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明細書 :皮膚外用組成物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-081720 (P2019-081720A)
公開日 令和元年5月30日(2019.5.30)
発明の名称または考案の名称 皮膚外用組成物
国際特許分類 A61K  49/00        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  21/64        (2006.01)
G01K  11/20        (2006.01)
FI A61K 49/00
G01N 33/50 Q
G01N 21/64 F
G01K 11/20
請求項の数または発明の数 8
出願形態 OL
全頁数 11
出願番号 特願2017-209230 (P2017-209230)
出願日 平成29年10月30日(2017.10.30)
発明者または考案者 【氏名】中部 主敬
【氏名】小寺 秀俊
【氏名】巽 和也
【氏名】栗山 怜子
【氏名】鈴木 基史
【氏名】名村 今日子
出願人 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 2G043
2G045
4C085
Fターム 2G043AA01
2G043BA16
2G043DA02
2G043EA01
2G043GA07
2G043HA01
2G043HA02
2G043HA07
2G043HA09
2G043JA02
2G045AA40
2G045BB21
2G045CB09
2G045FA15
2G045FB12
4C085HH11
4C085JJ02
4C085JJ03
4C085KA27
4C085KB42
4C085KB45
4C085KB74
4C085KB82
4C085LL20
要約 【課題】体温やストレス等をセンシング可能で、乳幼児にも不快感を与えにくいセンサを実現可能な皮膚外用組成物の提供。
【解決手段】好ましくは粘弾性流体である非ニュートン流体中に、蛍光物質を含む生体成分検出用試薬が含まれている、皮膚外用組成物。該試薬にはタンパク質に前記蛍光物質が固定されていることが好ましい。
【効果】体温やストレスに関する情報を長時間にわたり非接触でセンシング可能で、乳幼児にも不快感を与えにくいセンサを実現可能な皮膚外用組成物を提供することができる。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
非ニュートン流体中に、生体成分検出用試薬が含まれている、皮膚外用組成物。
【請求項2】
前記非ニュートン流体が粘弾性流体である、請求項1に記載の皮膚外用組成物。
【請求項3】
前記生体成分検出用試薬が、蛍光物質を含む、請求項1又は2に記載の皮膚外用組成物。
【請求項4】
前記生体成分検出用試薬が、タンパク質に前記蛍光物質が固定されている、請求項3に記載の皮膚外用組成物。
【請求項5】
クリーム剤形である、請求項1~4のいずれか1項に記載の皮膚外用組成物。
【請求項6】
皮膚塗布用組成物である、請求項1~5のいずれか1項に記載の皮膚外用組成物。
【請求項7】
温度センシング剤である、請求項1~6のいずれか1項に記載の皮膚外用組成物。
【請求項8】
被検体の温度を測定する方法であって、
(1)請求項1~7のいずれか1項に記載の皮膚外用組成物を被検体の皮膚に塗布する工程、
(2)前記生体成分検出用試薬から発せられた垂直及び平行方向の蛍光強度を計測して偏光度を算出する工程
を備える、方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚外用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
健康管理や乳幼児・高齢者の見守りのため、非接触で日常的にライフログを取得する技術が普及しつつある。ライフログの構成要素として体温は最も重要な情報源の一つである。
【0003】
従来の体温計は、人体に直接接触させ体温を測定する器具が主流である。しかしながら、このような従来の体温計は、人体と直接接触させる必要があり、熱平衡温度に達するまでの時間がかかる。このため、乳幼児の体温を測定する際には不快感を与え、泣きやすかったり、じっとしていなかったりするために体温を正確に測定することは困難である。
【0004】
また、体温計としては、腕に巻き付けたり貼り付けたりするフィルム状の温度センサを用いた体温計や、感温液晶シートを用いた体温計も知られているが、いずれも固く吸湿性もないため、装着時に違和感があり、従来の体温計と同様に特に乳幼児のライフログの取得には不向きである。
【0005】
一方、このような違和感を解消するため、非接触型の体温計として、摂氏温度で画像表示できるような赤外線カメラも市販されている。しかし、測定者が対象者を特定して個別に測定する必要があり、長時間にわたるライフログの記録には不向きである。
【0006】
このように、体温やストレスに関する情報を長時間にわたり非接触で取得でき、乳幼児にも不快感を与えにくいセンシング技術は未だ存在しない。
【0007】
ところで、蛍光分子に直線偏光された励起光を照射した場合、その偏光方向に平行な励起モーメントを持つ分子が選択的に励起する。励起する度合は図1(a)に示す励起モーメントと励起光の偏光方向の角度θ に依る。θ が増大すると吸光度がcos2θ の関係で減少し、励起モーメントが偏光方向(図中のz方向)に平行である場合(θ=0)に最大となる。逆に励起モーメントが偏光方向と垂直(x, y方向)である場合、蛍光分子は励起しない。
【0008】
蛍光分子が発する蛍光は励起モーメントと同方向の偏光特性を持つ。したがって、無数の蛍光分子が存在し、その励起モーメントの方向がランダムである場合、直線偏光した励起光により同方向の励起モーメントを持つ分子が統計的に励起し、同じ統計分布で偏光した蛍光を発する。
【0009】
蛍光分子が液体に懸濁・溶解している場合、分子は回転ブラウン運動する。分子が励起し蛍光を発する間に分子が回転するため、励起モーメントの方向が変化する。この回転運動はランダムであるため、図1(b)に示すように静止状態の分子と比較して蛍光の偏光方向の分布が緩和する。これがブラウン運動による偏光解消である。偏光解消の特性とその要因との関係については、励起光の偏光方向に対して平行及び垂直方向の蛍光強度をそれぞれI及びIとし、P=(I-I)/(I+I)と定義される偏光度Pを用いて、回転ブラウン運動によるPの偏光解消は式(1)で表されることが知られている。
【0010】
【数1】
JP2019081720A_000002t.gif

【0011】
式中、P0は蛍光分子が静止状態の偏光度、kBはボルツマン定数、Tは溶液温度、τは蛍光寿命、μは溶液の粘性係数、Vは蛍光分子の体積である。この式はPerrinにより導出され、回転ブラウン運動をする蛍光分子の偏光度Pと静止蛍光分子の偏光度P0、及び流体の物性と分子の見掛けの大きさの関係を示す式である。水溶液系の場合は、溶液の粘性係数μは温度にほとんど依存しないので、測定中に蛍光分子の体積Vと蛍光寿命τとが一定であれば1/PはTに比例する。つまり、あらかじめ水溶液の温度と蛍光分子の偏光度との関係を求めておけば、水溶液の偏光度Pを計測することにより水溶液の温度Tを求めることが可能である。ただし、水溶液の場合、皮膚に塗布しても、所望の箇所に留らず、揮発により蛍光分子のブラウン運動が困難となるため、体温等を計測することはやはり困難である。
【0012】
一方、水溶液系ではなく粘弾性流体等の非ニュートン流体を用いた系によれば皮膚に塗布して所望の箇所に留まらせることは可能である。ところが、この場合は溶液の内部構造や高い粘性のためにやはりブラウン運動が阻害されることが予想され、水溶液系の場合と同様に偏光度Pを計測することで温度Tを求めることができるかどうかは知られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記のような課題を解決しようとするものであり、体温やストレスに関する情報を長時間にわたり非接触でセンシング可能で、乳幼児にも不快感を与えにくいセンサを実現可能な皮膚外用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意研究を行った結果、非ニュートン流体中に、生体成分検出用試薬が含まれている、皮膚外用組成物を用いることで、例えば乳幼児の皮膚に塗布した場合にも不快感を与えず、また、長時間にわたり体温等をセンシング可能であることを見出した。本発明者らは、このような知見に基づき、さらに研究を重ね、本発明を完成した。すなわち、本発明は、以下の構成を包含する。
項1.非ニュートン流体中に、生体成分検出用試薬が含まれている、皮膚外用組成物。
項2.前記非ニュートン流体が粘弾性流体である、項1に記載の皮膚外用組成物。
項3.前記生体成分検出用試薬が、蛍光物質を含む、項1又は2に記載の皮膚外用組成物。
項4.前記生体成分検出用試薬が、タンパク質に前記蛍光物質が固定されている、項3に記載の皮膚外用組成物。
項5.クリーム剤形である、項1~4のいずれか1項に記載の皮膚外用組成物。
項6.皮膚塗布用組成物である、項1~5のいずれか1項に記載の皮膚外用組成物。
項7.温度センシング剤である、項1~6のいずれか1項に記載の皮膚外用組成物。
項8.被検体の温度を測定する方法であって、
(1)項1~7のいずれか1項に記載の皮膚外用組成物を被検体の皮膚に塗布する工程、
(2)前記生体成分検出用試薬から発せられた垂直及び平行方向の蛍光強度を計測して偏光度を算出する工程
を備える、方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、体温やストレスに関する情報を長時間にわたり非接触でセンシング可能で、乳幼児にも不快感を与えにくいセンサを実現可能な皮膚外用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】定常状態と、溶液中に溶解した場合の分子の蛍光の偏光特性を示す。分子の回転ブラウン運動により、2つの分子条件の間で、蛍光の偏光方向と偏光励起光の方向との間の角度の確率密度分布が異なる。これは、分子の大きさ、流体の粘度及び温度に依存するが、蛍光強度の影響を受けにくい。
【図2】本発明の皮膚外用組成物をクリーム剤形とした場合の概略図である。
【図3】実施例において計測に用いた光学系の概略図である。
【図4】界面活性剤濃度CDの偏光度Pに対する効果を示すグラフである。対イオン濃度CSとの比CS/CDを0.5としている。参考のため、Dextran 40及びポリエチレングリコール4000を用いた場合も示す。
【図5】皮膚外用組成物からなるクリームの量Qの偏光度P及び蛍光強度Iに対する効果を示すグラフである。P100とI100はQ= 100μLでの測定値である。
【図6】温度Tと偏光度Pとの関係を示すグラフである。
【図7】図6と同じ条件で撮影した蛍光偏光計測の風景写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。また、本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、A以上B以下を意味する。

【0018】
1.皮膚外用組成物
本発明の皮膚外用組成物は、非ニュートン流体中に、生体成分検出用試薬が含まれている。

【0019】
非ニュートン流体としては、粘弾性流体、指数則流体、時間依存性粘度流体等が挙げられる。これらのなかでも、皮膚に塗布しやすく、所望の箇所に留まらせることができる観点から、粘弾性流体が好ましい。これらの非ニュートン流体は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。

【0020】
なお、本明細書において粘弾性流体とは、粘性と弾性の両方(粘弾性)を持つ流体をいう。

【0021】
非ニュートン流体として粘弾性流体を用いる場合、その種類は特に制限されないが、使用する生体成分検出用試薬と相溶性に優れるものを使用することが好ましい。また、上記した式(1)によれば、1/PはT/μに比例することから、被検体の体温を正確に測定するには温度によって粘弾性があまり変化しない流体であるか、温度による粘弾性の変化が既知である流体が好ましい。本発明に好適に使用できる非ニュートン流体の一例として、陽イオン性界面活性剤とミセル形成誘起物質とを含むものが挙げられる。

【0022】
このような組成の非ニュートン性流体を構成する陽イオン性界面活性剤としては、第4級アンモニウム塩が好ましく、例えば、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)、セチルトリメチルアンモニウムクロリド(CTAC)、セチルピリジニウムクロリド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロミド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロリド、オクタデシルピリジニウムクロリド等が挙げられる。これらの陽イオン性界面活性剤は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。また、これらの陽イオン性界面活性剤は公知又は市販品を使用することができる。

【0023】
ミセル形成誘起物質としては、上記の陽イオン性界面活性剤とともに溶液中で、ミセル構造を変化させて後述の紐状ミセルを形成することができる物質が好ましく、例えば、サリチル酸ナトリウム等のサリチル酸塩、臭化ナトリウム、塩化ナトリウム、フタル酸水素塩等が挙げられる。これらのミセル形成誘起物質は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。また、これらのミセル形成誘起物質は公知又は市販品を使用することができる。

【0024】
このような陽イオン性界面活性剤に上記した芳香族化合物を添加すると、陽イオン性界面活性剤が構成するミセルの形状が変化することで溶液の粘度が上昇し、粘弾性挙動を示す粘弾性流体を得ることができる。これは、溶液中で陽イオン性界面活性剤と添加剤とが紐状ミセルを形成し、この紐状ミセルが粘弾性を有するためである。このような性質の粘弾性流体は、特に陽イオン性界面活性剤の濃度を調整することにより粘度を調整することが可能であり、塗布した皮膚に留まりやすいクリーム剤形とすることも可能である。このため、界面活性剤及びミセル形成誘起物質の濃度については、要求される特性に応じて適宜設定することが好ましい。

【0025】
なお、本発明で使用する非ニュートン流体は、揮発すると後述する蛍光分子のブラウン運動が妨げられ、蛍光偏光測定が困難となることから、揮発性の低いことが好ましい。ただし、温度センシング剤として使用する場合には水分蒸発量の影響は無視できるため、非ニュートン流体の揮発性は特に制限されない。なお、見守りセンシング剤やストレスセンシング剤として使用する場合であっても、外気に触れる表面に膜が張って蒸発を抑えるように設計すれば、蛍光物質のブラウン運動が阻害されないため、この場合も非ニュートン流体の揮発性は特に制限されない。

【0026】
また、本発明で使用する非ニュートン流体は、後述する蛍光物質等の生体成分検出用試薬を含むことから、蛍光物質等の蛍光を吸収せず、可視光領域の吸収が少なく、透明度の高いものであることが好ましい。

【0027】
一方、生体成分検出用試薬は、検出しようとする生体成分に応じて適宜調整することが好ましい。被検体の体温等の情報を得ようとする場合は、蛍光物質が発する蛍光の偏光度から対象の体温等を算出することができることから、この場合は生体成分検出用試薬として、蛍光物質を含むことが好ましい。

【0028】
使用できる蛍光物質としては、特に制限はなく、従来から公知の蛍光分子を使用することができる。例えば、テトラメチルローダミン、ローダミンB、ロドール、フルオレセイン、ジブロモフルオレセイン、ジクロロフルオレセイン、インドシアニングリーン等が挙げられる。これらの蛍光分子は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。また、これらの蛍光分子は公知又は市販品を使用することができる。

【0029】
蛍光物質の体積Vが増加すると、偏光度Pも増加することが知られており、蛍光強度測定におけるS/N比が向上する。このため、生体成分検出用試薬が蛍光物質を含む場合、蛍光物質は体積Vが大きいことが好ましい。例えば、タンパク質に複数の蛍光分子を固定して使用することにより、体積Vを増加し、蛍光強度測定のS/N比を向上することができ、好ましい。蛍光分子を結合させるタンパク質は特に制限されないが、例えば、カゼイン、コラーゲン、ゼラチン、プロテオグリカン、フィブロネクチン、ラミニン、エラスチン、アルブミン誘導体、卵白アルブミン誘導体、トランスフェニン誘導体等が挙げられる。これらのタンパク質は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。

【0030】
本発明において、非ニュートン流体中の生体成分検出用試薬の濃度は特に制限されないが、被検体の体温を測定するために、蛍光物質を用いる場合、大きな蛍光強度を得るためには蛍光分子の濃度は高い方が良い。しかし、蛍光物質中に蛍光分子が密集して存在すると、FRETが起こり偏光解消が生じる。このため、蛍光物質として複数の蛍光分子が結合したタンパク質を調製する場合、蛍光分子を適切な範囲で標識することが好ましい。

【0031】
本発明の皮膚外用組成物には、上記非ニュートン流体、生体成分検出用試薬及びタンパク質分解酵素以外にも、種々様々な物質を含ませることが可能である。このような物質としては、例えば、キレート剤、酸化防止剤、抗菌剤等が挙げられる。これらの物質の濃度は、本発明の効果を損なわない範囲で調整することができる。

【0032】
このような本発明の皮膚外用組成物によれば、生体成分検出用試薬からの偏光度を計測することにより、対象の温度を計測することが可能である。このため、本発明の皮膚外用組成物によれば、ヒトの体温、皮膚表面からの分泌物に含まれるホルモンやストレスマーカー等の物質からの情報を検出することが可能である。

【0033】
このような本発明の皮膚外用組成物の剤形は特に制限されないが、例えば、クリーム、ローション、ジェル、乳液、軟膏等(特にクリーム)の剤形の皮膚外用組成物(特に皮膚塗布用組成物)とすることができる。また、ボトル、ジャー、チューブ、ポンプ、スティック、ロールオン、エアゾール等の形態を取ることができる。本発明の皮膚外用組成物は、外部から光を当てると温度や物質濃度に応じた偏光度Pの光を発する。つまり、本発明の皮膚外用組成物を温度センシング剤として使用する場合、非接触型の光学計測系と組合せることにより、長時間にわたり安全で利便性の高いセンシングを行うことができる。例えば、スマートフォンのカメラに偏光フィルタを装着して、本発明の皮膚概要組成物から生じる蛍光偏光を測定し、体温やストレスレベル等への換算が可能なアプリを用いることで、ヒトの健康状態を日常的に、簡便にモニター、管理することで異常を検知することが可能である。乳幼児や入院中の方、健康状態に不安のある高齢者などをさりげなく見守ることができ、異常時には素早い対処が可能となる。

【0034】
本発明の皮膚外用組成物を塗布する対象は蛍光偏光を測定できる外部に接した面であれば特に制限されないが、体温やストレスレベル等の健康状態を日常的に、簡便にモニター、管理す観点から、就寝時の乳幼児や高齢者の肌に塗布した場合に有効である。スマートフォンの使用を前提としない場合にも、部屋に光の照射器と検出器を備えるシステムを構築し、見守りセンサとしても利用できることが期待される。

【0035】
2.被検体の温度を測定する方法
本発明の被検体の温度を測定する方法は、
(1)本発明の皮膚外用組成物を被検体の皮膚に塗布する工程、
(2)前記生体成分検出用試薬から発せられた垂直及び平行方向の蛍光強度を計測して偏光度を算出する工程
を備える。

【0036】
工程(1)において、本発明の皮膚外用組成物を被検体の皮膚に塗布する方法は特に制限されない。例えば、本発明の皮膚外用組成物を投入したボトル、ジャー、チューブ、ポンプ、スティック、ロールオン、エアゾール等の容器から直接、又は適量手に取った後に、所望の箇所に塗布することができる。

【0037】
次に、生体成分検出用試薬から発せられた垂直及び平行方向の蛍光強度を計測して偏光度を算出する。

【0038】
具体的には、平行及び垂直方向の蛍光強度をそれぞれI及びIとし、偏光度PはP=(I-I)/(I+I)と定義されるため平行及び垂直方向の蛍光強度から算出することができる。次に、あらかじめ、偏光度Pと温度Tとの関係を計測しておくと、上記により得られた偏光度Pの値から温度Tを見積もることができる。温度Tをより正確に算出するため、平行方向の蛍光強度Iと垂直方向の蛍光強度Iをそれぞれ複数回測定して偏光度Pの積算値を得、それに基づいて温度Tを算出することが好ましい。
【実施例】
【0039】
以下、実施例等を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0040】
実験手法
図3 に計測に用いた光学系の概略図を示す。正立型顕微鏡(オリンパス(株)製のBX-51)を用い、LED(Thorlabs社製のM565L3)を光源として落射蛍光観察で偏光度測定を行った。励起光は偏光コンデンサ(オリンパス(株)製のU-POC-3)により偏光し、励起フィルタ(シグマ光機(株)製のYIF-BP530-550S)を通し試料に照射した。試料の蛍光は10 倍対物レンズ、蛍光フィルタ(オリンパス(株)製のBA580IF)、電動回転制御の偏光フィルタ(オリンパス(株)製のLP40120)を通してフォトマルチプライヤ(浜松ホトニクス(株)製のH5783-03)で測定した。
【実施例】
【0041】
皮膚外用組成物の試料はカバーガラスに滴下し、それを恒温ステージ上に設置して測定を行った。試料の左右5mm の位置に設置したK 型熱電対を用いて温度を計測した。
【実施例】
【0042】
実験で用いた溶液
界面活性剤水溶液としては、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB;東京化成工業(株)製のH0081)とサリチル酸ナトリウム(NaSal;ナカライテスク(株)製の31821-45)の水溶液(以下、「CN水溶液」と言うこともある)を用いた。CN水溶液中のCTABの濃度をCD、NaSalの濃度をCSとする。CN 水溶液の濃度の影響の検討では、CD= 0.0~0.30mol/Lの範囲で測定した。一方、液滴の量と温度による偏光度による影響の測定ではその結果からCD= 0.1mol/Lとした。これらの測定では、いずれもCS/CD= 0.5 で一定とした。蛍光分子としてはローダミンB(キシダ化学(株)製の000-68232)を用い、その濃度は2.0×10-4mol/Lとした。
【実施例】
【0043】
界面活性剤濃度と偏光度の相関
CN 水溶液の濃度が偏光特性に与える影響を検討するためにCS/CD= 0.5を一定としてCDとCSを変化させて偏光度を測定した。温度はT= 30℃、液滴量はQ= 200μLとした。図4に得られたPとCDの関係を示す。図中の黒丸と白丸記号はLaurent らによるDextran40(分子量42400)水溶液とポリエチレングリコール4000(分子量3700)水溶液でのフルオレセインの偏光測定結果(Eur. J. Biochem 28 (1972), 94-101.)である。
【実施例】
【0044】
全ての溶液で、高分子(Dextran40又はポリエチレングリコール4000)又は界面活性剤(CTAB/NaSal)濃度が増加すると偏光度が増加した。高分子又は界面活性剤濃度により高分子又は界面活性剤濃度(紐状ミセル)の絡み合いの網目構造が変化し溶液の見かけの粘性は変化するためと想定される。しかしながら、使用した蛍光分子の寸法が約1.5nm であることから、蛍光分子の運動は溶液のマクロな粘性よりも、網目間におけるミクロな空間の流体粘性及び蛍光分子と高分子との接触の影響を強く受ける。蛍光分子の回転運動も蛍光分子と高分子又は界面活性剤との相互作用により抑制されることから、CDと共にPが増加したと考えられる。
【実施例】
【0045】
ここで、高分子又は界面活性剤溶液中の粒子の拡散運動と高分子又は界面活性剤濃度Cとの関係は式(2)で表すことができる(Physical review E, 67 (2003))。
【実施例】
【0046】
【数2】
JP2019081720A_000003t.gif
【実施例】
【0047】
DlとD0はそれぞれ高分子又は界面活性剤溶液中の拡散係数と溶媒のみでの拡散係数であり、Rは粒子の半径である。また、a、α及びβは定数である。ここで、粒子の拡散運動が抑制されると粒子の回転ブラウン運動も低下すると仮定して、式(2)からPとCとの関係を式(3)のように求めた。
【実施例】
【0048】
【数3】
JP2019081720A_000004t.gif
【実施例】
【0049】
a、b、α、β及びAは定数である。Rとαは一定であるため、bRαを一つの定数としてA= bRαのように置き、CにCDを用いた。PaはCDの増加に対してPが漸近する値である。式(3)を用いて曲線回帰した結果が図4 中の黒色の実線である。測定結果と回帰曲線は良好に一致し、蛍光分子の回転運動はミクロな空間の流体粘性と高分子との接触の影響を強く受けると言える。
【実施例】
【0050】
ここで、CN 水溶液の場合ではCDの増加に伴いPは約0.22 に漸近した。これは回転ブラウン運動が抑制され蛍光分子が静止したためと考えられる。一方、静止状態の蛍光分子のPはPa= P0= 0.5となる。これに対して測定でPa= 0.22となるのは、以下の理由が考えられる。溶液中の蛍光分子濃度が高くなると蛍光分子間で蛍光共鳴エネルギー移動が生じ、蛍光偏光度が小さくなる濃度偏光解消が生じる。本測定の蛍光分子濃度の場合、この影響により偏光度が20%程度減少すると考えられる。さらに紐状ミセルの網目構造は蛍光分子の並進運動を顕著に抑制する一方、回転運動は完全には静止していない可能性がある。これらの結果から、以下、CDとして0.1mol/Lを用いた。
【実施例】
【0051】
液滴量による蛍光偏光度及び蛍光強度への影響
図5 に液滴量(皮膚外用組成物からなるクリームの量)Qに対する偏光度Pと蛍光強度I(= I+ 2I)の分布を示す。P100とI100はQ= 100μLでの測定値であり、エラーバーは95%信頼区間を表す。温度はT= 30℃である。
【実施例】
【0052】
P/P100は、Q= 100~250μLの範囲で変化量は最大で0.16%であった。一方、I/I100は最大で約10%減少した。Qが増加するに従いIは減少するが、これは液滴(皮膚外用組成物からなるクリーム)の厚みの増加により励起光照射と蛍光観察の焦点位置が変化したこと、及び蛍光が他の蛍光分子に再吸収される現象が原因であると考えられる。
【実施例】
【0053】
P/P100とI/I100のエラーバーの大きさの平均はそれぞれ、±0.8%及び4.4%であった。Pを求めるときにIで規格化しており、蛍光分子の回転ブラウン運動を測定しているため液量の変化の影響を受けなかった。以上のように蛍光偏光度の測定では液滴量による測定の信頼性への影響は蛍光強度測定よりも減少した。
【実施例】
【0054】
温度と蛍光偏光度及び蛍光強度の相関
図6 に温度Tと偏光度Pの関係を示す。液滴量(皮膚外用組成物からなるクリームの量)はQ= 200μLとした。図中の実線は最小二乗法によって求めた回帰直線を表す。図では、Tの上昇に伴い1/Pが単調に増加し、Pが単調に減少した。これは温度上昇により蛍光分子の回転ブラウン運動が大きくなり偏光解消が増大したためである。また、1/P及びPとTとは線形関係にあった。なお、温度測定の精度の指標として各エラーバーの大きさの平均値を校正直線の傾きで割った値は±1.62℃であった。また、この試験と同じ条件で撮影した蛍光偏光計測の風景写真を図7に示す。ここでは、きれいに写るように、液適量を多めに調整し、撮影用の光も入れている。
【実施例】
【0055】
以上から、蛍光偏光度と界面活性剤濃度の関係をモデル化し、実験結果と良好に一致することを示した。また、蛍光強度と比較して蛍光偏光度は液滴量の影響を受けにくく温度測定の信頼性が高いことを示した。また、クリーム状のCTAB/NaSal 水溶液において蛍光偏光度と温度に相関があることを示した。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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