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明細書 :無線通信システムおよび無線通信方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-196043 (P2018-196043A)
公開日 平成30年12月6日(2018.12.6)
発明の名称または考案の名称 無線通信システムおよび無線通信方法
国際特許分類 H04W  52/24        (2009.01)
H04W  84/12        (2009.01)
H04W  74/08        (2009.01)
FI H04W 52/24
H04W 84/12
H04W 74/08
請求項の数または発明の数 10
出願形態 OL
全頁数 13
出願番号 特願2017-099702 (P2017-099702)
出願日 平成29年5月19日(2017.5.19)
発明者または考案者 【氏名】アベセカラ ヒランタ
【氏名】篠原 笑子
【氏名】福園 隼人
【氏名】松井 宗大
【氏名】鷹取 泰司
【氏名】溝口 匡人
【氏名】山本 高至
【氏名】尹 博
出願人 【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100072718、【弁理士】、【氏名又は名称】古谷 史旺
【識別番号】100151002、【弁理士】、【氏名又は名称】大橋 剛之
【識別番号】100201673、【弁理士】、【氏名又は名称】河田 良夫
審査請求 未請求
テーマコード 5K067
Fターム 5K067AA03
5K067CC02
5K067EE02
5K067EE10
5K067FF16
5K067GG08
要約 【課題】共用無線周波数帯を用いる無線通信局が密集している環境において、スループットに対するエネルギー効率を最大化する最適なパラメータ値を設定する方法を提供する。
【解決手段】共用周波数帯上で無線通信を行う複数の無線通信局を備えた無線通信システムにおいて、無線通信局は、周辺の無線環境情報および宛先通信局における信号電力対干渉電力比SINRの情報を取得する無線環境情報取得手段と、宛先通信局におけるSINRに応じて、スループットに対するエネルギー効率が最大となる自局の送信電力値およびキャリアセンス閾値の補正値を同時に算出して設定するパラメータ設定手段とを備える。
【選択図】図3
特許請求の範囲 【請求項1】
共用周波数帯上で無線通信を行う複数の無線通信局を備えた無線通信システムにおいて、
前記無線通信局は、
周辺の無線環境情報および宛先通信局における信号電力対干渉電力比SINRの情報を取得する無線環境情報取得手段と、
前記宛先通信局における前記SINRに応じて、スループットに対するエネルギー効率が最大となる自局の送信電力値およびキャリアセンス閾値の補正値を同時に算出して設定するパラメータ設定手段と
を備えたことを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
請求項1に記載の無線通信システムにおいて、
前記パラメータ設定手段は、無線通信局iにおけるリンクゲインGii、送信電力値の最大値Pおよびキャリアセンス閾値の最小値Θの補正値ai から無線通信局iの宛先通信局におけるSINR値γi を求め、さらに伝送帯域B、SINR値γi 、送信時間割合ρi からスループットri を求め、さらにフレーム送信に係る消費電力P/ai・ρiに応じてスループットri に対する前記エネルギー効率ηi
ηi =スループット/フレーム送信に係る消費電力
=ri /(P/ai・ρi
=B・log2(1+PGii/Θai2)・ρi/(P/ai・ρi)
であるときに、該エネルギー効率ηi が最大となる補正値ai を算出する構成である
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項3】
請求項1に記載の無線通信システムにおいて、
前記パラメータ設定手段は、無線通信局iにおけるリンクゲインGii、送信電力値の最大値Pおよびキャリアセンス閾値の最小値Θの補正値ai から無線通信局iの宛先通信局におけるSINR値γi を求め、さらに伝送帯域B、SINR値γi 、送信時間割合ρi からスループットri を求め、さらにフレーム送信に係る消費電力P/ai・ρi、フレーム送信以外の消費電力Pc に応じて、スループットri に対する前記エネルギー効率ηi
ηi =スループット/(フレーム送信に係る消費電力+フレーム送信以外の消費電力) =ri /(P/ai・ρi+Pc
=B・log2(1+PGii/Θai2)・ρi /(P/ai・ρi+Pc
であるときに、該エネルギー効率ηi が最大となる補正値ai を算出する構成である
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の無線通信システムにおいて、
前記スループットri は、前記B・log2(1+PGii/Θai2)・ρi に替えて、
B・log2(1+PGii/Θai2)/(周辺の周波数共用の無線通信局数)として求め、 前記フレーム送信に係る消費電力は、P/ai ・ρi に替えて、
P/ai ・(チャネルアクセス確率)として求める
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項5】
請求項2または請求項3に記載の無線通信システムにおいて、
前記パラメータ設定手段は、前記無線通信局iの周辺に周波数共用の無線通信局があるとき、自局および周辺の無線通信局で計算されるスループットに対するエネルギー効率の評価値が最大になる補正値ai を算出する構成である
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項6】
共用周波数帯上で無線通信を行う複数の無線通信局を備えた無線通信方法において、
前記無線通信局は、
周辺の無線環境情報および宛先通信局における信号電力対干渉電力比SINRの情報を取得する無線環境情報取得ステップと、
前記宛先通信局における前記SINRに応じて、スループットに対するエネルギー効率が最大となる自局の送信電力値およびキャリアセンス閾値の補正値を同時に算出して設定するパラメータ設定ステップと
を有することを特徴とする無線通信方法。
【請求項7】
請求項6に記載の無線通信方法において、
前記パラメータ設定ステップは、無線通信局iにおけるリンクゲインGii、送信電力値の最大値Pおよびキャリアセンス閾値の最小値Θの補正値ai から無線通信局iの宛先通信局におけるSINR値γi を求め、さらに伝送帯域B、SINR値γi 、送信時間割合ρi からスループットri を求め、さらにフレーム送信に係る消費電力P/ai・ρiに応じてスループットri に対する前記エネルギー効率ηi
ηi =スループット/フレーム送信に係る消費電力
=ri /(P/ai・ρi
=B・log2(1+PGii/Θai2)・ρi/(P/ai・ρi)
であるときに、該エネルギー効率ηi が最大となる補正値ai を算出する
ことを特徴とする無線通信方法。
【請求項8】
請求項6に記載の無線通信方法において、
前記パラメータ設定ステップは、無線通信局iにおけるリンクゲインGii、送信電力値の最大値Pおよびキャリアセンス閾値の最小値Θの補正値ai から無線通信局iの宛先通信局におけるSINR値γi を求め、さらに伝送帯域B、SINR値γi 、送信時間割合ρi からスループットri を求め、さらにフレーム送信に係る消費電力P/ai・ρi、フレーム送信以外の消費電力Pc に応じて、スループットri に対する前記エネルギー効率ηi
ηi =スループット/(フレーム送信に係る消費電力+フレーム送信以外の消費電力) =ri /(P/ai・ρi+Pc
=B・log2(1+PGii/Θai2)・ρi /(P/ai・ρi+Pc
であるときに、該エネルギー効率ηi が最大となる補正値ai を算出する
ことを特徴とする無線通信方法。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載の無線通信方法において、
前記スループットri は、前記B・log2(1+PGii/Θai2)・ρi に替えて、
B・log2(1+PGii/Θai2)/(周辺の周波数共用の無線通信局数)として求め、 前記フレーム送信に係る消費電力は、P/ai ・ρi に替えて、
P/ai ・(チャネルアクセス確率)として求める
ことを特徴とする無線通信方法。
【請求項10】
請求項7または請求項8に記載の無線通信方法において、
前記パラメータ設定ステップは、前記無線通信局iの周辺に周波数共用の無線通信局があるとき、自局および周辺の無線通信局で計算されるスループットに対するエネルギー効率の評価値が最大になる補正値ai を算出する
ことを特徴とする無線通信方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、無線LAN(Local Area Network)の稠密環境において、各無線局のCSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance)制御に起因するスループットの低下を改善する無線通信システムおよび無線通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコンやスマートフォン等の持ち運び可能で高性能な無線端末の普及により企業や公共スペースだけではなく、一般家庭でもIEEE802.11標準規格の無線LANが広く使われるようになっている。IEEE802.11標準規格の無線LANには、 2.4GHz帯を用いるIEEE802.11b/g/n 規格の無線LANと、5GHz帯を用いるIEEE802.11a/n/ac規格の無線LANがある。
【0003】
IEEE802.11b規格やIEEE802.11g規格の無線LANでは、2400MHzから2483.5MHz間に5MHz間隔で13チャネルが用意されている。ただし、同一場所で複数のチャネルを使用する際は、干渉を避けるためスペクトルが重ならないようにチャネルを使用すると最大で3チャネル、場合によっては4チャネルまで同時に使用できる。
【0004】
IEEE802.11a規格の無線LANでは、日本の場合は、5170MHzから5330MHz間と、5490MHzから5710MHz間で、それぞれ互いに重ならない8チャネルおよび11チャネルの合計19チャネルが規定されている。なお、IEEE802.11a規格では、チャネル当たりの帯域幅が20MHzに固定されている。
【0005】
無線LANの最大伝送速度は、IEEE802.11b規格の場合は11Mbps であり、IEEE802.11a規格やIEEE802.11g規格の場合は54Mbps である。ただし、ここでの伝送速度は物理レイヤ上での伝送速度である。実際にはMAC(Medium Access Control )レイヤでの伝送効率が50~70%程度であるため、実際のスループットの上限値はIEEE802.11b規格では5Mbps 程度、IEEE802.11a規格やIEEE802.11g規格では30Mbps 程度である。また、伝送速度は、情報を送信しようとする無線局が増えればさらに低下する。
【0006】
一方で、有線LANでは、Ethernet(登録商標)の100Base-T インタフェースをはじめ、各家庭にも光ファイバを用いたFTTH(Fiber to the home)の普及から、 100Mbps ~1Gbps 級の高速回線の提供が普及しており、無線LANにおいても更なる伝送速度の高速化が求められている。
【0007】
そのため、2009年に標準化が完了したIEEE802.11n規格では、これまで20MHzと固定されていたチャネル帯域幅が最大で40MHzに拡大され、また、空間多重送信技術(MIMO:Multiple input multiple output)技術の導入が決定された。IEEE802.11n規格で規定されているすべての機能を適用して送受信を行うと、物理レイヤでは最大で 600Mbps の通信速度を実現可能である。
【0008】
さらに、2013年に標準化が完了したIEEE802.11ac規格では、チャネル帯域幅を80MHzや最大で 160MHz(または80+80MHz)まで拡大することや、空間分割多元接続(SDMA:Space Division Multiple Access)を適用したマルチユーザMIMO(MU-MIMO)送信方法の導入が決定している。IEEE802.11ac規格で規定されているすべての機能を適用して送受信を行うと、物理レイヤでは最大で約 6.9Gbps の通信速度を実現可能である。
【0009】
IEEE802.11規格の無線LANは、 2.4GHz帯または5GHz帯の免許不要な周波数帯で運用するため、IEEE802.11規格の無線基地局は、無線LANセル(BSS:Basic Service Set )を形成する際に、自無線基地局で対応可能な周波数チャネルの中から1つの周波数チャネルを選択して運用する。
【0010】
自セルで使用するチャネル、帯域幅およびそれ以外のパラメータの設定値および自無線基地局において対応可能なその他のパラメータは、定期的に送信するBeaconフレームや、無線端末から受信するProbe Request フレームに対するProbe responseフレーム等に記載し、運用が決定された周波数チャネル上でフレームを送信し、配下の無線端末および周辺の他無線局に通知することで、セルの運用を行っている。
【0011】
無線基地局において、周波数チャネルや帯域幅およびその他のパラメータの選択および設定方法には、次の4つの方法がある。
(1) 無線基地局の製造メーカで設定されたデフォルトのパラメータ値をそのまま使用する方法
(2) 無線基地局を運用するユーザが手動で設定した値を使用する方法
(3) 各無線基地局が起動時に自局において検知する無線環境情報に基づいて自律的にパラメータ値を選択して設定する方法
(4) 無線LANコントローラなどの集中制御局で決定されたパラメータ値を設定する方法
【0012】
また、同一場所で同時に使えるチャネル数は、通信に用いるチャネル帯域幅によって、 2.4GHz帯の無線LANでは3つ、5GHz帯の無線LANでは2つ,4つ,9つ,または19のチャネルになるので、実際に無線LANを導入する際には無線基地局が自BSS内で使用するチャネルを選択する必要がある(非特許文献1)。
【0013】
チャネル帯域幅を40MHz、80MHz、 160MHzまたは80+80MHzと広くする場合、5GHz帯において同一場所で同時に使えるチャネル数は、チャネル帯域幅が20MHzで19チャネルだったものが、9チャネル、4チャネル、2チャネルと少なくなる。すなわち、チャネル帯域幅が増加するにつれて、使えるチャネル数が低減することになる。
【0014】
使用可能なチャネル数よりもBSS数が多い無線LANの稠密環境では、複数のBSSが同一チャネルを使うことになる(OBSS:Overlapping BSS )。そのため無線LANでは、CSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance)を用いて、キャリアセンスによりチャネルが空いているときにのみデータの送信を行う自律分散的なアクセス制御が使われている。
【0015】
具体的には、送信要求が発生した無線局は、まず所定のセンシング期間(DIFS:Distributed Inter-Frame Space )だけキャリアセンスを行って無線媒体の状態を監視し、この間に他の無線局による送信信号が存在しなければ、ランダム・バックオフを行う。無線局は、引き続きランダム・バックオフ期間中もキャリアセンスを行うが、この間にも他の無線局による送信信号が存在しない場合に、チャネルの利用権を得る。なお、他の無線局による送受信は、予め設定されたキャリアセンス閾値よりも大きな信号を受信するか否かで判断される。チャネルの利用権を得た無線局は、同一BSS内の他の無線局にデータを送信し、またそれらの無線局からデータを受信できる。このようなCSMA/CA制御を行う場合、同一チャネルを使用する無線LANの稠密環境では、キャリアセンスによりチャネルがビジーになる頻度が高くなるためスループットが低下する。したがって、周辺環境をモニタリングし、使用するチャネル、送信電力値、キャリアセンス閾値、減衰値などを適切に選択することが重要になる。
【0016】
無線基地局におけるチャネルの選択方法は、IEEE802.11標準規格で定まっていないため、各ベンダーが独自の方法を採用しているが、最も一般的なチャネル選択方法としては、干渉電力の最も少ないチャネルを自律分散的に選択する方法がある。無線基地局は、一定期間すべてのチャネルをキャリアセンスして最も干渉電力が小さいチャネルを選択し、選択したチャネル上で配下の端末装置とデータの送受信を行う。なお、干渉電力とは、近隣BSSや他システムから受信する信号のレベルである。
【0017】
IEEE802.11標準規格では、BSS周辺の無線状況が変化した場合におけるチャネルの変更手順が規定されているが、基本的に、レーダ検出などによる強制移行以外は、一度選択したチャネルの再選択を行っていない。すなわち、現状無線LANでは、無線状況の変化に応じたチャネルの最適化は行われていない。
【0018】
また、IEEE802.11標準規格では、各国で定められている電波法に従って送信する信号の最大送信出力値を規定している。キャリアセンス閾値として検知信号が無線LAN信号の場合は-82dBmであり、それ以外の場合は-62dBmと規定されている。
【0019】
このように、送信電力値およびキャリアセンス閾値の最大値が規定されているが、同一チャネル上で複数の無線局が送受信を行う際に、無線状況の変化に応じた最適値については規定されていない(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【0020】

【非特許文献1】守倉正博、久保田周治監修、「802.11高速無線LAN教科書」改訂三版、インプレスR&D、2008年3月.
【非特許文献2】Robert Stacey,“Specification Framework for TGax, ”2016年1月28日.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
前述した周波数チャネルや帯域幅およびその他のパラメータの選択および設定方法 (1)~(4) のうち、特に安価な無線基地局は、(1) の製造メーカで設定されたデフォルトのパラメータをそのまま使用することが多い。しかし、近くに同じ製造メーカの無線基地局が複数台設置された環境の場合は、全ての無線基地局が同じ周波数チャネルや送信電力値を使うことになるので、無線基地局間で干渉が発生してしまい通信品質が劣化する問題がある。
【0022】
一般家庭など比較的小規模なネットワークでは、(2) の無線LANを運用するユーザが適切なパラメータを設定することが考えられる。しかし、外部干渉源がない環境では各種パラメータの設定は可能だが、都市部や集合住宅など周りで無線LANが使われている環境、または中規模や大規模なネットワークでは、ユーザまたは管理者による適切なパラメータ設定が困難である。
【0023】
自律分散動作が可能な無線基地局は、(3) の各無線基地局が起動時に自局において検知する無線環境情報に基づいて自律的にパラメータ値の選択が可能である。しかし、無線基地局が起動される順番によって適切なパラメータ値が異なる。
【0024】
また、共用の周波数チャネルを使用するBSSの稠密環境では、起動中の無線基地局数の変化、各無線基地局配下の無線端末数の変化、各BSS内で伝送されるデータ量の変化などの環境変化が起きたときに、使用するチャネル、使用する送信電力値やキャリアセンス閾値やアッテネータの減衰値などの最適化を行っていない場合に、各BSSのスループット間で差が生じたり、システム全体のスループットが劣化する問題があった。
【0025】
ところで、無線基地局では、送信電力値とキャリアセンス閾値を個別に設定する代わりに、アッテネータの減衰値を制御することにより送信電力とキャリアセンス閾値を同時に制御することもできる。すなわち、減衰値をa [dB] だけ上げることは、送信電力値をa [dB] だけ下げ、キャリアセンス閾値をa [dB] だけ上げることと等価である。
【0026】
この補正値a [dB] に応じてBSSの通信エリアの大きさが変化する。それによって送信機会が増えてスループットが上がることもあれば、隠れ端末やさらし状況による干渉が増加して通信品質が低下し、フレームの再送処理が多くなってスループットが下がることもある。さらに、干渉増加によりフレームの再送処理が多くなると、フレーム送信に係る消費電力やキャリア検知等のフレーム送信以外の消費電力が増え、無線基地局においてスループットに対するエネルギー効率が大きく低下する問題があった。
【0027】
本発明は、共用無線周波数帯を用いる無線通信局が密集している環境において、データ送信を行う無線通信局の周辺の無線環境情報および宛先通信局における信号電力対干渉電力比(SINR)を用いて、スループットに対するエネルギー効率を最大化する最適なキャリアセンス閾値、送信電力値、減衰値の補正値を算出することができる無線通信システムおよび無線通信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
第1の発明は、共用周波数帯上で無線通信を行う複数の無線通信局を備えた無線通信システムにおいて、無線通信局は、周辺の無線環境情報および宛先通信局における信号電力対干渉電力比SINRの情報を取得する無線環境情報取得手段と、宛先通信局におけるSINRに応じて、スループットに対するエネルギー効率が最大となる自局の送信電力値およびキャリアセンス閾値の補正値を同時に算出して設定するパラメータ設定手段とを備える。
【0029】
第1の発明の無線通信システムにおいて、パラメータ設定手段は、無線通信局iにおけるリンクゲインGii、送信電力値の最大値Pおよびキャリアセンス閾値の最小値Θの補正値ai から無線通信局iの宛先通信局におけるSINR値γi を求め、さらに伝送帯域B、SINR値γi 、送信時間割合ρi からスループットri を求め、さらにフレーム送信に係る消費電力P/ai・ρiに応じてスループットri に対するエネルギー効率ηi
ηi =スループット/フレーム送信に係る消費電力
=ri /(P/ai・ρi
=B・log2(1+PGii/Θai2)・ρi/(P/ai・ρi)
であるときに、該エネルギー効率ηi が最大となる補正値ai を算出する構成である。
【0030】
第1の発明の無線通信システムにおいて、パラメータ設定手段は、無線通信局iにおけるリンクゲインGii、送信電力値の最大値Pおよびキャリアセンス閾値の最小値Θの補正値ai から無線通信局iの宛先通信局におけるSINR値γi を求め、さらに伝送帯域B、SINR値γi 、送信時間割合ρi からスループットri を求め、さらにフレーム送信に係る消費電力P/ai・ρi、フレーム送信以外の消費電力Pc に応じて、スループットri に対するエネルギー効率ηi
ηi =スループット/(フレーム送信に係る消費電力+フレーム送信以外の消費電力) =ri /(P/ai・ρi+Pc
=B・log2(1+PGii/Θai2)・ρi /(P/ai・ρi+Pc
であるときに、該エネルギー効率ηi が最大となる補正値ai を算出する構成である。
【0031】
第1の発明の無線通信システムにおいて、スループットri は、
B・log2(1+PGii/Θai2)・ρi に替えて、
B・log2(1+PGii/Θai2)/(周辺の周波数共用の無線通信局数)として求め、フレーム送信に係る消費電力は、P/ai ・ρi に替えて、P/ai ・(チャネルアクセス確率)として求める。
【0032】
第1の発明の無線通信システムにおいて、パラメータ設定手段は、無線通信局iの周辺に周波数共用の無線通信局があるとき、自局および周辺の無線通信局で計算されるスループットに対するエネルギー効率の評価値が最大になる補正値ai を算出する構成としてもよい。
【0033】
第2の発明は、共用周波数帯上で無線通信を行う複数の無線通信局を備えた無線通信方法において、無線通信局は、周辺の無線環境情報および宛先通信局における信号電力対干渉電力比SINRの情報を取得する無線環境情報取得ステップと、宛先通信局におけるSINRに応じて、スループットに対するエネルギー効率が最大となる自局の送信電力値およびキャリアセンス閾値の補正値を同時に算出して設定するパラメータ設定ステップとを有する。
【0034】
第2の発明の無線通信方法において、パラメータ設定ステップは、無線通信局iにおけるリンクゲインGii、送信電力値の最大値Pおよびキャリアセンス閾値の最小値Θの補正値ai から無線通信局iの宛先通信局におけるSINR値γi を求め、さらに伝送帯域B、SINR値γi 、送信時間割合ρi からスループットri を求め、さらにフレーム送信に係る消費電力P/ai・ρiに応じてスループットri に対するエネルギー効率ηi
ηi =スループット/フレーム送信に係る消費電力
=ri /(P/ai・ρi
=B・log2(1+PGii/Θai2)・ρi/(P/ai・ρi)
であるときに、該エネルギー効率ηi が最大となる補正値ai を算出する。
【0035】
第2の発明の無線通信方法において、パラメータ設定ステップは、無線通信局iにおけるリンクゲインGii、送信電力値の最大値Pおよびキャリアセンス閾値の最小値Θの補正値ai から無線通信局iの宛先通信局におけるSINR値γi を求め、さらに伝送帯域B、SINR値γi 、送信時間割合ρi からスループットri を求め、さらにフレーム送信に係る消費電力P/ai・ρi、フレーム送信以外の消費電力Pc に応じて、スループットri に対するエネルギー効率ηi
ηi =スループット/(フレーム送信に係る消費電力+フレーム送信以外の消費電力) =ri /(P/ai・ρi+Pc
=B・log2(1+PGii/Θai2)・ρi /(P/ai・ρi+Pc
であるときに、該エネルギー効率ηi が最大となる補正値ai を算出する。
【0036】
第2の発明の無線通信方法において、スループットri は、
B・log2(1+PGii/Θai2)・ρi に替えて、
B・log2(1+PGii/Θai2)/(周辺の周波数共用の無線通信局数)として求め、フレーム送信に係る消費電力は、P/ai ・ρi に替えて、P/ai ・(チャネルアクセス確率)として求める。
【0037】
第2の発明の無線通信方法において、パラメータ設定ステップは、無線通信局iの周辺に周波数共用の無線通信局があるとき、自局および周辺の無線通信局で計算されるスループットに対するエネルギー効率の評価値が最大になる補正値ai を算出するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0038】
本発明は、共用無線周波数帯を用いる無線通信局が密集している環境において、エネルギー効率を最大化しながら、無線通信局がデータ送信を行う際のアクセス権(チャネル利用権)を獲得するまでの待機時間が短くなり、不要な再送信等も減る。そのため、共用無線周波数帯を用いる無線通信局のスループットを改善するとともに、バッテリーの消費を最小化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の無線通信システムの構成例を示す図である。
【図2】無線通信局の構成例を示す図である。
【図3】無線通信局の処理手順例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1は、本発明の無線通信システムの構成例を示す。
図1において、無線通信システムは、隣接するBSSの無線基地局(AP)10-1~10-N(Nは2以上の整数)が共用の周波数チャネルを用いてそれぞれ帰属する無線端末(STA)とデータ通信を行う構成である。ここで、無線基地局10-n(nは1~N)に帰属する無線端末を20-n-1~20-n-Ns(Ns は1以上の整数)とするが、各無線基地局に帰属する無線端末は必ずしも同数Ns である必要はない。

【0041】
ここで、無線基地局10-1を中心とする円は、送信電力値、キャリアセンス閾値に応じた通信エリアを模式的に示す。実線矢印は無線基地局と帰属する無線端末との間で送受信する無線信号、破線矢印は隣接するBSSとの間の干渉信号を示す。

【0042】
送信電力値は、無線基地局の送信信号が所定のレベル(品質)で届く通信エリアを決める。送信電力値が大きいほど通信エリアは大きくなるが、当該通信エリア内に存在する近隣BSSに対しては干渉信号となり、無線通信システム全体のスループットの低下要因になる。一方、送信電力値が小さくなれば、近隣BSSに対する干渉信号は小さくなるものの、宛先無線端末におけるSINR(Signal-to-Interference Plus Noise Power Ratio )の低下により、変調方式と符号化率の組み合わせであるMCS(Modulation and coding scheme)が低下し、スループットが低下することになる。

【0043】
キャリアセンス閾値は、CSMA/CA制御により送信可否を判断するキャリアセンス範囲を決め、受信信号のRSSIに基づく通信エリアを決める。キャリアセンス閾値が大きいほど通信エリアは小さくなり、閾値以下の信号に対してチャネルアイドルとなって送信機会が増加する。ただし、送信機会の増加は、近隣BSSに対しては干渉信号が増加することになるので、無線通信システム全体のスループットの低下要因になるとともに、フレームの再送処理に伴うエネルギー効率が低下する。

【0044】
したがって、無線基地局における通信エリアを決める送信電力値およびキャリアセンス閾値は、干渉レベルなどの無線環境情報に応じて、無線通信システム全体としてスループットに対するエネルギー効率を最大化するように適切に設定する必要がある。

【0045】
図2は、本発明の無線通信システムの無線通信局の構成例を示す。なお、無線通信局は、無線基地局APまたは帰属端末STAであり、どちらも同じ構成である。

【0046】
図2において、無線通信局は、宛先局とデータ送受信を行う無線通信部11と、周辺の無線環境情報のスキャニングを実施し、周辺の無線通信局の使用パラメータ等の無線環境情報および宛先通信局における信号電力対干渉電力比SINRの情報を取得する無線環境情報取得部12と、取得した無線環境情報を用いて送信電力値、キャリアセンス閾値、減衰値などのパラメータを算出するパラメータ算出部13と、算出した送信電力値、キャリアセンス閾値、減衰値などのパラメータを設定するパラメータ設定部14と、設定されたパラメータを用いたキャリアセンスによりアクセス権を獲得するアクセス権獲得部15とにより構成される。

【0047】
図3は、本発明の無線通信システムの無線通信局の処理手順例を示す。
図3において、無線通信局の無線環境情報取得部12は、周辺の無線通信局の使用パラメータ等の無線環境情報を取得し(S11)、現在運用中の送信電力値における宛先通信局での信号電力対干渉電力比SINRの情報を取得する(S12)。次に、パラメータ算出部13は、各取得情報を用いて当該無線通信局においてエネルギー効率を最大化する送信電力値およびキャリアセンス閾値の補正値を算出する(S13)。次に、パラメータ設定部14は、算出された送信電力値およびキャリアセンス閾値の補正値を設定し(S14)、運用を開始する。

【0048】
本発明の特徴は、送信電力値およびキャリアセンス閾値の補正値により、送信電力値を下げた分だけキャリアセンス閾値を上げる、または送信電力値を上げた分だけキャリアセンス閾値を下げることにより、キャリアセンスによるアクセス権を取得しやすくするとともに、SINRが大幅に低下しないように制御するところにある。すなわち、送信電力値をa[dB]下げる(キャリアセンス閾値をa[dB]上げる)と、周辺の干渉無線局数が減るためアクセス権獲得率が増すが、宛先の無線通信局におけるSINRが劣化する。一方、送信電力値をa[dB]上げる(キャリアセンス閾値をa[dB]下げる)と、周辺の無線通信局数が増え、アクセス権が取得しにくくなるが、宛先の無線通信局におけるSINRが高くなる。したがって、送信電力値およびキャリアセンス閾値には、エネルギー効率を最大化する最適な補正値aがあり、本発明はその最適な補正値aを算出する方法を示す。

【0049】
ここで、無線通信局のアッテネータの減衰値を現在の値に対してa[dB]大きくすると、無線通信局の送信電力がa[dB]下がり、また当該無線通信局における受信電力がa[dB]減少するので、キャリアセンス閾値をa[dB]上げたことと等価になる。したがって、例えばキャリアセンス閾値の変更ができない無線通信局、または送信電力値の補正値とキャリアセンス閾値の補正値を正負対称の値に調整できない無線通信局においては、減衰値を調整する方法がとられる。

【0050】
無線通信局iにおけるスループットに対するエネルギー効率ηi は、無線通信局iにおけるスループットをri 、送信電力値をpi 、送信時間割合をρi(0≦ρi≦1)としてフレーム送信に係る消費電力をpi・ρi とし、フレーム送信以外の消費電力をPc とすると、
ηi =ri /(pi・ρi+Pc) …(1)
と表される。

【0051】
ここで、無線通信局iにおけるスループットri は、宛先通信局におけるSINR値をγi 、伝送帯域をBとしたときに、
i =B・log2(1+γi)・ρi …(2)
により算出される。

【0052】
一方、無線通信局iの宛先通信局におけるSINR値γi は、無線通信局iの送信電力値pi 、リンクゲインGii、キャリアセンス閾値θi を用いて
γi =piii/θi …(3)
と表される。

【0053】
よって、無線通信局iにおけるスループットに対するエネルギー効率ηi は、
ηi =ri /(pi・ρi+Pc
=B・log2(1+γi)・ρi /(pi・ρi+Pc
=B・log2(1+piii/θi)・ρi /(pi・ρi+Pc ) …(4)
と表される。

【0054】
ここで、無線通信局iの送信電力値の最大値をP、キャリアセンス閾値の最小値をΘ、送信電力値およびキャリアセンス閾値の補正値、すなわち減衰値の補正値をai とすると、
i =P/ai …(5)
θi =Θ×ai …(6)
となり、無線通信局iの補正値aiと、宛先通信局におけるSINR値γi の関係は、
γi =PGii/Θai2 …(7)
となる。

【0055】
よって、無線通信局iにおけるスループットに対するエネルギー効率ηi は、
ηi =B・log2(1+PGii/Θai2)・ρi /(P/ai・ρi+Pc ) …(8)
と表される。

【0056】
この無線通信局iにおけるスループットri に対するエネルギー効率ηi を最大化するように、減衰値の補正値ai を決定する。

【0057】
さらに、無線通信局iの周辺に周波数共用の無線通信局jがあるとき、無線通信局iおよび無線通信局jのそれぞれで計算されるスループットri,rjに対するエネルギー効率ηi,ηj の評価値、例えばηi,ηj の逆数和に負号をつけた値が最大になるように、無線通信局iの減衰値の補正値ai を決定してもよい。

【0058】
なお、 (1)式に示すエネルギー効率ηi において、フレーム送信以外の消費電力Pc を考慮しない場合は、
ηi =ri /(pi・ρi
=B・log2(1+PGii/Θai2)・ρi /(P/ai・ρi
=B・log2(1+PGii/Θai2)/(P/ai) …(9)
と表される。

【0059】
また、無線通信局iにおけるスループットri は、式(2)に示す定義に替えて、
i=B・log2(1+γi)/(周辺の周波数共用の無線通信局数)
としてもよい。

【0060】
また、フレーム送信に係る消費電力は、P/ai・ρi に替えて、
P/ai・(チャネルアクセス確率)
としてもよい。
【符号の説明】
【0061】
10 無線基地局(AP)
11 無線通信部
12 無線環境情報取得部
13 パラメータ算出部
14 パラメータ設定部
15 アクセス権獲得部
20 無線端末(STA)
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2