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明細書 :誘電分光装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-205156 (P2018-205156A)
公開日 平成30年12月27日(2018.12.27)
発明の名称または考案の名称 誘電分光装置
国際特許分類 G01J   3/45        (2006.01)
G01N  21/552       (2014.01)
FI G01J 3/45
G01N 21/552
請求項の数または発明の数 2
出願形態 OL
全頁数 14
出願番号 特願2017-111416 (P2017-111416)
出願日 平成29年6月6日(2017.6.6)
発明者または考案者 【氏名】田島 卓郎
【氏名】中村 昌人
【氏名】味戸 克裕
【氏名】小川 雄一
【氏名】白神 慧一郎
出願人 【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100083806、【弁理士】、【氏名又は名称】三好 秀和
【識別番号】100129230、【弁理士】、【氏名又は名称】工藤 理恵
審査請求 未請求
テーマコード 2G020
2G059
Fターム 2G020AA03
2G020BA02
2G020CA12
2G020CB23
2G020CB42
2G020CD03
2G020CD12
2G020CD24
2G020CD36
2G020CD38
2G059AA01
2G059BB04
2G059CC16
2G059EE12
2G059GG01
2G059GG08
2G059HH01
2G059JJ12
2G059JJ14
2G059JJ17
2G059JJ22
2G059KK10
2G059LL01
2G059MM01
2G059NN01
要約 【課題】環境変動による不安定性を低減し、テラヘルツ帯等の高周波数帯での誘電分光測定を高精度に行う。
【解決手段】第1フォトミキサ6aから第2フォトミキサ6bへ放射される2つの光の差周波に対応する周波数のテラヘルツ波が伝搬する伝搬路に配置されたATRプリズム9と、第1フォトミキサ6aとATRプリズム9との間を伝搬するテラヘルツ波の伝搬路に配置されたハーフミラー8と、ハーフミラー8で反射したテラヘルツ波を受信する第3フォトミキサ6cと、第2フォトミキサ6bへ入力されるホモダイン検波用の光を分岐して第3フォトミキサ6cへ入力する第3スプリッタ2cと、第2フォトミキサ6bでホモダイン検波された電気信号の値を第3フォトミキサ6cでホモダイン検波された電気信号の値で補正するロックインアンプ11と、を備える。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
第1のフォトミキサから第2のフォトミキサへ放射される2つの光の差周波に対応する周波数の電磁波が伝搬する伝搬路に配置されたATRプリズムと、
前記第1のフォトミキサと前記ATRプリズムとの間を伝搬する前記電磁波の伝搬路に配置されたハーフミラーと、
前記ハーフミラーで反射した前記電磁波を受信する第3のフォトミキサと、
前記第2のフォトミキサへ入力されるホモダイン検波用の光を分岐して前記第3のフォトミキサへ入力するスプリッタと、
前記第2のフォトミキサでホモダイン検波された電気信号の値を前記第3のフォトミキサでホモダイン検波された電気信号の値で補正する補正部と、
を備えることを特徴とする誘電分光装置。
【請求項2】
前記2つの光を出力する第1のカプラから前記第1のフォトミキサを介して前記第2のフォトミキサまでの第1の光路長と、前記ホモダイン検波用の光を出力する第2のカプラから前記第2のフォトミキサまでの第2の光路長と、前記第2のカプラから前記第3のフォトミキサまでの第3の光路長とが等しくなるように、前記第1の光路長の光路、前記第2の光路長の光路、前記第3の光路長の光路のうちいずれかに遅延線が挿入されていることを特徴とする請求項1に記載の誘電分光装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電分光法を用いた生体の非侵襲な成分濃度測定技術に関する。特に、成分濃度測定を行うために生体に照射した電磁波の振幅及び位相を観測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化が進み、成人病に対する対応が課題になりつつある。成人病であるか否かは患者から採取した血糖値等の血液成分を検査して判断するが、採血行為自体が患者に過度の心的負担を与えるので、非侵襲な血液の成分濃度測定技術が注目されている。
【0003】
現在、非侵襲な成分濃度測定方法として誘電分光法がある。誘電分光法は、患者の皮膚内に電磁波を照射し、血糖値を示すグルコース分子等と体内の水分との親和性による相互作用により電磁波を体内に吸収させ、患者の体内を通過した電磁波の振幅及び位相を観測することにより、患者の血液成分濃度を測定する手法である。
【0004】
しかし、血液内の対象成分に対する電磁波の相互作用は小さく、また、人体への影響を考慮すると照射可能な電磁波の強度には限度があるため、適切な測定結果が得られず、生体の血糖値測定においては十分な効果を得ることができない。
【0005】
一方、マイクロ波等の電磁波を利用した材料分析の分野では、共振法、同軸反射法等の様々な手法を利用して材料の複素誘電率を評価することが行われている。テラヘルツ帯のような高周波では、レンズや放物面鏡を用いた疑似光学系によるフリースペース法により試料の複素誘電率が計測される。上述したグルコース分子等は複素誘電率に相関があるので、その複素誘電率の変化に対応した電気信号の振幅及び位相を測定することにより、試料である人体の血液成分濃度を測定することが可能である。
【0006】
従来の誘電分光装置として、マイクロ波からミリ波以上の周波数帯では、光電気変換技術を利用した誘電分光装置がある。特許文献1に開示された誘電分光装置の構成を図5に示す。この図5は、特許文献1の図4に対応する。
【0007】
図5に示す誘電分光装置は、2つの連続波光の差周波に対応する周波数のTHzビームを第1フォトミキサ6aから測定試料100へ照射し、その測定試料100を透過・反射したTHzプローブビームを第2フォトミキサ6bでホモダイン検波して、電気信号の振幅及び位相を測定する方式が採られている。
【0008】
また、電磁波をホモダイン検波する際には、第2フォトミキサ6bでのミキシング時における2つの光路・空間伝搬長が一致している必要があるため、空間を伝搬する電磁波の伝搬長や光が伝搬する光ファイバ長が調整されている。具体的には、第1カプラ3aから第1フォトミキサ6aを介する第2フォトミキサ6bまでの光ファイバ長及び空間伝搬長と、第2カプラ3bから第2フォトミキサ6bまでの光ファイバ長とを一致させている。
【0009】
次に、測定試料について説明する。生体内部には水分等が含まれており、疑似的に水溶液や油等の液体試料を評価する際には、溶液セルに液体試料を封入又はフロー供給して測定することが一般的である。サンプルセルのサイズは、例えば、ビームサイズ以上として数ミリ×数ミリ角以上であり、サンプルを固定する窓材料としては、高抵抗Si、Zカット水晶、高密度ポリエチレン、ポリメチルペンテン等、測定周波数に応じて透過率の高い材料が用いられる。サンプルセルは、インレットとアウトレットを備えるフローセル構成とされる場合もある。
【0010】
また、誘電率測定用セルの場合、テラヘルツ波を透過する窓材が設けられているが、図5に示した連続波電磁波分光測定法では、窓材の厚さに依存するテラヘルツ波の多重反射が生ずることが知られている。2つの窓材の厚さ、セル厚、及び誘電率から多重反射の影響を排除することは容易ではないので、例えば、移動平均をとることによりスペクトル上の干渉リプルを低減する方法が採られている。
【0011】
また、水は赤外領域で非常に強い吸収を呈するため、図6に示す高抵抗シリコン製のATRプリズム9を用いて液体試料の評価を行うことが知られている。従来では、2つのレンズ30間におけるテラヘルツ波ビームは平行光であるため、その2つのレンズ30間の中央にATRプリズム9を配置して支持台50で固定している。ATRプリズム9は、その断面形状が台形であり、テラヘルツ波のビームサイズに応じて幅及び高さが調整されている。このATRプリズム9の上に誘電率測定用セルを載置し、その誘電率測定用セルで反射したATRプリズム9の透過信号を受信して振幅及び位相を測定する。
【0012】
以上のように観測される電波の周波数に対応する電気信号の振幅及び位相から誘電緩和スペクトルを算定する。一般的にはCole-Cole式に基づき緩和カーブの線形結合として表現し、複素誘電率を算定する。生体成分の計測では、例えば血液中に含まれるグルコースやコレステロール等の血液成分の量に複素誘電率は相間があるので、その変化に対応した電気信号の振幅及び位相として測定される。複素誘電率変化と成分濃度との相間を予め測定することによって検量モデルを構築し、計測した誘電緩和スペクトルの変化から成分濃度の検量が行われる。
【先行技術文献】
【0013】

【特許文献1】特開2013-32933号公報
【0014】

【非特許文献1】Jae-Young Kim、外4名、“Continuous-Wave THz Homodyne Spectroscopy and Imaging System With Electro-Optical Phase Modulation for High Dynamic Range,”、IEEE TRANSACTIONS ON TERAHERTZ SCIENCE AND TECHNOLOGY、VOL.3、NO.2、2013年3月、p.158-p.164
【非特許文献2】Benjamin S.-Y.Ung、外5名、“Low-cost ultra-thin broadband terahertz beam-splitter”、OPTICS EXPRESS、Vol.20、No.5、2012年2月27日、p.4968-p.4978
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、テラヘルツ帯等の高帯域電磁波において、図5に示した従来の誘電分光装置では、光源の位相雑音に伴うフォトミキサで生じる雑音の影響によりSN比の低下が生ずる。これらの雑音は観測する電気信号の振幅及び位相の変動をもたらすため、測定再現性や妥当な測定精度が得られないという課題があった。
【0016】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、環境変動による不安定性を低減し、テラヘルツ帯等の高周波帯での誘電分光測定を高精度に行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
以上の課題を解決するため、請求項1に係る誘電分光装置は、第1のフォトミキサから第2のフォトミキサへ放射される2つの光の差周波に対応する周波数の電磁波が伝搬する伝搬路に配置されたATRプリズムと、前記第1のフォトミキサと前記ATRプリズムとの間を伝搬する前記電磁波の伝搬路に配置されたハーフミラーと、前記ハーフミラーで反射した前記電磁波を受信する第3のフォトミキサと、前記第2のフォトミキサへ入力されるホモダイン検波用の光を分岐して前記第3のフォトミキサへ入力するスプリッタと、前記第2のフォトミキサでホモダイン検波された電気信号の値を前記第3のフォトミキサでホモダイン検波された電気信号の値で補正する補正部と、を備えることを特徴とする。
【0018】
請求項2に係る誘電分光装置は、請求項1に記載の誘電分光装置において、前記2つの光を出力する第1のカプラから前記第1のフォトミキサを介して前記第2のフォトミキサまでの第1の光路長と、前記ホモダイン検波用の光を出力する第2のカプラから前記第2のフォトミキサまでの第2の光路長と、前記第2のカプラから前記第3のフォトミキサまでの第3の光路長とが等しくなるように、前記第1の光路長の光路、前記第2の光路長の光路、前記第3の光路長の光路のうちいずれかに遅延線が挿入されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、環境変動による不安定性を低減し、テラヘルツ帯等の高周波帯での誘電分光測定を高精度に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施の形態に係る誘電分光装置の構成を示す図である。
【図2】ATRプリズムでのテラヘルツ波の屈折及び反射のイメージを示す図である。
【図3】ATRプリズム未使用時の振幅と位相の時間推移を示すグラフである。
【図4】ATRプリズム使用時の振幅と位相の時間推移を示すグラフである。
【図5】従来の誘電分光装置の構成を示す図である。
【図6】従来の誘電分光装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<概要>
本発明では、図5に示した従来の誘電分光装置に対して、第1フォトミキサ6aからの電磁波の一部を反射させるハーフミラー、ハーフミラーで反射した電磁波を受信する第3フォトミキサ、第2カプラ3bからのホモダイン検波用の光を分岐して第2フォトミキサ6bと第3フォトミキサへそれぞれ入力する第3スプリッタ、及び第2フォトミキサ6bでホモダイン検波された電気信号の値を第3のフォトミキサでホモダイン検波された電気信号の値で補正するロックインアンプを更に備え、テラヘルツ分光をATRプリズムで行うことを特徴とする。

【0022】
これらの構成要素を追加したことにより、光源の位相雑音に伴う第1フォトミキサ6a及び第2フォトミキサ6bで生じる雑音の影響を排除することができる。その結果、環境変動による不安定性を低減し、テラヘルツ帯等の高周波帯での誘電分光測定を高精度に行うことができる。

【0023】
また、本発明では、第2フォトミキサ6bと第3フォトミキサでのそれぞれのミキシング時における2つの光路・空間伝搬長が一致しなければならないという条件を、遅延線を用いて調整することを特徴とする。これにより、簡易かつ簡便にホモダイン検波を行うことができる。

【0024】
以下、本発明を実施する一実施の形態について図面を用いて説明する。

【0025】
<構成>
図1は、本実施の形態に係る誘電分光装置の構成を示す図である。本実施の形態では、疑似光学系によるフリースペース法を用いる。

【0026】
この誘電分光装置は、第1連続波光源1a、第2連続波光源1b、第1スプリッタ2a、第2スプリッタ2b、第3スプリッタ2c、第1カプラ3a、第2カプラ3b、第1位相変調器4a、第2位相変調器4b、発振器5、第1フォトミキサ6a、第2フォトミキサ6b、第3フォトミキサ6c、第1放物面鏡7a、第2放物面鏡7b、第3放物面鏡7c、ハーフミラー8、ATRプリズム9、遅延線10、ロックインアンプ11、及びモニタ12、を備えて構成される。これら全ての構成要素は、図1に示す通りに接続されている。なお、図1に示された実線は光ファイバ線であり、一点鎖線は電気線であり、破線は電磁波の伝搬路である。

【0027】
第1連続波光源1aは、第1周波数ωの第1連続光波を出力する機能を備える。第2連続波光源1bは、第2周波数ω(≠ω)の第2連続光波を出力する機能を備える。なお、連続波光源からの光の連続波に代えて、レーザ光源からのパルス波を用いてもよい。

【0028】
第1スプリッタ2aは、第1連続光波の光パワーを等分に2つに分岐し、一方の第1連続光波を第1カプラ3aへ入力し、他方の第1連続光波を第1位相変調器4aへ入力する機能を備える。第2スプリッタ2bは、第2連続光波の光パワーを等分に2つに分岐し、一方の第2連続光波を第1カプラ3aへ入力し、他方の第2連続光波を第2位相変調器4bへ入力する機能を備える。

【0029】
第1位相変調器4aは、発振器5からの信号に基づき第1連続光波の位相を変調して第2カプラ3bへ入力する機能を備える。第2位相変調器4bは、発振器5からの信号に基づき第2連続光波の位相を変調して第2カプラ3bへ入力する機能を備える。

【0030】
第1カプラ3aは、第1連続光波と第2連続光波を合波して第1フォトミキサ6aへ入力する機能を備える。第2カプラ3bは、それぞれ位相変調された第1連続光波と第2連続光波を合波し、遅延線10及び第3スプリッタ2cを介して第2フォトミキサ6bと第3フォトミキサ6cへそれぞれ入力する機能を備える。

【0031】
なお、第1位相変調器4a、第2位相変調器4b、及び第2カプラ3bは、第2フォトミキサ6bと第3フォトミキサ6cがそれぞれホモダイン検波を行う際に用いる参照信号(ホモダイン検波用の光)の発振源を構成している。

【0032】
第1フォトミキサ6aは、第1連続光波と第2連続光波の差周波(|ω-ω|)に対応する周波数のテラヘルツ波を空間へ放射する機能を備える。この第1フォトミキサ6aは、例えば、単一走行キャリア・フォトダイオード(UTC-PD:Uni-Travelling-Carrier Photodiode)で実現可能である。

【0033】
第2フォトミキサ6bは、ATRプリズム9と測定試料100を介して空間内を伝搬してきた第1フォトミキサ6aからのテラヘルツ波を受信し、第2カプラ3bからの参照信号(ホモダイン検波用の光)を用いてホモダイン検波を行い、その電気信号をロックインアンプ11へ出力する機能を備える。

【0034】
第3フォトミキサ6cは、ハーフミラー8で反射した第1フォトミキサ6aからのテラヘルツ波を受信し、第2カプラ3bからの参照信号(ホモダイン検波用の光)を用いてホモダイン検波を行い、その電気信号をロックインアンプ11へ出力する機能を備える。

【0035】
これらの第2フォトミキサ6bと第3フォトミキサ6cは、例えば、アンテナ付きUTC-PDと光ファイバを同一パッケージに実装することで実現可能である。その他、光伝導アンテナ(PCA:Photo-Conductive Antenna)を用いてもよい。

【0036】
第1放物面鏡7aは、第1フォトミキサ6aから放射されたテラヘルツ波をおよそ90°の角度で反射させて、平行光に変換して、テラヘルツ波の伝搬方向を変更する機能を備える。

【0037】
第2放物面鏡7bは、第1放物面鏡7aで変更されたテラヘルツ波の伝搬方向をおよそ90°の角度で反射させてテラヘルツ波の伝搬方向を第2フォトミキサ6bへ向ける機能を備える。

【0038】
第3放物面鏡7cは、ハーフミラー8で反射したテラヘルツ波の伝搬方向をおよそ90°の角度で反射させて第3フォトミキサ6cへ向ける機能を備える。

【0039】
ハーフミラー8は、第1フォトミキサ6aとATRプリズム9との間を伝搬するテラヘルツ波の伝搬路に配置され、テラヘルツ波をATRプリズム9へ透過するとともに、そのテラヘルツ波を反射させる機能を備える。

【0040】
ATRプリズム9は、断面形状が台形であり、テラヘルツ波のビームサイズに応じて幅及び高さが調整された減衰全反射プリズム又は全反射プリズムであって、第1フォトミキサ6aから放射されるテラヘルツ波の伝搬路に配置されており、テラヘルツ分光を行う機能を備える。

【0041】
第3スプリッタ2cは、第2カプラ3bからの参照信号(ホモダイン検波用の光)の光パワーを等分に2つに分岐し、一方の参照信号を第2フォトミキサ6bへ入力し、他方の参照信号を第3フォトミキサ6cへ入力する機能を備える。

【0042】
遅延線10は、第2カプラ3bと第3スプリッタ2cとの間に挿入して接続され、第2フォトミキサ6bと第3フォトミキサ6cへ入力される参照信号(ホモダイン検波用の光)を遅延させる機能を備える。

【0043】
ロックインアンプ11は、第2フォトミキサ6bでホモダイン検波された電気信号の値を第3フォトミキサ6cでホモダイン検波された電気信号の値で補正(除去)する機能(補正部)、発振器5の発振周波数を制御する機能を備える。このロックインアンプ11は、例えば、アナログで信号処理を行う構成で実現してもよいし、A/D変換後にデジタル信号処理を行う集積回路(例えば、FPGA(field-programmable gate array)、ASIC(application specific integrated circuit))で構成してもよい。

【0044】
モニタ12は、ロックインアンプ11で行われた電気信号の処理結果(電気信号の振幅、位相等)を画面に表示する機能を備える。

【0045】
ここまで、誘電分光装置を構成する個々の構成要素の機能について説明した。生体等の測定試料100は、ATRプリズム9の表面(ATRプリズム9の斜面から入射したテラヘルツ波が屈折する側の表面)に載置又は接触配置される。

【0046】
<動作>
次に、誘電分光装置の動作について説明する。

【0047】
(従来の動作)
まず、図5に示した従来の誘電分光装置の動作を説明する(非特許文献1)。

【0048】
2つの連続光波(又はパルス波)の差周波に対応した周波数のテラヘルツ波を第1フォトミキサ6aから放射し、測定試料100を透過・反射したテラヘルツ波を第2フォトミキサ6bで受信する。

【0049】
それとともに、制御信号により電気的に位相変調が可能な電気光学結晶を用いた光位相変調器4に単一周波数fmの信号を印加してセロダイン位相変調を行い、変調周波数fmと同等の周波数シフトを第2連続光波に生じさせ、周波数シフト後の第2連続光波と第1連続光波の合波(参照信号(ホモダイン検波用の光))を第2フォトミキサ6bに入力する。

【0050】
その後、その参照信号を用いて、受信したテラヘルツ波とのホモダイン検波を第2フォトミキサ6bで行う。第2フォトミキサ6bからホモダイン検波による周波数fmの電気信号が出力されるので、その電気信号を同期検波して振幅及び位相を検出する。

【0051】
(本実施の形態の動作)
次に、図1を参照しながら、本実施の形態に係る誘電分光装置の動作を説明する。

【0052】
2つの連続光波(又はパルス波)の差周波に対応した周波数のテラヘルツ波を第1フォトミキサ6aから放射し、第1放物面鏡7a、ハーフミラー8、ATRプリズム9、測定試料100、及び第2放物面鏡7bを介して伝搬したテラヘルツ波を第2フォトミキサ6bで受信する。

【0053】
また、テラヘルツ波を第2フォトミキサ6bで受信するとともに、ATRプリズム9へ入射する前のテラヘルツ波、正確には、第1放物面鏡7a、ハーフミラー8、及び第3放物面鏡7cを介して伝搬したテラヘルツ波を第3フォトミキサ6cで受信する。

【0054】
それらとともに、制御信号により電気的に位相変調が可能な電気光学結晶を用いた第1位相変調器4aと第2位相変調器4bに発振器5からの単一周波数fmの信号を印加してセロダイン位相変調を行い、変調周波数fmと同等の周波数シフトを第1連続光波と第2連続光波にそれぞれ生じさせ、周波数シフト後の第1連続光波と第2連続光波の合波(参照信号(ホモダイン検波用の光))を第2フォトミキサ6bと第3フォトミキサ6cにそれぞれ入力する。

【0055】
その後、その参照信号を用いて、ATRプリズム9及び測定試料100での変化量を含むテラヘルツ波とのホモダイン検波を第2フォトミキサ6bで行い、ATRプリズム9及び測定試料100での変化量を含まないテラヘルツ波とのホモダイン検波を第3フォトミキサ6cで行う。

【0056】
その後、第2フォトミキサ6bと第3フォトミキサ6cからホモダイン検波による周波数fmの各電気信号がそれぞれ出力されるので、その各電気信号をそれぞれ同期検波してロックインアンプ11で振幅及び位相を検出し、第2フォトミキサ6bの振幅及び位相の値から第3フォトミキサ6cの振幅及び位相の値を除去する。

【0057】
最後に、ロックインアンプ11又は図示しない専用装置で、除去後の振幅及び位相を用いて複素誘電率を計測し、その複素誘電率から測定試料100に含まれる成分濃度を測定する。

【0058】
本実施の形態によれば、第1フォトミキサ6aとATRプリズム9との間にハーフミラー8を配置し、ハーフミラー8で反射したATRプリズム入射前のテラヘルツ波を用いて第3フォトミキサ6cでホモダイン検波を行い、第2フォトミキサ6bでホモダイン検波された電気信号の値から第3フォトミキサ6cでホモダイン検波された電気信号の値を除去するので、第1連続波光源1aと第2連続波光源1bでの位相雑音に伴う第1フォトミキサ6a及び第2フォトミキサ6bで生じる雑音の影響を排除することができる。その結果、環境変動による不安定性を低減し、テラヘルツ帯での誘電分光測定を高精度に行うことができる。

【0059】
<カプラとフォトミキサ間の光路・空間伝搬長の調整方法>
次に、カプラとフォトミキサ間の光路・空間伝搬長の調整方法について説明する。電磁波をホモダイン検波する際には、背景技術で説明した通り、第2フォトミキサ6bでのミキシング時における2つの光路・空間伝搬長が一致している必要がある。第3フォトミキサ6cでミキシングを行う場合も同様である。

【0060】
この条件について、図5に示した従来の誘電分光装置では、第1カプラ3aから第1フォトミキサ6aを介する第2フォトミキサ6bまでの光ファイバ長及び空間伝搬長と、第2カプラ3bから第2フォトミキサ6bまでの光ファイバ長とを一致させていた。

【0061】
同様の条件を満たすため、本実施の形態では、第1カプラ3aから第1フォトミキサ6aを介して第2フォトミキサ6bまでの第1光路長と、第2カプラ3bから第3スプリッタ2cを介して第2フォトミキサ6bまでの第2光路長と、第2カプラ3bから第3スプリッタ2cを介して第3フォトミキサ6cまでの第3光路長とを等しくする。つまり、第1光路長と第2光路長と第3光路長の遅延長を同等とする。

【0062】
このとき、例えば、第1カプラ3aと第1フォトミキサ6aとの間、第3スプリッタ2cと第2フォトミキサ6bとの間、第3スプリッタ2cと第3フォトミキサ6cとの間は、それぞれ光ファイバで接続されているが、各間の光ファイバの実長は異なることが多い。そこで、上記光路長を同等する条件を満たすために、遅延線10を挿入する。例えば、第1カプラ3aと第1フォトミキサ6aとの間の光ファイバ長が、第3スプリッタ2cと第2フォトミキサ6bとの間の光ファイバ長又は第3スプリッタ2cと第3フォトミキサ6cとの間の光ファイバ長よりも長い場合、図1に示したように、第2カプラ3bと第3スプリッタ2cとの間の光ファイバ上に遅延線10を挿入する。

【0063】
このように、本実施の形態では、遅延線10の遅延量を調整するのみで上記光路長を同等する条件を満たすことができるので、確実かつ簡易にホモダイン検波を行うことができる。なお、第2カプラ3bと第3スプリッタ2cとの間の光ファイバに遅延線10を挿入するのに代えて、他の光ファイバに遅延線を挿入してもよい。例えば、第3スプリッタ2cと第2フォトミキサ6bとの間の光ファイバ長又は第3スプリッタ2cと第3フォトミキサ6cとの間の光ファイバ長が、第1カプラ3aと第1フォトミキサ6aとの間の光ファイバ長よりも長い場合、第1カプラ3aと第1フォトミキサ6aとの間の光ファイバに遅延線を挿入する。

【0064】
<ATRプリズムの特性>
次に、ATRプリズム9の特性について説明する。ATRプリズム9は、シリコンで構成されており、屈折率の温度特性があるので、温度変動により光路長が変化し、測定する位相が変化してしまう。

【0065】
そこで、図2に示すように、ATRプリズム9の底部に温調素子13を設置する。ATRプリズム9の底部に加えて側面に設置してもよい。また、安定して測定を行うため、ATRプリズム9と温調素子13を支持台50の上に固定する。

【0066】
本実施の形態では、ATRプリズム9に対して温調素子13と支持台50を用いるので、テラヘルツ帯での誘電分光測定を更に高精度に行うことができる。

【0067】
<ハーフミラー、放物面鏡の特性>
次に、ハーフミラー8、第1放物面鏡7aの特性について説明する。

【0068】
図2の破線で示されたテラヘルツ波は、Dove型のATRプリズム9の一方の斜面の所定位置に平面波で照射され、上面の測定試料100で反射した後に、他方の斜面から出射する。入射及び出射した際には、ATRプリズム9の材質であるシリコンと空気の界面でおよそ30%反射されることになる。

【0069】
また、図1に示したように、本実施の形態では、第1フォトミキサ6aとATRプリズム9の間にハーフミラー8を設置し、また、テラヘルツ波の伝搬路をレンズで調整するのに代えて放物面鏡を用いている。第1放物面鏡7aで平行光となったテラヘルツ波の一部は伝搬路のハーフミラー8でおよそ90°の角度で反射され、第3放物面鏡7cに到達して第3フォトミキサ6cに入射する。他のテラヘルツ波はハーフミラー8を透過した後に、ATRプリズム9に入射し、測定試料100を介して第2放物面鏡7bに到達し、第2フォトミキサ6bに入射する。このようなハーフミラー8は、金属層の薄層の厚みを調整することで実現可能である(非特許文献2)。なお、ハーフミラーの反射率は等分に分岐されるように調整してもよい。

【0070】
本実施の形態では、レンズではなく放物面鏡を用いるので、レンズで生じていたテラヘルツ波の多重反射をなくすことができる。その結果、複素誘電率を安定して計測することができ、誘電分光測定を更に高精度に行うことができる。

【0071】
<ロックインアンプの動作>
次に、ロックインアンプ11の動作について説明する。ロックインアンプ11は、既に説明した通り、第2フォトミキサ6bでホモダイン検波された電気信号の値から第3フォトミキサ6cでホモダイン検波された電気信号の値を除去する。

【0072】
ここで、空間伝搬路における電磁波の大気吸収を無視すると、第2フォトミキサ6bと第3フォトミキサ6cにそれぞれ到達する各テラヘルツ波の受信パワーS,S(dB)は、それぞれ式(1)と式(2)のように記述できる。

【0073】
=P-LATR-L-LHM-2LPM ・・・(1)
=P-LHM-2LPM ・・・(2)
は第1フォトミキサ6aから出射されたテラヘルツ波の送信パワー、LATRはATRプリズム9による信号損失、Lは測定試料100による信号損失、LHMはハーフミラー8による信号損失、LPMは第1放物面鏡7a,第2放物面鏡7b,又は第3放物面鏡7cによる信号損失である。2つの受信パワーS,Sの差を求めると式(3)となる。

【0074】
ATR+L=S-S ・・・(3)
式(3)より、第2フォトミキサ6bと第3フォトミキサ6cに到達する各テラヘルツ波の受信パワーS,Sの差又は比をとることで、第1フォトミキサ6a等で生じる雑音が排除され、ATRプリズム9及び測定試料100のみによる信号損失を求めることができる。ロックインアンプ11は式(3)に対応する演算処理を行うので、誘電分光測定を高精度に行うことができる。

【0075】
また、ロックインアンプ11は、測定試料100がない場合の受信パワーS21,S31と、測定試料100がある場合の受信パワーS22,S32を用いて、LATRを更に除去する処理を行う。

【0076】
具体的には、第2フォトミキサ6bの受信パワーS21,S22については、それぞれ式(4)と式(5)のように記述できる。

【0077】
21=P-LATR-LHM-2LPM ・・・式(4)
22=P-LATR-L-LHM-2LPM ・・・式(5)
第3フォトミキサ6cの受信パワーS31,S32については、測定試料100の有無に関わらず、式(2)の右辺と同じである。式(3)と同様に、測定試料100がない場合の受信パワーS21,S31の差を求めると式(6)となり、測定試料100がある場合の受信パワーS22,S32の差を求めると式(7)となる。

【0078】
ATR=S31-S21 ・・・式(6)
ATR+L=S32-S22 ・・・式(7)
式(6)と式(7)の差を求めると式(8)となる。

【0079】
=(S32-S22)-(S31-S21) ・・・式(8)
式(8)にはLATRが含まれていないので、測定試料100のみによる信号損失を求めることができる。ロックインアンプ11は式(8)に対応する演算処理も行うので、誘電分光測定を更に高精度に行うことができる。

【0080】
図3は、大気中にATRプリズム9を設置していない場合の測定結果を示す図である。図3の(a)と(b)には、それぞれ振幅と位相の時間推移が示されている。Amp1とPha1は、それぞれ第2フォトミキサ6bからロックインアンプ11へ出力された電気信号の振幅と位相を示し、Amp2とPha2は、それぞれ第3フォトミキサ6cからロックインアンプ11へ出力された電気信号の振幅と位相を示す。式(3)においてLATRとLは無視できるので、大気吸収や第2フォトミキサ6b,第3フォトミキサ6cでの受信特性等による残差をΔA(=Amp1-Amp2),Δφ(=Pha1-Pha2)として示す。

【0081】
理想的には、長期的なドリフトが低減され、振幅100%で一定又は位相0で一定となることが望ましい。Amp1とΔAのドリフト量を比較するとΔAの方が理想値に近く、また、Pha1とΔφのドリフト量を比較してもΔφの方が理想値に近いので、本発明による効果が認められる。例えば、測定開始から1時間後において、振幅は約1%のドリフトに抑えられ、位相は約3°のドリフトに抑えられていることを把握できる。標準偏差を求めると、式(3)による差分演算を行わなかった場合、振幅の標準偏差は0.25%であるが、差分演算を行うことで0.07%まで低減することができた。また、位相については標準偏差を0.8°から0.2°まで低減することができた。

【0082】
図4は、大気中にATRプリズム9を設置している場合の測定結果を示す図である。図4の(a)と(b)にも、それぞれ振幅と位相の時間推移が示されている。なお、測定試料100は配置していない。式(3)においてLによる信号損失は無視できるので、大気吸収や第2フォトミキサ6b、第3フォトミキサ6cでの受信特性等による残差Δを示す。図4より、ATRプリズム9を設置しても同様の効果が得られることを把握できる。例えば、測定開始から1時間後において、振幅が±1%範囲内のドリフトに抑えられ、位相が±1.8°範囲内のドリフトに低減できていることを把握できる。

【0083】
<効果>
以上より、本実施の形態によれば、第1フォトミキサ6aとATRプリズム9との間にハーフミラー8を配置し、ハーフミラー8で反射したATRプリズム入射前のテラヘルツ波を用いて第3フォトミキサ6cでホモダイン検波を行い、第2フォトミキサ6bでホモダイン検波された電気信号の値から第3フォトミキサ6cでホモダイン検波された電気信号の値を除去するので、ATRプリズム9を介する信号の振幅及び位相を測定する際に、光源の位相雑音に伴う第1フォトミキサ6aと第2フォトミキサ6bで生じるテラヘルツ波の送信パワーの雑音の影響によるSN比の低下を抑制することができる。その結果、信号の振幅及び位相の変動を抑制し、測定再現性や測定精度を向上できるという効果を奏する。本実施の形態で説明した誘電分光装置は、人間又は動物を成す溶液成分の非侵襲な成分濃度測定技術に応用することができる。
【符号の説明】
【0084】
1a…第1連続波光源
1b…第2連続波光源
2a…第1スプリッタ
2b…第2スプリッタ
2c…第3スプリッタ
3a…第1カプラ
3b…第2カプラ
4…光位相変調器
4a…第1位相変調器
4b…第2位相変調器
5…発振器
6a…第1フォトミキサ
6b…第2フォトミキサ
6c…第3フォトミキサ
7a…第1放物面鏡
7b…第2放物面鏡
7c…第3放物面鏡
8…ハーフミラー
9…ATRプリズム
10…遅延線
11…ロックインアンプ
12…モニタ
13…温調素子
30…レンズ
50…支持台
100…測定試料
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5