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明細書 :弦楽器、弦楽器の製造方法及び弦楽器製造装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5632597号 (P5632597)
公開番号 特開2010-085986 (P2010-085986A)
登録日 平成26年10月17日(2014.10.17)
発行日 平成26年11月26日(2014.11.26)
公開日 平成22年4月15日(2010.4.15)
発明の名称または考案の名称 弦楽器、弦楽器の製造方法及び弦楽器製造装置
国際特許分類 G10D   3/02        (2006.01)
G10D   1/02        (2006.01)
FI G10D 3/02
G10D 1/02
請求項の数または発明の数 12
全頁数 40
出願番号 特願2009-200679 (P2009-200679)
出願日 平成21年8月31日(2009.8.31)
優先権出願番号 2008224364
優先日 平成20年9月2日(2008.9.2)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成24年4月23日(2012.4.23)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
発明者または考案者 【氏名】横山 幸雄
個別代理人の代理人 【識別番号】100104396、【弁理士】、【氏名又は名称】新井 信昭
審査官 【審査官】毛利 太郎
参考文献・文献 特開2004-069928(JP,A)
特開2003-321704(JP,A)
特開昭60-158489(JP,A)
特開昭55-130587(JP,A)
調査した分野 G10D 1/00- 3/18
特許請求の範囲 【請求項1】
合成樹脂粉末を光照射により焼結させる積層造形法によって造形した共鳴箱部と、
当該共鳴箱部から突き出すネック部と、を含み、
当該共鳴箱部の三次元所望領域における材料定数を、光照射の条件変化制御によって、当該所望領域に隣接する三次元隣接領域の材料定数と段階的若しくは連続的に異ならせることにより、
振動特性を調整して弦楽器としての性能を調整してある
ことを特徴とする弦楽器。
【請求項2】
前記共鳴箱部が、表板部と、裏板部と、当該表板部と当該裏板部との間に位置する横板部と、を含めて構成してあり、
前記所望領域が、当該表板部若しくは当該裏板部に少なくとも設けてある
ことを特徴とする請求項1記載の弦楽器。
【請求項3】
前記ネック部が、前記積層造形法により前記共鳴箱部と一体に造形してある
ことを特徴とする請求項1又は2記載の弦楽器。
【請求項4】
前記ネック部が、前記積層造形法により前記共鳴箱部と別体に造形してあり、かつ、前記共鳴箱部との間に形成した組合せ部を介して前記共鳴箱部に取り付けてある
ことを特徴とする請求項1又は2記載の弦楽器。
【請求項5】
前記ネック部と前記共鳴箱部の何れか一方若しくは双方が、焼結造形した外形輪郭部と、当該外形輪郭部に密閉された密閉空間部と、を含めて構成してあり、
当該密閉空間部内には、未焼結合成樹脂粉末を残存させてある
ことを特徴とする請求項記載の弦楽器。
【請求項6】
前記ネック部と前記共鳴箱部の何れか一方若しくは双方が、焼結造形した外形輪郭部と、当該外形輪郭部に包囲された空間部と、を含めて構成してあり、
当該外形輪郭部には、当該空間部に残存していた未焼結合成樹脂粉末を排出するための排出孔を少なくとも1個設けてあり、
未焼結合性樹脂粉末を排出した後の当該排出孔は、開口状態を保持、若しくは、閉鎖部材によって閉鎖してある
ことを特徴とする請求項記載の弦楽器。
【請求項7】
前記ネック部が、内部若しくは外部において、又は、内部及び外部において、長手方向に渡り補強部材によって補強してある
ことを特徴とする請求項3乃至何れか記載の弦楽器。
【請求項8】
合成樹脂粉末を光照射により焼結させる積層造形法によって一体造形した共鳴箱部と、当該共鳴箱部から突き出すネック部とを含む弦楽器の製造方法において、
三次元所望領域における材料定数を、光照射の条件変化制御によって、当該所望領域に隣接する三次元隣接領域の材料定数と段階的若しくは連続的に異ならせることにより、振動特性を調整して弦楽器としての性能を調整しながら共鳴箱部を造形する共鳴箱部造形工程と、
当該共鳴箱部造形工程と並行して、若しくは、前後してネック部を製造するネック部製造工程と、
共鳴箱部造形工程で造形した共鳴箱部に、ネック部を取り付けるネック部取付工程と、
を含む
ことを特徴とする弦楽器の製造方法。
【請求項9】
前記ネック部を、前記積層造形法によって造形する
ことを特徴とする請求項記載の弦楽器の製造方法。
【請求項10】
前記ネック部と前記共鳴箱部の何れか一方若しくは双方は、焼結造形した外形輪郭部と、当該外形輪郭部に密閉された密閉空間部と、に分けて造形し、
当該密閉空間部内には、未焼結合成樹脂粉末を残存させる
ことを特徴とする請求項記載の弦楽器の製造方法。
【請求項11】
前記ネック部と前記共鳴箱部の何れか一方若しくは双方は、焼結造形した外形輪郭部と、当該外形輪郭部に包囲された空間部と、に分けて造形し、
当該外形輪郭部には、当該空間部に残存していた未焼結合成樹脂粉末を排出するための排出孔を少なくとも1個設け、
未焼結合性樹脂粉末を排出した後の当該排出は、開口状態を保持、若しくは、閉鎖部材によって閉鎖する
ことを特徴とする請求項記載の弦楽器の製造方法。
【請求項12】
請求項乃至1何れか記載の弦楽器の製造方法を実施するための弦楽器製造装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、弦楽器、弦楽器の製造方法及び弦楽器製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図13は、本発明の弦楽器の一例としてのヴァイオリンの構造図である。図13(a)は、ヴァイオリンの正面図であり、図13(b)は、ヴァイオリンの右側面図であり、図13(c)は、図13(b)に示すヴァイオリンのM-M´断面図である。図13(a)、(b)、(c)には、説明を容易にするために、ヴァイオリンの長さ方向を定義する矢印70とヴァイオリンの幅方向を定義する矢印71とヴァイオリンの厚さ方向を定義する矢印72とをそれぞれ描いてある。
【0003】
本明細書において、ヴァイオリンの各部位の詳細名称は、後述の非特許文献1,2,3,4を参照とする。この図13のヴァイオリン1は、楽器本体4と、装着部材群と、によりその全体が構成されている。楽器本体4は、共鳴箱部2とネック部3とにより概ね構成されている。装着部材群は、楽器本体4の各所に装着される、顎当て5と、テールピース6と、テールガット7と、エンドピン8と、アジャスター9と、駒10と、弦11a,11b,11c,11dと、糸巻き12a,12b,12c,12dと、魂柱13と、から概ね構成されている。共鳴箱部2は、2つのf(エフ)字孔14,15があけられた表板部16と、裏板部17と、表板部16と裏板部17との間に位置する横板部18a,18b,18c,18d,18e,18fと、ブロック19a,19b,19c,19d,19e,19fと、点線(隠れ線)で図示されたサドル20と、バスバー21と、パフリング22a,22b,22c,22d,22e,22fと、ライニング23a,23b,23c,23d,23e,23fと、を具えて一体に造形されている。ブロック19a,19b,19c,19d,19e,19fのうち、ブロック19aを上部ブロックと呼称することがあり、ブロック19dを下部ブロックと呼称することがあり、その他のブロック19b,19c,19e,19fをコーナーブロックと呼称することがある。ネック部3は、ネック50と、指板51と、ナット52と、スクロール53と、糸巻き12a,12b,12c,12dを装着するための8つの穴があけられた糸箱54と、を具えて構成されている。尚、本明細書のネック部、共鳴箱部、楽器本体という呼称は、本発明の説明を容易にするために本発明の発明者が定義したものである。本発明は、音の共鳴の効果等を利用して鳴るヴァイオリン属(ヴァイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスの総称)を含めた弦楽器(アコースティックヴァイオリン等)に関するものである。ギターやウクレレ等の弦を指やピック等で弾く形式の楽器も、本明細書でいう弦楽器に含まれるが、以下の説明はヴァイオリン属の典型例であるヴァイオリンを中心に行う。
【0004】
従来、ヴァイオリンの楽器本体、特に、共鳴箱部は、大略所定の形状に切り出した木材を、接着剤(ニカワや木工用ボンド等)を使用して貼り合わせて製造される。ヴァイオリン属に属するヴァイオリン以外の弦楽器、すなわち、ビオラとチェロとコントラバスの基本的な構造は、図13に示すヴァイオリンの基本的な構造と大略同じである。標準的寸法のヴァイオリンと、ビオラとチェロとコントラバスとをそれぞれ比較した場合の大きな違いの一つは、寸法の大きさである。
【0005】
また、積層造形法により弦楽器(電気ギター)のボディ構造を製造する例が、後述の特許文献1に開示されている。特許文献1が開示する上記弦楽器(以下、「従来の弦楽器」という)は、積層造形法の構造を年輪と捕らえこの構造を取り入れた共鳴ボディ構造を備えている。一般的に知られている積層造形法とは異なるが、複数の薄いセラミックの板を重ねて焼成して楽器を製造する例が、後述の特許文献2に開示されている。粉末を原材料としたレーザー焼結で立体構造物を形成する積層造形法において、複数のレーザー照射条件を用いて製造される立体構造物に所望される造形精度を確保し、なおかつこの立体構造物に十分な強度を与えることを可能とする積層造形法は、後述の特許文献3に開示されている。従来の木製ヴァイオリンの詳細な構造や楽器各部位の名称や製造方法は、後述の非特許文献1,2,3,4を参照とする。積層造形法についての一般論は、後述の非特許文献5,6,7等を参照とする。
【0006】

【特許文献1】特開2004-69928(段落0007、0008、図2参照)
【特許文献2】特開昭60-158489
【特許文献3】特開2003-321704
【非特許文献1】川上昭一郎,"新技法シリーズ ヴァイオリンをつくる,"美術出版社,1992年8月10日,第2刷.
【非特許文献2】ヘロン・アレン著,尾久れも奈訳,"バイオリン製造 今と昔 第1部,"文京楽器株式会社 企画部,平成4年7月,第4版.
【非特許文献3】ヘロン・アレン著,尾久れも奈訳,"バイオリン製造 今と昔 第2部,"文京楽器株式会社 企画部,平成10年2月,第3版.
【非特許文献4】ヘロン・アレン著,尾久れも奈訳,"バイオリン製造 今と昔 第3部,"文京楽器株式会社 企画部,平成7年10月,初版.
【非特許文献5】"3次元CAD実践活用法", 日本設計工学会編, コロナ社, 初版第1刷, 2006.8.28, pp.178-190.
【非特許文献6】今村正人, "ラピッドプロトタイピング, ラピッドツーリング", 日本機会学会誌, Vol.109, No.1054, 2006.9, pp.742-743.
【非特許文献7】"特集:ラピッドプロトタイピング技術によるデザインの高度化", 日本設計工学会誌, Vol.41, No.12, 2006.12,pp.601-629.
【非特許文献8】糸川秀夫,"八十歳のアリア",ネスコ,1992年7月5日,第1冊.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、従来の弦楽器に話を戻す。前述したように、従来の弦楽器は積層造形法によって製造され、その積層構造を年輪として捕らえた共鳴ボディ構造を備えている。しかしながら、積層造形法によって造形した構造物の積層構造を年輪として捕らえることができたとしても、弦楽器の音色は年輪のみによって定まるものではない。共鳴ボディ構造を構成する素材を、木材と合成樹脂材との間で比べた場合に、両者の形状(年輪構造)は同じく構成できたとしても、両者の材料定数が異なるため、両者の振動特性(たとえば、固有共振周波数、振動モード、振幅)には異なりがあるはずである。振動特性に異なりがある限り、たとえ年輪構造を真似ることができても、木製弦楽器の音響と同等の音響を従来の弦楽器で実現させることには無理がある。本発明の発明者は、木製弦楽器と同じ形状の弦楽器を木材と異なる材料(たとえば、合成樹脂粉末)を用いて製造できたとしても、上記したように振動特性に異なりがあることから、木製弦楽器と同じ音響を得ることとは極めて困難である、という認識を持った。その認識を基に発明者は、発想の転換を行い、積層造形法を用いて弦楽器(特に共鳴箱部)を製造するなら、木製弦楽器とは異なる、若しくは、木製弦楽器では実現が難しい音響を得ることに傾注すべきである、という考えに至った。木製弦楽器の構造に倣ったヴァイオリン構造を製造する他に、たとえば、ヴァイオリンの弦から出る音色が一般的な音色と異なるヴァイオリンを製造すること、また、4弦それぞれの音量が極端に小さいヴァイオリンを作製すること、を思いついた。前者の例として、たとえば、第1弦(E弦、一番細い弦)の音をよりまろやかにすることが挙げられる。第1弦(E弦、一番細い弦)であれば開放状態を使って出すE(ハ長調のミ)の音を、第1弦よりもまろやかな音が出ると言われる第2弦のハイポジションを指で押さえて出す演奏者も多い。音色の好みには個人差があるものの、第1弦よりも第2弦のほうが、同じ音であってもよりまろやかな音が出ると一般に考えられているからである。第1弦の音色を第2弦の音色に近づけて演奏者の好みに合わせることができれば、第1弦がより使い易くなり、特に、演奏初心者に有利である。後者の例として、4弦の各々から出る音量が極端に小さければ、周囲を気にしなくても練習することのできるので、夜間の演奏練習や他の演奏者と同時に行う演奏練習という演奏目的に合わせることができてたいへん都合よい。本発明が解決しようとする課題は、その弦楽器の演奏者(使用者)の好みや演奏目的等に可及的に応じることのできる弦楽器を提供することにある。
【0008】
上記課題を解決するために本発明は、次項以下に記載する構成を備え、かつ、その構成によって同じく記載する作用効果を奏する。なお、何れかの請求項に記載した発明を説明するに当たって行う用語の定義等は、その記載順、記載形式、カテゴリーの違い等に関わりなく、その性質上可能な範囲において他の請求項に記載した発明にも適用があるものとする。
【0009】
(請求項1記載の発明の特徴)
請求項1記載の発明に係る弦楽器(以下、適宜「請求項1の弦楽器」という)は、合成樹脂粉末を光照射により焼結させる積層造形法によって造形した共鳴箱部と、当該共鳴箱部から突き出すネック部と、を含む弦楽器である。ここで、当該共鳴箱部の三次元所望領域における材料定数を、光照射の条件変化制御によって、当該所望領域に隣接する三次元隣接領域の材料定数と段階的若しくは連続的に異ならせることにより、振動特性を調整して弦楽器としての性能を調整してある。ここで、材料定数とは、たとえば、弾性スチフネス定数、密度のことをいい、これらは単独でも複合でもよい。積層造形法によって造形する共鳴箱部は、これを同造形法によって一体造形する場合と、同造形法によって造形した別々の部材を後発的に接着(接合)等する場合のいずれでもよい。ここでいう「三次元所望領域」と「三次元隣接領域」とは、それぞれ広さと厚さ(深さ)を含めた領域のことをいう。以下これらを「所望領域」、「隣接領域」と略記する場合もある。
【0010】
請求項1の弦楽器によれば、合成樹脂粉末を光照射(たとえば、レーザー光照射)で焼結する際に、その光の照射条件を変えるだけで材料定数(焼結条件)を変化させることができるので、材料定数の変化を容易に実現することができる。所望領域と隣接領域において材料定数を異ならせることによって、振動特性を変化させることにより、振動特性を調整して弦楽器としての性能を調整することができる。振動特性の変化は、たとえば、音量、音色、響き具合、さらに、これらの結合の変化につながる。そのような変化が、演奏者の好みや演奏目的等に合った弦楽器提供を可能にする。そもそも弦楽器なるものは、他のあらゆる楽器と同様に、演奏者の好みと完全一致した音を出すように設計・製造することはほぼ不可能である。弦楽器から出る音は、たとえば、共鳴箱部だけを見ても、その構成材料の経時変化(たとえば、木材や塗料の乾燥)や演奏環境の変化(たとえば、湿度の高低)によっても変化する。同じ弦楽器であっても、長く使い込むことによって、また、微調整が施されることによって、初めて好みの音が出せるようになる場合があることはよく知られている。そして、その好みの音も画一的なものではなく、演奏者によって異なるものである。たとえば、あくまでも一般論であるが、ソリストが演奏するヴァイオリンの音はその性質上目立つことが求められる一方、オーケストラの一員が演奏するヴァイオリンは周りとの協調から目立つことが嫌われる。ここで大事なことは、本来、演奏者によって異なる好みというものに完全に合わせた弦楽器を提供することではなく、好みに合った弦楽器に演奏者が出会う機会を増やすこと、つまり、弦楽器に多様性を持たせることである。そのためには、弦楽器の振動特性の異なりにより様々な音が出るよう製造した様々な弦楽器を提供することを可能にする必要があり、そのために弦楽器の材料定数を異ならせるのである。演奏目的に合わせた弦楽器の提供についても同じことが言える。
【0011】
(請求項2記載の発明の特徴)
請求項2記載の発明に係る弦楽器(以下、適宜「請求項2の弦楽器」という)には、請求項1の弦楽器の基本構成を備えさせ、さらに、前記共鳴箱部が、表板部と、裏板部と、当該表板部と当該裏板部との間に位置する横板部と、を含めて構成してある。前記所望領域は、当該表板部若しくは当該裏板部に少なくとも設けてある。所望領域は、これをネック部に併せて設けてもよい。
【0012】
請求項2の弦楽器によれば、請求項1の弦楽器の作用効果が、当該表板部若しくは当該裏板部において少なくとも生じ、その副次的作用効果が、共鳴箱部全体に波及する。表板部は、裏板部等の他の部位に比べて当該表板部の表面から離れる方向に向かって開放状態になっているから、受けた弦の振動の影響を最も受け易い。たとえば、一般的なアコースティックギターであれば、弦の振動が表板部に開口するホールから共鳴箱部の中に入って共鳴し、それによって表板部が振動して大きな音がでるから、表板部が最も弦の振動の影響を受け易い。また、ヴァイオリンであれば、表板部の上に起立する駒の上に弦が張られているから、表板部が最も弦の振動の影響を受け易い。弦の影響を受け易い部位であるから、所望領域と隣接領域との間の材料定数の変化が共鳴箱部全体に与える影響を大きくすることができる。他方、裏板部も同じく弦振動の影響を受け易い部位であるから、表板部同様に共鳴箱部全体に与える影響を大きくすることができる。
【0013】
(請求項3記載の発明の特徴)
請求項3記載の発明に係る弦楽器(以下、適宜「請求項3の弦楽器」という)には、請求項1又は2の弦楽器の基本構成を備えさせ、さらに、前記ネック部が、前記積層造形法により前記共鳴箱部と一体に造形してある。
【0014】
請求項3の弦楽器によれば、請求項1又は2の弦楽器の作用効果に加え、ネック部を共鳴箱部と一体に造形することによって、別体であれば必要となる組み立てが不要になる。つまり、製造における手間が省ける。
【0015】
(請求項4記載の発明の特徴)
請求項4記載の発明に係る弦楽器(以下、適宜「請求項4の弦楽器」という)には、請求項1又は2の弦楽器の基本構成を備えさせ、さらに、前記ネック部が、前記積層造形法により前記共鳴箱部と別体に造形してあり、かつ、前記共鳴箱部との間に形成した組合せ部を介して前記共鳴箱部に取り付けてある。
【0016】
請求項4の弦楽器によれば、請求項1又は2の弦楽器の作用効果に加え、ネック部を共鳴箱部と別体に造形することによって、たとえば、破損や磨耗、さらには、ひどい汚れによりネック部の交換が必要となったときに、それを可能とする。交換可能とすることは、弦楽器全体を長持ちさせる。弦楽器に限ることなくあらゆる楽器の演奏者は、自分の好みにあった楽器に愛着を持ち長く使いたいと願う。その意味で、弦楽器を長持ちさせることはたいへん重要である。
【0019】
(請求項記載の発明の特徴)
請求項記載の発明に係る弦楽器(以下、適宜「請求項の弦楽器」という)には、請求項の弦楽器の基本構成を備えさせ、さらに、前記ネック部と前記共鳴箱部の何れか一方若しくは双方が、焼結造形した外形輪郭部と、当該外形輪郭部に密閉された密閉空間部と、を含めて構成してあり、当該密閉空間部内には、未焼結合成樹脂粉末を残存させてある。
【0020】
請求項の弦楽器によれば、請求項の弦楽器の作用効果に加え、密閉空間部に残存する未焼結合成樹脂粉末の働きによって、密閉空間部を有しない場合に比べてネック部と共鳴箱部の何れか一方若しくは双方の振動特性が変化する。当該変化の度合いを調整することにより、演奏者の好みに合わせた本発明の弦楽器の楽器としての性能(音量と音質と音響)の達成が可能になる。さらに、焼結した外形輪郭部の比重に比べて密閉空間部内の未焼結合成樹脂粉末の比重の方が軽いので、その分だけネック部ひいては弦楽器全体を軽量化することができる。
【0021】
(請求項記載の発明の特徴)
請求項記載の発明に係る弦楽器(以下、適宜「請求項の弦楽器」という)には、請求項の弦楽器の基本構成を備えさせ、さらに、前記ネック部と前記共鳴箱部の何れか一方若しくは双方が、焼結造形した外形輪郭部と、当該外形輪郭部に包囲された空間部と、を含めて構成してあり、当該外形輪郭部には、当該空間部に残存していた未焼結合成樹脂粉末を排出するための排出孔を少なくとも1個設けてあり、未焼結合性樹脂粉末を排出した後の当該排出孔は、開口状態を保持、若しくは、閉鎖部材によって閉鎖してある。
【0022】
請求項の弦楽器によれば、請求項の弦楽器の作用効果に加え、空間部を備えることによって、空間部を有しない場合に比べてネック部全体と共鳴箱部の何れか一方若しくは双方の振動特性が変化する。当該変化の度合いを調整することにより、演奏者の好みに合わせた本発明の弦楽器の楽器としての性能(音量と音質と音響)の達成が可能になる。さらに、空間部を備えさせることによって、その分だけネック部ひいては弦楽器全体を軽量化することができる。造形時に空間部内に残存していた合成樹脂粉末は、排出孔を介して外部に排出される。排出は、自重落下、外部からの吸引、さらに、圧搾空気の注入等による方法が例として挙げられる。閉鎖部材を用いた場合は、その閉鎖により空間部が密閉される。
【0029】
(請求項記載の発明の特徴)
請求項記載の発明に係る弦楽器(以下、適宜「請求項の弦楽器」という)には、請求項3乃至何れかの弦楽器の基本構成を備えさせ、さらに、前記ネック部が、内部若しくは外部において、又は、内部及び外部において、長手方向に渡り補強部材によって補強してある。
【0030】
請求項の弦楽器によれば、請求項3乃至何れかの弦楽器の作用効果に加え、補強部材の働きによってネック部が補強される。特に、通常の演奏時の左手の操作による指板の変形、若しくは破損することを防止する。また、ネック部には、弦の張力が常に掛かっているので、補強部材の配置位置によっては、その張力によるネック部の変形、若しくは破損することを防止する。
【0031】
(請求項記載の発明の特徴)
請求項記載の発明に係る弦楽器の製造方法(以下、適宜「請求項の製造方法」という)は、合成樹脂粉末を光照射により焼結させる積層造形法によって一体造形した共鳴箱部と、当該共鳴箱部から突き出すネック部とを含む弦楽器を製造する方法である。この方法は、三次元所望領域における材料定数を、光照射の条件変化制御によって、当該所望領域に隣接する三次元隣接領域の材料定数と段階的若しくは連続的に異ならせることにより、振動特性を調整して弦楽器としての性能を調整しながら共鳴箱部を造形する共鳴箱部造形工程と、当該共鳴箱部造形工程と並行して、若しくは、前後してネック部を製造するネック部製造工程と、共鳴箱部造形工程で造形した共鳴箱部に、ネック部を取り付けるネック部取付工程と、を含むことを特徴とする。
【0032】
請求項の製造方法によれば、弦楽器を構成する共鳴箱部が積層造形法によって造形され、このとき、材料定数において所望領域と隣接領域との間に異なりを生じさせることにより、振動特性を調整して弦楽器としての性能を調整することができる。併せてネック部が製造される。ネック部の製造は、共鳴箱部の前若しくは後に、又は、共鳴箱部と平行して製造することができる。造形した共鳴箱部に製造したネック部を取り付けることによって弦楽器が完成する。積層造形法において光照射の条件変化によって行うので、積層造形の出発材料を共通にしつつ材料定数の異なりを生じさせることができるので、異なる出発材料を用意する必要がなくなり、たいへん効率のよい弦楽器製造を行うことができる。
【0033】
(請求項記載の発明の特徴)
請求項記載の発明に係る弦楽器の製造方法(以下、適宜「請求項の製造方法」という)は、請求項の製造方法であって、さらに、前記ネック部を、前記積層造形法によって造形することを特徴とする。
【0034】
請求項の製造方法によれば、請求項の製造方法の作用効果に加え、共鳴箱部に加え、ネック部をも積層造形法によって造形するので、場合によっては原材料の均一化によるコスト削減が可能になる。また、ネック部においても、所望領域と隣接領域との間で材料定数を異ならせることが出来るようになり、これによって、ネック部製造においても演奏者の好みに沿った本発明の弦楽器の楽器としての性能(音量と音質と音響)の達成に貢献する。
【0037】
(請求項1記載の発明の特徴)
請求項1記載の発明に係る弦楽器の製造方法(以下、適宜「請求項1の製造方法」という)は、請求項の製造方法であって、さらに、前記ネック部と前記共鳴箱部の何れか一方若しくは双方は、焼結造形した外形輪郭部と、当該外形輪郭部に密閉された密閉空間部と、に分けて造形し、当該密閉空間部内には、未焼結合成樹脂粉末を残存させることを特徴とする。
【0038】
請求項1の製造方法によれば、請求項の製造方法の作用効果に加え、密閉空間部に残存する未焼結合成樹脂粉末の働きによって、密閉空間部を有しない場合に比べてネック部全体と共鳴箱部の何れか一方若しくは双方の振動特性が変化する。当該変化の度合いを調整することにより、演奏者の好みに合わせた本発明の弦楽器の楽器としての性能(音量と音質と音響)の達成が可能になる。さらに、焼結した外形輪郭部の比重に比べて密閉空間部内の未焼結合成樹脂粉末の比重の方が軽いので、その分だけネック部ひいては弦楽器全体を軽量化することができる。
【0039】
(請求項1記載の発明の特徴)
請求項1記載の発明に係る弦楽器の製造方法(以下、適宜「請求項1の製造方法」という)は、請求項の製造方法であって、さらに、前記ネック部と前記共鳴箱部の何れか一方若しくは双方は、焼結造形した外形輪郭部と、当該外形輪郭部に包囲された空間部と、に分けて造形し、当該外形輪郭部には、当該空間部に残存していた未焼結合成樹脂粉末を排出するための排出孔を少なくとも1個設け、未焼結合性樹脂粉末を排出した後の当該排出孔は、開口状態を保持、若しくは、閉鎖部材によって閉鎖することを特徴とする。
【0040】
請求項1の製造方法によれば、請求項の製造方法の作用効果に加え、空間部を造形する(焼結造形しない)ことによって、空間部を造形しない場合に比べてネック部全体と前記共鳴箱部の何れか一方若しくは双方の振動特性が変化する。当該変化の度合いを調整することにより、演奏者の好みに合わせた本発明の弦楽器の楽器としての性能(音量と音質と音響)の達成が可能になる。さらに、空間部を造形することによって、その分だけネック部ひいては弦楽器全体を軽量化することができる。造形の結果、空間部内に残存する合成樹脂粉末は、排出孔を介して外部に排出される。排出は、自重落下、外部からの吸引、さらに、圧搾空気の注入等による方法が例として挙げられる。閉鎖部材を用いた場合は、その閉鎖により空間部が密閉される。
【0047】
(請求項12記載の発明の特徴)
請求項12記載の発明に係る弦楽器製造装置(以下、適宜「請求項12の装置」という)は、請求項乃至1何れか記載の弦楽器の製造方法を実施して弦楽器を製造するための装置である。
【0048】
請求項12の装置によれば、請求項乃至1何れかの製造方法によって製造されることになるから、製造された弦楽器によって演奏者の好みや演奏目的に沿った楽器としての性能(音量と音質と音響)の達成を可能とする。


【発明の効果】
【0049】
本発明によれば、その弦楽器の演奏者(使用者)の好みや演奏目的等に可及的に応じることのできる弦楽器、その製造方法、さらにその製造装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下、本発明で応用する技術と本発明を実施するための最良形態(以下、適宜「本実施形態」という)とを、図面と表と数式とを参照しながら詳細に説明する。尚、積層造形法に関しての概略は、前掲した非特許文献5,6,7を参照とする。特に記載が無ければ、本発明では、合成樹脂や金属等の粉末を単体若しくは混合したものを原材料としてレーザーのような光やエレクトロンビーム等を用い選択的な焼結を行うことで立体構造物としての弦楽器を形成する積層造形法を用いる。本明細書では、特に記載が無ければ、原点oを中心とするxyz軸座標系を考えたとき、xy平面に平行な面に材料の粉末をローラーやブレード等で一様に展開し、z方向に積層すると定義する。
【0051】
本明細書において、特に記載が無ければ、粉末を原材料として選択的に焼結することで立体構造物を形成する積層造形法を用いた造形装置としてEOS社(独国)製のレーザー焼結型RP(Rapid Prototyping.)システムのEOSINT P385(商標、以下、同造形装置のことを「本件造形装置」という)を用いた場合を例として説明をする。後述の表1に表した測定値は、本件造形装置を用いて、ナイロン12(商標、ポリアミド系合成樹脂)を主成分とした熱可塑性を有する合成樹脂粉末(EOS社型番 PA2200、色は白色、商標)を立体構造物の原材料とし、表1の製造条件に従って製造した試験片から得たものである。本件造形装置は、3次元CADソフトウェアや3次元モデリングシステム等を用いて作成した立体構造物のデータ(STL形式等)をスライスデータ(SLI形式)と呼ばれる断面形状のデータ群に変換し、このスライスデータを用いて、xy平面に平行に展開した合成樹脂(プラスチック)の粉末の層に、搭載されたCOレーザー発生装置から発せられるレーザーを照射することで、選択的に原材料粉末を焼結し、これを何回も繰り返し重ねていくことで、所望の立体構造物を製造する装置(システム)である。
【0052】
粉末を原材料としてレーザー焼結で立体構造物を形成する積層造形法によって製造される立体構造物は、積層造形法がxy平面に平行な層を幾層もz方向に積み上げるという工法故に、巨視的に見た場合、大略として正方晶と同様の異方性の特性を有する。正方晶の異方性弾性スチフネス定数を工学的表記で表す場合、以下の数式(1)で表記する。
【0053】
【数1】
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【0054】
粉末を原材料として選択的なレーザー焼結をすることで立体構造物を造形する積層造形法によって製造される立体構造物は、焼結条件であるレーザー照射条件を変えることによって材料定数(たとえば、弾性スチフネス定数、密度)を変化させることが可能である。その一例として、表1は、2種類のレーザー照射条件A,Bによって製造された立体構造物の弾性領域における弾性スチフネス定数と密度との測定値を表す。この表1に表した弾性スチフネス定数c11,c12,c13,c33,c44,c66の測定値は、日本工業規格JIS K7161,JIS K7162,JIS K7079を参考として、2種類のレーザー照射条件A,Bでxyz方向別に同一バッチにおいて製造した試験片を万能試験機(引っ張り試験機)と歪みゲージとを用いて弾性領域におけるxyz方向別のヤング率、ポアソン比、横弾性係数を測定し、この測定値から、積層造形法によって製造される立体構造物が弾性領域において正方晶と同様の特性を示すとして算出した値である。また、この表1に表した密度の測定値は、2種類のレーザー照射条件A,Bで製造した大略立方体(一辺約20mm)ソリッドブロックの寸法と重量とを計測し、その計測値から算出した測定値である。
【0055】
表1の弾性スチフネス定数の測定値を項目別に見比べると、弾性スチフネス定数は、レーザー照射条件Aによる測定値に比べてレーザー照射条件Bによる測定値の方が一様に小さい値となっている。感覚的には、レーザー照射条件Aで製造した角棒(寸法100×10×4mm)と、このレーザー照射条件Aで製造した角棒と同一バッチでレーザー照射条件以外は大略同一の製造条件によるレーザー照射条件Bで製造した角棒(寸法100×10×4mm)とを長手方向(100mmの方向)の両端付近をそれぞれ両手で持って曲げ比べてみると、レーザー照射条件Aで製造した角棒よりレーザー照射条件Bで製造した角棒の方がやわらかく(曲げやすく)感じる。
【0056】
表1の密度の測定値を項目別に見比べると、密度は、レーザー照射条件Aによる測定値に比べてレーザー照射条件Bによる測定値の方が小さい値となっている。
【0057】
この表1では二種類のレーザー照射条件A,Bの詳細条件とこれによって得られる立体構造物の密度と弾性スチフネス定数の測定値を表しているが、粉末を原材料としてレーザー焼結で立体構造物を形成する積層造形法はこの2つのレーザー照射条件の他に、レーザー照射条件C,D,E,…と無数の条件が存在し、それぞれの条件毎に製造される立体構造物の弾性スチフネス定数や密度等の材料定数が異なる。
【0058】
尚、表1に表した測定値は、本件造形装置であるEOSINT P385を用いて全て同一バッチから得た試験片を用いて測定をして得られた測定値であるが、材料粉末の状態や立体構造物の製造位置(配置位置)や造形装置の個体差や室温や室内等の外的要因などによって多少の数値的変動が発生する可能性がある。しかしながら、少なくとも同一バッチ内でレーザー照射条件A,Bを用いて製造した立体構造物においては、相対的に材料定数(弾性スチフネス定数と密度)の測定値に差が生じる。
【0059】
【表1】
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【0060】
これらのレーザー照射条件を少なくとも2種類以上使用することにより、部分的(選択的)に弾性スチフネス定数や密度等の材料定数が異なる一体に形成された立体構造物を製造する方法の概念を以下に説明する。
【0061】
図1は、レーザーの照射条件を変更することにより形成される複数の立体構造物を一体に形成することを説明するための説明図である。図1(a)は、例えば表1で表したレーザー照射条件A,Bで同寸法の立方体ブロックを形成する場合にレーザーの照射条件Aで形成する立方体ブロックとレーザー照射条件Bで形成する立方体ブロックとが非接触であることを示す。図1(b)は、例えば表1で表したレーザー照射条件A,Bで同寸法の立方体ブロックを形成する場合にレーザーの照射条件Aで形成する立方体ブロックとレーザー照射条件Bで形成する立方体ブロックとの配置関係が接触している状態を示す。図1(c)は、例えば表1で表したレーザー照射条件A,Bで同寸法の立方体ブロックを形成する場合にレーザー照射条件Aで形成する立方体ブロックとレーザーの照射条件Bで形成する立方体ブロックとの配置関係が重複(オーバーラップ)している状態を示す。
【0062】
図1(a)は、造形プロセスにおけるレーザー照射条件Aで製造指令を与えられた立方体ブロック80a(斜線ハッチング部)とレーザー照射条件Bで製造指令を与えられた立方体ブロック80b(ドットハッチング部)とが非接触の状態でデータ上、3次元配置された配置データを示しており、この配置データによる造形の結果、完成する立体構造物は、弾性スチフネス定数と密度(表1参照)とが異なる大略同寸法立方体ブロックが1個ずつである。
【0063】
図1(b)は、造形プロセスにおけるレーザー照射条件Aで製造指令を与えられた立方体ブロック80a(たとえば、この領域を「三次元所望領域」とする。)の一面とレーザー照射条件Bで製造指令を与えられた立方体ブロック80b(上記例における「所望領域」に隣接する「三次元隣接領域」)の一面とを接触した位置の状態でデータ上、3次元配置された配置データを示しており、この配置データによる造形の結果、完成する立体構造物は、直方体ブロック81が1個であり、大略、部分毎によってレーザー照射条件A,Bに従った弾性スチフネス定数と密度(表1参照)とになる。本発明では、この図1(b)を用いて説明したような複数の立体構造物を接触配置して一体化した立体構造物を得る方法を接触接合法と呼称する。
【0064】
図1(c)は、造形プロセスにおけるレーザー照射条件Aで製造指令を与えられた立方体ブロック80aとレーザー照射条件Bで製造指令を与えられた立方体ブロック80bとを重複(オーバーラップ)させた位置の状態でデータ上、3次元配置された配置データを示しており、この配置データによる造形の結果、完成する立体構造物は、直方体ブロック82が1個であり、大略、部分によってレーザー照射条件A,Bに従った弾性スチフネス定数と密度(表1参照)とになり、さらに2つのレーザー照射条件A,Bで重複(オーバーラップ)して製造された部分83は、レーザー照射も重複(オーバーラップ)するため、表1で表すレーザー照射条件A,Bで製造した場合の弾性スチフネス定数と密度とは異なる値を示す。本発明では、この図1(c)を用いて説明したような複数の立体構造物を重複配置して一体化した立体構造物を得る方法を重複接合法と呼称する。
【0065】
以上で述べたように、粉末を原材料としてレーザー焼結で立体構造物を形成する積層造形法は、レーザーの照射条件を変更することにより、製造される立体構造物の弾性スチフネス定数と密度とを変えることが可能である。また、これらの弾性スチフネス定数と密度とが異なる複数の立体構造物どうしを接合した状態で立体構造物を形成することが可能である。換言するならば、立体構造物全体に対して、選択的に任意の一部分を弾性スチフネス定数と密度とが異なる状態で立体構造物を形成することが可能である。この手法を弦楽器の製造に応用することが本発明の一つである。
【0066】
従来の木材を多用して製造されている木製ヴァイオリン属は、各部位の製造に用いられる木材の種類が違うことが多い。例えば、ヴァイオリンの場合、スクロールと糸箱とを一体に具えるネックや裏板部や横板部や駒の製造にはカエデ材等が用いられることが多く、表板部やバスバーにはスプルスが用いられることが多く、ネック部の構成要素である指板やテールピースや糸巻きやサドルやナットやテールピースには木材としては比較的剛性が高い黒檀等が用いられることが多い。その他の部位の製造にも、それぞれに適した種類の木材や金属や合成樹脂等が使用される。このように各部位によって木材の種類や材料を変えることは、音の共鳴の効果等を利用して鳴るヴァイオリン属に関する永年に亘る幾多の人々の研究によって得られた知恵によることであり、同じ形状でも各部位の材質によっては、楽器としての性能(音量と音質と音響)を左右することにもなる。
【0067】
ヴァイオリン属の場合、弦を弓で擦ることで弦が振動し、この振動のエネルギーが駒を介して共鳴箱部の表板部に伝わり、更にブロックと横板部と裏板部とバスバーと魂柱とにこの振動のエネルギーが伝わり、結果として大略弦楽器全体が振動して発音する。振動することを前提とした物を設計する場合、弾性定数や密度等の材料定数は必須である。後述するように本発明によれば、レーザー照射条件等を変更することにより、選択的に各部位ごとに、或いは選択的に特定の部分ごとに弾性スチフネス定数や密度等の材料定数を変えることができるので、楽器としての性能(音量と音質と音響)を広範囲に調整することが可能である。
【0068】
また、前述したように、積層造形法によって製造される立体構造物は、異方性を有するため、z方向(積層方向)に対する立体構造物の造形方向を変えることによって、製造される立体構造物の振動特性を含む機械的特性を変えることが出来る。積層造形法を用いて断面が円となり、円となる断面の直径より十分に大きい高さ(長さ)の円柱立体構造物(丸棒立体構造物)を作製すると仮定し、この円柱の高さ(長さ)方向に積層して立体構造物を作製する場合(円を積み上げる)を例とすると、造形方向とは、立体構造物を積層造形するときに最初の層の中心(第一層の円となる断面の中心)からみた最後の層の中心(最終層の円となる断面の中心)の方向のことをいう。すなわち、この場合、造形方向が鉛直方向と一致するなら、その造形方向は積層方向(z方向)と一致する。これに対して、積層造形法では、z方向に対する円柱立体構造物の造形方向を異ならせる(z方向に対して造形方向に傾きをあたえる)ことによって、弾性スチフネス定数を調整することを利用し、立体構造物の機械的特性を変更することが可能である。本発明の場合、この積層造形法特有の工法(z方向に対して造形方向に傾きを与える工法)を利用して、造形方向を変化させて本発明の弦楽器が有する振動特性(たとえば、固有共振周波数、振動モード、振幅)を含む機械的特性を変化させ、その結果として、本発明の弦楽器の楽器としての性能(音量と音質と音響)を調整することは可能である。この調整によって、演奏者の好みや演奏目的等に沿わせることも、また、可能である。
【0069】
粉末を原材料とし選択的に焼結する(焼結する部位と焼結しない部位の併存。焼結しない部位は粉末のまま残存する)ことで立体構造物を形成する積層造形法は、レーザーを照射して焼結する方式のほか、エレクトロンビームを照射して焼結する方式も存在する。このエレクトロンビームを照射して立体構造物を形成する積層造形法もエレクトロンビーム照射条件を変更することで、立体構造物の材料定数(弾性定数や密度等)を調整することができ、さらに、接触接合法や重複接合法を実施することができる。
【0070】
図2は、本発明における立体構造物の造形方向の定義を説明するための説明図である。本発明では、原点oを中心とするxyz軸座標系を考えたとき、図13の矢印70で示す長さ方向とz方向(積層方向)とが一致し、且つ矢印71で示す幅方向とx方向とが一致し、且つ矢印72で示す厚さ方向とy方向とが一致している場合をヴァイオリンの楽器本体200を製造する場合の基準角度と定義する。一例として、本発明の弦楽器の楽器本体200をこの基準角度から傾けて製造することを考える場合、楽器をx軸周りに角度φ、y軸周りに角度θ、z軸周りに角度ωと回転角度を定義する。本発明の楽器本体200を角度φ,θ,ω回転配置した後の長さ方向をz´方向とし、幅方向をx´方向とし、厚さ方向をy´方向とする。仮に角度φ,θ,ωが全て0°(基準角度)である場合、x軸とx´軸とは一致し、y軸とy´軸とは一致し、z軸とz´軸とは一致しているということになる。図2は、一例として、本発明の弦楽器をx軸周りに角度φ回転配置した場合を示しており、この場合、y軸に対してy´軸は角度φ傾き、z軸に対してz´軸は角度φ傾くが、x軸とx´軸とは一致している。このときのxy´z´ (x´y´z´)軸座標系に適用される弾性スチフネス定数[c´pq](p,q=1,2,3,4,5,6)は、数式(1)で示すことができる弾性スチフネス定数をテンソル変換して算出する必要があり、以下の数式(2),(3),(4),(5)を用いれば算出することが出来る。
【0071】
【数2】
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【0072】
【数3】
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【0073】
【数4】
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【0074】
【数5】
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【0075】
上記数式によって得られるテンソル変換後の弾性スチフネス定数[c´pq]は、本発明の弦楽器を設計するときに重要である。即ち本発明の弦楽器を設計する場合、角度φ,θ,ωは重要な設計項目であり、本発明における具体的な弦楽器の設計への適用方法は後述の弦楽器の設計方法の欄で詳述する。
【0076】
すなわち、積層造形法は、これを用いて図2に示すような楽器本体200(共鳴箱部及びネック部)を一体に造形することは可能であり、例えば、従来の木製ヴァイオリン属等と比べれば使用者による不意の落下衝撃事故などによる楽器の故障の可能性は低い。木製ヴァイオリンの、たとえば表板部と横板部との間の接着剤が落下衝撃によって剥がれてしまうことがあり、これがヴァイオリンの故障原因となることが多い。一体造形であれば、部材間に接着剤を用いる必要がないので、用いていれば生じたかもしれない接着剤の剥がれを原因とする故障がない。また、従来の木製ヴァイオリン属のような接着剤を用いた組立てによる固体ごとの性能差の発生は皆無である。さらに、そもそも接着剤を用いた貼り付けが不要であるため、組立ての手間が省け、省いた手間の分だけ製造コストを削減することができる。
【0077】
ヴァイオリン属は、演奏前に、糸巻きやアジャスターのネジを回して弦を張ったり緩めたりすることによって調弦(チューニング)が行われる。また、ヴァイオリン属は、通常、左手の指と指板とで弦を挟んで弦の振動する部分の長さを変更することによって振動周波数が変えられ、これによって楽曲が演奏される。これらの理由でナットと指板と糸箱の糸巻きを装着するための穴とは擦れて摩滅していくので、これらの摩滅する部位は、交換可能であることが望ましい。また、サドルも、調弦を繰り返すことによって圧迫されて塑性変形していくので、交換可能であることが望ましい。さらに、演奏時のテクニックとして、通常、左手がネックを保持する位置を素早く移動(ポジション移動)することによって、周波数の高い音を得ることがあるため、ネックは擦れて摩滅していくので、ネックは交換可能であることが望ましい。加えて、特に共鳴箱部を構成する部位の各寸法を切削加工等を行って変えることにより、楽器としての性能、即ち、音量と音質と音響とを調整・改良することが可能である。これらのことから本発明の弦楽器のメンテナンス性と改良の自由度と調整の自由度とを高めることを考慮して、以下に図2で示した本発明の弦楽器の楽器本体から、数個の構成部位を別に製造する場合を示す。
【0078】
図3は、図2で示した本発明の弦楽器の楽器本体から、数個の構成部位を別に製造する場合の概念図である。図3(a)は、パフリングを一体に具えた裏板部と全ての横板部と全てのブロックと全てのライニングとを一体に形成した半共鳴箱100とパフリングを一体に具えた表板部101とバスバー102とサドル103とスクロールと糸箱とを一体に具えたネック104と指板105とナット106とを積層造形法を用いて別々に製造する例を示している。
【0079】
この図3(a)に示すように、図2で示した本発明の弦楽器の楽器本体から数個の構成部位を別に製造する場合、接着や溶着や圧入によるはめこみ等によって楽器本体を組立てる。この図3(a)に示すように、本発明の弦楽器の楽器本体を数個の部位に分割し、接着や溶着や圧入によるはめこみ等によって楽器本体を組立てる場合、楽器本体を一体に形成した場合に比べて落下衝撃事故による接着面の剥離や溶着個所の割れ等の故障の可能性は高くなる。しかしながら、この図3(a)に示すように、図2で示した本発明の弦楽器の楽器本体から、数個の構成部位を別に製造する場合、研磨等の仕上げ加工がやりやすく、圧入によるはめこみや接着を用いて組立てを行う場合は、組立て後にも楽器本体を各部位に分解することが可能である。したがって、本発明の弦楽器の製造に、この図3に示すように数個の部位を分割して製造する方法を採用すれば、楽器本体の組立ての前後に、共鳴箱部の内部を切削加工することが簡便となるので、楽器本体の外観を損なわずに使用者等の好みに応じて楽器としての性能を変化させることが可能であり、摩滅によって消耗する部位も交換可能である。また、使用者等の嗜好によっては、例えば、指板105やサドル103やナット106を、従来の木製ヴァイオリンを製造する場合と同様に、黒檀材等から切り出して形成したものに置き換えても良い。
【0080】
また、図3(a)で示した本発明の弦楽器の楽器本体を構成する個々の部位(半共鳴箱100、表板部101、バスバー102、サドル103、ネック104、指板105、ナット106)を、積層造形法を用いて作製する場合は、それぞれの部位が個別に、弦楽器の楽器としての性能(音量と音質と音響)や演奏時の操作性を考慮した設計を満たすx´y´z´方向(角度φ,θ,ωの調整により変化した造形方向)を有している。すなわち、図3(a)で示した個々の部位(半共鳴箱100、表板部101、バスバー102、サドル103、ネック104、指板105、ナット106)は、それぞれ固有の造形方向を与えられて形成され、その結果として本発明の弦楽器の設計範囲や性能の調整範囲等が拡大する。
【0081】
図3(b)は、表板部101の背面(組立てた時に共鳴箱部の内面を構成する面)を示し、図3(c)は図3(b)に示すN-N´線における断面を示している。図3(b)に示すように、表板部101には、溝110、111がそれぞれ配置されている。このように積層造形法を用いた弦楽器の作製において、表板部101に溝110、111を配置することは、3次元CAD等を使用して作成される表板部101の立体構造物のデータに、予め、溝110、111を配置する指令を付与することによって容易に実現可能である。
【0082】
本発明の弦楽器の楽器本体から、数個の構成部位を別体に製造する場合には、前述したように、接着、溶着、はめこみ等の工法を適切に用いて組立てを行うことが必要となる。特に共鳴箱部の組立てにおいて、共鳴箱部を構成する主要部位たる半共鳴箱100と表板部101とバスバー102とを比較的容易に、設計どおりの位置関係を保ちつつ組立てるために、図3(b)に示すように表板部101の背面に溝110、111を配置しておく。この場合、溝110は、図3(a)に示す半共鳴箱100の全ての横板部と全てのブロックと組立てたときに表板部101と接する全てのライニングとによって構成される嵌め合い面107が、設計の意図どおりに適切に嵌合する形状をなしている。また同様に、溝111は、バスバー102が設計の意図どおりに適切に嵌合する形状をなしている。後述する図4中の共鳴箱部401と同様の形状の共鳴箱部を組立てる場合には、まず表板部101に配置した溝111に嵌め合い面108を挿入してバスバー102をはめ、接着か溶着のどちらか一方、あるいはその両方を用いて固定する。次にバスバー102の固定が完了した表板部101の溝110に、半共鳴箱100の嵌め合い面107を挿入して半共鳴箱100とバスバー102の固定が完了した表板部101とを固定する。次にサドル103を接着か溶着のどちらか一方、あるいはその両方を用いて固定することで共鳴箱部の組立てが完了する。尚、接合固定には、接着か溶着のどちらか一方の手法、あるいはその両方の手法を適切に用いる。
【0083】
この図3(b)に示した溝110、111の形状は、それぞれ半共鳴箱の嵌め合い面107やバスバーの嵌め合い面108が比較的簡単な面形状の場合に適合する形状を例示している。嵌め合い面107、108がさらに複雑な曲面や凹凸状突起を有するように設計した場合には、それに適合するように、表板部101に配置される溝110、111を形状設計すればよい。
【0084】
尚、図3ではパフリングを一体に具えた裏板部と全ての横板部と組立てたときに表板部101と接する全てのライニングと全てのブロックとを一体に形成した半共鳴箱100とパフリングを一体に具えた表板部101とバスバー102とサドル103を別体に作製する方式の例を示しているが、他の方式を採用することも可能である。例えば、パフリングを一体に具えた表板部とバスバーと全ての横板部と全てのライニングと全てのブロックとを一体に形成して半共鳴箱を作製し、これに対して、パフリングを一体に具え、且つ、嵌め合い溝が配置された裏板部とサドルとをそれぞれ別体に作製する方式等も採用することができる。
【0085】
(実施の形態1)
図4は、複数のレーザー照射条件を用いた接触接合法によるヴァイオリンの共鳴箱部を製造する例を示す説明図である。図4(a)は共鳴箱部の正面図を示し、図4(b)は共鳴箱部の右側面図を示す。この図4では、共鳴箱部401が示されており、この共鳴箱部401を、図1(b)を用いて説明した接触接合法を用いて一体に形成することを前提として説明する。本発明の一例として、共鳴箱部401を製造する場合、ドットハッチングしたパフリングを一体に具える表板部402bは、表1で表したレーザー照射条件Bを選択的に用いて製造し、斜線ハッチングした他の部位群402a(パフリングを一体に具える裏板部と横板部とブロックとライニングとバスバーとサドル)はレーザー照射条件Aを選択的に用いて製造し、これらを接触接合法を用いて一体化して共鳴箱部401を製造することが可能である。この場合の表板部402b全体を三次元所望領域とすれば、部位群402a全体は三次元隣接領域となる。その逆でもよい。尚、この図4では、部位群402aに含まれるバスバーとライニングと一部を除いたブロックとは、共鳴箱部401内部に隠れて配置されているので、図示されていない。この方法で製造した共鳴箱部401は、例えばレーザー照射条件Aのみを用いて表板部を含めて一体に製造した共鳴箱部と比べて、形状は大略同一でも、レーザー照射条件A,Bで製造される立体構造物の弾性スチフネス定数と密度との違いから振動特性が変化しているので、結果として楽器としての性能(音量と音質と音響)を調整されて、且つ軽量化がなされた本発明の弦楽器の共鳴箱部401となる。
【0086】
(実施の形態2)
図5は、複数のレーザー照射条件を用いてヴァイオリンの表板部を製造する例を示す説明図である。図5(a)は、2種類のレーザー照射条件を使用する場合の説明図である。図5(b)は、3種類のレーザー照射条件を使用する場合の説明図である。
【0087】
図5(a)はパフリングを一体に具える表板部511を大略左右対称に2分割し、接触接合法を用いてレーザー照射条件Aで製造する部分511a(たとえば、三次元所望領域)とレーザー照射条件Bで製造する部分511b(上記例における、三次元隣接領域)とにそれぞれ選択的にレーザー照射条件を変えて表板部511を一体に製造することを示している。その結果として本楽器の弦楽器の振動特性を調整し、楽器としての性能(音量と音質と音響)を調整することを意図している。
【0088】
図5(b)は、パフリングを一体に具える表板部521を3分割し、レーザー照射条件Aで製造する部分521a(たとえば、所望領域とする)とレーザー照射条件Bで製造する部分521b(所望領域521aに対する隣接領域)と、本明細書では詳細を省略したレーザー照射条件Cで製造する部分521c(上記隣接領域521bを所望領域とした場合の隣接領域)とにそれぞれ選択的にレーザー照射条件を変えて表板部521を一体に製造することを示している。その結果として本楽器の弦楽器の振動特性を調整し、楽器としての性能(音量と音質と音響)を調整することを意図している。
【0089】
また、ここで図5(b)を用いて、図1(c)を用いて説明した2種類のレーザー照射条件を使用した重複接合法を適用してパフリングを一体に具える表板部521を一体に製造する例を説明する。表板部521を3分割し、レーザー照射条件Aで製造する部分521aとレーザー照射条件Bで製造する部分521cと、レーザー照射条件A,Bの重複によって製造される521bとにそれぞれ選択的にレーザー照射条件を変えて表板部521を一体に製造する。その結果として本発明の弦楽器の振動特性を調整し、楽器としての性能(音量と音質と音響)を調整することを意図している。
【0090】
さらに、ここで図5(b)を用いて、図1(c)を用いて説明した1種類のレーザー照射条件を使用した重複接合法を適用してパフリングを一体に具える表板部521を一体に製造する例を説明する。表板部521を3分割し、レーザー照射条件Aで製造する部分521a,521bとレーザー照射条件Aで製造する部分521b,521cとにそれぞれ選択的にレーザー照射の順番を変えて表板部521を一体に製造する。レーザー照射条件Aの重複によって製造される部分521bは、2回のレーザー照射を行われた層の積層体となるので、部分521a,521cとは異なる材料定数を有する。その結果として本発明の弦楽器の振動特性を調整し、楽器としての性能(音量と音質と音響)を調整することを意図している。
【0091】
(実施の形態3)
図6は、積層造形法を用いることで製造可能な、外形輪郭部を固体化し、その内部の(密閉)空間部153aの中には原材料の粉末がそのまま残っている立体構造物の概念図である。説明を容易にするために、この図6中の直方体立体構造物150は、仮に角部151を切り取った状態のものを示しており、直方体立体構造物150内部の空間部153aを図示している。原材料の粉末を選択的に焼結する積層造形法は、製造する立体構造物の各断面を一層ずつ積み上げて所望する立体構造物を製造する手法なので、図6に示すように、薄い肉厚の外形輪郭部152は焼結によって固体化し、外形輪郭部152内部の空間部153a内に原材料の粉末153(蜂の巣状ハッチング)を密閉した状態の立体構造物を作ることが可能である。本発明では、この方法を粉末内包焼結法と呼称する。
【0092】
この薄い肉厚の外形輪郭部が固体で、外形輪郭部の内部に原材料の粉末がそのまま残っている状態の立体構造物を作る手法を本発明に応用すれば、本発明の弦楽器の外観を損ねることなく、例えば表板部の任意の位置の剛性を部分的に弱め、かつ、比重(密度)を低くすることが可能である。その結果として、この粉末内包焼結法を用いることによって本発明の弦楽器の楽器としての性能(特に、振動特性)を変化させることが出来る。また、原材料の粉末のかさ密度と焼結した立体構造物の密度を比較すると、明らかに原材料の粉末のかさ密度は小さいので、この粉末内包焼結法を用いることで本発明の弦楽器を軽量化することができ、その結果、長時間に亘る演奏による使用者の疲労を軽減する効果もある。加えて、外形輪郭部の内部に原材料の粉末がそのまま残っている個所の焼結された外形輪郭部の一部分に穴をあけて粉末を除去すれば、本発明の弦楽器をさらに軽量化をすることも可能である。
【0093】
(実施の形態4)
ここで、本実施形態に係る弦楽器(ヴァイオリン)の製造方法(以下、適宜「本件製造方法」という)について説明する。ヴァイオリン1は、積層造形法によって一体造形した共鳴箱部2と、共鳴箱部2から突き出すネック部3とを含むものであることは、前述したとおりである。ここで、本件製造方法は、共鳴箱部を造形する共鳴箱部造形工程と、ネック部を製造するネック部製造工程と、共鳴箱部にネック部を取り付けるネック部取付工程の3工程によって行われる。共鳴箱部造形工程では、所望領域における材料定数を、当該所望領域に隣接する隣接領域の材料定数と段階的若しくは連続的に異ならせながら共鳴箱部を造形する。ネック部製造工程では、所望領域における材料定数を、当該所望領域に隣接する隣接領域の材料定数と段階的若しくは連続的に異ならせながらネック部を造形する。最後に、ネック部取付工程は、共鳴箱部造形工程で造形した共鳴箱部に、ネック部造形工程で造形したネック部を取り付ける。以下、項を改めて、本件製造方法について詳述する。
【0094】
図7は、本件製造方法の一部をなすネック部の製造方法の一例を示す説明図である。図7(a)は正面図である。図7(b),(c),(d)は、それぞれ図7(a)で示すネック部189のL-L´断面図であり、製造工程の順番に(b)→(c)→(d)となる。
【0095】
本発明の弦楽器の場合、選択する粉末材料と粉末を焼結して固体化させる製造条件とによっては、指板など剛性が特に必要とされる部位の充分な剛性が確保できない場合があり得、これが課題となる。この課題に対して、図7に示すように、指板180の大略長さ方向(大略z´方向、長手方向)に渡って積層造形装置による製造時に挿入穴181をあけておき、この挿入穴181に金属製などの補強用の棒(補強部材)182を圧入して補強すると良い。ここでは、補強部材182をネック部189の内部に配したが、これに代わり、若しくは、これと共にネック部189の外部に補強部材(図示を省略)を配してもよい。
【0096】
図7(b)は、本発明の弦楽器のネック部のL-L´断面図である。この図7(a)に示したネック部189は、粉末を原材料とし選択的に焼結することで形成する積層造形法により形成されたものを示しているが、積層造形法を利用した本実施例は、予め積層造形装置(本件造形装置)に入力する立体構造物のデータに空間部を具えさせる指令を付加することにより、空間部184,185のような空間を具えた状態で立体構造物を製造することが可能である。この図7(b)では、ネック部189を積層造形装置のリムーバルチャンバー(立体構造物が形成される箱型のチャンバー)から取り出して、外観上の表面に付着した材料粉末を除去した状態を示しており、空間部184,185、及び挿入穴181,187a,187b,187c,187dは、未だ材料粉末190a,190b(蜂の巣状ハッチング)が充填されている状態を示している。この空間部184,185、及び挿入穴181,187a,187b,187c,187dに充填さている原材料の粉末190a,190b(蜂の巣状ハッチング)を、断面円状の挿入穴181,187a,187b,187c,187d(これらの穴を、「排出孔」と呼ぶ場合もある)から、圧搾空気の吹き付けやガラスビーズブラスト処理や細い針金状の金属製工具等による材料粉末のかき出しや水洗等を行い、除去すれば空間部184,185を具えたネック部189が得られる。このように空間部をネック部に具えさせる理由は、本発明の弦楽器の軽量化にある。なお、材料粉末排出後の排出孔181,187a,187b,187c,187dは、そのまま開放させておいてもよいが、閉鎖部材(たとえば、穴に嵌合する嵌合部材や接着剤)によって閉鎖してもよい。閉鎖によって、外観的美観を保持したり空間部内に塵埃等が進入するのを防止したりすることができる。なお、上記と同様の手法により、空間部を具える共鳴箱部2を形成することも可能である。
【0097】
ヴァイオリン属のうち、特にヴァイオリンとビオラとは、通常、顎と肩とで楽器を挟んで保持して演奏する。このとき左手は、ネックを補助的に支える状態となるが、左手の重要な役割として、指で弦を押さえて音階を調整し、楽曲を演奏するため、事実上、左手での楽器の保持は補助的なもので、大部分が顎と肩とで楽器を挟んで保持する。このため、ネック部を軽量化することは、演奏をする使用者に対して軽量化の効果が大きく、感覚的に楽器を軽く感じる。その結果として長時間に亘る演奏による使用者への疲労を軽減する効果がある。ヴァイオリン属のうち、チェロやコントラバスについても演奏時には楽器を傾けて使用者がほぼ全身を使って楽器を支えて構えるため、演奏時の操作性を考慮すれば軽量化されているほうが望ましい。当然、ヴァイオリン属全体としても持ち運び性を考慮すれば軽量化は望ましい。積層造形法で立体構造物を製造する場合、3次元CADや3次元データ編集ソフトウェア等を用い所望する立体構造物のデータ(STL形式等)を作成するのが一般的である。これらの3次元CADや3次元データ編集ソフトウェア等の中には、作成した立体構造物データの体積や表面積や重心位置を計算し表示する機能が搭載されているソフトウェアがある。例えば、本発明において立体構造物データ作成のための3次元CADとしてSolidWorks(商標)を使用すれば、立体構造物データの体積や表面積や重心位置を計算し表示する機能以外に、材料の密度を入力することにより重量を計算し表示する機能も備えられているので、本発明の弦楽器を製造する前に、設計段階において大略の重量を把握することが可能である。
【0098】
但し、このネック部や共鳴箱部の空洞化を含めた本発明の弦楽器の部分的な空洞化を、むやみに行うことは、本発明の楽器の強度を著しく低下させ、場合によっては楽器としての性能(音量と音質と音響)や演奏時の操作性を著しく低下させる可能性がある。この本発明の弦楽器の部分的な空洞化を包含した楽器の設計方法については、後述の弦楽器の設計方法の欄で詳述する。
【0099】
また、場合によっては、除去した原材料の粉末は、次の積層造形法の製造プロセスにおいて再利用(リサイクル)が可能なので、原材料のコストダウンの面からも、空洞化することが望ましい。
【0100】
図7(c)は、図7(b)を用いて説明した空間部184,185を具える弦楽器のネック部189の指板180にあけられた挿入穴181に、補強部材182を挿入する例を示したL-L´断面図である。
【0101】
ヴァイオリン属は、通常、左手の指と指板とで弦を挟んで弦の振動周波数を変え、楽曲を演奏する。このとき、使用者が左手のポジション移動を駆使して高い周波数の音域で演奏する場合、指と指板とで弦を挟んだときに指板の剛性が低くて曲がってしまっては正しい音程で楽曲を演奏することが出来ない。
【0102】
例えば、チェロやコントラバスなど、比較的長い指板を具える弦楽器は、本発明の場合、指板が剛性不足になることがあるが、本実施の形態4の方法を用いることで、この指板の剛性不足の課題は解決される。積層造形法を用いれば、予め積層造形装置に入力する立体構造物のデータに、指板の長手方向に長い穴をあける指令を付与することによって、大きな加工の必要もなく、この図7(b),(c),(d)に示すような指板の補強部材182を挿入する挿入穴181を具えさせることが可能である。
【0103】
図7(c)に示すように、指板180にあけられた断面が円状の挿入穴181の長さより長さが短く、且つ、挿入穴181の直径に対してプラス公差を具えた直径の補強部材182を用意し、この補強部材182を挿入穴181に挿入する。このとき、補強部材182の直径が、挿入穴181の直径に対してプラス公差を具えていれば、この作業終了後に、挿入穴181内に補強部材182は固定される。この場合、補強部材182の端部を矢印188a方向にプラスチックハンマー等を用いて叩いて補強部材182を圧入すればよい。
【0104】
この補強部材182を挿入するための穴を複数個にして、これに対する補強部材182を複数本にしてもよい。指板180の剛性不足を補えるのであれば、補強部材182とこれを挿入するための穴の断面形状は円形ではなく多角形でもよい。また、指板180の補強を満足に行えるのであれば、軽量化の観点からも補強部材182は、中空パイプに置き換えてもよい。さらに、補強部材182は、金属製(例えばSUS304など)が望ましいが、指板180の補強を満足に行えるのであれば、特に金属製でなくてもよい。特に、補強部材182や中空パイプの素材が金属より密度が低く、じん性が高く、弾性定数(ヤング率など)が大きい材料であれば、指板の補強と軽量化との面で有用である。
【0105】
図7(d)は、図7(c)を用いて説明した空間部184,185を具え、更に指板180に補強部材182を挿入して剛性を高めた弦楽器のネック部189の挿入穴181,187a,187b,187c,187dを塞ぐ例を示したL-L´断面図である。
【0106】
図7(c)を用いて説明した作業が終了した直後のネック部189には、挿入穴181,187a,187b,187c,187dがあけられたままの状態であり、外観上に問題がある。図7(d)に示すように挿入穴181,187a,187b,187c,187dの直径よりプラス公差を具えた直径の閉鎖部材186,186a,186b,186c,186dをネック部189とは別に、ネック部189と同材料で積層造形法を用いて製造し、これらの閉鎖部材186,186a,186b,186c,186dをプラスチックハンマー等を用いて、それぞれ対応する挿入穴181,187a,187b,187c,187dに叩いて圧入する。挿入穴181,187a,187b,187c,187dに圧入したときの閉鎖部材186,186a,186b,186c,186dは、穴のあけられたネック部189の表面から少しはみ出す程度に圧入し、ネック部189の表面に合わせてカッター等を用いて閉鎖部材186,186a,186b,186c,186dのネック部189の表面からはみ出した部分をカットし、紙ヤスリなどを用いてネック部189の表面にあわせて滑らかに整面して仕上げれば、外観的に大略として目立つ問題もなく挿入穴181,187a,187b,187c,187dを塞ぐことができる。
【0107】
以上、本実施の形態4の説明では、挿入穴181の直径に対する補強部材182の直径はプラス公差を具え、さらに挿入穴181,187a,187b,187c,187dを塞ぐ閉鎖部材186,186a,186b,186c,186dの直径もそれぞれに対応する挿入穴181,187a,187b,187c,187dの直径に対してプラス公差を具え、プラスチックハンマーなどで叩いて圧入することを説明しているが、挿入穴181,187a,187b,187c,187dの直径にそれぞれ対応する補強部材182や閉鎖部材186,186a,186b,186c,186dの直径にそれぞれ公差零、又はマイナス公差を与えて、挿入穴181,187a,187b,187c,187dにそれぞれ挿入後に接着剤を用いて固定してもよい。更に、この方法の別の例として、穴を塞ぐ閉鎖部材の場合は、挿入穴181,187a,187b,187c,187dに閉鎖部材186,186a,186b,186c,186dをそれぞれ挿入後に溶着して閉鎖部材を固定する方法もある。もちろん、接着剤使用による固定や溶着による固定のいずれの場合を採用しても、必要に応じて、紙ヤスリなどを用いて閉鎖部材の挿入部分を整面して外観上の問題がないようにネック部189の表面を滑らかに仕上げることが必要な場合がある。
【0108】
(実施の形態5)
通常、従来の木製ヴァイオリンを製造する場合はネックと共鳴箱部とをニカワ等の接着剤を用いて接合する。本実施の形態5では、本発明の実施の一例として、接着剤を全く使わずにネックと共鳴箱部とを組立てて楽器本体を得る方法を説明する。図8は、積層造形法によって別体に製造したネック部と共鳴箱部とを組立てて楽器本体を得る例を示す説明図である。図8(a)は、別体に製造した本発明の楽器の共鳴箱部800とネック部801との斜視図である。図8(b)は、図8(a)中に示した共鳴箱部800とネック部801との間に形成した組合せ部806を矢視Qの方向に見た場合の詳細図である。図8(c)は、図8(a)中に示した組合せ部806を矢視Pの方向に見た場合の詳細図である。図8(d)は、共鳴箱部800とネック部801とを組立てることを説明する斜視図である。
【0109】
図8(b)が示すように共鳴箱部800の端部には、組合せ部806の一方側を構成する組合せ溝804と、組合せ溝804の両側から外方向(図8(b)の右方向)に突き出す平面視ほぼL字の組合せ凸部805a,805bと、が設けられている。これに対し、図8(c)が示すように、ネック部801の上記組合せ溝804等と対応する部位には、組合せ部806の他方側を構成する組合せ凹部803a,803bが設けられている。組合せ凹部803a,803b各々は、組合せ凸部805a,805b各々をその中に図8(a)の矢印Q方向に圧入することによって簡単に抜けないようになっている。この抜け防止が、ネック部801を共鳴箱部800に固定した状態に保つ。他方、この圧入と逆方向(図8(a)矢印P方向)に力を加えることにより、ネック部801を共鳴箱部800から取り外すこともできる。すなわち、組合せ部806の働きによってネック部801が共鳴箱部800に対して着脱自在となる。組合せ部806に抜け止めのための接着剤等を塗布することを妨げないが、その場合においても、その着脱性に悪影響を与えないようにすることが好ましい。
【0110】
粉末を原材料とし選択的に焼結することで立体構造物を形成する積層造形法を用いた場合、共鳴箱部800に組合せ溝804と組合せ凸部805a,805bを造形時に形成することが可能であり、ネック部801の組合せ凹部803a,803bを造形時に同じく形成することが可能である。
【0111】
図8(d)に示すように、ネック部801と共鳴箱部800とを組立てる際には、頑丈な作業台810上に共鳴箱部800を置き、組合せ凸部805a,805bが組合せ凹部803a,803bにそれぞれ圧入される位置にネック部801を配置し、矢印820の方向にプラスチックハンマーを用いてネック部801の指板を叩いて圧入して組立てるようにするとよい。
【0112】
(実施の形態6)
以上で述べた本発明の実施例は、粉末を原材料としてレーザー焼結で立体構造物を形成する積層造形法を使用した場合を主な例として説明している。しかしながら、上記の積層造形法以外にも複数種類の積層造形法が存在する。これらの積層造形法を使用した場合でも本発明を実施可能である。その一例を以下に示す。
【0113】
積層造形法の1つとして、紫外線等の光を照射することで固化する液体状(粘性が比較的大きい半液体状を含む)の原材料(例えば合成樹脂)を立体構造物の原材料とする方法がある。詳細には、所望の立体構造物の断面形状データに従って、層毎に原材料である液体状原材料を供給し、これとほぼ同時に紫外線等の光を照射することにより液体状原材料を固化するという工程を繰り返すことにより、樹脂層を積層するという方法である。このような方法は、インクジェット(Ink-Jet)方式の堆積法と呼ばれることがある。液体状原材料の供給は、例えば、一般に広く普及しているインクジェットプリンターが有するインク射出ヘッドと大略同様な構造の射出ヘッドを用いて実行できる。このような積層造形法を採用した積層造形装置には、3Dプリンターと称される比較的装置規模の小さいものが存在する。さらに、この方式を採用した積層造形装置の中には、複数種類の液体状原材料を貯蔵するために複数の貯蔵タンク(カートリッジ式貯蔵タンクも含む)を備えるものがある。この積層造形装置は、所望の立体構造物を形成する造形プロセスにおいて、複数の貯蔵タンクからそれぞれ別々に貯蔵する液体状原材料を指定の体積割合で取り出し、これを大略同時に所望の立体構造物の断面形状にしたがって噴射射出することで、巨視的に見た場合に、複数の液体状原材料を大略として混合しながら積層造形する機能を有している。
【0114】
例えば、2個の貯蔵タンクを搭載した積層造形装置において、紫外線などの光を照射することによって固化したときに、相対的に硬度が大きい硬性合成樹脂になる液体状原材料Lと、相対的に硬度が小さい柔軟性合成樹脂になる液体状原材料Lと、を各貯蔵タンクに別々に貯蔵した場合を考える。この積層造形装置によって所望の立体構造物を形成する場合の造形プロセスにおいて、液体状原材料L,Lをそれぞれ単一的に取り出して射出し、紫外線などの光を照射して固化することで立体構造物を積層造形した場合には、それぞれの液体状原材料L,Lに由来する振動特性を含む固有の機械的特性(例えば、弾性定数や密度)を有する立体構造物が形成される。これに対して、液体状原材料L,Lを任意の割合(例えば、必要量を10とした場合、2.5:7.5、5:5、9:1等の割合)で取り出し、ほぼ同時に所望の立体構造物の断面形状にしたがって射出し、紫外線等を照射して固化する工程を層毎に繰り返して立体構造物を作製した場合には、上記した液体状原材料をそれぞれ単一的に取り出す場合とは異なった機械的特性を有する立体構造物が形成される。具体的には、液体状原材料Lと液体状原材料Lとから由来する大略中間的な機械的特性(弾性定数や密度など)を有する立体構造物が得られる。また、液体状原材料Lと液体状原材料Lとの化学的相性によっては、比較的激しい化学反応が発生し、液体状原材料Lと液体状原材料Lとから由来する機械的特性とはまったく別の機械的特性を有する立体構造物が得られる。
【0115】
また、上記した液体状原材料に、主材料(例えば合成樹脂)以外の成分を混入させて使用することにより、結果として形成される立体構造物の材料定数(弾性定数や密度など)をさらに多様化することができる。主材料以外の成分とは、例えば、金属粉末やガラスビーズなどの微小体である。このような方法で弦楽器を作製することにより、本発明の弦楽器の楽器としての性能や演奏時の操作性の調整等のバリエーションをさらに多様化することができる。
【0116】
このような、複数の液体状原材料を用いる積層造形法によって弦楽器を作製する場合においても、前述した実施の形態1又は実施の形態2で説明した原材料の粉末を光照射で焼結する積層造形法において成立する接触接合法を採用した場合と同様な弦楽器を作製することができる。具体的には、例えば、表板部や裏板部のそれぞれ、または、ネック部と共鳴箱部のそれぞれ、または、楽器本体全てを、前述したように、所望領域と隣接領域とに複数分割し、所望領域とこれに隣接する隣接領域との材料定数を段階的若しくは連続的に異ならせて一体に形成することが可能である。その効果については実施の形態1、2で述べたことと大略同様である。尚、この複数の液体状原材料を用いる積層造形法によって本発明の弦楽器を作製する場合において、所望領域、又は隣接領域を形成することにあたり、例えば、液体状原材料を用いる積層造形法を採用した積層造形装置が液体状原材料L,Lを2個の貯蔵タンクにそれぞれ貯蔵している場合、液体状原材料の混合の割合を10:0(必要量を10とした場合)、又は0:10(必要量を10とした場合)として取り出し、所望の立体構造物の断面形状にしたがって射出し、紫外線等を照射して固化造形することにより、所望領域、又は隣接領域を形成することは、本発明の弦楽器の作製における条件変化の範囲、および条件変化制御の範囲に含まれる。
【0117】
また、複数の液体状原材料を用いる積層造形法によって本発明の弦楽器を作製する場合、前述した実施の形態3で説明した粉末内包焼結法による立体構造物と似た立体構造物を作製することができる。但し、粉末内包焼結法は焼結形成した外形輪郭部に密閉された空間内には、焼結の結果として得られる立体構造物と化学的に大略同一の原材料の粉末が内包(充填)されているのに対し、複数の液体状原材料を用いる積層造形法による立体構造物は、密閉空間の全部または一部に所望の立体構造物とは全く材質が違うサポートが内包(充填)された状態で形成される。ここでいうサポートとは、複数の液体状原材料を用いる積層造形法の固化造形プロセスにおいて、安定的に所望の立体構造物を作製するために、例えば+z方向(天頂方向)から-z方向に見下ろした場合に、主として造形プロセス終了時に形成される所望の立体構造物の大略として影になる部分(大略として見えない部分)に、造形プロセス中における所望の立体構造物の形成と大略並行して形成(固化造形)される仮の支持構造物のことである。サポートを形成するための材料(サポート材料)は、液体状原材料L,Lと同様に、紫外線等を照射すると固化する液体状の合成樹脂であることが多い。サポート材料は、液体状原材料L,Lの貯蔵タンクとは更に別に用意された積層造形装置内のサポート材料専用の貯蔵タンク(カートリッジ式貯蔵タンクも含む)に貯蔵されており、この貯蔵されているサポート材料は、造形プロセスにおけるサポート作製のときに適宜取り出されてサポートを形成する原材料となる。このサポート材料を原材料として形成されたサポートは、水溶性またはアルカリ性液可溶性の材質のものが好ましい。通常は、このサポートは、造形プロセス終了後に所望の立体構造物から除去されることが多い。サポートの除去については、水やアルカリ性液(サポート除去能力のあるアルカリ性溶解液)等による洗浄、ウォータージェットによる吹き飛ばし除去、あるいは針金状の工具などでのかき出し、擦り落とし等により行うことができる。サポートを構成する材質は、所望の立体構造物と機械的性質が異なることが多いので、所望の立体構造物の大略密閉された空間部にサポートが充填されている場合は、密閉空間がない外観上同一形状の同装置による立体構造物の場合と比べて、明らかに機械的性質(振動特性や重量なども含む)が異なることが多い。例えば、ネック部や共鳴箱部にこのような密閉空間部(サポート充填有り)を設けることによって、結果として本発明の弦楽器の楽器としての性能(音量と音質と音響)を調節することが可能である。もちろん、外形輪郭部の内部(密閉空間の内部、空間部)にサポートが残っている個所の外形輪郭部の一部分に穴をあけてサポートを除去すれば、本発明の弦楽器をさらに軽量化することも可能である。効果については実施の形態3で述べたことと大略同様である。
【0118】
さらに、複数の液体状原材料を用いる積層造形法は、前述した実施の形態4(図7参照)で説明した空間部184,185、及び挿入穴181,187a,187b,187c,187dを有する立体構造物としてのネック部189を作製することが可能である。但し、造形プロセス終了直後のネック部189は、空間部184,185、及び挿入穴181,187a,187b,187c,187dなどの全部または一部にサポート(この場合粉末材料ではない)が充填された状態となっていることが多いので、これを前述の方法(水洗など)で除去する必要がある。当然、実施の形態4で述べたことと同様に、必要であれば補強部材182の挿入による指板180の補強や、閉鎖部材186,186a,186b,186c,186dによる挿入穴181,187a,187b,187c,187dの閉鎖を行っても良い。効果については実施の形態4で述べたことと大略同様である。
【0119】
さらに、複数の液体状原材料を用いる積層造形法は、前述した実施の形態5(図8参照)で説明した組合せ部806を有するネック部801と共鳴箱部800とを作製することが可能であり、組立てについても同様に、一切の接着材を使わずにネック部と共鳴箱部とを組立てて弦楽器の楽器本体を得ることができる。効果については実施の形態5で述べたことと大略同様である。
【0120】
複数の液体状原材料を用いる積層造形法によって作製される立体構造物もまた積層構造を有しており、これに由来する異方性を有している。詳述すると複数の液体状原材料を用いる積層造形法によって作製される立体構造物は、図2を用いて前述した原材料の粉末を光照射で焼結する積層造形法によって作製される立体構造物と同様に、z方向を積層方向としたxyz軸座標系に従った異方性を示す。原材料の粉末を光照射で焼結する積層造形法を例として前述したのと同様に、複数の液体状原材料を用いる積層造形法によって作製される立体構造物は、造形方向(角度φ,θ,ω)を変更することによって振動特性(たとえば、固有共振周波数、振動モード、振幅)を含む機械的特性を変化させることは可能である。すなわち、所望の立体構造物は、造形方向(角度φ,θ,ω)を変更することによって、x´y´z´軸座標系に適用される。したがって、この複数の液体状原材料を用いる積層造形法を本発明の弦楽器の作製に用いる場合には、後述の弦楽器の設計方法で述べる設計方法を適用可能である。また、複数の液体状原材料を用いる積層造形法による立体構造物の作製は、後述の弦楽器の設計方法による副次的効果にも適用可能である。
【0121】
また、図3を用いて前述した本発明の弦楽器を単数個または複数個の構成部位別に個々に製造する概念を、例えば、複数の液体状原材料を用いる積層造形法と、粉末を原材料としてレーザー等の光の照射により選択的に焼結することにより立体構造物を形成する積層造形法とを併用して適用すると、以下のように本発明の弦楽器の設計範囲(調整範囲)が拡大する。即ち、図3を用いて説明すると、例えば、半共鳴箱100は、粉末を原材料としてレーザー等の光の照射により選択的に焼結することにより立体構造物を形成する積層造形法で製造し、残りのパフリングを一体に具えた表板部101とバスバー102とサドル103とネック104(スクロールと糸箱とを一体に具える)と指板105とナット106は、複数の液体状原材料を用いる積層造形法によって製造し、接着や溶着や圧入によるはめこみ等により本発明の弦楽器の楽器本体を組立てることができる。これにより、本発明の弦楽器の設計範囲(調整範囲)が拡大する。もちろん、これらの構成各部位は、それぞれ所望領域と隣接領域とに複数分割し、それぞれの積層造形法に従って、所望領域とこれに隣接する隣接領域の材料定数(弾性定数や密度)を段階的若しくは連続的に異ならせて一体に形成する方法が適用されてもよい。その結果として、単一の積層造形法を適用して作製される場合に比べて、本発明の弦楽器の設計(調整)の自由度がより大きくなる。詳細には、楽器としての性能(音量と音質と音響)の調整範囲が拡大するのに加えて、演奏時の操作性も細かく調整することが可能である。すなわち、複数種類が存在する積層造形法は、それぞれが採用する特徴的な原理(工法)や、それぞれに適用される立体構造物の原材料の違いや、積層造形装置の仕様(規模を含む)等により、造形の結果として得られる立体構造物の材料定数(弾性定数や密度など)の調整範囲(造形方向も調整パラメータのひとつ)や、耐摩耗性や、経年変化特性や、表面の手触り等に差異がある場合が多い。従って、それぞれの特徴を有する複数種類の積層造形法を適宜に組み合わせて本発明の弦楽器を作製することにより、それぞれの積層造形法の長所の相乗効果(あるいはそれぞれの積層造形法の短所を補完する効果)が得られるので、使用者の理想により近い弦楽器を作製することができる。
【0122】
以上に説明したような積層造形法を用いて弦楽器を作製することのメリットのひとつとしては、長期間(数十年以上)に亘り、かつ半ば自然に委ねて育成された木から得られる木材を多用して弦楽器を作製する従来の方法と違って、楽器としての性能(音量と音質と音響)を調整することを意図して、例えば、楽器本体の全体または部分毎に材料定数(弾性定数や密度など)を意図的に調整し、一体に、または別体に形成することが可能となることが挙げられる。また、積層造形法を用いて弦楽器を作製することのメリットのひとつとしては、使用される積層造形装置や製造工程などを適切に管理することにより、大略として木材よりは材料定数の再現性が確保されるので、製品としての品質の管理がしやすいことも挙げられる。即ち、安定的に多数の弦楽器を使用者に提供できるということである。例えば、大人が使用する標準サイズ(4/4サイズ)のヴァイオリンのみならず、成長過程にある子供が使用する分数ヴァイオリン(1/16,1/8,1/4,1/2等の小型サイズのヴァイオリン)の楽器本体の複数個、または組立てると楽器本体となる各構成部位一式の複数セットを、積層造形プロセスの同一バッチ内で作製することは、使用する積層造形装置の規模によっては可能である。もちろん、積層造形法による弦楽器の作製は、例えば、特定個人の要求を満たす単品生産(特注品生産)においても、従来の木製弦楽器を最初から作製するよりも素早く対応することが可能である場合が多く、それもまたメリットのひとつである。
【0123】
(弦楽器の設計方法)
本発明では、FEM(有限要素法)とFMBEM(高速多重極境界要素法)を含むBEM(境界要素法)とを実行する解析用コンピュータソフトウェアを搭載したコンピュータシミュレーションシステムを利用することによって、積層造形法を用いて製造されるヴァイオリン属を含めた弦楽器を効果的、且つ効率的に設計を行うことができる。
【0124】
図9は、3次元CAD等を用いて作成したヴァイオリンの立体構造物のデータを利用(インポート)して本発明の弦楽器の有限要素法による静的構造解析を実施した結果を示すグレースケール(明度の異なる灰色を、白から黒まで数段階に塗り分けたもの)である。尚、図9,10,11で示す弦楽器(ヴァイオリン)のシミュレーションモデルでは、説明を容易にするために、ヴァイオリンを構成する全部品のうち、図示されていない指板の補強用の棒(2本)を含めた楽器本体と駒と図示されていない魂柱以外のテールピース、アジャスター,4本の弦,4個の糸巻き,エンドピン,顎当て,肩当て等が省略されている。
【0125】
図9は、実際に本件製造装置であるEOSINT P385を使用して楽器本体を製造することを前提とし有限要素法による静的構造解析を実施した結果得られるx´y´z´合成変位の分布(USUM)を視覚的に明度分けで図示している。図面下方のスケール右端の短冊が最も変位の大きい部分を示し、そこから左に向かって順にその大きさが順次小さくなり、左端の短冊が最も変位の小さい部分を示す。ヴァイオリン属を含めた弦楽器は、弦を張ったり緩めたりすることによって、チューニング(調弦)を行う。このとき、弦楽器の弦には張力が発生するので、当然、それを受ける弦楽器本体の各部にも変形、歪み、応力が発生する。弦を張ることによって発生する弦楽器の変形は、特に楽器の操作性に多大な悪影響を及ぼす場合がある。
【0126】
ヴァイオリンの場合、非特許文献2によれば、4本の弦の張力の合計は、68ポンド(1ポンドは、約0.454kg)であり、駒には合計26ポンドの荷重がかかるとされている。もちろん、弦のメーカーや材質や種類によってもこれらの荷重の値は変わる。ヴァイオリン属の場合、4本の弦を張ったときに発生する弦の張力と駒にかかる荷重とを大略楽器全体で受けとめ、大略y´方向に折れ曲がるような(図9において上弦の弓のように)変形をする。この変形が大きいと、楽器の操作性に多大な悪影響を及ぼす場合がある。即ち、ヴァイオリン属の場合、4本の弦を張ったことによってネック部が大きく曲がると、その結果として弦と指板との距離が大きくなり、演奏時に弦を左手の指で押さえることが困難となり、結果として良い音程で楽曲を演奏することが困難になる。本発明の楽器を設計する際に、特に実施の形態4で説明した軽量化のためにネック部を空洞化することを実施するにあたり、有限要素法による静的構造解析を利用することは、非常に有用である。
【0127】
この図9は、本発明の弦楽器の楽器本体の弦を張ったときの状態を有限要素法による静的構造解析を用いて解析した結果を示している。この解析を行うにあたり、3次元CAD等で作成した立体構造物のデータを、まずプリプロセスソフトウェアを用いて有限要素法に適用できるようにメッシングし、その結果得られるメッシュ要素モデルのデータを有限要素法ソフトウェアで読み込む。次に、有限要素法ソフトウェアで読み込んだメッシュ要素モデルに、楽器の各部位と楽器の各部分毎とにそれぞれ材料定数(弾性スチフネス定数)を定義する。当然、前述したように、積層造形法で製造する立体構造物は、異方性を有するため、特に角度φ,θ,ωを考慮して立体構造物を製造したい場合には、弾性スチフネス定数を角度φ,θ,ωに従ってテンソル変換(前掲した数式(2)~(5)等を利用して変換)し、この変換後のx´y´z´軸座標系に適応させた弾性スチフネス定数[c´pq]を楽器の各部位と楽器の各部分毎とに定義すると、角度φ,θ,ωの違いによる解析結果の差異を相対的に比較するときに便利である。指板などに補強部材等を挿入して補強することを採用した場合も同様に、補強部材に対して材料定数の設定をする必要がある。なお、有限要素法ソフトウェアとしてANSYS(商標)を用いる場合は、弾性スチフネス定数の代わりに弾性コンプライアンス定数を用いてもよい。等方性材料の場合は、ヤング率とポアソン比とを定義する必要がある。直交異方性材料の場合は、xyz方向別のヤング率とポアソン比と横弾性係数とを定義する必要がある。
【0128】
次に楽器本体に弦を張った場合を想定し、荷重条件と固定条件(機械的な拘束条件)を設定する。この固定条件であるが、ヴァイオリンの場合、演奏時には顎当てと肩当てとを介し、顎と肩とで挟むことで楽器を保持して構えるので、図9,10を用いて説明する全ての解析(静的構造解析とモーダル解析と周波数応答解析)においては、顎当ての固定部分と肩当ての取り付け箇所とを固定(機械的に拘束)し、解析を実施している。
【0129】
図9に示すグレースケールは、理解しやすくするために意図的に実際の変位に数倍の倍率をかけた誇張表示をしている。図9では、荷重前の外形輪郭部線900に対して、弦を張った状態(荷重がかかった状態)では、楽器本体が全体的に変形し、特にネック部が大きく曲がっている様子がわかる。実際の解析値では、スクロールのz´方向先端部(点)902のy´方向への変位は、数mm程度である。このように、有限要素法による静的構造解析を用いて本発明の弦楽器を解析することによって、実際に製造する前に、弦楽器に弦を張った場合の楽器本体の各部の変位量を得ることが可能である。前述した、軽量化を目的として空洞化することによって発生するネック部の曲がり901も包括的に解析することができる。このネック部の空洞化を前提とした設計案としては、第1に、3次元CAD等によって作成されるネック部の立体構造物のデータに内包された空間部にリブを追加して補強する(ネック部の断面形状を変える)ことがあげられる。第2に、弦を張ることでネック部が曲がることを考慮して、予め3次元CAD上での立体構造物のデータの作成作業において、ネック部のスクロールが-y´方向になるようにネック部の立体構造物のデータを曲げた状態で作成しておき、弦を張ったときに、ネック部が大略真っ直ぐになるようにしておくことがあげられる。第3に、実施の形態4で示したように、ネックにも補強部材を挿入することで補強することがあげられる。もちろんこれら第1の案と第2の案と第3の案等を採用して作成したネック部の立体構造物のデータは、前述した手順で有限要素法による静的構造解析を繰り返した設計を経ることによって、本発明の弦楽器に最適な立体構造物のデータとなる。
【0130】
有限要素法による静的構造解析によって得られる数値データは、変位だけではなく、応力や歪みの値をメッシュ節点毎に得ることができる。有限要素法による静的構造解析を用いて、弦を張ったときに弦楽器の各部に発生するメッシュ節点毎の応力の分布データは、後述の有限要素法によるモーダル解析と有限要素法による周波数応答解析とを実施する際に、初期応力の分布データとして使用される。即ち、有限要素法を用いれば、弦を張った状態(荷重がかかった状態)の本発明の弦楽器の振動特性を解析することが可能である。
【0131】
尚、有限要素法によるモーダル解析と有限要素法による周波数応答解析とを実施する際には、材料の密度を定義する必要がある。有限要素法ソフトウェアにインポートしたメッシュ要素モデルの楽器の各部位毎、又は楽器の各部分毎にそれぞれ適用される材料の密度を定義する。
【0132】
特に図示はしていないが、有限要素法を用いれば本発明の弦楽器の静的構造解析によって得られる初期応力の分布を考慮(内包)した状態で、引続き有限要素法によるモーダル解析を行い、共振周波数(固有振動数)を得ることが可能である。通常、モーダル解析による共振周波数とそのときの振動モードの姿態を把握することは、本発明の弦楽器を含めたあらゆる振動体を有限要素法で解析する際に当然のこととして行われることである。
【0133】
図10は、本発明の弦楽器の初期応力分布を考慮(内包)した状態で引続き周波数応答解析を実施し、楽器本体と駒と魂柱(図示されていない)との振動変位の分布の結果を示すグレースケールである。図9を用いて前述した本発明の弦楽器の有限要素法による静的構造解析を実施した後に、その結果として得られる初期応力の分布を考慮(内包)した状態で、さらに実際の演奏を想定し弦を弓で擦ることによって駒のy´方向の端部に振動エネルギーが発生するとして、有限要素法による周波数応答解析(660Hz,大略E線開放演奏時を想定)を実施し、得られた楽器本体と駒と魂柱(図示されていない)とのx´y´z´合成変位の分布を視覚的に色分けで示しているのが図10のグレースケールである。この図10に示すように、有限要素法による周波数応答解析を利用すれば、例えば本発明の弦楽器はどの程度表板部が振動するか等が設計時に視覚的に判る。有限要素法による周波数応答解析は、本発明の弦楽器の設計の是非(OK or NG)の判断や、設計方針を決定する場合に役に立つ。即ち、このような有限要素法による周波数応答解析は、大略として実際の演奏を想定した場合の楽器本体の各部の変位、応力、歪みの分布を数値的に得ることが可能なので、本発明の弦楽器の詳細な設計をするのに非常に便利、且つ有用である。
【0134】
図11は、図10を用いて前述した有限要素法による周波数応答解析を実施した後に結果として得られる楽器本体と駒と魂柱(図示されていない)とのメッシュ節点毎の変位の分布と境界要素とをインポートし、高速多重極境界要素法(FMBEM)による音響解析を実施した結果を示すグレースケールである。
【0135】
高速多重極境界要素法を含めた境界要素法を内包した解析用ソフトウェアを用いれば、有限要素法による周波数応答解析を用いて得た本発明の弦楽器のメッシュ節点毎の各部の変位(又は速度、又は加速度)の分布を利用して音響解析を実施することが可能である。大規模音響解析を実施できる高速多重極境界要素法ソルバーを内包した音響解析用の境界要素法ソフトウェアを用いて音響解析を実施すると、図11に示すように、例えば球状面に設定した観測点群での音圧レベル(dB値)の分布がグレースケールとして表示され、本発明の弦楽器の音量に関する性能を解析・評価をすることが可能であり、当然、数値データを取得することも可能である。音響解析用の境界要素法ソフトウェアを用いれば、例えば本発明の弦楽器の楽器本体を、同じ立体構造モデルデータから製造するとしても、角度φ,θ,ωの違いによる相対的な楽器としての性能差を比較解析することが可能であり、また、単数種と複数種とのレーザー照射条件を用いて製造された場合の、音量に関する相対的な性能差を解析することも可能である。当然、音響解析用の境界要素法ソフトウェアを用いれば、立体構造モデルデータの各部寸法値を変えた場合や新たな立体構造物を追加した場合など、様々な態様をとった場合の本発明の弦楽器の音響解析を行うことが可能であり、本発明の弦楽器の詳細な設計をするのに非常に便利、且つ有用である。例えば、音響解析用の境界要素法ソフトウェアとしてWAON(商標)を用いた場合には、本発明の弦楽器の発する音に関する音圧と音響インテンシティと音響粒子速度とを解析することが可能である。
【0136】
以下に、図9,10,11を用いて説明した本発明の弦楽器の設計に有用なソフトウェアを利用して構築可能な本発明の弦楽器の設計システムと製造システムとを含むフローを説明する。
【0137】
図12は、本発明の弦楽器を含む積層造形法を用いて製造される弦楽器の設計システムと製造システムとの基本を示す説明図である。本発明では、図12に示す設計システムと製造システムとに分けたフローチャートに従って積層造形法を用いて製造される弦楽器の設計と製造とを行う。これにより安定的、且つ効率的に、データの蓄積を含む研究と設計と製造とを行い、その結果として使用者等が所望する良質な弦楽器を提供する体制を確立できる。
【0138】
図12で示した本発明の設計システムに組み込まれるソフトウェアの例を、表2に示す。表2に示すソフトウェアは、例えばオペレーションシステムがMicrosoft Windows(登録商標) XPである1台のパーソナルコンピュータ内において全て作動するので、本発明の弦楽器の設計システムは、集約化することが可能である。
【0139】
【表2】
JP0005632597B2_000008t.gif

【0140】
尚、これらの表2に示した複数のソフトウェアは、本発明の弦楽器の設計システム内において普遍的なものではない。即ち、本発明の弦楽器の設計システムは、ソフトウェアのバージョンアップや新規ソフトウェアの導入やそれに伴う入換えと併用、さらにシステム自体の改良等により、効率的な設計システムに更新され続けるのは当然である。
【0141】
同様に、製造システムに関しても、新しい製造手法と加工方法と装置の導入と、それに伴う入換え、併用、改良などによって、より効果的、且つより効率的な製造システムに更新され続けるのは当然である。
【0142】
(弦楽器の設計方法による副次的効果)
前述したように、積層造形法を使用すれば、大略同一の立体構造物が得ることが出来るので、積層造形装置に入力する立体構造物のデータと製造条件とをデータ保存用の磁気ディスクや光ディスク等の記録媒体や、フラッシュメモリーやハードディスク等の記録装置に記録保存しておけば、例えば、使用者等による不慮の落下衝撃事故等によって本発明の弦楽器を修理不能な故障をさせてしまった場合には、記録保存した立体構造物のデータと製造条件とを用いて積層造形法で新たに本発明の弦楽器を製造すれば、故障させる前の本発明の弦楽器と大略同一の新たな本発明の弦楽器を得ることが可能である。
【0143】
更に付け加えると、本発明の弦楽器の原材料を、例えば、ガラスビーズや金属粉末を混合した合成樹脂粉末や金属等の熱可塑性の材料の粉末から選択することは、造形した立体構造物の材料定数(弾性定数と密度など)が多様化することになるので、更に本発明の弦楽器の楽器としての性能の調整のバリエーションが多様化するのは当然である。
【0144】
これまでに説明した本発明は、弦楽器であるヴァイオリン属に関するものであるが、このヴァイオリン属と類似の形状と楽器としての機能とを具える弦楽器(リュート属に属する弦楽器のこと。例えば、リュートやギターやマンドリンやウクレレやバンジョーや馬頭琴や三味線や蛇味線や胡弓やニ胡や琵琶やバラライカやアルペジョーネやヴィオラ・ダ・ブラッチョやヴィオラ・ダモーレやヴィオラ・ダ・ガンバやシタールやヴィーナやラバーブやサーランギやウード等。ヴァイオリン属はリュート属に属する。)を同様に積層造形法を用いて製造することは可能である。
【0145】
ヴァイオリンは、16世紀に発明されたと言われている。その後、有名な製造者であるアントニオ・ストラディバリやグァルネリ・デル・ジェスが生きた時代に現在の形状に完成され、この時代に彼らのような有名製造者が製造した木製ヴァイオリン属の幾つかは、最高のメンテナンスを受けながら名器として現代に受け継がれている。また、これらの名器は、現代の楽器製造者にとって手本とされている。これらヴァイオリン属は、文化として既に人類社会に定着して数百年の歴史を重ねてきている。しかしながら、前述の数百年の歴史を重ねた名器らは、個体数の少なさからも非常に貴重かつ高価であるが、現在も老朽化が進行中であり、楽器としての寿命が近いかもしれないとも言われている。
【0146】
現在では、これらの名器が楽器としての寿命を迎える前に、CTスキャナーや3次元デジタイザー等の非接触式の形状測定装置(非破壊検査装置)を使用して詳細な形状データを採取し、これからの楽器作りに役立つ資料として残すことが出来る。
【0147】
本発明の弦楽器を積層造形法で製造する場合には、立体構造物のSTLデータが必要である。このSTLデータを作成する方法として、3次元CADや3次元モデリングシステム等を利用するのが一般的であるが、その他、前述のCTスキャナーや3次元デジタイザー等の非接触式の形状測定装置を利用して得られた形状データを基にしてSTLデータを作成することが可能である。
【0148】
積層造形法の有用な使用方法の一つとしては、前述の非接触式の形状測定装置でヴァイオリン属の名器の形状データを採取し、この形状データからSTLデータを作成し、さらにこのSTLデータを利用して積層造形法による精巧な形状複製品を作ることができることである。
【0149】
但し、従来の木製ヴァイオリン属を作る場合に使用される木材と、例えば本発明で適用し得る粉末を原材料とし選択的に焼結することで立体構造物を形成する積層造形法による立体構造物とは、材料定数(弾性定数や密度等)が異なる場合が多いので、名器の外形形状をこの積層造形法を用いて大略完全に再現しても、楽器としての性能(音量と音質と音響)と操作性とを完全に再現できるわけではない。しかしながら、非接触式の形状測定装置によって得られた名器の形状データをベースにして研究を重ね、本発明で示す製造方法を含む様々な設計事項を重合的に用いて設計を実施すれば、本発明の弦楽器を含めた積層造形法によって製造される弦楽器の楽器としての性能を、名器が有する楽器としての性能に近づけていくことは可能である。
【0150】
また、貴重な名器の形状複製品の全体モデルや一部分モデルやカットモデルを、現代の楽器製造者のために積層造形法を用いて多数用意し、これらのモデルを新作の木製ヴァイオリン属を製造するときの参考資料として提供することにより、良質な木製ヴァイオリン属の製造の支援を行うことができる。
【0151】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は既述の実施の形態に何ら限定されず、特許請求の範囲に記載した本発明の技術的思想の範囲内において、種々の変形及び変更及び組合せが可能であることは当然である。例えば、上記した実施の形態においては、所望領域と隣接領域との材料定数を変えて所望の立体構造物を一体に形成する具体的手法として、粉末の原材料をレーザー焼結によって固化させることにより立体構造物を形成する積層造形法と、液体状の原材料を光照射によって固化することにより立体構造物を形成する積層造形法と、それらを組み合わせて立体構造物を形成する造形法と、を例示していたが、本発明に係る具体的手法はこれらにのみ限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0152】
【図1】レーザーの照射条件を変更することにより形成される複数の立体構造物を一体に形成することを説明するための説明図である。
【図2】本発明における立体構造物の造形方向の定義を説明するための説明図である。
【図3】図2で示した本発明の弦楽器の楽器本体から、数個の構成部位を別に製造する場合の概念図である。
【図4】複数のレーザー照射条件を用いた接触接合法によるヴァイオリンの共鳴箱部を製造する例を示す説明図である。
【図5】複数のレーザー照射条件を用いてヴァイオリンの表板部を製造する例を示す説明図である。
【図6】積層造形法を用いることで製造可能な、外形輪郭部を固体化し、その内部の(密閉)空間部153aの中には原材料の粉末がそのまま残っている立体構造物の概念図である。
【図7】本件製造方法の一部をなすネック部の製造方法の一例を示す説明図である。
【図8】積層造形法によって別体に製造したネック部と共鳴箱部とを組立てて楽器本体を得る例を示す説明図である。
【図9】3次元CAD等を用いて作成したヴァイオリンの立体構造物のデータを利用(インポート)して本発明の弦楽器の有限要素法による静的構造解析を実施した結果を示すグレースケール(明度の異なる灰色を、白から黒まで数段階に塗り分けたもの)である。
【図10】本発明の弦楽器の初期応力分布を考慮(内包)した状態で引続き周波数応答解析を実施し、楽器本体と駒と魂柱(図示されていない)との振動変位の分布の結果を示すグレースケールである。
【図11】図10を用いて前述した有限要素法による周波数応答解析を実施した後に結果として得られる楽器本体と駒と魂柱(図示されていない)とのメッシュ節点毎の変位の分布と境界要素とをインポートし、高速多重極境界要素法(FMBEM)による音響解析を実施した結果を示すグレースケールである。
【図12】本発明の弦楽器を含む積層造形法を用いて製造される弦楽器の設計システムと製造システムとの基本を示す説明図である。
【図13】本発明の弦楽器の一例としてのヴァイオリンの構造図である。
【符号の説明】
【0153】
1 ヴァイオリン
2 共鳴箱部
3 ネック部
4 楽器本体
5 顎当て
6 テールピース
7 テールガット
8 エンドピン
9 アジャスター
10 駒
11a,11b,11c,11d 弦
12a,12b,12c,12d 糸巻き
13 魂柱
14,15 f字孔
16 表板部
17 裏板部
18a,18b,18c,18d,18e,18f 横板部
19a,19b,19c,19d,19e,19f ブロック
20 サドル
21 バスバー
22a,22b,22c,22d,22e,22f パフリング
23a,23b,23c,23d,23e,23f ライニング
50 ネック
51 指板
52 ナット
53 スクロール
54 糸箱
70,71,72 方向を定義する矢印
80a,80b 立方体ブロック
81,82 直方体ブロック
83 2つのレーザー照射条件A,Bで重複して製造された部分
100 半共鳴箱
101 表板部
102 バスバー
103 サドル
104 ネック
105 指板
106 ナット
107,108 嵌め合い面
110,111 溝
150 直方体立体構造物
151 角部
152 外形輪郭部
153 粉末
153a 空間部
180 指板
181,187a,187b,187c,187d 挿入穴(排出孔)
182 補強部材
184,185 空間部
186,186a,186b,186c,186d 閉鎖部材
188a,820 矢印
189 ネック部
190a,190b 材料粉末
200 楽器本体
401 共鳴箱部
402a 部位群
402b 表板部
511,521 表板部
511a,511b,521a,521b,521c 様々なレーザー照射条件で製造する部分
800 共鳴箱部
801 ネック部
803a,803b 凹部
804 組合せ溝
805a,805b 凸部
806 組合せ部
810 作業台
900 外形輪郭部線
901 ネックの曲がり
902 スクロールのz′方向先端部(点)
L-L′,M-M′ 断面(断面指示記号)
o 原点
P,Q 矢視(矢印)
x,y,z 軸(方向)
x′,y′,z′ 軸(方向)
,L 液体状原材料
N-N′ 断面(断面指示記号)
φ,θ,ω 角度(回転配置角度)
11,c12,c13,c33,c44,c66 弾性スチフネス定数
c´pq テンソル変換後の弾性スチフネス定数(p,q=1,2,3,4,5,6)
,l,l,m,m,m,n,n,n 行列表示の方向余弦の成分
[L],[L] 行列
図面
【図1】
0
【図3】
1
【図4】
2
【図5】
3
【図6】
4
【図7】
5
【図12】
6
【図13】
7
【図2】
8
【図8】
9
【図9】
10
【図10】
11
【図11】
12