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明細書 :補修材料及び補修方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-172235 (P2018-172235A)
公開日 平成30年11月8日(2018.11.8)
発明の名称または考案の名称 補修材料及び補修方法
国際特許分類 C04B  41/62        (2006.01)
E04G  23/02        (2006.01)
FI C04B 41/62
E04G 23/02 B
請求項の数または発明の数 5
出願形態 OL
全頁数 12
出願番号 特願2017-071416 (P2017-071416)
出願日 平成29年3月31日(2017.3.31)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用申請有り 出版者名:セメント・コンクリート研究会、刊行物名:第43回セメント・コンクリート研究討論会論文報告集、発行年月日:平成28年10月28日
発明者または考案者 【氏名】河合 慶有
【氏名】西田 孝弘
【氏名】齋藤 淳
出願人 【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
個別代理人の代理人 【識別番号】100100354、【弁理士】、【氏名又は名称】江藤 聡明
審査請求 未請求
テーマコード 2E176
4G028
Fターム 2E176AA01
2E176BB14
4G028CA02
4G028CB02
4G028CB04
4G028CB08
4G028CC01
4G028CD02
要約 【課題】セメント系構造物を迅速かつ簡易な方法で補修可能な補修材料及び補修方法を提供する。
【解決手段】本発明はセメント系構造物の補修に用いられる補修材料であって、この補修材料は嫌気性微生物と、水溶性ポリマーとを含む。水溶性ポリマーは官能基を有し、この官能基がセメント系構造物由来のカルシウムで架橋され、水溶性ポリマーがゲル化する。他方、嫌気性微生物は嫌気代謝により補修材料中であっても二酸化炭素を発生させ、この二酸化炭素がカルシウムイオンと反応して炭酸カルシウムが析出する。従って、補修材料のゲル膜はその内部に炭酸カルシウムが析出して緻密で機械的強度が高い膜となる。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
セメント系構造物の補修材料であって、
嫌気性微生物と、
カルシウムイオンと架橋する官能基を有する水溶性ポリマーと、
を含有することを特徴とする補修材料。
【請求項2】
前記嫌気性微生物は酵母を含む請求項1に記載の補修材料。
【請求項3】
前記水溶性ポリマーは、アルギン酸、アルギン酸エステル、ペクチン、ジェランガム、ポリ(メタ)アクリル酸、カルボキシメチルセルロース、カラギーナン及びこれらの塩からなる群より選択される1種以上のポリマーからなる請求項1記載の補修材料。
【請求項4】
カルシウム化合物の含有量が5質量%未満である請求項1又は請求項2に記載の補修材料。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項記載の補修材料を用いて、セメント系構造物を補修する補修方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートやモルタルなどのセメント系構造物の補修に用いる補修材料と、それを用いた補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートやモルタル等のセメントの硬化物は建築構造物などに広く使用されている。このようなセメント系の構造物は、経年劣化によりひび割れなどの劣化が起こり、補修が必要となることがある。
【0003】
補修材料としては、アルギン酸、アルギン酸プロピレングリコールエステル又はこれらの塩を含むものが公知である(特許文献1)。この補修材料は幅0.2mm以下の微細ひび割れにも浸透して硬化するという利点はあるものの、硬化速度が遅い上、幅広のひび割れに対しては補修効果が低い欠点があった。しかも、この補修材料は、特に繊維を混入した構造物に適したものであって(請求項1)、その用途は限られている。
【0004】
特許文献2は、少なくともケイ酸ナトリウムを含む第1の液体と、細菌材料、カルシウム源、栄養源などを含む第2の液体とを反応させてゲル化する方法を開示している。しかし、この方法では、カルシウム源とケイ酸ナトリウムとの反応を防ぐため2液とする必要があり、取り扱いが煩雑である上、第1の液体と第2の液体の混合開始直後に上記のような反応が進行するため、補修材料がひび割れ深部に浸透する前にゲル化が起こり、深部が十分な補修されない問題もある。
【0005】
また、非特許文献1には、微生物の活動によりセメント系構造物に含まれるカルシウムイオンを析出させ、ひび割れを補修する方法が開示されている。この方法では比較的ひび割れ深部にまで補修材料が到達しやすいという利点はあるものの、補修に時間が要するという問題があった。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特許第5009233号公報
【特許文献2】特開2016-525879号公報
【0007】

【非特許文献1】久保郁貴、他3名、「微生物を利用した補修工法における多析出可能な配合の検討」、コンクリート工学年次論文集、公益社団法人日本コンクリート工学会、平成26年、Vol.36、No.1、p.1948-1953
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、セメント系構造物を迅速かつ簡易な方法で補修可能な補修材料及び補修方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
特許文献2は、プラノコッカス等の通性好気性細菌を好適としており、これら細菌も炭酸カルシウムの析出に寄与すると考えられるが、通性好気性細菌は好気代謝が優勢であるため、セメント系構造物が地上構造物であっても炭酸カルシウムを析出する速度が数週間と極めて遅い問題がある(特許文献2の請求項10、段落0028、0075等)。
【0010】
これに対し、本発明者等は嫌気性微生物の嫌気代謝に着目した。例えば、栄養源または栄養源の代謝生成物がグルコースである場合、酸素不存在下で下記式(1)によりエタノールと二酸化炭素が発生する。
【0011】
12 → 2COH + 2CO … 式(1)
【0012】
式(1)で発生した二酸化炭素が水と反応すると、下記式(2)のように炭酸イオンが発生する。
【0013】
CO + HO → CO2- + 2H … 式(2)
【0014】
セメント系構造物からは水酸化カルシウム(Ca(OH))由来のカルシウムイオンが遊離するが、このカルシウムイオンは式(2)で生じた炭酸イオンと反応し、下記式(3)のように炭酸カルシウムが析出する。
【0015】
Ca2+ + CO2- → CaCO … 式(3)
【0016】
ところで、水溶性ポリマーかカルボキシル基などの反応基を有する場合、多価陽イオンであるカルシウムイオンが存在すると、下記式(4)のような架橋が生じ、水溶性ポリマーの親水性が急激に低下してゲル化が起こる。
【0017】
2R-COO- + Ca2+ + RCOO-Ca-OOCR … 式(4)
【0018】
本発明者等は、嫌気代謝による反応(1)~(3)と、ゲル化反応(4)との相乗効果に着目して本発明を完成するに至った。
【0019】
従って、本発明は下記の構成を有する。
【0020】
(1)カルシウムイオンと架橋可能な官能基を有する水溶性ポリマーと、嫌気性微生物の両方をセメント系構造物の補修材料に含有させる。この補修材料をカルシウムイオンが存在する塗布対象、すなわち、セメント系構造物に供給すると、水溶性ポリマーがカルシウムイオンによりゲル化する。また、ゲル化前の補修材料(液状)とゲル化後の補修材料は、大気が侵入し難い嫌気環境となるので、嫌気性微生物が栄養源を嫌気代謝して最終的に炭酸カルシウムを析出させる。従って、水溶性ポリマーのゲル化と、炭酸カルシウムの析出の両方が発生し、より機械的強度が高いゲル膜が形成されることになる。
(2)嫌気性微生物として酵母のような胞子形成微生物を用いれば、補修材料の保存性が向上する。
(3)水溶性ポリマーはCaイオンのような陽イオンと反応して架橋する官能基(カルボキシル基、硫酸基など)を有するものであれば特に限定されないが、例えば、アルギン酸、アルギン酸エステル、ペクチン、ジェランガム、ポリ(メタ)アクリル酸、カルボキシメチルセルロース、カラギーナン及びこれらの塩からなる群より1種以上を選択することができる。
(4)補修材料中のカルシウム化合物の含有量を5質量%未満にすれば、使用前の補修材料のゲル化が防止されるので、一液化など取扱いが容易な上、微細なひび割れの深部にまで補修材料を供給することができる。
【0021】
本発明は補修材料に限定されず、下記の方法をも提供する。
【0022】
(5)上記いずれかの補修材料を用いてセメント系構造物の欠陥(表面、内部、ひび割れ)を補修することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の補修材料は補修箇所に供給開始直後は粘度が低いので、微細なひび割れであってもその深部にまで到達し、補修可能となる。補修箇所への供給後は硬化速度が速い上、硬化後のゲル膜は緻密で機械的強度が高いので、幅広のひび割れであっても強固に補修可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1(a)は実施例1の補修材料を用いた補修箇所の透水試験前の光学顕微鏡写真であり、図1(b)は実施例1の補修材料を用いた補修箇所の透水試験後の光学顕微鏡写真である。
【図2】図2(a)は比較例1の補修材料を用いた補修箇所の透水試験前の光学顕微鏡写真であり、図2(b)は比較例1の補修材料を用いた補修箇所の透水試験後の光学顕微鏡写真である。
【図3】図3(a)~(c)は実施例1の補修材料を用いた補修箇所のE-SEM画像である。
【図4】図4は実施例1の補修材料のゲル膜から採取した析出物のEDXチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、コンクリート、モルタル、ノロ等のセメント系硬化物を用いたセメント系構造物の補修に用いられる補修材料と、その補修方法に関する。先ず、本発明の補修材料をより具体的に説明するが、本発明はいかなる具体例に限定されることもない。

【0026】
[補修材料]
本発明の補修材料は、嫌気性微生物と水溶性ポリマーとを含むものであれば、その配合割合や他の添加剤など特に限定されない。

【0027】
‐嫌気性微生物
嫌気性微生物は、栄養源を直接又は間接的に代謝し、酸素不存在下で二酸化炭素を生成するものであれば特に限定されず、偏性(絶対)嫌気性微生物、通性嫌気性微生物、通性好気性微生物から1種以上を選択して用いることができるが、嫌気代謝効率を考慮すると偏性嫌気性微生物、通性嫌気性微生物が好ましく、取り扱いの簡易さからは通性嫌気性微生物が好ましい。

【0028】
なお、微生物とは、細菌類、酵母、真菌、原生生物、原生動物等広く使用することが可能である。これらの中でも、補修対象であるセメント系構造物がアルカリ環境であることを考慮すると、胞子(子嚢胞子、芽胞、分正子)形成能がある胞子形成微生物が好ましい。

【0029】
胞子形成微生物としては、例えば、枯草菌(Bacillus属、主に好気性)、放線菌(Streptomyces属等)、真菌類(不完全菌門、子嚢菌門、接合菌門、担子菌門、ツボカビ門)などを1種以上使用することが可能である。これらの中でも、真菌類が特に好ましく、取扱いと、嫌気代謝効率の点で特に酵母が好ましい。

【0030】
酵母は、Saccharomyces属、Candida属、Zygosaccharomyces属、Schizosaccharomyces属、Kluyveromyces属、Pastoris属、Saccharomycopsi属、Pastoris属、Pachysolen属など多様な属種から1種以上を選択できるが、特にSaccharomyces属のものが好ましい。

【0031】
Saccharomyces属としては、具体的には、Saccharomyces cerevisiae、Saccharomyces Pastorianus、Saccharomyces intermedius、Saccharomyces validus、saccharomyces ellipsoiders、Saccharomyces mali risler、Saccharomyces mandschuricus、Saccharomyces Vordermannii、Saccharomyces Peka、Saccharomyces shasshing、Saccharomyces piriformis、Saccharomyces anamensis、saccharomyces cartilaginosus、Saccharomyces Awamori、Saccharomyces Batatae、Saccharomyces Coreanus、Saccharomyces robustus、Saccharomyces Carlsbergensis、Saccharomyces Monacensis、Saccharomyces Marxianus、Saccharomyces lactes、Saccharomyces Rouxiiなどから選択される1種以上を用いることができるが、特に好ましくはSaccharomyces cerevisiae(通性嫌気性)である。

【0032】
なお、Saccharomyces cerevisiaeのような嫌気性微生物と、他の微生物と組み合わせて使用することも可能である。この場合は、多様な環境に対応できるように異なる性質の微生物(例えば通性好気性微生物)と組み合わせることが好ましく、特に、Bacillus subtilisのような胞子(芽胞)形成能がある通性好気性微生物との組み合わせが好ましい。

【0033】
嫌気性微生物としては乳酸菌を用いることも可能であり、例えば、Lactobacillus属、Bifidobacterium属、Leuconostoc属などの乳酸菌はヘテロ乳酸発酵によりグルコースから乳酸と二酸化炭素を生成し、二酸化炭素が炭酸カルシウムを析出させるだけではなく、乳酸が過剰なアルカリ環境を緩和する。しかしながら、乳酸のような有機酸が過剰に発生すると、セメント系構造物の腐食の原因にもなるので、上記のような乳酸菌は単独で使用することは不適切であり、使用する場合は他の嫌気性微生物(酵母など)よりも少ない量での使用とし、より好ましくは乳酸菌を使用しない。

【0034】
上記のような微生物は、自家培養品、市販品のいずれか一方又は両方を用いてもよい。例えば、Saccharomyces cerevisiaeの場合は、多様な市販品が公知である(オリエンタル酵母工業(株)製、ルサッフル社製、秋田十条化成株式会社など)。

【0035】
微生物は生菌(栄養細胞)、乾燥品、冷凍品、真空凍結乾燥品など多様な態様で用いることができるが、酵母のような胞子形成微生物を用いる場合は、その微生物にストレスを与えて胞子数を増加させると同時に、他の微生物数を減少(滅菌)させてから使用することもできる。ここで、ストレス環境とは、貧栄養、乾燥、高温、低温、高圧、化学処理のいずれか1種以上のストレスを胞子形成微生物に付与する状態を意味する。

【0036】
上記のような嫌気性微生物の使用量は特に限定されず、微生物の種類や補修対象物により適宜変更することもできるが、一例を述べると、液状補修材料(使用時)1リットル当たりの微生物合計量を5.0g~30.0g(乾燥品)とし、好ましくは15.0g~30.0gとする

【0037】
‐水溶性ポリマー
水溶性ポリマーは、カルシウムイオンとの反応によりゲル化する官能基(カルボキシル基、硫酸基など)を有する物質であれば特に限定されないが、具体的には、アルギン酸(アルギン酸塩、アルギン酸エステルも含む)、ポリ(メタ)アクリル酸、ペクチン、ジェランガム、カルボキシメチルセルロース、カラギーナン及びこれらの塩からなる群より選択される1種以上の水溶性ポリマーを用いることができる。ここで、塩とは、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属塩の他、アンモニウム塩をも含む概念ではあるが、より好ましくはナトリウムとカリウムから選択し、最も好ましくはナトリウム塩である。

【0038】
ペクチンは特に限定されないが、ゲル化性を考慮すると、エステル化度(ガラクチュロン酸メチルエステルの割合)が50%未満のLMペクチン(Low Methylester pectin)が好ましい。ジェランガムやカラギーナンは、二価陽イオンと結合してゲル化するもの、例えばLAジェランガム(脱アシル化ジェランガム)、イオタカラギーナン、カッパカラギーナン(特にイオタカラギーナン)などが好ましい。

【0039】
ただし、LMペクチンやLAジェランガムは溶解やゲル化に加熱が必要なものが多く、取り扱い性、ゲル化速度などを考慮すると、上記水溶性ポリマーの中でもアルギン酸とポリ(メタ)アクリル酸が好ましく、特に好ましくはアルギン酸である。

【0040】
ただし、アルギン酸の中でも、アルギン酸のプロピレングリコールエステルは、プロピレングリコールでカルボキシル基がマスクされているためカルシウムイオンで架橋し難く、しかも、水に溶解したときに溶液を酸性に傾ける上に、アルカリ条件ではエステル結合が加水分解されるため、セメント系構造物のようなアルカリ環境維持が特に要求される場合には不適切である。従って、アルギン酸エステル以外のアルギン酸、すなわち、アルギン酸またはその塩が好ましく、水溶性の点ではアルギン酸塩が好ましく、より好ましくはアルギン酸ナトリウムとアルギン酸カリウムであり、最も好ましくはアルギン酸ナトリウムである。

【0041】
‐その他添加剤
本発明の補修材料は、上記嫌気性微生物と水溶性ポリマーに限定されず、他のポリマー(バインダー)、微生物栄養源(有機、無機)、着色剤、フィラー、pH緩衝剤、pH調整剤、老化防止剤、分散剤、界面活性剤など1種以上の添加剤を添加することができる。これらの中でも、最も好ましい添加剤は微生物栄養源である。

【0042】
微生物栄養源は特に限定されず、有機炭素源(糖類、デンプン、脂質等)、無機炭素源(炭酸ナトリウム等)、有機窒素源(アミノ酸、ペプトン、タンパク質等)、無機窒素源(アンモニウム塩、硝酸塩等)、無機栄養源(P、S、K、Mg、Fe、Na等)を1種以上用いることができる。

【0043】
これらの中でも、嫌気代謝のためには有機炭素源を栄養源に含めることが好ましく、有機炭素源としては糖類が好ましく、特に、単糖類(グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノースなど)とニ糖類(マルトース、ラクトース、スクロースなど)から選択されるいずれか1種以上が好ましい。無機栄養源は特に限定されないが、無機栄養源のうち、カルシウム等のセメント系構造物に含まれる無機栄養源は、別途添加する必要はない。

【0044】
栄養源は、代謝により腐食性物質を排出しないものが好ましい。栄養源としての炭素源(糖類等)が有機酸(酢酸、乳酸、ピルビン酸)のような腐食性物質の原因となる場合は、栄養源に窒素源を添加し、微生物が産出するアンモニアにより有機酸をマスクしてもよい。嫌気性微生物が胞子形成微生物の場合には、栄養源として発芽誘導物質を添加することもできる。

【0045】
このように、添加剤は特に限定されないが、補修材料がカルシウム源を多量に含むと、補修材料のゲル化が急激に進行し、セメント系構造物への塗布、供給が困難になるので、硝酸カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、乳酸カルシウム、ケイ酸カルシウム水和物、ギ酸カルシウム、酢酸カルシウム、グルコン酸カルシウムなどから選択されるカルシウム化合物の合計含有量が液状補修材料(使用時)全体の5質量%未満とすることが好ましく、より好ましくはカルシウム化合物の含有量が3質量%未満、更に好ましくは1質量%未満、特に好ましくはカルシウム源を実質的に添加しない。

【0046】
本発明は、ケイ酸塩のような析出剤を用いてもよいが、例えばケイ酸ナトリウムを水に溶解すると一般にpHがアルカリ側に傾くため、酵母のように酸性~弱アルカリ性(例:pH3~8、好ましくはpH3.5~7)での生育に適した嫌気微生物を用いる場合は不適切である。従って、ケイ酸塩の含有量は好ましくは液状補修材料(使用時)全体の10質量%未満、より好ましくは1質量%未満、更に好ましくは0.5質量%未満とし、特に好ましくは0.1質量%未満とし、また、ケイ酸塩を実質的に補修材料に含めないこともできる。

【0047】
[補修材料の製造方法]
本発明の補修材料は、液状、固体(乾燥品)のいずれの形態でもよく、液状の場合は上記嫌気性微生物、水溶性ポリマー、栄養源などの添加剤を、媒質に溶解又は分散させて液状とする。媒質は水と有機溶媒のいずれも用いることができるが、好ましくは水を含有し、より好ましくは水を主成分(50質量%以上)とし、より好ましくは水で構成される。

【0048】
液状補修材料が水を含む場合、嫌気性微生物と栄養源(発芽誘導物質、補酵素含む)の両方を添加すると、保存の間に栄養源の代謝が進行し、補修材料の棚時間が短くなるおそれがある。従って、栄養源を嫌気性微生物とは別剤とし、使用直前に混合するいわゆる2成分型にすれば、補修材料の棚時間が長くなる。2成分型は、補修材料を水溶液又は水分散液として保存する場合に特に効果的である。

【0049】
ただし、水溶性ポリマーのゲル化と嫌気性微生物による炭酸カルシウムの析出は、カルシウムの不存在下では進行しないので、水溶性ポリマーと嫌気性微生物を1成分型(1液型)としても補修材料のゲル化はおこらず、液状補修材料を長時間保存することができる。

【0050】
補修材料が乾燥品であって、水分活性値が低い場合は、水溶性ポリマーと嫌気性微生物と添加剤(栄養源など)を1成分型としても、補修材料の棚時間を長くすることができる。乾燥品の形状は特に限定されず、紛状、粒状、タブレット状等多様な形状にすることが可能であり、必要であれば結着剤を使用して、この結着剤に好気性微生物及び/又は水溶性ポリマーを付着させて成形することも可能である。

【0051】
結着剤は特に限定されず、樹脂等多様なものを使用可能であるが、嫌気性微生物を使用する場合は、デンプン、糖類(多糖を含む)、セルロース、タンパク質、及びこれらの誘導体(変性物質)からなる群より選択されるいずれか1以上を用いれば、水と接触したときにこれら結着剤が嫌気性微生物の栄養源にもなりうる。

【0052】
[補修対象物]
本発明の補修材料は、コンクリート、モルタル等の多様なセメント系硬化物を利用したセメント系構造物の補修に使用することができる。以下に具体的に説明する。

【0053】
本発明の補修材料は多様なセメントを利用した構造物に使用可能であり、その原料となるセメントとしては、例えば、ポルトランドセメント(JIS R5210)、混合セメント(JIS R5211、R5212、R5213)、エコセメント(JIS R5204)等を1種以上がある。これらセメント材料には、セメント系プレミックスには、必要に応じて、化学混和剤、減水剤、流動化剤等の1種以上の混和剤を添加することも可能である。

【0054】
上記のようなセメント系硬化物は多様な建築構造物に利用されるが、乾燥収縮、熱膨張、熱収縮、機械的ストレス、化学的ストレス、製法上の問題(例:コールドジョイント)などの様々な理由で表面や内部に欠陥部分(ひび割れ、凹部)が生ずることがある。次に、このような欠陥部分の補修方法について説明する。

【0055】
[補修方法]
先ず、補修材料が紛体の場合は媒質に溶解又は分散させて液状とする。補修材料が液状の場合はそのまま使用することもできるが、必要に応じて媒質(水)で希釈して粘度調整をしてから使用することもできる。希釈の有無に関わらず、本発明の補修材料は、水溶性ポリマーと嫌気性微生物とその他成分(特に栄養源)が同じ媒質に溶解又は分散した1液型(1成分型)としてから使用する。

【0056】
液状の補修材料を欠陥部分に塗布、散布又は注入して適量を供給する。本発明の補修材料は、供給直後ではゲル化が急激に進行しないので、欠陥部分(ひび割れ)の幅が狭い場合や、その深さが深い場合であっても、欠陥深部にまで補修材料が入り込む。

【0057】
欠陥部分はセメント系硬化物が露出しているため、セメント系硬化物と補修材料とが接触すると、補修材料の水溶性ポリマーがセメント系硬化物由来のカルシウムイオンと反応してゲル化し、このゲル化により補修材料の表面部分が欠陥部分の表面に接着した状態となる。

【0058】
欠陥表面に接着した状態では、補修材料の移動(落下)による攪拌が起こらず、その内部に空気が侵入し難い嫌気状態になる。他方、上記ゲルは水を透過、吸収するので、補修材料の内部には外部(セメント系構造物側)から、水と、水に溶解した物質(カルシウムイオン)が侵入する。

【0059】
本発明の補修材料は嫌気性微生物を有しているので、空気が侵入し難い嫌気状態であっても嫌気代謝により二酸化炭素を生成し、この二酸化炭素が、補修材料の内部でカルシウムイオンと反応するか、補修材料の表面又は外部に移動してカルシウムイオンと反応し、その結果、補修材料の内部、表面及び/又は外部で炭酸カルシウムが析出する。

【0060】
補修材料の内部では、炭酸カルシウムの析出のみならず、水溶性ポリマーがカルシウムイオンで架橋され、水を吸収した状態でゲル化する。すなわち、補修材料が吸水膨潤して欠陥部に隙間なく密着すると共に、補修材料の内部と外部では炭酸カルシウムが析出するので、欠陥部分は炭酸カルシウムが析出した機械的強度の高いゲルに充填されて凝集破壊が抑制され、また、ゲルの表面は水溶性ポリマーの接着力と析出した炭酸カルシウムで欠陥部表面に強固に固定されて接着破壊(界面剥離)も抑制される。

【0061】
このように、本発明の補修方法は、幅狭の欠陥部分や、深さが深い欠陥部分においても、その深部まで補修材料で隙間なく充填することが可能であり、しかも、機械的強度の高い補修材料のゲルで強固に固定されるので、欠陥部分が1mm程度の幅広であっても補修材料が破損し難く、極めて優れた補修効果が得られる。なお、幅狭の欠陥部分に対しては、補修材料の粘度調整により対応できるので、本発明では、幅1mm以下の欠陥部分に広く対応できる。

【0062】
しかも、本発明の補修材料は、補修対象に多価陽イオン(カルシウムイオン)が存在するだけで高い補修効果が得られるので、硬化補助剤などが不要な上、セメント系構造物の組成も限定されない。例えば、セメント系構造物の補修箇所に、繊維などの補強材が含まれない(又は補強材の含有量が低い)場合も、本発明の補修材料で容易に補修することができる。

【0063】
[その他]
以上は、補修材料に嫌気性微生物を直接添加する場合について説明したが本発明はこれに限定されるものではない。例えば、嫌気性微生物をマイクロカプセルに封入してから補修材料に添加することもできる。

【0064】
マイクロカプセルの製造方法は特に限定されないが、例えば、水溶性ポリマーと嫌気性微生物と任意の添加剤(栄養源等)を含む原料液に、ゲル化剤(カルシウム化合物等)を添加してゲル化する。マイクロカプセル用の水溶性ポリマーの種類は特に限定されないが、補修材料に使用する水溶性ポリマーと同種のものを用いると、マイクロカプセルとゲル化した補修材料とが一体化し、ゲル化後の補修材料の機械的強度が向上する。

【0065】
本発明は上記補修材料を用いるのであれば、その使用方法や用途は特に限定されない。二価以上の陽イオン、特にカルシウムイオンが外部から補修材料に浸透するのであれば、岩壁などの自然物の補修にも用いることができるし、他の補修材料と併用することもできる。

【0066】
次に、実施例により本発明をより具体的に説明する。
【実施例】
【0067】
<実施例1>
アルギン酸ナトリウム(関東化学株式会社製、鹿1級、カタログNo.37094-01)を蒸留水に添加し、スターラーを用いて30分間撹拌して溶解させ、アルギン酸ナトリウムを1.0質量%含む水溶液を得た。この水溶液1Lに、嫌気性微生物である乾燥酵母(秋田十条化成株式会社製の商品名「白新こだま酵母ドライ」)27.0g/Lと、栄養源であるグルコース0.3mol/Lとを添加して更に30分間攪拌して、実施例1の補修材料とした。
【実施例】
【0068】
<比較例1>
嫌気性微生物と栄養源を添加しない以外は、上記実施例1と同じ条件で比較例1の補修材料とした。これら実施例1、比較例1の補修材料を用いて下記試験を行った。
【実施例】
【0069】
‐透水試験
CEM III 42.5N(EN197-1:2000に基づき分類される高炉セメント)を用い、直径30mm、長さ50mm円柱状であって、その円柱外周側面の円柱中心軸を挟んで対向する位置にひび割れ誘導用ノッチが2本形成されたモルタル硬化物を製造し、円柱供試体とした。
【実施例】
【0070】
この円柱供試体を材齢28日間まで封緘養生した後、ポリエチレンフィルムで外周を包み、ノッチと対面する位置にそれぞれスペーサー(スチールロッド)を挟んだ状態で、スペーサーを介して円柱供試体を圧縮試験機で載荷し、幅0.6mmのひび割れを形成した。ノッチに迄達したひび割れの両端部のみに、メタクリル酸メチルを用いた接着剤でシールを施した。
【実施例】
【0071】
実施例1の補修材料と比較例1の補修材料を、それぞれ円柱供試体のひび割れが形成された表面に塗布した。塗布から24時間経過後には、実施例1の補修材料は、炭酸カルシウムの析出に由来すると思われる硬いゲル膜となっていた。補修材料を塗布してから2日後に、円柱供試体を塩化ビニル製管の内部に設置し、定水位による透水試験に供した。
【実施例】
【0072】
透水試験は、底面に管が接続された容器(リザーバー)を用意し、この管の内部に、塩化ビニル製管に設置した円柱供試体を隙間なくはめ込み、容器に海水を収容して、円柱供試体から容器の海水面までの高さを1.05mの定水位に維持して円柱供試体に一定水圧を10分間付与した。
【実施例】
【0073】
比較例1の補修材料を用いた円柱供試体では、上記透水試験中に、円柱供試体のひび割れを通過したと思われる水分が検出された。これに対し、実施例1の補修材料を用いた円柱供試体では、ひび割れを通過したと思われる水分は確認されず、閉塞効果が確認された。
【実施例】
【0074】
図1(a)、(b)は実施例1の補修材料で補修した円柱供試体の、透水試験前(図1(a))と透水試験後(図1(b))を撮影した光学顕微鏡写真であり、図2(a)、(b)は比較例1の補修材料で補修した円柱供試体の、透水試験前(図2(a))と透水試験後(図2(b))を撮影した光学顕微鏡写真である。
【実施例】
【0075】
図1(a)、(b)、図2(a)、(b)を比較すると明らかなように、比較例1では補修材料のゲル自体が破損しており(図2(b))、ゲル化した補修材料の強度が足りず、閉塞効果が低いことが確認された。
【実施例】
【0076】
これに対し、実施例1の補修材料を用いた場合は透水試験前(図1(a))と透水試験後(図1(b))のいずれも補修材料のゲルに破損が見られず、補修材料のゲルがひび割れを隙間なく充填している態様が確認できた。
【実施例】
【0077】
‐E-SEM(環境制御型電子顕微鏡)
実施例1の補修材料で補修した円柱供試体を透水試験の後、温度50℃の乾燥炉で24時間乾燥させた。乾燥後の円柱供試体にエポキシ樹脂を直接含浸させ、ひび割れ内に形成された補修材料のゲル被膜の変形、変質を防ぐための前処理を施した。更に、円柱供試体を、円柱軸線に沿って、ひび割れと直交する方向に乾式で切断した。
【実施例】
【0078】
切断面を湿式で研磨して徐々にエポキシ樹脂を除去し、ひび割れ表面にゲル被膜の露出が確認できた時点で、E-SEMでSEM画像を撮影した。撮影倍率を変えた撮影結果を図3(a)~(c)に示す。
【実施例】
【0079】
図3(b)から明らかなように、実施例1の補修材料はそのゲル被膜内に均質な多孔体を形成していた。また、図3(c)から実施例1の補修材料では炭酸カルシウムと思われる結晶が確認された。
【実施例】
【0080】
‐EDX(エネルギー分散型X線分光法)
上記E-SEMに用いた円柱供試体からゲル被膜中の析出物を採取し、EDX分析にかけた結果を図4に示す。図4のチャートからCaとCとOの位置にピークが出願しており、微生物の代謝により、ゲル被膜内に炭酸カルシウムが析出することが確認できた。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3