TOP > 国内特許検索 > α1マイクログロブリン阻害剤 > 明細書

明細書 :α1マイクログロブリン阻害剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-077632 (P2019-077632A)
公開日 令和元年5月23日(2019.5.23)
発明の名称または考案の名称 α1マイクログロブリン阻害剤
国際特許分類 A61K  45/00        (2006.01)
A61P   9/00        (2006.01)
A61P   9/10        (2006.01)
A61P   9/04        (2006.01)
A61K  31/427       (2006.01)
A61K  31/454       (2006.01)
A61K  31/517       (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
G01N  33/92        (2006.01)
G01N  33/68        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
C12N   9/99        (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
C12Q   1/68        (2018.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI A61K 45/00
A61P 9/00
A61P 9/10
A61P 9/04
A61K 31/427
A61K 31/454
A61K 31/517
A61P 43/00 111
G01N 33/92 Z
G01N 33/68
G01N 33/50 Z
G01N 33/15 Z
C12N 9/99
C12Q 1/02
C12Q 1/68 A
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 15
出願形態 OL
全頁数 17
出願番号 特願2017-204960 (P2017-204960)
出願日 平成29年10月24日(2017.10.24)
発明者または考案者 【氏名】伯野 大彦
出願人 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100088904、【弁理士】、【氏名又は名称】庄司 隆
【識別番号】100124453、【弁理士】、【氏名又は名称】資延 由利子
【識別番号】100135208、【弁理士】、【氏名又は名称】大杉 卓也
審査請求 未請求
テーマコード 2G045
4B063
4C084
4C086
Fターム 2G045AA40
2G045DA36
2G045DA61
4B063QA01
4B063QA05
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QQ53
4B063QQ79
4B063QR32
4B063QR36
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA361
4C084ZA371
4C084ZA45
4C084ZC20
4C084ZC41
4C086BC39
4C086BC46
4C086BC82
4C086GA03
4C086GA07
4C086GA10
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA36
4C086ZA37
4C086ZA45
4C086ZC20
4C086ZC41
要約 【課題】心血管系疾患の新規予防及び/又は治療剤を提供する。また、心血管系疾患の新規予防及び/又は治療剤の開発のためのスクリーニング方法を提供する。
【解決手段】ヘパトカインの1種であるα1マイクログロブリン(AM)阻害剤を有効成分とする心血管系疾患の予防及び/又は治療剤による。本発明においてAMの心血管系への新規作用として、心線維芽細胞及びマクロファージのAkt、NFκB活性化、マクロファージの遊走促進、細胞接着、催炎症、急性期の線維化修復阻害を有することを確認した。心血管系におけるAMの機能的結合パートナーが細胞膜リン脂質であることも確認した。そこで、AMとの結合パートナーである細胞膜リン脂質とAMとの結合を阻害することで、MI後左室リモデリングの改善や、各種疾患マーカーの発現が改善されることを確認した。
【選択図】図7
特許請求の範囲 【請求項1】
α1マイクログロブリンと細胞膜リン脂質の結合阻害剤。
【請求項2】
α1マイクログロブリンと細胞膜リン脂質の結合阻害剤を有効成分とする、心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤。
【請求項3】
α1マイクログロブリン阻害剤を有効成分とする、心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤。
【請求項4】
α1マイクログロブリン阻害剤が、免疫学的α1マイクログロブリン阻害剤、α1マイクログロブリン発現抑制剤、である、請求項3に記載の心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤。
【請求項5】
細胞膜リン脂質阻害剤を有効成分とする、心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤。
【請求項6】
細胞膜リン脂質阻害剤が、免疫学的細胞膜リン脂質阻害剤である、請求項5に記載の心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤。
【請求項7】
細胞膜リン脂質阻害剤が、細胞膜リン脂質合成阻害剤である、請求項5に記載の心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤。
【請求項8】
細胞膜リン脂質合成阻害剤が、細胞膜リン脂質合成酵素阻害剤である、請求項7に記載の心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤。
【請求項9】
細胞膜リン脂質がフォスファチジン酸である、請求項5~8のいずれかに記載の心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤。
【請求項10】
細胞膜リン脂質合成酵素阻害剤が、フォスファチジン酸合成酵素阻害剤である、請求項8に記載の心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤。
【請求項11】
細胞膜リン脂質合成酵素阻害剤が、ジアシルグリセロールキナーゼ阻害剤である、請求項8に記載の心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤。
【請求項12】
心血管系疾患が、急性心筋梗塞、左室リモデリング、左室収縮能の保たれた心不全、動脈硬化、大動脈弁狭窄症より選択される1又は2以上の疾患である、請求項2~11のいずれかに記載の心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤。
【請求項13】
α1マイクログロブリンを含む心筋細胞の培養系に候補化合物を加えて培養し、α1マイクログロブリンの作用及び/又は細胞膜リン脂質合成量を確認することを特徴とする、心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤のスクリーニング方法。
【請求項14】
α1マイクログロブリンを含む心筋細胞の培養系に候補化合物を加えて培養し、心血管系疾患マーカーを確認することを特徴とする、心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤のスクリーニング方法。
【請求項15】
候補化合物による、α1マイクログロブリン及び細胞膜リン脂質との相互作用抑制能を確認することを特徴とする、心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤のスクリーニング方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、α1マイクログロブリン阻害剤を有効成分とする心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤に関する。さらに本発明は、心血管系疾患の新規治療剤及び/又は予防剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
急性心筋梗塞(Acute myocardial infarction:AMI)の死亡率は20%弱であるが、死亡例の約半数は発症数時間以内に集中しており、その多くが重症不整脈によるものである。また梗塞巣が左室心筋の40%を越えると心原性ショックに陥り、死亡率は70~90%にものぼる。従って心筋梗塞発症時の治療の目的は不整脈死を予防し、梗塞巣を最小限にとどめ、ポンプ失調の出現を防ぐことである。特に、発症後6時間以内であれば再潅流療法(PTCR・PCI)等の虚血心筋の救援療法(salvage)により、梗塞範囲の縮小・心破裂などの合併症の発生率を減少させることができるので、迅速な対応が大切である。
【0003】
心筋梗塞が進行すると、梗塞領域の心筋細胞が壊死・脱落し、コラーゲン線維などの線維組織に置換される。この梗塞領域は収縮力を欠き、心収縮に伴い上昇する心内圧に耐え切れず、線維壁が薄く伸展していく。その結果、機能低下を補うため非梗塞領域において心内腔の肥大が起こり、左室全体が拡張する。この現象は左室リモデリングと呼ばれ、心機能をさらに低下させ、その後の心不全罹患率および死亡率を増加させることが知られている。そのため心筋梗塞の予後改善のためには、できる限り早くから進行中の左室リモデリングを抑制することが重要とされており、有効な治療方法の構築が望まれている。
【0004】
しかしながら、急性心筋梗塞発症後、心筋壊死を軽減する薬物療法はなく、左室リモデリングの進行を予防する薬物療法は不十分であり、その増悪による心不全の罹患者数は増加の一途である。また、超高齢化社会に伴い、心不全パンデミックが到来したが、その約半数を占める左室収縮能の保たれた心不全(主に拡張性心不全)の予後を改善する薬物療法もないのが現状である。
【0005】
ヘパトカイン(hepatokine)の1種であるα1マイクログロブリン(α1- microglobulin:以下単に「AM」という場合もある。)は、分子量が約3万の低分子量タンパク質である。α1マイクログロブリン/ビクニン前駆体(AMBP)は、肝臓で合成され分泌される高度に保存された糖タンパク質である(非特許文献1)。 肝臓から分泌されたのちAMは血清、単球、滑膜液、脳脊髄液、腸、腎臓、脳、心臓、皮膚、肝臓などに広く分布し、腎臓から排泄される(非特許文献1)。AMは機能的にはヘム結合抗酸化タンパク質であり、培養細胞におけるヘム誘発細胞内酸化を阻害し、例えばヘモグロビン又はヘム誘導性ラット腎臓傷害及び子癇前症モデルにおける構造的損傷を減少させる作用を有することが報告されている。しかし近年の研究では、AMが非ヘム誘発傷害を軽減しないだけでなく、in vitro及びin vivoの両方で腎障害を悪化させるので、AMが普遍的な抗酸化剤として有用であることが疑問視されている(非特許文献2)。心血管系におけるAMの作用について示す報告はない。
【先行技術文献】
【0006】

【非特許文献1】B. Akerstrom, M. Gram, A1M, an extravascular tissue cleaning and housekeeping protein. Free Radic Biol Med 74, 274-282 (2014).
【非特許文献2】R. A. Zager, A. C. Johnson, K. Frostad, An evaluation of the antioxidant protein alpha1-microglobulin as a renal tubular cytoprotectant. Am J Physiol Renal Physiol 311, F640-651 (2016).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、急性心筋梗塞発症後、心筋壊死を軽減する薬物療法はなく、左室リモデリングの進行を予防する等の心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤を提供することを課題とする。また本発明は、心血管系疾患の新規治療剤及び/又は予防剤の開発のためのスクリーニング方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ヘパトカインの1種であるα1マイクログロブリン(AM)阻害剤を有効成分とする心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤による。本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、AMの心血管系への新規作用として、心線維芽細胞及びマクロファージのAkt、NFκB活性化、マクロファージの遊走促進、細胞接着、催炎症、急性期の線維化修復阻害等の作用を有することを確認した。そこで、心血管系におけるAMの機能的結合パートナーの存在を調べたところ、細胞膜リン脂質であることを確認した。そこで、AMとの結合パートナーである細胞膜リン脂質とAMとの結合を阻害することで、MI後左室リモデリングの改善や、各種疾患マーカーの発現が改善されることを確認し、本発明を完成した。
【0009】
即ち本発明は、以下よりなる。
1.AMと細胞膜リン脂質の結合阻害剤。
2.AMと細胞膜リン脂質の結合阻害剤を有効成分とする、心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤。
3.AM阻害剤を有効成分とする、心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤。
4.AM阻害剤が、免疫学的AM阻害剤、AM発現抑制剤、である、前項3に記載の心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤。
5.細胞膜リン脂質阻害剤を有効成分とする、心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤。
6.細胞膜リン脂質阻害剤が、免疫学的細胞膜リン脂質阻害剤である、前項5に記載の心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤。
7.細胞膜リン脂質阻害剤が、細胞膜リン脂質合成阻害剤である、前項5に記載の心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤。
8.細胞膜リン脂質合成阻害剤が、細胞膜リン脂質合成酵素阻害剤である、前項7に記載の心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤。
9.細胞膜リン脂質がフォスファチジン酸である、前項5~8のいずれかに記載の心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤。
10.細胞膜リン脂質合成酵素阻害剤が、フォスファチジン酸合成酵素阻害剤である、前項8に記載の心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤。
11.細胞膜リン脂質合成酵素阻害剤が、ジアシルグリセロールキナーゼ阻害剤である、前項8に記載の心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤。
12.心血管系疾患が、急性心筋梗塞、左室リモデリング、左室収縮能の保たれた心不全、動脈硬化、大動脈弁狭窄症より選択される1又は2以上の疾患である、前項2~11のいずれかに記載の心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤。
13.AMを含む心筋細胞の培養系に候補化合物を加えて培養し、AMの作用及び/又は細胞膜リン脂質合成量を確認することを特徴とする、心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤のスクリーニング方法。
14.AMを含む心筋細胞の培養系に候補化合物を加えて培養し、心血管系疾患マーカーを確認することを特徴とする、心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤のスクリーニング方法。
15.候補化合物による、AM及び細胞膜リン脂質との相互作用抑制能を確認することを特徴とする、心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0010】
心筋梗塞(MI)において、ヘパトカイン(hepatokine)の1種であるAMが、心線維芽細胞及びマクロファージのAkt、NFκB活性化、マクロファージの遊走促進、細胞接着、催炎症、急性期の線維化修復阻害等の作用を有することが確認できた。特に、急性期心破裂、慢性期リモデリング増悪について、AMが影響することが確認できた。心血管系において、AMの結合パートナーである細胞膜リン脂質とAMとの結合を阻害することで、MI後左室リモデリングの改善や、各種疾患関連遺伝子の発現が抑制されることを確認した。従来は急性心筋梗塞発症後、心筋壊死を軽減する薬物療法はなく、左室リモデリングの進行を予防する薬物療法は不十分であったのに対し、これらの心血管系疾患の予防及び/治療効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】心筋梗塞(MI)モデルマウスでの心臓におけるAMの分布を確認した結果を示す図である。(実施例1)
【図2】CFB細胞(ラット心線維芽初代培養細胞)の培養系にAMを加えたときの、各種マーカー発現量を確認した結果を示す図である。(実施例2)
【図3】J774細胞(マウスの単球/マクロファージ細胞株:MQs)の培養系にAMを加えたときの、各種マーカーの発現量を確認した結果を示す図である。(実施例2)
【図4】J774細胞(マウスの単球/マクロファージ細胞株:MQs)の培養系にAMを加えたときの、細胞遊走作用及び細胞接着作用を確認した結果を示す図である。(実施例2)
【図5】HUVEC(血管内皮細胞)の培養系にAMを加えたときの、接着性に関連する各種マーカーの発現量を確認した結果を示す図である。(実施例2)
【図6】CFB細胞及びJ774細胞の培養系にAMを加えたときの、各種シグナル伝達因子の活性化をウエスタンブロッティングにて確認した結果を示す図である。(実施例2)
【図7】MIモデルマウスについて心臓内にAMを投与したときの作用を組織所見により確認した結果を示す図である。AMの投与により、左室壁の菲薄化が確認された。(実施例3)
【図8】MIモデルマウスについて心臓内にAMを投与したときの、心臓形態及び死亡率を確認した結果を示す図である。(実施例3)
【図9】MIモデルマウスについて心臓内にAMを投与したときの、各種心臓所見に係るマーカーを測定した結果を示す図である。(実施例3)
【図10】MIモデルマウスについて心臓内にAMを投与したときの、マクロファージ浸潤及び各種炎症性マーカー、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)発現量を確認した結果を示す図である。(実施例3)
【図11】タンパク質脂質オーバーレイアッセイ(P-6002; Echelon Biosciences)の結果を示す図である。AMと相互作用する機能的結合物質について確認した結果を示す図である。(実施例4)
【図12】AMと相互作用する機能的結合物質であるフォスファチジン酸(PA)の生合成経路を示す図である。(実施例4)
【図13】CFB細胞について各種PA合成酵素阻害剤を作用させたときの各種マーカーの発現を確認した結果を示す図である。(実施例5)
【図14】J774細胞についてAMによる細胞遊走能に及ぼすPA合成酵素阻害剤の影響を確認した結果を示す図である。(実施例5)
【図15】MIモデルマウスについて、MI後慢性期(MI 4週目)の組織学的観察の結果を示す図である。CU-3投与群で、慢性期での左心室壁の菲薄化の改善が認められた。(実施例6)
【図16】MIモデルマウスについて、MI後CU-3投与群で、慢性期での線維化領域の減少を認め、左心室壁の菲薄化の改善を認めた結果を示す図である。(実施例6)
【図17】MIモデルマウスについて、MI後CU-3投与群で、心エコーでの左室の機能を確認した結果を示す図である。(実施例6)
【図18】MIモデルマウスの境界領域(BZ)でのマクロファージ浸潤を細胞のF4/80陽性で確認した結果を示す図である。CU-3投与群でマクロファージの浸潤の程度が改善された結果を示す図である。(実施例6)
【図19】MIモデルマウスの境界領域(BZ)でのNFκBの活性をp65のリン酸化で確認した結果を示す図である。CU-3投与群で改善効果を認めた結果を示す図である。(実施例6)
【図20】MIモデルマウスの境界領域(BZ)での各種MMP活性を確認した結果を示す図である。CU-3投与群急性期day 3で改善効果を認めた結果を示す図である。(実施例6)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、以下の事項について初めて確認し、知見を得た。
(1)ヘパトカイン(hepatokine)の1種であるα1マイクログロブリン(AM)について、心血管系への新規作用を初めて確認した。具体的には、心線維芽細胞及びマクロファージのAkt、NFκB活性化、マクロファージの遊走促進、細胞接着、催炎症、急性期の線維化修復阻害にAMが作用することを初めて確認した。特に、急性期心破裂、慢性期リモデリング増悪について、AMが作用すると考えられることが確認できた。
(2)心血管系において、AMの機能的結合パートナー(functional binding partner)を本発明において初めて確認した。
(3)AMとの結合パートナーである物質とAMとの結合を阻害することで、MI後左室リモデリングの改善や、各種疾患マーカーの発現が改善されることを初めて確認した。

【0013】
上記の知見に基づき、本発明を完成した。即ち本発明は、「AM阻害剤」を有効成分とする心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤に関する。「AM阻害剤」の一態様として、「AMと細胞膜リン脂質の結合阻害剤」並びに「細胞膜リン脂質合成阻害剤」も本発明の血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤における有効成分とすることができる。さらに本発明は、心血管系疾患の新規治療剤及び/又は予防剤のスクリーニング方法に関する。

【0014】
従来技術の欄でも説明したように、AMはヘパトカインの1種であるが、心血管系におけるその作用は知られていなかった。本発明において、心筋梗塞(MI)の急性期において、梗塞の境界領域にAMの分布が有意に増加することを確認した。そこで、心血管系におけるAMの作用を確認したところ、C-Cモチーフケモカインリガンド2(CCL2)や炎症誘発性サイトカインIL-6、腫瘍壊死因子(TNF)及びIL-1などのmRNAの発現が増加した。AMの処理により、線維化修復に係る因子、例えばα平滑筋アクチン(αSMA)やコラーゲン3a1の発現は減少することが確認された。一方、血小板由来増殖因子やリモデリングに密接に関係するプロテイナーゼである各種マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)の発現が増加した。マクロファージ培養細胞や血管内皮細胞の培養系を用いてさらにAMの作用を確認したところ、マクロファージの遊走促進作用、接着因子・炎症性サイトカインの発現増大等を確認した。さらにAMの活性を確認したところ、Akt活性化因子として作用することが確認された。プロテイン キナーゼBとも呼ばれるセリン-トレオニンキナーゼであるAktは、細胞におけるシグナルネットワークの中心的存在であり、Akt活性化により細胞内で様々な細胞内反応を引き起こす。本発明において心線維芽細胞の培養系でAM刺激の数分後にはAktが活性化されたことが確認された。AMで処理した心線維芽細胞やマクロファージ細胞についてさらに検討を重ねた結果、NFκBの活性化を認めた。

【0015】
さらにMIモデル動物の心臓にAMを投与したところ、MI急性期にマクロファージの浸潤、炎症の増大を認め、線維化を阻害し、更には心臓破裂を引き起こし、生存率にも影響を及ぼすことが確認された。これにより、AMは心血管系疾患において好ましくない作用を有するものと考えられた。

【0016】
上記の観点から、本発明の心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤における有効成分としての「AM阻害剤」とは、心血管系でのAMの作用を阻害しうる物質をいう。心血管系でのAMの作用を阻害しうる物質としては、高分子化合物や低分子化合物であってもよく、タンパク質における機能ドメイン等や活性部位等の機能部位に作用してシグナル伝達を低減又は抑制する物質であってもよい。高分子化合物としては、例えば免疫学的AM阻害剤、AM発現抑制剤等が挙げられる。免疫学的AM阻害剤としては、抗AM抗体等が挙げられる。本明細書において、抗AM抗体は、AMの全体又は部分を抗原として作製された抗AM抗体であればよく、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)等から選択されるいずれであってもよい。本明細書において、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体の定義及び作製方法は、自体公知の定義、作製方法等に従うことができる。また、今後開発されるあらゆる方法により作製されるモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体であってもよい。 抗体を特定する部位について、各々Fab、Fab'、F(ab)'2、Fv及びFc等の用語については、いわゆる当業者により認識される定義を適用することができる。例えばFabフラグメントは、単一の抗原結合部位を有する抗原結合フラグメントをいい、F(ab)'2フラグメントはふたつの抗原結合部位を有するフラグメントである。Fvフラグメントは、抗原認識抗原結合部位を有する最小限の抗体フラグメントである。AM発現抑制剤としては、遺伝子の転写、転写後調節、タンパク質への翻訳等の何れの段階で作用するものであってもよい。AM遺伝子の発現を特異的に阻害する物質としては、例えばRNA干渉(RNAi)分子(siRNA、shRNA又はmiRNA)、リボザイム、アンチセンス核酸、アプタマー、デコイ核酸等の機能性核酸が挙げられる。

【0017】
「AM阻害剤」の一態様としてとして、「AMと細胞膜リン脂質の結合阻害剤」も挙げられる。本発明において、AMの機能的結合パートナーが、細胞膜リン脂質であることを本発明において初めて見出した。AMと細胞膜リン脂質との相互作用に関し、AMと細胞膜リン脂質が相互作用することで、心血管系疾患に係る多くの障害反応が進行すると考えられる。「AMと細胞膜リン脂質の結合阻害剤」としては、AMの結合パートナーである「細胞膜リン脂質」の阻害剤が挙げられる。本明細書において「細胞膜リン脂質」としては、フォスファチジン酸(phosphatidic acid:PA)が挙げられる。「AM阻害剤」の一態様としてとして、「細胞膜リン脂質阻害剤」も挙げられる。

【0018】
「細胞膜リン脂質阻害剤」としては、高分子化合物や低分子化合物であってもよく、タンパク質における機能ドメイン等や活性部位等の機能部位に作用してシグナル伝達を低減又は抑制する物質であってもよい。高分子化合物としては、例えば免疫学的細胞膜リン脂質阻害剤が挙げられる。免疫学的細胞膜リン脂質阻害剤としては、抗細胞膜リン脂質抗体等が挙げられる。細胞膜リン脂質がフォスファチジン酸の場合には、抗フォスファチジン酸抗体が挙げられる。本明細書において、抗細胞膜リン脂質抗体は、細胞膜リン脂質の全体又は部分を抗原として作製された抗細胞膜リン脂質抗体であればよく、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)等から選択されるいずれであってもよい。本明細書において、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体の定義及び作製方法は、自体公知の定義、作製方法等に従うことができる。また、今後開発されるあらゆる方法により作製されるモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体であってもよい。 抗体を特定する部位について、各々Fab、Fab'、F(ab)'2、Fv及びFc等の用語については、いわゆる当業者により認識される定義を適用することができる。例えばFabフラグメントは、単一の抗原結合部位を有する抗原結合フラグメントをいい、F(ab)'2フラグメントはふたつの抗原結合部位を有するフラグメントである。Fvフラグメントは、抗原認識抗原結合部位を有する最小限の抗体フラグメントである。

【0019】
「細胞膜リン脂質阻害剤」の他の態様としては、細胞膜リン脂質合成阻害剤が挙げられ、具体的には、細胞膜リン脂質合成酵素阻害剤等が挙げられる。細胞膜リン脂質がフォスファチジン酸の場合にはフォスファチジン酸合成酵素阻害剤が挙げられる。フォスファチジン酸は、ホスホリパーゼD(PLD)、ジアシルグリセロールキナーゼ(DAGキナーゼ:DGK)及びLPAアシルトランスフェラーゼ(LPAAT)等の酵素反応により生合成される。DAGキナーゼ阻害剤としてCU-3やDGKI(R59949)が、ホスホリパーゼD阻害剤としてFIPI(ホスホリパーゼD1/D2阻害剤)が公知であるが、これらに限定されない。これらの物質は高分子化合物や低分子化合物であってもよい。

【0020】
本発明の心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤において「心血管系疾患」とは、例えば急性心筋梗塞、左室リモデリング、左室収縮能の保たれた心不全(主に拡張性心不全)、動脈硬化、大動脈弁狭窄症より選択される1又は2以上の疾患が挙げられる。左室収縮能の保たれた心不全には、心アミロイドーシスも含まれる。心筋梗塞としては、心筋梗塞に合併しておこる心不全、虚血による重度の不整脈なども包含される。心筋梗塞において合併しておこる症状としては、不整脈(期外収縮、心室細動、房室ブロック)、心不全、乳頭筋断裂、心破裂、心室瘤(左冠動脈前下行枝梗塞の結果として心尖部に生じる)、心筋梗塞後症候群等を挙げることができる。左室リモデリングとは、例えば心筋梗塞後に、梗塞領域の機能低下を補うための心筋肥大(左室全体の拡張)などが挙げられる。心筋肥大は、梗塞領域の心筋細胞が壊死・脱落することにより、コラーゲン線維などの線維組織に置換され、慢性期に線維組織が薄く伸展することにより引き起こされると考えられる。そのため梗塞領域のコラーゲン線維への置換や慢性期の線維組織の伸展を抑制・予防することは、心血管系疾患を改善するうえで重要である。

【0021】
本発明の心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤には、保存剤や安定剤等の製剤上許容しうる担体が添加されていてもよい。製剤上許容しうる担体とは、それ自体は上記の心血管系疾患の治療及び/又は予防効果を有する材料であってもよいし、当該抑制効果を有さない材料であってもよく、上記の薬剤とともに投与可能な材料を意味する。また、心血管系疾患の治療及び/又は予防効果を有さない材料であって、本発明のAM阻害剤と併用することによって相乗的もしくは相加的な安定化効果を有する材料であってもよい。製剤上許容される材料としては、例えば、滅菌水や生理食塩水、安定剤、賦形剤、緩衝剤、防腐剤、界面活性剤、キレート剤(EDTA等)、結合剤等を挙げることができる。

【0022】
上記において、界面活性剤としては非イオン界面活性剤を挙げることができ、例えばソルビタンモノカプリレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート等のソルビタン脂肪酸エステル;グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノミリステート、グリセリンモノステアレート等のグリセリン脂肪酸エステル;デカグリセリルモノステアレート、デカグリセリルジステアレート、デカグリセリルモノリノレート等のポリグリセリン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビットテトラステアレート等を典型的例として挙げることができるが、薬学上使用可能であれば上記に限定されるものではない。さらに界面活性剤としては陰イオン界面活性剤も挙げることができ、例えばセチル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウム等の炭素原子数10~18のアルキル基を有するアルキル硫酸塩;ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム等を典型的例として挙げることができるが、薬学上使用可能であれば上記に限定されるものではない。本発明の薬剤には、これらの界面活性剤の1種または2種以上を組み合わせて添加することができる。

【0023】
上記において緩衝剤としては、リン酸、クエン酸緩衝液、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、乳酸、リン酸カリウム、グルコン酸、カプリル酸、デオキシコール酸、サリチル酸、トリエタノールアミン、フマル酸等他の有機酸等、あるいは、炭酸緩衝液、トリス緩衝液、ヒスチジン緩衝液、イミダゾール緩衝液等を挙げることが出来る。また、本発明の薬剤は、その他の低分子量のポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチンや免疫グロブリン等のタンパク質、アミノ酸、多糖及び単糖等の糖類や炭水化物、糖アルコールを含んでいてもよい。

【0024】
本発明の心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤を注射用の水溶液とする場合には、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬(例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム)を含む等張液と混合することができる、また該水溶液は、適当な溶解補助剤(例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、PEG等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80、HCO-50)等)と併用してもよい。所望によりさらに希釈剤、溶解補助剤、pH調整剤、無痛化剤、含硫還元剤、酸化防止剤等を含有してもよい。

【0025】
上記において、含硫還元剤としては、例えばN-アセチルシステイン、N-アセチルホモシステイン、チオクト酸、チオジグリコール、チオエタノールアミン、チオグリセロール、チオソルビトール、チオグリコール酸及びその塩、チオ硫酸ナトリウム、グルタチオン、並びに炭素原子数1~7のチオアルカン酸等のスルフヒドリル基を有するもの等を挙げることができる。

【0026】
また、上記において酸化防止剤としては、例えばエリソルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、α-トコフェロール、酢酸トコフェロール、L-アスコルビン酸及びその塩、L-アスコルビン酸パルミテート、L-アスコルビン酸ステアレート、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、没食子酸トリアミル、没食子酸プロピルあるいはエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム等のキレート剤を挙げることが出来る。

【0027】
本発明の心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤は、経口的又は非経口的に投与することができる。経口的な投与としては、経口剤という形での投与を挙げることができ、経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、溶剤、乳剤、又は懸濁剤等の剤型を選択することができる。非経口的な投与としては、注射剤という形での投与を挙げることができ、注射剤としては、静脈注射剤、皮下注射剤、筋肉注射剤、あるいは腹腔内注射剤等を挙げることができる。本発明の心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤は、処置を施したい領域に局所的に投与することもできる。例えば、手術中の局所注入、カテーテルを用いて投与することも可能である。心筋梗塞発症時の処方、例えば、カテーテル手術法(PCI)、血栓溶解療法(PTCR)、冠動脈バイパス手術法(CABG)等、と同時平行的に本発明の薬剤が投与されてもよい。

【0028】
本発明の心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤を使用する場合には少なくとも1つの既知の薬学的組成物の一部として使用することができる。本発明の血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤と既知の薬学的組成物の投与順序は、それぞれの薬剤の特質に応じて決定されるべきである。

【0029】
本発明は、心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤のスクリーニング方法にも及ぶ。
スクリーニングは、in vitro又はin vivoの方法で実施することができる。候補化合物としては、候補化合物は、低分子化合物、核酸物質、タンパク質等いずれの物質であってもよい。 例えば、AMを含む心線維芽細胞の培養系に候補化合物を加えて培養し、AMの作用及び/又は細胞膜リン脂質合成量を確認することで心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤をスクリーニングすることができる。また、AMを含む心線維芽細胞の培養系に候補化合物を加えて培養し、心線維芽細胞が発現する心血管系疾患マーカーの変動を確認することでも心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤をスクリーニングすることができる。心血管系疾患マーカーとしては、例えば心線維芽細胞及びマクロファージのAkt、NFκBの発現活性、マクロファージの遊走能、細胞接着、催炎症能、急性期の線維化修復阻害などが挙げられる。さらに、候補化合物による、AM及び細胞膜リン脂質との相互作用抑制能を確認することによっても心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤をスクリーニングすることができる。

【0030】
in vivoでのスクリーニング方法において使用可能な動物モデルとしては、遺伝子組換えによりAMを過剰発現したトランスジェニックモデル動物や、MIモデル動物を使用することができる。AM過剰発現のトランスジェニックモデル動物及びMIモデル動物は、自体公知の方法又は今後開発される新たな方法を適宜適用することができる。なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0031】
本発明について理解を深めるために、以下に本発明を参考例及び実施例に示してより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではないことはいうまでもない。本実施例の研究プロトコールは京都大学病院の施設内治験審査委員会の承認を経て実施された。
【実施例】
【0032】
(実施例1)心筋梗塞(MI)時のα1マイクログロブリン(AM)の分布
9週齢のマウス(C57BL/6、雄)を用いて、Circulation125,1234-1245(2012)に記載の方法に準じて、左前下行枝結紮によりMIを起こさせMIモデルマウスを作製した。MI 3日目に梗塞領域(IZ)及び境界領域(BZ)にAMが一時的に分布することを確認した(図1)。MI急性期に浸潤マクロファージ(MQ)及び心線維芽細胞(CFB)を介して、梗塞領域(IZ)及び境界領域(BZ)にAMが一時的に分布すると考えられた。
【実施例】
【0033】
(実施例2)各種培養細胞に対するAMの作用
CFB細胞(ラット心線維芽初代培養細胞)の培養系にヒトAMタンパク質(ab96149; Abcam)を15μg/mL加えて培養したときの細胞について、AM投与前を1としたときの各種マーカーのmRNAの相対的発現量で定量的PCR法にて確認した。培地は10%のウシ胎児血清(FBS)、抗生物質(Gibco)及び非必須アミノ酸(Gibco)、1%のグルコース(ナカライ)を含むダルベッコmodifiedイーグル培地で37℃で培養され、細胞がコンフルエントになった状態で無血清培地で24時間培養した。
【実施例】
【0034】
AM添加後8時間目及び/又は16時間目のCFB細胞におけるCCL2(MCP-1)、炎症性サイトカイン(IL-6、TNFα、IL-1β)、各種マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)、筋線維芽細胞分化マーカー(αSMA、PDGFRα)及びコラーゲンについて、mRNAの発現量の変化を認めた(図2)。特にコラーゲンの発現量は減少した。これにより、心線維芽細胞ではAMが炎症に影響を及ぼすことが考えられた。
【実施例】
【0035】
J774細胞(マウスの単球/マクロファージ細胞株:MQs)の培養系にAMを15μg/mL加えて培養したとき、AM投与前を1としたときの細胞の遊走及び接着性に関連する各種マーカーのmRNAの相対的発現量を確認した。AM添加後8時間目及び/又は16時間目のCCL2、接着因子(ICAM-1、VCAM-1及びL-selectin)、各種インテグリン、炎症性サイトカイン(IL-6、TNFα、IL-1β、IFNγ)、誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)を確認したところ、CCL-2、ICAM-1、インテグリンα4、α5及びα6、IL-6、iNOSについてmRNAの発現量の変化を認めた(図3)。
【実施例】
【0036】
J774細胞の培養系にAMを15μg/mL加えて培養したときの細胞遊走能と細胞接着(細胞凝集)反応を確認した。細胞遊走能は CytoSelect 96-Well Cell Migration Assay(5μm, Fluorometric Format) (Cell Biolabs)を用いて測定した(n-4)。J774細胞を無血清培地で24時間培養後チャンバー上部に2×105cells/wellの細胞を加えた。CFB細胞を48時間AM存在下又は非存在下で培養し、培養液をコンディション培地(CFB-CM)とした。18時間培養後に480nm/520nmの相対的蛍光度を測定した。CFB-CMを陽性コントロールとした。AMはマクロファージ細胞の遊走能を増強し、細胞を凝集させることを確認した(図4)。
【実施例】
【0037】
HUVEC細胞(血管内皮細胞)の培養系にAMを15μg/mL加えて培養したときの細胞の接着性を確認した。細胞の接着性は、AM添加前を1としたときの接着性に関連する各種マーカーのmRNAの相対的発現量を確認した。AM添加後16時間でのICAM-1及びL-selectinの発現量が増加した(図5)。
【実施例】
【0038】
CFB細胞及びJ774細胞の培養系にAMを15μg/mL加えて培養したとき、AM添加後5分及び30分での各種炎症性マーカーの発現をウエスタンブロッティングにて確認した。対照にカイネースインヒビターであるLY294002を作用させた。その結果、AMの投与により炎症マーカーであるAkt及びNFκBの活性化を認めた(図6)。
【実施例】
【0039】
(実施例3)心筋梗塞(MI)時のα1マイクログロブリン(AM)の作用
実施例1で作製したMIモデルマウスについて、MI作製直後にAMを心臓に投与した。AMとして、遺伝子組換えマウスAMタンパク質(PBS中50μg/mL; MBS2012437、MyBioSource)を境界領域(BZ)へ20μLずつ3ヶ所心筋内投与した。本実施例において、MIを発症していない群(以下「sham群」)(n=6)、MI時にPBSを投与した群(以下「MI+PBS群」)(n=12)及びMI時にAMを投与した群(以下「MI+AM群」)(n=15)により確認した。MI 2週目にAMがMIモデルマウスに及ぼす各作用を確認した。
【実施例】
【0040】
組織学的観察の結果、MI+PBS群に比べてMI+AM群で左室壁菲薄化が認められた(図7)。MI 6日目において、MI+PBS群での死亡率は17%であったのに対し、MI+AM群では47%であり、AM投与により明らかに高い死亡率を認めた(図8)。マウスのMI時に境界領域(BZ)にAMを投与した結果、心臓において線維化修復を阻害し左心室壁の菲薄化により心臓破裂を生じさせると考えられた。
【実施例】
【0041】
次に、MIモデルマウスについて、心臓に及ぼす各種マーカーを確認したところ、MI 2週目で、MI+PBS群に比べてMI+AM群の拡張早期左室流入波(E波)/僧帽弁輪部移動速度(e`波)は増加傾向にあり、肺うっ血を引き起こす病態が観察された(図9)。また、左室壁厚を計測した結果、MI+PBS群では200μmであったのに対し、MI+AM群では100μm程度に菲薄化が認められた(図9)。一方、左室容積や左室収縮能(EF)はMI発症により変化を認めたが、MI+AM群とMI+PBS群の間では有意差を認めなかった。さらに、線維化領域の割合及び心エコー検査結果においてもMI+AM群とMI+PBS群の間では有意差を認めなかった。
【実施例】
【0042】
さらに境界領域(BZ)でのマクロファージ浸潤を細胞のF4/80陽性率で確認したところ、MI+AM群のほうがMI+PBS群に比べて高値を示し、マクロファージの浸潤の程度も高いことが確認された(図10)。そして、iNOS及びMMP9について確認したところ、いずれのマーカーもMI+PBS群に比べてMI+AM群において約2倍近く高い値を示した(図10)。
【実施例】
【0043】
(実施例4)AMの機能的結合物質の確認
本実施例では、タンパク質脂質オーバーレイアッセイ(P-6002; Echelon Biosciences)により、CFB細胞(ラット心線維芽初代培養細胞)において遺伝子組換えマウスAMタンパク質と相互作用する機能的結合物質について確認したところ、AMは細胞膜リン脂質であるフォスファチジン酸(phosphatidic acid:PA)と相互作用することが確認された(図11)。PAは主として細胞膜に存在し、シグナル伝達(Ras、PKC、PI4P5K、Akt/mTOR、NFκB、SK1)、膜小胞輸送(エンド/エキソサイトーシス、食作用)、アクチン-ミオシン細胞骨格再編成、走化性/遊走等に係る機能を有する。PAは、ホスホリパーゼD(PLD)、DAGキナーゼ(DGK)及びLPAアシルトランスフェラーゼ(LPAAT)等の酵素反応により生合成される。
【実施例】
【0044】
(実施例5)PA合成酵素阻害剤による作用
本実施例では、PA合成酵素であるPLDやDGKの阻害剤であるFIPI(ホスホリパーゼD1/D2阻害剤)やDGKI(R59949)及びCU-3を用いてCFB細胞(ラット心線維芽初代培養細胞)やJ774細胞(マウスの単球/マクロファージ細胞株)におけるマーカーの変動について確認した(図12)。本実施例では、ヒトAM(ab96149; Abcam)15μg/mLを培養系に加え、その後の実験に使用した。本実施例ではジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解した1μMのFIPI塩酸塩(F5807; Sigma-Aldrich)、40μMのR59949(D5794; Sigma-Aldrich)又は5μMのCU-3を用いた。
【実施例】
【0045】
CFB細胞(ラット心線維芽初代培養細胞)にAM処理20分前にFIPI、DGKI又はCU-3CU-3を細胞培養系に加えた。AMで8時間処理後のCCL-2、IL-1β、MMP9、ICAM-1、iNOS及びIL-6の各mRNAの相対的発現量を測定した。その結果、CU-3を加えた系ではMMP9、ICAM-1、iNOS及びIL-6について発現抑制効果が認められた。また、DGKIではIL-1β及びIL-6について発現抑制効果が認められた(図13)。
【実施例】
【0046】
次に、J774細胞(マウスの単球/マクロファージ細胞株)でのAMによる細胞遊走能に及ぼすPA合成酵素阻害剤の影響を確認した。その結果、FIPI、DGKI及びCU-3のすべてについて、遊走能を阻害することが確認された(図14)。
【実施例】
【0047】
(実施例6)MIモデルマウスに対するPA合成酵素阻害剤の作用
実施例3と同手法により作製したMIモデルマウスに対するPA合成酵素阻害剤の作用を確認した。MI 作製直後から4日間(計4回)のみ、DMSOに溶解した高用量(0.6mM)又は低用量(0.24mM)のCU-3(GLXC-07641, Glixx Laboratories)50μLを腹腔内投与した。vehicle群にはDMSOを投与した。
【実施例】
【0048】
MI後慢性期(4週目)の組織学的観察の結果、CU-3の高用量(0.6mM)投与群で、左室壁の菲薄化の改善が認められた(図15)。線維化領域の割合は、CU-3の濃度依存的に低下することが確認された(図16)。そして左室壁厚を計測した結果についても、CU-3の濃度依存的に低下することが確認された(図16)。
【実施例】
【0049】
MI 2週目及び4週目での各種心エコーパラメーターを測定した。MI 2週目後、CU-3(0.6mM)投与群では、収縮期血圧に影響を与えずに、vehicle群と比較して、LV拡張終期径(left ventricular enddiastolic diameter)及び収縮末期径(left ventricular endsystolic diameter)を効果的に減少させた。左室駆出率(ejection fraction:EF)、左室拡張能(E/e')及び長軸方向グローバルストレイン(global longitudinal strain:GLS)等において、機能改善効果が確認された(図17)。
【実施例】
【0050】
MI 3日目の境界領域(BZ)でのマクロファージ浸潤を細胞のF4/80陽性率で確認したところ、CU-3の高用量(0.6mM)投与群で低い値を示し、マクロファージの浸潤の程度も改善されたことが確認された(図18)。そして、同様に境界領域(BZ)でのNFκBの活性をp65のリン酸化で確認したところ、CU-3の高用量(0.6mM)投与群で低い値を示し、炎症マーカーについても改善効果が認められた(図19)。さらに、心臓リモデリングに影響を及ぼすMMP9の発現を境界領域(BZ)において確認したところ、組織学的な観察、MMP活性の測定及びウエスタンブロッティングの結果より、CU-3の高用量(0.6mM)投与群で低い値を示し、炎症マーカーについても改善効果が認められた(図20)。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上詳述したように、本発明のAM阻害剤を有効成分とする心血管系疾患の治療剤及び/又は予防剤によれば、心筋梗塞(MI)でのAMによる心線維芽細胞及びマクロファージのAkt、NFκB活性化、マクロファージの遊走促進、細胞接着、催炎症、急性期の線維化修復阻害等の作用等の症状を改善することができる。従来は急性心筋梗塞発症後、心筋壊死を軽減する薬物療法はなかったのに対し、本発明によりこれらの心血管系疾患の予防及び/又は治療効果が期待できる。
【0052】
さらに、本発明により心血管系におけるPAの作用メカニズムが確認されたことで、心血管系疾患に対してより優れた治療剤及び/又は予防剤の開発が期待できる。例えば急性心筋梗塞、左室リモデリング、心アミロイドーシスを含む左室収縮能の保たれた心不全(主に拡張性心不全)、動脈硬化、大動脈弁狭窄症より選択される1又は2以上の疾患が挙げられる。心筋梗塞としては、心筋梗塞に合併しておこる心不全、虚血による重度の不整脈なども包含される。心筋梗塞において合併しておこる症状としては、不整脈(期外収縮、心室細動、房室ブロック)、心不全、乳頭筋断裂、心破裂、心室瘤(左冠動脈前下行枝梗塞の結果として心尖部に生じる)、心筋梗塞後症候群等を挙げることができる。左室リモデリングとは、例えば心筋梗塞後に、梗塞領域の機能低下を補うための心筋肥大(左室全体の拡張)などが挙げられる。心筋肥大は、梗塞領域の心筋細胞が壊死・脱落することにより、コラーゲン線維などの線維組織に置換され、慢性期に線維組織が薄く伸展することにより引き起こされると考えられる。そのため梗塞領域のコラーゲン線維への置換や線維組織の伸展を抑制・予防することは、心血管系疾患を改善するうえで重要である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18
【図20】
19