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明細書 :セルロース用高分子分散剤の製造方法、セルロース用高分子分散剤、高分子分散剤含有の水系分散処理剤、易分散性セルロース組成物、セルロース分散樹脂組成物、セルロース分散用分散剤含有の樹脂組成物、及び、水系分散処理剤含有の樹脂組成物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5904520号 (P5904520)
登録日 平成28年3月25日(2016.3.25)
発行日 平成28年4月13日(2016.4.13)
発明の名称または考案の名称 セルロース用高分子分散剤の製造方法、セルロース用高分子分散剤、高分子分散剤含有の水系分散処理剤、易分散性セルロース組成物、セルロース分散樹脂組成物、セルロース分散用分散剤含有の樹脂組成物、及び、水系分散処理剤含有の樹脂組成物
国際特許分類 C08F 293/00        (2006.01)
C08L  53/00        (2006.01)
C08L   1/00        (2006.01)
C08L  97/02        (2006.01)
C08L 101/00        (2006.01)
C08J   3/05        (2006.01)
B01F  17/52        (2006.01)
FI C08F 293/00
C08L 53/00
C08L 1/00
C08L 97/02
C08L 101/00
C08J 3/05
B01F 17/52
請求項の数または発明の数 14
全頁数 29
出願番号 特願2015-525663 (P2015-525663)
出願日 平成27年3月30日(2015.3.30)
国際出願番号 PCT/JP2015/060028
国際公開番号 WO2015/152188
国際公開日 平成27年10月8日(2015.10.8)
優先権出願番号 2014072482
優先日 平成26年3月31日(2014.3.31)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成27年5月18日(2015.5.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】今井 貴宏
【氏名】青柳 太洋
【氏名】嶋中 博之
【氏名】辻井 敬亘
【氏名】榊原 圭太
【氏名】後藤 淳
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100098707、【弁理士】、【氏名又は名称】近藤 利英子
【識別番号】100135987、【弁理士】、【氏名又は名称】菅野 重慶
【識別番号】100161377、【弁理士】、【氏名又は名称】岡田 薫
審査官 【審査官】安田 周史
参考文献・文献 特開2002-146116(JP,A)
特開2009-138024(JP,A)
平成22年度~平成24年度成果報告書,独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構,2013年,p.39-42
榊原 圭太 et al.,セルロースナノファイバーに適した高分子分散剤の開発と樹脂複合材料への応用,繊維学会予稿集,2013年,68(1),p.2H15
榊原 圭太 et al.,高分子分散剤を用いたセルロースナノファイバー強化樹脂材料の開発,成形加工,2013年,24,p.119-120
榊原 圭太 et al.,ジブロック共重合体添加によるセルロースナノファイバー/樹脂複合材料の作製,セルロース学会年次大会講演要旨集,2013年,20,p.67
榊原 圭太 et al.,高分子分散剤を用いたセルロースナノファイバー強化樹脂複合材料の高性能化と構造評価,繊維学会予稿集,2013年,68(2),p.72
調査した分野 C08L 1/00
C08L 101/00
特許請求の範囲 【請求項1】
高分子化合物を含んでなるセルロースを分散させるためのセルロース用高分子分散剤の製造方法であって、該高分子化合物が、重金属、ニトロキサイド化合物又は硫黄系化合物のいずれについても用いない、リビングラジカル重合法である、有機ヨウ素化合物を開始化合物とし、リン化合物、窒素化合物、酸素化合物又は炭素化合物を触媒とする、可逆連鎖移動触媒重合(RTCP)法により合成された、樹脂親和性セグメントAと、セルロース吸着性セグメントBとを有するブロック共重合体構造を有する高分子化合物であることを特徴とするセルロース用高分子分散剤の製造方法。
【請求項2】
前記セルロースが、セルロースナノファイバー、セルロースナノクリスタル、パルプ、リグノセルロース及び木粉からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のセルロース用高分子分散剤の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の製造方法で合成された高分子化合物を含んでなるセルロースを分散させるためのセルロース用高分子分散剤であって、前記高分子化合物が、下記(1)~(5)の要件をすべて満たす、樹脂親和性セグメントAと、セルロース吸着性セグメントBとを有するブロック共重合体構造を有するA-Bブロック共重合体であることを特徴とするセルロース用高分子分散剤。
(1)前記A-Bブロック共重合体の構成成分の90質量%以上がメタクリレート系モノマーで構成されていること;
(2)前記セルロース吸着性セグメントBは、構成成分の50質量%以上が、水酸基を1個以上有するメタクリレート系モノマー及び/又は尿素基を有するメタクリレート系モノマーで構成されており、且つ、熱可塑性樹脂との相溶性がないこと;
(3)前記樹脂親和性セグメントAのゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が500~20000であり、且つ、前記A-B共重合体全体に占める該樹脂親和性セグメントAの割合が5~95質量%であること;
(4)前記セルロース吸着性セグメントBのゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が500~20000であり、且つ、前記A-B共重合体全体に占める該セルロース吸着性セグメントBの割合が5~95質量%であること;
(5)前記A-Bブロック共重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が1000~40000であり、且つ、分子量分布指数(重量平均分子量/数平均分子量)が1.0~1.6であること。
【請求項4】
前記(2)のセルロース吸着性セグメントBの構成成分の70質量%以上が、水酸基を1個以上有するメタクリレート系モノマー及び/又は尿素基を有するメタクリレート系モノマーで構成されており、
前記(3)の樹脂親和性セグメントAのゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が1000~8000であり、且つ、前記A-B共重合体全体に占める樹脂親和性セグメントAの割合が30~70質量%であり、
前記(4)のセルロース吸着性セグメントBのゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が1000~8000であり、且つ、前記A-B共重合体全体に占めるセルロース吸着性セグメントBの割合が30~70質量%であり、
前記(5)のA-B共重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が2000~16000であり、分子量分布指数(重量平均分子量/数平均分子量)が1.0~1.6である請求項3に記載のセルロース用高分子分散剤。
【請求項5】
前記(2)のセルロース吸着性セグメントBの構成成分の70質量%以上が、水酸基を1個以上有するメタクリレート系モノマー及び/又は尿素基を有するメタクリレート系モノマーで構成されており、更に、構成成分の3~15質量%が、アルカリで中和されたメタクリル酸及び/又はカルボキシ基を有するメタクリレート系モノマー又は第4級アンモニウム塩基を有するメタクリレート系モノマーで構成されている請求項3又は4に記載のセルロース用高分子分散剤。
【請求項6】
セルロースに対する分散性を向上させた高分子分散剤を含有する水系分散処理剤であって、請求項5に記載のセルロース用高分子分散剤が、水系媒体中に分散されてなることを特徴とする高分子分散剤含有の水系分散処理剤。
【請求項7】
セルロースに対する分散性を向上させた高分子分散剤を含有する水系分散処理剤であって、請求項3~5のいずれか1項に記載のセルロース用高分子分散剤と、界面活性剤と、水系媒体とを含んでなることを特徴とする高分子分散剤含有の水系分散処理剤。
【請求項8】
前記界面活性剤が、カチオン性界面活性剤である請求項7に記載の水系分散処理剤。
【請求項9】
請求項3~5のいずれか1項に記載のセルロース用高分子分散剤と、セルロースナノファイバー、セルロースナノクリスタル、パルプ、リグノセルロース及び木粉からなる群から選ばれる少なくとも1種のセルロースとを含んでなることを特徴とする易分散性セルロース組成物。
【請求項10】
請求項6又は7に記載の水系分散処理剤と、セルロースナノファイバー、セルロースナノクリスタル、パルプ、リグノセルロース及び木粉からなる群から選ばれる少なくとも1種のセルロースとを含んでなることを特徴とする易分散性セルロース組成物。
【請求項11】
請求項9又10に記載の易分散性セルロース組成物と、熱可塑性樹脂とを含んでなることを特徴とするセルロース分散樹脂組成物。
【請求項12】
請求項3~5のいずれか1項に記載のセルロース用高分子分散剤と、熱可塑性樹脂とを含んでなることを特徴とするセルロース分散用分散剤含有の樹脂組成物。
【請求項13】
請求項6又は7に記載の水系分散処理剤と、熱可塑性樹脂とを含んでなることを特徴とする水系分散処理剤含有の樹脂組成物。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の樹脂組成物と、セルロースとを含んでなることを特徴とするセルロース分散樹脂組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、優れたフィラーとしての機能が注目されているものの、親水性の物質であることから、樹脂等への分散が難しく、現状では、その利用が促進されていない微細なセルロース繊維の広範な利用の実現を可能にする新たな技術に関し、具体的には、セルロース用高分子分散剤、高分子分散剤含有の水系分散処理剤、易分散性セルロース組成物、セルロース分散樹脂組成物及びセルロース分散用の分散剤含有樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース繊維は、全ての植物の基本骨格物質であり、地球上に一兆トンを超える蓄積があり、植樹によって再生可能の資源であることからも、その有効活用が望まれる。セルロース繊維は、鋼鉄の1/5の軽さであるにも関わらず、鋼鉄の5倍以上の強度、ガラスの1/50の低線熱膨張係数を有する繊維である。そこで、セルロース繊維を、樹脂等のマトリックス中にフィラーとして含有させ、機械的強度を付与させる技術が提案されている(特許文献1)。また、セルロース繊維が有する機械的強度を更に向上させる目的で、セルロース繊維を解繊して、セルロースナノファイバー(CNF、ミクロフィブリル化植物繊維)が添加剤中に分散した状態で存在するようにした繊維状樹脂補強剤についての提案がある(特許文献2)。また、CNFと同様にセルロース繊維を解繊処理したものとして、セルロースナノクリスタル(CNC)が知られている。CNFは、セルロース繊維を機械的解繊等の処理を施すことで得られる繊維であり、繊維幅4~100nm程度、繊維長5μm程度以上の繊維である。CNCは、セルロース繊維を酸加水分解等の化学的処理を施すことで得られる結晶であり、結晶幅10~50nm程度、結晶長500nm程度の結晶である。これらCNF及びCNCは、総称してナノセルロースと称される。ナノセルロースは、高比表面積(250~300m2/g)であり、鋼鉄と比較して軽量であり且つ高強度である。
【0003】
ナノセルロースは、ガラスと比較して熱変形が小さい。高強度且つ低熱膨張であるナノセルロースは、持続型資源材料として有用な素材であり、例えば、ナノセルロースと樹脂等の高分子材料と組み合わせて高強度・低熱膨張とする複合材料、エアロゲル材料、CNCの自己組織化によるキラルネマチック液晶相を利用した光学異方性材料、ナノセルロースに機能性官能基を導入して高機能性材料の開発及び創製がなされている。一方で、ナノセルロースは、水酸基を豊富に有するので、親水性で極性が強く、疎水性で極性の無い汎用性樹脂との相溶性に劣る側面がある。このため、ナノセルロースを用いた材料開発では、化学処理により、ナノセルロースの表面改質又はナノセルロースへの官能基導入を行い、ナノセルロースの汎用性樹脂との相溶性を向上させることが検討されている。つまり、ナノセルロースの汎用性樹脂に対する分散性を向上させることが検討されている。
【0004】
また、セルロース繊維をフィラーとして含む汎用性樹脂組成物の作製において、分散剤を添加して、セルロース繊維と汎用性樹脂との分散性、相溶性を向上させることが検討されている。非特許文献1では、セルロースナノクリスタル(セルロースナノウィスカー)に界面活性剤を吸着させて、セルロースナノクリスタルの有機溶媒分散性を向上させている。非特許文献2では、界面活性剤を吸着したセルロースナノクリスタルを補強材としたアイソタクチックポリプロピレン(iPP)複合材料を作製し、iPP単独に比べて約1.4倍に引張強度を向上させている。前記した特許文献2では、熱可塑性樹脂の補強材としてセルロースを利用する場合に、セルロースの凝集塊の発生を抑え、樹脂にセルロースを均一に分散する目的で、セルロースファイバーと親水性であり且つ特定のHLB値(親水親油バランス)を有する添加剤(低分子系界面活性剤)を用い、セルロースファイバーが添加剤中に分散した状態にさせている。
【0005】
前記した従来例ではいずれも、分散剤として低分子化合物を用いてナノセルロースの分散性向上を試みている。これに対し、本発明者らは、顔料等の微細な疎水性物質を樹脂や、水系媒体中に分散させるために開発されてきた高分子分散剤を、簡便で、多量の有機溶剤を使用することがない環境にも配慮した方法で、親水性物質であるセルロースに適用することができれば、実用化に向けて非常に有用であるとの認識を持つに至った。しかしながら、上記したように、従来の高分子分散剤は、微細な疎水性物質である顔料等を樹脂中等に分散することを目的としたものであるのに対し、セルロースは、親水性の物質であって、しかも、軽くて凝集し易く、特に汎用樹脂中に分散しにくいものであり、顔料等を分散させる場合と同様にして従来の高分子分散剤を適用することはできない。すなわち、上記した目的を達成するためには、上記したような特性を有するセルロースに対し、所望の機能性を発揮し得る構造の高分子分散剤の開発が必要になる。
【0006】
ここで、セルロースの汎用樹脂への分散に、高分子分散剤を用いることができれば、以下に挙げるような技術的な利点があると考えられる。まず、モノマー設計によって多種多様な構造の高分子設計が可能であるので、目的、用途に応じた分子設計が可能になる点が挙げられる。すなわち、高分子分散剤として無数の構造の設計が可能なため、モノマー設計によって、分散させる樹脂の種類等に適合させた、より高性能の分散剤の合成が期待できる。高分子分散剤としては、オレフィン系ポリマー、アクリル系ポリマー、エステル系ポリマー、ウレタン系ポリマーなど、様々な種類のものが使用できると考えられる。その中で、特にアクリル系ポリマーは、穏和な条件で重合が可能で比較的容易にポリマーを得ることができ、また、多種多様なアクリル系モノマーが存在するために、配合上無数の組成を選択し、目的、用途に応じた分子設計がし易いため、より有用であることが予想される。
【0007】
そこで、本発明者らは、アクリル系ポリマーをセルロース用高分子分散剤とすることについての検討を行うこととした。更に、その場合に、水酸基を豊富に有し、疎水性で極性の無い汎用性樹脂との相溶性に劣るセルロースの分散に有用になる、特定構造を有するアクリル系ポリマーを得るためには、精密な合成方法が必要になると予想される。そこで、特定構造を有するアクリル系ポリマーを製造できることが知られているリビングラジカル重合による合成方法を利用することが好適であると考えた。すなわち、リビングラジカル重合法では、末端ラジカルが安定化されることにより、ラジカル重合の副反応であるカップリングや不均化を防止し、分子量を制御したり、分子量分布を狭くしたりすることができる。また、末端ラジカルが安定化できるために、あるモノマーを重合した後に、続けて別のモノマーを添加することで、再び重合を進行させることができ、それぞれに異なる構造とすることで、異なる機能性を発現する重合体セグメントを有するブロック共重合体を合成することができる。
【0008】
これに対し、本発明が目的とするセルロース用高分子分散剤においては、以下の理由から、その構造中に機能性の異なる重合体セグメントを有するブロック共重合体構造のものが有用であると考えられる。ブロック共重合体は、成分の異なる2種類以上のポリマーセグメントが1本のポリマー鎖に含まれた構造であるため、モノマー組成を工夫することで、それぞれの重合体セグメントに異なる機能性を付与できるという利点がある。例えば、異なるモノマー組成(成分)からなるA鎖とB鎖からなるA-B型ブロック共重合体を例にとって説明すれば、ポリマーセグメントA(A鎖)を、汎用性樹脂と親和性の高い成分を有するものとし、一方で、ポリマーセグメントB(B鎖)を、セルロースと吸着する成分を有するものとなるようにA-Bブロック共重合体を設計できれば、該共重合体を分散剤として利用することで、A鎖とB鎖とがそれぞれ効果的に作用して、汎用性樹脂中におけるセルロースの凝集抑制、分散安定化が期待できる。すなわち、樹脂親和性セグメントA及びセルロース吸着性セグメントBを有するA-Bブロック共重合体をセルロース分散樹脂組成物の分散剤として用いた場合、種々の成型体等に利用されている汎用樹脂中へのセルロースの分散性が良好となり、フィラーとして成型体等の機械的強度を十分に高めることが期待できる。
【0009】
前記したように、このようなブロック共重合体の合成には、リビングラジカル重合法が適している。リビングラジカル重合法としては、具体的には、下記に挙げるような種々の方法が報告されている。例えば、ニトロキシラジカルの解離と結合を利用するニトロキサイド法(Nitroxide mediated polymerization 以下、NMP法と略す)、銅やルテニウム、ニッケル、鉄などの重金属、そして、それと錯体を形成するリガンドを使用して、ハロゲン化合物を開始化合物として重合する原子移動ラジカル重合(Atom Transfer Radical Polymerization、以下ATRP法と略す)、ジチオカルボン酸エステルなどを開始化合物として、付加重合性モノマーとラジカル開始剤を使用して重合する可逆的付加開裂型連鎖移動重合(Reversible addition fragmentation chain transfer polymerization 以下、RAFT法と略す)、有機テルルや有機ビスマス、有機アンチモン、ハロゲン化アンチモン、有機ゲルマニウム、ハロゲン化ゲルマニウム等の重金属化合物を用いる方法(Degenerative transfer 以下、DT法と略す)などが開発され、幅広く研究開発が行われている。
【先行技術文献】
【0010】

【特許文献1】特開2008-266630号公報
【特許文献2】国際公開第2012/111408号
【0011】

【非特許文献1】Heuxら、Langmuir、Vol.16、No.21、2000、8210-8212
【非特許文献2】Ljungbergら、Polymer、Vol.47、2006、6285-6292
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、上記の重合方法は、それぞれ、下記に挙げる課題があり、本発明が目的とする実用化が可能なセルロース用高分子分散剤の製造方法としては、最適なものであるとは言い難い。具体的には、前記NMP法では、100℃以上の高温で重合させる必要があり、また、重合率を上げるには、溶剤を使用せずにモノマー単独で重合する必要があり、重合条件が厳しい。更に、メタクリレート系モノマーは、一般的にNMP法では反応が進行せず、それらの問題を解決するためには特殊なニトロキサイド化合物が必要であり、特殊なニトロキサイド化合物を合成することは煩雑で困難である。
【0013】
また、前記ATRP法では、重金属を使用する必要があり、重合後には、重金属が残留し、樹脂が着色するといった問題があり、微量といえども重金属をポリマーから除去し、精製する必要が生じる。そして、ポリマーを精製する場合には、精製処理において生じる排水や廃溶剤中にも環境への負荷が高い重金属が含まれているので、それらからも重金属を除去して浄化する必要がある。また、銅を使用したATRP法では、その重合の雰囲気として酸素を除去する必要がある。この場合、還元剤を添加して酸素の影響を受けづらくする方法があるが、重合が途中で停止してしまう可能性があり、酸素を十分に除去することが必須である。更には、アミン化合物をリガンドとして金属錯体を形成し重合する方法では、酸性物質があると錯体の形成を阻害するので、酸基を有するモノマーを使用して重合することは困難である。
【0014】
前記RAFT法では、そのジチオカルボン酸エステルなどの特殊な化合物を合成する必要性がある。また、硫黄系の化合物を使用することから、硫黄系の不快な臭気が残り、また着色もあり、これらの臭気や着色をポリマーから除去する必要がある。また、アミノ基を有するモノマーでは、ジチオカルボン酸エステルが分解して重合が進行しない。
【0015】
前記DT法では、ATRP法と同様に重金属を使用するので、前記したようにポリマーからの重金属の除去が必要となり、除去した場合は重金属を含む排水の浄化の問題がある。更に、必要に応じてその金属触媒や有機金属化合物を合成することが必要であるが、煩雑でありコストも高い場合がある。
【0016】
このように、上記に挙げたように、リビングラジカル重合法には、反応温度や濃度に制限がある、重金属の使用及びその除去が必要である、特殊な化合物が必要である等、様々な制限がある。したがって、セルロース用高分子分散剤としてブロック共重合体を使用する場合、ブロック共重合体の合成方法として、上記に挙げた従来のリビングラジカル重合法は必ずしも好ましい方法とは言えず、穏和な条件で重合が進行し、重金属や特殊な化合物を用いず、簡便に実施できるリビングラジカル重合法の開発が望まれる。本発明者らは、そのようなリビングラジカル重合法を実施できれば、高性能のセルロース用の高分子分散剤を簡便に合成し、得ることができ、実用上、極めて有用であるとの認識をもつに至った。
【0017】
本発明は上記した従来技術の背景に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、親水性物質であるセルロースに適用することができる高性能の高分子分散剤を、簡便に経済的に提供できることを可能にし、実用化を達成することにある。また、本発明の目的は、簡便で、実施した場合に、重金属の使用やその除去の問題のない、優れたリビングラジカル重合法によって高性能のセルロース用高分子分散剤を提供するものである。更には、本発明の目的は、セルロース用高分子分散剤をセルロースに適用し、汎用性樹脂中に分散させた場合に、より簡便に、多量の有機溶剤を使用することがない、環境にも配慮した方法で安定したセルロースの分散を実現したセルロース分散樹脂組成物を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、セルロース用高分子分散剤として、重金属触媒を用いないリビングラジカル重合法、特に、有機ヨウ素化合物を開始化合物とし、リン化合物、窒素化合物、酸素化合物または炭素化合物を触媒とするリビングラジカル重合法である可逆連鎖移動触媒重合(RTCP)法によって、樹脂親和性セグメントAと、セルロース吸着性セグメントBとを有するブロック共重合体構造を有する高性能のセルロース用高分子分散剤を簡便に合成することができることを見出し、本発明に至った。更に、このようにして得られたセルロース用高分子分散剤は、界面活性剤によって水系媒体中に分散して水系分散処理剤とし、この処理剤を用いてセルロースに処理することで、セルロースを樹脂に対して易分散性のものにでき、或いは、上記で得たセルロース用高分子分散剤或いは水系分散処理剤は、樹脂と混練することで、セルロースを分散しやすい分散剤樹脂組成物とでき、このため、樹脂中に安定して良好にセルロースを分散させることが実現されて、機械的特性に優れたセルロース分散樹脂組成物が得られることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0019】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、セルロースを分散させるためのセルロース用高分子分散剤であって、該高分子分散剤が、重金属、ニトロキサイド化合物又は硫黄系化合物のいずれについても用いない、リビングラジカル重合法である、有機ヨウ素化合物を開始化合物とし、リン化合物、窒素化合物、酸素化合物又は炭素化合物を触媒とする、可逆連鎖移動触媒重合(RTCP)法により合成された、樹脂親和性セグメントAと、セルロース吸着性セグメントBとを有するブロック共重合体構造を有する高分子化合物であることを特徴とするセルロース用高分子分散剤を提供する。
【0020】
上記のセルロース用高分子分散剤の好ましい実施形態として、前記高分子化合物が、更に、下記(1)~(5)の要件をすべて満たすA-Bブロック共重合体であることが挙げられる。
(1)前記A-Bブロック共重合体の構成成分の90質量%以上がメタクリレート系モノマーで構成されていること;
(2)前記セルロース吸着性セグメントBは、構成成分の50質量%以上が、水酸基を1個以上有するメタクリレート系モノマー及び/又は尿素基を有するメタクリレート系モノマーで構成されており、且つ、熱可塑性樹脂との相溶性がないこと;
(3)前記樹脂親和性セグメントAのゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が500~20000であり、且つ、前記A-B共重合体全体に占める該樹脂親和性セグメントAの割合が5~95質量%であること;
(4)前記セルロース吸着性セグメントBのゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が500~20000であり、且つ、前記A-B共重合体全体に占める該セルロース吸着性セグメントBの割合が5~95質量%であること;
(5)前記A-B共重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が1000~40000であり、且つ、分子量分布指数(重量平均分子量/数平均分子量)が1.0~1.6であること。

【0021】
上記のセルロース用高分子分散剤のより好ましい実施形態として、前記(2)のセルロース吸着性セグメントBの構成成分の70質量%以上が、水酸基を1個以上有するメタクリレート系モノマー及び/又は尿素基を有するメタクリレート系モノマーで構成されており、前記(3)の樹脂親和性セグメントAのゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が1000~8000であり、且つ、前記A-B共重合体全体に占める樹脂親和性セグメントAの割合が30~70質量%であり、前記(4)のセルロース吸着性セグメントBのゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が1000~8000であり、且つ、前記A-B共重合体全体に占めるセルロース吸着性セグメントBの割合が30~70質量%であり、前記(5)のA-B共重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が2000~16000であり、分子量分布指数(重量平均分子量/数平均分子量)が1.0~1.6であることが挙げられる。
【0022】
また、上記のセルロース用高分子分散剤の好ましい実施形態として、前記(2)のセルロース吸着性セグメントBの構成成分の70質量%以上が、水酸基を1個以上有するメタクリレート系モノマー及び/又は尿素基を有するメタクリレート系モノマーで構成されており、更に、構成成分の3~15質量%が、アルカリで中和されたメタクリル酸及び/又はカルボキシ基を有するメタクリレート系モノマー又は第4級アンモニウム塩基を有するメタクリレート系モノマーで構成されていることが挙げられる。本発明は、別の実施形態として、セルロースに対する分散性を向上させた高分子分散剤を含有する水系分散処理剤であって、上記高分子分散剤を、水系媒体中に分散処理されてなることを特徴とする高分子分散剤含有の水系分散処理剤を提供する。
【0023】
また、上記いずれかのセルロース用高分子分散剤の好ましい実施形態として、前記セルロースが、セルロースナノファイバー、セルロースナノクリスタル、パルプ、リグノセルロース及び木粉からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが挙げられる。
【0024】
本発明は、別の実施形態として、セルロースに対する分散性を向上させた高分子分散剤を含有する水系分散処理剤であって、上記いずれかの高分子分散剤を、界面活性剤によって水系媒体中に分散処理されてなることを特徴とする高分子分散剤含有の水系分散処理剤を提供する。その好ましい形態としては、界面活性剤が、カチオン性界面活性剤であることが挙げられる。
【0025】
本発明は、別の実施形態として、上記いずれかのセルロース用高分子分散剤と、セルロースナノファイバー、セルロースナノクリスタル、パルプ、リグノセルロース及び木粉からなる群から選ばれる少なくとも1種のセルロースとを含むことを特徴とする易分散性セルロース組成物を提供する。
【0026】
本発明は、別の実施形態として、上記いずれかの水系分散処理剤と、セルロースナノファイバー、セルロースナノクリスタル、パルプ、リグノセルロース及び木粉からなる群から選ばれる少なくとも1種のセルロースとを含んでなることを特徴とする易分散性セルロース組成物を提供する。
【0027】
本発明は、別の実施形態として、上記いずれかの易分散性セルロース組成物と、熱可塑性樹脂とを含んでなることを特徴とするセルロース分散樹脂組成物を提供する。
【0028】
本発明は、別の実施形態として、上記いずれかのセルロース用高分子分散剤と、熱可塑性樹脂とを含んでなることを特徴とするセルロース分散用分散剤含有樹脂組成物を提供する。
【0029】
本発明は、別の実施形態として、上記いずれかの水系分散処理剤と、熱可塑性樹脂とを含んでなることを特徴とするセルロース分散用分散剤含有樹脂組成物を提供する。
【0030】
本発明は、別の実施形態として、上記いずれかのセルロース分散用分散剤含有樹脂組成物と、セルロースとを含んでなることを特徴とするセルロース分散樹脂組成物を提供する。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、親水性物質であるセルロースに適用することができる、高性能のセルロース用高分子分散剤を簡便に提供することができる。また、本発明によれば、水系媒体中で前記高分子分散剤をセルロースに処理することで、高分子分散剤とセルロースとを含む易分散性のセルロース組成物が提供される。更に、本発明によれば、この易分散性のセルロース組成物と汎用樹脂である熱可塑性樹脂とを混練することで、簡便にセルロース分散樹脂組成物を得ることができる。
【0032】
更に、本発明によれば、別の実施形態として、高性能のセルロース用高分子分散剤と熱可塑性樹脂とを混練することで、セルロースを分散しやすい分散剤樹脂組成物が提供される。その好ましい形態としては、分散剤の濃度の高いマスターバッチがある。本発明では、このような分散剤樹脂組成物と、希釈用樹脂と、セルロースナノファイバー、セルロースナノクリスタル、パルプ、リグノセルロース又は木粉等のセルロースとから、簡便にセルロース分散樹脂組成物を提供することができる。
【0033】
本発明が提供する高分子分散剤は、これを用いることで、セルロース分散樹脂組成物が簡便に得られ、しかもセルロースの分散性を高め、セルロース及び樹脂との界面を安定化させ、機械特性を高め得るものとなるので、提供されるセルロース分散樹脂組成物は、機械特性に優れるものとなる。この結果、再生が可能な天然素材であり、優れたフィラーとしての機能が注目されているものの、親水性の物質であることから、熱可塑性樹脂等への分散が難しく、現状では、その利用が促進されていない微細なセルロース繊維の広範な利用の実現が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
本発明の技術的特徴は、簡便に実施可能なリビングラジカル重合法、特にRTCP法を利用することで、親水性の物質である微細なセルロース繊維の、汎用樹脂である熱可塑性樹脂中への良好な分散を可能にする、セルロース用高分子分散剤の提供を可能にしたことにある。リビングラジカル重合法では、末端ラジカルが安定化されることにより、ラジカル重合の副反応であるカップリングや不均化を防止し、分子量を制御したり、分子量分布を狭くしたりすることができる。また、末端ラジカルが安定化できるために、あるモノマーを重合した後に、続けて別のモノマーを添加することで、再び重合を進行させることができ、異なる機能性を示す重合体セグメントを有するブロック共重合体を合成することができる。このように、リビングラジカル重合は、構造の明確な高分子を合成するのに適した方法であり、この方法を利用することで、所望する精密な設計に応じた構造の高分子化合物を確実に、且つ、簡便に得ることが可能になる。

【0035】
本発明で利用するRTCP法は、有機ヨウ素化合物を開始化合物とし、リン化合物、窒素化合物、酸素化合物または炭素化合物を触媒とする、従来のラジカル重合に、重合開始化合物と触媒とを併用するだけで容易に行える、リビングラジカル重合法である。上記リビングラジカル重合方法は、下記に示す一般反応式1で表される反応機構で進み、すなわち、ドーマント種Polymer-X(P-X)の成長ラジカルへの可逆的活性反応によって重合が進行するものである。
(一般反応式1)
JP0005904520B2_000002t.gif 上記重合反応機構は、触媒の種類によって変わる可能性があるが、次のように進むと考えられる。上記一般反応式1では、ラジカル開始剤から発生したP・がXAと反応して、in situで触媒A・が生成する。A・は、P-Xの活性化剤として作用して、この触媒作用によってP-Xは高い頻度で活性化する。

【0036】
本発明で利用するRTCP法は、メタクリレート系モノマーにおいて優れたリビング重合性が発揮される。メタクリレート系モノマーは様々な構造のものが知られており、汎用品としても数多くのモノマーが市販されている。RTCP法は、数多くのメタクリレート系モノマーの重合が可能であるため、使用するモノマーを選択することにより多種多様な構造の高分子の設計が可能となる。すなわち、分子設計においてRTCP法は有用な方法である。また、RTCP法は、穏和な条件で重合が可能である。メタクリレート系モノマーの重合を例にとると、多くのモノマーにおいて30℃から50℃の穏和な条件で重合が進行し、高いリビング重合性を示す。更に、RTCP法においては、重金属化合物、ジチオカルボン酸エステルのような臭気の強い化合物、高コストの化合物の使用する必要がなく、簡便に重合することができる。

【0037】
有機ヨウ素化合物は、熱や光の作用によりヨウ素ラジカルを発生しうるものであれば特に限定されない。有機ヨウ素化合物の具体例としては、2-アイオド-1-フェニルエタン、1-アイオド-1-フェニルエタンなどのアルキルヨウ化物;2-シアノ-2-アイオドプロパン、2-シアノ-2-アイオドブタン、1-シアノ-1-アイオドシクロヘキサン、2-シアノ-2-アイオドバレロニトリルなどのシアノ基含有ヨウ化物などを挙げることができる。

【0038】
市販品の有機ヨウ素化合物をそのまま使用してもよいし、従来公知の方法で合成した有機ヨウ素化合物を使用してもよい。有機ヨウ素化合物は、例えば、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物とヨウ素を反応させることで得ることができる。また、臭素や塩素などのヨウ素以外のハロゲン原子を有する有機ハロゲン化物とともに、第4級アンモニウムアイオダイドやヨウ化ナトリウムなどのヨウ化物塩とを使用し、反応系中でハロゲン交換反応を起こさせて有機ヨウ素化合物を発生させてもよい。

【0039】
また、リビングラジカル重合においては、ヨウ素化合物からヨウ素原子を引き抜いてヨウ素ラジカルを生じさせうる触媒を使用することが好ましい。このような触媒としては、ハロゲン化リン、フォスファイト系化合物、フォスフィネート化合物などのリン系化合物;イミド系化合物などの窒素系化合物;フェノール系化合物などの酸素系化合物;ジフェニルメタン系化合物、シクロペンタジエン系化合物などの活性な炭素原子を含む炭化水素化合物を挙げることができる。なお、これらの触媒は、一種単独でまたは二種以上を組み合わせて用いてもよい。

【0040】
(高分子分散剤)
次に、本発明の高分子分散剤について詳細に説明する。本発明の高分子分散剤は、上記した理由から、重金属、ニトロキサイド化合物又は硫黄系化合物のいずれについても用いない特有のリビングラジカル重合法により合成された樹脂親和性セグメントAと、セルロース吸着性セグメントBとを有するブロック共重合体構造を有する高分子化合物であることを特徴とする。更に、高分子化合物が、下記(1)~(5)の要件をすべて満たすA-Bブロック共重合体であることが好ましい。
(1)前記A-Bブロック共重合体の構成成分の90質量%以上がメタクリレート系モノマーで構成されていること。
(2)前記セルロース吸着性セグメントBは、構成成分の50質量%以上が、水酸基を1個以上有するメタクリレート系モノマー及び/又は尿素基を有するメタクリレート系モノマーで構成されており、且つ、熱可塑性樹脂との相溶性がないこと。
(3)樹脂親和性セグメントAのゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が500~20000であり、且つ、共重合体全体に占める樹脂親和性セグメントAの割合が5~95質量%であること。
(4)セルロース吸着性セグメントBのゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が500~20000であり、且つ、共重合体全体に占めるセルロース吸着性セグメントBの割合が5~95質量%であること。
(5)前記A-Bブロック共重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が1000~40000であり、分子量分布指数(重量平均分子量/数平均分子量)が1.0~1.6であること。

【0041】
以下に、本発明の好適な高分子分散剤が必須とする上記した各要件について、それぞれ説明する。まず、本発明の好適な高分子分散剤は、樹脂親和性セグメントAと、セルロース吸着性セグメントBとを有するブロック共重合体構造のものであることを要する。ブロック共重合体とは、性質の異なる2種類以上のモノマー成分において、各モノマー成分が形成するポリマーセグメント同士が共有結合で結合し、性質の異なる2種類以上のポリマーセグメントが1本のポリマー鎖に含まれた構造である。2種類のセグメントからなるA-B型ブロック共重合体を例にとると、性質(機能性)の異なるポリマーセグメントA及びポリマーセグメントBとが共有結合した構造である。ブロック共重合体は、ポリマー鎖において性質の異なる2種類以上のモノマー成分が、モノマー成分ごとに局在化している部分を有しているため、各モノマー成分がランダムに配列したランダム共重合体と比べ、各々の成分の性能がより発揮されると期待できる。すなわち、分散剤の構造を、樹脂親和性セグメントA及びセルロース吸着性セグメントBを有するブロック共重合体とすることで、樹脂親和性能及びセルロース吸着性能が各々のポリマー鎖によって十分に発揮されることが期待できる。本発明では、前記した理由により、その好適な高分子分散剤の構造を、樹脂親和性セグメントAとセルロース吸着性セグメントBとを有するA-Bブロック共重合体構造とするものである。

【0042】
本発明の好適な高分子分散剤は、(1)に挙げたように、その構成成分の90質量%以上がメタクリレート系モノマーで構成されたものであることを要する。これは下記の理由による。これは前記の通り、本発明で利用するRTCP法が、主としてメタクリレート系モノマーにおいて優れたリビング重合性を発揮でき、重合収率がよく、分子量分布が狭く、ブロック化またはグラジエント化が容易であるためである。より具体的には、アクリル系モノマーやスチレン系モノマー、ビニル系モノマーが存在すると、分子量分布が広くなったり、重合収率が悪くなったりするので、本発明では、その構成成分が、90質量%以上のメタクリレート系モノマーからなることを要するとした。本発明の高分子分散剤は、その構成成分の90質量%以上が、メタクリレート系モノマーで構成されているものとしたことで、各ブロック構造の違いがより明確なブロック共重合体になり、より機能性に優れた分散剤となる。

【0043】
本発明の好適な高分子分散剤は、(2)に挙げたように、セルロース吸着性セグメントBの構成成分の50質量%以上が、水酸基を1個以上有するメタクリレート系モノマー及び/又は尿素基を有するメタクリレート系モノマーで構成されており、且つ、熱可塑性樹脂との相溶性がないことを要する。これは下記の理由による。一つは、前記(1)で説明したように、その構成成分の90質量%以上がメタクリレート系モノマーであることを要するからである。また、(2)のように構成すれば、セグメント中に水酸基及び/又は尿素基を有する構造となるため、ブロック共重合体において、セルロース吸着性セグメントBとして効果が高いと考えられることによる。この作用は、下記の理由で達成されると考えられる。まず、セルロースは、その骨格に水酸基を有しており、その水酸基同士の水素結合が働くので、セルロースは非常強固で水に不溶なポリマーである。このようなセルロースの水酸基と、本発明の高分子分散剤を構成するセグメントBにおける水酸基及び/又は尿素基が水素結合にて吸着し、結果として、分散剤がセルロースに吸着する働きをすると考えられる。本発明者らの検討によれば、このセルロース吸着性セグメントBの構成成分における水酸基成分及び/又は尿素基の割合は、60質量%以上が好ましく、更に、70質量%以上であることがより好ましい。これに対し、セグメントBを構成する水酸基を1個以上有するメタクリレート系モノマー及び/又は尿素基を有するメタクリレート系モノマーの割合が50質量%未満であると、セルロース吸着性セグメントBとしての効果が不十分であり、分散剤としての効果が十分に発揮されない。

【0044】
また、本発明の好適な高分子分散剤を構成するセルロース吸着性セグメントBは、分散媒体として使用する樹脂に親和性、すなわち、相溶性をもってはいけない。この理由は、このセグメントがセルロースに吸着したとしても、その水素結合は、物理的吸着であって、樹脂への分散や加熱によって、樹脂と相溶性が良好であると、セルロースから脱離してしまう可能性があるからである。すなわち、樹脂との相溶性が悪いと、樹脂と混ざることがないので、セルロースから脱離することなく、分散状態を保つ働きをする。本発明では、この観点からも、水酸基を1個以上有するメタクリレート系モノマー及び/又は尿素基を有するメタクリレート系モノマーの量を、セグメントBの構成成分の50質量%以上としている。これは、50質量%未満だと、他のメタクリレート系モノマーを構成成分とすることとなって、選択するその他のメタクリレート系モノマー成分によっては、樹脂との相溶性が出てきてしまう可能性があるからである。前記したと同様、この点からも、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。本発明でセルロースを分散させる対象としている汎用樹脂である熱可塑性樹脂は、一般に極性が低く、このため、水酸基や尿素基を多量に有する極性が高いポリマーであるこのセルロース吸着性セグメントBとは相溶しにくい。

【0045】
本発明の好適な高分子分散剤は、(3)に挙げたように、樹脂親和性セグメントAのゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が、500~20000であることを要する。更に、樹脂と高い樹脂親和性(樹脂との相溶性)を示すためには、1000~8000程度であることがより好ましい。これは、樹脂親和性セグメントAの最も樹脂親和効率が高いと思われる分子量領域である。更に、本発明の好適な高分子分散剤では、分散剤全体に占める樹脂親和性セグメントAの割合が5~95質量%であることを要するが、30~70質量%がより好ましい。本発明者らの検討によれば、5質量%未満であると、相対的に樹脂親和性成分が少なく、樹脂親和性能を十分に発揮できなくなる傾向がある。一方で、95%質量%より大きいと、相対的にセルロース吸着性成分が少なくなり、セルロース吸着性能を十分に発揮できない場合が生じる。

【0046】
本発明の好適な高分子分散剤は、(4)に挙げたように、樹脂親和性セグメントBのゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が、500~20000であることを要する。更に、セルロースとの高いセルロース吸着性を示すためには、1000~8000程度であることがより好ましい。これは、セルロース吸着性セグメントBの最もセルロース吸着効率が高いと思われる分子量領域であると考えられる。更に、本発明の好適な高分子分散剤では、分散剤全体に占めるセルロース吸着性セグメントBの割合が5~95質量%であることを要する。より好ましくは、30~70質量%である。5質量%未満であると、相対的にセルロース吸着性成分が少なくなるので、セルロース吸着性能を十分に発揮できない傾向がある。一方で、95%質量%よりも多くなると相対的に樹脂親和性成分が少なくなり、樹脂親和性能を十分に発揮できない。

【0047】
本発明の好適な高分子分散剤は、(5)に挙げたように、共重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が、1000~40000であることを要する。更に、2000~16000程度であることがより好ましい。分子量が大きくなり過ぎると、高分子分散剤をセルロースに効果的に処理できない恐れがあることによる。更に、共重合体の分子量分布指数(重量平均分子量/数平均分子量)が1.0~1.6であることを要する。より好ましくは、1.0~1.5である。この高分子分散剤の分子量分布指数は、分子量分布の程度を表し、その値が小さいことは、分散剤(共重合体)の分子量の分布が狭いこと、すなわち、分子量の均一性が高いことを意味する。分子量の分布が狭いということは、分子量が大きいものや小さいものが少なく、高分子分散剤の性質が均一なものとなっていることを意味し、高分子分散剤によってもたらされる、セルロースに対する高度な微分散状態を与える効果を、より向上させることができる。

【0048】
以上のことから、本発明の高分子分散剤として良好に機能するより好ましい高分子化合物としては、下記のものが挙げられる。前記(2)のセルロース吸着性セグメントBの構成成分の70質量%以上が、水酸基を1個以上有するメタクリレート系モノマー及び/又は尿素基を有するメタクリレート系モノマーで構成されており、且つ、熱可塑性樹脂との相溶性がなく、前記(3)の樹脂親和性セグメントAのゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が1000~8000であり、且つ、共重合体全体に占める樹脂吸着性セグメントAの割合が30~70質量%であり、前記(4)のセルロースセグメントBのゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が1000~8000であり、且つ、共重合体全体に占めるセルロース吸着性セグメントBの割合が30~70質量%であり、前記(5)の共重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が2000~16000であり、分子量分布指数(重量平均分子量/数平均分子量)が1.0~1.6である。

【0049】
次に、上記した各要件を満たす本発明の好適な高分子分散剤を構成する、樹脂親和性セグメントA及びセルロース吸着性セグメントBを形成するために好適なモノマーについて説明する。
<樹脂親和性セグメントA>
樹脂親和性セグメントAは、セルロース吸着性セグメントBを介して、セルロースの表面を疎水化するものであり、この結果、親水性物質であるセルロースに本発明の高分子分散剤を適用することが可能になる。樹脂親和性の基本は、対象となる樹脂の構造に類似または対象となる樹脂に近い疎水性を有することが好ましいが、本発明の好適な高分子分散剤の構成要件(1)から、その主成分はメタクリレート系モノマーとする。本発明で用いる樹脂親和性セグメントAを形成するための具体的なモノマー成分としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、テトラデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、t-ブチルシクロヘキシルメタクリレート、ボルニルメタクリレート、イソボロニルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、オクタフルオロオクチルメタクリレート、テトラフルオロエチルメタクリレート等のアルキル、アルケニル、シクロアルキル、芳香環、ハロゲン元素含有のメタクリレート等が挙げられる。好ましくは、極性が低い炭素数1~18の炭化水素基、より好ましくは、炭素数8以上の炭化水素基が結合しているメタクリレート基がよい。その理由は、使用する熱可塑性樹脂と相溶性が良好であり、混合性が良好であるからである。

【0050】
<セルロース吸着性セグメントB>
本発明者らの検討によれば、セルロース吸着性セグメントBは、セルロースの表面に存在する水酸基に対して、水素結合により相互作用を示す。前記(2)の要件の通り、好適なセルロース吸着性セグメントBは、セルロース吸着性セグメントBの構成成分の50質量%以上が、水酸基を1個以上有するメタクリレート系モノマー及び/又は尿素基を有するメタクリレート系モノマーで構成される。このように構成することで、セルロースの表面に存在する水酸基と水素結合を形成し、及び、高分子鎖において多点相互作用を示すことで、セルロース吸着性セグメントBは、セルロースと効果的に吸着するものとなる。すなわち、このセルロース吸着性セグメントBが、セルロースと効果的に吸着し、この結果、その構造中の上記した樹脂親和成分Aの効果で、セルロースが疎水化される。また、このセグメントBは、分散媒体である樹脂に相溶性(親和性)を有してはいけない。本願において、親和性とは、お互いに混ざることを示し、相溶性を示すものである。樹脂と、セグメントBに親和性があると、セルロースと吸着したセグメントBが、樹脂にも親和することによってセルロースから脱離してしまい、良好な分散状態を示さない場合があるので好ましくない。

【0051】
本発明の好適な高分子分散剤の構成要件(1)から、セルロース吸着性セグメントBの主成分はメタクリレート系モノマーとする。セルロース吸着性セグメントBを形成する水酸基を1個以上有するメタクリレート系モノマーの具体的なものとしては、例えば、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、3-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシブチルメタクリレート、3-ヒドロキシブチルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、グリセリルメタクリレート等の水酸基含有メタクリレートが挙げられる。

【0052】
セルロース吸着性セグメントBを形成する尿素基を有するメタクリレート系モノマーとしては、例えば、メタクリロイロキシエチルウレア、メタクリロイロキシエチルエチレンウレア等が挙げられる。

【0053】
また、セルロース吸着性セグメントBを構成するそれ以外のモノマーとしては、前記したアルキル、アルケニル、シクロアルキル、芳香環、ハロゲン元素含有のメタクリレートが使用でき、更に、アルコキシ基、グリシジル基を有するメタクリレート系モノマーも前記した使用範囲で用いることができる。具体的には、例えば、メトキシエチルメタクリレート、エトキシエチルメタクリレート、メトキシプロピルメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、エトキシポリエチレングリコールメタクリレート、グリシジルメタクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメタクリレート、メタクリロイロキシエチルグリシジルエーテル、メタクリロイロキシエトキシエチルグリシジルエーテル、が挙げられる。なお、上記における「ポリ」及び「(ポリ)」は、いずれもn=2以上を意味する。これらの中でも、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、グリセリルメタクリレート、メタクリロイルオキシエチルエチレンウレアが、汎用性モノマーであり、且つ、その1個の水酸基や尿素基に対して分子量が小さいので、その官能基数を多くすることができるので、効果が高くなり、また樹脂との相溶性が劣ることから好ましい。

【0054】
以下に、本発明の好適な高分子分散剤を構成するセルロース吸着性セグメントBの更に好ましい構成について説明する。より好適には、界面活性剤を極力少なくして乳化させることが好ましい場合があり、その場合には、このセルロース吸着性セグメントBを形成する際に、形成モノマー成分の3~15質量%を、アルカリで中和された、メタクリル酸及び/又はカルボキシ基を有するメタクリレート系モノマー、或いは、第4級アンモニウム塩基を有するメタクリレート系モノマーとすることが好ましい。これらのモノマーはイオン化されているモノマーである。その理由は、セルロース吸着性セグメントBの構成成分として、中和されたカルボキシ基や第4級アンモニウム塩といった水に親和するモノマーがあると、よりセルロースへの吸着性が高まる効果に加えて、後記するが、このように構成することで、高分子分散剤を含有する水系分散処理剤として好適に使用できるものとなる。すなわち、セルロース吸着性セグメントBの構造中に、カルボキシ基や第4級アンモニウム塩などの官能基を導入することによって、このセグメントBが水に溶解するので、本発明のA-B共重合体からなる高分子分散剤を自己乳化性にでき、この構成により、界面活性剤の乳化性を補助する効果がある。この結果、容易に水系分散処理剤とすることができるからである。

【0055】
この際に使用するメタクリル酸及び/又はカルボキシ基を有するメタクリレート系モノマー、或いは、第4級アンモニウム塩基を有するメタクリレート系モノマーとしては、下記のものが挙げられる。具体的には、メタクリル酸や、メタクリル酸2-ヒドロキシエチルなどの水酸基を有するメタクリレート系モノマーにフタル酸等の多塩基酸を反応させて得られるカルボキシ基を有するメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレートやジエチルアミノエチルメタクリレートなどの塩化メチル、塩化ベンジル、ジメチル硫酸などで4級化した第4級アンモニウム塩含有メタクリレート系モノマーが挙げられる。好ましくは、加水分解する可能性がない、メタクリル酸、ジメチルアミノエチルメタクリレートの塩化メチル又は塩化ベンジルの第4級アンモニウム塩が、汎用性が高い材料であるので好ましい。また、アルカリにて中和するが、このアルカリは特に限定はされない。例えば、アンモニア、ジメチルアミノエタノールなどの有機アミン、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの水酸化物などが挙げられる。

【0056】
また、セルロース吸着性セグメントBに導入するこのイオン化されたメタクリレートの導入量は、このセグメントB中に3~15質量%である。3質量%未満であると、自己乳化性が足りず、後記する界面活性剤が必要となり、15質量%より多いと、耐水性が悪くなってしまう可能性がある。より好ましくは5~13質量%である。また、このイオン化されたメタクリレートは、樹脂親和性セグメントに導入してはいけない。イオン化されていることから、相溶性が悪く、セルロースの分散性を妨げる可能性がある。

【0057】
(セルロース)
次に、本発明のセルロース用高分子分散剤を適用するセルロースについて詳細に説明する。本発明は、セルロース用高分子分散剤を提供するものであるが、その対象とするセルロースとしては、セルロースナノファイバー(以下、CNFと記載)、セルロースナノクリスタル(以下、CNCと記載)、パルプ、リグノセルロース、木粉からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。特に、CNFまたはCNCを用いることがより好ましい。本発明では、CNF及びCNCを「ナノセルロース」と称す。以下、各セルロースについて、詳細に説明する。

【0058】
セルロース(またはセルロース繊維)の原料として用いられる植物繊維は、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、綿、ビート、農産物残廃物或いは布といった天然植物原料から得られる天然セルロースや、パルプ(紙)及びレーヨン、セロファン等の再生セルロース繊維等が挙げられる。木材としては、例えば、シトカスプルース、スギ、ヒノキ、ユーカリ、アカシア等が挙げられ、紙としては、脱墨古紙、段ボール古紙、雑誌、コピー用紙等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。植物繊維は、1種単独でも用いてもよく、これらから選ばれた2種以上を用いてもよい。

【0059】
リグノセルロースは、植物繊維の主成分であり、主に、セルロース、ヘミセルロース、リグニンから構成され、各々が結合した構造であり、植物繊維を形成している。このリグノセルロースを含む植物繊維を機械処理及びまたは化学処理により、ヘミセルロース及びリグニンを除去し、セルロースの純分を高めることで、パルプが得られる。必要に応じて漂白処理も行われ、また、脱リグニン量を調整し、当該パルプ中のリグニン量を調整することができる。パルプとしては、植物繊維を機械処理及びまたは化学処理によりパルプ化することで得られるケミカルパルプ〔クラフトパルプ(KP)、亜硫酸パルプ(SP)〕、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグランドパルプ(CGP)、ケミメカニカルパルプ(CMP)、砕木パルプ(GP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、サーモメカニカルパルプ(TWP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、及びこれらのパルプを主成分とする脱墨古紙パルプ、段ボール古紙パルプ、雑誌古紙パルプが好ましいものとして挙げられる。これらのパルプの中でも、繊維の強度が強い針葉樹由来の各種クラフトパルプ〔針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹酸素晒し未漂白クラフトパルプ(NOKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)〕が特に好ましい。パルプ中のリグニン含有量は、特に限定されるものではないが、通常0~40質量%程度、好ましくは0~10質量%程度である。リグニン含有量の測定は、Klason法により測定することができる。

【0060】
本発明において好適に使用できるナノセルロースは、セルロース繊維を含む材料(例えば、木材パルプ等)を、その繊維をナノサイズレベルまで解きほぐした(解繊処理した)セルロースであり、CNF及びCNCを含む。植物の細胞壁の中では、幅4nm程のセルロースミクロフィブリル(シングルセルロースナノファイバー)が最小単位として存在し、植物の基本骨格物質であるが、ナノセルロースは、セルロースミクロフィブリルまたはセルロースミクロフィブリルが複数凝集して形成されるナノサイズのセルロースである。

【0061】
ナノセルロースの中で、CNFは、セルロース繊維を機械的解繊等の処理を施すことで得られる繊維であり、繊維幅4~200nm程度、繊維長5μm程度以上の繊維である。CNFの比表面積としては、70~300m2/g程度が好ましく、70~250m2/g程度がより好ましく、100~200m2/g程度が更に好ましい。CNFの比表面積を高くすることで、樹脂と組み合わせて組成物とした場合に、接触面積を大きくすることができ強度が向上する。また、比表面積が極端に高いと、樹脂組成物の樹脂中での凝集が起こりやすくなり、目的とする高強度材料が得られないことがある。CNFの繊維径は、平均値が通常4~200nm程度、好ましくは4~150nm程度、特に好ましくは4~100nm程度である。

【0062】
植物繊維を解繊し、CNFを調製する方法としては、パルプ等のセルロース繊維含有材料を解繊する方法が挙げられる。解繊方法としては、例えば、セルロース繊維含有材料の水懸濁液またはスラリーを、リファイナー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、一軸または多軸混練機(好ましくは二軸混練機)、ビーズミル等による機械的な摩砕、ないし叩解することにより解繊する方法が使用できる。必要に応じて、上記の解繊方法を組み合わせて処理してもよい。これらの解繊処理の方法としては、例えば、特開2011-213754号公報、特開2011-195738号公報に記載された解繊方法等を用いることができる。

【0063】
また、CNCは、セルロース繊維を酸加水分解等の化学的処理を施すことで得られる結晶であり、結晶幅4~70nm程度、結晶長25~3000nm程度の結晶である。CNCの比表面積としては、90~900m2/g程度が好ましく、100~500m2/g程度がより好ましく、100~300m2/g程度が更に好ましい。CNCの比表面積を高くすることで、樹脂と組み合わせて組成物とした場合に、接触面積を大きくすることができ強度が向上する。また、比表面積が極端に高いと、樹脂組成物の樹脂中での凝集が起こりやすくなり、目的とする高強度材料が得られないことがある。CNCの結晶幅は、平均値が通常10~50nm程度、好ましくは10~30nm程度、特に好ましくは10~20nm程度である。CNCの結晶長は、平均値が通常500nm程度、好ましくは100~500nm程度、特に好ましくは100~200nm程度である。

【0064】
植物繊維を解繊し、CNCを調製する方法としては、公知の方法が採用できる。例えば、前記セルロース繊維含有材料の水懸濁液またはスラリーを、硫酸、塩酸、臭化水素酸等による酸加水分解等の化学的手法が使用できる。必要に応じて、上記の解繊方法を組み合わせて処理してもよい。

【0065】
本発明におけるナノセルロースの繊維径の平均値(平均繊維径、平均繊維長、平均結晶幅、平均結晶長)は、電子顕微鏡の視野内のナノセルロースの少なくとも50本以上について測定した時の平均値である。

【0066】
ナノセルロースは、高比表面積(好ましくは200~300m2/g程度)であり、鋼鉄と比較して軽量であり且つ高強度である。ナノセルロースは、また、ガラスと比較して熱変形が小さい(低熱膨張)。

【0067】
ナノセルロースは、セルロースI型結晶を有し、且つ、その結晶化度が50%以上と高い結晶化度を有するものが好ましい。ナノセルロースのセルロースI型の結晶化度は、55%以上がより好ましく、60%以上が更に好ましい。ナノセルロースのセルロースI型の結晶化度の上限は、一般的に95%程度、または90%程度である。

【0068】
セルロースI型結晶構造とは、例えば、朝倉書店発行の「セルロースの辞典」新装版第一刷81~86頁、或いは93~99頁に記載の通りのものであり、ほとんどの天然セルロースはセルロースI型結晶構造である。これに対して、セルロースI型結晶構造ではなく、例えばセルロースII、III、IV型構造のセルロース繊維はセルロースI型結晶構造を有するセルロースから誘導されるものである。中でもI型結晶構造は他の構造に比べて結晶弾性率が高い。

【0069】
本発明で使用するセルロースとしては、上記した中でも、I型結晶構造のナノセルロースが好ましい。I型結晶であると、ナノセルロースとマトリックス樹脂との複合材料とした際に、低線膨張係数、かつ高弾性率な複合材料を得ることができる。ナノセルロースがI型結晶構造であることは、その広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2θ=14°~17°付近と2θ=22~23°付近の二つの位置に典型的なピークを持つことから同定することができる。

【0070】
例えば、ナノセルロースのスラリーにエタノールを加え、ナノセルロース濃度を0.5質量%に調製する。次いで、このスラリーをスターラーにて撹拌後、素早く減圧ろ過(アドバンテック東洋株式会社製の5Cろ紙)を開始する。次いで、得られたウェットウェブを、110℃、圧力0.1tで10分間加熱圧縮し、50g/m2のCNFシートを得る。そして、X線発生装置(リガク社製「UltraX18HF」)を用い、ターゲットCu/Kα線、電圧40kV、電流300mA、走査角(2θ)5.0~40.0°、ステップ角0.02°の測定条件で、上記CNFシートの測定を行い、セルロースI型の結晶化度を測定する。

【0071】
ここで、セルロースの重合度は、天然セルロースで500~10000、再生セルロースで200~800程度である。セルロースは、β-1,4結合により直線的に伸びたセルロースが何本かの束になって、分子内あるいは分子間の水素結合で固定され、伸びきり鎖となった結晶を形成している。セルロースの結晶には、多くの結晶形が存在していることはX線回折や固体NMRによる解析で明らかになっているが、天然セルロースの結晶形はI型のみである。X線回折等から、セルロースにおける結晶領域の比率は、木材パルプで約50~60%、バクテリアセルロースはこれより高く約70%程度と推測されている。セルロースは、伸びきり鎖結晶であることに起因して、弾性率が高いだけでなく、鋼鉄の5倍の強度、ガラスの1/50以下の線熱膨張係数を示す。逆に言うと、セルロースの結晶構造を壊すことは、これらセルロースの高弾性率、高強度といった優れた特徴を失うことに繋がる。

【0072】
(水を主媒体とした系で高分子分散剤をセルロースに処理する方法)
本発明のセルロース用高分子分散剤を使用し、これをセルロースに処理することで、高分子分散剤及びセルロースを含む易分散性セルロース組成物を得ることができる。そして、得られる易分散性セルロース組成物は、本発明が最終目的としている本発明のセルロース分散樹脂組成物を得る前駆体として用いることができる。本発明者らの検討によれば、本発明の高分子分散剤をセルロースに処理する方法として、前記したように、イオン性のメタクリレートをセルロース吸着性セグメントに導入して自己乳化性とし、水系分散処理剤とすることが好ましい。より耐水性を上げたい場合には、カチオン性界面活性剤を用いた高分子分散剤の水系分散液を水系分散処理剤とし、これをセルロースへ添加することが好ましい。このように構成することで、本発明のセルロース分散樹脂組成物を得る前駆体として有用な易分散性のセルロース組成物が得られる。

【0073】
これは、以下の理由によると考えられる。高分子分散剤の効果を十分に発揮させるためには、如何に高分子分散剤を親水性物質であるセルロースへ効果的に吸着させることができるかが重要になる。一方、セルロースの凝集状態を抑制するためには、水を主媒体とした系で処理することが好ましく、また、環境面においても、有機溶剤の使用量を少なくし、水を主媒体として処理をすることは好ましい。これらの要求に対し、本発明者らは鋭意検討した結果、水を主媒体とした系で、セルロース分散樹脂組成物を得る前駆体として有用な易分散性のセルロース組成物を得る簡便な方法を見出した。すなわち、前記したイオン性基を有するメタクリレート系モノマーをセルロース吸着性セグメントBに導入して、自己乳化させる方法をとることが有効である。更に別の方法として、本発明の高分子分散剤は、界面活性剤を使用することで水を主成分とする溶媒において分散液を作成することができるため、このように構成することで、高分子分散剤の水系分散液をセルロースに添加することができ、水を主媒体とした系で高分子分散剤をセルロースに処理することができるようになる。本発明者らの詳細な検討によれば、より好ましくは、まず、高分子分散剤を親水性有機溶剤溶液に溶解し、これにカチオン性界面活性剤を添加し、その後に水を添加することで高分子分散剤を含有した水系の分散液を処理剤とすることで、有用な易分散性のセルロース組成物を得ることができる。更に、このようにして得た高分子分散剤の水系分散液からなる処理剤をセルロースに添加する際には、前記理由及び、処理工程において撹拌が実施しやすく、均一な混合処理が実施しやすいため、セルロースには、含水状態のものを用いることが好ましい。

【0074】
上記で使用するカチオン性界面活性剤は、特に限定はなく、従来公知のカチオン系活性剤が使用できる。具体的には、例えば、有機アミンのアルカン酸、リン酸塩、スルホン酸塩、ベタイン構造活性剤、第4級アンモニウム塩の界面活性剤が挙げられる。また、界面活性剤の高分子分散剤に対する使用量としては、特に限定はないが、質量基準で、高分子活性剤100に対して、5~30%程度、より好ましくは10~20%である。5%より少ないと十分な乳化状態を得ることができず、30%より多いと界面活性剤が物性に悪影響を及ぼす可能性がある。

【0075】
(セルロース分散樹脂組成物の作成-1)
上記のようにして得た易分散性のセルロース組成物と汎用樹脂等とを用い、溶融混練することで、本発明のセルロース分散樹脂組成物を得ることができる。この際に使用する樹脂としては、溶融混練してセルロース分散樹脂組成物を得ることが好ましいことから、熱可塑性樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂としては、例えば、オレフィン系樹脂、ナイロン樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエステル系樹脂、トリアセチル化セルロース、ジアセチル化セルロース等のセルロース系樹脂等が挙げられる。ポリアミド系樹脂としては、ポリアミド6(PA6、ε-カプロラクタムの開環重合体)、ポリアミド66(PA66、ポリヘキサメチレンアジポアミド)、ポリアミド11(PA11、ウンデカンラクタムを開環重縮合したポリアミド)、ポリアミド12(PA12、ラウリルラクタムを開環重縮合したポリアミド)等、加硫前のゴム樹脂等が例示される。

【0076】
上記に挙げた中でも、セルロース分散樹脂組成物とした場合に、その補強効果を十分に得ることができるという利点、安価であるという利点から、オレフィン系樹脂を用いることが好ましい。オレフィン系樹脂としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ビニルエーテル樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で使用してもよく、2種以上の混合樹脂として用いてもよい。オレフィン系樹脂の中でも、樹脂組成物とした場合の補強効果をより十分に得ることができるという利点、安価であるという利点から、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、バイオポリエチレン等のポリエチレン系樹脂(PE)、ポリプロピレン系樹脂(PP)、塩化ビニル樹脂、スチレン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ビニルエーテル樹脂等が好ましい。得られるセルロース分散樹脂組成物は、本発明の高分子分散剤によりセルロース分散性及び機械特性が良好なものになる。

【0077】
(高分子分散剤を樹脂に処理する方法)
本発明のセルロース分散用高分子分散剤をあらかじめ樹脂と混練しておくことで、セルロース分散性の良好な、セルロース分散用の分散剤含有樹脂組成物を得ることができる。得られる分散剤含有樹脂組成物は、セルロース分散樹脂組成物の前駆体となる。この場合に、セルロース分散性をよくするためには、樹脂と高分子分散剤が均一に分散していることが必要であるが、本発明の高分子分散剤を用いたセルロース分散用の分散剤含有樹脂組成物では、通常、親水性のセルロース表面とはなじみの悪い樹脂表面に、多くの親水ポイントを確保することができる。また、高分子分散剤濃度の高いマスターバッチ化することで、その後工程でセルロースと混練する際に、濃度設定の自由度が上がり、より取扱い易く実用的なものになる。マスターバッチの高分子分散剤濃度は1%以上~60%以下であることが好ましい。すなわち、濃度がこれよりも高いと樹脂中での分散不良が生じ、1%未満であると、セルロースと混練した際のセルロース凝集抑制能力が十分に得られなくなる。好ましくは10%~40%で、更に好ましくは20%~30%である。

【0078】
この際に使用する樹脂としては、溶融混練してセルロース分散樹脂組成物を得ることが好ましいことから、熱可塑性樹脂を使用する。熱可塑性樹脂としては、例えば、オレフィン系樹脂、ナイロン樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエステル系樹脂、トリアセチル化セルロース、ジアセチル化セルロース等のセルロース系樹脂等が挙げられる。ポリアミド系樹脂としては、ポリアミド6(PA6、ε-カプロラクタムの開環重合体)、ポリアミド66(PA66、ポリヘキサメチレンアジポアミド)、ポリアミド11(PA11、ウンデカンラクタムを開環重縮合したポリアミド)、ポリアミド12(PA12、ラウリルラクタムを開環重縮合したポリアミド)等が挙げられる。

【0079】
上記に挙げた中でも、セルロース分散樹脂組成物とした場合に、その補強効果を十分に得ることができるという利点、安価であるという利点から、オレフィン系樹脂を用いることが好ましい。オレフィン系樹脂としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ビニルエーテル樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で使用してもよく、2種以上の混合樹脂として用いてもよい。オレフィン系樹脂の中でも、樹脂組成物とした場合の補強効果をより十分に得ることができるという利点、安価であるという利点から、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、バイオポリエチレン等のポリエチレン系樹脂(PE)、ポリプロピレン系樹脂(PP)、塩化ビニル樹脂、スチレン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ビニルエーテル樹脂等が好ましい

【0080】
(セルロース分散樹脂組成物の作成-2)
含水状態のセルロースと、上記したセルロース分散用の分散剤含有樹脂組成物を混練することで、セルロース分散樹脂組成物を得ることができる。混練には、セルロース濃度、分散剤濃度を調整する目的で、未処理樹脂を添加してよい。このようにして得られるセルロース分散樹脂組成物は、本発明の高分子分散剤が用いられていることから、セルロース分散性及び機械特性が良好なものになる。
【実施例】
【0081】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、文中の「部」及び「%」は、特に断りのない限り、質量基準である。
【実施例】
【0082】
[実施例1](RTCP法による高分子分散剤-1の合成)
撹拌機、還流コンデンサー、温度計及び窒素導入管を取り付けた反応装置に、ジエチレングリコールジメチルエーテル(以下、DMDGと略記)を106部、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート(以下、DCPOEMAと略記)を70部、ヨウ素を1.0部、ジフェニルメタン(以下、DPMと略記)を0.2部、開始剤として2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)〔商品名:V-70(以下、V-70と略記)、和光純薬社製〕を5.0部添加した。そして、窒素ガスを導入しながら撹拌し、40℃に加温した。反応系を40℃に保ちながら7時間重合して、ポリマーブロックAを得た。重合の進行状況を反応系中の固形分濃度より算出したところ、重合率は85%であった。以下でいう重合率は、いずれも固形分濃度から算出した値である。また、テトラヒドロフラン(以下、THFと略記)溶媒によるゲルパーミエーションクロマトグラフィーにて分子量を測定したところ、ポリスチレン換算で、数平均分子量(以下、Mnと略記)が4900、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量、以下PDIと略記)が1.33であった。以下、分子量はTHF溶媒のGPCのポリスチレンの分子量換算である。上記で得られたポリマーブロックAは、後述するように、樹脂親和性セグメントとして機能するものとなる。
【実施例】
【0083】
次に、上記の反応系に続けて、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(以下、HEMAと略記)を30部添加し、40℃で4時間重合し、ポリマーブロックBを形成した。このポリマーブロックBは、セルロース吸着性セグメントとして機能するものとなる。重合の進行を反応系中の固形物濃度より算出した結果、トータルの重合率はほぼ100%であり、Mnは7600、PDIは1.40であった。すなわち、本発明のA-Bブロックコポリマーは、全体のMnが7600であり、前記したように、ポリマーブロックAのMnが4900であることから、Bのポリマーブロックの数平均分子量は、7600-4900で算出でき、2700である。以上のようにしてRTCP法にて、樹脂親和性セグメントAのポリマーブロックと、セルロース吸着性セグメントBのポリマーブロックとを有する実施例1のA-Bブロックコポリマーである、高分子分散剤-1の重合溶液を得た。なお、ポリマーブロックAの重合率は85%であることから、残留モノマーが10.5部あり、次いでポリマーブロックBを添加し、重合率が100%であることから、ポリマーブロックBに含まれる水酸基を有するメタクリレート系モノマーの含有量は、74%である。
【実施例】
【0084】
上記のようにして得た重合溶液200部を、水/メタノール混合液200部(水/メタクノール=3/1質量比)にディスパーで撹拌しながら投入して、樹脂を析出させた。この析出物をろ過し、前記した水/メタノール混合溶液200部で2回洗浄して、淡黄色の樹脂を得た。更に、得られた析出物を80℃で24時間乾燥して、固形の高分子分散剤-1を92部得た。本発明で利用する重合方法によって、市販の安価な材料を使用することができ、コスト的に有利であり、且つ、生成物も淡黄色のほとんど無臭の固体を得ることができた。
【実施例】
【0085】
[実施例2](RTCP法による高分子分散剤-2の合成)
実施例1のHEMAに替えて、グリセリルモノメタクリレート(GLMA、日油社製)に替えた以外は、実施例1と同様にして行った。ポリマーブロックAの重合収率は80%であり、数平均分子量が3900、PDIは1.28であり、全体の重合収率はほぼ100%であり、全体Mnが8100であり、PDIは1.42であった。ポリマーブロックBについては、数平均分子量が8100-3900=4200であった。また、Bの水酸基を有するメタクリレートの含有量は、実施例1と同様に算出すると、68%である。実施例1に比べて、水酸基を有するモノマー量が少ないが、水酸基の数とすると十分な量であると考えられる。これを実施例1と同様に析出させて樹脂固体を得た。これを高分子分散剤-2とする。
【実施例】
【0086】
[実施例3](RTCP法による高分子分散剤-3の合成)
実施例1と同様にして、溶媒、モノマーを替えて、下記のようにしてA-Bブロックコポリマーを合成した。すなわち、溶媒として、DMDGに替えてジエチレングリコールジエチルエーテルを使用し、ポリマーブロックAのDCPOEMAに替えて、ステアリルメタクリレート(SMA)を使用してポリマーブロックAを合成した。ポリマーブロックAの重合率はほぼ100%であり、数平均分子量5600、PDI1.15であった。次いで、ポリマーブロックBを、同量のHEMA、加えてメタクリル酸(MAA)を3部混合して重合した。重合率はほぼ100%であり、数平均分子量7700、PDI1.25であった。ポリマーブロックBの数平均分子量は、7700-5600=1900である。これは、セルロース吸着性セグメントBの90.9%が水酸基を有するメタクリレート系モノマーであり、カルホギシ基を有するモノマーが9.1%である。
【実施例】
【0087】
次いで、水酸化ナトリウム1.3部を水106部に溶解させたアルカリ水を添加した。白濁の粘度のある水溶液となった。次いで、更に水を加えて、樹脂分を10%とした。白い透明感のある水分散体となった。これを高分子分散剤-3とする。長期に保管しても全く沈降は見られず安定であった。
【実施例】
【0088】
[実施例4](RTCP法による高分子分散剤-4の合成)
実施例1と同様にして、溶媒、モノマーを替えて、下記のようにしてA-Bブロックコポリマーを合成した。すなわち、溶媒としてDMDGに替えて、プロピレングリコールモノプロピルエーテルを使用し、ポリマーブロックAのDCPOEMAに替えて、ラウリルメタクリレート(LMA)100部及びDCPOEAを40部使用した。ポリマーブロックAの重合率はほぼ100%であり、数平均分子量9800、PDI1.15であった。次いで、ポリマーブロックBは、HEMAに替えて、メタクリロイロキシエチルエチレンウレアのメタクリル酸メチル溶液(BASF社製、有効成分25質量%メタクリル酸メチル溶液を減圧してメタクリル酸メチルを抜き有効成分50%としたもの)70部を添加して重合した。重合率はほぼ100%であり、数平均分子量が12000、PDIが1.46であった。ポリマーブロックBの数平均分子量は2200であり、尿素基を有するメタクリレート系モノマーの含有量は50質量%である。これを実施例1と同様にして析出させて樹脂固体を得た。これを高分子分散剤-4とする。
【実施例】
【0089】
[実施例5](RTCP法による高分子分散剤-5の合成)
実施例1と同様にして重合時間を9時間に替えて、ポリマーブロックAを得た。その重合率は100%で、数平均分子量が5600、PDIが1.40であった。次いで、HEMA30部、メタクリロイロキシエチルベンジルトリメチルアンモニウムクロライドの30質量%のプロピレングリコールモノプロピルエーテル13.3部を添加し、重合した。得られた重合物の分子量は、THF溶媒のGPCから、10ml/Lのリチウムブロマイドのジメチルホルムアミド溶液を展開溶媒とするGPCに換えて測定したところ、重合率はほぼ100%であり、数平均分子量が8200、PDIは1.40であった。ポリマーブロックBの数平均分子量は1600であり、水酸基を有するメタクリレート系モノマーの含有量は88.2質量%であり、イオン性基を有するモノマーの含有量は11.8%である。
【実施例】
【0090】
次に、水800部をディスパーで高速撹拌しながら、樹脂溶液200部を徐々に添加した。乳白色の水分散体が得られた。これを高分子分散剤-5とする。長期に保管しても全く沈降は見られず安定であった。
【実施例】
【0091】
[比較例1](ラジカル重合法による比較高分子分散剤-1の合成)
実施例1で用いたと同様の装置を使用して、DMDGを107部仕込んで、窒素ガスを導入しながら70℃に加温した。別容器にDCPOEMAを70部、HEMAを30部、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)〔商品名:V-65(以下、V-65と略記)、和光純薬社製〕を5.0部仕込んで撹拌し、均一化させてモノマー混合液を調製した。次いで、滴下ロートを反応装置に装着させ、滴下ロート内に上記で調製したモノマー混合液を仕込んで2時間にわたって滴下し、更に1時間後、V-65を2部添加し、更に5時間重合して、高分子分散剤-2の重合溶液を得た。固形分測定して重合率を算出したところ、ほぼ100%の重合率であった。Mnは8000、PDIは1.81であった。
【実施例】
【0092】
次いで、上記で得られた樹脂溶液を、実施例1と同様にして、析出、洗浄、乾燥して固形の高分子分散剤-2を90部得た。これは、実施例1の高分子分散剤-1と同様のモノマー組成であり、且つ、ランダム構造のものである。これを比較例1の比較高分子分散剤-1とした。
【実施例】
【0093】
[比較例2](重金属触媒を使用したリビングラジカル重合法(LRP法)であるATRP法による比較高分子分散剤-2の合成)
実施例1で用いたと同様の反応装置を使用して、DMDGを106部、DCPOEMAを70部、2-ブロモイソ酪酸エチルを2.2部、ペンタメチルジエチレントリアミンを2.0部仕込んで窒素ガスをバブリングして十分脱気した。次いで、臭化第一銅を1.6部添加して、銅錯体を形成させた。系は緑色に変化した。次いで、80℃に加温して3時間重合した。一部サンプリングして固形分を測定して重合率を算出したところ、81.1%であった。また、分子量を測定したところ、Mnが5000、PDI1.21であった。以上のようにして樹脂親和性セグメントAのポリマーブロックを得た。
【実施例】
【0094】
次いで、別容器に、HEMAを30部計りとり、その容器に窒素ガス導入管を設置し窒素ガスでバブリングして脱気した。次いで、上記の反応系中に添加して80℃で5時間重合して、セルロース吸着性セグメントBのポリマーブロックを形成した。最終的には青色の透明に変化した。重合の進行を反応系中の固形物濃度より算出した結果、トータルの重合率はほぼ100%であり、Mnは7300、PDIは1.32であった。A-BブロックコポリマーのMnが7300であり、AのポリマーブロックのMnが5000であることから、計算するとBのポリマーブロックの数平均分子量は、2300である。以上のようにして重金属を使用したLRP法にて、樹脂親和性セグメントAのポリマーブロックとセルロース吸着性セグメントBのポリマーブロックを有するA-Bブロックコポリマーである比較例2の比較高分子分散剤-2の重合溶液を得た。
【実施例】
【0095】
上記で得られた青色の重合溶液について実施例1と同様にして、水/メタノール混合溶液に、樹脂を析出させた。しかし、得られた析出物は青色であった。これは、上記したように、比較例2では、銅イオンを使用する重合方法で合成しており、重合した樹脂中に銅が取り込まれたためと考えられる。そこで、再度、析出物をDMDGに固形分50質量%になるように溶解し、再度水/メタノール混合溶液に析出させた。その結果、青味が薄くなったが、まだ青味が残っている状態であった。そこで、樹脂がほぼ白色となるまで、このDMDG溶解、水/メタノール析出を繰り返し行った。合計で5回行うことで、ほぼ白色の樹脂が得られた。これを、実施例1と同様にして乾燥して、固形の比較例2の比較高分子分散剤-2を80部得た。
【実施例】
【0096】
以上のように、重金属を使用するLRP法で合成した場合は、樹脂に取り込まれた重金属を取り除くのに十分な精製が必要になり、このためには、有機溶媒や析出溶剤が大量に必要になることが確認された。このことから、重金属を使用するLRP法を利用しての合成は、環境に悪く、省資源、省エネルギーの観点からも、課題がある方法であると言える。更に、精製することで得られた銅イオンを含む廃液は、そのままでは廃棄することができず、銅イオンの回収が必要であり、この点でも、煩雑で費用と手間のかかるものである。また、析出、溶解、ろ過を繰り返すことによって、歩留りが悪くなり、収率が悪い結果となったことからも、実用上、採用できる方法ではない。これに対し、本発明で利用する重金属を使用しない重合方法は、実施例1に示したように、非常に環境にやさしく、省エネルギー、省資源が達成でき、且つ、収率も高く、コスト的にも有利である。
【実施例】
【0097】
[比較例3](ニトロキサイド化合物を用いるNMP法による比較高分子分散剤-3の合成)
実施例1で用いたと同様の反応装置を使用して、DMDGを106部、DCPOEMAを70部、下記構造のニトロキサイド化合物(ブロックビルダーMA、アルケマ社製)を4.3部仕込んだ。
JP0005904520B2_000003t.gif
【実施例】
【0098】
窒素ガスを流しながら、1時間かけて105℃に加温した。そして、反応系を105℃に保ち5時間重合し、樹脂親和性セグメントAのポリマーブロックを得た。一部サンプリングし、反応系中の固形物濃度より算出した結果、重合率は78%であった。また、分子量は4200、PDIは1.62であり、分子量分布が広い結果であった。
【実施例】
【0099】
次いで、上記の反応系に続けて、HEMAを30部添加して105℃で5時間重合し、セルロース吸着性セグメントBのポリマーブロックを形成した。固形分濃度より算出した結果、トータルの重合率は76%であり、Mnは5500、PDIは1.89であった。これは、実施例1の場合と比較して、重合収率が悪く、分子量分布も広い結果となった。また、低分子量側に肩のピークが確認された。肩のピークの存在は、Aのポリマーブロックが重合に寄与することができず、末端が不活性になったものと考えられる。分子量に関しては、A-Bブロックコポリマーの全体のMnが5500であり、AのポリマーブロックのMnが4200であることから、5500-4200で計算されるBのポリマーブロックの数平均分子量は、1300である。以上のようにして、NMR法によって、樹脂親和性セグメントAのポリマーブロックと、セルロース吸着性セグメントBのポリマーブロックを有するA-Bブロックコポリマーである比較例3の比較高分子分散剤-3の重合溶液を得た。
【実施例】
【0100】
上記の結果から、モノマー組成を同様にしても、本発明の重合方法ではないNMP法では、メタクリレート系モノマーでの精密な制御ができなかったとこが確認され、本発明の重合方法であるRTCP法が好適であることを示した。
【実施例】
【0101】
また、重合率は不良であるが、実施例1と同様にして樹脂を析出させ、洗浄した。しかし、重合率が悪いため、モノマーが残留しモノマー臭がした。そこで、比較例2と同様にしてDMDGに溶解、水/メタノール混合溶液に析出を2回繰り返し白色の樹脂を得た。残留モノマー臭が低減された。得られた析出物を80℃24時間乾燥して、固形の高分子分散剤を80部得た。これを比較高分子分散剤-3と称す。
【実施例】
【0102】
[比較例4](硫黄化合物を用いるRAFT法による比較高分子分散剤-4の合成)
実施例1で用いたと同様の反応装置を使用して、DMDGを106部、DCPOEMAを70部、下記構造のジチオエステル化合物(アルドリッチ社製)を3.1部、更に、V-70を1.0部仕込んだ。
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【実施例】
【0103】
窒素ガスを流しながら、1時間かけて50℃に加温した。そして、反応系を50℃に保ち5時間重合し、樹脂親和性セグメントAのポリマーブロックを得た。一部サンプリングし、反応系中の固形物濃度より算出した結果、重合率は90%であった。また、Mnは5300、PDIは1.88であり、分子量分布が広い結果であった。
【実施例】
【0104】
次いで、上記の反応系に続けて、HEMAを30部添加して50℃で5時間重合し、セルロース吸着性セグメントBのポリマーブロックを形成した。固形分濃度より算出した結果、トータルの重合率はほぼ100%であり、Mnは7900、PDIは2.01であった。重合は進行するものの、分子量分布は広い結果であった。A-BブロックコポリマーのMnが7900、AのポリマーブロックのMnが5300であることから、計算して求めたBのポリマーブロックの数平均分子量は2600である。以上のようにしてRAFT法にて、樹脂親和性セグメントAのポリマーブロックとセルロース吸着性セグメントBのポリマーブロックを有するA-Bブロックコポリマーである比較例4の比較高分子分散剤-4の重合溶液を得た。得られた重合溶液は、黄味の透明溶液であるが、メルカプト系の悪臭がする樹脂溶液であった。
【実施例】
【0105】
上記で得られた重合溶液を実施例1と同様にして、水/メタノール混合溶液に析出させて、水/メタノール溶液で洗浄し、得られた析出物を80℃24時間乾燥して、白色の固形の比較例4の比較高分子分散剤-4の98部を得た。上記したように、比較例4で使用したRAFT法は、非常に硫黄化合物の臭気がするものであり、作業性、加工工程上不適切であると考えられる。更に、前記したチオエステル化合物は特殊であり、大量生産には不向きであり、実用化した場合、コスト的には不利であると考えられ、これに比べて本発明で規定する重合方法は非常に有利であることが示唆された。
【実施例】
【0106】
[製造例1](セルロースナノファイバー(CNF)の調製)
まず、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)〔リファイナー処理済み、固形分:25%〕600部に、水を19400部添加し、パルプスラリー濃度0.75質量%の水懸濁液(スラリー)を調製した。次に、得られたスラリーに対し、ビーズミルを用いて機械的解繊処理を行った。解繊処理を行った後、フィルタープレスで脱水し、含水状態のCNF-1(固形分:25%)を570部得た。
【実施例】
【0107】
[実施例6](高分子分散剤-1のセルロースへの処理)
先に調製した高分子分散剤-1を10部、DMDG25部に溶解させ、これに、カチオン性界面活性剤としてオレイルアミン酢酸塩を0.2部添加し、均一に撹拌しながら、次に、水64.8部を滴下して、10質量%の高分子分散剤-1の水系分散処理剤の溶液を100部得た。得られた溶液は、高分子分散剤-1が淡い黄濁状に分散しており、これを24時間静置しても沈降は確認されなかった。
【実施例】
【0108】
次に、先に調製した含水状態のCNF-1(固形分:25%)の40部に、上記で得た高分子分散剤-1の水系分散処理剤の溶液を100部添加し、十分に混合して、高分子分散剤-1をセルロースに処理した易分散性セルロース組成物を140部得た。
【実施例】
【0109】
[実施例7、8]
また、同様にして、実施例1の高分子分散剤-1に替えて、実施例2の高分子分散剤-2、実施例4の高分子分散剤-4を用いて、同様の水処理分散処理剤の溶液を調整した。同様に淡い黄濁状に分散しており、沈降は確認されなかった。次いで、同様にして、CNF-1を処理し、易分散性セルロース組成物を得た。
【実施例】
【0110】
[実施例9、10]
先に調製した含水状態のCNF-1(固形分:25%)の40部に、上記で得た高分子分散剤-3又は-5の水系分散処理剤の溶液を100部添加し、十分に混合して、高分子分散剤-1をセルロースに処理した易分散性セルロース組成物を得た。
【実施例】
【0111】
[比較例5~8](比較高分子分散液-1~4のセルロースへの処理)
比較例1~4で作製した比較高分子分散剤-1~4について、それぞれ実施例2と同様にして、各高分子分散剤のCNF-1への処理を実施し、各高分子分散剤を処理した比較例のセルロース組成物をそれぞれ140部得た。得られた各CNF組成物を比較例5~8とした。
【実施例】
【0112】
[実施例11](易分散性セルロース組成物と樹脂を含む混練組成物の調製)
実施例6で作製した、高分子分散剤-1をセルロースに処理した易分散性セルロース組成物40部に、微粒子状ポリエチレン〔住友精化製、フロービーズHE3040(商品名)、以下「微粒子状のPE」と略す〕の80部を水50部で湿潤させた状態で添加し、混合した。得られた混合物を、ろ過及び乾燥することで、混合物中の水及びDMDGを除去して、高分子分散剤-1で処理されたCNF-1と微粒子状のPEとの混合組成物であるセルロース分散樹脂組成物を98部得た。
【実施例】
【0113】
[実施例12~15](易分散性セルロース組成物と樹脂を含む混練組成物の調製)
実施例11の実施例6の易分散性セルロース組成物に替えて、実施例7~10の易分散性セルロース組成物を用いて、同様のセルロース分散樹脂組成物を得た。
【実施例】
【0114】
〔評価〕(二軸押出混練、射出成型及び引張試験)
上記で得たCNF-1と微粒子状のPEとの混合組成物について、下記に述べる方法で、二軸押出混練、射出成型、引張試験による引張弾性率、引張強度の評価を実施した。具体的には、二軸押出混練を、混練温度140℃で実施し、ストランド状に吐出して冷却、ペレタイザーでカッティングして、CNF-1が分散したPE樹脂ペレットを調製した。そして、得られたCNF-1が分散したPE樹脂ペレットを用い、射出成型を実施し、ダンベル片(ダンベル厚:2mm)を作製して評価用サンプルとした。この評価用サンプルのダンベル片について、引張試験機(インストロン社製:万能試験機5900シリーズ使用)で、10mm/minの引張速度で引張試験を実施し、引張弾性率及び引張強度を測定し、評価した。上記と同様にして、実施例7~10で得られた高分子分散剤-2~5をセルロースに処理した易分散性セルロース組成物を使用して、上記と同様に試験し、評価した。その結果を表3中にまとめて示した。
【実施例】
【0115】
[比較例9~12](高分子分散剤処理CNF及び樹脂を含む樹脂組成物の混練)
比較例5~8の、比較高分子分散剤-1~4をそれぞれセルロースに処理した各セルロース組成物について、実施例3と同様にしてPEとの混合組成物を作製し、これを用いて、二軸押出混練、射出成型、引張試験を実施し、引張弾性率及び引張強度を評価した。これを比較例9~12とする。その結果を表3中にまとめて示した。
【実施例】
【0116】
[実施例16](セルロース分散用の分散剤含有樹脂組成物の調製)
実施例1で合成した高分子分散剤-1の重合溶液(固形分濃度:50.1%)の119.8部を、水1000部に撹拌しながら添加して高分子分散剤-1を析出させ、高速に撹拌することにより水中で微粉砕状とした。次に、実施例3で使用したと同様の微粒子状のPEを140部添加し、高分子分散剤-1と均一になるよう撹拌し、ろ過、80℃で乾燥させて、高分子分散剤-1及び微粒子状のPEを含む、セルロース分散用分散剤含有樹脂組成物199部を得た。この組成物の二軸押出混練を140℃の混練条件で実施し、細いストランド状に吐出して冷却、ペレタイザーでカッティングして、細粒状の高分子分散剤-1とPE樹脂の混練組成物を得た。この混練組成物中には、高分子分散剤-1とPE樹脂が、30質量%と70質量%の比率で含んでいるものである。
【実施例】
【0117】
[実施例17](セルロース分散樹脂混練組成物の調製)
含水状態のCNF-1(固形分:25%)の40部を水500部に添加し、高速撹拌してCNF-1を水中でスラリー状とした。次に、このスラリーに実施例4で作成した細粒状の混練組成物33.3部及び微粒子状のPE56.7部を添加して撹拌して均一化した後、ろ過することで、含水状態の混合組成物を120部得た。この含水状態の混合組成物には、高分子分散剤-1として10部、CNF-1として10部、PE樹脂として80部を含み、水を20部含んだ状態である。この混合組成物を含水状態のまま二軸押出機に投入し、混練を実施した。混練温度は140℃で、水分除去用にベント孔を開放して実施し、ストランド状に吐出して冷却し、ペレタイザーでカッティングしてCNF-1が分散したPE樹脂ペレットを得た。そして、実施例3と同様に射出成型、引張試験を実施し、引張弾性率、引張強度を評価した。その結果を表3中に示した。
【実施例】
【0118】
〔評価結果〕
(重合方法による高分子分散剤の分子構造の違い)
実施例-1と比較例の各高分子分散剤を構成する、それぞれに異なる重合法で重合して得たA-Bブロック共重合体の構造の違いを表1にまとめて示した。
【実施例】
【0119】
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【実施例】
【0120】
(各高分子分散剤を得る際の重合方法と、各樹脂組成物の性能の比較)
実施例1と比較例1~4の各高分子分散剤を得る際にそれぞれ用いた、各重合方法による違いを表2にまとめて示した。具体的には、重合条件を、得られる共重合体の分子構造の制御のし易さ、重合温度の低さ、臭気の発生、精製のし易さ、低コストの各項目について、「○、△、×」の3段階で相対評価し、表2にまとめて示した。また、先に述べたようにして、実施例と比較例の各高分子分散剤を用いてそれぞれ作製した、CNF-1と微粒子状のPEとの混練樹脂組成物の機械特性を比較した結果を、表3にまとめて示した。
【実施例】
【0121】
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【実施例】
【0122】
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【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明の活用例としては、親水性物質であるセルロースに適用することができる、従来なかった高性能のセルロース用高分子分散剤を、簡便に、環境に配慮した経済的な方法で提供することが可能になる。この結果、再生が可能な天然素材であり、優れたフィラーとしての機能が注目されているものの、親水性の物質であることから、汎用樹脂等への分散が難しく、現状では、その利用が促進されていない微細なセルロース繊維の広範な利用の実現が可能になる。本発明の顕著な効果は、親水性物質であるセルロースに適用することができる、従来なかった高性能のセルロース用高分子分散剤が簡便に収率よく、提供されることで、該高分子分散剤をセルロースに処理することで、高分子分散剤とセルロースとを含む汎用樹脂である熱可塑性樹脂に易分散性のセルロース組成物を簡便に得ることができるようになる結果、得られたものである。本発明によって提供されるセルロース分散樹脂組成物は、機械特性に優れる実用価値の高いものになるので、その広範な利用が期待される。