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Specification :(In Japanese)ピロール-イミダゾールポリアミド化合物群を用いた内在性制御因子のスクリーニング方法

Country (In Japanese)日本国特許庁(JP)
Gazette (In Japanese)公開特許公報(A)
Publication number P2018-191617A
Date of publication of application Dec 6, 2018
Title of the invention, or title of the device (In Japanese)ピロール-イミダゾールポリアミド化合物群を用いた内在性制御因子のスクリーニング方法
IPC (International Patent Classification) C12Q   1/06        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12N   5/074       (2010.01)
C12N   5/0775      (2010.01)
C12N   5/0789      (2010.01)
C12N   9/99        (2006.01)
A61K  47/59        (2017.01)
FI (File Index) C12Q 1/06 ZNA
C12N 15/00 A
C12N 5/074
C12N 5/0775
C12N 5/0789
C12N 9/99
A61K 47/59
Number of claims or invention 12
Filing form OL
Total pages 22
Application Number P2017-100814
Date of filing May 22, 2017
Inventor, or creator of device (In Japanese)【氏名】杉山 弘
【氏名】上久保 靖彦
Applicant (In Japanese)【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
Representative (In Japanese)【識別番号】100081422、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 光雄
【識別番号】100084146、【弁理士】、【氏名又は名称】山崎 宏
【識別番号】100122301、【弁理士】、【氏名又は名称】冨田 憲史
【識別番号】100170520、【弁理士】、【氏名又は名称】笹倉 真奈美
Request for examination (In Japanese)未請求
Theme code 4B063
4B065
4C076
F-term 4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ02
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4C076CC41
4C076EE26
4C076EE48
4C076EE49
4C076EE59
4C076FF70
Abstract (In Japanese)【課題】癌等の各種疾患の発症や細胞分化に関連する遺伝子群の発現をより上流で制御する内在性制御因子を効率的に同定する方法を開発すること。
【解決手段】1)遺伝子発現を活性化する物質または遺伝子発現を抑制する物質と複合体を形成しており且つDNA配列を認識して該DNA配列に結合することができる、ピロール-イミダゾールポリアミド化合物群に含まれるポリアミド化合物で細胞を処理する工程、2)工程1)の処理によって細胞応答をもたらすポリアミド化合物を前記ピロール-イミダゾールポリアミド化合物群の中から選択する工程、および3)工程2)で選択された前記ポリアミド化合物が認識するDNA配列に基づいて、該細胞応答に関連する内在性制御因子を同定する工程を含む、内在性制御因子のスクリーニング方法が提供される。
【選択図】なし
Scope of claims (In Japanese)【請求項1】
1)遺伝子発現を活性化する物質または遺伝子発現を抑制する物質と複合体を形成しており且つDNA配列を認識して該DNA配列に結合することができる、ピロール-イミダゾールポリアミド化合物群に含まれるポリアミド化合物で細胞を処理する工程、
2)工程1)の処理によって細胞応答をもたらす前記ポリアミド化合物を前記ピロール-イミダゾールポリアミド化合物群の中から選択する工程、および
3)工程2)で選択された前記ポリアミド化合物が認識するDNA配列に基づいて、該細胞応答に関連する内在性制御因子を同定する工程
を含む、内在性制御因子のスクリーニング方法。
【請求項2】
前記ピロール-イミダゾールポリアミド化合物群は、遺伝子発現を活性化する物質と複合体を形成している活性化ポリアミド化合物および遺伝子発現を抑制する物質と複合体を形成している抑制化ポリアミド化合物を含み、
前記工程2)において、相反する細胞応答をもたらし且つ同一のDNA配列を認識して該DNA配列に結合することができる前記活性化ポリアミド化合物および前記抑制化ポリアミド化合物を前記ピロール-イミダゾールポリアミド化合物群の中から選択する、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記相反する細胞応答をもたらし且つ同一のDNA配列を認識して該DNA配列に結合することができる前記活性化ポリアミド化合物および前記抑制化ポリアミド化合物が、互いに共通するDNA配列認識部分を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程3)において、前記工程2)で選択されたポリアミド化合物が認識するDNA配列と、前記工程1)に供した細胞の遺伝子発現プロファイルから、該細胞応答に関連する内在性制御因子を同定する、請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記細胞応答が、細胞生存率、細胞増殖率、疾患関連遺伝子もしくは疾患関連タンパク質の発現レベル、または分化マーカー遺伝子もしくは分化マーカーの発現レベルの増加または減少、あるいは細胞形態上の変化である、請求項1~4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記細胞が疾患細胞または幹細胞である、請求項1~5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記工程3)において、細胞の増殖、疾患関連遺伝子または遺伝子群の発現、または分化関連遺伝子または遺伝子群の発現を制御する内在性制御因子が同定される、請求項1~6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
疾患または細胞分化を制御する因子をスクリーニングするための、請求項1~7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記内在性制御因子がシスエレメントまたはトランス制御因子である、請求項1~8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記遺伝子発現を活性化する物質がヒストン脱アセチル化酵素阻害剤であり、前記遺伝子発現を抑制する物質がアルキル化剤である、請求項1~9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記疾患が、癌、神経変性疾患、代謝内分泌系疾患、またはウイルス感染症である、請求項5~10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
遺伝子発現を活性化する物質がコンジュゲートされたピロール-イミダゾールポリアミド化合物群からなるライブラリー、および遺伝子発現を抑制する物質がコンジュゲートされたピロール-イミダゾールポリアミド化合物群からなるライブラリーを含む、2以上のピロール-イミダゾールポリアミド化合物ライブラリーのセットであって、該ピロール-イミダゾールポリアミド化合物群が該2以上のライブラリー間で共通するDNA配列認識部分のパターンを含む、セット。
Detailed description of the invention (In Japanese)【技術分野】
【0001】
本発明は、ピロール-イミダゾールポリアミド化合物群を用いて疾患等の内在性制御因子をスクリーニングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌等の疾患を制御する分子標的薬は、疾患細胞上にある特定の細胞表面抗原、レセプター、シグナル伝達因子等に作用するが、その特定分子の変異等による耐性出現が問題となる。そこで、疾患関連因子群の機能発現をより上流で束ねて制御するような転写制御因子等の内在性制御因子の同定が、耐性が出現しにくい革新的な分子標的薬の研究開発において極めて有望であると考えられる。しかし、このような内在性制御因子の同定は、通常、網羅的な遺伝学的スクリーニングと最先端の遺伝子発現解析技術等の手法を駆使して行われ、手間が掛かる上に、困難を伴う場合が多い。例えば、ある制御因子にパラログが存在している場合、当該パラログが相補的に機能する可能性もあり、その場合には、RNAi等での遺伝学的スクリーニングによって当該制御因子を同定することは極めて困難となる。また、従来の網羅的な遺伝学的スクリーニング法は、変異解析に負うところが大きく、変異が存在していない場合に制御因子を同定することはほぼ不可能である。最先端の遺伝子発現解析技術等でも、その多彩な遺伝子変化パターンにより、実際に疾患特性を担う重要な制御因子を抽出することは極めて困難である。
【0003】
一方、ピロール-イミダゾールポリアミド(以下、「PIポリアミド」と略す)は、合成オリゴマーであり、ヘアピン連結によって対面するN-メチルピロール(P)およびN-メチルイミダゾール(I)対により、DNAの副溝内に結合して特定の配列を認識することが知られている。PIポリアミドは、P/I対がC・G塩基対を、P/P対がA・TまたはT・A塩基対を、I/P対がG・C塩基対を認識し、これにより任意の二重鎖DNA配列に特異的に結合することができる。したがって、分子構造内にN-メチルピロールおよびN-メチルイミダゾールを適切に配置することによって、PIポリアミドの塩基配列特異性を任意に設計することができる。
【0004】
PIポリアミドは、その比較的大きい分子量にもかかわらず、細胞膜透過性であり、細胞の核に局在し、ナノモルレベルで内在性遺伝子発現に影響を及ぼす。標的遺伝子に結合したPIポリアミドは、転写因子のDNAへの結合を阻害し、特定の遺伝子発現を制御する人工遺伝子スイッチとして研究されている。近年の研究では、強力なヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤であるスベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)とコンジュゲートしたPIポリアミドが合成された(非特許文献1、非特許文献2)。該SAHAコンジュゲートPIポリアミドは、標的遺伝子の調節領域のアセチル化により、該標的遺伝子の発現を特異的にアップレギュレートすることができる。また、ナイトロジェンマスタード系アルキル化剤であるクロラムブシル(chlorambucil)をPIポリアミドにコンジュゲートすることにも成功した(非特許文献3、非特許文献4)。該コンジュゲートは、ゲノム配列に対する結合能を強化しており、標的遺伝子発現の強力なダウンレギュレーションをもたらすことが分かった。さらに、非特許文献1では、SAHAとコンジュゲートしたPIポリアミドのライブラリーを用いてヒト皮膚繊維芽細胞を処理して、SAHA単独では効果がないが、当該コンジュゲートによって転写が活性化される遺伝子をスクリーニングする研究が報告されている。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】Pandian, G. N. et al., Sci Rep 4, 3843, doi:10.1038/srep03843 (2014)
【非特許文献2】Saha, A. et al., Bioorg Med Chem 21, 4201-4209, doi:10.1016/j.bmc.2013.05.002 (2013)
【非特許文献3】Bando, T. et al., Acc Chem Res 39, 935-944, doi:10.1021/ar030287f (2006)
【非特許文献4】Minoshima, M. et al., Nucleic Acids Symp Ser (Oxf), 69-70, doi:10.1093/nass/nrp035 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、癌等の各種疾患の発症や細胞分化に関連する遺伝子群の発現をより上流で制御する内在性制御因子を効率的に同定する方法を開発する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、遺伝子発現を活性化する物質または遺伝子発現を抑制する物質をコンジュゲートしたPIポリアミドのライブラリーを用いて疾患細胞等の細胞を処理し、該処理によって細胞応答をもたらすPIポリアミドを選択することにより、該細胞応答に関連する内在性制御因子を同定することができることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は下記を提供する。
[1] 1)遺伝子発現を活性化する物質または遺伝子発現を抑制する物質と複合体を形成しており且つDNA配列を認識して該DNA配列に結合することができる、ピロール-イミダゾールポリアミド化合物群に含まれるポリアミド化合物で細胞を処理する工程、
2)工程1)の処理によって細胞応答をもたらす前記ポリアミド化合物を前記ピロール-イミダゾールポリアミド化合物群の中から選択する工程、および
3)工程2)で選択された前記ポリアミド化合物が認識するDNA配列に基づいて、該細胞応答に関連する内在性制御因子を同定する工程
を含む、内在性制御因子のスクリーニング方法、
[2] 前記ピロール-イミダゾールポリアミド化合物群は、遺伝子発現を活性化する物質と複合体を形成している活性化ポリアミド化合物および遺伝子発現を抑制する物質と複合体を形成している抑制化ポリアミド化合物を含み、
前記工程2)において、相反する細胞応答をもたらし且つ同一のDNA配列を認識して該DNA配列に結合することができる前記活性化ポリアミド化合物および前記抑制化ポリアミド化合物を前記ピロール-イミダゾールポリアミド化合物群の中から選択する、
[1]記載の方法、
[3] 前記相反する細胞応答をもたらし且つ同一のDNA配列を認識して該DNA配列に結合することができる前記活性化ポリアミド化合物および前記抑制化ポリアミド化合物が、互いに共通するDNA配列認識部分を有する、[2]に記載の方法、
[4] 前記工程3)において、前記工程2)で選択されたポリアミド化合物が認識するDNA配列と、前記工程1)に供した細胞の遺伝子発現プロファイルから、該細胞応答に関連する内在性制御因子を同定する、[1]~[3]のいずれかに記載の方法、
[5] 前記細胞応答が、細胞生存率、細胞増殖率、疾患関連遺伝子もしくは疾患関連タンパク質の発現レベル、または分化マーカー遺伝子もしくは分化マーカーの発現レベルの増加または減少、あるいは細胞形態上の変化である、[1]~[4]のいずれかに記載の方法、
[6] 前記細胞が疾患細胞または幹細胞である、[1]~[5]のいずれかに記載の方法、
[7] 前記工程3)において、細胞の増殖、疾患関連遺伝子または遺伝子群の発現、または分化関連遺伝子または遺伝子群の発現を制御する内在性制御因子が同定される、[1]~[6]のいずれかに記載の方法、
[8] 疾患または細胞分化を制御する因子をスクリーニングするための、[1]~[7]のいずれかに記載の方法、
[9] 前記内在性制御因子がシスエレメントまたはトランス制御因子である、[1]~[8]のいずれかに記載の方法、
[10] 前記遺伝子発現を活性化する物質がヒストン脱アセチル化酵素阻害剤であり、前記遺伝子発現を抑制する物質がアルキル化剤である、[1]~[9]のいずれかに記載の方法、
[11] 前記疾患が、癌、神経変性疾患、代謝内分泌系疾患、またはウイルス感染症である、[5]~[10]のいずれかに記載の方法、および
[12] 遺伝子発現を活性化する物質がコンジュゲートされたピロール-イミダゾールポリアミド化合物群からなるライブラリー、および遺伝子発現を抑制する物質がコンジュゲートされたピロール-イミダゾールポリアミド化合物群からなるライブラリーを含む、2以上のピロール-イミダゾールポリアミド化合物ライブラリーのセットであって、該ピロール-イミダゾールポリアミド化合物群が該2以上のライブラリー間で共通するDNA配列認識部分を含む、セット。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、癌等の各種疾患を制御するDNA配列(シスエレメント)、および当該配列に結合する内在性転写制御因子の候補を簡便に同定することが可能となり、耐性が出現しにくい革新的な分子標的薬の創薬ターゲットを見出すことができる。また、本発明の方法は、各種疾患だけでなく、各種幹細胞等から特定の細胞系譜への分化制御に関わる新たな因子の同定にも適用できる。本発明によれば、標的の疾患細胞について、網羅的な遺伝学的スクリーニングを行うことなく、疾患関連遺伝子の内在性制御因子を同定することができる。また、本発明によれば、遺伝子変異を伴わない疾患関連遺伝子の内在性制御因子も同定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】1つのウェルに1種類のPIポリアミド化合物を添加したウェルプレートの例を示す模式図である。図中、ウェル2-a~ウェル12-hについて、添加されるPIポリアミド化合物の記載を省略しているが、これらのウェルにもそれぞれ、1種類ずつ異なる種類のPIポリアミド化合物が添加される。
【図2-1】2個以上のウェルプレートとして提供される、2以上のポリアミド化合物ライブラリーの例を示す模式図である。図中、右側に、各ウェルに添加されるPIポリアミド化合物が示される。ウェル2-a~ウェル12-hについて、添加されるPIポリアミド化合物の記載を省略しているが、これらのウェルにもそれぞれ、1種類ずつ異なる種類のPIポリアミド化合物が添加される。
【図2-2】2個以上のウェルプレートとして提供される、2以上のポリアミド化合物ライブラリーの例を示す模式図である。図中、右側に、各ウェルに添加されるPIポリアミド化合物が示される。ウェル2-a~ウェル12-hについて、添加されるPIポリアミド化合物の記載を省略しているが、これらのウェルにもそれぞれ、1種類ずつ異なる種類のPIポリアミド化合物が添加される。
【図3-1】実施例1で合成されたSAHA-PIポリミアドコンジュゲートの模式図である。
【図3-2】実施例1で合成されたSAHA-PIポリミアドコンジュゲートの模式図の説明および1つのSAHA-PIポリミアドコンジュゲートの対応する化学式を示す。
【図4】各SAHA-PIポリアミドコンジュゲートで処理したヒト骨髄性白血病細胞MV4-11におけるIL3、CSF2およびCSF2RB遺伝子の発現レベルを示す。DMSO処理細胞での各遺伝子の発現量を1として、各SAHA-PIポリアミドコンジュゲート処理細胞で得られた値をDMSO処理細胞に対する相対値として示す。「*」はP<0.05を示す。
【図5-1】実施例1で使用したPIポリアミドコンジュゲートを表す化学式を示す。
【図5-2】実施例1で使用したPIポリアミドコンジュゲートを表す化学式を示す。
【図6】各クロラムブシル-PIポリアミドコンジュゲートで処理したヒト骨髄性白血病細胞MV4-11におけるIL3、CSF2およびCSF2RB遺伝子の発現レベルを示す。DMSO処理細胞での各遺伝子の発現量を1として、各PIポリアミド-クロラムブシルコンジュゲート処理細胞で得られた値をDMSO処理細胞に対する相対値として示す。図中、データは平均±SEM値で示し、「*」はP<0.05を示す。
【図7】各Chb-PIポリアミドコンジュゲートで処理した各種癌細胞および正常細胞の増殖率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.PIポリアミド
PIポリアミドは、N-メチルピロール単位(P)とN-メチルイミダゾール単位(I)と、γ-アミノ酪酸部分とを含むポリアミドであり、PとIとγ-アミノ酪酸部分とは互いにアミド結合(-C(=O)-NH-)で連結される(Trauger et al, Nature, 382, 559-61(1996); White et al, Chem.Biol., 4,569-78(1997);およびDervan, Bioorg. Med. Chem., 9, 2215-35(2001))。PIポリアミドは、γ-アミノ酪酸部分がリンカー(γ-リンカー)となって全体が折りたたまれてU字型のコンフォメーション(ヘアピン型)をとる。U字型のコンフォメーションにおいては、リンカーを挟んでPとIとを含む2本の鎖が並列に並ぶ。この2本の鎖の間で対面するPとIの対が特定の組み合わせ(P/I対、I/P対またはP/P対)のときに、DNA中の特定の塩基対に高い親和性で結合することができる。例えば、P/I対はC・G塩基対に結合することができ、I/P対はG・C塩基対に結合することができ、P/P対はA・T塩基対およびT・A塩基対の両方に結合することができる。また、PIポリアミドには、PおよびIの他に、3-ヒドロキシピロール(Hp)、またはβアラニンが含まれていてもよい。Hp/P対は、T・A塩基対に結合することができる(White at al., Nature, 391, 468-71 (1998))。βアラニン/βアラニン対は、T・A塩基対もしくはA・T塩基対に結合することができる。βアラニン/I対はC・G塩基対に、I/βアラニン対はG・C塩基対に結合することができる。βアラニン/P対およびP/βアラニン対は、T・A塩基対もしくはA・T塩基対に結合することができる。また、γ-リンカー部分や、PIポリアミドのN末端に付加したβアラニン部分も、T・A塩基対もしくはA・T塩基対に結合することができる。P、I、Hp、および/またはβアラニンによって形成される対の構成、順序、および組み合わせ等を適宜変更することにより、標的のDNA配列を認識し、結合するPIポリアミドを設計することができる。

【0012】
本発明において、PIポリアミドを構成するPまたはIの1位の窒素上のメチル基は、水素あるいはメチル基以外のアルキル基で置き換わっていてもよい。メチル基以外のアルキル基の例としては、炭素数2~10個の直鎖、分枝鎖または環状の飽和または不飽和アルキル基、好ましくは、炭素数2~5個の直鎖、分枝鎖直鎖、分枝鎖または環状の飽和または不飽和アルキル基が挙げられ、例えば、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル等が挙げられる。また、メチル基を含め、アルキル基は置換されていてもよく、例えば、アルキル基中のメチレンは、酸素等で置換されていてもよい。

【0013】
PIポリアミドのN末端およびC末端には、種々の官能基が付加されていてもよい。例えば、N末端にはアセチルアミノ基が付加されていてもよい。例えば、C末端にはジメチルアミノプロピルアミド基を付加されていてもよい。または、PIポリアミドの末端には、β-アラニン残基、γ-アミノ酪酸残基などのカルボキシル基を付加することもできる。

【0014】
本発明において、PIポリアミドは修飾されていてもよく、例えば、DNAに対する結合能力を維持または向上するように修飾されていてもよい。修飾されたPIポリアミドの例としては、限定するものではないが、PIポリアミドのγ-リンカーのα位またはβ位がアミノ基で置換されたもの、すなわち、γ-リンカーがN-α-N-γ-アミノ酪酸、またはN-β-N-γ-アミノ酪酸であるもの、さらに該アミノ基が蛍光基やビオチン等の分子で修飾されたもの、PIポリアミドのN末端を蛍光基やビオチン等の分子で修飾したもの、およびPIポリアミドのC末端を蛍光基やビオチン、イソフタル酸等の分子で修飾した修飾物等が挙げられる。本願明細書において、蛍光基としては、限定するものではないが、例えば、フルオレセイン、ローダミン系色素、シアニン系色素、ATTO系色素、Alexa Fluor系色素、BODIPYが挙げられる。フルオレセインには、フルオレセイン誘導体(例えば、フルオレセインイソチオシアネート等)も含まれる。

【0015】
また、PIポリアミドは、環状PIポリアミドであってもよい。環状PIポリアミドとして、例えば、PIポリアミドのN末端およびC末端がγ-リンカーで連結されたもの、またはPIポリアミドのN末端に付加されたクロロアセチル基とC末端に付加されたシステイン基との間の反応により形成されるスルフィド結合によって環化されたものが挙げられる。PIポリアミドは、また、ヘアピン型PIポリアミドをつなげたタンデム型のPIポリアミド化合物であってもよい。

【0016】
本発明において使用されるPIポリアミドは、任意のDNA配列を認識するように設計される。本発明において使用されるPIポリアミドを構成する、P、I、Hp、および/またはβアラニンによって形成される対の数は、2個以上であれば特に限定されないが、例えば3~12個、好ましくは4~10個、より好ましくは4~8個が挙げられる。対の個数が5個以上のDNA配列認識部分を有するPIポリアミドを設計する場合は、好ましくはβアラニンを含むように設計される。

【0017】
PIポリアミドの設計方法および製造方法は公知である(例えば、特許第3045706号、特開2001-136974号、WO03/000683号、特開2013-234135号、特開2014-173032号参照)。例えば、Fmoc(9-フルオレニルメトキシカルボニル)を用いた固相合成法(Fmoc固相合成法)による自動合成法によって簡便に製造することができる。

【0018】
本発明において使用されるPIポリアミドは、そのN末端、C末端、またはγリンカー部位に、遺伝子発現を活性化する物質または遺伝子発現を抑制する物質が結合されて複合体を形成している。以下、本明細書において、上記物質がコンジュゲートされたPIポリアミド(すなわち、上記物質と複合体を形成しているPIポリアミド)を「PIポリアミド化合物」または「PIポリミアドコンジュゲート」と称する。また、本明細書において、遺伝子発現を活性化する物質と複合体を形成しているPIポリアミドを「活性化ポリアミド化合物」、遺伝子発現を抑制する物質と複合体を形成しているPIポリアミドを「抑制化ポリアミド化合物」と称する。また、本明細書において、遺伝子発現を活性化する物質および遺伝子発現を抑制する物質を総称して「物質」と記載する場合がある。

【0019】
遺伝子発現を活性化する物質としては、限定するものではないが、例えば、ヒストンアセチル化酵素(HAT)活性化剤、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤等が挙げられる。HAT活性化剤としては、例えば、N-(4-クロロ-3-(トリフルオロメチル)フェニル)-2-エトキシベンズアミド(CTB)、ヒストンメチル化酵素制御剤、ヒストン脱メチル化酵素制御剤等が挙げられる。HDAC阻害剤としては、例えば、スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)等が挙げられる。

【0020】
遺伝子発現を抑制する物質としては、限定するものではないが、例えば、アルキル化剤、HAT阻害剤、HDAC活性化剤、ヒストンメチル化酵素制御剤、ヒストン脱メチル化酵素制御剤等が挙げられる。HAT阻害剤としては、例えば、C646等が挙げられる。HDAC活性化剤としては、例えば、1-ベンゾイル-3-フェニル-2-チオ尿素(TM-2-51)等が挙げられる。

【0021】
アルキル化剤とは、DNAと共有結合を作る官能基を有する化合物である。アルキル化剤としては、例えば、クロラムブシル(chlorambucil)(本明細書において、「Chb」と略すこともある)、デュオカルマイシン(duocarmycin)、seco-CBI(1-クロロメチル-5-ヒドロキシ-1,2-ジヒドロ-3H-ベンゾ[e]インドール)、ピロロベンゾジアゼピン、ナイトロジェンマスタード等が挙げられる。seco-CBIをPIポリアミドにコンジュゲートする場合は、PIポリアミドとseco-CBIとの間にインドールを挿入してもよい。PIポリアミドとインドールとseco-CBIとの複合体(以下、「コンジュゲート」ともいう)において、インドール部分は2つのPまたはI単位と対になり、インドール/I対はC・G塩基対、インドール/P対はT・A塩基対もしくはA・T塩基対を認識する。

【0022】
遺伝子発現を活性化する物質または遺伝子発現を抑制する物質と、PIポリアミドとのコンジュゲートは、常法により行うことができる(例えば、J. Am. Chem. SOC. 1995, 117, 2479-2490参照)。上記物質は、PIポリアミドのN末端、C末端、またはγリンカー部位に、直接結合してもよいし、リンカーを介して結合してもよい。リンカーとしては、上記物質の作用を妨げず、かつPIポリアミドのDNA配列認識を妨げないものであれば特に限定されないが、例えば、アミド結合、ホスホジスルフィド結合、エステル結合、配位結合、またはエーテル結合等そのもの、あるいはこれらの結合の1種類以上を形成する官能基を含む分子を例示することができる。「これらの結合の1種類以上を形成する官能基を含む分子」は、PIポリアミドおよび/または作用剤の末端部分と共に、アミド結合、ホスホジスルフィド結合、エステル結合、配位結合、およびエーテル結合等からなる群から選択される1種類以上の結合を形成する官能基を含む分子である。「これらの結合の1種類以上を形成する官能基を含む分子」はまた、アミド結合、ホスホジスルフィド結合、エステル結合、配位結合、およびエーテル結合等からなる群から選択される1種類以上の結合を1個以上含む分子であってもよい。好ましいリンカーとしては、アミド結合、またはアミド結合を形成する官能基を含む分子が挙げられる。

【0023】
2.PIポリアミド化合物ライブラリーおよびPIポリアミド化合物群
本発明において「ピロール-イミダゾールポリアミド化合物ライブラリー」(以下、「PIポリアミド化合物ライブラリー」と略す)は、上記の遺伝子発現を活性化する物質および/または遺伝子発現を抑制する物質がコンジュゲートされたPIポリアミド化合物を含む化合物群である。したがって、本明細書において、「PIポリアミド化合物ライブラリー」を「ピロール-イミダゾールポリアミド化合物群」(以下、「PIポリアミド化合物群」と略す)と記載する場合がある。

【0024】
本発明において、PIポリアミド化合物群に含まれるPIポリミアド化合物のDNA配列認識部分は、任意に設計される。上記したとおり、PIポリミアドのDNA配列認識部分を構成するP、I、Hp、および/またはβアラニンによって形成される対の数は、2個以上であれば特に限定されないが、例えば3~12個、好ましくは4~10個、より好ましくは4~8個である。本発明において、PIポリアミド化合物群に含まれる2種以上のPIポリミアド化合物は、同じ長さのDNA配列認識部分を有していてもよいし、異なる長さのDNA配列認識部分を有していてもよい。また、PIポリアミド化合物群に含まれるPIポリミアド化合物の種類は、2種以上であれば特に限定されず、DNA配列認識部分の長さ等の条件を考慮して適宜決定すればよい。例えば、PIポリアミド化合物群は、同じ長さのDNA配列認識部分を有し、かつ、各PIポリアミドが異なるDNA配列を認識する構成にするとよい。このような構成の場合、あらゆるDNA認識配列パターンを網羅する数のPIポリミアド化合物群とすることが可能になる。

【0025】
本発明において、PIポリアミド化合物群は、同一の物質がコンジュゲートされているが、DNA配列認識部分が異なる、2種以上のPIポリアミド化合物を含んでいてもよい。すなわち、該PIポリアミド化合物群に含まれる2種以上のPIポリミアド化合物は、互いに異なるDNA配列認識部分を有する以外は同じ構造を有していてもよい。好ましくは、PIポリアミド化合物群は、遺伝子発現を活性化する物質であって同一の物質がコンジュゲートされているが、DNA配列認識部分が異なる、2種以上の活性化ポリアミド化合物から構成されていてもよく、または、遺伝子発現を抑制する物質であって同一の物質がコンジュゲートされているが、DNA配列認識部分が異なる、2種以上の抑制化ポリアミド化合物から構成されていてもよい。さらに、PIポリアミド化合物群は、活性化ポリアミド化合物および抑制化ポリアミド化合物の両方を含んでいてもよく、好ましくは、該活性化ポリアミド化合物と該抑制化ポリアミド化合物は互いに共通するDNA認識部分を有していてもよい。

【0026】
3.スクリーニング方法
本発明では、1)上記PIポリアミド化合物群に含まれるPIポリアミド化合物で細胞を処理し、2)該処理によって細胞応答をもたらすPIポリアミド化合物を選択し、3)該選択されたPIポリアミド化合物が認識するDNA配列に基づいて、該細胞応答に関連する内在性制御因子を同定することにより、内在性制御因子をスクリーニングする。

【0027】
上記工程1)において、PIポリアミド化合物で処理する細胞は、疾患細胞、非疾患細胞、正常細胞、または幹細胞のいずれであってもよく、スクリーニングの目的に応じて適宜選択される。例えば、ある疾患に関連する内在性制御因子を同定したい場合は、当該疾患細胞を使用するのが好ましく、例えば、疾患モデル細胞が使用される。また、例えば、細胞分化に関連する内在性制御因子を同定したい場合は、幹細胞を使用するのが好ましい。幹細胞の代わりに、iPS細胞を用いることもできる。例えば、疾患とは無関係に何らかの内在性制御因子を同定したい場合は、非疾患細胞または正常細胞を使用することができる。疾患と無関係な内在性制御因子の例としては、限定するものではないが、例えば、アポトーシスを誘導する因子、iPS細胞誘導に促進的に働く因子等が挙げられる。

【0028】
本発明において使用される細胞は、好ましくは哺乳動物細胞であり、より好ましくはヒト由来の細胞である。また、本発明においては、初代培養細胞も使用できるが、好ましくは各種の樹立された細胞株が使用される。本発明において、非疾患細胞には、何の疾患にも罹患していない個体または組織由来の細胞、および目的の疾患には罹患していないが、その他のいずれかの疾患に罹患している個体または組織由来の細胞が包含される。

【0029】
上記工程1)の処理は、PIポリアミド化合物群の存在下で細胞を培養することによって実施することができる。すなわち、PIポリアミド化合物群に含まれる各PIポリミアド化合物の存在下において、細胞を同一条件で培養する。培養培地、培養温度等の培養条件は、使用する細胞の種類に応じて適宜決定することができる。培養時間は、いずれかのPIポリミアド化合物での処理によって何らかの細胞応答が生ずる時間であればよく、当業者が適宜決定することができる。

【0030】
上記工程1)は、例えば、ウェルプレートを用いて実施することができる。ウェルプレートを用いる場合、1つのウェルに1種類のPIポリアミド化合物を添加し、各ウェルに細胞を添加し、培養する。PIポリアミド化合物を添加したウェルプレートの例を図1に示す。例えば、96ウェルプレートを用いる場合、最大96種類のPIポリアミド化合物を用いることができる。

【0031】
上記工程2)における、細胞応答をもたらすPIポリミアド化合物の選択は、他のPIポリミアド化合物での処理と比べて何らかの細胞応答を示しているPIポリミアド化合物を選択することによって行う。例えば、本発明のスクリーニング方法が図1に示されるようなウェルプレートを用いて実施される場合、各ウェルについて細胞応答の有無を調べ、細胞応答があったウェル中のPIポリアミド化合物を選択すればよい。

【0032】
さらに、必要により、本発明のPIポリアミド化合物ライブラリーで処理していない細胞や、または当該スクリーニングに疾患細胞を用いた場合は、非疾患細胞または正常細胞を対照として用いてもよく、かかる対照細胞と比べて何らかの細胞応答を示しているPIポリミアド化合物を選択してもよい。例えば、本発明のスクリーニング方法が図1に示されるようなウェルプレートを用いて実施される場合、同一の該ウェルプレートを2つ用意し、一方のウェルプレートの各ウェルには疾患細胞を添加し(以下、「試験プレート」という)、もう一方のウェルプレートの各ウェルには対照細胞を添加し(以下、「対照プレート」という)、該2つのプレートの各ウェルについて細胞応答の有無を調べ、試験プレートにおいて、対照プレートにおける対応するウェルと比べて細胞応答が示されたウェルのPIポリアミド化合物を選択してもよい。

【0033】
本発明において、「細胞応答」とは、細胞が何らかの事象をもたらすことをいい、特に限定されない。細胞応答としては、例えば、細胞生存率、細胞増殖率、または特定の遺伝子もしくは特定のタンパク質の発現レベルの増加または減少、または細胞形態上の変化が挙げられる。特定の遺伝子および特定のタンパク質としては、例えば、疾患関連遺伝子、疾患関連遺伝子によってコードされるタンパク質(本明細書において、「疾患関連タンパク質」ともいう)、分化マーカー遺伝子、分化マーカー遺伝子によってコードされるタンパク質(本明細書において、単に「分化マーカー」ともいう)、アポトーシス関連遺伝子、アポトーシス関連遺伝子によってコードされるタンパク質等が挙げられる。ここで、「増加または減少」は、あるPIポリミアド化合物での処理が他のPIポリミアド化合物での処理と比べて細胞応答を増加または減少させたこと、あるPIポリミアド化合物での処理が本発明のPIポリアミド化合物ライブラリーで処理していない細胞と比べて細胞応答を増加または減少させたこと、および疾患細胞を用いた場合、あるPIポリミアド化合物での疾患細胞の処理が非疾患細胞または正常細胞を該PIポリミアド化合物で処理した場合と比べて細胞応答を増加または減少させたことのいずれも包含する。細胞形態上の変化は、あるPIポリミアド化合物で処理した細胞が他のPIポリミアド化合物で処理した細胞と比べて形態が変化すること、あるPIポリミアド化合物で処理した細胞が本発明のPIポリアミド化合物ライブラリーで処理していない細胞と比べて形態が変化すること、および疾患細胞を用いた場合、あるPIポリミアド化合物で処理した疾患細胞が該PIポリミアド化合物で処理した非疾患細胞または正常細胞と比べて形態が変化することのいずれも包含する。細胞形態上の変化の例としては、限定するものではないが、骨髄系の幼弱な細胞が分化する場合の、(アズール)顆粒の出現、核の分葉化、クロマチン凝集の変化等、およびリンパ球系細胞が分化する場合の、各細胞比率(N/C比)の増加、核の円形化等が挙げられる。

【0034】
上記疾患関連遺伝子とは、例えば、目的の疾患の既知の関連遺伝子である。疾患関連遺伝子としては、例えば、限定するものではないが、多くの癌腫におけるC-Myc遺伝子、腫瘍共通低酸素機構を制御する遺伝子HIF、CMLやPhALLの原因となるBCR-ABLヒュージョン遺伝子、膵癌、大腸癌におけるKras(変異)遺伝子、p53変異遺伝子、C-Myb遺伝子、C/EBPα遺伝子等が挙げられる。上記分化マーカー遺伝子としては、例えば、限定するものではないが、CD11b遺伝子、C/EBPα遺伝子、C-Myb遺伝子、PAX5遺伝子等が挙げられる。上記アポトーシス関連遺伝子としては、例えば、限定するものではないが、C-Myc遺伝子等が挙げられる。遺伝子発現レベルの増加または減少は、例えば、遺伝子発現レベルを定量または遺伝子がコードするタンパク質の発現レベルを定量することによって判断することができる。遺伝子発現レベルの定量は、当該分野で既知の方法によって行えばよく、例えば、リアルタイム定量PCR法によるmRNAの定量、ウェスタン・ブロット法によるタンパク質の定量等によって行うことができる。

【0035】
本発明のスクリーニング方法においては、複数の細胞応答に基づいてPIポリアミド化合物を選択してもよい。

【0036】
上記工程3)では、上記選択されたPIポリミアド化合物が認識するDNA配列に基づいて、上記の細胞応答に関連する内在性制御因子を同定する。「内在性制御因子」とは、細胞に内在する標的遺伝子の発現を制御する因子を意味し、主にタンパク質とDNAとの結合を介して標的遺伝子の発現を制御する因子である。本発明において、内在性制御因子は、シスエレメントおよびトランス制御因子(転写因子)を包含する。シスエレメントは、PIポリミアドコンジュゲートが認識し、結合するDNA配列そのものである。トランス制御因子は、PIポリミアドコンジュゲートが結合するDNA配列(シスエレメント)に結合して転写を調節する因子である。

【0037】
上記選択されたPIポリミアド化合物が認識するDNA配列は、上記の細胞応答に関連する内在性制御因子(シスエレメント)として同定される。さらに、工程3)では、上記選択されたPIポリミアド化合物が認識するDNA配列に基づいて、上記処理に供した細胞の遺伝子発現プロファイルから、上記の細胞応答に関連する内在性制御因子を同定してもよい。上記遺伝子発現プロファイルは、公知のものを利用することができる。種々の細胞の遺伝子発現プロファイルが公開されており、例えば、NCBI(National Center for Biotechnology Information)のデータベース、TRANSFAC、TFSEARCH、CorePromoter等を使用することができる。例えば、上記遺伝子発現プロファイルにおいて、上記選択されたPIポリミアド化合物が認識するDNA配列と同一の配列を含む内在性制御因子を検索し、それを上記の細胞応答に関連する内在性制御因子(シスエレメント)として同定するか、または上記選択されたPIポリミアド化合物が認識するDNA配列と同一の配列を含む配列に結合する内在性制御因子を検索し、それを上記の細胞応答に関連する内在性制御因子(転写因子)として同定する。さらに、上記選択されたPIポリミアド化合物で処理した細胞において、上記同定された転写因子の複数個のターゲット遺伝子の発現レベルをRT-PCR法によって定量することにより、実際に当該PIポリアミド化合物が内在性制御因子の代わりに働いているかどうかを確認することができる。また、上記同定された転写因子のConditional shRNAiベクターまたはConditional Over-expressionベクターを作成し、実際にPIポリミアド化合物による細胞応答との妥当性を検証することにより、目的の内在性制御因子を確定することが可能である。

【0038】
本発明のスクリーニング方法では、上記工程1)において、2以上のPIポリアミド化合物ライブラリーを用いてもよい。好ましくは、2以上のPIポリアミド化合物ライブラリーを構成するPIポリミアド化合物のDNA配列認識部分のパターンは、該2以上のライブラリー間で共通していている。すなわち、好ましくは、1のPIポリアミド化合物ライブラリーは、異なるDNA配列認識部分を有する2種以上のPIポリミアド化合物から構成されており、1のライブラリーに含まれるPIポリミアド化合物のDNA配列認識部分と同じDNA配列認識部分を有する、対応するPIポリアミド化合物が別のライブラリーにも存在する。また、好ましくは、2以上のPIポリアミド化合物ライブラリーを構成するPIポリアミド化合物には、各ライブラリー内で同一で、かつ、ライブラリー間で異なる物質がコンジュゲートされている。さらに好ましくは、2以上のPIポリアミド化合物ライブラリーは、該ライブラリー間で共通する一連のDNA認識配列パターンをカバーしており、かつ、該2以上のPIポリアミド化合物ライブラリーを構成するPIポリアミド化合物は、各ライブラリー内で同一で、かつ、該ライブラリー間で異なる物質をコンジュゲートしている。例えば、2以上のPIポリアミド化合物ライブラリーは、1のライブラリーが1つのウェルプレートに含まれる2個以上のウェルプレートとして提供することができる。該2個以上のウェルプレートの例を図2-1および図2-2(以下、まとめて図2という)に示す。例えば、図2に示すように、各ウェルプレートの対応するウェルには、同じPIポリアミド部分(DNA認識部分)を有するPIポリアミド化合物を添加するのが好ましい(すなわち、図2において、ライブラリーIのウェル1-aに添加されるPIポリアミド化合物と、ライブラリーIIのウェル1-aに添加されるPIポリアミド化合物と、ライブラリーIIIのウェル1-aに添加されるPIポリアミド化合物は、同じPIポリアミド構造を有し、ウェル1-b~ウェル12-hについても同様である)。また、図2に示すように、ウェルプレートに添加されるPIポリアミド化合物にコンジュゲートされている物質は、ウェルプレート毎に異なるが、同じウェルプレート内のウェルには同じ物質がコンジュゲートされたPIポリアミド化合物が添加されるのが好ましい(すなわち、図2において、ライブラリーIに添加されるPIポリアミド化合物は全て物質Xがコンジュゲートされており、ライブラリーIIに添加されるPIポリアミド化合物は全て物質Yがコンジュゲートされており、ライブラリーIIIに添加されるPIポリアミド化合物は全て物質Zがコンジュゲートされている)。

【0039】
例えば、限定するものではないが、2以上のPIポリアミド化合物ライブラリーの1のライブラリーが、図3-1の模式図で表されるようなAないしφで示される異なる種類のDNA配列認識部分を含み、かつ、SAHAがコンジュゲートされたPIポリアミド化合物の群から構成され、別のライブラリーが、同様にAないしφで示される異なる種類のDNA配列認識部分を含むが、SAHA以外の物質、例えば限定するものではないが、Chbまたはseco-CBI、がコンジュゲートされたPIポリアミド化合物の群から構成されていてもよい。

【0040】
上記2以上のPIポリアミド化合物ライブラリーは、2種以上の活性化ポリアミド化合物からなる2以上のライブラリーの組み合わせであって、各PIポリアミド化合物にコンジュゲートされた遺伝子発現を活性化する物質が各ライブラリー内で同一であり、かつ、該2以上のライブラリー間で異なる、ライブラリーの組み合わせであってもよい。図2を用いて説明すると、物質X、YおよびZがいずれも遺伝子発現を活性化する物質である場合である。また、上記2以上のPIポリアミド化合物ライブラリーは、2種以上の抑制化ポリアミド化合物からなる2以上のライブラリーの組み合わせであって、各PIポリアミド化合物にコンジュゲートされた遺伝子発現を抑制する物質が各ライブラリー内で同一であり、かつ、該2以上のライブラリー間で異なる、ライブラリーとの組み合わせであってもよい。図2を用いて説明すると、物質X、YおよびZがいずれも遺伝子発現を抑制する物質である場合である。また、上記2以上のPIポリアミド化合物ライブラリーは、2種以上の活性化ポリアミド化合物からなるライブラリーと2種以上の抑制化ポリアミド化合物からなるライブラリーの両方を含む組み合わせであってもよい。図2を用いて説明すると、例えば、物質XおよびYが遺伝子発現を活性化する物質であり、物質Zが遺伝子発現を抑制する物質である場合等である。

【0041】
好ましくは、上記工程1)において、活性化ポリアミド化合物および抑制化ポリアミド化合物を含むPIポリアミド化合物群を用いてもよい。例えば、上記工程1)において、2以上のPIポリアミド化合物ライブラリーであって、該2以上のPIポリアミド化合物ライブラリーのうち、少なくとも1つは、活性化ポリアミド化合物群からなるライブラリーであり、かつ、少なくとも1つは、抑制化ポリアミド化合物群からなるライブラリーである、2以上のPIポリアミド化合物ライブラリーを使用する。

【0042】
上記2以上のPIポリアミド化合物ライブラリーは、限定するものではないが、例えば、活性化ポリアミド化合物群からなる1つのライブラリーと、抑制化ポリアミド化合物群からなる1つのライブラリーとからなる2つのPIポリアミド化合物ライブラリー、または活性化ポリアミド化合物群からなる2つのライブラリーと、抑制化ポリアミド化合物群からなる1つのライブラリーとからなる3つのPIポリアミド化合物ライブラリーであってもよい。

【0043】
本発明のスクリーニング方法において2以上のPIポリアミド化合物ライブラリーを用いる場合、工程2)において、少なくとも2つのライブラリーにおいて細胞応答をもたらし、かつ、同一のDNA配列を認識するPIポリミアド化合物を選択する。好ましくは、少なくとも2つのライブラリーにおいて細胞応答をもたらし、かつ、互いに共通するDNA配列認識部分を有するPIポリアミド化合物を選択する。例えば、本発明のスクリーニング方法が図2に示されるようなウェルプレートを用いて実施される場合、各ウェルプレートの各ウェルについて細胞応答の有無を調べ、2以上のウェルプレートの対応するウェルにおいて細胞応答があった場合、当該ウェル中のPIポリアミド化合物を選択する(例えば、ライブラリーIのウェル1-bとライブラリーIIのウェル1-bにおいて何らかの細胞応答が検出された場合、各プレートのウェル1-bに添加されているPIポリアミド化合物を選択する)。

【0044】
本発明のスクリーニング方法において、活性化ポリアミド化合物および抑制化ポリアミド化合物を含むPIポリアミド化合物群を用いる場合、工程2)において、相反する細胞応答をもたらし、かつ、同一のDNA配列を認識して該DNA配列に結合することができる活性化ポリアミド化合物および抑制化ポリアミド化合物を選択する。好ましくは、相反する細胞応答をもたらし、かつ、互いに共通するDNA配列認識部分を有する活性化ポリアミド化合物および抑制化ポリアミド化合物を選択する。例えば、本発明のスクリーニング方法において、活性化ポリアミド化合物ライブラリーと抑制化ポリアミド化合物ライブラリーの両方を含む2以上のPIポリアミド化合物ライブラリーを用いる場合、工程2)において、該2以上のライブラリーにおいて相反する細胞応答をもたらし、かつ、同一のDNA配列を認識して該DNA配列に結合することができる活性化ポリアミド化合物および抑制化ポリアミド化合物を選択する。好ましくは、相反する細胞応答をもたらし、かつ、互いに共通するDNA配列認識部分を有する活性化ポリアミド化合物および抑制化ポリアミド化合物を選択する。図2を用いて説明すると、例えば、物質XおよびYが遺伝子発現を活性化する物質であり、物質Zが遺伝子発現を抑制する物質である場合、ライブラリーIまたはIIのいずれかのウェルにおいて細胞応答が検出され、かつ、ライブラリーIIIの対応するウェルにおいて、ライブラリーIまたはIIにおいて検出されたのと相反する細胞応答が検出された場合、当該ウェル中のPIポリアミド化合物を選択する(例えば、ライブラリーIまたはIIのウェル1-bとライブラリーIIIのウェル1-bにおいて相反する細胞応答が検出された場合、各プレートのウェル1-bに添加されているPIポリアミド化合物を選択する)。好ましくは、ライブラリーIおよびIIのいずれかの対応するウェルにおいて細胞応答が検出され、かつ、ライブラリーIIIの対応するウェルにおいて、ライブラリーIおよびIIにおいて検出されたのと相反する細胞応答が検出された場合、当該ウェル中のPIポリアミド化合物を選択する(例えば、ライブラリーIおよびIIのウェル1-bとライブラリーIIIのウェル1-bにおいて相反する細胞応答が検出された場合、各プレートのウェル1-bに添加されているPIポリアミド化合物を選択する)。

【0045】
上記「相反する細胞応答」とは、例えば、限定するものではないが、遺伝子発現を活性化する物質がコンジュゲートされたPIポリアミド化合物ライブラリーに含まれるあるPIポリミアド化合物での処理がある細胞事象の増加をもたらし、遺伝子発現を抑制する物質がコンジュゲートされたPIポリアミド化合物ライブラリーに含まれる対応するPIポリミアド化合物での処理が同じ細胞事象の減少をもたらす場合をいう。このように、相反する作用を有する物質をコンジュゲートした、2種以上のPIポリミアド化合物を含むPIポリアミド化合物群を用いてスクリーニングすることにより、目的の内在性制御因子をより効率的に同定することができる。

【0046】
本発明のスクリーニング方法によれば、疾患または細胞分化を制御する因子、あるいは他の有用な内在性制御因子をスクリーニングすることが可能である。例えば、本発明のスクリーニング方法により、細胞の増殖、疾患関連遺伝子または遺伝子群の発現、あるいは分化関連遺伝子または遺伝子群の発現を制御する内在性制御因子を同定することができる。

【0047】
本発明のスクリーニング方法によれば、いずれの疾患の内在性制御因子もスクリーニング可能であり、対象疾患としては、特に限定されない。例えば、各種の癌、神経変性疾患(アルツハイマー、パーキンソン病等)、代謝内分泌系疾患(糖尿病、高脂血症、高血圧症等)、ウイルス感染症(HIV等)等のあらゆる疾患が挙げられる。例えば、脂質関連の代謝疾患の場合、3T3-L1細胞株(細胞質内に脂肪酸誘導が可能)において上記PIポリアミド化合物群を用いてスクリーニングを行って、脂肪酸を増減させる代謝疾患制御因子を同定可能である。例えば、アルツハイマーの内在性制御因子をスクリーニングする場合は、上記PIポリアミド化合物群を用いて当該疾患細胞を処理し、タウ蛋白やベータアミロイド等の当該疾患関連遺伝子またはタンパク質の発現レベルを減少または増加させるPIポリミアド化合物を選択する。

【0048】
例えば、本発明のスクリーニング方法を用いて癌の内在性制御因子をスクリーニングする場合、上記PIポリアミド化合物群で癌細胞を処理し、細胞生存率、細胞増殖率、または癌関連遺伝子もしくはタンパク質の発現レベルを増加または減少させるか、または培養中に細胞を死滅させるPIポリミアド化合物を選択する。例えば、該PIポリアミド化合物群が活性化ポリアミド化合物と抑制化ポリアミド化合物の両方を含む場合は、同一のDNA配列を認識して該DNA配列に結合することができる活性化ポリアミド化合物および抑制化ポリアミド化合物であって、該活性化ポリアミド化合物および抑制化ポリアミド化合物の一方が細胞生存率、細胞増殖率、または癌関連遺伝子もしくはタンパク質の発現レベルを増加させ、他方が細胞生存率、細胞増殖率、または癌関連遺伝子もしくはタンパク質の発現レベルを減少させるか、または培養中に細胞を死滅させるPIポリミアド化合物を選択する。

【0049】
例えば、本発明のスクリーニング方法を用いて細胞分化を制御する因子をスクリーニングする場合、上記PIポリアミド化合物群で幹細胞等の細胞を処理し、分化マーカー遺伝子または分化マーカーの発現レベル、細胞生存率または細胞増殖率を増加または減少させるか、または培養中に細胞を死滅させるPIポリミアド化合物を選択する。例えば、該PIポリアミド化合物群が活性化ポリアミド化合物と抑制化ポリアミド化合物の両方を含む場合は、同一のDNA配列を認識して該DNA配列に結合することができる活性化ポリアミド化合物および抑制化ポリアミド化合物であって、該活性化ポリアミド化合物および抑制化ポリアミド化合物の一方が分化マーカー遺伝子または分化マーカーの発現レベル、細胞生存率または細胞増殖率を増加させ、他方が分化マーカー遺伝子または分化マーカーの発現レベル、細胞生存率または細胞増殖率を減少させるか、または培養中に細胞を死滅させるPIポリミアド化合物を選択する。例えば、KG1細胞(非常に幼弱な骨髄芽球性白血病細胞株)を用いて上記PIポリアミド化合物群でスクリーニングする場合、CD11b等の骨髄系成熟マーカーの発現レベルを増加させるPIポリアミド化合物、または細胞形態上の分化を表す顆粒が肉眼的に観察されるPIポリミアド化合物を選択する。例えば、臍帯血のCD34陽性幹細胞等の初代造血幹細胞を上記PIポリアミド化合物群で処理し、表面マーカー解析で、特定の細胞系(lineage)への分化を誘導するPIポリミアド化合物を選択することも可能である。

【0050】
本発明のスクリーニングによって内在性制御因子を同定した後、該内在性制御因子(転写因子)のゲノム上の結合部位の同定、または該内在性制御因子(シスエレメント)のゲノム上の位置の同定や、PIポリミアド化合物が結合したDNA配列の決定を行ってもよく、当該分野で既知の方法、例えば、ChIP-Seq法、Chem-Seq法、ChIP-qPCR法、Bind n Seq法等によって行うことができる。

【0051】
本発明のスクリーニングによって同定された転写因子および転写因子結合配列等の内在性制御因子は、疾患治療薬、例えば抗癌剤、または細胞分化制御剤(分化誘導剤、分化抑制剤)等の創薬ターゲットとすることができる。また、本発明のスクリーニング方法によって同定された内在性制御因子(シスエレメント)に結合するPIポリミアドと薬剤とのコンジュゲートを、疾患治療薬、例えば抗癌剤、または分化誘導剤等として用いることもできる。

【0052】
4.PIポリアミド化合物ライブラリーのセット
本発明はさらに、上記のPIポリアミド化合物ライブラリーを2個以上組み合わせて含む、PIポリアミド化合物ライブラリーのセットを提供する。該PIポリアミド化合物ライブラリーのセットは、好ましくは、活性化ポリアミド化合物群からなるライブラリーおよび抑制化ポリアミド化合物群からなるライブラリーを含む。好ましくは、該PIポリアミド化合物ライブラリーのセットに含まれる各ライブラリーを構成するPIポリミアド化合物のDNA配列認識部分のパターンは、該ライブラリー間で共通していてもよい。

【0053】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0054】
実施例1:ラント関連転写因子(Runt-related transcription factor:RUNX)の同定
(1)PIポリアミド化合物ライブラリーの作成
イミダゾールを種々の位置に置くことによって、P、Iおよびβアラニンから形成される4つの対を含む32種のPIポリアミドを設計し、それらのN末端にβアラニンリンカーを介してスベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)をコンジュゲートしたPIポリミアド(以下、「SAHA-PIポリミアドコンジュゲート」ともいう)を合成した。SAHA-PIポリミアドコンジュゲートの合成は、Tetrahedron Letters 50 (2009) 7288-7292に記載の方法にしたがって行った。合成された32種のPIポリミアドコンジュゲート(A~Zおよびα~φ)を図3-1および3-2に示す。
【実施例1】
【0055】
簡単に言うと、β-アラニンを結合したCLEAR-酸樹脂を用いるFmoc固相合成法による段階的反応によって、末端アミノ基を有するPIポリアミドを調製した。N,N-ジメチル-1,3-プロパンジアミンを加え、55℃で一晩処理して、固相上からのPIポリアミドの切り出しを行った。4-(8-メトキシ-8-オキソオクタンアミド)安息香酸を、アミノ安息香酸と8-クロロ-8-オキソオクタン酸メチルをカップリングによって調製し、ペンタフルオロフェニルジフェニルホスフィネート(FDPP)およびN,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)を用いて活性化エステルに変換し、次いで、PIポリアミドとカップリングして、4-(8-メトキシ-8-オキソオクタンアミド)ベンゾイルがコンジュゲートしたPIポリアミドを製造した。次いで、該PIポリアミドコンジュゲートから、水/ジメチルホルムアミド(DMF)(1/1)中のヒドロキシルアミン溶液を用いるアミノ-脱アルコキシル化によって、SAHA-PIポリミアドコンジュゲートを調製した。粗生成物を逆相高速液体クロマトグラフィーで精製後、ESI-TOF MS(Electrospray ionization time-of-flight mass spectrometry)によって確認した。なお、試薬および溶媒は、標準的な供給元から入手し、さらに精製することなく使用した。ESI-TOF MS(Electrospray ionization time-of-flight mass spectrometry)は、Bio-TOF II(Bruker Daltonics)マススペクトロメ-ターで、陽イオン化モードを用いて行った。機械によるポリアミド合成は、コンピューター制御されたPSSM-8(Shimadzu)システムで行った。
【実施例1】
【0056】
(2)骨髄性白血病細胞における内在性制御因子のスクリーニング
上記(1)で調製したSAHA-PIポリミアドコンジュゲートライブラリーの各SAHA-PIポリミアドコンジュゲート20μMで、ヒト骨髄性白血病細胞MV4-11細胞[ATCC(American Type Culture Collection, USA)から入手]を12時間処理した。処理後の細胞から全RNAを抽出し、リアルタイム定量PCR(qRT-PCR)により、RUNX1標的遺伝子IL3、CSF2およびCSF2RBの発現量を定量した。対照としてDMSOで処理した細胞を用い、各処理細胞で得られた値をDMSO処理細胞の値に対して標準化した(n=3)。なお、RUNX1は、急性骨髄性白血病1タンパク質(AML1)としても知られ、血液関連遺伝子および造血幹細胞関連遺伝子の発現を制御する転写因子である。
【実施例1】
【0057】
リアルタイム定量PCR(qRT-PCR)は、下記のように行った。全RNAをRNeasyミニキット(Qiagen)で単離し、Reverse scriptキット(TOYOBO)で逆転写してcDNAを生成した。リアルタイム定量ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、7500 Real-Time PCR System(Applied Biosystems)を用いて、製造者の指示書にしたがって実施した。結果は、GAPDHレベルに対して標準化した。相対的発現レベルは、2-ΔΔCt法を用いて算出した。qRT-PCRに用いたプライマーを表1に示す。
【実施例1】
【0058】
【表1】
JP2018191617A_000002t.gif
【実施例1】
【0059】
結果を図4に示す。図4から明らかなように、特にSAHA-PIポリミアドコンジュゲートMがIL3、CSF2およびCSF2RBの発現量を増加させた。SAHA-PIポリミアドコンジュゲートM(以下、「コンジュゲートM」という)の認識配列は、5’-WGWGGW-3’(WはAもしくはTのいずれか)である。MV4-11細胞のNCBIデータベースにおいて、配列5’-WGWGGW-3’を検索した結果、該配列がRUNX1のコンセンサス結合配列であることが分かった。これにより、本発明のPIポリアミド化合物ライブラリーが内在性制御因子のスクリーニングに使用できることが確認された。
【実施例1】
【0060】
さらに、コンジュゲートMのDNA結合配列をBind-n-Seq法によって決定した。簡単に言えば、ビオチン標識したコンジュゲートM、および二本鎖ランダムオリゴヌクレオチドを合成し、ビオチン標識コンジュゲートMを二本鎖ランダムオリゴヌクレオチドに結合させた。ビオチン-ストレプトアビジン親和性精製により、コンジュゲートMが結合したDNAを濃縮した。濃縮されたDNAをPCRにより増幅し、配列決定した。その結果、コンジュゲートMが結合した配列が、「5’-TGTGGT-3’」であることが分かった。
【実施例1】
【0061】
(3)スクリーニング結果の確認
次に、4つのピロール-イミダゾール対の連続的な結合により、5’-TGTGGT-3’および5’-TGCGGT-3’のRUNXコンセンサス結合配列を特異的に認識するPIポリアミドを設計し、SAHAまたはクロラムブシル(Chb)をN末端に有するPIポリミアドコンジュゲート(SAHA-M’、SAHA-50、Chb-M’、Chb-50)を合成した(図5-1および図5-2)。ここで、SAHA-M’およびChb-M’は、5’-TGTGGT-3’を標的とし、SAHA-50およびChb-50は、5’-TGCGGT-3’を標的とする。SAHA-PIポリミアドコンジュゲートの合成方法は上記と同様に行った。
【実施例1】
【0062】
クロラムブシル-PIポリミアドコンジュゲートの合成は次のように行った。Fmoc固相合成法による段階的反応によって、オキシム樹脂によって担持されたPIポリアミドを調製した。オキシム樹脂を有する生産物に、N,N-ジメチル-1,3-プロパンジアミン(1.0mL)を加え、45℃で3時間処理して、切り出しを行った。ろ過により樹脂を除き、残留物を最少量のジクロロメタン中に溶解し、ジエチルエーテルで洗浄して、59.6mgを得た。この粗化合物(59.6mg、48.1μmol)に、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(300μL)中のクロラムブシル(32.6mg、107μmol)、PyBOP(ベンゾトリアゾール-1-イル-オキシ-トリス-ピロリジノ-ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート)(101mg、195μmol)、およびN,N-ジイソプロピルエチルアミン(100μL、581μmol)を加えた。反応混合物を室温で1.5時間インキュベートし、ジエチルエーテルおよびDMFで3回洗浄し、真空乾燥させた。該粗生成物を逆相フラッシュカラムクロマトグラフィー(0.1%トリフルオロ酢酸水溶液/MeCN)で精製した。凍結乾燥後、生成物を得た(30.2mg、19.8μmol)。
【実施例1】
【0063】
SAHA-M’およびSAHA-50を用いて、上記(2)と同様にMV4-11細胞を処理して、骨髄性白血病の関連遺伝子IL3、CSF2およびCSF2RBの発現量を定量した。結果を図4に示す。図4から明らかなように、SAHA-M’およびSAHA-50は、コンジュゲートMと同様にIL3、CSF2およびCSF2RBの発現量を増加させた。
【実施例1】
【0064】
5μMのChb-M’またはChb-50でMV4-11細胞を6時間処理し、処理後の細胞から全RNAを抽出し、上記(2)と同様にqRT-PCRにより、IL3、CSF2およびCSF2RBの発現量を定量した。対照としてDMSOで処理した細胞を用い、各処理細胞で得られた値をDMSO処理細胞の値に対して標準化した(n=3)。結果を図6に示す。図6から明らかなように、SAHA-PIポリミアドコンジュゲートとは反対に、Chb-M’およびChb-50は、IL3、CSF2RB、およびCSF2の発現を抑制した。
【実施例1】
【0065】
さらに、コンジュゲートMの認識配列「5’-WGWGGW-3’」より該当転写因子候補と推測した転写因子RUNX1を特異的に抑制するために、常法によりRUNX1遺伝子をターゲットとするConditional shRNAiベクターを作成し、MV4-11細胞に該ベクターを導入した細胞増殖実験で、該細胞増殖が抑制されることが確認された。したがって、RUNX1が「5’-WGWGGW-3’」より適合する転写因子として確定できた。
【実施例2】
【0066】
実施例2:特定の疾患細胞の増殖を制御する内在性制御因子の同定
実施例1に記載されたのと同様の方法で、クロラムブシル-PIポリミアドコンジュゲートのライブラリーを合成した。合成された16種のPIポリミアドコンジュゲート(Chb-A~P)のPIポリアミド部分は、実施例1で合成されたSAHA-PIポリミアドコンジュゲートA~PのPIポリアミド部分と同一である。
【実施例2】
【0067】
正常乳腺細胞株(MCF10A)、トリプルネガティブ(TNBC)乳癌細胞株(MDA-MB-231)、前立腺癌細胞株(PC3)、腎癌細胞株(786O)、大腸癌細胞株(HCT116、LOVO)、スキルス胃癌細胞株(44As3)、胃癌細胞株(MKN7)、食道癌細胞株(TE11、TE5)、膵臓癌細胞株(panc1、AsPC1、MiaPaca2)、チロシンキナーゼ耐性慢性骨髄性白血病(TK耐性CML)細胞株(MyL-R)、MLL関連急性骨髄性白血病(MLL-AML)細胞株(MV4-11)、MLL-AML M細胞株(MV4-11R)、MDS-AML細胞株(MOLM13)、肺癌細胞株(RERF-LC-MS)、神経芽細胞種株(NB)、および悪性小児脳腫瘍細胞株(MRT-NS、MRT-yM)を各種Chb-PIポリミアドコンジュゲート5μMを含む培地中、37℃で2日間培養した。Chb-PIポリミアドコンジュゲートを含有しない培地中、同条件下で培養した場合の細胞増殖率を100として、各種Chb-PIポリミアドコンジュゲートの存在下における細胞増殖率を求めた。結果を図7に示す。
【実施例2】
【0068】
図7の結果に基づき、細胞増殖率が特に低いChb-PIポリアミドコンジュゲートを選択した。次いで、選択したPIポリミアドコンジュゲートの結合配列をBind-n-Seq法により決定するか、または当該細胞の遺伝子発現プロファイルにおいて当該コンジュゲートのDNA認識配列を検索することにより、当該癌の内在性制御因子が同定される。また、多くの癌細胞において細胞増殖率を減少させるChb-PIポリアミドコンジュゲートを選択することにより、幅広い種類の癌に関与する内在性制御因子を同定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、遺伝子発現を活性化する物質または遺伝子発現を抑制する物質がコンジュゲートしたPIポリミアド化合物ライブラリーを用いることにより、癌等の各種疾患を制御するDNA配列(シスエレメント)、および当該配列に結合する内在性転写制御因子の候補を簡便に同定することが可能である。このような内在性制御因子は、耐性が出現しにくい革新的な分子標的薬の創薬ターゲットとして利用することができる。また、本発明の方法は、各種疾患だけでなく、各種幹細胞等から特定の細胞系譜への分化制御に関わる新たな因子の同定にも適用できる。また、本発明のスクリーニング方法により同定した内在性転写制御因子が結合する配列を標的とするPIポリミアドコンジュゲートを抗癌剤、各種疾患治療用医薬、細胞分化制御剤等として使用することもできる。
Drawing
(In Japanese)【図1】
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(In Japanese)【図2-1】
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(In Japanese)【図2-2】
2
(In Japanese)【図3-1】
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(In Japanese)【図3-2】
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(In Japanese)【図4】
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(In Japanese)【図5-1】
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(In Japanese)【図5-2】
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(In Japanese)【図6】
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(In Japanese)【図7】
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