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Specification :(In Japanese)高靭性高耐熱モリブデンシリサイド合金

Country (In Japanese)日本国特許庁(JP)
Gazette (In Japanese)公開特許公報(A)
Publication number P2019-108573A
Date of publication of application Jul 4, 2019
Title of the invention, or title of the device (In Japanese)高靭性高耐熱モリブデンシリサイド合金
IPC (International Patent Classification) C22C  27/04        (2006.01)
C22B   9/02        (2006.01)
C30B  13/10        (2006.01)
FI (File Index) C22C 27/04 102
C22B 9/02
C30B 13/10
Number of claims or invention 16
Filing form OL
Total pages 17
Application Number P2017-241257
Date of filing Dec 16, 2017
Inventor, or creator of device (In Japanese)【氏名】乾 晴行
【氏名】岸田 恭輔
Applicant (In Japanese)【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
Representative (In Japanese)【識別番号】100147740、【弁理士】、【氏名又は名称】保坂 俊
Request for examination (In Japanese)未請求
Theme code 4G077
4K001
F-term 4G077AA07
4G077AA08
4G077BA10
4G077CD04
4G077CE03
4G077EB01
4G077HA20
4G077MB06
4K001AA17
4K001AA23
4K001BA23
4K001EA05
Abstract (In Japanese)【課題】、破壊靭性値等の高温特性の優れたMoSi2/Mo5Si3二相共晶合金を提供する。
【解決手段】本発明は、二珪化モリブデン合金(化学式MoSi2:以下、化学式で記載)および三珪化五モリブデン合金(化学式Mo5Si3:以下、化学式で記載)を含むモリブデンシリサイド合金において、前記合金中の固溶限が5原子(at.)%以上の不純物元素(グループ1元素(G1元素)と称する)および前記合金中の固溶限が2原子(at.)%以下の不純物元素(グループ2元素(G2元素)と称する)を添加元素として含み、前記モリブデンシリサイド合金はMoSi2およびMo5Si3の2相共晶合金であることを特徴とするモリブデンシリサイド合金である。
【選択図】図8
Scope of claims (In Japanese)【請求項1】
二珪化モリブデン合金(化学式MoSi2:以下、化学式で記載)および三珪化五モリブデン合金(化学式Mo5Si3:以下、化学式で記載)を含むモリブデンシリサイド合金において、前記合金中の固溶限が5原子(at.)%以上の不純物元素(グループ1元素(G1元素)と称する)および前記合金中の固溶限が2原子(at.)%以下の不純物元素(グループ2元素(G2元素)と称する)を添加元素として含む、モリブデンシリサイド合金。
【請求項2】
前記モリブデンシリサイド合金はMoSi2およびMo5Si3の2相共晶合金であることを特徴とする、請求項1に記載のモリブデンシリサイド合金。
【請求項3】
前記G1元素は、MoSi2とMo5Si3とのテラス部における格子ミスフィットを増大させる元素であり、前記格子ミスフィットはテラス部におけるMoSi2の(110)面間距離(d110)とMo5Si3の(002)面間距離(d002)との差であることを特徴とする、請求項1または2に記載のモリブデンシリサイド合金。
【請求項4】
前記G1元素は、Ta、NbおよびWから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1~3のいずれかの項に記載のモリブデンシリサイド合金。
【請求項5】
前記G2元素は、Ni、Co、BおよびCから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1~4のいずれかの項に記載のモリブデンシリサイド合金。
【請求項6】
前記G1元素の添加量は、4原子(at.)%~10原子(at.)%の範囲であることを特徴とする、請求項1~5のいずれかの項に記載のモリブデンシリサイド合金。
【請求項7】
前記G2元素の添加量は、0.01原子(at.)%~1.5原子(at.)%の範囲であることを特徴とする、請求項1~6のいずれかの項に記載のモリブデンシリサイド合金。
【請求項8】
前記G1元素およびG2元素を添加したモリブデンシリサイド合金は、一方向凝固装置を用いて、成長速度を制御して作製されることを特徴とする、請求項1~7のいずれかの項に記載のモリブデンシリサイド合金。
【請求項9】
前記一方向凝固装置は浮遊帯域溶融装置であることを特徴とする、請求項1~8のいずれかの項に記載のモリブデンシリサイド合金。
【請求項10】
前記成長速度は2mm/h以上であることを特徴とする、請求項8または9に記載のモリブデンシリサイド合金。
【請求項11】
2珪化モリブデン合金(化学式MoSi2:以下、化学式で記載)および3珪化5モリブデン合金(化学式Mo5Si3:以下、化学式で記載)を含むモリブデンシリサイド合金において、前記合金中の固溶限が5原子(at.)%以上の不純物元素(グループ1元素(G1元素)と称する)を添加元素として含むとともに、前記G1元素添加モリブデンシリサイド合金は成長速度が制御された状態で作製されたものであることを特徴とする、モリブデンシリサイド合金。
【請求項12】
前記一方向凝固装置は浮遊帯域溶融装置であり、前記成長速度は5mm/h以上であることを特徴とする、請求項11に記載のモリブデンシリサイド合金。
【請求項13】
前記モリブデンシリサイド合金はMoSi2およびMo5Si3の2相共晶合金であることを特徴とする、請求項11または12に記載のモリブデンシリサイド合金。
【請求項14】
前記G1元素は、MoSi2とMo5Si3との格子ミスフィットを増大させる元素であり、
前記格子ミスフィットはMoSi2の(110)面間距離(d110)とMo5Si3)の(002)面間距離(d002)との差であることを特徴とする、請求項11~13のいずれかの項に記載のモリブデンシリサイド合金。
【請求項15】
前記G1元素は、Ta、NbおよびWから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項11~14のいずれかの項に記載のモリブデンシリサイド合金。
【請求項16】
前記G1元素の添加量は、4原子(at.)%~10原子(at.)%の範囲であることを特徴とする、請求項11~15のいずれかの項に記載のモリブデンシリサイド合金。
Detailed description of the invention (In Japanese)【技術分野】
【0001】
本発明は、発電用タービン等の高温で使用する耐熱合金に関する。
【背景技術】
【0002】
2015年のパリ協定<フランスのパリで開催された国連気候変動枠組条約 第21回締約国会議(COP21)>ですべての国の温室効果ガス排出量の削減への取り組みが採択された。温室効果ガスの中で特に重要なものは二酸化炭素(CO2)であり、このCO2の総排出量をどのように大幅に削減するのかが喫緊の課題である。日本国内のCO2総排出量のうち約30%は発電プラントから発生し、そのうち約99%は火力発電が関与している。従って、火力発電からのCO2削減が最も有効と考えられる。最新型の火力発電システムはコンバインドサイクル型であり、ガスタービンを使って発電した後、その排熱を利用して作った蒸気により蒸気タービンを使って再度発電させるシステムである。現行はガスタービン材料にNi基超合金を用いて、約1500℃の高温で動作させ熱効率約52%を得ている。ガスタービンの入り口温度を上昇すれば、熱効率の増大も見込まれており、たとえば、約1700℃以上の耐熱性を実現できれば、熱効率が約60%以上になると予想される。この1700℃を越えるガスタービンならば、発電所からのCO2発生量は11~19%は削減可能と考えられており、これに耐える新規の超耐熱材料(合金)の実現が望まれている。
【0003】
そこで注目されている材料として、モリブデンダイシリサイド(2珪化モリブデンとも言う)(MoSi2)合金が挙げられる。MoSi2合金は優れた塑性変形能、高い融点(2020℃)、優れた耐酸化性を有しており、また軽量(Ni基超合金の密度約8g/cm3に対して、約6.2g/cm3)であり、戦略的元素を含まないという点で安価である。しかしながら、室温靭性が乏しく(約2MPam1/2)、クリープ強度が不十分である。本発明者はMoSi2相にMo5Si3相を加えたMoSi2/Mo5Si3合金に着目した。図19は、Mo-Si二元系合金の状態図である。MoSi2相は正方晶C11b構造で、Mo5Si3相は正方晶D8m構造である。この状態図は共晶系であり、1900℃という非常に高い共晶温度を持っている。
【0004】
図20は、このMoSi2/Mo5Si3二相共晶複相材料のクリープ特性を示す図である。MoSi2/Mo5Si3二相共晶複相材料は一方向凝固(DS:Directional Solidification)で作製したものである。縦軸のクリープ特性は1200℃で歪み速度が1×10-6/sとなる応力値である。他のMoSi2基複相材料(18at.%SiC、20at.%SiC、30at.%SiC、+WSi2)を比較として示す。粉末冶金法(PM:Powder Metallurgy)で作製したMoSi2/Mo5Si3合金および他のMoSi2基複相材料より優れたクリープ特性を示し、高温ガスタービン材料として使用可能である。(非特許文献1)
【0005】
図21は二元系MoSi2/Mo5Si3二相一方向凝固(DS)共晶合金のクリープ特性を示す図である。二元系MoSi2/Mo5Si3二相一方向凝固(DS)共晶合金は、組織が共晶組織(ラビリンス(スクリプトラメラとも言う))であるからラビリンス合金と記載しているが、その耐用温度はNi基超合金よりはるかに高く1400℃を達成する。(耐用温度は、137MPaでクリープ破断が2%塑性歪で生じるとして算出した。)このように、二元系MoSi2/Mo5Si3一方向凝固(DS)共晶合金はクリープ特性に関しては、現行のNi基超合金を越える高温材料として使用できる。
【先行技術文献】
【0006】

【非特許文献1】Mason et al., MRS Prc. Vol. 288, 1129—1134 (1993)
【非特許文献2】Niihara et al., J Mater Sci Lett, Vol. 1, 13—16 (1982)
【非特許文献3】Chicot and Lesage, Thin Solid Films, Vol. 283 151—157 (1996)
【非特許文献4】Matsunoshita et al., Science and Technology of Advanced Materials, Vol.17, No.1, 517—529 (2016)
【非特許文献5】Fujiwara et al., Intermetallics, Vol. 52 72—85 (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記説明したように、たとえば火力発電に使用される発電用ガスタービンの耐熱温度を上げて発電効率を向上させ発生するCO2を大幅に削減するには、発電用タービン材料として現在使用中のNi基超合金を越える耐熱材料が必要である。その有力候補としてMoSi2/Mo5Si3二相共晶合金が注目されている。このMoSi2/Mo5Si3二相共晶合金は良好なクリープ特性を示すが、破壊靭性値が乏しいという問題があり、発電機ガスタービン等に使用する高温材料として使用困難である。本発明はこの問題点を解決する手段と方法および実用的なMoSi2/Mo5Si3二相共晶合金を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、二元系MoSi2/Mo5Si3二相共晶合金に元素を複合添加し、それらの添加元素の相乗作用による固溶強化および微細化効果によって高靭性高耐熱性を実現したもので、具体的には以下の特徴を有する。
(1)本発明は、二珪化モリブデン合金(化学式MoSi2:以下、化学式で記載)および三珪化五モリブデン合金(化学式Mo5Si3:以下、化学式で記載)を含むモリブデンシリサイド合金において、前記合金中の固溶限が5原子(at.)%以上の不純物元素(グループ1元素(G1元素)と称する)および前記合金中の固溶限が2原子(at.)%以下の不純物元素(グループ2元素(G2元素)と称する)を添加元素として含み、前記モリブデンシリサイド合金はMoSi2およびMo5Si3の2相共晶合金であることを特徴とするモリブデンシリサイド合金である。
【0009】
(2)本発明は、(1)に加えて、前記G1元素は、MoSi2とMo5Si3とのテラス部における格子ミスフィットを増大させる元素であり、前記格子ミスフィットはテラス部におけるMoSi2の(110)面間距離(d110)とMo5Si3の(002)面間距離(d002)との差であり、前記G1元素は、Ta、NbおよびWから選択される少なくとも1種であり、前記G2元素は、Ni、Co、BおよびCから選択される少なくとも1種であり、前記G1元素の添加量は、4原子(at.)%~10原子(at.)%の範囲であり、前記G2元素の添加量は、0.01原子(at.)%~1.5原子(at.)%の範囲であることを特徴とする。さらに、本発明は、前記G1元素およびG2元素を添加したモリブデンシリサイド合金は、一方向凝固装置を用いて、成長速度を制御して作製され、前記成長速度は2mm/h以上であることを特徴とする。
【0010】
(3)本発明は、2珪化モリブデン合金(化学式MoSi2:以下、化学式で記載)および3珪化5モリブデン合金(化学式Mo5Si3:以下、化学式で記載)を含むモリブデンシリサイド合金において、前記合金中の固溶限が5原子(at.)%以上の不純物元素(グループ1元素(G1元素)と称する)を添加元素として含むとともに、前記G1元素添加モリブデンシリサイド合金は成長速度が制御された状態で作製されたものであり、前記一方向凝固装置は浮遊帯域溶融装置であり、前記成長速度は5mm/h以上であり、前記モリブデンシリサイド合金はMoSi2およびMo5Si3の2相共晶合金であることを特徴とする。
(4)本発明は、(3)に加えて、前記G1元素は、MoSi2とMo5Si3との格子ミスフィットを増大させる元素であり、前記格子ミスフィットはMoSi2の(110)面間距離(d110)とMo5Si3)の(002)面間距離(d002)との差であることを特徴とし、前記G1元素は、Ta、NbおよびWから選択される少なくとも1種であり、前記G1元素の添加量は、4原子(at.)%~10原子(at.)%の範囲であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、二元系MoSi2/Mo5Si3二相共晶合金にG1群元素およびG2群元素の元素を複合添加した耐熱合金であり、1900℃前後の共晶温度を持ち、クリープ強度も高い。G1元素添加だけの添加でも格子ミスフィットが増大し破壊靭性値は高くなるが、G2元素を一緒に添加することによって、さらに界面剥離傾向が増大するとともにMoSi2/Mo5Si3二相共晶組織が微細化も作用して、破壊靭性値がさらに高くなる。複合元素添加による固溶強化と微細化効果により降伏強度も大きく増大する。本発明の複合元素添加MoSi2/Mo5Si3二相共晶合金は、従来の耐熱用材料として使用されているNi基超合金の高温特性を大きく凌ぐ耐熱合金である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、MoSi2(二珪化モリブデン)およびMo5Si3(三珪化五モリブデン)の(二元系共晶)界面構造を示す図である。
【図2】図2は、テラス部における2種類のミスフィット構造を示す図である。
【図3】図3は、第3元素をMoSi2/Mo5Si3二相共晶合金へ添加した場合の格子ミスフィット率を示す図である。
【図4】図4は、MoSi2/Mo5Si3共晶組織(ラビリンス)界面におけるクラック進展挙動に及ぼす第3元素(MoおよびSi以外の元素)の効果を示す図である。
【図5】図5は無添加材(二元系MoSi2/Mo5Si3二相共晶合金)とTa7.5at.%添加材の破壊靭性値KIFRを示した図である。
【図6】図6は、MoSi2/Mo5Si3二相共晶合金へ第3元素としてG2群の元素であるNiを0.5at.%添加したもの(0.5at.%Ni添加材)のHAADF-STEM像(図6(a))および二相共晶組織(ラビリンス)界面におけるNi量のEDS分析データ(図6(b))を示す図である。
【図7】図7は、二元系MoSi2/Mo5Si3二相共晶合金{(a)}、二元系にCoを0.1at.%添加した0.1at.%Co添加材{(b)}、二元系にBを0.16at.%添加した0.16at.%B添加材{(c)}の3次元共晶組織を示す図である。
【図8】図8は、破壊靭性値に及ぼすG1群の元素とG2群の元素の複合元素添加による効果を示す図である。
【図9】図9は、破壊靭性値に及ぼすG1群の元素とG2群の元素の複合元素添加による効果について、3点曲げの評価結果を示す図である。
【図10】図10は、破壊靭性値とラメラ間隔との関係を示す図である。
【図11】図11は、MoSi2/Mo5Si3二相共晶(ラビリンス)界面剥離挙動を評価する異相界面の剥離指数KCAについての説明図である。
【図12】図12は、無添加材、G1属元素添加材および複合元素添加材について、剥離指数KCAとミスフィット率の関係を示す図である。
【図13】図13は、本発明の複合元素添加材による現象と効果を示す図(概念図)である。
【図14】図14は、本発明の複合元素添加MoSi2/Mo5Si3二相共晶合金の降伏応力の温度依存性を示す図である。
【図15】図15は、本発明の複合元素添加MoSi2/Mo5Si3二相共晶合金(7.5at.%Ta+0.02at.%B複合元素添加材)、無添加材(二元系MoSi2/Mo5Si3二相共晶合金)、G1属元素添加材(5at.%Ta添加材)および2at.%V添加材に関して降伏応力とラメラ厚みの関係を示す図である。
【図16】図16は、本発明の各種合金作製に用いる光学式浮遊帯域(FZ:Floating Zone)溶融装置を示す図である。
【図17】図17は、破壊靭性値(KIFR)の成長速度依存性を示す図である。
【図18】図18は、無添加材および7.5at.%Ta添加材について成長速度による共晶組織を示す図である。
【図19】図19は、Mo-Si二元系合金の状態図である。
【図20】図20は、このMoSi2/Mo5Si3二相共晶複相材料のクリープ特性を示す図である。
【図21】図21は、二元系MoSi2/Mo5Si3一方向凝固(DS)共晶合金のクリープ特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者は、二元系MoSi2/Mo5Si3共晶合金に特定の元素を添加すると高靭性および高温高強度を持つことを発見し、本発明に至ったものであり、現行の耐熱合金であるNi基超合金以上の高耐熱性を有する材料を提供するものである。

【0014】
図1は、MoSi2(二珪化モリブデン)およびMo5Si3(三珪化五モリブデン)の(二元系共晶)界面構造を示す図である。図1(a)は成長方向に対するインゴットの3次元共晶組織を模式的に示した図である。黒模様部分がMoSi2であり、白模様部分がMo5Si3である。成長方向は、MoSi2に関して[1-10]で、Mo5Si3に関して[001]である。MoSi2およびMo5Si3に関して成長方向に垂直な面および成長方向に平行な2面における結晶面は図1に記載の通りである。MoSi2に関して(110)面およびMo5Si3に関して(1-10)面側のMoSi2/Mo5Si3界面(界面I)の結晶配列を図1(b)および図1(c)に示す。図1(b)はHAADF-STEM(高角散乱環状暗視野走査透過電子顕微鏡)画像であり、図1(c)は図1(b)を元にしたMoSi2/Mo5Si3界面の原子配列モデルを示したものである。図1(b)および図1(c)の上側が成長方向である。MoSi2/Mo5Si3界面はレッジ(ledge)部とテラス(terrace)部から成り、レッジ部に比べテラス部が平坦でかなり長くなっていることが分かる。界面Iにおけるレッジ-テラス構造では、レッジ部における面はMoSi2に関して(110)面およびMo5Si3に関して(001)面であり、テラス部における面はMoSi2に関して(001)面およびMo5Si3に関して(110)面である。

【0015】
破壊強性値にはMoSi2/Mo5Si3界面が影響すると考えられるが、レッジ部(界面)よりテラス部(界面)がかなり長いので、テラス部に注目する。テラス部において、MoSi2とMo5Si3との格子面のミスフィット(格子面ズレ)を考えると2種類のミスフィットが存在する。すなわち図2に示すミスフィットAとミスフィットBである。図2はテラス部における2種類のミスフィット構造を示す図である。ミスフィットAはMoSi2の(110)面とそれと平行するMo5Si3の(330)面のミスフィットである。MoSi2の(110)面間距離をd110(in MoSi2)、Mo5Si3の(330)面間距離をd330(in Mo5Si3)とすれば、ミスフィットA{(d110(in MoSi2)-d330(in Mo5Si3))/(1/2)/(d110(in MoSi2)+d330(in Mo5Si3))}は約0.4%となる。ミスフィットBはMoSi2の(110)面とそれと平行するMo5Si3の(002)面のミスフィットである。MoSi2の(110)面間距離をd110(in MoSi2)、Mo5Si3の(002)面間距離をd002(in Mo5Si3)とすれば、ミスフィットB{(d110(in MoSi2)-d002(in Mo5Si3))/(1/2)/(d110(in MoSi2)+d002(in Mo5Si3))}は約7.8%となる。このことから、テラス部の界面に大きく影響を与えるのはミスフィットBである。

【0016】
格子面間距離に影響を与えるものは、MoSi2/Mo5Si3二相共晶組織へ比較的多く固溶する元素と考えられる。そこで、MoSi2/Mo5Si3二相共晶組織への固溶限が5原子(at.)%以上の元素を調査した所、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)等が挙げられる。図3はこれらの元素(第3元素)をMoSi2/Mo5Si3二相共晶合金へ添加してミスフィットBを調べたものである。すなわち、図3は格子ミスフィットの第3元素添加量の依存性を示す図である。Ta、Nb、Wは添加量を増やすにつれて格子ミスフィット率が増大するが、V、Crは添加量を増やすにつれて格子ミスフィット率が減少する。Tiは格子ミスフィット率の増減には余り影響を与えない。

【0017】
図4は、MoSi2/Mo5Si3二相共晶組織(ラビリンス)界面におけるクラック進展挙動に及ぼす第3元素(MoおよびSi以外の元素)の効果を示す図である。図4(a)はVを5原子(at.)%添加したもの、図4(c)はTaを5原子(at.)%添加したもの、および図4(b)は第3元素を添加しない二元系MoSi2/Mo5Si3二相共晶合金である。これら3種の合金板試料にビッカース圧痕圧入試験を行ない、組織観察を行ないクラック挙動を調べた。図4の黒模様部分がMoSi2で白模様部分がMo5Si3である。図4の上側が成長方向であり、MoSi2に関しては[1-10]で、Mo5Si3に関して[001]である。図4(b)に示す第3元素を添加しない二元系MoSi2/Mo5Si3二相共晶合金では、MoSi2/Mo5Si3二相共晶組織(ラビリンス)界面にもクラックが伝搬している部分も一部あるが、クラックが共晶組織全体を貫いている。図4(a)に示すV5%添加材ではMoSi2/Mo5Si3二相共晶組織(ラビリンス)界面を通るクラックは殆どなくなりクラックが組織全体を伝搬している。これに対して、図4(c)に示すTa5%添加材では、MoSi2/Mo5Si3二相共晶組織(ラビリンス)界面を伝搬(1つの界面から隣の界面に伝搬)しながらクラックが広がっている(クラック伝搬パスの蛇行促進)。図3で示したように、Ta添加は格子ミスフィットを増大させ(Ta5at.%添加で格子ミスフィット率約8.3)、一方、V添加は格子ミスフィットを減少させる(V5at.%添加で格子ミスフィット率約7.2)。すなわち、格子ミスフィットが増大すると界面凝集力が弱くなり界面剥離が多くなり(高頻度で発生)、一方、格子ミスフィットが減少すると界面凝集力が強くなり界面剥離が少なくなる(発生は低頻度)。この結果から、格子ミスフィットを増大させると、界面剥離傾向が増大し、クラックの蛇行傾向が増大して、破壊靭性値を向上できる可能性があることが分かる。

【0018】
図5は無添加材(二元系MoSi2/Mo5Si3二相共晶合金)とTaを7.5at.%添加した7.5添加材(二元系MoSi2/Mo5Si3二相共晶合金+Ta7.5at.%)の破壊靭性値KIFRを示した図である。成長速度は両者とも一定(50mm/h)である。(尚、試料の作製方法は後で示す(図16)。縦軸は破壊靭性値KIFRであり、インデンテーション(Identation)法により求めた。<測定条件: 9.8N,15秒、計算式:Niiharaの式(クラック形状(Palmqvistクラック)から選択)を用いる。(非特許文献2)>横軸はグラフ横に示すビッカース圧子方向である。図5に示すように、無添加材に比べてTa添加材は破壊靭性値がかなり向上することが分かる。以上のように、固溶限5at.%以上の第3元素添加で格子ミスフィット増大型元素(これをグループ1(G1)と呼ぶ)をMoSi2/Mo5Si3二相共晶合金に添加すると、界面剥離傾向が増大して、クラックの蛇行傾向が増大し、破壊靭性値を向上できる。ここで、上記したようにG1元素はたとえばTa、Nb、Wである。

【0019】
破壊靭性値をさらに向上するには、MoSi2/Mo5Si3二相共晶組織(ラビリンス)界面を制御する必要がある。そこで界面偏析する元素を検討し固溶限が小さな元素に着目した。すなわち、二元系MoSi2/Mo5Si3二相共晶組織への固溶限が2原子(at.)%以下の元素(これをグループ2(G2)と呼ぶ)は第3相析出傾向が大きく、微量添加による界面偏析制御が可能である。このG2に属する元素として、ほう素(B)、炭素(C)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、イリジウム(Ir)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、ランタン(La)等が挙げられる。

【0020】
図6はMoSi2/Mo5Si3二相共晶合金へ第3元素としてG2群の元素であるNiを0.5at.%添加したもの(0.5at.%Ni添加材)のHAADF-STEM像(図6(a))および二相共晶組織(ラビリンス)界面におけるNi量のEDS分析データ(図6(b))を示す図である。図6(a)において、レッジ部ではMoSi2に関して(1-10)面およびMo5Si3に関して(001)面が平行に面しており、テラス部ではMoSi2に関して(001)面およびMo5Si3に関して(110)面が平行に面している。図6(a)のHAADF-STEM像から分かるように、優先配向性が低下して、レッジ部およびテラス部の界面が湾曲している。特に第3元素の添加していない図2と比較すると明確に分かるように、テラス部で顕著であり、テラス部が短くなりレッジ密度が増加している(レッジ部の高密度化)。また界面密度がやや増加傾向にある。また、図6(b)から分かるように、二相共晶組織(ラビリンス)界面においてNiの偏析がかなり大きくなっており偏析が著しいことも実測で確認された。またレッジ部の方がテラス部よりも強く偏析しており、レッジ部とテラス部の相対的な安定度が変化している。これによりレッジ部およびテラス部で、優先配向性が低下しており界面が湾曲していると考えられる。尚、G2に属する他の元素も図6に示すものと同様の結果を示す。

【0021】
図7は、二元系MoSi2/Mo5Si3二相共晶合金{(a)}、二元系にCoを0.1at.%添加した0.1at.%Co添加材{(b)}、二元系にBを0.16at.%添加した0.16at.%B添加材{(c)}の3次元共晶組織を示す図である。図7において、黒模様部分はMoSi2であり、白模様部分はMo5Si3である。どれも成長方向は上方で成長速度は10mm/hであり、各面の結晶面はMoSi2およびMo5Si3とも同じである。図7(a)は図1(a)と同じ図であり、二元系MoSi2/Mo5Si3共晶合金では、界面Iが成長方向から約15度傾いて平坦に成長する。0.1at.%Co添加材および0.16at.%B添加材では、微量添加で組織が微細化し、界面Iが大きく湾曲している。G2に属する元素を添加した場合でも同様の組織変化が起こる。このようにG2群の元素を微量添加すると組織が微細化し、界面Iの湾曲が起こるが、界面剥離傾向は余りなく、破壊靭性値も二元系と余り変化はないが、組織微細化により高温強度は増加する。このことから、G1群の元素とG2群の元素を同時に添加する(G1元素とG2元素の複合元素添加材)と、両方の効果を持つと同時に、組織微細化効果によりG1元素添加材に比べて破壊靭性値はさらに向上することが予想される。

【0022】
図8は、破壊靭性値に及ぼすG1群の元素とG2群の元素の複合元素添加による効果を示す図である。G1群の元素としてTa(7.5at.%)を、G2群の元素としてNi(0.02at.%)、C(0.02at.%)およびB(0.02at.%)を添加している。比較のためにG1群元素{Ta(7.5at.%)}だけ添加したものと第3元素を何も添加していないもの(無添加材)も示す。成長速度は50mm/hと各試料とも同じである。(尚、図で棒グラフは中心値を示し、バーは範囲を示す。)横軸(E、F1、F2)は右図に示すビッカース圧子の方位を表す。図8から分かるように、無添加材に対して7.5at.%Ta添加材はどの方位においても破壊靭性値が高くなる。さらにG1群の元素とG2群の元素の複合元素添加材(7.5at.%Ta-0.02at.%Ni添加材、7.5at.%Ta-0.02at.%C添加材、7.5at.%Ta-0.02at.%B添加材)は、無添加材および7.5at.%Ta添加材に比較してすべての方位において破壊靭性値が大幅に上昇している。すなわち、G1群の元素とG2群の元素の複合元素添加によって、G1群の元素だけの添加材に比べても、破壊靭性値がかなり増大する。このように、破壊靭性値に及ぼす複合元素の効果は劇的である。

【0023】
図9は、破壊靭性値に及ぼすG1群の元素とG2群の元素の複合元素添加による効果について、3点曲げの評価結果を示す図である。試料として7.5at.%Ta-0.02at.%B複合元素添加材を用い、比較試料として無添加材を用いた。縦軸は破壊靭性値KICであるが、その計算方法は図9の下側に示している。また横軸は試験片方位であるが、それぞれの方位について図9の右側に示す。3点曲げによる破壊靭性値KICも、すべての方位において複合元素添加材は無添加材に比べて大きく向上している。

【0024】
図10は、破壊靭性値とラメラ間隔との関係を示す図である。ここでラメラ間隔λは共晶組織(MoSi2/Mo5Si3)の二つの相の(平均)厚さの和である。図10から破壊靭性値は平均ラメラ間隔の逆数に比例する。添加元素によらず、また添加元素の有無に拘わらず、ラメラ間隔が小さくなれば、言い換えると共晶組織が微細化すれば破壊靭性値が増大することが分かる。また、同じラメラ間隔であれば、Ta添加材の方が無添加材に比べて破壊靭性値は大きく、また複合元素添加材(Ta-Ni複合元素添加材、Ta—B複合元素添加材、Ta—C複合元素添加材)の方が無添加材およびTa添加材より破壊靭性値はかなり大きいことが分かる。図10は方位E(図8に示す)のデータから得たグラフであるが、他の方位(たとえば、図8に示すF1、F2)についても同様のグラフが得られる。このように、G1群元素から選択される少なくとも1種(または1つ以上)の元素とG2群元素から選択される少なくとも1種(または1つ以上)の元素を添加材としてMoSi2/Mo5Si3二相共晶合金へ付加すると、無添加材やG1群だけの元素添加材やG2群だけの添加材に比べて破壊靭性値は大きく増大する。

【0025】
図11は、MoSi2/Mo5Si3二相(ラビリンス)界面剥離挙動を評価する異相界面の剥離指数KCAについての説明図である。(非特許文献3)異相界面にビッカース圧子を様々な荷重Fで押し込み、界面亀裂の進展挙動から図11に示す式から剥離指数KCAを求める。界面剥離指数が小さければ界面剥離傾向は大きいと判断できる。

【0026】
図12は、無添加材、G1属元素添加材および複合元素添加材について、図11で示す方法による剥離指数KCAとミスフィット率の関係を示す図である。比較としてV添加材についても記載している。G1属元素の添加材では格子ミスフィットが増大すると界面剥離指数が小さくなるので、界面剥離傾向は増大することが分かる。さらに、複合元素添加材(Ta-Ni複合元素添加材、Ta—B複合元素添加材、Ta—C複合元素添加材)では、G1属元素の添加材に比べて、界面剥離傾向がさらに増大することが良く分かる。

【0027】
図13は、本発明の複合元素添加材による現象と効果を示す図(概念図)である。G1に属する元素(G1属元素)単独添加の場合、格子ミスフィットは増大し、界面剥離傾向が大きくなり、また界面密度もやや大きくなり、またクラック蛇行が発生し、この結果破壊靭性値は増大する。すなわち、G1属元素は格子ミスフィット増大型元素である。G2に属する元素(G2属元素)単独添加の場合、格子ミスフィットは殆ど変化がなく、界面剥離傾向も増大せず、クラックの蛇行も起こらない。すなわち、クラックは無添加材と同様に余り界面に影響されずに進行する。しかし、MoSi2/Mo5Si3二相共晶(ラビリンス)組織は微細化し界面密度は増大する。これに対して、G1属元素とG2属元素を複合して添加したもの(複合元素添加材)は格子ミスフィットをG1属単独添加以上に増大させ、界面剥離もG1属単独添加以上に増大する。MoSi2/Mo5Si3二相共晶(ラビリンス)組織は微細化するので、界面密度は増大する。この結果クラックの蛇行が頻繁に発生してクラックが進行し、破壊靭性値はG1属元素単独添加以上に増大する。G2属元素単独では破壊靭性値の向上は殆ど期待できないので、G1属元素にG2属元素を混ぜて添加しても破壊靭性値のさらなる向上は全く予想できないが、本発明の複合元素添加はこの予想が覆る極めて重要な発明と言える。本発明のG1属元素とG2属元素の複合元素添加による破壊靭性の大幅向上は、複合添加による界面特性制御が促進され、容易界面剥離の高密度化を助長し、さらに高密度レッジ部によるブリッジング効果によると考えられる。すなわち、容易界面剥離の高密度化と高密度レッジ部ブリッジング効果による相乗効果である。

【0028】
図14は、本発明の複合元素添加MoSi2/Mo5Si3二相共晶合金の降伏応力の温度依存性を示す図である。現在使用されているNi基礎超合金IN738LC、Ni基単結晶合金CMSX—4、Nbシリサイド基複相合金(GE合金、Nb—10Ti—17.5Si DS(一方向凝固)合金、Mo—Si—B合金(ULTMAT)を比較データとして示す。また、無添加材(二元系MoSi2/Mo5Si3二相共晶合金)およびG1属元素添加材(5at.%Ta添加材)の降伏応力データも示す。MoSi2/Mo5Si3二相共晶合金は、既存のこれらの高温耐熱合金に比べてはるかに高い高温強度を持っている。特に、本発明の複合元素(7.5at.%Ta+0.02at.%B)添加MoSi2/Mo5Si3二相共晶合金は、既存のこれらの高温耐熱合金はもちろん、無添加材(二元系MoSi2/Mo5Si3二相共晶合金)およびG1属元素添加材(5at.%Ta添加材)に比べても耐熱性が向上している。G1属元素添加材だけでも実用化可能であるが、複合元素(7.5at.%Ta+0.02at.%B)添加MoSi2/Mo5Si3二相共晶合金は、実用化に充分な耐熱合金と言える。

【0029】
図15は、本発明の複合元素添加MoSi2/Mo5Si3二相共晶合金(7.5at.%Ta+0.02at.%B複合元素添加材)、無添加材(二元系MoSi2/Mo5Si3二相共晶合金)、G1属元素添加材(5at.%Ta添加材)および2at.%V添加材に関して降伏応力とラメラ厚みの関係を示す図である。ラメラ厚み(Lamellar thickness)は二相のうちのMoSi2相の(平均)厚さである。ラメラ厚みのルートの逆数で横軸に示す。無添加材およびV添加材に関して、ラメラ厚さが小さくなるにつれて降伏応力は増大し、降伏応力とラメラ厚さ(のルートの逆数)とは線形関係にある。これに対してG1属元素添加材(5at.%Ta添加材)はこの線形関係から外れて、ラメラ厚さが同じであればG1属元素添加材(5at.%Ta添加材)の降伏応力は、無添加材より大きく高温強度が増大している。この理由は、固溶強化によるものと考えられる。さらに、本発明の複合元素添加材もこの線形関係から大きく外れて、ラメラ厚さが同じであれば複合元素添加材の降伏応力は大幅に増大している。この理由は、G1元素添加による固溶強化と組織微細化による微細化強化の相乗効果によるものと考えられる。また、組織微細化も組織全体が均質になっていることも降伏応力の増大に寄与していると考えられる。以上、図14および図15から明らかなように、本発明のG1元素とG2元素を複合して二元系MoSi2/Mo5Si3二相共晶合金に添加することによって、従来では予想ができないほどの高温高強度化を実現できる。

【0030】
本発明の複合元素添加材におけるG1元素及びG2元素の添加量の範囲を見積もる。G1元素については、元素の種類にもよるが、4at.%~10at.%の範囲が良い。固溶限が10at.%以下の場合はその固溶限が上限である。4at.%より少ない場合は、格子ミスフィット率が小さく、10at.%以上では第3相の析出が起こったり、二元系MoSi2/Mo5Si3二相共晶組織以外の組織構造になるからである。G1元素の中では同じ添加量ではTaが最もミスフィット率が高いので効果が大きい。G2元素については、元素の種類にもよるが、0.01at.%~1.5at.%の範囲が良い。固溶限が1.5at.%以下の場合はその固溶限が上限である。0.01at.%より少ない場合は微細化効果が小さくまた計量が困難という問題もある。また1.5at.%より大きい場合は析出等して微細化効果が限定的になるからである。尚、複数のG1元素を添加する場合もトータルで上記の値の範囲に納めるのが良く、また複数のG2元素を添加する場合もトータルで上記の値の範囲に納めるのが良い。尚、本発明の主体はMoSi2/Mo5Si3二相共晶組織であるが、合金全体がMoSi2/Mo5Si3二相共晶組織である必要はなく、主体がMoSi2/Mo5Si3二相共晶組織であっても良い。たとえば、MoとSiの組成比が共晶組成から多少ずれても良い。第3元素(G1元素やG2元素)を添加したときにその添加量によってMoSi2/Mo5Si3二相共晶組織となるMoとSiの組成比がずれていく。(第3元素は通常Moと一部置換する場合もある。)それだけでなく、MoSi2/Mo5Si3二相共晶組織以外の異相が生じる場合あるので、そのような異相が生じる場合も本発明の範囲に含まれる。

【0031】
本発明の各種合金作成に用いた装置を説明する。図16は、本発明の各種合金作製に用いた光学式浮遊帯域(FZ:Floating Zone)溶融装置である。棒状の母合金1を支持台に配置した種結晶4上に取り付け中空の透明石英管6内に通して、支持台、種結晶4および棒状の母合金1は回転しながら下方(図の⇒方向)へ一定速度で移動する。透明石英管6の外側にはハロゲンランプ5が配置された反射炉が備わっており、この反射炉の側面は楕円面反射鏡7となっており、その楕円面の一方の焦点に配置されたハロゲンランプ5からの光線(破線で示す)は楕円面反射鏡7で反射して他方の焦点に集光する。他方の焦点は透明石英管6内にあり、この他方の焦点を棒状の母合金1が通る。従って、棒状の母合金1の光が照射された部分は溶融し、溶融域2を形成する。この溶融域2が焦点(集光)位置から離れると冷却されて凝固する。すなわち、溶融域2を一定速度(Vmm/h)で移動させることにより、試料を一方向凝固させ、種結晶4の上に円柱状の結晶を育成することができる。本装置では坩堝等を使わずにまた浮かせた状態で結晶を育成するため、坩堝や外壁(ここでは石英)等からの不純物の混入がなく、清浄な結晶を育成することができる。また、試料の育成は石英管内で雰囲気(低圧、真空も可能)をコントロールして行なうことができる。さらに、結晶の成長速度は試料の移動速度Vmm/hであるから、結晶の成長速度を正確に制御できる。母材と種結晶を互いの回転が逆方向となるように回転させることで溶融域2を撹拌し、組成の均一化や固液界面の形状の制御も可能である。

【0032】
本発明で使用する試料は上記光学式浮遊帯域(FZ:Floating Zone)溶融装置で作製されるが、その前段の原料棒状試料(母合金)1は、高純度のMoとSi、および各種添加元素を所定の組成になるように秤量し、(たとえば、二元系合金においては、MoSi2およびMo5Si3の共晶組成になるようにMo(46at.%)およびSi(54at.%)で秤量し、第3元素添加材の場合は、第3元素添加量(at.%)の分だけMo量を減少させて秤量する)アークメルト法で溶解してMoSi2とMo5Si3相の二相から成るボタン状母合金を作製した後、複数個のボタンをさらにアークメルト法で棒状にして作製する。尚、原料棒状試料(母合金)の作製方法として他にも種々あり、たとえば粉末状の高純度のMoSi2およびMo5Si3に各種添加元素を混合して焼結して作製した原料棒状試料(母合金)を使用することも可能である。また、本発明で用いた一方向凝固装置は、図16に示した光学式浮遊帯域溶融装置であるが、本発明の第3元素添加材の作製には、溶融域に誘導加熱を用いた一方向凝固装置や、ブリッジマン装置(水平型、垂直型)その他の一方向凝固装置を使用することが可能である。さらに成長速度を制御し、かつ第3元素を均質に混合させることができる他の凝固装置も使用できる。

【0033】
図17は、破壊靭性値(KIFR)の成長速度依存性を示す図である。無添加材および7.5at.%Ta添加材について、成長速度を変化させて破壊靭性値(KIFR)を調査した。成長速度は3種類(10mm/h、50mm/h、200mm/h)選択した。また、ビッカース圧子の方向(E、F1、F2)については、下側の写真で示している。無添加材および7.5at.%Ta添加材とも成長速度を増加させることによって破壊靭性値(KIFR)が大幅に増大することが分かる。MoSi2単結晶では破壊靭性値(KIFR)は約2(MPam1/2)、Mo5Si3では破壊靭性値(KIFR)は約1.5(MPam1/2)であるから、特にG1添加材の成長速度200mm/hの破壊靭性値(KIFR)がいかに大きく増大しているかが分かる。

【0034】
図18は、無添加材および7.5at.%Ta添加材について成長速度による共晶組織を示す図である。これらの組織から分かるようにMoSi2/Mo5Si3二相共晶合金は特殊な共晶組織(スクリプトラメラ組織)を有する。図17に示した試料で、成長速度が10mm/hと200mm/hの2種類について共晶組織を観察した。両者とも成長速度が増大すると共晶組織が大きく微細化(たとえば、(平均)ラメラ間隔・厚さが減少いる)している。成長速度が50mm/hの場合は共晶組織の微細化はこれらの中間にある。また、無添加材に比較して7.5at.%Ta添加材の組織も微細化している。この結果から、破壊靭性値(KIFR)は組織の微細化と相関があることが分かる。複合元素添加材についても同様の結果が得られ、成長速度を増大させると図17に示すデータ以上に破壊靭性値(KIFR)をさらに向上させることができる。尚、成長速度を増大させるときには、添加材の撹拌等を均一にするために図16に示す凝固装置において棒状試料の回転速度を上げたりして成長条件を最適化することも重要であるが、基本的には成長速度を増大させることによって、G1元素添加材、G2元素添加材、および複合元素添加材について破壊靭性値(KIFR)や高温強度を高めることができる。そして、破壊靭性値(KIFR)や高温強度に関して最も向上するのは、複合元素添加材について成長速度を増大させることである。尚、成長速度については、G1元素添加材については、5mm/h以上であれば破壊靭性値は実用的なレベルであり、好適には、10mm/h~50mm/h以上、もっと好適には100mm/h~150mm/h以上、さらに好適には200mm/以上である。また複合元素添加材(G1元素+G2元素の複合元素添加材)については、もっと小さい成長速度で良く、たとえば2mm/h以上であれば破壊靭性値は実用的なレベルであり、好適には、5mm/h~10mm/h以上、もっと好適には50mm/h以上、さらに好適には100mm/h~150mm/h以上である。上記の値であれば、これまでの耐熱合金の高温強度以上の特性を有する材料を得ることができる。

【0035】
以上詳細に説明した様に、本発明はMoSi2/Mo5Si3二相共晶合金に元素を複合添加することによって、Ni基超耐熱合金等の従来の高温耐熱材料をはるかに超える高靭性耐熱合金を作製することができる。成長速度を最適化すればさらに良好な耐熱性を有する材料にもなり、この材料を発電用タービン材料として使用すれば、従来よりも高温運転が可能となるので、火力発電の発電効率が増して、排出するCO2削減にも寄与できる。尚、本明細書において、明細書のある部分に記載し説明した内容について記載しなかった他の部分においても矛盾なく適用できることに関しては、当該他の部分に当該内容を適用できることは言うまでもない。さらに、前記実施形態は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施でき、本発明の権利範囲が前記実施形態に限定されないことも言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、耐熱用材料として、発電用ガスタービン以外でもたとえば自動車エンジンや航空機用エンジンにも使用でき、エンジン効率を高めることができる。
Drawing
(In Japanese)【図1】
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(In Japanese)【図2】
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(In Japanese)【図3】
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(In Japanese)【図4】
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(In Japanese)【図5】
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(In Japanese)【図6】
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(In Japanese)【図7】
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(In Japanese)【図8】
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(In Japanese)【図9】
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(In Japanese)【図10】
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(In Japanese)【図11】
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(In Japanese)【図12】
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(In Japanese)【図13】
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(In Japanese)【図14】
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(In Japanese)【図15】
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(In Japanese)【図16】
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(In Japanese)【図17】
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(In Japanese)【図18】
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(In Japanese)【図19】
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(In Japanese)【図20】
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(In Japanese)【図21】
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