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明細書 :混和材料、セメントの練混ぜ方法、セメント系プレミックス材料、鉄筋コンクリートの腐食防止方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6716331号 (P6716331)
公開番号 特開2017-197393 (P2017-197393A)
登録日 令和2年6月12日(2020.6.12)
発行日 令和2年7月1日(2020.7.1)
公開日 平成29年11月2日(2017.11.2)
発明の名称または考案の名称 混和材料、セメントの練混ぜ方法、セメント系プレミックス材料、鉄筋コンクリートの腐食防止方法
国際特許分類 C04B  28/02        (2006.01)
C04B  24/00        (2006.01)
C04B  18/14        (2006.01)
B28C   7/04        (2006.01)
C12N   1/20        (2006.01)
C04B 103/61        (2006.01)
C04B 111/26        (2006.01)
FI C04B 28/02
C04B 24/00
C04B 18/14 A
B28C 7/04
C12N 1/20 A
C12N 1/20 Z
C04B 103:61
C04B 111:26
請求項の数または発明の数 7
全頁数 13
出願番号 特願2016-087837 (P2016-087837)
出願日 平成28年4月26日(2016.4.26)
審査請求日 平成31年1月31日(2019.1.31)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
発明者または考案者 【氏名】西田 孝弘
【氏名】河合 慶有
【氏名】齋藤 淳
【氏名】根岸 敦規
個別代理人の代理人 【識別番号】100100354、【弁理士】、【氏名又は名称】江藤 聡明
審査官 【審査官】今井 淳一
参考文献・文献 韓国公開特許第10-2010-0133148(KR,A)
特開2012-201522(JP,A)
調査した分野 C04B 28/02
B28C 7/04
C04B 18/14
C04B 24/00
C04B 103/61
C04B 111/26
C12N 1/20
特許請求の範囲 【請求項1】
セメントと混合して使用される混和材料であって、
好気性微生物と還元剤の両方を含み、
前記好気性微生物が芽胞形成菌であり、
前記還元剤が鉄鋼スラグ粉末である混和材料。
【請求項2】
前記芽胞形成菌はバチルス属細菌である請求項に記載の混和材料。
【請求項3】
前記バチルス属細菌は納豆菌であり、さらに補酵素としてビオチンを含む請求項に記載の混和材料。
【請求項4】
前記好気性微生物を含む水溶液又は水分散液と別剤としての当該好気性微生物の栄養源とが使用直前に混合される、2成分型混和材料である請求項1~のいずれか1項に記載の混和材料。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の混和材料が水に溶解又は分散した水溶液を用いて、セメントを混練するセメントの混練方法。
【請求項6】
セメントと、請求項1~のいずれか1項記載の混和材料とを含むセメント系プレミックス材料。
【請求項7】
鋼材がコンクリートに埋設された鉄筋コンクリートの腐食抑制方法であって、
前記コンクリートが硬化する前に、当該コンクリートに請求項1~のいずれか1項に記載の混和材料を混入させる腐食抑制方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートの腐食を抑制する方法及びそれに関連する混和材料、練混ぜ方法及びセメント系プレミックス材料に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートやモルタル等のセメント硬化物は建築用途などに広く使用されており、特に、コンクリート中に鉄筋などの鋼材が埋設された鉄筋コンクリートは、建築用構造体として広く用いられている。
【0003】
コンクリートやモルタルの硬化過程では水酸化カルシウムが生成されるが、この水酸化カルシウムが高pH環境を形成するため、鉄筋コンクリート中の鋼材には不動態被膜(酸化化合物膜)が形成され、鋼材は腐食し難い環境に置かれると言える。
【0004】
ところで、コンクリートにひび割れ等が発生すると、上記水酸化カルシウムは、ひび割れを通って侵入した水分に溶解し、更に空気中の二酸化炭素と反応して炭酸カルシウムとして析出するエフロレッセンス現象(白華)が知られている(例えば、特許文献1の従来技術)。この現象により長い期間を経てひび割れ等が自然修復されるが、水酸化カルシウムの消失によりコンクリートのpHがアルカリから酸性側へ傾き(中性化)、この中性化や塩化物イオンの侵入により、鋼材周囲の不動態化膜が破壊され、鋼材の腐食が起こる。
【0005】
従来より、鉄筋の腐食を抑制する方法は提案されており、例えば、(a)コンクリートを緻密化する方法(非特許文献1)、(b)コンクリート又は鉄筋の表面をコーティングする方法(非特許文献2)、(c)亜硝酸塩等により鉄筋表面に不動態被膜を形成する等の方法(非特許文献3)などが公知であり、いずれもコンクリート中に埋設された鉄筋に劣化因子が到達することを防止し、腐食を抑制する。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2004-123438号公報
【0007】

【非特許文献1】郭度連、他3名、「養生条件によるコンクリートの組織変化と中性化を支配する細孔径の評価」、土木学会論文集、公益社団法人土木学会、平成14年11月、No.718/V-57、p.59-68
【非特許文献2】吉田、他3名、「エポキシ樹脂塗装鉄筋と含浸材を併用した吹付けコンクリート部材の長期耐久性に関する研究」、コンクリート工学年次論文集、公益社団法人日本コンクリート工学会、平成20年、Vol.30、No.1、p.603-608
【非特許文献3】青山、他3名、「防錆剤混入モルタルによる塩害コンクリート中の鉄筋の防錆効果」、コンクリート工学年次論文集、公益社団法人日本コンクリート工学会、平成17年、Vol.27、No.1、p.931-936
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記腐食抑制方法のうち、(a)の方法は養生条件を調整するため、多様な作業場、多様な種類のセメント硬化物まで応用できるわけではなく、また、(b)、(c)の方法はコーティングや被膜形成等の別工程が必要であり、煩雑である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
金属腐食は、例えば鉄の場合は、下記のようにアノード反応で電子(2e)が生成され、この電子により水中に溶存した酸素(溶存酸素)のカソード反応が進行し、OHイオンを生成する。
【0010】
Fe → Fe2+ + 2e …… アノード反応
1/2O + HO + 2e→ 2OH …… カソード反応
【0011】
水中に溶解した鉄イオン(Fe2+)は、OHイオンと結合して水酸化鉄(II)、更には水酸化鉄(III)、オキシ水酸化鉄(赤錆)となって、腐食反応が進行する。
【0012】
従来技術では、アノード反応に着目し、鉄のイオン化を抑制する混和剤や補修材が主流であった。
【0013】
本発明者は、上記反応のうち、特にカソード反応に着目して腐食抑制方法を検討した結果、混和材料に好気性微生物と還元剤の少なくとも一方を添加し、酸素を消費してカソード反応を抑制する手法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
従って、本発明は下記の構成を有する。
【0015】
(1)本発明の混和材料はセメントと混合して使用されるものであって、好気性微生物と還元剤の両方を含好気性微生物が芽胞形成菌であり、還元剤が鉄鋼スラグ粉末である混和材料である。
【0017】
)芽胞形成菌としては、バチルス属細菌を用いることが好ましい。
【0018】
)更に、バチルス属細菌としては、納豆菌を用いることが好ましく、さらに補酵素としてビオチンを含む混和材料であることが好ましい
【0019】
好ましくは、好気性微生物を含む水溶液又は水分散液と、別剤としての当該好気性微生物の栄養源とが使用直前に混合される、2成分型混和材料である。
【0020】
本発明は混和材料に限定されず、下記の方法及び材料をも含む。
【0021】
)上記混和材料を、水に溶解又は分散させた水溶液をセメントの混練水として用いることができる。
【0022】
)上記混和材料をセメントと混合し、セメント系プレミックス材料を製造することができる。
【0023】
)更に、鋼材をコンクリートに埋設した鉄筋コンクリートを製造する際、コンクリートが硬化する前に、当該コンクリートに上記混和材料を混入させ、鋼材の腐食を抑制することもできる。

【発明の効果】
【0024】
本発明の混和材料は、コンクリートやモルタル等のセメント硬化物の特殊混和材料として使用することができるので、特殊な工程が不要であり、しかも、JIS等の規格に適合したセメントペースト(生コンクリートなど)を作製することが可能であり、建築の主要構造部材等、幅広い分野に使用可能である。混和材料は好気性微生物と還元剤の少なくとも一方を含むので、セメント硬化物に破損などなく健全な場合は、コンクリート溶存酸素濃度を低減させることができる。セメント硬化物にひび割れ等の破損が生じた場合には、好気性微生物が排出する二酸化炭素による閉塞効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は納豆菌による溶存酸素量の減少を示すグラフである。
【図2】図2は供試体から再培養した納豆菌による溶存酸素量の減少を示すグラフである。
【図3】図3(a)、(b)は試験Cに用いた供試体の横方向断面図、縦方向断面図である。
【図4】図4は鉄筋腐食抑制試験の結果を示すグラフである。
【図5】図5は還元剤の酸素消費を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、コンクリート、モルタル、セメントペースト(ノロ)等のセメント硬化物の製造に使用される混和材料と、当該混和材料を用いた混練方法、更にはセメント系プレミックス材料に関する。本発明の混和材料は、金属腐食の抑制に適した特定混和材料であるため、鉄筋コンクリート等、セメント硬化物に埋設された鋼材の腐食抑制方法にも関連する。

【0027】
先ず、本発明の混和材料をより具体的に説明する。

【0028】
[混和材料]
本発明の混和材料は、好気性微生物と還元剤のいずれか一方又は両方を含む。好気微生物は酸素を消費し、還元剤は自身が酸化されて酸素を消費するため、いずれの場合も溶存酸素の低減に寄与する。

【0029】
‐好気性微生物
好気性微生物は、酸素を消費して二酸化炭素を発生させるものであれば特に限定されず偏性好気性微生物、通性好気性微生物、通性嫌気性微生物、微好気性微生物をも含み、細菌類、酵母、真菌、原生生物、原生動物等広く使用することが可能である。

【0030】
これらの中でも、特に、芽胞(胞子、分正子)形成能がある芽胞形成微生物が特に好ましい。

【0031】
芽胞形成微生物としては、例えば、枯草菌(Bacillus属)、放線菌(Streptomyces属等)、真菌類(不完全菌門、子嚢菌門、接合菌門、担子菌門、ツボカビ門)などを1種以上使用することが可能である。これらの中でも、枯草菌のような内生胞子を生成する好気性細菌が好ましい。

【0032】
枯草菌は特に限定されないが、例えば、Bacillus subtilis、Bacillus subtilis var. natto(納豆菌)、Bacillus amyloliquefaciens、Bacillus pumils、Bacillus lentus、Bacillus laterosporus、Bacillus alvei、Bacillus popilliae、Bacillus licheniformis、Bacillus coagulans、Bacillus cereus、Bacillus halodurans、Bacillus acidicola、Bacillus acidopullulyticus、Bacillus acidovorans、Bacillus aeolius、Bacillus aestuarii、Bacillus garadhaerens、Bacillus akibai、Bacillus alcaliinulinus、Bacillus alcalophilus、Bacillus algicola、Bacillus alkalitolerans、Bacillus alkalogaya、Bacillus alveayuensis、Bacillus amiliensis、Bacillus aminovorans、Bacillus aquimaris、Bacillus arbutinivorans、Bacillus arenosi、Bacillus arseniciselenatis、Bacillus arsenicus、Bacillus arvi、Bacillus asahii、Bacillus atrophaeus、Bacillus axarquiensis、Bacillus azotoformans、Bacillus badius、Bacillus baekryungensis、Bacillus barbaricus、Bacillus bataviensis、Bacillus benzoevorans、Bacillus bogoriensis、Bacillus borophilicus、Bacillus borotolerans、Bacillus caldolyticus、Bacillus caldotenax、Bacillus caldovelox、Bacillus carboniphilus、Bacillus casamancensis、Bacillus catenulatus、Bacillus cellulosilyticus、Bacillus sphericus、Bacillus thuringiensis、Bacillus clausiiなどから1種以上を選択することができる。これらの中でも、耐熱性、経済性等の点で納豆菌が最も好ましい。

【0033】
これら好気性微生物は、自家培養品、市販品のいずれを用いてもよい。例えば、納豆菌の場合は、納豆からの単離品、自家培養品、市販品(宮城野納豆製造所製、成瀬発酵化学研究所製、高橋祐蔵研究所製等)のいずれか1種以上を用いることができる。

【0034】
納豆菌のような芽胞形成微生物を用いる場合、予め芽胞形成微生物にストレス環境下で培養し、芽胞数を増加させると同時に、他の微生物数を減少(滅菌)させてから混和材料に使用することも可能である。なお、ストレス環境とは、貧栄養、乾燥、高温、低温、高圧、化学処理のいずれか1種以上のストレスを芽胞形成微生物に付与する状態を意味する。

【0035】
貧栄養は、例えば貧栄養培地(最小培地)での培養を意味する。貧栄養培地は特に限定されず、市販品又は公知の組成のものを種々使用することができるが、例えば、E-9培地、SP II培地、Spizizen培地、Davis培地等多様な最小培地を使用可能であり、これらの最小培地に、更にグルコース等の炭素源、アミノ酸等の窒素源、ビオチン等の補酵素等を添加してもよい。

【0036】
好気性微生物を混和材料に添加させるときの態様は特に限定されない。例えば、混和材料が液体の場合、好気性微生物は培地から分離後、又は、液体培地と共に混和材料に添加することができる。混和材料が粉末、タブレット状等の乾燥品の場合は、好気性微生物の乾燥品(真空凍結乾燥、スプレー乾燥等)を使用することができる。

【0037】
本発明の混和材料には上記好気性微生物に代え、または、上記好気性微生物と共に下記還元剤を添加する。

【0038】
‐還元剤
還元剤は、セメントペースト及びその硬化物中のアルカリ環境下で安定な物質であって、セメント硬化物中の酸化性物質と反応して還元能力を発揮する物質であれば特に限定さないが、例えば、腐食防止目的の金属(例えば鉄筋の鉄)よりも酸化されやすい物質を使用する。

【0039】
このような還元剤の例としては、鉄鋼スラグ粉末(高炉スラグ、製鋼スラグ、電気炉還元スラグ)、鉄(II)イオン、水素化アルミニウムリチウム(LiAlH)、ナトリウムアマルガム、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)、スズ(II)イオン、亜硫酸塩、ヒドラジン、亜鉛アマルガム、水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBAH)、シュウ酸(C)、ギ酸(HCOOH)等があり、これらは単独又は2種以上を組み合わせて添加する。

【0040】
これらの中でも、セメント系材料との親和性が高く、好気性微生物と併用した場合にその繁殖を抑制しないという点で、鉄鋼スラグ粉末が好ましい。鉄鋼スラグ粉末の中でも、高炉スラグ粉末は酸化鉄量が少ない一方で(検出限界以下)、還元剤として機能する0~2価の鉄(特に2価鉄)やその他の鉄成分(例えば、Fe、即ち4酸3価鉄)を含有するので、還元能力が高く、本発明の混材料に最も適している。高炉スラグ粉末の種類は特に限定されず、高炉徐冷スラグ、高炉水砕スラグのいずれかでもよいが、混和材料の分散性を考慮して紛体(微粉末)のものを用いる。

【0041】
好気性微生物とは異なり、還元剤は化学反応により酸素を消費するため、ひび割れ等の破損がない健全なコンクリート中での酸素消費に特に寄与する。他方、好気性微生物は酸素が供給された状態で活発に活動する。従って、混和材料が、好気性微生物と還元剤との両方を含む場合には、腐食抑制効果がより長時間維持される。

【0042】
本発明の混和材料には、好気性微生物、還元剤以外の添加剤を添加することができる。

【0043】
‐添加剤
添加剤は特に限定されず、好気性微生物及び/又は還元剤の活性を失活させなければ特に限定されず、フィラー、分散剤、界面活性剤、pH調整、pH緩衝剤等多様なものを使用可能であり、添加剤は1種類のみ単独で使用することもできるし、2種類以上を用いることもできる。

【0044】
好気性微生物を使用する場合は、添加剤として好気性微生物の栄養源を添加することも可能である。栄養源は特に限定されず、有機炭素源(糖類、デンプン等)、無機炭素源(炭酸ナトリウム等)、有機窒素源(アミノ酸、ペプトン等)、無機窒素源(アンモニウム塩、硝酸塩等)、無機栄養源(P、S、K、Mg、Fe、Na等)を1種以上用いることができる。ただし、無機栄養源のうち、カルシウム等のセメントに含まれる無機栄養源は、別途添加する必要はない。

【0045】
栄養源は、好気性微生物の代謝により腐食性物質を排出しないものが好ましい。栄養源としての炭素源(糖類等)が有機酸(酢酸、ピルビン酸)のような腐食性物質の原因となる場合は、栄養源に窒素源を添加し、微生物が産出するアンモニアにより有機酸をマスクしてもよい。特に、バチルス属細菌を使用する場合に効果的である。

【0046】
好気性微生物が芽胞形成微生物の場合には、栄養源として発芽誘導物質を添加することもできる。発芽誘導物質は特に限定されないが、例えば芽胞形成微生物がバチルス属細菌の場合は、L-アラニン、L-バリンなどのアミノ酸がある。更に、バチルス属細菌が納豆菌の場合は、ビオチンのような補酵素を栄養源として添加することもできる。

【0047】
‐混和材料の製造方法
本発明の混和材料は、液状、固体(乾燥品)のいずれの形態でもよく、液状の場合は上記好気性微生物、還元剤の少なくとも一方と、必要に応じて添加剤とを、水、有機溶媒等の媒質に溶解又は分散させて液状とする。媒質は好ましくは水を含有し、より好ましくは水を主成分(50質量%以上)とし、より好ましくは水で構成される。

【0048】
液状混和材料が水を含む場合、芽胞形成微生物と、添加剤である栄養源(発芽誘導物質、補酵素含む)の両方を添加すると、芽胞形成微生物の栄養細胞への転換が進行し、混和材料の棚時間が短くなるおそれがある。従って、栄養源を、芽胞形成微生物を含む混和材料とは別剤とし、使用直前に混合するいわゆる2成分型混和材料にすれば、混和材料の棚時間が長くなる。2成分型混和材料は、混和材料を水溶液又は水分散液とする場合に、特に効果的である。

【0049】
他方、芽胞形成微生物は、一般に水の不存在下では発芽率が極端に低いので、混和材料が乾燥品の場合は、栄養源と芽胞形成微生物を一緒に混和材料に添加することができる。乾燥品の形状は特に限定されず、紛状、粒状、タブレット状等多様な形状にすることが可能であり、必要であれば結着剤を使用して、この結着剤に好気性微生物及び/又は還元剤を付着させて成形することも可能である。

【0050】
結着剤は特に限定されず、樹脂等多様なものを使用可能であるが、好気性微生物を使用する場合は、デンプン、糖類(多糖を含む)、セルロース、タンパク質、及びこれらの誘導体(変性物質)からなる群より選択されるいずれか1以上を用いれば、水と接触したときにこれら結着剤が好気性微生物の栄養源にもなりうる。

【0051】
本発明の混和材料は、コンクリート、モルタル等の多様なセメント硬化物を作製する目的で、セメントと混合して使用することができる。

【0052】
[セメント]
本発明の混和材料は多様なセメントに対し使用可能であり、例えば、ポルトランドセメント(JIS R5210)、混合セメント(JIS R5211、R5212、R5213)、エコセメント(JIS R5204)等を1種以上使用することができる。
本発明の混和材料は、1種以上のセメントと混合したセメント系プレミックス材料として、1種以上のセメントと混練して、或いは他の方法により1種以上のセメントと混合(接触)させて使用する。

【0053】
[セメント系プレミックス材料]
セメント系プレミックス材料は、上記1種以上のセメントに、本発明の混和材料の乾燥品を添加したものである。混和材料とセメントとの混合比率は特に限定されないが、例えば、セメント100質量部に対し、混和材料は50質量部以下、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。

【0054】
このセメント系プレミックス材料は乾燥品であり、混和材料に芽胞形成微生物を添加しても、芽胞形成微生物は発芽せずに芽胞形態が維持されるため、セメント系プレミックスの製品棚時間は長い。

【0055】
セメント系プレミックスには、必要に応じて、化学混和剤、減水剤、流動化剤等の1種以上の混和剤や他の混和材料を添加することも可能である。これら混和剤や他の混和材料は、セメント系プレミックスとは別剤とし、下記の混練工程で添加してもよい。

【0056】
[混練方法]
一般に、セメント硬化物を製造する際には、水道水等の混練水をセメントに添加し、必要に応じて上記混和剤や他の混和材料を一緒に混練してペースト状にする。

【0057】
本発明では、セメントとして上記セメント系プレミックス材料を混練してもよいし、通常のセメントと本発明の混和材料とを混合して混練してもよい。いずれの場合も、混練の具体的手順、機械(ミキサ)等は通常のものと変わりがないので、特別な機械や手順無しに、通常の建築現場等で広く使用することが可能である。

【0058】
混練の際には、セメントの水和反応によりペーストが発熱し、更にセメントペーストは強アルカリになるが、好気性微生物として芽胞形成微生物を用いた場合、栄養細胞が死滅しても、少なくとも一部は芽胞(胞子)として残る。

【0059】
混練により得たセメントペースト(ノロ)はそのままタイル貼りや目地仕上げに使用してもよいし、細骨材(砂等)を混合してモルタル、更に、細骨材(砂等)、粗骨材(砂利等)を混合してコンクリートとしてもよい。このように、本発明の混和材料は多様なセメント硬化物に使用可能であるが、特に、鋼材などの金属含有体を被覆するセメント硬化物で腐食抑制効果を発揮する。

【0060】
次に、本発明の腐食抑制方法を説明する。

【0061】
[腐食抑制方法]
本発明で腐食を抑制する対象は特に限定されず、金属含有体を被覆するセメント硬化物であれば、無筋コンクリート、鉄筋コンクリート、モルタル、ノロ等特に限定されないが、長期間構造物として設置される鉄筋コンクリートに特に適している。

【0062】
なお、本発明で「鉄筋コンクリート」とは、金属系材料からなる補強剤(鋼材)がコンクリート中に埋設された構造体を広く意味し、いわゆる鉄筋コンクリート(RC)の他、プレストレストコンクリート(PC)、鉄筋鉄骨コンクリート(SRC)等をも含む概念である。

【0063】
鋼材は特に限定されないが、例えば、鉄筋、鉄骨、丸鋼、異形棒鋼、異形鉄筋、PC鋼材、溶融金網等多様なものを含み、その材質も特に限定されない。

【0064】
セメント硬化物は、長期間経過するとひび割れて間隙が生じることがある。或いは、セメント硬化物上に硬化前のセメントペースト(生コンクリート等)を重ねて硬化させると、重ねた部分に不連続な面が生じ、長時間を経過しなくても間隙が生じることがある(コールドジョイント)。いずれの場合も、セメント硬化物に間隙が生じると、それを通って水や酸素が侵入し、セメント硬化物が被覆(埋設)する鋼材が腐食する原因となる。

【0065】
本発明は、セメント硬化物に、好気性微生物と還元剤の少なくとも一方を含む混和材料が予め含まれており、好気性微生物は呼吸により、還元剤は自身が酸化されることで侵入した酸素を消費する。

【0066】
例えば、好気性微生物が芽胞形成微生物の場合、間隙が生じる前は休眠状態にあるが、一旦間隙が形成され、空気と水が浸入すると、水と接触した芽胞が発芽し、酸素を消費し始める。

【0067】
このように、好気性微生物と還元剤はいずれも酸素を消費するため、上述したカソード反応が抑制され、塩化物イオンの侵入や中性化によりセメント硬化物内部の鋼材の不動態被膜が破壊された状態になっても、腐食反応を抑制することができる。

【0068】
しかも、好気性微生物は、酸素を消費するのみならず二酸化炭素を放出し、この二酸化炭素がセメント硬化物から水に溶解したカルシウムと反応して炭酸塩が析出するため、炭酸塩で間隙が閉塞され、更なる水や空気の侵入も抑制することができる。

【0069】
このように、本発明は、セメント硬化物の硬化後に特別な処理を施さなくても、鋼材の腐食が効果的に抑制される。

【0070】
[その他]
以上は、本発明の混和材料をセメントペーストに添加する場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、鋼材の一部又は全部に混和材料を塗布又は噴霧した後、硬化前のセメントペーストを塗布又は流し込み、鋼材を被覆又は埋設して硬化させてもよい。

【0071】
更には、本発明の混和材料を含むセメントペーストで鋼材を被覆し、そのセメントペーストが硬化後に、本発明の混和材料を含まないセメントペーストを流し込み、打ち重ねてもよい。

【0072】
いずれの場合も、セメントペーストは硬化前に本発明の混和材料と接触し、硬化後に間隙が生じた場合は混和材料が酸素を消費するので、鋼材の腐食が抑制される。

【0073】
次に、実施例により本発明をより具体的に説明する。
【実施例】
【0074】
<試験A:納豆菌の酸素消費>
納豆菌を約5.0×10個/ml添加した水溶液に、グルコース、塩化アンモニウム、リン酸水素二カリウム、硫酸マグネシウム、塩化鉄、塩化カルシウム、硫酸マンガンを添加して、エアレーションしながら納豆菌を培養した。
【実施例】
【0075】
培養開始後7日経過した培養液からサンプル溶液を採取し、溶存酸素計を用いてサンプル溶液(即ち、エアレーション停止後の培養液)中の単位容積当たりの酸素量(mg/l)を測定した。その結果を図1に示す。
【実施例】
【0076】
図1に示すように、納豆菌のような好気性微生物細菌は2時間程度で溶存酸素量を1mg/l迄低下させており、酸素消費能力が高いことが分かる。
【実施例】
【0077】
<試験B:モルタル中の納豆菌生存確認実験>
早強ポルトランドセメントを用いて下記表1の配合で混練し、直径50mm、高さ100mmのモルタル円柱供試体を作製した。なお、下記配合中の「混練水」は、水道水75質量%に対し、納豆菌培養液25質量%を混合したものであり、この納豆菌培養液は上記試験Aと同じ条件で60日間培養した後の水溶液である。
【実施例】
【0078】
【表1】
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【実施例】
【0079】
この供試体を水中で7日間養生させた。水から引き揚げた供試体を乾式カッターで切断し、破砕機を用いて粉末状にし、蒸留水を加えて7日間のエアレーションを行った。7日経過後、上記試験Aと同じ条件で溶存酸素量の変化を測定した。その測定結果を図2に示す。
【実施例】
【0080】
図2から明らかなように、セメントの硬化反応を経ても納豆菌は死滅せず、試験Aと同程度の酸素消費能力を維持することが確認された。
【実施例】
【0081】
<試験C:鉄筋腐食抑制試験>
図3(a)、(b)は試験Cに用いた供試体の横方向断面図、縦方向断面図をそれぞれ示している。この供試体は、早強ポルトランドセメントを用いて下記表2の配合で混練し、このモルタルペーストを用いてエポキシ被覆鉄筋と丸鋼分割鉄筋をそれぞれ埋設し、硬化させたものである。
【実施例】
【0082】
【表2】
JP0006716331B2_000003t.gif
【実施例】
【0083】
上記表2中、塩水の塩分濃度は10kg/mであり、納豆培養液は試験Aと同じ条件で7日間培養した水溶液である。
【実施例】
【0084】
実施例1、比較例2の供試体は曲げ応力により幅0.5mm程度のひび割れを発生させた。比較例1の供試体にはひび割れを発生させなかった。これら供試体の状態を下記表3に記載する。
【実施例】
【0085】
【表3】
JP0006716331B2_000004t.gif
【実施例】
【0086】
これら3種類の供試体について、下記文献を参照し、図3の(b)のひび割れ部位において1.0mV/秒の掃引速小戸で測定したカソード分極曲線の860mVにおける電流密度を限界電流と、酸素透過量を算出した。
【実施例】
【0087】
参照した文献:小林和夫他:耐久性設計の手法に基づいた鉄筋コンクリート部材の表面処理効果の評価,土木学会論文集,No.390/V-8,pp.151-159、1988年
【実施例】
【0088】
比較例2の酸素透過量は1.4mol/cm/秒×10-11であったのに対し、実施例1の酸素透過量は0.75mol/cm/秒×10-11であり、好気性微生物により酸素が消費されたことが確認された。
【実施例】
【0089】
更に、上記3種類の供試体について、自然電位を測定し、鋼材の腐食を判定した。判定基準を下記表4に、測定結果を図4に示す。
【実施例】
【0090】
【表4】
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【実施例】
【0091】
図4と表4の判定基準を比較すれば明らかなように、No.2(比較例2)は材齢28日目で「90%以上の確率で腐食あり」と判定された。これに対し、No.3(実施例1)は材齢49日においても「不確定」の判定であり、好気性微生物により腐食が抑制されたことが確認された。
【実施例】
【0092】
<試験D:還元剤の酸素消費>
下記表5に示す紛体をそれぞれ水と混合し、固液比(g/L)の異なる溶液を作製した。
【実施例】
【0093】
【表5】
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【実施例】
【0094】
各溶液を30分間スターラーで撹拌後、溶液中の溶存酸素量を溶存酸素計により測定した。その測定結果と、固液比との関係を図5に示す。図5から明らかなように、高炉スラグ微粉末は固液比(即ち高炉スラグ微粉末濃度)の増加に伴い、溶存酸素量が減少していた。以上の結果から、高炉スラグ微粉末は還元剤として酸素消費能力が高く、また、他の種類の還元剤を使用した場合も、高炉スラグ微粉末と同様の酸素消費効果が期待できることが分かる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4