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明細書 :透明な溶融混練組成物及びその製造方法、並びに成形体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-119756 (P2019-119756A)
公開日 令和元年7月22日(2019.7.22)
発明の名称または考案の名称 透明な溶融混練組成物及びその製造方法、並びに成形体
国際特許分類 C08J   5/06        (2006.01)
C08L  69/00        (2006.01)
C08K   7/02        (2006.01)
C08L  97/02        (2006.01)
C08L   1/00        (2006.01)
C08B   3/06        (2006.01)
C08B   3/08        (2006.01)
C08B  11/02        (2006.01)
C08B  11/08        (2006.01)
C08B  11/155       (2006.01)
C08B  15/08        (2006.01)
FI C08J 5/06 CFD
C08L 69/00
C08K 7/02
C08L 97/02
C08L 1/00
C08B 3/06
C08B 3/08
C08B 11/02
C08B 11/08
C08B 11/155
C08B 15/08
請求項の数または発明の数 16
出願形態 OL
全頁数 29
出願番号 特願2017-253317 (P2017-253317)
出願日 平成29年12月28日(2017.12.28)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用申請有り (その1) 発行年月日 2017年7月1日 刊行物名 セルロース学会第24回年次大会 講演要旨集 発行者名 セルロース学会第24回年次大会運営委員会 (その2) 開催日 2017年7月13日から2017年7月14日 集会名 セルロース学会第24回年次大会 主催者 セルロース学会 (その3) 開催日 2017年9月14日から2017年9月15日 集会名 2017年度 日本木材学会 木質物性研究会・木材と水研究会合同シンポジウム 主催者 一般社団法人日本木材学会
発明者または考案者 【氏名】矢野 浩之
【氏名】中坪 文明
【氏名】三浦 彩
出願人 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4C090
4F072
4J002
Fターム 4C090AA08
4C090BA25
4C090BA26
4C090BA28
4C090BC09
4C090BC15
4C090BD11
4C090BD19
4C090CA36
4C090CA38
4C090CA39
4C090DA10
4C090DA32
4F072AB03
4F072AC02
4F072AC04
4F072AD41
4F072AG05
4F072AH03
4F072AH05
4F072AH12
4F072AH18
4F072AJ17
4F072AK04
4F072AK15
4F072AL01
4J002AB012
4J002AH002
4J002CG001
4J002FA042
要約 【課題】強度特性及び透明性に優れ、かつ、生産性に優れる、ポリカーボネートと化学修飾され、かつミクロフィブリル化されたセルロース系繊維(化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維)とを含有する組成物を提供すること。
【解決手段】(A)ポリカーボネート、及び(B)セルロース系繊維の一部の水酸基の水素原子が、一般式(1):Ra-CO-(式中、Raは炭素数1~4のアルキル基、又は電子供与性の置換基を有することもあるフェニル基を示す。)で表されるアシル基、又は、一般式(2):Rb-(式中、Rbは炭素数1~4のアルキル基、ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシプロピル基、シアノエチル基又はアリル基を示す。)で表される、置換基を有することもあるアルキル基で置換され、かつ、ミクロフィブリル化されたセルロース系繊維である、化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維、を含有する、透明な溶融混練組成物。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
(A)ポリカーボネート、及び
(B)セルロース系繊維の一部の水酸基の水素原子が、一般式(1):Ra-CO-(式中、Raは炭素数1~4のアルキル基、又は電子供与性の置換基を有することもあるフェニル基を示す。)で表されるアシル基、又は、一般式(2):Rb-(式中、Rbは炭素数1~4のアルキル基、ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシプロピル基、シアノエチル基又はアリル基を示す。)で表される、置換基を有することもあるアルキル基で置換され、かつ、ミクロフィブリル化されたセルロース系繊維である、化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維
を含有する、透明な溶融混練組成物。
【請求項2】
前記化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維が、セルロース系繊維の一部の水酸基の水素原子が前記一般式(1)で表されるアシル基で置換されたセルロース系繊維である、請求項1に記載の溶融混練組成物。
【請求項3】
前記アシル基が、アセチル基、ピバロイル基、ベンゾイル基、4-メトキシベンゾイル基、及び4-メチルベンゾイル基からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の溶融混練組成物。
【請求項4】
前記セルロース系繊維の一部の水酸基の水素原子の前記一般式(1)で表されるアシル基による置換が、前記一般式(1)で表されるアシル基を有するカルボン酸ビニルエステルによるアシル化によるものである、請求項1~3のいずれかに記載の溶融混練組成物。
【請求項5】
前記化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維が、セルロース系繊維の一部の水酸基の水素原子が前記一般式(2)で表される置換基を有することもあるアルキル基で置換されたセルロース系繊維である、請求項1に記載の溶融混練組成物。
【請求項6】
前記一般式(2)で表される置換基を有することもあるアルキル基が、メチル基、エチル基、ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシプロピル基、シアノエチル基及びアリル基からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は5に記載の溶融混練組成物。
【請求項7】
前記セルロース系繊維が木材由来のセルロース系繊維である、請求項1~6のいずれかに記載の溶融混練組成物。
【請求項8】
前記木材由来のセルロース系繊維が、木材由来のリグノセルロース繊維である、請求項7に記載の溶融混練組成物。
【請求項9】
前記セルロース系繊維が微生物由来のセルロース繊維である、請求項1~6のいずれかに記載の溶融混練組成物。
【請求項10】
前記一般式(1)で表されるアシル基、又は前記一般式(2)で表される置換基を有することもあるアルキル基によるセルロース系繊維の一部の水酸基の水素原子における置換度が、0.1~1.5である、請求項1~9のいずれかに記載の溶融混練組成物。
【請求項11】
前記ポリカーボネートが、芳香族ポリカーボネートである、請求項1~10のいずれかに記載の溶融混練組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載の溶融混練組成物からなる透明な成形体。
【請求項13】
(A)ポリカーボネート、及び
(B)セルロース系繊維の一部の水酸基の水素原子が、一般式(1):Ra-CO-(式中、Raは炭素数1~4のアルキル基、又は電子供与性の置換基を有することもあるフェニル基を示す。)で表されるアシル基、又は、一般式(2):Rb-(式中、Rbは炭素数1~4のアルキル基、ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシプロピル基、シアノエチル基又はアリル基を示す。)で表される、置換基を有することもあるアルキル基で置換され、かつ、ミクロフィブリル化されたセルロース系繊維である、化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維
を含有する、透明な溶融混練組成物の製造方法であって、
(1)ミクロフィブリル化されたセルロース系繊維の水酸基の一部を前記一般式(1)で表されるアシル基でアシル化するか、又は、前記一般式(2)で表される置換基を有することもあるアルキル基でエーテル化する第一工程、及び、
(2)第一工程で得られたミクロフィブリル化され、且つ、セルロース系繊維の一部の水酸基がアシル化又はエーテル化されたセルロース系繊維とポリカーボネートとを、溶融混練する第二工程
を含む、方法。
【請求項14】
(A)ポリカーボネート、及び
(B)セルロース系繊維の一部の水酸基の水素原子が、一般式(1):Ra-CO-(式中、Raは炭素数1~4のアルキル基、又は電子供与性の置換基を有することもあるフェニル基を示す。)で表されるアシル基、又は、一般式(2):Rb-(式中、Rbは炭素数1~4のアルキル基、ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシプロピル基、シアノエチル基又はアリル基を示す。)で表される、置換基を有することもあるアルキル基で置換され、かつ、ミクロフィブリル化されたセルロース系繊維である、化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維
を含有する、透明な溶融混練組成物の製造方法であって、
(1)セルロース系繊維の水酸基の一部を前記一般式(1)で表されるアシル基でアシル化するか、又は、前記一般式(2)で表される置換基を有することもあるアルキル基でエーテル化する第一工程、及び、
(2)第一工程で得られたセルロース系繊維の一部の水酸基がアシル化又はエーテル化されたセルロース系繊維とポリカーボネートとを溶融混練し、溶融混練と同時に溶融混練物中において、前記第一工程で得られたセルロース系繊維の一部の水酸基がアシル化又はエーテル化されたセルロース系繊維をミクロフィブリル化する第二工程
を含む、方法。
【請求項15】
(A)ポリカーボネート、及び
(B)セルロース系繊維の一部の水酸基の水素原子が、一般式(1):Ra-CO-(式中、Raは炭素数1~4のアルキル基、又は電子供与性の置換基を有することもあるフェニル基を示す。)で表されるアシル基で置換され、かつ、ミクロフィブリル化されたセルロース系繊維である、化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維
を含有する、透明な溶融混練組成物の製造方法であって、
(1)ミクロフィブリル化されたセルロース系繊維の一部の水酸基を、一般式(1):Ra-CO-(式中、Raは前記と同じ。)で表されるアシル基を有するカルボン酸ビニルエステルでアシル化する第一工程、及び
(2)第一工程で得られたミクロフィブリル化され、かつ、セルロース系繊維の一部の水酸基がアシル化されたセルロース系繊維とポリカーボネートとを、溶融混練する第二工程
を含む、方法。
【請求項16】
(A)ポリカーボネート、及び
(B)セルロース系繊維の一部の水酸基の水素原子が、一般式(1):Ra-CO-(式中、Raは炭素数1~4のアルキル基、又は電子供与性の置換基を有することもあるフェニル基を示す。)で表されるアシル基で置換され、かつ、ミクロフィブリル化されたセルロース系繊維である、化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維
を含有する、透明な溶融混練組成物の製造方法であって、
(1) セルロース系繊維の一部の水酸基を、一般式(1):Ra-CO-(式中、Raは前記と同じ。)で表されるアシル基を有するカルボン酸ビニルエステルでアシル化する第一工程、及び
(2)第一工程で得られたセルロース系繊維の一部の水酸基がアシル化されたセルロース系繊維とポリカーボネートとを溶融混練し、溶融混練と同時に溶融混練物中において、前記第一工程で得られたセルロース系繊維の一部の水酸基がアシル化されたセルロース系繊維をミクロフィブリル化する第二工程
を含む、方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、透明な溶融混練組成物及びその製造方法、並びに成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ミクロフィブリル化セルロース繊維(本明細書では、「セルロースナノファイバー」又は「CNF」と記載することもある)は、植物繊維又は製紙用パルプをミクロ又はナノレベルの太さまで解繊したもので、軽量で高強度である。
【0003】
一方、ポリカーボネート(本明細書中で、「PC」と記載することもある)は、機械的強度に優れ、かつ透明性を有するエンジニアリングプラスチックであることから、透明性が要求される物品、例えば、ヘッドライトカバー、バックライトカバー、ウインカライトカバーなどの自動車部品、航空機の窓、CDなどの各種ディスク、電気又は電子機器のハウジングなどに用いられている。しかしながら、ポリカーボネートは、引張強度を超える力をかけると、白化して透明度が著しく低下するという欠点を有することから、ポリカーボネートを含み、透明で、機械強度の改善された材料が求められる。
【0004】
このようなことから、ミクロフィブリル化セルロース繊維とポリカーボネートとを複合化した複合体(ミクロフィブリル化セルロース繊維とポリカーボネートとを含有する組成物)を作成する多様な試みが行われている(例えば、特許文献1~6)。
【0005】
特許文献1には、ミクロフィブリル化セルロース繊維、バインダ樹脂及びマトリクス樹脂からなる複合体が開示され、ポリカーボネート樹脂がマトリクス樹脂の一つとして使用されている。しかしながら、この繊維強化複合材料は、セルロース繊維をバインダ樹脂に内包した組成物を調製したのちに、この組成物とマトリクス樹脂(ポリカーボネート樹脂)とを混合して作製させたもので、セルロース繊維とポリカーボネート樹脂との溶融混練物ではない。
【0006】
特許文献2には、微細セルロース繊維層とポリカーボネート樹脂層とを積層し加熱融着して得られるポリカーボネート樹脂-セルロース繊維積層体が開示されている。セルロース繊維として化学修飾されたセルロースも使用できることが記載されている。
【0007】
特許文献3には、化学修飾又は非修飾CNFの不織布に特定の脂環式ポリカーボネートの溶液又溶融物を含浸させて得られる、透明な複合体が開示されている。
【0008】
特許文献4には、予め分散液中に分散しておいた繊維状フィラーを熱可塑性樹脂溶液に混入してから溶媒を除去、乾燥することにより得られる透明な光学フィルムが開示されている。また、引用文献4には、繊維状フィラーとしてCNFが、そして熱可塑性樹脂の一例としてポリカーボネートが記載されている。
【0009】
特許文献5には、透明化度と強度との両立を可能にするために、セルロースナノファイバー(CNF)の屈折率との差(絶対値)が0.02以下の屈折率の樹脂とCNFとを含有する樹脂組成物が開示されている。また、引用文献5には、使用される樹脂の一例としてポリカーボネートが記載されている。
【0010】
特許文献6には、水酸基がエステル化又はエーテル化されたCNFと樹脂とを含有する、透明な樹脂組成物が開示されている。また、引用文献6には、使用される樹脂の一例としてポリカーボネートが記載されている。
【0011】
さて、繊維を含有する樹脂複合体は、樹脂の溶融温度近辺で押出機中において繊維と溶融された樹脂とを混練して(すなわち溶融混練法で)製造するのが、生産性の点から有利である。
【0012】
しかしながら、上記の特許文献1~6は、いずれも、溶融混練法により得られる透明なPC複合体も、溶融混練法により透明な複合体を製造できることも開示していない。むしろ、特許文献3には、「セルロースを脂環式ポリカーボネートに溶融混練した複合材料では、透明性が低く、熱膨張係数が高くなる」と記載されている(特許文献3の段落[0217])。
【0013】
以下の特許文献7~9には、CNFとポリカーボネートとの複合体を溶融混練法により作製できることが記載されている。
【0014】
具体的には、特許文献7には、引張強度に優れた脂肪族ポリカーボネート樹脂組成物を提供することを目的として、脂肪族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、繊維径10nm~500μmでアスペクト比が20~10,000のセルロース繊維を0.1~50質量部の割合で含有する脂肪族ポリカーボネート樹脂組成物が開示されている。また、特許文献7には、樹脂組成物の製造方法として脂肪族ポリカーボネート樹脂とセルロース繊維とを溶融混練する方法が用いられると記載されている。しかしながら、特許文献7には、脂肪族ポリカーボネート樹脂組成物が透明であること、及び開示の方法で得られた組成物の光透過性(透明性)については記載されていない。
【0015】
特許文献8には、酸化微細繊維のアミド(酸化CNFアミド)と、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂及びポリカーボネート系樹脂からなる群から選択される1種以上の樹脂とを含有する樹脂組成物が開示されている。特許文献8には、樹脂組成物を、酸化CNFのアミドと樹脂とを溶融混練して製造できることが記載されているが、得られるポリカーボネート複合体が透明であるとの記載はない。
【0016】
また、特許文献9には、芳香族ポリカーボネート樹脂、エステル系添加剤及び充填剤の1つとしてのセルロースナノファイバー(CNF)を含む成形用樹脂組成物が開示され、これら3成分の溶融混練による製造方法が開示されている。しかしながら、特許文献9には、この成形用樹脂組成物が透明であるとの記載はない。
【0017】
このように、特許文献7~9には、CNFとポリカーボネートとの複合体を溶融混練法により作製できることが記載されているが、製造された溶融物が透明であるとの記載はない。
【先行技術文献】
【0018】

【特許文献1】特開2008-127540号公報
【特許文献2】特開2010-23275号公報
【特許文献3】特開2009-167296号公報
【特許文献4】特開2011-68709号公報
【特許文献5】特開2012-167202号公報
【特許文献6】特開2011-184816号公報
【特許文献7】特開2014-1263号公報
【特許文献8】特開2014-34616号公報
【特許文献9】特開2014-156507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、強度特性及び透明性に優れ、かつ、生産性に優れる、ポリカーボネートと、化学修飾され、かつミクロフィブリル化されたセルロース系繊維(化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維)とを含有する組成物、その製造方法、並びに成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らが鋭意検討した結果、特定の置換基で化学修飾された化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維を用い、ポリカーボネートと溶融混練して組成物を製造することにより、上記課題を解決できることを見出した。本発明は、このような知見に基づき、完成されたものである。
【0021】
本発明は、以下の透明な溶融混練組成物、製造方法、及び成形体に係る。
項1.
(A)ポリカーボネート、及び
(B)セルロース系繊維の一部の水酸基の水素原子が、一般式(1):Ra-CO-(式中、Raは炭素数1~4のアルキル基、又は電子供与性の置換基を有することもあるフェニル基を示す。)で表されるアシル基、又は、一般式(2):Rb-(式中、Rbは炭素数1~4のアルキル基、ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシプロピル基、シアノエチル基又はアリル基を示す。)で表される、置換基を有することもあるアルキル基で置換され、かつ、ミクロフィブリル化されたセルロース系繊維である、化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維
を含有する、透明な溶融混練組成物。
項2.
前記化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維が、セルロース系繊維の一部の水酸基の水素原子が前記一般式(1)で表されるアシル基で置換されたセルロース系繊維である、上記項1に記載の溶融混練組成物。
項3.
前記アシル基が、アセチル基、ピバロイル基、ベンゾイル基、4-メトキシベンゾイル基、及び4-メチルベンゾイル基からなる群から選ばれる少なくとも1種である、上記項1又は2に記載の溶融混練組成物。
項4.
前記セルロース系繊維の一部の水酸基の水素原子の前記一般式(1)で表されるアシル基による置換が、前記一般式(1)で表されるアシル基を有するカルボン酸ビニルエステルによるアシル化によるものである、上記項1~3のいずれかに記載の溶融混練組成物。
項5.
前記化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維が、セルロース系繊維の一部の水酸基の水素原子が前記一般式(2)で表される置換基を有することもあるアルキル基で置換されたセルロース系繊維である、上記項1に記載の溶融混練組成物。
項6.
前記一般式(2)で表される置換基を有することもあるアルキル基が、メチル基、エチル基、ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシプロピル基、シアノエチル基及びアリル基からなる群から選ばれる少なくとも1種である、上記項1又は5に記載の溶融混練組成物。
項7.
前記セルロース系繊維が木材由来のセルロース系繊維である、上記項1~6のいずれかに記載の溶融混練組成物。
項8.
前記木材由来のセルロース系繊維が、木材由来のリグノセルロース繊維である、上記項7に記載の溶融混練組成物。
項9.
前記セルロース系繊維が微生物由来のセルロース繊維である、上記項1~6のいずれかに記載の溶融混練組成物。
項10.
前記一般式(1)で表されるアシル基、又は前記一般式(2)で表される置換基を有することもあるアルキル基によるセルロース系繊維の一部の水酸基の水素原子における置換度が、0.1~1.5である、上記項1~9のいずれかに記載の溶融混練組成物。
項11.
前記ポリカーボネートが、芳香族ポリカーボネートである、上記項1~10のいずれかに記載の溶融混練組成物。
項12.
上記項1~11のいずれかに記載の溶融混練組成物からなる透明な成形体。
項13.
(A)ポリカーボネート、及び
(B)セルロース系繊維の一部の水酸基の水素原子が、一般式(1):Ra-CO-(式中、Raは炭素数1~4のアルキル基、又は電子供与性の置換基を有することもあるフェニル基を示す。)で表されるアシル基、又は、一般式(2):Rb-(式中、Rbは炭素数1~4のアルキル基、ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシプロピル基、シアノエチル基又はアリル基を示す。)で表される、置換基を有することもあるアルキル基で置換され、かつ、ミクロフィブリル化されたセルロース系繊維である、化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維
を含有する、透明な溶融混練組成物の製造方法であって、
(1)ミクロフィブリル化されたセルロース系繊維の水酸基の一部を前記一般式(1)で表されるアシル基でアシル化するか、又は、前記一般式(2)で表される置換基を有することもあるアルキル基でエーテル化する第一工程、及び、
(2)第一工程で得られたミクロフィブリル化され、且つ、セルロース系繊維の一部の水酸基がアシル化又はエーテル化されたセルロース系繊維とポリカーボネートとを、溶融混練する第二工程
を含む、方法。
項14.
(A)ポリカーボネート、及び
(B)セルロース系繊維の一部の水酸基の水素原子が、一般式(1):Ra-CO-(式中、Raは炭素数1~4のアルキル基、又は電子供与性の置換基を有することもあるフェニル基を示す。)で表されるアシル基、又は、一般式(2):Rb-(式中、Rbは炭素数1~4のアルキル基、ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシプロピル基、シアノエチル基又はアリル基を示す。)で表される、置換基を有することもあるアルキル基で置換され、かつ、ミクロフィブリル化されたセルロース系繊維である、化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維
を含有する、透明な溶融混練組成物の製造方法であって、
(1)セルロース系繊維の水酸基の一部を前記一般式(1)で表されるアシル基でアシル化するか、又は、前記一般式(2)で表される置換基を有することもあるアルキル基でエーテル化する第一工程、及び、
(2)第一工程で得られたセルロース系繊維の一部の水酸基がアシル化又はエーテル化されたセルロース系繊維とポリカーボネートとを溶融混練し、溶融混練と同時に溶融混練物中において、前記第一工程で得られたセルロース系繊維の一部の水酸基がアシル化又はエーテル化されたセルロース系繊維をミクロフィブリル化する第二工程
を含む、方法。
項15.
(A)ポリカーボネート、及び
(B)セルロース系繊維の一部の水酸基の水素原子が、一般式(1):Ra-CO-(式中、Raは炭素数1~4のアルキル基、又は電子供与性の置換基を有することもあるフェニル基を示す。)で表されるアシル基で置換され、かつ、ミクロフィブリル化されたセルロース系繊維である、化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維
を含有する、透明な溶融混練組成物の製造方法であって、
(1)ミクロフィブリル化されたセルロース系繊維の一部の水酸基を、一般式(1):Ra-CO-(式中、Raは前記と同じ。)で表されるアシル基を有するカルボン酸ビニルエステルでアシル化する第一工程、及び
(2)第一工程で得られたミクロフィブリル化され、かつ、セルロース系繊維の一部の水酸基がアシル化されたセルロース系繊維とポリカーボネートとを、溶融混練する第二工程
を含む、方法。
項16.
(A)ポリカーボネート、及び
(B)セルロース系繊維の一部の水酸基の水素原子が、一般式(1):Ra-CO-(式中、Raは炭素数1~4のアルキル基、又は電子供与性の置換基を有することもあるフェニル基を示す。)で表されるアシル基で置換され、かつ、ミクロフィブリル化されたセルロース系繊維である、化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維
を含有する、透明な溶融混練組成物の製造方法であって、
(1) セルロース系繊維の一部の水酸基を、一般式(1):Ra-CO-(式中、Raは前記と同じ。)で表されるアシル基を有するカルボン酸ビニルエステルでアシル化する第一工程、及び
(2)第一工程で得られたセルロース系繊維の一部の水酸基がアシル化されたセルロース系繊維とポリカーボネートとを溶融混練し、溶融混練と同時に溶融混練物中において、前記第一工程で得られたセルロース系繊維の一部の水酸基がアシル化されたセルロース系繊維をミクロフィブリル化する第二工程
を含む、方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明の溶融混練組成物に含有される、特定の化学修飾基で修飾された化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維は、良好な熱安定性を有し、かつ化学修飾基が疎水性であって、ポリカーボネートと親和性が高いことから、ポリカーボネートと溶融混練した時に熱分解が少なく、またポリカーボネートと容易に混和して、溶融混練組成物中に均一に微細状態で分散することができる。その結果、本発明の溶融混練組成物は、透明性が高く、該組成物からなる成形体も高い透明性を有し、機械強度に優れる。
【0023】
また、本発明の組成物は、溶融混練法により製造されるので、高速で大量に製造することが可能で、生産性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】製造例1-4で製造した化学修飾セルロース系パルプを加熱したときにその5%の重量が減少する温度(5%WLT)と化学修飾程度(DS)との関係を示す図である。
【図2】試験例4において測定した各組成物の全光線透過率の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
1.用語及び略語の説明
本明細書において使用する以下の用語は、それぞれ次の意味を有する。

【0026】
セルロース系繊維は、植物由来のセルロース及び/又はリグノセルロースを含有する繊維、並びに微生物が産生するセルロース繊維を意味する。

【0027】
リグノセルロースは、樹木細胞壁を構成する複合炭化水素高分子(天然高分子混合物)であり、主に多糖類のセルロース、ヘミセルロース及び芳香族高分子であるリグニンから構成されていることが知られている。本発明では、リグニン含有量の多少にかかわらず植物中に存在するリグニンとセルロースとが結合した物質、及び/又はリグニンとセルロースとの混合物を意味する。

【0028】
パルプは、木材、竹、稲わら、綿花等の植物全体若しくは植物の部分から植物由来のセルロース系繊維を分離したものであって、セルロース、ヘミセルロース及び/又はリグノセルロースを含む繊維集合体(植物由来パルプ)、及び、微生物が産生するセルロースと微生物の菌体との混合物中から分離された、微生物由来のセルロース繊維集合体(微生物由来パルプ)を意味する。

【0029】
リグノパルプは、リグノセルロースを含むパルプを意味する。

【0030】
化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維とは、化学修飾され、かつミクロフィブリル化されたセルロース系繊維を意味する。ここで、「化学修飾」は、セルロース系繊維を構成する糖鎖の水酸基の水素原子の代わりに置換基(化学修飾基)が導入されている(水酸基が化学修飾されている)ことを意味する。

【0031】
本明細書において、ミクロフィブリル化とは、それぞれの繊維の直径が全てナノオーダーになるという意味ではなく、繊維の直径がナノオーダーになるか、又は繊維の内部若しくは表面に存在する繊維がナノオーダーになることを意味する。したがって、繊維の直径がナノオーダーに解繊された繊維、繊維の最も太い部分の直径がナノオーダー以上(例えば数μm)であってもその表面がナノオーダーまで解繊されている繊維、及び、これら繊維が混在した繊維もミクロフィブリル化繊維と解釈する。

【0032】
複合体は、マトリクスとマトリクス以外のものとを含む組成物を意味する。マトリクスとして樹脂を用い、それ以外のものに繊維を用いた場合には、樹脂-繊維複合体といい、樹脂複合体又は繊維複合体ということもある。そして、繊維に具体的な繊維名称を用い、樹脂に具体的なポリマー名(樹脂名称)を用いて表記することもある。したがって、マトリクスとしてのポリカーボネート、及び化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維を含む組成物は、ポリカーボネート-化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維複合体と表記し、単にポリカーボネート複合体又は化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維複合体と表記することもある。そして、本発明組成物の製造において、ポリカーボネートと化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維又は化学修飾セルロース系繊維(化学修飾パルプ)とを混練処理又は混合処理することを「複合化」ともいう。

【0033】
本明細書で使用される下記の略称は、次の意味に用いられる。
Acl:アシル基、
Alkyl:アルキル基
Ac:アセチル基
Bz:ベンゾイル基
LP:リグノパルプ
AcP:アセチル化パルプ
AcPF:アセチル化植物繊維
MFC:ミクロフィブリル化セルロース系繊維
AcylMFC:セルロース系繊維の一部の水酸基の水素原子がアシル化され、かつ、ミクロフィブリル化された繊維
AlkylMFC:セルロース系繊維の一部の水酸基の水素原子が、置換基を有することもあるアルキル基でアルキル化され、かつ、ミクロフィブリル化された繊維

【0034】
2.溶融混練組成物
本発明は、
(A)ポリカーボネート、及び
(B)セルロース系繊維の一部の水酸基の水素原子が、一般式(1):Ra-CO-(式中、Raは炭素数1~4のアルキル基、又は電子供与性の置換基を有することもあるフェニル基を示す。)で表されるアシル基(以下、「アシル基(1)」という場合もある)、又は、一般式(2):Rb-(式中、Rbは炭素数1~4のアルキル基、ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシプロピル基、シアノエチル基又はアリル基を示す。)で表される、置換基を有することもあるアルキル基(以下、「置換基を有することもあるアルキル基(2)」という場合もある)で置換され、かつ、ミクロフィブリル化されたセルロース系繊維(以下、単に「化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維」又は「化学修飾MFC」という場合もある)
を含有する、透明な溶融混練組成物である。

【0035】
(A)ポリカーボネート
ポリカーボネートは、ジオール水酸基と炭酸とのエステル構造を繰り返し単位とするポリエステル構造のポリマーであって、モノマー単位(ポリマー繰り返し単位)同士の接合部が、すべてカーボネート基 (-O-(C=O)-O-)で構成されるポリマーである。

【0036】
本願明細書では、ポリマー繰り返し単位中に少なくとも芳香環を有するものを芳香族ポリカーボネートと呼び、ポリマー繰り返し単位が脂肪族ジオール及び/又は脂環式ジオールの炭酸エステルで形成されているものを脂肪族ポリカーボネートと呼ぶ。

【0037】
芳香族ポリカーボネートとしては、ビスフェノール類(例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールC、ビスフェノールE、ビスフェノールF、ビスフェノールM、ビスフェノールP、ビスフェノールS、ビスフェノールZ等)のポリ炭酸エステル、これらとビスアルキルカーボネート、ビスアリールカーボネート等の共重合体が挙げられる。

【0038】
脂肪族ポリカーボネート系樹脂としては、脂肪族ジオール成分及び/又は脂環式ジオール(シクロヘキサンジメタノール、イソソルビド等)成分と、ビスアルキルカーボネート等の炭酸エステル類との反応により製造される共重合体が挙げられる。

【0039】
ポリカーボネートのうち、芳香族ポリカーボネートは、強度特性に優れるので本発明で好適に使用することができる。そのうちでも、ビスフェノールAの炭酸エステルを繰り返し単位とする芳香族ポリカーボネートが、強度特性と光透過性に優れるので、好ましい。このような芳香族ポリカーボネートは、例えば、ユーピロン(登録商標)(Iupilon(登録商標))の商品名で市販されている。

【0040】
脂肪族ポリカーボネートのうちでは、イソソルビドを主原料とするポリカーボネートが、高い耐衝撃性、透明性に優れていることから、好ましく使用することができる。このような脂肪族ポリカーボネートは、例えば、デュラビオ(登録商標)(DURABIO(登録商標))の商品名で市販されている。

【0041】
(B)化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維
本発明の組成物に含まれる化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維は、セルロース系繊維の一部の水酸基の水素原子が、アシル基(1)、又は置換基を有することもあるアルキル基(2)で置換され、かつ、ミクロフィブリル化されたセルロース系繊維である。

【0042】
化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維の原料であるセルロース系繊維として、植物由来のセルロース系繊維、及び、微生物由来のセルロース系繊維を使用することができる。

【0043】
植物由来セルロース系繊維の原料として、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、綿、ビート、農産物残廃物、古紙、編織布等が挙げられる。これらの中で、容易に入手可能なことから、木材由来のセルロース系繊維が、好ましく使用される。

【0044】
木材由来のセルロース系繊維には、リグニンを含まないもの、及びリグニンを含むもの(即ち、リグノセルロース繊維)が含まれ、いずれも使用することができる。製造コストの点からは、リグノセルロース繊維が好ましい。

【0045】
植物由来セルロース系繊維の原料となる木材としては、例えば、シトカスプルース、マツ(トドマツ、アカマツ等)、スギ、ヒノキ等の針葉樹、ユーカリ、アカシア等の広葉樹由来の木材が好ましい。これらから得られる植物由来パルプが、化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維の製造に好ましく用いられる。

【0046】
植物由来パルプは、植物性原料を、機械パルプ化法、化学パルプ化法、機械パルプ化法と化学パルプ化法との組み合わせ等の方法により処理することにより得ることができる。このようなパルプとしては、クラフトパルプ、機械パルプ(MP)等が挙げられる。クラフトパルプとして、針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹酸素晒し未漂白クラフトパルプ(NOKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)等が挙げられる。機械パルプとして、砕木パルプ(GP)、リファイナーGP(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等が挙げられる。また、パルプとして、脱墨古紙、段ボール古紙、雑誌、コピー用紙等を使用することも可能である。パルプは1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。

【0047】
植物由来パルプは、リグノセルロースを含み、主にセルロース、ヘミセルロース、及びリグニンから構成される。本明細書では、リグニンが完全には除去されずにパルプ中にリグニンが少量でも存在するパルプをリグノパルプと称するので、上記の各種パルプ化法で処理して得られ、パルプ中にたとえ少量でも検出し得るリグニンを含むものは、リグノパルプに含まれる。

【0048】
リグノパルプは、原料からの収率が大きいこと、工程数が少ないこと及び処理薬剤が少ないことから、本発明において有利に使用することができる。含有されるリグニン量は、クラーソン法で定量することができる。

【0049】
本発明では、植物由来パルプに対して、予めリファイナー若しくはビーター又はこれらを組み合わせて使用して離解、叩解、解繊等の処理を施し、処理後のカナディアンスタンダードフリーネス(CSF)値(濾水度)が通常40mL~500mL、好ましくは40mL~300mL、さらに好ましくは40mL~200mLであるものを使用することができる。

【0050】
微生物由来のセルロース系繊維については、例えば、酢酸菌を培養した培養液から回収した菌体とセルロース繊維との混合物からタンパク質その他の夾雑物を除去して得た微生物由来のパルプより得ることができる。

【0051】
微生物由来のセルロース系繊維は通常、ナノレベルのセルロース繊維が網目状に交絡しており、これをそのまま使用してもよいし、又は、例えば高速ホモジナイザー等で処理して解繊したものを使用することもできる。

【0052】
化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維は、セルロース系繊維の一部の水酸基の水素原子が、アシル基(1)、又は置換基を有することもあるアルキル基(2)で置換されていることに特徴がある。本明細書では、セルロース系繊維中の水酸基の水素原子を置換することを「化学修飾」といい、水酸基の水素原子の代わりに導入される置換基を「化学修飾基」ということもある。

【0053】
セルロース系繊維の一部の水酸基の水素原子の置換基として、アシル基(1)、又は置換基を有することもあるアルキル基(2)を選定することにより、このような置換基で化学修飾されたセルロース系繊維はポリカーボネートの融点付近でも熱安定性に優れ、ポリカーボネートと溶融混練する際に安定であることから、透明な溶融混練物を形成することができる。また、アシル基(1)又は置換基を有することもあるアルキル基(2)で化学修飾されたセルロース系繊維は、セルロース系繊維表面に元来存在する水酸基同士の水素結合が部分的に消失しているので解繊されてミクロフィブリル化されやすく、溶融状態のポリカーボネートと混練すると、混練中にミクロフィブリル化してポリカーボネート中に分散することができる。また、上記の置換基によって化学修飾されたセルロース系繊維は、元来のセルロース系繊維よりも疎水性が高いので、上記の置換基により化学修飾されたミクロフィブリル化セルロース系繊維はポリカーボネートと親和性が高く、ポリカーボネート中に均一に分散されやすくなる。よって、上述のような化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維とポリカーボネートとを含む本発明の組成物は、優れた強度特性及び光透過性を有する。

【0054】
本発明では、セルロース系繊維の化学修飾に用いられる置換基として、アシル基(1)が使用される。アシル基(1)で化学修飾されたセルロース系繊維は、ポリカーボネートとの親和性が高く、ポリカーボネート中に均一に分散することができるとともに、アシル基(1)によるセルロース系繊維の化学修飾反応時に、セルロースの高い結晶性を保持することができる。

【0055】
前記一般式(1):Ra-CO-において、Raは炭素数1~4のアルキル基、又は電子供与性の置換基を有することもあるフェニル基を示す。

【0056】
前記炭素数1~4のアルキル基として、直鎖状アルキル基(メチル、エチル、n-プロピル、及びn-ブチル)、及び分岐鎖状アルキル基(イソプロピル、及びtert-ブチル)が挙げられる。

【0057】
前記電子供与性の置換基を有することもあるフェニル基として、フェニル、トリル、エチルフェニル、メトキシフェニル、エトキシフェニル等が挙げられる。

【0058】
アシル基(1)として、アセチル、エチルカルボニル、n-プロピルカルボニル、ピバロイル、ベンゾイル、4-メチルベンゾイル、4-エチルベンゾイル、4-メトキシベンゾイル、4-エトキシベンゾイル等が挙げられる。

【0059】
これらの中で、アセチル基、ピバロイル基、ベンゾイル基、4-メトキシベンゾイル基、及び4-メチルベンゾイル基が、これらで修飾すると特に熱安定性が良好なセルロース系繊維が得られることから好ましく、アセチル基及びベンゾイル基が、アシル化に使用されるアシル化剤が他のアシル化剤に比べて安価に入手可能な点でより好ましい。その結果、低廉な製造コストで化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維を製造することが可能となる。

【0060】
さらに、前記セルロース系繊維の一部の水酸基の水素原子のアシル基(1)による置換が、前記一般式(1)で表されるアシル基を有するカルボン酸ビニルエステルによるアシル化によるものであることが好ましい。アシル化された化学修飾セルロース系繊維の着色が少ないことから、着色の少ない、すなわち透明性の高い溶融混練組成物(複合体)を得ることができる。

【0061】
本発明では、セルロース系繊維の化学修飾に用いられる置換基として、置換基を有することもあるアルキル基(2)を使用することもできる。置換基を有することもあるアルキル基(2)で化学修飾されたミクロフィブリル化セルロース系繊維を使用することで、熱安定性、及び分散性に優れた溶融混練組成物を得ることができる。

【0062】
前記一般式(2):Rb-において、Rbは炭素数1~4のアルキル基、ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシプロピル基、シアノエチル基又はアリル基を示す。

【0063】
前記炭素数1~4のアルキル基として、直鎖状アルキル基(メチル、エチル、n-プロピル、及びn-ブチル)、及び分岐鎖状アルキル基(イソプロピル)が挙げられ、メチル及びエチルが好ましい。

【0064】
置換基を有することもあるアルキル基(2)として、メチル基、エチル基、ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシプロピル基、シアノエチル基及びアリル基が好ましい。これらの基で化学修飾されたセルロース系繊維を含む溶融混練組成物は、製造が容易である。また、これらの化学修飾基を有するセルロース系繊維は、溶融混練組成物中に、均一に微細状態で分散することができる。

【0065】
セルロース系繊維における、アシル基(1)又は置換基を有することもあるアルキル基(2)による修飾程度(置換度、「DS」ともいう)は、セルロース系繊維を構成するセルロース系高分子の1単位(繰り返し単位)に存在する水酸基の水素原子が、前記置換基で置換された程度で表される。

【0066】
セルロー系繊維が全てセルロースで構成されている場合(セルロースの場合)は、この繰り返し単位はグルコピラノース残基であり、この1単位あたりの水酸基数は3であるので、置換度の上限は3である。

【0067】
一方、セルロース系高分子がリグノセルロースの場合、リグノセルロースは、セルロースと共にヘミセルロースとリグニンとを含む。へミセルロースに含まれるキシランにおけるキシロース残基、及びアラビノガラクタンにおけるガラクトース残基の水酸基数は2であり、また、標準的なリグニン残基の水酸基数も2であり、これらの水酸基数は3より小さい。

【0068】
従って、リグノセルロース系繊維(又はリグノパルプ)における置換度の上限は3より小さい。この置換度の上限は、リグノセルロース系繊維(又はリグノパルプ)が含有するヘミセルロースおよびリグニンの含量に依存して、2.7~2.8程度である。

【0069】
上記のように、セルロース系繊維中のヘミセルロース又はリグニンの含量に依存するものの、化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維(化学修飾MFC)におけるアシル基(1)又は置換基を有することもあるアルキル基(2)による置換度(DS)は、0.1~1.5程度が好ましい。置換度(DS)は、より好ましくは0.2~1.2程度であり、さらに好ましくは0.3~1.2程度である。上記範囲のDSを有する化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維は、適度の結晶化度とSP(溶解度パラメーター)とを有するので、マトリクス(ポリカーボネート)中に均一に分散し、このような化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維を含有する溶融混練組成物は、優れた物性を有する。

【0070】
置換度(DS)は、中和滴定法、FTIR、二次元NMR(H及び13C-NMR)等の各種分析方法等により分析することができる。

【0071】
ミクロフィブリル化セルロース系繊維(MFC)とは、上述したセルロース系繊維集合体を構成するそれぞれの繊維の直径が全てナノオーダーにミクロフィブリル化された繊維という意味ではなく、ミクロフィブリル化された部分を少なくとも含むセルロース系繊維という意味であって、上述したセルロース系繊維の直径がナノオーダーであるか、又は繊維の内部若しくは表面の繊維の直径がナノオーダーであるものをいう。化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維(化学修飾MFC)における繊維径は、数十nm~数μm程度である。そして、化学修飾MFCにおけるミクロフィブリル化セルロース系繊維の意味も上記のように、それぞれの繊維の直径が全てナノオーダーにミクロフィブリル化された繊維という意味ではなく、ミクロフィブリル化された部分を少なくとも含むセルロース系繊維という意味であって、上述したセルロース系繊維の直径がナノオーダーであるか、又は繊維の内部若しくは表面の繊維の直径がナノオーダーであるものをいう。

【0072】
MFC及び化学修飾MFCの繊維径及び繊維長は、500~10000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影して測定することができる。繊維径の平均値(平均繊維径)及び繊維長の平均値(平均繊維長)は、SEMの視野内のMFC又は化学修飾MFCの少なくとも50本以上について測定したときの平均値として求めることができる。

【0073】
なお、PC複合体中のMFC又は化学修飾MFCのSEM写真を撮影する際には、PCが可溶で、且つMFC及び化学修飾MFCが不溶である溶媒(例えば、ジクロロメタン)でPC複合体中のPCを溶出させ、残存するMFC又は化学修飾MFCについてSEM写真を撮影することが好ましい。

【0074】
ミクロフィブリル化は、例えば、セルロース系繊維、具体的には繊維集合体(パルプ)を、リファイナー若しくはビーター又はこれらを組み合わせて使用して、離解、叩解、又は解繊した後に、例えば、高圧ホモジナイザー、ボールミル、又はグラインダーを用いて行うことができる。

【0075】
本発明の溶融混練組成物における化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維の含有割合は、ポリカーボネートと化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維との合計質量に対して、通常1~40質量%程度であり、3~30質量%であることが好ましい。化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維の含有割合を上記範囲にすることにより、透明性及び強度特性に優れた溶融混練組成物を得ることができる。

【0076】
本発明の溶融混練組成物は、マスターバッチとして使用することもできる。マスターバッチとして使用する場合、化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維の含有割合は、ポリカーボネートと化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維との合計質量に対して、10~40質量%程度であることが好ましい。

【0077】
化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維は、軽量であり、優れた強度特性、及び低線熱膨張係数を有する。このような化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維を含む本発明の溶融混練組成物は、ポリカーボネートと同様に、加熱すると軟化し、軟化温度以下に冷やすと再び固化する性質(熱可塑性)を有することから、例えば、射出成形法、押出成形法、プレス成形法など通常の成形法によって、容易に成形することができる。

【0078】
さらには、セルロース系繊維としてリグノセルロース繊維を使用する場合、リグノセルロース繊維はリグニンを含まないセルロース繊維よりもその製造工程が簡単で製造に必要な薬剤、エネルギー等が少なく、且つ植物からの収率が高い。そのため、化学修飾ミクロフィブリル化リグノセルロース繊維を含有する本発明の組成物は、低い製造コストで製造できるという利点がある。

【0079】
本発明の組成物は、ポリカーボネートと化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維とが溶融混練された組成物である。溶融混練法は、ポリカーボネート溶液又はポリカーボネート溶融物をセルロース系繊維又はその不織布に含浸して複合体を製造する方法よりも生産性が高く、また、ポリカーボネートはセルロース系繊維と均一に近い状態まで混合されることから、組成物を効率よく高い生産性で製造することができる。

【0080】
本発明の溶融混練組成物を透明である。ここで、透明とは、本発明の溶融混練組成物で厚さ100μmのシートを形成したとき、該シートにおける波長600nmの全光線透過率が、50%以上であることをいう。全光線透過率は、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上である。なお、全光線透過率測定用に正確に厚さ100μmのシートを形成することができない場合は、本明細書でいう全光線透過率とは、100μm厚の全光線透過率に換算した値を意味する。

【0081】
本発明の溶融混練組成物は、本発明の効果が損なわれない範囲で添加剤を含むことができる。添加剤として、例えば、相溶化剤、界面活性剤、でんぷん類、アルギン酸等の多糖類、ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質、タンニン、ゼオライト、セラミックス、金属粉末等の無機化合物、着色剤、可塑剤、顔料、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等が挙げられる。

【0082】
以上より、本発明の溶融混練組成物は、優れた強度特性及び光透過性を有しており、成形体の材料となり得る。また、本発明の組成物から得られる成形体は、未修飾セルロース系繊維を使用した場合よりも強度特性に優れるとともに、優れた光透過性を有する。

【0083】
3.溶融混練組成物の製造方法
本発明のポリカーボネートと化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維とを含有する溶融混練組成物は、
(a)ミクロフィブリル化したセルロース系繊維を化学修飾して化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維を製造し、次いで、これとポリカーボネートとを溶融混練する方法(以下、「a法」という)、又は、
(b)セルロース系繊維を化学修飾して化学修飾セルロース系繊維を製造し、次いで、これとポリカーボネートとを溶融混練して、溶融混練と同時に溶融混練物中において、前記化学修飾セルロース系繊維をミクロフィブリル化する方法(以下、「b法」という)
によって製造することができる。

【0084】
すなわち、a法は
(1)ミクロフィブリル化セルロース系繊維の水酸基の一部をアシル基(1)でアシル化、又は置換基を有することもあるアルキル基(2)でエーテル化する第一工程、及び
(2)第一工程で得られたミクロフィブリル化され、かつ、アシル基(1)又は置換基を有することもあるアルキル基(2)で化学修飾されたセルロース系繊維とポリカーボネートとを溶融混練する第二工程
を含む。

【0085】
b法は
(1)セルロース系繊維の水酸基の一部をアシル基(1)でアシル化、又は置換基を有することもあるアルキル基(2)でエーテル化する第一工程、及び
(2)第一工程で得られた、アシル基(1)又は置換基を有することもあるアルキル基(2)で化学修飾されたセルロース系繊維とポリカーボネートとを溶融混練し、溶融混練と同時に溶融混練物中において、アシル基(1)又は置換基を有することもあるアルキル基(2)で化学修飾されたセルロース系繊維をミクロフィブリル化する第二工程
を含む。

【0086】
以下、a法の各工程について説明する。

【0087】
a法の第一工程は、ミクロフィブリル化セルロース系繊維の水酸基の一部をアシル化又はエーテル化する工程である。

【0088】
a法では、アシル化又はエーテル化するための原料として、セルロース系繊維にあらかじめミクロフィブリル化処理を施したミクロフィブリル化セルロース系繊維を使用する。

【0089】
ミクロフィブリル化セルロース系繊維は、繊維集合体(パルプ)を、リファイナー若しくはビーター又はこれらを組み合わせて使用して、離解、叩解、又は解繊し、次いで、例えば、高圧ホモジナイザー、ボールミル、又はグラインダーでミクロフィブリル化することにより製造することができる。

【0090】
前記原料として、木材由来のミクロフィブリル化セルロース系繊維を使用することが好ましく、ミクロフィブリル化リグノセルロース繊維がより好ましい。ミクロフィブリル化リグノセルロース繊維は、リグニンを含有する繊維であり、リグニンを全く含まない繊維に比べて低コストで調製することができる。その結果、本発明の組成物を低コストで製造することができる。なお、透明性の高い溶融混練組成物を得るためには、ミクロフィブリル化リグノセルロース繊維のリグニン含有率を、15質量%以下にすることが好ましく、7%以下にすることがさらに好ましく、5%以下にすることが最も好ましい。

【0091】
前記原料の形状としては、綿状、紙状、シート状、不織布状等が挙げられる。いずれの形状のものを使用してもよい。紙状、シート状又は不織布状のものを用いる場合は、アシル化又はエーテル化した後、切断、粉砕等の手段により、綿状又は粉状として、あらかじめ樹脂と混合した状態で第二工程に供することが好ましい。

【0092】
アシル化は、公知の方法、例えば、アシル基(1)を有するアシル化剤と、前記原料(アシル化材料)とを溶媒中で攪拌しながら又は静置状態で反応させることにより行うことができる。

【0093】
アシル基(1)を有するアシル化剤として、無水カルボン酸、カルボン酸クロリド等のカルボン酸ハロゲン化物、カルボン酸ビニルエステル等が挙げられる。これらの中で、反応系から副生成物を除去し易い点で、カルボン酸ビニルエステル)が好ましい。

【0094】
アシル基(1)による化学修飾においては、アシル化剤として、対応するカルボン酸ビニルエステル(ビニルカルボキシレート)を使用することにより、アシル化して得られる化学修飾セルロース系繊維の着色が少なくなり、ひいてはこれを複合化して作成される溶融混練組成物(複合体)の着色を少なくすることができる。

【0095】
カルボン酸ビニルエステル以外のアシル化剤(例えば、カルボン酸クロリド、カルボン酸無水物)も使用することが可能である。この場合には、アシル化反応で副生する酸(塩酸、カルボン酸等)を反応中に捕捉するために有機塩基又は無機塩基を加えるのが好ましい。ただし、生成する塩がアシル化セルロース系繊維に混入し易く、これが原因で目的のアシル化セルロース系繊維が着色することもあるので、この場合には丁寧に精製することが必要となる。

【0096】
これらのアシル化剤のうちでも、アシル基(1)が、アセチル基、ピバロイル基、ベンゾイル基、4-メトキシベンゾイル基及び4-メチルベンゾイル基からなる群から選ばれるアシル基を有するアシル化剤を用いると、熱安定性が特に良好な、アシル化ミクロフィブリル化セルロース系繊維を製造できるので好ましい。

【0097】
上記アシル基を有するアシル化剤の具体例として、酢酸ビニル、ピバル酸ビニル、安息香酸ビニル、4-メトキシ安息香酸ビニル、4-メチル安息香酸ビニル等が挙げられる。

【0098】
これらの中で、アセチル基を有するアシル化剤(酢酸ビニル)、及びベンゾイル基を有するアシル化剤(安息香酸ビニル)が、製造コストの点から好ましい。

【0099】
アシル化反応は、溶媒中で、塩基の存在下に行うのが好ましい。

【0100】
溶媒として、アシル化剤とは反応せず、アシル化原料を膨潤させ易く、かつ、アシル化原料との反応後に反応系から容易に除去できる溶媒が好ましい。

【0101】
このような溶媒として、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジオキサン等の極性非プロトン性溶媒を挙げることができる。溶媒の使用量は、乾燥状態のアシル化原料1質量部に対して、20~200質量部程度である。

【0102】
塩基としては、ピリジン、ジメチルアニリン等のアミン類;酢酸カリウム、酢酸ナトリウム等の酢酸のアルカリ金属塩;炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸塩等が挙げられる。塩基の使用量は、アシル化原料中の水酸基1モルに対して、0.1~1モル程度である。

【0103】
アシル化剤のアシル化原料(ミクロフィブリル化セルロース系繊維)に対する使用量は、アシル化原料の含水量、目的とするアシル化原料におけるアシル化程度(置換度、DS)等により、適宜調整することができる。

【0104】
アシル化反応途中におけるアシル化程度(置換度、DS)は、反応混合物から、分析に必要な量を採取し、これから、未反応アシル化剤、アシル化副生成物などを、洗浄、抽出等により除いた後、FTIRスペクトルを測定し、あらかじめ作成しておいた検量線を使用して、定量することができる。したがって、目的とするDSになった時点で反応を止め、反応混合物に対して、ろ過、洗浄、抽出等の通常の精製操作に行うことにより、目的とするDSを有するアシル化セルロース系繊維を得ることができる。

【0105】
アシル化剤の使用量について例示すると、例えば、含水率5~10質量%程度のパルプを、酢酸ビニルでアセチル化する場合には、原料固形分換算100g当たり200~300mL程度の酢酸ビニルを用いることが好ましい。また、塩基として8.5~25g程度の炭酸カリウムを使用することが好ましい。

【0106】
なお、アシル化のDSについての説明、好ましいDS値については、前記「2.溶融混練組成物」の項で述べた通りである。

【0107】
反応温度は、通常、10~100℃程度であり、好ましくは20~90℃程度である。

【0108】
反応時間は、木材由来の原料をアシル化する場合は通常2~24時間程度であり、微生物由来の原料をアシル化する場合は通常4~100時間程度である。

【0109】
エーテル化は、前記原料(ミクロフィブリル化セルロース系繊維)の一部の水酸基の酸素原子と置換基を有することもあるアルキル基(2)との間でエーテル結合を形成させる反応である。このエーテル結合を形成させる反応をエーテル化反応といい、エーテル化に使用する薬剤をエーテル化剤という。

【0110】
エーテル化反応は、通常、エーテル化剤とエーテル化原料とを溶媒中で攪拌しながら、懸濁状態で反応させることにより行われる。

【0111】
前記原料(エーテル化原料)として、予めミクロフィブリル化処理を施したミクロフィブリル化セルロース系繊維を使用する。このエーテル化原料は、前記アシル化原料と同様のものを使用することができる。

【0112】
エーテル化反応は、溶媒中で、塩基の存在下に行うのが好ましい。使用するエーテル化剤は、以下のとおりである。

【0113】
一般式(2)におけるRb-が、炭素数1~4のアルキル基又はアリル基の場合は、エーテル化剤として、対応するハロゲン化物(例えば、ハロゲン化(炭素数1~4のアルキル)又はハロゲン化アリル)を使用することができる。

【0114】
Rb-が、ヒドロキシエチル基又は2-ヒドロキシプロピル基の場合は、これらの基に対応するエポキシド(エチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド)をエーテル化剤として使用することができる。

【0115】
Rb-がシアノエチル基の場合は、エーテル化剤としてアクリルニトリルを使用する。

【0116】
これらのエーテル化のうち、置換基を有することもあるアルキル基(2)が、メチル基、エチル基、ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシプロピル基、アリル基及びシアノエチル基からなる群から選ばれる少なくとも1種となるようなエーテル化を行うと、熱安定性が良好なエーテル化セルロース系繊維を低コストで製造できるので好ましい。

【0117】
溶媒は、エーテル化原料とは非反応性でエーテル化原料を膨潤させ易く、かつ、エーテル化原料との反応後に反応系から除去が容易な溶媒が好ましい。このような溶媒として、上記アシル化の場合と同様の溶媒を挙げることができる。溶媒の使用量も上記アシル化の場合と同様である。

【0118】
塩基として、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等の水酸化アルカリ金属が挙げられる。塩基の使用量は、エーテル化剤に対して、1~2当量程度である。

【0119】
反応温度は、通常0~100℃程度であり、好ましくは10~90℃程度である。

【0120】
反応時間は、使用するエーテル化剤及び塩基の使用量によって異なるが、通常0.5~10時間である。

【0121】
エーテル化剤のエーテル化原料に対する使用量は、エーテル化原料の含水量、目的とするエーテル化原料におけるエーテル化程度(置換度、DS)により、適宜調整することができる。

【0122】
エーテル化程度(置換度、DS)は、反応混合物から、分析に必要な量を採取し、これから反応混合物を精製して、例えば、NMRスペクトルを測定することによって追跡することができる。

【0123】
エーテル化の好ましいDS値については、前記「2.溶融混練組成物」の項で述べた通りである。

【0124】
ミクロフィブリル化セルロース繊維を上記のようにアシル化又はエーテル化することにより、ミクロフィブリル化され、かつ、アシル基(1)又は置換基を有することもあるアルキル基(2)で化学修飾されたセルロース系繊維が得られる。

【0125】
a法の第二工程は、第一工程で製造した化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維とポリカーボネートとを溶融混練し、化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維とポリカーボネートとを含む組成物を製造する工程である。

【0126】
溶融混練組成物が添加剤を含む場合には、この第二工程で添加して、化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維及びポリカーボネートをともに溶融混練することが好ましい。

【0127】
ポリカーボネートと、前記第一工程で得た化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維と、必要により添加剤とを溶融混練することにより、本発明の溶融混練組成物を製造することができる。

【0128】
溶融混練は、例えば、一軸又は多軸混練機、好ましくは多軸混練機で、加熱下に行われる。

【0129】
加熱温度は、使用するポリカーボネートの融点に合わせて調整することができる。加熱温度として、ポリカーボネート供給業者が推奨する、最低加工温度±10℃程度が好ましい。混合温度をこの温度範囲に設定することにより、化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維とポリカーボネートとを均一に混合することができる。

【0130】
溶融混練時間は、製造量を勘案し、装置の性能及び回転速度等の運転条件を混練機メーカーの推奨する範囲内で調整すればよい。加熱時間は短いほうが、溶融混練物の熱及び酸化による劣化を防ぐことができるので好ましい。また、溶融混練時の加熱及び酸化による劣化を防ぐために、酸化防止剤等の添加剤を添加し、窒素雰囲気下で混練を行うことが好ましい。

【0131】
以下、b法の各工程について説明する。

【0132】
b法の第一工程は、セルロース系繊維の水酸基の一部をアシル化又はエーテル化する工程である。

【0133】
b法では、アシル化又はエーテル化の原料として、セルロース系繊維の繊維集合体(パルプ)を使用する。

【0134】
パルプは、予めリファイナー若しくはビーター又はこれらを組み合わせて使用してパルプを離解、叩解、解繊等の処理をして、処理後のカナディアンスタンダードフリーネス(CSF)値(濾水度)が40mL~500mL、好ましくは40mL~300mL、さらに好ましくは40mL~200mLのパルプを使用する。この程度のCSFのパルプを使用することにより、次の第二工程でアシル化パルプとポリカーボネートとを溶融混練するときに、アシル化パルプが、溶融混練物中でミクロフィブリル化しやすくなる。

【0135】
アシル化原料として、木材由来のパルプを使用することが好ましく、この場合、リグノパルプを使用することが好ましい、リグノパルプは、リグニンを全く含まないパルプに比べて低コストであるため、本発明の組成物を低コストで製造することができる。なお、透明性の高い溶融混練組成物を得るためには、リグノパルプのリグニン含有率を、15質量%以下にすることが好ましく、7%以下にすることがさらに好ましく、5%以下にすることが最も好ましい。

【0136】
アシル化原料の形状としては、綿状、紙状、シート状又は不織布状のものが使用できる。紙状、シート状又は不織布状のものを用いた場合は、アシル化後、切断、粉砕等の手段により、綿状又は粉状としてあらかじめ樹脂と混合して、第二工程(溶融混練工程)に供することが好ましい。

【0137】
b法の第一工程のアシル化において使用するアシル化剤、反応条件等は、a法の第一工程のアシル化と同様である。

【0138】
エーテル化は、エーテル化原料(セルロース系パルプ)の一部の水酸基の酸素原子と置換基を有することもあるアルキル基(2)の間でエーテル結合を形成させる反応である。このエーテル結合を形成させる反応をエーテル化反応といい、エーテル化に使用する薬剤をエーテル化剤という。エーテル化反応は、エーテル化剤とエーテル化原料とを溶媒中で攪拌しながら、懸濁状態で反応させることにより行われる。

【0139】
b法では、エーテル化原料として、セルロース系繊維の繊維集合体(パルプ)を使用する。このエーテル化原料は、前記のアシル化と同様のものを使用することができる。

【0140】
b法の第一工程のエーテル化において使用するエーテル化剤、反応条件等は、a法の第一工程のエーテル化と同様である。

【0141】
b法の第二工程は、b法の第一工程で得られた化学修飾パルプとポリカーボネートとを溶融混練しながら、溶融されたポリカーボネート中で化学修飾パルプを化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維に解繊して、化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維とポリカーボネートとを含む組成物を製造する工程である。

【0142】
溶融混練組成物が添加剤を含む場合には、この第二工程で添加して、化学修飾パルプ及びポリカーボネートをともに溶融混練することが好ましい。

【0143】
本発明の溶融混練組成物は、ポリカーボネートと、b法の第一工程で得られた化学修飾パルプと、必要により添加剤とを溶融混練することによっても製造することができる。溶融混練は、例えば、一軸又は多軸混練機を使用して行うことができる。好ましくは、多軸混練機を使用する。そして、加熱下にポリカーボネートを溶融し化学修飾パルプと混練する。加熱温度は、使用するポリカーボネートの融点に合わせて調整することができ、ポリカーボネート供給業者が推奨する、最低加工温度±10℃程度が好ましい。

【0144】
溶融混練時間、並びに溶融混練時における溶融混練物の劣化対策は、a法の第二工程の場合と同様であるが、使用する一軸又は多軸混練機の回転数を大きくする方が、化学修飾パルプが溶融混練工程中でミクロフィブリル化し易くなるので好ましい。

【0145】
この溶融混練工程において、化学修飾パルプは混練中のせん断応力によって解繊され、ミクロフィブリル化し、生成した化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維は繊維同士の凝集が抑制されてポリカーボネート中に良好に分散される。

【0146】
この混練工程において、繊維径が数十μm~数百μmの化学修飾パルプが混練中に繊維径数十nm~数μmの化学修飾ミクロフィブリル化セルロース繊維に解繊される。

【0147】
b法によれば、パルプを化学修飾して得られた化学修飾パルプとポリカーボネートとを加熱溶融して複合化する際に、混練機のせん断応力により、ポリカーボネートと複合化しながら化学修飾パルプを解繊するため、製造工程が簡単で製造費用の低コスト化が図ることができる。よって、a法よりもb法が好ましい。

【0148】
なお、a法の場合もb法の場合も、化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維又は化学修飾パルプとポリカーボネートとの溶融混練に先立ち、予め、両者を混合しておくことも可能である。例えば、(i)乾燥状態の化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維又は化学修飾パルプと、粉状又は粒状のポリカーボネートとを混合し、得られた混合物を混練機に供給することもできる。あるいは、(ii)化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維又は化学修飾パルプと、粉状又は粒状のポリカーボネートとを、これらが溶解しない分散液にそれぞれ分散してから混合し、乾燥させたものを混練機に供給することもできる。混合の手段として、ベンチロール、バンバリーミキサー、ニーダー、プラネタリーミキサー、攪拌羽付き撹拌機、又は、公転若しくは自転方式の攪拌機を使用することが好ましい。

【0149】
溶融混練組成物が添加剤を含む場合、上述したように第二工程で添加することが好ましいが、上記(i)のように、溶融混練の前に、乾燥状態の化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維又は化学修飾パルプと、粉状又は粒状のポリカーボネートとを予め混合する場合には、この混合時に添加剤を添加することも可能である。

【0150】
4.成形体
本発明の溶融混練組成物を用いて、本発明の成形体を製造することができる。成形体を製造する際には、溶融混練組成物を、例えば、ペレット状、粉末状、シート状、板状、フィルム状等の各種形状に加工したものを成形材料として使用することができる。成形方法としては、射出成形、金型成形、押出成形等が挙げられる。成形体の形状としては、シート状、板状、フィルム状、立体構造等が挙げられる。用途に合わせて各種形状の成形体を、上記成形方法により製造することができる。

【0151】
本発明の溶融混錬組成物を用いることにより、力学的特性、耐熱性、光透過性、表面平滑性、外観等に優れる成形体を得ることができる。

【0152】
本発明の溶融混練物から製造される成形体は、自動車、電車、船舶、飛行機等の輸送機器の、透明性及び強度特性が要求される部材、例えば、窓板、ランプカバー、指示器カバーなどに、特に好適に使用することができる。本発明の溶融混錬組成物に、必要であれば、着色料、顔料等を含有させることにより、透明性を特に必要としない部材にも使用することもできる。
【実施例】
【0153】
以下、実施例、比較例及び試験例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0154】
なお、実施例、比較例、及び試験例において使用される略称の意味は、以下の通りである。
PC:ポリカーボネート
NBKP:針葉樹漂白クラフトパルプ
BCP:バクテリア(微生物)由来のセルロース繊維系パルプ
AcNBKP:NBKP中の一部の水酸基の水素原子がアセチル基で置換されたNBKP
AcBCP:BCP中の一部の水酸基の水素原子がアセチル基で置換されたBCP
BzNBKP:NBKP中の一部の水酸基の水素原子がベンゾイル基で置換されたNBKP
BzBCP:BCP中の一部の水酸基の水素原子がベンゾイル基で置換されたBCP
DMF:N,N-ジメチルホルムアミド
AcMFBC:バクテリア(微生物)由来のセルロース繊維の一部の水酸基の水素原子がアシル基で置換され、かつ、ミクロフィブリル化された繊維
BzMFBC:バクテリア(微生物)由来のセルロース繊維の一部の水酸基の水素原子がベンゾイル基で置換され、かつ、ミクロフィブリル化された繊維
AcMFNBKP:NBKP中の一部の水酸基の水素原子がアシル基で置換され、かつ、ミクロフィブリル化された繊維
BzMFNBKP:NBKP中の一部の水酸基の水素原子がベンゾイル基で置換され、かつ、ミクロフィブリル化された繊維
【実施例】
【0155】
以下の製造例1-4において、原料として以下のものを使用した。
(1)セルロース系繊維
1)針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP):白色綿状、水分含量10%、カナディアンスタンダードフリーネス(CSF)濾水度;約50mL、王子製紙株式会社製。
2)微生物由来セルロース系パルプ(BCP):フジッコ株式会社製「膜はぎナタデココシート」100gをワーリングブレンダーで粉砕し、得られた粉砕物に撹拌しながら0.5M水酸化ナトリウム水溶液1Lを加えて中和し、次いで、ラウリル硫酸ナトリウム2%水溶液500mL(10g/水500mL)を加えて80℃で1時間撹拌して除蛋白した。除蛋白されたBCPに塩素酸ナトリウム水溶液(2g/水1L)を加えて1晩室温に放置してBCPを漂白し、漂白済のBCPをろ取し、水洗して白色綿状のBCP60gを得た。乾燥減量により求めた水分含量は91%であった。
(2)ポリカーボネート:商品名ユーピロン(登録商標)(Iupilon(登録商標))、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製。融点約250℃、光透過度約90%。
【実施例】
【0156】
<製造例1>AcNBKPの調製
攪拌羽根を備えた四つ口200mLフラスコに、NBKP(乾燥重量として320mg、グルコース残基として約2mmol)、及びDMF10mLを入れて攪拌し、NBKPをDMF中に分散させ、NBKP分散液を調製した。
【実施例】
【0157】
得られた分散液に、炭酸カリウム28mg(0.2mmol)及び酢酸ビニル0.74mL(約0.69g=約8mmol)を加え、70℃で攪拌しながら窒素雰囲気下で反応させ、生成するアセチル基の増加を赤外線吸収スペクトルにより逐次測定し、アセチル化の置換度(DS)を追跡した。
【実施例】
【0158】
ここで、置換度(DS)の追跡は、以下のように行った。逐次的に、反応懸濁液混合物を少量(約0.3mL)抜き取り、エタノール-水を加え、濾取した。これをエタノール-水混合液で洗浄した後、乾燥して粉砕し、赤外線吸収スペク卜ル(FTIR)における1730cm-1のピーク面積の変化を測定することによりアセチル化の置換度(DS)の変化を追跡した。なお、置換度(DS)は、まず、逆滴定法(水酸化ナトリウム水溶液でアセチル化NBKPのエステル結合を加水分解し、遊離する酢酸ナトリウムを塩酸で逆滴定)でアセチル化量を求め、この値からDSを計算した。得られたDS値とFTIR 1730cm-1ピーク面積(x)との相関式から下記検量線を作成し、この検量線を使用して、各反応時点におけるDS値を追跡した。
・アセチル化の検量線:y(DS)=0.0074x+0.049
【実施例】
【0159】
反応懸濁液をエタノール30mL及び水30mLで希釈し、攪拌した後に濾取した。上記の操作(エタノールの添加、分散、及び濾過)で同様の操作を行い、得られた濾取物を100℃で1時間乾燥し、AcNBKP300mgを得た(この収量は、反応途中でDS測定のためにサンプリングしたため、理論収量よりも少ない量である)。
【実施例】
【0160】
<製造例2>BzNBKPの調製
酢酸ビニルの代わりに安息香酸ビニル1.11mL(約1.188g=約8mmol)を用いる以外は、製造例1と同様にして、BzNBKP300mgを得た(この収量は、反応途中でDS測定のためにサンプリングしたため、理論収量よりも少ない量である)。なお、ベンゾイル置換度の検量線は下記の通りである。
・ベンゾイル化の検量線:y(DS)=0.011x-0.0112
【実施例】
【0161】
<製造例3>AcBCPの調製
攪拌羽根を備えた四つ口200mLフラスコに、BCP(乾燥重量として320mg)、及びDMF90mLを入れて攪拌し、BCPをDMF中に分散させ、BCP分散液を調製した。
【実施例】
【0162】
前記フラスコに冷却器を取り付け、窒素雰囲気下、分散液を100℃に加熱し、分散液中に含まれる水分を留去した。その後、分散液を室温まで冷却し、分散液に炭酸カリウム83mg(0.6mmol)及び酢酸ビニル8.88mL(約96mmol)を加え、70℃で攪拌しながら窒素雰囲気下で反応させ、生成するアセチル基の増加を製造例1の場合と同様に赤外線吸収スペクトルにより逐次測定し、アセチル化の置換度を追跡した。
【実施例】
【0163】
反応懸濁液をエタノール50mL及び水50mLで希釈し、攪拌した後に濾取した。上記の操作(エタノールの添加、分散、及び濾過)で同様の操作を行い、得られた濾取物を100℃で1時間乾燥しAcBCP300mgを得た(この収量は、反応途中でDS測定のためにサンプリングしたため、理論収量よりも少ない量である)。
【実施例】
【0164】
<製造例4>BzBCPの調製
酢酸ビニルの代わりに安息香酸ビニル13.3mL(約96mmol)を用いる以外は、製造例3と同様にしてBzBCP300mgを得た(この収量は、反応途中でDS測定のためにサンプリングしたため、理論収量よりも少ない量である)。
【実施例】
【0165】
<実施例1>PCとミクロフィブリル化AcBCP(AcMFBC)とを含む溶融混練組成物及びその成形体の製造
製造例3と同様にして調製したAcBCP(絶対乾燥物として2.9g、エタノール/水(容量比1:1)で洗浄済、DS0.41)とPC(48.1g)とをイソプロピルアルコール(IPA)500mLに加えて攪拌して懸濁した。この懸濁液を濾取して70℃で減圧乾燥し、次いで110℃で10時間常圧で乾燥し、AcBCPとPCとの混合物を得た。この混合物の約51gを下記の二軸混練機を用いて、下記条件で加熱下に溶融混練して、PCとAcMFBCとを含む溶融混練組成物(ペレット状、繊維含有率5質量%)を得た。
・混練装置:テクノベル社製「TWX-15型」
・混練条件:温度=240℃、吐出=3-8g/min、スクリュー回転数=200rpm。
【実施例】
【0166】
次いで、このペレット状組成物40gを射出成形機(日精樹脂(株)製「NPX7-1F」)に投入し、下記の条件で成形してダンベル型の成形片(強度試験用試験片:厚さ1mm、並行部長さ38mm)を得た。
・成形条件:成形温度=260℃、金型温度=40℃、射出率=4-6cm/秒
また、上記と同様にして短冊型成形片(熱膨張試験用試験片:厚さ1mm、幅5mm×長さ20mm)を作製した。
【実施例】
【0167】
<実施例2>PCとミクロフィブリル化BzBCP(BzMFBC)とを含む溶融混練組成物及びその成形体の製造
製造例4と同様にして調製したBzBCP(絶対乾燥物として1.6g、エタノール/水(容量比1:1)で洗浄済、DS0.41)とPC(30.0g)とを使用する以外は、実施例1と同様にしてPCとBzBCPとの混合物を得た。この混合物の約30gを、実施例1と同様にして二軸混練機で溶融混練して、PCとBzMFBCとを含む溶融混練組成物(ペレット状、繊維含有率5質量%)を得た。
【実施例】
【0168】
次いで、このペレット状組成物25gを実施例1と同じ射出成形機に投入し、実施例1と同様にして、ダンベル型の成形片(強度試験用試験片)及び短冊型成形片(熱膨張試験用試験片)を作製した。
【実施例】
【0169】
<実施例3>PCとミクロフィブリル化NBKP(AcMFNBKP)とを含む溶融混練組成物及びその成形体の製造
製造例1と同様にして調製したAcNBKP(絶対乾燥物として3.8g、エタノール/水(容量比1:1)で洗浄済、DS0.61)とPC(60.8g)とを使用する以外は、実施例1と同様にしてPCとAcNBKPとの混合物を得た。この混合物の約64gを、実施例1と同様にして二軸混練機で溶融混練して、PCとAcMFNBKPとを含む溶融混練組成物(ペレット状、繊維含有率5質量%)を得た。
【実施例】
【0170】
次いで、このペレット状組成物を実施例1と同じ射出成形機に投入し、実施例1と同様にして、ダンベル型の成形片(強度試験用試験片)及び短冊型成形片(熱膨張試験用試験片)を作製した。
【実施例】
【0171】
<実施例4>PCとミクロフィブリル化BzNBKP(BzMFNBKP)とを含む溶融混練組成物及びその成形体の製造
製造例2と同様にして調製したBzNBKP(絶対乾燥物として4.9g、エタノール/水(容量比1:1)で洗浄済、DS0.62)とPC(53.9g)とを使用する以外は、実施例1と同様にしてPCとBzNBKPとの混合物を得た。この混合物の約58gを、実施例1と同様にして二軸混練機で溶融混練して、PCとBzMFNBKPとを含む溶融混練組成物(ペレット状、繊維含有率5質量%)を得た。
【実施例】
【0172】
次いで、このペレット状組成物を実施例1と同じ射出成形機に投入し、実施例1と同様にして、ダンベル型の成形片(強度試験用試験片)及び短冊型成形片(熱膨張試験用試験片)を作製した。
【実施例】
【0173】
<比較例1>PC溶融混合物(繊維を含まない溶融混合物)及びその成形体の製造
AcBCPを使用しないこと以外は実施例1と同様にして、PCを二軸混練機で溶融混練してペレット状PCを製造し、これを実施例1と同様に成形して、ダンベル型の成形片(強度試験用試験片)及び短冊型成形片(熱膨張試験用試験片)を得た。
【実施例】
【0174】
<比較例2>PCとBCPとを含む溶融混練組成物及びその成形体の製造
AcBCPの代わりにBCPを使用したこと以外は実施例1と同様にして、PCとBCPとを二軸混練機で溶融混練して溶融混練組成物(ペレット状、繊維含有率5質量%)を得、これを成形して、ダンベル型の成形片(強度試験用試験片)及び短冊型成形片(熱膨張試験用試験片)を得た。
【実施例】
【0175】
<比較例3>PCとNBKPとを含む溶融混練組成物及びその成形体の製造
AcNBKPの代わりにNBKPを使用したこと以外は実施例3と同様にして、PCとNBKPとを二軸混練機で溶融混練し溶融混練組成物(ペレット状、繊維含有率5質量%)を得、これを成形して、ダンベル型の成形片(強度試験用試験片)及び短冊型成形片(熱膨張試験用試験片)を得た。
【実施例】
【0176】
<試験例1>化学修飾セルロース系繊維の耐熱性試験
製造例1~4で得られた、AcNBKP、BzNBKP、AcBCP及びBzBCPの耐熱性を評価するために、熱重量分析試験を実施した。具体的には、(株)日立ハイテクノロジーズ社製のSTA7200RV形示差熱熱重量同時測定装置を使用して、110℃から500℃までの上記各試験材料の重量変化を測定した(昇温速度=10℃/分)。
【実施例】
【0177】
図1に、製造例1~4で得られた各化学修飾パルプの5%重量減少温度(5%WLT)と化学修飾度(置換度DS)との関係を示す。図1より、NBKPもBCPも、DSの上昇と共に5%重量減少温度が上昇していることから、セルロース系繊維を化学修飾することにより熱安定性が向上したことがわかる。
【実施例】
【0178】
<試験例2>強度特性試験
下記のダンベル型成形体を試験片として、以下のように強度特性を測定した。
試験材料
・比較例1成形体:比較例1で製造したPCのダンベル型成形体
・比較例2成形体:比較例2で製造したダンベル型成形体(PCとBCPとを含有する成形体、繊維含有率5質量%)
・実施例1成形体:実施例1で製造したダンベル型成形体(PCとミクロフィブリル化AcBCP(AcMFBC)とを含有する成形体、繊維含有率5質量%)
・実施例2成形体:実施例2で製造したダンベル型成形体(PCとミクロフィブリル化BzBCP(BzMFBC)とを含有する成形体、繊維含有率5質量%)
試験方法
実施例1及び2の成形体(試験片)及び比較例1及び2の成形体について、電気機械式万能試験機(インストロン社製)を用い、試験速度を1.5mm/分として引張弾性率、引張強度、及び伸び率を測定した(ロードセル5kN)。支点間距離は4.5cmとした。
試験結果
これらの結果を表1に示す。
【実施例】
【0179】
【表1】
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【実施例】
【0180】
表1より、本発明の実施例である実施例1及び2の成形体の引張弾性率及び引張強度は比較例1及び2の成形体のそれらよりも大きく、強度特性が優れていることがわかる。
【実施例】
【0181】
<試験例3>PC複合体の熱膨張試験
試験材料及び試験方法
実施例1~4及び比較例1~3で製造した熱膨張試験用試験片(厚さ1mm、幅5mm×長さ20mm)について、セイコーインスツルメンツ(株)製の熱機械分析装置TMA/SS6100を用いて、下記の条件にて熱膨張係数を測定した。
・線熱膨張係数測定条件
昇温速度:5℃/分、雰囲気:N中、加熱温度:25~100℃、荷重:3mg、測定回数:1回、モード:引っ張りモード
試験結果
化学修飾MFBC含有PC成形体(実施例1及び2)の試験結果、及び比較例1及び2の成形体の試験結果を表2に示す。
【実施例】
【0182】
【表2】
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【実施例】
【0183】
また、化学修飾MFNBKP含有PC成形体(実施例3及び4)の試験結果、及び比較例1及び3の成形体の試験結果を表3に示す。
【実施例】
【0184】
【表3】
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【実施例】
【0185】
表2及び3に示すとおり、実施例1~4の成形体の線熱膨張係数は、比較例1~3のそれらに比べて小さい。このように、本発明の成形体は、温度差による伸縮性が小さいことから、例えば、建築物又は車両の窓に使用しても温度差による歪が起こり難いので、大きな窓枠にも支障なく適用できるという利点がある。
【実施例】
【0186】
<試験例4>全光線透過率の測定
以下の試料及び測定機器を使用して、実施例1~4及び比較例1~3の組成物の全光線透過率を測定した。
試料
実施例1~4及び比較例1~3の組成物から以下の寸法の試験試料を作製した。
・厚さ:100μm。幅及び長さ:下記分光光度計の窓枠の幅及び長さ(幅1cm×長さ2cm)に取り付け可能な幅及び長さ。
測定機器及び測定方法
日立ハイテクノロジーズ社製のUV-4100形分光光度計を用い、波長300~800nmでの全光線透過率を測定した。
測定結果
実施例1及び2、及び比較例1の組成物から作製した試料の測定結果を図2に示す。
【実施例】
【0187】
図2より、本発明の組成物(実施例1:PC-AcMFBC(5%)、及び実施例2:Pc-BzMFBC(5%))の可視光(波長400~750nm)での透過率は80%以上で、透明性が高いことがわかる。
【実施例】
【0188】
また、化学修飾MFBC含有PC組成物(実施例1及び2)、化学修飾MFNBKP含有PC組成物(実施例3及び4)、及び比較例1~3の波長600nmにおける全光線透過率を、表4及び表5に示す。
【実施例】
【0189】
【表4】
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【実施例】
【0190】
【表5】
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【実施例】
【0191】
表4及び表5のとおり、本発明の組成物は化学修飾セルロース系繊維を含有しているにも拘わらず、その波長600nmにおける全光線透過率は高く、繊維を含まないPC(比較例1)のそれに近い値であった。
【実施例】
【0192】
化学修飾されていないセルロース系繊維集合体(BCP)を含む組成物(比較例2)の光透過率とそれに対応する本発明の化学修飾MFBCを含む組成物(実施例1及び実施例2)の光透過率とを比較すると、本発明の化学修飾MFBCを含む組成物の光透過率の方が高い(表4参照)。また、表5に示すとおり、本発明の組成物(実施例3及び実施例4)の光透過率は、それに対応する比較例3(セルロース系繊維集合体としてNBKPを含有)の光透過率よりも高い。これらの試験結果は、化学修飾BCP又は化学修飾NBKPが、PCと共に溶融混練された際にMF化(ミクロフィブリル化)されて、その結果生じた化学修飾MFBC又は化学修飾MFNBKPが、PC組成物中で凝集することなく均一又は均一に近い状態で分散されていることを示す1つの証拠であると考えられる。
図面
【図1】
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【図2】
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