TOP > 国内特許検索 > 人工気管及びその製造方法 > 明細書

明細書 :人工気管及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-088548 (P2019-088548A)
公開日 令和元年6月13日(2019.6.13)
発明の名称または考案の名称 人工気管及びその製造方法
国際特許分類 A61F   2/04        (2013.01)
FI A61F 2/04
請求項の数または発明の数 9
出願形態 OL
全頁数 14
出願番号 特願2017-220048 (P2017-220048)
出願日 平成29年11月15日(2017.11.15)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用申請有り 宿題報告2017「咽頭・気管の再生医療」、第V章 人工気管の開発と実用化/B.人工気管、1.人工気管の開発・設計、第132頁~第137頁、京都大学大学院医学研究科耳鼻咽喉科・頭頸部外科学 大森孝一(発行日:平成29年5月16日)
発明者または考案者 【氏名】中村 達雄
【氏名】稲田 有史
【氏名】茂野 啓示
出願人 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100100158、【弁理士】、【氏名又は名称】鮫島 睦
【識別番号】100138863、【弁理士】、【氏名又は名称】言上 惠一
【識別番号】100138885、【弁理士】、【氏名又は名称】福政 充睦
審査請求 未請求
テーマコード 4C097
Fターム 4C097AA17
4C097BB01
4C097CC02
4C097EE02
4C097EE11
4C097EE19
4C097FF05
4C097FF20
4C097MM01
要約 【課題】単純で簡単な構造であるにもかかわらず、力学構造を担うフレーム部分は生体内部でより長期間にわたって安定であり、更に、より長期間、人工気管の内腔を維持できる力学的強度を有する、人工気管を提供する。
【解決手段】筒の中心軸と直交方向の断面が略円形状を有し、筒の側面に網目を有する中空筒状基材;その筒状基材の外周上に、相互に離間して配置される複数の環状支持材;及び筒状基材の外側と内側の両方に、多孔質コラーゲン層を有し、筒状基材は、ポリオレフィンでできており、環状支持材は、ポリオレフィンとポリアミドから選択される少なくとも1種でできており、筒状基材と環状支持材は結合されている、人工気管である。
【選択図】図2
特許請求の範囲 【請求項1】
筒の中心軸と直交方向の断面が略円形状を有する筒状基材であって、筒の側面に網目を有する中空筒状基材;
その筒状基材の外周上に、相互に離間して配置される複数の環状支持材;及び
筒状基材の外側と内側の両方に、多孔質コラーゲン層
を有する、人工気管であり、
筒状基材は、ポリオレフィンでできており、
環状支持材は、ポリオレフィンとポリアミドから選択される少なくとも1種でできており、
筒状基材と環状支持材は結合されている、人工気管。
【請求項2】
ポリオレフィンは、ポリプロピレン、ポリエチレン、及びエチレン-プロピレンコポリマーから選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の人工気管。
【請求項3】
ポリアミドは、6,6-ナイロン、6-ナイロンから選択される少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の人工気管。
【請求項4】
筒状基材と環状支持材の結合は、熱による融着、糸による縫合から選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれかに記載の人工気管。
【請求項5】
糸は、ポリオレフィン及びポリアミドから選択される少なくとも1種でできている糸を含む、請求項4に記載の人工気管。
【請求項6】
多孔質コラーゲンは、スポンジコラーゲン、薄フィルム多房状コラーゲン、及び細繊維状コラーゲンから選択される少なくとも1種を含む、請求項1~5のいずれかに記載の人工気管。
【請求項7】
3つの連続する環状支持材の接合部が、直線状に並ばないように配置されている、請求項1~6のいずれかに記載の人工気管。
【請求項8】
直線状の形態、曲線状の形態、径の大きさが一定の形態、径の大きさが変わる形態、分岐を有さない形態及び分岐を有する形態から選択される少なくとも1種の形態を有する、請求項1~7のいずれかに記載の人工気管。
【請求項9】
ポリオレフィンでできているメッシュを中空筒状に形成して、筒の中心軸と直交方向の断面が略円形状を有し、筒の側面に網目を有する中空筒状基材を準備すること;
ポリオレフィンとポリアミドから選択される少なくとも1種から選択されるモノフィラメントを使用して、その筒状基材の外周上に、複数の環状支持材を準備して、相互に離間して配置すること;
筒状基材に環状支持材を結合すること;及び
筒状基材の外側と内側の両方に、多孔質コラーゲン層を配置すること
を含む、人工気管の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、人工気管及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、気管及び気管分岐部の再建を必要とする機会が増加しつつあり、気管及び気管分岐部の再建に使用される人工的に作られた気管(以下「人工気管」ともいう)が検討されている。
人工気管には、管腔に対する十分な支持性があり、生体組織での炎症反応が少なく生体に素早くしっかり取り込まれること等の性質が求められる。
【0003】
特許文献1は、ポリプロピレン製の糸状ステントを、その外周に螺旋状に巻き付けてなるポリプロピレン製のメッシュ状チューブを基材とし、該基材の表面にアモルファスコラーゲンの薄層を有し、更に該アモルファスコラーゲンの薄層の内外面に熱架橋された微細線維化コラーゲンの層を有する人工気管を開示する(特許文献1請求項1、第3頁第27行~第4頁第2行、図1参照)。
【0004】
特許文献2は、ポリプロピレン製のモノフィラメントを、その外周に螺旋状に巻き付けてなるポリプロピレン製のメッシュ状チューブを基材とし、該基材の表面にアモルファスコラーゲンの薄層を有し、更に該アモルファスコラーゲンの薄層の内外面に熱架橋された微細線維化コラーゲンの層を有する人工気管を開示する(特許文献2[0007]~[0008]参照)。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】再公表特許公報WO01/024731
【特許文献2】実開平6-17715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
人工気管は、生体内部に埋入されるが、気道内面では外界に面しており、このため身体は人工気管を異物として体外に排除しようとする。そこで、より高い生体親和性を有し、より生体に取り込まれやすいことが人工気管に求められる。そのために、人工気管はまず生体内部で異物と認識され難いことが要求されるので、できる限り単純で簡単な構造であることが好ましい。
【0007】
その一方で、人工気管は、長期間生体内で使用されるので、たとえ単純で簡単な構造であっても、力学構造を担うフレーム部分は生体内部でより長期間にわたって安定であり、更に、より長期間、人工気管の内腔を維持できる力学的強度も要求される。
【0008】
特許文献1の人工気管は、優れた生体親和性と力学的強度を有するが、メッシュによるチューブ状基材の外周に、更にステントを配置する。そのためチューブ形状の二重構造を有する。支持材としてのステントによって全体的に厚くなり、より大きな人工気管となり得る。
従って、特許文献1の人工気管を更に長期間使用した場合、生体に機械的ストレスを与える可能性をより有する。人の寿命が延びつつある今日にあって、更に長期間にわたって使用できることは重要である。特に、高齢になってからの手術は、生命の危険をより伴うことから、より長期間にわたって使用できることは重要である。
【0009】
特許文献2の人工気管は、チューブ状基材の外周に、一本のモノフィラメントの支持材(又は補強材)が螺旋状に巻かれている。特許文献1の人工気管と比較すると、より単純であり、支持材による機械的ストレスはより小さいと考えられる。更に、特許文献2の人工気管は、その内腔を維持できる力学的強度も有する。
しかし、一本のモノフィラメントを、螺旋状の形態にして、チューブ状基材全体の支持材として使用している。従って、もしこの1本のモノフィラメントが切れたら、人工気管全体の強度が低下し得、強度のバランスも低下し得るという問題を生じ得る。
【0010】
更に、支持材を螺旋状に巻いたチューブ状基材は、長軸方向への伸展性が乏しい、螺旋方向に捻る力が加わると、絞った形に変形するので内腔が狭窄しやすい、逆に螺旋の方向と反対方向に捻る力が加わると、チューブ状基材から螺旋状支持材が剥がれやすくなる等の問題も生じ得る。
また、特許文献2では、分岐を有する形態、気管の径が変化する(又は一定でない)形態などの、複雑な形態の人工気管には、対応が容易ではないという問題もある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、鋭意検討を重ねた結果、モノフィラメントの支持材の形態を、別の特定の形態にすることで、単純で簡単な構造を有する人工気管を得られることを見出した。更に、そのような人工気管は、単純で簡単な構造であるにもかかわらず、生体内部でより長期間にわたって安定であり、更に、より長期間、人工気管の内腔を維持できる力学的強度も有することを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0012】
即ち、本発明は、一の要旨として、新たな人工気管を提供し、それは、
筒の中心軸と直交方向の断面が略円形状を有する筒状基材であって、筒の側面に網目を有する中空筒状基材;
筒状基材の外周上に、相互に離間して配置される複数の環状支持材;及び
筒状基材の外側と内側の両方に、多孔質コラーゲン層
を有する、人工気管であり、
筒状基材は、ポリオレフィンでできており、
環状支持材は、ポリオレフィンとポリアミドから選択される少なくとも1種でできており、
筒状基材と環状支持材は結合されている。
【0013】
本発明は他の要旨において、人工気管の製造方法を提供し、
ポリオレフィンでできているメッシュを中空筒状に形成して、筒の中心軸と直交方向の断面が略円形状を有し、筒の側面に網目を有する中空筒状基材を準備すること;
ポリオレフィンとポリアミドから選択される少なくとも1種のモノフィラメントを使用して、筒状基材の外周上に、複数の環状支持材を準備して、相互に離間して配置すること;
筒状基材に環状支持材を結合すること;及び
筒状基材の外側と内側の両方に、多孔質コラーゲン層を配置すること
を含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明の実施形態の人工気管は、筒の中心軸と直交方向の断面が略円形状を有する筒状基材であって、筒の側面に網目を有する中空筒状基材;筒状基材の外周上に、相互に離間して配置される複数の環状支持材;及び筒状基材の外側と内側の両方に、多孔質コラーゲン層を有し、
筒状基材は、ポリオレフィンでできており、環状支持材は、ポリオレフィンとポリアミドから選択される少なくとも1種でできており、筒状基材と環状支持材は結合されているという、簡単で単純な構造を有する。
従って、本発明の実施形態の人工気管は、より高い生体親和性を有し、より生体に取り込まれやすい。
その一方、本発明の実施形態の人工気管は、単純で簡単な構造を有するにもかかわらず、生体内部でより長期間にわたって安定であり、更に、より長期間、人工気管の内腔を維持できる力学的強度も有し、より長期に渡り、安定した性能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、環状支持材(4)と、それを外周上に有する筒状基材(2)を含むフレーム(骨格)(10)を模式的に示す。図1(A)は、筒状基材(2)の軸方向に切断して、切断された筒状基材(2)を、その内側から示したフレーム(10)を模式的に示す。図1(B)は、フレーム(10)の全体を模式的に示す。
【図2】図2は、フレーム(10)の側面の外側と内側の両側にコラーゲン層(12、14)を有する、本発明の実施形態の人工気管(20)を模式的に示す。図2(A)は、人工気管(20)を、その軸方向に切断して、人工気管(20)の内側から模式的に示し、図2(B)は、人工気管(20)の全体を模式的に示す。
【図3】図3は、環状支持材と、それを外周上に有する筒状基材を含む、実施例1のフレーム(骨格)の写真を示す。
【図4】図4は、図3のフレームの外側を拡大した写真を示す。
【図5】図5は、図3のフレームの内側を拡大した写真を示す。
【図6】図6は、型枠を模式的に示す。
【図7】図7は、実施例1の人工気管の写真を示す。
【図8】図8は、実施例1の人工気管の外側コラーゲン層の走査電子顕微鏡写真(約45倍)を示す。
【図9】図9は、実施例3のフレームの写真を示す。実施例3のフレームは、分岐を有し、全体としてY字状の形態を有する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施の形態を詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。

【0017】
なお、以下の説明は、当業者が本発明を充分に理解するために提供されるので、これらの説明によって、特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図すると解釈されるべきではない。

【0018】
本発明の実施形態の人工気管は、
筒の中心軸と直交方向の断面が略円形状を有する筒状基材であって、筒の側面に網目を有する中空筒状基材;
筒状基材の外周上に、相互に離間して配置される複数の環状支持材;及び
筒状基材の外側と内側の両方に、多孔質コラーゲン層
を有し、
筒状基材は、ポリオレフィンでできており、
環状支持材は、ポリオレフィンとポリアミドから選択される少なくとも1種でできており、
筒状基材と環状支持材は結合されている。

【0019】
本発明の実施形態の人工気管は、筒の中心軸と直交方向の断面が略円形状を有する筒状基材であって、筒の側面に網目を有する中空筒状基材を有する。
本明細書において、「筒状基材」とは、筒の中心軸と直交方向の断面が略円形状を有し、筒の側面に網目を有し、中空であり、目的とする人工気管を得ることができる限り、特に制限されることはない。

【0020】
筒状基材が側面に有する網目の大きさは、一般的な細胞が侵入できる大きさであり、力学的強度を維持できる大きさであることが好ましく、適宜選択することができる。

【0021】
筒状基材の寸法は、人工気管が実際に使用される箇所に応じて、適宜選択することができる。従って、筒の直径及び長さは、適宜選択することができる。
筒の直径は、全体として同じであっても(均一であっても)、変化してもよい。例えば、一端から他の端に向かって、直径が小さくなってもよいし、逆に一端から他の端に向かって、直径が大きくなってもよい。
更に、筒状基材は、直線状でも、曲線状でもよい。
また、筒状基材は、筒状の分岐を有してよく、例えば、Y字状であってよい。即ち、三つ以上の端を有してよい。Y字状の筒状基材の3つの端の直径は、全てが同じでも、二つが同じで一つが異なっていても、三つとも異なっていてもよい。

【0022】
筒状基材は、ポリオレフィンでできている。ポリオレフィンは、実質的に生分解性を有さず、生体内で安定であるが、生体適合性を有することが好ましい。ポリオレフィンとして、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレンコポリマーが好ましい。そのようなポリオレフィンで網(メッシュ)、織物、編物等を形成し、そのメッシュ等で筒状基材を得ることができる。メッシュ等を形成するポリオレフィンの繊維は、太い繊維を使用してもよいし、細い繊維を組み合わせて、必要であれば例えば組紐等にして、使用してもよい。

【0023】
ポリオレフィン製のメッシュ等として、市販品を使用することができる。
例えば、ポリプロピレン製のメッシュ(DAVOL社製のBIRD(登録商標)Mesh(商品名))等を例示することができる。

【0024】
本発明の実施形態の人工気管は、その筒状基材の外周上に、相互に離間して配置される複数の環状支持材を有する。
本明細書において「環状支持材」とは、略円形状を有し、複数の環状支持材が、筒状基材の外周上に相互に離間して配置され、目的とする人工気管を得ることができる限り、特に制限されることはない。
尚、本明細書では、複数の環状支持材が外周に配置された筒状基材(例えば、筒状基材と環状支持材の組み合わせ)を含む、人工気管の力学的強度を保持(又は維持)する部分を「フレーム(又は骨格)」ともいう。

【0025】
環状支持材の太さ及び横方向の形状は、目的とする人工気管を得ることができる限り、特に制限されることはない。
環状支持材は、ポリオレフィンとポリアミドから選択される少なくとも1種でできている。

【0026】
ポリオレフィンは、実質的に生分解性を有さず、生体内で安定であるが、生体適合性を有することが好ましい。ポリオレフィンとして、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレンコポリマーが好ましい。
ポリアミドは、実質的に生分解性を有さず、生体内で安定であるが、生体適合性を有することが好ましい。ポリアミドとして、6,6-ナイロン(登録商標)、6-ナイロン(登録商標)が好ましい。
そのようなポリオレフィンとポリアミドから選択される少なくとも1種で環状支持材を形成することができる。

【0027】
複数の環状支持材は、筒状基材の外周上に、相互に離間して配置されている。
本明細書において、「相互に離間」とは、複数の環状支持材が、相互に離間していることをいい、環状支持体の一部に接触が生じ、離間していない部分があってもよい。

【0028】
環状支持材が、離間して配置される間隔は、筒状基材の内腔を保持するための力学的強度を確保することができれば、適宜選択することができる。

【0029】
環状支持材は、等間隔で配置されることが好ましい。
本明細書において、「等間隔」とは、目視でほぼ等間隔と認識できればよく、厳密な等間隔を意味しない。筒状基材の強度のバランスの観点から好ましい。

【0030】
環状支持材は、少なくとも2つ配置され、少なくとも3つ配置されることが好ましい。
3つの連続する環状支持材の接合部が、直線状に並ばないように、複数の環状支持材が配置されていることが好ましい。環状支持材の接合部は、環状支持材の中では比較的強度の小さい部分になるので、一つが外れたときに、両隣の環状支持材への影響を小さくできるので好ましい。

【0031】
本発明の実施形態の人工気管では、筒状基材と環状支持材は結合されている。
本明細書において「結合」とは、筒状基材と環状支持材が結び合わされていることをいい、目的とする人工気管を得ることができる限り、結合方法、結合様式等について、特に制限されることはない。

【0032】
結合方法として、例えば、熱接着、フィラメント糸を用いる縫合、接着材を用いる、筒状基材の網に縫い込む等を例示することができ、熱接着及び/又はフィラメント糸を用いる縫合を用いることが好ましい。
「熱接着」とは、筒状基材、環状支持材又はそれらの両方を、加熱して融着させる方法をいい、加熱手段、加熱温度等は、適宜選択することができる。

【0033】
「フィラメント糸を用いる縫合」とは、フィラメント糸を用いて、環状支持材を筒状基材に縫い付けることをいう。縫い付ける方法等は、適宜選択することができる。フィラメント糸として、上述の環状支持材と同様の材料(ポリオレフィンとポリアミドから選択される少なくとも1種)からできている糸を使用することができる。

【0034】
フィラメント糸として市販されている糸を使用することができる。フィラメント糸として、例えば、ポリプロピレン製のフィラメント糸(EHICON社製のProlene(商品名))、ポリプロピレン製のフィラメント糸(COVIDIEN社製のサージプロ(商品名))、ポリプロピレン製のフィラメント糸(ベアメディック社製のEカット針付縫合糸(商品名))等を例示することができる。
熱接着及びフィラメント糸を用いる縫合の両方を用いることが、強度を高めることから、より好ましい。

【0035】
本発明の実施形態の人工気管は、筒状基材の外側と内側の両方に、多孔質コラーゲン層を有する。
本明細書において「多孔質コラーゲン層」とは、コラーゲンでできている層であって、そのコラーゲンは、多孔質であれば、目的とする人工気管を得られる限り、特に制限されることはない。

【0036】
多孔質コラーゲンは、多くの孔(又は隙間)を有し、その孔の大きさは、一般的な細胞が侵入できる大きさであってよい。

【0037】
多孔質コラーゲンは、スポンジコラーゲン、薄フィルム多房状コラーゲン、及び細繊維状コラーゲンから選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、薄フィルム多房状コラーゲンを含むことがより好ましい。
多孔質コラーゲン層の厚さは、適宜選択することができる。

【0038】
本発明の実施形態の「人工気管」は、使用する筒状基材の形態に基づいて、種々の形態を有することができる。
例えば、筒状基材が直線状の形態を有する場合、人工気管は直線状の形態を有し得る。筒状基材が曲線状の形態を有する場合、人工気管も曲線状の形態を有し得る。
また例えば、筒状基材がその径の大きさが一定の形態を有する場合、人工気管はその径の大きさが一定の形態を有し得る。筒状基材がその径の大きさが変わる形態を有する場合、人工気管はその径の大きさが変わる形態を有しえる。
更に例えば、筒状基材が分岐を有さない形態を有する場合、人工気管は分岐を有さない形態を有し得る。筒状基材が分岐を有する形態を有する場合、人工気管は分岐を有する形態を有しえる。

【0039】
上述の人工気管の形態は、適宜組み合わせることができる。
従って、本発明の実施形態の人工気管は、直線状の形態、曲線状の形態、径の大きさが一定の形態、径の大きさが変わる形態、分岐を有さない形態及び分岐を有する形態から選択される少なくとも1種の形態を有することができる。尚、これらの形態は、適宜組み合わせることができる。

【0040】
本発明は、本発明の実施形態の人工気管の製造方法を提供する。その製造方法は、
ポリオレフィンでできているメッシュを中空筒状に形成して、筒の中心軸と直交方向の断面が略円形状を有し、筒の側面に網目を有する中空筒状基材を準備すること;
ポリオレフィンとポリアミドから選択される少なくとも1種から選択されるモノフィラメントを使用して、その筒状基材の外周上に、複数の環状支持材を準備して、相互に離間して配置すること;
筒状基材に環状支持材を結合すること;及び
筒状基材の外側と内側の両方に、多孔質コラーゲン層を配置すること
を含む。

【0041】
本発明の実施形態の人工気管について記載した「筒状基材」、「ポリオレフィン」、「ポリアミド」、「環状支持材」、「結合」、「コラーゲン層」等の記載については、本発明の実施形態の製造方法に適用することができる。

【0042】
本発明の実施形態の製造方法において、多孔質コラーゲン層を配置する方法は、環状支持材を外周上に有する筒状基材の外側と内側の両方に、多孔質コラーゲンの層を形成することができ、本発明が目的とする人工気管を得ることができる限り、特に制限されることはない。

【0043】
「筒状基材の外側と内側の両方に、多孔質コラーゲン層を配置すること」は、外周上に環状支持材を有する筒状基材を、コラーゲンの希塩酸溶液に浸した後、コラーゲンの希塩酸溶液を凍結後、凍結乾燥することを含むことが、好ましい。

【0044】
更に、外周上に環状支持材を有する筒状基材(又はフレーム)にコラーゲンを配置し易くするために、フレームの表面に追加の処理をすることができる。そのような処理として、例えば、エアプラズマ装置を用いるプラズマ処理等を例示することができる。

【0045】
より具体的には、例えば、下記の方法を例示することができる。
外周上に環状支持材を有する筒状基材(又はフレーム)を、エタノールに浸漬後、エタノールを完全に乾燥する。フレームをプラズマ処理等する。そのフレームの表面に、1.0~3.0重量%コラーゲン希塩酸溶液(0.001N)(pH=約3.0)を塗布して風乾する。この塗布及び風乾操作を、繰り返して、フレーム表面に、コラーゲン皮膜を形成する。これを冷蔵庫の中で予め-20℃に冷却する。

【0046】
筒状のフレームを配置できるような、筒状の隙間を有する型枠を準備する。型枠は、外型と中心の棒状体を有し、棒状体の側面が内型となる。外型と内型の間に隙間に、コラーゲンをコーティングしたフレームを入れる。シリンジで、コラーゲンの1~3重量%の希塩酸(0.001N)溶液(pH=約3.0)を、外型と内型の間に詰める。フリーザー内で凍結する。凍結乾燥機で、凍結乾燥する。加熱による架橋処理をして、人工気管を得る。

【0047】
図1は、環状支持材(4)を外周上に有する筒状基材(2)を含む、本発明の一の実施形態のフレーム(又は骨格)(10)を模式的に示す。筒状基材(2)の外周上に環状支持材(4)が略等間隔に離間して配置されている。筒状基材(2)と環状支持材(4)は、結合されている。図1(A)は、フレーム(10)を筒状基材(2)の軸方向に切断して、切断された筒状基材(2)の内側から示したフレーム(10)を模式的に示す。図1(B)は、フレーム(10)の全体を模式的に示す。

【0048】
図2は、図1に示す筒状フレーム(10)の側面の外側と内側の両側に、多孔質コラーゲン層(12、14)を有する、本発明の一の実施形態の人工気管(20)を模式的に示す。図2(A)は、人工気管(20)をその軸方向に切断して、切断された人工気管(20)の内側から模式的に示す。図2(B)は、人工気管(20)の全体を模式的に示す。

【0049】
本発明の実施形態の人工気管は、気管及び気管分岐部の再建に好ましく使用することができる。
本発明の実施形態の人工気管は、簡単で単純な構造を有するので、より高い生体親和性を有し、より生体に取り込まれやすい。
その一方で、本発明の実施形態の人工気管は、単純で簡単な構造であるにもかかわらず、生体内部でより長期間にわたって安定であり、更に、より長期間、人工気管の内腔を維持できる力学的強度も有し、より長期に渡って、安定した性能を維持することができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的かつ詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の一態様にすぎず、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0051】
実施例1
ポリプロピレン製のメッシュ(DAVOL社製のBIRD(登録商標)mesh:バードメッシュ)を筒状の形状にして、中空の筒状基材を準備した。
直径0.994mmのポリプロピレン製のモノフィラメント(G.KRAHMER社製のMonofilamente(商品名))を上述の筒状基材にリング状(又は環状)に巻き付けて、環状支持材を筒状基材の外周上に配置した。環状支持材と筒状基材の接触箇所を加熱して溶融して融着した。更に環状支持材を、7-0プロリン糸(ポリプロピレン製外科用縫合糸、G.KRAHMER社製のMonofilamente(商品名))を用いて、筒状基材に縫合した。
同様に、約2~3mm間隔で、環状支持材を、環状基材上に配置して、環状支持材と、それを外周上に有する筒状基材を含む実施例1のフレーム(骨格)を得た。
【実施例】
【0052】
図3に、実施例1のフレームの写真を示す。図4に、実施例1のフレームの側面の外側を拡大した写真を示す。図5に、実施例1のフレームの側面の内側を拡大した写真を示す。いずれも、環状支持材が、筒状基材の外周上に配置されていることがわかる。
【実施例】
【0053】
上述の実施例1のフレームを、70%エタノールに一昼夜24時間浸した。フレームを70%エタノールから取り出した後、完全に乾燥した。フレームの表面をプラズマで処理した。フレームの外側を、コラーゲン(生後6ヶ月のブタの真皮に由来する日本ハム社製のNMPコラーゲンPSN(商品名))の1~3重量%の希塩酸(0.001N)溶液(pH=約3.0)を用いて、約20回コーティングした後、乾燥した。
【実施例】
【0054】
筒状のフレームを配置できるような、筒状の隙間を有する型枠を準備する。この型枠を図6に模式的に示す。型枠(30)は、外型(22)と中心の棒状体(24)を有し、棒状体の側面が内型(25)となる。外型(22)と内型(25)の間に隙間(27)に、コラーゲンをコーティングしたフレームを入れた。シリンジで、コラーゲン(ブタの真皮に由来する日本ハム社製のNMPコラーゲンPSN(商品名))の1~3重量%の希塩酸(0.001N)溶液(pH=約3.0)を、外型(22)と内型(25)の間に詰めた。フリーザー内で凍結した。凍結乾燥機で、凍結乾燥した。加熱による架橋処理をして、実施例1の人工気管を得た。
【実施例】
【0055】
図7は、実施例1の人工気管の写真を示す。白色の外側多孔質コラーゲン層の存在がよく分かる。外側コラーゲン層の外側直径は約4cmで、長さは約12cmであった。尚、実施例1の人工気管に血液を吸収させるとよく吸収した。
【実施例】
【0056】
図8は、実施例1の人工気管を軸方向に垂直な方向に切断した断面のコラーゲン層の走査電子顕微鏡写真(約45倍)を示す。多孔構造を有することが認められた。大小の種々の大きさの孔が観察され、それらの孔の形状も種々であった。従って、孔(形状と大きさ)は不均一であった。しかし、それらのほとんどの孔の大きさは、一般的な細胞の大きさ(約5~20μm程度)より、大きい。従って、細胞が十分にコラーゲン層内に侵入可能な構造であることがわかった。尚、このコラーゲン層は、多孔構造を有するコラーゲンの中で、薄フィルム多房構造を示していた。
【実施例】
【0057】
実施例1の人工気管を9~13kgのビーグル犬の気管に適用した。閉胸後、エアリークがないことを確認し、直ちに胸腔ドレーンを抜去した。術後は、抗生剤を一週間は筋肉注射で、その後30日間経口で投与した。ビーグル犬は、合併症を起こさずに、長期生存できた。
【実施例】
【0058】
実施例2
東レ製の直径1.0mmのナイロンモノフィラメントを上述の筒状基材にリング状に巻き付けて、環状支持材を筒状基材上に配置した以外は実施例1と同様にして、実施例2の人工気管を得た。
【実施例】
【0059】
実施例3
バードメッシュを裁断してY字形に縫製して、Y字型の筒状基材を得た。Y字型の3つの各枝に、実施例1と同様にして、環状支持材を配置して、実施例3のY字型のフレームを得た。更に、Y字型の型枠を準備して、実施例1と同様の方法を用いて、実施例3のフレームにコラーゲン層を配置して、実施例3の人工気管を得た。
【実施例】
【0060】
図8は、実施例3のフレームの写真を示す。実施例3のフレームは、分岐を有し、全体としてY字状の形態を有する。分岐の筒状基材の直径は、各々少しずつ異なるが、各々の筒状基材を、各々の環状支持材が独立してしっかりと支持することができるので、本発明の実施形態では、分岐を有するフレームでも、筒状基材の直径が変化しようと、問題無く、十分な強度で支持することができる。
【実施例】
【0061】
実施例1と同様に実施例3の人工気管を評価した。
実施例3の人工気管を9~13kgのビーグル犬の気管に適用した。ビーグル犬は、合併症を起こさずに、長期生存できた。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の人工気管は、より単純な構造を有するので、生体内で異物と認識される可能性が減少し、より生体親和性に優れ、より人体に取り込まれやすい。更に、生体に埋入後人工気管は気管上皮で覆われるので、人体と完全に一体化し得る。その一方で、本発明の実施形態の人工気管は、より単純な構造を有するにもかかわらず、より長期間内腔を維持し得る、十分な力学的強度を有するので、より長期に渡って、安定した性能を維持することができる。
【符号の説明】
【0063】
2:側面に網目を有する筒状基材
4:環状支持材
10:環状支持材と、環状支持材を外周上に有する筒状基材を含むフレーム
12:内側多孔質コラーゲン層
14:外側多孔質コラーゲン層
20:人工気管
22:外型
24:棒状体
25:内型
27:隙間
30:型枠
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8