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明細書 :核酸鎖の四重螺旋構造の検出方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6300263号 (P6300263)
公開番号 特開2015-062388 (P2015-062388A)
登録日 平成30年3月9日(2018.3.9)
発行日 平成30年3月28日(2018.3.28)
公開日 平成27年4月9日(2015.4.9)
発明の名称または考案の名称 核酸鎖の四重螺旋構造の検出方法
国際特許分類 C12Q   1/68        (2018.01)
G01N  33/53        (2006.01)
G01N  21/64        (2006.01)
FI C12Q 1/68 ZNAA
G01N 33/53 M
G01N 21/64 F
請求項の数または発明の数 7
全頁数 18
出願番号 特願2013-199029 (P2013-199029)
出願日 平成25年9月25日(2013.9.25)
審査請求日 平成28年9月20日(2016.9.20)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】397022911
【氏名又は名称】学校法人甲南学園
発明者または考案者 【氏名】三好 大輔
【氏名】前田 龍一
個別代理人の代理人 【識別番号】100124431、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 順也
【識別番号】100156845、【弁理士】、【氏名又は名称】山田 威一郎
【識別番号】100124039、【弁理士】、【氏名又は名称】立花 顕治
審査官 【審査官】上村 直子
参考文献・文献 国際公開第2013/021536(WO,A1)
特開2011-177092(JP,A)
国際公開第2009/144914(WO,A1)
特表2008-514197(JP,A)
特開2004-262828(JP,A)
ChemBioChem,2013年,Vol.14,p.540-558
調査した分野 C12Q 1/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
下記第1工程及び第2工程を含むことを特徴とする、核酸鎖の四重螺旋構造を配列特異的に検出する方法:
第1工程:被検核酸試料に対して(i)リガンドと(ii)核酸プローブを接触させる工程;
ここで、前記(i)リガンドが、チオフラビンT、銅フタロシアニンテトラスルホン酸及びその塩、並びにN—メチルメソポルフィリンよりなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記(ii)核酸プローブが、蛍光物質で標識されてなる核酸プローブであって、標的となる四重螺旋構造を有する核酸鎖に存在し、且つ当該四重螺旋構造から蛍光エネルギー移動が可能な領域に位置している塩基配列に対してハイブリダイズできる塩基配列を有するプローブであり、
前記(i)リガンドと前記(ii)核酸プローブに標識された蛍光物質が、蛍光エネルギー移動におけるドナー蛍光物質とアクセプター蛍光物質の関係にある。
第2工程:前記ドナー蛍光物質を励起させて蛍光エネルギー移動を測定する工程。
【請求項2】
前記被検核酸試料がRNAを含む試料であり、RNAの四重螺旋構造を配列特異的に検出する、請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
前記核酸鎖において、前記(ii)核酸プローブがハイブリダイズする領域の塩基配列の3’末端が、核酸鎖において標的となる四重螺旋構造を形成している塩基配列の5’末端の塩基をn位とした場合にn-1位~n-25位である、請求項1又は2に記載の検出方法。
【請求項4】
前記核酸鎖において、前記(ii)核酸プローブがハイブリダイズする領域の塩基配列の5’末端が、核酸鎖において標的となる四重螺旋構造を形成している塩基配列の3’末端の塩基をn位とした場合にn+1位~n+25位である、請求項1又は2に記載の検出方法。
【請求項5】
前記(ii)核酸プローブに含まれる塩基数が5~20個である、請求項1~のいずれかに記載の検出方法。
【請求項6】
前記(i)リガンドがチオフラビンTであり、(ii)核酸プローブを標識している蛍光物質がROXである、請求項1~のいずれかに記載の検出方法。
【請求項7】
核酸鎖の四重螺旋構造を配列特異的に検出するための検出キットであって、
(i)チオフラビンT、銅フタロシアニンテトラスルホン酸及びその塩、並びにN—メチルメソポルフィリンよりなる群から選択される少なくとも1種からなるリガンドと、
(ii)蛍光物質で標識されてなる核酸プローブであって、標的となる四重螺旋構造を有する核酸鎖に存在し、且つ当該四重螺旋構造から蛍光エネルギー移動が可能な領域に位置している塩基配列に対してハイブリダイズできる相補鎖を有する核酸プローブと、を含み、
前記(i)リガンドと前記(ii)核酸プローブに標識された蛍光物質が、蛍光エネルギー移動におけるドナー蛍光物質とアクセプター蛍光物質の関係にある、ことを特徴とする、検出キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸鎖の四重螺旋構造の検出方法、より詳細には配列特異的に核酸鎖の四重螺旋構造を検出する方法に関する。更に、本発明は、当該核酸鎖の四重螺旋構造の検出方法を行うための検出キットに関する。
【背景技術】
【0002】
RNAやDNA等の核酸鎖において、グアニジンに富む配列部分がグアニン四量体(G-quartet)を形成して四重螺旋構造を形成することが知られている。核酸鎖の四重螺旋構造は、様々な遺伝子の発現や酵素機能を制御することで、細胞の加齢、ガン化等に関与していることが知られている。
【0003】
また、四重螺旋構造を形成できる塩基配列は、DNAでは30万種類以上、RNAでは3千種類以上存在すると考えられており(非特許文献1参照)、特に、ガン関連遺伝子(例えば、C-MYC、NRAS、BCL2等)、細胞分化関連遺伝子(例えば、HCK等)、血管新生関連遺伝子(例えば、VEGF等)、翻訳因子(例えば、FOS等)のmRNAには、四重螺旋構造を形成できる配列が局在化していることも知られている。そのため、医薬品やバイオプローブの開発の観点から、配列特異的に核酸鎖の四重螺旋構造を検出する技術が求められている。
【0004】
これまでに、ベルベリン、チオフラビンT、銅フタロシアニンテトラスルホン酸、N—メチルメソポルフィリン(NMM)等の低分子化合物は、核酸鎖の四重螺旋構造に対して親和性と特異性を持ち、核酸鎖の四重螺旋構造と結合すると蛍光を発する性質があることが解明されており、従来、核酸鎖の四重螺旋構造の検出には、これらの低分子化合物(リガンド)が使用されている(非特許文献2参照)。
【0005】
しかしながら、このような低分子化合物では、極めて多様な配列が形成する類似の4重螺旋構造を配列特異的に識別することができない。とりわけ、RNAが形成する四重螺旋構造は、配列に依らず立体構造の類似性が極めて高いことが知られており(非特許文献3参照)、従来技術で、RNAの四重螺旋構造を配列特異的に識別することは不可能といえる。
【0006】
そこで、核酸鎖の四重螺旋構造を配列特異的に検出する技術を開発できれば、疾患の診断、治療薬の開発、生理機能の究明等に福音をもたらすことが期待される。
【先行技術文献】
【0007】

【非特許文献1】Nucleic acids Res., 2005; 24(9):2908
【非特許文献2】Curr. Pharm. Des., 2012; 18(14):1992
【非特許文献3】Biochemistry, 2010; 49(21):4554
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、核酸鎖の四重螺旋構造を配列特異的に検出する技術を開発することにある。即ち、本発明は、核酸鎖の四重螺旋構造を配列特異的に検出する方法、及び当該検出方法に使用される検出キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、(i)核酸鎖の四重螺旋構造に特異的に結合でき、当該四重螺旋構造に結合すると蛍光を発する蛍光物質からなるリガンドと、(ii)蛍光物質で標識されてなる核酸プローブであって、標的となる四重螺旋構造を有する核酸鎖に存在し、且つ当該四重螺旋構造から蛍光エネルギー移動が可能な領域に位置している塩基配列に対してハイブリダイズできる相補鎖を有するプローブとを含み、且つ前記(i)リガンドと前記(ii)核酸プローブに標識された蛍光物質として、蛍光エネルギー移動におけるドナー蛍光物質とアクセプター蛍光物質の関係にあるものを使用することによって、核酸鎖の四重螺旋構造を配列特異的に検出できることを見出した。より具体的には、検出対象となる四重螺旋構造を有する核酸鎖に対して前記(i)リガンドと前記(ii)プローブを接触させると、前記(i)リガンドが四重螺旋構造に特異的に結合し、更に前記(ii)核酸プローブが検出対象となる四重螺旋構造を有する核酸鎖を特異的に認識して結合することにより、検出対象となる四重螺旋構造を有する核酸鎖には前記(i)リガンドと前記(ii)核酸プローブが結合した状態になり、前記(i)リガンドと前記(ii)核酸プローブに標識された蛍光物質によって蛍光エネルギー移動(fluorescence resonance energy transfer:FRET)が生じる。この蛍光エネルギー移動を測定することにより、検出対象となる四重螺旋構造を有する核酸鎖の検出が可能になる。
【0010】
本発明は、かかる知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。即ち、本発明は、下記に掲げる態様の検出方法及び検出キットを提供する。
項1. 下記第1工程及び第2工程を含むことを特徴とする、核酸鎖の四重螺旋構造を配列特異的に検出する方法:
第1工程:被検核酸試料に対して(i)リガンドと(ii)核酸プローブを接触させる工程;
ここで、前記(i)リガンドが、核酸鎖の四重螺旋構造に特異的に結合でき、当該四重螺旋構造に結合すると蛍光を発する蛍光物質からなるリガンドであり、
前記(ii)核酸プローブが、蛍光物質で標識されてなる核酸プローブであって、標的となる四重螺旋構造を有する核酸鎖に存在し、且つ当該四重螺旋構造から蛍光エネルギー移動が可能な領域に位置している塩基配列に対してハイブリダイズできる塩基配列を有するプローブであり、
前記(i)リガンドと前記(ii)核酸プローブに標識された蛍光物質が、蛍光エネルギー移動におけるドナー蛍光物質とアクセプター蛍光物質の関係にある。
第2工程:前記ドナー蛍光物質を励起させて蛍光エネルギー移動を測定する工程。
項2. 前記被検核酸試料がRNAを含む試料であり、RNAの四重螺旋構造を配列特異的に検出する、項1に記載の検出方法。
項3. 前記(i)リガンドが、チオフラビンT、銅フタロシアニンテトラスルホン酸及びその塩、並びにN—メチルメソポルフィリンよりなる群から選択される少なくとも1種である、項1又は2に記載の検出方法。
項4. 前記核酸鎖において、前記(ii)核酸プローブがハイブリダイズする領域の塩基配列の3’末端が、核酸鎖において標的となる四重螺旋構造を形成している塩基配列の5’末端の塩基をn位とした場合にn-1位~n-25位である、項1~3のいずれかに記載の検出方法。
項5. 前記核酸鎖において、前記(ii)核酸プローブがハイブリダイズする領域の塩基配列の5’末端が、核酸鎖において標的となる四重螺旋構造を形成している塩基配列の3’末端の塩基をn位とした場合にn+1位~n+25位である、項1~3のいずれかに記載の検出方法。
項6. 前記(ii)核酸プローブに含まれる塩基数が5~20個である、項1~5のいずれかに記載の検出方法。
項7. 前記(i)リガンドがチオフラビンTであり、(ii)核酸プローブを標識している蛍光物質がROXである、項1~6のいずれかに記載の検出方法。
項8. 核酸鎖の四重螺旋構造を配列特異的に検出するための検出キットであって、
(i)核酸鎖の四重螺旋構造に特異的に結合でき、当該四重螺旋構造に結合すると蛍光を発する蛍光物質からなるリガンドと、
(ii)蛍光物質で標識されてなる核酸プローブであって、標的となる四重螺旋構造を有する核酸鎖に存在し、且つ当該四重螺旋構造から蛍光エネルギー移動が可能な領域に位置している塩基配列に対してハイブリダイズできる相補鎖を有する核酸プローブと、を含み、
前記(i)リガンドと前記(ii)核酸プローブに標識された蛍光物質が、蛍光エネルギー移動におけるドナー蛍光物質とアクセプター蛍光物質の関係にある、ことを特徴とする、検出キット。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、核酸鎖の四重螺旋構造を配列特異的に検出することができる。特に、本発明によれば、配列に依らず立体構造の類似性が極めて高いことが知られているRNAの四重螺旋構造であっても、配列特異的にRNAの四重らせん構造を検出することが可能になっている。
【0012】
また、本発明を利用した配列特異的な四重螺旋構造の検出技術は、癌細胞等の検出キットの開発、新規バイオマーカーの探索、新たな四重螺旋構造のリガンドとなる化合物の探索、核酸鎖の四重螺旋構造を標的とした医薬の開発、核酸鎖で四重螺旋構造を形成する部位の特定等の検討を加速させ、様々な分野で福音をもたらすことが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】グアニジンに富む塩基配列部分がグアニン四量体(G-quartet)を形成して四重螺旋構造(G-quadruplex)が形成されている模式図である。
【図2】核酸鎖の四重螺旋構造部分に(i)リガンドが結合し、且つ当該核酸鎖の四重螺旋構造の近傍にある塩基配列に(ii)核酸プローブがハイブリダイズした状態の模式図である。
【図3】(a)には、実施例1において、条件1(実施例)及び条件2(コントロール1)において260nmにおけるUV溶解曲線を測定した結果を示し、(b)には、実施例1において、条件1(実施例)及び条件3(コントロール2)において295nmにおけるUV溶解曲線を測定した結果を示す。
【図4】実施例2において、核酸鎖1、核酸プローブ1及びリガンドを共存させた後に、450nmの励起光を照射して450nm~750nmの蛍光強度を測定した結果を示す図である。
【図5】実施例3において、核酸鎖1及びリガンドの有無の各種条件で核酸プローブ1を添加させた後に、450nmの励起光を照射して593nmの蛍光強度を測定した結果を示す図である。
【図6】実施例4において、核酸鎖3及びリガンドの共存下で、核酸鎖3に対して相補的な配列を有する核酸プローブ3、又は核酸鎖3に対してハイブリダイズできない核酸プローブ4を添加させた後に、450nmの励起光を照射して450nm~750nmの蛍光強度を測定した結果を示す図である。
【図7】実施例5において、核酸鎖4(NRASのmRNAの部分配列)又は核酸鎖5(BCL2のmRNAの部分配列)及びリガンドの共存下で核酸プローブ3(VEGFのmRNAの部分配列に相補的な配列)を添加させた後に、450nmの励起光を照射して450nm~750nmの蛍光強度を測定した結果を示す図である。
【図8】(a)は、実施例6において、核酸鎖4(NRASのmRNAの部分配列)及びリガンドの共存下で核酸プローブ5(NRASのmRNAの部分配列に相補的な配列)を添加させた後に、450nmの励起光を照射して450nm~750nmの蛍光強度を測定した結果を示す図であり、(b)は、実施例6において、核酸鎖5(BCL2のmRNAの部分配列)及びリガンドの共存下で核酸プローブ6(BCL2のmRNAの部分配列に相補的な配列)を添加させた後に、450nmの励起光を照射して450nm~750nmの蛍光強度を測定した結果を示す図である。
【図9】実施例7において、各種核酸鎖、各種核酸プローブ、及びリガンドを添加し、FERT効率を測定した結果を示す図である。
【図10】実施例8において、塩基が長い核酸鎖6、リガンド、及び核酸プローブ1を添加させた後に、450nmの励起光を照射して450nm~750nmの蛍光強度を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.核酸鎖の四重螺旋構造の検出方法
本発明の検出方法は、核酸鎖の四重螺旋構造を配列特異的に検出する方法であって、被検核酸試料に対して(i)特定のリガンドと(ii)特定の核酸プローブを接触させる第1工程、及び蛍光エネルギー移動を測定する第2工程を含むことを特徴とする。以下、本発明の検出方法について詳述する。

【0015】
[検出対象]
図1に示すように、RNAやDNA等の核酸鎖において、グアニジンに富む塩基配列部分がグアニン四量体(G-quartet)を形成して四重螺旋構造(G-quadruplex)を形成することが知られている。本発明の検出方法では、核酸鎖における四重螺旋構造を配列特異的に検出する。

【0016】
また、本発明の検出対象となる核酸鎖は、RNA、DNAのいずれであってもよい。RNAにおいて、四重螺旋構造は、塩基配列の種類に依らず平行型と呼ばれる立体構造を形成し、従来の四重螺旋構造の検出方法では、配列特異的な検出は不可能であったが、本発明によれば、RNAの四重螺旋構造を配列特異的に検出することができる。かかる本発明の効果に鑑みれば、本発明の検出対象となる核酸鎖として、好ましくはRNA、更に好ましくはmRNAが挙げられる。

【0017】
また、本発明の検出対象となる核酸鎖の種類については特に制限されず、四重螺旋構造の検出目的等に応じて適宜設定されるが、例えば、C-MYC、NRAS、BCL2等のガン関連遺伝子;HCK等の細胞分化関連遺伝子;VEGF等の血管新生関連遺伝子;FOS等翻訳因子;これらのmRNA等が挙げられる。

【0018】
また、本発明の検出対象となる核酸鎖の由来についても、特に制限されず、ヒト又は非ヒト動物から採取した生体サンプル(血液、毛髪細胞、粘膜細胞、皮膚細胞、組織等)であってもよく、またiPS細胞等の人工的に作成された細胞、培養細胞、PCR法や化学合成法等によって人工的に製造されたもの等であってもよい。

【0019】
本発明の検出対象となる核酸鎖の塩基数については、特に制限されないが、例えば、10~1000塩基、好ましくは25~200塩基、更に好ましくは35~50塩基が挙げられる。

【0020】
本発明は、被検核酸試料において、検出対象となる核酸鎖の四重螺旋構造を定性的又は定量的に検出する方法であり、当該被検核酸試料は、RNA又はDNAの公知の抽出法によって調製することができる。

【0021】
[(i)リガンド]
本発明では、リガンドとして、核酸鎖の四重螺旋構造に特異的に結合でき、当該四重螺旋構造に結合すると蛍光を発する蛍光物質を使用する。

【0022】
核酸鎖の四重螺旋構造に特異的に結合可能で、当該四重螺旋構造に結合すると蛍光を発する蛍光物質については公知である。このような特性を示す蛍光物質としては、具体的には、チオフラビンT(Ex450nm、Em485nm)、銅フタロシアニンテトラスルホン酸又はそのナトリウム塩等の塩(Ex660nm、Em6680nm)、N—メチルメソポルフィリン(Ex399nm、Em610nm)等が挙げられる。なお、前記蛍光物質に示す括弧内の「Ex」は励起波長、「Em」は四重螺旋構造に結合した状態で当該励起波長の光照射を受けた際に発する蛍光波長である。

【0023】
これらのリガンドは、後述する(ii)核酸プローブを標識している蛍光物質との関係に基づいて、蛍光エネルギー移動が生じ得るものを適宜選択すればよい。

【0024】
[(ii)核酸プローブ]
本発明では、検出対象となる特定の核酸鎖に結合する蛍光標識核酸プローブを使用する。

【0025】
当該核酸プローブとして、標的となる四重螺旋構造を有する核酸鎖に存在する塩基配列であって、当該四重螺旋構造から蛍光エネルギー移動が可能な領域に位置している塩基配列に対してハイブリダイズできる塩基配列を有するものを使用する。

【0026】
ここで、標的となる四重螺旋構造から蛍光エネルギー移動が可能な領域に位置している塩基配列(以下、「核酸プローブ標的配列」と表記することもある)とは、標的となる四重螺旋構造を有する核酸鎖に存在し、且つ当該四重螺旋構造に前記(i)リガンドが結合した際に、蛍光エネルギー移動が可能な領域に存在する塩基配列である。このような塩基配列にハイブリダイズできるプローブを使用することによって、前記前記(i)リガンドと当該核酸プローブに結合している蛍光物質によって蛍光エネルギー移動を生じさせることが可能になる。

【0027】
核酸プローブ標的配列として、具体的には、核酸鎖において、標的となる四重螺旋構造を形成している塩基配列の5’末端又は3’末端の塩基を起点として、当該起点となる塩基に対して結合している塩基又は1~15塩基離れた領域にある塩基を開始点とする塩基配列が挙げられる。より具体的には、核酸鎖において、標的となる四重螺旋構造を形成している塩基配列の5’末端の塩基をn位とした場合に、n-1位~n-25位、好ましくはn-2位~n-15位の塩基を開始点(3’末端)として核酸鎖の5’末端側に位置する塩基配列;標的となる四重螺旋構造を形成している塩基配列の3’末端の塩基をn位とした場合に、n+1位~-n+25位、好ましくはn+2位~-(n+15)位の塩基を開始点(5’末端)として核酸鎖の3’末端側に位置する塩基配列が挙げられる。なお、本明細書において、塩基配列における塩基の位置に関する表記は、起点となる塩基をn位とした場合に、起点となる塩基から5’末端側にm番目に位置する塩基をn-m位とし、起点となる塩基から3’末端側にm番目に位置する塩基をn+m位とする。

【0028】
また、検出対象となる核酸鎖において、当該核酸プローブの塩基数(核酸プローブ標的配列の塩基数)については、ハイブリダイズが可能であることを限度として特に制限されないが、例えば5~50塩基、好ましくは5~25塩基、更に好ましくは10~20塩基が挙げられる。

【0029】
また、当該核酸プローブは、前記標的配列の相補鎖であることが好ましいが、前記標的配列にハイブリダイズが可能であることを限度として、前記標的配列の相補鎖に対して1又は数個の塩基においてミスマッチがある塩基配列であってもよい。

【0030】
また、当該核酸プローブは、RNA、DNAのいずれであってもよいが、検出対象となる核酸鎖がRNAである場合は、当該核酸プローブはDNAであることが好ましい。また、当該核酸プローブは、酵素耐性の向上やハイブリダイズを安定に行えるように化学修飾を施した人工核酸(例えば、Locked Nucleic AcidやPeptide Nucleic Aid)であってもよい。

【0031】
検出対象となる核酸鎖の塩基配列、及び四重螺旋構造を形成する塩基配列は公知であるので、当該核酸プローブに備えさせるべき塩基配列は、当業者であれば適宜設定することが可能である。

【0032】
また、当該核酸プローブとして、前記(i)リガンドと蛍光エネルギー移動が生じ得る蛍光物質で標識したものを使用する。このような蛍光物質としては、使用する前記(i)リガンドと蛍光エネルギー移動が可能なものを適宜設定すればよいが、例えば、ROX(5'-calboxy-X-rhodamine)(Ex576nm、Em601nm)、PI(Propidium iodide 3,8-diamino-5-[3-(diethylmethylammonio)propyl]-6-phenyl-, diiodide)(Ex535nm、Em617nm)、ヘキシジウムイオジド(3,8-diamino-5-hexyl-6-phenyl-, iodide)(Ex518nm、Em600nm)、YOYO-3イオジド(Quinolinium, 4-[3-(3-methyl-2(3H)-benzoxazolylidene)-1-propenyl]-1-[3-(trimethylammonio)propyl]-, diiodide)(Ex612nm、Em631nm)、LDS751(Quinolinium, 6-(dimethylamino)-2-[4-[4-(dimethylamino)phenyl]-1,3-butadienyl]-1-ethyl, perchlorate)(Ex551nm、Em713nm)、DAPI(1H-Indole-6-carboximidamide, 2-[4-(aminoiminomethyl)phenyl]-, dihydrochloride)(Ex358nm、Em461nm)、ヘキスト33342(2,5'-Bi-1H-benzimidazole, 2'-(4-ethoxyphenyl)-5-(4-methyl-1-piperazinyl))(Ex350nm、Em461nm)、TOTO-3イオジド(4-[3-(3-methyl-2(3H)-benzothiazolylidene)-1-propenyl]-1-[3-(trimethylammonio)propyl]-, diiodide)(Ex642nm、Em661nm)、アクリジンオレンジ(3,6-Acridinediamine, N,N,N',N'-tetramethyl-, monohydrochloride) (Ex460nm、Em650nm)等が挙げられる。

【0033】
当該核酸プローブにおいて、前記蛍光物質の標識部位については、前記(i)リガンドと蛍光エネルギー移動が生じ得ることを限度として特に制限されず、当該核酸プローブを構成する核酸の5’末端、3’末端、又は非末端領域のいずれであってもよい。前記(i)リガンドと蛍光エネルギー移動の効率を高めるという観点から、当該核酸プローブが、四重螺旋構造を有する核酸鎖において、標的となる四重螺旋構造を形成している塩基配列の5’末端側にハイブリダイズする場合には、当該核酸プローブを構成する核酸の5’末端に蛍光物質が標識されていることが好ましい。また、四重螺旋構造を有する核酸鎖において、標的となる四重螺旋構造を形成している塩基配列の3’末端側にハイブリダイズする場合には、当該核酸プローブを構成する核酸の3’末端に蛍光物質が標識されていることが好ましい。

【0034】
[(i)リガンドと(ii)核酸プローブに標識された蛍光物質の関係]
本発明では、前記(i)リガンドと前記(ii)核酸プローブに標識された蛍光物質が蛍光エネルギー移動を起すことによって、核酸鎖の四重螺旋構造を配列特異的に検出される。即ち、本発明では、前記(i)リガンドと前記(ii)核酸プローブに標識された蛍光物質は、それぞれ蛍光エネルギー移動におけるドナー蛍光物質とアクセプター蛍光物質の関係にあるものが選択して使用される。

【0035】
前記(i)リガンドがドナー蛍光物質であり、且つ前記(ii)核酸プローブに標識された蛍光物質がアクセプター蛍光物質であってもよく、また、前記(i)リガンドがアクセプター蛍光物質であり、且つ前記(ii)核酸プローブに標識された蛍光物質がドナー蛍光物質であってもよい。

【0036】
蛍光エネルギー移動を起すドナー蛍光物質とアクセプター蛍光物質の組み合わせについては公知であり、前記(i)リガンドと前記(ii)核酸プローブに標識された蛍光物質の組み合わせについては適宜設定することが可能である。具体的には、前記(i)リガンドとしてチオフラビンTをドナー蛍光物質として使用する場合であれば、(ii)核酸プローブの標識に使用されるアクセプター蛍光物質として、ROX、PI又はヘキシジウムイオジドを選択すればよい。また、例えば、前記(i)リガンドとしてチオフラビンTをアクセプター蛍光物質として使用する場合であれば、(ii)核酸プローブの標識に使用されるドナー蛍光物質として、DAPI又はヘキスト33342を選択すればよい。また、例えば、前記(i)リガンドとしてN—メチルメソポルフィリンをドナー蛍光物質として使用する場合であれば、(ii)核酸プローブの標識に使用されるアクセプター蛍光物質として、YOYO-3イオジド又はLDS751を選択すればよい。また、例えば、前記(i)リガンドとして銅フタロシアニンテトラスルホン酸又はそのナトリウム塩等の塩をドナー蛍光物質として使用する場合であれば、(ii)核酸プローブの標識に使用されるアクセプター蛍光物質として、TOTO-3イオジド又はアクリジンオレンジを選択すればよい。

【0037】
これらの(i)リガンドと(ii)核酸プローブに標識された蛍光物質の組み合わせの中でも、好ましくは、前記(i)リガンドとしてチオフラビンTをドナー蛍光物質として使用し、(ii)核酸プローブの標識にROXをアクセプター蛍光物質として使用する組み合わせ態様が挙げられる。

【0038】
[第1工程]
本発明の検出方法における第1工程では、被検核酸試料に対して(i)リガンドと(ii)核酸プローブを接触させる。被検核酸試料に、検出目的となる四重螺旋構造を有する核酸鎖が含まれている場合には、当該核酸鎖の四重螺旋構造部分に前記(i)リガンドが結合し、且つ当該核酸鎖の四重螺旋構造の近傍にある塩基配列に前記(ii)核酸プローブがハイブリダイズした状態になる(図2に示す状態)。このような状態で、検出目的となる四重螺旋構造を有する核酸鎖と、前記(i)リガンドと、前記(ii)核酸プローブとが複合化することにより、前記(i)リガンドと前記(ii)核酸プローブに標識された蛍光物質の間で蛍光エネルギー移動が生じる状態になる。なお、図2には、便宜上、検出目的となる四重螺旋構造を有する核酸鎖としてVEGFのmRNAの部分配列(総塩基数34、5’末端側から1~18位の塩基配列において四重螺旋構造を形成)、前記(i)リガンドとしてチオフラビンT、前記(ii)核酸プローブとしてROX標識されたDNAプローブ(総塩基数15、前記核酸鎖の5’末端側から20~34位の塩基配列に対する相補鎖)を使用した場合の模式図が示されている。

【0039】
被検核酸試料に対して前記(i)リガンドと前記(ii)核酸プローブを接触させるには、前記(i)リガンドが四重螺旋構造に結合可能で且つ前記(ii)核酸プローブが核酸鎖にハイブリダイズできる反応溶液中に、被検核酸試料、前記(i)リガンド、及び前記(ii)核酸プローブを添加して共存させればよい。このような反応溶液は、使用する前記(i)リガンドと前記(ii)核酸プローブの種類等に応じて適宜設定すればよく、例えば、緩衝液が好適に使用される。また、当該反応溶液のpHとしては、例えば3~10、好ましくは6~9が挙げられる。また、前記(i)リガンドとしてチオフラビンTを使用する場合であれば、チオフラビンTが四重螺旋構造に結合するためには、一価のカチオン(ナトリウム、カリウム、リチウム等)が必要になるため、一価のカチオンが1~1000mM程度存在する溶液、好ましくはKClを1~200mM程度含む溶液を使用すればよい。

【0040】
反応溶液中の被検核酸試料の濃度については、特に制限されないが、例えば、当該被検核酸試料に含まれる核酸が総量で10~10000nM、好ましくは100~1000nMとなるように設定すればよい。

【0041】
また、反応溶液中の前記(i)リガンドの濃度については、特に制限されないが、例えば、100~50000nM、好ましくは1000~10000nMとなるように設定すればよい。

【0042】
更に、反応溶液中の前記(ii)核酸プローブの濃度については、特に制限されないが、例えば、1~50000nM、好ましくは10~10000nMとなるように設定すればよい。

【0043】
また、反応溶液中で、被検核酸試料、前記(i)リガンド、及び前記(ii)核酸プローブを共存させるのに先立って、反応液中で被検核酸試料に対して50~100℃程度、好ましくは85~95℃程度で、0.5~10分間程度、好ましくは1~3分間程度加熱することによって、核酸鎖の四重螺旋構造を一本鎖状態に一旦解いた後に、0.1~5℃/分程度、好ましくは0.5~1℃/分で冷却してアニーリングさせて再度四重螺旋構造を形成させることが望ましい。このように加熱処理後にアニーリングさせることによって、検出対象となる核酸鎖の四重螺旋構造が反応溶液中で安定化され、より一層効率的に四重螺旋構造を有する核酸鎖を検出することが可能になる。なお、当該加熱処理は、反応溶液中に被検核酸試料を添加した後に行えばよく、当該加熱処理に供される反応溶液は、被検核酸試料以外に、前記(i)リガンド及び/又は前記(ii)核酸プローブが既に添加されている状態であってもよい。勿論、前記加熱処理による被検核酸試料のアニーリングは、行わなくてもよい。

【0044】
[第2工程]
本発明の検出方法における第2工程では、被検核酸試料、前記(i)リガンド、及び前記(ii)核酸プローブを共存させた状態で、前記ドナー蛍光物質を励起させて蛍光エネルギー移動を測定する。前述するように、被検核酸試料に検出対象となる「四重螺旋構造を有する核酸鎖」が含まれている場合には、蛍光エネルギー移動が生じるので、当該蛍光エネルギー移動を測定することによって、核酸鎖の四重螺旋構造を配列特異的に定性的又は定量的に求めることが可能になる。

【0045】
第2工程においてドナー蛍光物質を励起させるには、ドナー蛍光物質の種類に応じた励起光を照射すればよい。

【0046】
また、第2工程において蛍光エネルギー移動を測定するには、アクセプター蛍光物質の蛍光強度を測定してもよく、またドナー蛍光物質の蛍光硬度を測定してもよい。

【0047】
アクセプター蛍光物質の蛍光強度を測定する場合であれば、検出対象となる「四重螺旋構造を有する核酸鎖」の量が多い程、高い蛍光強度を示すことになる。

【0048】
また、ドナー蛍光物質の蛍光硬度を測定する場合であれば、予め、アクセプター蛍光物質を添加しない状態でのドナー蛍光物質の蛍光硬度をコントロールとして測定しておき、当該コントロールのドナー蛍光物質の蛍光強度に対して、被検核酸試料、前記(i)リガンド、及び前記(ii)核酸プローブを共存させた状態でのドナー蛍光物質の蛍光強度が低い程、検出対象となる「四重螺旋構造を有する核酸鎖」の量が多いと判定される。

【0049】
また、検出対象となる「四重螺旋構造を有する核酸鎖」の濃度が既知の標準サンプルを用いて、予め濃度と測定される蛍光強度の関係を示す標準曲線を作成しておくことにより、検出対象となる「四重螺旋構造を有する核酸鎖」の量を定量することも可能になる。

【0050】
2.核酸鎖の四重螺旋構造の検出するためのキット
本発明の検出キットは、前記「1.核酸鎖の四重螺旋構造の検出方法」を実施するために使用されるキットであって、前記(i)リガンドと、前記(ii)核酸プローブを含むことを特徴とする。

【0051】
本発明の検出キットに含まれる前記(i)リガンドと、前記(ii)核酸プローブの内容については、前記「1.核酸鎖の四重螺旋構造の検出方法」に示す通りである。

【0052】
また、本発明の検出キットには、前記(i)リガンドと、前記(ii)核酸プローブ以外に、必要に応じて、前述する反応溶液、実験手順書等が含まれていてもよい。
【実施例】
【0053】
以下に、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0054】
実施例1:四重螺旋構造を有する核酸鎖、リガンド、及び核酸プローブの複合体の形成の確認
1.実験材料
以下の実験材料を準備した。
核酸鎖1:VEGFのmRNAの部分配列(配列番号1:5'-GGAGGAGGGGGAGGAGGAAGAAGAGAAGGAAGAG-3'、5’末端側から1~15位の塩基配列で四重螺旋構造を形成)
核酸鎖2:VEGFのmRNAの部分配列(配列番号2:5'-AGAAGAGAAGGAAGA-3'、四重螺旋構造の形成なし)
核酸プローブ1:3’末端がROXで標識されたDNAプローブ(配列番号3:5'-CTCTTCCTTCTCTTC-3'、配列番号1の5’末端側から20~34位の塩基配列に対する相補鎖)
核酸プローブ2:3’末端がROXで標識されたDNAプローブ(配列番号4:5'-TCTTCCTTCTCTTCT-3'、配列番号2の塩基配列に対する相補鎖)
リガンド:チオフラビンT
反応溶液:100mMのKClを含む50mMのMES-LiOH緩衝液(pH7)
【実施例】
【0055】
2.実験方法
(条件1:実施例)
反応溶液中に、20μMの核酸鎖1、20μMの核酸プローブ1、及び10μMのリガンドを添加して混合した後に、0~90℃温度領域における260nmにおける吸光度(260nmにおけるUV溶解曲線)と、0~90℃温度領域における295nmにおける吸光度(295nmにおけるUV溶解曲線)を、紫外可視近赤外分光光度計(UV-1800、島津製作所社製)を用いて測定した。
(条件2:コントロール1)
反応溶液中に、20μMの核酸鎖2、20μMの核酸プローブ2、及び10μMのリガンドを添加して混合した後、前記条件1と同様に、260nmにおけるUV溶解曲線を測定した。
(条件3:コントロール2)
反応溶液中に、20μMの核酸鎖1、及び10μMのリガンドを添加して混合した後、前記条件1と同様に、295nmにおけるUV溶解曲線を測定した。
【実施例】
【0056】
3.結果
得られた結果を図3に示す。図3から明らかなように、核酸鎖1、核酸プローブ1及びリガンドを共存させた場合(条件1)では、核酸鎖2、核酸プローブ2及びリガンドを共存させた場合(条件2)とは260nmにおけるUV溶解曲線が異なっているが融解挙動が見られた。更に、核酸鎖1及びリガンドを共存させた場合(条件3)とは295nmにおけるUV溶解曲線が異なっていたが、融解挙動が見られた。260nmにおけるUV溶解挙動と295nmにおけるUV溶解挙動は、二重螺旋構造の熱変性と四重螺旋構造の熱変性を示している。即ち、本実験結果から、核酸鎖1、核酸プローブ1及びリガンドを共存させることによって、四重螺旋構造を有する核酸鎖と、リガンドと、核酸プローブによって複合体が形成されていることが示された。
【実施例】
【0057】
実施例2:蛍光エネルギー移動を利用した四重螺旋構造を有する核酸鎖の配列特異的検出
1.実験材料
以下の実験材料を準備した。
核酸鎖1:VEGFのmRNAの部分配列(配列番号1:5'-GGAGGAGGGGGAGGAGGAAGAAGAGAAGGAAGAG-3'、5’末端側から1~15位の塩基配列で四重螺旋構造を形成)
核酸プローブ1:3’末端がROXで標識されたDNAプローブ(配列番号3:5'-CTCTTCCTTCTCTTC-3'、配列番号1の5’末端側から20~34位の塩基配列に対する相補鎖)
リガンド:チオフラビンT
反応溶液:100mMのKClを含む50mMのMES-LiOH緩衝液(pH7)
【実施例】
【0058】
2.実験方法
反応溶液中に1μMの核酸鎖1及び10μMのリガンドを添加して、95℃で5分間静置して、一本鎖状態に一旦解いた後に、0.5℃/分の冷却速度で25℃まで冷却してアニーリングさせた。次いで、0、0.001、0.003、0.01、0.03、0.1、0.3、及び1.0μMとなるように核酸プローブ1を反応溶液に添加し、マルチスペクトロマイクロプレートリーダ(Varioskan Flash)にて450nmの励起光を照射して450nm~750nmの蛍光強度を測定した。
【実施例】
【0059】
3.結果
得られた結果を図4に示す。図4に示されているように、核酸プローブ1の添加量を増やすほど、リガンドであるチオフラビンTの蛍光強度(485nm)が減少し、核酸プローブ1に使用されているROX蛍光強度(601nm)が増加する傾向が確認された。即ち、本結果から、核酸鎖1、核酸プローブ1及びリガンドが複合体を形成し、リガンドであるチオフラビンTから核酸プローブ1のROXに蛍光エネルギー移動が生じ、チオフラビンTの蛍光強度の低下とROXの蛍光強度の上昇が起こったことが明らかとなった。
【実施例】
【0060】
実施例3:蛍光エネルギー移動を利用した、四重螺旋構造を有するVEGFのmRNAの部分配列の配列特異的検出
1.実験材料
以下の実験材料を準備した。
核酸鎖1:VEGFのmRNAの部分配列(配列番号1:5'-GGAGGAGGGGGAGGAGGAAGAAGAGAAGGAAGAG-3'、5’末端側から1~15位の塩基配列で四重螺旋構造を形成)
核酸プローブ1:3’末端がROXで標識されたDNAプローブ(配列番号3:5'-CTCTTCCTTCTCTTC-3'、配列番号1の5’末端側から20~34位の塩基配列に対する相補鎖)
リガンド:チオフラビンT
反応溶液:100mMのKClを含む50mMのMES-LiOH緩衝液(pH7)
【実施例】
【0061】
2.実験方法
反応溶液中に0又は1μMの核酸鎖1、及び0又は10μMのリガンドを添加して、95℃で5分間静置して、一本鎖状態に一旦解いた後に、0.5℃/分の冷却速度で25℃まで冷却してアニーリングさせた。次いで、0、0.003、0.1、0.3、及び1.0μMとなるように核酸プローブ1を反応溶液に添加し、マルチスペクトロマイクロプレートリーダ(Varioskan Flash)にて450nmの励起光を照射して593nmの蛍光強度を測定した。
【実施例】
【0062】
3.結果
得られた結果を図5に示す。図5に示されているように、核酸鎖1及びリガンドのいずれか一方又は双方を塩化しなかった場合には、ROXの蛍光波長に対応する593nmの蛍光強度の上昇は観察されなかったが、核酸鎖1、リガンド及び核酸プローブ1が添加されたされた場合には、593nmの蛍光強度の著しい上昇が認められた。即ち、本結果から、核酸プローブ1が核酸鎖1に配列特異的に結合することによって、リガンドであるチオフラビンTから核酸プローブ1のROXに蛍光エネルギー移動が生じていることが明らかとなった。
【実施例】
【0063】
実施例4:蛍光エネルギー移動を利用した、四重螺旋構造を有するVEGFのmRNAの部分配列の検出における配列特異性の評価
1.実験材料
以下の実験材料を準備した。
核酸鎖3:VEGFのmRNAの部分配列(配列番号5:5'-GGGGCGGGCCGGGGGCGGGGUCCCGGCGGGGCGGAG-3'、5’末端側から1~20位の塩基配列で四重螺旋構造を形成)
核酸プローブ3:3’末端がROXで標識されたDNAプローブ(配列番号6:5'-CTCCGCCCCGCCGGG-3'、配列番号5の5’末端側から22~36位の塩基配列に対する相補鎖)
核酸プローブ4:3’末端がROXで標識されたDNAプローブ(配列番号7:5'-CTCCGAAAAACCGGG-3'、配列番号5の5’末端側から22~26及び32~36位の塩基配列に対して相補的な塩基配列であるが、配列番号5の5’末端側から27~31位塩基配列に対しては非相補的(ミスマッチ)な塩基配列である)
リガンド:チオフラビンT
反応溶液:100mMのKClを含む50mMのMES-LiOH緩衝液(pH7)
【実施例】
【0064】
2.実験方法
反応溶液中に1μMの核酸鎖3及び10μMのリガンドを添加して、95℃で5分間静置して、一本鎖状態に一旦解いた後に、0.5℃/分の冷却速度で25℃まで冷却してアニーリングさせた。次いで、0、0.001、0.003、0.01、0.03、0.1、0.3、及び1.0μMとなるように核酸プローブ3又は核酸プローブ4を反応溶液に添加し、マルチスペクトロマイクロプレートリーダ(Varioskan Flash)にて450nmの励起光を照射して450nm~750nmの蛍光強度を測定した。
【実施例】
【0065】
3.結果
得られた結果を図6に示す。図6に示されているように、核酸鎖3及びリガンドの存在下で、核酸鎖3に対して相補的な配列を有する核酸プローブ3を添加した場合には、核酸プローブ3の添加量の増加に伴って、リガンドであるチオフラビンTの蛍光波長に対応する485nmの蛍光強度の低下、及びROXの蛍光波長に対応する593nmの蛍光強度の上昇が認められた。一方、核酸鎖3及びリガンドの存在下で、核酸鎖3に対してハイブリダイズできない核酸プローブ4を添加した場合には、核酸プローブ4の添加量を増加させても、チオフラビンTの蛍光強度の減少とROXの蛍光強度の上昇は共に認められなかった。即ち、本結果から、核酸プローブとして、標的となる核酸鎖に特異的にハイブリダイズできるものを使用することによって、四重螺旋構造を有する核酸鎖を配列特異的に検出可能になることが明らかとなった。
【実施例】
【0066】
実施例5:蛍光エネルギー移動を利用した、四重螺旋構造を有する核酸鎖の検出における核酸プローブの直交性の評価
1.実験材料
以下の実験材料を準備した。
核酸鎖4:NRASのmRNAの部分配列(配列番号8:5'-GGGAGGGGCGGGUCUGGGUGCGGCCUGCCGCAUG-3'、5’末端側から1~18位の塩基配列で四重螺旋構造を形成)
核酸鎖5:BCL2のmRNAの部分配列(配列番号9:5'-CUCCUCUUCUUUCUCUGGGGGCCGUGGGGUGGGAGCUGGGG-3'、5’末端側から17~41位の塩基配列で四重螺旋構造を形成)
核酸プローブ3:3’末端がROXで標識されたDNAプローブ(配列番号6:5'-CTCCGCCCCGCCGGG-3'、配列番号5の5’末端側から22~36位の塩基配列に対する相補鎖)
リガンド:チオフラビンT
反応溶液:100mMのKClを含む50mMのMES-LiOH緩衝液(pH7)
【実施例】
【0067】
2.実験方法
反応溶液中に1μMの核酸鎖4又は核酸鎖5、及び10μMのリガンドを添加して、95℃で5分間静置して、一本鎖状態に一旦解いた後に、0.5℃/分の冷却速度で25℃まで冷却してアニーリングさせた。次いで、0、0.001、0.003、0.01、0.03、0.1、0.3、及び1.0μMとなるように核酸プローブ3を反応溶液に添加し、マルチスペクトロマイクロプレートリーダ(Varioskan Flash)にて450nmの励起光を照射して450nm~750nmの蛍光強度を測定した。
【実施例】
【0068】
3.結果
得られた結果を図7に示す。図7から明らかなように、核酸鎖4及び核酸鎖5のいずれの場合でも、核酸プローブ3の添加量を増加させても、チオフラビンTの蛍光強度の減少とROXの蛍光強度の上昇は共に認められなかった。即ち、本結果から、核酸プローブとして、標的となる核酸鎖に特異的にハイブリダイズできるものを使用しない場合には、蛍光エネルギー移動が生じないことが確認された。
【実施例】
【0069】
実施例6:蛍光エネルギー移動を利用した、四重螺旋構造を有する核酸鎖の配列特異的検出における一般性
1.実験材料
以下の実験材料を準備した。
核酸鎖4:NRASのmRNAの部分配列(配列番号8:5'-GGGAGGGGCGGGUCUGGGUGCGGCCUGCCGCAUG-3'、5’末端側から1~18位の塩基配列で四重螺旋構造を形成)
核酸鎖5:BCL2のmRNAの部分配列(配列番号9:5'-CUCCUCUUCUUUCUCUGGGGGCCGUGGGGUGGGAGCUGGGG-3'、5’末端側から17~41位の塩基配列で四重螺旋構造を形成)
核酸プローブ5:5’末端がROXで標識されたDNAプローブ(配列番号10:5'-CATGCGGCAGGCCGC-3'、配列番号8の5’末端側から20~34位の塩基配列に対する相補鎖)
核酸プローブ6:3’末端がROXで標識されたDNAプローブ(配列番号11:5'-GAGAAAGAAGAGGAG-3'、配列番号9の5’末端側から1~15位の塩基配列に対する相補鎖)
リガンド:チオフラビンT
反応溶液:100mMのKClを含む50mMのMES-LiOH緩衝液(pH7)
【実施例】
【0070】
2.実験方法
反応溶液中に1μMの核酸鎖4、及び10μMのリガンドを添加して、95℃で5分間静置して、一本鎖状態に一旦解いた後に、0.5℃/分の冷却速度で25℃まで冷却してアニーリングさせた。次いで、0、0.001、0.003、0.01、0.03、0.1、0.3、及び1.0μMとなるように核酸プローブ5を反応溶液に添加し、マルチスペクトロマイクロプレートリーダ(Varioskan Flash)にて450nmの励起光を照射して450nm~750nmの蛍光強度を測定した。
【実施例】
【0071】
また、別途、反応溶液中に1μMの核酸鎖5、及び10μMのリガンドを添加して、95℃で5分間静置して、一本鎖状態に一旦解いた後に、0.5℃/分の冷却速度で25℃まで冷却してアニーリングさせた。次いで、0、0.001、0.003、0.01、0.03、0.1、0.3、及び1.0μMとなるように核酸プローブ6を反応溶液に添加し、マルチスペクトロマイクロプレートリーダ(Varioskan Flash)にて450nmの励起光を照射して450nm~750nmの蛍光強度を測定した。
【実施例】
【0072】
3.結果
得られた結果を図8に示す。図8から明らかなように、NRASのmRNAの部分配列である核酸鎖4、及びBCL2のmRNAの部分配列である核酸鎖5のいずれの場合でも、当該核酸鎖に相補的な配列を有する核酸プローブとリガンド(チオフラビンT)を添加した場合に、核酸プローブの添加量の増加に伴って、チオフラビンTの蛍光強度の減少とROXの蛍光強度の上昇が認められ、蛍光エネルギー移動が生じたことが確認された。即ち、本結果からも、核酸プローブとして、標的となる核酸鎖に特異的にハイブリダイズできるものを使用することによって、四重螺旋構造を有する核酸鎖を配列特異的に検出可能になることが明らかとなった。
【実施例】
【0073】
実施例7:蛍光エネルギー移動を利用した、四重螺旋構造を有する核酸鎖の配列特異的検出における一般性
1.実験材料
以下の実験材料を準備した。
核酸鎖1:VEGFのmRNAの部分配列(配列番号1:5'-GGAGGAGGGGGAGGAGGAAGAAGAGAAGGAAGAG-3'、5’末端側から1~15位の塩基配列で四重螺旋構造を形成)
核酸鎖4:NRASのmRNAの部分配列(配列番号8:5'-GGGAGGGGCGGGUCUGGGUGCGGCCUGCCGCAUG-3'、5’末端側から1~18位の塩基配列で四重螺旋構造を形成)
核酸鎖5:BCL2のmRNAの部分配列(配列番号9:5'-CUCCUCUUCUUUCUCUGGGGGCCGUGGGGUGGGAGCUGGGG-3'、5’末端側から17~41位の塩基配列で四重螺旋構造を形成)
核酸プローブ1:3’末端がROXで標識されたDNAプローブ(配列番号3:5'-CTCTTCCTTCTCTTC-3'、配列番号1の5’末端側から20~34位の塩基配列に対する相補鎖)
核酸プローブ5:5’末端がROXで標識されたDNAプローブ(配列番号10:5'-CATGCGGCAGGCCGC-3'、配列番号8の5’末端側から20~34位の塩基配列に対する相補鎖)
核酸プローブ6:3’末端がROXで標識されたDNAプローブ(配列番号11:5'-GAGAAAGAAGAGGAG-3'、配列番号9の5’末端側から1~15位の塩基配列に対する相補鎖)
リガンド:チオフラビンT
反応溶液:100mMのKClを含む50mMのMES-LiOH緩衝液(pH7)
【実施例】
【0074】
2.実験方法
反応溶液中に1μMの核酸鎖1、核酸鎖4又は核酸鎖5、及び10μMのリガンドを添加して、95℃で5分間静置して、一本鎖状態に一旦解いた後に、0.5℃/分の冷却速度で25℃まで冷却してアニーリングさせた。次いで、1μMの核酸プローブ1、核酸プローブ5又は核酸プローブ6を反応溶液に添加し、マルチスペクトロマイクロプレートリーダ(Varioskan Flash)にて450nmの励起光を照射して、485nmの蛍光強度(ドナー蛍光物質の蛍光強度)を測定した。また、核酸プローブを添加しないこと以外は、上記と同様の条件で、485nmの蛍光強度(ドナー蛍光物質の蛍光強度)を測定した。次いで、下記算出式に基づいて、FRET効率を求めた。
FRET効率=1-(FDA/FD
DA:アクセプター蛍光物質(核酸プローブ)存在下でのドナー蛍光物質の蛍光強度
D:アクセプター蛍光物質(核酸プローブ)非存在下でのドナー蛍光物質の蛍光強度
【実施例】
【0075】
3.結果
得られた結果を図9に示す。図9に示されているように、核酸鎖と当該核酸鎖にハイブリダイズ可能な核酸プローブの組み合わせの場合においてのみ、高いFRET効率が認められた。即ち、本結果からも、核酸プローブとして、標的となる核酸鎖に特異的にハイブリダイズできるものを使用することによって、蛍光エネルギー移動を利用した、四重螺旋構造を有する核酸鎖の配列特異的な検出が可能になることが明らかとなった。
【実施例】
【0076】
実施例8:蛍光エネルギー移動を利用した、四重螺旋構造を有する調査核酸鎖の配列特異的な検出
1.実験材料
以下の実験材料を準備した。
核酸鎖6:VEGFのmRNAの部分配列(配列番号12:5'-GCCGAGCGGAGCCGCGAGAAGUGCUAGCUCGGGCCGGGAGGAGCCGCAGCCGGAGGAGGGGGAGGAGGAAGAAGAGAAGGAAGAGGAGAGGGGGCCGCAGUGGCGACUCGGCGCUCGGAA-3'、5’末端側から52~69位の塩基配列で四重螺旋構造を形成)
核酸プローブ1:3’末端がROXで標識されたDNAプローブ(配列番号3:5'-CTCTTCCTTCTCTTC-3'、配列番号12の5’末端側から71~85位の塩基配列に対する相補鎖)
リガンド:チオフラビンT
反応溶液:100mMのKClを含む50mMのMES-LiOH緩衝液(pH7)
【実施例】
【0077】
2.実験方法
反応溶液中に1μMの核酸鎖6、及び10μMのリガンドを添加して、95℃で5分間静置して、一本鎖状態に一旦解いた後に、0.5℃/分の冷却速度で25℃まで冷却してアニーリングさせた。次いで、0、0.001、0.003、0.01、0.03、0.1、0.3、及び1.0μMとなるように核酸プローブ1を反応溶液に添加し、マルチスペクトロマイクロプレートリーダ(Varioskan Flash)にて450nmの励起光を照射して450nm~750nmの蛍光強度を測定した。
【実施例】
【0078】
3.結果
得られた結果を図10に示す。図10に示されているように、核酸鎖が長鎖RNAであっても、当該核酸鎖にハイブリダイズ可能な核酸プローブとリガンド(チオフラビンT)を共存させることにより、蛍光エネルギー移動が生じることが確認された。即ち、本結果から、比較的長い核酸鎖を検出対象としても、四重螺旋構造を配列特異的に検出できることが明らかとなった。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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