散剤は、樹脂親和性セグメントAとセルロース吸着性セグメントBとを有するブロック共重合体構造である前記A-B型ブロック共重合体であることが好ましいが、その合成には、リビングラジカル重合法を用いることが好ましい。リビングラジカル重合とは、ラジカル重合において、分子構造の明確な高分子を得ることができる方法である。重合時、生長鎖末端のラジカルが安定化させるため、あるモノマーを重合した後に、続けて別のモノマーを添加することで、再び重合を進行させることができ、構成がそれぞれに異なる重合体セグメントを有するブロック共重合体を合成することができる。

【0043】
ここで、リビングラジカル重合の例としては、ニトロキサイドを使用するNitroxide mediated polymerization(以下、NMP法と略す)、ハロゲン元素である保護基を金属錯体によって引き抜いたりする方法である原子移動ラジカル重合法(Atom Transfer Radical Polymerization、以下ATRP法と略す)、ジチオエステルやザンテート化合物を使用する可逆的付加解裂型連鎖移動重合(Reversible Addition Fragmentation Transfer Polymerization、以下RAFT法と略す)、有機テルル化合物、有機ビスマス化合物などを使用する方法、コバルト錯体を使用する方法、ヨウ素移動重合、ヨウ素を保護基とし、触媒としてリン、窒素、酸素、炭化水素の化合物を使用する可逆連鎖移動触媒重合法(Reversible Transfer Catalized Polymerization、以下、RTCP法と略す)などが挙げられ、いずれも使用できる。

【0044】
しかし、NMP法はアクリル系モノマー、スチレン系モノマーなどの重合に使用することができるが、メタクリル系モノマーは十分な構造制御ができないので、好ましくない。末端の解離による3級ラジカルの副反応が伴うからである。また、一般的に高温が必要であり、更に、使用するニトロキサイドは特殊な化合物であり、コストが高く、環境の面でも安全性が保証されない。また、ATRP法では、アミン系の錯体を使用するので、カルボキシル基含有モノマーをそのまま使用することができない。RAFT法は、多種のモノマーを使用した場合、低分子量分布になりづらく、且つ、硫黄臭や着色などの不具合がある。有機テルルなどを使用する方法は、有機金属が高価であり、環境的な安全性も不明であるので、その安全性試験にコストがかかり、この点で好ましくない。

【0045】
上記した理由から、本発明に好適な高分子分散剤の合成で使用されるリビングラジカル重合方法としては、従来のラジカル重合に、重合開始化合物と触媒を併用するだけで容易に行える重合方法である、RTCP法が適している。

【0046】
上記重合方法は、下記に示す一般反応式1で表される反応機構で進み、すなわち、ドーマント種Polymer-X(P-X)の成長ラジカルへの可逆的活性反応よって重合が進行するものである。
(一般反応式1)
JP0005825653B1_000002t.gif 上記重合反応機構は、触媒の種類によって変わる可能性があるが、次のように進むと考えられる。上記一般反応式1では、ラジカル開始剤から発生したP・がXAと反応して、in situで触媒A・が生成する。A・は、P-Xの活性化剤として作用して、この触媒作用によってP-Xは高い頻度で活性化する。

【0047】
更に詳しくは、有機ヨウ素化合物を重合開始化合物として用いると、熱や光により発生した有機ラジカルがモノマーと反応し、ポリマー末端ラジカルが生成する。一方で、逐次発生したヨウ素ラジカルはポリマー末端ラジカルと結合して安定化するので、停止反応が生ずるのを防止することができる。この繰り返しによりリビングラジカル重合が進行するため、得られるA-Bブロックコポリマーの分子量や構造を、容易に所望するものに制御することができる。

【0048】
有機ヨウ素化合物は、熱や光の作用によりヨウ素ラジカルを発生しうるものであれば特に限定されない。有機ヨウ素化合物の具体例としては、例えば、2-アイオド-1-フェニルエタン、1-アイオド-1-フェニルエタンなどのアルキルヨウ化物;2-シアノ-2アイオドプロパン、2-シアノ-2-アイオドブタン、1-シアノ-1-アイオドシクロヘキサン、2-シアノ-2-アイオドバレロニトリルなどのシアノ基含有ヨウ化物などを挙げることができる。

【0049】
この場合、市販品の有機ヨウ素化合物をそのまま使用してもよいし、従来公知の方法で合成した有機ヨウ素化合物を使用してもよい。有機ヨウ素化合物は、例えば、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物とヨウ素を反応させることで得ることができる。また、臭素や塩素などのヨウ素以外のハロゲン原子を有する有機ハロゲン化物とともに、第4級アンモニウムアイオダイドやヨウ化ナトリウムなどのヨウ化物塩とを使用し、反応系中でハロゲン交換反応を起こさせて有機ヨウ素化合物を発生させてもよい。

【0050】
また、リビングラジカル重合においては、ヨウ素化合物からヨウ素原子を引き抜いてヨウ素ラジカルを生じさせうる触媒を使用することが好ましい。このような触媒としては、ハロゲン化リン、フォスファイト系化合物、フォスフィネート化合物などのリン系化合物;イミド系化合物などの窒素系化合物;フェノール系化合物などの酸素系化合物;ジフェニルメタン系化合物、シクロペンタジエン系化合物などの活性な炭素原子を含む炭化水素化合物を挙げることができる。なお、これらの触媒は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いてもよい。

【0051】
(親水性有機溶剤)
次に、本発明で使用する、上記に挙げたような高分子分散剤を溶解する際に用いる親水性有機溶剤について説明する。本発明において使用する親水性有機溶剤としては、水と均一に相溶し、高分子分散剤を溶解させるものであれば特に限定されないが、アルコール系溶剤又はグリコール系溶剤であることが好ましい。アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール等を用いることができ、グリコール系溶剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等を用いることができる。また、親水性有機溶剤として、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のアミン類や、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ピロリドン、メチルピロリドン、エチルピロリドン等のアミド類等も用いることができる。本発明者らの検討によれば、親水性有機溶剤の乾燥による除去を考慮し、親水性有機溶剤としては、沸点が170℃以下のものを用いることがより好ましい。

【0052】
(界面活性剤)
本発明で使用する界面活性剤について説明する。本発明では、界面活性剤として、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤等の一般的な界面活性剤を用いることができる。本発明者らの検討によれば、中でも特にカチオン性界面活性剤を用いると、前記した高分子分散剤を含有するセルロース用の水系の分散処理剤をより安定に形成することができ、該分散処理剤を用いることで、セルロースにより効果的な処理をすることができるようになる。

【0053】
本発明に用いるカチオン性界面活性剤としては、脂肪族アミン類のカルボン酸塩、無機酸塩及び4級アンモニウム塩等を挙げることができる。脂肪族アミン類のカルボン酸塩又は無機酸塩としては、具体的には、ラウリルアミン、メチルラウリルアミン、ジメチルラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、メチルステアリルアミン、ジメチルステアリルアミン、メチルジステアリルアミン、オレイルアミン、メチルオレイルアミン、ジメチルオレイルアミン、リノールアミン、リノレンアミン等のアミン類の酢酸塩、プロピオン酸塩、乳酸塩、クエン酸、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等を用いることができる。また、脂肪族アミン類の4級アンモニウム塩としては、トリメチルラウリルアンモニウムクロリド、ジメチルジラウリルアンモニウムクロリド、メチルトリステアリルアンモニウムクロリド、トリメチルステアリルアンモニウムクロリド、ジメチルジステアリルアンモニウムクロリド、メチルトリステアリルアンモニウムクロリド、トリメチルステアリルアンモニウムブロミド、トリメチルオレイルアンモニウムクロリド、ジメチルジステアリルアンモニウムクロリド、メチルトリオレイルアンモニウムクロリド等を用いることができる。

【0054】
アニオン性界面活性剤としては、特に限定されるものでなく、一般的な界面活性剤を用いることができる。具体的には、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルナフタレンスルホン酸ナトリウム等のアルキルナフタレンスルホン酸塩、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム等のポリスチレンスルホン酸塩、ドデシル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩等を用いることができる。ノニオン性界面活性剤も、特に限定されるものではなく、一般的な界面活性剤を用いることができる。具体的には、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノラウレート等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル、グリセロールモノステアレート等のグリセリン脂肪酸エステル等を用いることができる。

【0055】
(セルロース)
本発明で使用するセルロースは、セルロースナノファイバー(以下、CNFと記載)、セルロースナノクリスタル(以下、CNCと記載)、パルプ、リグノセルロース、木粉からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。特に、CNF又はCNCを用いることがより好ましい。本発明では、CNF及びCNCを「ナノセルロース」と称す。以下、各セルロースについて、詳細に説明する。

【0056】
セルロース(またはセルロース繊維)の原料として用いられる植物繊維は、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、綿、ビート、農産物残廃物及び布といった天然植物原料から得られる天然セルロースや、パルプ(紙)及びレーヨン、セロファン等の再生セルロース繊維等が挙げられる。木材としては、例えば、シトカスプルース、スギ、ヒノキ、ユーカリ及びアカシア等が挙げられ、紙としては、脱墨古紙、段ボール古紙、雑誌及びコピー用紙等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。植物繊維は、1種単独でも用いてもよく、これらから選ばれた2種以上を用いてもよい。

【0057】
リグノセルロースは、植物繊維の主成分であり、主に、セルロース、ヘミセルロース、リグニンから構成され、各々が結合した構造であり、植物繊維を形成している。このリグノセルロースを含む植物繊維を機械処理及び/又は化学処理により、ヘミセルロース及びリグニンを除去し、セルロースの純分を高めることで、パルプが得られる。必要に応じて漂白処理も行われ、また、脱リグニン量を調整し、当該パルプ中のリグニン量を調整することができる。パルプとしては、植物繊維を機械処理及び/又は化学処理によりパルプ化することで得られるケミカルパルプ〔クラフトパルプ(KP)、亜硫酸パルプ(SP)〕、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグランドパルプ(CGP)、ケミメカニカルパルプ(CMP)、砕木パルプ(GP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、サーモメカニカルパルプ(TWP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、及びこれらのパルプを主成分とする脱墨古紙パルプ、段ボール古紙パルプ、雑誌古紙パルプが好ましいものとして挙げられる。これらのパルプの中でも、繊維の強度が強い針葉樹由来の各種クラフトパルプ〔針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹酸素晒し未漂白クラフトパルプ(NOKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)〕が特に好ましい。パルプ中のリグニン含有量は、特に限定されるものではないが、通常0~40質量%程度、好ましくは0~10質量%程度である。リグニン含有量の測定は、Klason法により測定することができる。

【0058】
本発明において好適に使用できるナノセルロースは、セルロース繊維を含む材料(例えば、木材パルプ等)を、その繊維をナノサイズレベルまで解きほぐした(解繊処理した)セルロースであり、CNF及びCNCを含む。植物の細胞壁の中では、幅4nm程のセルロースミクロフィブリル(シングルセルロースナノファイバー)が最小単位として存在し、植物の基本骨格物質であるが、ナノセルロースは、セルロースミクロフィブリル又はセルロースミクロフィブリルが複数凝集して形成されるナノサイズのセルロースである。

【0059】
ナノセルロースの中で、CNFは、セルロース繊維を機械的解繊等の処理を施すことで得られる繊維であり、繊維幅4~200nm程度、繊維長5μm程度以上の繊維である。CNFの比表面積としては、70~300m2/g程度が好ましく、70~250m2/g程度がより好ましく、100~200m2/g程度が更に好ましい。CNFの比表面積を高くすることで、樹脂と組み合わせて組成物とした場合に、接触面積を大きくすることができ強度が向上する。また、比表面積が極端に高いと、樹脂組成物の樹脂中での凝集が起こり易くなり、目的とする高強度材料が得られないことがある。CNFの繊維径は、平均値が通常4~200nm程度、好ましくは4~150nm程度、特に好ましくは4~100nm程度である。

【0060】
植物繊維を解繊し、CNFを調製する方法としては、パルプ等のセルロース繊維含有材料を解繊する方法が挙げられる。解繊方法としては、例えば、セルロース繊維含有材料の水懸濁液又はスラリーを、リファイナー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、一軸又は多軸混練機(好ましくは二軸混練機)、ビーズミル等による機械的な摩砕、ないし叩解することにより解繊する方法が使用できる。必要に応じて、上記の解繊方法を組み合わせて処理してもよい。これらの解繊処理の方法としては、例えば、特開2011-213754号公報、特開2011-195738号公報に記載された解繊方法等を用いることができる。

【0061】
また、CNCは、セルロース繊維を酸加水分解等の化学的処理を施すことで得られる結晶であり、結晶幅4~70nm程度、結晶長25~3000nm程度の結晶である。CNCの比表面積としては、90~900m2/g程度が好ましく、100~500m2/g程度がより好ましく、100~300m2/g程度が更に好ましい。CNCの比表面積を高くすることで、樹脂と組み合わせて組成物とした場合に、接触面積を大きくすることができ強度が向上する。また、比表面積が極端に高いと、樹脂組成物の樹脂中での凝集が起こりやすくなり、目的とする高強度材料が得られないことがある。CNCの結晶幅は、平均値が通常10~50nm程度、好ましくは10~30nm程度、特に好ましくは10~20nm程度である。CNCの結晶長は、平均値が通常500nm程度、好ましくは100~500nm程度、特に好ましくは100~200nm程度である。

【0062】
植物繊維を解繊し、CNCを調製する方法としては、公知の方法が採用できる。例えば、前記セルロース繊維含有材料の水懸濁液又はスラリーを、硫酸、塩酸、臭化水素酸等による酸加水分解等の化学的手法が使用できる。必要に応じて、上記の解繊方法を組み合わせて処理してもよい。

【0063】
本発明におけるナノセルロースの繊維径の平均値(平均繊維径、平均繊維長、平均結晶幅、平均結晶長)は、電子顕微鏡の視野内のナノセルロースの少なくとも50本以上について測定した時の平均値である。

【0064】
ナノセルロースは、高比表面積(好ましくは200~300m2/g程度)であり、鋼鉄と比較して軽量であり且つ高強度である。ナノセルロースは、また、ガラスと比較して熱変形が小さい(低熱膨張)。

【0065】
ナノセルロースは、セルロースI型結晶を有し、且つ、その結晶化度が50%以上と高い結晶化度を有するものが好ましい。ナノセルロースのセルロースI型の結晶化度は、55%以上がより好ましく、60%以上が更に好ましい。ナノセルロースのセルロースI型の結晶化度の上限は、一般的に95%程度、または、90%程度である。

【0066】
セルロースI型結晶構造とは、例えば、朝倉書店発行の「セルロースの辞典」新装版第一刷81~86頁、或いは93~99頁に記載の通りのものであり、ほとんどの天然セルロースはセルロースI型結晶構造である。これに対して、セルロースI型結晶構造ではなく、例えば、セルロースII、III、IV型構造のセルロース繊維はセルロースI型結晶構造を有するセルロースから誘導されるものである。中でもI型結晶構造は他の構造に比べて結晶弾性率が高い。

【0067】
本発明で使用するセルロースとしては、上記した中でも、セルロースI型結晶構造のナノセルロースが好ましい。I型結晶であると、ナノセルロースとマトリックス樹脂との複合材料とした際に、低線膨張係数、且つ、高弾性率な複合材料を得ることができる。ナノセルロースがI型結晶構造であることは、その広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2θ=14°~17°付近と2θ=22~23°付近の二つの位置に典型的なピークを持つことから同定することができる。

【0068】
例えば、ナノセルロースのスラリーにエタノールを加え、ナノセルロース濃度を0.5質量%に調製する。次いで、このスラリーをスターラーにて撹拌後、素早く減圧ろ過(アドバンテック東洋株式会社製の5Cろ紙)を開始する。次いで、得られたウェットウェブを、110℃、圧力0.1tで10分間加熱圧縮し、50g/m2のCNFシートを得る。そして、X線発生装置(リガク社製「UltraX18HF」)を用い、ターゲットCu/Kα線、電圧40kV、電流300mA、走査角(2θ)5.0~40.0°、ステップ角0.02°の測定条件で、上記CNFシートの測定を行い、セルロースI型の結晶化度を測定する。

【0069】
ここで、セルロースの重合度は、天然セルロースで500~10000、再生セルロースで200~800程度である。セルロースは、β-1,4結合により直線的に伸びたセルロースが何本かの束になって、分子内あるいは分子間の水素結合で固定され、伸びきり鎖となった結晶を形成している。セルロースの結晶には、多くの結晶形が存在していることは、X線回折や固体NMRによる解析で明らかになっているが、天然セルロースの結晶形はI型のみである。X線回折等から、セルロースにおける結晶領域の比率は、木材パルプで約50~60%、バクテリアセルロースはこれより高く約70%程度と推測されている。セルロースは、伸びきり鎖結晶であることに起因して、弾性率が高いだけでなく、鋼鉄の5倍の強度、ガラスの1/50以下の線熱膨張係数を示す。逆に言うと、セルロースの結晶構造を壊すことは、これらセルロースの高弾性率、高強度といった優れた特徴を失うことに繋がる。

【0070】
本発明を特徴づける上記した高分子分散剤を含有してなるセルロース用の水系の分散処理剤を使用し、これをセルロースに処理することで、上記したセルロース結晶を壊すことなく、高分子分散剤によって良好に分散された易分散性セルロース組成物を得ることができる。また、該易分散性セルロース組成物を用い、樹脂との複合化をすることによって、セルロースの結晶を壊すことなく、樹脂中にセルロースが良好に分散した、セルロース分散樹脂組成物を得ることができる。樹脂中において、セルロース結晶が壊れない状態で存在し、また、セルロースが優れた分散性を有することで、樹脂中でセルロースの高弾性率、高強度といった優れた機械特性を発揮し、高弾性率、高強度の樹脂組成物を得ることができる。

【0071】
本発明では、上記したセルロース分散樹脂組成物を得る際に、前記した高分子分散剤を含有するセルロース用の水系の分散処理剤をセルロースに添加して、易分散性セルロース組成物を作製し、これを樹脂と複合化させる。本発明では、この際に用いるセルロースは、含水状態であることが好ましい。すなわち、含水状態のセルロースを用いることで、高分子分散剤を含有するセルロース用の水系の分散処理剤によるセルロース処理において、水を主体とする処理を実施することができるので経済的である。一方で、セルロースを一旦乾燥させてしまうと、高分子分散剤を含有するセルロース用の水系の分散処理剤を添加する場合に、再び、機械処理、解繊処理を実施しなくては難しい。含水状態のセルロースには、水以外にも、アルコール類、グリコール類、アミン類、アミド類等の親水性溶剤を含んでいてもよい。アルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等、グリコール類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等、アミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等、アミド類としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ピロリドン、メチルピロリドン、エチルピロリドン等を含んでいてもよい。

【0072】
本発明では、上記で説明した、CNF、CNC、パルプ、リグノセルロース、木粉からなる群から選ばれる少なくとも1種の含水状態又は乾燥状態のセルロース繊維を用いることができるが、ナノセルロースが、潜在的に高弾性率、高強度である点から、ナノセルロースを用いることが好ましい。ナノセルロースを用いることで、樹脂との複合化によって得られるセルロース分散樹脂組成物は、機械的強度に優れたものとなる。

【0073】
(高分子分散剤を含有するセルロース用の水系の分散処理剤の製造)
本発明で使用する高分子分散剤を含有するセルロース用の水系の分散処理剤は、高分子分散剤及びカチオン性界面活性剤を含む親水性有機溶剤溶液に、水を添加することで作製する。特に重要なことは、まず、高分子分散剤を親水性有機溶剤溶液に溶解し、これに界面活性剤を添加し、その後に、水を添加することで高分子分散剤を含有した水系の分散処理剤を作製することである。本発明者らの検討によれば、高分子分散剤を、セルロースに効果的に処理することができるようにするためには、この順序を満たして作製する必要がある。すなわち、高分子分散剤と界面活性剤と親水性有機溶剤と水とを含有するものであっても、本発明で規定する順で作製したものでなければ、本発明の顕著な効果は得られない。換言すれば、高分子分散剤と界面活性剤と親水性有機溶剤と水とを含有するものを用いてセルロースの分散を実現しているとすれば、その実施系は、本発明で規定する方法を実施していることになる。

【0074】
上記において使用する高分子分散剤の親水性有機溶剤溶液は、高分子分散剤の重合溶液をそのまま用いてもよく、また、重合溶液を親水性有機溶剤で希釈したものでもよい。更に、重合溶液から析出又は乾燥により重合溶剤を除去し、高分子分散剤単体としたものを親水性有機溶剤で再希釈させたものを用いてもよい。高分子分散剤及び界面活性剤を含む親水性有機溶剤溶液への水の添加方法は、高分子分散剤及び界面活性剤を含む親水性有機溶剤溶液を撹拌しながら、その中に水を滴下していく方法が好ましいが、特に限定するものではない。

【0075】
上記において、高分子分散剤としては、上記で説明した樹脂親和性セグメントAと、セルロース吸着性セグメントBとを有するブロック共重合体構造を有するものを用いるが、この際、前記した、イオン性のメタクリレートをセルロース吸着性セグメントに導入して自己乳化性とし、水系分散処理剤を用いることも、界面活性剤の量を減らし、より容易に水系の分散処理剤ができる有効な手段となる。

【0076】
(高分子分散剤を含有するセルロース用の水系の分散処理剤によるセルロースへの処理)
本発明で使用する、上記したようにして調製した高分子分散剤を含有するセルロース用の水系の分散処理剤を、セルロースに処理する方法としては、高分子分散剤を含有する水系の分散処理剤を、固形分25%程度の含水率を示すセルロースに添加するとよい。均一に処理するため、セルロースを撹拌しながら、高分子分散剤を含有する水系の分散処理剤を添加し、セルロース及び高分子分散剤を混合することが好ましい。また、この際における、添加、混合時における温度、圧力等の条件は特に制限するものでなく、常温常圧での条件の他、昇温、冷却、加圧、減圧等の条件で実施してもよい。また、撹拌速度も特に制限するものではない。セルロースは含水状態又は乾燥状態のものを用いることができるが、添加時の処理のし易さから、上記したような含水状態のものを用いることが好ましい。また、含水状態のセルロースには、セルロースが凝集状態とならない範囲で水以外の有機溶剤を含んでいてもよい。

【0077】
(樹脂)
本発明では、本発明により得られる高分子分散剤を含む易分散性セルロース組成物と、樹脂とを溶融混練することで、良好なセルロース分散樹脂組成物を得ることができる。この際に使用する樹脂としては、特に限定されないが、溶融混練してセルロース分散樹脂組成物を得ることが好ましいことから、熱可塑性樹脂を使用することが好ましい。熱可塑性樹脂としては、オレフィン系樹脂、ナイロン樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエステル系樹脂、トリアセチル化セルロース、ジアセチル化セルロース等のセルロース系樹脂等がある。ポリアミド系樹脂としてはポリアミド6(PA6、ε-カプロラクタムの開環重合体)、ポリアミド66(PA66、ポリヘキサメチレンアジポアミド)、ポリアミド11(PA11、ウンデカンラクタムを開環重縮合したポリアミド)、ポリアミド12(PA12、ラウリルラクタムを開環重縮合したポリアミド)等が例示される。この中で、樹脂組成物とした場合の補強効果を十分に得ることができるという利点、安価であるという利点から、オレフィン系樹脂が好ましい。オレフィン系樹脂としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ビニルエーテル樹脂等の汎用樹脂が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で使用してもよく、2種以上の混合樹脂として用いてもよい。オレフィン系樹脂の中でも、樹脂組成物とした場合の補強効果を十分に得ることができるという利点、安価であるという利点から、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、バイオポリエチレン等のポリエチレン系樹脂(PE)、ポリプロピレン系樹脂(PP)、塩化ビニル樹脂、スチレン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ビニルエーテル樹脂等が好ましい。
【実施例】
【0078】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、文中の「部」及び「%」は、特に断りのない限り、質量基準である。
【実施例】
【0079】
〔製造例1〕(高分子分散剤-1の合成)
撹拌機、還流コンデンサー、温度計及び窒素導入管を取り付けた反応装置に、ジメチルジグリコール(以下、DMDGと略す)106部、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート(以下、DCPOEMAと略す)70部、ヨウ素1.0部、ジフェニルメタン(以下、DPMと略す)0.2部、重合開始剤として2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(商品名:V-70、和光純薬社製)5.0部を添加した。そして、窒素ガスを導入しながら撹拌し、マントルヒーターにて40℃に昇温した。反応系をそのまま40℃に保ち、7時間重合してポリマーブロックAを得た。重合の進行を、反応系中の固形物濃度より算出したところ、重合率は85%であった。また、THF溶媒によるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により分子量を算出し、数平均分子量(以下、Mnと略す)が4900、重量平均分子量(以下、Mwと略す)で6500であった。その分子量分布(以下、PDI値と略す)は1.33であった。上記で得られたポリマーブロックAは、後述するように、樹脂親和性セグメントとして機能するものとなる。
【実施例】
【0080】
次に、上記に続けて反応系にメタクリル酸2-ヒドロキシエチル(以下、HEMAと略す)30部を添加し、40℃で4時間重合して、ポリマーブロックBを形成した。このポリマーブロックBは、セルロース吸着性セグメントとして機能するものとなる。重合の進行を、反応系中の固形物濃度より算出した結果、トータルの重合率は98%であった。また、GPCより分子量を測定したところ、ブロック共重合体全体のMnが7600、Mwで10600であった。PDI値は1.40であった。
【実施例】
【0081】
上記のようにして得られた重合溶液200部を、水/メタノール混合液200部(水:メタノール=3:1)に投入し、高分子分散剤を析出させてろ過した。更に、追加で水/メタノール混合液200部(水:メタノール=3:1)で2回洗浄、ろ過を繰り返し、80℃で乾燥させることでA-Bブロックコポリマーからなる高分子分散剤-1を92部得た。
【実施例】
【0082】
〔製造例2〕(高分子分散剤-2の合成)
先の高分子分散剤-1の合成において、DCPOEMA70部を使用する代わりに、メチルメタクリレート(以下、MMAと略す)70部を使用し、また、DMDG106部を使用する代わりにプロピレングリコールプロピルエーテル(以下、PFGと略す)106部を使用した以外は製造例1と同様にして重合を実施した。その結果、樹脂親和性セグメントAとして機能させるためのMMAの重合で得られたセグメントは、重合率86%であり、Mnは5900、Mwは8100、PDI値は1.37であった。また、セルロース吸着性セグメントBとして機能させるためのHEMAの重合では、増粘したために、追加でPFG56部を添加して希釈した。その重合率は99%、ブロック共重合体全体のMnは8500、Mwは12000、PDI値は1.41であった。製造例1と同様に、水/メタノール混合液による析出、洗浄及び乾燥によりA-Bブロックコポリマーからなる高分子分散剤-2を90部得た。
【実施例】
【0083】
〔製造例3〕(高分子分散剤-3の合成)
先の高分子分散剤-1の合成において、HEMA30部を使用する代わりに、HEMA10部及びメトキシエチルメタクリレート(以下、MOEMAと略す)20部を使用したこと以外は製造例1と同様にして重合を実施した。その結果、樹脂親和性セグメントAとして機能させるためのDCPOEMAの重合では、重合率83%であり、Mnは4700、Mwは6300、PDI値は1.34であった。また、セルロース吸着性セグメントBとして機能させるためのHEMA/MOEMAの重合では、重合率は97.0%であり、ブロック共重合体全体のMnは7000、Mwは9900、PDI値は1.41であった。製造例1と同様に、水/メタノール混合液による析出、洗浄及び乾燥によりA-Bブロックコポリマーからなる高分子分散剤-3を93部得た。
【実施例】
【0084】
〔製造例4〕(高分子分散剤-4の合成)
実施例1と同様にして重合時間を9時間に替えて、ポリマーブロックAを得た。その重合率は100%で、数平均分子量が5600、PDIが1.40であった。次いで、HEMA30部、メタクリロイロキシエチルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド(MOEBAC)の30質量%のプロピレングリコールモノプロピルエーテル13.3部を添加し、重合した。得られた重合物の分子量は、THF溶媒のGPCから、10ml/Lのリチウムブロマイドのジメチルホルムアミド溶液を展開溶媒とするGPCに換えて測定したところ、重合率はほぼ100%であり、数平均分子量が8200、PDIは1.40であった。算出されたポリマーブロックBの数平均分子量は1600であり、水酸基を有するメタクリレート系モノマーの含有量は88.2質量%であり、イオン性基を有するモノマーの含有量は11.8%である。
【実施例】
【0085】
上記のようにして得た高分子分散剤1~4のモノマー組成及び特性を表1にまとめて示した。CNF親和性セグメントであるBブロックのMnは、A-BブロックのMn値からAブロックのMnを差し引いた値として算出した。結果を表1中に示した。
【実施例】
【0086】
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【実施例】
【0087】
〔製造例5〕(セルロースナノファイバー(CNF)の調製)
まず、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)(リファイナー処理済み、固形分:25%)600部に、水を19400部添加し、パルプスラリー濃度0.75質量%の水懸濁液(スラリー)を調製した。次に、得られたスラリーに対し、ビーズミルを用いて機械的解繊処理を行った。更に、解繊処理を行った後、フィルタープレスで脱水し、含水状態のCNF-1(固形分:25%)を570部得た。
【実施例】
【0088】
〔実施例1〕(10質量%の高分子分散剤-1の水系分散処理剤の溶液aの作製)
先に調製した高分子分散剤-1を10部、DMDG25部に溶解させ、これに、界面活性剤としてオレイルアミン酢酸塩を0.2部添加し、均一に撹拌しながら、次に、水64.8部を滴下して、10質量%の高分子分散剤-1の水系分散処理剤の溶液aを100部得た。得られた溶液aは、高分子分散剤-1が淡い黄濁状に分散しており、これを24時間静置しても沈降は確認されなかった。
【実施例】
【0089】
〔実施例2〕(10質量%の高分子分散剤-2の水系分散処理剤の溶液bの作製)
実施例1で用いた高分子分散剤-1に替えて、先に調製した高分子分散剤-2を使用したこと以外は実施例1と同様に実施して、10質量%の高分子分散剤-2の水系分散処理剤の溶液bを100部得た。得られた溶液bは、高分子分散剤-2が白濁状に分散しており、これを24時間静置しても沈降は確認されなかった。
【実施例】
【0090】
〔実施例3〕(高分子分散剤-4の水系分散体の作製)
実施例1で用いた高分子分散剤-1に替えて、先に調製した高分子分散剤-4を使用して、オレイルアミンの酢酸塩10%水溶液を5.2部、水800部をディスパーで高速撹拌しながら、樹脂溶液200部を徐々に添加した。青味がかった白色の水分散体が得られた。これを長期に保管しても全く沈降は見られず安定であった。
【実施例】
【0091】
〔比較例1〕(10質量%の高分子分散剤-1のDMDG溶液の作製)
DMDGの89.8部に、先に調製した高分子分散剤-1を10部と、界面活性剤としてオレイルアミン酢酸塩の0.2部とを一緒に入れて溶解して、10質量%の高分子分散剤-1のDMDG溶液を100部得た。得られたDMDG溶液は、淡い黄色の透明液体であった。
【実施例】
【0092】
〔比較例2〕(10質量%の高分子分散剤-1の水系分散剤の溶液cの作製・界面活性剤未使用)
オレイルアミン酢酸塩の0.2部を添加せず、界面活性剤を使用しなかったこと以外は実施例1と同様に実施して、高分子分散剤-1を10質量%含有した、高分子分散剤の水系分散剤溶液cを100部得た。得られた水系分散剤溶液cは、白濁状であるが、静置後1時間で高分子分散剤-1が分離沈降した状態となった。
【実施例】
【0093】
〔実施例4〕(10質量%の高分子分散剤-1の水系分散剤の溶液dの作製・アニオン系界面活性剤使用)
先に調製した高分子分散剤-1を10部用い、界面活性剤としてドデシルベンゼンスルホン酸の0.2部を用いた以外は実施例1と同様にして、10質量%の高分子分散剤-1の水系分散剤の溶液dを100部得た。得られた溶液dは、高分子分散剤-1が淡い黄濁状に分散しており、これを数日静置しても沈降はほとんど確認されなかった。
【実施例】
【0094】
〔実施例5〕(10質量%の高分子分散剤-3の水系分散剤の溶液eの作製)
高分子分散剤-1の代わりに、先に調製した高分子分散剤-3を使用したこと以外は実施例1と同様に実施し、高分子分散剤-3の10質量%の高分子分散剤の水系分散剤の溶液eを100部得た。得られた溶液eは、高分子分散剤-3が白濁状に分散していたが、数日静置すると、若干沈降気味であった。
【実施例】
【0095】
〔実施例6〕(水系分散処理剤の溶液aによるセルロース処理と樹脂組成物aの調製)
先に調製した含水状態のCNF-1(固形分:25%)の40部に、実施例1で得た10質量%の高分子分散剤-1の水系分散処理剤の溶液aを100部添加し、十分に混合して、高分子分散剤-1で処理された易分散性セルロース組成物を得た。次に、得られた易分散性セルロース組成物に、微粒子状ポリエチレン(住友精化製、フロービーズHE3040(商品名)、以下「微粒子状のPE」と略す)80部を水50部で湿潤させた状態で添加し、混合した。更に、得られた混合物を、ろ過及び乾燥することで、高分子分散剤-1で処理されたCNF-1と、微粒子状のPEとの混合組成物であるセルロース分散樹脂組成物aを98部得た。
【実施例】
【0096】
〔実施例7〕(水系分散処理剤の溶液bによるセルロース処理と樹脂組成物bの調製)
実施例6で使用した高分子分散剤-1の水系分散処理剤の溶液aの替りに、実施例2で得た10質量%の高分子分散剤-2の水系分散処理剤の溶液bを使用したこと以外は実施例6と同様に実施して、高分子分散剤-2で処理されたCNF-1と、微粒子状のPEとの混合組成物であるセルロース分散樹脂組成物bを98部得た。
【実施例】
【0097】
〔比較例3〕(比較例の高分子分散剤-1のDMDG溶液によるセルロース処理と樹脂混合組成物の調製)
先に調製した含水状態のCNF-1(固形分:25%)の40部に、比較例1で得た10質量%の高分子分散剤-1のDMDG溶液100部を添加し、十分に混合した。次に、この混合物にエタノール800部を添加して混合し、ろ過を実施した。更に、実施例6で使用したと同様の微粒子状のPE80部を、エタノール800部で湿潤させた状態で添加して混合し、ろ過を実施して、混合物から残存DMDGを除去したそして、乾燥することで、混合物中のエタノール及び水を除去し、高分子分散剤-1のDMDG溶液で処理したCNF-1と、微粒子状のPEとの混合組成物である比較例の樹脂混合組成物を99部得た。
【実施例】
【0098】
〔比較例4〕(比較例2の水系分散剤の溶液cによるセルロース処理と樹脂組成物cの調製)
実施例6で使用した高分子分散剤-1の水系分散処理剤の溶液aの替りに、比較例2の10質量%の高分子分散剤-1の水系分散剤の溶液cを使用したこと以外は実施例6と同様に実施して、高分子分散剤-1で処理したCNF-1と、微粒子状のPEとの混合組成物であるセルロース分散樹脂組成物cを98部得た。
【実施例】
【0099】
〔実施例8〕(高分子分散剤-1の水系分散剤の溶液dによるセルロース処理と樹脂組成物dの調製)
実施例6で使用した高分子分散剤-1の水系分散処理剤の溶液aの替りに、実施例3で作製した10質量%の高分子分散剤-1の水系分散処理剤の溶液dを使用したこと以外は実施例6と同様に実施して、高分子分散剤-1で処理されたCNF-1と、微粒子状のPEとの混合組成物であるセルロース分散樹脂組成物dを98部得た。
【実施例】
【0100】
〔実施例9〕(高分子分散剤-3の水系分散剤の溶液eによるセルロース処理と樹脂組成物eの調製)
実施例6で使用した高分子分散剤-1の水系分散処理剤の溶液aの替りに、実施例5で作製した10質量%の高分子分散剤-3の水系分散処理剤の溶液eを使用したこと以外は実施例6と同様に実施して、高分子分散剤-3で処理されたCNF-1と、微粒子状のPEとの混合組成物であるセルロース分散樹脂組成物eを99部得た。
【実施例】
【0101】
〔評価-1〕(二軸押出混練、射出成型及び引張試験)
上記した実施例5~8及び比較例3、4でそれぞれに得たCNF-1と微粒子状のPEとの混合組成物について、それぞれ、下記に述べる方法で、二軸押出混練、射出成型、引張試験による引張弾性率、引張強度の評価を実施した。具体的には、二軸押出混練を、混練温度140℃で実施し、ストランド状に吐出して冷却、ペレタイザーでカッティングして、CNF-1が分散したPE樹脂ペレットをそれぞれ調製した。また、得られたCNF-1が分散したPE樹脂ペレットのそれぞれに用い、射出成型を実施し、ダンベル片(ダンベル厚:2mm)を作製して評価用サンプルとした。得られた評価用サンプルのダンベル片のそれぞれについて、引張試験機(インストロン社製:万能試験機5900シリーズ使用)で、10mm/minの引張速度で引張試験を実施し、引張弾性率及び引張強度を測定し、評価した。その結果を表2にまとめて示した。
【実施例】
【0102】
〔実施例10〕(水系分散処理剤の溶液aによるセルロース処理と樹脂組成物aの調製・未乾燥)
先に調製した含水状態のCNF-1(固形分:25%)の40部に、実施例1で得た高分子分散剤-1の水系分散処理剤の溶液aを100部添加し、十分に混合して、高分子分散剤-1で処理された易分散性セルロース組成物を得た。次に、得られた易分散性セルロース組成物に、微粒子状のPEを80部、水50部で湿潤させた状態で添加し、混合した。得られた混合物を軽くろ過し、乾燥処理することなく、液分を含んだ、高分子分散剤-1で処理されたCNF-1と、微粒子状のPEとの混合組成物であるセルロース分散樹脂組成物a’を、150部得た。
【実施例】
【0103】
〔評価-2〕(二軸押出混練、射出成型及び引張試験)
実施例9で得たセルロース分散樹脂組成物a’を用い、基本的には先の評価-1で行ったと同様にして、CNF-1が分散したPE樹脂ペレットを調製し、評価用サンプルを作製した。具体的には、二軸押出混練を、混練温度140℃で実施した際に、セルロース分散樹脂組成物a’中の液分除去用にベント孔を開放し、ストランド状に吐出して冷却、ペレタイザーでカッティングしてCNF-1が分散したPE樹脂ペレットを調製した。それ以外は、先の評価-1と同様に、得られた評価用サンプルについて引張弾性率及び引張強度を測定し、評価した。表2に、機械特性評価結果をまとめて示した。
【実施例】
【0104】
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【実施例】
【0105】
上記したように、本発明の実施例6~10の、界面活性剤を使用し、且つ、その添加順序を本発明で規定したようにした実施例の水系の分散処理剤を用いて得た、セルロース分散PE樹脂混合組成物について評価用サンプルを作製して確認したところ、その引張弾性率、引張強度ともに高い値を示した。特に、カチオン性界面活性剤を用いた場合に高い値を示し、高分子分散剤の水系の分散処理剤を作製する場合、特にカチオン性界面活性剤の使用が有効であった。また、実施例10において、液分を含んだまま二軸押し出し混練し、更なる機械強度向上が確認された。これに対し、比較例1の、界面活性剤と高分子分散剤とを一緒に入れた有機溶剤溶液をセルロースに添加した溶液を使用した比較例3の場合は、有機溶剤溶液をそのまま含水状態のセルロースに添加しているために、高分子分散剤が析出状態となり、セルロースと効果的に吸着できなかった。また、有機溶剤によりセルロースが凝集したために、その樹脂組成物は、機械特性は低いものとなったと考えられる。更に、有機溶剤の使用量が多くなる点からも、好ましい方法とは言えない。また、比較例4の界面活性剤を添加しない場合では、水を主媒体とした系で高分子分散剤をセルロースに処理しているが、界面活性剤を使用していないために、水系の分散処理剤の中の高分子分散剤が析出状態となり、セルロースと効果的に吸着せずに、上記の場合と同様に、機械特性は低いものとなったと考えられる。上記のことから、本発明で規定する界面活性剤を使用して分散処理剤にして高分子分散剤を適用する方法は、水を主媒体としながらも、親水性であるセルロース微粉体に対して高分子分散剤の効果を十分に発揮できる処理方法として、効果的であることが確認された。更に、実施例6及び7と、実施例9との比較から、高分子分散剤のセルロース吸着性セグメントBにおいて、水酸基の一部をメトキシ構造に置き換えた高分子分散剤を用いた場合は、その樹脂組成物は、引張弾性率、引張強度ともに劣ることが確認された。このことから、セルロースに対する好適な高分子分散剤としては、セルロース吸着性成分として、水酸基を有するブロック構造としたものが、より有効な成分であるといえることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の、界面活性剤を特定の添加順序で使用した高分子分散剤からなる水系分散処理剤をセルロースに添加して易分散性セルロース組成物とする方法を、例えば、セルロース分散PE樹脂を作製する際の前処理工程として実施することで、得られるセルロース分散樹脂組成物は、多量の有機溶剤を使用することによって生じる問題がなく、その成形品が、引張弾性率及び引張強度に優れるという特性を有するものとなる。このため、本発明で提供するセルロース分散樹脂組成物は、自動車用部材、テレビ、電話、時計等の電化製品の筺体、携帯電話等の移動通信機器等の筺体、印刷機器、複写機、スポーツ用品等の筺体等の構造材料用途として有用である。